説明

冷間加工性と焼入れ性に優れた熱延鋼板およびその製造方法

【課題】冷間加工性と焼入れ性に優れた熱延鋼板を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.18〜0.29%とし、N:0.0050%以下、Ti:0.002〜0.05%、B:0.0005〜0.0050%を含有し、Si、Mn、P、S、Alを適正量に調整した組成を有する鋼素材に、仕上圧延終了温度を800〜900℃とする熱間圧延を施し、熱間圧延終了後、20℃/s以下の平均冷却速度で冷却し、巻取温度CT:500℃以上で巻き取る。これにより、フェライト相およびパーライト相からなる組織を有し、フェライト相が7.0〜15.0μmの平均結晶粒径と、体積率で50%以上の組織分率を有し、引張強さが500MPa以下で、しかも、鋼板のエッジを含め引張強さの幅方向のばらつきが60MPa以下の、冷間加工性と焼入れ性を兼備した熱延鋼板となる。なお、上記した組成に加えてさらに、Nb、Vのうちから選ばれた1種または2種、Ni、Cr、Moのうちから選ばれた1種または2種、Sb、Snのうちから選ばれた1種または2種を含有できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギア、ミッション、シートリクライナー等の自動車部品用として好適な熱延鋼板に係り、とくに球状化焼鈍を省略することが可能な、冷間加工性と焼入れ性に優れた熱延鋼板に関する。なお、ここでいう「鋼板」は、鋼板、鋼帯を含むものとする。
【背景技術】
【0002】
ギア、ミッション、シートリクライナー等の自動車部品は、通常、JIS G 4051に規定された機械構造用炭素鋼鋼材である熱延鋼板を素材として、該素材を、冷間加工により所望の部品形状に加工したのち、焼入れ処理を施して所望の硬さを付与して製造されている。このため、素材である熱延鋼板には、冷間加工性や焼入れ性に優れることが要望されている。このような要望に対し、例えば特許文献1には、mass%で、C:0.10〜0.37%、Si:1%以下、Mn:2.5%以下、P:0.1%以下、S:0.03%以下、sol.Al:0.01〜0.1%、N:0.0005〜0.0050%、Ti:0.005〜0.05%、B:0.0003〜0.0050%を含有し、B−(10.8/14)N*≧0.0005%、N*=N−(14/48)Ti、但し、右辺≦0の場合、N*=0、を満足し、鋼中析出物であるTiNの平均粒径が0.06〜0.30μmであり、かつ焼入れ後の旧オーステナイト粒径が2〜25μmであることを特徴とする焼入れ後の衝撃特性に優れる熱延鋼板が記載されている。特許文献1に記載された技術では、上記した熱延鋼板は、上記した組成の鋼を巻取温度720℃以下で熱間圧延することにより製造できるとしている。
【0003】
また、特許文献2には、重量%で、C:0.15〜0.40%、Si:0.35%以下、Mn:0.6〜1.5%、P:0.030%以下、S:0.020%以下、Ti:0.005〜0.1%、sol.Al:0.01〜0.20%、N:0.0020〜0.012%、B:0.0003〜0.0030%を含有する鋼組成の鋼を圧下率30〜80%の冷間圧延と箱焼鈍により板厚4mm以下でTS×El:16000MPa%以上の鋼板とする、焼き戻し省略型高炭素薄鋼板の製造方法が記載されている。特許文献2に記載された技術によれば、焼鈍後の成形性が良好で、かつ熱処理(焼入れ)後の靭性にも優れ、焼入れ後の焼戻しを省略し得るとしている。
【0004】
また、特許文献3には、重量%で、C:0.05〜0.20%、Si:0.1%以下、Mn:0.8〜2.0%、P:0.02%以下、S:0.02%以下、N:0.005%以下、B:0.0003〜0.004%、Al:0.01〜0.10%で、かつsol.Al(%)≧9.6×N(%)であり、TiをTi(%)≦3.4×N(%)の範囲で含有する組成からなる鋼スラブを熱間圧延し、巻取り温度600℃以上で熱延コイルとする成形性と焼入れ性に優れた薄鋼板の製造方法が記載されている。特許文献3に記載された技術によれば、プレス成形などの加工に適用できる十分な成形性を有し、かつ成形後の焼入れにより容易に高強度化できる鋼板を得ることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−309345号公報
【特許文献2】特開平05−98356号公報
【特許文献3】特開2000−144319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2,3に記載された技術では、フェライト粒径が微細化しすぎたり、パーライト分率が高くなりすぎるなどにより、鋼板が硬質化して、冷間加工性が低下し、ファインブランキングや冷間鍛造などの厳しい冷間加工が施されるということまでは考慮されておらず、冷間での厳しい加工性に耐えられるほど優れた冷間加工性を、優れた焼入れ性とともに具備するまでに至っていないという問題を残していた。また、このような技術で製造された鋼板にファインブランキングなどの冷間加工を施すと、金型の損耗が激しくなり、金型交換などのメンテナンス回数が増加し、部品製造コストが増大するという問題もあった。さらに、特許文献1、2,3に記載された技術では、焼入れ特性が向上するほど鋼板エッジが極端に硬質化し、板幅方向の材質が不均一化し、鋼板の歩留が著しく低下するという問題があった。
【0007】
本発明は、上記した従来技術の問題を解決し、優れた冷間加工性と優れた焼入れ性とを兼備する、冷間加工性と焼入れ性に優れた熱延鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、エッジ端部を含め幅方向のほぼ全域にわたり強度が均一で、かつ冷間加工性と焼入れ性に優れた熱延鋼板を提供することをも目的とする。
なお、本発明で対象とする「熱延鋼板」は、板厚:2.0〜9.0mmの薄鋼板とする。また、ここでいう「冷間加工性に優れた」とは、冷間加工前の素材(鋼板)の硬さが、HRBで80以下であるか、あるいは冷間加工前の素材(鋼板)の引張強さTSが500MPa以下である場合をいうものとする。
【0008】
また、ここでいう「焼入れ性に優れた」とは、焼入れ後の硬さが420HV以上(高周波焼入れの場合)、350HV以上(雰囲気焼入れの場合)となる場合をいうものとする。また、「エッジ端部を含め幅方向のほぼ全域にわたり強度が均一」とは、鋼板幅方向の両エッジを含め幅方向ほぼ全域(両エッジ端5mmから内側の領域)における引張強さTSの最高値と最低値の差が60MPa以下である場合をいうものとする。
【0009】
なお、ここで「雰囲気焼入れ」とは、脱炭防止や浸炭のために、カーボンポテンシャルを制御した雰囲気中で加熱後、油焼入れ等の焼入れを施す焼入れ方法をいうものとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記した目的を達成するために、冷間加工性に及ぼす各種要因の影響について鋭意研究した。その結果、C:0.18〜0.29質量%に限定したうえ、Mn、Al,Ti、Bを適正範囲内に調整し、さらに組織をフェライト相とパーライト相からなり、該フェライト相を7.0〜15.0μmの平均結晶粒径と、体積率で50%以上の組織分率を有する相とすることにより、焼入れ性に優れるうえ、ファインブランキングや冷間鍛造などの厳しい冷間加工時に割れ等の発生を低減でき、冷間加工性に優れた鋼板とすることができ、部品製造時の金型損耗も低減できることを見出した。また、熱間圧延における仕上圧延終了温度と、仕上圧延終了から巻取りまでの冷却速度、さらに巻取温度を併せて適正範囲に調整することにより、上記した鋼板組織に調整できるうえ、さらに、鋼板幅方向におけるほぼ全域の引張強さを60MPa以下のばらつきに抑えることができることを知見した。
【0011】
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)質量%で、C:0.18〜0.29%、Si:1%以下、Mn:1.5%以下、P:0.1%以下、S:0.03%以下、sol.Al:0.1%以下、N:0.0050%以下を含み、さらに、Ti:0.002〜0.05%、B:0.0005〜0.0050%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、フェライト相およびパーライトの体積率の合計が組織全体に対する組織分率で95%以上である組織とを有し、前記フェライト相が7.0〜15.0μmの平均結晶粒径と、組織全体に対する体積率で50%以上の組織分率を有することを特徴とする引張強さが500MPa以下である、冷間加工性と焼入れ性に優れた熱延鋼板。
【0012】
(2)(1)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb、Vのうちから選ばれた1種または2種を合計で、0.1%以下含有することを特徴とする熱延鋼板。
(3)(1)または(2)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Ni、Cr、Moのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で1.5%以下含有することを特徴とする熱延鋼板。
【0013】
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに質量%で、Sb、Snのうちから選ばれた1種または2種を合計で0.1%以下含有することを特徴とする熱延鋼板。
(5)(1)ないし(4)のいずれかにおいて、鋼板の両エッジ端5mmから内側の領域における引張強さの幅方向のばらつきΔTSが60MPa以下であることを特徴とする熱延鋼板。
【0014】
(6)質量%で、C:0.18〜0.29%、Si:1%以下、Mn:1.5%以下、P:0.1%以下、S:0.03%以下、sol.Al:0.1%以下、N:0.0050%以下を含み、さらに、Ti:0.002〜0.05%、B:0.0005〜0.0050%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材に、仕上圧延終了温度を800〜900℃とする熱間圧延を施し熱延板とし、該熱間圧延終了後、前記熱延板を、20℃/s以下の平均冷却速度で冷却し、巻取温度CT:500℃以上で巻き取る、熱延工程を施すことを特徴とする冷間加工性と焼入れ性に優れた熱延鋼板の製造方法。
【0015】
(7)(6)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb、Vのうちから選ばれた1種または2種を合計で、0.1%以下含有することを特徴とする熱延鋼板の製造方法。
(8)(6)または(7)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Ni、Cr、Moのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で1.5%以下含有することを特徴とする熱延鋼板の製造方法。
【0016】
(9)(6)ないし(8)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、Sb、Snのうちから選ばれた1種または2種を合計で0.1%以下含有することを特徴とする熱延鋼板の製造方法。
なお、(6)ないし(9)のいずれかにおいて、前記熱間圧延が、エッジヒータによるエッジ加熱を施す圧延であること、および/または、前記熱間圧延終了後の冷却が、前記熱延板にエッジカバーを施す冷却であること、および/または、前記コイル状に巻き取ったのちの冷却が、コイルカバーを施した冷却であること、が好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、優れた冷間加工性と優れた焼入れ性とを兼備する、冷間加工性と焼入れ性に優れた熱延鋼板を、容易にしかも安価に製造でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明になる熱延鋼板は、冷間加工性と焼入れ性に優れるうえ、鋼板のエッジ端部を含め幅方向のほぼ全域にわたり引張強さが均一な鋼板であり、部品用素材を歩留り高く採取できるという、顕著な経済的効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
まず、本発明鋼板の組成限定理由について説明する。以下、とくに断わらない限り質量%は単に%で記す。
C:0.18〜0.29%
Cは、鋼の焼入れ性を増加させ、所望の焼入れ後強度(硬さ)を確保するために重要な元素である。このような効果を得るためには、0.18%以上の含有を必要とする。C含有量が0.18%未満の場合には、所望の焼入れ後強度(硬さ)を確保することが困難となる。一方、0.29%を超える含有は、フェライト相の組織分率が低下するため、球状化焼鈍を省略した場合、延性が低下して所望の優れた冷間加工性を確保できなくなる。このため、Cは0.18〜0.29%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.20〜0.26%である。
【0019】
Si:1%以下
Siは、鋼の焼入れ性を向上させるとともに、鋼中に固溶して鋼の強度を増加させる作用を有する元素である。このような効果を得るためには0.01%以上含有することが望ましいが、1%を超える含有は、鋼板が顕著に硬質化し所望の優れた冷間加工性を確保できなくなる。このため、Siは1%以下に限定した。なお、好ましくは0.50%以下である。
【0020】
Mn:1.5%以下
Mnは、鋼の焼入れ性を向上させるとともに、固溶強化により鋼の強度を増加させる作用を有する元素である。このような効果を得るためには0.2%以上含有することが望ましいが、1.5%を超える含有は、硬質化しすぎて冷間加工性が低下する。このため、Mnは1.5%以下に限定した。なお、好ましくは0.2〜1.0%である。
【0021】
P:0.1%以下
Pは、鋼中では粒界に偏析しやすく、延性、靭性に悪影響を及ぼす元素であり、本発明ではできるだけ低減することが好ましい。とくに、0.1%を超える含有は、粒界脆化を招き、延性、靭性が低下するため、優れた冷間加工性、優れた焼入れ後の靭性を確保できにくくなる。このため、Pは0.1%以下に限定した。なお、好ましくは0.05%以下である。
【0022】
S:0.03%以下
Sは、鋼中では硫化物を形成し、延性、靭性に悪影響を及ぼす元素であり、本発明ではできるだけ低減することが好ましい。とくに0.03%を超える含有は、鋼板の冷間加工性、焼入れ後の靭性を著しく低下させる。このため、Sは0.03%以下に限定した。なお、好ましくは0.02%以下である。
【0023】
sol.Al:0.1%以下
Alは、脱酸剤として作用するとともに、オーステナイト粒の微細化に寄与する元素である。このような効果を得るためには0.001%以上含有することが望ましい。一方、0.1%を超えて含有すると、焼入れ加熱時に過度のオーステナイト粒の微細化が進み、また焼入れ冷却時にフェライト相の生成が促進され、所望の焼入れ後硬さを確保できなくなるとともに、焼入れ後の靭性が低下する。このため、sol.Alは0.1%以下に限定した。なお、好ましくは0.07%以下である。
【0024】
N:0.0050%以下
Nは、固溶して鋼の強度を増加させるとともに、Ti、Bと結合して窒化物を形成し、オーステナイト粒の粗大化を抑制する作用を有する元素である。このような効果を得るためには0.0005%以上含有することが望ましいが、0.0050%を超える含有は、TiN、BNに加えてAlNの形成も顕著となり、焼入れ加熱時に過度のオーステナイト粒の微細化が進み、焼入れ冷却時にフェライト相の生成を促進するため、焼入れ後に所望の硬さが確保できにくくなるとともに、焼入れ後の靭性が低下する。このため、Nは0.0050%以下に限定した。なお、好ましくは0.0040%以下である。
【0025】
Ti:0.002〜0.05%
Tiは、TiNを形成しNを固定し、BNの形成を抑制し所望の固溶B量を確保して、焼入れ性の向上に寄与するとともに、オーステナイト粒の粗大化を防止し焼入れ後の衝撃特性(靭性)を向上させる元素である。このような効果を得るためには0.002%以上の含有を必要とする。一方、0.05%を超える過剰の含有は、TiCの形成が促進され、硬質化して冷間加工性を低下させるとともに、オーステナイト粒が微細化しすぎて、焼入れ性が低下し、所望の焼入れ後硬さを確保できなくなる場合がある。このため、Tiは0.002〜0.05%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.005〜0.03%である。
【0026】
B:0.0005〜0.0050%
Bは、オーステナイト粒界に偏析して少量の含有で鋼の焼入れ性を著しく向上させる作用を有する元素である。このような効果を得るためには、0.0005%以上の含有を必要とする。一方、0.0050%を超える多量の含有は、熱間圧延の負荷が高くなり操業性が低下するとともに、焼入れ性向上の効果が飽和し含有量に見合う効果が期待できなくなる。このため、Bは0.0005〜0.0050%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.0010〜0.0040%である。
【0027】
上記した成分が基本の成分であるが、本発明ではこの基本の組成に加えてさらに、Nb、Vのうちから選ばれた1種または2種を合計で0.1%以下、Ni、Cr、Moのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で1.5%以下、Sb、Snのうちから選ばれた1種または2種を合計で0.1%以下、のいずれかあるいはそれらを複合して含有してもよい。
Nb、Vのうちから選ばれた1種または2種:合計で0.1%以下
Nb、Vはいずれも、焼入れ加熱時のオーステナイト粒粗大化を抑制し、焼入れ後の靭性を向上させる元素で、必要に応じて選択して含有できる。このような効果を得るためには合計で0.005%以上含有することが好ましいが、合計で0.1%を超える含有は、鋼板が硬質化しすぎて延性が低下し、冷間加工性が著しく低下するため、合計で0.1%を上限とした。
【0028】
Ni、Cr、Moのうちから選ばれた1種または2種以上:合計で1.5%以下
Ni、Cr、Moはいずれも、焼入れ性を向上させる元素であり、さらなる焼入れ性を向上させる必要のある場合に、選択して含有できる。このような効果を得るためには合計で0.1%以上含有することが好ましいが、合計で1.5%を超える含有は、鋼板が硬質化しすぎて延性が低下し、冷間加工性が著しく低下するため、合計で1.5%を上限とした。
【0029】
Sb、Snのうちの1種または2種を合計:0.1%以下
Sb、Snはいずれも、粒界に偏析して、雰囲気中焼入れや、浸炭窒化処理の際に脱炭や窒化による焼入れ性低下の防止に寄与する元素であり、必要に応じて選択して含有できる。このような効果を得るためには、Sb、Snの合計で0.005%以上を、含有させることが好ましいが、Sb、Snの合計で0.1%を超える過剰な含有は、焼入れ後の靭性を低下させる。このため、含有する場合には、Sb、Snのうちの1種または2種を合計で0.1%以下に限定することが好ましい。
【0030】
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。
つぎに、本発明鋼板の組織限定理由について説明する。
本発明鋼板は、フェライト相およびパーライトの体積率の合計が組織全体に対する組織分率で95%以上である組織を有する。ここで、フェライト相は、7.0〜15.0μmの平均結晶粒径を有し、組織全体に対する体積率で50%以上の組織分率を占める相とする。フェライト相の平均結晶粒径が7.0μm未満と微細化すると、鋼板の硬質化が著しく、冷間加工性が低下する。一方、15.0μm超えてフェライト相が粗大化すると、フェライト相とパーライトの分布が不均一となり、冷間加工性が低下する。このため、フェライト相の平均結晶粒径を7.0〜15.0μmの範囲に限定した。なお、好ましくは7.5〜12.5μmである。パーライトの粒径はフェライト相のそれと同程度となる。なお、フェライト相の平均結晶粒径は、光学顕微鏡で組織を観察し、組織を同定したのち、JIS法に準拠した切断法や画像解析により算出する値を用いるものとする。
【0031】
また、フェライト相の組織分率が50%未満では、パーライトの分率が多くなりすぎて延性が低下し、冷間加工性が低下する。なお、フェライト相の組織分率の上限はとくに限定しないが、70%を超えて大きくなると、ファインブランキング時にバリが発生しやすくなるため、フェライト相の組織分率は70%以下とすることが好ましい。このようなことから、フェライト相の組織分率は、体積率で50%以上の範囲に限定した。なお、好ましくは50〜65%である。
【0032】
本発明鋼板は、基本的にはフェライト相とパーライトからなる組織を有するが、特性を阻害しない範囲である、組織全体に対する体積率で5%以下であれば、ベイナイト、マルテンサイト、その他の組織が存在しても許容される。すなわち、本発明鋼板は、上記したフェライト相とパーライトの体積率の合計が組織全体に対する組織分率で95%以上の組織を有する。
【0033】
つぎに、本発明鋼板の好ましい製造方法について説明する。
本発明では、上記した組成の鋼素材に、熱延工程を施して、熱延鋼板とする。
鋼素材の製造方法はとくに限定する必要はなく、上記した組成の溶鋼を、転炉法、電炉法等の常用の溶製方法で溶製し、連続鋳造法等の、常用の鋳造方法でスラブ等の鋼素材とすることが好ましい。鋼素材の鋳造方法は、成分のマクロな偏析を防止すべく違続鋳造法とすることが望ましいが、造塊法、薄スラブ鋳造法によってもなんら問題はない。
【0034】
得られた鋼素材はついで、熱間圧延と、その後の冷却と巻取りからなる熱延工程を施される。熱間圧延のための加熱は、いったん室温まで冷却し、その後再加熱する方法に加えて、室温まで冷却しないで、温片のままで加熱炉に装入する、あるいはわずかの保熱を行った後に直ちに圧延する直送圧延・直接圧延などの省エネルギープロセスも問題なく適用できる。なお、再加熱する場合は、加熱温度は、好ましくは1000℃以上、1280℃以下とすることが好ましい。加熱温度が1280℃を超えて高温となると、鋼素材の表面が酸化され、スケールの形成が著しくなる。また、1000℃未満では、熱間圧延における圧延負荷が増大しすぎて、圧延が困難になる場合がある。
【0035】
本発明における熱延工程は、上記した組成の鋼素材を、加熱しあるいは加熱することなく、粗圧延、仕上圧延からなる熱間圧延を施し、所定の寸法形状の熱延板とし、ついで該熱延板を所定の冷却速度で所定の巻取温度まで冷却し、該巻取温度で巻き取る工程とする。
熱間圧延における粗圧延は、所定寸法のシートバーが得られればよく、とくにその条件を限定する必要はない。なお、シートバーヒータ等の加熱手段により、シートバーを加熱し、所望の仕上圧延終了温度に調整してもよい。また、圧延中にエッジヒータ等のエッジ部加熱手段を適用して、エッジ端部の温度低下を抑制してもよい。
【0036】
一方、仕上圧延は、仕上圧延終了温度FTが800〜900℃となる圧延とする。そして熱間圧延(仕上圧延)終了後、熱延板は20℃/s以下の冷却速度で巻取温度CTまで冷却され、巻取温度CT:500℃以上として巻き取られる。
仕上圧延終了温度FT:800〜900℃
仕上圧延の圧延終了温度(仕上圧延終了温度FT)が800℃未満では、オーステナイト粒が過度に微細化され、その後の冷却で生成するフェライト相の粒径が微細化される。このため、鋼板が硬質化し、冷間加工性が低下する。一方、仕上圧延終了温度FTが900℃を超えて高くなると、オーステナイト粒が粗大化し、焼入れ性が増大するため、その後の冷却でフェライト相の生成が抑制されパーライト相の組織分率が増加しすぎて、冷間加工性が低下する。このため、仕上圧延の圧延終了温度(仕上圧延終了温度FT)を800〜900℃の範囲に限定した。
【0037】
なお、仕上圧延中の熱延板に、エッジヒータ等のエッジ部加熱手段を適用して、エッジ端部の温度低下を抑制してもよい。
熱間圧延後の平均冷却速度CR:20℃/s以下
熱間圧延(仕上圧延)終了から巻取温度CTまでの、平均の冷却速度CRが、20℃/sを超えて速くなると、フェライト相の生成が抑制されるため、所望のフェライト相分率を確保できなくなり、所望の優れた冷間加工性を確保できなくなる。また、熱間圧延後の平均冷却速度CRが20℃/sを超えると、組織への影響が大きくなり、鋼板幅方向の組織の均一性が低下し、とくにエッジ端部の組織を所望の組織分率を有するフェライト相を含む組織とすることが難しくなり、鋼板幅方向の強度および硬さのばらつきが大きくなる。このため、熱間圧延後の平均冷却速度CRを20℃/s以下に限定した。なお、冷間加工性向上の観点や、幅方向の強度バラツキを抑制する観点からは、熱間圧延後の平均冷却速度は遅ければ遅いほどよいが、生産性の観点からは5〜15℃/s程度とすることが好ましい。このような冷却は、水スプレー等の冷却手段を利用して達成することが好ましい。水スプレー等の冷却手段を利用することにより、表面スケールの形成を抑制できる。
【0038】
なお、仕上圧延終了後の冷却中に、熱延板に、エッジカバー等のエッジ部保温手段を利用して冷却し、エッジ端部の温度低下を抑制してもよい。
巻取温度CT:500℃以上
巻取温度CTが500℃未満では、フェライト相、パーライトが微細化し、パーライトラメラ間隔が狭くなるとともに、ベイナイトやマルテンサイトが生成して硬質化するため、冷間加工性が低下する。このため、巻取温度CTは500℃以上に限定した。巻取温度の上限はとくに限定する必要がないが、750℃以下とすることが好ましい。巻取温度CTが750℃を超えて高温となると、鋼板表面のスケールの生成が著しくなり鋼板表面の性状が低下するとともに、鋼板表面の脱炭が生じ、焼入れ後に所望の硬さ(強度)を確保できにくくなる。このため、巻取温度CTは750℃以下とすることが好ましく、さらには700℃以下とすることが好ましい。なお、コイル状に巻き取られた熱延板の冷却は、コイルカバーを利用した冷却としてもよい。
【実施例】
【0039】
表1に示す組成の溶鋼を、転炉で溶製し、連続鋳造法でスラブ(鋼素材)とした。ついで、スラブ(鋼素材)に、1250℃に加熱し、仕上圧延終了温度FTを表2に示す温度とする熱間圧延と、熱間圧延終了後、表2に示す平均冷却速度CRで、巻取温度まで冷却する冷却と、表2に示す巻取温度CTで巻取る熱延工程を施し、板厚:4.0mmの熱延鋼板(熱延鋼帯)を得た。なお、仕上圧延終了温度FT、平均冷却速度CR、巻取温度CTは、鋼板表面の温度を用いた。
【0040】
得られた熱延鋼板から試験片を採取し、組織観察、引張試験、金型摩耗試験、焼入れ性試験を実施した。試験方法は次のとおりである。
(1)組織観察
得られた熱延鋼板の板幅中央部から組織観察用試験片を採取し、研磨、腐食して、光学顕微鏡(倍率:400倍)を用いて、板厚中央部の10箇所について組織を撮像し、画像解析装置を用いて、組織の同定と、フェライト相の平均結晶粒径、および組織分率(体積%)を求めた。なお、フェライト相の平均結晶粒径は、各粒の面積を求め、該各粒の面積から各粒の円相当直径を算出し、それらを算術平均して求めた。
【0041】
(2)引張試験
得られた熱延鋼板の幅方向各位置から、引張方向が圧延方向となるように、JIS 5号試験片を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を実施し、幅方向各位置における引張強さTSを求めた。幅方向各位置は、試験片の中央部が幅方向中央部、幅方向1/4部、幅方向1/8部、幅方向 3/8部、エッジ端から15mm位置とした。得られた幅方向各位置のTSから、最高値と最低値の差ΔTSを求め、各鋼板の幅方向の強度ばらつきとした。なお、エッジ部から採取した引張試験片については、エッジ端5mmから内側の領域が試験片平行部に含まれるように採取した。
【0042】
(3)金型摩耗試験
得られた熱延鋼板の幅方向中央部から平板試験材(大きさ:幅50mm×長さ50 mm)を採取し、ファインブランキング試験を実施し、ポンチの歯が欠けるまでの試験回数(打抜き回数)を求め、金型寿命への影響を評価した。打抜き回数が1000回以上である場合を、金型寿命への影響が少ないとして合格(○)、それ以外の場合を不合格(×)とした。なお、ファインブランキングは、ポンチ径:10mmφ、片側クリアランス:0.02mmで行った。
【0043】
(4)焼入れ性試験
得られた熱延鋼板から平板試験片を採取し、焼入れ性試験を実施した。焼入れ性試験は、雰囲気焼入れと高周波焼入れの2種について行った。焼入れ処理後、試験片断面についてビッカース硬さ試験機(荷重:200gf(試験力:1.97N))を用いて、表層(表面から0.1mm)の硬さを各10点測定し、算術平均して、その鋼板の焼入れ後硬さHVとした。焼入れ後硬さHVが、350HV以上(雰囲気焼入れ)、420HV以上(高周波焼入れ)となる場合を、焼入れ性に優れ、合格(○)とし、それ以外の場合を不合格(×)として評価した。
【0044】
(イ)雰囲気焼入れ性試験
平板試験片(大きさ:幅50×長さ50 mm)を用いて焼入れ処理を実施した。焼入れ処理は、試験片を、RXガスに空気を混合してカーボンポテンシャルが鋼中のC量と等しくなるように調整した雰囲気ガス中に装入し、900℃×1hの加熱保持を行ったのち、50℃の油中に投入(浸漬)し、撹拌する処理とした。
【0045】
(ロ)高周波焼入れ性試験
平板試験片(大きさ:幅30×長さ100 mm)を用いて焼入れ処理を実施した。焼入れ処理は、100kHzの高周波を使用し、高周波コイルを移動させながら、900℃までを4sで加熱し、保持0sで、水冷する処理とした。なお、保持0sとは900℃に到着した後、直ちに冷却することを意味する。
【0046】
得られた結果を表3に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
本発明例はいずれも、フェライト相の平均結晶粒径が7.0〜15.0μmで、組織分率が50%以上となる、フェライト相とパーライトからなる組織を有し、引張強さTSが500MPa以下と低強度で、冷間加工性に優れ、かつ金型寿命を低下させることなくファインブランキング加工が可能であり、さらに所望の焼入れ後の硬さを確保でき、焼入れ性にも優れた熱延鋼板となっている。また、本発明例は、引張強さの幅方向のばらつきΔTSが60MPa以下で、板幅方向の強度ばらつきが少なく、板エッジまで部品用素材として使用が可能となり、本発明鋼板は部品用素材として歩留り高く使用できることがわかる。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、引張強さTSが高くなりすぎ、冷間加工性が低下しているか、ファインブランキング加工における金型寿命が低下するか、所望の焼入れ後の硬さを確保できていないか、あるいは板幅方向の強度ばらつきが大きくなっている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.18〜0.29%、 Si:1%以下、
Mn:1.5%以下、 P:0.1%以下、
S:0.03%以下、 sol.Al:0.1%以下、
N:0.0050%以下を含み、さらに、
Ti:0.002〜0.05%、 B:0.0005〜0.0050%
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、フェライト相およびパーライトの体積率の合計が組織全体に対する組織分率で95%以上である組織とを有し、前記フェライト相が7.0〜15.0μmの平均結晶粒径と、組織全体に対する体積率で50%以上の組織分率を有することを特徴とする、引張強さが500MPa以下であること、冷間加工性と焼入れ性に優れた熱延鋼板。
【請求項2】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb、Vのうちから選ばれた1種または2種を合計で0.1%以下含有することを特徴とする請求項1に記載の熱延鋼板。
【請求項3】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Ni、Cr、Moのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で1.5%以下含有することを特徴とする請求項1または2に記載の熱延鋼板。
【請求項4】
前記組成に加えてさらに質量%で、Sb、Snのうちから選ばれた1種または2種を合計で0.1%以下含有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の熱延鋼板。
【請求項5】
鋼板の両エッジ端5mmから内側の領域における引張強さの幅方向のばらつきΔTSが60MPa以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の熱延鋼板。
【請求項6】
質量%で、
C:0.18〜0.29%、 Si:1%以下、
Mn:1.5%以下、 P:0.1%以下、
S:0.03%以下、 sol.Al:0.1%以下、
N:0.0050%以下を含み、さらに、
Ti:0.002〜0.05%、 B:0.0005〜0.0050%
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材に、仕上圧延終了温度を800〜900℃とする熱間圧延を施し熱延板とし、該熱間圧延終了後、前記熱延板を、20℃/s以下の平均冷却速度で冷却し、巻取温度CT:500℃以上で巻き取る、熱延工程を施すことを特徴とする冷間加工性と焼入れ性に優れた熱延鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb、Vのうちから選ばれた1種または2種を合計で、0.1%以下含有することを特徴とする請求項6に記載の熱延鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Ni、Cr、Moのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で1.5%以下含有することを特徴とする請求項6または7に記載の熱延鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Sb、Snのうちから選ばれた1種または2種を合計で0.1%以下含有することを特徴とする請求項6ないし8のいずれかに記載の熱延鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2011−195882(P2011−195882A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63545(P2010−63545)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】