説明

凍結乾燥ワクチン用安定剤

本発明は、概して、免疫学及びワクチン工学分野に関する。より具体的には、本発明は、特にイヌパラミクソウイルスを含むことが可能な、凍結乾燥させた弱毒化生菌免疫原性及び/又はワクチン組成物用の安定剤に関する。本発明はさらに、安定化させて凍結乾燥させた、例えばイヌパラミクソウイルスの弱毒化生菌免疫原性及び/又はワクチン組成物であって、こうした安定剤を含有し得る組成物に関する。本発明の他の態様は、別添の開示内容に記載されているか、前記開示内容から明らかであり、本発明の範囲に含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2006年9月16日付で提出された、「Stabilizers For Freeze-Dried Vaccines」という名称の米国特許仮出願第60/717640号に基づく優先権を主張するものであり、前記出願の開示内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
こうしたそれぞれの出願、特許、及び本明細書に引用された各文書、並びに、本文中又はそれらの出願及び特許の手続き中に、こうしたそれぞれの出願、特許及び文書に引用された各文書(「出願中に引用された文書」)、並びに、出願中に引用された文書中に参照又は引用された各文書は、その手続き中に提出された特許性を支持するあらゆる主張とともに、ここに参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
本発明は、概して、免疫学及びワクチン工学分野に関する。より具体的には、本発明は、特にイヌパラミクソウイルスを含むことが可能な、凍結乾燥させた弱毒化生菌免疫原性及び/又はワクチン組成物用の安定剤に関する。本発明はさらに、安定化させて凍結乾燥させた、例えばイヌパラミクソウイルスの弱毒化生菌免疫原性及び/又はワクチン組成物であって、こうした安定剤を含有し得る組成物に関する。本発明の他の態様は、別添の開示内容に記載されているか、前記開示内容から明らかであり、本発明の範囲に含まれる。
【背景技術】
【0004】
ウイルス、細菌、寄生虫、真菌、タンパク質、ポリペプチド、糖タンパク質、及びとりわけ弱毒化生存微生物などの生物由来原料を含む免疫原性組成物及びワクチン組成物は、それらの調製時、製剤時及び保管時の条件に著しく敏感である。
【0005】
そうした生物由来原料を、化学反応(例えば、加水分解、脱アミノ化、メイラード反応など)により修飾又は分解することが可能であり、そうした化学反応の多くは、水により仲介されるものである。液体水により分子運動が可能となり、結果として、生物由来原料を含む組成物におけるタンパク質構造の修飾が可能となる。水分の利用を制限すること又は水分を除去することにより、修飾及び分解の主要な要因が減少する。生物由来原料に安定性を付与する従来の方法は、第一に、水分の凍結又は凍結乾燥による水分の除去を伴うものであった。
【0006】
凍結乾燥(lyophilization)、すなわち凍結乾燥(freeze-drying)のプロセスは、乾燥製品の調製時に水分を除去するのに広く用いられている技術である。一般に、含水組成物の「凍結乾燥」は3つのステップを伴う。第一に、含水組成物を低温条件下で凍結させる。第二に、凍結した水分を、減圧及び低温条件下での昇華により除去する。この段階で、かかる組成物には通常、約15%の水分が含まれている。第三に、減圧及びこれまでより高温の条件下での脱着により、残留水分をさらに除去する。凍結乾燥プロセス終了時には、「パスティール(pastille)」又は「ケーク(cake)」とも称される凍結乾燥製品が製造される。凍結乾燥製品には、非常に低いレベルの残留水分(約0.5%〜約5%重量/重量)及びアモルファス形態の乾燥物が含まれる。この特定の状態を、「ガラス質」と見なす。
【0007】
しかし、凍結乾燥前及び凍結乾燥中などの調製段階において、また、免疫原性組成物及びワクチン組成物の保管中においても、生物由来原料の免疫原性活性が相当減少することが観察されている。免疫原性組成物及びワクチン組成物の免疫付与効率が確実に保持されるようにするためには、生物由来原料の完全性を保全しなくてはならない。生物由来原料の免疫原性活性は、宿主又は対象に投与された際に免疫原性反応を誘導する又は刺激する能力により測定される。
【0008】
対象に対する操作及び投与回数を制限するために、当該技術においては、多価免疫原性組成物又はワクチン組成物の提供が強く望まれている。定義によると、多価免疫原性組成物又はワクチン組成物は、少なくとも2種類の異なる病原体に起源を有する又は由来する、2以上の活性免疫原性成分を含んでいる。異なる属に由来するウイルスは、凍結乾燥ステップ及びその後の保管期間における安定性にばらつきがあり、その結果として、生存能力又は感染力が減少する。イヌパラミクソウイルスなどのウイルスの場合、通常、投与される活性免疫原性成分は、弱毒化生ウイルスである。免疫系を効率的に刺激するには、免疫を付与した対象中で弱毒化生ウイルスが複製されなければならない。生存能力又は感染力の減少は、多価免疫原性組成物又はワクチン組成物の凍結乾燥ステップ中、かかる組成物の保管中、又は再構成後にかかる組成物を投与する前に、起こる可能性がある。そのため、そうした凍結乾燥組成物には、安定剤が添加されてきたのである。しかし、生存能力及び/又は感染力を保有する多価免疫原性組成物又はワクチン組成物を得るには、異なる弱毒化生存病原体の生存能力及び感染力を維持することができる共通の安定剤が特に有利である。
【0009】
乾燥物形態での生物由来原料の安定化は、抗毒素、抗原および細菌の維持を伴うのが一般的である(Flosodort et al (1935) J. Immunol. 29, 389)。しかし、このプロセスには、周辺温度で含水状態から乾燥させた場合にタンパク質が部分的に変性するなどの限界があった。凍結状態から乾燥させることで変性の程度が軽減し、細菌及びウイルスを含む生物由来原料は、不完全ではあるものの、より良好に維持されることとなった(Stamp et al. (1947) J. Gen. Microbiol. 1, 251; Rightsel et al. (1967) Cryobiology 3, 423; Rowe et al. (1971) Cryobiology 8, 251)。
【0010】
さらに最近では、スクロース、ラフィノース及びトレハロースなどの糖類が、さまざまな組み合わせで、ウイルスの凍結乾燥前に安定剤として添加されるようになった。多数の化合物に対して、弱毒化生菌である生物由来原料、特にウイルスを含有する異なるワクチンを安定化させる能力についてのテストが行われた。そうした化合物としては、SPGA(スクロース、リン酸塩、グルタミン酸塩及びアルブミン;Bovarnick et al. (1950) J. Bacteriol. 59, 509-522;米国特許第4000256号明細書)、ウシ又はヒト血清アルブミン、グルタミン酸のアルカリ金属塩、アルミニウム塩、スクロース、ゼラチン、澱粉、ラクトース、ソルビトール、Tris−EDTA、カゼイン加水分解物、ラクトビオン酸ナトリウム及びカリウム、並びに単一金属からなる又は2種類の金属からなるアルカリ金属リン酸塩などが挙げられる。他の化合物としては、例えば、SPG−NZアミン(例えば、米国特許第3783098号明細書)及びポリビニルピロリドン(PVP)混合物(例えば、米国特許第3915794号明細書)が挙げられる。
【0011】
ワクチン及び免疫原性組成物は、各種毒性病原体に由来する罹病率及び死亡率を減少させることで、公衆衛生に多大な影響を及ぼした。しかし、免疫原性組成物及びワクチン組成物中の添加剤から生じた想定外の副作用は、潜在的な危険性を引き続き生じさせるものであり、そうした危険性が、免疫原性組成物及びワクチン組成物の予防上及び治療上の特性を上回る場合もある。
【0012】
米国でワクチンに頻繁に使用される形態では、ゼラチンは、200万回の投与につき約1回の割合で、重篤なアレルギー反応を引き起こす可能性がある。以前、アルブミン(卵タンパク質)が原因で生じると考えられていたアレルギー反応は、同じワクチン中のゼラチンにより生じる可能性が高い。ヒト血清アルブミンの場合、ワクチン中のヒト血清アルブミンに関連した疾患はこれまでなかったが、ヒトの血液に由来するこのタンパク質を介してウイルスが伝染する可能性はある。
【0013】
ウシアルブミン及びゼラチンなどのウシ由来製品は、ワクチンの製造に用いられるウシ血液及び結合組織製品を介して、CJD(クロイツフェルト・ヤコブ病、「狂牛病」としても知られる)を伝染させる危険性を抱えている。しかし、血液又は結合組織製品を介してCJDが伝染したという症例がこれまでに報告されたことはなく、CJDを引き起こすプリオンは血液又は結合組織では発見されておらず、狂牛病の症例の存在が知られている国から輸入されたウシに由来するウシ由来製品の使用は、禁止されている。それでもなお、こうした危険性を考慮して、望ましくない免疫効果を引き出すことが観察されているそうした製品を免疫原性組成物に使用しなくてもいいようにするための労力が注がれてきた。
【0014】
De Rizzo(de Rizzo et al. (1989) Bull. Pan. Am. Health Organ. 23(3), 299-305)は、ソルビトール−ゼラチン又はグルタミン酸−ラクトース溶液を含む凍結乾燥麻疹ウイルス調製物について報告している。こうした調製物を−20℃で保管して、21ヶ月に及ぶ保管期間中にそのウイルス力価を確認した。結果として得られたデータは、安定剤を含まない凍結乾燥ウイルスが−20℃で保管された場合には、21ヶ月間にわたって安定していることを示した。また、凍結乾燥麻疹ウイルスが、−20℃で保管された場合には安定していること、及び、効力を事実上全く低下させずに何年にもわたって維持できることは、よく知られている(Gray A., (1978) Dev. Biol. Stand. 41, 265-266)。しかし、これらの結果は、凍結乾燥麻疹ウイルスが安定している−20℃で得られたものであり、付加的な安定効果は示されていない。これらの結果は、ソルビトール−ゼラチン又はグルタミン酸−ラクトース溶液には、凍結乾燥された形態にて−20℃で保管された麻疹ウイルスの安定性に対するマイナス効果がないことを示すにすぎない。
【0015】
Precausta(Precausta et al (1980) J. Clin. Microbiol. 12(4), 483-489)は、残留湿気及び密封雰囲気が、凍結乾燥後のイヌジステンパーウイルス(CDV)及び伝染性気管支炎ウイルス(IBV)の感染価に及ぼす影響について調べた。最終濃度が75mg/mlとなるまでラクトース溶液をCDVの調製物に添加する一方、IBVワクチンには、1ml当たり40mgのマンニトールを含有させた。凍結乾燥前のCDVの感染価を凍結乾燥後の感染価、及び6℃で12ヶ月間保管した後の感染価と比較したところ、CDVの感染価は、101.6CCID50/mlから102.0CCID50/mlへと下がっており、これは、CDVの感染価の大幅な低下を反映するものである。
【0016】
こうした安定剤は、安全性の問題及び副作用などの理由から対象への投与には望ましくない成分を含んでいる場合が多い。結果として、凍結乾燥された形態での生物由来原料の生存能力及び感染力を維持するための新規安定剤及び方法であって、対象への注射という点で安全かつ適切であり、優れた様相を呈する新規安定剤及び方法が求められている。
【0017】
本出願におけるいかなる文献の引用又は特定も、そうした文献が本発明の先行技術として利用可能であることを認めるものではない。
【特許文献1】米国特許第4000256号明細書
【特許文献2】米国特許第3783098号明細書
【特許文献3】米国特許第3915794号明細書
【非特許文献1】Flosodort et al (1935) J. Immunol. 29, 389
【非特許文献2】Stamp et al. (1947) J. Gen. Microbiol. 1, 251
【非特許文献3】Rightsel et al. (1967) Cryobiology 3, 423
【非特許文献4】Rowe et al. (1971) Cryobiology 8, 251
【非特許文献5】Bovarnick et al. (1950) J. Bacteriol. 59, 509-522
【非特許文献6】de Rizzo et al. (1989) Bull. Pan. Am. Health Organ. 23(3), 299-305
【非特許文献7】Gray A., (1978) Dev. Biol. Stand. 41, 265-266
【非特許文献8】Precausta et al (1980) J. Clin. Microbiol. 12(4), 483-489
【発明の開示】
【0018】
本発明は、とりわけ、弱毒化生イヌジステンパーウイルス(CDV)及びイヌパラインフルエンザ2型(cPi2)を含むことが可能な、凍結乾燥させた弱毒化生菌免疫原性組成物又はワクチン組成物用の新規安定剤を提供することにより、当該技術における要望に取り組むものである。こうした安定剤は、特に凍結乾燥プロセス、及び冷凍温度又は室温(具体的には約4℃〜約25℃の間)のいずれかでの凍結乾燥製品の長期にわたる保管期間において、他のウイルス、病原体、及び活性免疫原性成分に加えて、これらのイヌパラミクソウイルス類の生存能力及び感染力を維持することができる。重要なことに、本件の特許請求の範囲に記載の、安定化させて凍結乾燥させた弱毒化生菌免疫原性組成物又はワクチン組成物用の安定剤は、再構成後の対象への注射という点で安全かつ適切である。こうした安定化させて凍結乾燥させた免疫原性組成物は、パスティール又はケークを含むこと、優れた様相を呈することが可能である。優れた様相とはすなわち、形状が整っていて色合いが均一であることである。
【0019】
本発明の安定剤には、有利なことに、動物由来の原料が含まれていない。具体的には、ヒト又はウシを起源とする血清アルブミン、ラクトアルブミン及びゼラチンが含まれていない。このような形態では、例えば、蕁麻疹及びアナフィラキシーなどのゼラチン又はアルブミンアレルギーに起因するアレルギー反応、並びに海綿状脳疾患、特にクロイツフェルト・ヤコブ病又はウシ海綿状脳疾患(BSE;狂牛病としても知られる)の伝染などの、潜在的な生物学的危険性が最小限になるか、消失する。
【0020】
したがって、本発明は、ある態様において、少なくとも1種類の還元単糖及び少なくとも1種類の酸性抗酸化化合物を含むことが可能であり、前記少なくとも1種類の酸性抗酸化化合物が、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスコルビン酸又はそれらの組み合わせを含むことが可能な、凍結乾燥させた弱毒化生イヌジステンパー(CDV)及びイヌパラインフルエンザ2型(cPi2)免疫原性組成物又はワクチン組成物用の安定剤を提供する。
【0021】
いくつかの実施形態においては、少なくとも1種類の還元単糖は、グルコース、ガラクトース、フルクトース、マンノース、ソルボース又はそれらの組み合わせを含むことが可能である。
【0022】
別の実施形態においては、安定剤は少なくとも1種類の増量剤をさらに含むことが可能であり、前記少なくとも1種類の増量剤は、デキストラン、マルトデキストリン、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチル澱粉又はそれらの組み合わせを含むことが可能である。
【0023】
いくつかの実施形態においては、安定剤は少なくとも1種類の糖アルコールをさらに含むことが可能であり、前記少なくとも1種類の糖アルコールは、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、マルチトール又はそれらの組み合わせを含むことが可能である。
【0024】
別の実施形態においては、安定剤は少なくとも1種類の非還元オリゴ糖をさらに含むことが可能であり、前記少なくとも1種類の非還元オリゴ糖は、トレハロース、スクロース、ラフィノース又はそれらの組み合わせを含むことが可能である。
【0025】
本発明は、少なくとも1種類の糖アルコール及び少なくとも1種類の非還元オリゴ糖をさらに含む安定剤であって、前記糖アルコールが、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、マルチトール又はそれらの組み合わせを含むことが可能であり、前記非還元オリゴ糖が、トレハロース、スクロース、ラフィノース又はそれらの組み合わせを含むことが可能であることを特徴とする安定剤をも提供する。
【0026】
本発明の別の態様においては、CDV及びcPi2を含む弱毒化生パラミクソウイルスを含むことが可能であり、本発明の安定剤と混合された免疫原性懸濁液又は溶液が提供される。
【0027】
ある実施形態では、CDV及びcPi2を含む弱毒化生パラミクソウイルス、パラミクソウイルス以外の病原体に由来する少なくとも1種類の活性免疫原性成分を含むことが可能であり、本発明の安定剤と混合された多価免疫原性懸濁液又は溶液が提供される。少なくとも1種類の免疫原性成分は、アデノウイルス科、パルボウイルス科、コロナウイルス科、ヘルペスウイルス科、ポックスウイルス科、ラブドウイルス科を含む病原体又はそれらの組み合わせに由来していてもよい。
【0028】
少なくとも1種類の活性免疫原性成分は、弱毒化生イヌアデノウイルス2型(CAV2)及び弱毒化生イヌパルボウイルス(CPV)を有利に含むことが可能である。
【0029】
いくつかの実施形態では、少なくとも1種類の活性免疫原性成分は、1以上の異種免疫原を含むウイルスベクターを含むことが可能である。別の実施形態では、少なくとも1種類の活性免疫原性成分は、1以上の異種免疫原を含むプラスミドベクターを含むことが可能である。
【0030】
本発明の免疫原性懸濁液又は溶液は、安定剤を提供し、かかる安定剤は、最終濃度が約1%〜約5%w/v;約1.5%〜約5%w/v;約1.5%〜約4%w/v;又は約2.5%〜約3%w/vの少なくとも1種類の還元単糖を含むことが可能である。
【0031】
免疫原性懸濁液又は溶液は、本発明の安定剤を含んでおり、かかる安定剤は、最終濃度が約0.1%〜約0.3%w/v;約0.1%〜約0.25%w/v;又は約0.2%w/vの少なくとも1種類の酸性抗酸化化合物を含むことが可能である。
【0032】
免疫原性懸濁液又は溶液は、安定剤を含んでおり、かかる安定剤は、最終濃度が約0.5%〜約7.5%w/v;又は約1.5%〜約5%w/vの少なくとも1種類の増量剤を含むことが可能である。
【0033】
本発明の免疫原性懸濁液又は溶液は、安定剤を含んでおり、かかる安定剤は、最終濃度が約0.5%〜約5%w/vの少なくとも1種類の糖アルコール、及び少なくとも1種類の還元単糖を含むことが可能である(ただし、少なくとも1種類の還元単糖及び少なくとも1種類の糖アルコールの最終濃度は、約7.5%w/v以下であることを条件とする)。
【0034】
別の実施形態では、本発明の免疫原性懸濁液又は溶液は、安定剤を含んでおり、かかる安定剤は、最終濃度が約0.5%〜約5%w/vの少なくとも1種類の非還元オリゴ糖、及び少なくとも1種類の還元単糖を含むことが可能である(ただし、少なくとも1種類の還元単糖及び少なくとも1種類の非還元オリゴ糖の最終濃度は、約7.5%w/v以下であることを条件とする)。
【0035】
本発明の別の実施形態は、免疫原性懸濁液又は溶液を提供し、かかる免疫原性懸濁液又は溶液は、最終濃度が約0.5%〜約5%w/vの少なくとも1種類の糖アルコール、最終濃度が約0.5%〜約5%w/vの少なくとも1種類の非還元オリゴ糖、及び少なくとも1種類の還元単糖を含むことが可能である(ただし、少なくとも1種類の還元単糖、少なくとも1種類の糖アルコール及び少なくとも1種類の非還元オリゴ糖の最終濃度は、約12.5%w/v以下であることを条件とする)。
【0036】
本発明の免疫原性懸濁液又は溶液は、安定剤を含んでおり、かかる安定剤は、(i)最終濃度が約1%〜約5%w/vの少なくとも1種類の還元単糖、及び(ii)最終濃度が約0.1%〜約0.3%w/vの少なくとも1種類の酸性抗酸化剤を含むことが可能である。
【0037】
本発明の免疫原性懸濁液又は溶液は、安定剤を含んでおり、かかる安定剤は、(i)最終濃度が約1%〜約5%w/vの、2種類の還元単糖の混合物、(ii)最終濃度が約0.1%〜約0.3%w/vの少なくとも1種類の酸性抗酸化剤、及び(iii)最終濃度が約0.5%〜約7.5%w/vの少なくとも1種類の増量剤を含むことが可能である。
【0038】
免疫原性懸濁液又は溶液は、安定剤を含んでおり、かかる安定剤は、(i)最終濃度が約1%〜約5%w/vの少なくとも1種類の還元単糖、(ii)最終濃度が約0.5%〜約5%w/vの少なくとも1種類の非還元オリゴ糖、(iii)最終濃度が約0.1%〜約0.3%w/vの少なくとも1種類の酸性抗酸化剤、及び(iv)最終濃度が約0.5%〜約7.5%w/vの少なくとも1種類の増量剤を含むことが可能である(ただし、(i)及び(ii)の最終濃度は、約7.5%w/v以下であることを条件とする)。
【0039】
本発明の免疫原性懸濁液又は溶液は、安定剤を含んでおり、かかる安定剤は、(i)最終濃度が約1.5%〜約4%w/vの少なくとも1種類の還元単糖、(ii)最終濃度が約0.5%〜約2.5%w/vの少なくとも1種類の非還元オリゴ糖、(iii)最終濃度が約0.1%〜約0.25%w/vの少なくとも1種類の酸性抗酸化剤、及び(iv)最終濃度が約1.5%〜約5%w/vの少なくとも1種類の増量剤を含むことが可能である(ただし、(i)及び(ii)の最終濃度は、約5%w/v以下であることを条件とする)。
【0040】
別の実施形態では、免疫原性懸濁液又は溶液は、安定剤を含んでおり、かかる安定剤は、(i)最終濃度が約1%〜約5%w/vの少なくとも1種類の還元単糖、(ii)最終濃度が約0.5%〜約5%w/vの少なくとも1種類の糖アルコール、(iii)最終濃度が約0.1%〜約0.3%w/vの少なくとも1種類の酸性抗酸化剤を含むことが可能である(ただし、(i)及び(ii)の最終濃度は、約7.5%w/v以下であることを条件とする)。
【0041】
本発明のさらに別の実施形態は、安定剤を含む免疫原性懸濁液又は溶液を提供しており、かかる安定剤は、(i)最終濃度が約1.5%〜約4%w/vの少なくとも1種類の還元単糖、(ii)最終濃度が約1.5%〜約3%w/vの少なくとも1種類の糖アルコール、及び(iii)最終濃度が約0.1%〜約0.25%w/vの少なくとも1種類の酸性抗酸化剤を含むことが可能である(ただし、(i)及び(ii)の最終濃度は、約5%w/v以下であることを条件とする)。
【0042】
本発明の免疫原性懸濁液又は溶液は、安定剤を含んでおり、かかる安定剤は、(i)最終濃度が約1%〜約5%w/vの少なくとも1種類の還元単糖、(ii)最終濃度が約0.5%〜約5%w/vの少なくとも1種類の糖アルコール、(iii)最終濃度が約0.5%〜約5%w/vの少なくとも1種類の非還元オリゴ糖、及び(iv)最終濃度が約0.1%〜約0.3%w/vの少なくとも1種類の酸性抗酸化剤を含むことが可能である(ただし、(i)、(ii)及び(iii)の最終濃度は、約12.5%w/v以下であることを条件とする)。
【0043】
本発明の免疫原性懸濁液又は溶液は、安定剤を含んでおり、かかる安定剤は、(i)最終濃度が約1.5%〜約4%w/vの少なくとも1種類の還元単糖、(ii)最終濃度が約0.5%〜約5%w/vの少なくとも1種類の糖アルコール、(iii)最終濃度が約0.5%〜約2.5%w/vの少なくとも1種類の非還元オリゴ糖、及び(iv)最終濃度が約0.1%〜約0.25%w/vの少なくとも1種類の酸性抗酸化剤を含むことが可能である(ただし、(i)、(ii)及び(iii)の最終濃度は、約10%w/v以下であることを条件とする)。
【0044】
本発明の別の態様は、本発明の弱毒化生CDV及びcPi2免疫原性懸濁液又は溶液の凍結乾燥方法を提供し、かかる方法は、以下のステップを含むことが可能である:(a)懸濁液又は溶液を安定剤と接触させ、それにより安定化させた免疫原性懸濁液又は溶液を作製するステップ;(b)安定化させた免疫原性懸濁液又は溶液を、安定化させた免疫原性懸濁液のおよそのT’g値を下回る温度まで、大気圧にて冷却するステップ;(c)安定化させた免疫原性懸濁液又は溶液を、低圧での氷の昇華により、乾燥させるステップ;及び(d)さらに減圧すること、及び、安定化させた免疫原性懸濁液又は溶液の温度を上昇させることで、過剰な残留水分を除去するステップ。
【0045】
有利な実施形態においては、ステップ(b)の温度は、約−40℃未満であってもよい。ステップ(c)の圧力は約200μバール以下であってもよいのに対し、ステップ(d)の圧力は約100μバール以下であってもよい。ステップ(d)の温度は、約20℃〜約30℃であってもよい。
【0046】
別の実施形態は、本発明の方法を提供し、かかる方法は、弱毒化生CDV、弱毒化生cPi2、及びパラミクソウイルス以外の病原体に由来する少なくとも1種類の活性免疫原性成分を含む、多価免疫原性組成物又はワクチン組成物を含むことが可能である。
【0047】
さらなる態様においては、本発明の方法により製造された、安定化させて凍結乾燥させた弱毒化生CDV及びcPi2免疫原性組成物が提供される。
【0048】
別の態様は、安定化させて凍結乾燥させた弱毒化生CDV及びcPi2免疫原性組成物を提供し、かかる組成物は、(i)最終濃度が約20%〜約50%w/wの少なくとも1種類の還元単糖、(ii)アスパラギン酸、グルタミン酸、アスコルビン酸又はそれらの組み合わせを含む、最終濃度が約1.5%〜約6%w/wの酸性抗酸化剤を含むことが可能である。
【0049】
(i)最終濃度が約20%〜約50%w/wの少なくとも1種類の還元単糖、(ii)アスパラギン酸、グルタミン酸、アスコルビン酸又はそれらの組み合わせを含む、最終濃度が約2%〜約6%w/wの少なくとも1種類の酸性抗酸化剤、及び(iii)最終濃度が約15%〜約70%w/wの少なくとも1種類の増量剤を含むことが可能な、安定化させて凍結乾燥させた弱毒化生CDV及びcPi2免疫原性組成物も、本発明により提供される。
【0050】
本発明の方法により生産された、弱毒化生CDV、弱毒化生cPi2、及びパラミクソウイルス以外の病原体に由来する少なくとも1種類の活性免疫原性成分を含む、安定化させて凍結乾燥させた多価免疫原性組成物又はワクチン組成物も、本発明により提供される。かかる組成物は、(i)最終濃度が約20%〜約50%w/wの少なくとも1種類の還元単糖、(ii)アスパラギン酸、グルタミン酸、アスコルビン酸又はそれらの組み合わせを含む、最終濃度が約1.5%〜約6%w/wの少なくとも1種類の酸性抗酸化剤を含むことが可能である。
【0051】
本発明の別の態様は、弱毒化生CDV、弱毒化生cPi2、及びパラミクソウイルス以外の病原体に由来する少なくとも1種類の活性免疫原性成分を含む、安定化させて凍結乾燥させた多価免疫原性組成物を提供し、かかる組成物は、(i)最終濃度が約20%〜約50%w/wの少なくとも1種類の還元単糖、(ii)アスパラギン酸、グルタミン酸、アスコルビン酸又はそれらの組み合わせを含む、最終濃度が約2%〜約6%w/wの少なくとも1種類の酸性抗酸化剤、及び(iii)最終濃度が約15%〜約70%w/wの少なくとも1種類の増量剤を含むことが可能である。
【0052】
さらに別の態様においては、本発明はキットを提供し、かかるキットは、本発明の安定化させて凍結乾燥させた免疫原性組成物を含有する第一のバイアル及び溶媒を含有する第二のバイアルを含むことが可能である。
【0053】
かかる溶媒を、脱塩水、蒸留水、注射用蒸留水、緩衝液(すなわち、リン酸緩衝液)、及びアジュバント(すなわち、油中水乳剤、水酸化アルミニウム、カルボマー)からなる群から選択してもよい。
【0054】
これらの具体的表現及び他の具体的表現は、後述の発明を実施するための最良の形態にて開示されているか、発明を実施するための最良の形態から明らかであり、その中に包含されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
本件の開示内容において、「comprises(含む)」、「comprising」、「containing(包含する)」及び「having(有する)」などの語句は、米国特許法においてそれに帰属する意味をもつことが可能であり、「includes(含有する)」、「including」などの意味をもつことが可能である。また、「consisting essentially of(基本的に〜からなる)」及び「consists essentially」などの語句は、米国特許法においてそれらに帰属する意味をもち、かかる語句は非制限的であって、列挙された事項よりも多くのものの存在によって、列挙された事項の基本的又は新規特徴が変化しない限りは、列挙された事項よりも多くのものの存在をも考慮に入れるものであるが、先行技術の実施形態は除外するものである。
【0056】
本発明との関連では「対象」は、哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類又は魚類などの脊椎動物;より有利には、ヒト、ペット又は家畜化された動物;食料生産動物又は飼料生産動物;家畜、狩猟対象の動物、競争又はスポーツ用の動物、例えばウシ、イヌ、ネコ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウマ及び鳥類などであってもよいが、これらに限定されない。かかる脊椎動物はイヌであることが好ましい。
【0057】
本明細書で使用される「組換え」は、合成された又はインビトロで操作された核酸(例えば、「組換え核酸」)を指し、組換え核酸を用いて遺伝子産物を細胞中、対象中又は他の生物系で生産する方法を指し、又は組換え核酸でコードされたポリペプチド(「組換えタンパク質」)を指す。「組換え手段」には、例えば、核酸コーディング配列の誘導性又は構成的発現のための、異なる供給源に由来する多様なコーディング領域、ドメイン又はプロモーター配列を有する核酸の切除、及び、発現カセット又はベクターへのライゲーションも包含される。
【0058】
本明細書で使用される「作用可能な状態で連結された(operably linked)」という語句は、記載された成分が、その目的とする形で機能できるような関係にあることを意味する。
【0059】
「異種」という語句は、核酸に関して用いられる場合には、ある核酸が、自然状態ではその核酸が通常見られることのない細胞中、ウイルス中、対象中又は細菌中に存在していること;又は、核酸が2以上の核酸配列を含んでおり、その際に見られるこれらの核酸配列間の相互関係が、通常、自然状態で見られるものとは異なること;又は、その発現レベル、又は細胞中、対象中、若しくは構造中の他の核酸若しくは他の分子に対する物理的関係が、通常、自然状態では見られないものとなるように、核酸に組換え操作が行われていることを示す。例えば、自然状態では見られない形で配置された、無関係の遺伝子に由来する2以上の配列を有する異種核酸を、組換えにより作製することができる;例えば、ポックスウイルス又はアデノウイルスベクターに挿入されたプロモーター配列に作用可能な状態で連結されたイヌ遺伝子が挙げられる。一例として挙げると、目的の異種核酸は、免疫原性遺伝子産物をコードすることが可能であり、この場合、前記目的の異種核酸はベクター中に含まれて、免疫原性組成物又はワクチン組成物として、治療又は予防のために投与される。異種配列は、プロモーターと配列の様々な組み合わせを含むことが可能であり、その多数の例について、本明細書にて詳しく説明する。
【0060】
本明細書にて使用される「ベクター」とは、ある環境から別の環境への構成要素の運搬を可能にする又は容易にする道具である。例として挙げると、組換え核酸技術で使用されるベクターによって、核酸断片など(異種核酸断片、異種cDNA断片など)の構成要素を、標的細胞へと運搬することが可能になる。本明細書では、「発現ベクター」という語句も使用されている。本発明は、ウイルスベクター、細菌ベクター、真菌ベクター、原生動物ベクター、プラスミドベクター又はそれらの組換え体を含むがこれらに限定されない組換えベクターを内包するものである。
【0061】
ベクター中で発現させる(例えば、目的のエピトープ及び/又は抗原及び/又は免疫原及び/又は治療に役立つ物質をコードする)ための異種核酸、及びそのような異種核酸を提供している文書に関して、並びに、核酸分子の発現を高めるための転写及び/又は翻訳因子の発現、及び「目的のエピトープ」、「治療に役立つ物質」、「免疫応答(immune response)」、「免疫学的応答(immunological response)」、「防御免疫応答」、「免疫学的組成物」、「免疫原性組成物」、及び「ワクチン組成物」などの語句に関しては、とりわけ、1999年11月23日に発行された米国特許第5990091号明細書、国際公開第98/00166号パンフレット及び国際公開第99/60164号パンフレット、それらの中に引用されている文書、かかる特許及びPCT出願の手続き中に記録された文書に対して参照がなされており、それらは全て参照により本明細書に組み込まれる。したがって、本発明の実施の際には、米国特許第5990091号明細書、国際公開第98/00166号パンフレット及び国際公開第99/60164号パンフレット、それらの中に引用されている文書、かかる特許及びPCT出願の手続き中に記録された文書、及び本明細書中に引用された又は参照により本明細書に組み込まれた他の文書を参考にすることができ、本発明の実施の際には、そうした文書に引用されているあらゆる異種核酸分子、プロモーター、及びベクターを用いることができる。これに関しては、米国特許第6706693号明細書、米国特許第6716823号明細書、米国特許第6348450号明細書、米国特許出願第10/424409号明細書、米国特許出願第10/052323号明細書、米国特許出願第10/116963号明細書、米国特許出願第10/346021号明細書、及び1999年2月25日に公開された、PCT/US98/16739号に由来する国際公開第99/08713号パンフレットに対して言及がなされている。
【0062】
「抗原」とは、免疫系により認識され、免疫応答を誘導する物質である。抗原は、病原体そのもの(死菌、弱毒化菌又は生菌);病原体のサブユニット又は部分;免疫原性を備えたインサートを含む組換えベクター;宿主動物に提示された際に免疫応答を誘導することができる核酸片又は断片;タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、糖タンパク質、エピトープ、ハプテン、炭水化物、糖又はそれらのあらゆる組み合わせを含むことが可能である。あるいは、抗原は、毒素又は抗毒素を含むことが可能である。これとの関連で交換可能に用いられる類語が、「免疫原」である。「病原体」は、細菌、真菌、原生生物、寄生虫又はウイルスなどの、疾患の特定の原因物質を指す。
【0063】
本明細書に使用されている、「免疫原性組成物」、「免疫学的組成物」及び「免疫原性又は免疫学的組成物」という語句は、ベクターから発現した目的の抗原又は免疫原に対する免疫応答を引き出すあらゆる組成物、例えば、対象への投与後に、標的免疫原又は目的の抗原に対する免疫応答を引き出すあらゆる組成物をも含むものである。「ワクチン用組成物(vaccinal composition)」、「ワクチン」及び「ワクチン組成物(vaccine composition)」という語句は、目的の抗原に対する防御免疫応答を誘導する、又は抗原に対する効果的な防御を提供するあらゆる組成物、例えば、対象への投与又は注射後に、標的抗原又は免疫原に対する防御免疫応答を引き出すあらゆる組成物、又は、ベクターから発現した抗原又は免疫原に対する効果的な防御を提供するあらゆる組成物をも含むものである。
【0064】
本明細書に使用されている、「多価」という語句は、同一の種に由来するものであろうと異なる種に由来するものであろうと、2つ以上の抗原を含む免疫原性組成物又はワクチン組成物を意味する、又は、異なる属に由来する抗原の組み合わせを含む免疫原性組成物又はワクチン組成物を意味する。
【0065】
本発明との関連においては「活性免疫原性成分」には、弱毒化生ウイルス、弱毒化生細菌、真菌又は寄生虫などの、弱毒化生存病原体が含まれる。活性免疫原性成分が、本発明の多価弱毒化生CDV及びcPi2免疫原性組成物、懸濁液又は溶液の一部である場合は、活性免疫原性成分は、有利なことに、パラミクソウイルス以外の病原体に由来するものであってもよい。本明細書に記載された1以上の病原体に由来する又は起源を有する組換え異種免疫原又は抗原も、本発明に含まれる。とりわけ、ウイルスベクター、細菌ベクター、真菌ベクター、及びプラスミドベクター中にかかる免疫原又は抗原を含有させ、発現させることができる。本発明は、1以上の病原体に由来する異種免疫原又は抗原のエピトープ、サイトカインなどの免疫調節剤、治療薬、毒素、抗体、抗体の抗原結合断片、アジュバント、又は、中でもアンチセンスRNA、触媒RNA、低分子干渉RNAなどの他の種も包含する。
【0066】
「獣医学組成物」という語句は、例えば、エリスロポエチン(EPO)などの治療用タンパク質、又は、例えばインターフェロン(IFN)などの免疫調節用タンパク質を発現させるための獣医学で使用されるベクターを含むいかなる組成物をも意味するものである。同様に「医薬組成物」という語句は、治療用タンパク質を発現させるためのベクターを含むいかなる組成物をも意味するものである。
【0067】
本発明の組成物及び方法を、サイトカインなどの免疫調節剤、治療薬、毒素、抗体、抗体の抗原結合断片、アジュバント、又は、中でもアンチセンスRNA、触媒RNA、低分子干渉RNAなどの他の種の安定化に適切に応用することができる。再構成後は、予防免疫として疾病を予防するために、又は、治療免疫として疾病の症状を軽減するために、これらの化合物を用いてもよい。
【0068】
本発明は、少なくとも1種類の還元単糖及び少なくとも1種類の酸性抗酸化化合物を含む、凍結乾燥させた弱毒化生菌免疫原性組成物用の安定剤を包含する。いくつかの実施形態では、かかる安定剤は、必要に応じて少なくとも1種類の非還元オリゴ糖、及び/又は少なくとも1種類の増量剤及び/又は少なくとも1種類の糖アルコールを含むことができる。こうした安定剤は、中でもウイルス、細菌、真菌、寄生虫、タンパク質、ポリペプチドを含むが、これに限定されない生物由来原料の、免疫原性、感染力及び生存能力を維持又は保持することができる。また、本明細書に記載の本発明の安定剤は、優れた様相、すなわち、均一の形状及び色合いを有しており、対象への投与という点で安全である。
【0069】
「還元単糖」とは、電子を供与することができる糖であり、したがって、酸化−還元反応中に他の化合物を還元することができる糖である。一般に還元単糖は、その構造中にアルデヒド又はケトン基を有している。還元糖を同定するには、フェーリング試薬試験などの比色試験が利用可能であり、フェーリング試薬試験では、還元糖の存在下で銅イオン試薬が金属銅に還元されるにつれて、藍色から赤への色の変化が生じる。本発明においては、還元単糖は、グルコース、ガラクトース、フルクトース、マンノース、ソルボース又はそれらの組み合わせを含んでいることが好ましい。本発明のある実施形態においては、少なくとも2種類の還元単糖の組み合わせが提供されている。還元単糖は、凍結乾燥プロセス中、特に昇華ステップ(すなわち、第一及び第二乾燥ステップ)中の、組成物、とりわけタンパク質及び弱毒化生存病原体の組成物の保護に重要であり、前記ステップでは、還元単糖は、昇華した水分に代わって、生物学的構造体の凝集力を維持する。
【0070】
必要に応じて、本発明の安定剤に、糖アルコール及び/又は非還元オリゴ糖を添加することができる。還元単糖及び糖アルコールの組み合わせ、還元単糖及び非還元オリゴ糖の組み合わせ、並びに還元単糖、糖アルコール及び非還元オリゴ糖の組み合わせは、本発明に包含される。
【0071】
化学的には、糖アルコールは、糖アルデヒド基の還元による糖分子由来のアルコール、より正確にはポリオールである。本発明との関連においては、糖アルコールは、単糖アルコール又は二糖アルコールであると有利である。有利なことに、糖アルコールは、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、又はマルチトールを含むことができる。本発明の安定剤も、少なくとも2種類の糖アルコールの混合物を含むことができる。
【0072】
本発明との関連においては、「非還元オリゴ糖」とは、2〜10の糖単位を含み、酸化−還元反応中に他の化合物を還元することができない糖である。本発明では、非還元オリゴ糖は、有利なことにトレハロース、スクロース、又はラフィノースを含む、非還元二糖又は非還元三糖であってもよい。本発明の安定剤も、少なくとも2種類の非還元オリゴ糖の混合物を含むことができる。
【0073】
酸性抗酸化化合物は、酸化剤、フリーラジカル(すなわち、不対電子を備えた分子)、又はフリーラジカルを放出する化学物質と反応して、それらを中和する化合物であると定義されている。本発明との関連においては、かかる抗酸化化合物は酸性形態である。はっきりさせるために、本明細書ではそれらを「酸性抗酸化剤(acid antioxidant)」と称する。酸性抗酸化剤は、アスコルビン酸及び/又はアスパラギン酸、グルタミン酸などの酸性アミノ酸を含むことができる。酸性抗酸化剤は、アスパラギン酸であると有利である。安定剤は、酸性抗酸化剤の塩、例えば、ナトリウム又はカリウム塩などのアルカリ金属塩、特に、アスパラギン酸ナトリウム塩、アスパラギン酸カリウム塩、グルタミン酸ナトリウム塩、グルタミン酸カリウム塩、アスコルビン酸ナトリウム塩、アスコルビン酸カリウム塩などを含んでいないことが好ましい。2種類以上の酸性抗酸化化合物の組み合わせも、本発明に包含される。
【0074】
増量剤は、薬学的又は獣医学的に許容可能なポリマーであってもよく、かかるポリマーとしては、デキストラン、マルトデキストリン、ポリビニルピロリドン(PVP)、クロスポビドン、ヒドロキシエチル澱粉などが挙げられるがこれらに限定されない。他の澱粉誘導体としては、微結晶性セルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースなどが挙げられるがこれらに限定されない。有利なことに、増量剤はデキストラン又はPVPであってもよく、好ましくは、デキストランであってもよい。本発明は、少なくとも2種類の増量剤の組み合わせについても検討している。増量剤は、免疫原性組成物及びワクチン組成物のT’g値を増大させ、凍結中により高い温度を使用できるようにする。「T’g値」は、ガラス転移温度と定義されており、ガラス転移温度は、この温度を下回ると、凍結した組成物がガラス質になる温度に相当する。増量剤は、特に、水素結合を形成することなくパスティールの固体形態を保持することにより、本発明の凍結乾燥させたパスティール及びケークに認められる優れた様相に主に関与している。
【0075】
デキストランを増量剤として用いる場合、その分子量は、約5000Da〜約70000Da、好ましくは約10,000Da〜約40,000Daであってもよい。PVPを増量剤として用いる場合、その分子量は、約8,000Da〜約360,000Da、好ましくは約10,000Da〜約60,000Daであってもよい。
【0076】
マルトデキストリンを増量剤として用いる場合、そのデキストロース当量値(DE、澱粉ポリマー加水分解度の定量的尺度)は、約3〜約20、好ましくは約5〜約18、より好ましくは約10〜約15であってもよい。ヒドロキシエチル澱粉を増量剤として用いる場合、その分子量は、約70,000Da〜約450,000Da、好ましくは約130,000Da〜約200,000Daであってもよい。ヒドロキシエチル澱粉の置換度は、約0.4〜約0.7、好ましくは約0.4〜約0.6であってもよい。置換度は、グルコース1単位当たりのヒドロキシエチル基の数と定義されている。
【0077】
安定剤中には、不溶性の成分もあってもよい。しかし、可溶性の安定剤を得るために、(例えば、より可溶性の高い成分を選択することにより)類似成分との置き換えを適切に行うこと、及び/又は、安定剤中に存在する不溶性成分の総量(amounts)及び分量(quantities)を適合させることは、十分に当業者の技量範囲内である。成分の溶解度は、目視による溶解度試験で容易に確認できる。溶解度試験は、安定剤の全成分を約55℃にて添加するステップと、約30分間にわたって混合するステップを含む。およそ24時間後に、室温にて、かつ全く攪拌しない状態で、沈殿物の出現について安定剤を目視により確認することができる。安定剤が透明又は澄明であれば、安定剤の全成分は可溶性である。
【0078】
F2、F2B、F6B、F33、F37、A、H、K及びUと命名した、本発明の安定剤の具体的実施形態は、本明細書中の実施例に記載されている。
【0079】
本発明の安定剤は、約10℃〜約40℃、好ましくは約15℃〜約25℃の温度で保管可能である。
【0080】
本発明により、安定化させた免疫原性懸濁液又は溶液も提供される。これは、例えばパラミクソウイルスなどが挙げられるがこれに限定されない弱毒化生ウイルスを含む免疫原性懸濁液又は溶液を、本発明の安定剤と混合したものを含んでいる。イヌパラミクソウイルスは、中でも、イヌジステンパーウイルス(CDV)及びイヌパラインフルエンザ2型ウイルス(cPi2)を、いずれも弱毒化生ウイルスの形態で含むものである。
【0081】
本発明の有利な実施形態は、弱毒化生パラミクソウイルス、特にイヌパラミクソウイルスを包含するものである。イヌパラミクソウイルスは、パラミクソウイルス科のウイルスであり、この科にはイヌジステンパーウイルス(CDV)及びイヌパラインフルエンザ2型ウイルス(cPi2)が含まれている。イヌパラミクソウイルスは、肉食動物の多くの種、特にイヌなどの家畜動物、又はフェレット、ライオン、トラ及びヒョウなどの非家畜動物における、多種多様な疾患に関与している。
【0082】
本発明の安定化させた免疫原性懸濁液又は溶液においては、還元単糖の最終濃度は、約1%〜約5%w/v、有利には約1.5%〜約5%w/v、より有利には約1.5%〜約4%w/v、好ましくは約2.5%〜約3%w/vである。
【0083】
本発明との関連においては、「最終濃度」は、安定化させた免疫原性懸濁液又は溶液における化合物の濃度を意味する。
【0084】
本発明の安定化させた免疫原性懸濁液又は溶液は、最終濃度が約0.1%〜約0.3%w/v(最終)、具体的には約0.1%〜約0.25%w/v、より具体的には約0.2%w/vの酸性抗酸化化合物を含むことができる。
【0085】
安定化させた免疫原性懸濁液又は溶液が少なくとも1種類の増量剤を含む場合、増量剤の最終濃度は、約0.5%〜約7.5%w/v、有利には約1.5%〜約5%w/vである。
【0086】
安定化させた免疫原性懸濁液又は溶液が少なくとも1種類の還元単糖及び少なくとも1種類の糖アルコールを含む場合、還元単糖の最終濃度は、約1%〜約5%w/v、有利には約1.5%〜約5%w/v、より有利には約1.5%〜約4%w/v、好ましくは約2.5%〜約3%w/vであり、糖アルコールの最終濃度は、約0.5%〜約5%w/v、有利には約1.5%〜約3%w/vである(ただし、還元単糖と糖アルコールの混合物の最終濃度は、約7.5%w/v以下であること、有利には約5%w/v以下であることを条件とする)。
【0087】
安定化させた免疫原性懸濁液又は溶液が少なくとも1種類の還元単糖及び少なくとも1種類の非還元オリゴ糖を含む場合、還元単糖の最終濃度は、約1%〜約5%w/v、有利には約1.5%〜約5%w/v、より有利には約1.5%〜約4%w/v、好ましくは約2.5%〜約3%w/vであり、非還元オリゴ糖の最終濃度は、約0.5%〜約5%w/v、有利には約0.5%〜約2.5%w/vである(ただし、還元単糖と非還元オリゴ糖の混合物の最終濃度は、約7.5%w/v以下であること、有利には約5%w/v以下であることを条件とする)。
【0088】
安定化させた免疫原性懸濁液又は溶液が少なくとも1種類の還元単糖、少なくとも1種類の非還元オリゴ糖及び少なくとも1種類の糖アルコールを含む場合、還元単糖の最終濃度は、約1%〜約5%w/v、有利には約1.5%〜約5%w/v、より有利には約1.5%〜約4%w/v、好ましくは約2.5%〜約3%w/vであり、非還元オリゴ糖の最終濃度は、約0.5%〜約5%w/v、有利には約0.5%〜約2.5%w/vであり、糖アルコールの最終濃度は、約0.5%〜約5%w/v、有利には約1.5%〜約3%w/vである(ただし、還元単糖、非還元オリゴ糖、及び糖アルコールの混合物の最終濃度は、約12.5%w/v以下であること、有利には約10%w/v以下であること、より有利には約7.5%w/v以下であることを条件とする)。
【0089】
いくつかの実施形態では、安定剤であるF2、F2B、F6B、F33、F37、A、H、K又はUが、弱毒化生ウイルスを含む免疫原性懸濁液若しくは溶液、又は多価免疫原性懸濁液若しくは溶液と混合されている。1容量の安定剤F2、F2B、F6B、F33、F37、A、H、K又はUと、弱毒化生ウイルスを含む1容量の免疫原性懸濁液若しくは溶液、又は弱毒化生ウイルスを含む1容量の多価免疫原性懸濁液若しくは溶液とが混合されることが好ましい。安定化させた懸濁液又は溶液におけるそれらの最終濃度は、初期濃度の約半分であることが好ましい。
【0090】
弱毒化生ワクチン又は免疫原性組成物には、以下の利点がある:低用量での投与が可能である、特に自己複製するものであれば、なおさらである;対象において天然/野生型感染症に酷似した症状を呈する、及び、想定される免疫学的に重要な抗原の全てを、同時に、すなわち、一回の投与で、対象に提供する。
【0091】
弱毒化した生存微生物を主成分とする免疫原性組成物又はワクチン組成物には、高効果型の免疫応答を誘導する能力があることが、一般に認められている。そのような免疫原性組成物又はワクチン組成物には、ひとたび宿主動物に免疫が付与されると、宿主内への病原体の侵入によって初期の細胞性又は体液性免疫の加速度的な復帰が誘導され、これにより、感染の程度が臨床的に有意なものとなる前に、病原生物のさらなる成長を抑制できるという利点がある。死滅病原体を主成分とする免疫原性組成物又はワクチン組成物(死菌ワクチン)では、このタイプの応答が得られない、又は得られる可能性が低いことが、当該技術において一般に認められている。しかし、生存病原体を含む免疫原性組成物又はワクチン組成物は、その弱毒化の程度によっては、免疫を付与された宿主が、免疫付与時に、予防するつもりの疾病と接触するかもしれないという危険がある。したがって、生存病原体の免疫的特徴を有してはいるが、対象への投与時に望ましくない副作用を引き起こす可能性のない免疫原性組成物又はワクチン組成物が、非常に望ましいであろう。
【0092】
弱毒化生存病原体は、単一ヌクレオチド変化、部位特異的突然変異、挿入、置換、欠失、又は再配列を含む幅広い範囲の突然変異を組み込むことによって、作製可能である。こうした突然変異は、その突然変異の性質によっては、病原体ゲノムの小さな断片、例えば、15〜30個のヌクレオチドに、又は病原体ゲノムの大きな断片、例えば、50〜1000個のヌクレオチドに、影響を及ぼす場合がある。例えば、その活性を除去する又は損ねるために、病原体の非コーディング調節領域又は要素の上流又は下流に突然変異を導入することが可能であり、それによって、弱毒化された表現型が得られる。
【0093】
病原体ゲノムの複製のダウンレギュレーション、及び/又は病原体ゲノムの転写のダウンレギュレーションが生じる可能性のある、病原体ゲノムの非コーディング調節領域の突然変異によって、複製工程が一巡するたびに欠陥病原体が作製される可能性がある;すなわち、完全な感染力をもつ病原体に必要なゲノム領域又は断片の総数よりも少ない数のゲノム領域又は断片を含む病原体である。したがって、そうした変容病原体は弱毒化された特徴を示すと思われる。なぜなら、そうした病原体によって、野生型病原体よりもさらに欠陥のある病原体が、複製工程が一巡するたびに作製されるからである。しかし工程が一巡するたびに合成されるタンパク質、抗原、又は免疫原の量は、野生型病原体も欠陥病原体も同様であるため、そのような弱毒化病原体は、対象中で良好な免疫応答を誘導できる可能性が高い。
【0094】
病原体の遺伝子が構造タンパク質をコードする場合、例えば、ウイルス、カプシド、マトリックス、表面又はエンベロープタンパク質などの病原体の場合、突然変異した病原体が、弱毒化された特徴、例えば、症状が出ない程度の感染症をもたらすような力価を示すように、複製中に作製される粒子の数は減少する。例えば、ウイルスカプシドの発現が減少すると、複製中にパッケージングされたヌクレオカプシドの数が減少する。その一方、エンベロープタンパク質の発現が減少すると、子孫ウイルス粒子の数及び/又は感染力が低下する場合がある。あるいは、複製に必要なウイルス酵素、例えば、ポリメラーゼ、レプリカーゼ、ヘリカーゼなどの発現が減少すると、複製中に作製された子孫ゲノムの数が減少する。複製中に作製された感染性粒子の数が減少するため、変容したウイルスは弱毒化された特徴を示す。しかし、作製された抗原性ウイルス粒子の数は、概して、対象中で活発な免疫応答を誘導するには十分であろう。
【0095】
弱毒化病原体を設計する代替的な方法は、突然変異の導入を伴うものであり、かかる突然変異の導入としては、病原体の1以上のタンパク質に対する1以上のアミノ酸残基及び/又はエピトープの挿入、欠失又は置換などが挙げられるが、これらに限定されない。これは、適切な突然変異を病原体の対応する遺伝子配列に工学的に組み込むことにより、容易に達成可能である。複製において修飾又は減少が生じるように病原体のタンパク質の活性を変えるようないかなる変化も、本発明に包含される。
【0096】
例えば、弱毒化ウイルスとの関連においては、弱毒化株を作製するために、宿主細胞受容体へのウイルスの付着及びその後の感染を妨げはするが完全に無にするわけではない突然変異を、処理に関与するウイルス表面抗原又はウイルスプロテアーゼに工学的に組み込むことができる。宿主細胞受容体に対するウイルス抗原の結合親和力を妨げる又はかかる親和力を低下させる、1以上のアミノ酸又はエピトープの挿入、置換又は欠失が含まれるように、ウイルス表面抗原又は毒性因子を修飾することができる。このアプローチは、さらに利点を提供するものである。なぜなら、外来又は異種エピトープを発現し、弱毒化された特徴も示すキメラウイルスを作製することができるからである。そうしたウイルスは、組換え生ワクチンとして使用するのに理想的な候補物質である。
【0097】
いずれかのウイルス酵素に工学的に組み込まれる突然変異としては、酵素の活性部位のアミノ酸配列における挿入、欠失及び置換などが挙げられるが、これらに限定されない。例を挙げると、基質に対する結合親和力が低下するように、酵素の結合部位を変えることが可能であり、その結果として、その酵素は特異性及び/又は有効性が低下する。例えば、全てのポリメラーゼタンパク質に温度感受性突然変異が存在するため、選択の対象はウイルスポリメラーゼ複合体となる。したがって、弱毒化ウイルス株が作製されるように、そのような温度感受性に関係するアミノ酸の位置に導入される変化を、ウイルスポリメラーゼ遺伝子に工学的に組み込むことができる。
【0098】
CDVは、直径が約100〜300nmで、麻疹ウイルス属に属する、エンベロープをもつ一本鎖RNAウイルスである。CDVウイルス粒子のコアには、ウイルスRNAと密接に関連する核タンパク質(NP)ペプチドが含まれている。第二のコアペプチドは、リンタンパク質(P)である。CDVのエンベロープには、3つのペプチド、Mタンパク質(マトリックスタンパク質)、及び2種類の糖タンパク質が含まれている。かかる糖タンパク質とは、ヘマグルチニン糖タンパク質(H)及び融合(F)糖タンパク質である。融合糖タンパク質は、F及びFと称されるより小さなサブユニットに分解される。Hタンパク質は、主として標的細胞へのウイルス吸着に関与し、融合糖タンパク質は、細胞間融合に関与する。今日まで、既知のジステンパーウイルス単離株は全て、これらの共通のウイルスポリペプチドを含んでいる。イヌへの感染経路は、感染性エアロゾル液滴によるものであり、ウイルスの伝染は、咳、くしゃみ、及び温暖で湿度のある、閉ざされた環境での厳重な監禁状態により促進される。ウイルス感染は、まず上部口鼻管の気道上皮で始まり、その後、深部肺実質へと広がっていくことが、研究により示唆されている(Gorham "Canine Distemper", (1960) Advance Veterinary Science, Brandley and Jungher Editors, 6: 288-315)。
【0099】
扁桃腺の気道上皮中、又はそれに沿った位置にある組織マクロファージ及び単球は、最初にCDVを取り込んで複製する細胞型だと思われる。かかるウイルスはその後血流に入り、遠くのリンパ細網組織へと広がっていく。これは、ウイルス血症によるものであり、最初の感染から2〜4日後のいずれの時点でも生じる。感染から8〜9日の間に、ウイルスの拡大はリンパ細網組織を超えて、上皮組織及び間葉組織にまで及んでいく(Appel, (1969) Am. J. Vet. Res. 30, 1167-1182)。ウイルス抗原に対する特異的な宿主免疫応答が、疾患によりもたらされる結果に影響するのは、ウイルス感染のこの段階である。急性で致命的な型の疾患には、ウイルスが体中のほぼ全ての組織に広がるという特徴がある。感染した対象のあらゆる排泄物及び分泌物にウイルスが見つかり、免疫蛍光法又は抗原追跡技術を用いることにより、イヌの体内のほぼ全ての細胞型で、抗原の存在を観察することができる。こうした動物の大部分にとっては、最も可能性の高い死因は劇症致死性神経障害及び/又は脳炎である。
【0100】
CDVに感染したイヌの中には、臨床的に疾患の進行が遅れているもの、及び免疫応答がゆるやかに回復しているものがある。臨床的兆候が存在する場合、それは疾患の初期にはかすかなものであり、中枢神経系(CNS)中でのウイルスの存続を反映している。その後のCNS疾患における発症状況は、様々である。CDVに感染したイヌの多くは、基本的に疾患の明白な兆候を示さず、無症状の、臨床的に健常なイヌと認識される。活動性感染にかかったイヌで、最終的にCDV感染から回復したイヌには、感染後6日目若しくは7日、又はそれに近い時期に、自由に循環する抗ウイルス抗体が認められることがわかっている(Krakowka, et al., (1975) J. Infect. Dis. 132, 384-392)。回復期の初期には、力価は高いレベルに急上昇する。
【0101】
CDVに急性感染したイヌは、様々な程度の意欲減退、食欲不振及び発熱を示す。皮膚については、水分の喪失、乾燥による肌荒れ、及び弾力の喪失が、様々な程度で見られる場合がある。こうした動物の一部は、羞明及び粘液膿性の眼漏/鼻汁という症状を示す。断続的な下痢は、共通する臨床的兆候である。前記疾患のこの急性ウイルス血症期には、ウイルスはあらゆる分泌物及び排泄物中に流出する。疾患が進行するにつれて肺炎を発症する場合があり、この肺炎は、二次的侵入細菌によるものであることが多い。疾患のこの段階のイヌは、二次感染の程度又は量によって、中程度から重度のリンパ球減少を示す。急性感染したイヌには、神経的兆候のほぼ全ての組み合わせが見られるが、最もよく見られるものとして、小発作又は大発作がある。こうした痙攣性症状は、時間の経過と共に、頻度を増しながら、発生する。
【0102】
イヌジステンパーの第二の神経学的形態には、老犬脳炎(ODE)と共に生じるもの、又は、無症候性の感染症になって外見上は回復した後に生じるものがある。CNSの兆候は極めて多様な形をとって出現する場合があり、脳腫瘍、頭部外傷、細菌性髄膜炎、水頭症、及び脊髄椎間板疾患と誤診する恐れがある。イヌにおけるCDV感染の主な非神経性兆候は、CDV関連性免疫抑制である(Krakowka, et al., (1980) Am. J. Vet. Res. 41, 284-292)。イヌジステンパーウイルス感染症の兆候の多くは、この衰弱した動物の体内で生じている、同時に発生した二次感染プロセスに起因している。
【0103】
イヌにおけるこの疾患は、肺炎を起こす細菌種などの細菌性病原体とも関連している場合がある。前記肺炎を起こす細菌種としては、気管支敗血症菌(Bordetella bronchiseptica)、パスツレラ(Pasteurella)種、ブドウ球菌(Staphylococcus)種及び連鎖球菌(Streptococcus)種などが挙げられるが、これらに限定されない。これらの細菌は、CDVに感染したイヌで臨床的に認められる化膿性結膜炎、鼻炎、気管支肺炎に関与している。主として呼吸器型の混合ウイルス感染も、よく見られる。イヌアデノウイルス2型感染に加えて、レオウイルス、イヌパラインフルエンザウイルス、及びおそらくはイヌヘルペスウイルスなどの他のウイルスは全て、二重又は多重混合感染に関与している可能性がある。
【0104】
cPi2は、イヌに最もよく見られるウイルス性疾患の1つである呼吸器疾患を誘発するRNAウイルスである。パラインフルエンザウイルス、イヌアデノウイルス2型及び気管支敗血症菌が組み合わさって同時に発症すると、「犬小屋咳」になる。cPi2は、気管気管支炎も引き起こし、気管気管支炎から滲出性肺炎になる動物もいる。咳の兆候は、ウイルスへの暴露後7〜9日で現れる。二次感染が起こらなければ、臨床的兆候は穏やかなもので、持続する期間も短い。
【0105】
cPi2は、球状のエンベロープをもつウイルスで、平均直径は150〜200nmであり、棘状の糖タンパク質に覆われた脂質二重層に囲まれたらせん状のヌクレオカプシドを備えている。各ウイルス粒子は、核タンパク質(NP)、リンタンパク質(P)及び巨大(L)タンパク質を備えた、一本鎖の、分節のない、マイナス鎖RNAゲノムを含んでいる。cPi2の感染は、感染性呼吸飛沫核を吸入することにより生じる。鼻部及び鼻咽頭部は、感染の原発部位である。宿主細胞中のノイラミン酸受容体と特異的に化合する、ヘマグルチニン−ノイラミニダーゼタンパク質を介して、ウイルスが最初にこうした部位の繊毛上皮細胞に付着することにより、感染が始まる。その後、ウイルスは、F1及びF2受容体の媒介による細胞膜との融合を通じて細胞内に移行する。ウイルスは増殖し、細胞内及び細胞外から他の細胞に侵入する。ウイルスの増殖は、気管気管支組織全体で起こり、粘液の産生を増大させる。
【0106】
喉頭気管炎は、喉頭及び気管の炎症であり、イヌが発症した場合には、一般に「犬小屋咳」として知られているものである。主な症状は咳であって、短くて乾いた「咳(hack)」、又は一連のそのような咳が認められる。最も重篤な場合は、咳は発作性のものとなることがあり、感染が気道全体に及んで、肺炎を起こす場合が多い。かかる咳には、深い咳、持続的な咳、乾性咳嗽という特徴もあり、流涙及び鼻漏を伴うのが一般的である。体温は平熱の場合もあるが、通常は上昇している。疾患の発症は突発的である可能性及び前兆なしで起こる可能性がある。かかる疾患は伝染性が非常に強いため、集団全体への感染を防ぐには、感染したイヌを隔離すべきである。かかる疾患は、犬舎の所有者に多大な経済的損失を与え、通常は致死性ではないものの、イヌをかなり衰弱させて、他の疾患からの影響が深刻なものになる場合がある。
【0107】
生cPi2ウイルスと、CDV、イヌアデノウイルス2型(CAV2)及びイヌパルボウイルス(CPV)などの他のウイルスを、両方のウイルスが非病原性となるまで、すなわち、ウイルスが不活化される又は弱毒化されるまで、動物組織培養物中で増殖させることができる。cPi2ウイルスは、例えば、鳥胚、アヒル胚、ブタ腎臓、ブタ精巣、ウシ胎仔腎臓、ネコ腎臓、イヌ腎臓、及びサル腎臓などの、多岐にわたる組織培養系で、並びに、例えば、Madin Darbyウシ腎臓(MDBK)、Madin Darbyイヌ腎臓(MDCK)及びSerum Instituteウサギ角膜(SIRC)などの株化細胞で増殖可能である。
【0108】
例えば、イヌアデノウイルス2型(CAV2)を増殖させるには、腎臓組織培養物、特にウシ及びイヌに由来するものが好ましい。というのは、CAV2は、他の動物の組織培養系では、cPi2ウイルスほど都合よく複製が行われないためである。ウイルスが免疫原性を失うことなく非病原性となるまで感受性組織培養物中で十分な数の継代を行うことが可能な最終希釈継代法(terminal dilution passage techniques)を含む、標準的な連続継代により、各ウイルスの弱毒化を完成させることができる。そこから調製される免疫原、免疫原性組成物、又は免疫原性懸濁液若しくは溶液は、通常は毒性物質によって生じる臨床症状を有意とされる程度までは生じさせることなく、疾患に感受性を有するイヌにおいて免疫応答を刺激することができる。上述のものと同じ組織又は異なる組織中でも、増殖させることができる。
【0109】
継代間隔は、継代と継代との間にウイルスが十分に複製可能なものでなくてはならず、インキュベーション温度は、約30℃〜約38℃に維持されることが好ましい。最適継代間隔は、具体的な培養系及び使用される温度によって異なる。いずれにしても、ウイルスの十分な複製が行われたかどうかは、特にcPi2ウイルスに有用な、Shelokov, A. (1958) Proc. Soc. Exp. Biol. Med. 97, 802に記載の赤血球吸着法などの標準的な技法により、又は細胞変性の観察により、例えば、インキュベーションを継続しながら著しい細胞変性作用を観察できる時点より前のある特定の継代中にウイルスを増殖させることなどにより、容易に確認できる。
【0110】
有利な増殖方法は、イヌ腎臓細胞、特に連続MDCK細胞株を利用するものである。例えば、免疫原又はワクチンという目的のためには、ウイルスのイヌ腎臓組織培養物を介しての単離から少なくとも約15回、好ましくは約20〜約45回の継代を、約3日間隔で、約30〜約38℃というインキュベーション温度で行うことができる。好ましい免疫応答を、それを必要とする対象において生起させるのに役立つことから、高度継代材料を使うことが好ましい。
【0111】
免疫原性組成物又はワクチン組成物の調製においては、培養した哺乳動物細胞中で従来のウイルス増殖条件にて毒性CDVを増殖させることができる。宿主細胞を、細胞の植え付け時にウイルスと共に播種してもよく、又は、細胞単層が90〜100%コンフルエントの状態であるときに交換用のCDV含有培地と共に播種してもよい。感染の多重度(MOI)比は、約0.001〜約0.05、好ましくは約0.01であってもよい。ウイルスを作製するために、以下のものを用いることができる:例えば、イーグルの最小必須培地(Eagle's Minimum Essential Medium)、ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)、イスコブ改変ダルベッコ培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)、ハムのF12培地、F15培地、RPMI1640培地などが挙げられるが、それらに限定されない適切な哺乳動物細胞増殖培地であって、ウシ胎仔血清、ウシ血清、ウマ血清、イヌ血清などの動物血清を、約0%〜約10%含み、L−グルタミン及びその他の必須及び非必須アミノ酸などのサプリメント、ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)、イーグル塩類溶液、ピルビン酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、インシュリン、トランスフェリン、並びに、ゲンタマイシン、ペニシリン、ストレプトマイシン、ポリミキシンB、アンフォテリシン及びファンギゾン(Fungizone)(登録商標)などが挙げられるが、それらに限定されない抗生物質及び抗真菌薬を含むもの。無血清細胞培養培地も、本発明に包含される。
【0112】
播種後約2〜約7日間、感染細胞培養物を約35℃〜約40℃の温度範囲で維持し、その時点でウイルスを回収することができる。感染培養物を細胞増殖培地でインキュベートしてもよく、かかる培養物をさらに2〜5日間インキュベートした後に回収してもよい。ウイルス液を回収して滅菌容器に入れ、濾過により清澄化してもよい。排除限界となる粒径が10ダルトンのフィルターを用いた、従来の限外濾過技術(例えば、Millipore社製のPellicon systems)を利用して、ウイルス液をさらに濃縮することができる。
【0113】
本発明の安定剤と混合可能な他の弱毒化生ウイルスとしては、以下のものが挙げられるが、それらに限定されない:狂犬病ウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、流行性耳下腺炎ウイルス、イヌアデノウイルス2型(CAV2)などのアデノウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、エプスタイン・バーウイルス、ライノウイルス、ワクシニアウイルス、ブタ痘、アライグマ痘などのポックスウイルス、鶏痘、カナリア痘、ダブポックス、ピジョンポックスなどのアビポックスウイルス、ポリオウイルス、コクサッキーウイルス、エコーウイルス、コロナウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、水痘疱疹ウイルス、ヘルペスウイルス(ヒト及び動物)、単純ヘルペスウイルス、イヌパルボウイルス(CPV)などのパルボウイルス、サイトメガロウイルス、イヌ伝染性肝炎ウイルスなどの肝炎ウイルス、ヒトパピローマウイルス、セムリキ森林熱ウイルス、シンドビスウイルス、ロスリバーウイルス、東部ウマ脳炎ウイルス、西部ウマ脳炎ウイルス、ベネズエラウマ脳炎ウイルス、オニョンニョンウイルスなどのアルファウイルス、デング熱ウイルス及び西ナイルウイルスなどのフラビウイルス、ブニヤウイルス、アレナウイルス、ロタウイルス、オルソヘパドナウイルス及びアビヘパドナウイルスなどのヘパドナウイルス、フィロウイルス、ブタ内在性レトロウイルスなどのレトロウイルス、HTLV−1、HTLV−2、FeLV、BLV、MLV、MMSV、メイソン・ファイザーサルウイルス、HIV−1、HIV−2、FIV、SIV、BIVなどのレンチウイルス、ネコカリシウイルス、ネコ汎白血球減少症ウイルス、ネコ伝染性腹膜炎ウイルス、ネコ鼻気管炎ウイルス、TGEウイルス(ブタ)及び口蹄疫ウイルス。
【0114】
例えば、イヌパラミクソウイルスを含む免疫原性組成物又は懸濁液又は溶液を、本発明の安定剤と混合して、安定化させた免疫原性懸濁液又は溶液を作製する。1容量のイヌパラミクソウイルス懸濁液又は溶液を、1容量の安定剤と混合することが好ましい。
【0115】
本発明の安定剤を用いて多価免疫原性懸濁液又は溶液を安定化させることも可能であり、かかる多価免疫原性懸濁液又は溶液は、例えば、イヌパラミクソウイルス免疫原性懸濁液又は溶液、及び、パラミクソウイルス以外の病原体に起源を有する又は由来する少なくとも1種類の活性免疫原性成分を含むことができる。本明細書にて定義する活性免疫原性成分は、弱毒化生ウイルス、細菌、真菌又は寄生虫などの、弱毒化生存病原体を含むことができる。しかし、活性免疫原性成分は、死滅ウイルス、組換え異種免疫原、抗原、免疫原性サブユニット(例えば、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、エピトープ、ハプテン)、又は、本明細書に記載した1以上の病原体に由来する又は起源を有する免疫原又は抗原のエピトープも含むことも可能であり、それらを、ウイルスベクター、細菌ベクター、プラスミドベクターなどから発現させることができる。
【0116】
本発明の活性免疫原性成分は、狂犬病ウイルス、イヌアデノウイルス2型(CAV2)、イヌヘルペスウイルス(CHV)、イヌパルボウイルス(CPV)、イヌコロナウイルス、レプトスピラカニコーラ(Leptospira canicola)、レプトスピラ イクテロヘモリジア(Leptospira icterohaemorragiae)、レプトスピラグリポティフォーサ(Leptospira grippotyphosa)、ボレリア ブルグドフェリ(Borrelia burgdorferi)、気管支敗血症菌、及びそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されないイヌ病原体から選択される1以上の免疫原を含むことができる。活性免疫原性成分は、CDV由来のHA、F、NP遺伝子、CPV由来のカプシド遺伝子、イヌコロナウイルス由来のスパイク、M、N遺伝子、cPi2由来のHN及びF遺伝子、レプトスピラ属由来の遺伝子、ボルデテラ属由来の遺伝子、ボレリア属由来の遺伝子、及び、中でもイヌヘルペスウイルス由来のgB、gC及びgD遺伝子を含むことができる。これらの成分は、これらの病原体により引き起こされる疾患からイヌを防御するための免疫原性組成物又はワクチン組成物として有用である可能性がある。
【0117】
イヌアデノウイルス2型(CAV2)は、広範囲に広まり、イヌへの伝染性が高く、風邪に似た症状を呈する。一般に、かかる伝染病の最初の兆候は発熱であり、この発熱は、通常は1〜2日で収まる。感染したイヌには、扁桃腺炎、腹部圧痛、肝臓肥大、嘔吐及び下痢が見られる場合がある。急性疾患は、通常は致命的である。CAV2を不活化又は弱毒化し、CDV(及び/又はcPi2)と組み合わせて、多価ワクチンを作製してもよい。あるいは、CAV2の免疫原若しくは抗原、又はCAV2免疫原のエピトープ、例えば、カプシド、マトリックス、又はヘキソンタンパク質を用いることができる。
【0118】
イヌパルボウイルス(CPV)は、若齢のイヌにおいて、嘔吐、下痢、胃腸炎、心筋炎及び肝炎を引き起こすことがある、よく見られる腸内ウイルスである。イヌの間で広範囲に広まっているのが判明している。不活化CPV、弱毒化生CPVとして、又はCPV免疫原、抗原、若しくはVP1、VP2(カプシド)遺伝子産物などのCPV免疫原のエピトープとして、CPVを本発明の免疫原性組成物、懸濁液又は溶液に入れておくことができる。
【0119】
安定化させた本発明の免疫原性組成物、懸濁液又は溶液中で、イヌによく見られる2種類の細菌感染症を、その弱毒化した形態で組み合わせることもできる;その2種類とは、レプトスピラカニコーラとレプトスピラ イクテロヘモリジアである。レプト感染症は、イヌに、特に、CDV、cPi2に感染しているイヌに、又は、ジステンパー若しくは犬小屋咳にかかっているイヌによく観察されるようなウイルスの組み合わせに感染しているイヌに、よく見られる感染症であり、そのため、安定化させた本発明の免疫原性組成物、懸濁液又は溶液中にそれらを入れることは、かなり有用である。
【0120】
本発明の組成物及び方法に有用な他の活性免疫原性成分は、ネズミチフス菌、サルモネラ腸炎菌、伝染性気管支炎ウイルス(IBV)、ニューカッスル病ウイルス(NDV)、軟卵症候群ウイルス(EDS)、伝染性ファブリーキウス嚢病ウイルス(IBDV)、七面鳥ウイルス、トリインフルエンザウイルス、マレック病ウイルス、伝染性喉頭気管炎ウイルス、トリ伝染性気管支炎ウイルスなどのヘルペスウイルス、トリレオウイルス、アビポックス、鶏痘、カナリア痘、ピジョンポックス、ウズラ痘及びダブポックスなどのポックスウイルス、トリポリオーマウイルス、トリ肺炎ウイルス、トリ鼻気管炎ウイルス、トリ細網内皮症ウイルス、トリレトロウイルス、トリ内在性ウイルス、トリ赤芽球症ウイルス、トリ肝炎ウイルス、トリ貧血ウイルス、トリ腸炎ウイルス、パチェコ病ウイルス、トリ白血病ウイルス、トリパルボウイルス、トリロタウイルス、トリ白血症(leukosis)ウイルス、トリ筋腱膜線維肉腫ウイルス、トリ骨髄芽球症ウイルス、トリ骨髄芽球症関連ウイルス、トリ骨髄球膜症ウイルス、トリ肉腫ウイルス、トリ脾臓壊死ウイルスなどを含むがそれらに限定されないトリ病原体、及びそれらの組み合わせから選択される1以上の免疫原を含むことができる。
【0121】
具体的な免疫原については、活性免疫原性成分は、ニューカッスル病ウイルスのHN及びF遺伝子、伝染性ファブリーキウス嚢病ウイルス由来のポリタンパク質及びVP2遺伝子、伝染性気管支炎ウイルス由来のS及びN遺伝子、並びにマレック病ウイルス由来のgB及びgD遺伝子であってもよい。こうした病原体により引き起こされる疾患からトリを防御するための免疫原性組成物又はワクチン組成物として、これらの成分を使うことができる。
【0122】
あるいは、活性免疫原性成分は、ネコヘルペスウイルス(FHV)、ネコカリシウイルス(FCV)、ネコ白血病ウイルス(FeLV)ネコ伝染性腹膜炎ウイルス、ネコ汎白血球減少症ウイルス、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、狂犬病ウイルスなどを含むがこれらに限定されないネコ病原体、及びそれらの組み合わせに由来する1以上の免疫原を含んでいる。
【0123】
活性免疫原性成分としては、ネコヘルペスウイルス由来のgB、gC及びgD遺伝子、FeLV由来のenv及びgag/pro遺伝子、FIVウイルス由来のenv、gag/pol及びtat遺伝子、ネコカリシウイルス由来のカプシド遺伝子、S修飾遺伝子、ネコ伝染性腹膜炎ウイルス由来のM及びN遺伝子、並びにネコパルボウイルス由来のVP2遺伝子も挙げることができる。これらの成分は、こうした病原体により引き起こされる疾患からネコを防御するための免疫原性組成物又はワクチン組成物として、有用である可能性がある。
【0124】
活性免疫原性成分は、ウマヘルペスウイルス(1型又は4型)、ウマインフルエンザウイルス、ウマ脳脊髄炎ウイルス(EEV)、破傷風、西ナイルウイルスなどのウマ病原体又はそれらの組み合わせに由来する1以上の免疫原を含むことができる。
【0125】
活性免疫原性成分としては、ウマヘルペスウイルス1型由来のgB、gC、gD及び前初期遺伝子、ウマヘルペスウイルス4型由来のgB、gC、gD及び前初期遺伝子、ウマインフルエンザウイルス由来のHA、NA、M及びNP遺伝子、東部ウマ脳炎ウイルス由来の遺伝子、西部ウマ脳炎ウイルス由来の遺伝子、ベネズエラウマ脳炎ウイルス由来の遺伝子、西ナイルウイルス由来のprM―M−E遺伝子、ウマ動脈炎ウイルス由来の遺伝子も挙げることができるが、これらの配列に限定されない。これらの成分は、こうした病原体により引き起こされる疾患からウマを防御するための免疫原性組成物又はワクチン組成物として、有用である可能性がある。
【0126】
活性免疫原性成分は、狂犬病ウイルス、ウシロタウイルス、ウシパラインフルエンザウイルス3型(bCPI2−3)、ウシコロナウイルス、ウシウイルス性下痢ウイルス(BVDV)、口蹄疫ウイルス(FMDV)、ウシ呼吸器合胞体ウイルス(BRSV)、伝染性ウシ鼻気管炎ウイルス(IBR)、大腸菌、パスツレラムルトシダ(Pasteurella multocida)、パスツレラ ヘモリチカ(Pasteurella haemolytica)などのウシ病原体、及びそれらの組み合わせに由来する1以上の免疫原を含むことができる。
【0127】
活性免疫原性成分を、ウシヘルペスウイルス1型由来のgB、gC、gD及び前初期遺伝子、BRSV由来のF及びG遺伝子、ポリタンパク質、BVDV由来のE1、E2遺伝子、PI3ウイルス由来のHN及びF遺伝子、ロタウイルス由来の遺伝子から選択することもできる。これらの成分は、こうした病原体により引き起こされる疾患からウシを防御するための免疫原性組成物又はワクチン組成物として、有用である可能性がある。
【0128】
また、活性免疫原性成分は、ブタインフルエンザウイルス(SIV)、ブタサーコウイルス2型(PCV−2)、ブタ繁殖呼吸障害症候群ウイルス(PRRSV)、仮性狂犬病ウイルス(PRV)、ブタパルボウイルス(PPV)、ブタコレラウイルス(HCV)、FMDV、マイコプラズマハイオニューモニエ(Mycoplasma hyopneumoniae)、ブタ丹毒菌(Erysipelothrix rhusiopathiae)、パスツレラムルトシダ、気管支敗血症菌、大腸菌などが挙げられるがこれらに限定されないブタ病原体及びそれらの組み合わせに由来する1以上の免疫原を含むことができる。
【0129】
活性免疫原性成分としては、PRV由来のgB、gC、gD及び前初期遺伝子、ブタインフルエンザウイルス由来のHA、NA、M及びNP遺伝子、ポリタンパク質、ブタコレラウイルス由来のE1、E2、PCV2ウイルス由来のORF1及びORF2遺伝子、PRRSVウイルス由来のORF3、ORF4、ORF5、ORF6、若しくはORF7、又はマイコプラズマハイオニューモニエ由来の遺伝子も挙げることができる。これらの成分は、こうした病原体により引き起こされる疾患からブタを防御するための免疫原性組成物又はワクチン組成物として、有用である可能性がある。
【0130】
活性免疫原性成分は、中でも、HIV、HCV、HBV、HPV、EBV、HSV、CMV、HTLV、ハンタウイルス、エボラウイルス、マールブルグウイルス、リフトバレー熱ウイルス、ラッサウイルス及びインフルエンザウイルス、出血性腸炎ウイルス(HEV)、伝染性鼻気管炎ウイルス(IBRV)のようなRNA又はDNAウイルスなどの病原体中で発現するタンパク質をコードする配列を含むことができる。そのような免疫原を、こうした病原体により引き起こされる疾患からヒトなどの対象を防御するための免疫原性組成物又はワクチン組成物として、有利に用いることが可能である。
【0131】
活性免疫原性成分は、例えば、以下の病原性細菌及びそれらの抗原のいずれかであってもよい:中でも、アクチノバシラス プルロニューモニエ(Actinobacillus pleuropneumoniae)などのアクチノバシラス種、百日咳菌(Bordetella pertussis)、パラ百日咳菌(Bordetella parapertussis)、気管支敗血症菌、ボルデテラアビウム(Bordetella avium)、クラミジアトラコマチス(Chlamydia trachomatis)、クラミジア ニューモニエ(Chlamydia pneumoniae)、クラミジア シッタシ(Chlamydia psittaci)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)などのクレブシエラ種、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、マイコバクテリウム シュードツベルクローシス(Mycobacterium pseudotuberulosis)、マイコバクテリウム ニューモニエ(Mycobacterium pneumoniae)、A群ストレプトコッカス、ストレプトコッカス エキ(Streptococcus equi)、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)、ストレプトコッカス アガラクティエ(Streptococcus agalactiae)、化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)、緑色連鎖球菌(Streptococcus viridans)、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、エリジペロスリックス(Erysipelothrix)種、腸管毒素原性大腸菌、コレラ菌(Vibrio cholerae)、炭疽菌(Bacillus anthracis)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、ヘモフィルス ソムヌス(Haemophilus somnus)、ヘモフィルス パラスイス(Haemophilus parasuis)、サルモネラ(Salmonella)種、サルモネラ アゴナ(Salmonella agona)、サルモネラ ブロックリー(Salmonella blockley)、サルモネラ腸炎菌、サルモネラ ハダー(Salmonella hadar)、サルモネラ ハイデルベルグ(Salmonella Heidelberg)、サルモネラ モンテビデオ(Salmonella montevideo)、サルモネラ センフテンベルグ(Salmonella senftenberg)、サルモネラ コレラスイス(Salmonella cholerasuis)、リケッチア(Rickettsia)種、ヘリコバクター ピロリ(Helicobacter pylori)、ヘリコバクター フェリス(Helicobacter felis)、シゲラ(Shigella)種、リステリア(Listeria)種、レジオネラ ニューモニエ(Legionella pneumoniae)、シュードモナス(Pseudomonas)種、ボレリア(Borrelia)種、ボレリア ブルグドフェリ、髄膜炎菌(Neisseria meningitides)、クロストリジウム(Clostridium)種、クロストリジウム ディフィシレ(Clostridium difficile)、ウレアプラズマ ウレアリティカム(Ureaplasma urealyticum)、スタフィロコッカス(Staphylococcus)種、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、大便連鎖球菌(Enterococcus faecalis)、ペスト菌(Pasteurella pestis)、カンピロバクター(Campylobacter)種、カンピロバクター ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、トレポネーマ(Treponema)種、レプトスピラ(Leptospira)種、ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheria)、軟性下疳菌(Hemophilus ducreyi)、インフルエンザ菌(Hemophilus influenza)、エールリヒア(Erlichhia)種。
【0132】
活性免疫原性成分は、アスペルギルス フラバス(Aspergillus flavus)、アスペルギルス フミガーツス(Aspergillus fumigatis)、ペニシリウム(Penicillium)種、フサリウム(Fusarium)種、カンジダ トリコフィートン(Candida trichophyton)、カンジダ パラプシローシス(Candida parapsilosis)、カンジダ グラブラータ(Candida glabrata)、カンジダ ドゥブリニエンシス(Candida dubliniensis)、及びカンジダ アルビカンス(Candida albicans)などのカンジダ種、クモノスカビ(Rhizopus)種、クリプトコッカス ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)、クリプトコッカス グルビイ(Cryptococcus grubii), クリプトコッカス ガッティ(Cryptococcus gattii)などのクリプトコッカス種、パラコクシジオイデス ブラジリエンシス(Paracoccidiodes brasiliensis)、ヒストプラズマ カプスラーツム(Histoplasma capsulatum)などの真菌又はカビ、並びにその他の真菌及びカビに由来する場合もある。
【0133】
活性免疫原性成分は、中でも、プラスモディウム(Plasmodium)種、トリパノソーマ(Trypanosome)種、ジアルジア(Giardia)種、ウシマダニ(Boophilus)種、バベシア(Babesia)種、エントアメーバ(Entamoeba)種、アイメリア(Eimeria)種、リーシュマニア(Leishmania)種、住血吸虫(Schistosoma)種、ブルギア(Brugia)種、肝蛭(Fascida)種、ディロフィラリア(Dirofilaria)種、ブケレリア(Wuchereria)種、オンコセルカ(Onchocerea)種、トレポネーマ種、トキソプラズマ(Toxoplasma)種、クリプトコッカス種、コクシジウム(Coccidia)種、ヒストモナシス(Histomoniasis)種、ヘキサミタシス(Hexamitiasis)種、ジアルジア種;回虫(Ascaris)種、旋回毛虫(Trichinella)種などを含む線虫類;中でも、吸虫、条虫などの蠕虫類、並びに他の同様の病原性生物を含むがこれらに限定されない寄生種に由来する寄生虫抗原から選択することもできる。ウイルス、細菌、真菌、カビ、原生生物、線虫、及び蠕虫に由来する免疫原の調製方法は、当該技術で周知である。
【0134】
他の有用な免疫原としては、例えば、毒素、細胞毒素などの分泌抗原毒性因子の精製物が挙げられる。修飾により解毒された毒素抗原(トキソイド)は、水酸化アルミニウムなどのアジュバントと組み合わせて投与することが可能であり、毒素中和抗体の形成を促すのに用いることが可能である。免疫原として使用してもよい毒素の例としては、リポ多糖類などの細菌内毒素及び外毒素、易熱性エンテロトキシン(LT)、耐熱性エンテロトキシン(ST)を含むエンテロトキシン、ベロ毒素(VT)などが挙げられる。細菌外毒素免疫原は、周辺環境へと分泌される。また、細菌外毒素免疫原としては、例えば、ジフテリア毒素(コリネバクテリウムジフテリエ(Corynebacterium diphtheriae))、破傷風毒素(クロストリジウムテタニ(Clostridium tetani))、黄色ブドウ球菌が分泌するエンテロトキシン、ボツリヌス毒素(クロストリジウム ボツリヌム(Clostridium botulinum));及び神経毒など藻類により産生される毒素などが挙げられる。細菌の自己分解により放出される耐熱性内毒素としては、例えば、グラム陰性コレラ菌が放出するコレラ毒素、大腸菌などの腸内細菌が産生するコリシン(バクテリオシン)などが挙げられる。
【0135】
ウイルス、細菌、真菌などに由来する又は起源を有する免疫原を、適切な培養培地又は宿主細胞株を用いたインビトロでの培養方法で、及び当該技術の当業者に周知の従来の方法で、作製してもよい。例えば、MA−104細胞株などの適切な細胞株で、PRRSVを培養してもよい(中でも、米国特許第5587164号明細書;米国特許第5866401号明細書;米国特許第5840563号明細書;米国特許第6251404号明細書を参照のこと)。同様に、PK−15細胞株を用いてPCV−2を培養してもよく(米国特許第6391314号明細書を参照のこと)、卵上でSIVを培養してもよく(米国特許第6048537号明細書)、適切な培養培地で、マイコプラズマ ハイオニューモニエを培養してもよい(米国特許第5968525号明細書;米国特許第5338543号明細書;Ross R. F. et al., (1984) Am. J. Vet. Res. 45: 1899-1905)。有利なことに、米国特許第5178862号明細書に記載されているもののようなミンク肺細胞中でCDVを培養することが可能である。ウイルス由来免疫原の他の調製技法は当該技術において周知であり、例えば、Ulmer et al., Science 259: 1745 (1993);Male et al., Advanced Immunology, pages 14.1-14. 15, J.B. Lippincott Co., Philadelphia, Pa. (1989)に記載されている。
【0136】
抗原ペプチド配列を模倣する免疫原性合成ペプチドも、有用である。そのような免疫原を、例えばR. B. Merrifield, Science 85:2149- 2154 (1963)に記載の固相法を用いて合成してもよく、精製して、必要に応じて、ムラミールジペプチド(MDP)、ウシ血清アルブミン(BSA)、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)などのキャリアタンパク質に、グルタルアルデヒドなどの二官能性カップリング剤を用いて、カップリングさせてもよい。
【0137】
定義には、合成抗原も含まれており、例えば、ポリエピトープ、隣接エピトープ、及び他の組換え又は合成による抗原などが挙げられる。例えば、Bergmann et al. (1993) Eur. J. Immunol. 23, 2777-2781;Bergmann et al. (1996) J. Immunol. 157, 3242-3249;Suhrbier, A. (1997) Immunol. Cell Biol. 75, 402-408;Gardner et al. (1998) 12th World AIDS Conference, Geneva, Switzerland, Jun. 28-Jul. 3, 1998を参照のこと。本発明の目的上、免疫原性断片は、通常はその分子の少なくとも約3個のアミノ酸、好ましくは少なくとも約5個のアミノ酸、より好ましくは少なくとも約10〜15個のアミノ酸、最も好ましくは25個以上のアミノ酸を含むことができる。断片の長さに関する決定的な上限はなく、完全長に近いタンパク質配列を含むこと、さらにはかかるタンパク質の2つ以上の、又は少なくとも1つのエピトープを含む融合タンパク質を含むことさえ可能である。
【0138】
したがって、エピトープを発現する核酸の最小構造は、タンパク質又はポリタンパク質のエピトープ、免疫原、若しくは抗原をコードするヌクレオチドを含むことが可能である。全タンパク質又はポリタンパク質の断片をコードする核酸は、かかる全タンパク質又はポリタンパク質をコードする配列の、最少で約21個のヌクレオチド、有利には少なくとも約42個のヌクレオチド、好ましくは約57個、約87個、又は約150個の連続又は隣接ヌクレオチドを含むもの、又は基本的に前記ヌクレオチドからなるもの、又は前記ヌクレオチドからなるものであると、より有利である。オーバーラッピングペプチドライブラリー(Hemmer B. et al., (1998) Immunology Today 19(4), 163-168)の作製、ペプスキャン(Pepscan)(Geysen et al. (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81, 3998-4002; Geysen et al., (1985) Proc. Nat. Acad. Sci. USA 82, 178-182; Van der Zee R. et al., (1989) Eur. J. Immunol. 19, 43-47; Geysen H.M., (1990) Southeast Asian J. Trop. Med. Public Health 21, 523-533; MultipinO Peptide Synthesis Kits de Chiron)、及びアルゴリズム(De Groot A. et al., (1999) Nat. Biotechnol. 17, 533-561)などのエピトープ決定手順、及びPCT出願第PCT/US2004/022605号明細書におけるエピトープ決定手順は、その全てが参照によりその全体が本明細書に組み込まれており、本発明の実施の際には、過度の実験を行うことなく使用可能である。免疫原又は抗原のエピトープ決定方法、かかるエピトープをコードする核酸分子については、本明細書に引用された又は組み込まれた他の文書を参考にしてもよい。
【0139】
本発明においては、活性免疫原性成分は、治療剤、サイトカイン、毒素、免疫調節剤、タンパク質、ペプチド、抗体、抗体の抗原結合断片、アジュバント、又は、DNAによるコードが可能であって動物又は動物細胞若しくは組織への送達に望ましい、他のあらゆる分子も含むことができる。
【0140】
本発明では、アンチセンスRNA種、触媒RNA種、又は低分子干渉RNA種を、本発明の免疫原性組成物及びワクチン組成物に包含させることについても検討されており、かかる包含は、受容細胞に存在する、又は受容細胞に存在する可能性が高い、いかなる分子をも標的とすることができる。例としては、インターロイキン−6などの、細胞調節分子をコードするRNA種、ヒトパピローマウイルスなどの、癌の原因物質、酵素、ウイルスRNA及びHIV−1RNAなどの病原体由来RNAなどが挙げられるが、これらに限定されない。RNAの標的を、プロモーター又はエンハンサー領域などの非転写DNA配列とすること、又は、DNA合成に関与する酵素又はtRNA分子などが挙げられるがこれらに限定されない、受容細胞に存在するその他の分子とすることもできる。
【0141】
また、サイトカン及び免疫調節剤を、本発明の免疫原性組成物及びワクチン組成物中で共発現させることができる。例としては、IL−2、IL−4、TNF−α、GM−CSF、IL−10、IL−12、IGF−1、IFN−α、IFN−β、及びIFN−γなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0142】
特異的な配列モチーフ、例えばRGDモチーフを、ウイルスベクター又はプラスミドベクターのH−Iループに挿入して、その感染力を高めてもよい。この配列は、ある細胞外マトリックスと、インテグリンと称される細胞表面受容体のスーパーファミリーを備える接着タンパク質との相互作用に不可欠であることがわかっている。有利なことに、RGDモチーフの挿入は、免疫障害をもつ対象に有用である。特異的抗原若しくは免疫原又はその断片を、本明細書に記載されているようなベクターのいずれかにクローニングすることにより、組換えベクターを構築することができる。組換えベクターを用いて、免疫剤として使用するために脊椎動物の細胞を形質導入することができる。(例えば、参照により組み込まれる米国特許出願第10/424409号明細書を参照のこと)。
【0143】
好ましくは、抗原、免疫原及びエピトープなどの活性免疫原性成分をコードするコドンは、「最適化された」コドンである、すなわち、例えばCDV又はcPi2によって頻繁に利用されるコドンではなく、イヌ遺伝子中に頻繁に出現する、すなわち、高発現するコドンである。そうしたコドンの使用により、細胞中で活性免疫原性成分が効率的に発現するようになる。他の実施形態においては、例えば、活性免疫原性成分が細菌、酵母菌又は他の発現系で発現している場合、抗原又は免疫原が発現している生物中で高発現する遺伝子に好適なコドンを表すように、コドン使用パターンが変化する。多くの種の高発現遺伝子に関するコドン使用パターンは、文献により周知である(例えば、Nakamura et al., 1996;Wang et al, 1998; McEwan et al. 1998)。
【0144】
時には、適切な配向で制御配列に結合できるように、コーディング配列を修飾すること、すなわち、正しいリーディングフレームを維持することが、必要な場合もある。所望の活性免疫原性成分の突然変異体又は類似体を作製することが望ましい場合もある。タンパク質をコードする配列の一部の欠失、配列の挿入、及び/又は配列中の1以上のヌクレオチドの置換により、突然変異体又は類似体を作製することができる。部位特異的突然変異誘発法などヌクレオチド配列を修飾する技法は、例えば、上記Sambrook et al.;上記DNA Cloning;上記Nucleic Acid Hybridizationに記載されている。
【0145】
本発明の活性免疫原性成分として有用な免疫原は、内包物をもつベクターであってもよい。そうしたベクターとしては、以下のものが挙げられるが、これらに限定されない:核酸ベクター又はプラスミドなどのインビボ組換え発現ベクター(欧州特許出願公開第1001025号明細書;Chaudhuri P, (2001) Res. Vet. Sci. 70, 255-6);アデノウイルスベクター、鶏痘ベクター(米国特許第5174993号明細書;米国特許第5505941号明細書;及び米国特許第5766599号明細書)、カナリア痘ベクター(米国特許第5756103号明細書)などのポックスウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、アルファウイルスを主成分とするベクターなどがあるが、これらに限定されないウイルスベクター;真菌ベクター、又は細菌ベクター(大腸菌又はサルモネラ種)。本発明において有用なベクターの具体例は、本明細書に記載されている。
【0146】
ベクターは、ウイルスベクターであってもよく、有利には、少なくとも1種類の活性免疫原性成分、又はそのエピトープ、又はその断片を含むアビポックスベクターであってもよい。特に有利な実施形態においては、アビポックスベクターは、カナリア痘ベクター、有利には、ALVACなどの弱毒化カナリア痘ベクターである。弱毒化カナリア痘ウイルスは、米国特許第5756103号明細書(ALVAC)及び国際公開第01/05934号パンフレットに記載されている。アビポックスベクターは、鶏痘ベクター、有利には、TROVACなどの弱毒化鶏痘ベクターであってもよい。弱毒化鶏痘株TROVACに関する米国特許第5766599号明細書に対しても参照がなされている。これに関しては、VR−111というアクセス番号でATCCから入手可能なカナリア痘に対して参照がなされている。例えば、Merial社が販売しているDIFTOSEC CT株、Intervet社が販売しているNOBILISVARIOLEワクチンなど、多数の鶏痘ウイルスの免疫付与株も入手可能であり、また、弱毒化鶏痘株TROVACに関する米国特許第5766599号明細書に対しても参照がなされている。
【0147】
活性免疫原性成分を送達するのにも有用なウイルスベクターとしては、以下のものが挙げられる:ポックスウイルス、例えば、ワクシニアウイルス又は弱毒化ワクシニアウイルス(例えば、ニワトリ胚線維芽細胞上でのアンカラワクチン株の570回を超える継代を経て得られる、MVA、修飾アンカラ株;Stickl & Hochstein-Mintzel, (1971) Munch. Med. Wschr. 113, 1149-1153;Sutter et al. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 89, 10847-10851を参照のこと;ATCCVR−1508又はNYVACとして入手可能、米国特許第5494807号明細書を参照のこと、例えば、NYVACの構築について、コペンハーゲン株ワクシニアウイルスゲノムから削除された付加的なORFを備えたNYVACの変異体について、及びこの組換え体の部位への異種核酸コーディング配列の挿入について、また、適合するプロモーターの使用についても論じている米国特許第5494807号明細書の実施例1〜6を参照のこと;国際公開第96/40241号パンフレットも参照のこと)、アビポックスウイルス又は弱毒化アビポックスウイルス(例えば、カナリア痘、鶏痘、ダブポックス、牛痘、ピジョンポックス、ウズラ痘、ALVAC又はTROVAC;例えば、米国特許第5505941号明細書、米国特許第5494807号明細書を参照のこと)、ブタ痘、アライグマ痘、ラクダ痘、又は粘液腫症ウイルス。
【0148】
それらの組換え体を作製する方法及びそれらの組換え体を投与する方法に関する情報については、当業者は、本明細書に引用されている文書及び国際公開第90/12882号パンフレットを参照することができ、例えば、ワクシニアウイルスに関しては、特に米国特許第4769330号明細書、米国特許第4722848号明細書、米国特許第4603112号明細書、米国特許第5110587号明細書、米国特許第5494807号明細書、及び米国特許第5762938号明細書に対して言及がなされている;鶏痘に関しては、特に米国特許第5174993号明細書、米国特許第5505941号明細書、及び米国特許第5766599号明細書に対して言及がなされている;カナリア痘に関しては、特に米国特許第5756103号明細書に対して言及がなされている;ブタ痘に関しては、特に米国特許第5382425号明細書に対して言及がなされている;及びアライグマ痘に関しては、特に国際公開第00/03030号パンフレットに対して言及がなされている。
【0149】
発現ベクターがワクシニアウイルスの場合、免疫原、抗原、エピトープなどの活性免疫原性成分をコードする、発現させる単数又は複数の核酸の単数又は複数の挿入部位は、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子又は挿入部位、ヘマグルチニン(HA)遺伝子又は挿入部位、A型の封入体(ATI)をコードする領域であると有利である;本明細書に引用されている文書、特にワクシニアウイルスに関するものも参照のこと。カナリア痘の場合、単数又は複数の挿入部位は、ORFのC3、C5及び/又はC6であると有利である;本明細書に引用されている文書、特にカナリア痘ウイルスに関するものも参照のこと。鶏痘の場合、単数又は複数の挿入部位は、ORFのF7及び/又はF8であると有利である;本明細書に引用されている文書、特に鶏痘ウイルスに関するものも参照のこと。MVAウイルスの単数又は複数の挿入部位は、Carroll M. W. et al. (1997) Vaccine 15(4), 387-394;Stittelaar K.J. et al. (2000) J. Virol., 2000, 74(9), 4236-4243;Sutter G. et al. (1994) Vaccine 12(11), 1032-1040を含む各種刊行物の通りであると有利である;この点に関しては、完全MVAゲノムがAntoine G., (1998) Virology 244, 365-396に記載されており、それによって当業者が他の挿入部位又は他のプロモーターを使用できることも知られている。
【0150】
有利なことに、発現させる核酸を、特異的なポックスウイルスプロモーターの制御下で挿入することが可能であり、そうしたプロモーターとしては、特に、ワクシニアプロモーター7.5kDa(Cochran et al., (1985) J. Virology 54, 30-35)、ワクシニアプロモーターI3L(Riviere et al., (1992) J. Virology 66, 3424-3434)、ワクシニアプロモーターHA(Shida, (1986) Virology 150, 451-457)、ワクシニアプロモーター42K(Cooper J.A. et al, (1981) J. Virol. 37(1), 284-94)、牛痘プロモーターATI(Funahashi et al (1988) J. Gen. Virol. 69, 35-47)、ワクシニア11Kプロモーター(米国特許第5017487号明細書)、ワクシニアプロモーターH6(Taylor J. et al., (1988) Vaccine 6, 504-508; Guo P. et al. (1989) J. Virol. 63, 4189-4198; Perkus M. et al. (1989) J. Virol. 63, 3829-3836)、又は、合成ワクシニア若しくはポックスウイルスプロモーターなどが挙げられる。
【0151】
有利なことに、哺乳動物の免疫付与については、発現ベクターは、カナリア痘又は鶏痘ベクターであってもよい。このようにして、生産的複製が限定された又は皆無の異種タンパク質の発現が可能になる。
【0152】
活性免疫原性成分の送達及び発現に有用な別のウイルスベクターは、アデノウイルスである。アデノウイルスは、エンベロープをもたないDNAウイルスである。アデノウイルス由来のベクターは多くの特徴を有しており、そうした特徴が、かかるベクターを遺伝子導入に特に有用なものとしている。組換えアデノウイルスベクターは、1以上の異種ヌクレオチド配列(例えば、2、3、4、5又はそれ以上の異種ヌクレオチド配列)を備えたアデノウイルスベクターである。例えば、アデノウイルスの生態については、以下のような詳細な特徴付けが行われている:かかるウイルスは、そのDNAを極めて効率よく宿主細胞に導入する;かかるウイルスは多種多様な細胞を感染させることが可能で、宿主も広範囲に及ぶ;かかるウイルスは、比較的容易に大量生産が可能である;及び、ウイルスゲノムの初期領域1(「E1」)における欠失により、かかるウイルスを複製欠損性にすることが可能である。
【0153】
例えばレトロウイルスとは対照的に、アデノウイルスは、宿主細胞のゲノムへの組み込みを行わず、非分裂細胞を感染させることが可能であり、組換え遺伝子を効率的にインビボで導入できる(Brody et al., 1994)。こうした特徴により、アデノウイルスは、例えば、目的とする異種核酸のインビボでの遺伝子導入を、それを必要とする細胞、組織又は対象へ行う場合の、魅力的な候補物質となっている。
【0154】
複数の欠失を含むアデノウイルスベクターは、ベクターの運搬能力を増大させること、かつ、複製可能なアデノウイルス(RCA)の発生につながる組換えの可能性を減少させることが好ましい。アデノウイルスが複数の欠失を含む場合で、それぞれの欠失が単独で存在する場合は、それぞれの欠失によって、アデノウイルスが複製欠損性になる必要はない。複数の欠失の1つによりアデノウイルスが複製欠損性になっている限りは、それ以外の欠失は、他の目的のために、例えば、異種ヌクレオチド配列用にアデノウイルスゲノムの運搬能力を増大させるために、含まれているのであってもよい。2以上の欠失によって機能的タンパク質の発現が妨げられ、アデノウイルスが複製欠損性になることが好ましい。全ての欠失が、アデノウイルスを複製欠損性にする欠失であることが、より好ましい。
【0155】
アデノウイルス組換え体を利用している本発明の実施形態には、E1欠損若しくは欠失アデノウイルスベクター、E3欠損若しくは欠失アデノウイルスベクター、及び/又はE4欠損若しくは欠失アデノウイルスベクター、又は、全ウイルス遺伝子が欠失している「空の(gutless)」アデノウイルスベクターが含まれる場合がある。かかるアデノウイルスベクターは、E1、E3、又はE4遺伝子に突然変異を含ことが可能であるか、それらの又は全てのアデノウイルス遺伝子に欠失を含むことが可能である。E1欠損アデノウイルス突然変異体は、非許容状態の細胞では複製欠損性であるとされているため、及び、少なくとも弱毒化の程度が高いため、E1の突然変異により、ベクターの安全限界は引き上げられる。E3の突然変異は、アデノウイルスがMHCクラスI分子をダウンレギュレートする機序を乱すことにより、抗原の免疫原性を高める。E4の突然変異は、後期遺伝子発現を抑制することにより、アデノウイルスベクターの免疫原性を低下させ、それにより同ベクターを利用した再免疫付与が繰り返し行えるようになる場合がある。本発明は、E1、E3、E4、E1及びE3、並びにE1及びE4において欠失又は突然変異が生じている、いかなる血清型又はいかなる血清群のアデノウイルスベクターをも包含するものである。
【0156】
「空の」アデノウイルスベクターは、アデノウイルスベクターファミリーの最新モデルであり、ヒトアデノウイルス配列に由来している。その複製には、ヘルパーウイルス、及びE1aとCreの両方を発現する特別なヒト293細胞株、自然環境には存在しない条件が必要である;かかるベクターは全てのウイルス遺伝子を失っており、そのため、ワクチン担体としてのかかるベクターは非免疫原性であり、再免疫付与のための複数回の接種が可能である。「空の」アデノウイルスベクターは、目的とする異種核酸を収容するための36kbの空間も含んでおり、これにより多数の抗原又は免疫原の細胞中への共送達が可能になる。
【0157】
このように、本発明のベクターは、ポックスウイルス(例えば、ワクシニアウイルス、アビポックスウイルス、カナリア痘ウイルス、鶏痘ウイルス、アライグマ痘ウイルス、ブタ痘ウイルスなど)、アデノウイルス(例えば、イヌアデノウイルス)、ヘルペスウイルス、バキュロウイルス、レトロウイルス、(参照により本明細書に組み込まれる文書にあるようなもの)を含むがこれらに限定されない、いかなる適切な組換えウイルス又はウイルスベクターであってもよく、又は、かかるベクターは、プラスミドであってもよい。本明細書に引用され、参照により本明細書に組み込まれる文書は、本発明の実施において有用なベクターの例を提供することに加えて、本発明の安定化させた免疫原性組成物、懸濁液又は溶液中で単数又は複数のベクターにより発現される、又は本発明の安定化させた免疫原性組成物、懸濁液又は溶液中に含まれる、他の活性免疫原性成分の供給源を提供することができる。
【0158】
活性免疫原性成分を発現させるための要素が、プラスミドベクター中に存在していると有利である。プラスミドという語句は、本発明の核酸、及び所望の宿主又は標的の単数又は複数の細胞におけるインビボでのその発現に必要な要素を含む、いかなるDNA転写単位をも含むものである;また、この点に関しては、線形のものに加えて、超らせん又は非超らせん、環状プラスミドも、本発明の範囲内とされていることが知られている。
【0159】
抗原、免疫原、及びエピトープなどの活性免疫原性成分の発現には、最小限でも、開始コドン(ATG)、終止コドン及びプロモーター、並びに必要に応じて、プラスミドなどのある種のベクター用及びポックスウイルス以外のウイルスベクターなどのある種のウイルスベクター用のポリアデニル化配列が含まれる。核酸がベクター中のポリタンパク質断片をコードする場合、ATGはリーディングフレームの5’末端に位置し、終止コドンは3’末端に位置する。タンパク質の発現、修飾、及び分泌を可能にするエンハンサー配列、安定化配列(stabilizing sequence)、及びシグナル配列などの、発現を制御する他の要素が存在する場合がある。
【0160】
核酸「コーディング配列」又はあるタンパク質を「コードする核酸」は、適切な調節要素の制御下に置かれた際に、インビトロ又はインビボでポリペプチドに転写及び翻訳されるDNA配列である。コーディング配列の境界は、5’末端の開始コドン及び3’末端の翻訳終始コドンによって決まる。コーディング配列としては、原核生物配列、真核生物mRNA由来のcDNA、真核生物(例えば哺乳動物)DNA由来のゲノムDNA配列など、さらには合成DNA配列も挙げられるが、これらに限定されない。転写終結配列は、通常コーディング配列の3’側に位置する。
【0161】
核酸「制御要素」は、プロモーター、RNAスプライス部位、リボソーム結合部位、ポリアデニル化シグナル(例えば、ウシ成長ホルモン由来のポリアデニル化シグナル、SV40ポリアデニル化シグナル)、転写終結配列、上流調節ドメイン、エンハンサー、複製起点(例えば、pBR322などの細菌ベクターに由来するものなど細菌に起源を有するものでもよい、又は、例えば、自己複製配列(ARS)など真核生物に起源を有するものでもよい)、パッケージングシグナル、並びに免疫原、抗原、及びエピトープなどの活性免疫原性成分のコーディング配列に含まれる場合又は含まれない場合があるリーダー配列をまとめて指すものである。シグナル配列が含まれる場合、未変性の相同配列又は異種配列のいずれであってもよい。翻訳後プロセッシングにおいて、宿主によってリーダー配列を除去することができる。例えば、宿主細胞中のコーディング配列の転写及び翻訳をまとめて提供している、米国特許第4431739号明細書、米国特許第4425437号明細書、米国特許第4338397号明細書などを参照のこと。
【0162】
所望の遺伝子の転写及び翻訳が可能な限りは、これらの制御配列の全部が、必ずしも組換えベクター中に存在しなくてはならないわけではない。プロモーターなどの制御要素は、RNAポリメラーゼがプロモーターに結合してコーディング配列をmRNA中に転写する際に、細胞中のコーディング配列の「転写方向を決定する」。結果として得られたmRNAはその後、コーディング配列によりコードされるポリペプチドに翻訳される。
【0163】
所望の程度及び組織特異的発現に応じて、多様なプロモーター/エンハンサー要素を用いてもよい。プロモーターは、所望の発現パターンに応じて、構成的又は誘導性プロモーター(例えば、中でもメタロチオネインプロモーター、テトラサイクリン誘導性プロモーター、及びエクジソン誘導性プロモーター)であってもよい。プロモーターは、未変性又は異種であってもよく、天然又は合成配列であってもよい。この関連での「異種」とは、その転写開始領域が導入される野生型宿主では見られない転写開始領域のことである。目的とする標的細胞又は組織中でプロモーターが機能するように、プロモーターの選択を行う。本発明は、脳特異的、肝臓特異的、及び筋肉特異的(骨格筋、心筋、平滑筋、及び/又は横隔膜特異的)プロモーターについて検討している。哺乳類及び鳥類のプロモーター、特にイヌのプロモーターも好ましい。
【0164】
有利なことに、プロモーターは、「初期」プロモーターであってもよい。「初期」プロモーターは当該技術において周知であり、タンパク質がデノボ合成されない場合に、急激かつ一時的に発現する遺伝子の発現を起こすプロモーターと定義されている。かかるプロモーターは、「強い」又は「弱い」プロモーターであってもよい。「強いプロモーター」及び「弱いプロモーター」という語句は、当該技術において周知であり、プロモーターでの転写開始の相対頻度(1分当たりの回数)と定義できる。「強い」又は「弱い」プロモーターは、RNAポリメラーゼに対するその親和性によっても定義可能である。
【0165】
活性免疫原性成分を含むベクターによって形質転換された宿主細胞又は対象において、所望のタンパク質をコードするDNA配列がRNAに転写されるように、異種遺伝子を、プロモーター、(細菌発現用の)リボソーム結合部位、及び必要に応じてエンハンサー又はオペレーターの制御下に置くことができる。
【0166】
上記クローニングベクターなどのベクターに挿入する前に、制御要素及び他の調節配列をコーディング配列にライゲートしてもよい。あるいは、すでに制御配列及び適切な制限部位を含む発現ベクターに、コーディング配列を直接クローニングしてもよい。
【0167】
抗原又は免疫原が、例えば、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)主要前初期プロモーター、サルウイルス40(SV40)プロモーター、β−アクチンプロモーター、アルブミンプロモーター、延長因子1−α(EF−1α)プロモーター、PγKプロモーター、MFGプロモーター、又はラウス肉腫ウイルスプロモーターと作用可能な状態で結合していることがより好ましい。他の発現制御配列としては、イムノグロブリン遺伝子、アデノウイルス、ウシパピローマウイルス、ヘルペスウイルスなどに由来するプロモーターが挙げられる。イヌのあらゆるウイルスプロモーターに加えて、哺乳動物のあらゆるウイルスプロモーターも、本発明を実施する際に使用可能である。ウイルスを起源とするイヌのプロモーターの中でも、伝染性イヌヘルペスウイルスの前初期遺伝子のプロモーター、初期(すなわち、チミジンキナーゼ、DNAヘリカーゼ、リボヌクレオチドレダクターゼ)又は後期プロモーターを、本発明の方法及びベクターに用いることが可能である。他のプロモーターとしては、イヌアデノウイルスのE1プロモーター、及びイヌ主要組織適合性複合体Iプロモーターなどが挙げられる。また、過度の実験を行うことなく、抗原又は免疫原に対する免疫原性応答を誘導する又は引き出すために、十分に高いレベルで目的の抗原又は免疫原を発現させる適切なプロモーターを選択するのは、十分に当業者の範囲内であろう。
【0168】
これまで、CMVプロモーターを用いて異種ヌクレオチドの転写を起こさせることは、結果的に免疫の正常な動物における発現のダウンレギュレーションにつながる恐れがあると考えられてきた(例えば、Guo et al., 1996を参照のこと)。したがって、抗原又は免疫原配列を、例えば、こうした抗原又は免疫原の発現のダウンレギュレーションにつながらない修飾CMVプロモーターと作用可能な状態で結合させることも、好ましい。
【0169】
本発明のベクターは、有利なことにプロモーターの下流に位置させることが可能な、ポリリンカー又は多重クローニング部位(MCS)を含むこともできる。ポリリンカーは、プロモーター配列と「インフレーム」である抗原又は免疫原分子を挿入するための部位を提供し、結果として、プロモーター配列と目的とする抗原又は免疫原とを、「作用可能な状態で連結させる」。多重クローニング部位及びポリリンカーは、当業者に周知である。
【0170】
本明細書に記載したベクターは、抗生物質抵抗性遺伝子を含むこともできる。本発明のベクターへの組み込みが可能な、そうした抗生物質抵抗性遺伝子の例としては、中でも、アンピシリン、テトラサイクリン、ネオマイシン、ゼオシン、カナマイシン、ブレオマイシン、ハイグロマイシン、クロラムフェニコールなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0171】
2以上の抗原又は免疫原が存在する実施形態においては、抗原又は免疫原配列は、単一の上流プロモーター及び1以上の下流内部リボソーム侵入部位(IRES)配列(例えば、ピコルナウイルスEMCIRES配列)と作用可能な状態で結合している。IRES配列により、単一のmRNA配列に由来する2以上のコーディング配列の多シストロン性翻訳が可能になる。
【0172】
本発明のベクターはまた、適切な宿主細胞又は対象を形質転換させるのに用いることができる。当該技術では多数の哺乳動物細胞株が知られており、その中には、American Type Culture Collection(ATCC)から入手可能な不死化細胞株が含まれており、そうした細胞株としては、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎(BHK)細胞、サル腎細胞(COS)、ヒト肝細胞癌細胞(例えば、HepG2)、Madin Darbyウシ腎(「MDBK」)細胞、Madin Darbyイヌ腎(「MDCK」)細胞などが挙げられるが、これらに限定されない。同様に、大腸菌、枯草菌、サルモネラ菌種、シゲラ菌種、連鎖球菌種などの細菌宿主は、本発明においてその利用法が見つかるであろう。本発明で有用な酵母菌宿主としては、特に、サッカロミセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、カンジダ アルビカンス、カンジダ マルトーサ(Candida maltosa)、ハンセヌラ ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、クルイベロミセス フラギリス(Kluyveromyces fragilis)、クルイベロミセス ラクティス(Kluyveromyces lactis)、ピチア ギレリモンディ(Pichia guillerimondii)、ピチア パストリス(Pichia pastoris)、シゾサッカロミセス ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、及びヤロウイア リポリティカ(Yarrowia lipolytica)などが挙げられる。本発明で有用な昆虫宿主としては、スポドプテラフルギペルダ(Spodoptera frugiperda)細胞が挙げられるが、これに限定されない。
【0173】
あるいは、培養中の細胞を感染させて、所望の遺伝子産物を発現させるため、例えば、目的のタンパク質又はペプチドを作製するために、ベクターを用いることができる。好ましくは、そうしたタンパク質又はペプチドを培地中に分泌させて、そこから、当該技術で周知の通常技法を用いて、精製することができる。タンパク質の細胞外分泌を導くシグナルペプチド配列は当該技術において周知であり、それをコードするヌクレオチド配列を、当該技術で周知の通常技法によって、目的とするペプチド又はタンパク質をコードするヌクレオチド配列に作用可能な状態で連結させることができる。あるいは、細胞を溶解させることが可能であり、その細胞溶解液から、発現した組換えタンパク質を精製することができる。かかる細胞は脊椎動物細胞であることが好ましく、哺乳動物細胞であることがより好ましい。
【0174】
本発明の遺伝子の遺伝子産物をインビボ又はインビトロのいずれかで発現させるためのベクター若しくは組換え体若しくはプラスミドの作製及び/又は投与方法は、所望のいかなる方法であってもよい。例えば、以下の文書若しくは以下の文書に引用された文書に開示された方法、又はそうした方法に類似した方法であってもよい:米国特許第4603112号明細書、米国特許第4769330号明細書、米国特許第4394448号明細書、米国特許第4722848号明細書、米国特許第4745051号明細書、米国特許第4769331号明細書、米国特許第4945050号明細書、米国特許第5494807号明細書、米国特許第5514375号明細書、米国特許第5744140号明細書、米国特許第5744141号明細書、米国特許第5756103号明細書、米国特許第5762938号明細書、米国特許第5766599号明細書、米国特許第5990091号明細書、米国特許第5174993号明細書、米国特許第5505,941号明細書、米国特許第5338683号明細書、米国特許第5494807号明細書、米国特許第5591639号明細書、米国特許第5589466号明細書、米国特許第5677178号明細書、米国特許第5591439号明細書、米国特許第5552143号明細書、米国特許第5580859号明細書、米国特許第6130066号明細書、米国特許第6004777号明細書、米国特許第6130066号明細書、米国特許第6497883号明細書、米国特許第6464984号明細書、米国特許第6451770号明細書、米国特許第6391314号明細書、米国特許第6387376号明細書、米国特許第6376473号明細書、米国特許第6368603号明細書、米国特許第6348196号明細書、米国特許第6306400号明細書、米国特許第6228846号明細書、米国特許第6221362号明細書、米国特許第6217883号明細書、米国特許第6207166号明細書、米国特許第6207165号明細書、米国特許第6159477号明細書、米国特許第6153199号明細書、米国特許第6090393号明細書、米国特許第6074649号明細書、米国特許第6045803号明細書、米国特許第6033670号明細書、米国特許第6485729号明細書、米国特許第6103526号明細書、米国特許第6224882号明細書、米国特許第6312682号明細書、米国特許第6348450号明細書、及び米国特許第6312683号明細書;1986年10月16日に提出された米国特許出願第920197号明細書;国際公開第90/01543号パンフレット、国際公開第91/11525号パンフレット、国際公開第94/16716号パンフレット、国際公開第96/39491号パンフレット、国際公開第98/33510号パンフレット;欧州特許第265785号明細書、欧州特許第0370573号明細書;Andreansky et al. (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 11313-11318;Ballay et al. (1993) EMBO J. 4, 3861-65;Felgner et al. (1994) J. Biol. Chem. 269, 2550-2561;Frolov et al. (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 11371-11377;Graham, F.L. (1990) Trends Biotechnol. 8, 85-87;Grunhaus et al. (1992) Sem. Virol. 3, 237-52;Ju et al. (1998) Diabetologia 41, 736-739;Kitson et al. (1991) J. Virol. 65, 3068-3075;McClements et al. (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 11414-11420;Moss, B. (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 11341-11348;Paoletti, E. (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 11349-11353;Pennock et al. (1984) Mol. Cell. Biol. 4, 399-406;Richardson (Ed), (1995) Methods in Molecular Biology 39, “Baculovirus Expression Protocols,” Humana Press Inc.;Smith et al. (1983) Mol. Cell. Biol. 3, 2156-2165;Robertson et al. (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 11334-11340;Robinson et al. (1997) Sem. Immunol. 9, 271;及びRoizman, B. (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 11307-11312。
【0175】
対象中での異種配列の発現により、結果的に、対象中で抗原又は免疫原の発現産物に対する免疫応答が生じる場合がある。したがって、免疫原性組成物又はワクチン組成物に本発明の活性免疫原性成分を用いて、必要はないものの防御となるであろう免疫応答を誘導する手段を提供してもよい。本発明との関連で使用される分子生物学的技法は、Sambrook et al. (2001)により記載されている。
【0176】
さらにその他には、又は付け加えることとしては、本発明が包含する免疫原性組成物又はワクチン組成物において、抗原又は免疫原をコードするヌクレオチド配列から、膜貫通ドメインをコードする部分を欠失させることが可能である。さらにまたその他には、又は付け加えることとしては、ベクター又は免疫原性組成物は、哺乳動物tPAなどの異種PtAシグナル配列及び/又はウサギβ−グロブリン遺伝子のイントロンIIなどの安定化イントロンをコードするヌクレオチド配列を宿主細胞中にさらに包含させること、及び発現させることができる。
【0177】
遺伝子産物(例えば、エピトープ、抗原、治療効果のある物質(therapeutic)、及び/又は抗体)組成物について記された量に到達するような量で、ベクターを対象に投与することができる。本発明は、本明細書に例示されたものよりも少ない用量及び多い用量を想定するものであり、適切な対象において半数細胞培養感染量(CCID50)、致死量(LD)及びLD50を確認するなどして、対象に投与されるあらゆる組成物についてその成分を含めて、及びあらゆる特定の投与方法について、毒性を確認することが好ましい。また、適切な応答を引き出す、組成物の用量、その中に含まれる成分の濃度、及び組成物を投与するタイミングを、血清の滴定及びその分析などにより、例えば、ELISA及び/又は血清中和滴定などにより、確認することが好ましい。当業者の知識、本件の開示内容及び本明細書に引用された文書からして、そのような確認には、過度の実験は不要である。
【0178】
弱毒化生CAV2、弱毒化生CDV、弱毒化生cPi2、及び弱毒化生CPVを含み、本発明の安定剤を含む多価免疫原性組成物及び/又はワクチン組成物及び/又は免疫原性懸濁液若しくは溶液について、本明細書の実施例にてテストを行った。これらの多価ワクチンは、CDV、cPi2、CAV2及びCPVに対して優れた安定性を示した。これは、本発明の安定剤が、CDV、cPi2、CAV2及びCPVの生存能力及び感染力を維持できることを示すものである。これは、本発明の安定剤が、イヌパラミクソウイルス以外の多様なウイルス、特にイヌパルボウイルス及びイヌアデノウイルスの生存能力及び感染力を維持できることを示すものである。本発明の安定剤は、CAV、CPV、CDV、又はcPi2を含む、一価免疫原性組成物又はワクチン組成物としても使用できる。
【0179】
1容量の多価懸濁液又は溶液(すなわち、イヌパラミクソウイルス及びイヌパラミクソウイルス以外の病原体に由来する少なくとも1種類の活性免疫原性成分)を、1容量の安定剤と混合することが好ましい。
【0180】
本発明により、例えばイヌパラミクソウイルスを含む、安定化させて凍結乾燥させた弱毒化生免疫原性組成物又はワクチン組成物の製造方法が提供され、かかる方法は、弱毒化生イヌパラミクソウイルス懸濁液又は溶液で作製し、本発明の安定剤と混合された、安定化懸濁液又は溶液を凍結乾燥させるステップを含む。
【0181】
本発明の別の態様は、安定化させて凍結乾燥させた多価免疫原性組成物又はワクチン組成物の製造方法であり、かかる方法は、例えば、弱毒化生イヌパラミクソウイルス懸濁液又は溶液及びイヌパラミクソウイルス以外の病原体に由来する少なくとも1種類の活性免疫原性成分を含み、本発明の安定剤と混合された、安定化多価懸濁液又は溶液を凍結乾燥させるステップを含む。
【0182】
「凍結乾燥(freeze-drying)」は、凍結乾燥(lyophilization)を伴うものであり、それにより懸濁液が凍結し、その後に水分が昇華により低圧で除去されるプロセスを指す。本明細書で用いられる「昇華」という語句は、組成物の物性における変化であって、組成物が、液体にならずに固体状態から直接気体状態へと変化することを指す。本明細書で用いられる「T’g値」という語句は、ガラス転移温度と定義され、ガラス転移温度は、それ未満では凍結した組成物がガラス質になる温度に相当する。
【0183】
本発明の免疫原性懸濁液又は溶液の凍結乾燥方法は、以下のステップを含むことができる:(a)免疫原性懸濁液又は溶液を、本発明の安定剤と接触させ、それにより安定化させた免疫原性懸濁液又は溶液を作製するステップ;(b)安定化させた免疫原性懸濁液又は溶液を、安定化させた免疫原性懸濁液又は溶液のおよそのT’g値を下回る温度まで、大気圧にて冷却するステップ;(c)安定化させた免疫原性懸濁液又は溶液を、低圧での氷の昇華により、乾燥させるステップ(すなわち、一次乾燥又は昇華ステップ);及び(d)さらに減圧し、安定化させた免疫原性懸濁液又は溶液の温度を上昇させることで、過剰な残留水分を除去するステップ(すなわち、二次乾燥又は脱着ステップ)。
【0184】
冷却ステップ(b)の温度は、約−40℃未満であってもよい(水分凍結ステップ)。安定化させた免疫原性懸濁液又は溶液を、低圧での氷の昇華により、乾燥させるステップ(c)の圧力は、例えば、約200μバール以下であってもよく、その一方で、約100μバール以下の圧力にさらに減圧してもよい。最後に、過剰な残留水分を除去するステップ(d)における安定化させた免疫原性懸濁液又は溶液の温度は、例えば、約20℃〜約30℃であってもよい。
【0185】
安定化させて凍結乾燥させた多価免疫原性組成物又はワクチン組成物を得るために、弱毒化生イヌパラミクソウイルス及びイヌパラミクソウイルス以外の病原体に由来する少なくとも1種類の活性免疫原性成分を含み、本発明の安定剤と混合された、免疫原性懸濁液又は溶液を用いて、凍結乾燥方法を行うこともできる。
【0186】
凍結乾燥材料の含水率は、約0.5%〜約5%w/w、好ましくは約0.5%〜約3%w/w、より好ましくは約1.0%〜約2.6%w/wであってもよい。
【0187】
有利なことに、少なくとも1種類の増量剤を含む安定化させた免疫原性懸濁液又は溶液は、約−36℃〜約−30℃という高いT’g値を有する。高いT’g値により、凍結プロセス及び/又は凍結乾燥プロセスの水分凍結ステップの温度を高くすることが可能となり、それにより、弱毒化生ウイルス及び活性免疫原性成分のストレスへの暴露が減少し、活性の相当の損失を回避できる。
【0188】
水分凍結ステップ並びに一次及び二次乾燥でのその除去を含む各ステップは、本発明の免疫原性懸濁液又は溶液に含まれる病原体などの生物由来原料に、その病原体又は生物由来原料の構造、外観、安定性、免疫原性、感染力及び生存能力に悪影響を及ぼす可能性のある、機械的、物理的及び生化学的衝撃を与えるものである。
【0189】
本発明の安定剤により、イヌパラミクソウイルスのような弱毒化生存病原体の安定性を良好なものとすることができ、特に、CDV及びcPi2の凍結乾燥プロセス中及び保管中の感染力が維持される。凍結乾燥ステップ前の感染価と、安定化させて凍結乾燥させた多価免疫原性組成物又はワクチン組成物を4℃で12ヶ月間保管した後の感染価との差異によって、安定性を計算できる。良好な安定性に含まれ得る差異としては、わずか1.2log10、及び好ましくは、わずか1.0log10であると有利である。感染価の確認方法は、当該技術の当業者に周知である。感染価の確認方法のいくつかは、本明細書の実施例に記載されている。また、線形回帰計算及び/又はアルゴリズムを用いて、log10の感染価及び保管期間中の滴定の時点を合致させることにより、安定性を推定することが可能である。
【0190】
さらに、本発明の安定剤により、凍結乾燥パスティールが優れた様相、すなわち、整った形状と均一の色合いを備えることが可能になる。不整な形状の特徴としては、全部又は一部のパスティールが、容器の底部にこびり付き、上下を逆にして剪断した後も固定化された状態のままであることが挙げられる(こびり付いた状態の様相)。また、スプールの形状を呈するパスティール(スプール状の様相)、水平面に沿ってパスティールが2つの部分に分かれること(2つに分かれた状態(de-duplicated)の様相)、又は、不規則な穴があいているムース状の様相を呈するパスティール(海綿状の様相)、又は、容器内で泡状の様相を呈するパスティール(メレンゲ状の様相)は、不整な形状を呈しており、許容されるものではない(図1A及びB)。
【0191】
本発明の安定剤を使用し、先に記載の凍結乾燥方法によって得られる安定化させて凍結乾燥させた免疫原性組成物又はワクチン組成物は、本発明に包含されている。
【0192】
ある実施形態においては、安定化させて凍結乾燥させた弱毒化生菌免疫原性組成物若しくはワクチン組成物、又は安定化させて凍結乾燥させた多価免疫原性組成物若しくはワクチン組成物は、(i)最終濃度が約20%〜約50%w/wの少なくとも1種類の還元単糖、及び(ii)最終濃度が約1.5%〜約6%w/wの少なくとも1種類の酸性抗酸化剤を含む。
【0193】
別の実施形態においては、安定化させて凍結乾燥させた弱毒化生菌免疫原性組成物若しくはワクチン組成物、又は安定化させて凍結乾燥させた多価免疫原性組成物若しくはワクチン組成物は、(i)最終濃度が約20%〜約50%w/wの少なくとも1種類の還元単糖、(ii)最終濃度が約1.5%〜約6%w/wの少なくとも1種類の酸性抗酸化剤、及び(iii)最終濃度が約15%〜約70%w/wの少なくとも1種類の増量剤を含む。
【0194】
本発明の安定化させて凍結乾燥させた免疫原性組成物又はワクチン組成物を、乾燥大気中にて、冷蔵庫内温度及び室温で、具体的には約2℃〜約35℃で、より具体的には、約4℃〜約25℃で、保管することができる。
【0195】
本発明のさらなる態様は、本発明の安定化させて凍結乾燥させた弱毒化生菌免疫原性組成物若しくはワクチン組成物又は安定化させて凍結乾燥させた多価免疫原性組成物若しくはワクチン組成物を含有する第一のバイアル、及び溶媒を含有する第二のバイアルを含む、キットを提供する。
【0196】
使用するため及び対象へ投与するために、安定化させて凍結乾燥させた免疫原性組成物又はワクチン組成物を、溶媒で再水和することによって再構成することができる。かかる溶媒は一般的には水、例えば脱塩水又は蒸留水、注射用蒸留水などであるが、生理学的溶液、又は例えばリン酸緩衝液(PBS)などの緩衝液、又はアジュバントも含むことができる。アジュバントとしては、油中水乳剤、コリネバクテリウムパルバム(Corynebacterium parvum)、カルメット・ゲラン菌(Bacillus Calmette Guerin)、水酸化アルミニウム、グルカン、硫酸デキストラン、酸化鉄、アルギン酸ナトリウム、バクト−アジュバント(Bacto-Adjuvant)、ポリアミノ酸などのある種の合成ポリマー及びアミノ酸のコポリマー、サポニン、「レグレッシン(REGRESSIN)」(Vetrepharm社製、ジョージア州アセンズ)、「アブリジン(AVRIDINE)」(N,N−ジオクタデシル−N’,N’−ビス(2−ヒドロキシエチエル)−プロパンジアミン)、パラフィン油、ムラミールジペプチドなどが挙げられるが、これらに限定されない。アジュバント及びアジュバント組成物の他の具体例は、本明細書に記載されている。
【0197】
適切なアジュバントとしては、fMLP(N−ホルミル−メチオニル−ロイシル−フェニルアラニン;米国特許第6017537号明細書)、及び/又はアクリル酸若しくはメタクリル酸ポリマー及び/又は無水マレイン酸とアルケニル誘導体とのコポリマーなどが挙げられる。アクリル酸又はメタクリル酸ポリマーについては、例えば、糖又はポリアルコールのポリアルケニルエーテルで、架橋の形成が可能である。これらの化合物は、「カルボマー」という名称で知られている(Pharmeuropa, Vol. 8, No. 2, June 1996)。当業者は、米国特許第2909462号明細書(参照により組み込まれる)も参照してもよく、かかる特許は、少なくとも3個のヒドロキシル基を含むポリ水酸化化合物で架橋を形成した上記アクリルポリマーについて論じている;ポリ水酸化化合物は、最高で8個のヒドロキシル基を含む;別の例としては、少なくとも3個のヒドロキシルの水素原子が、少なくとも2個の炭素原子を含む不飽和脂肪族基で置換されている。基は、約2〜約4個の炭素原子、例えば、ビニル、アリル及びその他のエチレン不飽和基を含むことができる。不飽和基は、それ自体が、メチルなどの他の置換基を含むことができる。カルボポール(登録商標)(Noveon Inc.社製、米国、オハイオ州)という名称で販売されている製品は、アジュバントとして使用するのに特に適している。そうした製品は、アリルスクロース又はアリルペンタエリスリトールで架橋が形成されており、そのことについては、カルボポール(登録商標)974P、934P、及び971Pという製品が言及されている。
【0198】
無水マレイン酸とアルケニル誘導体とのコポリマーについては、EMA(登録商標)という製品(Monsanto社製)が言及されている。この製品は、無水マレイン酸とエチレンとのコポリマーであって、線状であっても又は架橋されていてもよく、例えばジビニルエーテルで架橋されていてもよい。また、米国特許第6713068号明細書及びRegelson, W. et al.,1960を参照してもよい(参照により組み込まれる)。
【0199】
第4級アンモニウム塩を含むカチオン性脂質は、その内容が参照により組み込まれる米国特許第6713068号明細書に記載されており、本発明の方法及び組成物に用いることも可能である。こうしたカチオン性脂質の中でも、中性脂質、有利にはDOPE(ジオレイル−ホスファチジルエタノールアミン;Behr J. P. et al, 1994)と会合していると有利であるDMRIE(N−(2−ヒドロキシエチル)−N,N−ジメチル−2,3−ビス(テトラデシルオキシ)−1−プロパンアンモニウム;国際公開第96/34109号パンフレット)を選択して、DMRIE−DOPEを形成する。
【0200】
すぐに注射できるように再構成した本発明の免疫原性組成物又はワクチン組成物に含まれる成分の全量を用いて、等張濃度にて、例えば、約100〜600mOsmの範囲内で、一般的には約250〜450mOsmの範囲内で、及び好ましくは約330mOsmにて、注射することができる。
【0201】
安定化させて凍結乾燥させた免疫原性組成物若しくはワクチン組成物、又は、すぐに注射できるように再構成した免疫原性組成物若しくはワクチン組成物中の弱毒化生存病原体、特にCDV及びcPi2の用量は、約10〜約10CCID50/用量に及んでいてもよい。安定化させて凍結乾燥させた多価免疫原性組成物若しくはワクチン組成物、又は、すぐに注射できるように再構成した多価免疫原性組成物若しくはワクチン組成物中のタンパク質、ポリペプチド又は糖タンパク質については、不活化前の同等感染価(equivalent titer)において、1用量当たり約10〜約10CCID50、好ましくは1用量当たり約10〜約10CCID50に及んでいてもよい。
【0202】
すぐに注射できるように再構成した免疫原性組成物又はワクチン組成物を、非経口経路又は粘膜経路の注射、好ましくは筋肉注射又は皮下注射により、動物に投与することができる。しかし、上記のようなすぐに注射できるように再構成した免疫原性組成物又はワクチン組成物の投与には、鼻内投与、経皮投与、局所的投与、及び経口投与も含めることができる。注射1回当たりの用量は、約0.1ml〜約2.0ml、好ましくは、約1.0mlであってもよい。
【0203】
これより、以下の非制限的な実施例により、本発明をさらに説明する。かかる実施例は、本発明の各種実施形態を例示するために記載されているのであって、いかなる形であれ、本発明を限定するものではない。
[実施例]
【実施例1】
【0204】
安定剤の調製
安定剤の組成及び成分量を、表1に示す。「デキストラン」は、分子量が40,000Daのデキストラン−40,000を含む。
【0205】
【表1】

【0206】
各安定剤用に、1リットルの蒸留水を攪拌しながら約55℃まで加熱した。その後、溶解を促進するために、磁石棒で攪拌を続けながら、化合物を熱湯にゆっくりと添加した。最後に添加してから約30分にわたって攪拌を続け、その結果、均質溶液を得た。
【0207】
その後、溶液を室温まで冷却した。溶液の冷却後、カットオフ孔径が0.22μmのフィルター(Optiscale Durapore)を通した滅菌濾過により、安定剤を滅菌した。安定剤F2、F2B、F6B、F33、F37、A、H、K及びUの滅菌溶液を、その後、室温で保管した。
【実施例2】
【0208】
凍結乾燥プロセス
実施例1で得た各安定剤を用いて、ウイルス懸濁液を安定化させた。4容量の安定剤を、6容量のイヌの4種類の弱毒化生ウイルス混合物に、室温で攪拌しながら添加した。イヌの弱毒化生ウイルスとは、イヌパラインフルエンザ2型(cPi2)、イヌジステンパーウイルス(CDV)、イヌアデノウイルス2型(CAV2)、及びイヌパルボウイルス(CPV)である。
【0209】
これらの安定化懸濁液のT’g値を、示差走査熱量計(Mettler Toledo社製、フランス国、ヴィロフレイ)で測定した。測定結果を表2に示す。
【0210】
【表2】

【0211】
安定剤を用いて製剤された安定化懸濁液を、さらに凍結乾燥させた。凍結乾燥サイクルには、3つの段階がある:
(1)凍結段階:小型の瓶に入れておいた安定化懸濁液を凍結乾燥機に入れ、大気圧で棚と接触させることにより、完全に凍結するまで冷却する。棚の温度は約−50℃以下である。
(2)昇華段階(又は一次乾燥):凍結乾燥機の圧力を、氷を昇華させるのに十分な程度の低圧に調整した(120μバール以下の圧力)。昇華中に融解が発生しないように、製品温度が−22℃以下となるように温度を調節した。昇華により生じた蒸気を、真空ポンプの前に位置するアイスコンデンサー中で凍結させた。
(3)脱着段階(又は二次乾燥):昇華終了時、凍結乾燥させる製品から氷が全てなくなった時点で、さらに、凍結乾燥機内の圧力を再び下げて、30μバール以下にすること、及び温度を約30℃に上げることにより、遊離状態及び/又は結合状態の過剰な残留水分を除去した。
【0212】
凍結乾燥後、滅菌窒素を用いて真空破壊を行った。その後、瓶に封をして、凍結乾燥機を取り外した。安定化させて凍結乾燥させた各ワクチンの含水量を測定した。測定結果を表3に示す。
【0213】
【表3】

【実施例3】
【0214】
凍結乾燥後の安定性の研究
実施例2に記載の安定化懸濁液の凍結乾燥後に得た凍結乾燥パスティールを観察して、異常なパスティールと整った形状を呈するパスティールとを識別した。本発明の安定剤を含み、さらに増量剤も含む凍結乾燥パスティール(例えば、F2、F2B、F33、A、H、K及びU)は、優れた様相を呈している:F2安定剤を含むパスティールでは、110個中わずかに5個が、こびり付いた状態の様相を呈していた(4.5%)。安定化させて凍結乾燥させたワクチンを、その後、+4℃で保管した。
【0215】
同じワクチンについて繰り返した3回の滴定の平均力価を計算することにより、凍結乾燥ワクチンのウイルス力価を確認した。実施例2に記載の凍結乾燥後に得た凍結乾燥ワクチンを、1mlの注射用蒸留水で再水和した。続いて、各ワクチンを希釈して、−3.8log10〜−6.8log10の希釈液を得た。
【0216】
cPi2の滴定のため、抗肝炎抗体溶液50μl、及び100,000個/mlのMadin Darbyイヌ腎細胞(MDCK細胞)の細胞懸濁液150μlとともに、各希釈液を、滴定プレート上に1ウェル当たり50μlの量で6回載置(deposit)した。MDCK細胞は、2%のウシ胎仔血清を補充したF15培養培地で培養されたものである。コントロールとして、希釈液100μl及びMDCK細胞150μlを、同じウェルに載置した。全ての滴定プラークを7日間37℃に維持した。インキュベーション後、上清を滴定プレートの各ウェルから回収し、円錐形のウェルを備えた新しい滴定プレートに置いた。上清を入れてある各ウェルに、モルモット赤血球(Alsever sp.)を添加した。赤血球溶液の希釈率は、全てのウェルで同じであった。+4℃で3〜4時間が経過した後、プレートを白紙の上に置くことで、結果を得た。その後、容易に識別可能なペレットの存在により、ウイルス攻撃が検知された。
【0217】
CDVの滴定のため、抗cPi2抗体溶液50μl、及び120,000個/mlのベロ細胞(サル腎細胞)の細胞懸濁液150μlとともに、各希釈液を、滴定プレート上に1ウェル当たり50μlの量で6回載置した。ベロ細胞は、2%のウシ胎仔血清を補充したイーグルの最小必須培地(MEM培養培地)で培養されたものである。コントロールとして、希釈液100μl及びベロ細胞150μlを、同じウェルに載置した。全ての滴定プラークを7日間37℃に維持した。インキュベーション後、滴定プレートを顕微鏡下に置いた。ベロ細胞の分解により、ウイルス攻撃が検知された。1ミリリットル当たりの50%細胞培養感染量(CCID50/ml)のlog10で、ウイルス力価を表した。
【0218】
表4は、凍結乾燥ステップ及び4℃での12ヶ月間の保管期間の後の、log10CCID50/mlで表したcPi2及びCDVの力価の減少を示すものである。
【0219】
【表4】

【0220】
これらの結果は、4℃での長期保管後に、CDVウイルス及びcPi2ウイルスが共に非常に優れた安定性を有していることを示している。こうした安定化させて凍結乾燥させたワクチンのいくつかについては、CAV2とCPVの滴定をトリプリケートで行った。こうした滴定の結果を、凍結乾燥ステップ直後及び4℃での3ヶ月間の保管期間の後(T0+3)の、log10CCID50/mlで表した、3回の滴定から得られた平均値の減少として表5に示す。
【0221】
【表5】

【0222】
安定剤の各種化合物が、凍結乾燥ステップ中及びその後にCDV及びcPi2に及ぼす影響について研究した。特に、非還元オリゴ糖がCDVの安定性に及ぼす影響について調べた。その結果を、統計分析により図2A及び表6に示した。
【0223】
【表6】

【0224】
安定剤中の非還元オリゴ糖の存在は、CDV力価に何の影響も及ぼさなかった(分散分析、p値=0.5142)。
【0225】
還元単糖がCDVの安定性に及ぼす影響について調べた。その結果を統計分析にかけた。かかる分析の結果を図2B及び表7に示す。
【0226】
【表7】

【0227】
表7及び図2Bに示すように、安定剤中の還元単糖の存在は、CDV力価にプラスの影響を及ぼした(分散分析、p=0.0000)。
【0228】
抗酸化化合物がcPi2の安定性に及ぼす影響についても研究した。その結果を図3A及び3B、並びに表8及び9の統計分析にかけた。
【0229】
【表8】

【0230】
【表9】

【0231】
安定剤中の抗酸化化合物の存在は、凍結乾燥ステップ中及び保管期間中にcPi2力価にプラスの影響を及ぼすことが判明した(分散分析、p=0.0000)。
【実施例4】
【0232】
安定剤成分の比較研究
F2安定剤(実施例1)を参照として用いて、凍結乾燥ワクチンの力価の減少を測定し、他の安定化させて凍結乾燥させた製剤と比較した。表10に示すように各成分を修飾することにより、これらの製剤を得た。
【0233】
安定剤F63はF2と同一物であるが、抗酸化化合物が含まれていない。
【0234】
安定剤F62はF2と同一物であるが、アスパラギン酸の代わりにフェニルアラニンが含まれている。
【0235】
安定剤F42はF2と同一物であるが、アスパラギン酸の代わりにアスパラギン酸モノナトリウム塩が含まれている。
【0236】
安定剤F32はF2と同一物であるが、還元単糖の代わりにベタインが含まれている。
【0237】
【表10】

【0238】
これらの製剤は、実施例2のワクチンの安定化に用いられたものであり、本明細書に記載のプロセスで凍結乾燥された。1mlの注射用蒸留水で、凍結乾燥ワクチンを再水和した。実施例3で行ったように、同じワクチンについて繰り返した3回の滴定の平均力価を計算することにより、ワクチンのcPi2力価及びCDV力価を確認した。各製剤について、凍結乾燥プロセス後に力価を測定した。log10CCID50/mlで表したこれらの力価を、表11に示す。
【0239】
【表11】

【0240】
これらの結果は、酸性抗酸化剤の不在によって、cPi2力価にかなりの減少が生じることを示している。あらゆる抗酸化作用が欠失しているアミノ酸フェニルアラニンを含有することによっても、cPi2とCDVの力価が共に減少する。同様に、抗酸化アスパラギン酸モノナトリウム塩を含有することによっても、cPi2とCDVの力価が共に減少する。これらの結果は、還元単糖の不在によって、CDVに加えてcPi2も力価が大幅に減少することも示している。
【実施例5】
【0241】
安定化ワクチンのイヌにおける安全性の評価
実施例2に記載の凍結乾燥ワクチンのいくつかを、滅菌した注射用蒸留水で再水和した後に、イヌに投与した。それらのワクチンには、実施例1に記載のA、H、K及びF2B安定剤が含まれていた。
【0242】
月齢が3ヶ月〜5ヶ月の特定病原体未感染(SPF)のイヌ4匹及び月齢が3ヶ月〜5ヶ月の通常のイヌ4匹を、1つのグループにつきSPFのイヌ1匹と通常のイヌ1匹の、2匹の動物からなる4つのグループに無作為に割り付けた。各グループについて、対応する安定化ワクチンを2倍量(2ml)用いて、0日目に2匹のイヌに対して皮下経路での免疫付与を行った。14日目に、同じ安定化ワクチンを1用量(1ml)用いて、イヌに対して皮下経路での免疫付与を行った。
【0243】
即時型局所反応及び即時型全身反応、直腸温、局所反応、全身反応、並びに臨床症状を観察した。投与後に局所又は全身反応は全く観察されなかった。したがって、安定化ワクチンの安全性は高いと思われる。
【0244】
このように本発明の好ましい実施形態を詳細に説明してきたが、これまでの記載で説明した特定の詳細事項には、本発明の精神と範囲から逸脱することなく多くの明白な変更を行うことが可能であるため、添付の特許請求の範囲にて定義されている本発明が、これまでの記載で説明した特定の詳細事項に限定されるべきではないことは、理解されてしかるべきである。
【0245】
以下の番号を付けた段落により、本発明をさらに説明する:
1.少なくとも1種類の還元単糖及び少なくとも1種類の酸性抗酸化化合物を含む、凍結乾燥させた弱毒化生イヌジステンパー(CDV)及びイヌパラミクソウイルス2型(cPi2)免疫原性組成物用の安定剤であって、前記少なくとも1種類の酸性抗酸化化合物が、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスコルビン酸又はそれらの組み合わせを含む安定剤。
2.少なくとも1種類の還元単糖が、グルコース、ガラクトース、フルクトース、マンノース、ソルボース又はそれらの組み合わせを含むことを特徴とする段落1記載の安定剤。
3.少なくとも1種類の増量剤をさらに含むことを特徴とする段落1又は2記載の安定剤。
4.少なくとも1種類の増量剤が、デキストラン、マルトデキストリン、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチル澱粉又はそれらの組み合わせを含むことを特徴とする段落3記載の安定剤。
5.少なくとも1種類の糖アルコールをさらに含むことを特徴とする段落1〜4のいずれか記載の安定剤。
6.少なくとも1種類の糖アルコールが、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、マルチトール又はそれらの組み合わせを含むことを特徴とする段落5記載の安定剤。
7.少なくとも1種類の非還元オリゴ糖をさらに含むことを特徴とする段落1〜6のいずれか記載の安定剤。
8.少なくとも1種類の非還元オリゴ糖が、トレハロース、スクロース、ラフィノース又はそれらの組み合わせを含むことを特徴とする段落7記載の安定剤。
9.少なくとも1種類の糖アルコール及び少なくとも1種類の非還元オリゴ糖をさらに含むことを特徴とする段落1〜8のいずれか記載の安定剤。
10.少なくとも1種類の糖アルコールが、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、マルチトール又はそれらの組み合わせを含み、少なくとも1種類の非還元オリゴ糖が、トレハロース、スクロース、ラフィノース又はそれらの組み合わせを含むことを特徴とする段落9記載の安定剤。
11.CDV及びcPi2を含む弱毒化生パラミクソウイルスを含み、段落1〜10のいずれか記載の安定剤と混合された、免疫原性懸濁液又は溶液。
12.免疫原性懸濁液又は溶液が、パラミクソウイルス以外の病原体に由来する少なくとも1種類の活性免疫原性成分をさらに含む多価免疫原性懸濁液又は溶液であることを特徴とする段落11記載の免疫原性懸濁液又は溶液。
13.少なくとも1種類の活性免疫原性成分が、アデノウイルス科、パルボウイルス科、コロナウイルス科、ヘルペスウイルス科、ポックスウイルス科、ラブドウイルス科を含む病原体又はそれらの組み合わせに由来することを特徴とする段落12記載の免疫原性懸濁液又は溶液。
14.少なくとも1種類の活性免疫原性成分が、弱毒化生イヌアデノウイルス2型(CAV2)及び弱毒化生イヌパルボウイルス(CPV)を含むことを特徴とする段落12又は13記載の免疫原性懸濁液又は溶液。
15.少なくとも1種類の活性免疫原性成分が、1以上の異種免疫原を含むウイルスベクターを含むことを特徴とする段落12〜14のいずれか記載の免疫原性懸濁液又は溶液。
16.少なくとも1種類の活性免疫原性成分が、1以上の異種免疫原を含むプラスミドベクターを含むことを特徴とする段落12〜15のいずれか記載の免疫原性懸濁液又は溶液。
17.安定剤が、最終濃度が約1%〜約5%w/vの少なくとも1種類の還元単糖を含むことを特徴とする段落11〜16のいずれか記載の免疫原性懸濁液又は溶液。
18.安定剤が、最終濃度が約1.5%〜約5%w/vの少なくとも1種類の還元単糖を含むことを特徴とする段落11〜16のいずれか記載の免疫原性懸濁液又は溶液。
19.安定剤が、最終濃度が約1.5%〜約4%w/vの少なくとも1種類の還元単糖を含むことを特徴とする段落11〜16のいずれか記載の免疫原性懸濁液又は溶液。
20.安定剤が、最終濃度が約2.5%〜約3%w/vの少なくとも1種類の還元単糖を含むことを特徴とする段落11〜16のいずれか記載の免疫原性懸濁液又は溶液。
21.安定剤が、最終濃度が約0.1%〜約0.3%w/vの少なくとも1種類の酸性抗酸化化合物を含むことを特徴とする段落11〜20のいずれか記載の免疫原性懸濁液又は溶液。
22.安定剤が、最終濃度が約0.1%〜約0.25%w/vの少なくとも1種類の酸性抗酸化化合物を含むことを特徴とする段落11〜20のいずれか記載の免疫原性懸濁液又は溶液。
23.安定剤が、最終濃度が約0.2%w/vの少なくとも1種類の酸性抗酸化化合物を含むことを特徴とする段落11〜20のいずれか記載の免疫原性懸濁液又は溶液。
24.安定剤が、最終濃度が約0.5%〜約7.5%w/vの少なくとも1種類の増量剤を含むことを特徴とする段落11〜23のいずれか記載の免疫原性懸濁液又は溶液。
25.安定剤が、最終濃度が約1.5%〜約5%w/vの少なくとも1種類の増量剤を含むことを特徴とする段落11〜24のいずれか記載の免疫原性懸濁液又は溶液。
26.安定剤が、最終濃度が約0.5%〜約5%w/vの少なくとも1種類の糖アルコール、及び少なくとも1種類の還元単糖(ただし、少なくとも1種類の還元単糖及び少なくとも1種類の糖アルコールの最終濃度は、約7.5%w/v以下であることを条件とする)を含むことを特徴とする段落11記載の免疫原性懸濁液又は溶液。
27.安定剤が、最終濃度が約0.5%〜約5%w/vの少なくとも1種類の非還元オリゴ糖、及び少なくとも1種類の還元単糖(ただし、還元単糖及び非還元オリゴ糖の最終濃度は、約7.5%w/v以下であることを条件とする)を含むことを特徴とする段落11記載の免疫原性懸濁液又は溶液。
28.安定剤が、最終濃度が約0.5%〜約5%w/vの少なくとも1種類の糖アルコール、最終濃度が約0.5%〜約5%w/vの少なくとも1種類の非還元オリゴ糖、及び少なくとも1種類の還元単糖(ただし、還元単糖、糖アルコール及び非還元オリゴ糖の最終濃度は、約12.5%w/v以下であることを条件とする)を含むことを特徴とする段落11記載の免疫原性懸濁液又は溶液。
29.安定剤が、(i)最終濃度が約1%〜約5%w/vの、2種類の還元単糖の混合物、(ii)最終濃度が約0.1%〜約0.3%w/vの少なくとも1種類の酸性抗酸化剤、及び(iii)最終濃度が約0.5%〜約7.5%w/vの少なくとも1種類の増量剤を含むことを特徴とする段落11記載の免疫原性懸濁液又は溶液。
30.安定剤が、(i)最終濃度が約1%〜約5%w/vの少なくとも1種類の還元単糖、(ii)最終濃度が約0.5%〜約5%w/vの少なくとも1種類の非還元オリゴ糖、(iii)最終濃度が約0.1%〜約0.3%w/vの少なくとも1種類の酸性抗酸化剤、及び(iv)最終濃度が約0.5%〜約7.5%w/vの少なくとも1種類の増量剤(ただし、(i)及び(ii)の最終濃度は、約7.5%w/v以下であることを条件とする)を含むことを特徴とする段落11記載の免疫原性懸濁液又は溶液。
31.安定剤が、(i)最終濃度が約1.5%〜約4%w/vの少なくとも1種類の還元単糖、(ii)最終濃度が約0.5%〜約2.5%w/vの少なくとも1種類の非還元オリゴ糖、(iii)最終濃度が約0.1%〜約0.25%w/vの少なくとも1種類の酸性抗酸化剤、及び(iv)最終濃度が約1.5%〜約5%w/vの少なくとも1種類の増量剤(ただし、(i)及び(ii)の最終濃度は、約5%w/v以下であることを条件とする)を含むことを特徴とする段落11記載の免疫原性懸濁液又は溶液。
32.安定剤が、(i)最終濃度が約1%〜約5%w/vの少なくとも1種類の還元単糖、(ii)最終濃度が約0.5%〜約5%w/vの少なくとも1種類の糖アルコール、(iii)最終濃度が約0.1%〜約0.3%w/vの少なくとも1種類の酸性抗酸化剤(ただし、(i)及び(ii)の最終濃度は、約7.5%w/v以下であることを条件とする)を含むことを特徴とする段落11記載の免疫原性懸濁液又は溶液。
33.安定剤が、(i)最終濃度が約1.5%〜約4%w/vの少なくとも1種類の還元単糖、(ii)最終濃度が約1.5%〜約3%w/vの少なくとも1種類の糖アルコール、及び(iii)最終濃度が約0.1%〜約0.25%w/vの少なくとも1種類の酸性抗酸化剤(ただし、(i)及び(ii)の最終濃度は、約5%w/v以下であることを条件とする)を含むことを特徴とする段落11記載の免疫原性懸濁液又は溶液。
34.安定剤が、(i)最終濃度が約1%〜約5%w/vの少なくとも1種類の還元単糖、(ii)最終濃度が約0.5%〜約5%w/vの少なくとも1種類の糖アルコール、(iii)最終濃度が約0.5%〜約5%w/vの少なくとも1種類の非還元オリゴ糖、及び(iv)最終濃度が約0.1%〜約0.3%w/vの少なくとも1種類の酸性抗酸化剤(ただし、(i)、(ii)及び(iii)の最終濃度は、約12.5%w/v以下であることを条件とする)を含むことを特徴とする段落11記載の免疫原性懸濁液又は溶液。
35.安定剤が、(i)最終濃度が約1.5%〜約4%w/vの少なくとも1種類の還元単糖、(ii)最終濃度が約0.5%〜約5%w/vの少なくとも1種類の糖アルコール、(iii)最終濃度が約0.5%〜約2.5%w/vの少なくとも1種類の非還元オリゴ糖、及び(iv)最終濃度が約0.1%〜約0.25%w/vの少なくとも1種類の酸性抗酸化剤(ただし、(i)、(ii)及び(iii)の最終濃度は、約10%w/v以下であることを条件とする)を含むことを特徴とする段落11記載の免疫原性懸濁液又は溶液。
36.段落11〜35のいずれか記載の弱毒化生CDV及びcPi2免疫原性懸濁液又は溶液の凍結乾燥方法であって、以下のステップを含む方法:(a)懸濁液又は溶液を安定剤と接触させ、それにより安定化させた免疫原性懸濁液又は溶液を作製するステップ;(b)安定化させた免疫原性懸濁液又は溶液を、安定化させた免疫原性懸濁液又は溶液のおよそのT’g値を下回る温度まで、大気圧にて冷却するステップ;(c)安定化させた免疫原性懸濁液又は溶液を、低圧での氷の昇華により、乾燥させるステップ;及び(d)さらに減圧し、安定化させた免疫原性懸濁液又は溶液の温度を上昇させることで、過剰な残留水分を除去するステップ。
37.ステップ(b)の温度が、約−40℃未満であることを特徴とする段落36記載の方法。
38.ステップ(c)の圧力が、約200μバール以下であることを特徴とする段落36又は37記載の方法。
39.ステップ(d)の圧力が、約100μバール以下であることを特徴とする段落36又は37記載の方法。
40.ステップ(d)の温度が、約20℃〜約30℃であることを特徴とする段落36〜39のいずれか記載の方法。
41.パラミクソウイルス以外の病原体に由来する少なくとも1種類の活性免疫原性成分をさらに含むことを特徴とする段落36〜40のいずれか記載の方法。
42.少なくとも1種類の活性免疫原性成分が、アデノウイルス科、パルボウイルス科、コロナウイルス科、ヘルペスウイルス科、ポックスウイルス科、ラブドウイルス科を含む病原体又はそれらの組み合わせに由来することを特徴とする段落41記載の方法。
43.少なくとも1種類の免疫原性成分が、弱毒化生イヌアデノウイルス2型(CAV2)及び弱毒化生イヌパルボウイルス(CPV)を含むことを特徴とする段落41又は42記載の方法。
44.少なくとも1種類の免疫原性成分が、1以上の異種免疫原を含むウイルスベクターを含むことを特徴とする段落41〜43のいずれか記載の方法。
45.少なくとも1種類の免疫原性成分が、1以上の異種免疫原を含むプラスミドベクターを含むことを特徴とする段落41〜44のいずれか記載の方法。
46.段落36〜45のいずれか記載の方法により作製された、安定化させて凍結乾燥させた弱毒化生CDV及びcPi2免疫原性組成物。
47.(i)最終濃度が約20%〜約50%w/wの少なくとも1種類の還元単糖、(ii)アスパラギン酸、グルタミン酸、アスコルビン酸又はそれらの組み合わせを含む最終濃度が約1.5%〜約6%w/wの少なくとも1種類の酸性抗酸化剤を含む、安定化させて凍結乾燥させた弱毒化生CDV及びcPi2免疫原性組成物。
48.(i)最終濃度が約20%〜約50%w/wの少なくとも1種類の還元単糖、(ii)アスパラギン酸、グルタミン酸、アスコルビン酸又はそれらの組み合わせを含む最終濃度が約2%〜約6%w/wの少なくとも1種類の酸性抗酸化剤、及び(iii)最終濃度が約15%〜約70%w/wの少なくとも1種類の増量剤を含む、安定化させて凍結乾燥させた弱毒化生CDV及びcPi2免疫原性組成物。
49.弱毒化生CDV、弱毒化生cPi2、及びパラミクソウイルス以外の病原体に由来する少なくとも1種類の活性免疫原性成分を含み、かつ、(i)最終濃度が約20%〜約50%w/wの少なくとも1種類の還元単糖、(ii)アスパラギン酸、グルタミン酸、アスコルビン酸又はそれらの組み合わせを含む最終濃度が約1.5%〜約6%w/wの少なくとも1種類の酸性抗酸化剤を含む、安定化させて凍結乾燥させた多価免疫原性組成物。
50.少なくとも1種類の活性免疫原性成分が、アデノウイルス科、パルボウイルス科、コロナウイルス科、ヘルペスウイルス科、ポックスウイルス科、ラブドウイルス科を含む病原体又はそれらの組み合わせに由来することを特徴とする段落49又は50記載の多価免疫原性組成物。
51.少なくとも1種類の免疫原性成分が、弱毒化生イヌアデノウイルス2型(CAV2)及び弱毒化生イヌパルボウイルス(CPV)を含むことを特徴とする段落49記載の多価免疫原性組成物。
52.少なくとも1種類の免疫原性成分が、1以上の異種免疫原を含むウイルスベクターを含むことを特徴とする段落49〜51のいずれか記載の多価免疫原性組成物。
53.少なくとも1種類の免疫原性成分が、1以上の異種免疫原を含むプラスミドベクターを含むことを特徴とする段落41〜52のいずれか記載の多価免疫原性組成物。
54.弱毒化生CDV、弱毒化生cPi2、及びパラミクソウイルス以外の病原体に由来する少なくとも1種類の活性免疫原性成分を含み、かつ、(i)最終濃度が約20%〜約50%w/wの少なくとも1種類の還元単糖、(ii)アスパラギン酸、グルタミン酸、アスコルビン酸又はそれらの組み合わせを含む最終濃度が約2%〜約6%w/wの少なくとも1種類の酸性抗酸化剤、及び(iii)最終濃度が約15%〜約70%w/wの少なくとも1種類の増量剤を含む、安定化させて凍結乾燥させた多価免疫原性組成物。
55.少なくとも1種類の活性免疫原性成分が、アデノウイルス科、パルボウイルス科、コロナウイルス科、ヘルペスウイルス科、ポックスウイルス科、ラブドウイルス科を含む病原体又はそれらの組み合わせに由来することを特徴とする段落54記載の多価免疫原性組成物。
56.少なくとも1種類の免疫原性成分が、弱毒化生イヌアデノウイルス2型(CAV2)及び弱毒化生イヌパルボウイルス(CPV)を含むことを特徴とする段落54又は55記載の多価免疫原性組成物。
57.少なくとも1種類の免疫原性成分が、1以上の異種免疫原を含むウイルスベクターを含むことを特徴とする段落54〜56のいずれか記載の多価免疫原性組成物。
58.少なくとも1種類の免疫原性成分が、1以上の異種免疫原を含むプラスミドベクターを含むことを特徴とする段落54〜57のいずれか記載の多価免疫原性組成物。
59.段落46〜58のいずれか記載の安定化させて凍結乾燥させた免疫原性組成物を含有する第一のバイアル、及び溶媒を含有する第二のバイアルを含むキット。
60.溶媒が、脱塩水、蒸留水、注射用蒸留水、緩衝液、及びアジュバントからなる群から選択されることを特徴とする段落49記載のキット。
【図面の簡単な説明】
【0246】
発明を実施するための最良の形態は、例証として記したものであって記載された特定の実施形態にのみ本発明を限定することを意図するものではなく、参照により本明細書に組み込まれる添付の図面と併用すると、最もよく理解される。
【図1A】整った形状、メレンゲ状の様相、又は海綿状の様相を呈する凍結乾燥パスティールの写真を示すものである。
【図1B】こびりついた状態の様相、スプール状の様相、及び2つに分かれた状態の様相の写真を示すものである。
【図2】(A)非還元オリゴ糖、及び(B)還元単糖のパーセンテージが、凍結乾燥ステップ終了時(T0の時点)に、log10CCID50/mlで表したCDV感染価に及ぼす作用を示すグラフを表すものである。非還元オリゴ糖及び還元単糖の最終濃度は、%重量/容量で表されている。
【図3】抗酸化化合物が、(A)凍結乾燥ステップの最終了時(T0の時点)に、及び(B)+4℃での3ヶ月の保管期間の後(T+3ヶ月)に、log10CCID50/mlで表したcPi2感染価に及ぼす作用を示すグラフを表すものであって、最終濃度は、%重量/容量で表されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種類の還元単糖及び少なくとも1種類の酸性抗酸化化合物を含む、凍結乾燥させた弱毒化生イヌジステンパー(CDV)及びイヌパラミクソウイルス2型(cPi2)免疫原性組成物用の安定剤であって、前記少なくとも1種類の酸性抗酸化化合物が、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスコルビン酸又はそれらの組合せを含む安定剤。
【請求項2】
少なくとも1種類の還元単糖が、グルコース、ガラクトース、フルクトース、マンノース、ソルボース又はそれらの組合せを含むことを特徴とする、請求項1記載の安定剤。
【請求項3】
(a)少なくとも1種類の増量剤、又は
(b)デキストラン、マルトデキストリン、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチル澱粉又はそれらの組合せを含む、少なくとも1種類の増量剤、又は
(c)少なくとも1種類の糖アルコール、又は
(d)ソルビトール、マンニトール、キシリトール、マルチトール又はそれらの組合せを含む、少なくとも1種類の糖アルコール、又は
(e)少なくとも1種類の非還元オリゴ糖、又は
(f)トレハロース、スクロース、ラフィノース又はそれらの組合せを含む、少なくとも1種類の非還元オリゴ糖、又は
(g)少なくとも1種類の糖アルコール及び少なくとも1種類の非還元オリゴ糖、又は
(h)少なくとも1種類の糖アルコールが、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、マルチトール又はそれらの組合せを含み、少なくとも1種類の非還元オリゴ糖が、トレハロース、スクロース、ラフィノース又はそれらの組合せを含む、少なくとも1種類の糖アルコール及び少なくとも1種類の非還元オリゴ糖
をさらに含むことを特徴とする請求項1記載の安定剤。
【請求項4】
CDV及びcPi2を含む弱毒化生パラミクソウイルスを含み、請求項1記載の安定剤と混合された、免疫原性懸濁液又は溶液。
【請求項5】
免疫原性懸濁液又は溶液が、パラミクソウイルス以外の病原体に由来する少なくとも1種類の活性免疫原性成分をさらに含む多価免疫原性懸濁液又は溶液であることを特徴とする請求項4記載の免疫原性懸濁液又は溶液。
【請求項6】
(a)少なくとも1種類の活性免疫原性成分が、アデノウイルス科、パルボウイルス科、コロナウイルス科、ヘルペスウイルス科、ポックスウイルス科、ラブドウイルス科を含む病原体又はそれらの組合せに由来すること、又は
(b)少なくとも1種類の活性免疫原性成分が、弱毒化生イヌアデノウイルス2型(CAV2)及び弱毒化生イヌパルボウイルス(CPV)を含むこと、又は
(c)少なくとも1種類の活性免疫原性成分が、1以上の異種免疫原を含むウイルスベクターを含むこと、又は
(d)少なくとも1種類の活性免疫原性成分が、1以上の異種免疫原を含むプラスミドベクターを含むこと
を特徴とする請求項5記載の免疫原性懸濁液又は溶液。
【請求項7】
安定剤が、
(a)最終濃度が、
約1%〜約5%w/v、若しくは
約1.5%〜約5%w/v、若しくは
約1.5%〜約4%w/v、若しくは
約2.5%〜約3%w/v、若しくは
約0.1%〜約0.3%w/vの少なくとも1種類の還元単糖、又は
(b)最終濃度が、
約0.1%〜約0.25%w/v、若しくは
約0.2%w/v、若しくは
約0.5%〜約7.5%w/vの少なくとも1種類の酸性抗酸化化合物、又は
(c)最終濃度が約1.5%〜約5%w/vの少なくとも1種類の増量剤、又は
(d)最終濃度が約0.5%〜約5%w/vの少なくとも1種類の糖アルコール、及び少なくとも1種類の還元単糖(ただし、少なくとも1種類の還元単糖及び少なくとも1種類の糖アルコールの最終濃度が、約7.5%w/v以下であることを条件とする)、
(e)最終濃度が約0.5%〜約5%w/vの少なくとも1種類の非還元オリゴ糖、及び少なくとも1種類の還元単糖(ただし、還元単糖及び非還元オリゴ糖の最終濃度が、約7.5%w/v以下であることを条件とする)、又は
(f)最終濃度が約0.5%〜約5%w/vの少なくとも1種類の糖アルコール、最終濃度が約0.5%〜約5%w/vの少なくとも1種類の非還元オリゴ糖、及び少なくとも1種類の還元単糖(ただし、還元単糖、糖アルコール及び非還元オリゴ糖の最終濃度が、約12.5%w/v以下であることを条件とする)
を含むことを特徴とする請求項4記載の免疫原性懸濁液又は溶液。
【請求項8】
安定剤が、
(a)(i)最終濃度が約1%〜約5%w/vの2種類の還元単糖の混合物、(ii)最終濃度が約0.1%〜約0.3%w/vの少なくとも1種類の酸性抗酸化剤、及び(iii)最終濃度が約0.5%〜約7.5%w/vの少なくとも1種類の増量剤、又は
(b)(i)最終濃度が約1%〜約5%w/vの少なくとも1種類の還元単糖、(ii)最終濃度が約0.5%〜約5%w/vの少なくとも1種類の非還元オリゴ糖、(iii)最終濃度が約0.1%〜約0.3%w/vの少なくとも1種類の酸性抗酸化剤、及び(iv)最終濃度が約0.5%〜約7.5%w/vの少なくとも1種類の増量剤(ただし、(i)及び(ii)の最終濃度が、約7.5%w/v以下であることを条件とする)、又は
(c)(i)最終濃度が約1.5%〜約4%w/vの少なくとも1種類の還元単糖、(ii)最終濃度が約0.5%〜約2.5%w/vの少なくとも1種類の非還元オリゴ糖、(iii)最終濃度が約0.1%〜約0.25%w/vの少なくとも1種類の酸性抗酸化剤、及び(iv)最終濃度が約1.5%〜約5%w/vの少なくとも1種類の増量剤(ただし、(i)及び(ii)の最終濃度が、約5%w/v以下であることを条件とする)、又は
(d)(i)最終濃度が約1%〜約5%w/vの少なくとも1種類の還元単糖、(ii)最終濃度が約0.5%〜約5%w/vの少なくとも1種類の糖アルコール、(iii)最終濃度が約0.1%〜約0.3%w/vの少なくとも1種類の酸性抗酸化剤(ただし、(i)及び(ii)の最終濃度が、約7.5%w/v以下であることを条件とする)、又は
(e)(i)最終濃度が約1.5%〜約4%w/vの少なくとも1種類の還元単糖、(ii)最終濃度が約1.5%〜約3%w/vの少なくとも1種類の糖アルコール、及び(iii)最終濃度が約0.1%〜約0.25%w/vの少なくとも1種類の酸性抗酸化剤(ただし、(i)及び(ii)の最終濃度が、約5%w/v以下であることを条件とする)、又は
(f)(i)最終濃度が約1%〜約5%w/vの少なくとも1種類の還元単糖、(ii)最終濃度が約0.5%〜約5%w/vの少なくとも1種類の糖アルコール、(iii)最終濃度が約0.5%〜約5%w/vの少なくとも1種類の非還元オリゴ糖、及び(iv)最終濃度が約0.1%〜約0.3%w/vの少なくとも1種類の酸性抗酸化剤(ただし、(i)、(ii)及び(iii)の最終濃度が、約12.5%w/v以下であることを条件とする)、又は
(g)(i)最終濃度が約1.5%〜約4%w/vの少なくとも1種類の還元単糖、(ii)最終濃度が約0.5%〜約5%w/vの少なくとも1種類の糖アルコール、(iii)最終濃度が約0.5%〜約2.5%w/vの少なくとも1種類の非還元オリゴ糖、及び(iv)最終濃度が約0.1%〜約0.25%w/vの少なくとも1種類の酸性抗酸化剤(ただし、(i)、(ii)及び(iii)の最終濃度が、約10%w/v以下であることを条件とする)
を含むことを特徴とする請求項4記載の免疫原性懸濁液又は溶液。
【請求項9】
(i)最終濃度が約20%〜約50%w/wの少なくとも1種類の還元単糖、(ii)アスパラギン酸、グルタミン酸、アスコルビン酸又はそれらの組合せを含む、最終濃度が約1.5%〜約6%w/wの少なくとも1種類の酸性抗酸化剤
を含む、安定化させて凍結乾燥させた弱毒化生CDV及びcPi2免疫原性組成物。
【請求項10】
(ii)のアスパラギン酸、グルタミン酸、アスコルビン酸又はそれらの組合せを含む少なくとも1種類の酸性抗酸化剤の最終濃度が、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスコルビン酸又はそれらの組合せを含む、少なくとも1種類の酸性抗酸化剤の約2%〜約6%w/wであって、(iii)最終濃度が約15%〜約70%w/wの少なくとも1種類の増量剤をさらに含むことを特徴とする請求項9記載の免疫原性組成物。
【請求項11】
パラミクソウイルス以外の病原体に由来する少なくとも1種類の活性免疫原性成分をさらに含むことを特徴とする、請求項9記載の免疫原性組成物。
【請求項12】
少なくとも1種類の活性免疫原性成分が、
(a)アデノウイルス科、パルボウイルス科、コロナウイルス科、ヘルペスウイルス科、ポックスウイルス科、ラブドウイルス科を含む病原体又はそれらの組合せに由来すること、又は
(b)弱毒化生イヌアデノウイルス2型(CAV2)及び弱毒化生イヌパルボウイルス(CPV)を含むこと、又は
(c)1以上の異種免疫原を含むウイルスベクターを含むこと、又は
(d)1以上の異種免疫原を含むプラスミドベクターを含むこと
を特徴とする請求項11記載の免疫原性組成物。
【請求項13】
弱毒化生CDV、弱毒化生cPi2、及びパラミクソウイルス以外の病原体に由来する少なくとも1種類の活性免疫原性成分を含み、(i)最終濃度が約20%〜約50%w/wの少なくとも1種類の還元単糖、(ii)アスパラギン酸、グルタミン酸、アスコルビン酸又はそれらの組合せを含む、最終濃度が約2%〜約6%w/wの少なくとも1種類の酸性抗酸化剤、及び(iii)最終濃度が約15%〜約70%w/wの少なくとも1種類の増量剤を含む、安定化させて凍結乾燥させた多価免疫原性組成物。
【請求項14】
少なくとも1種類の活性免疫原性成分が、
(a)アデノウイルス科、パルボウイルス科、コロナウイルス科、ヘルペスウイルス科、ポックスウイルス科、ラブドウイルス科を含む病原体又はそれらの組合せに由来すること、又は
(b)弱毒化生イヌアデノウイルス2型(CAV2)及び弱毒化生イヌパルボウイルス(CPV)を含むこと、又は
(c)1以上の異種免疫原を含むウイルスベクターを含むこと、又は
(d)1以上の異種免疫原を含むプラスミドベクターを含むこと
を特徴とする請求項13記載の多価免疫原性組成物。


【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−508866(P2009−508866A)
【公表日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−531340(P2008−531340)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【国際出願番号】PCT/US2006/035944
【国際公開番号】WO2007/035455
【国際公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(304040692)メリアル リミテッド (73)
【Fターム(参考)】