説明

凍結方法

【課題】磁場の存在下において食品や臓器などの対象物を非破壊状態で凍結する方法を提供する。
【解決手段】磁場内で対象物を冷却する工程を含む磁気共鳴凍結方法であって、磁場の周波数が200Hz以上である方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は凍結方法に関する。より具体的には、磁場の存在下において食品や臓器などを非破壊状態で凍結する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品等を冷凍保存する際の水分の分離や組織の破壊を抑え、食品の鮮度や風味を損なわずに冷凍できる方法として、磁気共鳴を利用した方法が提案されている(特開2000-325062号公報)。この方法は、静磁場内に配置した食品などの被凍結物に対して所定周波数の電磁波を連続的又は間欠的に照射し、被凍結物に含まれる水分子を構成する水素原子核に磁気共鳴を生じさせて水分の氷結温度を降下させ、通常以下の氷結温度で急速凍結する工程を含んでおり、細胞の破壊のない凍結が可能になることから凍結前の食品の味覚や風味を損なわない食品を融解再生できる方法として注目されている(以下、本明細書においてこの冷凍方法を「磁気共鳴凍結方法」と呼ぶ場合がある)。この磁気共鳴凍結方法に使用可能な装置などについては、例えば、国際公開WO01/24647、特開2003-139460号公報、又は特開2004-81133号公報などに記載されている。また、磁気共鳴凍結方法をカニクイザルの卵巣凍結に適用することにより、細胞破壊のない状態で長期に卵巣を凍結保存できる可能性が示されている(山海、第25回 日本受精着床学会総会、2007年8月31日)。
【0003】
磁気共鳴凍結方法は、磁場内で対象物を冷却することにより再現性よく過冷却状態をつくりだし、その後の凍結開始から完全凍結までを極めて短時間で完了することにより、凍結過程における対象物中の細胞破壊を抑制する方法である。この方法は、一般的には100Hz以下の交流電源、典型的には50又は60Hzの商用交流電源に接続されたコイルに交流を流し、コイル中央部において交流周波数に対応した周波数の変動磁場を形成させ、その磁場内で対象物を冷却する工程を含んでいる。しかしながら、従来、交流により形成される変動磁場と過冷却状態との関係は十分に解明されておらず、特に磁場の周波数と過冷却状態との関連については全く解明されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-325062号公報
【特許文献2】国際公開WO 01/24647
【特許文献3】特開2003-139460号公報
【特許文献4】特開2004-81133号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】第25回 日本受精着床学会総会, Organon Sponsored Special Symposium, Cryopreservation and Transplantation of Ovarian Tissue, A Novel Method for Cryopreservation of Ovarian Tissue in Cynomolgus Monkeys, 2007年8月31日, http://jsfi2007.umin.jp/program.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、磁場の存在下において食品や臓器などの対象物を非破壊状態で凍結する方法を提供することにある。より具体的には、従来の磁気共鳴凍結方法に比べて対象物の破壊、例えば細胞破壊などが少ない凍結方法を提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、磁気共鳴凍結方法において磁場の周波数を従来の周波数(100 Hz以下)より高めることによって凍結開始前の過冷度を改善できること、及び磁場の周波数を約2,000Hz程度とすることにより極めて高い過冷度を達成することができ、凍結開始から完了までの時間を大幅に短縮して対象物を非破壊状態で凍結できることを見出した。本発明は上記の知見を基にして完成されたものである。
【0008】
すなわち、本発明により、磁場内で対象物を冷却する工程を含む磁気共鳴凍結方法であって、磁場の周波数が200Hz以上である方法が提供される。
【0009】
本発明の好ましい態様によれば、磁場の周波数が1,000〜10,000Hzである上記の磁気共鳴凍結方法;磁場強度が0.01〜0.4 mT、好ましくは0.2 mTである上記の磁気共鳴凍結方法;凍結を-2℃以下、-40℃以上の範囲の温度で行う上記の磁気共鳴凍結方法:及び上記凍結を1分間あたり0.1〜1.0℃の温度下降により行う上記の磁気共鳴凍結方法が提供される。
【0010】
さらに好ましい態様によれば、対象物が食品である上記の磁気共鳴凍結方法;対象物が生物個体、又は生体から分離された臓器若しくは組織である上記の磁気共鳴凍結方法;対象物が細胞である上記の磁気共鳴凍結方法;対象物が核酸又はタンパク質である上記の磁気共鳴凍結方法が提供される。
【0011】
また、別の観点からは、手術中の患者から分離・採取した組織を凍結して調製した標本を用いて手術中に病理診断を行う方法であって、凍結を上記の磁気共鳴凍結方法により行う工程を含む方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明により提供される磁気共鳴凍結方法によれば、従来の磁気共鳴凍結方法に比べてより高い過冷度を達成することが可能であり、対象物の凍結開始から完了までの時間を大幅に短縮することができる。この結果、本発明の磁気共鳴凍結方法では食品や組織などの対象物を実質的に非破壊状態で凍結することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】対照として磁場周波数50Hzにおいて3回の凍結試験を行った温度変化を示した図である。
【図2】磁場周波数を変えて過冷度の平均及び分散を求めた結果を示した図である。
【図3】非凍結組織(non-frozen)、及び急速冷凍法(traditional freezing)、CAS(磁場周波数100Hz以下)、及び本発明の方法(2kHz過冷却凍結)により全身を凍結したラットの脳組織切片を顕微鏡下で観察した結果を示した図である。
【図4】非凍結組織(non-frozen)、及び急速冷凍法(traditional freezing)、CAS(磁場周波数100Hz以下)、及び本発明の方法(2kHz過冷却凍結)により全身を凍結したラットの小腸組織切片を顕微鏡下で観察した結果を示した図である。
【図5】非凍結組織(non-frozen)、及び急速冷凍法(traditional freezing)、CAS(磁場周波数100Hz以下)、及び本発明の方法(2kHz過冷却凍結)により全身を凍結したラットの肺胞組織切片を顕微鏡下で観察した結果を示した図である。
【図6】磁場周波数:2kHzでALP溶液の凍結/融解を6回繰り返した後のALP活性を示した図である。ステンレスチューブを用いた場合の結果を示す。
【図7】磁場周波数:2kHzでALP溶液の凍結/融解を6回繰り返した後のALP活性を示した図である。ステンレスチューブを用いない場合の結果を示す。
【図8】磁場周波数:2kHzでGFPP溶液の凍結/融解を6回繰り返した後のGFPの蛍光強度を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の磁気共鳴凍結方法は、磁場内で対象物を冷却するにあたり、磁場の周波数が200Hz以上であることを特徴としている。磁場内で対象物を冷却する工程を含む磁気共鳴凍結方法の基本的概念については、例えば、特開2000-325062号公報に記載されており、この方法に用いるための装置などについては国際公開WO 01/24647、特開2003-139460号公報、及び特開2004-81133号公報などに記載されているので、当業者はこれらの刊行物を参照することにより磁気共鳴凍結方法の概念を正確に理解することができる。これらの刊行物の開示の全てを参照により本明細書の開示に含める。
【0015】
磁気共鳴凍結方法を行うにあたり、磁場を形成するコイルには交流電流を流す必要があるが、磁場の周波数は交流電流の周波数に一致するので、本発明の方法において磁場の周波数を調節するためにはコイルに流す交流電流の周波数を調節すればよい。例えば、容易に入手可能なファンクションジェネレータにより所望の周波数の交流電流を発生させ、その周波数に対応した周波数の磁場をコイル内に形成することができる。
【0016】
一般的には、磁場の周波数は200Hz以上であれば特に限定されないが、例えば、好ましくは400Hz以上、より好ましくは600Hz以上、さらに好ましくは800Hz以上、特に好ましくは1,000Hz以上の周波数を選択することができる。周波数の上限は特に限定されないが、例えば200,000Hz以下、好ましくは100,000Hz以下、さらに好ましくは10,0000Hz以下、特に好ましくは5,000Hz以下である。本発明の好ましい態様によれば、磁場の周波数が1,000〜10,000Hzの範囲であり、特に好ましいのは約2,000Hz程度の周波数である。
【0017】
磁気共鳴凍結方法における磁場強度は特に限定されず、対象物の種類や大きさなどに応じて適宜選択可能であるが、例えば卵巣などの小型臓器や細胞を凍結する場合には、例えば0.01〜0.4 mT、好ましくは0.2 mT程度に設定することができる。凍結操作を行う温度は特に限定されないが、例えば-2℃以下、-40℃以上の範囲、好ましくは-20℃以下、-33℃以上の範囲、又は-20℃以下、-40℃以上の温度で行うことができる。凍結にあたり、温度を例えば1分間あたり0.1〜1.0℃の割合で下降させることができ、好ましくは1分間あたり約0.5℃の割合で下降させることができる。開始時のコイル内冷却槽温度を約-2℃として-0.5℃/分の割合で温度下降させて、例えば最終のコイル内温度を-33℃とすることが好ましい。
【0018】
磁気共鳴凍結方法に用いる装置は、例えば、株式会社アビーから種々の装置が提供されているが(http://www.abi-net.co.jp/, CAS: Cell Alive System)、本発明の磁場共鳴凍結法を行なうにあたっては、これらの凍結装置において磁場周波数を調節する装置を付加すればよい。例えば、上述のようにファンクションジェネレータを介して交流電流をコイルに流す装置を付加することが好ましい。これらの装置はいずれも冷凍庫内で50又は60Hzの商用交流電流により磁場を形成させて対象物中の水分子を振動させ、-10℃程度の温度で凍らない過冷却状態をつくり、-20℃以下で細胞全体を一気に凍結させる装置として提供されている。磁場の周波数を上記の周波数に高めることにより、さらに低い温度で過冷却状態が達成され、極めて短時間に対象物は過冷却状態から完全凍結状態に至る。また、冷却槽には不凍液としてエタノールや水/エチレングリコールの混合物などを充填してもよい。
【0019】
本発明の磁気共鳴凍結方法により凍結可能な対象物は水分を含むものである限り特に限定されないが、例えば、野菜類、穀類、肉類、又は加工食品などの食品類;ヒトを含む哺乳類動物、昆虫、又は線虫などのすでに死亡している生物個体;卵巣、精巣、又は肝臓などの生体から分離された臓器;筋肉、脂肪、又は皮膚などの生体から分離された組織;血液、リンパ液、又は精液などの生体から分離された体液;培養細胞、卵細胞、精細胞、又は受精卵などの細胞や細胞小器官;DNAやRNAなどの核酸類;コラーゲン、各種受容体、又は各種酵素などのタンパク質類;病理診断用標本作成のために生体から分離された組織切片;あるいは生理食塩水や緩衝液・凍結保護剤などの溶液などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。本発明の磁気共鳴凍結方法は凍結時に組織や細胞の破壊が生じないので、例えば食品類の凍結のほか、卵巣や精巣などの臓器又は組織の凍結を行う場合に好適に使用することができる。
【0020】
また、本発明の磁気共鳴凍結方法を用いて、手術中の患者から分離・採取した組織を凍結して病理標本を調製することができ、その病理標本を用いて手術中に病理診断を行うこともできる。例えば、患者の手術中に患者から分離・採取された組織を本発明の磁気共鳴凍結方法により凍結することができる。手術の種類は特に限定されず、観血的又は非観血的手術のいずれであってもよく、内視鏡による手術であってもよい。組織としては、例えば腫瘍組織など外観上識別可能な病変組織のほか、外観上は正常組織と見分けがつかないが、悪性腫瘍の浸潤が疑われるリンパ組織など、任意の組織を対象にすることができる。組織の用語は臓器の全部又は一部のほか、体液なども含めて最も広義に解釈する必要があり、いかなる意味においても限定的に解釈してはならない。例えば、悪性腫瘍を摘出する手術の場合には、摘出した悪性腫瘍組織の周辺部の組織を磁気共鳴凍結法により凍結して、周辺部位に悪性腫瘍細胞が存在しないことを確認することができる。
【0021】
患者から分離・採取した組織を凍結する前の処理は特に限定されないが、例えば、氷冷した生理食塩水などで組織を洗浄し、包埋剤(例えばOCTコンパウンド(フナコシ)など)を入れた包埋皿に組織を入れ、この組織と包埋皿をサランラップなどで包んだ後に、ナイロンパックに入れて脱気して密閉する処理を行うことができる。もっとも、この工程は適宜改変ないし修飾可能であり、場合によっては適宜省略することも可能である。
【0022】
凍結された組織から切片を調製して病理診断用の標本を作製する方法は特に限定されず、従来の術中迅速病理診断法などで用いられれている通常の方法を採用することができる。一般的には凍結された組織から数マイクロメートル、好ましくは5〜7μm程度の厚さの切片を調製してスライドガラスに貼り付けて風乾し、通常の方法に従ってヘマトキシリン・エオシンによる染色を行えばよい。このようにして得られた標本を顕微鏡下で観察して細胞の形態などを確認することにより、病理診断を行うことができる。
【0023】
また、凍結された組織から数マイクロメートル、好ましくは5〜7μm程度の厚さの切片を調製してスライドガラスに貼り付けて風乾した後、必要に応じて汎用されている固定液(例えばエタノール、アセトン、ホルマリン、メタノール、又はその組み合わせ)により組織を固定し、特定の膜タンパク質に対して特異的な抗体(一次抗体)を作用させ、さらに二次抗体を作用させて組織免疫化学的染色を行うことにより、標本中の組織における膜タンパク質の存在や局在を確認することができる。上記の方法において、一次抗体のみを使用し、二次抗体を使用しない染色法も適用可能である。
【0024】
より具体的には、例えば、凍結切片作製→固定15秒→PBS洗浄10秒を3回→HRP標識ポリマー結合一次抗体との反応(3分)→PBS洗浄10秒を5回→DAB染色2分→水洗5秒→5%メチルグリーン核染色→水洗+脱水+透徹+封入で合計20秒の工程を経て染色を行なうことができるが、この工程に限定されることはない。このようにして、特定の疾患の病変組織において特異的に発現する膜タンパク質の存在を証明して、病理診断を確定させることができる。特定の膜タンパク質としては、例えば、癌マーカーであるEMA(上皮性腫瘍マーカー)などが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の方法は下記の実施例に限定されることはない。
例1
内径40 mm、深さ40 mmのアルミ製冷却槽の外側に内径80 mm、深さ80 mmのコイル(巻き数6)を配置し、コイル及び冷却槽を冷却装置(スターリングエンジン、ツインバード社、SC-UD08)に乗せた。コイルに交流電流発生用のファンクションジェネレータを接続した。この装置を用いて生理食塩水(凝固点:-0.65℃) 1 mlを冷却して凍結実験を行った。磁場強度を0.12±0.02 mT、冷却速度を0.8K/minとして、交流電流の周波数を0Hz(磁場なし)、50Hz、200Hz、2,000Hz、20,000Hz、又は200,000Hzとして異なる磁場周波数についてそれぞれ12回の実験を行った。磁場周波数50Hzの場合に3回の試験を行った温度変化を図1に示す。各試験について「過冷度」を生理食塩水の凝固点と過冷却解消直前の温度の差の絶対値として求め、平均及び分散を求めて0Hz(磁場なし)の場合に対してウェルチ95%片側検定を用いて母平均の有意差を検定した。
【0026】
結果を図2に示す。磁場周波数200Hz、2,000Hz、20,000Hz、及び200,000Hzのいずれにおいても過冷却の促進が認められたが、50Hzの場合には0Hz(磁場なし)の場合と比べて有意差は認められなかった。
【0027】
例2
Lewis雌性ラット2匹(285g、280g)を24時間絶食後にエーテル麻酔下にて安楽死させ、直後に臓器は摘出せずそのまま凍結実験に用いた。凍結装置の冷却槽に60%エチレングリコールを満たし、可能な限り空気をのぞいてナイロンパックに封入したラットを錘のついたゲージに入れて冷却槽に沈めた。磁場強度を0.1〜0.2 mTとし、2℃で1時間冷却した後に-0.5℃/分間の速度で冷却し、-30℃まで冷却して凍結を行った。冷却開始から凍結終了までに2時間45分を要した。磁場周波数は2,000Hzとした。
【0028】
凍結組織から組織切片を5〜7μmの厚さにスライスし、切片をスライドガラスに貼り付けて30分間風乾した。組織切片の染色はヘマトキシリン・エオシン染色により、以下の方法で行った。スライドを95%エタノールに2分間浸漬して流水で洗浄;ヘマトキシリン液に1分間浸漬して流水で洗浄;エオシンY液に30秒間浸漬して流水で洗浄;スライドを70%, 80%, 90%, 100%エタノールの順につけて脱水後、キシレンに浸漬し、マリノールで封入。対照として、100Hz以下の磁場周波数で凍結した組織、及び液体窒素で急速凍結したコントロール試料から切片を調製して同様に染色した。得られた標本を光学顕微鏡(×100又は×400)で観察した。
【0029】
脳(図3)は脳組織自体の構造は破壊されているものの、本発明の方法により磁場周波数2,000Hzで凍結した組織においては10倍近く脳神経細胞の形態上の保存が認められた。小腸(図4)では急速凍結法及び100Hz以下の磁場周波数の場合には粘膜の脱落及び基底膜の組織間空隙が認められたが、本発明の方法による凍結では脱落及び空隙はほとんど認められなかった。肺胞(図5)では急速凍結法及び100Hz以下の磁場周波数の場合には肺胞構造が破壊されていたが、本発明の方法による凍結では肺胞構造が保存されており、毛細血管内の赤血球も保存されていた。
【0030】
例3
アルカリホスファターゼ(ALP)及びグリーンフルオレセントプロテイン(GFP)を用いて本発明の方法による凍結と融解を繰り返して変性の程度を確認した。サンプル100μlをポリエチレン製サンプルチューブに入れ、アルミボール(直径0.5mm)を1 ml充填したステンレスチューブ(1×1×4 cm)中に格納して、磁場周波数:30Hz又は2,000Hz、磁場強度:0.8mTの条件下で、凍結条件:30℃から-40℃まで45分間、融解条件:凍結終了後に30℃まで20分間を1サイクルとして凍結/融解を6回繰り返した。
【0031】
ALPを用いた活性測定は以下の方法で行った。p-ニトロフェニルリン酸を含む炭酸塩緩衝液(pH9.8)に対してサンプルを作用させると、検体中のアルカリホスファターゼによりp-ニトロフェニルリン酸はp-ニトロフェノールとリン酸に分解され、生成したp-ニトロフェノールがアルカリ性側で黄色を呈する。この発色を405nmの吸光度で測定することにより検体中のアルカリホスファターゼ活性値を求めた。ALP(10 units/μl)を蒸留水で150倍に希釈し(0.67 units/μl)、上記の条件で凍結/融解を6回繰り返し、2回目、4回目、及び6回目の融解後のサンプルを蒸留水で1,000倍に希釈して(100%残存時の活性:0.67 munits/μl)、活性測定を行った。ステンレスチューブを用いずにサンプルチューブをアルミボールに沈めた状態での試験も同様にして行った。結果を図6(ステンレスチューブあり)及び図7(ステンレスチューブなし)に示す。磁場周波数:2kHzで凍結/融解を繰り返した場合には、特にステンレスチューブを用いない場合に6回目の凍結/融解後にもALP活性が相当程度残存していた。磁場内で凍結/融解を行うことにより凍結過程におけるタンパク質の高次構造の変性を抑制することができ、酵素活性を保つことができたと考えられる。
【0032】
GFP(1μg/ml)を蒸留水で25倍希釈し(40 ng/ml)、上記の条件で凍結/融解を6回繰り返し、2回目、4回目、及び6回目の融解後のサンプルを蒸留水で4倍に希釈して(100%残存時の含有量:10 ng/ml)、485 nmの励起光を照射して535 nmの蛍光を検出した。結果を図8に示す。磁場周波数:2kHzで凍結/融解を繰り返した場合には6回目の融解後にもGFPに高い蛍光強度が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁場内で対象物を冷却する工程を含む磁気共鳴凍結方法であって、磁場の周波数が200Hz以上である方法。
【請求項2】
磁場の周波数が1,000〜10,000Hzである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
磁場強度が0.01〜0.4 mTである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
凍結を-2℃以下、-40℃以上の範囲の温度で行う請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
上記凍結を1分間あたり0.1〜1.0℃の温度下降により行う請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−101602(P2011−101602A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256748(P2009−256748)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】