説明

凍結装置、凍土計算システム、凍結方法及びプログラム

【課題】凍土の供用に必要最低限の凍土形成時期を知ることで、凍土造成期間を短縮することができ、またブライン温度を制御することで、必要以上に凍土が成長することによる凍上現象や凍結膨張圧を低減することが可能な凍結装置、凍土計算システム、凍結方法等を提供する
【解決手段】凍土最大応力が凍土強度よりも小さくなった場合には、最適凍土温度算出手段63により、最適凍土温度が算出され、さらに、最適ブライン温度算出手段65により、最適なブライン温度が算出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中切拡げ工事やシールド機の地中接合部等の工事の際の止水等のために、地盤を凍結する人工地盤凍結工法において、凍土造成期間を短縮することができ、また必要以上に凍土が成長することによる凍上現象や凍結膨張圧を低減することが可能な凍結装置、凍土計算システム、凍結方法及びプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
人工地盤凍結工法は、薬液注入による地盤改良と比較して、均質かつ確実な地盤改良が可能であり、また、大深度の工事においては、地上からの地盤改良が困難であるとともに高水圧下での確実な地盤改良のために、人工地盤凍結工法が採用される場合が多い。人工地盤凍結工法によれば、工事完了後に凍土を解凍することで、もとの地盤に戻ることから、環境への負担も小さく、今後更に様々な分野へ適用されることが予測されている。
【0003】
図10は、シールド機の地中接合部等の工事を示す図である。シールド機301a及びシールド機301bによって、シールドトンネル307a、307bが施工され、施工された各シールドトンネルを接合するため、各シールドトンネルより凍結管303a、303bを設け、凍土305a、305bを施工する。凍土305a、305bの形成により、地盤の補強及び止水を行うことでき、工事を安全かつ確実に行なうことができる。
【0004】
このような人工地盤凍結工法においては、埋設された凍結管へ冷媒を流して周囲の地盤を冷却し、凍土を生成・成長させる。冷媒としては、通常、ブライン(不凍液)が使用され、概ね−25℃〜−35℃程度に冷却されて使用される。しかし、このような温度のブラインを循環させて必要厚さの凍土を形成しようとすると、施工状況によっては、凍土の形成に2〜3ヶ月を要し、工期が長くなるという問題がある。
【0005】
一方、凍土の形成速度は、凍結管へ循環させるブライン温度に大きく依存する。このため、工期を短縮するため、より低い温度の冷媒である液化ガスを使用して凍土を形成する方法がある(特許文献1)。
【特許文献1】特開2007−169967号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1にかかる凍結装置は、循環する冷媒温度を低くすることで凍土の形成速度を上げ、工期を短縮できるものであるが、凍土厚のみを考慮するため、冷媒温度を低くすることによる、凍土の形成速度の上昇のみによる効果しか得ることができない。また、従来の冷却設備を大幅に変更する必要があり、また、大規模な工事においては、冷媒費用がかかるという問題がある。また、設定された凍土厚となった以降も凍土の成長が進行するため、不要なエネルギーを消費し、さらに、凍土厚の増加に伴う凍上現象や凍結膨張圧が大きくなるという問題がある。
【0007】
また、凍結対象領域が凍結後に、冷媒の供給を停止又は冷媒温度を上げる場合であっても、凍結対象領域の設定には、一定の凍土温度を想定した凍土厚のみが考慮されるため、凍土温度と凍土の強度の関係が全く考慮されておらず、凍土強度の面からは不要な凍土が形成されるため、工期、コストの面からも、凍土が効果的に利用されていないという問題がある。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、単に凍土厚のみで凍土形成を判断するのではなく、凍土温度による単位面積当たりの凍土強度(以下、単に「凍土強度」と称する)を考慮することで、その時点毎の凍土温度に応じた凍土の供用に必要最低限の凍土形成時期を知ることができ、このため凍土造成期間を短縮することができ、またブライン温度を制御することで、必要以上に凍土が成長することによる凍上現象や凍結膨張圧を低減することが可能な凍結装置、凍土計算システム、凍結方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するため、第1の発明は、地盤に埋設された凍結管と、前記凍結管周辺に埋設された複数の温度計と、前記凍結管へ所定の温度のブラインを流すブライン冷却循環装置と、前記温度計で測定される地盤温度データと、前記ブライン冷却循環装置で測定されるブライン温度データとを用いて、凍土温度と凍土強度との関係から最適ブライン温度を算出し、前記凍結管へ前記最適ブライン温度のブラインを循環するように前記ブライン冷却循環装置を制御する制御装置と、を具備することを特徴とする凍結装置である。
【0010】
前記制御装置は、前記温度計で測定される地盤温度データと、前記温度計の設置位置とから凍土厚を算出する凍土厚算出手段と、前記ブライン冷却循環装置で測定されるブライン温度データと、前記凍土厚とから凍土温度を算出する凍土温度算出手段と、前記凍土温度から、凍土強度を算出する凍土強度算出手段と、凍土を供用した場合に凍土内に発生する凍土最大応力を、前記凍土厚から算出する凍土最大応力算出手段と、前記凍土強度と前記凍土最大応力とを比較する凍土応力比較手段と、前記凍土強度が前記凍土最大応力よりも大きい場合に、前記凍土最大応力から、最適凍土温度を算出する最適凍土温度算出手段と、前記最適凍土温度と、前記凍土厚とから最適ブライン温度を算出する最適ブライン温度算出手段と、を具備してもよい。
【0011】
有限要素法により、ブライン温度と凍結管設置位置とから熱伝導解析及び地下水の浸透流を連立して解析することで、予測凍土厚を算出可能な熱伝導浸透流連成解析装置を更に具備し、前記熱伝導浸透流連成解析装置は、ブライン温度を制御してから実際にブライン温度が変化するまでの遅れ時間から、前記遅れ時間経過後における予測凍土厚を算出する遅れ時間経過後凍土厚算出手段を具備し、前記制御装置は、前記遅れ時間経過後凍土厚から前記凍土最大応力を補正する最大応力補正手段を更に具備してもよい。
【0012】
第1の発明によれば、凍土温度と凍土強度との関係を用いて、凍土温度から凍土強度を算出することで、各時点における凍土温度に応じた必要最低限の凍土厚さを知ることができ、このため、必要以上に凍土厚を成長させることなく凍土の供用を開始することができ、工期を大幅に短縮することができる。また、凍土厚の増加に伴い、必要な凍土温度を逆算し、凍土厚に応じた最適なブライン温度を算出するため、不要なエネルギーの消費を削減するともに、凍上現象や凍結膨張圧を低減することができる。また、ブライン温度変化の遅れ時間を考慮すれば、更に適切なブライン温度を設定することができ、凍土の利用効率に優れた凍結装置を提供することができる。
【0013】
第2の発明は、有限要素法により、ブライン温度と凍結管設置位置とから熱伝導解析と地下水の浸透流を連立して解析することで、凍土厚及び凍土温度の経時変化を算出可能な熱伝導浸透流連成解析手段と、前記熱伝導浸透流連成解析手段により算出された前記凍土温度と、前記ブライン温度とを用いて、凍土強度と凍土温度との関係から最適ブライン温度を算出するブライン温度制御手段と、前記最適ブライン温度を前記熱伝導浸透流連成解析手段へ適用し、凍土厚や凍土温度の経時変化を算出することを特徴とする凍土計算システムである。
【0014】
前記ブライン温度制御手段は、前記熱伝導浸透流連成解析手段により算出された凍土温度から、凍土強度を算出する凍土強度算出手段と、凍土を供用した場合に凍土内に発生する凍土最大応力を、前記凍土厚から算出する凍土最大応力算出手段と、前記凍土強度と前記凍土最大応力とを比較する凍土応力比較手段と、前記凍土強度が前記凍土最大応力よりも大きい場合に、前記凍土最大応力から、最適凍土温度を算出する最適凍土温度算出手段と、前記最適凍土温度と、前記凍土厚とから最適ブライン温度を算出する最適ブライン温度算出手段と、を具備してもよい。
【0015】
ブライン温度を制御してから実際にブライン温度が変化するまでの遅れ時間から、前記遅れ時間経過後における凍土厚を算出する遅れ時間経過後凍土厚算出手段と、前記遅れ時間経過後凍土厚から前記凍土最大応力を補正する最大応力補正手段と、を更に具備してもよい。
【0016】
第2の発明によれば、凍土温度と凍土強度との関係を用いて、凍土温度から凍土強度を算出することで、各時点における凍土温度に応じた必要最低限の凍土厚さを知ることができる。このため、必要以上に凍土厚を成長させることなく、最短の凍土の供用開始時期を算出することができる。また、凍土厚の増加に伴い、必要な凍土温度を逆算し、凍土厚に応じた最適なブライン温度を算出するため、不要なエネルギーの消費を削減をも考慮し、凍上現象や凍結膨張圧を低減することが可能な凍土計算を行うことができる。また、ブライン温度変化の遅れ時間を考慮すれば、更に適切なブライン温度を設定することができ、凍土の利用効率に優れた凍土計算システムを提供することができる。
【0017】
第3の発明は、凍結管及び温度計を設置する工程と、ブライン冷却循環装置により、前記凍結管へブラインを循環させる工程と、前記温度計により地盤温度を測定し、更に前記ブラインの温度を測定する工程と、前記地盤温度と前記ブライン温度とを用いて、凍土強度と凍土温度との関係から最適ブライン温度を算出する工程と、前記凍結管へ前記最適ブライン温度のブラインを循環させる工程と、を具備することを特徴とする凍結方法である。
【0018】
前記最適ブライン温度を算出する工程は、前記温度計で測定した地盤温度データと、前記温度計の設置位置とから、凍土厚を算出する工程と、前記ブライン冷却循環装置で測定されるブライン温度データと、前記凍土厚とから、凍土温度を算出する工程と、前記凍土温度から、凍土強度を算出する工程と、凍土を供用した場合に凍土内に発生する凍土最大応力を、前記凍土厚から算出する工程と、前記凍土強度と前記凍土最大応力とを比較する工程と、前記凍土強度が前記凍土最大応力よりも大きい場合に、前記凍土最大応力から、最適凍土温度を算出する工程と、前記最適凍土温度と、前記凍土厚とから、最適ブライン温度を算出する工程と、を具備してもよい。
【0019】
前記最適ブライン温度を算出後、有限要素法により、ブライン温度と凍結管設置位置とから熱伝導解析と地下水の浸透流を連立して解析することで、ブライン温度を制御してから実際にブライン温度が変化するまでの遅れ時間経過後における凍土厚を算出する工程と、前記遅れ時間経過後の凍土厚から前記凍土最大応力を補正し、補正後凍土最大応力を算出する工程と、前記補正後凍土最大応力から、補正後最適凍土温度を算出する工程と、前記補正後最適凍土温度と、前記遅れ時間経過後の凍土厚とから、補正後最適ブライン温度を算出する工程と、を更に具備し、前記凍結管へ前記最適ブライン温度に代えて、前記補正後最適ブライン温度のブラインを循環させてもよい。
【0020】
第3の発明によれば、凍土温度と凍土強度との関係を用いて、凍土温度から凍土強度を算出することで、各時点における凍土温度に応じた必要最低限の凍土厚さを知ることができ、このため、必要以上に凍土厚を成長させることなく、凍土の供用開始時期を知ることができ、工期を大幅に短縮することができる。また、凍土厚の増加に伴い、必要な凍土温度を逆算し、凍土厚に応じた最適なブライン温度を算出するため、不要なエネルギーの消費を削減するともに、凍上現象や凍結膨張圧を低減することが可能な凍土計算を行うことができる。また、ブライン温度変化の遅れ時間を考慮すれば、更に適切なブライン温度を設定することができ、凍土の利用効率に優れた凍結方法を提供することができる。
【0021】
第4の発明は、コンピュータを第1の発明に記載の制御装置として機能させるためのプログラムである。第4の発明によれば、第1の発明をコンピュータにより実施可能なプログラムを提供することができる。
【0022】
第5の発明は、コンピュータを第2の発明の凍土計算システムとして機能させるためのプログラムである。第5の発明によれば、第2の発明をコンピュータにより実施可能なプログラムを提供することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、単に凍土厚のみで凍土形成を判断するのではなく、凍土温度による凍土強度を考慮することで、その時点毎の凍土温度に応じた凍土の供用に必要最低限の凍土形成時期を知ることができ、このため凍土造成期間を短縮することができ、またブライン温度を制御することで、必要以上に凍土が成長することによる凍上現象や凍結膨張圧を低減することが可能な凍結装置、凍土計算システム、凍結方法等を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は、本実施の形態にかかる凍結装置1を示す概略図である。
【0025】
凍結装置1は主に、制御装置3、ブライン冷却循環装置5、データ収集装置7、表示装置8、凍結管13、温度計17等から構成される。ブライン冷却循環装置5は、図示を省略したブラインタンク、ブライン循環ポンプ、ブラインクーラ等を有し、それぞれが配管で接続されている。すなわち、ブライン冷却循環装置5は、ブライン31の温度調整が可能であるとともに、ブライン31を所定の流量で循環させることができる。
【0026】
ブライン冷却循環装置5には、入側配管9と出側配管11とが接続されており、入側配管9と出側配管11は、凍結管13と接続されている。凍結管13は、内部が2重構造となっており、内部をブライン31が循環する。ブライン冷却循環装置5がブライン31を入側配管9へ流すと(図中矢印A方向)、ブライン31は凍結管13の2重構造内側を流れる。
【0027】
ブライン31が凍結管13の先端まで流れると、流れる方向を変えて凍結管13内部の2重構造外側を通過し、出側配管11からブライン冷却循環装置5へ戻る(図中矢印B方向)。ブライン31は、ブライン冷却循環装置5内で所定の温度まで冷却された後に凍結管13へ送られるため、ブライン31が凍結管13を流れる際に、周囲の地盤を凍結し、凍土21を形成する。
【0028】
凍結管13の周囲には測温管15が設置され、測温管15の内部には複数の温度計17が設けられる。温度計17は地盤の温度を測定する。すなわち、温度計17が所定の間隔をあけて設けられ、各温度計17によってそれぞれの温度計17設置位置の地盤温度を測定する。このため、温度計17によって、凍結管13周囲の地盤のおおよその温度分布を知ることができる。
【0029】
ブライン冷却循環装置5と各温度計17は、データ収集装置7と接続されている。従って、データ収集装置7は、ブライン冷却循環装置5よりブライン温度データ25を収集することができ、また、各温度計17からは地盤温度データ23を収集することができる。データ収集装置7は、制御装置3とも接続されており、収集したデータ27を制御装置3へ送信することができる。なお、制御装置3とブライン冷却循環装置5と各温度計17を直接接続すれば、制御装置3が直接ブライン温度データ25及び地盤温度データ23を得ることができるため、この場合にはデータ収集装置7は不要である。
【0030】
制御装置3は、得られたデータ27及び予め設定されたデータベース等により、種々の計算を行い、最適ブライン温度を算出する。なお、制御装置3の詳細は後述する。制御装置3はブライン冷却循環装置5と接続されており、最適ブライン温度データ29をブライン冷却循環装置5へ送信し、ブライン冷却循環装置5におけるブライン温度を変更し制御する。
【0031】
制御装置3は、後述するようにそれ自身が表示部を有していても良いが、別途表示装置8と接続し、表示装置8を施工現場とは離れた場所に設置することで、遠隔地でも凍土21の状況を把握することができる。なお、図1においては、地面19上に凍結装置1の大部分が設けられているが、地下の立坑内やトンネル内に凍結装置1を設置することもできる。この場合、表示装置8のみを地上に設置すれば、凍土21の状況を地上で把握することができる。表示装置8には、例えば凍土分布やブライン温度、凍土の供用可否等が表示される。
【0032】
なお、ブライン31としては、一般的な塩化カルシウム水溶液でもよく、また、より低温で使用可能なギ酸塩や酢酸塩などのカルボン酸塩の水溶液のブライン等を使用することができる。本発明においては、凍結管13へ初期に循環させるブライン温度については特定するものではないが、工期の短縮の効果を得ることができるとともに、本発明の効果をより顕著なものとするためには、初期のブライン温度は通常よりも低目の−50℃程度とすることが望ましく、好ましくは、−65℃から−35℃程度である。この場合、安全上、取り扱い上及びコスト等から、ブラインとしてはカルボン酸塩の水溶液を用いることが望ましい。
【0033】
次に、制御装置3について説明する。図2は、制御装置3を実現するコンピュータのハードウェア構成図である。制御装置3は、制御部33、記憶部35、メディア入出力部37、通信制御部39、入力部41、表示部43、周辺機器I/F部45等が、バス47を介して接続される。
【0034】
制御部33は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等で構成される。CPUは、記憶部35、ROM、記録媒体等に格納されるプログラムをRAM上のワークメモリ領域に呼び出して実行し、バス47を介して接続された各装置を駆動制御し、制御装置3が行う後述する処理(図4、図5参照)を実現する。
【0035】
ROMは、不揮発性メモリであり、コンピュータのブートプログラムやBIOS等のプログラム、データ等を恒久的に保持している。RAMは、揮発性メモリであり、記憶部35、ROM、記録媒体等からロードしたプログラム、データ等を一時的に保持するとともに、制御部33が各種処理を行う為に使用するワークエリアを備える。
【0036】
記憶部35は、HDD(ハードディスクドライブ)であり、制御部33が実行するプログラム、プログラム実行に必要なデータ、OS(オペレーティングシステム)等が格納される。プログラムに関しては、OS(オペレーティングシステム)に相当する制御プログラムや、後述の処理に相当するアプリケーションプログラムが格納されている。これらの各プログラムコードは、制御部33により必要に応じて読み出されてRAMに移され、CPUに読み出されて各種の手段として実行される。
【0037】
メディア入出力部37(ドライブ装置)は、データの入出力を行い、例えば、フロッピー(登録商標)ディスクドライブ、CDドライブ(−ROM、−R、RW等)、DVDドライブ(−ROM、−R、−RW等)、MOドライブ等のメディア入出力装置を有する。
【0038】
通信制御部39は、通信制御装置、通信ポート等を有し、コンピュータとネットワーク49間の通信を媒介する通信インタフェースであり、ネットワーク49を介して、他のコンピュータ間との通信制御を行う。
【0039】
入力部41は、データの入力を行い、例えば、キーボード、マウス等のポインティングデバイス、テンキー等の入力装置を有する。入力部41を介して、コンピュータに対して、操作指示、動作指示、データ入力等を行うことができる。
【0040】
表示部43は、CRTモニタ、液晶パネル等のディスプレイ装置、ディスプレイ装置と連携してコンピュータのビデオ機能を実現するための論理回路等(ビデオアダプタ等)を有する。
【0041】
周辺機器I/F(インタフェース)部45は、コンピュータに周辺機器を接続させるためのポートであり、周辺機器I/F部45を介してコンピュータは周辺機器とのデータの送受信を行う。周辺機器I/F部45は、USBやIEEE1394やRS−232C等で構成されており、通常複数の周辺機器I/Fを有する。周辺機器との接続形態は有線、無線を問わない。
【0042】
バス47は、各装置間の制御信号、データ信号等の授受を媒介する経路である。
【0043】
次に、図3を参照しながら、制御装置3の構成について説明する。図3は、制御装置3の概略構成図である。制御装置3は、凍土厚算出手段51、凍土温度算出手段53、凍土強度算出手段55、凍土最大応力算出手段57、凍土応力比較手段59、最適凍土温度算出手段63、最適ブライン温度算出手段65、熱伝導浸透流連成解析手段67、遅れ時間経過後凍土厚算出手段69、最大応力補正手段71、ブライン温度制御手段73、地盤情報データベース75を備える。
【0044】
凍土厚算出手段51は、温度計17からの地盤温度データ23を受け取り、算出された地盤の温度分布と凍結管13との位置関係から、凍土厚を算出する。例えば、凍土21と非凍結地盤との境界が0℃であるとすれば、地盤の温度分布から0℃位置を算出し、0℃位置から凍結管13位置までが凍土21であるとして、その厚み(距離)を計算する。
【0045】
凍土温度算出手段53は、温度計15から受け取った地盤温度データ23を基に地盤温度分布を求め、地盤温度分布と凍結管13の配置から、凍土厚算出手段51により算出された凍土厚の範囲内の平均凍土温度(以下単に「凍土温度」と称する)を算出する。凍土温度の算出は、凍土内の温度分布が、通常ほぼ直線的になることから、例えば、凍結管13表面温度(すなわちブライン温度)と凍土21表面温度(すなわち、凍土21と非凍結地盤との境界温度で、例えば0℃)の平均温度を凍土温度として用いることができる。
【0046】
なお、実際には複数の凍結管13の配置によって、上述のような単純な式では正確に凍土温度を求めることができないが、このような凍土の温度分布と凍土厚から凍土温度を算出する方法としては、例えば、「地盤凍結工法 −計画・設計から施工までー」(社団法人日本建設機械化協会 昭和57年2月発行)40頁に記載の方法が知られている。
【0047】
凍土強度算出手段55は、凍土温度から、凍土強度を算出する。凍土強度は、主に凍土温度、地盤土質、地盤水分量、塩分濃度等によって定まる。一般的に地盤土質、水分量あるいは塩分濃度が一定であれば、凍土強度は凍土温度の低下に伴って上昇する。凍土温度と凍土強度の関係は、種々の研究がなされており、地盤種類、水分量毎に例えば、「地盤凍結工法 −計画・設計から施工までー」(社団法人日本建設機械化協会 昭和57年2月発行)35頁に報告されている。
【0048】
これらの凍土温度と凍土強度の関係は、予め地盤情報データベース75に記憶されており、凍土強度算出手段55は、予め設定された、施工現場の地盤情報等に基づき、凍土温度から、凍土強度を算出することができる。この凍土強度は、通常は安全率を考慮して十分小さく設定される。
【0049】
凍土最大応力算出手段57は、凍土を供用した場合に凍土に作用する最大応力を算出する。算出すべき応力の種類は、一般的に圧縮応力、曲げ応力及びせん断応力であり、凍土に作用する土圧や水圧などの荷重条件及び支持条件、前記凍土厚を含む凍土の幾何学的条件から算出することができる。その算出には、構造力学の一般的な公式を用いることができる。
【0050】
凍土応力比較手段59は、算出された前記の凍土強度と、前記の凍土最大応力を比較する。
【0051】
最適凍土温度算出手段63は、前記の凍土応力比較手段59による比較の結果、凍土強度が凍土最大応力を上回った場合に、凍土最大応力から最適凍土温度を算出する。すなわち、凍土強度算出手段55とは逆に、予め地盤情報データベース75に記憶されている、凍土温度と凍土強度の関係を用いて、凍土最大応力から最適凍土温度を算出する。
【0052】
最適ブライン温度算出手段65は、凍土厚の範囲の平均温度が、算出された最適凍土温度となるように、必要なブライン温度を算出する。すなわち、凍土温度算出手段53とは逆に、例えば、「地盤凍結工法 −計画・設計から施工までー」(社団法人日本建設機械化協会 昭和57年2月発行)40頁に記載の方法によって、凍結管13表面温度を算出し、これを最適ブライン温度とする。
【0053】
熱伝導浸透流連成解析手段67は、有限要素法(以下「FEM」(Finite−Element Method)と称する)などの数値計算法により、地盤中の熱伝導および地盤内の地下水の流れ(以下「浸透流」と称する)を連立させて解析し、地盤の温度分布を算出することができる。すなわち、解析上設定された凍結管を所定の温度(すなわち設定ブライン温度)とした場合の周囲の地盤の温度分布の経時変化を得ることができる。なお、地下水の浸透流が無視できる場合には、熱伝導解析手段によって代用することもできる。
【0054】
遅れ時間経過後凍土厚算出手段69は、ブライン温度を変更した場合に、実際にブライン温度が設定温度に温度変化するまでに要する時間(以後「遅れ時間」と称する)経過後の凍土厚を算出する。すなわち、ブライン温度を変更した後、遅れ時間の間も凍土厚が増加するため、熱伝導浸透流連成解析手段67によって算出されたブライン温度の変更に伴う遅れ時間後の温度分布から、遅れ時間経過後凍土厚を算出する。
【0055】
最大応力補正手段71は、遅れ時間経過後凍土厚を考慮して、遅れ時間経過後の凍土最大応力を算出し、凍土最大応力算出手段57によって算出された凍土最大応力を補正する(以後補正された凍土最大応力を「補正後凍土最大応力」と称する)。
【0056】
ブライン温度制御手段73は、ブライン冷却循環装置5におけるブライン温度を制御する。すなわち、ブライン冷却循環装置5はブラインの初期温度の設定以外は、ブライン温度制御手段73によってブライン温度が制御される。
【0057】
地盤情報データベース75は、地盤の土質、水分量や塩分濃度毎に、凍土温度と凍土強度との関係に関する情報が保持されている。
【0058】
次に、図4から図6を参照しながら、凍結装置1の動作の詳細について説明する。図4(a)、図4(b)は、凍結装置1の処理手順を示すフローチャートである。
【0059】
図4(a)に示すように、制御装置3は、温度計17からの地盤温度データ23を取得し、地盤の温度分布を算出する(ステップ101)。なお、温度計17の設置位置は予め設定される。
【0060】
次に凍土厚を算出する(ステップ102)。凍土厚は凍土厚算出手段51によって算出される。すなわち、凍土21表面温度(すなわち、凍土21と非凍結地盤との境界温度であり、通常はー2℃〜−5℃程度とされる)を予め設定しておき、凍土21表面温度の分布位置と凍結管13との間が凍土21であるとして、その距離から凍土厚を算出する。
【0061】
次にブライン冷却循環装置5から、循環するブラインの温度であるブライン温度データ25を取得し、ブライン温度を測定する(ステップ103)。ブライン温度の測定は、例えばブライン冷却循環装置5に備えられるブラインタンクで測定される。
【0062】
なお、凍土供用期間の短縮及び本発明の効果をより顕著に得るためには、初期のブライン温度としては、従前よりも低目の−65℃から−35℃程度であることが望ましい。図5は、凍土厚と時間との関係を示した図である。例えば、ラインOは、従前のブライン温度である−30℃による凍土厚の変化を示し、ラインRは、−50℃のブライン温度での凍土厚の変化を示す。図5に示すように、ブライン温度を低くすることで、凍土厚の増加が早く、このため工期短縮を図ることができる。
【0063】
次に凍土温度算出手段53によって、凍土温度が算出される(ステップ104)。すなわち、温度計17により測定された地盤温度データ23を基に地盤温度分布を求め、地盤温度分布と凍結管13の配置から、凍土厚算出手段51により算出された凍土厚の範囲内の凍土温度を算出する。
【0064】
次に、凍土強度算出手段55によって、凍土強度が算出される(ステップ105)。すなわち、予め凍土形成地盤の地盤情報(例えば土質や塩分濃度など)を設定しておき、該当する土質および塩分濃度での、凍土温度算出手段53によって算出された凍土温度における凍土強度を地盤情報データベース75より読み出す。
【0065】
次に、凍土最大応力算出手段57によって、凍土最大応力が算出される(ステップ106)。算出すべき応力の種類は、一般的に圧縮応力、曲げ応力及びせん断応力であり、凍土に作用する土圧や水圧などの荷重条件及び支持条件、前記凍土厚を含む凍土の幾何学的条件から算出することができる。その算出には、構造力学の一般的な公式を用いることができる。
【0066】
次に、凍土応力比較手段59により、凍土最大応力算出手段57によって算出された凍土最大応力と、凍土強度算出手段55によって算出され、安全率が考慮された凍土強度とが比較される(ステップ107)。比較の結果、凍土最大応力が凍土強度よりも大きい場合、すなわち、凍土がまだ供用可能な程度に形成されていない場合には、ステップ101からの工程が繰り返される(ステップ108)。なお、ステップ101への繰り返し周期は、コンピュータの処理速度に応じて定めても良く、又は、例えば1時間毎とすることもできる。凍土がまだ供用可能でない状態におけるステップ101からステップ107までの工程は、図5において、o−a間の凍土厚の変化に該当する。
【0067】
凍土最大応力が凍土強度よりも小さくなった場合、すなわち、凍土が供用可能な程度に形成された場合(図5において、凍土厚がTを超えた状態)には、最適凍土温度算出手段63により、最適凍土温度が算出される(ステップ110)。最適凍土温度は、凍土の平均温度である。
【0068】
最適凍土温度とは、凍土強度が凍土最大応力を下回らない範囲の最も高い凍土温度である。圧縮強度、せん断強度、曲げ強度等の凍土強度は、凍土温度の上昇に伴い低下する。このため、凍土の耐荷性能を維持した状態で、凍土に要求される最低限の凍土強度を得るための凍土温度が最適凍土温度である。従って、凍土厚が増加すれば、凍土温度が高くても、凍土最大応力を超えない凍土強度を得ることができるため、凍土厚の増加に伴い、最適凍土温度は上昇する。
【0069】
図5においては、時間t経過後、凍土の供用を開始することができる。なお、従来の工法である、凍土温度による凍土強度変化を加味しない方法では、凍土厚さTまでは供用を開始できず、このため−30℃のブライン温度では、供用開始までtの時間を要し、−50℃のブライン温度であっても、供用開始までtの時間を要する(この場合、凍土厚の変化はo点−a点−d点と進行する)。
【0070】
次に、最適ブライン温度算出手段65により、最適なブライン温度が算出される(ステップ111)。以上により求められる最適ブライン温度とは、すなわち、現実の凍土厚において、凍土範囲が必要最低限の強度を有するための、最も高いブライン温度である。
【0071】
後述するブライン温度遅れ補正を実施しない場合には、ブライン冷却循環装置5におけるブライン温度が、上述の最適ブライン温度となるようにブライン冷却循環装置5を制御する(ステップ112、ステップ117)。すなわち、凍土厚の成長を抑制し、必要最低限の強度となるように、ブライン温度を上昇する。
【0072】
例えば図5において、ラインSは、a点からの−40℃における凍土厚の変化を示す。a点でブライン温度を−50℃から−40℃へ変更すると、凍土厚の成長が抑制される(凍土厚の変化はo点−a点−b点と進行する)。
【0073】
更にラインTは、b点からの−30℃における凍土厚の変化を示す。a点でブライン温度を−50℃から−40℃へ変更した後、凍土厚がTに達すると、b点でブライン温度を−40℃から−30℃へ変更する。従って凍土厚の成長が更に抑制される(凍土厚の変化はo点−a点−b点−c点と進行する)。このように凍土厚の増加に伴ってブライン温度を変化(上昇)させることで、最短で凍土の供用を開始できるとともに、必要な凍土の耐荷性能(凍土全体としての耐力)を保ったままで、その後の不必要な凍土形成を抑制することができる。
【0074】
すなわち、図5において、Tは、ブライン温度が−50℃の場合に必要な凍土の耐荷性能を満たす最低限必要な凍土厚であり、T、Tはそれぞれ、ブライン温度が−40℃、−30℃の場合の必要耐荷性能を満たす最低限必要な凍土厚を示すものである。このように、凍土温度と凍土強度との関係を考慮すると、凍土温度に応じて必要な凍土厚が変化し、これにより供用可能な凍土厚が変化する。
【0075】
なお、図5においてはブライン温度の変更を、T、Tという凍土厚毎に行う例を示したが、ブライン温度の変更は一定時間ごとに行なうこともできる。例えば、t以後のブライン温度変更時間を1時間毎として、1時間毎にその時点の凍土厚から最適なブライン温度を設定することができる。
【0076】
次に、ブライン温度遅れ補正について説明する。ブライン温度遅れ補正とは、ブライン温度の設定を変更した後に、実際のブライン温度が変化するまでの時間を加味した場合のブライン温度の補正をいう。
【0077】
図6は、ブライン温度と時間との関係を示した図である。ブライン温度変更点85において、ブライン設定温度81をθからθへ変更した場合、実際のブライン温度測定値83(ブライン温度データ25として使用される)は、その後緩やかに変化する。ブライン設定温度81とブライン温度測定値83とがほぼ一致する点をブライン温度変化終了点87とすると、ブライン温度遅れ時間とは、ブライン温度変更点85からブライン温度変化終了点87までに要する時間を指す。
【0078】
すなわち、最適ブライン温度にブライン温度を変更しても、ブライン温度遅れ時間の間に凍土厚は更に増加し続けるため、ブライン温度が変化を終了した際には、既に最適なブライン温度が変化している。また、ブライン温度を上昇させた場合、凍土内の温度分布は、単調な温度分布とはならず、凍結管表面近傍よりも、それ以外の部分の方が低温となる場合もあり、この場合、凍土温度(凍土内平均温度)が、ブライン温度から算出される凍土温度よりも低温側にとどまる場合がある。
【0079】
このような状況においては、凍土は必要以上の耐荷性能を有することとなる。ブライン温度遅れ補正とは、このようなブライン温度遅れ時間経過後の凍土厚及び凍土温度等を加味した最適なブライン温度を、ブライン温度変更点85時点の最適ブライン温度として補正するものである。
【0080】
以下、ブライン温度遅れ補正の流れを説明する。図4(b)に示すように、制御装置3は、熱伝導浸透流連成解析手段67によって、地盤の温度分布(凍土厚および凍土温度)の経時変化を計算により算出する(ステップ113)。すなわち、ブライン温度と凍結管設置位置、地盤情報等とから、FEMによって熱伝導解析および地下水の浸透流を連立して、地盤温度分布を算出する。
【0081】
図7は、熱伝導浸透流連成解析手段67によって、ブライン温度と凍結管設置位置、地盤情報等とから、FEMによって熱伝導解析および地下水の浸透流を連立して解析された、熱伝導浸透流解析例89を示す図である。図7の色の濃淡は、地盤の温度分布を示し、濃色部が低温部を示す。すなわち一定温度以下を示す色の濃い部分が凍土である。なお、図中矢印Xは、地下水の流れ方向を示し、浸透流を考慮すると、低温部が地下水の下流側にシフトしていることが分かる。
【0082】
次に、遅れ時間経過後凍土厚算出手段69により、遅れ時間経過後凍土厚を算出する(ステップ114)。遅れ時間は予めブライン温度の変更幅や凍土の規模などに応じて経験的に定められる。すなわち、現状の凍土状況から、熱伝導浸透流連成解析手段67によって遅れ時間経過後までの凍土厚の経時変化を計算し、遅れ時間経過後凍土厚として算出する。なお、遅れ時間内における計算上のブライン温度としては、温度変更前のブライン温度を使用することができ、また、変更前後のブライン温度の平均値を用いることもできる。
【0083】
次に、最大応力補正手段71によって凍土最大応力を補正する(ステップ115)。すなわち、遅れ時間経過後凍土厚から凍土温度算出手段53と同様の方法で遅れ時間経過後凍土温度を算出し、更に算出された遅れ時間経過後凍土温度と遅れ時間経過後凍土厚とから、凍土最大応力算出手段57と同様の方法で、遅れ時間経過後における凍土最大応力を算出する。算出された、遅れ時間経過後における凍土最大応力によって、ステップ106で算出された凍土最大応力を補正する(以後補正された凍土最大応力を単に「補正後凍土最大応力」と称する)。すなわち、ステップ106で算出された凍土最大応力を補正後凍土最大応力に置換する。
【0084】
次に、遅れ時間経過後において最適なブライン温度を算出する(ステップ116)。すなわち、補正後凍土最大応力に置換された凍土最大応力を用い、最適凍土温度算出手段63および最適ブライン温度算出手段65によって、遅れ時間を加味した最適ブライン温度を再計算する。
【0085】
次に、ブライン冷却循環装置5におけるブライン温度を、上述の再計算された最適ブライン温度となるようにブライン冷却循環装置5を制御する(ステップ117)。
【0086】
凍土の供用が完了しない場合には、ステップ101に戻り、上述のステップを繰り返す(ステップ118)。なお、ステップ101への繰り返し周期は、コンピュータの処理速度に応じて定めても良く、又は、例えば1時間毎とすることもできる。
【0087】
以上説明してきたように、本実施の形態にかかる凍結装置1によれば、凍土を不必要に成長させることなく、早期に凍土の供用を行うことができる凍結装置を得ることができる。特に、初期のブライン温度を低く設定するほど、ブライン温度の低下による凍土成長速度の増加と、凍土温度の低下による凍土強度の増加のいずれの効果も得ることができるため、より大きな工期短縮効果を得ることができる。
【0088】
また、凍土温度を算出し、凍土温度から凍土強度を得ることで、凍土温度に応じた必要最低限の凍土厚を知ることができ、必要最低限の凍土厚を超える場合には、必要最低限の凍土強度が得られるように、ブライン温度を制御するため、凍土の供用時期を著しく早めることができるとともに、必要な凍土の耐荷性能を維持したまま、凍土供用時における必要以上の凍土の成長を抑制し、このため、ブラインの冷却エネルギーを抑えることができ、凍上現象や凍結膨張圧を低減することができる。すなわち、凍土の供用可否判断において、凍土温度と凍土強度との関係を利用することで、各時点の供用可能な凍土厚を算出し、最短の凍土の供用時期を知ることができ、その後の凍土の成長を最適に管理できる。
【0089】
また、ブライン温度の遅れ時間を考慮すれば、ブライン温度の遅れに伴う、不必要な凍土の成長を抑制することができ、更にブライン温度を効果的に制御することができる。
【0090】
次に第2の実施の形態にかかる凍土計算システム90について説明する。ここで、本実施の形態において、凍結装置1と同一の機能を奏する構成要素については図1〜図3と同一の記号を付し、重複した説明を避ける。
【0091】
図8において、凍土計算システム90は、凍結装置1と同様の機能を有するが、凍結装置1が温度計17等による実際の測定データを使用するのに対し、凍土計算システム90は、これらを全てコンピュータ等によって予測計算するものである。
【0092】
凍土計算システム90は主に制御装置3、熱伝導浸透流連成解析装置91、表示装置99等からなる。制御装置3、熱伝導浸透流連成解析装置91、表示装置99はそれぞれ接続されており、熱伝導浸透流連成解析装置91からのデータ95を制御装置3で処理し、更に制御装置3からのデータ97を熱伝導浸透流連成解析装置91で処理する。熱伝導浸透流連成解析装置91からの表示データ93は表示装置99へ送信され、表示装置99に各種計算結果等が表示される。
【0093】
なお、制御装置3は、凍結装置1で使用したものと同じであるが、制御装置3における熱伝導浸透流連成解析手段67の機能は、熱伝導浸透流連成解析装置91に持たせることができる。以後、熱伝導浸透流連成解析手段67は、制御装置3ではなく、熱伝導浸透流連成解析装置91内に同一機能を有するものとして説明する。また、熱伝導浸透流連成解析装置91を実現するコンピュータのハードウェア構成については、制御装置3と同様であり(図2参照)、説明を省略する。
【0094】
ここで、熱伝導浸透流連成解析装置91には、有限要素解析プログラム等が利用できる。なお、地下水流が無視できる場合には、熱伝導解析装置によって代用することもできる。
【0095】
次に図9を参照しながら、凍土計算システム90の動作を詳細に説明する。まず、熱伝導浸透流連成解析装置91に凍結管の設置条件、地盤条件、凍結条件等が入力され、設定される(ステップ201)。凍結管の設置条件とは、例えば凍結管の設置位置、設置本数、その他凍結管の径などの情報を含む。また、地盤条件とは、解析を行う範囲における地盤の土質、水分量、塩分濃度や初期の地盤温度などの情報を含む。凍結条件とは、循環させるブライン温度やブラインの流量などの情報を含む。その他、地下水の浸透流の流速や、地盤等の熱伝導係数、比熱などが事前に設定される。
【0096】
次に、FEMにより、地盤の熱伝導解析および地下水の浸透流を連立して解析する(ステップ202)。解析により、地盤温度分布が算出され、これにより、地盤温度、凍土厚の経時変化を算出することができる(ステップ203)。なお、ステップ202およびステップ203は、凍結装置1における熱伝導浸透流連成解析手段67と同様の機能によるものである。
【0097】
次に、各計算時点において、地盤温度、凍土厚、ブライン温度データ等を制御装置3へ送信する(ステップ204)。すなわち、凍結装置1における地盤温度データ23、ブライン温度データ25に対応する、熱伝導浸透流連成解析装置91により解析されたそれぞれの計算値が、制御装置3へ送信される。なお、凍土厚および凍土温度は、熱伝導浸透流連成解析装置91により得られた算出値を直接使用することもでき、又は制御装置3において、地盤温度等のデータから凍土厚算出手段51および凍土温度算出手段53によって算出しても良い。
【0098】
次に、制御装置3は、凍土強度算出手段55により、地盤温度等(又は地盤温度等により算出された凍土温度、凍土厚)から、地盤情報データベース75より、凍土強度を算出する(ステップ205)。以降、ステップ206からステップ212までは、凍結装置1における制御装置3(ステップ106からステップ112に対応)と同様の方法で処理が行われ、最適ブライン温度が算出される。
【0099】
ブライン温度遅れ補正を行わない場合は、算出された最適ブライン温度を、熱伝導浸透流連成解析装置91に送信し(ステップ218)、熱伝導浸透流連成解析装置91は、計算上設定されているブライン温度を最適ブライン温度へ変更し、更に解析を継続する(ステップ219)。
【0100】
ブライン温度の遅れ補正を行う場合には、熱伝導浸透流連成解析装置91は、遅れ補正後の凍土厚を算出する(ステップ213〜214)。遅れ時間は予めブライン温度の変更幅や凍土の規模などに応じて経験的に定められる。なお、ステップ213からステップ214は、凍結装置1における、熱伝導浸透流連成解析手段67、遅れ時間経過後凍土厚算出手段69による処理に対応し、同様の方法で処理が行われる。熱伝導浸透流連成解析装置91は、算出された遅れ時間経過後凍土厚を制御装置3へ送信する(ステップ215)。
【0101】
制御装置3は、算出された遅れ時間経過後凍土厚をもとに、補正後凍土最大応力を算出し、最適ブライン温度を補正する(ステップ216〜217)。なお、ステップ216からステップ217は、凍結装置1の最大応力補正手段71、最適凍土温度算出手段63及び最適ブライン温度算出手段65による処理に対応し、同様の方法で処理が行われる。
【0102】
最後に、補正後の最適ブライン温度を熱伝導浸透流連成解析装置91へ送信し、熱伝導浸透流連成解析装置91は、計算上設定されているブライン温度を最適ブライン温度へ変更し、更に解析を継続する(ステップ218〜219)。なお、ブライン温度の変更周期は、コンピュータの処理速度に応じても良く、又は例えば1時間毎と計算上の一定時間ごとに行っても良い。
【0103】
第2の実施の形態による凍土計算システム90によれば、施工前における凍土の形成についての予測解析を行うことができ、凍結管の設置位置等の最適化やブライン温度設定の最適化および凍土の供用開始時期等を事前に知ることができ、凍土を不必要に成長させることなく、早期に凍土の供用を行うことができる条件を得ることができる。
【0104】
また、凍土の効率的な形成のために、地盤の一部を熱伝導性の高い材料で置き換える「置換工法」を使用する場合、凍結管の配置や凍土の形成を予測し、これに最適なブライン温度を設定することができる。また、実際の施工現場で地盤温度の分布をより詳細に知ろうとすると、温度計17の設置数を多くする必要があるが、事前に凍土形成に不利な部位(凍土形成が遅れる部位など)を知ることができれば、その部位を厳選して温度計17を設置することができ、施工時の温度計17の設置本数を減らすことができ、その上で最適なブライン温度を制御することができる。
【0105】
なお、本凍土計算システム90を実際の凍土造成時における凍結装置1と併用し、各時点での実測値と計算値のずれを補正(例えば地下水浸透流の流速などの設定値を補正)しながら解析を行うことで、より信頼性の高い予測結果を得ることができる。
【0106】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0107】
例えば、図5において、ラインR、S、Tに対応するそれぞれのブライン温度は、−50℃、−40℃、−30℃としたが、ブラインの初期温度は何℃であっても良く、またブライン温度の変更幅も+10℃である必要はない。更に、凍土供用時におけるブライン温度の変更回数は、2回に限られるものではなく、より細かく制御することが望ましい。更に、ブライン温度のみではなく、ブラインの流量を制御することで、同様の効果を得ることもできる。
【0108】
また、凍土計算システム90において、熱伝導浸透流連成解析装置91と制御装置3とを1台のコンピュータで実施しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本実施の形態にかかる凍結装置1を示す概略図。
【図2】制御装置3を実現するコンピュータのハードウェア構成図。
【図3】制御装置3の概略構成図。
【図4(a)】凍結装置1の処理手順を示すフローチャート。
【図4(b)】凍結装置1の処理手順を示すフローチャート。
【図5】凍土厚と時間との関係を示す図。
【図6】ブライン温度遅れ時間を示す図。
【図7】熱伝導浸透流連成解析例89を示す図。
【図8】第2の実施の形態にかかる凍土計算システム90を示す概略図。
【図9(a)】凍土計算システム90の処理手順を示すフローチャート。
【図9(b)】凍土計算システム90の処理手順を示すフローチャート。
【図10】シールド機の地中接合部等の工事を示す図。
【符号の説明】
【0110】
1………凍結装置
3………制御装置
5………ブライン冷却循環装置
7………データ収集装置
8………表示装置
9………入側配管
11………出側配管
13………凍結管
15………測温管
17………温度計
19………地面
21………凍土
23………地盤温度データ
25………ブライン温度データ
27………データ
28………表示データ
29………最適ブライン温度データ
90………凍土計算システム
91………熱伝導浸透流連成解析装置
93………表示データ
95………データ
97………データ
99………表示装置
301………シールド機
303………凍結管
305………凍土
307………シールドトンネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に埋設された凍結管と、
前記凍結管周辺に埋設された複数の温度計と、
前記凍結管へ所定の温度のブラインを流すブライン冷却循環装置と、
前記温度計で測定される地盤温度データと、前記ブライン冷却循環装置で測定されるブライン温度データとを用いて、凍土温度と凍土強度との関係から最適ブライン温度を算出し、前記凍結管へ前記最適ブライン温度のブラインを循環するように前記ブライン冷却循環装置を制御する制御装置と、
を具備することを特徴とする凍結装置。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記温度計で測定される地盤温度データと、前記温度計の設置位置とから凍土厚を算出する凍土厚算出手段と、
前記ブライン冷却循環装置で測定されるブライン温度データと、前記凍土厚とから凍土温度を算出する凍土温度算出手段と、
前記凍土温度から、凍土強度を算出する凍土強度算出手段と、
凍土を供用した場合に凍土内に発生する凍土最大応力を、前記凍土厚から算出する凍土最大応力算出手段と、
前記凍土強度と前記凍土最大応力とを比較する凍土応力比較手段と、
前記凍土強度が前記凍土最大応力よりも大きい場合に、前記凍土最大応力から、最適凍土温度を算出する最適凍土温度算出手段と、
前記最適凍土温度と、前記凍土厚とから最適ブライン温度を算出する最適ブライン温度算出手段と、
を具備することを特徴とする請求項1記載の凍結装置。
【請求項3】
有限要素法により、ブライン温度と凍結管設置位置とから熱伝導解析及び地下水の浸透流を連立して解析することで、予測凍土厚を算出可能な熱伝導浸透流連成解析装置を更に具備し、
前記熱伝導浸透流連成解析装置は、ブライン温度を制御してから実際にブライン温度が変化するまでの遅れ時間から、前記遅れ時間経過後における予測凍土厚を算出する遅れ時間経過後凍土厚算出手段を具備し、
前記制御装置は、前記遅れ時間経過後凍土厚から前記凍土最大応力を補正する最大応力補正手段を更に具備することを特徴とする請求項2記載の凍結装置。
【請求項4】
有限要素法により、ブライン温度と凍結管設置位置とから熱伝導解析と地下水の浸透流を連立して解析することで、凍土厚及び凍土温度の経時変化を算出可能な熱伝導浸透流連成解析手段と、
前記熱伝導浸透流連成解析手段により算出された前記凍土温度と、前記ブライン温度とを用いて、凍土強度と凍土温度との関係から最適ブライン温度を算出するブライン温度制御手段と、
前記最適ブライン温度を前記熱伝導浸透流連成解析手段へ適用し、凍土厚や凍土温度の経時変化を算出することを特徴とする凍土計算システム。
【請求項5】
前記ブライン温度制御手段は、
前記熱伝導浸透流連成解析手段により算出された凍土温度から、凍土強度を算出する凍土強度算出手段と、
凍土を供用した場合に凍土内に発生する凍土最大応力を、前記凍土厚から算出する凍土最大応力算出手段と、
前記凍土強度と前記凍土最大応力とを比較する凍土応力比較手段と、
前記凍土強度が前記凍土最大応力よりも大きい場合に、前記凍土最大応力から、最適凍土温度を算出する最適凍土温度算出手段と、
前記最適凍土温度と、前記凍土厚とから最適ブライン温度を算出する最適ブライン温度算出手段と、
を具備することを特徴とする請求項4記載の凍土計算システム。
【請求項6】
ブライン温度を制御してから実際にブライン温度が変化するまでの遅れ時間から、前記遅れ時間経過後における凍土厚を算出する遅れ時間経過後凍土厚算出手段と、
前記遅れ時間経過後凍土厚から前記凍土最大応力を補正する最大応力補正手段と、
を更に具備することを特徴とする請求項5記載の凍土計算システム。
【請求項7】
凍結管及び温度計を設置する工程と、
ブライン冷却循環装置により、前記凍結管へブラインを循環させる工程と、
前記温度計により地盤温度を測定し、更に前記ブラインの温度を測定する工程と、
前記地盤温度と前記ブライン温度とを用いて、凍土強度と凍土温度との関係から最適ブライン温度を算出する工程と、
前記凍結管へ前記最適ブライン温度のブラインを循環させる工程と、
を具備することを特徴とする凍結方法。
【請求項8】
前記最適ブライン温度を算出する工程は、
前記温度計で測定した地盤温度データと、前記温度計の設置位置とから、凍土厚を算出する工程と、
前記ブライン冷却循環装置で測定されるブライン温度データと、前記凍土厚とから、凍土温度を算出する工程と、
前記凍土温度から、凍土強度を算出する工程と、
凍土を供用した場合に凍土内に発生する凍土最大応力を、前記凍土厚から算出する工程と、
前記凍土強度と前記凍土最大応力とを比較する工程と、
前記凍土強度が前記凍土最大応力よりも大きい場合に、前記凍土最大応力から、最適凍土温度を算出する工程と、
前記最適凍土温度と、前記凍土厚とから、最適ブライン温度を算出する工程と、
を具備することを特徴とする請求項7記載の凍結方法。
【請求項9】
前記最適ブライン温度を算出後、有限要素法により、ブライン温度と凍結管設置位置とから熱伝導解析と地下水の浸透流を連立して解析することで、ブライン温度を制御してから実際にブライン温度が変化するまでの遅れ時間経過後における凍土厚を算出する工程と、
前記遅れ時間経過後の凍土厚から前記凍土最大応力を補正し、補正後凍土最大応力を算出する工程と、
前記補正後凍土最大応力から、補正後最適凍土温度を算出する工程と、
前記補正後最適凍土温度と、前記遅れ時間経過後の凍土厚とから、補正後最適ブライン温度を算出する工程と、
を更に具備し、
前記凍結管へ前記最適ブライン温度に代えて、前記補正後最適ブライン温度のブラインを循環させることを特徴とする請求項8記載の凍結方法。
【請求項10】
コンピュータを請求項1から請求項3のいずれかに記載の制御装置として機能させるためのプログラム。
【請求項11】
コンピュータを請求項4から請求項6のいずれかに記載の凍土計算システムとして機能させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4(a)】
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【図4(b)】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9(a)】
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【図9(b)】
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【図10】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−121174(P2009−121174A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297877(P2007−297877)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】