説明

凝集剤組成物及び凝集処理方法

【課題】うどんのゆで汁や米のとぎ汁等の排水を迅速に凝集処理可能な凝集剤組成物及び凝集処理方法の提供。
【解決手段】アオイ科トロロアオイ属由来成分と、凝集剤成分と、を含むことを特徴とする凝集剤組成物、並びに、凝集処理対象液に対し、前記凝集剤組成物を投入する工程と、凝集物が沈降するまで前記凝集処理対象液を静置する工程と、前記凝集処理対象液前記凝集物を回収する工程と、を含むことを特徴とする凝集処理方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝集剤組成物及び凝集処理方法に関し、特に、うどんのゆで汁や米のとぎ汁等の排水を凝集処理するのに適した凝集剤組成物及び凝集処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、うどんのゆで汁や米のとぎ汁等の排水がそのまま放出されることによる環境汚染が問題視されている。これらの排水は、例えば特許文献1や特許文献2に開示されているような凝集剤組成物や凝集処理方法によって凝集させ処理することが可能である。
【0003】
特許文献1においては、環境にやさしく、浄水場、土木工事現場、地下工事や地盤堀削の際に発生する高濃度な廃水、汚泥から都市排水、生活排水、工場廃水等幅広い廃水の急速処理ができる凝集疎水剤及び使用方法を提供することを意図して、シリカゲル天然鉱物10〜60重量%、可溶性アルミニウム塩5〜40重量%、アルカリ金属塩5〜30重量%、アルカリ土類金属化合物5〜40重量%の凝集主成分に対して、有機凝集剤を助剤として1〜10重量%が配合されてなる粉体凝集疎水剤が提案されている(特許文献1、要約、請求項1等参照)。
【0004】
また、特許文献2においては、簡易な方法で洗米排水の固形成分を除去し、且つ、除去した固形成分を機能性食品等の原料として再利用することを意図して、洗米排水にプロテアーゼ含有酵素を添加し、前記洗米排水に含まれる固形成分を凝集して沈降させることを特徴とする洗米排水の固形成分の除去方法が提案されている(特許文献2、要約、請求項1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−219006号公報
【特許文献2】特開2007−38214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1及び特許文献2等の従来技術で提供されている凝集剤組成物や凝集処理方法は、うどんのゆで汁等の排水を凝集処理するのに長時間を要するという問題があった。例えば、特許文献2においては反応溶液の静置時間は24時間程度が好ましいとされている(特許文献2、段落番号[0080]参照)。したがって、従来技術においては、うどんのゆで汁等の排水の凝集処理時間を短縮するという課題があり、本発明は、かかる課題を解決すべくうどんのゆで汁や米のとぎ汁等の排水を迅速に凝集処理可能な凝集剤組成物及び凝集処理方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決すべく提供される本発明の凝集剤組成物は、主成分として、アオイ科トロロアオイ属由来成分と、凝集剤成分と、を含むことを特徴としている。本発明の凝集剤組成物に含まれるアオイ科トロロアオイ属由来成分は、オクラを乾燥及び粉砕したものであることが望ましい。
【0008】
本発明の凝集剤組成物は、前記凝集剤成分に多価金属塩が含まれているものであることが望ましく、前記凝集剤成分は硫酸バンドであることが望ましい。また、本発明の凝集剤組成物は、界面活性剤成分を含むものであることが望ましく、前記界面活性剤成分はアルキルアミンオキシドを含むものであることが望ましい。本発明の凝集剤組成物は、凝集助剤成分を含むことが望ましく、前記凝集助剤成分は活性珪酸を含むものであることが望ましい。
【0009】
本発明の凝集処理方法は、凝集処理対象液に対し、上述した本発明の凝集剤組成物を投入することを特徴とするものである。本発明における凝集処理対象液は、うどんのゆで汁や米のとぎ汁等、うどん粉、米粉又は小麦粉等を含む排水である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の凝集剤組成物のように、アオイ科トロロアオイ属由来成分と、凝集剤成分とを含むものとすれば、従来技術の凝集剤組成物を用いた場合よりも、うどんのゆで汁や米のとぎ汁等の排水を極めて迅速に凝集処理することが可能となる。また、上記アオイ科トロロアオイ属由来成分は、オクラに代表されるアオイ科トロロアオイ属に属するものを処理して得られるものであり、環境に対して悪影響を及ぼすようなものではないため、本発明の凝集剤組成物を用いれば、凝集処理した後に得られる液体や凝集物は特別な処理を施さなくてもそのまま廃棄処分することが可能である。
【0011】
本発明の凝集剤組成物は、凝集剤成分として多価金属塩を含むものを採用することにより、凝集処理の処理時間をより一層短縮することが可能となり、特に凝集剤成分として硫酸バンド(硫酸アルミニウム)を採用することにより、凝集性能をさらに向上させ、凝集処理に要する処理時間を短縮することが可能となる。
【0012】
本発明の凝集剤組成物は、界面活性剤成分を含むものとすることにより、凝集効果を向上させることができ、凝集処理に要する時間をより一層短縮することが可能となる。また、界面活性剤成分としてアルキルアミンオキシドを含むものを用いれば、さらに凝集効果が高まり、凝集処理の処理時間の短縮に効果的である。
【0013】
本発明の凝集剤組成物は、凝集助剤成分を含むものとすることにより、凝集性能をさらに向上させ、凝集処理に要する処理時間を短縮することが可能となる。また、凝集助剤成分として活性珪酸を含むものを用いれば、さらに凝集効果が高まり、凝集処理の処理時間の短縮に効果的である。
【0014】
本発明の凝集処理方法は、凝集処理対象である処理対象液に対し、上述した本発明の凝集剤組成物を投入するものであるため、うどんのゆで汁や米のとぎ汁等の排水を迅速に凝集処理することが可能である。また、本発明の凝集処理方法において、上述した本発明の凝集剤組成物の投入量や投入方法を制御することにより、排水基準や透視度の基準を満足するよう、排水処理することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下において、本発明の一実施形態に係る凝集剤組成物及びこれを用いた凝集処理方法について説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。本実施形態の凝集剤組成物は、オクラを処理して得られるアオイ科トロロアオイ属由来成分と、凝集剤成分と、凝集助剤成分と、界面活性剤成分とを含み、本実施形態の凝集処理方法は当該凝集剤組成物を用いるものである。
【0016】
本発明におけるアオイ科トロロアオイ属由来成分は、被子植物門、双子葉植物綱、アオイ目、アオイ科、トロロアオイ属(Abelmoschus)に属するオクラやリュウキュウトロロアオイなどの植物に由来する成分である。アオイ科トロロアオイ属由来成分は、アオイ科トロロアオイ属に分類される植物を乾燥させて粉砕した粉状体によって構成され、オクラを乾燥させて粉砕した粉状体(オクラ由来成分)などがこれに含まれる。アオイ科トロロアオイ属由来成分は、ペクチン、ガラクタン、アラバン及びムチン等の他、ミネラル、カルシウム、カリウム、ビタミンA、B1、B2及びC等のオクラの構成成分を含む。このようにアオイ科トロロアオイ属由来成分を乾燥及び粉砕したものをアオイ科トロロアオイ属由来成分として用いれば、アオイ科トロロアオイ属由来成分の表面積が大きくなる等し、本発明の凝集剤組成物による凝集作用がさらに起こり易い。
【0017】
より具体的には、アオイ科トロロアオイ属由来成分をなす粉状体の粒度は、18メッシュ以下であることが望ましく、40メッシュ以下であることがより一層好ましい。アオイ科トロロアオイ属由来成分の粒度は、処理対象となる排水に凝集剤組成物を投入した際の分散度や反応度を考慮し、可能な限り細かいことが望ましい。
【0018】
また、本発明における「アオイ科トロロアオイ属由来成分」は、アオイ科トロロアオイ属に属する植物の表皮部分、当該植物の内部において内壁をなす繊維壁(以下、「内側繊維壁」ともいう。)及び種のうちの全てを一緒に乾燥して粉砕したものであっても、これらのうちのいずれかを組み合わせて選択して乾燥し粉砕したものであってもよい。後述するように、アオイ科トロロアオイ属由来成分は、表皮部分、内側繊維壁及び種のいずれについても同様の効果を発揮するが、その製造の容易さや原料となるオクラなどのアオイ科トロロアオイ属に分類される植物を有効利用する等の観点から、アオイ科トロロアオイ属に属する植物の全部分を乾燥して粉砕したものをアオイ科トロロアオイ属由来成分として用いることが好適である。
【0019】
本発明の凝集剤組成物におけるアオイ科トロロアオイ属由来成分の含有量は、例えば凝集処理対象液に含まれるうどん粉や米粉、小麦粉等の量に応じて適宜調整することが可能であるが、凝集剤組成物の調製や保存安定性等の観点から、試料水中に溶解しているうどん粉や米粉、小麦粉等の量に対する重量比で5〜15%程度含まれていることが好ましく、7〜10%程度含まれていることがさらに望ましい。
【0020】
本発明における「界面活性剤成分」には、従来公知の界面活性剤を採用することが可能である。すなわち、界面活性剤成分は、両性イオン界面活性剤や、陰イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤等公知の界面活性剤から選ばれる1種又はそれ以上の界面活性剤を含むものとすることが可能であり、その液性は塩基性、酸性、中性のいずれであってもよい。
【0021】
界面活性剤成分には、両性イオン界面活性剤であるアルキルアミンオキシドや、アルキルアミノ脂肪酸ナトリウム、アルキルベタイン等を採用することが可能である。また同様に、界面活性剤成分には、陰イオン系界面活性剤である脂肪酸ナトリウムや脂肪酸カリウム、陽イオン系界面活性剤であるアルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、非イオン系界面活性剤であるポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルや、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等を採用することが可能である。また、界面活性剤成分には、前述したような界面活性剤の他、泡調整剤や、アルカリ剤等が含まれていてもよい。
【0022】
界面活性剤成分としては、例えば界面活性剤(1%、アルキルアミンオキシド)と、泡調整剤と、アルカリ剤とを含み、液性が塩基性を示すもの等を好適に使用することが可能である。さらに具体的には、界面活性剤成分としては、例えばマジックリン(登録商標)(花王(株)製)や、バスマジックリン(登録商標)(花王(株)製)、マイペット(登録商標)(花王(株)製)、バスピカ(登録商標)((株)ツムラ製)、ルック(登録商標)(ライオン(株)製)等を用いることが可能である。
【0023】
本発明における「凝集剤成分」としては、多価金属塩を含む凝集剤や高分子凝集剤を好適に使用することが可能である。凝集剤成分として用いることが可能な多価金属塩には、アルミニウム(Al)や鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)などの多価の金属塩を採用することが可能であり、例えば硫酸アルミニウム(硫酸バンド;Al2(SO43・nH2O)(日本工業規格 規格番号JISK1423)や、ポリ塩化アルミニウム(PAC;Al2(OH)mCl6-m)等を好適に使用することが可能である。また、高分子凝集剤は、カチオン性、アニオン性、ノニオン性のいずれの属性に分類されるものであってもよく、アクリル系の高分子の水溶性有機物にカルボキシル基やアミド基、スルホン基などを配置したものを凝集剤成分として好適に使用することが可能である。
【0024】
また、凝集剤成分は、前述した硫酸アルミニウム(硫酸バンド)やポリ塩化アルミニウム等の多価金属塩から選ばれる1種又はそれ以上の物質を組み合わせて構成されたものや、1種又はそれ以上の物質を主成分とし、他の物質を副成分として含むものであってもよい。同様に、凝集剤成分は、前述した高分子凝集剤を1種又はそれ以上の物質を組み合わせて構成されたものや、1種又はそれ以上の物質を主成分とし、他の物質を副成分として含むものであってもよい。さらに、凝集剤成分は、多価金属塩からなる凝集剤及び高分子凝集剤の双方を含むものであってもよい。
【0025】
本発明における「凝集助剤成分」としては、凝集促進剤やpH調整剤を使用可能である。具体的には、凝集助剤成分としては、凝集促進剤として機能する珪酸塩白土や、その他の活性珪酸、アルギン酸ナトリウム、ベントナイト、粉末活性炭等についても好適に使用可能である。珪酸塩白土は、二酸化珪素(SiO2)を主成分とし、酸化アルミルミニウム(アルミナ)(Al23)や、酸化ナトリウム(Na2O)、酸化鉄(Fe23)、酸化カルシウム(CaO)、酸化カリウム(K2O)、酸化マグネシウム(MgO)、水分(H2O)等を含むものである。
【0026】
珪酸塩白土としては、上記成分を種々の配合比で含むものを用いることができるが、例えば二酸化珪素(SiO2)を72.96%、酸化アルミルミニウム(Al23)を9.92%、酸化ナトリウム(Na2O)を4.98%、酸化鉄(Fe23)を4.95%、酸化カルシウム(CaO)を3.27%、酸化カリウム(K2O)を0.13%、酸化マグネシウム(MgO)をこん跡程度、水分(H2O)を3.81%含むもの等を好適に使用することができる。具体的には、珪酸塩白土には、ソフトシリカ(株)製の製品名「ミリオン」等を好適に使用することができる。
【0027】
また、凝集助剤成分としては、pH調整剤として機能する塩基性物質や、酸性物質等を好適に使用することが可能である。塩基性物質としては、水酸化ナトリウムや、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等を好適に使用することが可能である。また、酸性物質としては、硫酸や炭酸、塩酸等を好適に使用することが可能である。凝集助剤成分は、前述した塩基性物質や酸性物質から選ばれる1種又はそれ以上の物質を組み合わせて構成されたものや、1種又はそれ以上の物質を主成分とし、他の成分を副成分として含むものであってもよい。
【0028】
本実施形態の凝集処理方法は、うどん粉や米粉等の凝集物が沈降するまで前記凝集処理対象液を静置する工程と、前記凝集処理対象液前記凝集物を回収する工程と、を含むが、これらの工程は従来公知の方法により実施すればよい。また、凝集剤組成物の投入方法については、アオイ科トロロアオイ属由来成分及び凝集剤成分を同時に排水に投入してもよく、アオイ科トロロアオイ属由来成分及び凝集剤成分の投入の順を適宜前後させてもよい。凝集効果の観点からすると、アオイ科トロロアオイ属由来成分及び凝集剤成分を同時に排水中に投入する投入方法が望ましく、アオイ科トロロアオイ属由来成分に次いで凝集剤成分を排水中に投入する投入方法を採用することが最も望ましい。
【0029】
本実施形態の凝集処理方法において、上述した本実施形態に係る凝集剤組成物の投入量や投入方法を制御することにより、排水基準や透視度の基準を満足するよう、排水処理することが可能となる。具体的には、本発明の凝集処理方法によれば、排水量が500m3/日以下の場合の規定であるCOD160ppm(日平均120ppm)といったCODに関する基準や、浮遊物質量200ppm(日平均150ppm)といった浮遊物質量に関する基準を満足するよう排水処理することが可能となる。また、本発明の凝集処理方法によれば、上液の透視度が200mm以上となるように排水処理することが可能となる。
【実施例】
【0030】
以下において、上述した凝集剤組成物についての実施例及び比較例を含む実験例について説明する。実験に用いる凝集剤組成物は、各成分毎に電子てんびん((株)エー・アンド・ディ社製のHL−200i)にて計量し、各成分を混合することにより調製した。実験に用いる凝集剤組成物は、後に詳述するように各成分の混合比等を適宜調整することにより調製した。
【0031】
凝集剤組成物を構成するアオイ科トロロアオイ属由来成分、凝集剤成分(多価金属塩)、界面活性剤、凝集助剤成分(凝集促進剤、pH調整剤)としては、特に断りのない限り、以下のものを用いた。
アオイ科トロロアオイ属由来成分:オクラ全体を粉砕、乾燥して得られた粉状体(オクラ由来成分)
凝集剤成分(多価金属塩):硫酸アルミニウム(住友化学(株)製の無鉄硫酸バンド)
界面活性剤:花王(株)製のマジックリン(登録商標)
凝集助剤成分(凝集促進剤):珪酸塩白度(ソフトシリカ)(ソフトシリカ(株)製の製品名「ミリオン」)
凝集助剤成分(pH調整剤):水酸化ナトリウム(米山薬品工業(株)製の水酸化ナトリウム(粒状)94% 米山一級03394)
なお、下記各実験例に係る説明及び表中の記載において、凝集剤組成物を構成するアオイ科トロロアオイ属由来成分、凝集剤成分(多価金属塩)、界面活性剤、凝集助剤成分(凝集促進剤、pH調整剤)についての配合量は、特に断りのない限り、試料水中に溶解している小麦粉の量を基準とする重量比(%)で示す。
【0032】
凝集剤組成物を投入する排水のサンプルとして試料水を調製した。試料水は、60〜70℃の範囲に加熱された水3000mlに対して小麦粉6gを攪拌条件下で投入し、溶解させることにより調製した。凝集剤組成物を投入する前に、試料水の上液pH値及び液温度を測定した。
【0033】
上記のように調製した試料水500ml(溶解又は分散している小麦粉の量1g)を入れたビーカー(IWAKI社製のほうけい酸ガラス(JIS R 3503準拠)、外径φ90mm、高さ120mm、容量500ml)に対して、予め調製した凝集剤組成物を攪拌条件下で投入することにより実験を行った。本実験では、タイムウォッチにより計時しつつ、所定時間に亘って攪拌や静置を行った。また、凝集剤組成物の投入後、静置した直後における試験水中に形成されるフロックの状態や、静置後にビーカー内に形成されるフロックの沈降高さについての経時変化を目視により観察した。沈降高さについては、上述したビーカーの目盛に基づき、測定した。
【0034】
また、上述したようにして攪拌した後60分静置した時点における試験水につき、上液の状態を目視により観察すると共に、上液の透明度を透明度計(ケニス(株)製TO−30(JIS K 0102準拠))にて測定した。さらに、上液のCOD(化学的酸素要求量)について、簡易水質測定器((株)共立理化学研究所製)にて測定した。一連の実験後、試験水の上液のpHをpH試験紙(東洋濾紙(株)製のアドバンテックpH試験紙)により測定した。
【0035】
(試料水)
表1に記載のように、No.1〜No.14に係る試料水を調製した。いずれも、上述したように60〜70℃の範囲に加熱された水3000mlに対して小麦粉6gを攪拌条件下で投入し、溶解させることにより調製された。本実施例で調製された試料水の透視度の平均値は24mm、CODの平均値は1357ppm、pHの平均値は7.0であった。
【0036】
【表1】

【0037】
(アオイ科トロロアオイ属由来成分の有効性について)
表2は、アオイ科トロロアオイ属由来成分の凝集効果に対する有効性を検証するために行った実験例A−1〜A−11についての実験結果を示すものである。実験例A−6,A−11では、アオイ科トロロアオイ属由来成分であるオクラ全体を乾燥、粉砕して得られた粉状体を用いたが、実験例A−2〜A−5、A−7〜A−10では、アオイ科トロロアオイ属由来成分の代わりにわかめや昆布、長芋、納豆、レンコン、モロヘイヤ、アロエ、バナナを乾燥、粉砕した粉状体を用いた。また、実験例A−1では、アオイ科トロロアオイ属由来成分や前述したその他の植物類に由来する粉状体を配合せず実験を行った。表2に示す各実験例では、石膏やパルプ灰を凝集剤組成物の成分としてさらに添加した。
【0038】
表2からわかるように、アオイ科トロロアオイ属由来成分を配合した実験例A−6やA−11では、わかめや昆布などのアオイ科トロロアオイ属由来成分とは異なる他の植物類を乾燥、粉砕した粉状体を用いた実験例A−2〜A−5、A−7〜A−10、及びアオイ科トロロアオイ属由来成分や植物類に由来する粉状体を配合せずに行った実験例A−1に比べて上液の透明度や透視度が格段に高く、十分な凝集効果が得られることが判明した。これにより、アオイ科トロロアオイ属由来成分を凝集剤組成物に配合することが、凝集効果を得る上で有効であることが判明した。
【0039】
【表2】

【0040】
(アオイ科トロロアオイ属由来成分の配合量について)
アオイ科トロロアオイ属由来成分(オクラ由来成分)の配合量の最適値を調べるべく、表3に示す実験例K−1〜K−5に係る実験を行った。実験例K−1〜K−5では、アオイ科トロロアオイ属由来成分の配合量を試料水中に溶解又は分散している小麦粉の量(1g)に対して重量比で0%〜15%まで変化させて実験を行った。実験例K−1〜K−5に係る実験の結果、アオイ科トロロアオイ属由来成分が5%以上15%以下の範囲内となるように調製することにより、上液透視度が高く、上液CODが低くなることが判明した。これにより、アオイ科トロロアオイ属由来成分の配合量は、試料水中に溶解している小麦粉の量に対して重量比で5%以上15%以下の範囲内とすることが好適であることが判明した。
【0041】
【表3】

【0042】
(凝集促進剤(珪酸塩白土)の配合量について)
凝集助剤成分として配合する凝集促進剤(珪酸塩白土)の配合量の最適値を調べるべく、表4に示す実験例L−1〜L−4に係る実験を行った。実験例L−1〜L−4では、珪酸塩白土の配合量を試料水中に溶解又は分散している小麦粉の量(1g)に対して重量比で0%〜40%まで変化させて実験を行った。実験例L−1〜L−4に係る実験の結果、珪酸塩白土が試料水中に溶解又は分散している小麦粉の量(1g)に対して重量比で20%である実験例L3の場合が、他の実験例の場合に比べて上液透視度が最も高く、上液CODが最も低かった。また、珪酸塩白土が試料水中に溶解又は分散している小麦粉の量(1g)に対して重量比で10%である実験例L2の場合は、実験例L3の場合に次いで上液透視度が高く、上液CODが低かった。この結果により、珪酸塩白土の配合量は、試料水中に溶解又は分散している小麦粉の量(1g)に対して重量比で略5%〜30%の範囲内であることが望ましく、15%〜30%の範囲内であることがさらに好ましいことが判明した。
【0043】
【表4】

【0044】
(界面活性剤の配合量について)
界面活性剤の配合量の最適値を調べるべく、表5に示す実験例N−1〜N−4に係る実験を行った。実験例N−1〜N−4では、凝集剤組成物を構成する他の成分の配合比を一定に維持しつつ、界面活性剤の配合量を試料水中に溶解又は分散している小麦粉の量(1g)に対して重量比で0%〜20%まで変化させて実験を行った。実験例N−1〜N−4に係る実験の結果、界面活性剤を10%配合した実験例N3の場合が、他の実験例の場合に比べて上液透視度が最も高く、上液CODが最も低かった。また、界面活性剤を5%配合した実験例N2の場合は、実験例N3の場合に次いで上液透視度が高く、上液CODが低かった。この結果により、界面活性剤は、試料水中に溶解又は分散している小麦粉の量(1g)に対して重量比で5〜10%程度配合することが望ましく、略10%配合することが最も望ましいことが判明した。
【0045】
【表5】

【0046】
(凝集剤成分(硫酸バンド)の配合量について)
凝集剤成分として配合する硫酸バンドの配合量の最適値を調べるべく、表6に示す実験例M−1〜M−4に係る実験を行った。実験例M−1〜M−4では、硫酸バンドの配合量を試料水中に溶解又は分散している小麦粉の量(1g)に対して重量比で0%〜20%まで変化させて実験を行った。実験例M−1〜M−4に係る実験の結果、硫酸バンドを10%配合した実験例M−3、M−4の場合において、上液透視度が高く、上液CODが低くなっており、十分な凝集効果が得られた。これは、硫酸バンドを配合することにより、硫酸バンドに含まれているアルミナ(Al23)等に含まれている高価数の金属イオンが凝集に効果的に作用した結果であると想定される。本実験例M−1〜M−4の結果により、凝集剤成分たる硫酸バンドを試料水中に溶解又は分散している小麦粉の量(1g)に対して重量比で10〜20%程度配合することが好ましく、10%程度配合することが最も好ましいことが判明した。
【0047】
【表6】

【0048】
(pH調整剤(水酸化ナトリウム)の配合量について)
本実施例において凝集助剤成分として配合するpH調整剤(水酸化ナトリウム)の配合量の最適値を調べるべく、表7に示す実験例O−1〜O−5に係る実験を行った。実験例O−1〜O−4では、ロットNo.11の試料水を用いたが、実験例O−5では、実験例O−4の実験を行った後の試料水を用い、これに対してさらに硫酸バンドを投入することで実験を行った。実験例O−1〜O−4に係る実験の結果、実験後の上液のpHが7以下、すなわち中性あるいは酸性となるように水酸化ナトリウムの配合量を調整することにより、上液透視度が高く、上液CODが低い状態になり、十分な凝集効果が得られることが判明した。
【0049】
また、実験後の上液のpHが7、すなわち略中性となるように水酸化ナトリウムの配合量を調整する方が、酸性となった場合よりも上液透視度が高く、上液CODが低い状態になることが判明した。さらに、実験例O−4においてpHが11で塩基性であった実験後の上液に対し、実験例O−5において硫酸バンドを追加することにより、実験後の上液のpHを7.0に調整すれば、実験例O−2の場合と同様に上液透視度が高く、上液CODが低い状態になることが判明した。これらの実験例により、実験後の上液のpHが5〜8程度になるように水酸化ナトリウムの配合量を調整することが望ましいことが判明した。
【0050】
【表7】

【0051】
(実験後上液pHと凝集効果との相関について)
実験後の上液pHと凝集効果との相関について調べるべく、表8に示す実験例J−1〜J−3に係る実験を行った。実験例J−1〜J−3では、凝集剤組成物における水酸化ナトリウムの配合量を試料水中に溶解又は分散している小麦粉の量(1g)に対して重量比で0〜7.5%の間で変化させた。また、実験例J−3では、pHを調整すべく、さらに硫酸バンドの配合量を調整した。この結果、水酸化ナトリウムや硫酸バンドの配合量を調整し、実験後の上液のpHを7、すなわち略中性とすれば、上液透視度が高く、上液CODが低い状態になることが判明した。
【0052】
また、実験例J−3の場合の方が実験例J−1の場合よりも上液透視度が高く、上液CODが低い状態になることから、実験後の上液のpHが7より小さくなった場合の方が、pHが7より大きくなった場合よりも上液透視度が高く、上液CODが低い状態になることが判明した。これらの実験例により、実験後の上液のpHが7付近(略中性)あるいはこれ以下(酸性)となるように凝集剤組成物を構成する各成分の配合量を調整することが望ましく、pHが5〜8の範囲内におさまるよう配合量を調整するのが望ましいことが判明した。
【0053】
【表8】

【0054】
(試料水の温度条件が及ぼす影響について)
試料水の温度条件が凝集効果に及ぼす影響について調べるべく、表9に示す実験例P−1〜P−3について実験を行った。実験例P−1〜P−3では、凝集剤組成物を構成する各成分の配合量が同一とし、試料水の温度が50℃、17℃、5℃の3段階に変化させた。本実験例に係る実験の結果、試料水の温度が高い(50℃)であると、常温(17℃)あるいは低温(5℃)である場合よりも上液透視度が低く、上液CODが高い状態になってしまい、凝集効果が低くなることが判明した。これにより、試料水の温度は、5℃〜30℃の温度範囲にあることが望ましく、5℃〜20℃の温度範囲内にあることがより一層望ましいことが判明した。
【0055】
【表9】

【0056】
(アオイ科トロロアオイ属由来成分に用いるオクラの部位が及ぼす影響について)
アオイ科トロロアオイ属由来成分を構成するオクラの粉末が、オクラのどの部位を使用したものかによって凝集効果が変化するか調べるべく、表10に示す実験例Q−1〜Q−3について実験を行った。具体的には、実験例Q−1はオクラの表皮部分を粉砕したものを用いた実験例であり、実験例Q−2はオクラの内部を仕切っている白色の壁部(内側壁部)を取り出して粉砕したものを用いた実験例である。また、実験例Q−3は、オクラの内側にある種子を取り出して粉砕したものを用いた実験例である。この結果、オクラのいずれの部位を粉砕したものをアオイ科トロロアオイ属由来成分として使用しても、上液透視度が高く、上液CODが低い状態になり、十分な凝集効果が得られるものの、表皮部や内側壁部を用いた場合の方が、種子部を用いた場合よりも若干凝集効果が高いことが判明した。いずれの部位を用いても高い凝集効果が得られるため、オクラ全体を有効利用するという観点や、アオイ科トロロアオイ属由来成分の作成等の観点からすると、オクラ全体をまとめて粉砕し、これをアオイ科トロロアオイ属由来成分として利用することが好ましいことが判明した。
【0057】
【表10】

【0058】
(試料水に対する凝集剤組成物の投入量が及ぼす影響について)
試料水に対して投入する凝集剤組成物の投入量が凝集効果に及ぼす影響について調べるべく、下記実験例R−1〜R−3に係る実験を行った。実験例R−2において使用されている凝集剤組成物は、各成分の配合量が、上記各実験例によって導出された配合量の最適値に収まるものであり、各実験例で使用した試料水を凝集させるのに適した配合量(以下、「標準量」)である。これに対し、実験例R−1において使用されている凝集剤組成物は、各成分の配合量がそれぞれ実験例R−2において使用されているものの約半分である。また、実験例R−3において使用されている凝集剤組成物は、各成分の配合量がそれぞれ実験例R−2で使用されているものの約2倍になるように調製されている。実験例R−1〜R−3の結果、実験例R−2の場合が最も上液透視度が高く、上液CODが低い状態になり、実験例R−3の場合がこれに次いで上液透視度が高く、上液CODが低い状態になることが判明した。そのため、凝集剤組成物を標準量の1〜2倍程度の投入量で試料水に対して投入することにより、高い凝集効果が得られることが判明した。
【0059】
【表11】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の凝集剤組成物及びこれを用いた凝集処理方法は、うどんのゆで汁や米のとぎ汁等、うどん粉、米粉又は小麦粉等を含む排水が発生するありとあらゆる場所において好適に用いることができる。例えば、うどん製造業者や日本酒製造業者においては最も好適に用いることができる。そして、本発明の凝集処理方法によって得られた凝集物(うどん粉、米粉又は小麦粉)は、例えばバイオ燃料の原材料として好適に用いることが考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アオイ科トロロアオイ属由来成分と、
凝集剤成分と、
を含むことを特徴とする凝集剤組成物。
【請求項2】
前記アオイ科トロロアオイ属由来成分がオクラを乾燥及び粉砕したものであること、
を特徴とする請求項1に記載の凝集剤組成物。
【請求項3】
前記凝集剤成分に多価金属塩が含まれていること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の凝集剤組成物。
【請求項4】
前記凝集剤成分が硫酸バンドであること、
を特徴とする請求項1〜3のうちのいずれかに記載の凝集剤組成物。
【請求項5】
界面活性剤成分を含むこと、
を特徴とする請求項1〜4のうちのいずれかに記載の凝集剤組成物。
【請求項6】
前記界面活性剤成分がアルキルアミンオキシドを含むこと、
を特徴とする請求項5に記載の凝集剤組成物。
【請求項7】
凝集助剤成分を含むこと、
を特徴とする請求項1〜6のうちのいずれかに記載の凝集剤組成物。
【請求項8】
凝集助剤成分が、活性珪酸を含むこと、
を特徴とする請求項7に記載の凝集剤組成物。
【請求項9】
凝集処理対象液に対し、請求項1〜8のうちのいずれかに記載の凝集剤組成物を投入する工程と、
凝集物が沈降するまで前記凝集処理対象液を静置する工程と、
前記凝集処理対象液前記凝集物を回収する工程と、
を含むことを特徴とする凝集処理方法。

【公開番号】特開2012−61372(P2012−61372A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129861(P2009−129861)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【特許番号】特許第4422202号(P4422202)
【特許公報発行日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(507389082)
【Fターム(参考)】