説明

凝集沈殿処理方法及び凝集沈殿装置

【課題】後続のろ過処理、汚泥処理を含めてシステム全体の最適化を図るために、凝集沈殿処理に対する新たな概念及びその実現のための具体的な凝集沈澱処理方法及び凝集沈澱処理装置を提案する。
【解決手段】フロック破壊を回避するために低い攪拌強度の集塊化法を選択した従来の凝集沈殿処理方法に替えて、取付ピッチの狭い傾斜装置8を採用して破壊後のフロックの破片である径3.0μm以上の微フロックの流出を阻止することを前提に、微フロック化工程で径3.0μm以下粒子の高効率集塊化と微フロックの高密化を図り、次いで沈澱分離対象フロック及びろ過池に流出する微フロックを細粒・高密に保持しつつ、沈澱水中への流出微フロック量が最小化されるよう、フロック化工程入口201のSTRを必要最小限となるよう凝集剤注入率を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、河川水,雨水,工場の用排水などの被処理水に無機凝集剤を注入し、被処理水中に含まれる微細な懸濁粒子を集塊化して微フロックを形成する微フロック化工程と、前記微フロックを既存フロックとの接触によってフロック化するフロック化工程とを経て、前記フロック化工程において形成されたフロックを沈澱池で沈殿分離することにより沈殿水を得る凝集沈殿処理方法及び凝集沈殿処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
凝集沈殿処理は、被処理水に無機凝集剤を注入し、被処理水中に含まれる微細な懸濁粒子を沈澱分離可能な径のフロックへと集塊化し、該フロックを分離することで沈澱水を得ている。通常、凝集沈殿処理は、高濁度の被処理水に対して適用可能であることから、ろ過の前処理プロセスとして用いられている。凝集沈澱装置は、コンベンショナルプロセスと高速凝集沈澱池とに大別され、後者は更に、スラリー循環型、スラッジ・ブランケット型に分類されている。しかし、いずれの凝集沈澱処理方法も、懸濁粒子の微フロック化工程と微フロックのフロック化工程とを経て沈澱分離されることに変りはない。
【0003】
現行の凝集沈澱処理方法は、スモルコウスキーが示した2つの方程式を検証する過程で体系化された凝集理論に基づいている。凝集理論は、コンベンショナルプロセスを対象に、集塊化の過程を2つに区分し、被処理水中に含まれる微細な懸濁粒子の荷電中和と該懸濁粒子が概ね径3.0μmの微フロックに集塊化される微フロック化工程はブラウン運動に依存し、一方径3.0μm以上の微フロックが沈澱分離可能な径のフロックにまで集塊化されるフロック化工程は攪拌力に依存すると説明した(例えば、特許文献1参照)。ところが、強い急速攪拌を行うとフロックの破壊を招くと報告(例えば、特許文献2参照)されたことで、フロック破壊は剪断力によってフロック表面が劣化するためと説明し、フロック形成工程に攪拌強度の低い緩速攪拌を採用した。また、その多くが米国で開発された高速凝集沈澱池は、特許文献2の影響を受けたこともあって微フロック化工程には攪拌強度の弱い水流攪拌が採用されてきた。ところで、スモルコウスキー式は、衝突頻度βの上昇、つまり攪拌強度の上昇が集塊化に有効であることを示していて、例えばスラッジ・ブランケット型高速凝集沈澱池を対象に、急速攪拌強度を上昇する試みがなされている(例えば、特許文献3参照)。しかし、同報告の結論は、微フロック化工程で強い攪拌を長時間持続させた場合、すなわち急速攪拌強度GR値、及び急速攪拌時間TR値を上昇させた場合、母フロックが破壊されて沈殿水濁度が上昇するとの従来の報告と同じであったことから、同沈澱池への急速攪拌の採用は殆どなされていない。
【0004】
従って、これまでのろ過水質の向上要求に対して、前段に位置する凝集沈澱処理において、懸濁粒子の集塊化の促進とフロック破壊の抑制を目的に、凝集剤注入率の上昇に強く依存した運転法を採用してきた。特に急速攪拌を具備していない高速凝集沈澱池の運転では、最早改善の余地が残されていない程度まで凝集剤注入率が上昇されている。
【特許文献1】丹保憲仁:水処理における凝集機構の基礎的研究(1)〜(4)、水道協会雑誌、第361号、363号、365号、367号、(1964.10,1964.12、1965.2、1965.4).
【特許文献2】Committee Report :Capacity and Loadings of Suspended Solids Contact Units, J. AWWA, April,1951.
【特許文献3】角田省吾・片岡克之:スラリーブランケット型高速凝集沈殿装置の研究(2)−スラリーブランケット層へおよぼす凝集かくはん条件の影響について−工業用水、第133号、pp.39〜47、昭44.10.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、凝集剤注入率の上昇に強く依存する運転法は、沈殿処理はほぼ満足できる結果を得ることができるものの、沈殿処理に後続するろ過処理及び汚泥処理については、以下のような問題が発生していた。つまり、浄水処理において、病原性原虫による地域住民の集団感染事故以降、ろ過水濁度はそれまでの2度以下から0.1度以下へと改定された。これはろ過水濁度が2度以下に保たれていても、病原性原虫のオーシスト等の相当径であるろ過水中の径3.0〜10μm粒子の漏出量が多かったことによる。また、ろ過処理は、凝集剤の増加に伴って、ろ過池に流入する微フロックの粗粒・低密化と沈殿水STR(凝析集塊物残留量)が上昇し、その結果、ろ過池の洗浄頻度が高まるという問題を予てより懸案事項として抱えてきている。一方、汚泥処理については、同じく凝集剤の増加に伴って、汚泥の発生量自体が増加し、加えて、汚泥の濃縮・脱水性が低下することによって汚泥処置が困難となっていた。
【0006】
そこで、本発明は、上述の諸問題は、凝集、沈澱、ろ過及び汚泥処理が、1つのシステムとして運用されるにもかかわらず、ろ過及び汚泥処理の最適化を殆ど考慮することなく、沈澱処理の最適化のみを重視した運転法が採用されてきたことによると判断した。更には、凝集沈澱処理施設の設計基準値の基となった凝集理論が、フロック破壊に伴う沈澱水濁度の上昇を懸念して、極めて非効率な低い攪拌強度による集塊化処理方法を選択したことに起因していると判断した。すなわち、現状の凝集沈澱処理が抱える諸問題は、凝集沈澱処理方法に対する考え方自体にあり、従って、本発明が解決しようとする課題は、後続のろ過処理、汚泥処理を含めてシステム全体の最適化を図るために、凝集沈殿処理に対する新たな概念及びその実現のための具体的な凝集沈澱処理方法及び凝集沈澱処理装置を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従来のフロックの破壊を避けることを前提とした凝集沈殿処理方法に替えて、フロック破壊が生じることを許容した凝集条件で微フロック化及びフロック化を図り、沈澱分離対象フロック及びろ過池に流出する微フロックを細粒・高密に保つと同時に、沈澱水中への流出微フロック量を最小化することが課題を解決するための手段となる。
【0008】
請求項1に係る発明は、被処理水に無機凝集剤を注入する凝集剤注入工程と、前記無機凝集剤が注入された前記被処理水を混合攪拌して前記被処理水中の微細な懸濁粒子をあらかじめ微フロック化する微フロック化工程と、前記微フロックを既存フロックとの接触によってフロック化するフロック化工程と、前記フロックを沈殿分離することにより沈殿水を得る沈殿分離工程と、を有する凝集沈殿処理方法において、前記微フロック化工程は、2以上の区画に分割された急速攪拌槽を備えて成り、前記凝集剤注入工程として、第1区画の前記急速攪拌槽中の前記被処理水を含むこれ以前の前記被処理水に前記無機凝集剤を注入する第1凝集剤注入工程と、第2区画以降の急速攪拌槽内及び/もしくは前記フロック化工程入口以前の前記被処理水に前記無機凝集剤を少なくとも1回以上注入する第2凝集剤注入工程とを設けることで、前記フロック化工程入口における前記被処理水中の前記無機凝集剤の凝析集塊物残留量を示す指標であるSTRが4.0以下となるよう凝集剤注入率を制御し、前記沈澱池の沈澱水取出し部の清澄ゾーンに設けられた所定の取付ピッチの傾斜板によって前記沈澱池から流出する微フロックの流出を阻止する傾斜装置を設けた、ことを特徴としている。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る凝集沈殿処理方法において、前記沈澱池から流出する微フロックの流出の阻止は、前記取付ピッチが5mm以上50mm以下、高さが30mm以上100mm以下の前記傾斜板が上下方向に20mm以上200mm以下の間隔をあけて多段に設置されている前記傾斜装置によってなされる、ことを特徴としている。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る凝集沈殿処理方法において、前記微フロック化工程は、3以上の区画に分割された前記急速攪拌槽であって、急速攪拌強度GR値150s−1以上、急速攪拌時間TR値3分以上の条件で急速攪拌される、ことを特徴としている。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項1から3のいずれか1項に係る凝集沈殿処理方法において、前記微フロック化工程は、前記急速攪拌槽と、前記急速攪拌槽に後続する個々の小型接触材が内部に大きな空隙を有し、空塔速度3.0m/h以上、滞留時間1.5分以上で通水可能な第1の接触材集積層を充填した第1の接触材集積槽とによって微フロック化処理が行われる、ことを特徴としている。
【0012】
請求項5に係る発明は、請求項4に係る凝集沈殿処理方法において、前記微フロック化工程は、前記急速攪拌槽と前記第1の接触材集積槽及び前記第1の接触材集積槽の前段に設けられ、前記第1の接触材集積層の空塔通水速度よりも高い空塔通水速度で被処理水を通水する第2の接触材集積層を充填し、連続的もしくは間欠的に洗浄される第2の接触材集積槽とによって微フロック化処理が行われる、ことを特徴としている。
【0013】
請求項6に係る発明は、請求項1から5のいずれか1項に係る凝集沈殿処理方法において、前記フロック化工程入口におけるSTRが2.5以下となるよう凝集剤注入率を制御する、ことを特徴としている。
【0014】
請求項7に係る発明は、請求項1から6のいずれか1項に係る凝集沈殿処理方法において、前記フロック化工程は、緩速攪拌強度GS値20s−1以上、緩速攪拌時間TS値5分以上の条件の緩速攪拌下に既存フロックと微フロックとの接触によって行われる、ことを特徴としている。
【0015】
請求項8に係る発明は、請求項1から6のいずれか1項に係る凝集沈殿処理方法において、前記フロック化工程は、スラッジ・ブランケット層内に高濃度に集積された母フロック群と微フロックとの接触によってなされる、ことを特徴としている。
【0016】
請求項9に係る発明は、被処理水に無機凝集剤を注入する凝集剤注入手段と、前記無機凝集剤が注入された前記被処理水を混合攪拌して前記被処理水中の微細な懸濁粒子をあらかじめ微フロック化する微フロック化手段と、前記微フロックを既存フロックとの接触によってフロック化するフロック化手段と、前記フロックを沈殿分離することにより沈殿水を得る沈殿分離手段と、を有する凝集沈殿処理装置において、前記微フロック化手段は、2以上の区画に分割された急速攪拌槽を備えて成り、前記凝集剤注入手段として、第1区画の前記急速攪拌槽中の前記被処理水を含むこれ以前の前記被処理水に前記無機凝集剤を注入する第1凝集剤注入手段を備えると共に、微フロック化過程において消費される前記無機凝集剤の凝析集塊物を補給して、前記フロック化手段入口における前記被処理水中の前記無機凝集剤の凝析集塊物残留量を示す指標であるSTRが4.0以下となるよう凝集剤注入率を制御するために、第2区画以降の急速攪拌槽内及び/もしくは前記フロック化工程入口以前の前記被処理水に前記無機凝集剤を少なくとも1回以上注入する第2凝集剤注入手段を具備し、所定の取付ピッチの傾斜板によって前記沈澱分離手段から流出する微フロックの流出を阻止するための傾斜装置を沈澱水取出し部の清澄ゾーンに設けた、ことを特徴としている。
【0017】
請求項10に係る発明は、請求項9項に係る凝集沈殿処理装置において、前記傾斜装置は、前記取付ピッチが5mm以上50mm以下、高さが30mm以上100mm以下の前記傾斜板が上下方向に20mm以上200mm以下の間隔をあけて多段に設置されている、ことを特徴としている。
【0018】
請求項11に係る発明は、請求項9項及び10項に係る凝集沈殿処理装置において、前記微フロック化手段は、急速攪拌時間TR値3分以上で3以上の区画に分割された急速攪拌槽であって、急速攪拌強度GR値150s−1以上で急速攪拌可能な急速攪拌機を具備している、ことを特徴としている。
【0019】
請求項12に係る発明は、請求項9から11のいずれか1項に係る凝集沈殿処理装置において、前記微フロック化手段は、前記急速攪拌槽に後続して、個々の小型接触材が内部に大きな空隙を有し、空塔速度3.0m/h以上、滞留時間1.5分以上で通水可能な第1の接触材集積層を充填した第1の接触材集積槽を設ける、ことを特徴としている。
【0020】
請求項13に係る発明は、請求項12に係る凝集沈殿処理装置において、前記第1の接触材集積槽の前段に、連続的もしくは間欠的に洗浄され、前記第1の接触材集積層の空塔通水速度よりも高い空塔通水速度で被処理水を通水する第2の接触材集積層を充填した第2の接触材集積槽を設ける、ことを特徴としている。
【0021】
請求項14に係る発明は、請求項9から13のいずれか1項に係る凝集沈殿処理装置において、前記フロック化手段入口におけるSTRが2.5以下となるよう凝集剤注入率を制御するための制御手段を備える、ことを特徴としている。
【0022】
請求項15に係る発明は、請求項9から14のいずれか1項に係る凝集沈殿処理装置において、前記フロック化手段が、緩速攪拌強度GS値20s−1以上、緩速攪拌時間TS値5分以上の条件を有する緩速攪拌槽である、ことを特徴としている。
【0023】
請求項16に係る発明は、請求項12から15のいずれか1項に係る凝集沈殿処理装置において、前記第1の接触材集積層は、3以上の区画に分割された前記緩速攪拌槽の流入側第1区画を含めた区画に設置される、ことを特徴としている。
【0024】
請求項17に係る発明は、請求項9から14のいずれか1項に係る凝集沈殿処理装置において、前記フロック化手段は、母フロック群を高濃度に集積するスラッジ・ブランケット槽である、ことを特徴としている。
【0025】
請求項18に係る発明は、請求項17に係る凝集沈殿処理装置において、前記スラッジ・ブランケット槽は、スラッジ・ブランケット層高が70cm以上250cm以下である、ことを特徴としている。
【0026】
請求項19に係る発明は、請求項17に記載の凝集沈殿処理装置において、前記第1の接触材集積層と前記スラッジ・ブランケット層が同一水槽内に設置されており、前記スラッジ・ブランケット槽は、スラッジ・ブランケット層高が10cm以上70cm以下である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
請求項1の発明によると、微フロック化工程は、2以上の区画に分割された急速攪拌槽を備えて成り、前記凝集剤注入工程として、第1区画の前記急速攪拌槽中の前記被処理水を含むこれ以前の前記被処理水に前記無機凝集剤を注入する第1凝集剤注入工程とは別に、第2区画以降の急速攪拌槽内及び/もしくは前記フロック化工程入口以前の前記被処理水に前記無機凝集剤を少なくとも1回以上注入する第2凝集剤注入工程とを設けることで、前記フロック化工程入口における前記被処理水中の前記無機凝集剤の凝析集塊物残留量を示す指標であるSTRが4.0以下となるよう凝集剤注入率を制御することによって、被処理水中に含まれる微細な懸濁粒子の低減化と同時に、フロックの破壊を制御することができ、前記沈澱池の沈澱水取出し部の清澄ゾーンに設けられた所定の取付ピッチの傾斜板によって前記沈澱池から流出する微フロック量を低減化できるので、従来法に比べて少ない凝集剤注入率で低い濁度の沈殿水を得ることができる。
【0028】
請求項2の発明によると、破壊に伴うフロック破片を含む径3.0μm以上の微フロック数の高効率分離が可能となるので、微フロック化工程、フロック化工程共、細粒・高密な微フロックの形成を目指すことができ、結果としてろ過処理、汚泥処理を同時に最適化可能な沈澱処理を実現できる。
【0029】
請求項3の発明によると、急速攪拌槽の区画化数を3以上とすると共に、GR値、TR値を上昇し、フロック化工程入口のSTRをより低く制御することによって、低い凝集剤注入率のもとで、ろ過処理、汚泥処理を同時に最適化可能な沈澱処理を実現できる。
【0030】
請求項4の発明によると、急速攪拌槽の電力消費量の削減を図りつつ、径3.0μm以下粒子の低減化と細粒・高密な微フロック形成が可能となる。
【0031】
請求項5の発明によると、上述の請求項4の実施に当たって、最小の損失水頭(運転コストの低減化)で、径3.0μm以下粒子の高効率集塊化を達成できる。
【0032】
請求項6の発明によると、フロック化工程入口のSTRを2.5以下となるよう凝集剤注入率を制御することによって、後続するろ過処理及び汚泥処理をより最適化すること可能となる。
【0033】
請求項7の発明によると、前記請求項1から6記載の発明を、緩速攪拌強度GS値20s−1以上、緩速攪拌時間TS値10分以上の条件で緩速攪拌される、機械式フロッキュレータを持つ、コンベンショナルプロセスに適用することができる。また、攪拌下に既存フロックと微フロックを接触させるフロック化工程を持つ、スラリー循環型高速凝集沈澱池に適用することができ、いずれもその処理性を大幅に向上することができる。
【0034】
請求項8の発明によると、前記フロック化工程が高濃度に集積された母フロック群とのとの接触によってなされるスラッジ・ブランケット型高速凝集沈澱池に適用することによって、その処理性を大幅に向上することができる。
【0035】
請求項9の発明に係る処理装置は、微フロック化工程として2以上の区画に分割された急速攪拌槽を備えて成り、沈澱水取出し部の清澄ゾーンに微フロックの流出を阻止するために所定の取付ピッチの傾斜板による傾斜装置を設けた凝集沈澱処理装置において、フロック化工程入口における前記被処理水中の前記無機凝集剤の凝析集塊物残留量を示す指標であるSTRが4.0以下となるよう凝集剤注入率を制御するために、凝集剤注入工程として、第1区画の前記急速攪拌槽中の前記被処理水を含むこれ以前の前記被処理水に前記無機凝集剤を注入する第1凝集剤注入工程に加えて、第2区画以降の急速攪拌槽内及び/もしくは前記フロック化工程入口以前の前記被処理水に前記無機凝集剤を少なくとも1回以上注入する第2凝集剤注入工程を設けることができる。
【0036】
請求項10の発明に係る処理装置は、沈澱水取出し部の清澄ゾーンに微フロックの流出を阻止するための所定の取付ピッチの傾斜板による傾斜装置として、取付ピッチが5mm以上50mm以下、高さが30mm以上100mm以下の前記傾斜板が上下方向に20mm以上200mm以下の間隔をあけて多段に設置された傾斜装置を設けることができる。
【0037】
請求項11の発明に係る処理装置は、微フロック化手段である急速攪拌に、急速攪拌時間TR値3分以上で3以上の区画に分割された急速攪拌槽で、急速攪拌強度GR値150s−1以上で急速攪拌可能な急速攪拌機を設けることができる。
【0038】
請求項12の発明に係る処理装置は、微フロック化手段として、急速攪拌槽に後続して、個々の小型接触材が内部に大きな空隙を有し、空塔速度3.0m/h以上、滞留時間1.5分以上で通水可能な第1の接触材集積層を充填した接触材集積槽を設けることができる。
【0039】
請求項13の発明に係る処理装置は、第1の接触材集積槽の前段に、連続的もしくは間欠的に洗浄され、前記第1の接触材集積槽の空塔通水速度よりも高い空塔通水速度で被処理水を通水する第2の接触材集積層を充填した接触材集積槽を設けることができる。
【0040】
請求項14の発明に係る処理装置は、フロック化手段入口におけるSTRが2.5以下となるよう凝集剤注入率を制御するための制御手段を設けることができる。なお、該制御手段は、被処理水中の無機凝集剤の凝析集塊物残留量を示す指標であるSTRを測定し、制御に用いても良いが、上で説明したように、凝析集塊物残留量は、第1凝集剤注入工程及び第2凝集剤注入工程によって注入された無機凝集剤と微フロック化手段及びフロック化手段による集塊化処理の結果として決まり、更に沈澱水中の残留粒子数及び濁度が決まることから、STRの代替指標として沈殿水中の残留粒子数もしくは沈殿水濁度によって凝集剤注入量を制御することもできる。
【0041】
請求項15の発明に係る処理装置は、フロック化手段として、緩速攪拌強度GS値20s−1以上、緩速攪拌時間TS値5分以上の条件を有する緩速攪拌槽を設けることができる。
【0042】
請求項16の発明に係る処理装置は、第1の接触材集積層は、既存の3以上の区画に分割された緩速攪拌槽の流入側第1区画を含めた区画に設置することができる。
【0043】
請求項17の発明に係る処理装置は、フロック化手段として、母フロック群を高濃度に集積したスラッジ・ブランケット槽を設けることができる。
【0044】
請求項18の発明に係る処理装置は、フロック化手段としてのスラッジ・ブランケット槽は、スラッジ・ブランケット層高を70cm以上250cm以下とすることができる。
【0045】
請求項19の発明に係る処理装置は、微フロック化手段である第1の接触材集積層とフロック化手段であるスラッジ・ブランケット層を同一水槽内に設置することができる。本発明によれば、第1の接触材集積層の通水速度及び母フロックの大きな沈降速度によるスラッジ・ブランケット層の通水速度を共に上昇し得るので、沈澱池のコンパクト化、敷地面積の削減及び施設建設費の削減が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下、本発明の最良の実施形態を図面に基づき詳述する。なお、各図面において、同じ符号を付した部材等は、同じ構成のものであり、これらについての重複説明は適宜省略するものとする。また、各図面においては、説明に不要な部材等は適宜、図示を省略している。なお、本願は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0047】
ここで、本発明において用いられるSTRは、吸引ろ過時間指標(Suction Time Ratio)〔無次元〕であって、急速攪拌及び沈澱・ろ過水中の凝集剤の凝析集塊物量を示している。試料水500mL及びそれと同温・等量の蒸留水をそれぞれ直径45mmのメンブランろ紙(平均孔径0.45μm、多孔度78%)装着の吸引装置で吸引する時間の比である。
【0048】
また、本発明において用いられるSDIは、汚泥密度指標(Sludge Density Index:mg/mL)で、沈降後のフロック容積1mL当たりに含まれる固形物量(mg)を示す。
【0049】
また、本発明における微細な懸濁粒子とは、被処理水中の全粒子数の大半を占める概ね径3.0μm以下の粒子を意味している。
【0050】
また、特許請求の範囲中及び明細書中の記載「A及び/もしくはB」は、「AとBとのうちの少なくとも一方、すなわち、A及びBと、A又はBとの双方を含む、という意味で使用している。
【0051】
まず、請求項1〜19についてさらに詳述する。
【0052】
請求項1の発明によると、微フロック化工程は、2以上の区画に分割された急速攪拌槽を備えて成り、前記凝集剤注入工程として、第1区画の前記急速攪拌槽中の前記被処理水を含むこれ以前の前記被処理水に前記無機凝集剤を注入する第1凝集剤注入工程とは別に、第2区画以降の急速攪拌槽内及び/もしくは前記フロック化工程入口以前の前記被処理水に前記無機凝集剤を少なくとも1回以上注入する第2凝集剤注入工程とを設けることで、前記フロック化工程入口における前記被処理水中の前記無機凝集剤の凝析集塊物残留量を示す指標であるSTRが4.0以下となるよう凝集剤注入率を制御することによって、被処理水中に含まれる微細な懸濁粒子の低減化と同時に、フロックの破壊を制御することができ、前記沈澱池の沈澱水取出し部の清澄ゾーンに設けられた所定の取付ピッチの傾斜板によって前記沈澱池から流出する微フロック量を低減化できるので、従来法に比べて少ない凝集剤注入率で低い濁度の沈殿水を得ることができる。
【0053】
現行の凝集沈澱処理方法は、「集塊化のためには衝突頻度を高めることは有効であるが、沈澱に好ましい径の大きなフロックは、大きな剪断力に耐えられない。」とする凝集理論の考え方に基づいていている。ところで、浄水処理や工場の用水処理では、凝集沈澱はろ過処理を後続し、通常ろ過水質の向上を目的に処理がなされている。しかし、低濁度原水を対象とする直接ろ過では、低い凝集剤注入率の下で細粒・高密な微フロックを形成するほど、ろ過水濁度、濁質抑留量、損失水頭などの各パラメータが最適化されるのに対して、沈澱処理を経た後のろ過処理の各パラメータは、直接ろ過に比べて大きく劣ることが知られている。一方、微フロック化の効率を高めるための方法として、コンベンショナルプロセスにおいても、急速攪拌のGR値、TR値の上昇の提案は何度かなされてきたが、その都度、フロック破壊に伴って沈澱水濁度が上昇するとの理由から実施設で採用されることはなく、結果として、凝集剤注入率の上昇に依存する運転法が正しい凝集沈澱処理方法と認識されているなど、荷電中和、フロック破壊、攪拌強度の関係は正しい理解がなされていない。特に、凝集剤の凝析集塊物の攪拌強度による集塊化特性に対する理解が不足しているばかりでなく、これまで凝集剤の凝析集塊物量を示すSTRを制御するとの考え方はなされてこなかった。後述のように、凝析集塊物は、微細懸濁粒子から微フロックへの集塊化と微フロックから沈澱分離可能なフロックへの集塊化に消費される。また、凝析集塊物の集塊化特性は攪拌強度への依存性が高く、攪拌強度を上昇すると細粒・高密を保ち、フロックに小さな付着力のみを与える。一方、低い攪拌強度の下では、自ら集塊化して粗粒・低密化して、フロックに大きな付着力を与える。また、集塊化においては、同等径の粒子の相互衝突により次第にその径を増してゆくので、微フロック化工程にあっては衝突頻度βを上昇すると、微細懸濁粒子と細粒・高密な凝析集塊物とを相互衝突させることができるので、凝析集塊物の利用効率は向上し、凝集剤注入率の低減化が図れることになる。ところが、現行の凝集沈澱処理法のように、フロックの破壊を懸念して低い攪拌強度による集塊化法を採用すると、微細懸濁粒子は粗粒・低密な凝析集塊物と衝突しなければならず、凝析集塊物の利用効率は低いので、凝集剤注入率の上昇が不可欠となる。一方、フロック化工程では、通常低いG値の下で行われるので、粗粒・低密な凝析集塊物が、高い付着力を発揮して微フロックを抑留して、径の大きなフロックがもたらされることになる。以上のように、急速攪拌開始時に注入された凝集剤の凝析集塊物は、細粒・高密、粗粒・低密のいずれにしても消費は進み、水中残留量であるSTRは低下し、所定レベルになれば一旦形成されたフロックの破壊を招くことになる。以上のような凝析集塊物の特性が理解されていないため、現行法ではやみくもに凝集剤注入率の上昇に依存した運転法が取られているのであって、微フロック化工程とフロック化工程に各々必要量の凝集剤を分割して注入するだけで、容易に凝集剤注入率を低下し得るし、フロックの破壊も防ぐことができるようになる。
【0054】
本発明は、凝集理論の「ブラウン運動に依存するとの荷電中和と径3.0μm未満粒子の集塊化及び剪断力によるとするフロック破壊」の説明が誤りであることを明らかにすると共に、フロック、母フロックによる微フロックの抑留挙動とフロック破壊時の各径微フロックの沈澱分離挙動と凝集剤の凝析集塊物量であるSTRについての上述のような集塊化特性を検証することによって、考案するに至ったものである。
<凝集剤注入率制御方法>
【0055】
凝集剤注入率制御法の1例としては、第1凝集剤注入工程の凝集剤注入は、例えばアルミニウム系凝集剤の場合、原水濁度(T)に対するアルミニウム(Al)の割合を一定に保つAl/T比となし、第2凝集剤注入工程の凝集剤注入を残留STRが一定となるよう凝集剤注入率を制御する方法を好適に用いることができる。
<集塊化及びフロック破壊とSTRの関係>
【0056】
まず、凝集理論は、荷電中和を「殆ど全ての凝析集塊物は懸濁粒子表面に抑留され、エネルギー障壁の解消と架橋作用が与えられる」と説明し、凝集機構を「ブラウン運動によって概ね径3.0μmにまで集塊化された微フロックは、攪拌力を与えることによって大きな径のフロックへと集塊化される」と説明した。しかし本発明では、各工程の無機凝集剤の凝析集塊物残留量を示す指標であるSTRの値を指定し、径3.0μm以下の粒子の高効率集塊化法を提案している。つまり、図5に示すように、凝集剤注入直後には水中に多量の凝析集塊物が存在し、初期粒子である径0.5〜1.0μm粒子の集塊化と一致して低減化が進み、更にSTRが一定レベルまで低下すると径30μm以上の大型微フロックの破壊が生じている。STRは、孔径0.45μmのメンブレンフィルタを用いた500mLのサンプル及び蒸留水の吸引時間比として算出される。従って、凝析集塊物は径0.45μm以上の粒子であり、後述のように、初期粒子である径0.5〜1.0μm粒子の集塊化は、単位容積当たりのマイクロスケール渦量を上昇して衝突頻度βを向上するほど促進されるので、ブラウン運動ではなく攪拌力に依存することが明らかであり、凝析集塊物粒子が例外となることもない。更に、所定の剪断力を上回るようSTRを制御すると、GR値150s−1においてもフロックの破壊は生じることもない。つまり、STRは衝突効率αに該当すること、また初期粒子を含む全ての粒子・フロックは、攪拌下の粒子の衝突を示したスモルコウスキー式に従い、衝突効率α、衝突頻度βを共に上昇することによって集塊化は促進されること、一方衝突効率α(STR)が低下すると破壊が進行することなど、凝集機構及びフロック破壊の説明が誤りであることを認識することが極めて重要である。
<沈澱水濁度を構成する微フロック>
【0057】
ところで、沈澱水中に残留する微フロックは、フロック化工程でフロックに抑留されずに流出する微フロックと、剪断力によって破壊され再抑留されずに流出するフロックの破片から構成されると考えることができ、沈澱水濁度の低下はこの両微フロック数を低減化することによって達成できる。
<径3.0μm以下粒子数の低減化>
【0058】
沈澱水中に残留する未抑留微フロックの主体は、径3.0μm以下粒子である。その集塊化には、粒子径に等しいマイクロスケール渦が好ましいとされ、また衝突頻度βは単位容積当たりのマイクロスケール渦の数によって決まる。従って、攪拌槽を用いる場合は急速攪拌がより好適となる。急速攪拌槽は、GR値を上昇するほどマイクロスケール渦の形成量が多くなるので、図6に示すように初期粒子である径0.5〜1.0μm粒子の除去速度は早くなり、TR値の上昇は高い衝突頻度を継続的に与えることが可能となるので初期粒子数の低減化に繋がる。
<径3.0μm以上微フロック数の低減化と破壊の抑制>
【0059】
微フロック化工程において、径3.0μm以下粒子の集塊化を促進すると、図5からSTRが低下する。従って、STRが衝突効率αに該当するとの観点に立てば、フロック化工程に流入する被処理水のSTRを上昇することによって、フロックの破壊が抑制できなければならない。
【0060】
図19は、二段急速攪拌法の緩速攪拌の有無による第2凝集剤注入工程の凝集剤注入率の上昇に伴う各径粒子数、濁度及びSTRの動きを示している。実験は、濁度:20mg/L、第1凝集剤注入工程のPAC注入率:13mg/L、GR1値:1500s−1、TR1値:5分、GR2値:150s−1、TR2値:10分、GS値:25s−1、TS値:28分で、第2凝集剤注入工程のPAC注入率を3.8mg/L、7.6mg/L、15.2mg/Lと上昇している。つまり、2段目の急速攪拌槽へのPAC注入率の上昇に伴って、各径粒子数の低減化が進んでいる。特に、フロック破壊に係る径3.0μm以上の微フロック数の低減化が顕著である。すなわち、微フロック化工程であるGR1値1500s−1の1段目の急速攪拌槽において、径3.0μm以下粒子の集塊化の進行に伴ってSTRは低くなるので、フロック化工程で破壊が生じて径3.0μm以上の微フロック数が増加するが、第2凝集剤注入工程のPAC注入率を上昇して2段目の急速攪拌槽のSTRを制御すると、GR2値150s−1の下でもフロック破壊による沈澱水濁度上昇の懸念がないことが理解される。なお、下段に示すように、緩速攪拌を後置することによって沈澱水中の粒子数及び濁度は更に改善されているが、これは緩速攪拌工程入口に残留する凝析集塊物が、低G値下において粗粒・低密化して付着力を向上させるためである。
<スラッジ・ブランケットの微フロック化工程及びSTR制御>
【0061】
次に、スラッジ・ブランケット型高速凝集沈澱池の母フロックによる微フロックの抑留挙動は、GR値120s−1の低い攪拌強度と取付ピッチの狭い傾斜装置を採用した1例である図7を見ると、まず凝集剤注入率を上昇するといずれの径の粒子の除去率も向上してゆく。この時、径3.0μm以下の粒子の除去率は低く、とりわけ初期粒子である径0.5〜1.0μm粒子の除去率は、80%台で推移しているものの他の粒子に比べて明らかに低い。一方、径3.0μm以上の微フロックは、97%以上の高率で除去されていて、凝集剤注入率の影響を殆ど受けていないことが注目される。この結果から、あらかじめ微フロック化工程で、径3.0μm以下粒子を径3.0μm以上の微フロックへと集塊化することによって、スラッジ・ブランケットの処理性を大幅に改善し得ることが想定される。また、図8に示すように、スラッジ・ブランケット槽入口のSTRを上昇すると径3.0μm以上の微フロック数は急減し、図19と同様、母フロックの破壊が解消されてゆくことがわかる。
<沈澱水濁度の低減化に不可欠な要素>
【0062】
以上のように、攪拌下におけるフロックの破壊は剪断力のみによるのではなく、径3.0μm以下粒子の集塊化に伴って凝析集塊物が微フロックに取込まれて、STRが低下して付着力が与えられないことに起因する。従って、フロック破壊に伴う沈澱水濁度の上昇を回避するには、フロック化工程に流入する被処理水のSTRを制御することが極めて重要であることがわかる。また、第2凝集剤注入工程の凝集剤注入率は、それほど多くを必要としない。従って、第1凝集剤注入工程の凝集剤注入率を低下し、急速攪拌のGR値、TR値を上昇して径3.0μm以下粒子数の低減化を図る運転法が採用できることになる。なお、急速攪拌のGR値、TR値を上昇すると、後述のように急速攪拌終期のSTRの低下により径3.0μm以下粒子数の集塊化が抑制されるので、第2凝集剤注入工程は急速攪拌槽の例えば第3区画などに対する少量注入が有効な手段となる。
【0063】
請求項2の発明によると、破壊に伴うフロック破片を含む径3.0μm以上の微フロック数の高効率分離が可能となるので、微フロック化工程、フロック化工程共、細粒・高密な微フロックの形成を目指すことができ、結果としてろ過処理、汚泥処理を同時に最適化可能な沈澱処理を実現できる。
【0064】
横流沈澱池の沈澱水中の径3.0μm以上の微フロック数は、図9に示すように傾斜装置の取付ピッチを狭めてゆくと低減化され、25mm以下の傾斜装置を採用すると高効率分離が可能となる。また、図10は、通水速度が概ね4倍の通水速度で運転されるスラッジ・ブランケットの沈澱水中の径3.0μm以上の微フロックの、取付ピッチ10mmの傾斜装置(二段設置)の有無による微フロック径毎の除去率を示している。径7.0〜10μm、径15〜20μm、径60μm以上の各微フロックの除去率は、各々81.8%、95.2%、98.9%と径の上昇に伴って向上する。
【0065】
フロックの沈降速度は径と密度に依存し、同一径であればフロック密度が高いほど沈降速度は上昇する。つまり、微フロック化工程において、径3.0μm以下粒子数の低減化を図る際に、第1凝集剤注入工程の凝集剤注入率を低く抑えて、衝突頻度βを上昇すれば細粒・高密な微フロックを形成することができる。その際、STRの上昇はフロック低密化の要因となるので、フロック化工程であるスラッジ・ブランケット槽入口のSTRを、傾斜装置の取付ピッチに応じて第2凝集剤注入工程で必要最少量の凝集剤注入を行って、低い範囲に制御することが極めて重要となる。
【0066】
取付ピッチの狭い傾斜装置の分離効果は、沈降面積の上昇に加えて傾斜装置下端の水流剪断作用による二次凝集効果に大きく依存している。従って、一定の間隔を開けて、多段に設置することで分離効果は更に向上する。
【0067】
以上のように、凝集理論及び現行法のように、フロックの分離を自由沈降もしくは取付ピッチの広い傾斜装置に限定するという固定概念の下では、径の大きなフロックを形成しない限り、分離効率の向上は期待できない。しかし、粒子分離の究極は、ろ過であって既存フロックの存在下、マイクロスケール渦流による接触フロック形成によって分離されている。従って、沈澱処理においても、傾斜装置の取付ピッチを狭めて剪断作用を利用することで、新たな概念の沈澱分離が実現可能となる。
【0068】
請求項3の発明によると、急速攪拌槽の区画化数を3以上とすると共に、GR値、TR値を上昇し、フロック化工程入口のSTRをより低く制御することによって、低い凝集剤注入率のもとで、ろ過処理、汚泥処理を同時に最適化可能な沈澱処理を実現できる。
<GR値、TR値の上昇に伴う径3.0μm以下の微フロック数の低減化>
【0069】
機械攪拌下の粒子の衝突を示したスモルコウスキー式によれば、フロック形成速度は、衝突効率α、衝突頻度β及び既存微フロック数の積に比例する。同式は、径3.0μm以下粒子の除去速度をも示していて、衝突効率α、衝突頻度β及び既存微フロック数のいずれを上昇しても同一除去速度を得ることができる。つまり、従来の低いGS値のもとで凝集剤注入率の上昇に依存(衝突効率αの上昇)する運転法に替えて、凝集剤注入率を低下(衝突効率αの制限)し、急速攪拌のGR値、TR値の上昇(衝突頻度βの上昇)法及び後述の水流フロッキュレータのように、マイクロスケール渦流と既存微フロック数の上昇(衝突頻度βの上昇)は、径3.0μm以下粒子数の低減化と微フロックの細粒・高密化を同時に実現することが可能となる。
<区画化数の上昇&STR制御>
【0070】
急速攪拌槽は、凝集理論では急速混和槽と称され、アルカリ剤や凝集助剤などの注入を考慮して2槽以上で構成し、粘土粒子などの粗コロイドを対象とする場合には、単に混ぜるだけで良いと説明している。すなわち、急速混和の設計基準は、凝集理論の荷電中和と径3.0μm以下粒子の集塊化の説明に基づくもので、それらがブラウン運動に依存するとして凝集剤などの均一分散のみを目的とし、攪拌による径3.0μm以下粒子の集塊化は実質的に考慮されていない。しかし、急速攪拌で径3.0μm以下粒子数の低減化を図る際には、単にGR値、TR値を上昇するだけでは効果的な集塊化はなされない。つまり、コンベンショナルプロセスのフロック形成槽が3〜4槽に区画化されているのと同様、急速攪拌槽の区画化数の上昇が欠かせない。これは、図5に示したように、回分処理における径0.5〜1.0μm粒子の集塊化は、直線近似される極めて早い集塊化の後、次第に集塊化は減速して二次曲線近似へ移行するという一定のパターンで進行する。連続槽では、いずれの区画も同様なパターンによって集塊化が進行するので、第2区画以降は前区画の流出粒子数に対して集塊化が進むことになる。従って、図11に示すように区画化数を上昇するほど被処理水中の径3.0μm以下粒子数の低減化が進むことになる。なお上述のように、集塊化に伴ってSTRは低下するので、第1凝集剤注入工程の凝集剤注入率の上昇のみに依存するのではなく、急速攪拌槽の第2区画以降のSTRを、第2凝集剤注入工程の僅かな凝集剤注入を行って制御すると更に低減化が進むことになる。
<微フロックの細粒・高密化>
【0071】
微フロックの径と密度の決定要因は、母フロックの破壊と破壊解消のメカニズムから理解される。図20は、GR値1250s−1、TR値7.3分、急速攪拌槽の区画化数3、第1凝集剤注入工程の注入率18.9mg/Lの条件で、急速攪拌後に第2凝集剤注入工程の注入率として0、9.44及び18.9mg/Lの3条件を、2段設置した取付ピッチ10mmの傾斜装置の有無で比較している。まず、傾斜装置設置なしの3条件の径7.0μm以上の微フロック数は、第2凝集剤注入工程の凝集剤注入率の上昇に伴って703個/mLから135個/mL、45個/mLと減少していて、母フロックの破壊が解消されてゆく。その他の径の粒子も同様に、その数を大きく低下させている。この時、沈澱水STRは、1.18から3.35、5.60と上昇し、一方母フロックの濃縮性を示すSDI値は、9.90mg/mLから6.55mg/mL、5.43mg/mL悪化している。しかし、第2凝集剤注入工程の凝集剤注入率9.44mg/Lの濁度は0.044度であるのに対して、第2凝集剤注入工程の凝集剤注入を行うことなく傾斜装置を設置したケースの濁度は0.040度と概ね同等となっている。以上の結果から、急速攪拌のGR値を上昇すると、微フロックは細粒・高密化し、同時にSTRが低下して母フロックの破壊が生じることがわかる。これは、GR値を上昇すると、凝析集塊物は径3〜10μmの細粒・高密な粒子を形成し、該粒子が懸濁粒子と衝突して微フロックを形成する。この時高GR値ほど凝析集塊物の密度が上昇するのは、衝突時に間隙水を取込まないためである。また、同一GR値においては、凝集剤注入率を低下するほど微フロックの密度は上昇する。なお、後述のように接触材集積層による水流フロッキュレータは、低いSTRの下で径3.0μm以下粒子の高効率集塊化と高密な微フロックをもたらす。これは、低G値であっても高い衝突頻度βによって径3.0μm以下粒子の集塊化のためにSTRの上昇を必要としないためである。また、母フロックの破壊へ対処法として、STRの上昇法と取付ピッチの狭い傾斜装置で高効率分離法が採用可能であるが、フロックを高密に保つとの観点から、取付ピッチの狭い傾斜装置を採用しなければならないことが理解される。以上のように、フロックの高密化を図るには、微フロック工程において低いSTR、高い衝突頻度βの下で微フロックの高密化を図り、次いでフロック化工程において傾斜装置の取付ピッチに応じて第2凝集剤注入工程の凝集剤注入により適正にSTRを制御しなければならない。これにより、ろ過処理、汚泥処理を同時に最適化可能な沈澱処理を実現できる。
【0072】
急速攪拌後の機械式フロッキュレータ、スラッジ・ブランケット層及び砂層のいずれもG値は低いので、STRが高く凝析集塊物残留量が多ければ、細粒・高密な微フロックであっても粗粒・低密化は避けられず、ろ過処理は最適条件から乖離することになることを認識しなければならない。
<水流フロッキュレータによる径3.0μm以下の微フロック数の低減化と省エネルギー対策>
【0073】
請求項4の発明によると、急速攪拌槽の電力消費量の削減を図りつつ、径3.0μm以下粒子の低減化と細粒・高密な微フロック形成が可能となる。
【0074】
図12は、GR値:1250s−1、TR値:7.3分、急速攪拌槽区画化数:3区画、PAC1注入率22.7mg/L、PAC2注入率2mg/Lの条件の急速攪拌槽出口水を対象とした水流フロッキュレータの処理に伴う各径粒子及び損失水頭の動きを示している。図12を見ると、僅か層高35cmの接触材集積層の水流フロッキュレータは、予め163757個/mLまで低減化された急速攪拌槽出口水中の初期粒子である径0.5〜1.0μm以下粒子を、22551個/mLと更に85%の高率で集塊化し得ることを示している。水流フロッキュレータとして機能した19時間後の損失水頭は、僅か13mmAqである。
【0075】
以上のように、接触フロック形成である水流フロッキュレータの径3.0μm以下粒子の集塊化効果は極めて高く、従来高いとされてきた急速攪拌の同粒子の集塊化効果は、決して高いものでないことがわかる。まず、攪拌のための消費エネルギーと形成される渦流との関係から、マイクロスケール渦は大きな渦の先端に形成されると説明されている。また、急速攪拌処理では、集塊化の進行に伴って槽内の微フロック数は急減し、フロック形成速度は自ずと低下する。一方、小型中空接触材の内外空隙内には、接触材端による水流の剪断作用によって極めて多量のマイクロスケール渦が形成される。該マイクロスケール渦の数は、接触材集積層単位容積当たりに充填された接触材の個数に比例し、より小型の接触材を用い、充填層高を上昇するほどマイクロスケール渦の数は増加する。また、マイクロスケール渦は、周囲の流れから微フロックを空隙内に取り込んで抑留し、後続の径3.0μm以下粒子との間に高い衝突頻度βを与えて、その低減化に大きく寄与する。注目されるのは、接触材集積層を用いた水流フロッキュレータの径0.5〜1.0μm以下粒子の集塊化は、急速攪拌槽出口水STR1.32のもとでなされていて、高い衝突頻度βのもとではSTRの上昇を必要としない。このことは、同じ接触フロック形成である直接ろ過が低い凝集剤注入率のもとで、極めて高い処理性を発揮するのと全く変らない。従って、所定の層高の接触材集積層の水流フロッキュレータを径3.0μm以下粒子の集塊化の中核とすることで、急速攪拌のGR値、TR値を低下させることができ、より少ない電力消費の下で径3.0μm以下粒子数の低減化と微フロックの高密化を同時に実現できる。
<接触材集積層の通水速度>
【0076】
図13は、接触材集積層による水流フロッキュレータとスラッジ・ブランケット槽の組合せ処理の1例を示している。実験は、GR値:1250s−1、TR値:7.3分、急速攪拌槽区画化数:3区画、PAC1注入率18.9mg/L、PAC2注入率2mg/L(第3区画)、PAC3注入率4.7mg/L(スラッジ・ブランケット入口)、スラッジ・ブランケット層高70cmH、同通水速度3.14m/h、接触材集積層高35cm、同通水速度を6.6m/hと11.1m/hで比較している。図13を見ると、沈澱水中の各径粒子数は概ね同等で、通水速度上昇の影響が少ないことがわかる。また、図7で説明したように、スラッジ・ブランケット層による除去率の低かった径3.0μm以下粒子をあらかじめ低減化することによって、層高70cmHのスラッジ・ブランケット層において、0.02〜0.01度と極めて低い濁度の沈澱水が得られている。なお、スラッジ・ブランケット単独処理に対する改善率は概ね80%と極めて高くなることも理解される。
<水流フロッキュレータの最適化>
【0077】
請求項5の発明によると、上述の請求項4の実施に当たって、最小の損失水頭(運転コストの低減化)で、微細な懸濁粒子の高効率集塊化を達成できる。
【0078】
図14は、図12の初期粒子である径0.5〜1.0μm粒子の集塊化効果について、接触材集積層が水流フロッキュレータとして機能するまでの時間帯毎の初期粒子除去速度を解析している。初期粒子除去速度は、通水開始直後は極めて速く、処理の進行に伴って徐々に遅くなり、水流フロッキュレータとして機能するようになると概ね一定速度になっている。一方、出口水中の初期粒子数は、抑留フロック量の増加に伴って低減化され、図12に示した損失水頭は上昇している。以上のように、接触材集積層の処理機能は、通水初期の接触材空隙容量が大きい段階の初期粒子除去速度の早さと、抑留フロック量が増加して初期粒子との衝突頻度βの向上による粒子数の低減化とに依存している。つまり、第1の接触材集積槽の前段に、第1の接触材集積槽の空塔通水速度よりも高い空塔通水速度で被処理水を通水する第2の接触材集積層を充填した接触材集積槽を設けると共に、第2の接触材集積層を連続的もしくは間欠的に洗浄することによって、最小の損失水頭で最大の微細な懸濁粒子の低減化効果を得ることが可能となる。なお、第2の接触材集積層の洗浄は、圧縮空気、圧力水による洗浄の他、槽内水の排除により実施しても良く、更に、機械によって接触材に揺動を与えても良い。
<ろ過水質の改善>
【0079】
請求項6の発明によると、フロック化工程入口のSTRを2.5以下となるよう凝集剤注入率を制御することによって、後続するろ過処理及び汚泥処理をより最適化すること可能となる。
【0080】
凝集剤注入率の上昇に強く依存する凝集沈澱処理が採用されてきたのは、ろ過処理を最適化する上で、微フロックの細粒・高密化が重要との認識に欠けていたことによる。上述のように、凝集沈殿処理はGR値、TR値を上昇して微細な懸濁粒子数を低減化し、かつフロック化工程入口のSTRを上昇すればフロックの破壊も解消されて、低い濁度の沈澱水が得られる。つまり、図15に示すように、沈澱水中の径3.0μm以下及び径3.0μm以上の粒子数と濁度の関係は共に高い相関関係をもって示される。つまり、STR制御のために、凝集剤を分割注入する場合の動力学式は、各注入点の凝集剤注入率Aとその攪拌履歴であるG・T値との積の総和であるΣ(A×G・T値)の形で表現できる。図15において、傾斜装置の影響の少ない径3.0μm以下粒子数は、図16に示すようにΣ(A×G・T値)の上昇に伴って低減化されていて、機械攪拌下の粒子の衝突を示したスモルコウスキー式に合致することがわかる。ところが、同沈澱処理を経た後のろ過処理のろ過水濁度は、図17に示すように、径3.0μm以上の粒子数を低減化することによって低くなる。ところが、ろ過水中の径3.0μm以上粒子数は、図18に示すようにΣ(A/G・T値)を低減化するほど減少している。Σ(A/G・T値)は、低い凝集剤注入率のもとでGR値、TR値を上昇つまり衝突頻度βを向上するほど低くなり、微フロックが細粒・高密化する条件と一致する。一方、Σ(A/G・T値)が高く、ろ過水濁度が上昇して径3.0μm以上粒子数が増加する条件は、STRが高くフロックが低密化する条件であり、フロックが脆弱となる条件であることから、砂層内間隙流の剪断力による剥離によって流出量が増加したと考えることができる。以上のように、凝集沈澱と後続のろ過処理の最適化条件は明らかに相容れず、沈澱処理はろ過処理の最適化条件のもとで最適化されなければならないことを示している。つまり、請求項1から3、4、5の順に単位容積当たりのマイクロスケール渦流数を上昇することによって、第1凝集剤注入工程の凝集剤注入率を低下することができ、微細な懸濁粒子の低減化と微フロックの高密化を共に促進することができ、フロック化工程入口のSTRを傾斜装置の取付ピッチに応じて第2凝集剤注入工程の最小限度の凝集剤注入によって制御することで、請求項1から3,4,5の順に、より低いSTRでの処理が可能となり、沈澱、ろ過及び汚泥処理の同時最適化はより進むことになる。以上のように、フロック化工程入口のSTRは、沈澱水濁度に支障のない限り、より1.0に近づけることが好ましいと言える。
<コンベンショナルプロセスなどへの適用>
【0081】
請求項7の発明によると、前記請求項1から6記載の発明を、緩速攪拌強度GS値20s−1以上、緩速攪拌時間TS値10分以上の条件で緩速攪拌される、機械式フロッキュレータを持つ、コンベンショナルプロセスに適用することができる。また、攪拌下に既存フロックと微フロックを接触させるフロック化工程を持つスラリー循環型高速凝集沈澱池に適用することができ、いずれもその処理性を大幅に向上することができる。
【0082】
上述のように、微フロック化工程によって微細な懸濁粒子数が現状に比べて大幅に低減化されることに加えて、図19で説明したように、フロック化工程の緩速攪拌強度GS値を上昇することができ、その際、フロック化工程入口のSTRを、傾斜装置の取付ピッチに応じて制御すれば、より短いTS値によってより高い集塊化処理を実現できる。
<スラッジ・ブランケット型高速凝集沈澱池への適用>
【0083】
請求項8の発明によると、前記フロック化工程が高濃度に集積された母フロック群とのとの接触によってなされるスラッジ・ブランケット型高速凝集沈澱池に適用することによって、その処理性を大幅に向上することができる。
<基本的な装置構成>
【0084】
請求項9の発明に係る処理装置は、微フロック化工程として2以上の区画に分割された急速攪拌槽を備えて成り、沈澱水取出し部の清澄ゾーンに微フロックの流出を阻止するために所定の取付ピッチの傾斜板による傾斜装置を設けた凝集沈澱処理装置において、フロック化工程入口における前記被処理水中の前記無機凝集剤の凝析集塊物残留量を示す指標であるSTRが4.0以下となるよう凝集剤注入率を制御するために、凝集剤注入工程として、第1区画の前記急速攪拌槽中の前記被処理水を含むこれ以前の前記被処理水に前記無機凝集剤を注入する第1凝集剤注入工程に加えて、第2区画以降の急速攪拌槽内及び/もしくは前記フロック化工程入口以前の前記被処理水に前記無機凝集剤を少なくとも1回以上注入する第2凝集剤注入工程を設けることができる。
【0085】
請求項10の発明に係る処理装置は、沈澱水取出し部の清澄ゾーンに微フロックの流出を阻止するための所定の取付ピッチの傾斜板による傾斜装置として、取付ピッチが5mm以上50mm以下、高さが30mm以上100mm以下の前記傾斜板が上下方向に20mm以上200mm以下の間隔をあけて多段に設置された傾斜装置を設けることができる。
【0086】
請求項11の発明に係る処理装置は、微フロック化手段である急速攪拌に、急速攪拌時間TR値3分以上で3以上の区画に分割された急速攪拌槽で、急速攪拌強度GR値150s−1以上で急速攪拌可能な急速攪拌機を設けることができる。
【0087】
請求項12の発明に係る処理装置は、微フロック化手段として、急速攪拌槽に後続して、個々の小型接触材が内部に大きな空隙を有し、空塔速度3.0m/h以上、滞留時間1.5分以上で通水可能な第1の接触材集積層を充填した接触材集積槽を設けることができる。
【0088】
請求項13の発明に係る処理装置は、第1の接触材集積槽の前段に、連続的もしくは間欠的に洗浄され、前記第1の接触材集積槽の空塔通水速度よりも高い空塔通水速度で被処理水を通水する第2の接触材集積層を充填した接触材集積槽を設けることができる。
【0089】
請求項14の発明に係る処理装置は、フロック化手段入口におけるSTRが2.5以下となるよう凝集剤注入率を制御するための制御手段を設けることができる。なお、該制御手段は、被処理水中の無機凝集剤の凝析集塊物残留量を示す指標であるSTRを測定し、制御に用いても良いが、上で説明したように、凝析集塊物残留量は、第1凝集剤注入工程及び第2凝集剤注入工程によって注入された無機凝集剤と微フロック化手段及びフロック化手段による集塊化処理の結果として決まり、更に沈澱水中の残留粒子数及び濁度が決まることから、STRの代替指標として沈澱水中の残留粒子数もしくは沈澱水濁度によって凝集剤注入量を制御することができる。
【0090】
請求項15の発明に係る処理装置は、フロック化手段として、緩速攪拌強度GS値20s−1以上、緩速攪拌時間TS値5分以上の条件を有する緩速攪拌槽を設けることができる。
【0091】
請求項16の発明に係る処理装置は、第1の接触材集積層は、既存の3以上の区画に分割された緩速攪拌槽の流入側第1区画を含めた区画に設置することができる。
【0092】
請求項17の発明に係る処理装置は、フロック化手段として、母フロック群を高濃度に集積したスラッジ・ブランケット槽を設けることができる。
【0093】
請求項18の発明に係る処理装置は、フロック化手段としてのスラッジ・ブランケット槽は、スラッジ・ブランケット層高を70cm以上250cm以下とすることができる。
【0094】
請求項19の発明に係る処理装置は、微フロック化手段である第1の接触材集積層とフロック化手段であるスラッジ・ブランケット層を同一水槽内に設置することができる。本発明によれば、第1の接触材集積層の通水速度及び母フロックの大きな沈降速度によるスラッジ・ブランケット層の通水速度を共に上昇し得るので、沈澱池のコンパクト化、敷地面積の削減及び施設建設費の削減が可能となる。
<従来のスラッジ・ブランケット型高速凝集沈澱池の処理フロー>
【0095】
図1は、従来のスラッジ・ブランケット型高速凝集沈澱池の処理フローを示している。図1のように、母フロックの破壊を招くとして、急速攪拌が採用されることはなく、脈動などの水流攪拌による微フロック化工程が採用されてきた。また、コンベンショナルプロセスにおいても、急速攪拌及び緩速攪拌の強度の上昇を避けて、凝集剤注入率の上昇に依存する運転法を採用してきた。
<実施形態1>
【0096】
図2は、沈澱池の沈澱水取出し部の清澄ゾーンに設けられた所定の取付ピッチの傾斜板によって前記沈澱池から流出する微フロックの流出を阻止する傾斜装置を設けた高速凝集沈澱池に、区画化数2以上で構成される急速攪拌槽を備えると共に、前記凝集剤注入工程として、第1区画の前記急速攪拌槽中の前記被処理水を含むこれ以前の前記被処理水に前記無機凝集剤を注入する第1凝集剤注入工程と、第2区画以降の急速攪拌槽内及び/もしくは前記フロック化工程入口以前の前記被処理水に前記無機凝集剤を少なくとも1回以上注入する第2凝集剤注入工程とを設けることで、前記フロック化工程入口における前記被処理水中の前記無機凝集剤の凝析集塊物残留量を示す指標であるSTRが4.0以下となるよう凝集剤注入率を制御することによって、径3.0μm以下粒子数の低減化に加えて、フロック破壊に伴う沈澱水濁度の上昇の懸念のない凝集沈澱処理を、より低い凝集剤注入率のもとで実現できる。
【0097】
なお、実施形態1では、請求項2の取付ピッチの狭い傾斜装置を多段の設置、請求項3の微フロック化工程が3以上の区画に分割された急速攪拌槽であって、急速攪拌強度GR値150s−1以上、急速攪拌時間TR値3分以上の条件を付加することによって、請求項6のようにフロック化工程入口のSTRを2.5以下となるよう凝集剤注入率を制御することが可能となり、沈澱処理の最適化だけではなく、後続のろ過処理及び汚泥処理をも同時に最適化できるようになる。
<実施形態2>
【0098】
図3は、上述の実施形態1に、請求項4及び5の二段の接触材集積層を付加した実施形態2の1例を示している。実施形態2によって、微フロック化工程における径3.0μm以下粒子数の低減化を、より低い凝集剤注入率と、より少ないエネルギー消費量のもとで達成することができるので、沈澱処理、ろ過処理及び汚泥処理の最適化を一層向上することが可能となる。
<実施形態3>
【0099】
図4は、請求項1から8を含む実施形態3の1例を示している。実施形態3によって、コンベンショナルプロセスにおいても、微フロック化工程における径3.0μm以下粒子数の低減化を、より低い凝集剤注入率と、より少ないエネルギー消費量のもとで達成することができるので、沈澱処理、ろ過処理及び汚泥処理の最適化を一層向上することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、凝集沈澱処理において、従来、急速攪拌強度上昇時のフロック破壊に伴う沈澱水濁度の上昇の懸念を払拭し得る新たな概念の凝集処理と沈澱処理を提案したもので、現在稼動中の凝集沈澱処理装置の処理性を大幅に改善できる。また、本発明は、単に凝集沈澱処理の改善を目的としたものではなく、後続のろ過処理、汚泥処理の最適化の観点から、本来あるべき凝集沈澱処理方法を模索したものであるから、最終的に要求されるろ過水中の粒子数及び発生汚泥の濃縮・脱水性は飛躍的に向上し、ろ過処理、汚泥処理を含めたシステム全体の処理性、処理コストを大幅に改善し得る。更に、新たに建設される凝集沈澱処理装置、施設にあっては、装置のコンパクト化に伴う敷地面積の縮小と建設費の大幅な削減に大きく寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】従来のスラッジ・ブランケット型沈殿池のフローを説明する図である。
【図2】実施形態1のスラッジ・ブランケット型沈殿池のフローを説明する図である。
【図3】実施形態2のスラッジ・ブランケット型沈殿池のフローを説明する図である。
【図4】実施形態3のスラッジ・ブランケット型沈殿池のフローを説明する図である。
【図5】TR値の上昇に伴う径0.5〜1.0μm粒子及び径30μm以上粒子とSTRの動きを説明する図である。
【図6】GR値上昇に伴う径0.5〜1.0μm粒子の動きを説明する図である。
【図7】PAC1注入率の上昇に伴う各径粒子除去率の動きを説明する図である。
【図8】スラッジ・ブランケット入口STRの上昇に伴う沈殿水濁度及び径3.0μm以上粒子の動きを説明する図である。
【図9】傾斜装置取付ピッチによる沈殿水中の径3.0μm以上粒子及び濁度の動きを説明する図である。
【図10】スラッジ・ブランケット入口へのPAC注入率上昇に伴う傾斜装置による粒子除去率の動きを説明する図である。
【図11】急速攪拌槽区画化数、PAC2注入率の上昇に伴う径0.5〜1.0μm粒子、STRの動きを説明する図である。
【図12】水流フロッキュレータに処理に伴う各径粒子及び損失水頭の動きを説明する図である。
【図13】水流フロッキュレータ、スラッジ・ブランケットの組合せ処理に伴う各径粒子及び損失水頭の動きを説明する図である。
【図14】GR値の上昇に伴う各径粒子除去率の動きを説明する図である。
【図15】沈殿水濁度と径3.0μm以下及び径3.0μm以上粒子数の関係を説明する図である。
【図16】ΣA×G・T値による沈殿水中の径3.0μm以上粒子の動きを説明する図である。
【図17】ろ過水中の径3.0μm以上粒子数による濁度の動きを説明する図である。
【図18】ΣA/G・T値によるろ過水中の径3.0μm以上粒子の動きを説明する図である。
【図19】二段急速攪拌法の緩速攪拌の有無によるPAC2注入率の上昇の伴う各径粒子数、濁度及びSTRの動きを説明する図である。
【図20】PACB注入率の上昇に伴う各径粒子数、濁度、STR、SDIなどの動きを説明する図である。
【符号の説明】
【0102】
1 被処理水
2 第1の無機凝集剤
3 沈澱水
4 引抜き汚泥
5 スラッジ・ブランケット槽
6 スラッジ・ブランケット層
7 清澄ゾーン
8 傾斜装置
9 コンセントレータ
10 余剰汚泥
11 急速攪拌機
12 第1の接触材集積槽
13 第1の接触材集積層
14 接触材支持体
15 第2の接触材集積槽
16 第2の接触材集積層
17 接触材支持体
18 接触材集積層流動化手段
19 フロック形成槽
20 緩速攪拌機
21 横流式沈澱池
101 急速攪拌槽第1区画
102 急速攪拌槽第2区画
103 急速攪拌槽第3区画
191 フロック形成槽第1区画
192 フロック形成槽第2区画
193 フロック形成槽第3区画
193 フロック形成槽第4区画
201 第2の無機凝集剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水に無機凝集剤を注入する凝集剤注入工程と、前記無機凝集剤が注入された前記被処理水を混合攪拌して前記被処理水中の微細な懸濁粒子をあらかじめ微フロック化する微フロック化工程と、前記微フロックを既存フロックとの接触によってフロック化するフロック化工程と、前記フロックを沈殿分離することにより沈殿水を得る沈殿分離工程と、を有する凝集沈殿処理方法において、
前記微フロック化工程は、2以上の区画に分割された急速攪拌槽を備えて成り、
前記凝集剤注入工程として、第1区画の前記急速攪拌槽中の前記被処理水を含むこれ以前の前記被処理水に前記無機凝集剤を注入する第1凝集剤注入工程と、第2区画以降の急速攪拌槽内及び/もしくは前記フロック化工程入口以前の前記被処理水に前記無機凝集剤を少なくとも1回以上注入する第2凝集剤注入工程とを設けることで、前記フロック化工程入口における前記被処理水中の前記無機凝集剤の凝析集塊物残留量を示す指標であるSTRが4.0以下となるよう凝集剤注入率を制御し、
前記沈澱池の沈澱水取出し部の清澄ゾーンに設けられた所定の取付ピッチの傾斜板によって前記沈澱池から流出する微フロックの流出を阻止する傾斜装置を設けた、
ことを特徴とする凝集沈殿処理方法。
【請求項2】
前記沈澱池から流出する微フロックの流出の阻止は、前記取付ピッチが5mm以上50mm以下、高さが30mm以上100mm以下の前記傾斜板が上下方向に20mm以上200mm以下の間隔をあけて多段に設置されている前記傾斜装置によってなされる、
ことを特徴とする請求項1項に記載の凝集沈殿処理方法。
【請求項3】
前記微フロック化工程は、3以上の区画に分割された前記急速攪拌槽であって、急速攪拌強度GR値150s−1以上、急速攪拌時間TR値3分以上の条件で急速攪拌される、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の凝集沈殿処理方法。
【請求項4】
前記微フロック化工程は、前記急速攪拌槽と、前記急速攪拌槽に後続する個々の小型接触材が内部に大きな空隙を有し、空塔速度3.0m/h以上、滞留時間1.5分以上で通水可能な第1の接触材集積層を充填した第1の接触材集積槽とによって微フロック化処理が行われる、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の凝集沈殿処理方法。
【請求項5】
前記微フロック化工程は、前記急速攪拌槽と前記第1の接触材集積槽及び前記第1の接触材集積槽の前段に設けられ、前記第1の接触材集積層の空塔通水速度よりも高い空塔通水速度で被処理水を通水する第2の接触材集積層を充填し、連続的もしくは間欠的に洗浄される第2の接触材集積槽とによって微フロック化処理が行われる、
ことを特徴とする請求項4に記載の凝集沈殿処理方法。
【請求項6】
前記フロック化工程入口におけるSTRが2.5以下となるよう凝集剤注入率を制御する、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の凝集沈殿処理方法。
【請求項7】
前記フロック化工程は、緩速攪拌強度GS値20s−1以上、緩速攪拌時間TS値5分以上の条件の緩速攪拌下に既存フロックと微フロックとの接触によって行われる、
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の凝集沈殿処理方法。
【請求項8】
前記フロック化工程は、スラッジ・ブランケット層内に高濃度に集積された母フロック群と微フロックとの接触によってなされる、
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の凝集沈殿処理方法。
【請求項9】
被処理水に無機凝集剤を注入する凝集剤注入手段と、前記無機凝集剤が注入された前記被処理水を混合攪拌して前記被処理水中の微細な懸濁粒子をあらかじめ微フロック化する微フロック化手段と、前記微フロックを既存フロックとの接触によってフロック化するフロック化手段と、前記フロックを沈殿分離することにより沈殿水を得る沈殿分離手段と、を有する凝集沈殿処理装置において、
前記微フロック化手段は、2以上の区画に分割された急速攪拌槽を備えて成り、
前記凝集剤注入手段として、第1区画の前記急速攪拌槽中の前記被処理水を含むこれ以前の前記被処理水に前記無機凝集剤を注入する第1凝集剤注入手段を備えると共に、微フロック化過程において消費される前記無機凝集剤の凝析集塊物を補給して、前記フロック化手段入口における前記被処理水中の前記無機凝集剤の凝析集塊物残留量を示す指標であるSTRが4.0以下となるよう凝集剤注入率を制御するために、
第2区画以降の急速攪拌槽内及び/もしくは前記フロック化工程入口以前の前記被処理水に前記無機凝集剤を少なくとも1回以上注入する第2凝集剤注入手段を具備し、
所定の取付ピッチの傾斜板によって前記沈澱分離手段から流出する微フロックの流出を阻止するための傾斜装置を沈澱水取出し部の清澄ゾーンに設けた、
ことを特徴とする凝集沈殿処理装置。
【請求項10】
前記傾斜装置は、前記取付ピッチが5mm以上50mm以下、高さが30mm以上100mm以下の前記傾斜板が上下方向に20mm以上200mm以下の間隔をあけて多段に設置されている、
ことを特徴とする請求項9項に記載の凝集沈殿処理装置。
【請求項11】
前記微フロック化手段は、急速攪拌時間TR値3分以上で3以上の区画に分割された急速攪拌槽であって、急速攪拌強度GR値150s−1以上で急速攪拌可能な急速攪拌機を具備している、
ことを特徴とする請求項9又は10に記載の凝集沈殿処理装置。
【請求項12】
前記微フロック化手段は、前記急速攪拌槽に後続して、個々の小型接触材が内部に大きな空隙を有し、空塔速度3.0m/h以上、滞留時間1.5分以上で通水可能な第1の接触材集積層を充填した第1の接触材集積槽を設ける、
ことを特徴とする請求項9から11のいずれか1項に記載の凝集沈殿処理装置。
【請求項13】
前記第1の接触材集積槽の前段に、連続的もしくは間欠的に洗浄され、前記第1の接触材集積層の空塔通水速度よりも高い空塔通水速度で被処理水を通水する第2の接触材集積層を充填した第2の接触材集積槽を設ける、
ことを特徴とする請求項12に記載の凝集沈殿処理装置。
【請求項14】
前記フロック化手段入口におけるSTRが2.5以下となるよう凝集剤注入率を制御するための制御手段を備える、
ことを特徴とする請求項9から13のいずれかに記載の凝集沈殿処理装置。
【請求項15】
前記フロック化手段が、緩速攪拌強度GS値20s−1以上、緩速攪拌時間TS値5分以上の条件を有する緩速攪拌槽である、
ことを特徴とする請求項9から14のいずれか1項に記載の凝集沈殿処理装置。
【請求項16】
前記第1の接触材集積層は、3以上の区画に分割された前記緩速攪拌槽の流入側第1区画を含めた区画に設置される、
ことを特徴とする請求項12から15のいずれか1項に記載の凝集沈殿処理装置。
【請求項17】
前記フロック化手段は、母フロック群を高濃度に集積するスラッジ・ブランケット槽である、
ことを特徴とする請求項9から14のいずれか1項に記載の凝集沈殿処理装置。
【請求項18】
前記スラッジ・ブランケット槽は、スラッジ・ブランケット層高が70cm以上250cm以下である、
ことを特徴とする請求項17に記載の凝集沈殿処理装置。
【請求項19】
前記第1の接触材集積層と前記スラッジ・ブランケット層が同一水槽内に設置されており、
前記スラッジ・ブランケット槽は、スラッジ・ブランケット層高が10cm以上70cm以下である、
ことを特徴とする請求項17に記載の凝集沈殿処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2009−45532(P2009−45532A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−212454(P2007−212454)
【出願日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【出願人】(506035692)
【Fターム(参考)】