説明

凝集特性を変化させた修飾タンパク質

本発明は、2価陽イオン結合能を強化した修飾タンパク質の調製方法に関する。例えば、タンパク質をメイラード反応条件に置くことで、Ca2+誘導性の凝集が起こるカルシウム濃度が高くなる。このような修飾タンパク質は、カルシウム強化食品の製造に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質の化学的修飾分野及びそのような修飾タンパク質を含む食品に関する。詳細には、本発明は、陽イオン強化食品の製造方法に関し、溶解した陽イオンを保持する能力が強化されたタンパク質又はタンパク質断片を含む食品に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質凝集及びタンパク質凝集に影響する要因については、医薬産業及び食品産業で、広く研究されてきた。タンパク質凝集はしばしば、温度上昇(熱処理)、pH、及び/又はカルシウムイオン利用可能性のような要因によって引き起こされる。カルシウムイオン利用可能性は、粗ホエータンパク質混合物の凝集に影響することが報告されており(非特許文献1〜7参照)、ホエーの主要タンパク質成分であるβ−ラクトグロブリンの凝集に影響することも示されている(非特許文献8参照)。
【0003】
食品製造工程において、タンパク質凝集は、製造工程及び最終製品の組成にとって非常に重要である。カルシウムイオンの存在に対するタンパク質凝集の感受性はタンパク質上のカルボキシル基に直接関係し、このカルボキシル基はタンパク質のメチル化又はサクシニル化によって得ることができる(非特許文献8参照)。しかし、それに代わる、より食品グレードに適した方法が望まれている。
【0004】
カルシウム誘導性の凝集に感受性のあるタンパク質を含む製品では、製造中又は保存中にタンパク質が凝集又は沈殿するのを避けるために、カルシウムレベルが低く保たれている。しかし、このため、例えば豆乳製品のように、製品中のカルシウムが少なくなり、ミルクアレルギー又はラクトース不耐症のためにミルクを飲めない人たち等ではカルシウムが欠乏することがある。以前にも高いカルシウムレベルを有する安定な豆乳を提供しようとする試みがあったが、タンパク質−イオン性カルシウムの相互作用により、大豆タンパク質が凝集及び沈殿してしまっていた。
【0005】
カルシウムイオンをキレートして大豆タンパク質の沈殿を防ごうとして、様々な化学物質が使用されてきた。
【0006】
特許文献1及び2は、リン酸ナトリウムをカルシウムイオンのキレート剤として含有する飲料を教示している。Weingartner, et alはキレート剤としてクエン酸カルシウムを提案している(非特許文献9参照)。Hirotsuka, et alは、EDTAを含む溶液中でレシチンを超音波破砕することで溶液中のカルシウムイオンを封入する方法を提案している(非特許文献10参照)。特許文献3は、大豆タンパク質−カルシウム複合体の沈殿を伴わずにカルシウム結合を増加させる、豆乳へのポリリン酸の添加を開示している。特許文献4は、大豆タンパク質のリン酸化に続いて加水分解及びカルシウム結合反応を行うことによって、タンパク質のカルシウム結合能力及び水への溶解性が向上することを教示している。
【0007】
これまでに使用されてきたキレート剤のいくつかは、乳溶液中のカルシウムイオンの生物学的利用能を低下させる。したがって、乳中の総カルシウムイオン濃度は未強化の豆乳よりも高くなるものの、添加されたカルシウムの大部分は栄養として利用できないままであった。
【0008】
カルシウムの強化は、豆乳のみならず、その他の多くの食品に恩恵をもたらすと考えられる。例えば、動物の乳製品(特に牛乳から作られるもの)は、カルシウムの良い栄養源であるとすでに考えられている。しかし、これらの製品の1飲食分には限られた量のカルシウムしか含まれていないので、平均的な人が1日あたりの推奨摂取量(RDA)のカルシウムを得るためには、その製品を多量に摂取しなければならない。さらに、他の人よりも多くのカルシウムを摂取する必要がある医療状態(例えば、骨粗しょう症)にある人もいる。したがって、乳製品の各1飲食分中のカルシウム量を強化し、該乳製品の質に悪影響を与えない補助製品が常に求められている。
【0009】
健康的な食物は、カルシウムに加え、その他の必須栄養素も提供するべきである。特にカルシウム強化の観点からは、カルシウム/マグネシウム比率のバランスを保つために、食品中のマグネシウム量が考慮される。
【0010】
したがって、食品、特に乳製品(milk-based product)(例えば牛乳又は豆乳をベースとした製品)において、タンパク質及び陽イオンを凝集させることなく、陽イオン、特にカルシウム及びマグネシウムを強化する方法を提供することが望まれている。乳製品の溶液中の陽イオンの生物学的利用能を低下させず、食品中の陽イオンの生物学的利用能の低下を最小にする凝集防止方法の利用がさらに望ましい。
【特許文献1】米国特許第1,210,667号
【特許文献2】米国特許第1,265,227号
【特許文献3】欧州特許第0195167号
【特許文献4】国際公開第03/053995号パンフレット
【非特許文献1】Barbut and Foegeding 1993, J Food Sci 5:867-871
【非特許文献2】Haggett 1976, J Dairy Sci and Technol 11: 244-250
【非特許文献3】Ju and Kilara 1998, J Dairy Sci 81: 925-931
【非特許文献4】Morr and Josephson 1968, J Dairy Sci 51: 1349-1451
【非特許文献5】Sherwin and Foegeding 1997, Milchwissenschaft 52:93-96
【非特許文献6】Varunsatian et al. 1983, J Food Sci 48: 42-47
【非特許文献7】Zhu and Damodaran 1994, J Agric and Food Chem 42: 856-862
【非特許文献8】Simons et al. 2002, Arch Biochem Biophys 406(2): 143-152
【非特許文献9】Weingartner, et al. 1983, J Food Sci. 256-263
【非特許文献10】Hirotsuka, et al. 1984, J.Food Sci. 1111-1127
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、タンパク質をメイラード反応状態に置くことで、カルシウムイオン(Ca2+)によって誘導されるタンパク質凝集に対する該タンパク質の感受性が低下することを発見した。言い換えると、メイラード化タンパク質(Maillardated protein)は、溶解カルシウム量が増加しても、溶液中に存在したままである。メイラード反応では、基本的に、糖の還元性末端が第1級アミン基と反応する。詳細には、大豆タンパク質グリシニン(11Sグロブリン)及び分離大豆タンパク質(SPI)のリジン残基を、制御したメイラード化によって修飾したところ、カルシウム誘導性の凝集が有意に減少した。制御したメイラード化によって修飾されたホエータンパク質では、さらに良い結果が得られた。制御したメイラード化により、リジン残基がグリコシル化されたタンパク質が効率的に生じた。理論により制限するものではないが、リジン残基の修飾により、タンパク質表面上でイオン性の対を形成していたカルボキシルが「遊離」("liberation")するのかもしれない。この知見に基づけば、修飾タンパク質では陽イオン誘導性のタンパク質凝集が起こる域値が上がるため、カルシウムやマグネシウムのような陽イオンを高レベルで含む製品を製造することが可能となる。メイラード化はキレート剤を使用しないので、カルシウム及び/マグネシウムの生物学的利用能に悪影響を与えない。
【0012】
栄養タンパク質の修飾によってその機能が消失されてはならないことも重要である。例えばタンパク質のサクシニル化では、しばしば急速に(タンパク質1分子当たり2〜3個のサクシニル基の導入ですでに)高次構造の安定性が低下することがある。天然構造の消失と同時にタンパク質の機能性は失われる。しかし、例えばホエーの主要成分であるβ−ラクトグロブリンの16個のリジン残基は、分子の天然構造を消失することなく、メイラード反応条件下で全てグリコシル化することができる。よって、メイラード化には、一般的に修飾タンパク質の構造完全性(structural integrity)を損なわないという利点がある。
【0013】
したがって、本発明は、タンパク質をメイラード反応条件下に置くことを含む、タンパク質の陽イオン結合能の強化方法に関する。すなわち、本発明は、非修飾タンパク質(non-modified protein)をメイラード反応条件に置くことを含む、非修飾タンパク質に比べて陽イオン結合能が強化された修飾タンパク質の調製に関する。この陽イオン結合能の強化は、陽イオン濃度が増加してもタンパク質の凝集が起こらないようなものであるべきである。本発明の1つの実施形態では、陽イオンとは、2価陽イオンを指す。好ましい実施形態では、陽イオンはCa2+及び/又はMg2+である。
【0014】
一般的に、メイラード反応は、糖とアミノ酸を水中で穏やかに熱すると説明できる。本発明では、メイラード反応条件とは、所望のタンパク質と還元性カルボニル部分、特に所望のタンパク質中の第1級アミン基と反応してシッフ塩基を形成できるカルボニル部分を含む化合物との反応を意味する。通常、所望のタンパク質の第1級アミン基はリジン残基のアミンである。好ましくは、カルボニル部分を含む化合物は炭水化物であり、ケトースはもちろんアルドースであってもよい。1つの実施形態では、炭水化物は還元性のカルボニル官能基を有する単糖類である。単糖類の例として、グリセルアルデヒド、エリスロース、トレオース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、アロース、アルトロース、マンノース、グルコース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、ジヒドロキシアセトン、エリトルロース、リブロース、キシルロース、プシコース、ソルボース、タガロース、及びフルクトースを挙げることができる。ラクトース及びマンノース、及び(還元力の点で劣るが)スクロースのような二糖類、又はより大きいオリゴ糖を使用してもよい。好ましくは、還元性のカルボニル部分を含む化合物は、グルコース及びフルクトースから選択される。
【0015】
メイラード反応に影響を与える要因は、温度、水/湿気の存在、及びpHである。
【0016】
通常、少なくともメイラード反応を開始するには、反応混合液を加熱する必要がある。十分な量の熱を与えて反応を開始させた後は、該反応は室温で続けてもよい。しかし、実施例に示すように、加熱を続けてもよい。タンパク質の不可逆的変性を防ぐために、加熱し過ぎに注意する。十分且つ適切な加熱とは、所望のタンパク質及びそのタンパク質の修飾に使用する炭水化物によって変わる。本発明の目的のためには、反応混合液は少なくとも40℃まで加熱するべきであり、好ましくは水溶液中でのそのタンパク質の変性温度−5℃を超えるべきではない。メイラード化を適切に制御するためには、あまりに高い温度は使用しないことが望ましい(例えば、65℃を超えて加熱しない)。
【0017】
メイラード反応を進行させるには水が必要である。好都合なことに、水は大気中に湿気として存在し、湿度条件(好ましくは少なくとも湿度55%)において該反応は行われる。該反応は水溶液中で行われてもよいが、一般的に、結果の再現性は低くなり、タンパク質の変性度も高くなると考えられる。
【0018】
6.0より下のpHではメイラード反応は進行しない。好ましくは、該反応は中性付近又はアルカリ性条件下で行われる。pHは、好ましくは6〜9、より好ましくは7〜8である。
【0019】
さらに、使用する還元性カルボニル部分を含む化合物の種類は、メイラード反応に影響する。異なる化合物は異なる還元力を有すると考えられる。特に、単糖類の還元力は有意に異なり、還元力が強いほど、反応が早く起こる。例えばどの程度のタンパク質修飾(又は言い換えるとメイラード化)を望むか及び/又は利用可能な反応時間に従って、熟練者は好適な炭水化物を選択することができると考えられる。還元力のある炭水化物の決定は、実施例に記載のように、Luff試薬を用いて行うことができる。したがって、Luffアッセイに陽性の炭水化物は、1つの好ましい実施形態に含まれる。特に、グルコース又はフルクトースを使用することが好ましい。
【0020】
実施例に示すように、反応時間を変えることで、修飾リジン残基数で定義される、所望のタンパク質の修飾の程度を変えることができる。所望のタンパク質の種類及びそのタンパク質に望む陽イオン耐性によるが、温度、水の存在、pH、メイラード反応を進める程度(言い換えると反応時間)に関する条件が与えられれば、これは当業者の通常の実験内である。典型的には、グルコースにおいて、好適な程度の修飾を得るには、55℃、pH7で2〜5時間のインキュベート時間で十分である。
【0021】
本発明の方法を行うのに適した方法では、陽イオン結合が強化されるタンパク質(すなわち修飾されるタンパク質)と還元性カルボニル部分を含む化合物との混合物(乾燥又は固体状)を、湿度が少なくとも55%の大気中で、少なくとも40℃まで加熱する。この文脈における乾燥とは、絶対に水を含まないということを意味するのではなく、溶媒が存在しないことを意味している。好ましくは、還元性カルボニル部分を含む化合物はグルコース及びフルクトースから選択される。
【0022】
好ましくは、タンパク質は、加熱で誘導されるアンフォールディング中に、そのタンパク質生成物が非メイラード化タンパク質と比べて最低90%のエンタルピー変化を示し得る程度に、メイラード反応条件下に置く。そのような標準的な熱量測定は当業者によく知られている。代わりに、若しくはそれに加えて、ストークス半径が好ましくは周囲の条件下で5%を越えて増えないようにしてもよい。ストークス半径は、当業者によく知られている標準的な光散乱実験で決定できる。
【0023】
前述したように、制御したメイラード反応は、リジン残基がグリコシル化されたタンパク質生成物を効率的に生じる。メイラード反応の他に、リジン残基をグリコシル化するその他の合成方法が当該技術分野で知られており、例えばChristopher et al., 1980. Advances in Carbohydrate chem. Biochem. 37, 225-28;Caer et al., 1990, J. Agric. Food Chem. 38, 1700-1706;Colas et al., 1993, J. Agric. Food. Chem. 41, 1811-1815;Hattori et al., 1996, J. Food Sci. 61, 1171-1176に記載されている。
【0024】
したがって、修飾タンパク質生成物は、上記の制御したメイラード化又はその他のリジン残基のグリコシル化方法によって提供される。本発明では、修飾タンパク質生成物とは、少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%のリジン残基がグリコシル化されているリジンリッチタンパク質(lysine-rich protein)と定義される。リジンリッチとは、リジン残基を含むタンパク質であり、好ましくは、タンパク質1グラム当たり少なくとも4.5重量%のリジンを含むタンパク質と定義される。これらの定義は、非修飾タンパク質中のグリコシル化に利用可能なリジンに関係しており、OPAアッセイによって決定される。したがって、1つの実施形態では、本発明は、グリコシル化されたリジンリッチタンパク質を、乾燥重量で、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%含む修飾タンパク質生成物組成物に関し、該リジンリッチタンパク質は、タンパク質1グラム当たり、好ましくは少なくとも4.5重量%のリジンを含み、該リジンリッチタンパク質中のリジン残基は少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%がグリコシル化されている。1つの実施形態では、修飾されたタンパク質生成物組成物は、凍結乾燥後の乾燥状態(dryness)のような、実質的に乾燥した形態である。
【0025】
本発明において、修飾タンパク質とは、非修飾タンパク質と比べて、利用可能なリジンの少なくとも20%、又は少なくとも30%、又は少なくとも40%が修飾されている(これはOPAアッセイで決定される)、すなわち、多くのリジン残基がそのままではもはや存在していないタンパク質と定義される(実施例参照)。その他の実施例においては、リジン残基の少なくとも45%、又は少なくとも50%、又は少なくとも55%、例えば60%又は65%までが修飾されている。またさらに高い率でリジン残基が修飾されていてもよい。しかし、構造的完全性が損なわれない及び/又はタンパク質の機能性が失われないことが好ましい。メイラード化によって構造的完全性が影響を受けたとしても、胃腸における過程で、その修飾タンパク質の機能的(栄養的)特徴又は少なくともその一部が維持又は回復されることも想定される。そのようなタンパク質は、上述した熱で誘導されるアンフォールディング中のエンタルピー変化の基準を満たさないかも知れないが、そのような修飾タンパク質も本発明の範囲内であると理解される。
【0026】
OPAアッセイはタンパク質修飾(本件では特にグリコシル化)の程度を決定するのに適している。該アッセイは、オルトフタルジアルデヒド(OPA)とタンパク質中のフリーのアミノ基との間の特異的反応に基づいており、その基本的な記述はChurch et al. (1983) Dairy Sci, 66, 1219-1227にみられる。
【0027】
簡潔には、OPA試薬は、40mgのOPAを1mlのメタノールに溶かし、続いて25mlの0.1Mホウ砂緩衝液、200mgのDMA及び5mlの10%SDSを加えることで調製する。2−(ジメチルアミノ)エタンチオール(DMA)存在下に、タンパク質中の第1級アミノ基が反応し、340nmに吸収を示すアルキル−イソ−インドール誘導体を生じる。脱ミネラル化水で50mlにメスアップする。この試薬3mlを石英キュベットに満たし、340nmの吸収を測定する。続いて、15μlのサンプル溶液(タンパク質濃度は280nmの吸収を測定することで決定する、ε280=0.712ml・mg−1・cm−1)を添加し、室温で30分間インキュベートした後、再度340nmの吸収を決定する。3mlのOPA試薬に、2mMのL−ロイシン水溶液を10、20、30、40、80、100、及び150μl加えて(6.6〜95.0μMのL−ロイシンが得られる)較正曲線を得る。全ての測定は少なくとも2回、好ましくは3回行う。
【0028】
その他の選択として、又はリジン修飾率に加えて、本発明における修飾タンパク質は、好ましくは湿度が少なくとも55%の大気中、95℃で60分の加熱によってタンパク質の褐変を生じるタンパク質である。この褐変は、514nmの吸収を測定することで定量可能である。修飾タンパク質は、濃度5mg/mlで、光路1cm当たり、少なくとも0.10吸光単位の吸光度を示すと考えられる。
【0029】
また、タンパク質中のリジン残基の修飾は、そのタンパク質の等電点(IEP)を変化させる。したがって、その他の選択として、あるいはリジン修飾率及び/又はさらに加熱した生成物の514nmの吸収に加えて、本発明における修飾タンパク質は、ゲル電気泳動で決定され得る非修飾タンパク質の等電点と比べて低いIEPを示すタンパク質である。好ましくは、IEPは少なくとも0.2pKa低いが、1.0pKaを超えて低くはない。
【0030】
例えばOPAアッセイによってタンパク質中の利用可能なリジン残基の数が分かっていれば、例えばMALDI−TOF MASのような質量分析によっても修飾率を決定することができる。修飾後の質量の増加は、使用される炭水化物の総数に関係することが予想される。
【0031】
本発明の1つの実施形態では、適量を添加することで食品の陽イオン耐性を有意に増加させる修飾タンパク質生成物を提供する。食品に適用又は添加するために、メイラード反応後に修飾タンパク質を精製及び/又は単離してもよい。精製及び/又は単離は、その過程で材料の機能性が失われさえしなければ、透析、遠心、クロマトグラフィー、結晶化、フリーズドライ、凍結乾燥等の当該分野で公知の従来技術を用いて行うことができる。したがって、本発明はまた、陽イオン強化水系食品(water-based cation-fortified food product)の調製における、リジン残基の少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%がグリコシル化されているリジンリッチタンパク質の使用に関し、上記陽イオン強化水系食品中は、グリコシル化されたリジンリッチタンパク質を完全に溶解しており、非グリコシル化体のリジンリッチタンパク質は陽イオン複合タンパク質塩として沈殿させる。上記リジンリッチタンパク質は、好ましくはタンパク質1グラム当たり少なくとも4.5重量%のリジンを含む。1つの実施形態において、陽イオンは2価の陽イオンである。特定の実施形態では、陽イオンはCa2+又はMg2+又はCa2+とMg2+の混合物である。
【0032】
「食物(food)」又は「食品(food product)」又は「食料(foodstuff)」とは、本明細書中においては、固体、半固体、又は液体の、栄養組成物又は栄養補助食品(nutrient supplements)を指すと理解され、例として、例えばダイエット/健康飲料、及びスポーツ飲料、ビタミン飲料等の飲料、還元乳、UHT乳、濃縮ミルク、加水分解ホエータンパク質、分離ホエータンパク質、ヨーグルト、デザート、ソース等を挙げることができ、その形態としては、(例えば経管栄養のための)臨床栄養物等を含む液状、ゲル状、粉状(調製粉乳、インスタント粉乳、乳児用粉乳等)、タブレット状、カプセル状等の形態がある。特に関心の対象となっているのは、大豆ベースの乳製品、特に豆乳及び豆乳に由来する製品である。さらに関心があるのは、ホエータンパク質ベースの乳製品及びそれに由来する製品である。当業者は、求める陽イオン耐性の増加を考慮に入れ、使用する修飾タンパク質成分の陽イオン誘導性凝集の特性に照らして、その修飾タンパク質成分の適切な使用量を容易に決定することができる。
【0033】
さらなる実施形態においては、本発明は水重量の少なくとも0.2%のリジンリッチタンパク質(水重量の0.2%とは、食品中の水に対する質量比が100:0.2ということ)を含む陽イオン強化水系(水をベースとした)食品に関し、該リジンリッチタンパク質はタンパク質1グラム当たり好ましくは少なくとも4.5重量%のリジンを含み、該リジンリッチタンパク質中のリジン残基は、少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%がグリコシル化されており、該食品は不溶性の陽イオン複合リジンリッチタンパク質塩を原則的に含まず、グリコシル化されていないリジンリッチタンパク質を陽イオン複合タンパク質塩として沈殿させる量の陽イオンを含んでいる。1つの実施形態では、陽イオンは2価の陽イオンである。特定の実施形態においては、陽イオンはCa2+又はMg2+又はCa2+とMg2+の混合物である。
【0034】
さらなる実施形態では、陽イオン強化水系食品は、水重量の、少なくとも0.4%、又は少なくとも0.6%、又は少なくとも0.8%、又は少なくとも1.0%、又は少なくとも1.5%、又は少なくとも2.0%、又は少なくとも2.5%、又は少なくとも3%、又は少なくとも3.5%、又は少なくとも4.0%、最大5.0%までのリジンリッチタンパク質を含む。
【0035】
好ましくは、陽イオン強化水系食品は、修飾されていないタンパク質が沈殿するCa2+濃度よりも少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも15%、更により好ましくは少なくとも20%以上多い量の溶解Ca2+イオンを含む。あるいは、該陽イオン強化水系食品は、修飾されていないタンパク質が沈殿するCa2+及びMg2+濃度よりも少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも15%、更により好ましくは少なくとも20%以上多い量の溶解Ca2+及びMg2+イオンを含む。あるいは、該陽イオン強化水系食品は、非修飾タンパク質が沈殿するMg2+濃度よりも少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも15%、更により好ましくは少なくとも20%以上多い量の溶解Mg2+イオンを含む。また、本発明の陽イオン強化水系食品が含有することができる陽イオン量の増加をppmで表してもよい。例えば、少なくとも20%のリジン残基がグリコシル化されているリジンリッチタンパク質を2重量%含む食品は、好ましくは、非修飾タンパク質が沈殿する2価陽イオン濃度より、100ppm以上、好ましくは少なくとも150ppm以上、より好ましくは少なくとも200ppm以上多い2価陽イオン(特にCa2+、Mg2+、及びその2つの組合せ)を含む。同じことが、よりリジン修飾の程度が高いリジンリッチタンパク質、例えばリジン残基の少なくとも30%、又は少なくとも40%がグリコシル化されているリジンリッチタンパク質にも当てはまる。
【0036】
1つの実施形態において、陽イオン強化水系食品は、リジンリッチタンパク質の重量で少なくとも2%、より好ましくは少なくとも4%の濃度の溶解Ca2+イオン及び/又はMg2+イオンを含む。さらに別の実施形態、特に修飾の程度がより高いリジンリッチタンパク質の場合、陽イオン強化水系食品は、リジンリッチタンパク質の重量で少なくとも5%、又は少なくとも6%、さらには少なくとも7%又は8%より高い濃度の溶解Ca2+イオン及び/又はMg2+イオンを含む。ある有利な実施形態では、陽イオン強化水系食品は溶解Ca2+イオン及びMg2+を含む。この実施形態では、Ca2+:Mg2+のモル比が1:1〜6:1、好ましくは2:1〜4:1(例えば3:1のモル比)となるようにCa2+イオン及びMg2+を含むことが有益である。
【0037】
1つの実施形態においては、陽イオン強化水系食品は少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも80重量%の水を含む。リジンリッチタンパク質中のリジン残基は、非修飾タンパク質と比べて、少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%が修飾されている(OPAアッセイにより決定される)。例えば、少なくとも45%若しくは50%、又は少なくとも55%、最大60%若しくは65%までのリジン残基が修飾されている。さらなる実施例においては、リジンリッチタンパク質は、変性する間に、その対応する非修飾タンパク質の少なくとも90%のエンタルピー変化を示す。1つの実施形態では、リジンリッチタンパク質は大豆タンパク質であり、任意でグリシニン及び分離大豆タンパク質から選択される。別の実施形態では、リジンリッチタンパク質はホエータンパク質である。
【0038】
別の実施形態では、本発明は、食品総重量の少なくとも0.2%のリジンリッチタンパク質を含有し、且つ食品総重量の少なくとも0.05%の溶解Ca2+イオン及び/又はMg2+イオンを含有する、陽イオン強化水系食品に関し、該食品は不溶性の陽イオン複合リジンリッチタンパク質塩を原則的に含まず、該リジンリッチタンパク質はタンパク質1グラム当たり好ましくは少なくとも4.5重量%のリジンを含み、該リジンリッチタンパク質中のリジン残基は少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%がグリコシル化されている。好ましくは、該食品は、食品総重量の少なくとも0.02重量%、より好ましくは0.04重量%の溶解Ca2+イオン及び/又はMg2+イオンを含有する。1つの実施形態では、該食品は、食品総重量の少なくとも0.06重量%、又は少なくとも0.08重量%の溶解Ca2+イオン及び/又はMg2+イオンをも含有する。
【0039】
1つの実施形態では、陽イオン強化水系食品は、牛乳若しくはそれに由来する生産物、又はホエータンパク質を含有するその他の派生的な乳製品(例えば還元乳、UHT乳、濃縮乳、加水分解ホエータンパク質及び分離ホエータンパク質)、並びに加水分解ホエータンパク質及び分離ホエータンパク質、ヨーグルト、インスタント粉乳、乳児用粉乳等を含む生産物である。1つの実施形態では、カルシウム強化水系食品は豆乳又は豆乳に由来する生産物である。
【0040】
修飾されるタンパク質はどんなタンパク質でもよく、例えば、本明細書中で定義されるようにリジンリッチであって、天然原料から単離されたタンパク質、合成タンパク質又は組換えDNA技術で発現させたタンパク質等を挙げることができる。陽イオン強化生産物への使用に有用なタンパク質の例として、卵、ホエー、大豆、及びエンドウマメのタンパク質を挙げることができる。本発明の好ましい実施形態では、タンパク質は大豆タンパク質であり、特に、大豆グリシニン及び分離大豆タンパク質、又はその組合せから選択される。大豆タンパク質は、もともと、水への溶解性に問題がある。したがって、水溶性の大豆タンパク質を用いることが好ましい。別の実施形態では、タンパク質はβラクトグロブリン又はより包括的なホエータンパク質である。
【0041】
本発明においては、カルシウム等の2価の陽イオンは、タンパク質凝集を推進するとは考えていないが、その誘導原又は引き金であると考えられていることに留意する。カルシウムは、いわば、タンパク質の電荷の盾であり、その結果、衝突の反発力の弱い種が生じ、及び/又は疎水的相互作用が生じると考えられる。マグネシウムも同様の役割をすると考えられる。メイラード化によるタンパク質の修飾は、非修飾タンパク質存在下では過剰となる量のカルシウム及び/又はマグネシウムの存在下において、そのタンパク質を沈殿から保護している。
【0042】
メイラード化は、食品の色、芳香、及び香味に悪影響を与える可能性があるが、本発明の方法では、天然又は人工の芳香で克服できない悪影響は生じない。
【実施例1】
【0043】
OPAによるフリーの第1級アミノ基の決定
原理:
リジン修飾の程度を決定するために、Church et al. (1983) Dairy Sci, 66, 1219-1227に記載されている方法が使用できる。この方法は、2−(ジメチルアミノ)エタンチオール塩酸塩(DMA)存在下においてオルト−フタルジアルデヒド(OPA)がタンパク質中のフリーの第1級アミノ基と特異的に反応することにより、340nmに吸収を示すアルキル−イソ−インドール誘導体が生じることに基づいている。この決定法はアルギニンよりもリジン及びタンパク質N末端基に非常に特異的である。
【0044】
材料:
0.1M ホウ砂:19.07グラムの四ホウ酸ナトリウム10水和物(Na・10HO)を500mlのミリQ水に溶かす。
10%SDS:10グラムのドデシル硫酸ナトリウムを100mlのミリQ水に溶かす(目の細かい防塵マスク着用)。
OPA試薬:40mgのOPA(Sigma社製、P−0657)を1mlのメタノールに溶かし、25mlの0.1M ホウ砂緩衝液、200mgのDMA(Aldrich社製、D14.100−3)及び5mlの10%SDSを加える。ミリQ水で50mlにメスアップする。
2mM L−ロイシン:13.1mgのL−ロイシン(Pierce社製、Mw.131.18)を50mlのミリQ水に溶かし、正確な濃度を計算する。
【0045】
手順:
較正曲線:
1.6個の石英キュベットに3mlのOPA試薬を満たし、加重し(weight)、340nmの吸収を測定する(Aブランク)。
2.10、20、40、80、120、及び150μlの2mM L−ロイシンストック溶液(全て加重する)を3mlのOPA試薬に加える。これにより、L−ロイシン濃度は0.0066〜0.095mMとなる。
3.室温で10分インキュベートする。
4.340nmの吸収を測定する。
5.直線回帰によりデータを合わせる。アルキル−イソ−インドール誘導体のモル吸光係数(ε)(=一次関数の傾き、7000±500M−1・cm−1であるべき)を計算する。
【0046】
サンプルの測定
1.石英キュベットに3mlのOPA試薬を満たし、加重し、340nmの吸収(Aブランク)を決定する。
2.5mMのNH溶液(およそ10mg/mlタンパク質溶液)を50μl加え、加重し、混合する。
3.室温で10分インキュベートする。
4.340nmの吸収を測定する(Aサンプル)。
5.NHのモル濃度を計算する(ΔA340/ε)。
6.280nmにおける分光学的に、タンパク質モル濃度を決定する。
7.NHのモル濃度をタンパク質モル濃度で割ることで、タンパク質上のフリーのNH基の量を計算する。
【0047】
備考:
全ての測定は少なくとも2回行った。
タンパク質を加える前にOPA試薬が黄色ではなくピンクに変化したとしたら、DMAへの第2級アミンの混入が考えられる。
【0048】
大豆タンパク質
大豆グリシニン
大豆グリシニン(約12グラム:PR004、以下を参照)を大規模に(12LのミリQに4回)透析した(最終体積:約235mL)。0.1MのNaOHで、そのキツネ色/ベージュ色のタンパク質溶液のpHを8.0に調整した。一定分量(約58mL;約3グラム)をコントロールとして取り、残りのタンパク質溶液(約9グラム)にフルクトース(3.3グラム、Merck社製 reinst)を加え、この溶液を約58mLずつ3つに分けた。凍結乾燥後、メイラード反応中の湿度65%を確保するためにNaNOを入れたインキュベーター中で、茶色がかったぱりぱりのタンパク質フレークを加熱(55℃)した。2、5、及び26時間後、グリシニンサンプルを4℃に冷却した。全てのタンパク質サンプルをミリQ(60mL、タンパク質を溶かすために、必要なときにサンプルのpHを8.0に調整した。)に溶かし、ミリQに対して透析し(4×12L)、凍結乾燥して使用時まで−20℃で保存した。
【0049】
メイラード化後のリジン修飾をOPAアッセイで測定した(WCFS Protocols Issued by B-009/B-010, AP12_1, page 30、以下も参照)。0%修飾をコントロールとした。グリシニン中の利用可能なリジンのうち、2時間後には約3%、5時間後には約14%、26時間後には約54%が修飾されていた。
【0050】
上記(修飾)グリシニンを、20mMのビス・トリス(pH7.0)及び20mMのトリス塩酸(pH8.0)に、縦に回転させながら撹拌して(head-over-head agitation)溶かした(2mg/mL)。外界温度(約22℃)において、1mLの使い捨てキュベットを用いて、カルシウム依存性の凝集を540nmで測定した。このタンパク質溶液に、それぞれの緩衝液を用いた100mMCaCl溶液を加えた。
【0051】
カルシウム起因性のグリシニン凝集を図1に示す。
【0052】
分離大豆タンパク質
12グラムの分離大豆タンパク質(SPI、以下参照、20%グリセロールを含め、200mL、チューブ4個分(tube 4))を、室温で、脱ミネラル化水(demi water)に対して透析した(12L×3回)。水のpHは1Mの水酸化ナトリウムでpH8.0に調節した。透析液に4.4グラムのフルクトース(Merck社製, reinst)を加え、茶色に濁ったタンパク質溶液を凍結乾燥した。この乾燥タンパク質を、湿度65%を確保するための過飽和硝酸ナトリウムと一緒に、55℃のインキュベータに入れた。サンプル(各3グラム)を3、6、及び24時間後に取り出した。このサンプルを、4℃において、脱ミネラル化水に対して透析し(12L×3回)、その後、凍結乾燥した。
【0053】
SPIサンプルを20mMのトリス塩酸(pH8.5)に溶かした(2mg/mL)。このタンパク質は、低pHでは不溶性であった。24時間のサンプルは、pH8.5で不溶性だったので、pHを10に調節し、全ての物質を溶解させた。後者の調製物では、30mMの[CaCl]でもCa誘導性の凝集がみられなかった。この凝集にはpHが影響しているのかも知れないので、これらのデータは図2に含めなかった。SPI調製物の修飾の程度は決定していない。
【0054】
カルシウム起因性のSPI凝集を図2に示す。
【0055】
SPIの貯蔵試験
SPIサンプルの貯蔵試験を行った。この貯蔵試験の結果、貯蔵期間の前と後で、フリーの第1級アミノ基の数に有意な変化はほとんどないことが示唆された。これは、溶解状態のメイラード生成物が4℃で少なくとも1週間安定であることを意味している。
【0056】
分離大豆タンパク質、分離大豆グリシニン、及びグリシニン除去分離大豆タンパク質の、全大豆からの精製
【0057】
分離したタンパク質画分の組成についての再現性を確実にするために、1つの具体的な大豆の種を選んだ(Williams '82; 1993 harvest)。この大豆は−40℃で保存してあり、使用直前に解凍した。Thanh, V.H., and Shibasaki K. (1976), J. Agric. Food Chem. 24, 1117-1121には分画の原理の記載があり、この手法を様々な段階で採り入れた。分離大豆タンパク質(PR001)、分離大豆グリシニン(PR002)、グリシニン除去分離大豆タンパク質(PR003)、及び分離大豆グリシニン(PR004)の各バッチの分離方法を以下に詳述する。
【0058】
方法の記載
1:60kgの全大豆を、20℃で、フレークローラー機(flake roller)を用いて破砕し、エア・シフター(air sifter)で殻を取り除いた。
2:破砕した大豆を移動させて、4℃で粉砕した。
3:次に、この大豆粕を、それぞれ約25kgで2つ、ステンレス鋼のカラムに詰め(カラムの寸法:約30×150cm)、10〜15℃でカラムを60Lのヘキサンで3回繰り返しフラッシュすることで、油と脂肪を抽出した。次いで、この大豆粕を10〜15℃で24時間風乾した。
4:脱脂大豆粕(43kg)に対して、10mMの2−メルカプトエタノールを含む575Lの30mMトリス塩酸(pH8.0)で、10℃、1.5時間撹拌することで抽出を行った。4MのNaOHを用いて常にpHを8.0に保った。この懸濁液を、撹拌せずに4℃で一晩保存した。次に、この懸濁液を、水冷式の連続遠心機(Westfalia Separator AG, type BKAS-85-076)を用いて、15℃未満、9000gで遠心した。この遠心は、8kg、続いて35kgの2回に分けて行い、上清を合わせた。
5:6MのHClを用いてこの上清(タンパク質抽出液)のpHを4.8に下げ、4℃で2時間撹拌した。次に、ペレット状になった物質を、上述の遠心により取り除いた。全部で18.8kgの物質がペレットになった。
【0059】
この物資およそ2kgを、10mMの2−メルカプトエタノール及び20%グリセロールを含む8.5Lの10mMリン酸緩衝液(pH7.8)に4℃で溶かし、500mlずつ17個に分け、−40℃で保存した。このサンプルを分離大豆タンパク質とした(PR001バッチ、約519gタンパク質/8500ml)。
【0060】
6:5で得られたペレットの12.4kg分を10mMの2−メルカプトエタノールを含む120Lの10mMリン酸緩衝液(pH7.8)に、4℃で2時間撹拌して溶かした。次に、6MのHClを用いて、この溶液のpHを6.4に下げ、4℃でさらに2時間この物質を撹拌した。このペレットを再度、連続遠心(9000g)によって回収した。
7:ローターの内側のペレット(およそ3.5Lの物質)を、10mMの2−メルカプトエタノールを含む12Lの10mMリン酸緩衝液(pH7.8)に4℃で溶かした。硫酸アンモニウムを添加し、飽和度を50%とした。4℃で1時間撹拌した後、懸濁液を遠心した(Sorvall GSA rotor、12000g、30分)。その後、上清に再度硫酸アンモニウムを添加し、飽和度を70%とし、1時間撹拌後に再び遠心して(Sorvall GSA rotor、12000g、30分)ペレットを回収した。
【0061】
このペレットを、10mMの2−メルカプトエタノール及び20%グリセロールを含む1Lの10mMリン酸緩衝液(pH7.8)に4℃で溶かし、250mlずつ4個に分け、−40℃で保存した。このサンプルを分離大豆グリシニンとした(PR002バッチ、約56gタンパク質/1000ml)。
【0062】
8: 5で得られたペレットの残り4.4kgを、工程6で得られた他の全てのペレット画分と合わせて、10mMの2−メルカプトエタノールを含む120Lの10mMリン酸緩衝液(pH7.8)に溶かした。溶液のpHを、6MのHClを用いて今回は6.0に下げ(工程6の6.4ではなく)、4℃で2時間、撹拌しながらインキュベートした。上記した連続遠心の工程を行った後、沈殿した物質を回収した。今回のペレットはより固体状を呈していた。
9: このペレット(およそ4kg)を、10mMの2−メルカプトエタノールを含む16Lの10mMリン酸緩衝液(pH7.8)に4℃で溶かし、硫酸アンモニウムを飽和度45%となるように添加した。4℃で1時間インキュベートした後、懸濁液を遠心し(Sorvall GSA rotor、12000g、30分)、上清にさらに硫酸アンモニウムを加え、飽和度を75%にした。4℃で1時間インキュベート後、この物質を再度遠心し(Sorvall GSA rotor、12000g、30分)、ペレットを回収した。
【0063】
このペレットを、10mMの2−メルカプトエタノール及び20%グリセロールを含む3.5Lの10mMリン酸緩衝液(pH7.8)に4℃で溶かし、500mlずつ7個に分け、−40℃で保存した。このサンプルを分離大豆グリシニンとした(PR004バッチ、約472.5gタンパク質/3500ml)。
【0064】
10:工程8で得られたおよそ120Lの上清のpHを6.0から4.8に下げ、4℃で72時間、撹拌せずにインキュベートした。次に、上部の透明な溶液を丁寧に除去し、沈殿した物質(3.5L)を−40℃で保存した。この懸濁液を解凍し、遠心した(Beckman JA14、4℃、18000g、30分)。ペレットを回収し、10mMリン酸緩衝液(pH7.6)に、2NNaOHでpHを7.6に保ちながら、4時間溶かした。
【0065】
このペレットを、20%グリセロールを含む2.1Lの10mMリン酸緩衝液(pH7.6)に溶かし、約50mlずつ44個に分け、−40℃で保存した。この後者の物質をグリシニン除去分離大豆タンパク質とした(バッチPR003、約150.4gタンパク質/2191mlg)。
【0066】
ホエータンパク質
材料
分離ホエータンパク質(Bipro(商標登録)、Davisco社製)及びHiprotal 580G(Friesland Food社の厚意による提供)を用いて実験を行った。
【0067】
メイラード化
27グラムの分離ホエータンパク質(WPI;Bipro)を脱ミネラル化水に対して透析した。コントロールとしてサンプルを1つ取り(全タンパク質の1/9の量、すなわち3グラム)、残りのタンパク質を2つに分けた。半分に分けた片方にフルクトースを、もう一方のタンパク質にはグルコースを加え(4.5グラム)、pHを5又は8に調整した。その後、この混合物を凍結乾燥した。
【0068】
15gのHiprotalを、5mMのトリス塩酸(pH8.0)に対して4℃で透析し、この透析液423mlにグルコースを5.3g添加した。該透析液のpHを8に合わせ、その後、タンパク質を凍結乾燥した。
【0069】
メイラード反応
以下のようにサンプルのメイラード反応を行った。凍結乾燥されていたタンパク質−炭水化物混合物を、50℃、相対湿度65%でWeissキャビネット中でインキュベートした。0、1、2、5、8、及び/又は24時間目にサンプルを取り、使用時まで−20℃で保存した。その後、この生成物を脱ミネラル化水に再溶解及び透析し、凍結乾燥して使用時まで保存した(4℃又は−20℃)。
【0070】
OPAアッセイ
OPAアッセイによる修飾度の決定
【0071】
Ca誘導性凝集の試験
Ca誘導性の凝集に対するメイラード生成物の特性を決定するために、サンプルを10mg/mlとなるように10mMのHepes(pH6.7)+50mMに溶かした。添加カルシウムによるものとして、加熱後(60〜75℃;加熱工程の長さは各実験中に示す)のサンプルの濁度を500nmで分光学的に調べた。全ての調製物の測定は終点測定で行った(Pharmacia社製、Ultrospec 4000)。ホエーベースのメイラード生成物に関して、凝集物の反応速度実験を、Varian Caryを用いて行った(10mM Hepes(pH6.7)+50mM NaCl10mg/mlで溶解させた溶液を使用)。
【0072】
有効期限試験(Shelf llife test)
溶液中のメイラード生成物に、簡便化した有効期限試験を行った。SPI及びWPI:メイラード生成物を、10〜40mg/mlとなるようにpH7の50mMトリス塩酸又はpH4.5のコハク酸緩衝液に溶かした。サンプルに様々な量のCaClを加えた(全てのサンプル中に50mMのNaClが存在する)。サンプルの保存(4℃)の前後でOPAアッセイを行い、メイラード化の程度を測定した。その後、サンプルの熱安定性/Ca誘導性凝集を調べるために、加熱試験を行った(低温殺菌類似実験;75℃で短時間)。SPI−WとHiprotalで比較実験を行った。この実験では、pHを6.7(50mM Hepes+50mM NaCl)、温度を4℃とした。さらに、pHを8(50mM トリス塩酸+50mM NaCl)、保存温度を30℃とした実験も行った。
【0073】
結果
WPI(Bipro)
WPIのメイラード化は、フルクトース存在下と比べて、グルコース存在下で大きな修飾度まで早く反応が進行した。グルコース存在下では、8時間のインキュベート後、利用可能なリジンの約20%が修飾されており、24時間後では80%以上が修飾されていた。
【0074】
Biproのカルシウム誘導性凝集
本発明者らは、終点測定から、メイラード処理したWPI(グルコースで24時間)では、未処理のサンプルに比べて、60℃において、50mMカルシウムに対する感受性が有意に減少していることを発見した。メイラード化の程度が高いサンプル、特に、グルコースと一緒に24時間インキュベートしたWPIサンプルで、カルシウムにより誘導される凝集に対して感受性が低かった。最大の凝集を起こすカルシウム濃度は、より高いCaCl濃度にシフトしていた(およそ10から25mM)。
【0075】
グルコースと一緒に24時間インキュベートしたWPIのメイラード生成物は、60℃の加熱中、100mMまでのCaCl濃度に対して非感受性であることが観察された。また、70℃で実験を行ったところ、メイラード化していないコントロールと比べ、WPI/グルコース/24時間メイラード生成物では、カルシウム誘導性の凝集が有意に減少していた。
【0076】
WPIのメイラード生成物の貯蔵試験
WPIメイラード生成物の貯蔵試験(pH7、4℃)を行った。サンプルには、100mMまでの様々な量のCaClが含まれている。このカルシウムの添加は、メイラード生成物を安定化する効果があるかを調べるために行った。サンプルを保存し、1週間後にOPAアッセイにより分析した。
【0077】
24時間のサンプルは、溶液中で少なくとも1週間安定であることが示された。CaClのメイラード生成物の安定性への影響は見られなかった。pH4での貯蔵試験でも同様の傾向が観察された。また、3週間後でも、メイラード生成物は依然としてサンプル中に豊富に存在していた。
【0078】
Hiprotal 580G
Biproでの結果を確認するために、Hiprotalを用いて実験第2群を行った。1つのサンプルは、これまでのサンプルよりはるかに長いインキュベート時間で、Weissキャビネットに置き、4日間メイラード化を行った(50℃/相対湿度65%で3日;続いて55℃/相対湿度65%で1日)。このサンプルにはメイラード化後の透析を行わず、結合しなかったグルコースが存在したままにし、フリーの第1級アミノ基の量を決定するためのOPAアッセイも行わなかった。このサンプルをHiprotal "long"とした。
【0079】
OPAアッセイを用いてHiprotalサンプル中に存在するフリーの第1級アミノ基を調べたところ、タンパク質サンプル中の第1級アミノ基の減少量はBiproほどではなかった(メイラード化が少なかった)。8時間のインキュベート後、利用可能なリジンの約20%がメイラード化されており、24時間後では、約40%が反応していた。
【0080】
Hiprotalの低温殺菌実験
Hiprotal/グルコースの24時間のサンプルでは、濁度曲線の極大が50mM塩化カルシウムにシフトしていた。Hiprotal "long"サンプルはCaClに対する感受性をほとんど示さなかった。
【0081】
Ca起因性凝集の反応速度測定
Hiprotalのメイラード生成物について、カルシウム依存的凝集の反応速度実験を行った。Hiprotalの24時間サンプルは、60℃においてほとんど凝集せず、カルシウムに対する感受性がコントロールと比べて有意に減少していた。Hiprotalの8時間サンプルでは、60℃において、コントロールより良い結果が得られたが、Hiprotalの24時間サンプルではさらに良い結果が得られた。最後に、最も衝撃的な結果がHiprotal "long"で得られ、反応速度実験の結果、75℃において、ほとんど測定できないほどの濁度しか示されなかった。また、このサンプルでは、どのカルシウム濃度においても沈殿は見られなかった。対照的に、75℃において、コントロールサンプル及び(ある程度ではあるが)t=8時間のサンプルでは混濁が観察された。
【0082】
60℃の実験ではっきりと観察されることは、濁度が最大となるときのカルシウム濃度が、コントロールサンプル(25mM)に比べて、t=8時間及びt=24時間のサンプル(50mM)で、より高いことである。これもまた、メイラード化によってカルシウムへの感受性が減少することを示唆している。強くメイラード化したHiprotalは、100mMまでのカルシウム濃度において、75℃で有意な混濁を示さなかった。
【0083】
Hiprotalの貯蔵試験
Hiprotalのメイラード生成物は、4℃/pH6.7で少なくとも1週間安定である。
【0084】
Luff試薬を用いた、還元性炭水化物の決定
以下に記述する方法により、還元性の炭水化物の存在を確認することができる。この方法は定性的である。
【0085】
Luff試薬
溶液
A:25gの硫酸銅(CuSO.5HO)を100mlの脱ミネラル化水に溶かす。
B:50gのクエン酸を50mlの脱ミネラル化水に溶かす。
C:143.8gの炭酸ナトリウムを400mlの微温湯に溶かす。
【0086】
上記の溶液の温度が室温に戻った後、溶液BとCを混合した。次に溶液Aを加えた。脱ミネラル化水を加えて、最終体積を1リットルにした。この試薬は数日間使用可能である。
【0087】
手順:
1.1重量%の炭水化物液を調製する。
2.ピペットを用いて、炭水化物溶液(0.1%(v/v)に希釈)を1mlずつ、2つの反応管に入れる。
3.1つ目の管に脱ミネラル化水0.5mlを毎回加え、2つ目の管には、0.1Nのヨウ素液を0.5mlと1NのNaOHを2、3滴加えた。これらの溶液を良く混ぜ、室温で15分静置する。
4.全ての管にLuff試薬の銅試薬をペピットで2mlずつ加える。管を混合し、沸騰した水浴中に置き、5〜10分間熱する。
5.還元性の炭水化物が存在すれば、赤い沈殿が生じる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
なし。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質1グラム当たり少なくとも4.5重量%のリジンを含むリジンリッチタンパク質中のリジン残基の少なくとも20%で、OPAアッセイによって決定されるグリコシル化が起こっている前記リジンリッチタンパク質を水重量の少なくとも0.2%含む、水をベースとした2価陽イオン強化食品であって、前記食品が、不溶性の2価陽イオン複合リジンリッチタンパク質塩を原則的に含まず、リジンリッチタンパク質の非グリコシル化体において2価陽イオン複合タンパク質塩を生じさせる量の溶解2価陽イオンを含む、水をベースとした2価陽イオン強化食品。
【請求項2】
食品が少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも80重量%の水を含むことを特徴とする請求項1記載の食品。
【請求項3】
リジンリッチタンパク質が、変性中に、その非修飾体の少なくとも90%のエンタルピー変化を示すことを特徴とする請求項1又は2記載の食品。
【請求項4】
非修飾タンパク質が沈殿する2価陽イオン濃度より、少なくとも5%高い濃度の2価陽イオンを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の食品。
【請求項5】
リジンリッチタンパク質の重量の少なくとも2%の濃度の溶解2価陽イオンを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の食品。
【請求項6】
リジンリッチタンパク質が大豆タンパク質であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の食品。
【請求項7】
食品が豆乳であることを特徴とする請求項6記載の食品。
【請求項8】
リジンリッチタンパク質がホエータンパク質であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の食品。
【請求項9】
食品が牛乳又は牛乳由来製品であることを特徴とする請求項8記載の食品。
【請求項10】
2価の陽イオンがCa2+及び/又はMg2+を含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の食品。
【請求項11】
グリコシル化リジンリッチタンパク質が完全に溶解しており、非グリコシル化リジンリッチタンパク質は2価陽イオン複合リジンリッチタンパク質塩として沈殿する水をベースとした2価陽イオン強化食品の調製における、タンパク質1グラム当たり少なくとも4.5重量%のリジンを含み、少なくとも20%のリジン残基がグリコシル化されているリジンリッチタンパク質の使用。
【請求項12】
タンパク質をメイラード反応条件にさらすことを含む、タンパク質の2価陽イオン結合能の強化方法。
【請求項13】
乾燥状又は固体状の、タンパク質と還元性カルボニル部分を含む化合物との混合物を用意し、相対湿度が少なくとも55%の大気中で前記混合物を少なくとも40℃まで加熱することを含む請求項12記載の方法。
【請求項14】
タンパク質1グラム当たり少なくとも4.5重量%のリジンを含むリジンリッチタンパク質中の少なくとも20%のリジン残基がグリコシル化されているグリコシル化リジンリッチタンパク質を乾燥重量で少なくとも80%含むことを特徴とする修飾タンパク質組成物。

【公表番号】特表2008−523803(P2008−523803A)
【公表日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−546586(P2007−546586)
【出願日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【国際出願番号】PCT/NL2005/050077
【国際公開番号】WO2006/065135
【国際公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(506298932)シーエスエム ネーダーランド ビー.ブイ. (4)
【Fターム(参考)】