処置具
【課題】心膜に穿孔し、ガイドワイヤを挿入する際に、心膜内の心臓を損傷することをより確実に防止する。
【解決手段】心膜Bの外面に押し当てられる先端面2aを備えるガイド部材2と、軸線D回りに回転可能な筒状体3aの先端に、周方向に沿って斜め前方に延びる鋭利な尖端5aを有する1以上の針状部5を備え、筒状体3aの軸線D回りの回転により針状部5の尖端5aを心膜Bに刺して筒状体3aを心膜Bに固定する心膜固定部材3と、心膜固定部材3が固定された心膜Bにガイドワイヤ用の貫通孔を形成する穿孔部材と、ガイド部材2の先端面2aが心膜Bの外面に押し当てられた状態で心膜固定部材3の尖端5aが心臓Hの外面に到達しない位置に、ガイド部材2の先端面2aに対する尖端5aの軸線D方向の位置を制限する尖端位置制限部2c,3cを備える処置具を提供する。
【解決手段】心膜Bの外面に押し当てられる先端面2aを備えるガイド部材2と、軸線D回りに回転可能な筒状体3aの先端に、周方向に沿って斜め前方に延びる鋭利な尖端5aを有する1以上の針状部5を備え、筒状体3aの軸線D回りの回転により針状部5の尖端5aを心膜Bに刺して筒状体3aを心膜Bに固定する心膜固定部材3と、心膜固定部材3が固定された心膜Bにガイドワイヤ用の貫通孔を形成する穿孔部材と、ガイド部材2の先端面2aが心膜Bの外面に押し当てられた状態で心膜固定部材3の尖端5aが心臓Hの外面に到達しない位置に、ガイド部材2の先端面2aに対する尖端5aの軸線D方向の位置を制限する尖端位置制限部2c,3cを備える処置具を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は処置具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、心膜に穿孔しガイドワイヤを挿入する処置具が知られている(例えば、特許文献1および特許文献2参照。)。
特許文献1の処置具は、筒体の先端に周方向に延びる針状突起を備え、この針状突起を心膜の表面に突き当てた状態で筒体をその軸線回りに回転させることにより、針状突起を心膜に突き刺して筒体を心膜に固定し、筒体を持ち上げることで心膜と心臓との間に空間を形成するようになっている。
【0003】
このようにして形成した空間の位置において、穿孔用アクセスデバイスによって心膜に穿孔することにより、穿孔時に心臓を損傷することを防止しようとしている。
また、特許文献2の処置具は、心膜に先端開口を押し当てた筒体内を吸引して心膜を持ち上げた後に心膜に穿孔することで、同様に心臓への損傷を防止しようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6423051号明細書
【特許文献2】特表2001−516625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の処置具では、心膜内に形成される空間が穿孔用アクセスデバイスの挿入量より小さくなる場合があり、そのような場合には、アクセスデバイスの先端によって心臓の心筋や血管が損傷を受ける虞がある。
また、特許文献2の処置具では、空間を形成するための筒体内の圧力が変動した場合に、空間の大きさが変動してしまうという不都合がある。例えば、筒体と心膜との密封状態が不完全で周辺の空気が筒体内に入ってしまったり、アクセスデバイスにより形成された心膜の孔から筒体内に空気が入ってしまったりして、筒体内の減圧状態が弱まり、心膜内に形成される空間が小さくなってしまう。この場合にも、アクセスデバイスによって心臓の心筋等が損傷を受ける虞がある。
【0006】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、心膜に穿孔し、ガイドワイヤを挿入する際に、心膜内の心臓を損傷することをより確実に防止することができる処置具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、心膜の外面に押し当てられる先端面を備えるガイド部材と、軸線回りに回転可能な筒状体の先端に、周方向に沿って斜め前方に延びる鋭利な尖端を有する1以上の針状部を備え、筒状体の前記軸線回りの回転により前記針状部の尖端を前記心膜に刺して前記筒状体を前記心膜に固定する心膜固定部材と、該心膜固定部材が固定された前記心膜にガイドワイヤ用の貫通孔を形成する穿孔部材と、前記ガイド部材の前記先端面が前記心膜の外面に押し当てられた状態で前記心膜固定部材の前記尖端が心臓の外面に到達しない位置に、前記ガイド部材の先端面に対する前記尖端の前記軸線方向の位置を制限する尖端位置制限部を備える処置具を提供する。
【0008】
本発明によれば、心膜固定部材を構成する筒状体の先端に設けられた1以上の針状部の鋭利な尖端を心膜の表面に接触させ、筒状体をその軸線回りに回転させると、周方向に沿って斜め前方に延びる針状部の尖端が心膜に刺さる。そして、筒状体をさらに軸線回りに回転させることにより、針状部を心膜に深く刺して筒状体を心膜に固定することができる。
【0009】
このとき、心膜の外面にはガイド部材の先端面が押し当てられており、このガイド部材の先端面に対する針状部の尖端の軸線方向位置が、尖端位置制限部によって、心臓の外面に到達しない位置に制限されているので、筒状体を回転させて、針状部の心膜への穿刺が進行しても、尖端が心臓の外面に接触しない位置に維持される。その結果、心臓を傷つけることなく、筒状体を心膜に固定することができる。
【0010】
このようにして、筒状体が心膜に固定された状態で心膜と心臓との間に空間を形成し、穿孔部材によって心膜にガイドワイヤ用の貫通孔を形成することにより、貫通孔を介して心膜外から心膜内にガイドワイヤを容易に挿入することができる。
【0011】
上記発明においては、前記ガイド部材の前記先端面が前記心膜の外面に押し当てられた状態で前記穿孔部材が心臓の外面に到達しない位置に、前記ガイド部材の先端面に対する前記穿孔部材の前記軸線方向の位置を制限する穿孔部材位置制限部を備えていてもよい。
このようにすることで、穿孔部材位置制限部によって、心膜の外面に押し当てられたガイド部材の先端面に対して、穿孔部材の軸線方向の位置が心臓の外面に到達しない位置に制限されるので、穿孔部材によって心膜に貫通孔を形成する際にも、穿孔部材が心臓に接触せず、心臓を傷つけることなくガイドワイヤ用の貫通孔を容易に穿孔することができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記ガイド部材が、前記心膜固定部材を内側に挿入する筒状に形成されていてもよい。
このようにすることで、ガイド部材が、前記心膜固定部材の外周を取り囲む位置に配置されるので、心膜固定部材による心膜への固定作業の際に、心膜固定部材の動作を安定して支持することができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記針状部が螺旋状に形成されていてもよい。
このようにすることで、心膜固定部材の筒状体を回転させて針状部の尖端を心膜に刺した状態で、筒状体を回転させると、螺旋状に形成された針状部がさらに心膜に深く刺さり、螺旋のリードに従って心膜が筒状体の軸線方向に、心臓から離れる方向に引き上げられる。その結果、筒状体を回転させるだけで、心臓と心膜との間に空間を形成することができ、穿孔部材による穿孔作業を容易にすることができる。
【0014】
また、上記発明においては、前記心膜固定部材が、前記ガイド部材に対して前記軸線方向に相対移動可能に設けられ、前記尖端位置制限部が、前記心膜固定部材に設けられ前記ガイド部材に突き当たる突当面を備えていてもよい。
このようにすることで、先端面を心膜の外面に押し当てたガイド部材に対して、その軸線方向に心膜固定部材を移動させていくと、心膜固定部材に設けられた突当面がガイド部材に突き当たり、針状部の尖端が心臓の表面に到達しない軸線方向位置に制限される。これにより、心膜固定部材の心膜への固定作業を簡易に行うことができる。
【0015】
また、上記発明においては、前記穿孔部材が、前記ガイド部材または前記心膜固定部材に対して前記軸線方向に相対移動可能に設けられ、前記穿孔部材位置制限部が、前記穿孔部材に設けられ前記ガイド部材または前記心膜固定部材に突き当たる他の突当面とを備えていてもよい。
【0016】
このようにすることで、先端面を心膜の外面に押し当てたガイド部材に対して、または、ガイド部材に突当面を突き当てた状態の心膜固定部材に対して、その軸線方向に穿孔部材を移動させていくと、穿孔部材に設けられた他の突当面がガイド部材または心膜固定部材に突き当たり、穿孔部材が心臓の表面に到達しない軸線方向位置に制限される。これにより、穿孔部材による心膜への貫通孔の穿孔作業を容易に行うことができる。
【0017】
また、上記発明においては、前記穿孔部材が、その鋭利な先端を、前記針状部の尖端より後方に配置して、前記心膜固定部材に固定されていてもよい。
このようにすることで、筒状体を回転させて螺旋状の針状部を軸線回りに回転させ、針状部の尖端を心膜に刺して、針状部の螺旋に従って心臓の表面から離間する方向に移動させていくと、心膜固定部材に固定されている穿孔部材の鋭利な先端に心膜が近づけられていき、鋭利な先端が刺さることにより心膜に貫通孔が形成される。
【0018】
この場合に、穿孔部材の先端は針状部の尖端より軸線方向の後方に配置されているので、穿孔部材が心臓に接触して損傷を与えることをより確実に防止することができる。また、ガイド部材の先端面を心膜の外面に押し当てて、心膜固定部材の突当面をガイド部材に突き当てた状態で、心膜固定部材を軸線回りに回転させるだけで、穿孔部材によって心膜に貫通孔を容易に穿孔することができる。
【0019】
また、上記発明においては、前記穿孔部材が、前記軸線に沿って螺旋状の前記針状部の中心に配置された直線状の針状部材であってもよい。
このようにすることで、心膜固定部材をその軸線回りに回転させて、螺旋状の針状部を回転させても、その中心位置に配置された直線状の針状部材からなる穿孔部材の心膜に対する位置は変動せず、心膜に貫通孔を無理なく穿孔することができる。
【0020】
また、上記発明においては、前記穿孔部材が、前記螺旋状の前記針状部と同軸に配置された螺旋状の針状部材であってもよい。
このようにすることで、心膜固定部材をその軸線回りに回転させて、螺旋状の針状部が心膜に刺さり、その穿孔位置を変えることなく深く穿孔されていく際に、針状部と同軸に配置された螺旋状の針状部材からなる穿孔部材も、心膜に刺さって貫通孔を無理なく形成することができる。
【0021】
また、上記発明においては、前記ガイド部材、前記心膜固定部材および前記穿孔部材に、これらの部材の先端部を同時に同一方向に湾曲可能とする湾曲部が設けられていてもよい。
このようにすることで、ガイド部材の挿入方向が心膜の外面の法線方向に一致していない場合でも、湾曲部を湾曲させてガイド部材、心膜固定部材および穿孔部材の先端部を同時に同一方向に向けることにより、心膜の外面に対してガイド部材の先端面を密着させ、心膜固定部材による心膜への固定と穿孔部材による貫通孔の穿孔作業とをより確実に行うことが可能となる。
【0022】
また、上記発明においては、前記ガイド部材および前記心膜固定部材に、これらの部材の先端部を同時に同一方向に湾曲可能とする湾曲部が設けられていてもよい。
このようにすることで、ガイド部材の挿入方向が心膜の外面の法線方向に一致していない場合でも、湾曲部を湾曲させてガイド部材および心膜固定部材の先端部を同時に同一方向に向けることにより、心膜の外面に対してガイド部材の先端面を密着させることができる。穿孔部材は心膜固定部材に固定されているので、心膜固定部材を湾曲させることで、穿孔部材もその先端の方向を同時に変更させられ、心膜固定部材による心膜への固定と穿孔部材による貫通孔の穿孔作業とをより確実に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、心膜に穿孔し、ガイドワイヤを挿入する際に、心膜内の心臓を損傷することをより確実に防止することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係る処置具の先端をトロッカを介して心膜に接触させた状態を示す全体構成図である。
【図2】図1の処置具の先端部を示す縦断面図である。
【図3】図1の処置具の心膜固定部材を先端部側からその軸線に沿う方向に見た図である。
【図4】図1の処置具の心膜固定部材の先端に設けられた針状部を示す拡大図である。
【図5】図1の処置具の外側シースをトロッカに挿入した状態を示す図である。
【図6】図5の状態の外側シースの先端面が心膜の表面に押し当てられている様子を示す縦断面図である。
【図7】図5の外側シース内に心膜固定部材を挿入した状態を示す図である。
【図8】図6の外側シースに対して最大限に心膜固定部材を挿入した状態を示す先端部の縦断面図である。
【図9】図8の状態から心膜固定部材を軸線回りに回転させて針状部を心膜に貫通させた状態を示す先端部の縦断面図である。
【図10】図8の心膜固定部材内に穿孔部材を挿入した状態を示す図である。
【図11】図10の処置具の先端部を示す縦断面図である。
【図12】図11の処置具の心膜固定部材に対して穿孔部材を最大限に挿入し、穿孔部材を心膜に貫通させた状態を示す先端部の縦断面図である。
【図13】図12の状態の穿孔部材を介してガイドワイヤの先端を心嚢内に挿入した状態を示す先端部の縦断面図である。
【図14】図13の状態の心膜固定部材内から穿孔部材を取り外した状態を示す先端部の縦断面図である。
【図15】図14の状態の外側シース内から心膜固定部材を取り外した状態を示す先端部の縦断面図である。
【図16】図14の外側シースを取り外し、トロッカを介してガイドワイヤのみを留置させた状態を示す図である。
【図17】図1の処置具の変形例を示す縦断面図である。
【図18】図1の処置具の他の変形例を示す先端部の縦断面図である。
【図19】図1の処置具の他の変形例を示す先端部の縦断面図である。
【図20】図1の処置具の他の変形例を示す先端部の縦断面図である。
【図21】図20の処置具の先端に設けられた湾曲部を湾曲させた状態を示す先端部の縦断面図である。
【図22】図20の処置具の先端を心膜に密着させた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の一実施形態に係る処置具について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る処置具1は、図1に示されるように、剣状突起A下部の腹部を貫通して心膜Bの外表面に先端が対向配置されたトロッカCを介して体内に挿入される器具である。この処置具1は、細長い円筒状の外側シース(ガイド部材)2と、該外側シース2内に挿入される心膜固定部材3と、さらにその内部に挿入される穿孔部材4とを備えている。
【0026】
外側シース2は、図1に示されるように、トロッカCの内径寸法より若干小さい外径寸法を有し、トロッカCを介して挿入することによりその先端面2aを心膜Bの外面に押し当てることができるようになっている。外側シース2の先端側には、図2に示されるように、内径寸法を一段小さく形成した小径部2bが設けられ、該小径部2bによって外側シース2の内側に半径方向内方に突出する段部2cが設けられている。
【0027】
心膜固定部材3は、外側シース2の内部に挿入可能な細長い部材であって、円筒状の本体(筒状体)3aと、該本体3aの先端に取り付けられた針状部5とを備えている。本体3aは外側シース2の内径寸法より若干小さく、かつ外側シース2の小径部2bより大きな外径寸法を有している。本体3aの先端には外径寸法を一段小さく形成した突出部3bが設けられている。
【0028】
この突出部3bと本体3aとの間には肩部が形成され、この肩部が、外側シース2に設けられた段部2cに突き当たる突当面3cを構成している。すなわち、外側シース2に対して心膜固定部材3を挿入していくと、外側シース2の内部の段部2cに心膜固定部材3の突当面3cが突き当たることにより、心膜固定部材3のそれ以上の挿入を制限するようになっている。また、心膜固定部材3の本体3aの内部には、外側の突当面3cを形成する肩部によって本体3aから半径方向内方に突出する段部3dが形成されている。また、突出部3bの中央には貫通孔3eが設けられている。
【0029】
心膜固定部材3の突出部3bの先端には、針状部5が固定されている。
針状部5は、図3に示されるように、本体3aの軸線D回りに配置された螺旋状の部材であって、周方向に間隔をあけて3本配置されている。各針状部5の鋭利な尖端5aは、周方向に配置されるとともに、図4に示されるように斜め前方に向かって配置されている。各針状部5は、例えば、図3に示されるように、同じ半径寸法で同軸に配置され、同じ方向に同一のリードを有する螺旋状に形成されている。
【0030】
針状部5の鋭利な尖端5aは、図8に示されるように、前記突当面3cを外側シース2の段部2cに突き当てた状態で、外側シース2の先端面2aより軸線D方向後方に若干引っ込んだ位置に配置されるようになっている。すなわち、図8に示されるように、心膜Bの外面に外側シース2の先端面2aを押し当てた状態で心膜固定部材3の突当面3cが外側シース2の段部2cに突き当たるまで挿入すると、針状部5の尖端5aが心膜Bの外面に接触するが、心膜Bを貫通しない位置に配置されるようになっている。
【0031】
なお、尖端5aの位置は、処置具1の外側シース2の先端面2aを突き当てる部位における心膜Bの曲率によって定められている。例えば、先端面2aを押し当てる部位が曲率の大きな凸面である場合には、針状部5の鋭利な尖端5aは、曲率の小さい凸面である場合よりも、軸線D方向後方に引っ込んだ位置に配置され、先端面2aを押し当てる部位が略平坦面である場合には、尖端5aは外側シース2の先端面2aとほぼ同一の軸線D方向位置に配置されていればよい。
【0032】
また、穿孔部材4は、心膜固定部材3の内側に挿入可能な、円筒状に形成され、その先端4aを斜めに切断した注射針状に形成されている。穿孔部材4の内径寸法は、ガイドワイヤE(図13参照。)を挿入可能にガイドワイヤEの外径寸法より若干大きく形成されている。穿孔部材4は、心膜固定部材3の径方向の中央に軸線に沿って直線状に配置されるようになっている。
【0033】
穿孔部材4には、半径方向外方に延びる円板状の鍔部材6(他の突当面)が固定されている。この鍔部材6の外径寸法は、心膜固定部材3の本体3aの内径寸法より小さく、かつ突出部3cの内径寸法より大きく形成されている。これにより、心膜固定部材3に対して穿孔部材4を挿入していくと、この鍔部材6が心膜固定部材3の内部の段部3dに突き当たって、穿孔部材4のそれ以上の挿入を制限するようになっている。
【0034】
穿孔部材4の先端4aは、図12に示されるように、心膜固定部材3の段部3dに鍔部材6を突き当てた状態で、針状部5の尖端5aよりも軸線D方向後方(に引っ込んだ)位置に配置されるようになっている。
【0035】
このように構成された本実施形態に係る処置具1の作用について以下に説明する。
本実施形態に係る処置具1を用いて心膜Bと心臓Hとの間の空間(心嚢)F内にガイドワイヤEを挿入するには、まず、図5および図6に示されるように、剣状突起A下部の腹部を貫通して挿入配置されたトロッカC内に外側シース2を挿入し、その先端面2aを心膜Bの外面に押し当てる。
【0036】
この状態で、図7に示されるように、外側シース2内に心膜固定部材3を挿入していくと、図8に示されるように、心膜固定部材3の先端近傍に設けられた突当面3cが外側シース2内の段部2cに突き当たってそれ以上の挿入が制限される。このとき、心膜固定部材3の先端に設けられた針状部5の鋭利な尖端5aは心膜Bの表面に接触しているが、心膜Bを貫通しない位置に配置される。
【0037】
次に、図9に示されるように、外側シース2を固定したままで、心膜固定部材3をその軸線D回りに一方向に回転させる。これにより、心膜Bの表面に接触していた針状部5の尖端5aが、軸線D回りに周方向に移動し、心膜Bに穿刺される。
【0038】
針状部5は螺旋状に形成されているので、心膜固定部材3の回転に伴って、針状部5の尖端5aが心膜Bに深く穿刺されるようになり、さらに回転させることで心膜Bを貫通する。そして、針状部5が回転させられると、心膜Bは、螺旋状の針状部5によって心臓Hの表面から離間する方向に移動させられて、図9に示されるように、心臓Hとの間に空間Fを広げるようになる。これにより、心膜固定部材3が心膜Bに固定される。
【0039】
この場合において、針状部5の尖端5aは、心膜固定部材3の突当面3cを外側シース2内の段部2cに突き当てることにより、その軸線D方向位置を制限されているので、心膜Bを貫通しても心臓Hの表面には接触しない位置に維持される。その結果、針状部5の尖端5aによって心臓Hの表面に損傷が与えられないように保護される。
【0040】
この後に、図10および図11に示されるように、心膜固定部材3の本体3a内に穿孔部材4を挿入し、鋭利な先端4aを心膜固定部材3の先端に固定された心膜Bに近接させていき、図12に示されるように、これを貫通させる。心膜Bは、螺旋状の針状部5によって心臓Hの表面から離間させられているので、心膜Bを貫通した穿孔部材4の先端4aはこの空間F内に配置される。
【0041】
特に、穿孔部材4には鍔部材6が設けられているので、該鍔部材6を心膜固定部材3の段部3dに突き当てることにより、鋭利な先端4aの軸線D方向位置が、針状部5の尖端5aよりも軸線D方向後方に引っ込んだ位置に制限される。上述したように、針状部5は心臓Hに接触しない位置に制限されているので、穿孔部材4の先端4aも、心臓Hに接触しない位置に制限され、心膜Bを貫通して貫通孔を形成した穿孔部材4によっても心臓Hが損傷を受けることはない。
【0042】
穿孔部材4は、注射針のように中空に形成されているので、心膜Bを貫通して貫通孔を形成した状態の穿孔部材4の中央の孔4bを通して、図13に示されるようにガイドワイヤEを心嚢F内に挿入することができる。そして、穿孔部材4を心膜固定部材3に対して後退させることにより、図14に示されるように穿孔部材4を引き抜くことができる。
【0043】
さらに、外側シース2に対して心膜固定部材3を上記とは反対方向に回転させることにより、心膜Bに貫通させられていた針状部5を心膜Bから外し、図15に示されるように、外側シース2の内側から抜き出すことができる。
これにより、図15および図16に示されるように、ガイドワイヤEのみを、心膜Bに形成された貫通孔を介して心嚢F内に挿入された状態に残すことができる。
【0044】
このように、本実施形態に係る処置具1によれば、心膜Bに穿孔し、ガイドワイヤEを挿入する際に、心膜B内の心臓Hを損傷してしまうことを、より確実に防止し、簡単な操作でガイドワイヤEを心嚢F内に容易に挿入することができるという利点がある。
【0045】
なお、本実施形態においては、螺旋状の針状部5を3本、同心に配置したが、これに代えて、1本以上の任意の本数の針状部5を採用してもよい。本数が多くなればなるほど、心膜Bにかかる負担が軽減されるが、心膜Bにあける孔の数が多くなるので、3本前後が望ましい。
【0046】
心膜の厚さは通常0.5〜2mm程度の場合が多いが、何らかの疾患や外科手術などで一度失われた場合などは0.05mm程度と非常に薄い場合もあれば、脂肪の蓄積や心膜炎などの原因により10mm程度の厚さを持つ場合もある。
段部2cおよび突当面3cによって心膜固定部材3の外側シース2からの飛び出し量は心膜Bの厚さ以下に制限されるが、このように心膜Bの厚さは個人差が大きいため、心膜固定部材3を挿入する前にあらかじめ挿入部位の心膜Bの厚さを測定しておくことが望ましい。
【0047】
心膜Bの厚さの測定には、あらかじめCTスキャンやMRIなどで測定しておく方法、あるいは心膜にアクセスしたのち、超音波エコー計測や光コヒーレンストモグラフィにより測定する方法などがよい。
また、心臓Hの外側シース2に当たる部分は凸形状となっているため、段部2cおよび突当面3cによって規定される心膜固定部材3の飛び出し量は外側シース2の先端より内側としてもよく、飛び出し量は心臓Hの形状、大きさや心膜Bの厚さにより総合的に決定される。
【0048】
また、本実施形態においては、外側シース2、心膜固定部材3および穿孔部材4の尖端側に、それぞれ段部2c,3d、突当面3cおよび鍔部材6を設けることにより、これらを突き当てて針状部5の尖端5aおよび穿孔部材4の先端4aが心臓Hに接触しないようにしたが、これに代えて、図17に示されるように、外側シース2と心膜固定部材3、心膜固定部材3と穿孔部材4とをそれらの基端側において突き当てることにしてもよい。
【0049】
また、本実施形態においては、心膜固定部材3に対して穿孔部材4を軸線D方向に相対移動可能に設けたが、これに代えて、図18に示されるように、穿孔部材4を心膜固定部材3に対して軸線D方向に固定してもよい。針状部5の尖端5aと穿孔部材4の先端4aとの位置関係は、上記実施形態において、鍔部材6を段部3dに突き当てたときと同じでよい。そして、穿孔部材4は心膜固定部材3に対して、軸線D回りに回転可能に取り付けられていることが好ましい。
【0050】
このようにすることで、心膜固定部材3を軸線回りに回転させて螺旋状の針状部5によって心膜Bを心臓Hから離間させていくと、心膜Bは心膜固定部材3の本体3aに近接していくので、本体3aに固定されている穿孔部材4によって貫通されるようになる。この場合に、心膜固定部材3の回転に拘わらず、穿孔部材4は回転しないように維持されるので、心膜Bに対して穿孔部材4を静かに刺して心膜Bを大きく傷つけないように貫通孔を容易に形成することができる。
【0051】
また、本実施形態においては、穿孔部材4として、心膜固定部材3の中央位置に軸線D方向に沿って配置される直線状の円筒状部材を例示したが、これに代えて、図19に示されるように、螺旋状の針状部5と同心に、同一方向に同一のリードで旋回する螺旋状に形成されて、心膜固定部材3に固定されていてもよい。この場合においても、穿孔部材4の先端4aは、針状部5の尖端5aより若干軸線D方向後方に配置されている。
【0052】
これにより、心膜固定部材3の回転により針状部5が心膜Bに刺されて、心膜Bが心臓Hから離間されてくる途中で、穿孔部材4の先端4aが心膜Bに刺さり、さらに心膜固定部材3が回転させられることで穿孔部材4による心膜Bへの穿孔が進行して、貫通孔が形成される。
このようにすることによっても、心臓Hに損傷を与えることなく、心膜BにガイドワイヤEを挿入するための貫通な貫通孔を形成し、ガイドワイヤEを容易に心嚢F内に挿入することができるという利点がある。
【0053】
また、本実施形態においては、図20および図21に示されるように、外側シース2、心膜固定部材3の本体3aおよび穿孔部材4の一部に湾曲可能な湾曲部7,8,9を設けてもよい。湾曲部7,8,9は、ゴムチューブ、蛇腹あるいは蛇管等の湾曲可能な弾性部材により構成されている。特に、心膜固定部材3の本体3aに設けられた湾曲部8は、回転力を伝達可能な部材により構成されている。
【0054】
このようにすることで、トロッカCを介した外側シース2の挿入方向に直交する方向に対して心膜Bの表面が傾斜している場合に、図22に示されるように、この湾曲部7,8,9を湾曲させて、外側シース2の先端面2aを傾斜している心膜Bの表面に倣うように密着させることができる。したがって、外側シース2の挿入方向に対して直交していない心膜Bに対しても、ガイドワイヤEを挿入するための貫通孔をより確実に穿孔することができるという利点がある。
【0055】
また、本実施形態においては、針状部5および螺旋状の穿孔部材4を同じ円周上に配置することとしたが、これに代えて、同軸かつ同一のリードであれば、半径方向位置を異ならせてもよい。
また、図20および図21に示される例では、穿孔部材4が心膜固定部材3に対して軸線D方向に移動可能な図2の構造のものに湾曲部7,8,9を有する場合について説明したが、これに代えて、穿孔部材4が心膜固定部材3に固定された図18の構造のものに湾曲部を採用してもよい。
【0056】
また、本発明においては、以下のガイドワイヤ挿入方法を提供する。
(付記項1)
心膜の外側から筒状のシースをアクセスさせる工程と、
前記シースの先端を心膜の外面に垂直に押し当てる工程と、
先端に針状突起を有する固定手段を前記シースに挿入する工程と、
前記固定手段の先端の前記針状突起の前記シースに対する突出量を制限する工程と、
前記シースに対してその軸線回りに前記固定手段を回転させ、該針状突起を心膜に侵入させて、心膜を持ち上げる工程と、
針穴を有する針を該固定手段に対して前記軸線方向に移動させる工程と、
前記針の先端の前記固定手段に対する突出量を制限する工程と、
前記針により心膜に穿孔する工程と、
前記針の前記針穴を通してガイドワイヤを挿入する工程とを含むガイドワイヤ挿入方法。
【0057】
(付記項2)
心膜の外側から筒状のシースをアクセスさせる工程と、
前記シースの先端を心膜の外面に垂直に押し当てる工程と、
先端に針状突起と針穴を有する針とが固定された固定手段を前記シースに挿入する工程と、
前記固定手段の先端の前記針状突起および針の前記シースに対する突出量を制限する工程と、
前記シースに対してその軸線回りに前記固定手段を回転させ、該針状突起を心膜に侵入させて、心膜を持ち上げることにより、前記針によって心膜に穿孔する工程と、
前記針の前記針穴を通してガイドワイヤを挿入する工程とを含むガイドワイヤ挿入方法。
【0058】
(付記項3)
前記固定手段を前記シースに挿入する工程の前に、心膜の厚さを測定する工程を含む付記項1に記載のガイドワイヤ挿入方法。
(付記項4)
心膜の厚さを測定する工程が、超音波計測により心膜の厚さを測定する工程である付記項3に記載のガイドワイヤ挿入方法。
(付記項5)
心膜の厚さを測定する工程が、光コヒーレンストモグラフィ(optical coherence tomography)法により心膜の厚さを測定する工程である付記項3に記載のガイドワイヤ挿入方法。
【0059】
(付記項6)
前記固定手段を前記シースに挿入する工程の前に、心膜の厚さを測定する工程を有することを特徴とする付記項2に記載のガイドワイヤ挿入方法。
(付記項7)
心膜の厚さを測定する工程が、超音波計測により心膜の厚さを測定する工程である付記項6に記載のガイドワイヤ挿入方法。
(付記項8)
心膜の厚さを測定する工程が、光コヒーレンストモグラフィ法により心膜の厚さを測定する工程である付記項6に記載のガイドワイヤ挿入方法。
【符号の説明】
【0060】
B 心膜
D 軸線
E ガイドワイヤ
H 心臓
1 処置具
2 外側シース(ガイド部材)
2a 先端面
2c 段部(尖端位置制限部)
3 心膜固定部材
3a 本体(筒状体)
3c 突当面(尖端位置制限部)
3d 段部(穿孔部材位置制限部)
4 穿孔部材
5 針状部
5a 尖端
6 鍔部材(穿孔部材位置制限部、他の突当面)
7,8,9 湾曲部
【技術分野】
【0001】
本発明は処置具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、心膜に穿孔しガイドワイヤを挿入する処置具が知られている(例えば、特許文献1および特許文献2参照。)。
特許文献1の処置具は、筒体の先端に周方向に延びる針状突起を備え、この針状突起を心膜の表面に突き当てた状態で筒体をその軸線回りに回転させることにより、針状突起を心膜に突き刺して筒体を心膜に固定し、筒体を持ち上げることで心膜と心臓との間に空間を形成するようになっている。
【0003】
このようにして形成した空間の位置において、穿孔用アクセスデバイスによって心膜に穿孔することにより、穿孔時に心臓を損傷することを防止しようとしている。
また、特許文献2の処置具は、心膜に先端開口を押し当てた筒体内を吸引して心膜を持ち上げた後に心膜に穿孔することで、同様に心臓への損傷を防止しようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6423051号明細書
【特許文献2】特表2001−516625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の処置具では、心膜内に形成される空間が穿孔用アクセスデバイスの挿入量より小さくなる場合があり、そのような場合には、アクセスデバイスの先端によって心臓の心筋や血管が損傷を受ける虞がある。
また、特許文献2の処置具では、空間を形成するための筒体内の圧力が変動した場合に、空間の大きさが変動してしまうという不都合がある。例えば、筒体と心膜との密封状態が不完全で周辺の空気が筒体内に入ってしまったり、アクセスデバイスにより形成された心膜の孔から筒体内に空気が入ってしまったりして、筒体内の減圧状態が弱まり、心膜内に形成される空間が小さくなってしまう。この場合にも、アクセスデバイスによって心臓の心筋等が損傷を受ける虞がある。
【0006】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、心膜に穿孔し、ガイドワイヤを挿入する際に、心膜内の心臓を損傷することをより確実に防止することができる処置具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、心膜の外面に押し当てられる先端面を備えるガイド部材と、軸線回りに回転可能な筒状体の先端に、周方向に沿って斜め前方に延びる鋭利な尖端を有する1以上の針状部を備え、筒状体の前記軸線回りの回転により前記針状部の尖端を前記心膜に刺して前記筒状体を前記心膜に固定する心膜固定部材と、該心膜固定部材が固定された前記心膜にガイドワイヤ用の貫通孔を形成する穿孔部材と、前記ガイド部材の前記先端面が前記心膜の外面に押し当てられた状態で前記心膜固定部材の前記尖端が心臓の外面に到達しない位置に、前記ガイド部材の先端面に対する前記尖端の前記軸線方向の位置を制限する尖端位置制限部を備える処置具を提供する。
【0008】
本発明によれば、心膜固定部材を構成する筒状体の先端に設けられた1以上の針状部の鋭利な尖端を心膜の表面に接触させ、筒状体をその軸線回りに回転させると、周方向に沿って斜め前方に延びる針状部の尖端が心膜に刺さる。そして、筒状体をさらに軸線回りに回転させることにより、針状部を心膜に深く刺して筒状体を心膜に固定することができる。
【0009】
このとき、心膜の外面にはガイド部材の先端面が押し当てられており、このガイド部材の先端面に対する針状部の尖端の軸線方向位置が、尖端位置制限部によって、心臓の外面に到達しない位置に制限されているので、筒状体を回転させて、針状部の心膜への穿刺が進行しても、尖端が心臓の外面に接触しない位置に維持される。その結果、心臓を傷つけることなく、筒状体を心膜に固定することができる。
【0010】
このようにして、筒状体が心膜に固定された状態で心膜と心臓との間に空間を形成し、穿孔部材によって心膜にガイドワイヤ用の貫通孔を形成することにより、貫通孔を介して心膜外から心膜内にガイドワイヤを容易に挿入することができる。
【0011】
上記発明においては、前記ガイド部材の前記先端面が前記心膜の外面に押し当てられた状態で前記穿孔部材が心臓の外面に到達しない位置に、前記ガイド部材の先端面に対する前記穿孔部材の前記軸線方向の位置を制限する穿孔部材位置制限部を備えていてもよい。
このようにすることで、穿孔部材位置制限部によって、心膜の外面に押し当てられたガイド部材の先端面に対して、穿孔部材の軸線方向の位置が心臓の外面に到達しない位置に制限されるので、穿孔部材によって心膜に貫通孔を形成する際にも、穿孔部材が心臓に接触せず、心臓を傷つけることなくガイドワイヤ用の貫通孔を容易に穿孔することができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記ガイド部材が、前記心膜固定部材を内側に挿入する筒状に形成されていてもよい。
このようにすることで、ガイド部材が、前記心膜固定部材の外周を取り囲む位置に配置されるので、心膜固定部材による心膜への固定作業の際に、心膜固定部材の動作を安定して支持することができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記針状部が螺旋状に形成されていてもよい。
このようにすることで、心膜固定部材の筒状体を回転させて針状部の尖端を心膜に刺した状態で、筒状体を回転させると、螺旋状に形成された針状部がさらに心膜に深く刺さり、螺旋のリードに従って心膜が筒状体の軸線方向に、心臓から離れる方向に引き上げられる。その結果、筒状体を回転させるだけで、心臓と心膜との間に空間を形成することができ、穿孔部材による穿孔作業を容易にすることができる。
【0014】
また、上記発明においては、前記心膜固定部材が、前記ガイド部材に対して前記軸線方向に相対移動可能に設けられ、前記尖端位置制限部が、前記心膜固定部材に設けられ前記ガイド部材に突き当たる突当面を備えていてもよい。
このようにすることで、先端面を心膜の外面に押し当てたガイド部材に対して、その軸線方向に心膜固定部材を移動させていくと、心膜固定部材に設けられた突当面がガイド部材に突き当たり、針状部の尖端が心臓の表面に到達しない軸線方向位置に制限される。これにより、心膜固定部材の心膜への固定作業を簡易に行うことができる。
【0015】
また、上記発明においては、前記穿孔部材が、前記ガイド部材または前記心膜固定部材に対して前記軸線方向に相対移動可能に設けられ、前記穿孔部材位置制限部が、前記穿孔部材に設けられ前記ガイド部材または前記心膜固定部材に突き当たる他の突当面とを備えていてもよい。
【0016】
このようにすることで、先端面を心膜の外面に押し当てたガイド部材に対して、または、ガイド部材に突当面を突き当てた状態の心膜固定部材に対して、その軸線方向に穿孔部材を移動させていくと、穿孔部材に設けられた他の突当面がガイド部材または心膜固定部材に突き当たり、穿孔部材が心臓の表面に到達しない軸線方向位置に制限される。これにより、穿孔部材による心膜への貫通孔の穿孔作業を容易に行うことができる。
【0017】
また、上記発明においては、前記穿孔部材が、その鋭利な先端を、前記針状部の尖端より後方に配置して、前記心膜固定部材に固定されていてもよい。
このようにすることで、筒状体を回転させて螺旋状の針状部を軸線回りに回転させ、針状部の尖端を心膜に刺して、針状部の螺旋に従って心臓の表面から離間する方向に移動させていくと、心膜固定部材に固定されている穿孔部材の鋭利な先端に心膜が近づけられていき、鋭利な先端が刺さることにより心膜に貫通孔が形成される。
【0018】
この場合に、穿孔部材の先端は針状部の尖端より軸線方向の後方に配置されているので、穿孔部材が心臓に接触して損傷を与えることをより確実に防止することができる。また、ガイド部材の先端面を心膜の外面に押し当てて、心膜固定部材の突当面をガイド部材に突き当てた状態で、心膜固定部材を軸線回りに回転させるだけで、穿孔部材によって心膜に貫通孔を容易に穿孔することができる。
【0019】
また、上記発明においては、前記穿孔部材が、前記軸線に沿って螺旋状の前記針状部の中心に配置された直線状の針状部材であってもよい。
このようにすることで、心膜固定部材をその軸線回りに回転させて、螺旋状の針状部を回転させても、その中心位置に配置された直線状の針状部材からなる穿孔部材の心膜に対する位置は変動せず、心膜に貫通孔を無理なく穿孔することができる。
【0020】
また、上記発明においては、前記穿孔部材が、前記螺旋状の前記針状部と同軸に配置された螺旋状の針状部材であってもよい。
このようにすることで、心膜固定部材をその軸線回りに回転させて、螺旋状の針状部が心膜に刺さり、その穿孔位置を変えることなく深く穿孔されていく際に、針状部と同軸に配置された螺旋状の針状部材からなる穿孔部材も、心膜に刺さって貫通孔を無理なく形成することができる。
【0021】
また、上記発明においては、前記ガイド部材、前記心膜固定部材および前記穿孔部材に、これらの部材の先端部を同時に同一方向に湾曲可能とする湾曲部が設けられていてもよい。
このようにすることで、ガイド部材の挿入方向が心膜の外面の法線方向に一致していない場合でも、湾曲部を湾曲させてガイド部材、心膜固定部材および穿孔部材の先端部を同時に同一方向に向けることにより、心膜の外面に対してガイド部材の先端面を密着させ、心膜固定部材による心膜への固定と穿孔部材による貫通孔の穿孔作業とをより確実に行うことが可能となる。
【0022】
また、上記発明においては、前記ガイド部材および前記心膜固定部材に、これらの部材の先端部を同時に同一方向に湾曲可能とする湾曲部が設けられていてもよい。
このようにすることで、ガイド部材の挿入方向が心膜の外面の法線方向に一致していない場合でも、湾曲部を湾曲させてガイド部材および心膜固定部材の先端部を同時に同一方向に向けることにより、心膜の外面に対してガイド部材の先端面を密着させることができる。穿孔部材は心膜固定部材に固定されているので、心膜固定部材を湾曲させることで、穿孔部材もその先端の方向を同時に変更させられ、心膜固定部材による心膜への固定と穿孔部材による貫通孔の穿孔作業とをより確実に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、心膜に穿孔し、ガイドワイヤを挿入する際に、心膜内の心臓を損傷することをより確実に防止することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係る処置具の先端をトロッカを介して心膜に接触させた状態を示す全体構成図である。
【図2】図1の処置具の先端部を示す縦断面図である。
【図3】図1の処置具の心膜固定部材を先端部側からその軸線に沿う方向に見た図である。
【図4】図1の処置具の心膜固定部材の先端に設けられた針状部を示す拡大図である。
【図5】図1の処置具の外側シースをトロッカに挿入した状態を示す図である。
【図6】図5の状態の外側シースの先端面が心膜の表面に押し当てられている様子を示す縦断面図である。
【図7】図5の外側シース内に心膜固定部材を挿入した状態を示す図である。
【図8】図6の外側シースに対して最大限に心膜固定部材を挿入した状態を示す先端部の縦断面図である。
【図9】図8の状態から心膜固定部材を軸線回りに回転させて針状部を心膜に貫通させた状態を示す先端部の縦断面図である。
【図10】図8の心膜固定部材内に穿孔部材を挿入した状態を示す図である。
【図11】図10の処置具の先端部を示す縦断面図である。
【図12】図11の処置具の心膜固定部材に対して穿孔部材を最大限に挿入し、穿孔部材を心膜に貫通させた状態を示す先端部の縦断面図である。
【図13】図12の状態の穿孔部材を介してガイドワイヤの先端を心嚢内に挿入した状態を示す先端部の縦断面図である。
【図14】図13の状態の心膜固定部材内から穿孔部材を取り外した状態を示す先端部の縦断面図である。
【図15】図14の状態の外側シース内から心膜固定部材を取り外した状態を示す先端部の縦断面図である。
【図16】図14の外側シースを取り外し、トロッカを介してガイドワイヤのみを留置させた状態を示す図である。
【図17】図1の処置具の変形例を示す縦断面図である。
【図18】図1の処置具の他の変形例を示す先端部の縦断面図である。
【図19】図1の処置具の他の変形例を示す先端部の縦断面図である。
【図20】図1の処置具の他の変形例を示す先端部の縦断面図である。
【図21】図20の処置具の先端に設けられた湾曲部を湾曲させた状態を示す先端部の縦断面図である。
【図22】図20の処置具の先端を心膜に密着させた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の一実施形態に係る処置具について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る処置具1は、図1に示されるように、剣状突起A下部の腹部を貫通して心膜Bの外表面に先端が対向配置されたトロッカCを介して体内に挿入される器具である。この処置具1は、細長い円筒状の外側シース(ガイド部材)2と、該外側シース2内に挿入される心膜固定部材3と、さらにその内部に挿入される穿孔部材4とを備えている。
【0026】
外側シース2は、図1に示されるように、トロッカCの内径寸法より若干小さい外径寸法を有し、トロッカCを介して挿入することによりその先端面2aを心膜Bの外面に押し当てることができるようになっている。外側シース2の先端側には、図2に示されるように、内径寸法を一段小さく形成した小径部2bが設けられ、該小径部2bによって外側シース2の内側に半径方向内方に突出する段部2cが設けられている。
【0027】
心膜固定部材3は、外側シース2の内部に挿入可能な細長い部材であって、円筒状の本体(筒状体)3aと、該本体3aの先端に取り付けられた針状部5とを備えている。本体3aは外側シース2の内径寸法より若干小さく、かつ外側シース2の小径部2bより大きな外径寸法を有している。本体3aの先端には外径寸法を一段小さく形成した突出部3bが設けられている。
【0028】
この突出部3bと本体3aとの間には肩部が形成され、この肩部が、外側シース2に設けられた段部2cに突き当たる突当面3cを構成している。すなわち、外側シース2に対して心膜固定部材3を挿入していくと、外側シース2の内部の段部2cに心膜固定部材3の突当面3cが突き当たることにより、心膜固定部材3のそれ以上の挿入を制限するようになっている。また、心膜固定部材3の本体3aの内部には、外側の突当面3cを形成する肩部によって本体3aから半径方向内方に突出する段部3dが形成されている。また、突出部3bの中央には貫通孔3eが設けられている。
【0029】
心膜固定部材3の突出部3bの先端には、針状部5が固定されている。
針状部5は、図3に示されるように、本体3aの軸線D回りに配置された螺旋状の部材であって、周方向に間隔をあけて3本配置されている。各針状部5の鋭利な尖端5aは、周方向に配置されるとともに、図4に示されるように斜め前方に向かって配置されている。各針状部5は、例えば、図3に示されるように、同じ半径寸法で同軸に配置され、同じ方向に同一のリードを有する螺旋状に形成されている。
【0030】
針状部5の鋭利な尖端5aは、図8に示されるように、前記突当面3cを外側シース2の段部2cに突き当てた状態で、外側シース2の先端面2aより軸線D方向後方に若干引っ込んだ位置に配置されるようになっている。すなわち、図8に示されるように、心膜Bの外面に外側シース2の先端面2aを押し当てた状態で心膜固定部材3の突当面3cが外側シース2の段部2cに突き当たるまで挿入すると、針状部5の尖端5aが心膜Bの外面に接触するが、心膜Bを貫通しない位置に配置されるようになっている。
【0031】
なお、尖端5aの位置は、処置具1の外側シース2の先端面2aを突き当てる部位における心膜Bの曲率によって定められている。例えば、先端面2aを押し当てる部位が曲率の大きな凸面である場合には、針状部5の鋭利な尖端5aは、曲率の小さい凸面である場合よりも、軸線D方向後方に引っ込んだ位置に配置され、先端面2aを押し当てる部位が略平坦面である場合には、尖端5aは外側シース2の先端面2aとほぼ同一の軸線D方向位置に配置されていればよい。
【0032】
また、穿孔部材4は、心膜固定部材3の内側に挿入可能な、円筒状に形成され、その先端4aを斜めに切断した注射針状に形成されている。穿孔部材4の内径寸法は、ガイドワイヤE(図13参照。)を挿入可能にガイドワイヤEの外径寸法より若干大きく形成されている。穿孔部材4は、心膜固定部材3の径方向の中央に軸線に沿って直線状に配置されるようになっている。
【0033】
穿孔部材4には、半径方向外方に延びる円板状の鍔部材6(他の突当面)が固定されている。この鍔部材6の外径寸法は、心膜固定部材3の本体3aの内径寸法より小さく、かつ突出部3cの内径寸法より大きく形成されている。これにより、心膜固定部材3に対して穿孔部材4を挿入していくと、この鍔部材6が心膜固定部材3の内部の段部3dに突き当たって、穿孔部材4のそれ以上の挿入を制限するようになっている。
【0034】
穿孔部材4の先端4aは、図12に示されるように、心膜固定部材3の段部3dに鍔部材6を突き当てた状態で、針状部5の尖端5aよりも軸線D方向後方(に引っ込んだ)位置に配置されるようになっている。
【0035】
このように構成された本実施形態に係る処置具1の作用について以下に説明する。
本実施形態に係る処置具1を用いて心膜Bと心臓Hとの間の空間(心嚢)F内にガイドワイヤEを挿入するには、まず、図5および図6に示されるように、剣状突起A下部の腹部を貫通して挿入配置されたトロッカC内に外側シース2を挿入し、その先端面2aを心膜Bの外面に押し当てる。
【0036】
この状態で、図7に示されるように、外側シース2内に心膜固定部材3を挿入していくと、図8に示されるように、心膜固定部材3の先端近傍に設けられた突当面3cが外側シース2内の段部2cに突き当たってそれ以上の挿入が制限される。このとき、心膜固定部材3の先端に設けられた針状部5の鋭利な尖端5aは心膜Bの表面に接触しているが、心膜Bを貫通しない位置に配置される。
【0037】
次に、図9に示されるように、外側シース2を固定したままで、心膜固定部材3をその軸線D回りに一方向に回転させる。これにより、心膜Bの表面に接触していた針状部5の尖端5aが、軸線D回りに周方向に移動し、心膜Bに穿刺される。
【0038】
針状部5は螺旋状に形成されているので、心膜固定部材3の回転に伴って、針状部5の尖端5aが心膜Bに深く穿刺されるようになり、さらに回転させることで心膜Bを貫通する。そして、針状部5が回転させられると、心膜Bは、螺旋状の針状部5によって心臓Hの表面から離間する方向に移動させられて、図9に示されるように、心臓Hとの間に空間Fを広げるようになる。これにより、心膜固定部材3が心膜Bに固定される。
【0039】
この場合において、針状部5の尖端5aは、心膜固定部材3の突当面3cを外側シース2内の段部2cに突き当てることにより、その軸線D方向位置を制限されているので、心膜Bを貫通しても心臓Hの表面には接触しない位置に維持される。その結果、針状部5の尖端5aによって心臓Hの表面に損傷が与えられないように保護される。
【0040】
この後に、図10および図11に示されるように、心膜固定部材3の本体3a内に穿孔部材4を挿入し、鋭利な先端4aを心膜固定部材3の先端に固定された心膜Bに近接させていき、図12に示されるように、これを貫通させる。心膜Bは、螺旋状の針状部5によって心臓Hの表面から離間させられているので、心膜Bを貫通した穿孔部材4の先端4aはこの空間F内に配置される。
【0041】
特に、穿孔部材4には鍔部材6が設けられているので、該鍔部材6を心膜固定部材3の段部3dに突き当てることにより、鋭利な先端4aの軸線D方向位置が、針状部5の尖端5aよりも軸線D方向後方に引っ込んだ位置に制限される。上述したように、針状部5は心臓Hに接触しない位置に制限されているので、穿孔部材4の先端4aも、心臓Hに接触しない位置に制限され、心膜Bを貫通して貫通孔を形成した穿孔部材4によっても心臓Hが損傷を受けることはない。
【0042】
穿孔部材4は、注射針のように中空に形成されているので、心膜Bを貫通して貫通孔を形成した状態の穿孔部材4の中央の孔4bを通して、図13に示されるようにガイドワイヤEを心嚢F内に挿入することができる。そして、穿孔部材4を心膜固定部材3に対して後退させることにより、図14に示されるように穿孔部材4を引き抜くことができる。
【0043】
さらに、外側シース2に対して心膜固定部材3を上記とは反対方向に回転させることにより、心膜Bに貫通させられていた針状部5を心膜Bから外し、図15に示されるように、外側シース2の内側から抜き出すことができる。
これにより、図15および図16に示されるように、ガイドワイヤEのみを、心膜Bに形成された貫通孔を介して心嚢F内に挿入された状態に残すことができる。
【0044】
このように、本実施形態に係る処置具1によれば、心膜Bに穿孔し、ガイドワイヤEを挿入する際に、心膜B内の心臓Hを損傷してしまうことを、より確実に防止し、簡単な操作でガイドワイヤEを心嚢F内に容易に挿入することができるという利点がある。
【0045】
なお、本実施形態においては、螺旋状の針状部5を3本、同心に配置したが、これに代えて、1本以上の任意の本数の針状部5を採用してもよい。本数が多くなればなるほど、心膜Bにかかる負担が軽減されるが、心膜Bにあける孔の数が多くなるので、3本前後が望ましい。
【0046】
心膜の厚さは通常0.5〜2mm程度の場合が多いが、何らかの疾患や外科手術などで一度失われた場合などは0.05mm程度と非常に薄い場合もあれば、脂肪の蓄積や心膜炎などの原因により10mm程度の厚さを持つ場合もある。
段部2cおよび突当面3cによって心膜固定部材3の外側シース2からの飛び出し量は心膜Bの厚さ以下に制限されるが、このように心膜Bの厚さは個人差が大きいため、心膜固定部材3を挿入する前にあらかじめ挿入部位の心膜Bの厚さを測定しておくことが望ましい。
【0047】
心膜Bの厚さの測定には、あらかじめCTスキャンやMRIなどで測定しておく方法、あるいは心膜にアクセスしたのち、超音波エコー計測や光コヒーレンストモグラフィにより測定する方法などがよい。
また、心臓Hの外側シース2に当たる部分は凸形状となっているため、段部2cおよび突当面3cによって規定される心膜固定部材3の飛び出し量は外側シース2の先端より内側としてもよく、飛び出し量は心臓Hの形状、大きさや心膜Bの厚さにより総合的に決定される。
【0048】
また、本実施形態においては、外側シース2、心膜固定部材3および穿孔部材4の尖端側に、それぞれ段部2c,3d、突当面3cおよび鍔部材6を設けることにより、これらを突き当てて針状部5の尖端5aおよび穿孔部材4の先端4aが心臓Hに接触しないようにしたが、これに代えて、図17に示されるように、外側シース2と心膜固定部材3、心膜固定部材3と穿孔部材4とをそれらの基端側において突き当てることにしてもよい。
【0049】
また、本実施形態においては、心膜固定部材3に対して穿孔部材4を軸線D方向に相対移動可能に設けたが、これに代えて、図18に示されるように、穿孔部材4を心膜固定部材3に対して軸線D方向に固定してもよい。針状部5の尖端5aと穿孔部材4の先端4aとの位置関係は、上記実施形態において、鍔部材6を段部3dに突き当てたときと同じでよい。そして、穿孔部材4は心膜固定部材3に対して、軸線D回りに回転可能に取り付けられていることが好ましい。
【0050】
このようにすることで、心膜固定部材3を軸線回りに回転させて螺旋状の針状部5によって心膜Bを心臓Hから離間させていくと、心膜Bは心膜固定部材3の本体3aに近接していくので、本体3aに固定されている穿孔部材4によって貫通されるようになる。この場合に、心膜固定部材3の回転に拘わらず、穿孔部材4は回転しないように維持されるので、心膜Bに対して穿孔部材4を静かに刺して心膜Bを大きく傷つけないように貫通孔を容易に形成することができる。
【0051】
また、本実施形態においては、穿孔部材4として、心膜固定部材3の中央位置に軸線D方向に沿って配置される直線状の円筒状部材を例示したが、これに代えて、図19に示されるように、螺旋状の針状部5と同心に、同一方向に同一のリードで旋回する螺旋状に形成されて、心膜固定部材3に固定されていてもよい。この場合においても、穿孔部材4の先端4aは、針状部5の尖端5aより若干軸線D方向後方に配置されている。
【0052】
これにより、心膜固定部材3の回転により針状部5が心膜Bに刺されて、心膜Bが心臓Hから離間されてくる途中で、穿孔部材4の先端4aが心膜Bに刺さり、さらに心膜固定部材3が回転させられることで穿孔部材4による心膜Bへの穿孔が進行して、貫通孔が形成される。
このようにすることによっても、心臓Hに損傷を与えることなく、心膜BにガイドワイヤEを挿入するための貫通な貫通孔を形成し、ガイドワイヤEを容易に心嚢F内に挿入することができるという利点がある。
【0053】
また、本実施形態においては、図20および図21に示されるように、外側シース2、心膜固定部材3の本体3aおよび穿孔部材4の一部に湾曲可能な湾曲部7,8,9を設けてもよい。湾曲部7,8,9は、ゴムチューブ、蛇腹あるいは蛇管等の湾曲可能な弾性部材により構成されている。特に、心膜固定部材3の本体3aに設けられた湾曲部8は、回転力を伝達可能な部材により構成されている。
【0054】
このようにすることで、トロッカCを介した外側シース2の挿入方向に直交する方向に対して心膜Bの表面が傾斜している場合に、図22に示されるように、この湾曲部7,8,9を湾曲させて、外側シース2の先端面2aを傾斜している心膜Bの表面に倣うように密着させることができる。したがって、外側シース2の挿入方向に対して直交していない心膜Bに対しても、ガイドワイヤEを挿入するための貫通孔をより確実に穿孔することができるという利点がある。
【0055】
また、本実施形態においては、針状部5および螺旋状の穿孔部材4を同じ円周上に配置することとしたが、これに代えて、同軸かつ同一のリードであれば、半径方向位置を異ならせてもよい。
また、図20および図21に示される例では、穿孔部材4が心膜固定部材3に対して軸線D方向に移動可能な図2の構造のものに湾曲部7,8,9を有する場合について説明したが、これに代えて、穿孔部材4が心膜固定部材3に固定された図18の構造のものに湾曲部を採用してもよい。
【0056】
また、本発明においては、以下のガイドワイヤ挿入方法を提供する。
(付記項1)
心膜の外側から筒状のシースをアクセスさせる工程と、
前記シースの先端を心膜の外面に垂直に押し当てる工程と、
先端に針状突起を有する固定手段を前記シースに挿入する工程と、
前記固定手段の先端の前記針状突起の前記シースに対する突出量を制限する工程と、
前記シースに対してその軸線回りに前記固定手段を回転させ、該針状突起を心膜に侵入させて、心膜を持ち上げる工程と、
針穴を有する針を該固定手段に対して前記軸線方向に移動させる工程と、
前記針の先端の前記固定手段に対する突出量を制限する工程と、
前記針により心膜に穿孔する工程と、
前記針の前記針穴を通してガイドワイヤを挿入する工程とを含むガイドワイヤ挿入方法。
【0057】
(付記項2)
心膜の外側から筒状のシースをアクセスさせる工程と、
前記シースの先端を心膜の外面に垂直に押し当てる工程と、
先端に針状突起と針穴を有する針とが固定された固定手段を前記シースに挿入する工程と、
前記固定手段の先端の前記針状突起および針の前記シースに対する突出量を制限する工程と、
前記シースに対してその軸線回りに前記固定手段を回転させ、該針状突起を心膜に侵入させて、心膜を持ち上げることにより、前記針によって心膜に穿孔する工程と、
前記針の前記針穴を通してガイドワイヤを挿入する工程とを含むガイドワイヤ挿入方法。
【0058】
(付記項3)
前記固定手段を前記シースに挿入する工程の前に、心膜の厚さを測定する工程を含む付記項1に記載のガイドワイヤ挿入方法。
(付記項4)
心膜の厚さを測定する工程が、超音波計測により心膜の厚さを測定する工程である付記項3に記載のガイドワイヤ挿入方法。
(付記項5)
心膜の厚さを測定する工程が、光コヒーレンストモグラフィ(optical coherence tomography)法により心膜の厚さを測定する工程である付記項3に記載のガイドワイヤ挿入方法。
【0059】
(付記項6)
前記固定手段を前記シースに挿入する工程の前に、心膜の厚さを測定する工程を有することを特徴とする付記項2に記載のガイドワイヤ挿入方法。
(付記項7)
心膜の厚さを測定する工程が、超音波計測により心膜の厚さを測定する工程である付記項6に記載のガイドワイヤ挿入方法。
(付記項8)
心膜の厚さを測定する工程が、光コヒーレンストモグラフィ法により心膜の厚さを測定する工程である付記項6に記載のガイドワイヤ挿入方法。
【符号の説明】
【0060】
B 心膜
D 軸線
E ガイドワイヤ
H 心臓
1 処置具
2 外側シース(ガイド部材)
2a 先端面
2c 段部(尖端位置制限部)
3 心膜固定部材
3a 本体(筒状体)
3c 突当面(尖端位置制限部)
3d 段部(穿孔部材位置制限部)
4 穿孔部材
5 針状部
5a 尖端
6 鍔部材(穿孔部材位置制限部、他の突当面)
7,8,9 湾曲部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心膜の外面に押し当てられる先端面を備えるガイド部材と、
軸線回りに回転可能な筒状体の先端に、周方向に沿って斜め前方に延びる鋭利な尖端を有する1以上の針状部を備え、筒状体の前記軸線回りの回転により前記針状部の尖端を前記心膜に刺して前記筒状体を前記心膜に固定する心膜固定部材と、
該心膜固定部材が固定された前記心膜にガイドワイヤ用の貫通孔を形成する穿孔部材と、
前記ガイド部材の前記先端面が前記心膜の外面に押し当てられた状態で前記心膜固定部材の前記尖端が心臓の外面に到達しない位置に、前記ガイド部材の先端面に対する前記尖端の前記軸線方向の位置を制限する尖端位置制限部を備える処置具。
【請求項2】
前記ガイド部材の前記先端面が前記心膜の外面に押し当てられた状態で前記穿孔部材が心臓の外面に到達しない位置に、前記ガイド部材の先端面に対する前記穿孔部材の前記軸線方向の位置を制限する穿孔部材位置制限部を備える請求項1に記載の処置具。
【請求項3】
前記ガイド部材が、前記心膜固定部材を内側に挿入する筒状に形成されている請求項1または請求項2に記載の処置具。
【請求項4】
前記針状部が螺旋状に形成されている請求項1から請求項3のいずれかに記載の処置具。
【請求項5】
前記心膜固定部材が、前記ガイド部材に対して前記軸線方向に相対移動可能に設けられ、
前記尖端位置制限部が、前記心膜固定部材に設けられ前記ガイド部材に突き当たる突当面を備える請求項1から請求項4のいずれかに記載の処置具。
【請求項6】
前記穿孔部材が、前記ガイド部材または前記心膜固定部材に対して前記軸線方向に相対移動可能に設けられ、
前記穿孔部材位置制限部が、前記穿孔部材に設けられ前記ガイド部材または前記心膜固定部材に突き当たる他の突当面とを備える請求項5に記載の処置具。
【請求項7】
前記穿孔部材が、その鋭利な先端を、前記針状部の尖端より後方に配置して、前記心膜固定部材に固定されている請求項4に記載の処置具。
【請求項8】
前記穿孔部材が、前記軸線に沿って螺旋状の前記針状部の中心に配置された直線状の針状部材である請求項7に記載の処置具。
【請求項9】
前記穿孔部材が、前記螺旋状の前記針状部と同軸に配置された螺旋状の針状部材である請求項7に記載の処置具。
【請求項10】
前記ガイド部材、前記心膜固定部材および前記穿孔部材に、これらの部材の先端部を同時に同一方向に湾曲可能とする湾曲部が設けられている請求項1に記載の処置具。
【請求項11】
前記ガイド部材および前記心膜固定部材に、これらの部材の先端部を同時に同一方向に湾曲可能とする湾曲部が設けられている請求項7に記載の処置具。
【請求項1】
心膜の外面に押し当てられる先端面を備えるガイド部材と、
軸線回りに回転可能な筒状体の先端に、周方向に沿って斜め前方に延びる鋭利な尖端を有する1以上の針状部を備え、筒状体の前記軸線回りの回転により前記針状部の尖端を前記心膜に刺して前記筒状体を前記心膜に固定する心膜固定部材と、
該心膜固定部材が固定された前記心膜にガイドワイヤ用の貫通孔を形成する穿孔部材と、
前記ガイド部材の前記先端面が前記心膜の外面に押し当てられた状態で前記心膜固定部材の前記尖端が心臓の外面に到達しない位置に、前記ガイド部材の先端面に対する前記尖端の前記軸線方向の位置を制限する尖端位置制限部を備える処置具。
【請求項2】
前記ガイド部材の前記先端面が前記心膜の外面に押し当てられた状態で前記穿孔部材が心臓の外面に到達しない位置に、前記ガイド部材の先端面に対する前記穿孔部材の前記軸線方向の位置を制限する穿孔部材位置制限部を備える請求項1に記載の処置具。
【請求項3】
前記ガイド部材が、前記心膜固定部材を内側に挿入する筒状に形成されている請求項1または請求項2に記載の処置具。
【請求項4】
前記針状部が螺旋状に形成されている請求項1から請求項3のいずれかに記載の処置具。
【請求項5】
前記心膜固定部材が、前記ガイド部材に対して前記軸線方向に相対移動可能に設けられ、
前記尖端位置制限部が、前記心膜固定部材に設けられ前記ガイド部材に突き当たる突当面を備える請求項1から請求項4のいずれかに記載の処置具。
【請求項6】
前記穿孔部材が、前記ガイド部材または前記心膜固定部材に対して前記軸線方向に相対移動可能に設けられ、
前記穿孔部材位置制限部が、前記穿孔部材に設けられ前記ガイド部材または前記心膜固定部材に突き当たる他の突当面とを備える請求項5に記載の処置具。
【請求項7】
前記穿孔部材が、その鋭利な先端を、前記針状部の尖端より後方に配置して、前記心膜固定部材に固定されている請求項4に記載の処置具。
【請求項8】
前記穿孔部材が、前記軸線に沿って螺旋状の前記針状部の中心に配置された直線状の針状部材である請求項7に記載の処置具。
【請求項9】
前記穿孔部材が、前記螺旋状の前記針状部と同軸に配置された螺旋状の針状部材である請求項7に記載の処置具。
【請求項10】
前記ガイド部材、前記心膜固定部材および前記穿孔部材に、これらの部材の先端部を同時に同一方向に湾曲可能とする湾曲部が設けられている請求項1に記載の処置具。
【請求項11】
前記ガイド部材および前記心膜固定部材に、これらの部材の先端部を同時に同一方向に湾曲可能とする湾曲部が設けられている請求項7に記載の処置具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2012−35005(P2012−35005A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180298(P2010−180298)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
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