説明

処置方法

【課題】過活動膀胱に罹患している患者において、特に、尿意切迫を軽減する医薬を製造する。
【解決手段】過活動膀胱(OAB)に罹患している患者において、尿意切迫を軽減する医薬の製造における、ダリフェナシンまたはその薬学的に許容される誘導体の新規使用を提供する。尿失禁を伴わない過活動膀胱(OAB Dry)に罹患している患者において、ダリフェナシンおよびその薬学的に許容される誘導体は、尿意切迫の感覚を軽減し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダリフェナシンおよびその薬学的に許容される誘導体の新規使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ダリフェナシンは、(S)−2−{1−[2−(2,3−ジヒドロベンゾフラン−5−イル)エチル]−3−ピロリジニル}−2,2−ジフェニル−アセトアミドであり、欧州特許第 0388054 号の実施例1Bおよび8に開示されている。その明細書中では、3−(S)−(−)−(1−カルバモイル−1,1−ジフェニルメチル)−1−[2−(2,3−ジヒドロベンゾフラン−5−イル)エチル]ピロリジンとして記載されている。それは、尿失禁および過敏性腸症候群の処置に適応とされており、下記:
【化1】

の構造を有している。
【0003】
過活動膀胱 (OAB;Overactive bladder)の症候は、尿失禁を伴い または伴わず、局所の病理状態または全身性状態のない、尿頻度および尿意切迫(urinary urgency)を含む。尿意切迫は、the draft ICS Terminology Report [Terminology Report of the International Continence Society; Draft 6, 15th August 2001]において、突然の抗しがたい尿意であって制御が難しいものとして記載されている。
【0004】
近年、OAB Wet およびOAB Dry という用語が、尿失禁を伴う または伴わないOAB患者を記載するために提案されている。OAB Wet および Dry の全体的な罹患率は、男性と女性で同程度であり、米国における罹患率で16.6%である [Stewart et al., Prevalence of Overactive Bladder in the United States: Results from the NOBLE Program; Abstract Presented at the 2nd International Consultation on Incontinence, July 2001, Paris, France]。近年まで、OABの主な症候は、尿失禁であると信じられていた。しかし、新規の用語の出現に伴い、これは、多くの尿失禁のない患者(すなわちOAB Dry の患者)にとって、明らかに意味がない。これに伴い、Liberman et al の近年の研究 [Health Related Quality of Life Among Adults with Symptoms of Overactive Bladder: Results From A US Community-Based Survey; Urology 57 (6), 1044-1050, 2001] は、米国のグループ単位のサンプルで、全てのOABの症候のクオリティー・オブ・ライフ(quality of life)に対する影響を調べた。この研究は、尿の明らかな逸失がないOAB患者で、コントロールと比較した場合にクオリティー・オブ・ライフが損なわれていることを示している。さらに、尿意切迫のみの個人も、コントロールに比べてクオリティー・オブ・ライフが損なわれていた。
【0005】
従って、尿意切迫がOABの主要な症候であると信じられるが、現在それは臨床的な研究において量的な方法で評価されていない。
ダリフェナシン およびその薬学的に許容される誘導体は、過活動膀胱に罹患している患者において、尿意切迫の減少に有用であることが、今回見出された。
【0006】
尿失禁(すなわち望ましくない および頻度の高い無自覚の尿もれ)の処置に有用な既知の化合物が、尿意切迫の感覚を軽減し得ることは、予測され得なかったことから、この知見は驚くべき事である。尿失禁のない患者(すなわちOAB Dryの患者)において、ダリフェナシンおよびその薬学的に許容される誘導体が、尿意切迫の感覚を軽減し得ることは、さらに驚くべき事である。
【発明の概要】
【0007】
従って、本発明によると、過活動膀胱(OAB)に罹患している患者における、尿意切迫を軽減するための医薬の製造における、ダリフェナシンまたはその薬学的に許容される誘導体の使用を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ダリフェナシンの薬学的に許容される誘導体は、溶媒和物および塩を含み、特に酸付加塩、例えば臭化水素酸塩である。
処置すべき患者は、Wet 過活動膀胱(OAB Wet)に罹患していても、Dry 過活動膀胱(OAB Dry)に罹患していてもよい。
【0009】
ダリフェナシンまたは薬学的に許容される誘導体は、単独で、または欧州特許第 388054 号に記載されたものを含む、何れかの慣用の医薬製剤で投与され得る。経口投与が望ましい。本適用において、ダリフェナシン または薬学的に許容される誘導体中の活性なダリフェナシン部分の適切な用量は、体重70kgのヒトにおいて、1日当たり3.75−40mg、例えば1日当たり7.5−30mgの範囲である。この用量は、例えば3回に分けて、または1個の制御放出製剤で投与され得る。
【0010】
しかしながら、ダリフェナシンまたはその薬学的に許容される誘導体は、少なくとも10%のダリフェナシンまたはその薬学的に許容される誘導体を、患者の胃腸管下部で放出するよう適合させた投与形で投与されるのが好ましい。該製剤は、米国特許第 6,106,864 号(その教示は言及することによって本明細書中に組み込まれる)に記載されている。望ましい該製剤は、徐放性マトリックス錠剤である(特に米国特許第 6,106,864 号の実施例3を参照のこと)。
【0011】
本発明は、さらに、過活動膀胱に罹患している患者において、尿意切迫の軽減に使用するための、ダリフェナシン またはその薬学的に許容される誘導体を提供する。
本発明は、さらに、過活動膀胱に罹患している患者において、尿意切迫を軽減する方法であって、ダリフェナシンまたはその薬学的に許容される誘導体を、該処置が必要な患者に投与することを含む方法を提供する。
【実施例】
【0012】
本発明は、下記の実施例に例示される。
実施例
過活動膀胱を有する患者における尿意切迫の臨床試験
尿意切迫の評価のための、2つの新規の方法を用いた。第1は大スケールでの臨床試験、そして第2は研究室規模の臨床試験に使用するための試験である。
これらの試験の両方で、ダリフェナシンを臭化水素酸塩として投与した。それは、米国特許第 6,106,864 号、特に実施例3に記載されたタイプの徐放性マトリックス錠剤で示された。錠剤を1日1回(o.d.)投与した。
【0013】
臨床試験1
この試験において、OAB Wet の患者は、日記に、1日当たりのそれぞれの尿意切迫の発現と、それぞれの日の尿意切迫の全体的な重症度を記録した。尿意切迫の重症度は、visual analogue scale (VAS) によって、アンカー・ポイントが軽い(mild)および重い(severe)として記録した。
【0014】
ダリフェナシン(臭化水素酸塩として;7.5mg、15mg、および30mgの活性な部分、1日1回)およびプラセボを、多施設治験で過活動膀胱の診断を受け、尿意切迫の症候を有する患者で、ベースラインと試験(12週の処置)の終点でのVASを用いて評価した。
【0015】
108人の患者(男性14人、女性94人)に7.5mg;107人の患者(男性15人、女性92人)に15mg;114人の患者(男性16人、女性98人)に30mg;および108人の患者(男性18人、女性90人)にプラセボを投与した。
【0016】
結果
臨床試験において、OABの患者が経験した尿意切迫の発現数と尿意切迫の全体的な重症度の両方において、ダリフェナシン(7.5−30mg)は、用量依存的減少を示した。この効果は、プラセボによって生じた効果よりも有意に大きい。データを以下の表1と2に示す。
【0017】
【表1】

*:P < 0.05, **:P < 0.01, ***:P < 0.001
【0018】
【表2】

*:P < 0.05, **:P < 0.01, ***:P < 0.001
【0019】
臨床試験2
この試験では、“警告時間”として知られている、尿意切迫の開始(first on-set)と排尿必要時の間の時間を測定する新規の方法を用いた。修飾されたストップウォッチを用い、患者は、尿意の始まりでボタンを押し、そして排尿する必要があると感じた際に第2のボタンを押すことが要請される。
【0020】
ダリフェナシン(臭化水素酸塩として;1日1回, 30mg)とプラセボを、尿意切迫の症候を有する患者において評価した。患者は、OAB Wet と OAB Dry の患者の混合であった。“警告時間”は、修飾されたストップ・ウォッチを用いて、ベースラインと2週目で評価された。
36人の患者(女性29人、男性7人)に、ダリフェナシンを投与し、36人の患者(女性22人、男性14人)にプラセボを投与した。
【0021】
結果
プラセボで処置した患者と比較した場合に、尿意切迫を有する患者のダリフェナシンでの処置は、警告時間の有意な増大を示した。データは、表3に示されている。
OAB Wet、およびOAB Dry の両方の患者が、処置に応答したことが注目される。
【表3】

*:P < 0.05, **:P < 0.01, ***:P < 0.001
プラセボとの違いの中央値は、4.3分である。
【0022】
結論
この結果は、ダリフェナシンが、過活動膀胱を有する患者において、尿意切迫の症候の、臨床的に有意な減退を生じることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダリフェナシンまたはその薬学的に許容される誘導体を含む、過活動膀胱に罹患している患者において尿意切迫を軽減するための医薬。
【請求項2】
ダリフェナシンが薬学的に許容される酸付加塩の形態である、請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
ダリフェナシンが臭化水素酸塩の形態である、請求項1に記載の医薬。
【請求項4】
該患者がOAB Wet(尿失禁を伴う過活動膀胱)に罹患している、請求項1から3の何れか1項に記載の医薬。
【請求項5】
該患者がOAB Dry(尿失禁を伴わない過活動膀胱)に罹患している、請求項1から3の何れか1項に記載の医薬。
【請求項6】
ダリフェナシンまたはその薬学的に許容される誘導体を、患者の胃腸管下部で、少なくとも10%のダリフェナシンまたはその薬学的に許容される誘導体を放出するよう適合させた投与形である、請求項1から5の何れか1項に記載の医薬。
【請求項7】
徐放性マトリックス錠剤である、請求項6に記載の医薬。

【公開番号】特開2010−24244(P2010−24244A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250519(P2009−250519)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【分割の表示】特願2003−552287(P2003−552287)の分割
【原出願日】平成14年3月5日(2002.3.5)
【出願人】(302012969)ノバルティス・インターナショナル・ファーマシューティカル・リミテッド (6)
【Fターム(参考)】