説明

凹凸模様を有する布帛の製造方法

【課題】熱収縮糸を布帛に模様付け縫製した後、加熱して収縮させ、布帛に凹凸模様を形成させた後、収縮糸を除去する凹凸模様を有する布帛の製造方法において、優れた凹凸感と収縮後の熱収縮糸の除去性の向上、また除去後の縫い跡の外観品位の向上を目的とする。
【解決手段】沸騰水での収縮率が30%以上の収縮糸を用い、布帛の目付(A)(g/m)と熱収縮糸の繊度(B)(dtex)の関係が、0.24≦A/B≦0.55の範囲を満足するように布帛の目付と熱収縮糸の繊度を選択し、該熱収縮糸を布帛または衣服に単環縫いにより縫い付け、収縮後に熱収縮糸を除去する方法をとることにより解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱して収縮する性質を有する熱収縮糸を用いて布帛に模様付け縫製し、熱収縮糸を収縮させて布帛に凹凸模様を付与し、然る後熱収縮糸を除去してなる凹凸模様を有する布帛の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ファッションの嗜好の多様化とともに、凹凸感や立体模様のある布帛や衣服が好まれるようになってきた。そのため、加熱して収縮する性質を有する熱収縮繊維を用いて布帛に凹凸模様をつけようとする試みが様々になされており、例えば、特開平4−327259号公報には、熱収縮糸、例えば沸騰水または100℃の乾熱による収縮率が少なくとも10%の熱収縮糸を用いて刺繍糸として織物地または編物地に刺繍し、これを90〜140℃で湿熱処理または乾熱処理することにより布帛に立体模様を付与する立体模様布帛の製造方法が記載されている。また特開昭52−140689号公報には着尺織物の製織時に熱収縮糸を適当な間隔でつづり状に織入し、製織後加熱して熱収縮糸を収縮せしめて凹凸状のひだを形成せしめ、その後染色して、熱収縮糸を除去する、変わり絞り模様織物の製造法が開示されている。
【0003】
しかしながら、特開平4−327259号公報の場合、ある程度の立体的な模様が形成することはできるが、収縮糸を刺繍糸として布帛に縫い込んでしまうため、布帛からの除去が困難であり、その為、表面に刺繍糸の見えない凹凸模様のみの自然な外観がほしいという要求にたいしては対処することができなかった。更に特開昭52−140689号公報に示されている方法は製織時に熱収縮糸をつづり状に織入するため、つづり状であることにより、収縮後に抜き取ることが容易となり、立体模様のみを持つ外観を得ることができる。しかしながら製織時に織入するため、刺繍のような様々な模様付けは難しく、更に織物であるため、繊維同士の間隔が密であるため糸の除去性は十分ではなく、切れた糸を除去するため作業性が悪いという欠点があった。また糸を抜き取る時に抵抗が強く縫い糸の跡が損傷したり、広がったりして外観品位の良いものは得られていなかった。
【0004】
さらに特開2003−171865号公報では模様のある一対の凹凸版金型に布帛を挟み、高温高圧でエンボス加工することが提示されている。この方法でもある程度の凹凸感のある、表面に刺繍糸の見えない布帛は得られるが、様々な模様に対してそれに対応する金型が必要になり、また高温高圧のため、風合いが硬くなったり、生地が破れたり、また変色しやすいという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開平4−327259号公報
【特許文献2】特開昭52−140689号公報
【特許文献3】特開2003−171865号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記背景技術の問題を解消するためになされたものであり、熱収縮糸を布帛に模様付け縫製した後、加熱して熱収縮糸を収縮させ、布帛に凹凸模様を形成させた後、熱収縮糸を除去して凹凸模様のみを有する布帛を製造する方法において、優れた凹凸感の付与と熱収縮糸の収縮後の除去性の向上、また除去後の縫い跡の外観品位の向上を目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、沸騰水での収縮率が30%以上の熱収縮糸を用い、布帛の目付(A)(g/m)と収縮糸の繊度(B)(dtex)の関係が、0.24≦A/B≦0.55の範囲を満足するように選択し、該熱収縮糸を布帛に単環縫いにより縫製し、収縮後除去する方法により解決できることを見出した。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法で行うことにより、凹凸感の優れた立体模様を有し、かつ模様発現に使用した糸が無いため自然な感じの凹凸感でかつ縫い跡の外観品位のよい布帛又衣服を、簡単な方法で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明においては、熱収縮糸の沸騰水収縮率が30%以上であることが必要であり、本発明に用いる熱収縮糸は、布帛に縫い付け、これを熱処理することによって布帛に凹凸模様を発現させることができるものであるが、収縮率が30%未満では布帛に十分な凹凸模様を発現させることができない。上記のように布帛に膨らみ模様を発現させた後に熱収縮糸を除去するような場合は、熱収縮糸の収縮率は大きいほどよいが、あまり大きくなり過ぎても取り扱い性が悪くなる傾向にあるため、収縮率は80%以下が好ましく、より好ましくは30〜70%であり、さらに好ましくは35〜65%である。
【0010】
上記のような熱収縮糸としては、塩化ビニル繊維および/又はポリエステル繊維からなる熱収縮糸であることが好ましい。ポリエステル繊維の場合は、イソフタル酸、テレフタル酸、5−ナトリウムイソフタル酸などを共重合することによって高収縮化することができ、特にかかるポリエステル繊維としてはイソフタル酸を2〜15モル%共重合したポリエチレンテレフタレート系ポリエステル繊維が好ましい。また、本発明においては、両方の繊維を混繊、複合などした糸を用いても良い。
【0011】
熱収縮糸の繊度としては1600dtexが好ましい。この繊度を越えると引き抜く時、縫い糸により糸穴が損傷し切れたり、穴が拡大したりして、外観品位が悪くなる。
【0012】
また、布帛の目付け(A)(g/m)と熱収縮糸の繊度(B)(dtex)の関係が、0.24≦A/B≦0.55の範囲にあることが必要であり、より好ましくは0.26≦A/B≦0.50の範囲である。0.55を超えると、布帛に対する収縮力が小さくなるため凹凸感が不十分なものとなったり、熱収縮糸が相対的に細くなるため切れやすくなり、糸除去性が悪くなる。0.24未満では、収縮力が強く凹凸感も優れたものが得られるが、熱収縮糸が相対的に太くなるため、糸の縫い跡が表面から大きく見える状態になったり、抜き取る時に縫い跡が損傷したりして、外観品位の悪いものとなる。
【0013】
本発明の熱収縮糸を用いて、ミシンや手縫い等の方法で布帛に単環縫いで縫い付けることが必要である。ここで言う単環縫いとは、図1に示すように、上糸1本だけで作られる縫い目で、生地の裏面は針糸のループが互いに連続して、鎖目となって続く縫い方を言う。 その為、縫い付けた糸を容易に布帛より除去することが可能である。また熱収縮糸が伸縮性のある形で繋がれているため、収縮性を高めることができ、比較的繊度の小さい熱収縮糸を用いても大きな収縮性が得られ、より凹凸感の優れたものとすることができる。布帛の代わりに縫製後の衣服を用いることができ、衣服に簡単に意匠効果のある凹凸模様を付与することができる。
【0014】
熱収縮糸を本縫いやオーバーロックなどの縫い方で縫い付けると、熱収縮糸を除去する際に、熱収縮糸が布帛に残留したり、除去する際の作業性が非常に悪くなる。
【0015】
収縮させる方法としては、乾熱、湿熱どちらの方法も取ることが出来るが、沸騰水で行うことが好ましい。熱収縮糸の乾熱120℃の収縮率は、通常35%以上であり、乾熱でも低温で布帛に凹凸模様を形成できるが、通常、最初に布帛を85℃〜沸水の温水中または蒸気中で処理し、その後100〜150℃で乾熱処理することが特に適している。このようにして熱収縮糸を収縮させて布帛または衣服表面に凹凸を成形させる。
【0016】
さらに該熱収縮糸を除去する必要があるが、単環縫いのため除去が極めて容易であり、縫い跡も小さく、損傷の無い品位の良いものとすることができる。
染色済みの布帛又は衣服に本発明の方法で熱収縮糸で模様付け縫製し、収縮させ凹凸模様付与後に、凸部が擦過を受ける工程や漂白する工程を含めることができ、より濃淡と凹凸感の優れたものとすることができる。布帛表面を擦過する工程としてストーンウォッシュや単なる洗いの工程でも良く、漂白する工程としてブリーチ加工等が挙げられる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例より本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例で用いた試験片の作成方法、及びその評価方法は下記のとおりである。
(1)布帛の目付、厚さ、及び嵩密度
JIS L 1096に準拠して測定した。
(2)熱収縮糸の収縮率、繊度
JIS L 1013に準拠して測定した。
(3)布帛の凹凸感について、目視判定にて判定を行う。
○:立体的凹凸感あり。△:凹凸感少ない。×:凹凸感なし。
(4)縫い付け熱収縮糸の除去性能については、ピンセットにて縫い付け熱収縮糸を挟み、布帛から除去する。その時の熱収縮糸の布帛での残留状況・作業性を官能評価にて判定を行う。
○:除去性能良い。△:除去性能普通。×:除去性能悪い。
(5)布帛の外観品位(縫い糸の残留・縫い糸跡など)を目視にて判定を行う。
○:外観品位良好。△:外観品位普通。×:外観品位悪い。
(6)総合判定については、1)と2)より判定を行う。
○:総合判定良い。△:総合判定普通。×:総合判定悪い。
【0018】
[実施例1]
220dtexの高収縮ポリ塩化ビニル繊維(帝人テクノプロダクツ製「テビロン」)を5本合糸し、S方向に300T/mの撚りを施し1100dtexの高収縮糸を得た。得られた高収縮糸の沸水収縮率は39%であった。次にこの高収縮糸を単環縫いで目付け400g/mのデニム生地に縫い付けた。A(布帛の目付)/B(熱収縮糸の繊度)=0.36であった。沸騰水に40分浸漬し、その後、120℃で10分間の乾熱処理を行い凹凸模様を有する布帛を形成した。得られた布帛の凹凸感の評価、縫い付け高収縮糸の除去性、布帛の外観品位を評価した。凹凸感も良く、しか単環縫いのため、高収縮糸も抜けやすく、又糸を抜いた跡の品位も良好であった。
【0019】
[実施例2]
220dtexの高収縮ポリ塩化ビニル繊維(帝人テクノプロダクツ製「テビロン」)を3本合糸し、S方向に300T/mの撚りを施し660dtexの高収縮繊維を得た。得られた高収縮繊維の沸水収縮率は39%であった。次にこの高収縮繊維を単環縫いで目付け350g/mのデニム生地に縫い付けた。A(布帛の目付)/B(熱収縮糸の繊度)=0.53であった。以下実施例1と同様に行い、得られた布帛の凹凸感の評価、縫い付け高収縮糸の除去性、布帛の外観品位を評価した。凹凸感は非常に良好で、しかも高収縮糸も抜けやすく、又糸を抜いた跡の品位も良好であった。
【0020】
[実施例3]
133dtexのイソフタル酸を10モル%共重合させたポリエチレンテレフタレート繊維(帝人ファイバー製「テトロン」)を2本を引き揃えた後、84dtexの高収縮ポリ塩化ビニル(帝人テクノプロダクツ製「テビロン」)と合糸し、S方向に300T/mの撚りを施し150dtexの高収縮糸を得た。得られた高収縮糸の沸水収縮率は35%であった。次にこの高収縮糸を単環縫いで目付け50g/mのボイル生地に縫い付けたA(布帛の目付)/B(熱収縮糸の繊度)。=0.33であった。以下実施例1と同様に行い、得られた布帛の凹凸感の評価、縫い付け高収縮糸の除去性、布帛の外観品位を評価した。凹凸感も良く、しかも高収縮糸も抜けやすく、又糸を抜いた跡の品位も良好であった。
【0021】
[実施例4]
220dtexの高収縮ポリ塩化ビニル繊維(帝人テクノプロダクツ製「テビロン」)を7本合糸し、S方向に300T/mの撚りを施し1540dtexの高収縮繊維を得た。得られた高収縮繊維の沸水収縮率は39%であった。次にこの高収縮繊維を単環縫いで目付け400g/mのデニム生地に縫い付けた。A(布帛の目付)/B(熱収縮糸の繊度)=0.26であった。以下実施例1と同様に行い、得られた布帛の凹凸感の評価、縫い付け高収縮糸の除去性、布帛の外観品位を評価した。凹凸感もほぼ良好で、収縮糸も抜けやすく、又糸を抜いた跡の品位も良好であった。
【0022】
[比較例1]
220dtexの高収縮ポリ塩化ビニル繊維(帝人テクノプロダクツ製「テビロン」)を8本合糸し、S方向に300T/mの撚りを施し1760dtexの高収縮繊維を得た。得られた高収縮繊維の沸水収縮率は39%であった。次にこの高収縮繊維を単環縫いで目付け350g/mのデニム生地に縫い付けた。A(布帛の目付)/B(熱収縮糸の繊度)=0.20であった。以下実施例1と同様に行い、得られた布帛の凹凸感の評価、縫い付け高収縮糸の除去性、布帛の外観品位を評価した。高収縮で凹凸感は非常に良いものであったが、糸を抜き取る時に縫い跡が損傷し、糸跡が拡大し、外観品位が良くないものであった。
【0023】
[比較例2]
220dtexの高収縮ポリ塩化ビニル繊維(帝人テクノプロダクツ製「テビロン」)を2本合糸し、S方向に300T/mの撚りを施し440dtexの高収縮繊維を得た。得られた高収縮繊維の沸水収縮率は39%であった。次にこの高収縮繊維を単環縫いで目付け300g/mのデニム生地に縫い付けた。A(布帛の目付)/B(熱収縮糸の繊度)=0.68であった。以下実施例1と同様に行い、得られた布帛の凹凸感の評価、縫い付け高収縮糸の除去性、布帛の外観品位を評価した。高収縮糸ではあるが繊度が細く収縮力が弱く、十分な凹凸感が得られなかった。
【0024】
[比較例3]
220dtexの高収縮ポリ塩化ビニル繊維(帝人テクノプロダクツ製「テビロン」)を5本合糸し、S方向に300T/mの撚りを施し1100dtexの高収縮糸を得た。得られた高収縮糸の沸水収縮率は39%であった。次にこの高収縮糸を本縫いで目付け400g/mのデニム生地に縫い付けた。A(布帛の目付)/B(熱収縮糸の繊度)=0.36であった。以下実施例1と同様に行い、得られた布帛の凹凸感の評価、縫い付け高収縮糸の除去性、布帛の外観品位を評価した。本縫いであるため収縮糸の除去が難しく。糸が十分に除去できないため外観品位の良くないものであった。
【0025】
[比較例4]
280dtexのポリエチレンテレフタレート繊維(帝人ファイバー製「テトロン」)を2本合糸し、S方向に300T/mの撚りを施し560dtexの繊維を得た。得られた繊維の沸水収縮率は20%、熱応力のピーク温度は200℃、最大熱収縮応力は0.26cN/dtexであった。次にこの繊維を単環縫いで目付け200g/mのデニム生地に縫い付けた。A(布帛の目付)/B(熱収縮糸の繊度)=0.36であった。以下実施例1と同様に行い、得られた布帛の凹凸感の評価、縫い付け高収縮糸の除去性、布帛の外観品位を評価した。収縮率が低いため十分な凹凸感が得られなかった。
【0026】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の方法により、外観品位の良い、優れた凹凸模様を有する布帛や衣服を得ることが出来るばかりでなく、様々な意匠、模様に対応することが可能であるので、ファッションの多様化に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の単環縫いにおける縫い糸の繋がり状態を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱して収縮する性質を有する収縮糸(以下、熱収縮糸と略称)で布帛に縫製し、加熱して熱収縮糸を収縮させて布帛に凹凸模様を形成する方法において、a)該熱収縮糸の沸騰水での収縮率が30%以上であること、b)布帛の目付(A)(g/m)と熱収縮糸の繊度(B)(dtex)の関係が、0.25≦A/B≦0.55を満足するよう選択すること、c)縫製する方法が、単環縫いであること、d)収縮後熱収縮糸を除去することを特徴とする凹凸模様を有する布帛の製造方法。
【請求項2】
熱収縮糸が、塩化ビニル繊維および/またはポリエステル繊維からなる熱収縮糸である請求項1記載の凹凸模様を有する布帛の製造方法。
【請求項3】
熱収縮糸の繊度が、1600dtex以下である請求項1、2いずれか一項記載の凹凸模様を有する布帛の製造方法。
【請求項4】
布帛が染色後のものである請求項1〜3いずれか一項記載の凹凸模様を有する布帛の製造方法。
【請求項5】
熱収縮後に布帛の表面を擦過及び/又は漂白する処理を施した後、熱収縮糸を除去することを特徴とする請求項4記載の濃淡及び凹凸模様を有する布帛の製造方法。
【請求項6】
布帛が縫製された衣服であることを特徴とする請求項1〜5いずれか一項記載の凹凸模様を有する衣服の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−138345(P2007−138345A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−335402(P2005−335402)
【出願日】平成17年11月21日(2005.11.21)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】