凹凸模様付き異形断面条およびその製造方法
【課題】軽量化と強度確保が実現できる両端部にフランジを有し、好ましくは板幅方向で段差形状となっている低コストの異形断面条とその製造方法を提供する。
【解決手段】両端部にフランジを有する異形断面条の外表面および/又は内表面の全体あるいは部分領域に凹凸形状を付与する。凹凸形状を成形および付与する方法としては、所定の断面形状に応じたプロフィールを持つロールと表面に凹凸模様を有したロールを四方ロール圧延機に配置して、圧延によって実施する。
【解決手段】両端部にフランジを有する異形断面条の外表面および/又は内表面の全体あるいは部分領域に凹凸形状を付与する。凹凸形状を成形および付与する方法としては、所定の断面形状に応じたプロフィールを持つロールと表面に凹凸模様を有したロールを四方ロール圧延機に配置して、圧延によって実施する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板厚を薄肉化しても所定の強度を有する両端にフランジを形成して板幅方向で段差形状となっている異形断面条とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
両端にフランジを有し板幅方向で段差形状となっている異形断面条は、例えば自動車などの輸送機器や住宅のスライドドアのレール等に広く使用されている。
このような異形断面条は、表面に所望形状の溝部や凸条部を設けた溝付きロールや凸条付きロールによる圧延やロールフォーミングで成形されている。前記のような圧延やロールフォーミングで所望形状に成形した異形断面条は、所定の長さにスリットされ、曲げ加工等の所定の加工を行った後、溶接やボルト等によりスライドドアのレールとして架台に固定されている。
【0003】
上記で示したスライドドアのレールのうち輸送機器分野、特に自動車分野において、近年の地球温暖化対策に伴う燃費向上の観点から軽量化することが望まれている。軽量化の対応としては異形断面条の板厚を減らすことが挙げられるが、減肉化だけでは強度が低下するため、現状の部品の強度以上とすることが要件として加えられている。
【0004】
このように部品の軽量化と強度確保を実現する方法としては、強度を必要とする部位に高強度材を用い、その他の部位には比較的低い強度の材料を用いるように材料種類や板厚を各々変更して溶接によって接合して素材とする、いわゆるテーラードブランク法が一般的に適用されている。
また、特許文献1には圧延によって強度アップする方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−234325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、テーラードブランク法を用いると、溶接工程が増加してコストアップを招く問題がある。
また、特許文献1の提案は、電解銅箔に対して凹凸模様の加工を行い、その後にフラットロールによってそのエンボスを潰して加工硬化させることにより強度アップを図る方法である。この方法を用いると、溶接などの工程増加は招かないものの、凹凸模様に加工した部分を圧延で潰しているので凹凸模様の段差が残ってしまい、架台への設置や他の部品の接合が困難になるという問題が発生する。
【0007】
また、溝付きロールによって部分的直線状で圧延して加工硬化させた素材を異形断面条へ圧延やロールフォーミングすることも考えられるが、部分的に薄い素材となるため、異形断面条に成形する際にその部分に応力集中して割れや座屈が生じやすくなる問題が発生する。
さらに、異形断面条に成形した後に圧延によって必要部分を加工硬化する場合においては、圧延時の圧延方向への変形状態が部分的に異なるため座屈が生じやすくなる。
【0008】
本発明は、このような問題点を解消するために案出されたものであり、軽量化と強度確保が実現できる両端にフランジを有して板幅方向で段差形状となっている低コストな異形断面条とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の凹凸模様付き異形断面条は、その目的を達成するため、両端部にフランジを有する異形断面条において、前記異形断面条の外表面および/又は内表面に凹凸形状を付与したことを特徴としている。また、凹凸形状の付与は、異形断面条の外表面および/又は内表面の部分領域におこなってもよい。さらに、異形断面条の断面形状はM字型とすることが好ましい。
【0010】
製造方法としては、素材を所定の断面形状に応じたプロフィールとした上下一対の水平ロールと平滑な左右一対の垂直ロールとを隣接配置した四方ロール圧延機を通して、両端部にフランジを有する断面形状に成形した後に、四方ロール圧延機を構成する上下一対の水平ロールとして、その上側および/又は下側のロールに表面全体又は部分的に表面を凹凸形状としたものを使用して凹凸模様を付与することを特徴としている。また、凹凸模様を付与するロールとして、四方ロール圧延機を構成する左右一対の垂直ロールとして、その右側および/又は左側のロールに表面全体又は部分的に表面を凹凸形状としたものを使用してもよい。
なお、凹凸模様を付与するために、四方ロール圧延機を構成する上下一対の水平ロールと左右一対の垂直ロールとして、その上側および/又は下側のロールとその右側および/又は左側のロールに表面全体又は部分的に表面を凹凸形状としたものを使用できることは云うまでもない。
【発明の効果】
【0011】
本発明の両端にフランジを有し、好ましくは板幅方法で段差形状となっている凹凸模様付き異形断面条では、外表面および/又は内表面に凹凸模様を圧延によって付与しているため、その凹凸模様を付与した部分は加工硬化しており、それによって前記異形断面条の強度を向上させることができる。また、部分的に凹凸模様を付与することも可能であるため、強度として必要な領域のみを加工硬化することができる。これらの効果は、板厚を薄肉化しても発揮できることから、異形断面条の軽量化と強度確保を実現することができる。
また、製造方法としては、両端のフランジと好ましくは板幅方向の段差形状を成形した後に四方ロール圧延機を用いて凹凸模様を付与しているので、割れや座屈を発生させることなく、均一な寸法の凹凸模様を成形でき、安定した加工形状と加工硬化特性を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】両端にフランジを有し板幅方向で段差形状となっている異形断面条で、(a)がM字型、(b)がコ字型を示す図
【図2】両端にフランジを有し板幅方向で段差形状となっている異形断面条をレールと使用した状態を示す図。
【図3】凹凸模様付異形断面条の製造する設備の概略図。
【図4】第一の予備成形の状況を説明する図。
【図5】第二の予備成形の状況を説明する図。
【図6】M字型異形断面条への圧延を示す図。
【図7】本発明の凹凸模様付き異形断面条の一例を示す図。
【図8】本発明の凹凸模様付き異形断面条の凹凸パターンの一例を示す図。
【図9】本発明の異形断面条への凹凸模様の付与を示す図。
【図10】本実施例の凹凸模様付き異形断面条のフランジ強度評価を示した図。
【図11】本実施例の凹凸模様付き異形断面条の3点曲げでの塑性強度評価を示した図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明者等は、両端にフランジを有し板幅方向で段差形状となっている異形断面条の軽量化と強度確保を図るため、種々検討を重ねた。その結果、凹凸模様を外表面および/又は内表面に圧延で付与することで加工硬化を与え、これによって強度確保できることを見出して本発明を完成させた。
以下にその詳細を説明する。
【0014】
両端にフランジを有し板幅方向で段差形状となっている異形断面条1は、具体的には、図1に示すように断面形状がM字型やコ字型となっており、これらは図2に示すような状態でレール2として使用している。この場合では、異形断面条1の内側に移動する車輪3が設置されて随時動くような機構であり、車輪は異形断面条のフランジ4部分でガイドされるとともに、フランジ4の端面5に車輪3を設置して動かすような使い方も行われている。そのため、そのフランジ4には、車輪3の脱輪を防ぐ時にフランジ4を倒すような力が作用し、フランジ4の端面5に車輪3を設置した場合には車輪3の重量がフランジ4部分に作用してくる。つまり、異形断面条1で強度が必要な部分は、フランジ4ということになる。
【0015】
しかし、軽量化を図るためには、異形断面条の板厚を減らす必要があるが、その分強度が低下するため、それを補うような処理が必要である。その処理の方法としては、加工硬化させて変形抵抗を向上させる方法が有効であり、これによって薄肉化しても強度を確保することが可能となる。
加工硬化させる方法としては、両端にフランジを有し板幅方向で段差形状となっている異形断面条を成形した後に、圧延で異形断面条の表面を凹凸化させることが有効である。この圧延によれば、部分的な圧下であるため圧延時の座屈を発生させることなく、品質の良好な形状を得ることができる。凹凸模様を圧延する領域としては、異形断面条の外表面全体や内表面全体、あるいは内外表面全体でも良いし、前記したフランジとその周辺の部分的な領域としても良く、製品となるレールの仕様に合わせて適宜選択することが可能である。
【0016】
製造方法としては、製造コストを考慮すると一貫製造の工程とすることが最適である。つまり、凹凸模様の付与を圧延によって行っているため、両端のフランジと板幅方向の段差形状および凹凸模様の付与を連続して行えば、同一工程で製造することが可能となり、これによって製造コストを抑えることができる。
また、両端にフランジを有し板幅方向で段差となっている形状、具体的には断面状態でM字型やコ字型であるが、この形状を圧延で成形する場合には素材幅方向にスラスト力が作用する。しかし、上下一対の水平ロールと平滑な左右一対の垂直ロールとを隣接配置した四方ロール圧延機を用いれば、スラスト力による素材の移動を抑えることができ、安定した圧延が可能となる。
この方法における圧延ロールの構成としては、図3に示すように上流側よりサイドロールでの第一の予備成形、上下二方ロールからなる第二の予備成形と1段目の四方ロール圧延機に両端のフランジと段差形状に応じたプロフィールを持つ上下一対の水平ロールを配置し、2段目の四方ロール圧延機には所定の凹凸模様に対応させたロールを配置する。
以下、これら一連の成形方法について、M字型の異形断面条を例として説明する。
【0017】
M字型異形断面条は、矩形断面形状の素材板を直接四方ロール圧延機で成形すると、ロール間隙へ材料流入が不足し、両端のフランジ成形が行えない。そのため、四方ロール圧延機による概略M字型へ成形する前に素材板に予め板幅方向に湾曲させる必要がある。
湾曲させる手段として2段階の予備成形を採用する。
先ず、図4に示すように平坦な素材板に略V字溝を有するサイドロールにより板幅方向の圧下によりC反りを付与する第一の予備成形を行う。
【0018】
次に両端に凸部を設けた上ロールと前記凸部間の間隔よりも狭い幅の上部平坦部を有する凸部を中央に設けた下ロールにより、前記C反りを付与された板の中央をC反りとは逆に上方に湾曲させる第二の予備成形を行う。
具体的には、図5に示すように両端に凸部を設けた上ロールで素材板の両端を拘束しつつ、中央部に上部平坦部を有する凸部を設けた下ロールにより、前記C反りを付与された板の中央を上方に湾曲させ、いわゆる両端側にのみ湾曲部を形成された断面W字状となるように成形する。
【0019】
第二の予備成形が終了した後、断面W字型の素材板を図6に示す四方ロール圧延機によりM字型へと成形する。
この際、四方ロール圧延機を構成する上側の水平ロールの端部と同じく左右の垂直ロールとの間にフランジ形成用の空隙を設けておき、この空隙部に前記素材板の両端に付与された湾曲部が入り込み易くなり、フランジが容易に成形できる。また、上下ロールのプロフィールに沿った板幅方向の段差形状を有するいわゆるM字型形状の異形断面条を得ることができる。
【0020】
M字型へ成形された異形断面条は、図3に示す2段目の四方ロール圧延機にて、所定の凹凸模様を付与される。凹凸模様の付与には、四方ロール圧延機の上下一対の水平ロールとした所要部分に凹凸パターンを形成したロールを配置し、圧延時に板幅方向で圧延率を均一とするように設定し、均一な凹凸模様を付与する。
なお、凹凸模様は板幅方向の表裏面およびフランジ側面の全体に付与しても良いし、必要とする箇所に部分付与しても良い。
【実施例】
【0021】
材質がSCM415で板幅22mmの矩形断面である素材条鋼を用いて、図7に示すM字型異形断面条6を成形した。この異形断面条6に付与される凹凸パターンとその配置は図8に示すようにフランジ4に直径0.5mm、深さ0.1mmの円形で円形間のピッチが1mmの千鳥配置である凹凸模様を付与した。成形と付与の方法は、図9に示すような装置上流より四方ロール圧延スタンド2基より構成された装置により行い、装置上流の四方ロール圧延スタンド7でM字型に成形し、その後方の四方ロール圧延スタンド8の凸形状を表面に持つ左右一対の垂直ロールで凹凸模様を下面側に付与した。素材条鋼の板厚は、凹凸模様を付与しない1.0mmをベースとして、凹凸模様を付与する場合は図7の板厚tを0.95〜0.7mmまで0.05mmピッチで変更した。
【0022】
試作した凹凸模様を付与したM型異形断面条の品質上の強度評価を断面硬さで比較した。評価方法はフランジ4の強度の評価を直接測定することは困難であるため、凹凸模様を付与した領域は付与により圧下した部分(異形断面条の凹部)の断面硬さと板厚の積と、圧下していない部分(異形断面条の凸部)の断面硬さと板厚の積とを各々三箇所測定し、それら測定値の平均値で比較した。
素材条鋼であるSCM415の硬さは、130HVである。
各々の板厚の素材条鋼で成形した結果、何れの場合も図7に示したM字型異形断面条6に成形することができた。また、フランジ4の強度評価結果は、図10に示すように素材板厚が0.9mmまでは、凹凸模様を付与しないベースである板厚1mmと同じ値を示した。つまり、10%までの軽量化と強度確保が可能であることが判明した。
【0023】
また、前記の試作した凹凸模様が付与されたM型異形断面条の単体での塑性強度の比較を図11に示す3点曲げによる塑性強度を比較した。3点曲げによる塑性強度の比較では、素材板厚1.0mmをベースとすると約5%の強度向上が図れ、素材板厚が薄いつまり、凹部分の圧延率が高くなる条件であると更なる強度向上が可能であることが判明した。
【符号の説明】
【0024】
1:異形断面条
2:レール
3:車輪
4:フランジ
5:端面
6、7:予備成形スタンド
8、9:四方ロール圧延スタンド
【技術分野】
【0001】
本発明は、板厚を薄肉化しても所定の強度を有する両端にフランジを形成して板幅方向で段差形状となっている異形断面条とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
両端にフランジを有し板幅方向で段差形状となっている異形断面条は、例えば自動車などの輸送機器や住宅のスライドドアのレール等に広く使用されている。
このような異形断面条は、表面に所望形状の溝部や凸条部を設けた溝付きロールや凸条付きロールによる圧延やロールフォーミングで成形されている。前記のような圧延やロールフォーミングで所望形状に成形した異形断面条は、所定の長さにスリットされ、曲げ加工等の所定の加工を行った後、溶接やボルト等によりスライドドアのレールとして架台に固定されている。
【0003】
上記で示したスライドドアのレールのうち輸送機器分野、特に自動車分野において、近年の地球温暖化対策に伴う燃費向上の観点から軽量化することが望まれている。軽量化の対応としては異形断面条の板厚を減らすことが挙げられるが、減肉化だけでは強度が低下するため、現状の部品の強度以上とすることが要件として加えられている。
【0004】
このように部品の軽量化と強度確保を実現する方法としては、強度を必要とする部位に高強度材を用い、その他の部位には比較的低い強度の材料を用いるように材料種類や板厚を各々変更して溶接によって接合して素材とする、いわゆるテーラードブランク法が一般的に適用されている。
また、特許文献1には圧延によって強度アップする方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−234325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、テーラードブランク法を用いると、溶接工程が増加してコストアップを招く問題がある。
また、特許文献1の提案は、電解銅箔に対して凹凸模様の加工を行い、その後にフラットロールによってそのエンボスを潰して加工硬化させることにより強度アップを図る方法である。この方法を用いると、溶接などの工程増加は招かないものの、凹凸模様に加工した部分を圧延で潰しているので凹凸模様の段差が残ってしまい、架台への設置や他の部品の接合が困難になるという問題が発生する。
【0007】
また、溝付きロールによって部分的直線状で圧延して加工硬化させた素材を異形断面条へ圧延やロールフォーミングすることも考えられるが、部分的に薄い素材となるため、異形断面条に成形する際にその部分に応力集中して割れや座屈が生じやすくなる問題が発生する。
さらに、異形断面条に成形した後に圧延によって必要部分を加工硬化する場合においては、圧延時の圧延方向への変形状態が部分的に異なるため座屈が生じやすくなる。
【0008】
本発明は、このような問題点を解消するために案出されたものであり、軽量化と強度確保が実現できる両端にフランジを有して板幅方向で段差形状となっている低コストな異形断面条とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の凹凸模様付き異形断面条は、その目的を達成するため、両端部にフランジを有する異形断面条において、前記異形断面条の外表面および/又は内表面に凹凸形状を付与したことを特徴としている。また、凹凸形状の付与は、異形断面条の外表面および/又は内表面の部分領域におこなってもよい。さらに、異形断面条の断面形状はM字型とすることが好ましい。
【0010】
製造方法としては、素材を所定の断面形状に応じたプロフィールとした上下一対の水平ロールと平滑な左右一対の垂直ロールとを隣接配置した四方ロール圧延機を通して、両端部にフランジを有する断面形状に成形した後に、四方ロール圧延機を構成する上下一対の水平ロールとして、その上側および/又は下側のロールに表面全体又は部分的に表面を凹凸形状としたものを使用して凹凸模様を付与することを特徴としている。また、凹凸模様を付与するロールとして、四方ロール圧延機を構成する左右一対の垂直ロールとして、その右側および/又は左側のロールに表面全体又は部分的に表面を凹凸形状としたものを使用してもよい。
なお、凹凸模様を付与するために、四方ロール圧延機を構成する上下一対の水平ロールと左右一対の垂直ロールとして、その上側および/又は下側のロールとその右側および/又は左側のロールに表面全体又は部分的に表面を凹凸形状としたものを使用できることは云うまでもない。
【発明の効果】
【0011】
本発明の両端にフランジを有し、好ましくは板幅方法で段差形状となっている凹凸模様付き異形断面条では、外表面および/又は内表面に凹凸模様を圧延によって付与しているため、その凹凸模様を付与した部分は加工硬化しており、それによって前記異形断面条の強度を向上させることができる。また、部分的に凹凸模様を付与することも可能であるため、強度として必要な領域のみを加工硬化することができる。これらの効果は、板厚を薄肉化しても発揮できることから、異形断面条の軽量化と強度確保を実現することができる。
また、製造方法としては、両端のフランジと好ましくは板幅方向の段差形状を成形した後に四方ロール圧延機を用いて凹凸模様を付与しているので、割れや座屈を発生させることなく、均一な寸法の凹凸模様を成形でき、安定した加工形状と加工硬化特性を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】両端にフランジを有し板幅方向で段差形状となっている異形断面条で、(a)がM字型、(b)がコ字型を示す図
【図2】両端にフランジを有し板幅方向で段差形状となっている異形断面条をレールと使用した状態を示す図。
【図3】凹凸模様付異形断面条の製造する設備の概略図。
【図4】第一の予備成形の状況を説明する図。
【図5】第二の予備成形の状況を説明する図。
【図6】M字型異形断面条への圧延を示す図。
【図7】本発明の凹凸模様付き異形断面条の一例を示す図。
【図8】本発明の凹凸模様付き異形断面条の凹凸パターンの一例を示す図。
【図9】本発明の異形断面条への凹凸模様の付与を示す図。
【図10】本実施例の凹凸模様付き異形断面条のフランジ強度評価を示した図。
【図11】本実施例の凹凸模様付き異形断面条の3点曲げでの塑性強度評価を示した図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明者等は、両端にフランジを有し板幅方向で段差形状となっている異形断面条の軽量化と強度確保を図るため、種々検討を重ねた。その結果、凹凸模様を外表面および/又は内表面に圧延で付与することで加工硬化を与え、これによって強度確保できることを見出して本発明を完成させた。
以下にその詳細を説明する。
【0014】
両端にフランジを有し板幅方向で段差形状となっている異形断面条1は、具体的には、図1に示すように断面形状がM字型やコ字型となっており、これらは図2に示すような状態でレール2として使用している。この場合では、異形断面条1の内側に移動する車輪3が設置されて随時動くような機構であり、車輪は異形断面条のフランジ4部分でガイドされるとともに、フランジ4の端面5に車輪3を設置して動かすような使い方も行われている。そのため、そのフランジ4には、車輪3の脱輪を防ぐ時にフランジ4を倒すような力が作用し、フランジ4の端面5に車輪3を設置した場合には車輪3の重量がフランジ4部分に作用してくる。つまり、異形断面条1で強度が必要な部分は、フランジ4ということになる。
【0015】
しかし、軽量化を図るためには、異形断面条の板厚を減らす必要があるが、その分強度が低下するため、それを補うような処理が必要である。その処理の方法としては、加工硬化させて変形抵抗を向上させる方法が有効であり、これによって薄肉化しても強度を確保することが可能となる。
加工硬化させる方法としては、両端にフランジを有し板幅方向で段差形状となっている異形断面条を成形した後に、圧延で異形断面条の表面を凹凸化させることが有効である。この圧延によれば、部分的な圧下であるため圧延時の座屈を発生させることなく、品質の良好な形状を得ることができる。凹凸模様を圧延する領域としては、異形断面条の外表面全体や内表面全体、あるいは内外表面全体でも良いし、前記したフランジとその周辺の部分的な領域としても良く、製品となるレールの仕様に合わせて適宜選択することが可能である。
【0016】
製造方法としては、製造コストを考慮すると一貫製造の工程とすることが最適である。つまり、凹凸模様の付与を圧延によって行っているため、両端のフランジと板幅方向の段差形状および凹凸模様の付与を連続して行えば、同一工程で製造することが可能となり、これによって製造コストを抑えることができる。
また、両端にフランジを有し板幅方向で段差となっている形状、具体的には断面状態でM字型やコ字型であるが、この形状を圧延で成形する場合には素材幅方向にスラスト力が作用する。しかし、上下一対の水平ロールと平滑な左右一対の垂直ロールとを隣接配置した四方ロール圧延機を用いれば、スラスト力による素材の移動を抑えることができ、安定した圧延が可能となる。
この方法における圧延ロールの構成としては、図3に示すように上流側よりサイドロールでの第一の予備成形、上下二方ロールからなる第二の予備成形と1段目の四方ロール圧延機に両端のフランジと段差形状に応じたプロフィールを持つ上下一対の水平ロールを配置し、2段目の四方ロール圧延機には所定の凹凸模様に対応させたロールを配置する。
以下、これら一連の成形方法について、M字型の異形断面条を例として説明する。
【0017】
M字型異形断面条は、矩形断面形状の素材板を直接四方ロール圧延機で成形すると、ロール間隙へ材料流入が不足し、両端のフランジ成形が行えない。そのため、四方ロール圧延機による概略M字型へ成形する前に素材板に予め板幅方向に湾曲させる必要がある。
湾曲させる手段として2段階の予備成形を採用する。
先ず、図4に示すように平坦な素材板に略V字溝を有するサイドロールにより板幅方向の圧下によりC反りを付与する第一の予備成形を行う。
【0018】
次に両端に凸部を設けた上ロールと前記凸部間の間隔よりも狭い幅の上部平坦部を有する凸部を中央に設けた下ロールにより、前記C反りを付与された板の中央をC反りとは逆に上方に湾曲させる第二の予備成形を行う。
具体的には、図5に示すように両端に凸部を設けた上ロールで素材板の両端を拘束しつつ、中央部に上部平坦部を有する凸部を設けた下ロールにより、前記C反りを付与された板の中央を上方に湾曲させ、いわゆる両端側にのみ湾曲部を形成された断面W字状となるように成形する。
【0019】
第二の予備成形が終了した後、断面W字型の素材板を図6に示す四方ロール圧延機によりM字型へと成形する。
この際、四方ロール圧延機を構成する上側の水平ロールの端部と同じく左右の垂直ロールとの間にフランジ形成用の空隙を設けておき、この空隙部に前記素材板の両端に付与された湾曲部が入り込み易くなり、フランジが容易に成形できる。また、上下ロールのプロフィールに沿った板幅方向の段差形状を有するいわゆるM字型形状の異形断面条を得ることができる。
【0020】
M字型へ成形された異形断面条は、図3に示す2段目の四方ロール圧延機にて、所定の凹凸模様を付与される。凹凸模様の付与には、四方ロール圧延機の上下一対の水平ロールとした所要部分に凹凸パターンを形成したロールを配置し、圧延時に板幅方向で圧延率を均一とするように設定し、均一な凹凸模様を付与する。
なお、凹凸模様は板幅方向の表裏面およびフランジ側面の全体に付与しても良いし、必要とする箇所に部分付与しても良い。
【実施例】
【0021】
材質がSCM415で板幅22mmの矩形断面である素材条鋼を用いて、図7に示すM字型異形断面条6を成形した。この異形断面条6に付与される凹凸パターンとその配置は図8に示すようにフランジ4に直径0.5mm、深さ0.1mmの円形で円形間のピッチが1mmの千鳥配置である凹凸模様を付与した。成形と付与の方法は、図9に示すような装置上流より四方ロール圧延スタンド2基より構成された装置により行い、装置上流の四方ロール圧延スタンド7でM字型に成形し、その後方の四方ロール圧延スタンド8の凸形状を表面に持つ左右一対の垂直ロールで凹凸模様を下面側に付与した。素材条鋼の板厚は、凹凸模様を付与しない1.0mmをベースとして、凹凸模様を付与する場合は図7の板厚tを0.95〜0.7mmまで0.05mmピッチで変更した。
【0022】
試作した凹凸模様を付与したM型異形断面条の品質上の強度評価を断面硬さで比較した。評価方法はフランジ4の強度の評価を直接測定することは困難であるため、凹凸模様を付与した領域は付与により圧下した部分(異形断面条の凹部)の断面硬さと板厚の積と、圧下していない部分(異形断面条の凸部)の断面硬さと板厚の積とを各々三箇所測定し、それら測定値の平均値で比較した。
素材条鋼であるSCM415の硬さは、130HVである。
各々の板厚の素材条鋼で成形した結果、何れの場合も図7に示したM字型異形断面条6に成形することができた。また、フランジ4の強度評価結果は、図10に示すように素材板厚が0.9mmまでは、凹凸模様を付与しないベースである板厚1mmと同じ値を示した。つまり、10%までの軽量化と強度確保が可能であることが判明した。
【0023】
また、前記の試作した凹凸模様が付与されたM型異形断面条の単体での塑性強度の比較を図11に示す3点曲げによる塑性強度を比較した。3点曲げによる塑性強度の比較では、素材板厚1.0mmをベースとすると約5%の強度向上が図れ、素材板厚が薄いつまり、凹部分の圧延率が高くなる条件であると更なる強度向上が可能であることが判明した。
【符号の説明】
【0024】
1:異形断面条
2:レール
3:車輪
4:フランジ
5:端面
6、7:予備成形スタンド
8、9:四方ロール圧延スタンド
【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端部にフランジを有する異形断面条において、前記異形断面条の外表面および/又は内表面に凹凸形状を付与したことを特徴とする凹凸模様付き異形断面条。
【請求項2】
前記異形断面条の外表面および/又は内表面の部分領域に凹凸形状を付与したことを特徴とする請求項1に記載の凹凸模様付き異形断面条。
【請求項3】
前記異形断面条の断面形状がM字型である請求項1又は2に記載の凹凸模様付き異形断面条。
【請求項4】
素材を所定の断面形状に応じたプロフィールとした上下一対の水平ロールと平滑な左右一対の垂直ロールとを隣接配置した四方ロール圧延機を通して、両端部にフランジを有する断面形状に成形した後に、四方ロール圧延機を構成する上下一対の水平ロールとして、その上側および/又は下側のロールに表面全体又は部分的に表面を凹凸形状としたものを使用して凹凸模様を付与することを特徴とする凹凸模様付き異形断面条の製造方法。
【請求項5】
素材を所定の断面形状に応じたプロフィールとした上下一対の水平ロールと平滑な左右一対の垂直ロールとを隣接配置した四方ロール圧延機を通して、両端部にフランジを有する断面形状に成形した後に、四方ロール圧延機を構成する左右一対の垂直ロールとして、その右側および/又は左側のロールに表面全体又は部分的に表面を凹凸形状としたものを使用して凹凸模様を付与することを特徴とする凹凸模様付き異形断面条の製造方法。
【請求項1】
両端部にフランジを有する異形断面条において、前記異形断面条の外表面および/又は内表面に凹凸形状を付与したことを特徴とする凹凸模様付き異形断面条。
【請求項2】
前記異形断面条の外表面および/又は内表面の部分領域に凹凸形状を付与したことを特徴とする請求項1に記載の凹凸模様付き異形断面条。
【請求項3】
前記異形断面条の断面形状がM字型である請求項1又は2に記載の凹凸模様付き異形断面条。
【請求項4】
素材を所定の断面形状に応じたプロフィールとした上下一対の水平ロールと平滑な左右一対の垂直ロールとを隣接配置した四方ロール圧延機を通して、両端部にフランジを有する断面形状に成形した後に、四方ロール圧延機を構成する上下一対の水平ロールとして、その上側および/又は下側のロールに表面全体又は部分的に表面を凹凸形状としたものを使用して凹凸模様を付与することを特徴とする凹凸模様付き異形断面条の製造方法。
【請求項5】
素材を所定の断面形状に応じたプロフィールとした上下一対の水平ロールと平滑な左右一対の垂直ロールとを隣接配置した四方ロール圧延機を通して、両端部にフランジを有する断面形状に成形した後に、四方ロール圧延機を構成する左右一対の垂直ロールとして、その右側および/又は左側のロールに表面全体又は部分的に表面を凹凸形状としたものを使用して凹凸模様を付与することを特徴とする凹凸模様付き異形断面条の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−189388(P2011−189388A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58212(P2010−58212)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】
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