説明

出力シミュレート付フィールド機器

【課題】フィールド機器固有の特殊な出力状態の中で、予め想定される出力トレンドを記憶装置に保存しておき、出力シミュレート機能を実行した場合に、その保存されている出力トレンドを模擬的に出力させることにより、上位システム側での対応を事前に検討可能とする。
【解決手段】シミュレーション部に格納された異常値の外に予め想定される出力トレンドを保存する記憶装置と乱数発生装置を備え、シミュレーション部に格納された異常値と前記記憶装置に保存された出力トレンドと前記乱数発生装置から生成される模擬データを選択して診断処理部に出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常診断処理を行うフィールド機器に関し、シミュレーションによって異常診断結果に基づく模擬値を生成し、その模擬値を使用して異常診断を行い、その模擬値をユーザーに知らせることによって、適切な異常診断処理を支援する出力シミュレート付フィールド機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フィールド機器は、検出器により検出した物理量に基づきプロセス値などを演算するほか、検出器の故障などを診断する異常診断処理を行う。プラント設備において、コンピュータなどのホスト装置はフィールド機器に接続され、プロセス制御を行う。また、ホスト装置は、プロセス制御が行われていないときに(オフライン状態)、テストとして、フィールド機器から検出器故障の異常診断結果を受け取ることができるかどうかを確認することがある。
【0003】
このとき、実際に検出器を故障させることなく、フィールド機器は、シミュレーションにより検出器故障を示す模擬異常診断結果を生成し、ホスト装置に出力することによって、ホスト装置は前記テストを行うことができる。このような出力シミュレート付フィールド機器の従来例について、図3を用いて説明する。
【0004】
図3において、フィールド機器20は検出器1、入力回路2、CPU3、出力回路15を含んで構成され、CPU3は入力処理部4、シミュレートスイッチ5、信号処理部6、診断処理部7、出力処理部8、シミュレート処理部9などから構成されている。12はフィールド機器20とホスト装置10を結ぶ伝送線路、11は伝送線路12に接続されて各種の設定を行う設定器である。
【0005】
次に作用について説明する。検出器1はプロセス状態の信号を入力回路2に送信する。入力回路2では検出器1から送信されたプロセスデータ(アナログ信号)をデジタル信号に変換する。入力処理部4は入力回路2から送信されたデジタルデータを取得する。
【0006】
取得したプロセスデータはシミュレートスイッチ5がS1に接続されているときに信号処理部6に送信されてプロセス値が演算される。
シミュレート処理部9は模擬データの送信及び取得を行うもので、模擬データ送信時にはホスト装置10からの指令によりスイッチ5がS2に接続されてシミュレートが実行され、模擬データがデジタルデータとして信号処理部6に送信される。
また、シミュレート処理部9はプロセスデータ取得時には診断処理部7で診断した機器異常状態のデジタルデータを模擬データとして取得する。
【0007】
信号処理部6ではシミュレートスイッチ5の接続状態に応じた信号処理の演算を行う。即ち、シミュレートスイッチがS1に接続されているときは入力処理部4から送信されたプロセスデータが診断処理部7に送信される。診断処理部7では検出器1が正常に機能しているか否かの自己診断を行う。
【0008】
そして、検出器1が正常(出力が閾値内にある)に機能している場合はそのデータを出力処理部8に送信し、出力処理部8はCPU3の外部に配置された出力回路15、伝送線路12を介してホスト装置10に出力する。検出器1に異常(出力が閾値外にある)が生じている場合はそのデータを出力処理部8を介して出力回路15、ホスト装置10に送信するとともに、そのデータをシミュレート処理部9に送信する。シミュレート処理部9はその機器異常状態のADデータを模擬データとして格納する。
【0009】
上述の構成によれば、検出器からの出力が閾値を超えるような想定される機器異常状態に関しての出力シミュレートが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−79240号公報
【特許文献2】特開2008−242615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、各フィールド機器では、シミュレート処理部に格納されていない機器固有の出力状態が発生するケースも考えられる(例えば、電磁流量計における流体ノイズに起因する出力突変、出力揺動等)。このようなケースでは、上位システム側での対処は、何らかの出力異常が発生した後での対応となってしまう。
【0012】
従って本発明は、各フィールド機器固有の特殊な出力状態の中で、予め想定される出力トレンドを記憶装置に保存しておき、出力シミュレート機能を実行した場合に、その保存されている出力トレンドを模擬的に出力させることにより、上位システム側での対応を事前に検討可能とすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の出力シミュレート付フィールド機器の発明は、
検出した物理量に基づき信号処理(演算)を行う信号処理部と、その演算値と閾値を比較して異常診断を行う異常診断処理部と、前記信号処理部を介して前記異常診断処理部に模擬異常信号を出力するシミュレーション部を備えたフィールド機器において、
前記シミュレーション部に格納された異常値の外に予め想定される出力トレンドを保存する記憶装置と乱数発生装置を備え、シミュレーション部に格納された異常値と前記記憶装置に保存された出力トレンドと前記乱数発生装置から生成される模擬データを選択して前記診断処理部に出力することを特徴とする。
【0014】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の出力シミュレート付フィールド機器において、
前記予め想定される出力トレンドは突変ノイズ模擬データ、揺動ノイズ模擬データを含むことを特徴とする。
【0015】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の出力シミュレート付フィールド機器において、
前記乱数発生装置はランダムな模擬データであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の請求項1〜3によれば以下のような効果がある。
1)フィールド機器固有の特殊な出力状態を出力シミュレート機能により模擬的に再現可能となる。
2)多様な出力状態が再現できるため、上位システム側での対応を事前に検討可能となる。
3)再現が困難な出力状態でも記憶装置に保存されるデータを変更することにより再現可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態の一例を示す要部ブロック構成図である。
【図2】突変ノイズと揺動ノイズの一例を示す説明図である。
【図3】従来例を示す要部ブロック構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下本発明を、図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明の実施形態の一例を示す要部ブロック構成図である。
【0019】
図1において、図3と同一要素には同一符号を付している。
従来例と同様、検出器1はプロセス状態の信号を入力回路2に送信する。入力回路2では検出器1から送信されたプロセスデータ(アナログ信号)をデジタル信号に変換する。入力処理部4は入力回路2から送信されたデジタルデータを取得する。
【0020】
取得したプロセスデータはシミュレートスイッチ5がS1に接続されているときに信号処理部6に送信されてプロセス値が演算される。
シミュレート処理部9は模擬データの送信及び取得を行うもので、模擬データ送信時にはホスト装置10からの指令によりスイッチ5がS2に接続されてシミュレートが実行され、模擬データがデジタルデータとして信号処理部6に送信される。
また、シミュレート処理部9はプロセスデータ取得時には診断処理部7で診断した機器異常状態のデジタルデータを模擬データとして取得する。
【0021】
信号処理部6ではシミュレートスイッチ5の接続状態に応じた信号処理の演算を行う。即ち、シミュレートスイッチがS1に接続されているときは入力処理部4から送信されたプロセスデータが診断処理部7に送信される。診断処理部7では検出器1が正常に機能しているか否かの自己診断を行う。
【0022】
そして、検出器1が正常(出力が閾値内にある)に機能している場合はそのデータを出力処理部8に送信し、出力処理部8はCPU3の外部に配置された出力回路15、伝送線路12を介してホスト装置10に出力する。検出器1に異常(出力が閾値外にある)が生じている場合はそのデータを出力処理部8を介して出力回路15、ホスト装置10に送信するとともに、そのデータをシミュレート処理部9に送信する。シミュレート処理部9はその機器異常状態のADデータを模擬データとして格納する。
ここまでは、図3に示す従来例と同様である。
【0023】
本発明では上述のシミュレート処理部9の模擬データ生成機能に、突変ノイズ模擬データ、揺動ノイズ模擬データ、任意保存模擬データが格納された記憶装置13、および乱数発生装置14を追加する。乱数発生装置14は選択された時点でランダムなデータを生成する。
【0024】
図2は記憶装置13に保存された模擬データの一例を示すもので、図(a)は正側に生じた突変ノイズ、図(b)は正負にハンチングした突変ノイズ、図(c)は揺動ノイズを示している。
【0025】
なお、シミュレート処理部9に格納された模擬データ、記憶装置13に格納された模擬データ、乱数発生装置14で生成された模擬データのうち何れの模擬データを選択するかはホスト装置10からの指令により行われる。
【0026】
即ちホスト装置10からの指令によりシミュレート処理部9の中の模擬信号が選択された場合はシミュレートスイッチ5aはスイッチS2に接続され、シミュレート処理部9に格納された模擬信号を信号処理部6に送信する。記憶装置13の中のいずれかの模擬ノイズが選択されたときは、シミュレートスイッチ5aがS2に接続されると共に、さらにシミュレートスイッチ5bがS4に接続される。
【0027】
また、乱数発生装置14の模擬信号が選択されたときは、シミュレートスイッチ5aがS2に接続されると共にシミュレートスイッチ5bがS3に接続される。
上述の構成によれば、フィールド機器固有の特殊な出力状態が出力シミュレート機能により模擬的に再現可能となり、多様な出力状態が再現できるため、上位システム側での対応を事前に検討可能となる。さらに、再現が困難な出力状態でも記憶装置に保存されるデータを変更することにより再現可能となる。
【0028】
なお、上述において、乱数発生装置14からはランダムな模擬データが生成されるため、記憶装置13に格納された揺動ノイズ模擬データとほぼ同等なデータを得ることができる。即ち、フィールド機器20に2つの機能の中でどちらか片方の機能が備わっていれば、同じシミュレートを実現することが可能となる。仮に記憶装置13の揺動ノイズ模擬データを削除した場合は、シミュレート自体の機能を低下させることなく記憶装置13のメモリ容量を小さくすることが可能となる。
【0029】
また、シミュレート処理部9で、信号処理部6に送信する模擬データの振幅を1/10倍、2倍、5倍、10倍などに増幅することも可能である。このような模擬データの出力指令はホスト装置10から行われる。
【0030】
なお、以上の説明は、本発明の説明および例示を目的として特定の好適な実施例を示したに過ぎない。
従って本発明は、上記実施例に限定されることなく、その本質から逸脱しない範囲で更に多くの変更、変形を含むものである。
【符号の説明】
【0031】
1 検出器
2 入力回路
3 CPU
4 入力処理部
5 シミュレートスイッチ
6 信号処理部
7 診断処理部
8 出力処理部
9 シミュレート処理部
10 ホスト装置
11 設定器
12 伝送路線
13 記憶装置
14 乱数発生装置
15 出力回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出した物理量に基づき信号処理(演算)を行う信号処理部と、その演算値と閾値を比較して異常診断を行う異常診断処理部と、前記信号処理部を介して前記異常診断処理部に模擬異常信号を出力するシミュレーション部を備えたフィールド機器において、
前記シミュレーション部に格納された異常値の外に予め想定される出力トレンドを保存する記憶装置と乱数発生装置を備え、前記シミュレーション部に格納された異常値と前記記憶装置に保存された出力トレンドと前記乱数発生装置から生成される模擬データを選択して前記診断処理部に出力することを特徴とする出力シミュレート付フィールド機器。
【請求項2】
前記予め想定される出力トレンドは突変ノイズ模擬データ、揺動ノイズ模擬データを含むことを特徴とする請求項1記載のシミュレート付フィールド機器。
【請求項3】
前記乱数発生装置はランダムな模擬データを生成することを特徴とする請求項1記載のシミュレート付フィールド機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−70286(P2011−70286A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−218973(P2009−218973)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】