説明

刃物

【課題】一つの刃物を、線径が異なる複数種の各被覆線材から各被覆材のみを剥離する作業に用いることができる刃物を提供する。
【解決手段】刃物24の刃部24aを、被覆線材Aの線材Aa外面に被覆された被覆材Abに切り込ませた際に、刃部24aの幅方向中央部に形成した各エッジ24b,24cのいずれか一つを、そのエッジ24b又は24cと対応する線材Aa外面に接する状態に切り込ませるか、線材Aa外面に対して切り込まれない状態に近接して、線材Aaに被覆された被覆材Abに対して略均等に切り込みを入れる。刃物24を、被覆線材Aに沿って長さ方向へ一体的に移動させ、線材Aa端部から不要な被覆材Abを抜き取るようにして剥離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば通電性を有する線材が被覆材で被覆された被覆線材において、被覆材を線材から剥離する際に用いられる刃物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上述の被覆線材を構成する線材から被覆材を剥離する際に用いられる刃物としては、例えば特許文献1の刃物に開示されるV字状の刃部4aを有する刃物4(図12のa参照)と、U字状の刃部5aを有する刃物5(図12のb参照)がある。
【0003】
V字状の刃物4を用いる場合、図13の(c)、(d)に示すように、被覆線材Aを、一対の各刃物4,4に形成した各刃部4a,4aの間に配置した後、各刃物4,4を、被覆線材Aの被覆材Abに対して線材Aa外面に接する位置まで切り込ませて、線材Aaに被覆された被覆材Abのみに切り込みを入れる。一対の各刃物4,4を、線材Aaに対して切り込まれない状態に近接したまま、被覆線材Aに沿って長さ方向へ移動させ、線材Aa端部から不要な被覆材Abを抜き取るようにして剥離する。
【0004】
【特許文献1】特許第3511017号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、V字状の刃物4を、刃部4aのエッジ4bが被覆線材Aの線材Aa外面に接する位置まで切り込ませても、刃部4aのエッジ4bが接していない部分(図13のdに示す黒塗り部分)には切り込みを入れることができない。不要な被覆材Abを剥離する際に、被覆材Abの切り込みが入っていない部分が引き千切られ、被覆材Abの切れ端が、線材Aaに被覆された被覆材Abの端部に残ってしまうため、剥離側端部が粗悪又は粗雑となるだけでなく、接続不良や剥離ミスが発生する原因となる。
【0006】
また、U字状の刃物5を用いた場合、図14の(e)、(f)に示すように、刃部5aを線材Aaの半径と一致させるか、近似させる等して、刃部5aのエッジ5bを線材Aa外面が囲まれる状態に近接するので、被覆材Abに対する切り込み面積がV字状の刃物4よりも大きく、被覆材Abの切り残り部分(図14のfに示す黒塗り部分)が小さくなり、被覆材Abを容易に剥離することができる。しかし、U字状の刃物5は、刃部5a及びエッジ5bを線材Aaの外径寸法に応じて変更する必要があり、線径の異なる多種類の各被覆線材A…を機械的に剥離する自動被覆材剥離装置等に用いる場合、各被覆線材A…の線径と対応して、数種類の刃物5を予め準備しなければならず、刃物5の交換作業に手間及び時間が掛かる。また、各種の刃物5を配置及び保管するためのスペースを確保しなければならず、刃物5の設置設備を複雑化する必要がある等の問題がある。
【0007】
この発明は前記問題に鑑み、一つの刃物を、線径が異なる複数種の各被覆線材から各被覆材のみを剥離する作業に用いることができる刃物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載した発明の刃物は、被覆線材を構成する線材外面に被覆された被覆材を剥離する際に用いられる刃物であって、前記刃物の刃先に、該刃物の刃元から刃先に向けて幅方向に広くなる凹状の刃部を形成し、前記刃部の幅方向中央部に、線径が異なる複数種の各被覆線材と対応して各線材外面に接する状態に切り込まれる大きさ及び形状のエッジを複数形成し、前記各エッジを、前記被覆線材に対して切り込まれる方向に向けて複数連設したことを特徴とする。
【0009】
前記刃物の刃元は、図1に示す刃物24の下端(紙面下側)に対応し、刃物の刃先は、図1に示す刃物24の上端(紙面上側)に対応している。また、刃物の幅方向は、図1に示す刃物24の左右方向(紙面左右方向)に対応している。また、凹状の刃部とは、刃物の刃元から刃先に向けて広くなる形状であり、略V字状や略U字状等の形状に形成された刃部であることを含むものである。
【0010】
この発明によると、刃物の刃部を、刃部に形成した各エッジのいずれか一つを、そのエッジと対応する線材外面に接する状態に切り込ませるか、線材外面に対して切り込まれない状態に近接するので、複数の各エッジが形成された一つの刃物を、線径が異なる複数種の各被覆線材の各被覆材のみに切り込みを入れることができる。切り込み完了後、刃物を、線材外面に対して切り込まれない状態に近接したまま被覆線材に沿って長さ方向へ移動させ、線材端部から不要な被覆材を抜き取るようにして剥離することができる。
【0011】
請求項2に記載した発明の刃物は、前記請求項1に記載の構成と併せて、前記各エッジのうち少なくとも一つ以上を円弧状に形成したことを特徴とする。
【0012】
この発明によると、例えば線材の外面形状と対応する円弧状のエッジを、線材外面に接する状態に切り込ませるか、線材外面に対して切り込まれない状態に近接することにより、円弧状のエッジと対応する外面形状の線材には切り込まれず、線材外面に被覆された被覆材のみに切り込みを入れることができ、切り残し部分を減少させることができる。なお、円弧状は、例えば略半円に近い形状を含むものである。
【0013】
請求項3に記載した発明の刃物は、前記請求項2に記載の構成と併せて、前記円弧状に形成した各エッジを、前記被覆線材に対して切り込まれる方向に向けて偏心するとともに、該各エッジの曲率半径が前記刃物の刃元から刃先に向けて順に大きくなるように複数連設したことを特徴とする。
【0014】
この発明によると、線径が異なる各線材を、各線材の線径と対応する各エッジに入り込ませることにより、一つの刃物により線径が異なる複数種の各被覆線材から各被覆材のみを剥離することができる。
【0015】
請求項4に記載した発明の刃物は、前記請求項2又は3に記載の構成と併せて、前記円弧状に形成した各エッジを、前記線材の半径と近似する曲率半径に形成したことを特徴とする。
【0016】
この発明によると、曲率半径が異なる各エッジを、各エッジの曲率半径と対応する線径の線材外面に接する状態に切り込ませるか、線材外面に対して切り込まれない状態に近接することにより、被覆材の外面全体に対して略均等に切り込みを入れることができる。なお、線材の半径と近似する曲率半径は、線材半径と略同等か若干大径に形成してもよい。
【0017】
請求項5に記載した発明の刃物は、前記請求項1〜4のいずれか一つに記載の構成と併せて、前記刃部は、該刃部の幅方向中央部を中心として前記エッジの左右に形成したガイドを少なくとも一つ以上含み、該ガイドは前記刃物の刃元から刃先に向けて幅方向に広くなるように形成したことを特徴とする。
【0018】
この発明によると、刃物の刃部を被覆線材に切り込ませる際に、被覆材及び線材の少なくとも一方を左右の各ガイドに当接しながら、各ガイドに沿って刃部中心に向けて案内するので、幅方向中央部の各エッジ中心と線材中心が略一致する状態に位置修正することができる。また、左右の各ガイドは、例えば直線や曲線等からなる単一形状のガイドで構成するか、直線や曲線等を組み合わせてなる複合形状のガイドで構成してもよい。
【0019】
請求項6に記載した発明の刃物は、前記請求項5に記載の構成と併せて、前記左右に形成したガイドを、各左右の対向するガイド同士のなす角度が前記刃物の刃元から刃先に向けて順に大きくなるように複数連設したことを特徴とする。
【0020】
この発明によると、刃物の刃部を被覆線材に切り込ませる際に、被覆材及び線材の少なくとも一方を左右のガイドに対して順に当接しながら、左右のガイドに沿って刃部中心に向けて段階的に案内するので、幅方向中央部の各エッジ中心と線材中心が略一致する状態に位置修正することができる。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、刃物の刃部を、被覆線材の線材外面に被覆された被覆材に切り込ませるとともに、刃部に形成した各エッジのいずれか一つを、そのエッジと対応する線材外面に接する状態に切り込ませるので、被覆材の切り残し部分が少なくなり、被覆材のみを所望する寸法だけ確実に剥離することができる。また、複数の各エッジが形成された一つの刃物を、線径が異なる複数種の各被覆線材から各被覆材を剥離する作業に用いることができるので、数種類の刃物を予め製作及び準備する必要がなく、被覆線材の線材外面から被覆材を剥離する際に必要な刃物の種類を減らして、刃物製作にかかるコストの削減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
この発明は、一つの刃物を、線径が異なる複数種の各被覆線材から各被覆材のみを剥離する作業に用いることができるという目的を、刃物の刃部に、線径が異なる複数種の各被覆線材と対応して各線材外面に接する状態に切り込まれる大きさ及び形状のエッジを複数形成することで達成した。
【実施例】
【0023】
この発明の一実施例を以下図面に基づいて詳述する。
図面は、被覆線材を構成する線材に被覆された被覆材を剥離する作業に用いられる刃物を示し、図1、図2に於いて、この刃物24は、被覆線材Aの線材Aa外面に被覆された被覆材Abに対して径方向に切り込まれる凹状の刃部24aを刃物24の刃先に形成するとともに、該刃部24aを刃物24の刃元(図1中、刃物24の紙面下側)から刃先(図1中、刃物24の紙面上側)に向けて幅方向(図1中、刃物24の紙面左右方向)に広くなるように形成している。なお、以下において、刃物24の下端側刃元から上端側刃先に向かう方向を刃先方向とし、その逆の向きを刃元方向とする。
【0024】
また、刃部24aの幅方向中央部には、線径が異なる大小2種類の各被覆線材A,Aと対応して各線材Aa,Aa外面に接する状態に切り込まれる円弧状の各エッジ24b,24cを形成している。また、刃部24aの幅方向中央部を中心とする左右側部には、刃物24の刃元から刃先に向けて左右均等に幅方向に広くなる各ガイド24d,24dと各ガイド24e,24eを形成している。なお、刃部24aは、各エッジ24b,24c及び各ガイド24d,24eで構成される。
【0025】
各エッジ24b,24cは、被覆線材Aに対して径方向に切り込まれる方向、すなわち、前記刃先方向の幅方向中心線に沿って同一線上に配置するとともに、刃物24の刃元から刃先に向けて曲率半径が順に大きくなるように複数連設している。また、エッジ24cの中心cは、エッジ24bの中心bに対してh寸法だけ刃元側へ偏心している(図3参照)。
【0026】
曲率半径が大きいエッジ24bは、刃部24aの幅方向中央部に形成され、比較的大きい被覆線材Aの線材Aa半径に近似した曲率半径に形成している。
【0027】
曲率半径が小さいエッジ24cは、エッジ24bの幅方向中央部に対して連なる状態に形成され、比較的小さい被覆線材Aの線材Aa半径に近似した曲率半径に形成している。
【0028】
各エッジ24b,24cの偏心量は、図11中の(B1)に示すように、半径r1が大きいエッジR1の縁部と、半径r2が小さいエッジR2の縁部とが円周方向に接触する最小偏心状態において、エッジR1の半径r1からエッジR2の半径r2を減算した寸法が最小偏心量W1で、図11中の(B2)に示すように、エッジR2の直径と該エッジR2の開口幅Xが略同一となる最大偏心状態において、エッジR1の半径r1からエッジR2の半径r2を減算した寸法が最大偏心量W2であり、その最小偏心量W1以上であって最大偏心量W2以下の範囲内に設定している。
【0029】
エッジR1,R2の偏心量を最小偏心量W1よりも小さくすると、エッジR2がエッジR1に形成されず、被覆材Abの剥離が不可能となる。また、エッジR1,R2の偏心量を最大偏心量W2よりも大きくすると、エッジR2の開口幅XがエッジR2の直径よりも狭くなり、エッジR2と対応する線径の線材Aaの入り込みが妨げられるので、好ましくは、エッジR2の直径よりも開口幅Xが狭く、該直径に限りなく近い開口幅Xとなる偏心量に設定するのが最適である。
【0030】
つまり、各エッジR1,R2の偏心量は、2種類の各エッジR1,R2の半径に基づいて定まるものであり、例えば各エッジR1,R2の偏心量が同じであっても、各エッジR1,R2の半径が異なれば、開口幅Xも異なるものである。
【0031】
左右に形成した各エッジ24b,24cと各ガイド24d,24eは、左右の対向する各ガイド24d,24d同士のなす角度θ1と、左右の対向する各ガイド24e,24e同士のなす角度θ2が刃物24の刃元から刃先に向けて順に大きくなるように複数連設している。各ガイド24d,24d及び各ガイド24e,24eは刃先方向に向けて幅方向に広くなる角度に傾斜され、各ガイド24e,24eは、各ガイド24d,24dよりも角度が大きくなるように傾斜しており、被覆線材Aを各ガイド24d,24eに沿って刃部24a中心に向けて案内するものである(図3参照)。
【0032】
各ガイド24d,24dの角度θ1は、各ガイド24d,24dの仮想延長線が交差する交点を中心として略60度に設定している。また、各ガイド24e,24eの角度θ2は、各ガイド24e,24eの仮想延長線が交差する交点を中心として刃略90度に設定している。
【0033】
各ガイド24d,24dは、エッジ24bの両側縁部に連なる状態に連設し、各ガイド24e,24eは、各ガイド24d,24dの上側縁部に連なる状態に連設している。
【0034】
なお、各ガイド24d,24dの角度θ1を、例えば60度以下又は60度以上の角度に変更してもよい。また、各ガイド24e,24eの角度θ2を、例えば90度以下又は90度以上の角度に変更してもよい。また、各エッジ24b,24cの中心と、各ガイド24d,24eの交点は、刃部24aの幅方向中央部に対して刃先方向に向けて幅方向中心線上に配列している。
【0035】
実施例では、図2に示すように、刃部24aの斜面と平面とがなす側面視方向から見た角度θ3を略30度に設定しているが、前記角度のみに限定されるものではなく、例えば30度以下又は30度以上の角度に変更してもよい。
【0036】
前記刃物24は、図4〜図7に示すように、自動被覆材剥離装置26を構成する上下一対の各刃物固定部27,27に対して各刃物24,24の各刃部24a,24aが対向するように固定され、一対の各刃物24,24が被覆材Abに対して切り込まれる際に、各刃物24,24の平面が互いに摺接されるように設けている。
【0037】
各刃物固定部27,27は、図示しない上下移動機構により一対の各刃物24,24が被覆材Abに対して切り込まれる刃先方向へ相対移動され、各刃物24,24の各刃部24a,24a間に対する被覆線材Aの挿入及び抜き取りが許容される離間位置と、各刃物24,24の各刃部24a,24aが線材Aaには切り込まれず被覆材Abのみに切り込まれる切り込み位置に上下移動される。
【0038】
なお、前記切り込み位置は、線材Aaの外径に応じて予め複数設定されており、刃部24aに形成した各エッジ24b,24cが、各エッジ24b,24cの曲率半径と対応する線材Aa外面に接する状態に切り込まれるか、線材Aa外面に対して切り込まれない状態に近接される位置である。
【0039】
また、各刃物固定部27,27は、一対の各刃物24,24を線材Aa外面に接する状態に切り込ませるか、線材Aa外面に対して切り込まれない状態に近接した際に、図示しない水平移動機構により線材Aa端部から不要な被覆材Abが抜き取られる方向へ被覆線材Aに沿って長さ方向に水平移動される。或いは、前後方向へ移動するか、被覆線材Aの軸線方向へ移動する等してもよい。被覆材Abの抜き取り完了後は、一対の各刃物24,24を次の被覆線材Aの被覆材Abに対して切り込まれる待機位置に復帰移動させる。
【0040】
また、各刃物24,24間に挿入される被覆線材Aの非剥離側端部と対向して上下に配置した一対の各挟持体28,28は、図示しない挟持機構により各刃物24,24間に挿入された被覆線材Aの非剥離側端部が挟持される方向と、その挟持が解除される方向に相対移動される。一対の各刃物24,24により線材Aa端部から不要な被覆材Abを抜き取る際に、被覆線材Aの非剥離側端部が抜き取り方向へ移動しないような挟持力で挟持する。
【0041】
図示実施例は前記の如く構成するものにして、以下、一対の各刃物24,24により被覆線材Aを構成する線材Aa端部から被覆材Abを剥離する方法を説明する。
【0042】
先ず、比較的大きい被覆線材Aの端部から被覆材Abを所望する寸法だけ剥離する場合、図4、図5に示すように、被覆線材Aの剥離側端部を、自動被覆材剥離装置26の各刃物固定部27,27に固定された一対の各刃物24,24の各刃部24a,24a間に挿入する。つまり、被覆線材Aの線材Aaを、例えば種々の機材の端子に接続するか、2本の各線材Aa,Aa同士を連結するような場合、線材Aaの露出寸法と対応する寸法だけ被覆材Abを剥離する必要があるので、その露出寸法と対応する所望寸法の被覆材Abが剥ぎ取り開始される位置まで挿入する。
【0043】
次に、被覆線材Aの被覆材Abが剥ぎ取り開始される剥離開始位置を、各刃物24,24の各刃部24a,24aと対向させた後、図6に示すように、被覆線材Aの非剥離側端部を一対の各挟持体28,28により挟持固定する。
【0044】
各刃物24,24を、被覆線材Aに対して切り込まれる刃先方向へ移動させながら互いに摺接されるようにして接近し、各刃部24a,24aの各エッジ24b,24c及び各ガイド24d,24eを被覆材Abに対して径方向へ切り込ませるとともに、曲率半径が大きいエッジ24bを、大径の線材Aaに被覆された被覆材Abに対して径方向へ切り込ませる(図8参照)。なお、各刃物24,24のいずれか一方を、被覆線材Aに対して切り込まれる刃先方向へ移動してもよい。
【0045】
エッジ24bは、比較的大きな線材Aaの半径と対応する曲率半径に形成しているので、該エッジ24bの曲率半径と対応する大径の線材Aa外面に接する状態に切り込ませるか、線材Aa外面に対して切り込まれない状態に近接すれば、エッジ24bにより線材Aa外面が囲まれるので、大径の線材Aaに被覆された被覆材Abの外面全体に対して略均等に切り込みを入れることができ、被覆材Abの切り残りがほとんど無くなる。
【0046】
次に、切り込み完了後、図7に示すように、一対の各刃物24,24を、エッジ24bを線材Aa外面に対して切り込まれない状態に近接したまま、被覆線材Aに沿って長さ方向へ一体的に移動させ、線材Aa端部から不要な被覆材Abを抜き取るようにして図中矢印で示す方向へ剥離する。
【0047】
被覆材Abの抜き取り作業が完了後、一対の各刃物24,24は抜き取り方向へ移動され、次の被覆線材Aの被覆材Abに対して切り込まれる待機位置に復帰移動する。また、一対の各挟持体28,28は被覆線材Aの挟持が解除及び抜き取りが許容される間隔に相対移動されるので、被覆材剥離済みの被覆線材Aを一対の各刃物24,24間から抜き取れば、剥離作業が完了する。
【0048】
刃物24を被覆材Abに切り込ませる際に、刃部24a中心に対して被覆線材Aの中心が幅方向へ変位しても、被覆材Ab及び線材Aaの少なくとも一方を左右のガイド24d,24eに当接して、被覆線材Aを各ガイド24d,24eに沿って刃部24a中心に向けて案内するので、各エッジ24b,24c中心と線材Aa中心が略一致する状態に位置修正することができる。
【0049】
つまり、比較的大きな線材Aaは、刃部24aに形成した曲率半径の大きいエッジ24bに入り込み、比較的小さな線材Aaは、刃部24aに形成した曲率半径の小さいエッジ24cに入り込むので、各エッジ24b,24cを、線材Aaを中心として被覆材Abの外面全体に対して均等に切り込ませることができる。
【0050】
比較的小さな被覆線材Aの端部から被覆材Abを所望する寸法分だけ剥離する場合、上述と同様に、図4〜図6に示すように、比較的小さな被覆線材Aの剥離側端部を、自動被覆材剥離装置26に取り付けられた一対の各刃物24,24間に挿入し、被覆線材Aの非剥離側端部を一対の各挟持体28,28により挟持固定した後、各刃物24,24を、被覆線材Aに対して切り込まれる刃先方向へ移動させて接近し、各刃部24a,24aの各エッジ24b,24c及び各ガイド24d,24eを被覆材Abに切り込ませるとともに、曲率半径の小さいエッジ24cを、小径の線材Aaに被覆された被覆材Abに対して径方向へ切り込ませる(図9参照)。
【0051】
エッジ24cは、比較的小さな線材Aaの半径と対応する曲率半径に形成しているので、該エッジ24cと対応する小径の線材Aa外面に接する状態に切り込ませるか、線材Aa外面に対して切り込まれない状態に近接すれば、エッジ24cにより線材Aa外面が囲まれるので、小径の線材Aaに被覆された被覆材Abの外面全体に対して略均等に切り込みを入れることができる。
【0052】
次に、切り込み完了後、各刃物24,24を、エッジ24cを線材Aa外面に対して切り込まれない状態に近接したまま、被覆線材Aに沿って長さ方向へ一体的に移動させれば、上述と同様に、小径の線材Aa端部から不要な被覆材Abを抜き取るようにして剥離することができる(図7参照)。
【0053】
以上のように、刃物24の刃部24aを、被覆線材Aの線材Aa外面に被覆された被覆材Abに切り込ませるとともに、刃部24aに形成した各エッジ24b,24cのいずれか一つを、そのエッジ24b又は24cと対応する線材Aa外面に接する状態に切り込ませるので、被覆材Abの切り残し部分が少なくなり、被覆材Abのみを所望する寸法だけ確実に剥離することができる。
【0054】
また、複数の各エッジ24b,24cが形成された一つの刃物24を、複数種の各被覆線材A…から各被覆材Ab…のみを剥離する作業に用いることができるので、数種類の刃物24を予め製作及び準備する必要がなく、被覆線材Aの線材Aa外面から被覆材Abを剥離する際に必要な刃物24の種類を減らして、刃物24製作にかかるコストの削減を図ることができる。
【0055】
また、複数種の各被覆線材A…に対応して、被覆材Abを剥離するのに適した大きさ及び形状の刃物24に交換するような手間及び作業が省け、剥離作業の能率アップを図ることができる。また、被覆線材Aの被覆材Abを機械的に剥離する各種装置及び設備において、刃物24が取り付けられるスペースを小さくする等、設備の簡素化を進めることができる。
【0056】
図10は、3種類の各エッジ25b,25c,25dを有する刃物25の他の例を示し、刃物25の刃先には、刃物24の刃元から刃先に向けて幅方向に広くなる凹状の刃部24aを形成している。刃部25aの幅方向中央部には、線径の異なる3種類の各被覆線材A…と対応して各線材Aa…外面に接する状態に切り込まれる曲率半径及び円弧状の各エッジ25b,25c,25dを形成している。
【0057】
各エッジ25b,25c,25dは、被覆線材Aに対して切り込まれる方向、すなわち、前記刃先方向の幅方向中心線に沿って同一線上に配置するとともに、刃物25の刃元から刃先に向けて曲率半径が順に大きくなるように複数連設している。
【0058】
曲率半径が大サイズのエッジ25bは、刃部25aの幅方向中央部に形成され、比較的大サイズの被覆線材Aの線材Aa半径に近似した曲率半径に形成している。
【0059】
曲率半径が中サイズのエッジ25cは、エッジ25bの幅方向中央部に連なる状態に形成され、比較的中サイズの被覆線材Aの線材Aa半径に近似した曲率半径に形成している。
【0060】
曲率半径が小サイズのエッジ25dは、エッジ25cの幅方向中央部に連なる状態に形成され、比較的小サイズの被覆線材Aの線材Aa半径に近似した曲率半径に形成している。
【0061】
また、エッジ25cの中心cは、エッジ25bの中心bに対してh1寸法だけ刃元側へ偏心している。エッジ25dの中心dは、エッジ25cの中心cに対してh2寸法だけ刃元側へ偏心している。なお、各エッジ25b,25c,25dの偏心量は、前記実施例と同様にして設定される(図11参照)。
【0062】
刃部25aの幅方向中央部を中心とする左右側部には、刃物25の刃元から刃先に向けて左右均等に幅方向に広くなる各ガイド25e,25eを形成している。
【0063】
各ガイド25e,25eは、刃物25の刃元から刃先に向けて広くなる角度に傾斜され、被覆線材Aを各ガイド25e,25eに沿って刃部25a中心に向けて案内する(図3参照)。
【0064】
また、左右の対向する各ガイド25e,25e同士のなす角度θ4は、各ガイド25e,25eの仮想延長線が交差する交点を中心として略100度に設定しているが、例えば100度以下又は100度以上の角度に変更してもよい。なお、刃部25aは、エッジ25b,25c,25d及びガイド25eで構成される。
【0065】
前記実施例と同様に、前記刃物25を自動被覆材剥離装置26に用いれば、線径の異なる各被覆線材A…から各被覆材Ab…のみを所望する寸法だけそれぞれ剥離することができる(図4〜図7参照)。つまり、各被覆線材A…の線径と対応して、数種類の刃物25を予め製作及び準備する必要がなく、前記実施例と略同等の作用及び効果を奏することができる。また、ガイド25eの段数を複数段に変更してもよい。
【0066】
この発明は、上述の実施例の構成のみに限定されるものではなく、請求項に示される技術思想に基づいて応用することができ、多くの実施の形態を得ることができる。
【0067】
前記刃物24,25は、2種類の各エッジ24b,24cからなる刃部24aと、3種類の各エッジ25b,25c,25dからなる刃部25aのみに限定されるものではなく、例えば円弧、直線等の任意形状に形成するか、或いは、円弧や直線等を複数組み合わせて形成してもよく、被覆材Abを剥離することが可能な被覆線材Aの種類を増やすことが可能である。
【0068】
また、前記各刃部24a,25aのいずれか一方を、例えば左右又は上下に配置した各刃物の対向縁部に形成すれば、被覆線材Aを左右又は上下から挟持するようにして被覆材Abのみに切り込みを入れることができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の刃物は、例えば手動式の被覆材剥離具等に用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】2種類の各エッジを形成した円弧状の刃物を示す正面図。
【図2】円弧状の刃物を示す縦断側面図。
【図3】刃物の刃部を示す拡大正面図。
【図4】一対の各刃物を取り付けた自動被覆材剥離装置を示す正面図。
【図5】被覆線材を各刃物間に挿入した状態を示す側面図。
【図6】各刃物を被覆線材に切り込ませた状態を示す側面図。
【図7】被覆材を一対の各刃物により剥離する動作を示す側面図。
【図8】曲率半径の大きいエッジを切り込ませた状態を示す側面図。
【図9】曲率半径の小さいエッジを切り込ませた状態を示す側面図。
【図10】3種類の各エッジを形成した刃物の他の例を示す正面図。
【図11】(B1)は最小偏心量を示す説明図、(B2)は最大偏心量を示す説明図。
【図12】(a)は第1従来例のV字状刃物を示す正面図、(b)は第2従来例のU字状刃物を示す正面図。
【図13】(c)はV字状刃物の切り込み動作を示す正面図、(d)はV字状刃物の切り込み状態を示す正面図。
【図14】(e)はU字状刃物の切り込み動作を示す正面図、(f)はU字状刃物の切り込み状態を示す正面図。
【符号の説明】
【0071】
A…被覆線材
Aa…線材
Ab…被覆材
24…刃物
24a…刃部
24b,24c…エッジ
24d,24e…ガイド
25…刃物
25a…刃部
25b,25c,25d…エッジ
25e…ガイド
26…自動被覆材剥離装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆線材を構成する線材外面に被覆された被覆材を剥離する際に用いられる刃物であって、
前記刃物の刃先に、該刃物の刃元から刃先に向けて幅方向に広くなる凹状の刃部を形成し、
前記刃部の幅方向中央部に、線径が異なる複数種の各被覆線材と対応して各線材外面に接する状態に切り込まれる大きさ及び形状のエッジを複数形成し、
前記各エッジを、前記被覆線材に対して切り込まれる方向に向けて複数連設した
刃物。
【請求項2】
前記各エッジのうち少なくとも一つ以上を円弧状に形成した
請求項1に記載の刃物。
【請求項3】
前記円弧状に形成した各エッジを、前記被覆線材に対して切り込まれる方向に向けて偏心するとともに、該各エッジの曲率半径が前記刃物の刃元から刃先に向けて順に大きくなるように複数連設した
請求項2に記載の刃物。
【請求項4】
前記円弧状に形成した各エッジを、前記線材の半径と近似する曲率半径に形成した
請求項2又は3に記載の刃物。
【請求項5】
前記刃部は、該刃部の幅方向中央部を中心として前記エッジの左右に形成したガイドを少なくとも一つ以上含み、該ガイドは前記刃物の刃元から刃先に向けて幅方向に広くなるように形成した
請求項1〜4のいずれか一つに記載の刃物。
【請求項6】
前記左右に形成したガイドを、各左右の対向するガイド同士のなす角度が前記刃物の刃元から刃先に向けて順に大きくなるように複数連設した
請求項5に記載の刃物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−167813(P2008−167813A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−1555(P2007−1555)
【出願日】平成19年1月9日(2007.1.9)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】