説明

分光画像法による農産物の残留農薬検査方法および装置

【課題】分光画像法による農産物の残留農薬検査方法および装置を提供する。
【解決手段】農産物の残留農薬を検査する検査方法であって、農産物を可視光領域から近赤外領域における任意の波長毎にCCDカメラで撮影する手段と、撮影した画像をコンピュータに取り込む手段と、コンピュータによって取り込んだ画像を、プログラムによって画像処理を行う手段とから構成され、農産物毎に異なる特定波長の撮影画像を選択することによって、市場に流通する農産物に対して固体別の検査ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光画像法による農産物の残留農薬検査方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、農産物を取り巻く品質・環境問題の中で人の安全に係わるものとして残留農薬がクローズアップされている。この残留農薬に対する対策としては、法的手段として厚生労働省によるポジティブリスト制度や、検査技術手段として農産物流通施設における化学的検査などが実施されている。
【0003】
上記従来の農産物の残留農薬検査方法としては、クロマトグラフィ等を用いた化学的検査や近赤外分光器を用いた物理的検査が主流とされている。化学的検査の場合、試料としての農産物を細断、均一、抽出、分離、精製などの処理を行なう必要があり、必然的に農産物を破壊して検査を行なうものであり、また物理的検査の場合には試料となる農産物に直接近赤外光を照射して分光器を用いて、試料を破壊せずに残留農薬の検査を行なうものである。
【0004】
しかしながら、市場に流通する全農産物に対して上記の検査方法では、前者の技術では固体別の検査が困難であり、後者の技術では固体の一部の箇所しか検査ができないという問題点があった。
【0005】
このため、食品と食品に含まれる異物などに光を照射して得られた反射光の吸収スペクトルを測定し、夫々の間で異なる2次微分スペクトルを示す波長帯を検出して、食品中に含まれる異物などを検出する方法が提案されている(特許文献1参照。)。また、蛍光染色等の前処理をすることなく、複数成分を同時に画像として表示することができる成分分布可視化方法、ならびに、これを用いる蛍光画像撮影装置、および成分分布可視化装置もある(特許文献2参照。)。
【0006】
【特許文献1】特開2004−301690号公報
【特許文献1】特開2004−294337号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に提案されている技術は、食品とそれに含まれる可能性のある異物或いは夾雑物の吸収スペクトルをそれぞれ測定して、この吸収スペクトルに2次微分処理を行なうことによって上記の異物或いは夾雑物の検出を可能とする技術であり、食品に含まれる異物或いは夾雑物を発見して取り除く点に主眼が置かれたものであり、本発明の残留農薬の残量検査とは大きく異なるものである。また、上記特許文献2に記載されている技術は、分光光源装置で所定の励起波長の光を測定対象物に照射して所定の蛍光波長を撮影する技術によって、対象物の成分分布の可視化を可能とするものであるが、励起波長と蛍光波長とを夫々制御することが必要とされ、装置が複雑になるという問題があった。
【0008】
上記の問題点に鑑み本発明者らは、農産物表面に農薬を散布する前と後で撮影した分光画像が、特定の波長において異なる画像を表示することを見出し、鋭意研究の結果、農産物を破壊することなく農産物の残留農薬の検査が可能となり、しかも得られた分光画像から農産物に残留した農薬量を演算して、出力できる農産物の検査方法および装置を提供するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このため本発明の分光画像法による農産物の残留農薬検査方法は、農産物を可視光領域から近赤外領域における任意の波長毎にCCDカメラで撮影する手段と、撮影した画像をコンピュータに取り込む手段と、コンピュータによって取り込んだ画像を、プログラムによって画像処理を行う手段とから構成されることを第1の特徴とする。
【0010】
また、前記撮影された画像から、農産物毎に異なる特定波長の撮影画像を選択することを特徴とすることを第2の特徴とする。
【0011】
そして、前記コンピュータによって取り込んだ画像を、プログラムによって画像処理を行う手段において、取り込まれた分光画像における画素毎の輝度値を求め、その分光画像を平均吸光度値または、平均吸光度二次微分値に変換し、従来方法で求めたその農産物の農薬残量との間で多変量解析を行い検量線を作成し、この検量線によって画素毎の農薬残量を求めることを第3の特徴とする。
【0012】
そして、本発明の分光画像法による農産物の残留農薬検査装置は、農産物を搬送する搬送装置上に設けられた暗室と、暗室内に設置され農作物を撮影する撮影手段と、撮影手段によって撮影された画像を取り込むコンピュータと、コンピュータによって取り込まれた画像をプログラムによって画像処理し、残留農薬検査の結果を出力し農産物の選別を行なう選別手段とから構成されることを第4の特徴とする。
【0013】
さらに、前記撮影手段は、農産物を照明する光源装置と、任意の波長毎に撮影が可能な分光フィルター付きCCDカメラとからなることを第5の特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る分光画像法による農産物の残留農薬検査方法によれば、農産物を可視光領域から近赤外領域における任意の波長毎にCCDカメラで撮影し、撮影した画像をコンピュータに取り込んで、農産物毎に異なる特定波長の撮影画像を選択してプログラムによって画像処理を行なうため、農産物を破壊することなく残留農薬の検査ができ、しかも農薬残量を求めることができるという優れた効果を有する。
【0015】
また、農産物毎に異なる特定波長の撮影画像を選択するため、市場に流通する全ての農産物に対して固体別に残留農薬の検査ができるという優れた効果を有する。
【0016】
そして、本発明の分光画像法による農産物の残留農薬検査装置は、農産物を搬送する搬送装置上に設けられた暗室と、暗室内に設置され農作物を撮影する撮影手段と、撮影手段によって撮影された画像を取り込むコンピュータと、コンピュータによって取り込まれた画像をプログラムによって画像処理し、残留農薬検査の結果を出力し農産物の選別を行なう選別手段とから構成されているため、残留農薬検査の合格したもの以外の農産物の出荷を防止できるという優れた効果を有する。
【0017】
さらに、撮影手段は、農産物を照明する光源装置と、任意の波長毎に撮影が可能な分光フィルター付きCCDカメラによって構成されており、農産物毎に異なる特定波長を選択することが可能となり、固体別に残留農薬の検査ができる残留農薬検査装置である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明が本実施例に限定されないことは言うまでもない。
【0019】
本発明の分光画像法による農産物の残留農薬検査方法は、農産物全般における残留農薬の検査を行なうものであるが、本実施例においては観賞用に生産されるバラなどの花奔類を例として説明する。
【実施例】
【0020】
(供試材料の準備)
供試用の材料として農薬散布されていないローテ・ローズ(宮崎郡清武町ハウス栽培)の葉を、散布する農薬としてMダイファー水和液(希釈500倍)を夫々用意した。次に手動式スプレーを用いて、準備したローテ・ローズの葉から300mmの高さからMダイファーを3回散布し、常温で3時間放置して表面を乾燥させた。
【0021】
(撮影装置および画像取得)
撮影器具
・高感度冷却CCDカメラ(Apogee社製 AP2E)
・レンズ(ニコン社製 NIKKOR)
・液晶可変フィルター(CRI社製 VS−V153‐10‐HC−20)
・光源(エスアイ精工製 DLライト)
・撮影架台
撮影条件
・CCDカメラの冷却温度:−15℃
・シャッタースピード:0.5秒
・絞り:F=8
・撮影波長範囲:420nm〜740nm(4nm間隔)
上記の撮影器具と撮影条件にて画像サイズ(512×726画素)の分光画像を81枚取得し、コンピュータに取り込んだ。尚、撮影は予め農薬散布前にも行っており、撮影後に直に農薬を散布した。撮影画像を図1に示す。
【0022】
(解析)
コンピュータに取り込んだ分光画像を、次式からなるプログラムによって画像処理して輝度値画像を得、さらにプログラムによって2値化処理して残留農薬の分布状態を把握した。
【0023】
【数1】

【0024】
(結果)
図1に示すように、農薬を散布したバラの葉の分光画像では、500nm以上の長波長において白い斑点が再現された(図のaおよびb参照。)。即ち残留農薬と考えられる。特にクロロフィルの吸収帯とされる660nmの輝度値画像において顕著であり、この660nmの輝度値画像を2値化処理した画像によって残留農薬の分布状態が把握された(図のc参照。)。
【0025】
次に図2により、本発明の分光画像法による農産物の残留農薬検査装置の一実施例を説明する。尚、本実施例においては、農産物である茄子の残留農薬検査を行なうシステムとして説明する。

【0026】
図2に示すように、本発明の分光画像法による農産物の残留農薬検査装置1は、農産物である茄子2を搬送する搬送装置3と、搬送装置3上に設けられた暗室4と、暗室4内に設置され茄子2を撮影する撮影手段5と、撮影手段5によって撮影された画像を取り込むコンピュータ6と、茄子2の選別を行なう選別手段7とから構成されている。
【0027】
搬送装置3は農産物の選果作業に通常使用されるベルトコンベアーが使用されており搬送装置3の中央部には箱型の暗室4が設けられ、また暗室4の後部(図右側)にはエアー源を使用するアクチュエータからなる選別手段7が設けられ、茄子2の残留農薬検査と選別作業に使用される。暗室4の内部には、複数の分光フィルター付きCCDカメラ8と、茄子2を照明するハロゲンランプなどの光源装置9からなる撮影手段5が設置され、茄子2の搬送位置を検知する光学センサー10の検知によって撮影が行なわれる。この分光フィルター付きCCDカメラ8によって撮影された茄子2の分光画像は、ケーブル11によってコンピュータ6に取り込まれ、上述したプログラムによって画像処理され、茄子2の表面に残留する残留農薬量が計測される。尚、上記分光フィルターは予め茄子2の分光画像撮影に最適な波長が選択されている。
【0028】
コンピュータ6は茄子2の表面に残留する残留農薬量を予め設定された基準値と比較し、合否を判定すると共に、上記の選別手段7を作動させて不良と判定された茄子2を排出する。この際、茄子2を感知する光学センサー12が使用される。
【0029】
以上の説明で明らかなように、本発明による分光画像法による農産物の残留農薬検査方法および装置によれば、農産物を破壊検査することなく市場に流通するあらゆる農産物の残留農薬の検査が可能となり、しかも得られた分光画像から農産物に残留した農薬量を演算して、農薬の残量を基準とした農産物の選別などができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によれば、農産物の品質評価分野、栽培管理分野において、非破壊による残留農薬検査技術として利用できる。さらに、本技術は農産物の安全を確保した流通システムにおいて利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る分光画像法によるバラの葉の分光画像である。
【図2】本発明に係る分光画像法による農産物の残留農薬検査装置を示す構成図である。
【符号の説明】
【0032】
1 残留農薬検査装置
2 茄子
3 搬送装置
4 暗室
5 撮影手段
6 コンピュータ
7 選別手段
8 分光フィルター付きCCDカメラ
9 光源装置
10、12 光学センサー
11 ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
農産物の残留農薬を検査する検査方法であって、農産物を可視光領域から近赤外領域における任意の波長毎にCCDカメラで撮影する手段と、撮影した画像をコンピュータに取り込む手段と、コンピュータによって取り込んだ画像を、プログラムによって画像処理を行う手段とから構成されることを特徴とする分光画像法による農産物の残留農薬検査方法。
【請求項2】
前記撮影された画像から、農産物毎に異なる特定波長の撮影画像を選択することを特徴とする分光画像法による請求項1記載の農産物の残留農薬検査方法。
【請求項3】
前記コンピュータによって取り込んだ画像を、プログラムによって画像処理を行う手段において、取り込まれた分光画像における画素毎の輝度値を求め、その分光画像を平均吸光度値または、平均吸光度二次微分値に変換し、従来方法で求めたその農産物の農薬残量との間で多変量解析を行い検量線を作成し、この検量線によって画素毎の農薬残量を求めることを特徴とする請求項1または2記載の分光画像法による農産物の残留農薬検査方法。
【請求項4】
農産物の残留農薬を検査する検査装置であって、農産物を搬送する搬送装置上に設けられた暗室と、暗室内に設置され農作物を撮影する撮影手段と、撮影手段によって撮影された画像を取り込むコンピュータと、コンピュータによって取り込まれた画像をプログラムによって画像処理し、残留農薬検査の結果を出力し農産物の選別を行なう選別手段とから構成されることを特徴とする農産物の残留農薬検査装置。
【請求項5】
前記撮影手段は、農産物を照明する光源装置と、任意の波長毎に撮影が可能な分光フィルター付きCCDカメラとからなることを特徴とする分光画像法による請求項3記載の農産物の残留農薬検査装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−68850(P2009−68850A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−234377(P2007−234377)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【出願人】(803000078)株式会社みやざきTLO (20)
【Fターム(参考)】