説明

分取液体クロマトグラフ装置

【課題】目的成分を分取する際に、該目的成分と保持時間が近い別の成分の混入を極力抑える。
【解決手段】データ処理部では、保持時間に基づきクロマトグラム上で目的成分のピークの開始点が検出された後、マススペクトル上で目的成分のピーク(m/z=M)の強度が閾値L(m/z)を超えた時点t3で分画制御信号を立ち上げる。その後、マススペクトル上で目的成分のピークの強度が閾値L(m/z)を下回る時点t4と、クロマトグラム上で目的成分のピークの終了点が検出された時点t2のいずれか早いほうの時点で分画制御信号を立ち下げる。フラクションコレクタは分画制御信号がハイレベルである期間に溶出液を分画・分取する。これにより、クロマトグラム上で目的成分のピークが存在していても、目的成分以外の成分の量が多い場合には分取されないので、目的成分の分取を効率良く行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラムで分離された成分を含む溶出液を分画し、複数の容器に分けて採取する分取液体クロマトグラフ装置に関し、特に、検出器として質量分析計を用いた分取液体クロマトグラフ質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高速液体クロマトグラフ(HPLC)を利用して、液体試料に含まれる1乃至複数の成分を分画して採取する、いわゆる分取液体クロマトグラフ装置(以下「分取LC装置」という)が知られている。分取LC装置では、検出器に紫外可視吸光度検出器が利用されることが多いが、目的成分が光吸収を示さない場合や光吸収を示さない夾雑物が存在する場合には、検出器として質量分析計が利用される(特許文献1など参照)。
【0003】
分取LC装置において、液体試料中の特定の目的成分を分取する際には、その目的成分の保持時間に基づくピーク分画が行われる。図3は従来のピーク分画による動作の一例を説明するための波形図である。
【0004】
分析者は予め目的成分の保持時間を設定しておく。目的試料に対するLC分析が開始されると、データ処理部は、リアルタイムで取得されるクロマトグラムにおいて上記保持時間の近傍で出現するピークの開始点及び終了点を自動的に検出する。フラクションコレクタは、検出されたピーク開始点から終了点までの時間範囲に対応する溶出液を自動的に分画して容器に採取する。図3の例の場合、クロマトグラムの信号強度を所定の閾値L(CR)と比較することでピーク検出を行っており、信号強度が予め閾値L(CR)を超えた時点(t1)にピーク開始点と判断し、その後に信号強度がピークトップを過ぎて閾値L(CR)を下回った時点(t2)でピーク終了点と判断している。
【0005】
上述したような従来の分画の場合、試料中の成分がLCで時間的に十分に分離されていれば、目的成分を高い純度で分取することができる。しかしながら、多様な多くの成分を含む試料の場合、目的成分の保持時間にかなり近い保持時間を持つ別の成分が含まれていることも多く、そうした場合、分取した溶液中に目的成分以外の別の成分が含まれてしまう。検出器に質量分析計を用いた場合には、全イオン電流クロマトグラムではなく目的成分の質量電荷比(m/z)のみを取り出した抽出イオンクロマトグラム(マスクロマトグラム)に対するピーク検出結果を用いることも可能であるが、その場合でも、別の成分が重なって溶出している場合には、該成分の混入が避けられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−14559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
目的成分を選択的に分取したい場合、LCの分離性能の限界から上記のような別成分の混入を完全に防止することはできないものの、目的成分をできるだけ高濃度で分取する、換言すれば別成分の混入量をできるだけ少なく抑えることが、分取後の処理の負担軽減のために必要である。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、目的成分以外の不所望の成分の混入をできるだけ少なく抑え、目的成分を高い濃度で分取することができる分取液体クロマトグラフ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明は、試料中の成分を分離するカラムと、該カラムからの溶出液中の成分を検出するための少なくとも質量分析計を含む検出器と、前記溶出液を分画して分取するフラクションコレクタと、を具備する分取液体クロマトグラフ装置において、
a)目的試料に対する分析の進行に伴い前記検出器により順次得られる検出信号に基づいて作成されるクロマトグラム上で、目的成分に対するピークを検出するクロマトグラムピーク検出手段と、
b)前記目的試料に対する分析中に前記質量分析計により得られる検出信号に基づいて繰り返し作成されるマススペクトル上で、前記目的成分に対するピークの強度に基づいて該目的成分の含有量が相対的に多い期間を推定するスペクトルピーク判定手段と、
c)前記クロマトグラムピーク検出手段により目的成分に対するピークが検出され、且つ、前記スペクトルピーク判定手段により前記目的成分の含有量が相対的に多いと推定される期間を該目的成分の分画範囲と定める分画範囲決定手段と、
d)前記分画範囲決定手段により設定された分画範囲に従って前記フラクションコレクタによる分画のタイミングを制御する制御手段と、
を備えることを特徴としている。
【0010】
なお、上記クロマトグラムは目的成分由来のイオンの質量電荷比に限定した抽出イオンクロマトグラムであっても全イオン電流クロマトグラムであってもいずれでもよい。
【0011】
また前記クロマトグラムピーク検出手段は、クロマトグラム上で目的成分に対応するピークの信号強度が所定の閾値を超えたときにピーク開始点、その後に該信号強度が前記閾値を下回ったときにピーク終了点であると判断する構成とすることができる。
【0012】
本発明に係る分取液体クロマトグラフ装置において、クロマトグラムピーク検出手段によりクロマトグラム上で目的成分に対応するピークが検出されている期間は、少なくとも該目的成分が溶出液中に含まれる期間であると高い確度で推測できる。ただし、このときに別の成分が溶出液中に含まれるか否かを推測することはできない。一方、マススペクトルには目的成分以外の他の成分の存在とその相対的な含有量を示す情報が含まれるから、スペクトルピーク判定手段はマススペクトルに基づいて、目的成分の含有量が他の成分に比べて相対的に多い期間を推定する。
【0013】
例えば上記スペクトルピーク判定手段は、マススペクトル上における目的成分に対するピークの強度を、該マススペクトル上のピークの最大強度に基づいて決められる閾値と比較することにより、該目的成分の含有量が相対的に多い範囲を推定する構成とすることができる。上記閾値は例えば、マススペクトル上のピークの最大強度に1以下の所定の係数を乗じることにより決めるようにすることができる。この係数が1の場合というのは、目的成分のピークがマススペクトル上の最大強度のピークとなる場合である。また、目的成分以外に既知の成分が多く共存していても実質的に問題がない場合には、上記係数を1よりも小さい値にしてもよい。その場合には、目的成分は溶出液中で最大量の成分ではないが、係数を1に近い値にしておくことで、全体として目的成分の含有量が相対的に多い状態を推定することができる。
【0014】
分画範囲決定手段は、クロマトグラムピーク検出手段による検出結果と前記スペクトルピーク判定手段による推定結果とから、目的成分に対するピークが検出され、且つ、その目的成分の含有量が相対的に多いと推定される期間を、その目的成分の分画範囲と定め、制御手段は定められた分画範囲に対応した溶出液が1つの容器に採取されるようにフラクションコレクタを制御する。これにより、目的成分の保持時間に近接して別の成分が存在し、且つその別の成分の量が比較的多い場合でも、目的成分の分画にその別の成分が混入するのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る分取液体クロマトグラフ装置によれば、マススペクトルを分画に利用することにより、目的成分以外の成分の混入をできるだけ減らし、目的成分を高い濃度で分取することができる。特に、目的成分以外の含有成分の種類が未知である場合でも、そうした不所望の成分の混入を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施例による分取LC装置の要部の構成図。
【図2】本実施例による分取LC装置における分画動作の説明図。
【図3】従来の分取LC装置における分画動作の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施例である分取LC装置を、添付図面を参照して説明する。図1は本実施例の分取LC装置の要部の構成図である。
【0018】
この分取LC装置において、送液ポンプ2は移動相容器1に貯留されている移動相を吸引し、一定流量でインジェクタ3を介し分離カラム4へと送給する。インジェクタ3において移動相中に試料液が注入されると、試料液は移動相に乗って分離カラム4に導入され、分離カラム4を通過する間に時間方向に分離されて溶出する。この溶出液は溶出流路5を通して、スプリッタ6、第1紫外可視吸光度(UV)検出器8を経てフラクションコレクタ9に導入される。スプリッタ6よりも下流側の溶出流路5には、溶出液の流れを時間遅延させるためのループ管7が設けられている。第1UV検出器8は通過する溶出液中の試料成分を検出し、検出信号を後述のデータ処理部20へと送る。
【0019】
図示しないが、フラクションコレクタ9は、分注バルブ、複数の分取用容器、溶出液を滴下する分注ノズル、該ノズルを移動させる駆動機構などを含み、分画制御部30の指示に応じて、連続的に流れて来る溶出液を複数の容器に適宜分取する。
【0020】
一方、メイクアップポンプ11は、別の移動相容器10に貯留されている移動相を吸引し検出流路12に流す。検出流路12はスプリッタ6を経て、第2紫外可視光吸光度(UV)検出器13と質量分析計(MS)検出器14とに接続されている。スプリッタ6はいわゆるアクティブスプリッタであり、溶出流路5に流れる高流量の溶出液の一部を所定のスプリット比でもって分割して検出流路12に導く。この分割された一部の溶出液はメイクアップポンプ11により送給される移動相の流れに乗って、第2UV検出器13及びMS検出器14に導入される。第2UV検出器13、MS検出器14はいずれも検出流路12を経て供給される分割された溶出液中の試料成分を検出する。
【0021】
第1UV検出器8、第2UV検出器13、及びMS検出器14による検出信号はいずれもデータ処理部20に送られる。この実施例の分取LC装置では、フラクションコレクタ9における溶出液の分画制御には第2UV検出器13及びMS検出器14による検出信号が利用され、第1UV検出器8による検出信号は、フラクションコレクタ9への溶出液の到達時間の確認やループ管7によるピーク形状の変化の確認などに利用される。
【0022】
データ処理部20は、クロマトグラム作成部21、マススペクトル作成部22、ピーク範囲識別部23、ピーク強度判定部24、及び分画信号生成部25、を機能ブロックとして含む。クロマトグラム作成部21は、第2UV検出器13又はMS検出器14から得られる検出信号に基づいてクロマトグラムをリアルタイムで作成する。MS検出器14による検出信号が用いられる場合、クロマトグラムは抽出イオンクロマトグラム(マスクロマトグラム)又は全イオンの検出結果に基づく全イオン電流クロマトグラムである。
【0023】
ピーク範囲識別部23は、上記クロマトグラムに対してピークの開始点及び終了点の検出をリアルタイムで行う。ここでは、信号強度の閾値L(CR)を予め設定し、クロマトグラムの信号強度が閾値L(CR)を超えた時点をピークの開始点と判断し、その後、ピークトップをすぎて信号強度が閾値L(CR)を下回った時点をピークの終了点と判断する。もちろん、これ以外に、例えばピークのカーブの傾きを判断してピークの開始点、終了点をそれぞれ検出してもよく、信号強度の大きさとピークカーブの傾きとを併用してピークの開始点、終了点を検出してもよい。
【0024】
マススペクトル作成部22は、MS検出器14から得られる検出信号に基づいて、所定の質量範囲のマススペクトルをリアルタイムで繰り返し作成する。実際には、LC分析が実行される全期間に亘ってマススペクトルを作成する必要はなく、ピーク範囲識別部23において目的成分のクロマトグラムピークが検出されている期間中だけマススペクトルを繰り返し作成すれば十分である。
【0025】
ピーク強度判定部24は上記マススペクトルに対してピーク検出を行い、分画条件設定部31により予め設定された目的成分の質量電荷比に対応するピークの強度を判定し、目的成分が相対的に高い濃度で含まれている期間を識別する。ここで具体的には、ピーク強度判定部24は、マススペクトルに現れている全てのピークの中で最大強度を与えるピークの強度をPmaxとしたときに、Pmax×α(ただし、α≦1)により閾値L(m/z)を設定し、目的成分の質量電荷比Mに対応するピークの強度がこの閾値L(m/z)を超えているか否かを判定するようにしている(図2(c)参照)。αは閾値L(m/z)を決めるための係数であり、これが小さすぎると別の成分の混入の可能性が高まるから、或る程度大きな値、例えば0.8以上に設定されるのが好ましい。α=1とした場合には、ピーク強度判定部24は、目的成分のピークが最大強度Pmaxを示すか否かを判定することになる。
【0026】
分画信号生成部25は、クロマトグラムに対するピーク範囲識別部23の処理結果と、マススペクトルに対するピーク強度判定部24の処理結果とに基づいて、目的成分を分画・分取するための分画制御信号を生成して分画制御部30に出力する。
【0027】
また、分画条件設定部31は目的成分の分取・分画の制御に必要な各種パラメータを分析者が設定するものである。具体的には、目的成分の保持時間、質量電荷比(m/z)を設定するほか、例えばクロマトグラムのピーク検出条件である閾値L(CR)、マススペクトル上のピーク強度の判定条件である係数α、などを設定することができる。もちろん、ピーク検出条件やスペクトルピーク強度判定条件は予め決められたデフォルト値を用いることもでき、その場合には分析者による入力は不要である。
【0028】
なお、データ処理部20や分画制御部30はパーソナルコンピュータ(PC)をハードウエア資源とし、このPCに予めインストールした制御・処理ソフトウエアをPC上で実行させることにより、それぞれの機能を実現させるようにすることができる。
【0029】
次に、本実施例の分取LC装置における分画動作の一例を、図2を参照しながら説明する。図2(a)は図3(a)と同じクロマトグラム波形、図2(b)は分画制御信号、(c)は一部のマススペクトルである。
【0030】
オペレータは分取作業に先立って、上述したような分画・分取に係るパラメータを分画条件設定部31より入力しておく。LC分析に伴う分取作業が開始されると、送液ポンプ2により一定流量で送給される移動相中にインジェクタ3から試料液が注入される。フラクションコレクタ9は、分画制御部30の制御の下で、当初は到来する溶出液を分取せずに廃棄する(例えば廃液容器に注入する)。
【0031】
移動相中に注入された試料液中の各種成分は分離カラム4を通過する間に分離され、時間差がついて分離カラム4から溶出する。溶出液の一部はスプリッタ6により分割され、その分割された溶出液中の成分が第2UV検出器13及びMS検出器14で検出される。クロマトグラム作成部21は第2UV検出器13又はMS検出器14による検出信号に基づき、クロマトグラムをリアルタイムで作成する。ピーク範囲識別部23は目的成分の保持時間近傍でそのクロマトグラムの信号強度が閾値L(CR)を超えた時点(t1)において、クロマトグラムピークの開始点であると判断し、ピーク開始点検出信号を分画信号生成部25及びピーク強度判定部24へ送る。
【0032】
一方、マススペクトル作成部22はMS検出器14による検出信号に基づき、マススペクトルをリアルタイムで繰り返し作成する。ピーク強度判定部24はピーク範囲識別部23からピーク開始点検出信号を受け取ると、マススペクトルに現れる目的成分のピークの強度の判定を開始する。そして、図2(c)に示すように、質量電荷比がMである目的成分のピークの強度が閾値L(m/z)を超えた時点(t3)でピーク強度検出信号を分画信号生成部20に出力する。それ以降も、ピーク強度判定部24は新たなマススペクトルが作成される毎に、そのマススペクトルに現れる目的成分のピークの強度の判定を継続する。そして、マススペクトル上で目的成分のピークの強度が閾値L(m/z)を下回った時点(t4)でピーク強度検出信号の出力を停止する。
【0033】
なお、目的成分のピークの強度が閾値L(m/z)を下回るよりも前にピーク範囲識別部23からピーク終了点検出信号を受け取った場合にも、ピーク強度検出信号の出力を停止するようにしてもよい。
【0034】
図2(b)に示すように、リアルタイムで得られるクロマトグラムのピークが下降し、その信号強度がt2で閾値L(CR)を下回ると、ピーク範囲識別部23は目的成分のクロマトグラムピークの終了点であると判断し、ピーク終了点検出信号を分画信号生成部25及びピーク強度判定部24へ送る。分画信号生成部25は、ピーク開始点検出信号が得られると同時又はそれよりも後にピーク強度判定部24からピーク強度検出信号を受け取ると、その時点で分画制御信号を立ち上げる。したがって、図2(a)、(c)の場合には、t3の時点で分画制御信号をローレベルからハイレベルにする。その後、ピーク終了点検出信号が得られた時点(t2)又はピーク強度判定部24からのピーク強度検出信号が無くなった時点(t4)のいずれか早いほうの時点で分画制御信号を立ち下げる。したがって、図2(a)、(c)の場合には、t2よりもt4が早いから、t4の時点で分画制御信号をハイレベルからローレベルにする。その結果、図2(b)に示す分画制御信号が生成される。
【0035】
即ち、分画制御信号がハイレベルになるのは、クロマトグラム上で目的成分のピークが検出されている期間であって、且つ、マススペクトル上で目的成分のピークの強度が閾値L(m/z)を超えている期間である。換言すれば、クロマトグラム上で目的成分のピークが検出されている期間(t1〜t2)であっても、マススペクトル上で目的成分のピークの強度が閾値L(m/z)を下回っているとき(t1〜t3、t4〜t2)には、溶出液中の目的成分の量が別の成分に比べて相対的に少ないと考えられるので、分画制御信号はローレベルとなる。
【0036】
上記分画制御信号を受けた分画制御部30は、分画制御信号がローレベルからハイレベルに変化したタイミングで溶出液の分取を開始し、その分画制御信号がハイレベルからローレベルに変化したタイミングで溶出液の分取を終了するようにフラクションコレクタ9を動作させる。以上のような処理及び制御によって、分画制御信号がハイレベルである期間(t3〜t4)にフラクションコレクタ9に導入された溶出液だけが一つの分取用容器に分画・分取される。上述したように、溶出液に目的成分が含まれていても、その成分の量が相対的に少ない場合には分取されないから、目的成分を高い濃度で分取することができる。なお、溶出液中の或る成分が検出されるタイミングとその或る成分を含む溶出液がフラクションコレクタ9に導入されるタイミングには時間ずれがあるから、そうした時間ずれが補正されるように分取の開始点・終了点は調整されるのは当然である。
【0037】
なお、ピーク強度判定部24における目的成分のピークの強度に基づくピーク強度検出信号の生成の方法は上述した方法に限らない。例えば、試料中に目的成分と保持時間が近い成分で目的成分よりも量が多いようなものがないことが既知である場合には、ピーク強度判定部24はマススペクトル上に現れるピークの中で目的ピークが最大強度であるか否かを判定し、目的ピークが最大強度となる場合にピーク強度検出信号を出力すればよい。これは上記実施例で係数αを1にすることに相当する。
【0038】
また、マススペクトル上で目的成分のピークの強度を判定する基準である閾値L(m/z)は、最大強度を与えるピークの強度Pmaxに基づいて決められるのではなく、別の方法で決められるようにしてもよい。例えば、全イオンの強度に所定の係数を乗じて閾値L(m/z)を決めるようにしてもよい。
【0039】
また、上記実施例のように、スプリッタ6により分割した溶出液中の成分を検出する構成ではなく、フラクションコレクタ9に到達する前の溶出液中の成分を直接検出し、その検出信号に基づいて作成されるクロマトグラムに現れるピークを利用して分画の制御を行うこともできる。即ち、図1中の第1UV検出器8の検出信号を用いることもできる。但し、その場合には、時間調整のためのループ管7は第1UV検出器8とフラクションコレクタ9との間に設けるようにする。
【0040】
また、それ以外の点について、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
【符号の説明】
【0041】
1、10…移動相容器
2…送液ポンプ
3…インジェクタ
4…分離カラム
5…溶出流路
6…スプリッタ
7…ループ管
8、13…UV検出器
9…フラクションコレクタ
11…メイクアップポンプ
12…検出流路
14…MS検出器
20…データ処理部
21…クロマトグラム作成部
22…マススペクトル作成部
23…ピーク範囲識別部
24…ピーク強度判定部
25…分画信号生成部
30…分画制御部
31…分画条件設定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の成分を分離するカラムと、該カラムからの溶出液中の成分を検出するための少なくとも質量分析計を含む検出器と、前記溶出液を分画して分取するフラクションコレクタと、を具備する分取液体クロマトグラフ装置において、
a)目的試料に対する分析の進行に伴い前記検出器により順次得られる検出信号に基づいて作成されるクロマトグラム上で、目的成分に対するピークを検出するクロマトグラムピーク検出手段と、
b)前記目的試料に対する分析中に前記質量分析計により得られる検出信号に基づいて繰り返し作成されるマススペクトル上で、前記目的成分に対するピークの強度に基づいて該目的成分の含有量が相対的に多い期間を推定するスペクトルピーク判定手段と、
c)前記クロマトグラムピーク検出手段により目的成分に対するピークが検出され、且つ、前記スペクトルピーク判定手段により前記目的成分の含有量が相対的に多いと推定される期間を該目的成分の分画範囲と定める分画範囲決定手段と、
d)前記分画範囲決定手段により設定された分画範囲に従って前記フラクションコレクタによる分画のタイミングを制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする分取液体クロマトグラフ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の分取液体クロマトグラフ装置であって、
前記マススペクトルピーク判定手段は、マススペクトル上における目的成分に対するピークの強度を、該マススペクトル上のピークの最大強度に基づいて決められる閾値と比較することにより、該目的成分の含有量が相対的に多い期間を推定することを特徴とする分取液体クロマトグラフ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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