説明

分子レベルの定量による細菌性膣炎の診断および追跡調査の方法

本発明は、細菌性膣炎の存在に関して膣内細菌叢の状態を診断およびin vitroで追跡調査する方法、ならびに必要な場合には細菌性膣炎の治療的処置を追跡調査する方法に関する。該方法は、患者の膣分泌物のDNA抽出物における細菌アポトビウム・バギナエおよびガードネレラ・バギナリスの単一コピーDNAとして存在する特異配列の濃度が少なくとも下記の2つの条件a)およびb)すなわち:a)アポトビウム・バギナエ由来の前記DNAフラグメントの濃度Caが10コピー/ml以上であること、およびb)ガードネレラ・バギナリス由来の前記DNAフラグメントの濃度Cgが10コピー/ml以上であること、を満たす場合に、細菌性膣炎の存在または現行の治療的処置の失敗が判定されるという特徴を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌性膣炎(BV)の存在に関して、または適用可能な場合には、細菌性膣炎の治療管理を追跡するために細菌性膣炎の転帰に関して、膣内細菌叢の状態を診断および追跡調査するin vitroの方法に関する。
【背景技術】
【0002】
妊娠にとって非常に有害な一般的感染症であるBVを診断するための現在の技法は、信頼性の低い基準に基づいている。何種類かの細菌がこの疾患に関係していると言われてきたが、信頼できる分子レベルの定量および定性を活用してはいなかった。
【0003】
長い間、BVは、微生物学的見地から、ラクトバチルス属細菌が他の細菌、特にガードネレラ・バギナリス(Gardnerella vaginalis)、モビルンカス属細菌(Mobiluncus spp.)、および生殖器マイコプラズマに屈し、主としてラクトバチルスで構成される正常な膣内細菌叢がほとんど消失することをもって定義されてきた[非特許文献1および2]。BVは多くの女性を診療室へと導き、特に、HIVのような性感染症への罹病性に関与し、また妊娠の場合には未熟児および低出産体重児に関与する。女性(妊婦を含む)におけるBV有病率は、現行の調査法によれば8〜23%である[非特許文献3]。
【0004】
しかしながら、文献を再検討すると、この病的状態の治療管理への影響に関しては論争がある。BVを治療した場合の早産のリスクの低下を示した初期の研究を確認することはできなかった[非特許文献4および5、非特許文献3、非特許文献6〜10]。
【0005】
本発明の当初の目的は、妊娠中のBVの影響、および妊娠中のBVの治療管理の有効性を評価することであった。しかしながら、そうするための客観的な診断ツールが利用可能ではなかった。文献の検討から、BVの診断および追跡調査のための合理的ツールが存在しないことが主な原因で、この疾患の治療管理に関して大きな混乱があることが明らかである。
【0006】
現在利用可能な2つの診断ツールはNugentスコアおよびAmsel基準である。実施が煩雑であるため臨床微生物学実験室において日常的には使用されないにもかかわらず、Nugentスコアは文献中で報告の最も多い方法であり、一部の人々にはゴールドスタンダードと考えられている[非特許文献11〜14]。Nugentスコアはグラム染色後に細菌を半定量的に形態分析することによってBVを同定する。従ってこれは主観的な技法であり、その再現性には疑問がもたれてきた[非特許文献15および16]。Amselの臨床基準(膣内pHが4.5を上回る;灰色がかった均質で粘着性の帯下;10%KOH添加後の窒素臭;クルーセルの存在)は、第2の診断手法の代表である[非特許文献17]。Nugentスコアと同様にこれも煩雑であり、日常的な臨床業務においては使用されていない。
【0007】
これらの診断法の、最も弊害の大きい限界のうちの1つは、BVに関与する特定の微生物を同定できないことである。一方では、マイコプラズマは壁を持たないのでグラム染色されず、Nugent法によってスコア化することができない。他方では、分子生物学的知識によりBVに関与する可能性のある新しい細菌を同定することが可能となっているものの、該細菌を既存の2つの診断法により実証することは不可能である。アトポビウム・バギナエ(Atopobium vaginae)は、特徴解析が為された主な新しい細菌種である。該細菌の存在はいくつかの論文においてBVと関連付けられているが、他の微生物との相対的な位置付けに関する、信頼できる定量的な評価はなされていない[非特許文献18〜22]。
【0008】
ブラッドショーらによって最近発表された論文[非特許文献18]には、細菌A.バギナエおよびG.バギナリスの検出とBVとの間の関連が記載されているが、これらの結果は、BVの診断および/またはBVの転帰の信頼性の高い追跡調査を行うには不十分である。この論文で示されたデータは上記細菌のスクリーニングを可能にしているが、実際に定量化はされていない。さらに、このスクリーニングは、A.バギナエおよびG.バギナリスがBV患者のそれぞれ96%および99%において検出されたので、良好な感度を示した。しかしながら、正常細菌叢を有する患者の12%においてA.バギナエが、60%においてG.バギナリスが検出されたので、特異性は不十分である。
【0009】
そこで著者らは、分析標本における微生物検出の平均CT(サイクル閾値)との比較により細菌負荷を低いか高いか分類することによる「半定量的」手法を試みた。こうして著者らは、G.バギナリスについて4×10コピー(21サイクルに相当する平均)およびA.バギナエについて4×10コピー(18サイクルに相当する平均)の平均負荷を概算した。高負荷のG.バギナリス(>4×10)およびA.バギナエ(>4×10)は、BV患者において正常細菌叢を有する患者よりも顕著にみられた。しかしながら、A.バギナエおよびG.バギナリスがBV患者の49%および71%にしか検出されなかったように(表1)、これらの値の感度は不十分である。さらに、治療後にBVを再発した16人の患者(28%)は、所定の閾値より低いG.バギナリス濃度を有していた(表3)。BVを再発した40人の患者(70%)も、閾値より低いA.バギナエ濃度を有していた。
【0010】
従って、著者らの「半定量的」手法は、患者の診断および当座の追跡調査のツールとしてのみ適用可能である。これらの結果を得るために使用した技法は、いくつかの点で不適当であった。第1に、分子標的によって増幅されるフラグメントが長すぎたので(16SリボソームRNAの430塩基対(A.バギナエ)および291塩基対(G.バギナリス))、該PCR法は十分な感度ではなかった。そのような長いPCR反応において標的とされた配列を用いると感度が低いことがここで確証された。さらに、リアルタイムPCR技法は検出および定量に増幅産物のSybrGreen標識を使用し、それは3重の特異性(大きさが120塩基対を超えないフラグメントを増幅するための2つのプライマーおよびプローブ)を必要とする標識加水分解プローブを使用する方法よりも、特異性の低い方法である。定量は通常、長期間にわたって比較できる安定で再現性の良いプラスミド範囲の関数としてではなく、可変的な標準を用いて行われる。最後に、標本の品質評価を可能にする定量用の対照ツールを活用していない:試料中のヒトβ‐グロビンを定量することなく存在のみを調べている。従って、細菌量の変動が、採取された膣分泌物における質的かつ量的変動に関連しているかもしれないので、試料を相互に定量的に比較することは非常に困難であった。
【0011】
従って、BVの治療管理を評価するためには、BVの診断および膣内細菌叢の定性的かつ定量的なモニタリングのための信頼性の高いツールの開発が不可欠である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】シュピーゲル CA(Spiegel CA)、CMR 1991
【非特許文献2】トーセン P(Thorsen P)、AJGO 1998
【非特許文献3】ギーズ JM(Guise JM)、AJPM 2001
【非特許文献4】モラレス HJ(Morales HJ)、AJOG 1994
【非特許文献5】ホース JC(Hauth JC)、NEJM 1995
【非特許文献6】マクドナルド H(McDonald H)、CDSR 2005
【非特許文献7】バルマー R(Varma R)、EJOGRB 2006
【非特許文献8】オークン N(Okun N)、OG、2005
【非特許文献9】ライティヒ H(Leitich H)、AJOG 2003
【非特許文献10】グェルラ B(Guerra B)、EJOGRB 2006
【非特許文献11】フレドリクス DN(Fredricks DN)、NEJM 2005
【非特許文献12】トマソン JL(Thomason JL)、AJOG 1992
【非特許文献13】イーソン CA(Ison CA)、STD 2002
【非特許文献14】ニュージェント RP(Nugent RP)、JCM 1991
【非特許文献15】シャー BE(Sha BE)、JCM 2005
【非特許文献16】シュウェブキー JR(Schwebke JR)、OG 1996
【非特許文献17】アムセル R(Amsel R)、AJM 1983
【非特許文献18】ブラッドショー CS(Bradshaw CS)、JID 2006
【非特許文献19】ロドリゲス JM(Rodriguez JM)、IJSB 1999
【非特許文献20】フェリス MJ(Ferris MJ)、BMCID 2004
【非特許文献21】フェリス MJ(Ferris MJ)、JCM 2004
【非特許文献22】フェルヘルスト R(Verhelst R)、BMCM 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、より信頼性が高く、より正確で、かつ臨床の微生物分析実験室において日常的に使用することが容易な、BVの診断およびモニタリングのための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的のために、本発明者らは、204人の妊婦からの膣標本について検討し、かつBVに関与する各微生物について調べて、特定の細菌のDNAの検出を可能にし、かつ参照用プラスミドの構築により確立されたプラスミド範囲によって細菌負荷の測定を可能にするリアルタイムPCR法を開発した。上記プラスミドは、増幅および定量すべき前記細菌の特異的DNAフラグメント、ならびに生体標本の豊富度だけでなくDNA標本および分子増幅の品質をも制御するために使用されるヒトアルブミン遺伝子の特異的DNAフラグメントを有している。調べた標的微生物(ラクトバチルス属細菌(Lactobacillus sp.)、G.バギナリス、モビルンカス・クルティシイ(Mobilincus curtisii)、モビルンカス・ムリエリス(Mobilincus mulieris)、ウレアプラスマ・ウレアリチクム(Ureaplasma urealyticum)、マイコプラズマ・ホミニス(Mycoplasma hominis)、A.バギナエ、およびカンジダ・アルビカンス(Candida albicans))は、BVまたは早産のうち少なくともいずれか一方に関与している可能性があると報告されたものとした。分子生物学によって得られた様々な微生物の定量結果を、Nugentスコアによる分類と比較した。
【0015】
本発明によれば、ある閾値濃度を起点とするA.バギナエの存在が、非常に特異的かつ顕著にBVに関連している可能性があること、およびこの分子レベルの検出により診断が簡単かつ信頼性の高いものとなることが実証された。
【0016】
細菌G.バギナリスについての特異的BV閾値濃度の存在も、本発明によって実証された。
さらに、ある濃度の上記2種類の細菌の組み合わせによって、95%を越える陽性予測率、およびとりわけ99%を越える陰性予測率をもってBVを診断することができることも実証された。
【0017】
さらに、BVの際には、膣内に通常存在するラクトバチルス属細菌の濃度が減少し、また本発明によって、ある閾値濃度を過ぎるとこれらのラクトバチルス属細菌の定量により信頼性をもってBVを診断することが可能となることが実証された。最終的に、G.バギナリス+A.バギナエの濃度に対するラクトバチルス属細菌濃度の比の変化により、信頼性をもってBVの経過を評価できることが実証された。
【0018】
より具体的には、本発明は、細菌性膣炎の存在に関して膣内細菌叢の状態をin vitroで診断および追跡調査するための、ならびに適用可能な場合には細菌性膣炎の治療をモニタリングするための方法を提供し、該方法は:
【0019】
1)細菌アトポビウム・バギナエ(Atopobium vaginae)およびガードネレラ・バギナリス(Gardnerella vaginalis)の濃度を;
・患者由来の膣帯下標本から抽出されたDNA中の、前記細菌アトポビウム・バギナエおよびガードネレラ・バギナリスのDNA中に単一コピーとして存在する前記細菌アトポビウム・バギナエおよびガードネレラ・バギナリスの特異配列の濃度と、ヒト細胞を含むすべての生体標本中に存在するヒト遺伝子の特異配列の濃度とを測定することと、前記特異配列は大きさが150ヌクレオチド未満であることと;
【0020】
・一方では標本から抽出された前記DNA中に含まれる前記特異配列、他方では前記細菌の各々の前記特異配列およびすべてのヒト細胞生体標本に存在するヒト遺伝子の前記特異配列を含む合成DNAフラグメントの試料中に含まれる前記特異配列を、PCRにより酵素的に同時増幅することと、前記試料はDNAを定量するための検量標準品としての役割を果たすことと;
【0021】
・前記細菌アトポビウム・バギナエおよびガードネレラ・バギナリスの前記特異配列ならびにすべてのヒト細胞生体標本に存在するヒト遺伝子の前記特異配列各々のための増幅プライマーの配列とは異なる配列を備えた標識プローブを助力として、前記増幅フラグメントの検出および定量を実行することと;
【0022】
によって定量するステップ、ならびに
2)ヒト細胞を少なくとも10個/mL含んでいる患者の膣帯下標本中の細菌アトポビウム・バギナエおよびガードネレラ・バギナリスの2つの前記特異配列のDNAフラグメントの濃度が、次の2つの状態a)およびb)すなわち:
【0023】
a)アトポビウム・バギナエの前記DNAフラグメントの濃度Caが10コピー/mL以上であること;および
b)ガードネレラ・バギナリスの前記DNAフラグメントの濃度Cgが10コピー/mL以上であること;
【0024】
のうち少なくとも一方に合致する場合は、細菌性膣炎の存在、または進行中の治療の失敗を判定するステップ;
を特徴とする。
細菌アトポビウム・バギナエの濃度が閾値10以上であると、膣炎の約90%を検出することが可能となる。細菌10個/mL以上のG.バギナリスの検出閾値は単独では膣炎症例のおよそ半分しか検出することができないと思われるので、アトポビウム・バギナエの濃度が細菌10個/mLの閾値未満である場合に、膣炎を検出するために、細菌ガードネレラ・バギナリスの定量を追加として使用することが可能である。このため、本発明によれば、両方の細菌についてのDNA濃度の定量が必要である。
【0025】
さらに、患者の膣帯下標本から抽出されたDNA中の、細菌A.バギナエ(Ca)、G.バギナリス(Cg)およびラクトバチルス属細菌(Cl)のDNA中に単一コピーとして存在する特異配列の少なくとも3つのフラグメントの濃度Ca、CgおよびClについて、濃度比Cl/(Ca+Cg)が、十分な時間間隔で、好ましくは少なくとも1か月間隔で順次採取された2つの標本間で低下する場合、細菌性膣炎の発症が確認されるということに留意すべきである。
【0026】
「膣炎の発症」とは、本明細書では、既に検出済みの膣炎の悪化、または、ある場合には、膣炎が出現するリスク、すなわち病的状態に至ることもあり得る膣内細菌叢の平衡失調もしくは異常であると理解される。
【0027】
同様に、濃度比Cl/(Ca+Cg)が、十分な時間間隔で、好ましくは少なくとも1か月間隔で順次採取された2つの標本間で低下するかまたは増大しない場合は、細菌のDNA中に単一コピーとして存在する特異配列の濃度の関数として、進行中の治療の失敗が確認される。
【0028】
より具体的には;
a)ステップ1)においてさらに、少なくともラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・クリスパタス(Lactobacillus crispatus)、ラクトバチルス・ジェンセニイ(Lactobacillus jenseneii)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)およびラクトバチルス・イネルス(Lactobacillus iners)を含むラクトバチルス属細菌を;
【0029】
・前記ラクトバチルス属細菌の特異配列の濃度をさらに測定することと、前記ラクトバチルス属細菌の特異配列は前記ラクトバチルス属細菌のDNA中に単一コピーとして存在し、大きさは150ヌクレオチド未満であることと;
【0030】
・一方では標本から抽出された前記DNA中に含まれるラクトバチルス属細菌の特異配列、他方では前記ラクトバチルス属細菌の前記特異配列を追加として含む合成DNAフラグメントの試料中に含まれるラクトバチルス属細菌の特異配列を、PCRにより酵素的にさらに同時増幅することと、前記ラクトバチルス属細菌の前記特異配列を含む前記合成DNAフラグメントは定量用標準品としての役割を果たすことと;
【0031】
・前記アトポビウム・バギナエ、ガードネレラ・バギナリスおよびラクトバチルス属細菌の前記特異配列、ならびにヒト細胞を含むすべての生体標本に存在するヒト遺伝子の前記特異配列各々のための増幅プライマーの配列とは異なる配列を備えた標識プローブを助力として、前記増幅フラグメントの検出および定量を実行することと;
【0032】
によって定量すること、ならびに
b)ステップ2)において、前記ラクトバチルス属細菌の特異的DNAフラグメントの濃度Clがさらに10コピー/mL以下、好ましくは10コピー/mL以下である場合に、細菌性膣炎が判定されること;
【0033】
を特徴とする方法が創出される。
本発明によれば、ラクトバチルス属細菌の濃度は細菌性膣炎の存在を結論付けるには不十分であるが、A.バギナエおよびG.バギナリスの濃度を組み合わせた場合には補完または確証となる。
【0034】
好ましくは、前記濃度が次の3つの条件:
a− アトポビウム・バギナエの特異配列の前記DNAフラグメントの濃度Caが10コピー/mL以上であること;
【0035】
b− ガードネレラ・バギナリスの特異配列の前記DNAフラグメントの濃度Cgが10コピー/mL以上であること、および
c− ラクトバチルス属細菌の特異配列の前記DNAフラグメントの濃度Clが10コピー/mL以下であること;
【0036】
を満たす場合に細菌性膣炎と判定される。
好都合には、細菌アトポビウム・バギナエ、ガードネレラ・バギナリス、および適用可能であればラクトバチルス属細菌の特異配列の前記DNAフラグメントと、同様に好ましくは細胞を含むあらゆるヒト生体標本中に存在するヒトDNAフラグメントのDNAをリアルタイムPCRにより酵素的に増幅および定量することにより、前記濃度Ca、CgまたはClを測定する。
【0037】
好ましくは、前記細菌アトポビウム・バギナエ、ガードネレラ・バギナリス、および適用可能であればラクトバチルス属細菌の、前記特異配列は、大きさが70〜150ヌクレオチド、好ましくは90〜120ヌクレオチドである。
【0038】
さらに好ましくは、リアルタイムPCRによる増幅反応および定量化反応は、被験標本中の、前記細菌の前記特異配列およびヒト細胞を含むあらゆる生体標本中に存在するヒト遺伝子の特異配列の各々に特異的な加水分解プローブを使用して実施される。
【0039】
リアルタイムPCR技法は、順方向配列および逆方向配列のプライマーを用いる古典的PCRで構成され、いわゆる「加水分解」プローブを用いた、増幅遺伝子の量に比例する蛍光発光の計測に基づいた増幅産物の検出を含んでいる。この目的のために、前記プローブを、5’は蛍光発光体またはフルオロフォアで、3’は蛍光発光を妨害する物質で標識する。この妨害物質は、フルオロフォアと妨害物質とが互いに接近している時は放射された蛍光を吸収する。フルオロフォアと妨害物質とが離れると、蛍光発光は妨害物質に吸収されなくなる。Taqポリメラーゼは通過する際にプローブの加水分解を引き起こし、その結果溶液中にヌクレオチドおよびフルオロフォアの放出を引き起こす。このように蛍光発光は増幅数に比例することになる。リアルタイムPCRの原理は、伸長ステップの際に複製されるDNA上にハイブリダイズしたプローブを加水分解するTaqポリメラーゼの能力に基づき、この加水分解により蛍光発光が可能となり、蛍光発光により定量が可能となる。第1の標的に対する2つのプライマーおよび1つのプローブ、ならびに他の標的に対する別の2つのプライマーおよびプローブを反応混合物中に導入することにより、同一の反応の間に2つの異なる標的を定量することもできる。前記2つのプローブは異なるフルオロフォアで標識する。
【0040】
さらに好ましくは、DNA定量の参照標準品としての役割を果たす大きな合成DNAフラグメントを使用し、前記大きな合成DNAフラグメントは、濃度定量の対象である前記細菌各々の前記特異配列と、ヒト細胞の前記ヒトDNA特異配列とを寄せ集めたものである。所定の核酸フラグメント上にいくつかの分子標的が存在することにより、所定の標本中の異なる標的を定量することが可能となり、かつ均一に同時定量することが可能となる;数種類の分子について同じ参照範囲を使用する定量により、様々なPCR反応の有効性を相互に比較し、経時的に相互に識別して、陽性対照に関連するバイアスを回避することができる。
【0041】
「前記細菌の特異配列」とは、前記細菌のゲノムの配列であって他の生物のゲノム中には見られない配列とする。
「DNAフラグメント」とは、その配列を5’→3’方向で以下に記載するDNAフラグメントまたはオリゴヌクレオチドであるものとする。
【0042】
より具体的には、前記細菌の前記特異配列としては:
− アトポビウム・バギナエ細菌については:16SリボソームRNA遺伝子(GenBank参照番号AY738658.1)の248〜334位のフラグメント;
【0043】
− ガードネレラ・バギナリス細菌については、シャペロンタンパク質60kDaのCpn60遺伝子(GenBank参照番号AF240579.3)の981〜1072位のフラグメント、ならびに
【0044】
− ラクトバチルス属細菌については、伸長因子をコードするtuf遺伝子中の、ラクトバチルス・クリスパタス、ラクトバチルス・ジェンセニイ、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・イネルス、およびラクトバチルス・アシドフィルスに共通の配列であってGenBank参照番号AY562191.1の遺伝子の253〜343位の配列
【0045】
が挙げられる。
さらに具体的には、前記細菌の前記特異配列は、プローブ配列(下線)とその前後のプライマー配列(太字)を含む以下の配列:
【0046】
− アトポビウム・バギナエについては:
【0047】
【化1】

− ガードネレラ・バギナリスについては:
【0048】
【化2】

− ラクトバチルス属細菌については
【0049】
【化3】

または該配列のアンチセンスプライマー用の逆方向かつ相補的な配列である。
好都合には、前記標本中、特に被験膣標本から得られたDNA中に存在するヒト細胞が、サンプリングの豊富度、DNA抽出の質、およびPCR反応阻害剤が存在する可能性に関する対照として定量される。この目的のために、細胞を含むあらゆるヒト生体標本中に存在するヒト遺伝子のコピー数、具体的にはヒトアルブミン遺伝子のコピー数を定量する。このようにヒトアルブミン遺伝子の定量は、標本の品質および豊富度を証明するための内部対照としての役割を果たす。さらに、患者の追跡調査の際には、この定量は異なる時期に得られた2つの標本の間の正規化の手段である。その理由は、ヒト細胞100万個あたりの微生物の数を計算することにより正確な標本間の比較を行うことができるからである。アルブミン遺伝子はヒト細胞中に2コピーだけ存在し、この配列のシグナルを計測することにより標本中の当初のヒト細胞数が定量される。試料5μl当たりの細胞数が50個(細胞10個/mL)以下、またはアルブミンDNAの量が10/5μL以下の場合は、その標本は量的に不十分であるため却下する。
【0050】
標本の品質、輸送および保存状態が様々であるため、このように本発明には、信頼性の高い定量を伴って診断を体系化することを可能にする分子レベルの品質管理が含まれる。
細胞の定量はさらに、検出すべきPCR反応制限因子を無くすことを可能にする:標本を様々な希釈率でPCRにより試験する時、検出されるアルブミンの量は、制限因子の存在下で希釈率を上げると増大するが、PCR反応の制限因子の不存下で希釈率を上げると減少する。
【0051】
より具体的には、前記試料中に含まれるヒトDNAの定量が実施され、かつ前記大きなDNAフラグメントは特異的アルブミン配列のような被験標本中のヒトDNA特異配列をさらに含む。
【0052】
さらに具体的には、試験標本中の前記ヒトDNA特異配列は、GenBank参照番号M12523.1のヒトアルブミン遺伝子のエキソン12の16283‐16423位のフラグメントであって、次の配列または相補配列:
【0053】
【化4】

好ましくは、配列番号17のような、プライマーに対応する配列(太字の配列)およびプローブ配列(下線を付した配列)以外の場所に切断部位、特にXhoI部位(削除された括弧内の配列)を挿入することによって修飾された配列番号1のフラグメントを含む。
【0054】
ここでも好都合には、増幅反応および定量反応は、前記被験細菌、および適用可能な場合には特異的ヒトアルブミン配列のような試験標本中のヒトDNAの特異配列、のそれぞれに特異的な加水分解プライマーおよびプローブのセットを使用することにより行われ、前記特異配列は、PCRによる前記特異配列の増幅反応におけるプライマーとしての役割を果たすことができる配列に囲まれたプローブ配列を含む。
【0055】
「プローブ」とは、本明細書において、オリゴヌクレオチドであって、好ましくは20〜30ヌクレオチド長であり、前記特異配列と特異的にハイブリダイズし、従ってPCR反応に関連した蛍光の増大を計測することにより特異的に検出および定量することが可能なものであると解される。
【0056】
該プローブによって、シグナル強度を定量標準品のシグナル強度と比較することにより、増幅された特異的DNAを検出および定量することができる。
「プライマー」とは、本明細書において、好ましくは15〜25ヌクレオチドのオリゴヌクレオチドであってDNAポリメラーゼがPCR反応において増幅する配列の両端のうちの一方と特異的にハイブリダイズするものであると解される。
【0057】
より具体的には、プライマーとプローブとのセットは、適用可能な場合には本願に添付された配列表の以下の配列すなわち:
− アトポビウム・バギナエ用として:
プライマー5’:配列番号5=5’‐CCCTATCCGCTCCTGATACC‐3’
【0058】
プライマー3’:配列番号6=5’‐CCAAATATCTGCGCATTTCA‐3’
プローブ:配列番号7=5’‐GCAGGCTTGAGTCTGGTAGGGGA‐3’
【0059】
− ガードネレラ・バギナリス用として:
プライマー5’:配列番号8=5’‐CGCATCTGCTAAGGATGTTG‐3’
【0060】
プライマー3’:配列番号9=5’‐CAGCAATCTTTTCGCCAACT‐3’
プローブ:配列番号10=5’‐TGCAACTATTTCTGCAGCAGATCC‐3’
【0061】
− ラクトバチルス属細菌用として:
プライマー5’:配列番号11=5’‐TACATCCCAACTCCAGAACG‐3’
【0062】
プライマー3’:配列番号12=5’‐AAGCAACAGTACCCACGACCA‐3’
プローブ:配列番号13=5’‐TGACAAGCCATTCTTAATGCA‐3’
【0063】
− ヒトアルブミン用として:
プライマー5’:配列番号14=5’‐GCTGTCATCTCTTGTGGGCTGT‐3’
【0064】
プライマー3’:配列番号15=3’‐AAACTCATGGGAGCTGCTGGTTC‐3’
プローブ:配列番号16=5’‐CCTGTCATGCCCACACAAATCTCTCC‐3’
【0065】
またはこれらの相補配列から選択されて使用される。
好ましくは、定量化のための参照標準試料のDNAを構成する前記大きな合成DNAフラグメントはプラスミドに挿入される。
【0066】
これらのDNA定量法において、陽性反応が、定量用標準品または陽性対照として使用される組換えプラスミドの混入によるものかどうかを知ることは重要である。この問題を解決するために、該合成分子標的のうち少なくとも1つに制限酵素切断部位を導入すると好都合である。この部位は天然の配列には存在しない。従って、増幅されたフラグメントを酵素的に切断してアガロースゲルで分析することによって、または制限酵素切断部位を特異的に認識するリアルタイムPCRプローブを使用することによって、任意の混入プラスミドの存在を検出することができる。
【0067】
したがって、より具体的には、下記ステップを実行することが可能であり、該ステップは:
1)前記試験標本から抽出されたDNA中および標準参照試料のDNA中の、少なくとも1つの前記物質の少なくとも1つの前記特異配列のDNAの、PCRによる酵素的増幅反応を行うステップであって、少なくとも前記本来の特異配列および前記修飾特異配列の両方を増幅することができる少なくとも1セットのプライマーを助力とするステップ;
【0068】
2)前記試験標本から抽出されたDNA増幅物が前記特異配列を含むかどうかを検証するステップ、ならびに
3)標準参照試料由来のDNAによる前記試験標本への混入から生じるあらゆる偽陽性を、下記ステップのうち少なくとも1つによって検出するステップである:
【0069】
3a)得られたPCR産物を切断部位に対応する酵素で酵素消化し、該消化産物をアガロースゲル上で制限酵素によって消化されていないPCR産物と比較することにより分析するステップ。
【0070】
消化されるフラグメントが対照プラスミドに挿入された分子標的の増幅に由来する場合は、該フラグメントは制限酵素切断部位を含み、未消化のフラグメントより小さくなる。
3b)分子標的のうちの1つについての順方向および逆方向プライマーと、制限酵素切断部位を含む前記外因性の配列の特異的プローブとを用いてリアルタイムPCRによる反応を実施するステップ。
【0071】
対照プラスミドに由来し、かつ外因性の配列を含む1種類のフラグメントのみを増幅することができる。
より具体的には、試験標本中の前記ヒトDNA特異配列を使用し、該特異配列は、ヒトアルブミン遺伝子GenBank参照番号M12523.1のエキソン12の16283‐16423位のフラグメントを、プライマー(太字の配列)およびプローブ配列(下線を付した配列)に対応する配列以外の場所に切断部位(特にXhoI部位)を挿入することによって修飾した、以下の配列:
【0072】
【化5】

(プライマー(太字の配列)およびプローブ配列(下線を付した配列)に対応する配列以外の場所にXhoI部位(括弧内)を含んでいる)を含む。
より好都合には、PCRによる複数の酵素的増幅反応を、前記細菌の前記特異配列それぞれを同一の大きな標準合成DNAフラグメントとともに用いて同時にまたは別々に、前記細菌各々の様々な前記特異配列各々の特異的プライマーの複数の異なるセットを助力として実施することによって、様々なプライマーの配列が前記様々な細菌の間で互いに交わることはなく、また同じプロトコール(特に同じハイブリダイゼーション温度)で行なわれる酵素的増幅反応において前記プライマーを使用することができる。
【0073】
いくつかのフラグメント、特に異なる起源のフラグメントを組み合わせた大きなキメラDNAフラグメントを構築するための様々な方法が知られており、特に仏国特許出願第2882063号明細書に記載されている方法では、第1の大きな二本鎖構造の合成DNAフラグメントが、耐熱ポリメラーゼ酵素を使用した酵素的増幅による複数のn個のオリゴヌクレオチドの二量体化で本質的に構成される、複数のn個の小さな連続的な第2の合成DNAフラグメントが特定の順序をなした鎖を含んでなる所定の配列として調製され、前記酵素的増幅は:
【0074】
− 外生のプライマーを用いない、所定の配列を備えた一連のn個のオリゴヌクレオチドの前記ポリメラーゼ酵素存在下でのPCRによる核酸増幅反応で構成される第1ステップであって、前記オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションとその後の得られた複合体の伸長を可能にする温度条件下の一連のサイクルを含み、前記複合体は前記オリゴヌクレオチドの末端と末端とが所与の順序に配置されるように設計され、前記オリゴヌクレオチドの配列は、様々な前記第2の合成フラグメントの配列のセンス配列およびアンチセンス配列に連続的または交互に対応しており、前記オリゴヌクレオチドはそれぞれ、適用可能な場合には該オリゴヌクレオチドの5’領域および3’領域に、後続および先行するオリゴヌクレオチドの5’領域および3’領域と相補的な配列を含むことを特徴とするステップと;
【0075】
− 調製すべき第1の大きな合成フラグメントの前記順方向の鎖の5’末端および3’末端に特異的なプライマーの助力を用いる第2の増幅ステップであって、前記第1の大きなフラグメントの同一コピーの生産を可能にするステップと
【0076】
を含む。
従って、この技法は、プライマーの相互ハイブリダイゼーション(プライマーの二量体化)で構成されるPCRアーチファクトを利用しかつ使いこなすことに基づく。この現象は、PCR条件(特に温度)が不適当で、プライマーが部分的に相補的な配列を含む場合に観察される。
【0077】
このように該構築技法は、標的配列から、順方向のオリゴヌクレオチド配列(「センス」)と逆方向(または「アンチセンス」)のオリゴヌクレオチド配列とが交互になっているオリゴヌクレオチド配列を選択することから成る。これらのオリゴヌクレオチドの末端と末端との配置を可能にするために、あるオリゴヌクレオチド配列の3’に、次のオリゴヌクレオチドの最初のヌクレオチドに相補的なヌクレオチド配列を導入するように注意する。これらのオリゴヌクレオチドはその相補的な部分によってハイブリダイズすることになり、例えばTaqポリメラーゼのポリメラーゼ活性により5’から3’への合成が行われて二本鎖のフラグメントが得られる。最終的な(組み立てられた)フラグメントは、所望の第1の大きな合成二本鎖DNAフラグメントの末端の配列に対応する順方向プライマーおよび逆方向プライマーの対を使用して、PCRによって合成される。
【0078】
上述のように、前記大きな合成DNAフラグメントをプラスミドに好都合なように挿入すると好都合である。
この一般的な合成ヌクレオチドフラグメント構築技法により、対象とするいくつかの分子標的を連続的に配置することが可能となる。これは簡単、迅速、かつ信頼できる方法であり、煩雑かつ高価な設備を必要としない。
【0079】
本発明はさらに、本発明に従って膣炎の診断方法および追跡調査方法を実行するために使用される診断キットに関し、該キットは:
− 既知濃度の標準参照DNA試料であって、上記に定義された前記細菌それぞれの前記特異配列を、好ましくは1つの上記に定義された前記ヒトDNA特異配列を、より好ましくは上記に定義された前記細菌それぞれの前記特異配列と好ましくは1つの上記に定義されたヒトDNA特異配列とを含む1つの前記大きな合成DNAフラグメントを、含む試料、同様に
【0080】
− 前記細菌に特異的な前記修飾合成DNAフラグメントに特異的なプライマーのセット、およびより好ましくは上記に定義されるようなプローブ、ならびに
− PCRによるDNA増幅反応を実行するための試薬
を含むことを特徴とする。
本発明のその他の特徴は、配列表および図1〜4を引用した以下の様々な実施形態の詳細な説明から明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1A】Nugentスコアによって定義され、本発明のリアルタイムPCRによって定量された、20例の細菌性膣炎の微生物負荷の分析を示す図。
【図1B】Nugentスコアによって定義され、本発明のリアルタイムPCRによって定量された、167例の正常細菌叢の微生物負荷の分析を示す図。
【図2】Nugentスコアによって定義され、本発明のリアルタイムPCRによって定量された、44例の中間的細菌叢の微生物負荷の分析を示す図。
【図3】Nugentスコアによって定義された44例の中間的細菌叢の群から、本発明に従って分子レベルの基準により同定され、定量がなされた25例の細菌性膣炎について示す図。
【図4】Nugentスコアによって同定された44例の中間的細菌叢の群に細菌性膣炎の分子レベルの基準が適用された後で、本発明に従って分子レベルの基準により同定され、定量がなされた19例の正常細菌叢について示す図。
【発明を実施するための形態】
【0082】
I.患者、材料および方法
I.1 膣標本の入手および輸送
妊娠が判明した妊婦をマルセイユのラ・コンセプション(La Conception)病院で募集した。インフォームド・コンセントを参加の前提条件とした。標本を、消毒薬を用いずに無潤滑の滅菌膣鏡を用いて後膣円蓋から採取した。各々の女性から4つの試料を採取した:乾燥したチューブ内に入った綿棒(イタリア国ブレーシア所在のコパン・イノベーション(Copan innovation)(登録商標))による2つの試料、および細胞採取用ブラシ(Scrinet(登録商標)5.5mm、フランス国パリ所在のシーシーディーインターナショナル(C.C.D.International))による2つの試料である。一般的な綿棒のうち一方はすぐに細菌の培養に使用した。他方の綿棒は、生殖器マイコプラズマ(M.ホミニス(M. hominis)およびM.ウレアリチカム(M. urealyticum))について調べるために、特別な輸送培地(R1尿素‐アルギニンLYO2、フランス国マーシーレトワール所在のビオメリュー社(BioMerieux SA))の中に入れた。細胞採取用ブラシのうち一方はスライド上に塗抹してグラム染色するために使用した。分子増幅による定量用のDNAを抽出するための他方の細胞採取用ブラシは、500μLのMEM輸送培地(最少必須培地、米国カリフォルニア州カールスバード所在のインビトロジェン・ライフ・テクノロジーズ(Invitrogen Life Technologies))に入れて運んだ。これは実験室に到着した時から使用時まで−80℃で冷凍した。
【0083】
I.2 細菌学的分析
I.2.1 採取直後の状態
光学顕微鏡下(10×対物レンズ)にてスライドとカバーグラスとの間で採取後すぐに検査することにより、トリコモナス・バギナリス(Trichomonas vaginalis)について調べた。
【0084】
I.2 Nugentスコア:
I.2.2.1 グラム染色:
スライドグラスに標本を塗抹して乾燥させた後、グラム染色は:シュウ酸クリスタルバイオレットで染色(1分)、ルゴール液で染色(1分)、アルコール/アセトンを用いた脱色およびサフラニン溶液(ビオメリュー)を用いた呈色、という構成とした。各ステップの後で、水中ですすぎを行った。グラム染色により、3種の細菌形態型の半定量的評価からNugentスコアを定めることが可能となる(表1)。このスコアに従って、3種類の膣内細菌叢、すなわち:スコアが0〜3の正常細菌叢(NF)、スコアが4〜6の中間的細菌叢(IF)、およびスコアが7以上のBV、が同定される。
【0085】
I.2.2.2 培養
膣標本を、3種類の培地、すなわち:コロンビアANC寒天+5%ヒツジ血液(ビオメリュー)、チョコレートポリバイテックス(Chocolate Poly Vitex)PVX寒天(ビオメリュー)、CHOC VCAT寒天(ビオメリュー)に播種して37℃で48時間インキュベートした。マイコプラズマを検出するために、標本を特異的キット(尿素‐アルギニンLYO2、ビオメリュー)に播種して37℃でインキュベートし、嫌気培養培地(ビオメリュー)に接種して48時間培養した。
【0086】
I.3. リアルタイムPCRによる検出および定量
I.3.1 DNAの抽出
DNAの抽出は、QIAmp(登録商標)DNAミニキット(フランス国クルタブフ所在のキアゲン(Qiagen)(登録商標))を用いて実施した。プロトコールは以下のように変更した。すなわち:200μLの溶解バッファーおよび20μLのプロテイナーゼKあたり200μLの試料を56℃で12時間インキュベートした。溶解物を製造業者の推奨に従って処理した。DNAを100μLの溶出バッファー中に溶出させた後、−20℃で保存した。
【0087】
I.3.2 リアルタイムPCRの開発
I.3.2.1 分子標的の選択
GenBankのサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/GenBank/GenBankSearch.html)に供託された文献および配列データの分析から、標的微生物それぞれについて利用可能な配列に関する情報が得られた。選択された微生物それぞれの標的配列のプローブおよびフラグメントの特異性を、NCBIのウェブサイト(http://WWW.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)で特異性に関してテストした。
【0088】
本発明者らは、その役割が不確かな病原体を含むすべての潜在的な膣炎病原体から標的を選択した。驚くべきことに、最も重要な標的のアトポビウム・バギナエは決定的な病原体であるとは考えられていなかった。
【0089】
選択された標的は、G.バギナリスおよびM.クルティシイについては60KDaシャペロンタンパク質(Cpn60)をコードする遺伝子配列上に、M.ムリエリスおよびA.バギナエについては16S RNA、M.ホミニスについてはfts Y配列、U.ウレアリチクムについてはウレアーゼ配列、ならびにC.アルビカンスについてはトポイソメラーゼIII遺伝子の遺伝子配列上に位置づけられた。ラクトバチルス属細菌の標的については、ラクトバチルス・クリスパタス、ラクトバチルス・ジェンセニイ、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・イネルス、およびラクトバチルス・アシドフィルスに共通の配列が選択され;該配列は伸長因子tu(tuf)をコードする遺伝子上に位置している。試験標本中のDNAの存在および量を証明するために、ヒトアルブミン遺伝子のエキソン12の中の配列を選択した。
【0090】
I.3.2.2 プローブおよびプライマーの選択
調べた微生物(ラクトバチルス属細菌、G.バギナリス、M.クルティシイ、M.ムリエリス、U.ウレアリチクム、M.ホミニス、A.バギナエ、C.アルビカンス)およびヒトアルブミンそれぞれについて、Primer3(登録商標)プログラム(http://frodo.wi.mit edu/primer3/primer3_code.html)を使用して上記に定義した標的配列からプローブおよびセンス+アンチセンスプライマー対を選択した。プライマーおよびプローブは、以下の付録1に記載されている。プライマーおよびプローブそれぞれについて、特異性を保証するためにNCBIウェブサイト(http://WWW.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)にてin silicoで分析した(付録1)。
【0091】
リアルタイムの二重認識PCR(二重PCR)を実施するために、認識する微生物の対を適宜選択した:プローブのうち一方をFAMで、他方をVICで標識した。こうして4つのPCR対を規定した。
【0092】
― ラクトバチルス属細菌(FAM)およびG.バギナリス(VIC)
― M.クルティシイ(FAM)およびM.ムリエリス(VIC)
― U.ウレアリチクム(VIC)およびヒトアルブミン(FAM)
― A.バギナエ(VIC)およびC.アルビカンス(FAM)
― マイコプラズマ・ホミニス(FAM)は単独で定量することとした。
プライマーはユーロジェンテック(Eurogentec)(登録商標)(ベルギー国スラン所在)、およびプローブはアプライド・バイオシステムズ(Applied Biosystems)(英国チェシア州ウォリントン所在)によって合成された。
【0093】
I.3.2.3 様々な被験菌株についての特異性試験
プライマーおよびプローブの特異性を試験するために、参照用細菌株(L.アシドフィルス CIP104464、A.バギナエ CIP106431、G.バギナリス CIP103660、M.クルティシイ亜種ホルメシイ ATCC35242、M.ムリエリス ATCC35239、C.アルビカンス UMIP1180.79、U.ウレアリチクム CIP103755およびM.ホミニス CIP103715)から抽出したDNAを、リアルタイムPCRの開発(プライマーおよびプローブの相対量、特異性、交差反応の測定)のために3種の希釈率(1:10、1:100および1:1000)で使用した。それぞれの菌株を、プライマーおよび特異的プローブを用いて試験したが、他の7種の微生物のプローブおよびプライマー、ならびにヒトアルブミンのプローブおよびプライマーも用いて試験した。
【0094】
I.3.2.4 二重PCRの開発
CT値(サイクル閾値)を計測した。CTは、反応のベースラインと、増幅を表わす対数曲線とが交差する点である。このCT値は増幅が始まるのに必要な増幅サイクルの数に相当する。CT値は定量すべき核産物の濃度と関係し:濃度が高いほど、CTは低い。
【0095】
単一および二重の蛍光を用いて最適な増幅を得るために必要なプライマーおよびプローブの量を、等モル条件下の8つの参照用菌株由来の細菌DNA混合物について、また純粋な菌株を用いて、いずれの場合においても終濃度1:10について増幅反応を試験することにより規定する。使用する実験条件は、CT値が単一の蛍光を用いて得られるCT値と同一である条件とした。
【0096】
I.3.2.5 未試験の40株に対する特異性試験:
8つの参照用菌株以外の40種の異なる細菌株(付録)に由来するゲノムDNA試料を1:10希釈で試験した。これらすべての試験について、各増幅反応とともに、DNAを含まない陰性対照または陽性対照(8つの参照用菌株由来のDNAの混合)を注意深く導入した。特異性を、4つのリアルタイムPCR対ならびにマイコプラズマ・ホミニスを用いて試験した。
【0097】
I.4. プラスミドの構築
仏国特許出願第2 882 063号明細書に記載の方法を使用した。
I.4.1 定量用ハイブリッド・フラグメント配列:
定量用ハイブリッド・フラグメントのヌクレオチド配列を、8種の微生物およびヒトアルブミンのリアルタイムPCRの標的配列を並べることにより得た。本発明者らは、以下の付録2に記載の、931塩基対のハイブリッド・フラグメントを得た。
【0098】
I.4.2 定量用ハイブリッド・フラグメントの構築におけるオリゴヌクレオチド配列
上記ハイブリッド・ヌクレオチドフラグメントの配列を、付録3に記載の6つの連続するオリゴヌクレオチドフラグメントに分割した。隣接するオリゴヌクレオチドの連続性を保証するために、上流のオリゴヌクレオチドの3’末端の追加の10ヌクレオチドを、下流のオリゴヌクレオチドの5’末端に付加した。6つのオリゴヌクレオチド配列の長さは155〜172ヌクレオチドの範囲であった。これらの連続するオリゴヌクレオチドは、順方向および逆方向が交互になっている配列とした。したがって、オリゴヌクレオチド1、3および5は順方向配列の形で使用し、オリゴヌクレオチド2、4および6は逆方向配列の形で使用した。配列が定量用ハイブリッド・フラグメントの5’および3’の20ヌクレオチドの配列に相当するいわゆる「構築用」プライマー(センスおよびアンチセンス)を合成することとした。オリゴヌクレオチドおよびプライマーはユーロジェンテック(Eurogentec)(登録商標)により合成された。
【0099】
I.4.3 ハイブリッド・フラグメントの構築:
2つの隣接したオリゴヌクレオチドの末端が相補的であるため、増幅反応によって二本鎖ヌクレオチドフラグメントが構築された。段階的な2回のPCRが必要であった。
【0100】
I.4.3.1 1回目のPCR:
ここでは、オリゴヌクレオチドの末端のハイブリダイゼーションと、Taqポリメラーゼの活性に適合しうる場合には部分的な伸長とが可能であった。6種のオリゴヌクレオチドを等モル条件(0.2mMol)で、1×ポリメラーゼバッファーMgCl(1.5mMol)、dNTP(0.2mMol)、0.2μLのRoche Taq(ロッシュ(Roche)(登録商標))(5IU/μL)とともに、50μLの反応体積中に導入した。増幅プログラムは:95℃で2分と、続いて94℃で30秒(変性)、37℃で1分(ハイブリダイゼーション)、72℃で1分30秒(伸長)のサイクルを40サイクルとした。
【0101】
I.4.3.2 2回目のPCR:
ここでは、期待される末端間が結合したオリゴヌクレオチド群を含むPCRフラグメントが得られる(付録4)。1回目のPCRから得られた増幅産物1μLを、次の反応混合物すなわち:1×Hotstarポリメラーゼバッファー(キアゲン(登録商標))MgCl(1.5mMol)、dNTP(0.2mMol)、5IU/μLのHotstar(キアゲン(登録商標))を0.2μL、および0.2mMolの構築用のセンスプライマーおよびアンチセンスプライマー:に添加した。PCRプログラムは:95℃で15分と、続いて95℃で30秒、58℃で45秒、72℃で2分のサイクルを40サイクルと、72℃で5分とした。得られたPCRフラグメントを、0.5×TBEバッファー中の1.5%TBEアガロースゲルで分析した。フラグメントの長さが期待の長さである場合に、QIAquick(登録商標)PCR精製キット250PCR Qiakit(キアゲン(登録商標))を使用して該フラグメントを精製した。
【0102】
I.4.3.3 挿入物のクローニング
先述のようにして得られたフラグメント2μLを、5μLのリガーゼバッファー、1μLのリガーゼ、および1μLの直線化した脱リン酸化プラスミドPGEM(pGEM(登録商標)‐T Easy Vector System2キット、米国ウィスコンシン州マディソン所在のプロメガ(Promega)(登録商標))を含むライゲーション反応混合物に導入した。最終体積は10μLであった。ライゲーション反応産物を15℃で一晩インキュベートした。7μLのライゲーション反応産物を、20分間氷中に置いたコンピテントセル(大腸菌JM109)50μLと混合し、42℃で1分間インキュベートした。950μLのLBブロス(USB(登録商標)、米国オハイオ州クリーヴランド所在)を添加し、37℃で1時間30分インキュベートした後、この培地500μLおよび250μLを、アンピシリン100μg/mLを含むLB寒天(USB(登録商標))の入った2つのペトリディッシュに塗抹した。ディッシュを37℃で一晩インキュベートした。組換え型のコロニーを、50μLの滅菌蒸留水中と、LB寒天アンピシリンのペトリディッシュ上との両方に播種した。
【0103】
この組換え大腸菌コロニーをPCR分析のためにサンプリングした:蒸留水中の細菌懸濁液5μl、M13プライマー対(10pm/μL)、および先述のPCR反応媒体。PCRプログラムは2回目の構築ステップに使用したプログラムと同一とした。得られたPCR産物を、0.5×TBEバッファー中の1.5%アガロースゲルで分析した。期待される大きさのフラグメントをQiaquick(登録商標)PCR精製キット250Qiakit(キアゲン(登録商標))を使用して精製した。その後、Big Dye(登録商標)Terminator V1.1サイクルシーケンシングキット(アプライド・バイオシステムズ(登録商標)、英国ウォリントン所在)、クロマトグラフィで分離されたセンスおよびアンチセンスプライマー3.2pmol/μLを使用して、ABI PRIM 3100シークエンサー(アプライド・バイオシステムズ(登録商標))で配列決定した。得られた配列を、自動アセンブラプログラムおよびSequence Navigator(アプライド・バイオシステムズ(登録商標))プログラムを使用して、期待されるフラグメント配列と比較した。組換え体クローンのうち、期待の配列に一致する1クローンを、100mLのLBブロス・アンピシリン中で大量に生産し、High Speed Plasmid Midiキット(キアゲン(登録商標))のプロトコールに従って精製することとした。その後、精製プラスミドを−20℃で保存した。選択された組換え菌株は−80℃で冷凍した。
【0104】
I.4.3.4 プラスミド範囲の取得
260nmで光学密度を計測することにより濃度を測定した。例えば、初期溶液が0.38であるとする。1ユニットのODは50μL/mLに相当する:初期溶液中のプラスミドは0.38×50=19μg/mL=19×10−6g/mLである。プラスミドの大きさ=pGEM(登録商標)‐T Easyの大きさ+フラグメントの大きさ=3015+931=4334bp、すなわち塩基数8668。1つのヌクレオチドのモル質量は330Da(g/mol)である。プラスミドのモル質量は8668×330=2.860×10g/molとなる。プラスミドの濃度は、mol/mLでは、19×10−6/2.860×10=6.64×10−12mol/mLとなる。アボガドロ数を掛けて、溶液1mLあたりのプラスミドコピー数、すなわち:6.64×10−12×6.023×1023=40×1011コピー/mLすなわち2×1010コピー/5μLを得た。初期プラスミド溶液の最初の希釈を1:2500とすることにより、濃度をプラスミド範囲の第1段階、すなわち10コピー/5μLのプラスミド溶液に調節することができた。10段階の系列希釈により、連続的な段階の範囲を作成することができた(溶液5μL当たり10コピー〜1コピー)。
【0105】
I.5. 標本の分析
I.5.1 定量的リアルタイムPCR
定量化反応は、膣標本由来DNA抽出物についてのリアルタイムPCRによって行った。各反応プレートに下記すなわち:4つの陰性対照(NTC)、較正用プラスミド範囲(1ウェルあたり10〜1コピー)、ならびに24例の試験標本を、未希釈で、および阻害剤について調べるために1:10と1:100とに希釈して、投入した。陰性対照およびプラスミド範囲のポイントは2連として試験した。8種の微生物およびヒトアルブミンの増幅および定量について、4枚のPCRプレートは二重の蛍光を用いて、1枚は単一の蛍光を用いて実施した。反応混合物の調製については、TaqポリメラーゼおよびTaqポリメラーゼバッファー(Hotstar)を組み合わせる2×反応混合物、dNTP、ならびにdUTPを含むキットQuantitect Probe PCRキット(キアゲン(登録商標))を使用した。この反応混合物に、付録6に記載の実験条件による単一蛍光または二重蛍光PCRに必要なセンスおよびアンチセンスプローブを、希釈した試験標本または未希釈の試験標本と共に添加した:プラスミド範囲のポイントには5μLおよび0.25μLのUDG(ウラシルDNAグリコシラーゼ、100ユニット、シグマ・アルドリッチ(Sigma−Aldrich)、フランス国リヨン所在)を添加して、最終反応体積を25μLとした。PCR反応はストラタジーン(登録商標)のMX 3000P(米国カリフォルニア州ラ・ホーヤ所在)で実施した。増幅プログラムは下記すなわち:50℃で2分、95℃で15分、続いて95℃で30秒間の変性とその後の60℃で1分間のハイブリダイゼーションおよび伸長の相とから成るPCRサイクルを45サイクルとした。
【0106】
I.5.2 細菌負荷の算出
個々の膣標本および各微生物について、標本を確実に比較できるように、細菌負荷を以下のように定義した。DNA抽出物5μLあたりの各微生物由来のDNAコピー数の定量については、初期標本1mLあたりの細菌数として報告した。DNA溶出体積(100μL)、初期標本あたりの輸送培地の体積(200μL)、および定量される遺伝子が単一遺伝子であるという事実、を考慮に入れなければならない。各微生物についてDNA抽出物5μLあたりのコピー数として得られた値に10を掛けて標本1ml当たりの細菌数としての濃度を得て、次に、試料200μLから抽出されたDNAの溶出体積100μLを引き出した。
【0107】
I.5.3 統計解析
リアルタイムPCRによる細菌定量データの統計解析には、有意水準p<0.05のウィルコクソン検定およびマン・ホイットニーの検定を用いた。統計解析については、正の閾値より下のものを含むすべての定量値を考慮に入れた。ゼロに匹敵する定量値については、分析した全標本の最低濃度をその値と考えた。ウィルコクソンの統計的検定は、各細菌叢群内での各微生物の分布について述べるために適用した。マン・ホイットニーの検定は、BV群およびNF群における8つの微生物それぞれの定量値を比較するために適用した。BVの分子レベルの基準について調べるために、各々の細菌定量の閾値(10/mL〜10/mL)を、先にNugentスコアで定義されたNFおよびBVの閾値による同定に従って計算された感度、特異性、ならびに陽性的中率および陰性的中率について検討した。単独でも組み合わせにおいても、最良の感度および特異性を有する定量閾値を、分子レベルの基準としてBVの同定に使用した。
【0108】
II.結果
II.1.集団についての説明
2005年6月から2006年4月までに、18〜49歳(平均年齢28.9±6.2)の204名の妊婦が参加した。種族的出身は、北アフリカ(43%)、ヨーロッパ(42%)、南アフリカ(14%)およびその他(1%)であった。各女性から1つの膣標本を採取した。標本の72パーセントは第3妊娠三半期、20%は第2妊娠三半期、および8%は第1妊娠三半期に採取されたものであった。21名の女性が細菌学的追跡調査を受け、2〜4例の標本が採取された。従って、合計231例の標本を分析した。
【0109】
II.2.細菌学上の結果
II.2.1 グラム染色およびNugentスコアの決定
204名の女性に由来する231件の膣標本から、Nugentスコアにより、167例のNF、44例のIF、および20例のBVが同定された。204名の女性それぞれの最初の膣標本における膣内細菌叢の異常の頻度は、NFが71%(145例)、IFが19%(39例)、BVが10%(20例)であった。BVの女性の半分が症候性であった。最も頻繁に観察された症状は大量の膣帯下であった。
【0110】
II.2.2 培養および採取直後の状態
培養により、G.バギナリス、C.アルビカンス、M.ホミニス、U.ウレアリチクムおよびストレプトコッカス・アガラクチア(Streptococcus agalatiae)を分離することができた(表1)。調べたいずれの膣標本も直接的な検査では膣トリコモナス(T. vaginalis)を示さなかった。
【0111】
II.3.分子生物学上の結果
II.3.1 リアルタイムPCRの展開
単一蛍光および二重蛍光のPCRを進行させると、交差反応はなく、競合は伴わなかった。純粋な細菌株およびプラスミド範囲を使用する単一蛍光および二重蛍光で、同様のCT値の結果が得られた。
【0112】
最適の増幅を得るために必要なプライマーおよびプローブの最適量を、付録5に示す。
II.3.2 分子生物学による定量技法の評価
各標本の細菌の定量について、プラスミドの希釈範囲を設けた。各増幅反応について、プラスミド範囲にある8ポイント(5μL当たり10コピー〜1コピー)を試験した。該範囲の10コピーのポイントが、始めにCT値約17と同定された。該範囲の1コピーのポイントについては、後にCT値37で検出された。範囲内のすべてのポイントについて、増幅反応は直線的であった。グラフで表すと傾きが−3.2〜−3.5の直線である。この直線性は、1:10、1:100および1:1000に希釈した純粋な菌株の試験により確認された。検討した微生物の種類が何であれ、正の閾値は10コピー(または細菌10個/mL)以上と定義された(表2)。統計的には、「1コピー」のポイントの増幅は75%で生じるのに対し、「10コピー」のポイントについての増幅は100%である。それぞれの増幅用プレート内では、各標本を、未希釈の溶液、ならびに10分の1希釈および100分の1希釈として試験した。再現性よく、10分の1希釈が3CTの増大に相当するので、増幅産物の検出は希釈段階に従っていた。細菌負荷の算出には純粋な溶液だけを考慮した。各標本について、リアルタイムPCRでヒトアルブミンを試験した。得られた結果は、231例の試料のセットについて均質であった。CT値は19〜22(すなわち抽出されたDNA5μLあたり10〜10コピーのアルブミンDNA)に分布した。いずれの標本も分析から除外されなかった。
【0113】
II.3.3 データ分析
II.3.3.1 細菌性膣炎の分子レベルでの説明
A.バギナエおよびG.バギナリスの平均濃度はそれぞれ1.1×10/mLおよび1.2×10/mLであり、ウィルコクソン検定では統計的有意差はなかった(p=0.3755)。これらの2種の細菌は、他の微生物の平均濃度が統計的に低かった(p=0.0001)のに比べて高濃度であった(図1Aおよび3)。
【0114】
II.3.3.2 細菌性膣炎および正常細菌叢の分子レベルの比較
ラクトバチルス属細菌の平均濃度は、細菌性膣炎(平均濃度3×10/mL)においてNF(平均濃度5.7×10/mL)より有意に低かった(p<0.0001)。他方、A.バギナエ、G.バギナリス、M.クルティシイおよびM.ホミニスの平均濃度は、細菌性膣炎(平均濃度はそれぞれ1×10/mL;1.2×10/mL;5×10/mLおよび5.5×10/mL)においてNFより有意に高かった(p≦0.0037)。U.ウレアリチクムおよびC.アルビカンスの平均濃度については、BVとNFとの間に統計的有意差はなかった。最後に、M.ムリエリスはBVのいずれにおいても、またはNFのいずれにおいても同定されなかった(正の閾値≧10/mL)。
【0115】
II.3.3.3 細菌性膣炎の分子レベルの基準の決定
分離されたA.バギナエおよびG.バギナリスの定量閾値による分析は、Nugentスコアによって定義されるBVおよびNFを分子レベルで同定するための感度、特異性、ならびに陽性的中率および陰性的中率の最良の基準を有する(表4)。A.バギナエの定量値≧10/mLおよび/またはG.バギナリスの定量値≧10/mLの組み合わせは、95%の感受性、99%の特異性、95%の陽性的中率(PPV)、および99%の陰性的中率(NPV)を有する。
【0116】
II.3.3.4 中間的細菌叢の分子レベルの特徴解析
A.バギナエの定量値≧10/mLおよび/またはG.バギナリスの定量値≧10/mLにより既に定義されたBVの同定のための分子レベルの基準をNugentスコアのIF(図2)に適用すると、25例の細菌叢(57%)がBVのプロファイル(図3)を有し、19例の細菌叢(43%)がNFのプロファイル(図4)を有するものと特徴付けることができた。
【0117】
II.3.3.5 細菌学的な追跡調査
NugentスコアでBVまたはIFである8名の女性を追跡調査した(表7)。分子レベルの定量により、被験者1についてNugentスコアでは同定されないBVの再発が示された。被験者7および8についてはBVの消失が確認された。被験者2および5については1か月以上後も持続しているNugentスコアのIFがBVであると特徴付けられた。最後に、被験者3では正常な性質の膣内細菌叢の維持が確認された。
【0118】
III 論考
Nugentスコアによる膣内細菌叢のNF(71%)、BV(10%)およびIF(19%)への分類は、フランス国[Goffinet F,EJOGR 2003]、ヨーロッパ[Guise JM,AMJPM 2001]、および米国[Delaney ML,OG 2001]で文献に報告された分類と一致する。本発明の独自の特徴は、特異的なリアルタイムPCR検出技法と較正プラスミドによる相対的定量とを組み合わせることにより、膣内細菌叢を同定するための合理的なツールを確立していることである。
【0119】
最も驚くべき結果はA.バギナエに関するものであった。この細菌は、健康な被験者由来の膣標本からの16S RNAの増幅および配列決定によって1999年に初めて同定された[Rodriguez JM,IJSB 1999]。2003年に、A.バギナエは卵管卵巣膿瘍由来の標本を培養することにより分離され、この細菌が病原性の役割を果たすことが示唆された[Geissdorfer W,JCM 2003]。2004年に、16S rRNAをクローニング技法と組み合わせる手法により、卵管炎の患者から手術時に得られた標本中に該細菌の存在が示された[Hebb JK,JID 2004]。本発明によれば、この細菌は、20例のBVのうち19例(95%)、および167例のNFのうち115例(69%)において高頻度で同定される。BVおよびNFを診断するための最も識別力の高い基準はA.バギナエ濃度≧10/mLであり、感度は90%(20例のBVのうち18例)、特異性は99%(167例のNFのうち1例)である。
【0120】
2004年以来、様々な分子レベルの技法に基づいた4つの研究から、A.バギナエとBVとの間の関連の可能性が示されてきたが、いずれの研究も正確な定量値基準を用いたものではなかった。第一に、16S rRNAを標的とするPCR法とその後のゲル泳動から、わずかに20例中12例のBV(60%)、および24例中2例のNF(8.3%)にA.バギナエが示された[Ferris MJ,BMCID 2004]。A.バギナエの16S rRNA遺伝子を特異標的とするPCRによって、該細菌のDNAが、9例のBVのうち7例(77.8%)、および112例のNFのうち22例(19.6%)に見出された[Verhelst R,BMCM 2004]。同じ技法を適用して、A.バギナエのDNAが、22例のBVのうち19例(86.4%)、および403例のNFのうち59例(14.7%)において示された[Verhelst R,BMCM 2005]。最後に、増幅、クローニングおよび配列決定の技法によって、A.バギナエのDNAが、27例中26例のBV(96%)および46例中9例のNF(19.5%)において観察された[Fredricks DN,NEJM 2005]。これらの研究のいずれもA.バギナエのDNAを定量していないが、A.バギナエのDNAは該細菌の濃度が診断の重要な要素である細菌性膣炎において不可欠である。
【0121】
A.バギナエは、膣内細菌叢の異常において主導的役割を果たすにもかかわらずNugentスコアには欠けている。形態学的基準によるA.バギナエの同定は不適当である。小さなグラム陽性球杆菌(0.6〜0.9μm)の形であるA.バギナエの可変的な形態は、他の細菌と接触したときに集合して対や短連鎖を形成した状態で検出不能となることがある[Verhelst R,BMCM 2004]。従ってラクトバチルス属細菌および連鎖球菌との類似が同定誤差の原因である[Rodriguez JM,IJSB 1999]。
【0122】
BVにおけるA.バギナエとG.バギナリスとの関連についての記載は、最近少数の報告文書があるが、定量を伴わない限定的な診断範囲のものである。この関連は、A.バギナエおよびG.バギナリスの16S rRNA遺伝子を標的とする特異的PCRによる、87.8%(9例のBVのうち8例)[Verhelst R,BMCM 2004]および90%(22例のBVのうち20例)[Zariffard MR,FEMS 2002]である。最近の発表は、半定量的な方法により、細菌性膣炎におけるA.バギナエの存在を示している[Bradshaw CS,JID 2006]。
【0123】
本発明によれば、A.バギナエおよびG.バギナリスのこの組み合わせは90%(20例のBVのうち18例)であるが、95%(20例のBVのうち19例)の感度を有するA.バギナエ≧10/mLおよび/またはG.バギナリス≧10/mLの定量値を考慮すると、特異性(99%)、PPV(95%)およびNPV(99%)について、これまでにBVの同定用に達成された最良の基準が提示される。従って、A.バギナエ濃度≧10/mLおよび/またはG.バギナリス濃度≧10/mLをBVの分子レベルの診断に使用する。
【0124】
本発明による結果から、G.バギナリスの定量はA.バギナエの定量より判別力が低いことが示唆される。ラクトバチルス属細菌については、Nugentスコアによって客観的に示されたBVにおける同細菌の減少が、これらの結果によって確認されている:10/mL以下のラクトバチルス属細菌の濃度を考慮すれば、BVを診断するための感度は100%、特異性は44%である。さらに、10/mL以上のラクトバチルス属細菌の濃度を考慮すれば、正常な膣内細菌叢の実証において100%の特異性が観察される。
【0125】
モビルンカス属細菌については、Nugentスコアによって該細菌に与えられた地位にもかかわらず、PCRではM.ムリエリスは陽性ではない。M.クルティシイだけがBVと関連付けられている。しかしながら、考えられる分子レベル診断の基準としての該細菌の有用性は小さいままである。
【0126】
生殖器マイコプラズマはNugentスコアでは考慮されていない。しかしながら、生殖器マイコプラズマは培養または分子生物学により同定可能である。445例のBVおよび2729例のNFを培養する研究から、M.ホミニスは感染率29%(129例のBV)で有意に関連するものと特定され、U.ウレアリチクムは感染率56%(253例のBV)にもかかわらずBVとの関連はないとして特定された[Thorsen P,AJOG 1998]。リアルタイムPCRによるM.ホミニスを標的とした203例のBVおよび203例のNFに関する研究から、BVへのM.ホミニスの関与が示唆された[Zariffard MR,FEMS 2002]。しかしながら、より小さな集団(5例のBVと16例のNF)に関する同じ研究では、この関連は実証されなかった[Sha BE,JCM 2005]。本発明によれば、M.ホミニスだけがBVと関連するが、この相関関係はBVの診断基準としてこの微生物を提案するには不十分である。
【0127】
本発明による結果は、文献[Thorsen P,AJOG 1998]にデータで示されるようなBVとC.アルビカンスとの関連を示さない。このことは、生殖器にカンジダ・アルビカンスを有していても早産のリスクは増加しない[Cotch MF,AJOG 1998]一方で、最近の研究[Kiss H,BMJ 2004]から生殖器のC.アルビカンスの治療による早産の低減が示されたため、興味深い。
【0128】
本発明の独創性は、本発明が初めてA.バギナエおよびG.バギナリスの定量に基づいたBVの診断ツールを提供することである。現時点での使用時の基準は、A.バギナエの濃度≧10/mLおよび/またはG.バギナリスの濃度≧10/mLを組み合わせる。この診断テストは、95%の感度、99%の特異性、95%のPPVおよび99%のNPVを有する。PCRの結果を読み取るいくつかの方法、特に細菌濃度の比および積が計算される方法について、最も適切な方法を特定できるように試験してきた。
【0129】
本発明による分子生物学的ツールの最も厄介な適用のうちの1つは、NugentスコアのIFについて行なわれたものである。本発明者らは、Nugentスコアによってのみ同定されるIFが、Nugentスコアで同定されるすべての細菌叢のうちの無視できない割合(8%〜22%)を占めること[Guerra B、EJOGRB 2006;Goffinet F,EJOGRB 2003;Delaney ML,OG 2001;Libman MD,DMID 2006;Larsson PG,STI 2004]、および多くの不確実性を伴うことを認識している。実際、本発明者らはこの中間的細菌叢が対応する微生物学的実体を知らないので、IFの解釈には注意が必要である。一部の研究者は、IFはNFとBVとの間の過渡期の細菌叢であると考えている[Ison CA,STI 2002;Guerra B,EJOGRB 2006;Goffinet F,EJOGRB 2003;Ugwumadu A,Lancet 2003;Carey JC,NEJM 2000]。他の人々は、IFはNFとBVとを含む不均質な集合と考えている[Ison CA,STI 2002;Libman MD,DMID 2006;Larsson PG,STI 2004]。IFをNFまたはBVとして特徴付ける試みが文献に報告されている。13例のIFにAmselの基準を適用することによって、12例のIFがNFとして、1例はBVとして再分類された[Ison CA,STI 2002]。Nugentスコアを確立するためにコペロフ(Kopeloff)の染色を使用して、232例のIFのうち69例(30%)がNFまたはBVとして再分類された[Libman MD,DMID 2006]。この染色では、グラム陰性細菌をより良好に同定するためにグラム染色においてサフラニンをフクシンに替えている。最後に、使用した顕微鏡の光学視野の表面の関数としてNugentスコアの基準を標準化することによって、1176例のIFのうち458例(39%)をNFまたはBVとして再分類することができた[Larsson PG,STI 2004]。
【0130】
A.バギナエ濃度≧10/mLおよび/またはG.バギナリス濃度≧10/mLをBVと関連付ける本発明の分子レベルの基準をIFに適用することにより、このIFを合理的に特徴づけることができる。このように、24例のIF(57%)はNFに類似のプロファイルを有している。よってこれらの結果は、IFの性質が不均質であること、およびNugentスコアは感度が低すぎてBV症例の半分以上を診断することができないことを示唆している。したがって、これらのデータはNugentスコアの限界を確認するものである。
【0131】
BVの病因論は依然として全く不可解であるが、本発明者らは初めて、BVの診断への合理的な手法を提供する客観的な定量ツールを有している。本発明の特有な性質は、BVにおけるA.バギナエの重大な役割、およびBVの主要な診断基準として定量することによるA.バギナエの利用の両方を示していることである。このことは、A.バギナエがメトロニダゾールに対し比較的抵抗性であること(治療後の頻繁な再発の原因の一部であるかもしれない)によって提起される治療上の問題についてよりよい理解を提示している[ANAES 2001;Ferris MJ,BMC ID 2004;Secor AM,CNP 1997;Geissdorfer W,JCM 2003;De Backer E,BMC ID 2006]。BVを診断するために使用される分子レベルの基準は、A.バギナエ濃度≧10/mLおよび/またはG.バギナリス濃度≧10/mLを組み合わせる。この分子ツールによって、BVを診断すること、および一部のIFをBVとして特徴づけることが可能となる。本発明者らはさらに本分子ツールを、BVの診断ツールとして、および妊娠中のBVの治療管理を評価する追跡調査方法として構想することができる。
【0132】
付録1. 検討した各微生物についての分子標的ならびにプライマー対およびプローブのヌクレオチド配列。
以下の表において、「センスプライマー」および「プローブ」の配列は5’→3’方向に記載され、「アンチセンスプライマー」配列は相補的な逆方向の5’→3’で記載されている。
【0133】
【表1】


付録2. 939塩基対の挿入物全体の理論上の配列。
太字の配列=センスプライマーおよびアンチセンスプライマーの配列
下線を付した配列=特異的プローブ配列
黒色の配列=挿入配列
括弧内の配列=Xho1制限酵素切断部位の配列
【0134】
【化6】

付録3. 6つのオリゴヌクレオチドおよび挿入物構築用プライマーの配列。
センスオリゴヌクレオチド1、178ヌクレオチド:M.クルティシイおよびM.ムリエリスの配列
【0135】
配列番号19=5’GCCATGGAAAAGGTGGGTCAAGAGGGCGTCATCACCGTGGAAGAACATCGTCTCGAGTTAAGGAGCCTCGAAGTCACCGAAGGTATGCGTTTCATTATGGATATGCGTGTGGATGGATTACTCGAGCTGCCTGTTTTGGGTGGGGGCGCTATCGGGGTTTGGGCTTACATGCCTGGCC3’
【0136】
アンチセンスオリゴヌクレオチド2、183ヌクレオチド:G.バギナリスおよびラクトバチルス属細菌
配列番号20=5’CGACCAGTGATAGTAAATACGTCTTCAACTGGCATTAAGAATGGCTTGTCAGTATCACGTTCTGGAGTTGGGATGTATTCAGCAATCTTTTCGCCAACTTCAGGATCTGCTGCAGAAATAGTTGCAGTAGCCTTAACTCGAGACGATGTTTCAACATCCTTAGCAGATGCGAGGGCCAGGCAT3’
【0137】
センスオリゴヌクレオチド3、145ヌクレオチド:U.ウレアリチクム
配列番号21=5’TCACTGGTCGTGGTACTGTTGCTTCTATACTGGTGACCGTCCTATCCAAGTTGGATCACATCGTCTCGAGTTAAGAACAAATAGTGCATTAGTATTCTTTGATGAAAAAGGAAACGAAGACAAAGAACGTAAAGTTGCTTATGGA3’
【0138】
アンチセンスオリゴヌクレオチド4、188ヌクレオチド:M.ホミニス
配列番号22=5’CTTGGAATTCCATCTTCCCCTACCAGACTCAAGCCTGCCGGTATCAGGAGCGGATAGGGGTTTGGTGTTACAATATCAGCCCCAACTCCTTAACTCGAGACGATGAATTGTTCAACTGCCGCTGCTCTAAATGTATCACCTGCAGCAATCAATTACCTGATGGAATATCGAAACGACGTCCATAAGCA3’
【0139】
センスオリゴヌクレオチド5、152ヌクレオチド:A.バギナエおよびC.アルビカンス
配列番号23=5’GAATTCCAAGTCTCGAGGTGAAATGCGCAGATATTTGGAAGCCAACGCCAACGAAGACAAGGCACTTCAAAAAGCCGATGGTAGTAGAAAACTGCGACATCGTCTCGAGTTAAGTTGGTTGATGCAAACAAAGCTGGTAGTTGCTGTCAT3’
【0140】
アンチセンスオリゴヌクレオチド6、147ヌクレオチド:ヒトアルブミン
配列番号24=5’CCAAACTCATGGGAGCTGCTGGTTCTCTTTCACTGACATCTGCAAAGACAACAATGCCAGGGAGAGATTTGTGTGGGCATGACAGGTTTTGCAATATTACTCTTAACTCGAGACGATGATTACAGCCCACAAGAGATGACAGCAA3’
【0141】
− 939塩基対のフラグメントを備えた組換えプラスミドの構築用プライマー
− センス 配列番号25=5’GCCATGGAAAAGGTGGGTC3’
アンチセンス 配列番号28=5’CCAAACTCATGGGAGCTGCT3’
【0142】
付録4. 二重PCRによる挿入物構築の理論を示す図
6つのオリゴヌクレオチドを用いて挿入物を構築する原理。
プラスミド構築の図解
【0143】
【化7】

付録5. 各微生物およびヒトアルブミンについてのDNA抽出物5μLの増幅反応に必要なプローブならびにセンスプライマーおよびアンチセンスプライマーの量
【0144】
【表2】

参考文献
【0145】
【表3】





【0146】
【表4】

【0147】
【表5】

【0148】
【表6】

【0149】
【表7】


【0150】
【表8】

【0151】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌性膣炎の存在に関して膣内細菌叢の状態をin vitroで診断および追跡調査するための、ならびに適用可能な場合には細菌性膣炎の治療をモニタリングするための方法であって:
1)細菌アトポビウム・バギナエ(Atopobium vaginae)およびガードネレラ・バギナリス(Gardnerella vaginalis)の濃度を、
・患者由来の膣帯下標本から抽出されたDNA中の、前記細菌アトポビウム・バギナエおよびガードネレラ・バギナリスのDNA中に単一コピーとして存在する前記細菌アトポビウム・バギナエおよびガードネレラ・バギナリスの特異配列の濃度と、ヒト細胞を含むすべての生体標本中に存在するヒト遺伝子の特異配列の濃度とを測定することと、前記特異配列は大きさが150ヌクレオチド未満であることと、
・一方では標本から抽出された前記DNA中に含まれる前記特異配列、他方では前記細菌各々の前記特異配列およびすべてのヒト細胞生体標本に存在するヒト遺伝子の前記特異配列を含む合成DNAフラグメントの試料中に含まれる前記特異配列を、PCRにより酵素的に同時増幅することと、前記試料はDNAを定量するための検量標準品としての役割を果たすことと、
・前記細菌アトポビウム・バギナエおよびガードネレラ・バギナリスの前記特異配列ならびにすべてのヒト細胞生体標本に存在するヒト遺伝子の前記特異配列各々のための増幅プライマーの配列とは異なる配列を備えた標識プローブを助力として、前記増幅フラグメントの検出および定量を実行することと、
によって定量するステップ、ならびに
2)ヒト細胞を少なくとも10個/mL含んでいる患者の膣帯下標本中の、細菌アトポビウム・バギナエおよびガードネレラ・バギナリスの2つの前記特異配列のDNAフラグメントの濃度が、次の2つの状態a)およびb)、すなわち:
a)アトポビウム・バギナエの前記DNAフラグメントの濃度Caが10コピー/mL以上であること、および
b)ガードネレラ・バギナリスの前記DNAフラグメントの濃度Cgが10コピー/mL以上であること
のうち少なくとも一方に合致する場合は、細菌性膣炎の存在、または進行中の治療の失敗を判定するステップ
を特徴とする方法。
【請求項2】
a)ステップ1)においてさらに、少なくともラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・クリスパタス(Lactobacillus crispatus)、ラクトバチルス・ジェンセニイ(Lactobacillus jenseneii)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)およびラクトバチルス・イネルス(Lactobacillus iners)を含むラクトバチルス属細菌を、
・前記ラクトバチルス属細菌の特異配列の濃度をさらに測定することと、ラクトバチルス属細菌の前記特異配列は前記ラクトバチルス属細菌のDNA中に単一コピーとして存在し、大きさは150ヌクレオチド未満であることと、
・一方では標本から抽出された前記DNA中に含まれるラクトバチルス属細菌の前記特異配列、他方では前記ラクトバチルス属細菌の前記特異配列を追加として含む合成DNAフラグメントの試料中に含まれるラクトバチルス属細菌の前記特異配列を、PCRにより酵素的にさらに同時増幅することと、前記ラクトバチルス属細菌の前記特異配列を含む前記合成DNAフラグメントは定量用参照標準品としての役割を果たすことと、
・前記アトポビウム・バギナエ、ガードネレラ・バギナリスおよびラクトバチルス属細菌の前記特異配列、ならびにヒト細胞を含むすべての生体標本に存在するヒト遺伝子の前記特異配列各々のための増幅プライマーの配列とは異なる配列を備えた標識プローブを助力として、前記増幅フラグメントの検出および定量を実行することと、
によって定量すること、ならびに
b)ステップ2)において、前記ラクトバチルス属細菌の特異的DNAフラグメントの濃度Clがさらに10コピー/mL以下、好ましくは10コピー/mL以下である場合に、細菌性膣炎と判定されること
を特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記濃度が次の3つの条件:
a‐ アトポビウム・バギナエの特異配列の前記DNAフラグメントの濃度Caが10コピー/mL以上であること、
b‐ ガードネレラ・バギナリスの特異配列の前記DNAフラグメントの濃度Cgが10コピー/mL以上であること、および
c‐ ラクトバチルス属細菌の特異配列の前記DNAフラグメントの濃度Clが10コピー/mL以下であること
を満たす場合に細菌性膣炎と判定されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
リアルタイムPCRによる増幅反応および定量化反応は、被験標本中の、前記細菌の前記特異配列およびヒト細胞を含むあらゆる生体標本中に存在するヒト遺伝子の特異配列の各々に特異的な加水分解プローブを使用して実施されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記特異配列は、大きさが70〜150ヌクレオチド、好ましくは90〜120ヌクレオチドであることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
DNA定量の参照標準品としての役割を果たす大きな合成DNAフラグメントを使用し、前記大きな合成DNAフラグメントは、濃度定量の対象である前記細菌各々の前記特異配列と、ヒト細胞の前記ヒトDNA特異配列とを寄せ集めたものであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記細菌の前記特異配列は:
− アトポビウム・バギナエ細菌については:16SリボソームRNA遺伝子(GenBank参照番号AY738658.1)の248〜334位のフラグメント、
− ガードネレラ・バギナリス細菌については、シャペロンタンパク質60kDaのCpn60遺伝子(GenBank参照番号AF240579.3)の981〜1072位のフラグメント、ならびに
− ラクトバチルス属細菌については、伸長因子をコードするtuf遺伝子中の、ラクトバチルス・クリスパタス、ラクトバチルス・ジェンセニイ、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・イネルス、およびラクトバチルス・アシドフィルスに共通の配列であってGenBank参照番号AY562191.1の遺伝子の253〜343位の配列
を含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記細菌の前記特異配列は、プローブ配列(下線)とその前後のプライマー配列(太字)を含む以下の配列:
− アトポビウム・バギナエについては:
【化1】

− ガードネレラ・バギナリスについては:
【化2】

− ラクトバチルス属細菌については
【化3】

または該配列の相補配列であることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記大きなDNAフラグメントは、試験標本中のヒトDNA特異配列として、特異的アルブミン配列を含むことを特徴とする、請求項6および8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
試験標本中の前記ヒトDNA特異配列は、GenBank参照番号M12523.1のヒトアルブミン遺伝子のエキソン12の16283‐16423位のフラグメントであって、次の配列または相補配列:
【化4】

を有することを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
GenBank参照番号M12523.1のヒトアルブミン遺伝子のエキソン12の16283‐16423位のフラグメントを含む、試験標本中の前記ヒトDNA特異配列は、プライマー(太字の配列)およびプローブ配列(下線を付した配列)に対応する配列以外の場所に切断部位、特にXhoI部位を挿入することによって修飾される、以下の配列:
【化5】

であることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
適用可能な場合には配列表の以下の配列すなわち:
− アトポビウム・バギナエ用として:
プライマー5’:配列番号5=5’‐CCCTATCCGCTCCTGATACC‐3’
プライマー3’:配列番号6=5’‐CCAAATATCTGCGCATTTCA‐3’
プローブ :配列番号7=5’‐GCAGGCTTGAGTCTGGTAGGGGA‐3’
− ガードネレラ・バギナリス用として:
プライマー5’:配列番号8=5’‐CGCATCTGCTAAGGATGTTG‐3’
プライマー3’:配列番号9=5’‐CAGCAATCTTTTCGCCAACT‐3’
プローブ :配列番号10=5’‐TGCAACTATTTCTGCAGCAGATCC‐3’
− ラクトバチルス属細菌用として:
プライマー5’:配列番号11=5’‐TACATCCCAACTCCAGAACG‐3’
プライマー3’:配列番号12=5’‐AAGCAACAGTACCCACGACCA‐3’
プローブ :配列番号13=5’‐TGACAAGCCATTCTTAATGCA‐3’
− ヒトアルブミン用として:
プライマー5’:配列番号14=5’‐GCTGTCATCTCTTGTGGGCTGT‐3’
プライマー3’:配列番号15=3’‐AAACTCATGGGAGCTGCTGGTTC‐3’
プローブ :配列番号16=5’‐CCTGTCATGCCCACACAAATCTCTCC‐3’
またはこれらの相補配列から選択された、プライマーとプローブとのセットを使用することを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
定量化のための参照標準試料のDNAを構成する前記大きな合成DNAフラグメントはプラスミドに挿入されることを特徴とする、請求項6〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法を実行するために使用される診断キットであって:
− 参照標準DNA試料であって、請求項1、5、7、および8のいずれか1項に定義された前記細菌各々の前記特異配列を、好ましくは請求項1、9、10、および11のいずれか1項に定義された1つの前記ヒトDNA特異配列を、より好ましくは請求項6および13に定義された1つの前記大きな合成DNAフラグメントを、含む試料、同様に、
− 前記細菌に特異的な前記修飾合成DNAフラグメントに特異的なプライマーのセット、およびより好ましくは請求項1、4、8、および12のいずれか1項に定義されるプローブ、ならびに
− PCRによるDNA増幅反応を実行するための試薬
を含むことを特徴とするキット。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−509932(P2010−509932A)
【公表日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−537684(P2009−537684)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【国際出願番号】PCT/FR2007/052368
【国際公開番号】WO2008/062136
【国際公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(501374149)ユニヴェルシテ ドゥ ラ メディテラネ(エックス−マルセイユ ドゥー) (5)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE LA MEDITERRANEE(AIX−MARSEILLE II)
【Fターム(参考)】