説明

分散剤及び水性分散液

【課題】塗膜にしたときの耐水性が優れるカルボン酸変性ポリオレフィンの水性分散液を提供することを目的とする。
【解決手段】内部オレフィンと不飽和カルボン酸無水物との付加反応生成物(付加反応生成物の塩を含む)又はその誘導体を含有するカルボン酸変性ポリオレフィン用分散剤、好ましくは、内部オレフィンが炭素数10〜30のα−オレフィンを異性化して得られるカルボン酸変性ポリオレフィン用分散剤を用い、内部オレフィンと不飽和カルボン酸無水物との付加反応生成物(付加反応生成物の塩を含む)又はその誘導体と、カルボン酸変性ポリオレフィンを含有する水性分散液とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散剤及びカルボン酸変性ポリオレフィンの水性分散液に関する。たとえば、ポリオレフィン系樹脂成型品を塗装する際に使用する塗料、さらにポリプロピレン系樹脂製品を他の基材と接着する際の接着剤及びインキの用途に適した水性分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂は、化学的安定性が高く、物性のバランスに優れていて、リサイクルが可能である等の理由によりその使用量は自動車部品、家庭用電化製品、家庭用雑貨類向け成型品を中心に年々増加している。しかしながら、オレフィン系樹脂は分子鎖中に極性基を含まないため、塗装されにくく、接着等が困難であるという欠点を有している。このため、オレフィン系樹脂に対する塗装や接着を行う場合には、一般的に極性を付与したカルボン酸変性ポリオレフィンを主成分とした樹脂をプライマーまたはワンコートとして塗布することが行われている。
【0003】
プライマーまたはワンコートとして塗膜を作るために、カルボン酸変性ポリオレフィンなどの変性ポリオレフィン樹脂をトルエン、キシレン等の芳香族系有機溶剤に溶解または分解して用いることが一般的である。しかし、有機溶剤は環境破壊の原因となるほかに、作業環境の悪化や火災発生のおそれのある物質でもあり、規制も世界中で厳しくなっている。そのためカルボン酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散液の必要性が高まり、様々な研究がなされてきた。
【0004】
従来の手法として、カルボン酸変性ポリオレフィン水性分散液はカルボン酸変性ポリオレフィンを有機溶剤に溶解させるか、溶融させて液状化にし、分散剤や保護コロイドの存在下、機械的に水性媒体中に分散させることが提案されている(例えば、特許文献1〜6参照)。しかし、水性分散液を塗膜にしたとき、耐水性が不十分となる問題があった。
【特許文献1】特開平05−059236号公報
【特許文献2】特開平05−163420号公報
【特許文献3】特開平09−296081号公報
【特許文献4】特表平11−513049号公報
【特許文献5】特開2004−002842号公報
【特許文献6】特開2004−051884号公報
【0005】
このような欠点を改良すべく、ポリオレフィン系樹脂と炭素数6〜50のαオレフィンに(無水)不飽和カルボン酸を付加させて変性したαオレフィン変性物とからなる水性樹脂組成物により密着性や耐水性を改良することが提案されている(例えば、特許文献7参照)が、未だ耐水性が不十分であった。
【特許文献7】特開平07−286073号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようなカチオン、アニオン、またはノニオンの界面活性剤を使用した水性分散液に比べ、塗膜にしたときの耐水性が優れるカルボン酸変性ポリオレフィンの水性分散液を提供できる分散剤、及び、上記のようなカチオン、アニオン、またはノニオンの界面活性剤を使用した水性分散液に比べ、塗膜にしたときの耐水性が優れるカルボン酸変性ポリオレフィンの水性分散液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、カルボン酸変性ポリオレフィンの水性分散液から成る塗膜の耐水性を向上させるために、分散剤の検討を行った。検討の結果、内部オレフィンと不飽和カルボン酸無水物との付加反応生成物(付加反応生成物の塩を含む)及び/又はその誘導体(誘導体の塩を含む)を含有するカルボン酸変性ポリオレフィン用分散剤を見出し、また前記分散剤を使用した水性分散液から形成される塗膜の耐水性、密着性が優れることを見出した。
【0008】
すなわち(1)内部オレフィンと不飽和カルボン酸無水物との付加反応生成物(付加反応生成物の塩を含む)又はその誘導体を含有するカルボン酸変性ポリオレフィン用分散剤。(2)内部オレフィンが炭素数10〜30のα−オレフィンを異性化して得られることを特徴とする請求項1記載のカルボン酸変性ポリオレフィン用分散剤。(3)内部オレフィンと不飽和カルボン酸無水物との付加反応生成物(付加反応生成物の塩を含む)及び/又はその誘導体(誘導体の塩を含む)と、カルボン酸変性ポリオレフィンを含有することを特徴とする水性分散液。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ポリオレフィン基材に対する塗膜の密着性及び耐水性が優れる水性分散液を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
<内部オレフィン>
本発明の内部オレフィンの炭素数は特に限定しないが通常10〜30であり、好ましくは12〜22である。炭素数が10未満のものは、親水性が高く、カルボン酸変性ポリオレフィンに対する相溶性が悪くなることがある。また、炭素数が31以上のものは疎水性が高くなるため乳化性が悪くなることがある。
【0011】
具体的には、1−へキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、 1−エイコセン等のα−オレフィンを異性化触媒にて、異性化させた内部オレフィンのことをいう。
【0012】
異性化反応はα−オレフィンを窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で0〜80℃、10分〜10時間、異性化触媒を使用して行い、大量の空気や水分の混入は避け、回分式、セミバッチ式、連続式等にて行うことが好ましい。
【0013】
異性化触媒としては、(A)有機酸の周期律表第8族遷移金属の塩、または有機酸の周期律表第8族遷移金属の錯体、(B)有機アルミニウム化合物を挙げることができ、これら2種を併用することが好ましい。
【0014】
(A)有機酸の周期律表第8族遷移金属の塩、または有機酸の周期律表第8族遷移金属の錯体としては、たとえば、オクタン酸ニッケル、ナフテン酸ニッケル、酢酸ニッケル、乳酸ニッケル、マロン酸鉄、鉄アセチルアセトナート、安息香酸コバルト、ステアリン酸コバルト等を挙げることができ、ニッケル塩を使用した場合が最も異性化能が高く、かつ重合物の生成も少なくて好ましい。
【0015】
(B)有機アルミニウム化合物としては、たとえば、トリエチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、エチルアルミニウムセスキクロライド、エチルアルミニウムジクロライド等や、これらの化合物中の塩素をフッ素、臭素、ヨウ素等で置換した同族体あるいはエチル基をメチル基、プロピル基のようなアルキル基等で置換した同族体を挙げることができる。
【0016】
異性化反応における異性化触媒の使用量は、特に制限はないが、α−オレフィンに対する金属のモル濃度として100,000ppm以下である。前記異性化触媒(A)と前記異性化触媒(B)を使用する場合、前記異性化触媒(A)の使用量はα−オレフィンに対する金属のモル濃度として0.1〜50,000ppmが好ましく、前記異性化触媒(B)の使用量は、使用した(A)成分の金属モル数に対し、0.5当量以上使用することが好ましい。
【0017】
<不飽和カルボン酸無水物>
不飽和カルボン酸無水物は、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、アリルコハク酸等の酸無水物等が挙げられる。これらのうち、マレイン酸無水物が好ましい。
【0018】
本発明の内部オレフィンと不飽和カルボン酸無水物との付加反応生成物は、内部オレフィンと不飽和カルボン酸無水物を反応温度180〜300℃で、1〜30時間反応させることで得られる。さらに、本発明の内部オレフィンと不飽和カルボン酸無水物との付加反応生成物の塩は、得られた内部オレフィンと不飽和カルボン酸無水物との付加反応生成物を水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等のアルカリ類により、けん化させることで付加反応生成物の塩を得ることができる。
【0019】
内部オレフィンと不飽和カルボン酸無水物との付加反応生成物の誘導体は、内部オレフィンと不飽和カルボン酸無水物との付加反応生成物にメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの炭素数1以上のアルコール類を加え、窒素雰囲気下にて、80℃で3〜4時間攪拌して得られるハーフエステル化合物、内部オレフィンと不飽和カルボン酸無水物との付加反応生成物にメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、プロピルアミンなどのアミン類を加えて、窒素雰囲気下にて70℃で2〜3時間攪拌して得られるモノアミド化合物、ならびにハーフエステル化合物やモノアミド化合物に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどの塩基性物質と水を加え、窒素雰囲気下にて、80℃で2〜3時間攪拌して得られるケン化物である。
【0020】
上記の内部オレフィンと不飽和カルボン酸無水物との付加反応生成物(付加反応生成物の塩を含む)及び/又はその誘導体(誘導体の塩を含む)をそのままカルボン酸変性ポリオレフィン用分散剤として使用でき、これら2種類以上を含有して混合してもよい。
【0021】
<カルボン酸変性ポリオレフィン>
カルボン酸変性ポリオレフィンは、ポリオレフィンにα、β−不飽和カルボン酸またはその無水物をラジカル発生剤の存在下にて、グラフト共重合させたものである。α、β−不飽和カルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、アリルコハク酸、メサコン酸、アコニット酸及びこれらの酸無水物等が挙げられる。これらのうち、無水物が好ましく、マレイン酸無水物がさらに好ましい。
【0022】
ポリオレフィンとはエチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−へキセン、1−ヘプテン、1−オクテンなど炭素数2以上18以下、好ましくは2以上8以下のα−オレフィンとの単独重合体若しくは、ランダム共重合体またはブロック共重合体である。
【0023】
カルボン酸変性ポリオレフィンの酸価は、特に制限はないが、10〜100mgKOH/gのものが好適に使用される。酸価が10mgKOH/g未満のものは乳化性が悪くなる場合があり、100mgKOH/gを越えたものはポリオレフィンへの接着性が不良になる場合がある。
【0024】
カルボン酸変性ポリオレフィンの重量平均分子量は、特に制限はないが、3000〜100000のものが好適に使用される。3000未満では凝集力が不十分となる場合があり、ポリオレフィンに対する密着力が低下することがある。100000を超えると、粘度が高くなり、乳化時の作業性が悪くなることがある。
【0025】
<水性分散液>
本発明の水性分散液は、前記内部オレフィンと不飽和カルボン酸無水物との付加反応生成物(付加反応生成物の塩を含む)及び/又はその誘導体(誘導体の塩を含む)をカルボン酸変性ポリオレフィン用分散剤として、前記カルボン酸変性ポリオレフィンを分散することによって得られる。
【0026】
カルボン酸変性ポリオレフィンを分散する際に前記分散剤以外にも、少量の非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤を併用しても良い。
【0027】
非イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ソルビタンアルキルエステル、ポリオキシアルキレンアルキルエステルポリオキシアルキルエーテル等が例示できる。
【0028】
アニオン界面活性剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネート等が例示できる。
【0029】
<分散液の製造方法>
前記分散剤を用いて、カルボン酸変性ポリオレフィンを分散させる方法としては、100〜160℃で溶融させたカルボン酸変性ポリオレフィンに上記分散剤、及び塩基性物質を加えて、100〜150℃でよく攪拌する。その後、溶融状態のカルボン酸変性ポリオレフィン、分散剤及び塩基の混合物に、80〜98℃の少量の水を加え、W/O型の分散体を作製し、更に80〜98℃の少量の水を加えることで分散体の相状態を転相させ、O/W型の水性分散体を得ることができる。
【0030】
また、機械的せん断機を使用して、カルボン酸変性ポリオレフィンの水性分散液を得ることができる。たとえば、溶融させたカルボン酸変性ポリオレフィンと前記分散剤を混合し、更に水を加えて所定濃度に調整した混合液を、機械的せん断機を使用することで水性分散液にすることができる。
【0031】
カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂用分散剤の量は、カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂に対して、3〜30重量%が好ましい。分散剤の量を3重量%以上にすることで、水性分散液の貯蔵安定性が良好になり、エマルションの製造工程においても凝集や沈降が起きにくくなる。また、分散剤の量が30重量%以下にすることで、塗膜中に残る分散剤の量を減らすことができ、塗膜の付着性、耐水性が良好になる。
【0032】
本発明で用いられる水性分散液は、カルボン酸変性ポリオレフィン用分散剤によりカルボン酸変性ポリオレフィンを水中に分散させているエマルションであり、エマルションの他に防腐剤、界面活性剤、消泡剤、顔料、着色剤等を含有していてもよい。
【0033】
本発明の水性分散液中に分散しているポリオレフィン樹脂エマルションの平均粒子径は、特に限定はないが、10μm以下が好ましく、水性分散液の保存安定性が向上する点から、0.5μm以下であることが好ましく、0.2μm以下が最適である。平均粒子径が10μmを超えるとエマルションの貯蔵安定性が悪くなるとともに、塗膜にするための溶融熱量が大きく、乾燥時間が長くなる。
【0034】
本発明の水性分散液におけるカルボン酸変性ポリオレフィンの割合は、成膜条件、目的とする樹脂被膜の厚さや性能等により適宜選択でき、特に限定されるものではないが、コーティング組成物の粘性を適度に保ち、かつ良好な被膜形成能を発現させる点で、5〜60重要%が好ましく、20〜45重量%がより好ましい。5%未満のものは、塗膜にするための溶融熱量が大きくて、乾燥時間が長くなり、また、60%を超えたものは、製品の保存安定性が悪くなることがある。
【0035】
カルボン酸変性ポリオレフィンの水性分散液を得るためには、前記分散剤以外に別途、塩基性物質を加えることが好ましい。塩基性物質を加えるのは、カルボキシル基を中和し、イオン化して水への分散を良好にするためである。中和によって生成したカルボキシルアニオン間の電気反発によって、凝集が妨げられ、水性分散液の安定性が付与される。
【0036】
塩基性物質としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、有機アミン化合物が挙げられ、これらの1種もしくは2種以上が用いられる。塩基性物質である有機アミン化合物は、沸点が30〜250℃、より好ましくは50〜200℃の有機アミン化合物が好ましい。沸点が30未満のものを使用すると、乳化時の有機アミン化合物の揮発する割合が多くなり、乳化が完全に進行しない場合がある。沸点が250℃を超えるものを使用すると、樹脂の塗膜を乾燥するときに有機アミン化合物が飛散しなくなり、被膜の耐水性が悪化する場合がある。有機アミン化合物としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、エタノールアミン、イソプロピルアミン、プロパノールアミン、ジエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等が挙げられる。
【0037】
前記塩基性物質の量は、カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂中のカルボキシル基と分散剤中のカルボキシル基の合計に対して、0.5〜3.0倍当量であることが好ましく、0.8〜2.5倍当量がより好ましい。0.5倍当量未満のものは、水性分散液の貯蔵安定性が悪くなることがある。また、3.0倍当量を超えたのもは、水性分散液の貯蔵安定性及び塗膜の耐水性が悪くなることがある。
【0038】
水性分散液のpHは、好ましくは6〜11である。水性分散液のpHを6以上にすることで、水性分散液の貯蔵安定性が良好になる。また、水性分散液のpHを11以下にすることで、水性分散液の貯蔵安定性及び塗膜の耐水性が良好になる。
【0039】
本発明による水性分散液はその他の成分を含むことができる。その他の成分としては、たとえば、カルボキシル基を有しないポレオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、ビニル樹脂、繊維素樹脂等を含むエマルション;水性アクリル樹脂、水性ウレタン樹脂、水性メラミン樹脂、水性アルキッド樹脂、水性エポキシ樹脂、水性ビニル樹脂、水性繊維素樹脂等の水性樹脂;増粘剤、消泡剤、表面調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の添加剤;酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄、酸化クロム、紺青等の無機顔料;アゾ系顔料、アントラセン系顔料、ぺリレン系顔料、キナクリドン系顔料、インジゴ系顔料、フタロシアニン系顔料等の有機顔料;染料;タルク、シリカ等の無機充填剤や、導電性カーボン、導電性フィラー、金属紛等の導電性充填剤、有機改質剤、安定剤、可塑剤、添加剤等の補助配合剤等を挙げることができる。上記のその他の成分は、水性分散液を水性塗料やインキ等の用途に用いる場合、それぞれの用途における着色や導電性などの性能を付与するために配合される。
【0040】
本発明の水性分散液はその他の成分として、有機溶剤を含有させることもできる。有機溶剤を含有させない方がエマルションの貯蔵安定性が高く、最近のVOC規制にも適合し好ましい。しかし、有機溶剤を含有させると、作業性が向上するとともに、顔料等、上記その他の成分の分散性も向上する。有機溶剤としては、たとえば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、へプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロへプタン等の脂環式炭化水素類;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミン等のエステル類;n−ブチルエーテル、イソブチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、n−プロピレングリコール、イソプロピレングリコール等のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のセロソルブ類;ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のカービトール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル類;ジオキサン、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジアセトンアルコール等のその他の溶剤類等を挙げることができる。
【0041】
このようにして得られた水性分散液は、ポリオレフィン系樹脂、特にポリプロピレン系の基材に塗布した場合、耐水性及び密着性に優れた塗膜が得られる。
【0042】
本発明の水性分散液は、上塗り塗料、ポリオレフィンフイルム用のコーティング剤、インキ樹脂、接着剤、あるいは樹脂成型品、特に自動車内外の構造材料であるポリオレフィン系樹脂成型品のプライマーとして使用することができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例により具体的に説明するが本発明はこれによって限定されるものではない。
【0044】
<カルボン酸変性ポリオレフィン>
[製造例1]
ポリオレフィン(エチレン−プロピレン−ブテン共重合体、重量平均分子量75000)1000g、Irganox1010(商品名、チバガイギー社製)1g及びIrgafos168(商品名、チバガイギー社製)1gを攪拌機、滴下ロートと冷却管を取り付けたセパラフラスコに入れ、180℃にて溶解させた。フラスコ内の窒素置換を15分間行い、攪拌しながら無水マレイン酸30gを投入した。次に、ジ−t−ブチルパーオキシド5.7gを10mlのへプタンに溶解し、滴下ロートにより約30分間かけて投入した。このとき、系内は180℃に保たれた。さらに2時間反応を継続したあと、アスピレーターでフラスコ内を減圧しながら、約30分間かけて、未反応の無水マレイン酸及びヘプタンを除去し、カルボン酸変性ポリオレフィンの固形品を得た。最終製品の酸価は30mgKOH/g、軟化点は95℃、重量平均分子量70000であった。
【0045】
<内部オレフィンと不飽和カルボン酸無水物との付加反応生成物(付加反応生成物の塩を含む)又はその誘導体を含有するカルボン酸変性ポリオレフィン用分散剤>
[実施例1]
1−オクタデセン546g、オクタン酸ニッケル0.61gを仕込み、アルゴン置換後攪拌下にエチルアルミニウムセスキクロライド2.25gを添加し、30℃で2時間反応させた。
次いで、1N水酸化ナトリウム水溶液にて触媒を分解し、水相を除去することで、内部異性化したn−オクタデセンを得た。C13‐NMRによるn‐オクタデセンの組成は以下の通りであった。
二重結合分布 (α:β:γ:δ:ε=0:10:10:20:60)
このn‐オクタデセン395gとマレイン酸無水物163gをオートクレーブ中、窒素ガス加圧雰囲気下に220℃に加熱し、無触媒で8時間反応させた。反応液から未反応オレフィン及びマレイン酸無水物を減圧蒸留により除去し、オクタデセニルコハク酸無水物を得た。
【0046】
[実施例2]
攪拌機、温度計、冷却管、窒素導入管を付した反応容器にメタノール32gと実施例1で得たオクタデセニルコハク酸無水物322gを仕込み、窒素雰囲気下にて環流させ、3時間反応させて茶褐色透明のオクタデセニルコハク酸メチルを得た。
【0047】
[実施例3]
攪拌機、温度計、冷却管、窒素導入管を付した反応容器に、実施例1で得たオクタデセニルコハク酸メチル354g、水320gを仕込み、30%の水酸化ナトリウム水溶液 266gを添加混合し、70℃で1時間ケン化を行い、固形分40%のオクタデセニルコハク酸メチルのナトリウム塩を得た。
【0048】
[実施例4]
攪拌機、温度計、冷却管、窒素導入管を付した反応容器に実施例1で得たオクタデセニルコハク酸無水物322gと水372gを仕込み、30%の水酸化ナトリウム水溶液266gを添加混合し、70℃で1時間ケン化を行い、固形分40%のオクタデセニルコハク酸のナトリウム塩を得た。
【0049】
[実施例5]
攪拌機、温度計、冷却管、窒素導入管を付した反応容器に実施例1で得たオクタデセニルコハク酸無水物322g、プロピルアミン59gを添加混合し、70℃で3時間、アミド化反応を行い、茶褐色のオクタデセニルコハク酸プロピルアミドを得た。
【0050】
[実施例6]
攪拌機、温度計、冷却管、窒素導入管を付した反応容器に、実施例5で得たオクタデセニルコハク酸プロピルアミド381g、水360gを仕込み、30%の水酸化ナトリウム水溶液266gを添加混合し、70℃で1時間、ケン化を行い、固形分40%のオクタデセニルコハク酸プロピルアミドのナトリウム塩を得た。
【0051】
[比較例用分散剤]
1−オクタデセン300gと無水マレイン酸117gを環流管付きの装置に仕込み、攪拌下、窒素を少量導入しながら220℃に昇温し、8時間反応させた。α−オレフィン変性物を得た。
【0052】
<水性分散液の製造>
[実施例7]
製造例1で得られたカルボン酸変性ポリオレフィン100gを攪拌機付きのフラスコに取り、140℃に加熱溶解させた。その後、実施例1で得たオクタデセニルコハク酸無水物15gを加えてよく攪拌し、トリエタノールアミン15gを添加した。温度を140℃にし、強く攪拌しながら、90℃の水を少量ずつ加えた。粘度は上昇したが、そのまま水を加え続けると粘度は低下した。水を250g加えたところで内容物を取り出し、乳白色である固形分30%の水性分散液を得た。
【0053】
[実施例8]
製造例1で得られたカルボン酸変性ポリオレフィン100gを攪拌機付きのフラスコに取り、140℃に加熱溶解させた。その後、実施例2で得たオクタデセニルコハク酸メチル15gを加えてよく攪拌し、トリエタノールアミン10gを添加した。温度を140℃にし、強く攪拌しながら、90℃の水を少量ずつ加えた。粘度は上昇したが、そのまま水を加え続けると粘度は低下した。水を250g加えたところで内容物を取り出し、乳白色である固形分30%の水性分散液を得た。
【0054】
[実施例9]
製造例1で得られたカルボン酸変性ポリオレフィン100gを攪拌機付きのフラスコに取り、140℃に加熱溶解させた。その後、実施例3で得たオクタデセニルコハク酸メチルのナトリウム塩15gを含有する水溶液37.5gを加えてよく攪拌し、トリエタノールアミン15gを添加した。温度を140℃にし、強く攪拌しながら、90℃の水を少量ずつ加えた。粘度は上昇したが、そのまま水を加え続けると粘度は低下した。水を227g加えたところで内容物を取り出し、乳白色である固形分30%水性分散液を得た。
【0055】
[実施例10]
製造例1で得られたカルボン酸変性ポリオレフィン100gを攪拌機付きのフラスコに取り、140℃に加熱溶解させた。その後、実施例4で得たオクタデセニルコハク酸のナトリウム塩15gを含有する水溶液37.5gを加えてよく攪拌し、トリエタノールアミン15gを添加した。温度を140℃に保ち、強く攪拌しながら、 90℃の水を少量ずつ加えた。粘度は上昇したが、そのまま水を加え続けると粘度は低下した。水を227g加えたところで内容物を取りだし、乳白色である固形分30%の水性分散液を得た。
【0056】
[実施例11]
製造例1で得られたカルボン酸変性ポリオレフィン100gを攪拌機付きのフラスコに取り、140℃に加熱溶解させた。その後、実施例5で得たオクタデセニルコハク酸プロピルアミド15gを加えてよく攪拌し、トリエタノールアミン15gを添加した。温度を140℃にし、強く攪拌しながら、90℃の水を少量ずつ加えた。粘度は上昇したがそのまま、水を加え続けると粘度は低下した。水を250g加えたところで内容物を取り出し、乳白色である固形分30%の水性分散液を得た。
【0057】
[実施例12]
製造例1で得られたカルボン酸変性ポリオレフィン100gを攪拌機付きのフラスコに取り、140℃に加熱溶解させた。その後、実施例6で得たオクタデセニルコハク酸プロピルアミドのナトリウム塩15gを含有する水溶液37.5gを加えてよく攪拌し、トリエタノールアミン15gを添加した。温度を140℃にし、強く攪拌しながら、90℃の水を少量ずつ加えた。粘度は上昇したがそのまま、水を加え続けると粘度は低下した。水を227g加えたところで内容物を取り出し、乳白色である固形分 30%の水性分散液を得た。
【0058】
[比較例1]
製造例1で得られたカルボン酸変性ポリオレフィン100gを攪拌機付きのフラスコに取り、140℃に加熱溶解させた。その後、ノニオン系界面活性剤(ニューコール2308:日本乳化剤(株)製)15gを加えてよく攪拌し、トリエタノールアミン10gを添加した。温度を140℃に保ち、強く攪拌しながら、90℃の水を少量ずつ加えた。粘度は上昇したが、そのまま水を加え続けると粘度は低下した。水を 250g加えたところで内容物を取り出し、乳白色である固形分30%の水性分散液を得た。
【0059】
[比較例2]
製造例1で得られたカルボン酸変性ポリオレフィン100gを攪拌機付きのフラスコに取り、140℃に加熱溶解させた。その後、アニオン系界面活性剤(ニューコール210:日本乳化剤(株)製)15gを加えてよく攪拌し、トリエタノールアミン10gを添加した。温度を140℃に保ち、強く攪拌しながら、90℃の水を少量ずつ加えた。粘度は上昇したが、そのまま水を加え続けると粘度は低下した。水を250g加えたところで内容物を取り出し、乳白色である固形分30%の水性分散液を得た。
【0060】
[比較例3]
製造例1で得られたカルボン酸変性ポリオレフィン100gを攪拌機付きのフラスコに取り、140℃に加熱溶解させた。その後、比較例用分散剤であるα−オレフィン変性物15gを加えてよく攪拌し、トリエタノールアミン15gを添加した。温度を140℃にし、強く攪拌しながら、90℃の水を少量ずつ加えた。粘度は上昇したが、そのまま水を加え続けると粘度は低下した。水を250g加えたところで内容物を取り出し、乳白色である固形分30%の水性分散液を得た。
【0061】
[試験例1]
各水性分散液の50℃・1ヶ月後における保存安定性結果を表1に示す。
測定方法
・外観:目視にて判定。○は良好であることを示す。
・平均粒子径:LA−910(HORIBA製)にて測定。
【0062】
【表1】

【0063】
[試験例2]
・接着性試験
「樹脂塗工フィルムの作製」
実施例7〜12、比較例1〜3において得られた水性エマルションを接着剤として、内面コロナ処理した坪量31g/m2のPETフィルムあるいは坪量18g/m2のOPPフィルムにアプリケーターで乾燥後の塗工量が8g/m2になるように塗布し、120℃に調整した熱風乾燥器中で1分間乾燥後し、23℃、50%RHの雰囲気下にて24時間以上放置することによって樹脂塗工フィルムを得た。
【0064】
上記方法にて作製したフィルムの物性を以下に示す方法で測定した結果を表2に示す。
(1)耐水性
樹脂塗工フィルムを5×5cmの大きさに切り取り、水道水に1日浸漬した。樹脂塗工層の溶解、剥離あるいは白化の有無を目視で評価した。
○:外観に変化なし
△:塗工層の一部が溶解、剥離、あるいは白化した。
×:塗工層の大部分が溶解、剥離、あるいは白化した。
【0065】
(2)フィルムに対する密着性
樹脂塗工フィルムの塗膜表面に粘着テープを貼付け、勢いよく引き剥がし、その剥離状態を観察した。
○:まったく剥離なし。
△:一部剥離した。
×:半分、あるいは全部剥離した。
【0066】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部オレフィンと不飽和カルボン酸無水物との付加反応生成物(付加反応生成物の塩を含む)及び/又はその誘導体(誘導体の塩を含む)を含有するカルボン酸変性ポリオレフィン用分散剤。
【請求項2】
内部オレフィンが炭素数10〜30のα−オレフィンを異性化して得られることを特徴とする請求項1記載のカルボン酸変性ポリオレフィン用分散剤。
【請求項3】
内部オレフィンと不飽和カルボン酸無水物との付加反応生成物(付加反応生成物の塩を含む)及び/又はその誘導体(誘導体の塩を含む)と、カルボン酸変性ポリオレフィンを含有することを特徴とする水性分散液。

【公開番号】特開2006−56980(P2006−56980A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−239823(P2004−239823)
【出願日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(000109635)星光PMC株式会社 (102)
【Fターム(参考)】