説明

分散性および注射投与能が向上した徐放性微小球の製造方法

生分解性高分子を担体とし、薬物を含有する徐放性微小球を噴霧乾燥によって製造する方法が開示される。本方法は、生分解性高分子、薬物および溶媒を含有する溶液、懸濁液またはエマルジョンを製造する工程と、前記溶液、懸濁液またはエマルジョンを噴霧乾燥させる工程と、噴霧乾燥した微小球をポリビニルアルコールの含有された水溶液に懸濁させた残留溶媒を除去し、微小球の表面の親水性を増加させる工程とを含む。本発明に係る製造方法によって、薬物の封入率が高く、残留溶媒の毒性問題が殆どないうえ、注射能が良い微小球を製造することができる。また、本発明によって製造された微小球は、体内に投与されたときに一定の期間薬物を有効濃度で持続的に放出することにより、疾病の治療に有用に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性高分子を担体とし、薬物を含有する徐放性微小球の製造方法に関する。このような微小球剤形は、皮下または筋肉注射を行ったときに体内で生物学的活性を維持した薬物が持続的且つ均一に放出できるように製剤化した徐放性注射剤形である。
【背景技術】
【0002】
生活性剤を徐放性高分子微小球にカプセル化するための多数の方法が使用されてきた。これらの方法の殆どは、相分離法(USP4,673,595、EP52,510)、溶融射出後の低温粉砕法(USP5,134,122、同5,192,741、同5,225,205、同5,431,348、同5,439,688、同5,445,832、同5,776,885)、二重乳化蒸発法(w/o/w、water/oil/water)(米国特許第4,652,441、同4,771,782、同4,954,298、同5,061,492、同5,330,767、同5,476,663、同5,480,656、同5,611,971、同5,631,020、同5,631,021)、単一乳化蒸発法(o/w、oil/water)(米国特許第4,389,330、同5,945,126、Shameem M, Lee Hee Yong, DeLuca P.P., AAPS Pharmsci., 1 (3) article 7, 1999; Kostanski J.W., Pharm. Dev. Tech. 5, 585-596, 2000)、および噴霧乾燥法(IE920956)に基づいている。
【0003】
相分離封入法は、生分解性高分子を過量の有機溶媒、例えば塩化メチレンなどに溶解させ、少量の水に溶解した薬物を攪拌しながら高分子溶液に添加させる微小球製造方法である。次いで、シリコンオイルを高分子と薬物の混合物に一定の速度で入れて胚芽微小球を作った後、過量の非溶媒、例えばトリクロロフルオロメタンなどを溶液に添加して胚芽微小球内の有機溶媒を抽出する。固形化された微小球を濾過によって回収した後、減圧の下で乾燥させる。ところが、前記相分離法は次のような問題がある。例えば塩化メチレンなどの毒性溶媒が減圧の下で乾燥によって十分に除去されないため、残留溶媒が製剤の安定性を低下させ、人体への投与の際に健康に害を及ぼすおそれがある。また、胚芽微小球を固形化させるには非溶媒、例えばフレオン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、トリクロロフルオロメタンなどを多量使用しなければならないため、大量生産の際に経済的問題と共に深刻な環境汚染問題が発生する。
【0004】
これに反して、溶融射出後の低温粉砕法は毒性溶媒の使用を制限する。この方法は、生分解性高分子と薬物の混合物を高温で射出機を介して溶融射出した後、それを低温で粉砕して微小球を製造する方法である。生分解性高分子と薬物の混合物を得るためには、例えば塩化メチレンなどの溶媒を用いて攪拌器で均一に混ぜた後、回転蒸発器または真空乾燥機によって有機溶媒を除去する方法を使用するか、あるいは、それぞれの粉末を低温で製粉した後、篩い掛けして得た微細粉末状態で両方を混ぜる方法を使用することができる。後者の場合、微小球製造過程中に毒性溶媒を使用しないため、残留毒性溶媒の問題点はなくなる。ところが、前記製造方法では、微細粒子を得る過程において、溶融射出時の高温、高圧による高分子と薬物間の反応および薬物の変性、並びに低温粉砕過程における局所的に発生する熱による薬物の変性の可能性を排除することができない。また、前記方法は、注射し易くするために均一なサイズの微小球を製造することに使用し難い。
【0005】
前記2つの微小球製造方法は、残留溶媒や大量生産の難しさ、薬物の変性などの問題とともに、薬物に徐放性を与えるために使用される生分解性高分子の非親水性により、水性懸濁液に懸濁して注射の際に分散性が低下するという欠点も持っている。
【0006】
二重乳化蒸発法(W/O/W)はペプチドまたはタンパク質などの水溶性薬物の封入に主に用いられている。W/O/W方法では、親水性薬物を水に溶解し、その水相を、生分解性高分子を含有する有機相に分散させて1次エマルジョン(油中水滴)にする。この1次エマルジョンを乳化剤含有2次水相に分散させる。また、単一乳化蒸発法(O/W)は脂溶性薬物の封入に主に用いられている。このO/W方法では、適切な有機溶媒の混合物(例えば、メタノールおよび塩化メチレン)に薬物と生分解性高分子を一緒に溶解させた後、得られた溶液を水相に分散させる。これらの2つの乳化蒸発法では、有機溶媒相の高分子が水相に分散する過程で有機溶媒が抽出または蒸発によって除去されるため、高分子の溶解度が減少して固形化され、結果として微小球を形成する。これらの方法で技術的に重要な部分は、主に生理活性薬物の封入率といえる。
【0007】
大部分の親水性薬物は、水相に分散させる過程で相当量の薬物が漏れて封入率が低くなるしかない。この問題点を解決するために、Okadaなどは、二重乳化蒸発法による微小球製造過程中にゼラチンなどの物質を使用した。この物質は1次エマルジョンの粘性を増加させて2次エマルジョンにおける薬物(LHRH誘導体)の拡散速度を減少させることにより、薬物の封入率を高めたことがある(Okada, H. and Toguchi, H., Crit. Rev. Ther. Drug Carrier Syst., 12, 1-99, 1995)。これと同様に、単一乳化蒸発法においても、有機溶媒に溶解された生分解性高分子(PLGA)の濃度を適当に増加させることにより、薬物の封入率を増加させることができる。一般に、二重乳化蒸発法によって製造された微小球は、単一乳化蒸発法によって製造された微小球に比べて多孔性が増加して表面積が増加し、薬物の初期放出速度が相対的に大きい。
【0008】
前記単一乳化蒸発法および二重乳化蒸発法による微小球の製造は、相分離法と同様に、生分解性高分子の溶解に使用される有機溶媒除去の難しさ、大量生産時の溶媒除去率の変化による工程上の難しさ、1次エマルジョンの粘性増加のために使用されるゼラチンによるアレルギー反応、1次エマルジョン製造の際に小さい微小球を作るために加えられる強いせん断力による薬物の変性および活性消失の可能性、薬物封入率の限界などといった欠点を依然として持っている。
【0009】
噴霧乾燥法は微細化された粒子の製造に用いられている。この方法では、一般に乾燥しようとする物質の溶液、または生分解性高分子と薬物が均一に溶解された懸濁液あるいはエマルジョンをノズルに供給して噴霧し、高温の空気を一緒に供給して溶媒を蒸発させる。特に、徐放性微小球を製造する場合には、生分解性高分子の組成または含量、添加剤の種類または含量、溶媒の組成などの条件によって、製造された微小球の薬物放出速度が大きく影響を受ける。前記製造変数の他にも、噴霧液を噴霧するノズルタイプ(例えば、圧縮空気を用いて液滴を微細化する方式、高速で回転するディスクに噴霧液を流して遠心力によって液滴を微細化する方式、振動子の振動により発生する超音波を用いて液滴を微細化する方式など)、噴霧液の供給速度、並びに乾燥空気の温度、供給量および速度などの条件によって微小球の性状、大きさ、性質などが決定される。また、噴霧乾燥法は、その他の徐放性微小球製造方法とは異なり、連続工程による生産が容易であって少量生産から大量生産への移行が容易であるという利点を持っている。
【0010】
このような噴霧乾燥法は、大量生産が容易であるという利点を持っているにも拘らず、次のような欠点がある。単純な噴霧乾燥のみでは、使用された溶媒が十分に除去されない。残留溶媒が長期保管の際に生分解性高分子の安定性に問題を引き起こして微小球の薬物放出様相が変わる。この方法の別の欠点は、薬物封入に主に用いられる生分解性高分子が殆ど非親水性なので、製造された微小球が碌に懸濁されない現象が発生して正確な投薬が難しいことである。
【0011】
上述したように、従来の徐放性微小球の製造方法は、大部分が毒性溶媒を使用し、使用された毒性溶媒の残留、注射に不適な微小球の大きさ、不良な懸濁性、および大量生産の難しさといった問題点などを持っている。
【0012】
本発明者らは、このような問題点を解決し、大量生産などが容易な、生理活性薬物を含有する生分解性高分子微小球の製造方法を提供しようとした。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、本発明の目的は、担体としての生分解性高分子と生理活性薬物を含有する徐放性微小球を製造するにおいて大量生産に容易であるうえ、既存の徐放性微小球製造方法の残留毒性溶媒問題を解決し、注射に適した均一なサイズおよび高い薬物封入率を有する微小球の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、集中的な研究を行った結果、生分解性高分子、薬物および溶媒を含有する溶液、懸濁液またはエマルジョンを噴霧乾燥させて得た微小球をポリビニルアルコール含有水溶液に懸濁して残留溶媒を除去することにより、残留毒性溶媒がなく、薬物封入率が高いうえ、懸濁性および注射能が改善された微小球が製造されるということを見い出した。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明の前記および他の目的、特徴および他の利点は、添付図面を参照する次の説明からさらに明確に理解されるであろう。
【0016】
【図1】本発明の製造実施例1によって製造した微小球の水溶液における分散回収率および注射投与能を示すもので、試験実施例1に記述された方法によって試験した後、各チューブにおける微小球の回収率(パネルa)、および回収率の平均に対する各チューブの偏差(パネルb)を示す。
【0017】
【図2】製造実施例8で製造したロイプロレリン含有微小球(leuprolelin-loaded microsphere)を試験実施例5でのように雄S.D.ラット(n=5)に1回皮下注射した後の血清中テストステロン濃度を示す結果である。
【0018】
【図3】製造実施例9で製造したオクトレオチド含有微小球(octreotide-loaded microsphere)を試験実施例6でのように雄S.D.ラット(n=6)に1回皮下注射した後の血清中オクトレオチド濃度を示す結果である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、徐放性微小球を製造するために、生分解性高分子、薬物および溶媒を含有する溶液、懸濁液またはエマルジョンを噴霧乾燥させて得た微小球をポリビニルアルコール含有水溶液に分散させて残留溶媒を一層容易に除去し、投与時の懸濁性を向上させた徐放性微小球の製造方法に関する。
【0020】
具体的に、本発明は、生分解性高分子と薬物を溶解し、噴霧乾燥させて得た微小球を、ポリビニルアルコールが溶けている水溶液に懸濁させた後、回収、洗浄して凍結乾燥させることにより、高い薬物封入率を有し、残留溶媒が殆どなく、投与時の懸濁性が向上した徐放性微小球を製造する方法に関する。
【0021】
一つの様態として、本発明は、生分解性高分子、薬物および溶媒を含有する溶液、懸濁液またはエマルジョンを乾燥チャンバー内に噴霧し、乾燥空気を用いて溶媒を乾燥させる工程、および噴霧乾燥した微小球をポリビニルアルコール含有水溶液で分散させて残留溶媒を除去し、微小球の分散性を向上させる工程を含む、徐放性微小球の製造方法を提供する。
【0022】
本明細書で使用される用語「生分解性高分子」とは、体内への投与時にゆっくり分解されて人体に無害な高分子をいう。このような高分子の例としては、ポリラクチド(PLA)、ポリグリコライド(PGA)、またはこれらの共重合体であるポリ(ラクチド−コ−グリコライド)(PLGA)、ポリオルトエステル、ポリアンヒドリド、ポリヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、ポリアルキルカーボネートおよびこれらの誘導体を含む。
【0023】
本明細書で使用される用語「薬物」とは、生理活性を有する ペプチド, 例えば,抗癌剤、抗生剤、解熱剤、鎮痛剤、抗炎症剤、鎮咳剤、鎮静剤、抗潰瘍剤、抗鬱剤、抗アレルギー剤、糖尿病治療剤、過脂質血症治療剤、抗結核剤、ホルモン、骨代謝製剤、免疫抑制剤、血管形成抑制剤、避妊剤、ビタミン剤などを含む。特に、生理活性を持つペプチドまたはタンパク質薬物がより好ましい。例えば、生理活性を持つオリゴペプチドとしては、インシュリン、ソマトスタチンおよびそれらの誘導体、成長ホルモン、プロラクチン、副腎皮質刺激ホルモン、メラニン細胞刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンおよびそれらの塩と誘導体、甲状腺刺激ホルモン、黄体ホルモン、卵胞刺激ホルモン、バソプレシンおよびそれらの誘導体、オクシトシン、カルシトニン、副甲状腺ホルモン、グルカゴン、ガストリン、セクレチン、パンクレオザイミン、コレシストキニン、アンジオテンシン、ヒト胎盤性ラクトーゲン、ヒト絨毛性ゴナドトロピン、エンケファリンおよびそれらの誘導体などがあり、ポリペプチドとしては、エンドルフィン、インタフェロン(α、β、γ型)、インターロイキン、タフトシン、サイモポエチン、サイモシン、サイモスチムリン、胸腺液性因子(THF)、血清胸腺因子およびそれらの誘導体、腫瘍怪死因子、コロニー刺激因子(CSF)、モチリン、ダイノルフィン、ボンベシン、ニューロテンシン、ブラジキニン、セルレイン、ウロキナーゼ、アスパラギナーゼ、カリクレイン、サブスタンスP、神経成長因子、血液凝固因子VIIIおよびIX、リゾチーム、ポリミキシンB、コリスチン、グラミシジン、バシトラシン、タンパク質合成刺激ペプチド、血管活性腸管ポリペプチド、血小板由来成長因子、成長ホルモン放出因子、骨形成タンパク質、上皮成長因子、エリスロポエチンなどがある。
【0024】
本発明において、ポリビニルアルコール含有水溶液とは、噴霧乾燥直後の微小球内の残留溶媒をさらに効果的に除去し、投与の際に注射液によく分散されるようにするために使用される。このような水溶液は、追加工程の後、洗浄工程によって除去され、微小球には最終的に残留量が1%以下に維持される。また、微小球をポリビニルアルコール水溶液に懸濁して残留溶媒除去の際に懸濁液の温度を調節することにより残留溶媒除去速度を調節することができる。このような特性を用いて、少量生産の際には室温または常温で短時間内に残留溶媒を除去することができる。大量生産の際には懸濁液の温度を低温に維持して残留溶媒除去速度を遅くすることにより、製品の大量取扱いにかかる所要時間の差による製品の品質低下を防ぐことができる。
【0025】
追加分散工程において、水溶液におけるポリビニルアルコールの含量は、好ましくは0.01〜20%(w/v)、より好ましくは0.05〜10%(w/v である。ポリビニルアルコールは、分子量が3,000〜300,000、好ましくは5,000〜100,000であり、水和度が75〜95%である。また、微小球の表面に残留するポリビニルアルコールの量は、好ましくは0.02〜1%(w/v)、より好ましくは0.05〜0.5%(w/v)である。
【0026】
本明細書で使用される「溶媒」とは、生分解性高分子および/または薬物を溶かすことが可能な物質のことをいう。適切な溶媒は、生分解性高分子の種類に応じて、当該技術分野における通常の知識を有する者が選択できるが、氷酢酸が好ましい。
【0027】
本発明は、微小球の分散性を向上させるために、ポリビニルアルコール水溶液に微小球を分散させる工程を含む。この際、最適の効果のためには分散工程の際に約1分以上の時間がかかる。好ましくは5分以上である。
【0028】
本発明の前に出願された特許文献(韓国特許出願第10−2003−0023130号)で、本発明者らは、非毒性溶媒を用いて生分解性高分子と薬物を均一に溶解させた後、得られた溶液を噴霧乾燥させて薬物の封入率と放出パターンを改善し、容易な大量生産のために噴霧乾燥させる方法を提示した。このような噴霧乾燥法は、大量生産の容易性、低い残留溶媒、高い薬物封入率、理想的な薬物放出パターンなどの利点にも拘らず、噴霧乾燥によって得た徐放性微小球高分子の非親水性による注射液における分散および懸濁の難しさ、室温および高温での長期間保管時の微小球安定性のための追加的な残留溶媒除去の必要性などといった欠点があった。よって、本発明者らはこれらの欠点を本発明で解決しようとした。
【0029】
2つのノズルを用いて微小球を製造する通常の方法は、米国特許第5,622,657号に開示されている。噴霧乾燥によって製造された微小球は自ら固まったり凝集したりする傾向があるので、このような高分子微小球の分散性を改善するために、前記引用特許は、2つ以上のノズルを用いて、生理活性物質の含まれた高分子含有溶液と凝集防止のための水溶液をそれぞれ相異なるノズルを介して同時に噴霧することにより、薬物含有高分子微小球を凝集防止剤でコートする方法を提供する。これと類似の方法は韓国特許第0177309号に開示されているが、この方法は、活性成分を含む生分解性高分子溶液の噴射方向および乾燥空気の流れ方向とは反対に、水溶性分散剤が溶解されている分散液を向流噴射して徐放性微細粒子を部分または全体的に水溶性分散剤でコートすることを特徴としている。前記引用特許は、噴霧乾燥を用いて微小球の形成直後に微小球凝集防止水溶液を噴霧することにより、微小球間の凝集を防止しようとしたが、次のような欠点がある。微小球の噴霧乾燥直後に凝集防止剤がコートされることにより、微小球を製造するための高分子の溶解に使用された毒性溶媒が微小球に多量残留する。また、投与のために注射液に懸濁する場合、過量の分散剤が投与される。しかも、前記引用特許で使用された凝集防止剤、例えばヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、グリシン、アラニン、ゼラチン、コラーゲンなどは、注射液における懸濁性および注射能が改善されないため、投薬が不均一になる。
【0030】
一方、錠剤を製造するための顆粒あるいは薬物粒子の流動性を良くし且つ薬物の溶解度を改善するために、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコールなどの水溶性分散剤を約4〜19重量%含有するように薬物と共に噴霧乾燥させる方法がある(D. Ermis, A. Yuksel, Preparation of spray-dried microspheres of indomethacin and examination of the effects of coating on dissolution rates, J. Microencapsulation, vol. 16, No. 3, 3,315-324(1999))。前記文献では、水に難溶性である薬物の溶解度を高めて数時間内に溶解されるようにし、薬物粒子の流動性を増加させて錠剤打錠過程などの工程を円滑にするために、前記水溶性分散剤を使用する。ポリビニルアルコールは、動物に非経口的に投与するときに癌を誘発するおそれのある物質として登載されているため、その残留量が調節されなければならず(Carcinogenic Studies on Water-Soluble and Insoluble Macromolecules, Archives of Pathology, 67, 589-617, 1959)、本発明者らは、前記引用文献でのように高分子溶液にポリビニルアルコールを懸濁状態で追加して一緒に噴霧する場合、生体内で分解し難いポリビニルアルコールの含有量が増加し、初期薬物の放出量が過度に増加することを確認した。このような初期過多薬物放出は、副作用を誘発するおそれがあると共に、薬物持続放出時間が減少して適切な治療効果を得ることができない。
【0031】
本発明者らは、先行発明によって開発した噴霧乾燥方法を用いて微小球を製造し、ポリビニルアルコールの含有された水溶液に微小球を懸濁した後、これを洗浄して回収する工程によって、残留溶媒が追加的に除去され且つ注射能が向上した微小球を製造することにより、本発明を完成した。
【0032】
本発明に係る生理活性を持つ薬物を含有する生分解性高分子微小球の製造方法は、噴霧乾燥によって微小球を製造し、製造された微小球をポリビニルアルコールの含有された水溶液に懸濁した後、回収、洗浄および乾燥させる工程によって、残留溶媒をさらに除去すると同時に、投与の際に微小球の懸濁性を向上させることにより、薬物の正確な投与とこれによる疾患の効率的治療を可能にした。
【0033】
下記の実施例によって本発明をさらに理解することができるが、本発明の技術的範囲がこれらの実施例に限定されるものと解釈されてはならない。
【実施例】
【0034】
製造実施例1:微小球の製造および分散剤種類別の後工程
超音波ノズル(Sono−Tek、120kHz)付きの噴霧乾燥機(SODEVA、France)を用いてPLGA微小球を製造した。生分解性高分子としてはRG503H(Boehringer−Ingelheim、ドイツ)を使用し、薬物としてはロイプロレリンアセテート(polypeptide Laboratories、デンマーク)を使用した。50gのRG503Hと2.5gのロイプロレリンアセテートを氷酢酸(Yakuri Pure Chemicals、日本)500mLに均質に溶解した。製造された溶液をピストンポンプを用いて分当り3mLの流量で移送した。移送液は、噴霧器の上端に取り付けられた超音波ノズルを介して乾燥チャンバー内に噴霧した後、200℃の乾燥空気で乾燥させた。サイクロンから回収された微小球を一定量それぞれ秤量し、蒸留水および下記分散剤が1(w/v)%含有された水溶液に50mg/mLの濃度で混ぜた後、磁石攪拌器を用いて常温で1時間懸濁した。この際、使用された分散剤は、ポリビニルアルコール(Sigma、P−8136)、ポリビニルピロリドン(Sigma、PVP−360)、ヒト血清アルブミン(Sigma、A−1654)、ポリエチレングリコール(Yakuri Pure Chemicals、28123)、Tween80(Sigma、P−0343)、ポロキサマー(Sigma、P−1300)、ナトリウムカルボキシメチルセルロース(Sigma、C−5678)、ゼラチン(Sigma、G−6650)、グリシン(Sigma、G−7126)、およびマンニトル(Sigma、M−8429)であった。懸濁液を真空濾過器によって除去し、蒸留水で2回洗浄した後、微小球を回収して凍結乾燥させた。
【0035】
試験実施例1:微小球の回収率および注射投与能の測定
製造実施例1で製造された微小球を水溶液に分散させ、注射器における回収率および投与能を測定した。それぞれの製造された微小球をビーカーに仕込んだ後、3次蒸留水に50mg/mLの濃度で混ぜた。磁石攪拌器を用いて均一に分散させながら、21Gニードルが取り付けられた1mL用量の注射器で1mLずつ精密に回収した(n=20)。注射器内に回収された1mLの微小球をそれぞれ1.5mLのエッペンドルフ型チューブにさらに注射して移した後、凍結乾燥させた。最終的にチューブ内に回収された微小球の乾燥重量を測定し、その結果を表1に示した。
【0036】
【表1】

【0037】
表1から分かるように、分散工程を経ていない噴霧乾燥直後の微小球、または分散剤のない蒸留水で分散工程を経た微小球の場合は、注射器による回収および投与の際に回収率および均一性が低下することを確認した。既存の文献で言及された様々な分散剤に比べてポリビニルアルコールの回収率が著しく優れており、残りの分散剤の場合、ゼラチン、ヒト血清アルブミン、Tween80の順であった。図1(パネルa)では、分散工程を経ていない微小球の場合、および分散剤でマンニトールとポリビニルアルコールを用いた場合の注射器を使用した回数および投与時の回収率と均一性を示した。図1(パネルb)では、分散工程を経ていない微小球と分散剤としてのポリビニルアルコールを使用した場合、注射器における回収率の平均に対する各チューブの偏差を示した。図1に示すように、ポリビニルアルコール分散工程を経た場合に回収率と均一性が最も良いことを確認した。
【0038】
製造実施例2:微小球の分散性向上のための分散時間の影響
超音波ノズル(Sono−Tek、120kHz)付きの噴霧乾燥機(SODEVA、France)を用いてPLGA微小球を製造した。生分解性高分子としてはRG503Hを使用し、薬物としてはロイプロレリンアセテートを使用した。40gのRG503Hと4gのロイプロレリンアセテートを氷酢酸400mLに均質に溶解した。製造された溶液を分当り3mLの流量で超音波ノズルを介して乾燥チャンバー内に噴霧した後、200℃の乾燥空気で乾燥させた。サイクロンから回収された微小球を一定量取って、1%(w/v)ポリビニルアルコールの含有された水溶液に50mg/mLの濃度で混ぜ、磁石攪拌器を用いて25℃で1分、3分、5分、10分、1時間、3時間、6時間懸濁した。各時間別に懸濁液を真空濾過器で除去し、蒸留水で2回洗浄した後、微小球を回収して凍結乾燥させた。
【0039】
試験実施例2:微小球の分散回収率および注射投与能の測定
製造実施例2で製造された微小球を水溶液に分散させ、注射器における回収率および投与能を測定した。試験実施例1と同様の方法で行い、その結果を表2に示した。
【0040】
【表2】

【0041】
表2から分かるように、微小球をポリビニルアルコール溶液に懸濁した直後から高い回収率を示し、分散工程時間が長くなるほど、注射器に回収した後で投与の際に、回収率が益々高まり均一性も増加する傾向を示した。ところが、一定の時間懸濁した以後にはその傾向が一定になることが分かる。
【0042】
試験実施例3:残留ポリビニルアルコール含量の測定
製造実施例2で製造された微小球の残留ポリビニルアルコール含量を測定した。測定法は、下記論文(Journal of Controlled Release, 82 (2002), 105-114)を参考とし、次のように変形して行った。剤形2mgを精密に量り、ガラスバイアルに入れ、0.5N NaOH400μLを加えた後、60℃のオーブンで2〜3時間反応させて完全に溶解させる(n=3)。微小球が完全に溶解された溶液に1N HCl180μLを加えて中和させ、ここに0.65Mホウ酸600μL、I/KI(0.05M/0.15M)溶液100μLを添加して20分間反応させた後、UV690nmで吸光度を測定した。その結果は表3に示した。
【0043】
【表3】

【0044】
表3に示すように、ポリビニルアルコール溶液に懸濁する時間が長くなるほど、残留量が多くなることが分かる。
【0045】
表2および表3をまとめると、ポリビニルアルコール水溶液に分散懸濁し次第、微小球の分散性及び回収率が向上するが、最適の効果のためには約5分以上の時間がかかり、この際、微小球の表面に残留するポリビニルアルコールの量は0.05重量%以上であることが分かる。これはこれらの微小球を用いて注射器における回収率を決定する重要な要素になる。
【0046】
比較実施例1:ポリビニルアルコール同時噴射微小球の製造
超音波ノズル(Sono−Tek、120kHz)付きの噴霧乾燥機(SODEVA、France)を用いてPLGA微小球を製造した。生分解性高分子としてはRG503Hを使用し、薬物としてはロイプロレリンアセテートを使用した。対照剤形の製造は、1.8gのRG503Hと0.2gのロイプロレリンアセテートを氷酢酸90mLに均質に溶解した。製造された溶液をピストンポンプを用いて分当り1.5mLの流量で移送した。移送液は、噴霧器の上端に取り付けられた超音波ノズルを介して乾燥チャンバー内に噴霧した後、200℃の乾燥空気で乾燥させた。サイクロンから回収された微小球の一定量を取って、ポリビニルアルコール分散剤が1%(w/v)含有された水溶液に50mg/mLの濃度で混ぜた後、磁石攪拌器を用いて常温で1時間懸濁した。懸濁液を真空濾過器によって除去し、蒸留水で2回洗浄した後、微小球を回収して凍結乾燥させた。
【0047】
ポリビニルアルコールを同時噴霧乾燥させた場合の分散効果を比較するための比較剤形を製造した。1.8gのRGT503Hと0.2gのロイプロレリンアセテートの他にポリビニルアルコール0.02gを氷酢酸90mLに均質に懸濁した後、製造された溶液をピストンポンプを用いて分当り1.5mLの流量で移送し、噴霧器の上端に取り付けられた超音波ノズルを介して乾燥チャンバー内に噴霧した後、温度200℃の乾燥空気で乾燥させて比較剤形を製造した。
【0048】
このように製造された対照および比較の微小球剤形を水溶液に分散させ、注射器における回収率および投与能を測定した。測定方法は、試験実施例1と同様にして行った。最終的にチューブ内に回収された微小球の乾燥重量を測定して表4に示した。剤形の残留ポリビニルアルコールの定量は試験実施例3と同一の方法で行った。
【0049】
In vitro放出試験は、剤形10mgを秤量して1.5mLのチューブに仕込み、PBS(phosphate buffered saline)を1mLずつ加えた後、37℃でセットされた培養器でロータリーシェーカー(Seoulin bioscience、SLRM−2M)を用いて5rpmで回転させながら1時間放置した。1時間放置の後、遠心分離し、上澄み液のみを取って蛍光分析器(Varian、Cary Eclipse)を用いてEx280nmおよびEm350nmでペプチド薬物の放出量を分析した。
【0050】
【表4】

【0051】
表4から分かるように、分散工程を経ていない比較剤形は、ポリビニルアルコール分散を経た対照剤形に比べてポリビニルアルコールの濃度は高いが、注射器を用いた回収および投与時の回収率および均一性が低下するうえ、初期放出率も高かった。
【0052】
試験実施例4:ポリビニルアルコール分散工程時間による残留溶媒除去率
製造実施例2と同様の方法で製造し、サイクロンから回収された微小球を1%ポリビニルアルコール水溶液に50mg/mLの濃度で懸濁して水溶液の温度を25℃に維持しながら各時間別残留酢酸の除去率を測定した。微小球内の残留酢酸濃度は、微小球を塩化メチレン(Junsei、34355−0350)に溶解した後、0.07%リン酸(Sigma、P−6560)水溶液を入れて強く混合した後、遠心分離してリン酸水溶液層を分離回収し、HPLCで酢酸の量を定量して示した。HPLCは、C18カラム(5μm、4.6×250mm、120Å)を用いて行った。移動相として、メタノール(J.T.Baker、AH230−4)の割合が5〜50%線形的に傾いたメタノールと0.07%リン酸緩衝液(pH3.0)との混合物を1.2mL/minの流速で流し、UV210nmで酢酸を検出した。その結果を表5に示した。製造直後の微小球内の残留酢酸は0.8重量%であった。
【0053】
【表5】

【0054】
表5に示すように、ポリビニルアルコール水溶液に懸濁し、残留溶媒除去の際に時間経過に伴って漸次残留溶媒が除去されることを確認した。また、最終残留溶媒が0.1重量%以下に維持できることを確認した。
【0055】
製造実施例3:牛血清アルブミン含有W/Oエマルジョンの噴霧乾燥
牛血清アルブミン(Sigma、A−7638)0.5gを蒸留水に溶かし、これを、9.5gのRG502Hを塩化メチレン95mLに溶かした溶液と混合した後、均質化してW/O型のエマルジョンを作った。このエマルジョンを攪拌器を用いてエマルジョン状態を維持しながら噴霧乾燥機(Buchi−191)に3mL/minの流速で供給し、2−流体ノズルに圧縮空気を450NL/hで供給して、噴霧された微細粒滴を80℃の乾燥空気で乾燥させた。回収された微小球を1%ポリビニルアルコール水溶液に50mg/mLの濃度で懸濁して磁石攪拌器で攪拌しながら3時間懸濁した後、蒸留水で洗浄して凍結乾燥させた。製造された微小球の平均粒子サイズは5.2μmであり、微小球の表面の残留ポリビニルアルコール量は0.93(w/w)%であった。
【0056】
製造実施例4:牛血清アルブミン含有S/O懸濁液の噴霧乾燥
牛血清アルブミン1gを乳鉢で細かく挽いた後、これを9gのRG502Hを塩化メチレン90mLに溶かした溶液と混合し、均質化してS/O型の懸濁液を作った。この懸濁液を攪拌器を用いて懸濁状態を維持しながら噴霧乾燥機(Buchi−191)に3mL/minの流速で供給し、2−流体ノズルに圧縮空気を400NL/hで供給して、噴霧された微細粒滴を80℃の乾燥空気で乾燥させた。回収された微小球を1%ポリビニルアルコール水溶液に50mg/mLの濃度で懸濁して磁石攪拌器で攪拌しながら3時間懸濁した後、蒸留水で洗浄して凍結乾燥させた。製造された微小球の平均粒子サイズは5.8μmであり、微小球の表面の残留ポリビニルアルコール量は0.85(w/w)%であった。
【0057】
製造実施例5:ロイプロレリ含有微小球の製造
1gロイプロレリンアセテートと9gのRG502Hを氷酢酸90mLに溶かした溶液を作った。この溶液を噴霧乾燥機(Buchi−191)に2mL/minの流速で供給し、2−流体ノズルに圧縮空気を500NL/hで供給して、噴霧された微細粒滴を120℃の乾燥空気で乾燥させた。回収された微小球を1%ポリビニルアルコール水溶液に50mg/mLの濃度で懸濁して磁石攪拌器で攪拌しながら3時間懸濁した後、蒸留水で洗浄して凍結乾燥させた。製造された微小球の平均粒子サイズは5.1μmであり、微小球の表面の残留ポリビニルアルコール量は0.98(w/w)%であった。
【0058】
製造実施例6:ロイプロレリン含有微小球の製造
0.4gのロイプロレリンアセテートと9.6gのR202Hを氷酢酸96mLに溶かした溶液を噴霧乾燥機(SODEVA、France)に3mL/minの流速で供給し、超音波ノズル(Sono−Tek、120kHs)を用いて乾燥チャンバー内に噴霧した後、200℃の乾燥空気を供給して、乾燥した微小球を回収した。回収された微小球を1%ポリビニルアルコール水溶液に50mg/mLの濃度で懸濁して磁石攪拌器で攪拌しながら3時間懸濁した後、蒸留水で洗浄して凍結乾燥させた。製造された微小球の平均粒子サイズは23.4μmであり、微小球の表面の残留ポリビニルアルコール量は0.16(w/w)%であった。
【0059】
製造実施例7:ロイプロレリン含有微小球の製造
0.5gのロイプロレリンアセテートと9.5gのR203Hを氷酢酸95mLに溶かした溶液を噴霧乾燥機(SODEVA、France)に3mL/minの流速で供給し、超音波ノズル(Sono−Tek、60kHs)を用いて乾燥チャンバー内に噴霧した後、200℃の乾燥空気を供給して、乾燥した微小球を回収した。回収された微小球を1%ポリビニルアルコール水溶液に50mg/mLの濃度で懸濁して磁石攪拌器で攪拌しながら3時間懸濁した後、蒸留水で洗浄して凍結乾燥させた。製造された微小球の平均粒子サイズは32.6μmであり、微小球の表面の残留ポリビニルアルコール量は0.11(w/w)%であった。
【0060】
製造実施例8:ロイプロレリン含有微小球の製造
1.4gのロイプロレリンアセテート、0.86gのRG504Hおよび7.74gのR202Hを氷酢酸86mLに溶かした溶液を、噴霧乾燥機(SODEVA、France)に3mL/minの流速で供給し、超音波ノズル(Sono−Tek、120kHz)を用いて乾燥チャンバー内に噴霧した後、200℃の乾燥空気を供給して、乾燥した微小球を回収した。回収された微小球を1%ポリビニルアルコール水溶液に50mg/mLの濃度で懸濁して磁石攪拌器で攪拌しながら90分間懸濁した後、蒸留水で洗浄して凍結乾燥させた。
【0061】
製造実施例9:オクトレオチド含有微小球の製造
0.7gのオクトレオチドアセテートと9.3gのRG502Hを氷酢酸186mLに溶かした溶液を、噴霧乾燥機(SODEVA、France)に3mL/minの流速で供給し、超音波ノズル(Sono−Tek、120kHz)を用いて乾燥チャンバー内に噴霧した後、200℃の乾燥空気を供給して、乾燥した微小球を回収した。回収された微小球を1%ポリビニルアルコール水溶液に50mg/mLの濃度で懸濁して磁石攪拌器で攪拌しながら1時間懸濁した後、蒸留水で洗浄して凍結乾燥させた。
【0062】
試験実施例5
製造実施例8で製造されたロイプロレリン含有微小球を懸濁液(0.5(w/w)%ナトリウムカルボキシメチルセルロース、5(w/w)%マンニトール、0.1%Tween80)に懸濁させた後、雄S.D.ラット(n=5、195±20g)に9mg/kg(ロイプロレリンアセテート)の用量で1回皮下注射した。尾静脈から、薬物投与前、投与後30分、1時間、3時間、6時間、1日、2日、4日、7日、その後からは7日間隔にして90日まで血液を採取した。薬物投与28日目、56日目、84日目に薬物の持続的な放出有無を確認するために、ロイプロレリンアセテート100μg/kgの用量でチャレンジ(challenge)を行い、薬物投与前、投与後3時間、24時間に血液を採取した。1次薬物投与90日目に2次薬物投与を行い、2次薬物投与後の血液採取は1次薬物投与時と同様にして行った。採取した血液を1.5mLのエッペンドルフチューブに入れて4℃、12,000rpmで10分間遠心分離した後、血清を取って−20℃に保管した。血清中テストステロン濃度を放射性−免疫検定キット(Radio−Immunoassay Kit:RIA Kit、DSL−10−4000、Diagnostic System Laboratories,Inc.,Webster、Texas、USA)を用いて定量し、その結果を図2に示した。薬物投与後28日ごとに行った3回のチャレンジと90日目に行った2次薬物投与後の血中テストステロンの抑制効果によってロイプロレリン薬物が90日間持続的に放出されることが分かる。
【0063】
試験実施例6
製造実施例9で製造されたオクトレオチド含有微小球を懸濁液(0.5%(w/w)ナトリウムカルボキシメチルセルロース、0.6%(w/w)マンニトル)に懸濁させた後、雄S.D.ラット(n=6、190±20g)にエーテル麻酔下に5mg/kg(オクトレオチド)の用量で1回皮下注射した。尾静脈から、薬物投与前、投与後6時間、1日、4日、7日、13日、21日、31日に血液を採取した。採取した血液を1.5mLのエッペンドルフチューブに入れて4℃、12,000rpmで10分間遠心分離した後、血清を取って−20℃に保管した。血清中オクトレオチドを酵素−免疫検定キット(Enzyme Immunoassay Kit:EIA Kit、Bachem,S−1275、Peninsula Laboratories Inc.,USA)を用いて定量した。その結果を図3に示した。オクトレオチド薬物が2週以上持続的に放出されることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
上述したように、本発明に係る微小球製造方法によって、既存の徐放性微小球製造方法の問題点、例えば残留溶媒の毒性問題、悪い注射能などを解決した徐放性微小球を製造することができる。また、本発明によって製造された微小球は、体内に投与されたときに一定の期間薬物を有効濃度で持続的に放出することにより、初期薬物濃度の急激な上昇を防止し、薬物の投与回数を減らすなど、疾病の治療に有用に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)生分解性高分子、薬物および溶媒を含有する溶液、懸濁液またはエマルジョンを乾燥チャンバー内に噴霧した後、溶媒を除去するために乾燥空気を用いて乾燥させる工程と、
b)噴霧乾燥した微小球をポリビニルアルコール含有水溶液に分散させることにより、微小球に含有された残留溶媒を除去し、微小球の分散性を向上させる工程とを含むことを特徴とする、徐放性微小球の製造方法。
【請求項2】
生分解性高分子が、ポリラクチド、ポリグリコライド、ポリ(ラクチド−コ−グリコライド)、ポリオルトエステル、ポリアンヒドリド、ポリヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、ポリアルキルカーボネート、およびその誘導体よりなる群から選ばれた1種以上であることを特徴とする、請求項1に記載の徐放性微小球の製造方法。
【請求項3】
薬物がペプチドおよびタンパク質の中から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の徐放性微小球の製造方法。
【請求項4】
薬物が黄体ホルモン放出ホルモン(LHRH)誘導体、ソマトスタチン誘導体、およびそれらの塩の中から選ばれることを特徴とする、請求項3に記載の徐放性微小球の製造方法。
【請求項5】
薬物がロイプロレリン、ゴセレリン、トリプトレリン、オクトレオチド、およびそれらの塩の中から選ばれることを特徴とする、請求項4に記載の徐放性微小球の製造方法。
【請求項6】
ポリビニルアルコール含有水溶液に分散させる段階b)で、ポリビニルアルコールが徐放性微小球に対して0.02〜1.0重量%でコートされることを特徴とする、請求項1に記載の徐放性微小球の製造方法。
【請求項7】
ポリビニルアルコール含有水溶液に分散させる段階b)で、前記徐放性微小球に含有された残留溶媒をさらに20%以上除去することを特徴とする、請求項1に記載の徐放性微小球の製造方法。
【請求項8】
生分解性高分子、薬物及び溶媒を含有する溶液、エマルジョンまたは懸濁液を微粒子化した後、乾燥させて溶媒を除去し、乾燥した微小球を得、前記乾燥した微小球をポリビニルアルコール含有水溶液に分散させることにより、ポリビニルアルコールが徐放性微小球の総重量に対して0.02〜1.0%コートされたことを特徴とする、薬物含有徐放性微小球。
【請求項9】
薬物がペプチドおよびタンパク質の中から選ばれることを特徴とする、請求項8に記載の徐放性微小球。
【請求項10】
薬物が黄体ホルモン放出ホルモン(LHRH)誘導体、ソマトスタチン誘導体、およびそれらの塩の中から選ばれることを特徴とする、請求項9に記載の徐放性微小球。
【請求項11】
薬物がロイプロレリン、ゴセレリン、トリプトレリン、オクトレオチド、およびそれらの塩の中から選ばれることを特徴とする、請求項10に記載の徐放性微小球。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−536942(P2009−536942A)
【公表日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−509439(P2009−509439)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【国際出願番号】PCT/KR2007/002339
【国際公開番号】WO2007/133020
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(505404220)ペプトロン カンパニー リミテッド (6)
【出願人】(508335059)デウォン ファーマシューティカル カンパニー リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】DAEWOONG PHARMACEUTICAL CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】223−23, Sangdaewon−dong, Joongwon−gu, Seongnam−si, Gyeonggi−do 462−120, Korea
【Fターム(参考)】