説明

分析システム及びマイクロチップ

【課題】マイクロチップと光学部材の対向面における表面性状による光学上の悪影響を抑制する。
【解決手段】分析システムは、試料を収納または通過させる空間を内部に有するマイクロチップ1と、マイクロチップ1内部の空間5への入射光または空間からの出射光を導く光学部材6とを備え、光学部材6と、マイクロチップ1における入射光の入射面または出射光の出射面との間に、光学部材6またはマイクロチップ1いずれか一方の屈折率に近似する屈折率を有する充填材4が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料を収納または通過させるための空間を有するマイクロチップ及びこれを用いた分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
試料に含まれる成分を測定するためのプロセス、例えば、分離、抽出、化学反応、細胞培養等、を1つのチップで行えるように集積化したマイクロチップを用いる技術が知られている。マイクロチップは、微細流路を有するものであり、微細流路を通過する試料の成分を、例えば、電気泳動あるいは毛細管力等で分離する。分離された各成分の検出には、光学系が用いられる。例えば、微細流路において各成分に分離された試料に、光を照射し、透過した光を検出することにより、試料の成分を分析することができる。光学的な分析として、例えば、吸光光度法や蛍光光度法等が知られている。
【0003】
マイクロチップと、マイクロチップ内の試料を観察するための光学部材の構成について、例えば、特許文献1には、光ファイバの先端がマイクロチップに当接した状態でマイクロチップに測定光を照射する構成が開示されている。この例では、光ファイバの先端が当接する、マイクロチップの部分に凹部を設けることで、光ファイバの出射端面がマイクロチップに接触するのを防ぎ、光ファイバの損傷を抑制している。
【0004】
また、特許文献2には、流路付き板状部材に予め屈折率分布型ロッドレンズが固定されており、光ファイバが備わる集光レンズが固定されており、光ファイバは、集光レンズを外嵌して固定する環状部材を備えた構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2010/010904号パンフレット(段落[0112]、図18)
【特許文献2】特開2004−117302号公報(段落0061、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の構成においては、光ファイバの照射端面及びマイクロチップの双方において、当接面の表面性状(うねり、粗さ)は一様でない事が多い。そのため、光ファイバの照射端面とマイクロチップとの当接部の接触状態が装置ごと、あるいは、同一装置であってもマイクロチップの交換の度に、異なる。これによって、当接部界面における反射による光量損失や乱反射による迷光の発生程度がばらつくことが起こり得る。このばらつきは、機差、測定間差に現れ、複数のマイクロチップを装着して測定する装置においては、チャンネル差として影響が出る。また、このばらつきを抑制すべく、光ファイバ端面及びマイクロチップの当接面の表現性状を抑制するための製造方法の改善を試みるにしても、物理的に限界があった。
【0007】
上記特許文献2に開示の構成では、屈折率分布型ロッドレンズと光ファイバの当接面において、上記特許文献1と同様の問題が生じ得る。また、それらの物理的接触により、汚れの付着や異物による損傷が生じる。そのため、傷防止のハードコードを施したり、汚れ除去メンテナンスを要したりと、デリケートな部品相応の対策を講じる必要があり、結果的に費用面、手間の面で望ましい状況ではなかった。
【0008】
そこで、本発明は、マイクロチップと光学部材の対向面における表面性状による光学上の悪影響を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願に開示の分析システムは、試料を収納または通過させる空間を内部に有するマイクロチップと、前記マイクロチップ内部の前記空間への入射光または前記空間からの出射光を導く光学部材とを備え、前記光学部材と、前記マイクロチップにおける前記入射光の入射面または前記出射光の出射面との間に、前記光学部材または前記マイクロチップいずれか一方の屈折率に近似する屈折率を有する充填材が設けられる。
【0010】
このように、屈折率がマイクロチップまたは光学部材と近似する充填材を、光学部材とマイクロチップとの間に設けることにより、マイクロチップと光学部材のそれぞれにおける対向面における、うねり、粗さ、傷等を充填材で埋めることができる。そのため、これらマイクロチップの光入射面または出射面と、これに対向する光学素子の面との間で、反射により光量損失や乱反射により生じる迷光を低減することができる。
【0011】
ここで、マイクロチップは、試料に含まれる成分を測定するためのプロセスの少なくとも一部を1つのチップで行えるように集積化したものであり、試料を通過または収納させる空間を内部に有する。マイクロチップの形状、構成、サイズは特定のものに限定されない。
【0012】
充填材の屈折率が、光学部材または前記マイクロチップいずれか一方の屈折率に近似するとしているのは、本来、充填材の屈折率と光学部材または前記マイクロチップの屈折率は同じであることが好ましいが、実際、正確に同じ屈折率にするのは難しいので、実質的に同じと見なせる程度であればよいという意味である。
【0013】
上記分析システムにおいて、前記光学部材の端部は、前記マイクロチップの前記入射面または前記出射面に、前記充填材を介して接触している態様とすることができる。これにより、マイクロチップの光入射面または出射面と、光学部材の端部との微小な隙間を充填材で埋めつつ、これらの面どうしを接触させることができる。
【0014】
前記充填材は、流動体とすることができる。また、前記充填材は、ゲル状とすることができる。
【0015】
前記マイクロチップは、前記光学部材に対して着脱可能であり、前記マイクロチップの前記入射面または前記出射面となる部分には、前記光学部材に対して装着される前に予め前記充填材が具備されている態様とすることができる。
【0016】
前記マイクロチップは、前記光学部材に対して装着される前に、前記充填材が前記出射面または前記入射面から流出するのを防ぐ着脱可能なカバーを、さらに備えてもよい。
【0017】
試料を収納または通過させる空間を内部に有するマイクロチップであって、前記内部の空間への光の入射面または前記空間からの光の出射面となる位置に、前記マイクロチップの屈折率に近似する屈折率を有する充填材と、前記充填材を封止する、着脱可能なカバーとを備える、マイクロチップも、本願発明に含まれる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、マイクロチップと光学部材の対向面における表面性状による光学上の悪影響を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1(A)は、第1の実施形態におけるマイクロチップの平面図である。図1(B)は、図1(A)のB―B線断面図、図1(C)は、C―C線断面図である。
【図2】図2は、光学部材がレンズである場合の構成例を示す図である。
【図3】図3は、第2の実施形態におけるマイクロチップを含む分析システムの構成例を示す図である。
【図4】図4は、コイルバネにより、光ファイバ6の出射面6cとマイクロチップ1の入射面とを当接させる構成の一例を示す図である。
【図5】図5(A)〜図5(C)は、第3の実施形態におけるマイクロチップの構成例を示す図である。
【図6】図6は、カバーを備えるマイクロチップに包装材が設けられた構成の一例を示す図である。
【図7】図7は、開封具を備えるパックの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第1の実施形態]
図1(A)〜図1(C)は、本発明の第1の実施形態におけるマイクロチップを含む分析システムの構成例を示す図である。図1(A)は平面図、図1(B)は、図1(A)のB―B線断面図、図1(C)は、C―C線断面図である。なお、図1(A)では、図1(B)及び図1(C)で図示している光ファイバ6,7は省略している。
【0021】
図1(A)〜図1(C)に示す例では、マイクロチップ1は、内部に微細流路5を有する。微細流路5は、マイクロチップ1の長手方向に直線状に延び、微細流路5の両端は、試料を入れるため上部に開口している。また、微細流路5の中央付近の上方及び下方においては、厚みが周囲より薄くなっている凹部3b、3aが設けられている。本実施形態では、一例として、上方の凹部3bの底面は、微細流路5への入射光の入射面になり、下方の凹部3aの底面は微細流路5からの出射光の出射面となる。
【0022】
マイクロチップ1は、微細流路5を形成する溝を有する下基板1aと、その上に設けられた上基板1bとを備える。上基板1bは、下基板1aの溝の両端部に相当する位置にそれぞれ貫通口2a、2bを有する。貫通口2a、2bを通じて、試料が微細流路5へ導入されるか、または微細流路5から流出する。また、上基板1bの微細流路5の中央付近上方は、上記のように内側に凹んだ凹部3bを有する。また、下基板1aの微細流路5の中央付近下方も、上記のように内側に凹んだ凹部3aを有する。
【0023】
上基板1a及び下基板1bは、透明な部材(透明性部材)であることが好ましい。上基板1a及び下基板1bの材料としては、例えば、ガラス、シリコン樹脂(PDMS)、メタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリスチレン樹脂(PS)、ポリカーボネイト樹脂(PC)等が挙げられる。
【0024】
微細流路5上方の凹部3bには、光源(図示せず)から光をマイクロチップの入射面へ導く導光手段である、光ファイバ6の端部が配置される。また、微細流路5下方の凹部3bには、マイクロチップ1からの出射光を光検出手段(図示せず)へ導く導光手段である、光ファイバ7の端部が配置される。光ファイバ6は、光源の光を微細流路5に照射する照射手段の一部を構成する光学部材と言える。光ファイバ7は、マイクロチップ1からの出射光を検出する光検出手段の一部を構成する光学部材であるとも言える。
【0025】
光ファイバ6は、コア6a及びクラッド6bを有する。コア6aは、光が通過する部分である。クラッド6bは、コア6aとの界面において光を全反射させるものである。クラッド6bは、コア6aよりも屈折率の高い材料により形成されており、コア6aの被覆している。すなわち、光ファイバ6においては、コア6aとクラッド6bとの界面において全反射を繰り返しながらコア6の内部で光が導波され、コア6aの端面である出射面6cから光が出射される、出射面6cから出射される光は、コア6aとクラッド6bとの界面における全反射臨界角に応じた開口数の光であり、出射面6cから離れるにしたがって光束を広げつつ進行する。光ファイバ7も、同様に、コア7a、クラッド7bを有し、コア7aの端面が、マイクロチップからの出射光の入射面7cとなる。
【0026】
光ファイバ6の出射面6cは、マイクロチップ1の入射面に対向する位置に設けられる。ここで、光ファイバ6の出射面6とマイクロチップの入射面との間には、充填材4が設けられる。充填材4は、光ファイバ6のコア6aまたはマイクロチップ1の上基板1bのいずれか一方の屈折率に近似する屈折率を有する。コア6aまたはマイクロチップ1の屈折率と、充填材4の屈折率との差は、0.1以下、望ましくは0.05以下であることが好ましい。また、コア6aまたはマイクロチップ1の屈折率と、充填材4の屈折率とは、同じであることがさらに好ましい。
【0027】
ここで、光ファイバ6のコア6aの出射面6cは、マイクロチップ1の凹部3bの入射面に、充填材4を介して接触するよう配置してもよい。充填材4として、例えば、コア6aまたはマイクロチップ1と同じ屈折率を持つ光学用マッチングオイルを用いることができる。この場合、コア6aの出射面6cとマイクロチップ1との間にマッチングオイルを充填しつつ、出射面6cとマイクロチップ1の凹部3bの入射面とは密着させることができる。すなわち、コア6aの出射面6cと凹部3b入射面とを密着させた場合、これらの間には、うねり、表面粗さ、傷等による微小な隙間が生じる。マッチングオイルは、この微小な隙を埋めるように充填される。マッチングオイルは、出射面6c及び入射面の微細な表面形状に追随するように、これらの間に満たされる。これにより、コア6aの出射面6cと凹部3b入射面との間の空気層を介在させない構成にして、界面を減らすことができる。その結果、出射面6c及び入射面における光の反射による光量損失や、乱反射によって生じる迷光を低減することができる。
【0028】
充填材4は、追随性の観点から流体であることが好ましい。すなわち、微細な隙間に浸透しやすい液状のものを充填材4として用いることができる。一方、充填材4としてゲル状のものを用いることもできる。ゲル状の充填材4を用いることにより、充填材4が光ファイバ6、7やマイクロチップ1にこびりつきにくくなる。そのため、光ファイバやマイクロチップの表面が汚れにくくなる。また、ゲル上の充填材4を用いることにより、充填材4の保持性が高まり、こぼれにくくなる。例えば、マイクロチップ1の上下基板が、水平でなく傾いていた場合や、充填材4を設ける面が下向きの場合も、充填材4の位置を保つことも可能になる。充填材4は、上記のように、追随性や保持性等の観点から、目的に応じた適切な粘度のものを用いることができる。例えば、マイクロチップ1の小型化に伴い、光学部材の当接面において、nmのオーダーの表面粗さが問題となる場合がある。このような場合、nmのオーダーの凹凸に追随できる程度の粘度を有する充填材を用いることが好ましい。
【0029】
充填材4は、例えば、ユーザが光学部材とマイクロチップの当接部に塗布してもよいし、分析システムが、充填材4を自動的に塗布する手段を備えてもよい。例えば、分析システムは、充填材4を収納するタンクと、タンクから充填材をくみ出すポンプと、くみ出した充填材へ当接部に塗布するためのノズルとを備えることができる。さらに、当接部における充填材4の有無を検出する手段を備え、検出結果に基づいて、充填材4の当接部への供給を制御することもできる。あるいは、充填材4であるオイルが充填された布やスタンプをマイクロチップか光学系のどちらか一方の当接面にあてることで、オイルを当接部に充填するスタンプ機構が設けられてもよい。
【0030】
本実施形態では、図示しないが、分析システムは、その他の必要な構成を備えることができる。例えば、マイクロチップ1が、電気泳動法を用いて、試料を分離するものである場合、マイクロチップ1は、微細流路5の長軸方向に電圧を印加するための電極や、微細流路5の両端側に、微細流路5より広い幅の開口部を設け、試料の注入口及び排出口としてもよい。さらに、試料や溶液をマイクロチップ1の微細流路5へ供給する液体供給ユニット、液体の供給量を制御する機構、印加電圧を制御する機構等が、分析システムに設けられてもよい。さらに、分析システムは、マイクロチップ1による分析動作を制御し、測定結果をデータ化して処理するコンピュータを含んでもよい。また、マイクロチップ1は、分析システムに対して着脱可能であることが好ましい。これにより、マイクロチップ1を交換することができる。
【0031】
(光学部材の変形例)
上記例では、マイクロチップへの入射光またはマイクロチップへの出射光を導く光学部材が、光ファイバである場合について説明した。光学部材は、光ファイバに限られない。図2は、光学部材がレンズである場合の構成例を示す図である。
【0032】
図2に示す例では、下基板1aの凹部3aの底面が入射面に、上基板1bの凹部3bの底面が出射面となっている。すなわち、下基板1aの凹部3aに、マイクロチップ1の微細流路5へ光を照射する照射ユニット11が設けられる。照射ユニット11の上端の出射面が、マイクロチップ1の凹部3aの入射面に対向するように設けられる。照射ユニット11は、光源からの光を導く光ファイバ14と、光ファイバ14から出た光を集光して微細流路5へ照射するためのレンズ15、16が設けられる。レンズ16のマイクロチップ1に対向する面が照射ユニット11の出射面16bとなっている。この出射面16bとマイクロチップ1の入射面との間には、充填材4が設けられている。充填材4の屈折率は、レンズ16の屈折率と同じであることが好ましい。あるいは、充填材4の屈折率は、マイクロチップ1の屈折率と同じであってもよい。充填材4は、レンズ16の出射面16b及びマイクロチップ1の入射面のうねり、粗さ及び傷等を埋める。
【0033】
上基板3bの凹部3bには、マイクロチップ1から出射する光を集光して光センサ13へ導く光検出ユニット12が設けられる。光検出ユニット12は、光センサ13と、マイクロチップ1からの出射光を平行光にして光センサ13へ導くためのレンズ8、9を備える。レンズ8のマイクロチップ1に対向する面が、マイクロチップ1からの出射光の入射面8bになる。この入射面8bとマイクロチップ1の出射面との間にも、充填材4が設けられている。充填材4の屈折率は、レンズ8またはマイクロチップ1の屈折率と同じであることが好ましい。充填材4は、レンズ8の入射面8b及びマイクロチップ1の出射面のうねり、粗さ及び傷等を埋める。
【0034】
光学部材は、上記変形例のレンズに限られない。光ファイバやレンズの他に、例えば、プリズム、偏光板、ライトパイプ、ミラー等も、マイクロチップ1と接するあるいは対向する光学部材とすることができる。
【0035】
また、光の照射方向も図1に示したように上から下に限られず、例えば、図2に示したように、下から上であってもよい。また、充填材4も、光の入射側のみに限られず、入射側及び出射側の両方に設けられてもよいし、いずれか一方にのみ設けられてもよい。
【0036】
[第2の実施形態]
図3は、第2の実施形態におけるマイクロチップ1を含む分析システムの構成例を示す図である。図3において、図1と同じ部材には同じ番号を付す。図3に示すマイクロチップ1、充填材4、光ファイバ7の構成は、図1と同様である。
【0037】
図3に示す例では、マイクロチップ1の入射面または出射面と光学部材との位置関係を固定する固定部材17が設けられる。固定部材17は、マイクロチップ1の上基板1b上にマイクロチップ1を覆うように設けられる保持基板17aと、保持基板17aに対してマイクロチップ1を固定するガイド部17b、17cを有する。ガイド部17b、17cは、保持基板17aからマイクロチップ1の側面に沿って延び、マイクロチップ1の保持基板17aと反対側の面に廻り込んで形成されている。また、保持基板17aの中央付近は、上面から下面へ貫通する貫通孔が設けられる。貫通孔に光ファイバ6の先端部分が挿入される。
【0038】
光ファイバ6のクラッド6bには、突起部6dが設けられる。光ファイバ6が貫通孔に挿入された状態で突起部6dが貫通孔の縁に掛かるように突起部6dが形成される。突起部6dが掛かって光ファイバ6が固定された状態で、光ファイバ6の出射面6cがマイクロチップ1の入射面に接触する位置に突起部6dが設けられることが好ましい。ここで、光ファイバ6の出射面6cが、マイクロチップ1の入射面に接した状態で、突起部6dと固定部材17の表面との間に僅かな隙間ができるように突起部6dを配置してもよい。突起部6dと固定部材17表面に接した状態では、突起部6dが固定部材17より下方に行けないため、部品の寸法のバラツキによっては、光ファイバの先端がマイクロチップに届かず、当接しないケースが起こり得る。そのため、部品の寸法ばらつきに相当する長さ分だけ、突起部6dと固定部材17との間に隙間を設けて、光ファイバ6とマイクロチップ1が、より確実に当接できるようにすることができる。
【0039】
また、例えば、コイルバネや螺子などの付勢手段により、光ファイバ6の先端が、マイクロチップ1の入射面に押し付けられるよう付勢される構成にしてもよい。図4は、コイルバネにより、光ファイバ6の出射面6cとマイクロチップ1の入射面とを当接させる構成の一例を示す図である。
【0040】
図4に示す例では、光ファイバ6の先端部分において、クラッド6bを取り巻くように、突起部を有するフェルール27が設けられる。また、光ファイバ6の先端部分を囲む筒状のホルダ29が固定部材17に固定されて設けられる。ホルダ29の底面は、光ファイバ6を通す開口部を有し、開口部の縁でフェルール27の突起が掛かる配置となっている。フェルール72の外側には、コイルバネ28が巻きつけられている。コイルバネ28の一端側は、フェルール27の突起部に接し、他端側は、ホルダ29に接する。
【0041】
図4に示す構成例では、フェルール27は、光ファイバ6の端部を保持するものである。このフェルール27は、ホルダ29において、コイルバネ28に付勢された状態で上下方向に移動可能に保持されている。すなわち、光ファイバ6は、適度な押圧力をもってマイクロチップ1の凹部3bに当接させられるように構成されている。光ファイバ6の出射面6cは、マイクロチップ1に押し付けられるように付勢される。なお、付勢手段は、コイルバネ28に限られず、例えば、螺合手段により、光学部材をマイクロチップに押し付けるものであってもよいし、例えば、ゴム、オイル等、バネ以外の弾性体で形成されてもよい。
【0042】
上記の実施形態のように、固定部材を設けることにより、光学部材をマイクロチップの入射面または出射面により確実に接するように固定することができる。また、光学部材をマイクロチップに対して押し付ける付勢手段をさらに備えることで、より確実に、光学部材をマイクロチップの入射面または出射面に当接させることができる。光学部材とマイクロチップとの対向部分(当接部分)の構造に起因する光量損失、迷光等の光学的影響のばらつきをさらに確実に抑えることができる。
【0043】
また、固定部材からマイクロチップ1を取り外し可能な構成にすることができる。
なお、固定部材17の構成は、図3に示す例に限られない。例えば、保持基板17をマイクロチップ1の下に設ける構成であってもよいし、保持基板17をマイクロチップ1の上下両方に設ける構成であってもよい。
【0044】
[第3の実施形態]
図5(A)〜図5(C)は、第3の実施形態におけるマイクロチップ1の構成例を示す図である。図5(A)〜図5(C)に示すマイクロチップは、光学部材に対して装着されていない時に、充填材をマイクロチップの出射面または入射面状に封止しておくカバーを備える。
【0045】
図5(A)に示す例では、カバーとしてのラミネート材18が、凹部3bを覆うように設けられている。ラミネート材18は、上基板1bに対する接着性を有し、上基板1b上の凹部3bの周辺部において、上基板1bに貼り付けられている。ラミネート材18はシールということもできる。マイクロチップ1が分析システムにセットされる前に、カバーは取り除かれる。
【0046】
図5(B)に示す例では、カバーは、周縁部につめを有する蓋19である。蓋19の周縁部のつめが、上基板1bに設けられた溝にはまることで、蓋19が凹部3bを覆って固定されるとともに、凹部3bの中にある充填材4が封止される。
【0047】
図5(C)に示す例では、カバーは、上基板1bの全面を覆うシート21である。シート21は、上基板1bの全面を覆ってさらに、上基板1bの側面にも延びて形成されている。シート21の材料は、例えば、図5(A)のラミネート材18と同じ材料でもよいし、樹脂でもよい。
【0048】
上記の例のマイクロチップ1が測定に用いられるときは、カバーが除去されてから分析装置に装着される。すなわち、ユーザは、マイクロチップ1を分析システム(分析装置)に装着する前に、カバーを除去すればよい。これにより、マイクロチップ1を分析システム(分析装置)に装着していないときに、充填材4が流失するのを防ぐことが可能になる。また、例えば、ユーザによる充填材4の塗布の手間を軽減できるし、塗布のし忘れにより、充填材4なしで測定してしまうことを防ぐことができる。さらに、ユーザにとって、マイクロチップ1と別に、消耗品である充填材4を管理する手間も軽減される。また、充填材4を自動的に補充する機能も不要になり、装置の複雑化を回避できる。
【0049】
[第4の実施形態]
図6は、カバーを備えるマイクロチップ1に、さらに、マイクロチップを包む包装材が設けられた構成の一例を示す図である。
【0050】
図6に示す例では、マイクロチップ1には、一層目のカバーとして、マイクロチップを包む包装材26が設けられる。包装材26は、その一部が、例えば、ヒートシール等によってマイクロチップ1に接着されている。例えば、測定部となる上基板1bの凹部3b及び下基板1aの凹部3aの周縁を包囲する部分に包装材26を接着することができる。また、マイクロチップ1の開口部である上基板1bの貫通孔2a、2bの周囲にも包装材26を接着することができる。
【0051】
包装材26は、マイクロチップ1の測定部(凹部3a、3b)及び開口部(貫通孔2a、2b)に対応する位置に開口部を有している。この包装材26の開口部を塞ぐように、カバー18a、18b、25、パック22が設けられる。すなわち、マイクロチップ1の上下の測定部を塞ぐようにカバー18a、18bが設けられ、マイクロチップ1の第1の開口部を塞ぐようにカバー25が設けられ、第2のマイクロチップ1の開口部を塞ぐように、パック22が設けられる。ここで、第1の開口部と第2の開口部は流路を介して連通していることになる。これらのカバー18a、18b、25及びパック22は、包装材26と同様に、測定部周縁、または開口部周縁部分がマイクロチップに貼付されている。また、これらのカバー及びパックは、包装材26とは独立して、マイクロチップ1に対して着脱可能にすることが好ましい。例えば、包装材26とこれらカバーまたはパックとは、破断線で接続した状態でマイクロチップ1に貼付することができる。または、包装材26と18a、18b、25及びパックを連結して一体化して形成することで、一体的に除去可能としてもよい。なお、包装材、カバー及びパックは、繰り返し接着が可能な粘着材によりマイクロチップ1に貼付されることで、マイクロチップ1の廃棄時または再利用のため保管する時に再度セットすることができる。
【0052】
パック22には、マイクロチップ1での測定時に必要となる液体を封止することができる。例えば、マイクロチップ1が電気泳動法を用いた分析に使われる場合は、泳動バッファをパック22に封止することができる。このように、液体を封止したパックでマイクロチップの開口部を塞ぐ構成とするにより、使用前は、パックをリザーバ(開口部)と隔離して保存しておき、使用時に初めて開封しマイクロチップの開口部へ液体を供給することができる。
【0053】
図6に示すマイクロチップ1が分析装置にセットされて測定を実施する際には、カバー18a、18b、25が除去される。一例として、分析装置の吸引手段を、マイクロチップの一方の開口部である貫通孔2bに接続して、下流リザーバからの吸引を開始し、さらに、分析装置の備える開封手段(例えば、針状部材で押圧する手段等)により、パック22を、上から貫通孔2bへ向けて穿通することができる。これにより、マック22内の液体が微細流路5へ導入される。
【0054】
なお、パック22が開封具を備えることもできる。例えば、図7に示すように、パック22の封止容器の内側に、先の尖った穿通部材を形成することができる。これにより、パック22の上面から下方向へ押し付けることにより、下面に穿通穴が空き、パック22から液体を取り出すことができる。開封具は、これに限られず、例えば、封止容器の外側に設けられた引きタブであってもよい。また、マイクロチップ1が開封部を備えてもよい。
【0055】
また、封止容器の形態は図5に示すパック22に限られない。例えば、封止容器は、包装材に備わり、包装材には、高電圧印加するための電極、または試料を希釈、溶血操作するための一時収容皿の少なくとも一方を備える構成であってもよい。具体的には、マイクロチップ1に一部が接着された包装材に、カーボン印刷、Ag、Au等を蒸着させることによって、電極を包装材と一体的に形成することができる。また、一時収容皿は、例えば、包装材またはマイクロチップ1に設けられる凹状の領域に、着脱可能なカバーを設けることで形成することができる。このカバーによって凹状領域にゴミ等が載ることを防ぎ、カバーを除去すると、凹状領域を、絵の具のパレットのように、液体の一時収容皿として使用することができる。
【0056】
さらに、パック22は、充填材4を封止し、測定部(光の出射面または入射面となる凹部3a、3b)を塞ぐように設けられてよい。これにより、マイクロチップ1の使用前には、充填材4を測定部から隔離して保管しておき、使用時に開封して測定部を覆うように充填することができる。
【0057】
このように、液体の保管及び供給機能を、マイクロチップ本体ではなく、付属する封止手段であるパックが備える構成とすることにより、マイクロチップの複雑化を避け、歩留り悪化のリスクを回避できる。例えば、マイクロチップは、分析に必要な精度を要する要素のみを備える構成とすることができる。
【0058】
なお、カバーの形態は、上記例に限られない。また、上記の第3、第4の実施形態のカバーは、上記第1の実施形態及び第2の実施形態のいずれにも適用することができる。
【0059】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の実施形態は上記第1〜4の実施形態に限られない。例えば、マイクロチップ1は、試料を化学反応、物理反応、分離、抽出または培養等させるための空間として、上記の試料を通過させる上記微細流路の他に、例えば、セル、チャンバなど、試料を収納する空間を採用することもできる。
【0060】
また、本発明にかかるマイクロチップ及び分析システムが適用される例は、電気泳動法を用いた分析に限られない。その他、マイクロチップ内の空間で試料を反応、分離、抽出、検出、培養等する分析に、本発明を適用できる。抽出や分離の例として、溶媒抽出、カラム分離、電気泳動分離、液相分離などが挙げられる。反応の例として、ジアゾ化反応、ニトロ化反応、抗原抗体反応、酵素反応、酸化還元反応などが挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を収納または通過させる空間を内部に有するマイクロチップと、
前記マイクロチップ内部の前記空間への入射光または前記空間からの出射光を導く光学部材とを備え、
前記光学部材と、前記マイクロチップにおける前記入射光の入射面または前記出射光の出射面との間に、前記光学部材または前記マイクロチップいずれか一方の屈折率に近似する屈折率を有する充填材が設けられる、分析システム。
【請求項2】
前記光学部材の端部は、前記マイクロチップの前記入射面または前記出射面に、前記充填材を介して接触している、請求項1に記載の分析システム。
【請求項3】
前記充填材は、流動体である、請求項1または2に記載の分析システム。
【請求項4】
前記充填材は、ゲル状である、請求項1または2に記載の分析システム。
【請求項5】
前記マイクロチップは、前記光学部材に対して着脱可能であり、前記マイクロチップの前記入射面または前記出射面となる部分には、前記光学部材に対して装着される前に予め前記充填材が具備されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の分析システム。
【請求項6】
前記マイクロチップは、前記光学部材に対して装着される前に、前記充填材が前記出射面または前記入射面から流出するのを防ぐ着脱可能なカバーを、さらに備える、請求項1〜5のいずれか1項に記載の分析システム。
【請求項7】
試料を収納または通過させる空間を内部に有するマイクロチップであって、
前記内部の空間への光の入射面または前記空間からの光の出射面となる位置に、前記マイクロチップの屈折率に近似する屈折率を有する充填材と、
前記充填材を封止する、着脱可能なカバーとを備える、マイクロチップ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−93227(P2012−93227A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240857(P2010−240857)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】