説明

分析チップ

【課題】 検体を採取した現場で、迅速かつ簡便に精度の高い分析データの取得を可能とする分析チップを提供する。また、分析者が採取した検体の前処理を実質的に行うことなく、検体により汚染される可能性が少なく安全に測定することが可能な分析チップを提供する。さらには、在宅ケアに用いることのできるような分析チップ(例えば血液分析チップ)、つまり測定装置を精度を落とさずに小型化し、微量の検体より、多種類の分析項目を迅速にかつ簡便に測定しうる分析チップを提供する。
【解決手段】 検体中の一つ以上の成分を分析するための一体化された分析チップであって、少なくとも、(1)検体の前処理をする一つ以上の前処理要素、(2)前処理後の検体中の一つ以上の成分を分析する、一つ以上の多層乾式分析要素33、及び(3)前記前処理要素と前記多層乾式分析要素とをつなぐ一つ以上の流路34を含むことを特徴とする分析チップ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液、尿、体液、組織、細胞、食物、廃液、池水、河川水、海水、又は雨水などの検体中に含まれる一つ以上の成分を分析するための、一体化された分析チップ及び測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液、尿等を検体として人の病気を診断する方法は、人体を損ねることなく簡便に診断できる方法として、従来から長く行われてきている。
【0003】
この方法の一つとして、ウェットケミストリー分析法がある。ウェットケミストリー分析法は、いわゆる溶液試薬を用いる方法であって、歴史も古く、多数の検査項目について検出試薬が開発されており、測定機も簡易小型機から大型全自動機まで各種のものがある。ウェットケミストリーに使用される検体は、血漿、血清、尿等であって、通常全血をそのまま検体として使用することはない。
【0004】
ウェットケミストリー分析法では、保存期間中は試薬の安定性を考慮していくつかの群に分けておき、溶解、調製時に混合することもできるし、試薬添加の手順をいくつかのステップに分けることも可能である。更に、測定検体の数に応じて、適量の試薬を溶解、調製しておくことができるので、1回の測定当りの試薬コストも少なくて済む。ウェットケミストリー分析法では、多数の溶液の取扱を組み合わせて自動化することは複雑で厄介ではあるが、臨床検査機器の開発は歴史もあり、社会的な要請も高かったため、既に大・中・小いずれの処理能力を必要とする分野についても、効率良い自動機器が開発、実用化されている。しかしながら、ウェットケミストリー分析法では、開業医や、即時に診断結果を得ることが求められる救急病院などのニーズを満たせないことが多かった。
【0005】
また、近年、高齢化社会への急速な移行、高度治療の発達などを背景とした医療費の高騰への対応として、在宅ケアが提唱され、今後の医療制度の一つの核となるものとして実施の具体的方法が検討されている。
【0006】
在宅ケアの基本は、患者は各家庭に居ながらにして常に医師による適切な監視、指導、管理下にあり、必要に応じて適切な治療ができる点にある。例えば慢性患者や高齢者の場合には、急激な病態変化がなければ安定した生理的状態にあり、一定の治療を続けて、その治療効果を継続的に監視し続けていることが最も大切なこととなる。
【0007】
このような継続的な監視は、入院患者については容易であるけれども、各家庭に患者が分散した状態では実際上は極めて難しく、通常は体温、体重の測定の他は看護人による症状の監察記録、患者本人の痛みなどの訴えなど主観的な情報に止っている。
【0008】
もし、血液検査情報が継続的に得られるならば、医師の日常管理も容易になり、治療もより迅速で、かつ適切なものとなるので、その利益は測り知れない。また、患者にとってみても、日常の病態が医師に報告され看られているという安心感は大きく、回復までの精神的サポートとなることは容易に理解される。
【0009】
さらに、医師や看護婦自身が患者のところに出向くことなくその指示に従って患者の血液検査が自宅で実施できれば、より迅速で、かつ適切な治療が可能となる。このことは往診に要する時間を考えれば全ての家庭に通ずることであるが、特に交通の不便なところや、遠隔地、離島、未開発地では医療に対して大きな進歩、利益をもたらすものである。
また他にも、例えば、糖尿病の病院外来患者の場合、日常生活の中で幾度か血糖値を測定し、その結果を通院の際持参することができれば、治療に当たる医師が患者の状態をより正確に把握することができる。糖尿病患者用の血糖値測定装置としては、半定量のできる程度の装置が開発されており、家庭にも置けるようなものもあるが、精度が低いので上記の目的には合わない。
【0010】
前述したような、在宅ケアシステムには、(1)小型で(2)簡便に(3)微量の血液を用いて(4)多項目を(5)迅速に(6)精度よく測定できる血液分析方法が望ましいのはいうまでもない。特に、高齢者(場合によっては小児)を対象とする場合、微量の血液の採取ですむ分析方法の開発が望まれている。
【0011】
これに対して、ウェットケミストリー分析法を用いた一体型の家庭用分析装置が提案されており、血液を採取する手段と、血液からろ過して血漿を得るろ過する手段と、血液を分離して血清を得る分離する手段と、血液成分中のpH値、酸素濃度、二酸化炭素濃度、ナトリウム濃度、カリウム濃度、カルシウム濃度、グルコース濃度、乳酸濃度を分析する手段を小型一体にまとめたヘルスケアデバイスが開示されている(特許文献1)。しかしながら、簡便さの点でも大きさの点でも満足できるものではなかった。
【0012】
他方、特定成分の検出に必要な試薬類が乾燥状態で含有されているいわゆるドライケミストリー分析法も開発されている。ドライケミストリー分析法では、定性・定量分析に必要な全ての試薬は、試薬紙、使い捨て電極および磁性体のような分析要素(乾式分析要素)の中に組み込まれている。基本的には、1検体1項目の測定ができる使い捨て型であり、比較的微量の血液(約10μl)で、簡便に迅速に血液分析を行うことを可能としている。ドライケミストリー分析法を用いた分析装置(ドライケミストリー分析装置)は多数開発・商品化されており、富士ドライケム(富士写真フイルム(株)製)、エクタケム(米国、イーストマンコダック社製)、ドライラボ(コニカ(株)製)、スポットケム(京都第一化学(株)製)、レフロトロン(独国、ベーリンガーマンハイム社製)、セラライザー(米国、マイルズラボラトリー社製)等が市販されている。
【0013】
このように、ドライケミストリー分析法は、小型で、迅速かつ簡便に検体中の成分を分析するという観点からは、従来のウェットケミストリー分析法より優れており、一定の成果をあげることに成功したが、幾つかの問題点もあった。
【0014】
例えば、検体が全血であり、分析対象となる成分(被験成分)が血清中に含まれる成分、例えば乳酸デヒドロゲナーゼである場合、乳酸デヒドロゲナーゼを分析するための多層乾式分析要素が、特許文献2、特許文献3に開示されている。このとき該多層乾式分析要素に検体を直接供与するのではなく、事前に前処理(全血より血球成分を除去する処理)が必須となる。
【0015】
このように、通常、検体が血液である場合、通常は全血を使用することはなく、血球成分を除去した後、ドライケミストリー分析法を使用して血漿または、血清の形で測定する。
血球成分を除去する方法として、遠心力やフィルターを使う方法があり、これらの方法を利用した多数の血球分離装置が開発されている。微量の血球分離装置は、例えば特許文献4、特許文献5に開示されている。
しかしながら、このように血球分離装置を必要とすることにより、装置を操作する作業が追加され、簡便性の低下を招き、さらに必要な血液量が増大してしまうという望ましくない状況が引き起こされている。
【0016】
遠心分離装置と、乾式分析要素としてドライケミストリー分析法に用いる試薬をフィル
ム化した分析用多層フィルム(以下、この形態も含めて多層乾式分析要素と言う。)とを組み合わせることにより、事実上血球分離操作が不用となり、かつ多項目を同時に測定できるドライケミストリー分析装置を作ることができる。例えば、特許文献6および7には、多層乾式分析要素と流路が一体化された分析カートリッジが開示されている。この技術では、該カートリッジと遠心分離装置を組合せることにより、外部力により流路内で血球分離を行う。
しかしながら、これらの技術においても、必要となる血液の量を充分に少なくすることができず、迅速性の点でも満足できるものではなかった。
【0017】
また、例えば、検体が全血であり、分析対象となる成分が、ヘモグロビンA1C等の様に、血球中に存在する成分を分析する場合は、血清中成分を測定する場合とは異なり、血球を破壊する必要がある。ヘモグロビンA1Cを分析するための多層乾式分析要素は、特許文献8に開示されている。このとき、該乾式分析要素に検体を直接供与するのではなく、事前に前処理(血球を破壊する操作)が必要となる。
【0018】
さらにまた、例えば、いわゆる抗原抗体反応を用いるイムノアッセイにおいては、抗原抗体反応を速やかに進行させる目的から、検体(主に血漿)を希釈する必要がしばしばある。多層乾式免疫分析要素としては特許文献9〜11に記載の方法があるが、これらの多層乾式免疫分析要素には検体を直接供与するのではなく、予め希釈する必要がしばしばある。
【0019】
また、例えば、糖化タンパク質(例えばグリコアルブミン、ヘモグロビンA1C等)のように、被分析物質が高分子量の物質である場合、あらかじめタンパク質分解酵素で分解処理したのち、分解生成物中の成分を分析することがある。
【0020】
上述したように、検体を乾式分析要素に供与する前に、何らかの前処理を必要とすることが多かった。このような前処理は測定操作を煩雑にし、測定精度を低下させるだけではなく、測定者が検体により汚染される可能性が高くなるという望ましくない状況を引き起こすことが多かった。
【0021】
一方、近年微細加工技術を利用した微細加工チップが多数提案されてきている。例えば特許文献12には、プラットフォームの回転から生じる向心力を利用して液搬送を行うシステムが開示されている。しかし、マイクロ流体系においては、搬送される流体が層流を形成するため検体と検出試薬の混合が困難であるという大きな欠点があった。
【特許文献1】特開2001−258868号公報
【特許文献2】特開昭62−93662号公報
【特許文献3】特開昭62−228947号公報
【特許文献4】特開平9−196911号公報
【特許文献5】特開平11−38001号公報
【特許文献6】特表2001−512826号公報
【特許文献7】特表2002−514755号公報
【特許文献8】特開平9−166594号公報
【特許文献9】特開平1−237455号公報
【特許文献10】特開平1−321360号公報
【特許文献11】特開平1−321361号公報
【特許文献12】特開2003−28883号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明の目的は、検体を採取した現場で、迅速かつ簡便に精度の高い分析データの取得
を可能とする分析チップを提供することである。本発明の別の目的は、分析者が採取した検体の前処理を実質的に行うことなく、検体により汚染される可能性が少なく安全に測定することが可能な分析チップを提供することである。
また本発明のもう一つ別の目的は、在宅ケアに用いることのできるような分析チップ(例えば血液分析チップ)、つまり測定装置を精度を落とさずに小型化し、微量の検体より、多種類の分析項目を迅速にかつ簡便に測定しうる分析チップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、検体の前処理要素(例えば、血球を分離する要素、溶血要素、希釈要素など)と多層乾式分析要素とを直接又は流路を介して連結して一体化することにより、上記課題を解決した分析チップを提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0024】
すなわち本発明によれば、以下の構成の分析チップ、分析方法が提供される。
<1> 検体中の一つ以上の成分を分析するための一体化された分析チップであって、
少なくとも
(1)検体の前処理をする一つ以上の前処理要素、
(2)前処理後の検体中の一つ以上の成分を分析する、一つ以上の多層乾式分析要素、及び
(3)前記前処理要素と前記多層乾式分析要素とをつなぐ一つ以上の流路を含むことを特徴とする分析チップ。
<2> 検体中の一つ以上の成分を分析するための一体化された分析チップであって、
少なくとも
(1)検体の前処理をする一つ以上の前処理要素、及び
(2)前処理後の検体中の一つ以上の成分を分析する、一つ以上の多層乾式分析要素を含み、前記前処理要素と前記多層乾式分析要素とが分析チップ内で連結している、分析チップ。
<3> 前処理が、血球分離、溶血、検体の希釈、タンパク質の分解、タンパク質の変性、内因性物質の除去、及び抗原抗体反応から選ばれる少なくとも一つである、<1>又は<2>に記載の分析チップ。
<4> 前処理要素が、血球分離要素であり、かつ該要素が、等価直径5μm以下でかつ長さが等価直径と等しいか或いはそれより長い非水溶性物質、または多孔質体を含有する、<1>又は<2>に記載の分析チップ。
<5> 前処理要素が、血球分離要素であり、かつ該要素が、ガラス繊維またはガラス繊維濾紙のいずれかを含有する、<1>又は<2>に記載の分析チップ。
<6> 前処理要素が、血球分離要素であり、かつ該要素が、ガラス繊維濾紙および微多孔性膜を含有する血液濾過ユニットを含む、<1>又は<2>に記載の分析チップ。
<7> 血球分離要素が、遠心力を利用する要素である、<4>〜<6>のいずれかに記載の分析チップ。
<8> 流路が、等価直径3mm以下のマイクロ流路である、<1>および<3>〜<7>のいずれかに記載の分析チップ。
<9> 前処理要素、多層乾式分析要素、及び流路の3要素、または
前処理要素及び多層乾式分析要素の2要素
が、一つのカートリッジに含有されて一体化された、<1>〜<8>のいずれかに記載の分析チップ。
<10> 前処理要素、及び流路のいずれかまたは両方が、微細加工技術を用いて基板の上またはその中に作られており、多層乾式分析要素が流路に接合されて一体化された、<1>〜<8>のいずれかに記載の分析チップ。
<11> 検体を、<1>〜<10>のいずれかに記載の分析チップに含まれる、前処理要素、及び多層乾式分析要素の順に通過させる工程を含む、検体の分析方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明の分析チップによれば、微量の検体を用いて、該検体を実質的に前処理する操作を行うことなく、迅速、簡便かつ精度良く検体中の成分を分析することが可能である。
本発明によれば、煩雑な前処理操作を必要としない分析チップが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
[一体化された分析チップ]
本発明は、検体中の一つ以上の成分を分析するための一体化された分析チップに関するものである。
第一の態様によれば、本発明の分析チップは、少なくとも(1)検体の前処理をする一つ以上の前処理要素、(2)前処理後の検体中の一つ以上の成分を分析する、一つ以上の多層乾式分析要素、及び(3)前記前処理要素と前記多層乾式分析要素とをつなぐ一つ以上の流路を含む。
【0027】
第二の態様によれば、本発明の分析チップは、少なくとも(1)検体の前処理をする一つ以上の前処理要素、及び(2)前処理後の検体中の一つ以上の成分を分析する、一つ以上の多層乾式分析要素を含み、前記前処理要素と前記多層乾式分析要素とが分析チップ内で連結している。
【0028】
本発明の分析チップの別の態様として、全血中の成分を分析する場合には、(1)検体の前処理をする一つ以上の前処理要素、(2)前処理後の検体中の一つ以上の成分を分析する、一つ以上の多層乾式分析要素、及び(3)前記前処理要素と前記多層乾式分析要素とをつなぐ一つ以上の流路のほかに、着脱可能な採血要素を有していてもよい。
【0029】
また、本発明の分析チップの別の態様としては、(1)検体の前処理をする一つ以上の前処理要素、(2)前処理後の検体中の一つ以上の成分を分析する、一つ以上の多層乾式分析要素、及び(3)前記前処理要素と前記多層乾式分析要素とをつなぐ一つ以上の流路の他に、検体を注入(点着)する要素や、検体量を秤量する要素、多層乾式分析要素に導入する検体の量を秤量する要素、検体や反応液を混合する要素等の要素を有していてもよい。
【0030】
本発明において、「一体化」されているとは、上記分析チップに注入された検体中の成分が、該分析チップの外に出されることなく、全ての測定が完了できるということである。
【0031】
一体化された分析チップ(以下、一体化型分析チップとも言う。)としては、以下の(i)または(ii)の形態が挙げられる。
(i)上記(1)〜(3)の3つの要素(または、(1)、(2)の2つの要素)が、一つのカートリッジに含有されることによって一体化されている形態。
(ii)上記(1)または(3)のいずれか、または両方が、いわゆる微細加工技術を用いて、基板の上またはその中に作られており、必要に応じて(2)の多層乾式分析要素は、(3)の流路に接合されている形態。
【0032】
上記(i)において、カートリッジを構成する素材としては、ゴム、プラスチックなどの樹脂、シリコン含有物質が挙げられる。
樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリサイクリックオレフィン(PCO)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリジメ
チルシロキサン(PDMS)、天然ゴム、合成ゴム及びこれらの誘導体が挙げられる。シリコン含有物質としては、ガラス、石英、シリコンウエファー等のアモルファスシリコン、ポリメチルシロキサンなどのシリコーンが挙げられる。
上記の中でも、PMMA、PCO、PS、PC、ガラス、シリコンウエファーが好ましい。これらは、透明素材であることから、後述する測光に用いる場合に特に好適である。この場合、カートリッジを構成する素材全てが透明である必要はなく、測光される多層乾式分析要素をカートリッジ外から確認することが可能であればよい。カートリッジに多層乾式分析要素を確認するための窓枠形状を設け、窓に当たる部分のみ上記透明素材としてもよい。
【0033】
特に(3)の流路を微細加工技術を用いて作成する場合、金属、シリコン、テフロン(登録商標)、ガラスおよびセラミックスが、耐熱、耐圧、耐溶剤性および光透過性の観点からより好ましく、特に好ましくはガラスである。
【0034】
カートリッジの形、および大きさは、手で持ちやすい範囲であれば、いずれの形、大きさでもよい。具体的には、例えば、底面の一辺が10〜50mm位の長方形で、厚みが2〜10mm位のものが好ましい形および大きさとして挙げられる。
(1)の前処理要素および(3)の流路はそれぞれ後述する構成を含有して構成されるが、これらのいずれかの作製に、下記(ii)に適用する微細加工技術を適用することもできる。
【0035】
上記(ii)において、上記(1)および/または(3)は、基板上に微細加工技術により作成することができる。基板に使用される材料の例を挙げれば金属、シリコン、テフロン(登録商標)、ガラス、セラミックスまたはプラスチック、ゴムなどである。
プラスチックの例としては、PCO、PS、PC、PMMA、PE、PET、PP等を挙げることができる。ゴムの例としては、天然ゴム、合成ゴム、シリコンゴム、PDMS等を挙げることができる。シリコン含有物質としては、ガラス、石英、シリコンウエファー等のアモルファスシリコン、ポリメチルシロキサンなどのシリコーンが挙げられる。
特に好ましい例としては、PMMA、PCO、PS、PC、PET、PDMS、ガラス、シリコンウエファー等を挙げることができる。これらは、透明素材であることから、後述する測光に用いる場合に特に好適である。この場合、基板全てが透明である必要はなく、多層乾式分析要素が分析チップ外から確認可能であればよい。分析チップに多層乾式分析要素を確認するための窓枠形状を設け、窓に当たる部分のみ上記透明素材としてもよい。
基板の大きさは、特に限定されないが、手で持ちやすい範囲であれば、いずれの形、大きさでもよい。上記(i)のカートリッジの形,大きさと同様、具体的には、例えば、底面の一辺が10〜50mm位の長方形で、厚みが2〜10mm位のものが好ましい形および大きさとして挙げられる。
【0036】
(1)および/または(3)を作成するための微細加工技術は、例えばマイクロリアクター −新時代の合成技術−(2003年 シーエムシー刊 監修:吉田潤一 京都大学大学院 工学研究科教授)、微細加工技術 応用編−フォトニクス・エレクトロニクス・メカトロニクスへの応用−(2003年 エヌ・ティー・エス刊 高分子学会行事委員会編)等に記載されている方法を挙げることができる。
【0037】
代表的な方法を挙げれば、X線リソグラフィを用いるLIGA技術、EPON SU−8を用いた高アスペクト比フォトリソグラフィ法、マイクロ放電加工法(μ−EDM)、Deep RIEによるシリコンの高アスペクト比加工法、Hot Emboss加工法、光造形法、レーザー加工法、イオンビーム加工法、およびダイアモンドのような硬い材料で作られたマイクロ工具を用いる機械的マイクロ切削加工法などがある。これらの技術を単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。好ましい微細加工技術は、X線リソグラフィを用いるLIGA技術、EPON SU−8を用いた高アスペクト比フォトリソグラフィ法、マイクロ放電加工法(μ−EDM)、および機械的マイクロ切削加工法である。
【0038】
本発明における(1)および/または(3)は、シリコンウエファー上にフォトレジストを用いて形成したパターンを鋳型とし、これに樹脂を流し込み固化させること(モールディング法)によっても作成することができる。モールディング法には、PDMSまたはその誘導体に代表されるシリコン樹脂を使用することができる。
【0039】
本発明の一体化型分析チップを組み立てる際、接合技術を用いることができる。通常の接合技術は大きく固相接合と液相接合に分けられ、一般的に用いられている接合方法は、固相接合として圧接や拡散接合、液相接合として溶接、共晶接合、はんだ付け、接着等が代表的な接合方法である。
【0040】
更に、組立に際しては高温加熱による材料の変質や大変形による流路等の微小構造体の破壊を伴わない寸法精度を保った高度に精密な接合方法が望ましく、その技術としてはシリコン直接接合、陽極接合、表面活性化接合、水素結合を用いた直接接合、HF水溶液を用いた接合、Au−Si共晶接合、ボイドフリー接着などが挙げられる。
また、超音波、レーザー等を用いる接合、接着剤、接着テープなども使用する接合を使用してもよいし、単に圧力だけで、接合していてもよい。
【0041】
流路と、多層乾式分析要素を接合する場合には、例えば、接着剤、両面テープ、超音波による溶着、光硬化剤の使用、表面処理剤の使用等、多数の一般的な方法が考えられる。また、其々の構成素材および形態により、単に圧力をかけ押しつけていればよい場合もある。いずれにせよ、血漿などの検体が漏れ出さないような方法であればどのような方法であってもよい。
【0042】
[前処理要素]
次に前記(1)〜(3)の3つの要素のうち、(1)前処理要素について説明する。
本発明における前処理とは、採取した検体を乾式分析要素に供与する前に必要なすべての処理およびその一部分を指す。前処理要素は検体の前処理を行う要素のことをいう。前処理の例としては、血球分離、溶血、検体の希釈、タンパク質の分解、タンパク質の変性、内因性物質の除去、抗原抗体反応等をあげることができる。
前処理要素は、一つの前処理要素がこれら複数の前処理を行えるものであってもよく、各々異なる前処理を行う複数の前処理要素であってもよい。またこれら要素は流路によりつながっていても、または流路内に組込まれていてもよい。
【0043】
前処理要素は、通常は前処理要素を構成する部材と、必要に応じて前処理を行うための試薬を含んで構成されている。前処理要素を構成する部材は前述したカートリッジに含有されていてもいいし、基板の上またはその中につくられていてもいい。
【0044】
前処理要素は、該要素自体が流路形状をしていてもよい。反応を速やかに進行させるという観点から、多孔質体であってもよい。多孔質体は、流路形状の前処理要素(または該前処理要素を構成する要素)中に配置しても、後記するように流路形状とは別の形状の前処理要素中に配置してもよく、また流路自体が多孔質体であってもよい。ここでいう多孔質体の例としては、濾紙、メンブラン、ガラス繊維、ガラス繊維濾紙、繊維、不織布等、及びその組み合わせを挙げることができる。
【0045】
また、前処理要素は、ビーズのような微粒子であってもよい。ここでいう微粒子の例と
しては、ガラスビーズ、シリコンビーズ、ポリマービーズ、ラテックスビーズ、ナノ粒子、磁性粒子、アモルファスシリコンビーズなど、及びその組み合わせを挙げることができる。このようなビーズの例としては、特開2004-61496号公報、特開平5-87812号公報に記載の技術が使用できる。
【0046】
また、前処理要素は、固体基板上に前述したような微細加工技術により作成することもできる。この場合、前処理要素は、前述したような微細加工技術によって実質的に多孔質になっていてもよい。この場合、前処理要素はピラー状になっていることも好ましい。
【0047】
前処理要素が試薬を含む場合、前処理要素内に前処理用の試薬を保持していることが望ましい。試薬を前処理要素に導入する方法としては、前処理要素の構成に応じて適宜、スポット法、スクリーン印刷法、ナノコンタクトプリンティング法、インクジェット法等が利用でき、また、あらかじめ、ポリエチレンテレフタレートや、酢酸セルロース誘導体等で作られたベース上に塗布したのち、該前処理要素に接着してもよい。さらには、前述したような多孔質体に含有(または吸着、固定化、分散等)させたのち、該前処理要素に導入してもよい。
【0048】
{血球分離}
本発明でいう前処理の具体例の一つとしては、血球分離をあげることができる。本発明における血球分離とは、全血より血球を分離し、血漿または血清を取り出す工程をいう。
本発明において、血球分離要素の形態は、全血から血球を分離して血漿または血清を得ることが可能ならばいずれの形でもよく、直線状、曲線状等、いずれの形態をとることも可能である。
また、本発明において、血球分離要素としては、従来公知の血球分離に用いられるいずれの要素も利用することができる。例えば、遠心力を利用する要素、濾過による要素等を挙げることができる。また、これらを組み合わせてもよい。
【0049】
遠心力を利用する要素の場合、分析チップに全血を注入し、遠心分離機によりチップを回転させ血球を分離し、得られた血漿を多層乾式分析要素に直接、または流路を介して多層乾式分析要素に導くことができる。遠心力を利用する要素としては、遠心分離機を利用することができる形態を持ち、かつ血球を分離し、得られた血漿を流路を通して多層乾式分析要素に導くことができればいずれの形態であってもよい。例えば、血球分離後、血球を含む固体成分を配置する凹部を有する形態を好ましい具体例としてあげることができる。
【0050】
本発明においては、血球分離要素として濾過部を有することが好ましい。濾過部に用いる濾材としては、従来公知のいずれの濾材も利用可能であるが、多孔質体であることが好ましく、該多孔質体としては、濾紙、メンブラン、ガラス繊維、ガラス繊維濾紙等があげられる。また、これらを組み合わせてもよい。また、例えば、特開平11−6829号公報、特開平11−38001号公報、特開平11−38002号公報、特開平11−38003号公報、特開平11−237378号公報等の各公報に記載の方法を使用することもできる。
【0051】
また、濾過部は、等価直径5μm以下でかつ長さが等価直径と等しいか或いはそれより長い非水溶性物質であってもよい。
非水溶性物質としては、シリコン,ガラス,ポリスチレン(PS),ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリカーボネート(PC),ケブラーなどの商標で知られるポリイミド、およびガラス繊維,ガラス繊維濾紙、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリイミド繊維などが挙げられる。
非水溶性物質としては、等価直径5μm以下でかつ長さが等価直径と等しいか或いはそ
れより長い非水溶性物質であれば、繊維に限定する必要はない。例えば、微細加工技術,またはμTASなどの加工技術を用いて、マイクロピラー・ナノピラーなどと一般的に呼ばれている柱状の形状に成型したものを配置して用いてもよい。マイクロピラー・ナノピラーの作り方にはさまざまな方法があるが、シリコンウエハを露光およびエッチングによって柱状にシリコンを残存させる方法でもよいし、凹んだ形状の鋳型を用いて樹脂に圧着して剥がし、樹脂の表面に柱状の突起を形成させるインプリンティング法を用いてもよい。
さらに、非水溶性物質をピラー状の形状に限定する必要はない。光硬化性樹脂などを用いて光造形技術で等価直径5μm以下でかつ長さが等価直径と等しいか或いはそれより長い構造体を作成すればよい。このときに、該構造体間にさらに架橋させる構造体を作成することで力学的な強度を付与し、濾過性能と力学強度の両方を満足する構造体を作ることができる。この構造体の形状としては、ピラー間を架橋する構造,繊維間を架橋する構造,井桁状・市松模様・ハニカム状のメッシュ構造およびその架橋体などが挙げられる。
【0052】
さらにまた、血球分離要素は、ガラス繊維濾紙および微多孔性膜を含有する血液濾過ユニットを含んでいてもよい。該血液濾過ユニットは、微量な血液であっても血漿や血清を効率よく分離でき、特に好ましい。
以下、該血液濾過ユニットについて述べる。
ガラス繊維濾紙は密度が0.02〜0.3程度が好ましく、さらに好ましくは0.02〜0.2程度、特に好ましくは0.02〜0.15程度で、保留粒子径が0.8〜9μm程度が好ましく、特に1〜5μm程度のものが好ましい。ガラス繊維の表面を、特開平2−208565号公報、同4−208856号公報に記載された様な方法で、親水性高分子で処理することによって濾過をより速やかに円滑に行なうことができる。また、ガラス繊維濾紙の中にレクチン、その他の反応性試薬や改質剤を添加しておいたり、また、ガラス繊維の表面をレクチンで処理することもできる。ガラス繊維濾紙に処理を施すことなく使用することもできる。ガラス繊維濾紙は複数枚を積層して用いることもできる。
【0053】
また、必要に応じてガラス繊維の密度、その他の特性を組み合わせて調製積層することができる。
【0054】
微多孔性膜は、実質的に分析値に影響を与える程には溶血することなく、全血から血球と血漿を特異的に分離するものである。
この微多孔性膜は孔径がガラス繊維濾紙の保留粒子径より小さくかつ0.2μm以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.3〜8μm、より好ましくは0.5〜4.5μm程度、特に好ましくは0.5〜3μmである。
また、空隙率は高いものが好ましく、具体的には、空隙率が約40%から約95%が好ましく、より好ましくは約50%から約95%、さらに好ましくは約70%から約95%の範囲である。
微多孔性膜の例としては弗素含有ポリマー膜、ポリスルホン膜、セルロースアセテート膜、ニトロセルロース膜等が挙げられる。また表面を加水分解、親水性高分子、活性剤などで親水化処理したものも使用できる。
【0055】
弗素含有ポリマーの微多孔性膜としては、特表昭63−501594号公報(国際公開第87/02267号パンフレット)に記載のポリテトラフルオロエチレンのフィブリル(微細繊維)からなる微多孔性のマトリックス膜(微多孔性層)、Gore−Tex(W.L.Gore and Associates社製)、Zitex(Norton社製)、ポアフロン(住友電工社製)などが挙げられる。その他に、米国特許第3268872号明細書の実施例3及び4、米国特許第3260413号明細書の実施例3及び4、特開昭53−92195号公報(米国特許第4201548号明細書)等に記載のポリテトラフルオロエチレンの微多孔性膜、米国特許第3649505号明細書に記載のポリビニリデ
ンフルオリドの微多孔性膜なども使用できる。
【0056】
構造としては、延伸しないもの、1軸延伸したもの、2軸延伸したもの、1層構成の非ラミネートタイプ、2層構成のラミネートタイプ、例えば繊維等の他の膜構造物にラミネートした膜等、いずれも使用できる。フィブリル構造であってもよい。
【0057】
フィブリル構造又は一軸延伸もしくは二軸延伸した非ラミネートタイプの微多孔性膜は、延伸により、空隙率が大きくかつ濾過長の短い微多孔性膜を作ることができる。濾過長が短い微多孔性膜は、血液中の有形成分(主として赤血球)による目詰りが生じにくく、かつ血球と血漿の分離に要する時間が短いので、定量分析精度が高くなるため、好ましい。
【0058】
これらの弗素含有ポリマーの微多孔性膜の作成に当たっては、1種もしくは2種以上の弗素含有ポリマーを混合しても良いし、弗素を含まない1種もしくは2種以上のポリマーや繊維と混合し、製膜したものであっても良い。
【0059】
弗素含有ポリマーの微多孔性膜は特開昭57−66359号公報(米国特許第4783315号明細書)に記載の物理的活性化処理(好ましくはグロー放電処理又はコロナ放電処理)を微多孔性膜の少なくとも片面に施すことにより微多孔性膜の表面を親水化して、隣接する微多孔性膜との部分接着に用いられる接着剤の接着力を強化することができる。
【0060】
弗素含有ポリマーの微多孔性膜は、そのままでは、表面張力が低く濾材として用いようとしても、水性液体試料ははじかれてしまって、膜の表面や内部に拡散、浸透しずらい。これに対しては、弗素含有ポリマーの微多孔性膜に親水性を付与し親水性を高める手段として、弗素含有ポリマーの微多孔性膜の外部表面及び内部の空隙部分の表面を実質的に親水化するに充分な量の界面活性剤を弗素含有ポリマーの微多孔性膜に含浸させることにより、水性液体試料がはじかれる問題点を解決できる。
【0061】
水性液体試料がはじかれることなく膜の表面や内部に拡散、浸透、移送されるに充分な親水性を弗素含有ポリマーの微多孔性膜に付与するには、弗素含有ポリマーの微多孔性膜の空隙体積の、好ましくは約0.01%から約10%、より好ましくは約0.1%から約5.0%、更に好ましくは0.1%から1%の界面活性剤で微多孔性膜の空隙部分の表面を被覆する。例えば、厚さが50μmの弗素含有ポリマーの微多孔性膜の場合に、含浸される界面活性剤の量は、一般に0.05g/m2から2.5g/m2の範囲であることが好ましい。弗素含有ポリマーの微多孔性膜に界面活性剤を含浸させる方法としては、界面活性剤を低沸点(沸点約50℃から約120℃の範囲が好ましい)の有機溶媒(例、アルコール、エステル、ケトン)溶液にし、該溶液に弗素含有ポリマーの微多孔性膜を浸漬し、溶液を微多孔性膜の内部空隙に実質的に充分に行きわたらせた後、微多孔性膜を溶液から静かに引き上げ、風(温風が好ましい)を送り乾燥させる方法が挙げられる。
【0062】
弗素含有ポリマーの微多孔性膜を親水化処理に用いられる界面活性剤としては、非イオン性(ノニオン性)、陰イオン性(アニオン性)、陽イオン性(カチオン性)、両性いずれの界面活性剤をも用いることができる。
【0063】
これらの界面活性剤のうちでは、ノニオン性界面活性剤が、赤血球を溶血させる作用が比較的低く、好ましい。ノニオン性界面活性剤としては、アルキルフェノキシポリエトキシエタノール、アルキルポリエーテルアルコール、ポリエチレングリコールモノエステル、ポリエチレングリコールジエステル、高級アルコールエチレンオキシド付加物(縮合物)、多価アルコールエステルエチレンオキシド付加物(縮合物)、高級脂肪酸アルカノールアミドなどが挙げられる。
【0064】
ノニオン性界面活性剤の具体例として、次のものが挙げられる。アルキルフェノキシポリエトキシエタノールとしては、
イソオクチルフェノキシポリエトキシエタノール:
(Triton X−100:オキシエチレン単位平均9〜10含有)、
(Triton X−45:オキシエチレン単位平均5含有)、
ノニルフェノキシポリエトキシエタノール:
(IGEPAL CO−630:オキシエチレン単位平均9含有)、
(IGEPAL CO−710:オキシエチレン単位平均10〜11含有)、
(LENEX698:オキシエチレン単位平均9含有)、
アルキルポリエーテルアルコールとしては、
高級アルコール ポリオキシエチレンエーテル:(Triton X−67:CA Registry No.59030−15−8)が挙げられる。
【0065】
弗素含有ポリマーの微多孔性膜は、その多孔性空隙に1種又は2種以上の水溶性高分子を水不溶化して設けることによって親水化したものであってもよい。水溶性高分子の例として、酸素を含む炭化水素にはポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、窒素を含むものにはポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン、負電荷を有するものとしてポリアクリル酸、ポリメタアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸などをあげることが出来る。不溶化は熱処理、アセタール化処理、エステル化処理、重クロム酸カリによる化学反応、電離性放射線による架橋反応等によって行えばよい。具体的には、特公昭56−2094号公報及び特公昭56−16187号公報に開示されている方法が挙げられる。
【0066】
ポリスルホンの微多孔性膜は、ポリスルホンをジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンあるいはこれらの混合溶媒等に溶解して製膜原液を作製し、これを支持体上に、又は直接凝固液中に流延し洗浄、乾燥して行うことにより製造することができる。具体的には特開昭62−27006号公報に開示されている方法が挙げられる。ポリスルホンの微多孔性膜としては、そのほか特開昭56−12640号公報、特開昭56−86941号公報、特開昭56−154051号公報等に記載のものも使用することができる。ポリスルホンの微多孔性膜も弗素含有ポリマーと同様界面活性剤を含有させ、あるいは水不溶化した水溶性高分子を設けることによって親水化することができる。
【0067】
その他の非繊維微多孔性膜としては、特公昭53−21677号公報、米国特許1,421,341号明細書等に記載されたセルロースエステル類、例えば、セルロースアセテート、セルロースアセテート/ブチレート、硝酸セルロースからなるブラッシュポリマー膜が好ましいものとして挙げられる。6−ナイロン、6,6−ナイロン等のポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン等の微多孔性膜でもよい。その他、特公昭53−21677号、特開昭55−90859号等に記載された、ポリマー小粒子、ガラス粒子、けい藻土等が親水性または非吸水性ポリマーで結合された連続空隙をもつ多孔性膜も利用できる。
【0068】
非繊維微多孔性膜の有効孔径は0.2〜10μm、好ましくは0.3〜5μm、特に有効なのは0.5〜3μmである。本発明で非繊維微多孔性膜の有効孔径は、ASTM F316−70に準拠した限界泡圧法(バブルポイント法)により測定した孔径で示す。非繊維微多孔性膜が相分離法により作られたいわゆるブラッシュ・ポリマーから成るメンブランフィルターである場合、一般に厚さ方向の液体通過経路は、膜の製造の際の自由表面側(即ち光沢面)で最も狭くなっており、液体通過経路の断面を円に近似したときの孔径は、自由表面の近くで最も小さくなっている。容積の通過経路における厚さ方向に関わる最小孔径は、さらにフィルターの面方向について分布を持っており、その最大値が粒子に対する濾過性能を決定する。通常、それは上記限界泡圧法で測定される。
【0069】
上に述べたように、相分離法により作られたいわゆるブラッシュ・ポリマーから成るメンブランフィルターでは、厚さ方向の液体通過経路は膜の製造の際の自由表面側(即ち光沢面)で最も狭くなっている。上記血液濾過ユニットに含有される濾材としてこの種の非繊維微多孔性膜を用いる場合には、出口側を、メンブランフィルターの光沢面とすることが好ましい。
【0070】
好ましい微多孔性膜はポリスルホン膜、セルロースアセテート膜等であり、特に好ましいのはポリスルホン膜である。濾過ユニットに用いる濾材はガラス繊維濾紙が血液供給側に配置され、微多孔性膜が出口側に配置される。
【0071】
上記血液濾過ユニットで使用される濾材には、ガラス繊維濾紙と微多孔性膜に加えて第3の濾材を追加することができる。この第3の濾材の例としては、濾紙、不織布、織物生地(例えば平織生地)、編物生地(例えば、トリコット編)等、繊維質多孔性層を挙げることができる。これらのうち織物、編物等が好ましい。織物等は特開昭57−66359号公報に記載されたようなグロー放電処理をしてもよい。この第3の濾材はガラス繊維濾紙と微多孔性膜の中間に配置することが好ましい。
【0072】
上記血液濾過ユニットで使用される濾材では、その表面のみで血球をトラップする訳ではなく、ガラス繊維濾紙の厚さ方向に浸透するに従って、厚さ方向に全長にわたって血球を留め除去していく、いわゆる体積濾過作用によるものと理解される。
【0073】
上記血液濾過ユニットで使用される濾材は特開昭62−138756号公報、特開昭62−138757号公報、特開昭62−138758号公報、特開平2−105043号公報、特開平3−16651号公報等に開示された方法に従って各層を部分的に配置された接着剤で接着して一体化することができる。
【0074】
以上に述べてきた、血球分離要素は、後述する検体(この場合は全血)を注入する要素と、多層乾式分析要素の間に配置されることが好ましいが、血球分離要素が全血を注入する要素を兼ねてもよい。血球分離要素以外の前処理要素の場合にも、同様に配置することができ、また、検体(全血である場合もある)を注入する要素を兼ねることもできる。
【0075】
{溶血}
本発明でいう前処理の別の具体例としては、溶血を挙げることができる。検体が全血でありかつ、分析対象となる物質が血球中に含まれる成分の場合、前処理として血球の破壊つまり溶血が必要となる。例えば発明の測定対象がグリコヘモグロビン(HbA1)である場合、検体中の赤血球を十分溶血させて、赤血球中のヘモグロビンを溶液中に可溶化させる必要がある。グリコヘモグロビンを検出するための多層乾式分析要素としては、特開平9−166594号公報、特開平8−122335号公報等に記載されているようなグリコヘモグロビンに対する抗体と酵素との結合物(酵素標識抗体)を用いる技術がある。また、特開2000−310638に記載されているような方法を用いて、糖化ヘモグロビンβ鎖のN末端グルコシル化ペプチドで標識された酵素及びグリコヘモグロビンに対する抗体を用いることによりグリコヘモグロビンを測定する技術もある。
これらの技術においても、該多層乾式分析要素に検体を供給する前に、血球を破壊し、溶血する必要があった。本発明においては、溶血を前処理要素で行なうことにより、分析チップを著しく性能改善することができる。
また、本発明の一体化された分析チップが上述した、グリコヘモグロビン検出するため
の多層乾式分析要素だけではなく、ヘモグロビンを検出するための多層乾式分析要素を同時に保有していてもよい。このような場合、1個の一体化された分析チップにより、ヘモグロビン量、グリコヘモグロビン量、ヘモグロビン中のグリコヘモグロビン割合(%)を測定することが可能となる。
【0076】
このような、溶血を行う要素(溶血要素)は、血球分離要素に前述した多孔質を有することが望ましい。また、流路内に溶血試薬を担持することにより、溶血要素としてもよい。溶血試薬は、乾燥させたものでも、溶液でもいずれでもよい。
【0077】
溶血試薬としては、市販の溶血剤や界面活性剤(例えばTriton X-100)で溶血させる方法、非等張希釈液を使用して浸透圧ショックで溶血させる方法等を挙げることができる。また必要に応じ、超音波処理で赤血球膜を破壊してもよい。
【0078】
溶血試薬として使用できる界面活性剤としては、特開平6-11510号公報に記載された、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)やジオクチルスルホ琥珀酸ナトリウム(DONS)などのアニオン性界面活性剤、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド(TTAB)やセチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)などのカチオン性界面活性剤、カルボキシベタイン型などの両性界面活性剤などがある。また、ノニオン性界面活性剤としては、p-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノキシポリエトキシエタノール(オキシエチレン単位平均 9〜10含有 Triton X-100; オキシエチレン単位平均16含有 Triton X-165; オキシエチレン単位平均40含有 Triton X-405、いずれもChemical Abstract Registry No. 9002-93-1)のようなアルキルフェノールポリエチレンオキシド縮合物;p-ノニルフェノキシポリグリシドール(グリシドール単位平均10含有)のようなアルキルフェノールポリグリシドール縮合物;ラウリルアルコールポリエチレンオキシド縮合物(例えばBrij
35 、Chemical Abstract Registry No. 9002-92-0);セチルアルコールポリエチレンオキシド縮合物(例えばBrij 58、Chemical Abstract Registry No. 9004-95-9)のような高級脂肪族アルコールのポリエチレンオキシド縮合物;ステアリン酸エステルポリエチレングリコール縮合物(例えばMyrj 52、 Myrj 59、いずれもChemical Abstract Registry No. 9004-99-3)のようなポリエチレングリコールの高級脂肪酸エステル縮合物;ソルビタンモノラウリン酸エステルのポリエチレングリコール縮合物(例えばTween 20、Chemical Abstract Registry No. 9005-64-5)のような高級脂肪酸ソルビタンエステルのポリエチレングリコール縮合物等がある。
【0079】
本発明でいう前処理のさらに別の具体例としては、希釈を挙げることができる。検体中の成分を、免疫学的測定法、例えば酵素免疫測定法に基づいた多層乾式分析要素を用いて行う場合、予め検体を一定倍率で希釈する必要がしばしば生じる。酵素免疫測定法に基づいた多層乾式分析要素については、多層乾式酵素免疫法の技術が用いられ、例えば特開平5−232112号公報等に開示されている。これらの技術においても、検体が血清である場合、検体の希釈はしばしば必要である。
【0080】
検体の希釈は、血清中の微量物質を測定するための免疫測定法において、共存蛋白質による免疫反応の阻害や、非特異的な吸着による測定データの信頼性の低下を防止する効果をもつ。また、酵素反応を利用するいわゆる酵素免疫測定法においては、定量的に測定できる濃度範囲(検量域)が広くないことが多い。このような場合、検体を希釈することにより、検体中に含まれる測定物質の濃度を検量域内におさめることができる。
【0081】
検体の希釈は、通常は検体と希釈液を混ぜることにより行われる。希釈液は、検出反応に適したpHの緩衝液を利用することが多い。また、塩濃度を調節するために塩化ナトリウム等の塩を添加してもよい。緩衝液としては、通常の生化学反応に使用される全ての緩衝液を利用することが可能であり、例えばリン酸緩衝液、酢酸緩衝液、炭酸緩衝液、ホウ
酸緩衝液、TRIS緩衝液、MES緩衝液、HEPES緩衝液等を挙げることができる。
【0082】
{検体の希釈}
前処理要素が、検体を希釈する要素(希釈要素)であってもよい。すなわち、前処理要素自体に希釈液を含有させて希釈要素としてもよい。また、希釈液を保持する要素を前処理要素とは別に作り、希釈液を保持する要素と前処理要素を流路等で連結し、検体と該希釈液を、前処理要素内で混合してもいい。この場合、前処理要素は、検体と希釈液が混合しやすい形態をとっていることが好ましい。
【0083】
{タンパク質の分解}
本発明でいう前処理のさらに別の具体例としては、蛋白質の分解が挙げられる。分析されうる物質が蛋白質である場合、該蛋白質をあらかじめ蛋白質分解酵素により限定分解したのち分析要素に供給することがある。
前処理要素は、蛋白質を分解する要素(タンパク質分解要素)であってもよい。
【0084】
例えば、糖化タンパク質を検出する場合、検体中の対象となる糖化タンパク質を、プロテアーゼ等により分解したのち、プロテアーゼ処理物中の糖化アミノ酸を、糖化アミノ酸酸化酵素等により、生成した過酸化水素を検出することにより、該糖化タンパク質を検出することができる。この技術は、例えば特開2001−54398号公報、特開平11−155596号公報に記載されている。検出されるタンパク質の例としては、糖化アルブミン、糖化グロブリン、糖化ヘモグロビン、糖化カゼイン等があげられる。また、検体としては、例えば、血液、血清、血漿、牛乳、醤油等があげられる。
【0085】
本発明においてタンパク質の分解に使用しうるプロテアーゼは、被検液に含まれるタンパク質に有効に作用するものであればいかなるものを用いてもよく、例えば動物、植物、微生物由来のプロテアーゼ等が挙げられる。具体的な例を以下に示すがこれらは1例に過ぎず、なんら限定されるものではない。
【0086】
動物由来のプロテアーゼの例としては、エラスターゼ(Elastase)、トリプシン(Tripsin) 、キモトリプシン(Chymotripsin)、ペプシン(Pepsin)、牛膵臓プロテアーゼ、カテプシン(Cathepsin) 、カルパイン(Calpain) 、プロテアーゼタイプ-I、プロテアーゼタイプ-XX(以上シグマ社製)、アミノペプチダーゼM (AminopeptidaseM)、カルボキシペプチダーゼA(Carboxypeptidase A)(以上ベーリンガー・マンハイム社製)、パンクレアチン(Pancreatin :和光純薬製)等が挙げられる。
【0087】
植物由来のプロテアーゼの例としては、カリクレイン(Kallikrein)、フィシン(Ficin) 、パパイン(Papain)、キモパパイン(Chimopapain) 、ブロメライン(Bromelain)(以上シグマ社製)、パパインW-40、ブロメラインF(以上天野製薬社製)等が挙げられる。
【0088】
微生物由来のプロテアーゼの例としては、下記 (1)〜(14)が挙げられる。
(1) バチルス(Bacillus)属由来プロテアーゼ;ズブチリシン(Subtilisin)、プロテアーゼ−タイプ -VIII、-IX 、-X、-XV 、-XXIV 、-XXVII、−XXXI(以上、シグマ社製)、サーモリシン(thermolysin) 、ナガーゼ(Nagarse)(以上、和光純薬社製)、オリエンターゼ-90N、-10NL 、-22BF 、-Y、-5BL、ヌクレイシン(以上、阪急バイオインダストリー社製)、プロレザー、プロテアーゼ-N、-NL 、-S「アマノ」(以上、天野製薬社)、GODO-BNP、-BAP (以上、合同酒清社精製)、プロチン-A、-P、デスキン、デピレイス、ビオソーク、サモアーゼ(以上、大和化成社製)、トヨチームNEP(東洋紡績社製)、ニュートラーゼ、エスペラーゼ、サビナーゼ、デュラザイム、バイオフィードプロ、アルカラーゼ、NUE 、ピラーゼ、クリアーレンズプロ、エバラーゼ、ノボザイム-FM 、ノボラン(以上、ノボノルディスクバイオインダストリー社製)、エンチロン-NBS、-SA(以上、洛東化成工業社製)、アルカリプロテアーゼ GL440、オプティクリーン -M375プラス、-L1000、-ALP440(以上、協和発酵社製)、ビオプラーゼAPL-30、SP-4FG、XL-416F 、AL-15FG(以上、ナガセ生化学工業社製)、アロアーゼAP-10 、プロテアーゼY、(以上、ヤクルト薬品工業社製)、コロラーゼ-N、-7089 、ベロンW(以上、樋口商会社製)、キラザイム P-1(ロシュ社製)等。
【0089】
(2) アスペルギルス(Aspergillus) 属由来プロテアーゼ;プロテアーゼタイプ−XIII, -XIX, -XXIII (以上、シグマ社製)、スミチーム -MP、-AP 、-LP 、-FP 、LPL, エンザイムP-3(以上、新日本化学工業株式会社製)、オリエンターゼ-20A、-ONS、-ON5、テトラーゼS(以上、阪急バイオインダストリー社製)、ニューラーゼA、プロテアーゼ-A、-P、-M「アマノ」(以上、天野製薬社)、IP酵素、モルシンF、AOプロテアーゼ(以上、キッコーマン社製)、プロチン-F、-FN 、-FA(以上、大和化成社製)、デナプシン2P、デナチーム -SA-7、-AP 、デナザイム AP(以上、ナガセ生化学工業社製)、プロテアーゼYP-SS 、パンチダーゼ -NP-2、-P (以上、ヤクルト社製)、サカナーゼ(科研ファルマ社製)、フレーバーザイム(ノボノルディスクバイオインダストリー社製)、ベロンPS(樋口商会社製)等。
【0090】
(3) リゾパス(Rhizopus)属由来プロテアーゼ;プロテアーゼタイプ XVIII (シグマ社製)、ペプチダーゼR、ニューラーゼF(以上、天野製薬社製)、XP-415(ナガセ生化学工業社製)等。
(4) ペニシリウム(Penicillium) 属由来プロテアーゼ;PD酵素(キッコーマン社製)等。(5) ストレプトマイセス(Streptomyces)属由来プロテアー;プロテアーゼ−タイプ XIV;別称 Pronase、-XXI (以上、シグマ社製)、アクチナーゼ -AS、-AF(以上、科研ファルマ社製)、タシナーゼ(協和発酵社製)、alkalofilicproteinase(東洋紡社製)等。
【0091】
(6) スタフィロコッカス(Staphylococcus)属由来プロテアーゼ;プロテアーゼタイプXVII
(シグマ社製)等。
(7) クロストリジウム(Clostridium) 属由来プロテアーゼ;クロストリパイン(Clostripain)、ノンスペシフィック ニュートラルプロテアーゼ(nonspesificproteinase) (以上、シグマ社製)等。
(8) リソバクター(Lysobacter)属由来プロテアーゼ;エンドプロテイナーゼLys-c(シグマ社製)等。
【0092】
(9) グリフォラ(Grifola) 属由来プロテアーゼ;メタロエンドペプチダーゼ(Metalloendopeputidase; シグマ社製)等。
(10) 酵母(Yeast) 属由来プロテアーゼ;プロテイナーゼA(Proteinase A;シグマ社製)、カルボキシペプチダーゼY(carboxypeptid aseY; ベーリンガー・マンハイム社製)等。
(11) トリチラチウム(Tritirachium)属由来プロテアー;プロテイナーゼK(Proteinase K;シグマ社製)等。
【0093】
(12) サーマス(Thermus) 属由来プロテアーゼ;アミノペプチダーゼT(Aminopeptidase T;ベーリンガー・マンハイム社製)等。
(13) シュードモナス(Pseudomonus) 属由来プロテアーゼ;エンドプロテイナーゼAsp-N(EndoproteinaseAsp-N;和光純薬社製)等。
(14) アクロモバクター(Achromobacter) 属由来プロテアーゼ;リジルエンドペプチダーゼ(LysylEndopeputidase) 、アクロモペプチダーゼ(以上和光純薬社製)等。
【0094】
他のタンパク質分解酵素としては、酵素の種類は特に制限されず、例えば、プロテアーゼK、ズブチリシン、トリプシン、アミノペプチダーゼ、糖化ペプチドプロテアーゼ等が
使用できる。
【0095】
タンパク質分解に使用される酵素は、タンパク質分解要素に直接固定化されていてもいいし、また乾燥状態で含有されていてもよい。また、別の好ましい例としては、前述したような微粒子に担持した後にタンパク質分解要素内に含有させてもよい。
【0096】
酵素を分析チップ内の前処理要素へ固定するのは、特に限定なく、共有結合法、物理吸着法、イオン結合法等いずれによっても可能である。特に、本発明の分析チップが、マイクロチップの形態を取る場合、例えば特開2004−125406号公報に記載した技術を利用することも好ましい。また、特開2004−61496号公報に記載されているように、ビーズや微粒子に担持することも好ましい。
【0097】
{タンパク質の変性}
本発明における前処理の別の具体例としては、蛋白質の変性をあげることができる。検体中の成分をイムノアッセイ等の抗原抗体の結合反応を利用する検出方法に基づいた多層乾式分析要素を用いて行う場合、検体中の標的蛋白質と抗体試薬とが結合することが必須である。しかし、該蛋白質中の抗体と結合する部分(エピトープ)が、蛋白質内部に存在するため、抗体試薬との反応が速やかに進行しないという問題がしばしば生じる。本発明の分析チップは、前処理要素として、蛋白質変性剤を保持する要素(タンパク質変性要素)を有してもよい。タンパク質変性要素に含有される蛋白質変性剤が、検体に添加され、蛋白質を変性せしめ、該エピトープを蛋白質表面に露出させ、抗原抗体反応を促進させることができる。蛋白質変性剤の例としては例えばカオトロピック試薬や界面活性剤、有機溶媒などをあげることができる。
【0098】
{内因性物質の除去}
本発明で言う前処理のさらに別の具体例としては、内因性物質の除去を挙げることができる。検体が例えば血清や、全血である場合、該検体中に含まれている成分(内因性物質)が目的とする成分の検出に影響を与えることがしばしばあり、分析要素に検体を供給する前に該内因性物質を除去したり、その活性を低下させる必要が生じる。
前処理要素は、内因性物質を除去する要素であってもよい。
【0099】
内因性物質が酵素である場合には、内因性物質を除去する要素は、該酵素に特異的に働く阻害剤を保持してもよい。該阻害剤により該酵素の活性を阻害することにより該酵素を除去したのと同じ効果がある。
例えば、酵素免疫測定法において、検出に利用する酵素(標識酵素)が検体内にも存在する場合、内因性の酵素が反応の検出を著しく阻害する場合がある。特開平1−237455号公報、特開平1−321360号公報、特開平1−321361号公報に記載されているような枯草菌のアミラーゼを標識酵素を使用する酵素免疫測定法の場合、血清中に存在するアミラーゼが検出の精度を低下させることがしばしばある。このような現象をふせぐため、血清中のアミラーゼに特異的な阻害剤を検体と反応させることにより、内因性のアミラーゼの影響を除去できる。
【0100】
また、内因性物質が酵素基質である場合には、内因性物質を除去する要素は、酵素を保持して酵素基質を該酵素により分解することができる。また、内因性物質を除去する要素は、抗体等の特異的吸着物質を保持して酵素基質を除去することができる。
例えば、血清中に存在するアスコルビン酸(及びその誘導体)は、分析要素の酸化還元発色系に著しく影響を与えることがある。このような場合、予め内因性のアスコルビン酸を除去する必要がある。アスコルビン酸の除去には、主にアスコルビン酸酸化酵素を使用するが、また、特開平9-089867号公報、特開平07-303497号公報、特開平11-309466号公報等に記載の方法が利用できる。
【0101】
内因性物質を除去する要素は、該内因性物質そのものまたはその活性を、除去する試薬を含有している必要がある。このような試薬は、前処理要素に直接固定化されていてもいいし、また乾燥状態で含有されていてもよい。また、別の好ましい例としては、微粒子に担持した後に前処理要素内に含有させてもよい。
【0102】
酵素を分析チップ内の前処理要素へ固定するのは、特に限定なく、公知の技術を用いることができる。例えば、{タンパク質の分解}の項において前記したのと同じに行うことができる。ビーズや微粒子に担持することも好ましい。
【0103】
[抗原抗体反応]
本発明で言う前処理の更に別の具体例として、抗原抗体反応を挙げることができる。検体中の成分を分析する際に、その成分が抗原抗体反応における抗原である場合、抗体である場合の各々に応じて分析手段が異なってくるが、どちらの場合であっても分析することができる。
検体中において、分析しようとする成分が抗原である場合、抗体を担持させた微粒子・メッシュ・ピラー・多孔質体などの物質を前処理要素に固定する、あるいは抗体を前処理要素部材に直接担持させるなどして、抗原を前処理要素内に捕捉して、捕捉できなかった抗原の量を分析する、あるいは後の工程で捕捉した抗原を前処理要素内から除去することで捕捉した抗原の量を分析することができる。また、前処理要素に抗体−酵素複合体を担持させて、検体中の抗原の量を酵素活性に変換して求める方法を用いてもよい。また、前処理要素に抗原あるいは抗原アナローグ(抗原類似物質)−酵素複合体を担持させて、抗原を含む液と検体を混合させたものを前処理要素に導入することにより、検体中の抗原の量を酵素活性に変換して求める方法を用いてもよい。
これとは逆に、検体中において、分析しようとする成分が抗体である場合、前述の抗原と抗体を逆にした前処理要素とすることで、検体中の抗体の量を求めることができる。
【0104】
[多層乾式分析要素]
本発明では、一体化された分析チップの検出系に多層乾式分析要素を使用する。多層乾式分析要素は、検体中の成分を検出するための試薬を含む。乾式分析要素は、いわゆるドライケミストリーを使用した分析要素のことである。本発明では、一体化された分析チップの検出系に、多層乾式分析要素を使用することにより、試薬が乾燥状態で安定であること、検体の水分だけで反応が進行することによって、迅速に検出が可能となる。
【0105】
本発明でいう多層乾式分析要素とは、検体中の被測定成分の定性・定量分析に必要な全てのまたはその一部分の試薬を1層以上の層に組み込んだ乾式分析要素のことをいう。いわゆるドライケミストリーを使用した分析要素である。具体的には、このような多層乾式分析要素の例は、富士フイルム研究報告、第40号(富士写真フイルム株式会 社、1995年発行)p.83や、臨床病理、臨時増刊、特集第106号、ドライケミストリー・簡易検査の新たなる展開(臨床病理刊行会、1997年発行) 等に記載されているものをあげることができる。
【0106】
上記した多層乾式分析要素は、通常少なくとも一つの機能層を含む。機能層の数は一つ以上であれば特に限定されず、1層でもよいし、2層以上の複数の層とすることもできる。
【0107】
機能層の具体例としては、展開層、展開層と展開層以外の機能層とを接着する接着層、液状試薬を吸水する吸水層、化学反応により生成した色素の拡散を防止する媒染層、ガスを選択的に透過させるガス透過層、層間での物質移動を抑制・促進させる中間層、反射測光を安定に行うための光遮蔽層、内因性色素の影響を抑制する色遮蔽層、分析対象物と反
応する試薬を含む試薬層、発色剤を含む発色層などが挙げられ、これらは必要に応じて適宜選択することができる。
【0108】
多層乾式分析要素の一例としては、例えば、支持体の上には、場合によっては下塗層等の他の層を介して、機能層として親水性ポリマー層を設けることができる。親水性ポリマー層としては、例えば、無孔性、吸水性かつ水浸透性の層であり、基本的に親水性ポリマーのみなる吸水層、親水性ポリマーをバインダーとし発色反応に直接関与する発色試薬の一部又は全部を含む試薬層、及び親水性ポリマー中に発色色素を固定し不動にする成分(例:媒染剤)を含有する検出層などを設けることができる。
【0109】
(展開層)
多層乾式分析要素の展開層はその上側表面(支持体から遠い側の表面)に点着供給された水性液体試料(例、血液(全血、血漿、血清)、リンパ液、唾液、髄液、膣液、尿、飲料水、ジュース、酒類、川水、工場排水等) を水性液体試料中に含有されている成分を実質的に偏在させることなしに横方向に拡げ単位面積当りほぼ一定容量の割合で親水性ポリマーを含む吸水性の試薬層又は吸水層に供給する作用(展開作用、展延作用、又はメータリング作用といわれる)をする層である。
多孔性の展開層が好ましく、例えば、特開昭49-53888等に記載のメンブランフィルタに代表される非繊維性等方的微多孔質媒体層、特開昭55-90859等に記載のポリマーミクロビーズが水不膨潤性の接着剤で点接触状に接着されてなる連続空隙含有三次元格子粒状構造物層に代表される非繊維性多孔性展開層、特開昭55-164356、特開昭57-66359等に記載の織物布地からなる多孔性展開層、特開昭60-222769等に記載の編物布地からなる多孔性展開層等がある。
【0110】
(試薬層)
試薬層は水性液体中の被検成分と反応して光学的に検出可能な変化を生じる試薬組成物の少なくとも一部が親水性ポリマーバインダー中に実質的に一様に分散されている吸水性で水浸透性の層である。この試薬層には指示薬層、発色層なども含まれる。
【0111】
試薬層のバインダーとして用いることができる親水性ポリマーは、一般には水吸収時の膨潤率が30℃で約150%から約2000%、好ましくは約250%から約1500%の範囲の天然または合成親水性ポリマーである。そのような親水性ポリマーの例としては、特開昭60−108753号公報等に開示されているゼラチン(例、酸処理ゼラチン、脱イオンゼラチン等)、ゼラチン誘導体(例、フタル化ゼラチン、ヒドロキシアクリレートグラフトゼラチン等)、アガロース、プルラン、プルラン誘導体、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等をあげることができる。
【0112】
試薬層は架橋剤を用いて適宜に架橋硬化された層とすることができる。架橋剤の例として、例えばゼラチンに対する1,2−ビス(ビニルスルホニルアセトアミド)エタン、ビス(ビニルスルホニルメチル)エーテル等の公知のビニルスルホン系架橋剤、アルデヒド等、メタリルアルコールコポリマーに対するアルデヒド、2個のグリシジル基含有エポキシ化合物等がある。
【0113】
試薬層の乾燥時の厚さは約1μmから約100μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは約3μmから約30μmの範囲である。また試薬層は実質的に透明であることが好ましい。
【0114】
多層乾式分析要素の試薬層やその他の層に含める試薬としては、被験物質に応じてその検出に適した試薬を選択することができる。
【0115】
(光遮蔽層)
前記試薬層の上に必要に応じて光遮蔽層を設けることができる。光遮蔽層は、光吸収性または光反射性(これらを合わせて光遮蔽性という。)を有する微粒子が少量の被膜形成能を有する親水性ポリマーバインダーに分散保持されている水透過性または水浸透性の層である。光遮蔽層は試薬層にて発生した検出可能な変化(色変化、発色等)を光透過性を有する支持体側から反射測光する際に、展開層に点着供給された水性液体の色、特に試料が全血である場合のヘモグロビンの赤色等、を遮蔽するとともに光反射層または背景層としても機能する。
【0116】
光反射性を有する微粒子の例としては、二酸化チタン微粒子(ルチル型、アナターゼ型またはブルカイト型の粒子径が約0.1μmから約1.2μmの微結晶粒子等)、硫酸バリウム微粒子、アルミニウム微粒子または微小フレーク等を挙げることができ、光吸収性微粒子の例としては、カーボンブラック、ガスブラック、カーボンミクロビーズ等を挙げることができ、これらのうちでは二酸化チタン微粒子、硫酸バリウム微粒子が好ましい。特に好ましいのは、アナターゼ型二酸化チタン微粒子である。
【0117】
被膜形成能を有する親水性ポリマーバインダーの例としては、前述の試薬層の製造に用いられる親水性ポリマーと同様の親水性ポリマーのほかに、弱親水性の再生セルロース、セルロースアセテート等を挙げることができ、これらのうちではゼラチン、ゼラチン誘導体、ポリアクリルアミド等が好ましい。なお、ゼラチン、ゼラチン誘導体は公知の硬化剤(架橋剤)を混合して用いることができる。
【0118】
光遮蔽層は、光遮蔽性微粒子と親水性ポリマーとの水性分散液を公知の方法により試薬層の上に塗布し乾燥することにより設けることができる。また光遮蔽層を設ける代りに、前述の展開層中に光遮蔽性微粒子を含有させてもよい。
【0119】
(接着層)
試薬層の上に、場合によっては光遮蔽層等の層を介して、展開層を接着し積層するために接着層を設けてもよい。
【0120】
接着層は水で湿潤しているとき、または水を含んで膨潤しているときに展開層を接着することができ、これにより各層を一体化できるような親水性ポリマーからなることが好ましい。接着層の製造に用いることができる親水性ポリマーの例としては、試薬層の製造に用いられる親水性ポリマーと同様な親水性ポリマーがあげられる。これらのうちではゼラチン、ゼラチン誘導体、ポリアクリルアミド等が好ましい。
接着層の乾燥膜厚は一般に約0.5μmから約20μm、好ましくは約1μmから約10μmの範囲である。
【0121】
なお、接着層は試薬層上以外にも、他の層間の接着力を向上させるため所望の層上に設けてもよい。接着層は親水性ポリマーと、必要によって加えられる界面活性剤等を含む水溶液を公知の方法で、支持体や試薬層等の上に塗布する方法などにより設けることができる。
【0122】
(吸水層)
多層乾式分析要素には、支持体と試薬層の間に吸水層を設けることができる。吸水層は水を吸収して膨潤する親水性ポリマーを主成分とする層で、吸水層の界面に到達または浸透した水性液体試料の水を吸収できる層であり、特に検体として全血試料を用いる場合には水性液体成分である血漿の試薬層への浸透を促進する作用を有する。吸水層に用いられる親水性ポリマーは前述の試薬層に使用されるもののなかから選択することができる。吸水層には一般的にはゼラチンまたはゼラチン誘導体、ポリアクリルアミド、ポリビニルア
ルコール、特に前述のゼラチン又は脱イオンゼラチンが好ましく、試薬層と同じ前述のゼラチンが最も好ましい。吸水層の乾燥時の厚さは約3μmから約100μm、好ましくは約5μmから約30μmの範囲、被覆量では約3g/m2から約100g/m2、好ましくは約5g/m2から約30g/m2の範囲である。吸水層には後述するpH緩衝剤、公知の塩基性ポリマー等を含有させて使用時(分析操作実施時)のpHを調節することができる。さらに吸水層には公知の媒染剤、ポリマー媒染剤等を含有させることができる。
【0123】
(検出層)
検出層は、一般に、被検成分の存在下で生成した色素等が拡散し、光透過性支持体を通して光学的に検出され得る層で、親水性ポリマーにより構成することができる。媒染剤、例えばアニオン性色素に対してカチオン性ポリマーを、含んでもよい。前述の吸水層は、一般に、被検成分の存在下で生成する色素が実質的に拡散しないような層を言い、この点で検出層とは区別される。
【0124】
多層乾式分析要素は、公知の方法により調製、作製することができ、一辺約1mmから約30mmの正方形またはほぼ同サイズの円形等の小片に裁断して用いることができるが、必要に応じてさらに小さくすることも可能である。
【0125】
このような多層乾式分析要素はすでに多数開発・商品化されており、富士ドライケム(富士写真フィルム(株)製)などはその1例である。本発明においては、このような多層乾式分析要素そのものを使用する。またはその一部分を使用することもできる。
【0126】
上記多層乾式分析要素は、(3)の流路の少なくとも一つに接触していれば、該多層乾式分析要素と流路とがつながっている形態でも、該多層乾式分析要素が流路内に組み込まれている形態でもよく、また多層乾式分析要素を複数用いる場合には、流路でつながれた1箇所にまとめても、各分析要素を別々に配列してもよい。
多層乾式分析要素は、その最上層に血液またはその成分を水平方向に展開するいわゆる展開層を有することが多い。しかし、本発明においては、このような展開層は必ずしも必要ではない。
【0127】
[流路]
本発明の分析チップの第一の態様は、(2)多層乾式分析要素と(1)前処理要素をつなぐ(3)流路を含む。流路の幅は必要に応じて適宜広くすることも狭くすることもできる。検体量が少ない場合は、マイクロ流路であることが望ましい。マイクロ流路は、本明細書において、等価直径3mm以下の流路を言う。
本発明でいう等価直径(equivalent diameter)は、相当(直)径とも呼ばれ、機械工学の分野で一般的に用いられている用語である。任意断面形状の配管(本発明では流路に当たる。)に対し等価な円管を想定するとき、その等価円管の直径を等価直径といい、deq:等価直径は、A:配管の断面積、p:配管のぬれぶち長さ(周長)を用いて、deq=4A/pと定義される。円管に適用した場合、この等価直径は円管直径に一致する。等価直径は等価円管のデータを基に、その配管の流動あるいは熱伝達特性を推定するのに用いられ、現象の空間的スケール(代表的長さ)を表す。等価直径は、一辺aの正四角形管ではdeq=4a2/4a=a、路高さhの平行平板間の流れではdeq=2hとなる。これらの詳細は「機械工学事典」((社)日本機械学会編1997年、丸善(株))に記載されている。
【0128】
本発明に用いられるマイクロ流路の等価直径は3mm以下であるが、好ましくは10〜1000μmであり、特に好ましくは20〜500μmである。
【0129】
また流路の長さには特に制限はないが、好ましくは1mm〜10000mmであり、特
に好ましくは5mm〜100mmである。
【0130】
本発明に用いられる流路の幅は、1〜3000μmであることが好ましく、より好ましくは10〜2000μmであり、さらに好ましくは50〜1000μm である。流路の幅が上記範囲であると、血液などの検体が、流路の壁から抵抗を受けて流動性が低下することが少なく、かつ、検体の量を少量にとどめることが できるため、好ましい。
【0131】
流路は一体型分析チップに配置する要素の数に合わせて、一つのみでも、二つ以上に分岐していてもいずれでもよい。また、直線状、曲線状など、いずれの形態をとることも可能であるが、直線状であることが好ましい。
【0132】
検体は流路から多層乾式分析要素まで移動する。流路内の検体、すなわち流体を扱う方式として、連続流動方式、液滴(液体プラグ)方式、駆動方式等、あるいは毛細管現象の利用、圧力の利用の方式を用いることが好ましい。
【0133】
[その他の要素]
本発明における分析チップは、前述のとおり、全血などの検体を注入する要素を有していてもよい。また、この要素は、前処理要素や、流路とつながっていても、また組込まれていてもよい。
全血を注入する要素とは、上記分析チップに全血を注入することができるような導入路のことであり、全血を注入することが可能であれば、どのような形態でもよい。全血を注入する要素は、着脱可能な採血要素を有していてもよく、該要素は針の形状であってもよい。上記導入路と該採血針とが一体化していてもよい。
導入路と採血針の接合方法は、分析チップを組み立てる際に使用できる接合技術としてあげたのと同じ方法を使用できる。
本発明でいう採血針とは、血管より血液を採取し、本発明の分析チップに導入するものである。例えば、通常の注射針のようなものであってもよいが、微量採血という点からみて小型のものであってもよい。また、針の先端を細くすることにより、採血時の痛みを軽減するのも好ましい。また、前述の微細加工技術を利用して針を作成することもできる。
採血針を構成する素材は、通常は金属であり、ステンレス類、ニッケル−チタン合金、タングステン類等のようないわゆる注射針として使用されるような素材を挙げることができる。また、カートリッジを構成する素材として前述したプラスチック類などの樹脂を使用することも可能である。具体的には、PCO、PS、PC、PMMA、PE、PET、PP、PDMS等が挙げられる。
【0134】
本発明の分析チップの前処理要素、多層乾式分析要素及び流路の配置は、例えば、図4に示す前処理要素として血球分離要素を用いた概念図で説明することができるが、これに限らない。
また、本発明の分析チップの断面は、例えば、図5に示す模式図のようになるが、これに限定されるものではない。
【0135】
[検体]
本発明の分析チップが対象とする被検物質は特に限定されず、任意の液体試料(例えば、全血、血漿、血清、リンパ液、尿、唾液、髄液、膣液などの体液;あるいは飲料水、酒類、河川水、工場廃水等)中の特定成分を分析することができる。例えば、アルブミン(ALB)、グルコース、尿素、ピリルビン、コレステロール、タンパク質、酵素(例えば、乳酸脱水素酵素、CPK(クレアチンキナーゼ)、ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)、AST(アスパルテートアミノトランスフェラーゼ)、GGT(γ−グルタミルトランスペプチダーゼ)等の血中酵素)などを分析することができる。
【0136】
本発明の分析チップには、例えば0.1μl〜30μl、好ましくは1〜10μlの範囲の検体である、水性液体試料液を、注入又は点着する。検体は、前処理要素、多層乾式分析要素の順に、又は流路を設けた場合には、前処理要素、流路、多層乾式分析要素の順に、通過させ、検体に含まれる余分の液体残渣は、必要に応じて多層乾式分析要素に設けられた吸水層に吸収される。検体の移動は、前記[流路]の項において記載した方式が利用される。各要素の通過は、それぞれ別の方式を用いても一つの方式によってもよい。通過後、分析チップを約20℃〜約45℃の範囲の一定温度で、好ましくは約30℃〜約40℃の範囲内の一定温度で1〜10分間インキュベーションする。多層乾式分析要素内の発色又は変色を光透過性支持体側から反射測光し、予め作成した検量線を用いて比色測定法の原理により検体中の被験物質の量を求めることができる。また必要に応じて透過測光することも可能である。
【0137】
[測光]
本発明の分析チップはエリアセンサによっても測定できる。
以下、図6を用いて、エリアセンサを用いた場合の測定装置の概略構成を示す。
測定装置100は、測定対象となる検体を設置する分析チップ設置部11と、検体に光を照射するハロゲンランプ等の発光素子を用いた光源12と、光源12から照射される光の強度を変化させる光可変部13と、光源12から照射される光の波長を変化させる波長可変部14と、光源12から照射される光を平行化及び集光するレンズ15a及び5bと、検体からの反射光を集光するレンズ15cと、レンズ15cで集光された反射光を受光する受光素子としてのエリアセンサ16と、各部を制御すると共に光可変部13の状態とエリアセンサ16で受光した光の光量とに応じた測定結果を求めてディスプレイ等に出力するコンピュータ17とを備える。尚、ここでは、コンピュータ17が各部を制御する構成としているが、各部を統括制御するコンピュータを別に用意しておいても良い。
【0138】
分析チップ設置部11には、分析チップが設置される。実際に測定に供するのは、、分析チップの中の、検体と反応した、多層乾式分析要素である。
【0139】
光可変部13は、穴の開いたステンレス等の金属メッシュの板材及びNDフィルタ等の減光フィルタを、光源12と検体との間に機械的に出し入れすることで、光源12から検体に照射される光の強度を変化させるものである。初期設定では、この減光フィルタが、光源12と検体との間に挿入された状態となっている。尚、以下では、金属メッシュをステンレスメッシュとする。又、穴の開いたステンレスメッシュの板材及びNDフィルタ等の減光フィルタを、手動で出し入れできるようにしても良い。
【0140】
波長可変部14は、複数種類の干渉フィルタのいずれかを、光源12と検体との間に機械的に出し入れすることで、光源12から検体に照射される光の波長を変化させるものである。尚、本実施形態では、波長可変部14を光可変部13と分析チップ設置部11との間に設置しているが、光源12と光可変部13との間に設置しても良い。又、複数種類の干渉フィルタを手動で出し入れできるようにしても良い。
【0141】
エリアセンサ16は、CCD等の固体撮像素子であり、分析チップ設置部11に設置された多層乾式分析要素中の試薬と血液等の検体とが反応した際に光源12から照射される光によって反射する光を受光し、受光した光を電気信号に変換してコンピュータ17に出力するものである。エリアセンサ16は、多層乾式分析要素から反射する光を面単位で受光可能である。このため、各試薬のエリアを同時に、すなわち複数項目について測定が可能である。
【0142】
コンピュータ17は、エリアセンサ16から出力された受光量に応じた電気信号を、予め内蔵するメモリ等に記憶している検量線のデータに基づいて光学濃度値に変換し、その
光学濃度値から検体に含まれる各種成分の含有量等を求め、ディスプレイ等に出力するものである。複数項目を測定する場合、コンピュータ17は、エリアセンサ16から出力された受光量に応じた電気信号を、多層乾式分析要素の複数エリア毎に抽出し、検体に含まれる成分の含有量を複数エリア毎に求める。又、コンピュータ17は、エリアセンサ16で受光した検体からの反射光量や検体と反応させる試薬の種類に応じて、光可変部13と波長可変部14を制御し、光源12からの光の光量を変化させたり、その波長を変化させたりする。
【0143】
以上のような構成の測定装置100では、検体からの反射光量が、エリアセンサ16のダイナミックレンジ内に入らない程少ない場合に、光可変部13が、光源12と検体との間からステンレスメッシュの板材又はNDフィルタを取り外し、光源12から照射される光の強度を強くする。これにより、検体からの反射光量が多くなり、その反射光量がエリアセンサ16のダイナミックレンジ内に入るようになる。このため、エリアセンサ16のダイナミックレンジが狭くても、反射光を精度良く受光することができ、検体に含まれる成分の含有量の測定精度が向上する。
【0144】
又、例えばA、B、C、Dという4種類の試薬を含んだ多層乾式分析要素を用いる場合、測定装置100では、A〜Dの試薬を含んだ各エリアからの反射光量を求め、その反射光量のいずれかがエリアセンサ16のダイナミックレンジ内に入らない場合、光可変部13が、ステンレスメッシュの板材又はNDフィルタの挿入及び取り出しを一定時間おきに行う。又、各エリアから反射する光の波長はそれぞれ異なるため、波長可変部14がその波長に合わせて複数の干渉フィルタを切替える。
【0145】
例えば、AとBを含んだエリアからの反射光量がエリアセンサ16のダイナミックレンジ内に入らない程少なく、CとDを含んだエリアからの反射光量がエリアセンサ16のダイナミックレンジ内に入り、A〜Dの試薬が血液と反応した際に発光する光の波長がそれぞれ異なる場合について説明する。
【0146】
この場合、測定装置100では、光源12が多層乾式分析要素に光を照射し、スライドの各エリアからの反射光をエリアセンサ16で受光し、各エリアからの反射光量がエリアセンサ16のダイナミックレンジ内に入っているかどうかをコンピュータ17により判定する。ここではAとBを含んだエリアからの反射光量がエリアセンサ16のダイナミックレンジ内に入らない程少ないため、光源12から一定時間光が照射された後、コンピュータ17は光可変部13を制御し、光源12と検体との間からNDフィルタを取り外させる。この状態で一定時間光を照射した後、コンピュータ17は光可変部13を制御し、光源12と検体との間にNDフィルタを挿入させる。この動作を繰り返すことで、複数種類の測定成分を一つの多項目測定乾式分析要素で精度良く測定することができる。
【0147】
コンピュータ17は、光可変部13の制御を行う一方で、A〜Dの試薬の種類に応じて波長可変部14を制御し、4種類の干渉フィルタを順番に切替えさせる。波長可変部14は、光可変部13がNDフィルタを取り外している間に、試薬Aに対応する干渉フィルタと試薬Bに対応する干渉フィルタとを交互に切替え、光可変部13がNDフィルタを挿入している間に、試薬Cに対応する干渉フィルタと試薬Dに対応する干渉フィルタとを交互に切替えるように動作する。これにより、検体に含まれる複数種類の成分から発光される光の波長がそれぞれ異なる場合でも、検体に含まれる複数種類の測定成分の含有量を一つの多項目測定乾式分析要素で測定することができる。
【0148】
測定装置100は、光源12からの光の強度を変えることで、ダイナミックレンジの狭いCCDであっても高精度な測定が可能となっているが、光の強度を変えずに、コンピュータ17の制御によってCCDにおける露光時間(反射光の受光時間)を変化させること
でも、上記と同様に高精度な測定が可能である。
【0149】
尚、本実施形態では、光源12から検体に光を照射し、その反射光から検体に含まれる成分の含有量を求めているが、検体を透過した透過光から検体に含まれる成分の含有量を求めても良い。
【0150】
又、本実施形態では、検体からの反射光をCCD等のエリアセンサを用いて受光しているが、エリアセンサに限らず、ラインセンサを用いても構わない。
【0151】
又、本実施形態で使用するCCDとしては、フォトダイオード等の受光部が半導体基板上に縦横に所定間隔で配置され、隣接する各受光部列に含まれる受光部が、互いに、受光部列内での受光部同士のピッチの約1/2列方向にずれて配置された、いわゆるハニカム型のCCDを用いることが望ましい。
【0152】
上記の説明では、測定装置100が、検体からの反射光量に応じてリアルタイムに光の強度を変化させているが、検体に含まれる測定成分に応じて予め設定されたシーケンスで、その測定成分の含有量の測定を行うようにしても良い。この場合の動作を以下に説明する。
【0153】
測定装置100は、分析チップ設置部11に分析チップが設置され、測定項目がセットされると、その測定項目に応じたパターンで測定を開始する。まず、コンピュータ17が、測定に利用する光の強度を複数種類の強度の中から選択し、選択した強度の光を検体に照射させる。エリアセンサ16が、検体から反射した反射光を受光すると、コンピュータ17は、エリアセンサ16で受光された反射光の光量と上記選択した光の強度とに応じた測定結果を出力する。この一連の動作により、検体に含まれる測定成分の測定を精度良く行うことが可能である。
【0154】
光の強度を変えずにCCDの露光時間を変化させる場合、測定装置100は、分析チップ設置部11に分析チップが設置され、測定項目がセットされると、その測定項目に応じたパターンで測定を開始する。まず、コンピュータ17が、検体に光を照射させる。そして、エリアセンサ16が、複数種類の露光時間の中からコンピュータ17によって選択された露光時間で、検体から反射した反射光を受光する。最後に、コンピュータ17は、エリアセンサ16で受光された反射光の光量と該選択した露光時間とに応じた測定結果を出力する。この一連の動作により、検体に含まれる測定成分の測定を精度良く行うことが可能である。
【0155】
測定装置100は、以上に述べてきた光源12から分析チップの多層乾式分析要素に光を照射して、その反射光あるいは透過光から検体に含まれる成分の含有量を求めることに限定することはなく、光源12から多層乾式分析要素に光を照射したときに多層乾式分析要素から発する蛍光などの光を検出することによって検体に含まれる成分の含有量を求めてもよく、光可変部13で光源12の光を完全に遮断する、あるいは光源12を用いないことで多層乾式分析要素に全く光が当たらない状態にして多層乾式分析要素から発する化学発光などの発光による光を検出することによって検体に含まれる成分の含有量を求めてもよい。
【0156】
測定操作は特開昭60−125543号公報、特開昭60−220862号公報、特開昭61−294367号公報、特開昭58−161867号公報(対応米国特許4,424,191)などに記載の化学分析装置により極めて容易な操作で高精度の定量分析を実施できる。なお、目的や必要精度によっては目視により発色の度合いを判定して、半定量的な測定を行ってもよい。
【0157】
本発明の分析チップは、分析を行うまでは乾燥状態で貯蔵・保管される。本発明の分析チップは、試薬を用時調製する必要がなく、また一般に乾燥状態の方が試薬の安定性が高いことから、試薬溶液を用時調製しなければならないいわゆる湿式法より簡便性、迅速性に優れている。また、微量の液体試料で、精度の高い検査を迅速に行うことができる検査方法としても優れている。さらに本発明の分析チップは、煩雑な前処理を必要としない。
【実施例】
【0158】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0159】
作製例1:PDMS凹型作成
シリコンウエファー上に厚膜フォトレジストのSU−8をスピンコートして膜厚100μmとした。90℃で1時間予備加熱した後、図1に相応する流路パターン(1)を描いてあるマスクを通してUV光を照射し、90℃1時間で光照射部分を硬化させた。未硬化部分をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)により溶解除去、水洗したのち乾燥し、シリコンウエファー/SU8凸型として使用した。
【0160】
この、シリコンウエファー凸型上に、PDMS(デュポンSylgard/硬化液=10/1 混合液)を流し込み、80℃で2時間硬化させた後シリコンウエファー凸型より静かに剥がしとり、図1に示すPDMS凹型パターン(1)を作成した。さらに、生研トレパン(カイインダストリー製)により、検体注入口31及び空気抜き35を(直径1mm)を、作成した(パターン(3))。
【0161】
次に、シリコンウエファー上に厚さ0.5mmのPETベースを瞬間接着剤ではりつけ図1に相応する流路パターン(2)の凸型を作成した。前述した方法で、PDMSを流しこみ、PDMS凹型パターン(2)を作成した。
【0162】
調製例2:α−アミラーゼ/抗HbA1CFab'の調整
(A)GMB化アミラーゼの調製
α−アミラーゼに以下のようにしてマレイミド基を導入した。
5mg/mLの枯草菌α−アミラーゼ溶液(0.1 mol/L グリセロリン酸緩衝,pH 7.0) の1mLに、GMBS( N-(γ-maleimidobutyryloxy)succinimide; 同仁化学製)の100mg/mL 溶液(DMF) 100μL を加えて、室温で1時間反応させた。この反応液をセファデックスG−25のカラムでゲル濾過にかけ、0.1 mol/L グリセロ燐酸緩衝液(pH 7.0)で溶出し、素通り分画を分取、N-(γ-マレイミドブチリロキシ)アミド化アミラーゼ(GMB化アミラーゼ)を得た。得られたGMB化アミラーゼ溶液の濃度は1.35 mg/mLであった。
【0163】
(B)抗ヒトHbA1Cモノクローナル抗体の調製
ヒトHbA1Cに対するモノクローナル抗体IgGは、マウスに免疫して得られた免疫細胞(脾臓細胞)をマウスミエローマ細胞と融合し、クローニング後得られた抗体であり、常法により得たものである。すなわち、1mmol/L KCN(pH7.45)に溶解した7μgの天然ヒトヘモグロビンA1Cと、143μLのRPMI−1640培地(1g/L 炭酸ナトリウム, 600mg/L L-グルタミン、 10mmol/L HEPESを含有: pH6.8)及び200μLのフロイント完全アジュバントを混合し、これをマウスに皮下注射により免疫した。2週間ごとに追加免疫を行い、最後にマウス脾臓からBリンパ球を採取して、これをマウスミエローマ細胞と融合し、クローン化した。得られたクローンからヒトHbA1Cと特異的に反応し、他のヘモグロビン・サブクラスと実質的にまったく交差反応しない抗体を産生する細胞系を選別した。得られた抗体産生細胞を培養し、抗体精製によりヒトHbA1Cに対するモノクローナル特異抗体、すなわち抗ヒトHbA1c・マウスIgGを得た。
【0164】
(C)抗ヒトHbA1c・IgG Fab' の調製
得られた抗ヒトHbA1CマウスIgG 20mg を、10 mLの0.1 mol/L 酢酸緩衝液(pH5.5) に溶解し、これに活性化パパイン600μgを加え37℃で2時間攪拌した。この反応液を、予め0.1 mol/L 燐酸緩衝液(pH 6.0; 1 mmol/L EDTA含有)で平衡化したスーパーデックス−200 ゲルカラムにアプライし、同燐酸緩衝液で溶出した。分子量10万付近に溶出したピーク部分を分取し、抗ヒトHbA1C・マウスIgG F(ab')2を得た。得られた抗ヒトHbA1C・IgG F(ab')2 10 mg を含む0.1 mol/L 燐酸緩衝液(pH 6.0)2mLに、10 mg/mLの2−メルカプトエチルアミン塩酸塩水溶液を200μL加え、37℃で90分間攪拌した。この反応液を予め0.1 mol/L 燐酸緩衝液(pH 6.0)で平衡化したセファデックスG−25でゲル濾過し素通り分画を分取して、抗ヒトHbA1C・IgG Fab'(以下単にFab'という)を得た。
【0165】
(D)α−アミラーゼ/Fab' 結合物の調製
上記(C)で得た抗HbA1C・IgG Fab'(Fab')の1.5 mg/mL 溶液6.5 mL に、(A)で調製したGMB化アミラーゼ2mgを加えて4℃で一晩反応させた。この反応液を、予め20 mmol/L グリセロ燐酸(pH7.0; 10 mmol/L CaCl2含有)で平衡化したスーパーデックス-200にゲル濾過して分子量30万以上の分画を集め、目的の酵素標識抗体(α−アミラーゼ/Fab'結合物)を得た。
【0166】
作製例2:HbA1C定量分析用乾式分析要素の作成
ゼラチン下塗層が設けられている厚さ180μmの無色透明ポリエチレンテレフタレート(PET)シート(支持体)上に下記の被覆量になるように架橋剤含有試薬溶液を塗布し、乾燥して試薬層を設けた。
【0167】
(架橋剤含有試薬溶液)
アルカリ処理ゼラチン 14.5 g/m2
ノニルフェノキシポリエトキシエタノール 0.2 g/m2
(オキシエチレン単位平均 9〜10含有)
グルコースオキシダーゼ 5000 IU/m2
ペルオキシダーゼ 15000 IU/m2
グルコアミラーゼ 5000 IU/m2
2-(4-ヒドロキシ-3,5-ジメトキシフェニル-4-[4-(ジメチルアミノ)
フェニル]-5-フェネチルイミダゾール(ロイコ色素)酢酸塩 0.38 g/m2
ビス[(ビニルスルホニルメチルカルボニル)アミノ]メタン 0.1 g/m2
【0168】
この試薬層の上に下記の被覆量になるように接着層水溶液を塗布、これを乾燥して接着層を設けた。
【0169】
(接着層水溶液)
アルカリ処理ゼラチン 14.5 g/m2
ノニルフェノキシポリエトキシエタノール 0.2 g/m2
(オキシエチレン単位平均 9〜10含有)
【0170】
次いで、接着層の表面に下記の被覆量になるように下記試薬含有水溶液を塗布し、ゼラチン層を膨潤させ、その上に50デニール相当のPET 紡績糸36ゲージ編みした厚さ約250 μmのトリコット編物布地をほぼ一様に軽く圧力をかけてラミネートして多孔性展開層(編物布地層)を設けた。
【0171】
(試薬含有水溶液)
ノニルフェノキシポリエトキシエタノール 0.2 g/m2
(オキシエチレン単位平均 9〜10含有)
ビス[(ビニルスルホニルメチル カルボニル)アミノ]メタン 0.1 g/m2
【0172】
次に、多孔性展開層の上から下記の被覆量になるように基質含有水溶液を塗布し、これを乾燥することにより、多孔性展開層(編物布地層)を基質層兼展開層とした。
【0173】
(基質含有水溶液)
メガファックF142D(大日本インキ製) 0.1 g/m2
(フッ素界面活性剤)
(オキシエチレン単位平均10含有)
カルボキシメチル化澱粉 5 g/m2
マンニトール 2 g/m2
アミラーゼ阻害剤 100万 U/m2
(富士レビオ製アミラーゼ阻害剤"I-1001C")
【0174】
次ぎに、その基質層兼展開層に、さらに調製例1で調製した酵素標識抗体(α−アミラーゼ/Fab' 結合物)を3mg/m2の被覆量となるようにしてエタノール溶液を塗布し含浸させ乾燥させて HbA1C分析用多層乾式分析要素(1)を作成した。
なおここで使用したアミラーゼ阻害剤"I-1001C"は、検体中に含まれることがある同種のアミラーゼに対する阻害剤であって、標識酵素として使用している枯草菌α−アミラーゼの酵素活性は阻害しないものである(特開平05-122112号公報参照)。
【0175】
実施例1:HbA1C定量用一体化分析チップの作成(図2)
【0176】
作製例2で作製した多層乾式分析要素(1)は、5mm×5mmに裁断し、
作製例1で作成したPDMS凹型パターン(2)に組込んだ。このPDMS凹型と、作製例1で作成したPDMS凹型パターン(3)(注入口穴つき)を貼り付け一体型分析チップの大枠を作成した。
【0177】
次ぎに、注入口31より、前処理液(0.1v/v%TritonX−100および2v/v% 2−ブタノールを含有する10mmol/Lトリス塩酸緩衝液pH7.5溶液)5μlを静かに注入し、一体型分析チップ1とした。前処理要素と、分析要素をつなぐ流路は細くかつ疎水的なので溶血試薬は分析要素内には入り込まない。(図2参照)
【0178】
性能評価実験1:一体型分析チップ1によるHbA1Cの測定(本発明の測定例)
(1)検量線の作成:
HbA1C溶液(13 mg/mL PBS; Exocell社製)20mmol/L Tris−HClpH7.5緩衝液で希釈して、HbA1C濃度1200 mg/dL〜75mg/dlの範囲で2倍づつ希釈した溶液を調製した。該希釈液0.2μlを一体型分析チップ1の注入口31より勢い良く注入し、前処理要素内の溶液を、分析要素上に供給し、37℃に保ちながら分光放射輝度計MCPD-2000(大塚電子株式会社)により650nmの反射濃度を測定し、2分後と10分後の反射ODの差(△OD2−10)を求めて検量線を作成した(図3)。
【0179】
(2)全血よりHbA1Cの測定:
人全血0.2μl(検体1)を一体型分析チップ1の注入口31より勢い良く注入し、前処理要素内の溶血液を、分析要素上に供給し、37℃に保ちながら分光放射輝度計MCPD-2000(大塚電子株式会社)により650nmの反射濃度を測定した、2分後と10分後の反射ODの差(△OD2−10)を求め、上記(1)で得られた検量線より、HbA1Cの濃度を算出したところ、720mg/dlであった。
【0180】
(3) 上記(2)の実験を6回行い、その再現性をもとめたところ、CV(変動係数)は3.5%であった。
【0181】
性能評価実験2:多層乾式分析要素によるHbA1Cの測定(比較例)
(1)検量線の作成:
作製例2の多層乾式分析要素1を15mm四方のチップに裁断し、特開昭57-63452号公報に記載のスライドの枠に収めて、比較例のHbA1C定量分析スライド(比較例のスライド1)とした。性能評価実験1の(1)と同様に、HbA1C溶液(13 mg/mL PBS; Exocell社製)20mmol/L Tris−HClpH7.5緩衝液で希釈して、HbA1C濃度1200 mg/dL〜75mg/dlの範囲で2倍づつ希釈した溶液を調製した。この希釈液0.4μlを、10μlの0.1v/v%TritonX−100および2%
2−ブタノールを含有する10mmol/Lトリス塩酸緩衝液pH7.5溶液と混合したのち、全量を比較例のスライド1に点着したのち、点着から2分後および10分後の反射光学濃度の差(ΔOD2−10)を求めて、検量線を作成した。
【0182】
(2)全血よりHbA1Cの測定
さらに、性能評価実験1で使用したものと同じ全血0.4μl(検体1:性能評価実験1と同じ)を、10μlの0.1v/v%TritonX−100および2v/v%2−ブタノールを含有する10mmol/Lトリス塩酸緩衝液pH7.5溶液と混合したのち、全量を比較例のスライド1に点着したのち、点着から2分後および10分後の反射光学濃度の差(ΔOD2−10)を求め、上記(1)で得られた検量線よりHbA1Cの濃度を算出したところ715 mg/dlであった。
【0183】
(3)上記(2)の実験を6回繰り返しその再現性をもとめたところ CVは4.5%であった。
【0184】
(性能評価実験1及び2の比較)
上記した性能評価実験1の結果より明らかなように、本発明の一体型分析チップは、実質的な前処理をすることなく、HbA1Cの測定が可能である。また、上記した性能評価実験1及び2の結果の比較から明らかなように、本発明の一体型分析チップを用いた場合は、同時再現性も良好であり、本発明の一体型分析チップの性能が良好であることが実証された。
【0185】
装置例1:測定装置の構成
図6に示す光学配置の測光系を用意した。各部材としては具体的に以下のとおり用意した。
光学系;倒立の実体顕微鏡。
CCD受光部での倍率は以下の2通りを用意。
0.33倍; CCD部分で33μm/ピクセル
1倍; CCD部分で10μm/ピクセル
光源12;林時計工業株式会社製のルミナーエース LA−150UX
干渉フィルタ14;625nm,540nm,505nmで各々単色化
減光フィルタ13;HOYA株式会社製のガラスフィルタ ND−25
およびステンレス板に孔をあけた自家製フィルタ
CCD16;SONY株式会社製の8ビット白黒カメラモジュール XC−7500
データ処理(画像処理)17;株式会社ニレコ製の画像処理装置 LUZEX−SE。
反射光学濃度を校正するための手段;富士機器工業株式会社製の標準濃度板(セラミック仕様)を以下の6種類用意。
標準濃度板;A00(反射光学濃度〜0.05)、
A05(同0.5)、
A10(同1.0)、
A15(同1.5)、
A20(同2.0)、
A30(同3.0)。
【0186】
実施例2
図7に示すポリスチレン樹脂(PS)製の約24mm×28mmのマイクロチップ40を用意し、このマイクロチップの下材47の幅2mm・長さ10mm・深さ2mmの流路44に赤血球捕捉・血漿抽出用のガラス繊維濾紙(ワットマン社製;GF/D)42aおよびポリスルホン多孔質膜(富士写真フイルム社製PSF)42bをポリスルホン多孔質膜が多層乾式分析要素43側となるように装填し、多層乾式分析要素43は、その配置部が幅5mm・長さ5mm・深さ2mmであり、多層乾式分析要素43としての富士ドライケム マウントスライドGLU−P及びTBIL−P(富士写真フイルム社製)を各々幅2mm・長さ4mmにカットしてGLU−Pが上に、TBIL−Pが下になるように装填し、下材47と上材46を両面テープを用いて接着して気密・水密を保つようにした。
次に上材のガラス繊維濾紙42a側の筒41にプレーン採血した全血を100μL挿入し、10〜20秒静置して全血をガラス繊維濾紙に展開させた後に、上材のガラス繊維濾紙側とは反対側の筒45にテルモシリンジを装着して僅かに吸引した。濾過により抽出された血漿がポリスルホン多孔質膜42bから漏れ、ドライケム マウントスライドに滴下され、ドライケム マウントスライドGLU−PおよびTBIL−P(以下、GLU−PおよびTBIL−Pスライドとも言う。)が徐々に発色を開始した(図8〜図10)。プレーン採血した全血が注入されてから血漿を抽出してマウントスライドに滴下するまでに要した時間は30秒であった。
このように、本発明の分析チップは、小型で、微量の全血から複数の分析項目について、簡便に、迅速に分析することができた。ここでは、多層乾式分析要素として、2項目分のドライケミストリー用試薬を使用したが、項目数を増加することができる。また、ここでは、発色から分析した。続いて、測光による分析を行った。
【0187】
GLU−PおよびTBIL−Pスライドの発色の様子を[装置例1]の光学系を用いて同時にCCDカメラで撮像し、LUZEX−SEを用いて得られた画像を処理し、GLU−PおよびTBIL−Pスライドの画像の中心の平均受光量を求めて光学濃度に換算し、検体中のグルコース及び総ビリルビン濃度を求めた。CCDカメラを用いて測定した結果が正しいかどうか比較するために、日立製作所製の自動臨床検査装置7170を用いて検体中のグルコース及び総ビリルビン濃度を求めた。結果を表1に示す。このとき、GLU−PおよびTBIL−Pスライドでは測定波長が異なるため、表2に示すように干渉フィルターの波長を5秒ごとに逐次変えて測光した。このように、本発明の分析チップは、測光による分析を行うこともできた。
【0188】
【表1】

【0189】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0190】
【図1】図1は、実施例1の流路パターンを示す。
【図2】図2は、実施例1の一体型分析チップを示す。
【図3】図3は、実施例1の一体化分析チップによるHbA1Cの測定のために作成した検量線を示す。
【0191】
【図4】本発明の分析チップにおける全血を注入する要素、血球分離要素、多層乾式分析要素及び流路の配置を示す概念図である。
【図5】本発明の分析チップにおける一実施形態を示す断面図である。
【図6】分析チップを測定に用いる場合の光学系の配置の一例の概略図である。
【図7】実施例2の態様の分析チップにおける一実施形態を示す概略図である。
【図8】実施例2の態様の分析チップにおける一実施形態を示す写真である。
【図9】実施例2の態様の分析チップにおける一実施形態において、全血を注入後の写真である。
【図10】実施例2の態様の分析チップにおける一実施形態において、全血を注入後、テルモシリンジにより吸引して顕色反応試薬が発色を始めたことを示す写真である。
【符号の説明】
【0192】
100 測定装置
11 分析チップ設置部
12 光源
13 光可変部(減光フィルタ)
14 波長可変部(干渉フィルタ)
15a、15b、15c レンズ
16 エリアセンサ(CCD)
17 コンピュータ(画像処理装置)
【0193】
1 全血を注入する要素
2 血球分離要素(前処理要素)(1)
3 血漿中の一つ以上の成分を分析することのできる一つ以上の多層乾式分析要素(2)
4 前記(1)と(2)をつなぐ一つ以上の流路(3)
【0194】
31 検体注入口
32 溶血試薬
33 多層乾式分析要素
34 流路
35 空気抜き
【0195】
40 マイクロチップ(分析チップ)
41 筒(注入口)
42a ガラス繊維濾紙
42b ポリスルホン多孔質膜
43 多層乾式分析要素
44 流路
45 筒
46 上材
47 下材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体中の一つ以上の成分を分析するための一体化された分析チップであって、
少なくとも
(1)検体の前処理をする一つ以上の前処理要素、
(2)前処理後の検体中の一つ以上の成分を分析する、一つ以上の多層乾式分析要素、及び
(3)前記前処理要素と前記多層乾式分析要素とをつなぐ一つ以上の流路を含むことを特徴とする分析チップ。
【請求項2】
検体中の一つ以上の成分を分析するための一体化された分析チップであって、
少なくとも
(1)検体の前処理をする一つ以上の前処理要素、及び
(2)前処理後の検体中の一つ以上の成分を分析する、一つ以上の多層乾式分析要素を含み、前記前処理要素と前記多層乾式分析要素とが分析チップ内で連結している、分析チップ。
【請求項3】
前処理が、血球分離、溶血、検体の希釈、タンパク質の分解、タンパク質の変性、内因性物質の除去、及び抗原抗体反応から選ばれる少なくとも一つである、請求項1又は2に記載の分析チップ。
【請求項4】
前処理要素が、血球分離要素であり、かつ該要素が、等価直径5μm以下でかつ長さが等価直径と等しいか或いはそれより長い非水溶性物質、または多孔質体を含有する、請求項1又は2に記載の分析チップ。
【請求項5】
前処理要素が、血球分離要素であり、かつ該要素が、ガラス繊維またはガラス繊維濾紙のいずれかを含有する、請求項1又は2に記載の分析チップ。
【請求項6】
前処理要素が、血球分離要素であり、かつ該要素が、ガラス繊維濾紙および微多孔性膜を含有する血液濾過ユニットを含む、請求項1又は2に記載の分析チップ。
【請求項7】
血球分離要素が、遠心力を利用する要素である、請求項4〜6のいずれかに記載の分析チップ。
【請求項8】
流路が、等価直径3mm以下のマイクロ流路である、請求項1および3〜7のいずれかに記載の分析チップ。
【請求項9】
前処理要素、多層乾式分析要素、及び流路の3要素、または
前処理要素及び多層乾式分析要素の2要素
が、一つのカートリッジに含有されて一体化された、請求項1〜8のいずれかに記載の分析チップ。
【請求項10】
前処理要素、及び流路のいずれかまたは両方が、微細加工技術を用いて基板の上またはその中に作られており、多層乾式分析要素が流路に接合されて一体化された、請求項1〜8のいずれかに記載の分析チップ。
【請求項11】
検体を、請求項1〜10のいずれかに記載の分析チップに含まれる、前処理要素、及び多層乾式分析要素の順に通過させる工程を含む、検体の分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−58280(P2006−58280A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−71398(P2005−71398)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】