説明

分析機器用標準操作手順書作成支援システム及び同システム用プログラム

【課題】 少ない労力で以て、直観的に理解しやすい標準操作手順書を作成するシステムを提供する。
【解決手段】 作業者が分析を実行する際の操作手順に従ってキー/マウス操作を行うと(S2)、その操作内容が終了の操作であるか否かが判定され(S3)、終了の操作でない場合には、対応情報を参照して操作内容に対応する識別番号が抽出され、その識別番号はリストの中に記録される(S4)。終了操作が為されるまでこれを繰り返して識別番号を追記し、終了操作を受けると、このリストに基づいてヘルプデータの対応項目を順に抽出し、標準操作手順書を作成する(S6)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光光度計、クロマトグラフ装置、質量分析装置などの分析機器で分析を実行する際にその操作のために使用される標準操作手順書(SOP)の作成を支援するためのシステム、及びそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、分光光度計、クロマトグラフ装置等の各種の分析機器では、その分析動作の制御やデータの処理に汎用のパーソナルコンピュータが用いられるようになっている。こうした分析機器では、そのコンピュータにインストールされた専用の制御ソフトウエアを実行することで構築される操作環境の上で、各種の分析条件の入力設定や分析開始・終了等の指示、或いはデータ処理条件の設定などが行える。それにより、高い操作性と機能性との両立が可能である。
【0003】
こうした分析機器では冊子形態や電子ファイル形態である取扱説明書が付属品として必ず提供されるが、分析機器を購入したユーザが実際に機器を操作する際の手順はユーザ毎に様々であり、その手順そのものは取扱説明書には記述されていない。そこで、一般的には、分析技術者やスーパーバイザーと呼ばれるシステム管理者が必要な手順のみを操作の順番に列記した標準操作手順書(SOP)を予め作成し、実際に分析機器の操作を担うオペレータはこの用意された標準操作手順書に従って機器の操作を行うようにしている。
【0004】
また、こうした標準操作手順書を用意しておくことは、ISO9000、GLP(Good Laboratory Practice)、GMP(Good Manufacturing Practice)などの各種の基準を満足する機器性能が得られるのかどうかを検証するためにも必要である(例えば特許文献1など参照)。
【0005】
上述したように分析機器を用いた分析を行う上で標準操作手順書は重要であるが、実際上、これを作成できる人はかなり限られる。即ち、一般にオペレータは、分析機器やコンピュータ、或いはソフトウエアに関する知識は乏しく、標準操作手順書を作成することができない。また、分析担当者やシステム管理者であっても、新規に購入された分析機器やアップグレードしたばかりの制御ソフトウエアについては、操作に関する知識が必ずしも十分ではないことがあり、すぐに標準操作手順書を作成できるとは限らない。また、複雑な分析においては、標準操作手順書を一旦作成しても、操作手順の抜けや記述ミスなどが多く、完全な標準操作手順書を作成するには時間が掛かる。
【0006】
そこで、このような標準操作手順書の作成を簡略化することを目的としたソフトウエアが開発され実用に付されてきている。その一例として、特許文献2には、ユーザが分析を実行する際に行う入力や操作を記録し、それに基づき、操作内容に対応した文字情報を作成するソフトウエアが開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開平8−105770号公報
【特許文献2】特開2007−80166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したようなソフトウエアを利用することで、標準操作手順書の作成の手間は大幅に軽減される。しかし、特許文献2において開示されているものを含め、従来の標準操作手順書作成支援プログラムではテキストデータしか扱っておらず、作成された手順書をオペレータが見たとしても直観的に十分に理解できない、もしくは理解し難いことがあるという問題があった。
【0009】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、分析の実行に必要な標準操作手順書の作成作業の手間を軽減することができ、かつ、直観的に理解しやすい標準操作手順書を作成することができる分析機器用標準操作手順書作成支援システム、及びそのプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明に係る分析機器用標準操作手順書作成支援システムは、
分析動作の制御や分析により得られたデータの処理にコンピュータを用いた分析機器において分析を実行する際に使用される標準操作手順書(SOP)の作成を支援する標準操作手順書作成支援システムであって、
各種入力及び設定の操作と、その操作に対応した説明データの識別番号の対応関係を表す対応情報を記憶する記憶手段と、
各種入力及び設定の操作が行われる都度、前記対応情報を参照することにより、一連の操作の順序を識別番号によって記録する記録手段と、
前記記録手段によって作成された一連の識別番号に基づき、一連の説明データを順に記載した標準操作手順書を所定のファイル形式にて作成する手順書作成手段と、
を含むことを特徴としている。
【0011】
また、前記説明データは好適には画像を含むオンラインヘルプ(すなわち、PC上で扱うことができるヘルプデータや取扱説明データ)とすることができる。
【0012】
また、本発明は、
コンピュータを、分析動作の制御や分析により得られたデータの処理にコンピュータを用いた分析機器において分析を実行する際に使用される標準操作手順書(SOP)の作成を支援する標準操作手順書作成支援システムとして動作させるためのプログラムであって、
各種入力及び設定の操作と、その操作に対応した説明データの識別番号の対応関係を表す対応情報を含み、
該コンピュータを、各種入力及び設定の操作が行われる都度、前記対応情報を参照することにより、一連の操作の順序を識別番号によって記録する記録手段と、
前記記録手段によって作成された一連の識別番号に基づき、一連の説明データを順に記載した標準操作手順書を所定のファイル形式にて作成する手順書作成手段と、
して機能させることを特徴とする分析機器用標準操作手順書作成支援システム用プログラムをも提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る分析機器用標準操作手順書作成支援システム及び同システム用プログラムによれば、作業者がコンピュータの入力部を通して実際の分析作業を実行する際の操作を行いさえすれば、その操作に対応した操作内容に沿った標準操作手順書が自動的に作成される。
【0014】
また、標準操作手順書の基礎となる説明データとして、例えばオンラインヘルプや取扱説明書といった、既に別途用意されているデータを活用することができる。こういったオンラインヘルプや取扱説明書に画像(動画も含むものとする)が含まれているならば、手順を視覚的に理解することができる。したがって、非常に完成度の高い標準操作手順書を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る分析機器用標準操作手順書作成支援システムを含む分析システムの一実施例について図面を参照しつつ説明する。
【0016】
図1は本実施例による分析システムの概略構成図である。この分析システムでは、分析部1はCPU、メモリ、大容量記憶装置などから成る汎用のコンピュータ2と接続され、コンピュータ2にはキーボードやマウス等の入力部3と表示部4とが接続されている。コンピュータ2には所定のOS(オペレーティングシステム)がインストールされており、さらにOSの上で動作する制御/処理ソフトウエア11、SOP作成支援プログラム12(これは、本発明に係る分析機器用標準操作手順書作成支援システム用プログラムである)、などのアプリケーションソフトウエアがインストールされている。また、制御/処理ソフトウエア11にはヘルプデータ(説明データ)14が含まれている。ヘルプデータ14は、操作内容に対応する複数の項目から成り立っており、各項目には後述するような識別番号が付されているものとする。
【0017】
なお、本発明に係る分析機器用標準操作手順書作成支援システムの記録手段及び手順書作成手段といった構成は、コンピュータ2がSOP作成支援プログラム12を実行することによってソフトウエア的に具現化されるものである。
【0018】
分析部1は試料に対し所定の分析を実行して分析データを取得するものであり、制御/処理ソフトウエア11は分析部1の種類に対応した専用のものである。ここでは、制御/処理ソフトウエア11とSOP作成支援プログラム12とを分けているが、両者は一体になっていても構わない。SOP作成支援プログラム12は対応情報13を含む。対応情報13は、或る場面でのキー/マウスによる各種入力及び設定の操作内容と、その操作に対応するヘルプデータ14の対応項目との対応付けを示すものである。この対応付けは所定の識別番号(数字に限定されず、文字を含んでいても良い)によって行う。対応情報13は、コンピュータ2内の大容量記憶装置等の所定の記憶媒体に記憶されている。
【0019】
この分析システムにおいて標準操作手順書を作成する際の手順及び、SOP作成支援プログラム12により実現される動作について一例を挙げて説明する。図2はSOP作成処理の動作を説明するフローチャートである。
【0020】
作業者(システム管理者や分析技術者など)はまず入力部3で所定の操作を行うことでSOP作成支援プログラム12を起動させる(ステップS1)。その後、作業者は入力部3でこの分析システムで分析を実行する際の操作手順に従ってキー/マウス操作を行う(ステップS2)。この操作を受けて、その操作内容が終了の操作であるか否かが判定され(ステップS3)、終了の操作でない場合には、対応情報13を参照して操作内容に対応するヘルプデータの対応項目の識別番号が抽出される。抽出された識別番号は、ワーキングRAMなどの記憶領域にID番号リスト等として記録される(ステップS4)。そして、ステップS2に戻り、次の操作があるまで待機する。
【0021】
したがって、終了という操作がなされるまでは、ステップS2→S3→S4→S2…という処理を繰り返す。
【0022】
いま、この過程を図3乃至図6に示した例を参照しつつ説明する。これらの図はいずれも、作業者が行う操作と、その各操作を受けてコンピュータ2が実行する処理との関係を模式的に示す図である。
【0023】
図3(a)に示すように、作業者が入力部3で[バッチ分析]ボタンをクリックする操作を行うと、対応情報13が参照され、[バッチ分析]のクリックという操作内容に対応した識別番号として「ID12443」という識別番号が抽出され、所定の記憶領域に設けられたID番号リストにこの識別番号が記録される(図3(b))。一方、これとは別に制御/処理ソフトウエア11の標準的なユーザインターフェース機能として、[バッチ分析]ボタンのクリックに応じて表示部4の表示画面が更新される。
【0024】
次いで、図4(a)に示すように、作業者が入力部3でメニューの中から[ファイル]−[バッチファイルを開く]を選択する操作を行うと、対応情報13が参照され、[ファイル]−[バッチファイルを開く]の選択という操作内容に対応した識別番号として「ID12478」という識別番号が抽出され、ID番号リストにおいて、先の番号に続いてこの識別番号が記録される(図4(b))。一方、これとは別に制御/処理ソフトウエア11の標準的なユーザインターフェース機能として、[ファイル]−[バッチファイルを開く]の選択に応じて表示部4の表示画面が更新される。
【0025】
さらに、図5(a)に示すように、作業者が入力部3で[バッチ分析の開始]ボタンをクリックする操作を行うと、対応情報13が参照され、[バッチ分析の開始]のクリックという操作内容に対応した識別番号として「ID12489」という識別番号が抽出され、図5(b)に示すように、ID番号リストにおいてこの識別番号が追記される。一方で、これとは別に、制御/処理ソフトウエア11の制御のもとで、分析部1においてバッチ分析が実行される。
【0026】
分析に関わる全ての操作の最後に、図6(a)に示すように作業者が入力部3で終了を意味する[×]ボタンを選択する操作を行うと、この操作を受けて、図3のフローチャートにおいてステップS3からS5に進むこととなり、記録の処理が終了される。同時に、対応情報13が参照され、[×]ボタンのクリックという操作内容に対応した識別番号として「ID12499」という識別番号が抽出され、図6(b)に示すように、ID番号リストにおいて、この識別番号が追記される。
【0027】
そして、上述したようにID番号リストに順次記録された一連の識別番号に基づき、各識別番号に対応するヘルプデータ14の項目が抽出され、それをHTMLやXML、一般的な文書作成アプリケーションといった所定のファイル形式で以て作成する(ステップS6)。このファイルが標準操作手順書を記述した文書ファイルとなる。
【0028】
図7は、上記手順で以て作成された標準操作手順書を表示させた例である。各手順の操作が画像を含んでいるため、視覚的に非常に分かりやすいものとなっている。そして、標準操作手順書の文書ファイルを作成して出力した後に、SOP作成支援プログラムは終了される(ステップS7)。
【0029】
このようにして作成された文書ファイルはごく一般的なエディタ(HTMLファイルやXMLファイルの場合)や文書作成・編集ソフトウエアの上で適宜に修正・変更・削除・追加が可能であるから、必要に応じて作業者はこうした手直しを行って標準操作手順書の完成度を高めることができる。
【0030】
なお、上記実施例では、全ての操作が終了してID番号リストへの記録が終了した後に、記録された個々の識別番号を元に標準操作手順書が作成されていたが、ID番号リストを作成しながら、その標準操作手順書を順次作成してゆき、それを表示部4の一部領域等に表示させるようにしてもよい。このようにすることで、作業者は誤った操作を行ったときにそれをすぐに認識することができるから、SOP作成支援プログラム12の機能として一旦行った操作を取り消してやり直すような機能を付加することにより、作業性が一層高まる。
【0031】
更に、標準操作手順書を作成する分析の作業を行う際に作業者がパラメータや文字列を入力する際には、ID番号リストの情報に加えて、それらのパラメータや文字列の内容を標準操作手順書に含めるようにしても構わない。
【0032】
上記実施例は本発明の一例であり、本発明の趣旨の範囲で適宜、変更、修正、追加などを行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。例えば、本発明は、分析の実行のための標準操作手順書作成に限らず、分析結果のデータ処理を行うための標準操作手順書作成等にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る標準操作手順書作成支援プログラムを搭載した分析システムの概略構成図。
【図2】SOP作成処理の動作を説明するフローチャート。
【図3】作業者の操作と、その操作を受けてコンピュータが実行する処理との関係を模式的に示す図。
【図4】作業者の操作と、その操作を受けてコンピュータが実行する処理との関係を模式的に示す図。
【図5】作業者の操作と、その操作を受けてコンピュータが実行する処理との関係を模式的に示す図。
【図6】作業者による終了操作と、その操作を受けてコンピュータが実行する処理との関係を模式的に示す図。
【図7】本実施例に係る分析機器用標準操作手順書作成支援システムによって作成された標準操作手順書の例。
【符号の説明】
【0034】
1…分析部
2…コンピュータ
3…入力部
4…表示部
11…制御/処理ソフトウエア
12…SOP作成支援プログラム
13…対応情報
14…ヘルプデータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析動作の制御や分析により得られたデータの処理にコンピュータを用いた分析機器において分析を実行する際に使用される標準操作手順書(SOP)の作成を支援する標準操作手順書作成支援システムであって、
各種入力及び設定の操作と、その操作に対応した説明データの識別番号の対応関係を表す対応情報を記憶する記憶手段と、
各種入力及び設定の操作が行われる都度、前記対応情報を参照することにより、一連の操作の順序を識別番号によって記録する記録手段と、
前記記録手段によって作成された一連の識別番号に基づき、一連の説明データを順に記載した標準操作手順書を所定のファイル形式にて作成する手順書作成手段と、
を含むことを特徴とする分析機器用標準操作手順書作成支援システム。
【請求項2】
前記説明データは、画像を含むオンラインヘルプであることを特徴とする請求項1に記載の分析機器用標準操作手順書作成支援システム。
【請求項3】
コンピュータを、分析動作の制御や分析により得られたデータの処理にコンピュータを用いた分析機器において分析を実行する際に使用される標準操作手順書(SOP)の作成を支援する標準操作手順書作成支援システムとして動作させるためのプログラムであって、
各種入力及び設定の操作と、その操作に対応した説明データの識別番号の対応関係を表す対応情報を含み、
該コンピュータを、各種入力及び設定の操作が行われる都度、前記対応情報を参照することにより、一連の操作の順序を識別番号によって記録する記録手段と、
前記記録手段によって作成された一連の識別番号に基づき、一連の説明データを順に記載した標準操作手順書を所定のファイル形式にて作成する手順書作成手段と、
して機能させることを特徴とする分析機器用標準操作手順書作成支援システム用プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−92333(P2010−92333A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−262652(P2008−262652)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】