分析用チップ及びその製造方法、分析装置並びに分析方法
【課題】 局在プラズモン共鳴(LSPR)による測定結果である吸収ピークの吸光度変化と干渉分光法による測定結果である吸収ピーク波長のシフトとの両方において大きな変化量を得ることを可能とする。
【解決手段】 互いに平行な方向に延びる多数の細孔6が略等間隔に配列され、細孔6が一方の面に開口した多孔質層3と、多孔質層3の開口面4上に形成された金属層5とを備え、金属層5が多孔質層3の開口面4上と細孔6の開口部近傍の孔壁面とに形成されている。多孔質層3は陽極酸化アルミナ皮膜であることが好ましい。金属層5は、Cr、Ti、Niから選ばれる少なくとも1種を含む下地層と、Au、Agから選ばれる少なくとも1種を含む表面層とをこの順に積層して構成される。細孔6の内部には金属微粒子が存在しない。当該分析用チップ1表面への物質の吸着が、当該分析用チップ1に光を照射したとき、局在プラズモン共鳴及び干渉効果による吸光度変化及び波長シフトとして観察される。
【解決手段】 互いに平行な方向に延びる多数の細孔6が略等間隔に配列され、細孔6が一方の面に開口した多孔質層3と、多孔質層3の開口面4上に形成された金属層5とを備え、金属層5が多孔質層3の開口面4上と細孔6の開口部近傍の孔壁面とに形成されている。多孔質層3は陽極酸化アルミナ皮膜であることが好ましい。金属層5は、Cr、Ti、Niから選ばれる少なくとも1種を含む下地層と、Au、Agから選ばれる少なくとも1種を含む表面層とをこの順に積層して構成される。細孔6の内部には金属微粒子が存在しない。当該分析用チップ1表面への物質の吸着が、当該分析用チップ1に光を照射したとき、局在プラズモン共鳴及び干渉効果による吸光度変化及び波長シフトとして観察される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の対象物質を検出又は定量するための新規な分析用チップ及びその製造方法、分析装置、並びに分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体物質の有する分子認識機能を利用して試料中の対象物質を検出又は定量する、いわゆるバイオセンサと呼ばれる分析装置の開発が盛んに行われている。しかしながら通常のバイオセンサでは生体物質を酵素や蛍光物質等で標識しなければならず分析操作が煩雑であるといったデメリットがあることから、標識不要な分析方法の開発が望まれている。
【0003】
非標識で分析可能なセンサとしては、誘電体や半導体等の表面に金属微粒子が層状に固定されているような微細構造をセンサユニットとし、局在プラズモン共鳴(Localized surface plasmon resonance, LSPR)を応用して試料の屈折率を測定し、そこに含まれる物質を定量するセンサが知られている。すなわち、金属微粒子部分に測定光を照射し、透過又は反射した光の強度を測定するが、特定の波長でLSPRが生じて光の散乱や吸収が著しく増大するため、その波長の光の強度が顕著に減少する。このLSPRの発生する波長及び強度は金属微粒子の周辺に存在する物質の屈折率に依存し、屈折率が大きいほど長波長側にシフトし、散乱や吸収が大きくなることが知られている。このようなLSPRを利用したセンサの具体的な構造としては、例えば特許文献1において、基板表面に金属微粒子を単層膜の状態で固定した構造が提案されている。
【0004】
ところで、前記特許文献1に記載される構造のセンサユニットにおいてピーク変化のばらつきを抑えるためには、金属微粒子の形状や大きさのばらつきを均一に制御し、基板全面にわたって偏り無く固定することが重要となる。しかしながら、形状や大きさのばらつきのない微小な金属微粒子を得るには高度な製造技術が要求され、コストの増大を招くという問題点がある。また、基板全面にわたって金属微粒子を均一に並べることも技術的に難しい。
【0005】
そこで、特許文献2においては、層面に対して略垂直方向に複数の独立細孔を形成した層状の陽極酸化アルミナと、陽極酸化アルミナの独立細孔のそれぞれに充填され互いに孤立して形成した金属粒子とを一体に備えた構造体を、LSPRを利用したセンサとして用いることが提案されている。特許文献2に記載の構造は、径、間隔、深さを比較的自由に制御できる陽極酸化アルミナの細孔内に金属微粒子を充填して形成するので、金属微粒子を均一サイズで作製できると共に、金属微粒子を規則正しく配置することができるという利点がある。この構造体は、複数の細孔の開口した陽極酸化アルミナ上に金属を被着させた後、陽極酸化アルミナの細孔開口面上の金属被着体を除去することによって作製される。また、特許文献3においては、LSPRを応用したセンサに使用される微細構造体が形成されており、この微細構造体は、一表面に複数の微細孔が形成された層状の基体と、この基体の前記微細孔内に充填された金属微粒子と、この金属微粒子と概略その径以下の距離をおいた状態で前記一表面において前記微細孔の周囲部分に形成された金属薄膜とから構成される。
【0006】
一方、生体物質の特異的結合を利用して試料中の対象物質を検出する方法として、干渉分光法を利用した分析方法も知られている。干渉分光法を利用した分析方法とは、例えば陽極酸化アルミナ基板等の規則的な微細孔に光を照射し、反射光の干渉を測定する物であり、微細孔内に試料を添加すると、微細孔内部の壁で起こる物質間の相互作用(結合)により、干渉光の波長のずれが生じ、その程度が結合量を反映することを利用したものである。このような原理を利用した分析のためのセンサ構造については、例えば被特許文献1,2等において提案されている。例えば非特許文献1においては、直径200nm程度の細孔が規則的に配列された多孔質シリコン層を形成し、この細孔内部に例えばDNAプローブ等を固定化したものをセンサとして用いている。また、前記非特許文献1の改良も試みられており、例えば非特許文献2においては、多孔質シリコンに代えて多孔質アルミニウム酸化物を用いることが提案されている。
【特許文献1】特開2000−356587号公報
【特許文献2】特開2003−268592号公報
【特許文献3】特開2004−232027号公報
【非特許文献1】Science,Vol.278, 840-843頁,1997年
【非特許文献2】Nano Lett., Vol.3, No.6, 811-814頁,2003年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載される構造体は、特許文献1のセンサユニットに比較するとその作製は容易であるものの、陽極酸化アルミナの独立細孔に金属を充填するための蒸着に長時間が必要となり、また、蒸着後に開口面に堆積した金属の除去操作が煩雑であり、製造工程のさらなる簡略化が求められている。
【0008】
また、特許文献1,2に記載されるようなピーク波長の吸光度変化や、被特許文献1,2に記載されるようなピーク波長シフト等、様々な情報から試料中の物質の検出が可能であるものの、各情報を得るには各原理に対応した専用の分析用チップ等を用いて分析を行わなければならない。そのため、例えば分析の正確性を期することを目的として1つの事象を複数の原理に基づき多面的に分析したいような場合のように、それぞれの分析方法を試そうとするとコストの大幅な上昇を招くこととなる。
【0009】
なお、特許文献1〜3等に記載されるLSPRを利用したバイオセンサにおいては、物質の吸着によってピーク波長の吸光度変化だけでなくピーク波長のシフトも生じることは知られているものの、そのシフト量は小さく、例えばシフト量を指標とした定量分析等は不可能である。また、ノイズも多く、安定した測定結果を得ることは難しい。
【0010】
本発明はこのような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、LSPRによる測定結果である吸収ピークの吸光度変化と干渉分光法による測定結果である吸収ピーク波長のシフトとの両方において大きな変化量を得ることが可能な分析用チップを提供することを目的とする。また、本発明は、前記分析用チップを比較的容易に製造することが可能な分析用チップの製造方法を提供することを目的とする。さらには、本発明は、前記分析用チップを用いた分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述の目的を達成するために、本発明者らは長期にわたり検討を重ねてきた。その結果、LSPRによる吸光度変化を利用して物質の吸着等を検出するためには前述の特許文献1,2等のように互いに孤立した金属微粒子を規則的に配列させる必要があると思われてきたが、高度な規則性を持つ陽極酸化アルミナ皮膜等のような多孔質層の開口面と細孔の開口部近傍の孔壁面との両方に金属を成膜するという極めて単純な構造であっても、LSPRにより特定波長において大きな吸光度変化を得ることができ、そればかりか、規則的な多孔質構造による光の干渉効果も大きく得ることができ、この光の干渉効果とLSPRとが相俟って波長シフトについても変化量が大きくなるという知見を得、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明に係る分析用チップは、互いに平行な方向に延びる多数の細孔が略等間隔に配列され、前記細孔が一方の面に開口した多孔質層と、前記多孔質層の開口面上に形成された金属層とを備え、前記金属層が前記多孔質層の開口面上と前記細孔の開口部近傍の孔壁面とに形成されていることを特徴とする。
【0013】
以上のような分析用チップの吸収スペクトルを測定すると、前述した構造を有する多孔質層の表面と細孔内部の開口部近傍とに形成した金属層が存在することで、LSPRが生じ、特定の波長に吸収ピークが観察され、金属層近傍に物質が吸着又は堆積すると、吸収ピークが増大する。特に、多孔質層の表面のみならず多孔質層の細孔内部の開口部近傍にも金属層を設けることで、吸収ピークの変化量は大きなものとなる。このことから、この吸光度変化を指標として物質の検出又は定量が実現される。
【0014】
また、本発明の分析用チップは、互いに平行な方向に延びる細孔が略等間隔に配列された多孔質層の構造に起因して、吸収ピークの吸光度変化のみならず、吸収ピークの波長シフト変化量も非常に大きなものとなる。すなわち、本発明の分析用チップの金属層近傍に例えば物質が吸着又は堆積すると、細孔内の光の屈折率が変化し、光の干渉効果に起因した吸収ピーク波長のシフトが生じることから、この波長シフトを指標として物質の検出又は定量が実現される。
【0015】
そして、以上のような分析用チップを用いることで、前述したような光の干渉効果とLSPRとの相乗効果により、吸収ピーク変化量と波長シフト変化量とが非常に大きなものとなり、高感度な分析が実現される。
【0016】
また、本発明に係る分析用チップの製造方法は、互いに平行な方向に延びる多数の細孔が略等間隔に配列され、前記細孔が一方の面に開口した多孔質層を形成した後、前記細孔の孔壁面に対して傾いた方向から金属材料を被着し、前記多孔質層の開口面上と前記細孔の開口部近傍の孔壁面とに金属層を形成することを特徴とする。
【0017】
以上のような分析用チップの製造方法においては、細孔の孔壁面に対して傾いた方向から金属材料を被着するといった容易な操作にて、多孔質層の開口面と細孔の開口部近傍の孔壁面との両方に金属層を形成することができる。このとき、細孔への金属材料の充填操作や開口面上に形成した金属層の除去操作は不要であり、分析用チップが簡単に作製される。
【0018】
さらに、本発明に係る分析装置は、前記分析用チップと、光源と、検出器と、分光器とを備えることを特徴とする。本発明に係る分析方法は、前記分析装置を用い、局在プラズモン共鳴及び干渉効果による吸光度変化と波長シフトとの両方に基づいて試料中の対象物質を検出又は定量することを特徴とする。
【0019】
以上のような分析装置を用いて試料中の物質を分析する際には、前述の分析用チップに対して光源から光を照射し、反射光を検出器で測定し、分光器で分光して吸収スペクトルを得る。そして、特定波長に生じている吸収ピークの吸光度変化と波長シフトとのいずれかから、物質の検出又は定量が実現される。したがって、本発明の分析用チップを用いた分析装置を用いることで、LSPRの原理を利用した分析と、光の干渉を利用した分析との2種類の分析結果が得られ、これによって物質の検出又は定量分析が実現される。
【発明の効果】
【0020】
以上のような分析用チップを用いた分析装置によれば、試料中の物質の検出又は定量を、LSPR及び光の干渉効果に起因する吸収ピークの吸光度変化とピーク波長シフトとの両方から知ることができ、しかもこれらの変化量は従来の構造のセンサを用いた場合に比較して顕著に大きなものとなる。すなわち、本発明の分析用チップを用いて分析を行うことで、既存の分析装置やセンサー等に比較して高感度な分析を実現することができる。また、物質を検出又は定量するに際して、吸収ピークの吸光度変化及びピーク波長シフトのいずれの結果を利用するか使用者が任意に選択することができ、多様な分析が可能となる。
【0021】
また、以上のような分析用チップの製造方法によれば、1種類のチップで複数種類の原理に基づく分析が可能であり、且つ高感度分析を実現可能な分析用チップを容易に製造することができる。
【0022】
さらに、以上のような分析装置によれば、1回の分析で吸収ピークの吸光度変化、及び、ピーク波長シフトという2種類の情報を得ることができ、多面的且つ高感度な分析を行うことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明に係る分析用チップ及びその製造方法、この分析用チップを用いた分析装置、並びにこの分析装置を用いた分析方法について、詳細に説明する。
【0024】
先ず、本発明の分析用チップの構造について説明する。図1に示すように、本発明の分析用チップ1は、基材2上に形成された多孔質層3と、多孔質層3の開口面4の表面と多孔質層3に設けられた細孔6の開口部近傍の孔壁面との両方に形成された金属層5とを備えている。
【0025】
多孔質層3は、互いに平行な方向に延びる多数の細孔6を有している。多孔質層3の細孔6が開口した側の面が開口面4とされる。細孔6同士は略等間隔に配列されており、これによって干渉分光法を利用した波長シフトの変化量を大きなものとすることができ、干渉分光法を利用した定量分析にも確実に対応することが可能となる。開口面4の表面形状は各細孔6を中心として凹んだような凹凸状でもよく、また、平坦であってもよい。
【0026】
多孔質層3の細孔6の径及び深さは、実質的に等しくされていることが望ましい。ここで、細孔6の径は、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)で測定される開口径が40nm〜80nmの範囲内であることが望ましい。また、細孔6の深さは、分析用チップを用いて得られた吸収スペクトルから、多孔質層の各深さにおける吸収ピークの吸光度の平均値と測定波長領域で現れた吸収ピーク数とを調べた結果、深さが0.5μm〜3μmの範囲内であることが望ましい。細孔6の具体的な寸法は、多孔質層3の材料や分析対象等に応じて適宜設定すればよいが、例えば直径60nm程度とされる。
【0027】
多孔質層3を構成する材料としては、特に限定されないが、例えばSi等の半導体、樹脂や金属酸化物のような絶縁体等を用いることができる。中でも、細孔6が表面に対してほぼ垂直に且つ互いに略等間隔に平行して配列するハニカム構造をとり、細孔6の径及び深さの制御が比較的容易であることから、多孔質層3を陽極酸化アルミナ皮膜で形成することが好ましい。
【0028】
多孔質層3が陽極酸化アルミナ皮膜からなる場合、基材2はアルミニウムにより構成される。ただし、基材2の全体がアルミニウムで構成される必要はなく、少なくとも基材2の表面にアルミニウムが存在していればよい。
【0029】
本発明の金属層5は多孔質層3の開口面4の表面に形成されている必要がある。このように金属層5を配することにより、この分析用チップ1を用いた1回の分析で局在プラズモン共鳴(Localized surface plasmon resonance, LSPR)によるピーク波長の吸光度変化の情報を得ることができる。また、本発明の分析用チップ1においては、金属層5は、開口面4の表面だけでなく、細孔6の開口部近傍の孔壁面にも形成される。開口面4の表面に金属層5が存在するだけでもLSPRの結果は得ることは可能であるものの、その効果を安定して且つ大きく得るうえでは、細孔6の開口部近傍の孔壁面も金属層5で覆うことが重要となる。さらに、細孔6の開口部近傍にも金属層5を形成することで、開口面4の表面だけの場合に比較して、チップあたりの金属層5の表面積の拡大が図られ、被検物質と相互作用する抗体や核酸等の生体成分の固定化密度を高めることができる。
【0030】
なお、図1においては、金属層5が開口面4の全面を被覆した状態を示しているが、金属層5は開口面4上の少なくとも一部に存在していればよく、例えば金属層5によって被覆されずに多孔質層3が表面に露出している領域が存在してもよい。
【0031】
本発明においては、多孔質層3の細孔6の内部に金属層5を構成する材料を存在させないようにする。これにより、LSPRの結果だけでなく干渉分光の結果も確実に得ることができる。一方、細孔6の内部に金属材料を充填すると、多孔質層3の規則性が崩れ、干渉分光法を利用した結果を安定して得ることができなくなる。
【0032】
金属層5を構成する材料としては、LSPRを得ることのできる公知の金属材料を用いることができる。具体的には金、銀等が例示され、中でも蒸着が容易で化学的に安定であること等の理由から、金属層5には金が含まれることが好ましい。
【0033】
金属層5は単層でもよいが、例えば図2に示すように、多孔質層3に接する第1金属層5aと、第1金属層5a上に形成される第2金属層5bとの2層構造としてもよい。特に、多孔質層3が陽極酸化アルミナ皮膜からなる場合、第1金属層5aがクロム(Cr)層であり、第2金属層5bが金(Au)層であることが好ましい。前記分析用チップ1においては、金属層5は主に細孔6の外側、すなわち多孔質層3の開口面4表面に設けられるため、細孔6内に金を充填する場合に比べて、金が剥離し易いことが問題となる。これに対して、アルミナからなる多孔質層3と金からなる金層(第2金属層5b)との間にクロム層(第1金属層5a)を介在させることで、金の密着性を高めて剥離を防止することができる。下地となる第1の金属層5aには、前述のクロムの他、チタニウム(Ti)、ニッケル(Ni)等を用いることも可能である。
【0034】
分析用チップ1が生体物質の有する分子認識機能を利用したバイオセンサーとして用いられる場合、金属層5の表面には試料中の分析対象物質を認識するための分子が固定される。金属層5の表面に固定される分子としては、例えば抗体、抗原、核酸、核酸結合蛋白質、レセプター、リガンド等、分子認識機能を有する公知の物質を用いることができる。
【0035】
以下、本発明の分析用チップ1の製造方法について、多孔質層3が陽極酸化アルミナ皮膜からなり、金属層5がクロムからなる第1の金属層5aと金からなる第2の金属層5bとの2層構造とされた分析用チップ1を例に挙げ、詳細に説明する。
【0036】
先ず、アルミニウムからなる基材2を準備する(図3(a))。アルミニウムからなる基材2の表面には、通常、アルミナ(Al2O3)からなる酸化膜11が形成されている。
【0037】
次に、研磨工程を行うことにより、基材2の表面に形成された酸化膜11を除去し、アルミニウムからなる基材2を露出させる(図3(b))。この研磨工程により、基材2の表面に存在する大きなうねりも平坦化される。具体的には、機械的研磨を行った後、電解研磨を行う。
【0038】
次に、陽極酸化処理によって陽極酸化アルミナ皮膜からなる多孔質層3を形成する。陽極酸化アルミナ皮膜からなる多孔質層3は、1回の陽極酸化処理で形成することも可能であるが、多孔質層3における細孔6の径及び深さを均一とし、且つ細孔6を高度に規則的に配列させる観点より、以下に説明するように陽極酸化処理を2回行って形成することが好ましい。
【0039】
具体的には、先ず、1回目の陽極酸化処理を行う。1回目の陽極酸化処理は、例えば印加電圧を30V〜50V程度、シュウ酸電解液等を用いて行う。これにより、アルミニウムからなる基材2の表面に陽極酸化アルミナ皮膜12が形成される(図3(c))。ここで得られる陽極酸化アルミナ皮膜12も広い意味での多孔質構造を形成しているが、各孔13の形状は内部で膨張したような形状であり、その径及び深さも均一ではない。また、陽極酸化アルミナ皮膜12の表面における凹凸の分布や高さも不均一である。したがって、この段階の陽極酸化アルミナ皮膜12を分析用チップに用いると、正確な測定が難しくなるおそれがある。
【0040】
そこで、1回目の陽極酸化処理で得られる陽極酸化アルミナ皮膜12をエッチングにより除去してアルミニウムからなる基材2を露出させ、再度、陽極酸化処理を行うことによって、陽極酸化アルミナ皮膜からなる多孔質層3を得ることが好ましい。
【0041】
図3(d)は、1回目の陽極酸化処理で得られる陽極酸化アルミナ皮膜12を除去した後の状態を示している。この段階で露出したアルミニウム基材2の表面には、ナノオーダーの微小な凹凸パターンが規則的に配置されている。陽極酸化アルミナ皮膜12のエッチングには、例えばリン酸やクロム酸を用いることができる。
【0042】
図3(e)は、2回目の陽極酸化処理後に得られる陽極酸化アルミナ皮膜からなる状態を示している。2回目の陽極酸化処理は、例えば印加電圧を30V〜50V程度、シュウ酸電解液等を用いて行う。これにより、陽極酸化アルミナ皮膜からなる多孔質層3が完成する。ここで、2回目の陽極酸化処理においては、アルミニウム基材2表面の微小な凹凸パターンに基づき、基材2の主面に略垂直方向に陽極酸化アルミナ皮膜が自己整合的に成長する。したがって、径及び深さが均一で、互いに等間隔に規則的に配列された細孔6を持つ多孔質層3を形成することが可能となる。
【0043】
陽極酸化アルミナ皮膜からなる多孔質層3を形成した後、多孔質層3の開口面4に金属材料を被着し、金属層5を形成する。このとき、細孔6の孔壁面に対して斜め方向から金属材料を被着する。金属材料の被着は、蒸着、スパッタ等により実現することができる。
【0044】
金属材料の蒸着は、例えば図4に示すような真空蒸着装置21を用いて実現することができる。この真空蒸着装置21は、真空容器22内のステージ23上に、金属層5の原料24を収容した蒸着源が載置され、開口面4を下向きとして複数のチップ25を支持可能な構成とされている。ここで、蒸着源24と2次元状に並べられた複数のチップ25との配置を適切に設定すると、チップ25に対して金属層の原料24は点状とみなすことができる。このような関係にあるとき、蒸発した金属材料の多くは多孔質層3の孔壁面に対して斜め方向から入射するので、結果として、多孔質層3の開口面4、又は開口面4と細孔6の孔壁面の開口部近傍とに金属材料を選択的且つ容易に被着することができる。多孔質層3の開口面4上に形成された金属層5は除去することなくそのまま分析用チップ1として用いる。以上のようにして、図1に示す構造の分析用チップ1が完成する。
【0045】
以下、本発明の分析用チップ1を用いた分析装置について説明する。
図5に示す分析装置31は、分析用チップ1の金属層5が設けられた面に対して測定光Iを入射させる光源である入射光ファイバ32と分析用チップ1から反射した反射光Rを検出する検出器である反射光検出ファイバ33とを備えた光源プローブ34と、タングステンハロゲン光源35と、検出器33で検出された光を分光する分光光度計36と、分光光度計36で得られた結果を処理するコンピュータ37とを備えている。光学プローブ34においては、検出器33を取り巻くように複数の光源32が配置され、検出器33と光源32とが一体化されている。
【0046】
以上のような分析装置31を用いて試料中の物質を検出又は定量する場合には、以下のようにする。先ず、分析用チップ1の金属層5の表面に分析対象物質を認識する分子を予め固定しておく。次に、この分析用チップ1の金属層5と試料溶液とを接触させて反応させる。その後、光源32から測定光Iを照射して得られる反射光Rを検出器33で検出し、分光光度計36で分光して吸収スペクトルを得る。
【0047】
図6は、本発明の分析装置により得られる吸収スペクトルの一例である。金属層5に固定された分子に分析対象物質が結合すると、金属層5の近傍の屈折率等が変化し、その結果、得られる吸収スペクトルにおいては、LSPRを利用した分析の結果として、吸収ピーク強度が結合前に比べて増大する。このため、この吸光度変化を指標として、物質の検出が実現される。また、得られる吸収スペクトルにおいては、干渉分光を利用した分析の結果として、分析対象物質の結合前後で波長シフトも観察される。この波長シフト量は比較的大きなものであることから、これを指標とした分析対象物質の検出も可能である。さらには、結合した分析対象物質の量に応じた吸収ピークの吸光度変化量及び波長シフト量が得られるため、これらのいずれかを指標として、分析対象物質の定量も可能である。以上のように、分析装置31に用いられる分析用チップ1の表面への物質の吸着が、当該分析用チップ1に光を照射したとき、局在プラズモン共鳴及び干渉効果による吸光度変化及び波長シフトとして観察されるので、この2つの情報に基づき、試料中の分析対象物質の検出及び定量を行うことが可能となる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例について、実験結果を参照しながら説明する。
【0049】
<実験1:分析用チップの作製>
先ず、1cm四方のアルミニウム基材を用意し、480℃で40分間アニーリングした。次に、ダイヤモンド懸濁液を用いた機械研磨、その後、電解研磨を行うことにより基材表面の酸化膜を除去した。電解研磨は70℃で10分間、電流1.3Aとした。電解研磨で用いた酸性溶液はH3PO4とH2SO4とH2Oとを8.5:1:0.5の割合で混合し、35g/LのCrO3を含んでいる。
【0050】
次に、1回目の陽極酸化処理を行った。陽極酸化処理は、10℃で10〜100分間、印加電圧40Vの条件で行い、0.3Mシュウ酸溶液を用いた。
【0051】
次に、1回目の陽極酸化処理で形成された陽極酸化アルミナ皮膜(Al2O3)を除去した。陽極酸化アルミナ皮膜の除去には、H3PO4とH2Oとを8:2の割合で含む溶液に50g/LのCrO3を加えたものを用いた。これによりアルミニウム基材が露出した。アルミニウム基材の表面には、高さ7nm程度の微小な凹凸が形成されていた。
【0052】
その後、2回目の陽極酸化処理を行った。2回目の陽極酸化処理は、1回目と同様、10℃、印加電圧40Vの条件で行い、0.3Mシュウ酸溶液を用いた。これにより、厚さ3μmの陽極酸化アルミナ皮膜からなる多孔質層が得られた。
【0053】
ここで、2回目の陽極酸化処理後に得られた多孔質層について、開口面の表面形状を原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)にて観察した。結果を図7(a)に示す。また、図7(a)中のA−B線における拡大断面を図7(b)に示す。さらに、前記多孔質層の開口面と側面との境界部付近を走査型電子顕微鏡(Scanning Electrone Microscope:SEM)により観察した。結果を図8に示す。
【0054】
2回の陽極酸化処理で得られた陽極酸化アルミナ皮膜の細孔は図8に示すように膜面に対して垂直方向に形成されており、その径及び深さは殆ど等しかった。また、図7に示すように、細孔は互いに等間隔に、規則的に配列されていることがわかる。各細孔の径は60nm、セルの大きさは120nmであった。なお、AFMイメージである図7において描かれる細孔は、深さが深くなるに従って開口面積が減少していくような形状とされており、図8に示すSEM写真における細孔形状と異なっている。これは、細孔の径に比べてAFM観察に用いたカンチレバーが大きく、カンチレバーが細孔内部表面に追従できなかったためと推測される。
【0055】
以上のように陽極酸化アルミナ皮膜からなる多孔質層を形成した後、図4に示すような真空蒸着装置(Sanyu Electron社製、SVC-700TM/700-2)を用いて多孔質層の開口面上に金属材料を真空蒸着し、金属層を形成した。具体的には、多孔質層が形成されたチップを20枚用意し、開口面を下に向け、蒸発した金属が孔壁面に対して斜め方向で被着する位置にセットした。金属材料の付着を防ぐ目的で、蒸着源とチップ支持体との間の真空容器内壁をアルミニウム箔で覆った。その後、真空容器内を減圧し蒸着を行った。先ず初めにクロム(Cr)を蒸着し、その後金(Au)を蒸着した。蒸着の間、チップは移動させなかった。その結果、多孔質層の開口面上と細孔の孔壁面の開口部近傍との両方に、厚さ5nmのクロム層と厚さ15nmの金層とがこの順に積層された2層構造の金属層が形成された。以上により、分析用チップが完成した。
【0056】
多孔質層の開口面に金属層を形成した後、表面形状をAFMにて観察した。結果を図9(a)に示す。また、図9(a)中のA−B線における拡大断面を図9(b)に示す。図9より、多孔質層の開口面上に金属層が形成されていること、また、蒸着前(図7(b))に比較して表面の開口部の径が47nmと狭くなっており、多孔質層の開口面だけでなく開口部近傍の孔壁面にも金属材料が被着していることがわかる。
【0057】
<実験2:金属層の有無の検討>
次に、以上のように作製した分析用チップを図5に示すような分析装置に用い、グルコース溶液の分析を行った。分析用チップにおける多孔質層の膜厚は3μmであった。
【0058】
先ず、0〜10mg/mLのグルコース溶液を調製した。グルコースは乾燥粉末の状態で入手し、18.3MΩ、pH7.4の超純水(ミリポア社製)に溶解して用いた。次に、グルコース溶液の分析を行った。具体的には、超純水で調製された0〜10mg/mLのグルコース溶液をそれぞれ分析用チップの表面にのせた後、5分後、溶液に浸けた状態のままグルコース濃度変化に対する吸収スペクトルの変化を観察した。得られた吸収スペクトルを図10に示す。また、比較として、金属層を形成する前の段階の分析用チップ、すなわち、陽極酸化アルミナ皮膜からなる多孔質層のみを用いて、金属層有りの場合と同様にグルコース濃度変化に対する吸収スペクトルの変化を観察した。結果を図11に示す。さらに、図10及び図11から把握されるグルコース濃度と吸光度変化量との関係を図12(a)に、グルコース濃度と波長シフト変化量との関係を図12(b)に示す。
【0059】
図12より、金属層のない分析用チップ(金(Au)蒸着前)を用いた場合、グルコースの吸着による吸光度変化は認められなかった。なお、波長シフトは認められたもののその変化量はわずかであった。これに対し、本発明の分析用チップ(金(Au)蒸着後)を用いることで、グルコースの吸着によって波長シフトと吸光度変化との両方が観察されるようになり、金属層がない場合に比べてこれらの変化量も大幅に増加した。以上の結果より、本発明の分析用チップを用いた分析装置によって、波長シフトと吸光度変化との両方を指標として、グルコースの非特異的吸着の検出が可能であることが確認された。
【0060】
<実験3:DNA検出>
本実験においては、本発明の分析用チップを用いて試料中のプローブDNAの検出を試みた。先ず、実験に先立ち、多孔質層の膜厚と吸光度変化との関係について調べた。
【0061】
2回目の陽極酸化処理を行う際、陽極酸化処理の時間を10〜100分間の間で変化させることにより、多孔質層の膜厚を0.5μm、1μm、2μm、3μm、4μm、5μmと変化させた。それ以外は実験1と同様にして分析用チップを作製した。得られた分析用チップを用いて得られた吸収スペクトルを図13に示す。なお、図13は、金属層形成後の結果である。また、図13における吸収スペクトルから、多孔質層の各厚さにおける吸収ピークの吸光度の平均値と測定波長領域で現れた吸収ピーク数とを調べた。結果を図14に示す。図13、図14より、多孔質層の膜厚を厚くしていくことでピークにおける吸光度の平均値は次第に小さくなる傾向を示していた。この結果より、以下の実験では、適度なピーク数及び吸光度強度が得られる3μmを、多孔質層の厚みとして主に設定することとした。
【0062】
次に、金属層にプローブDNAを固定し、これに相補的なDNAやミスマッチDNA等を作用させたときの変化を調べた。先ず、プローブDNAとして5’末端にチオール基を有するDNAを用意し、これをTEバッファー(10mM Tris、1mM EDTA、pH7.4)に溶解し、本発明の分析用チップと反応させることにより、金層の表面にプローブDNAを固定した。
【0063】
次に、TEバッファーのみ、ミスマッチDNAを含むTEバッファー、及び、相補的DNAを含むTEバッファーを用意し、これらを試料溶液としてプローブDNA固定化分析用チップと接触させ、ハイブリダイズした。反応後、吸収スペクトルを測定した。また、金蒸着前の多孔質層のみの分析用チップ、金蒸着後の分析用チップ(プローブDNAなし)についても各種試料溶液を作用させ、吸収スペクトルを測定した。多孔質層の膜厚を0.5μm、1μm、2μm、3μm、4μm、5μmとした分析用チップについてそれぞれ検討した。代表として、多孔質層の膜厚が3μmである分析用チップを用いたときの結果を図15に示す。
【0064】
また、多孔質層の膜厚と金属層へのプローブDNAの固定化後又は相補的DNAの結合後における吸光度変化との関係を図16(a)に、多孔質層の膜厚と金属層へのプローブDNAの固定化後又は相補的DNAの結合後における波長シフトとの関係を図16(b)に示す。なお、本実験で用いたプローブDNAやターゲットDNAは乾燥粉末の状態で入手し、TEバッファー(10mM Tris、1mM EDTA、pH7.4)に溶解して用いた。各DNAの塩基配列を下記表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
図16(a)、(b)に示すように、相補的DNAが結合すると、多孔質層の膜厚が厚くなっても、吸光度変化量と波長シフト量は多孔質層膜厚によらずほぼ一定であった。仮に多孔質層の開口面及び孔壁面を含む多孔質層の表面全体が金属層で被覆されているのであれば、多孔質層の膜厚(細孔の深さ)が異なると孔壁面に形成される金属層の厚みも変わるため、多孔質層の膜厚に応じて吸光度変化量と波長シフト量が異なってくると考えられる。ところが実際には、図16(a)、(b)に示すように、吸光度変化量と波長シフト量は多孔質層膜厚によらずほぼ一定であった。このことから、金属材料は細孔内部には殆ど進入せず、多孔質層の開口面及び孔壁面の開口近傍に止まっていると考えられる。
【0067】
次に、ターゲットDNA(相補的DNA)濃度が1fM〜100μMとされた試料溶液を調製し、前記プローブDNAが固定された分析用チップを用いた分析装置によって吸収スペクトルを測定した。なお、プローブDNAを固定していない未処理の分析用チップ、及び、プローブDNAを固定したのみで試料溶液と接触させていない分析用チップについても同様に吸収スペクトルを測定した。結果を図17に示す。また、試料溶液中のDNA濃度と吸光度変化との関係を図18(a)に、試料溶液中DNA濃度と波長シフトとの関係を図18(b)にそれぞれ示す。
【0068】
図18(a)より、試料溶液中のDNA濃度と吸光度変化とは、DNA濃度10pM〜10μMの範囲内で直線関係にあった。また、図18(b)より、試料溶液中のDNA濃度と波長シフトも、吸光度変化と同じくDNA濃度10pM〜10μMの範囲内で直線関係にあった。この結果より、吸光度変化と波長シフトのうち任意の一方と、分析対象物質濃度との関係を予め求めておくことで、試料中の分析対象物質の定量分析が可能であることがわかった。また、吸光度変化と波長シフトのどちらを指標とした場合も同じ結果を得ることができ、正確な定量分析が可能であることがわかった。さらに、本発明の分析用チップを用いた分析装置によって、10pMという高感度分析が可能であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の分析用チップの一例を示す概略断面図である。
【図2】図1に示す分析用チップの金属層近傍を拡大して示す断面図である。
【図3】本発明の分析用チップの製造方法の一例を説明するための図であり、(a)は基材2、(b)は研磨工程、(c)は1回目の陽極酸化工程、(d)はエッチング工程、(e)は2回目の陽極酸化工程を示す。各図中、上段はAFMによる表面イメージ、下段は概略断面図である。
【図4】金属層の形成に用いられる蒸着装置の一例を示す模式図である。
【図5】本発明の分析装置の一例を示す模式図である。
【図6】本発明の分析装置により得られる吸収スペクトルの一例であり、金属層近傍への物質の吸着の前後の状態を示す図である。
【図7】2回目の陽極酸化処理後に得られた多孔質層(厚さ3μm)について、開口面の表面形状をAFMにて観察した結果を示すものであり、(a)は表面形状の3次元イメージ図、(b)は(a)中A−B線における断面図である。
【図8】(a)は2回目の陽極酸化処理後に得られた多孔質層(厚さ3μm)についてのSEM写真であり、(b)は(a)中の細孔付近を拡大したSEM写真である。
【図9】多孔質層上に金(Au)を蒸着して得られた分析用チップについて、開口面側の表面形状をAFMにて観察した結果を示すものであり、(a)は表面形状の3次元イメージ図、(b)は(a)中A−B線における断面図である。
【図10】(a)は本発明の分析用チップを用いてグルコース溶液を分析して得られた吸収スペクトルであり、(b)は(a)に示す吸収スペクトルのうち波長800nm〜845nmの拡大図である。
【図11】(a)は金属層のない分析用チップを用いてグルコース溶液を分析して得られた吸収スペクトルであり、(b)は(a)に示す吸収スペクトルのうち波長805nm〜835nmの拡大図である。
【図12】(a)はグルコース濃度と吸光度変化量との関係を示す図であり、(b)はグルコース濃度と波長シフト変化量との関係を示す図である。
【図13】本発明の分析用チップを用い、多孔質層の膜厚を種種変化させたときに得られる吸収スペクトルである。
【図14】多孔質層の膜厚と吸収ピークの平均値との関係、及び、多孔質層の膜厚と波長400nm〜850nmで現れた吸収ピーク数との関係を示す図である。
【図15】膜厚3μmの多孔質層を持つ分析用チップを用い、プローブDNAに対する相補的DNAやミスマッチDNA等をハイブリダイゼーションした後に分析して得られた吸収スペクトルである。
【図16】(a)は多孔質層の膜厚と金属層へのプローブDNAの固定化後又は相補的DNAの結合後における吸光度変化との関係を示す図であり、(b)は多孔質層の膜厚と金属層へのプローブDNAの固定化後又は相補的DNAの結合後における波長シフトとの関係を示す図である。
【図17】(a)は各種濃度のサンプルDNA溶液を本発明の分析用チップを用いて測定して得られた吸収スペクトルであり、(b)は(a)に示す吸収スペクトルのうち波長800nm〜840nmの拡大図である。
【図18】(a)はターゲットDNA濃度と吸光度変化との関係を示す図であり、(b)はターゲットDNA濃度と波長シフトとの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0070】
1 分析用チップ、2 基材、3 多孔質層、4 開口面、5 金属層、6 細孔、11 酸化膜、12 陽極酸化アルミナ皮膜、13 孔、21 蒸着装置、22 真空容器、23 ステージ、24 蒸着源、25 チップ、31 分析装置、32 入射光ファイバ、33 反射光検出ファイバ、34 光学プローブ、35 タングステンハロゲン光源、36 分光光度計
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の対象物質を検出又は定量するための新規な分析用チップ及びその製造方法、分析装置、並びに分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体物質の有する分子認識機能を利用して試料中の対象物質を検出又は定量する、いわゆるバイオセンサと呼ばれる分析装置の開発が盛んに行われている。しかしながら通常のバイオセンサでは生体物質を酵素や蛍光物質等で標識しなければならず分析操作が煩雑であるといったデメリットがあることから、標識不要な分析方法の開発が望まれている。
【0003】
非標識で分析可能なセンサとしては、誘電体や半導体等の表面に金属微粒子が層状に固定されているような微細構造をセンサユニットとし、局在プラズモン共鳴(Localized surface plasmon resonance, LSPR)を応用して試料の屈折率を測定し、そこに含まれる物質を定量するセンサが知られている。すなわち、金属微粒子部分に測定光を照射し、透過又は反射した光の強度を測定するが、特定の波長でLSPRが生じて光の散乱や吸収が著しく増大するため、その波長の光の強度が顕著に減少する。このLSPRの発生する波長及び強度は金属微粒子の周辺に存在する物質の屈折率に依存し、屈折率が大きいほど長波長側にシフトし、散乱や吸収が大きくなることが知られている。このようなLSPRを利用したセンサの具体的な構造としては、例えば特許文献1において、基板表面に金属微粒子を単層膜の状態で固定した構造が提案されている。
【0004】
ところで、前記特許文献1に記載される構造のセンサユニットにおいてピーク変化のばらつきを抑えるためには、金属微粒子の形状や大きさのばらつきを均一に制御し、基板全面にわたって偏り無く固定することが重要となる。しかしながら、形状や大きさのばらつきのない微小な金属微粒子を得るには高度な製造技術が要求され、コストの増大を招くという問題点がある。また、基板全面にわたって金属微粒子を均一に並べることも技術的に難しい。
【0005】
そこで、特許文献2においては、層面に対して略垂直方向に複数の独立細孔を形成した層状の陽極酸化アルミナと、陽極酸化アルミナの独立細孔のそれぞれに充填され互いに孤立して形成した金属粒子とを一体に備えた構造体を、LSPRを利用したセンサとして用いることが提案されている。特許文献2に記載の構造は、径、間隔、深さを比較的自由に制御できる陽極酸化アルミナの細孔内に金属微粒子を充填して形成するので、金属微粒子を均一サイズで作製できると共に、金属微粒子を規則正しく配置することができるという利点がある。この構造体は、複数の細孔の開口した陽極酸化アルミナ上に金属を被着させた後、陽極酸化アルミナの細孔開口面上の金属被着体を除去することによって作製される。また、特許文献3においては、LSPRを応用したセンサに使用される微細構造体が形成されており、この微細構造体は、一表面に複数の微細孔が形成された層状の基体と、この基体の前記微細孔内に充填された金属微粒子と、この金属微粒子と概略その径以下の距離をおいた状態で前記一表面において前記微細孔の周囲部分に形成された金属薄膜とから構成される。
【0006】
一方、生体物質の特異的結合を利用して試料中の対象物質を検出する方法として、干渉分光法を利用した分析方法も知られている。干渉分光法を利用した分析方法とは、例えば陽極酸化アルミナ基板等の規則的な微細孔に光を照射し、反射光の干渉を測定する物であり、微細孔内に試料を添加すると、微細孔内部の壁で起こる物質間の相互作用(結合)により、干渉光の波長のずれが生じ、その程度が結合量を反映することを利用したものである。このような原理を利用した分析のためのセンサ構造については、例えば被特許文献1,2等において提案されている。例えば非特許文献1においては、直径200nm程度の細孔が規則的に配列された多孔質シリコン層を形成し、この細孔内部に例えばDNAプローブ等を固定化したものをセンサとして用いている。また、前記非特許文献1の改良も試みられており、例えば非特許文献2においては、多孔質シリコンに代えて多孔質アルミニウム酸化物を用いることが提案されている。
【特許文献1】特開2000−356587号公報
【特許文献2】特開2003−268592号公報
【特許文献3】特開2004−232027号公報
【非特許文献1】Science,Vol.278, 840-843頁,1997年
【非特許文献2】Nano Lett., Vol.3, No.6, 811-814頁,2003年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載される構造体は、特許文献1のセンサユニットに比較するとその作製は容易であるものの、陽極酸化アルミナの独立細孔に金属を充填するための蒸着に長時間が必要となり、また、蒸着後に開口面に堆積した金属の除去操作が煩雑であり、製造工程のさらなる簡略化が求められている。
【0008】
また、特許文献1,2に記載されるようなピーク波長の吸光度変化や、被特許文献1,2に記載されるようなピーク波長シフト等、様々な情報から試料中の物質の検出が可能であるものの、各情報を得るには各原理に対応した専用の分析用チップ等を用いて分析を行わなければならない。そのため、例えば分析の正確性を期することを目的として1つの事象を複数の原理に基づき多面的に分析したいような場合のように、それぞれの分析方法を試そうとするとコストの大幅な上昇を招くこととなる。
【0009】
なお、特許文献1〜3等に記載されるLSPRを利用したバイオセンサにおいては、物質の吸着によってピーク波長の吸光度変化だけでなくピーク波長のシフトも生じることは知られているものの、そのシフト量は小さく、例えばシフト量を指標とした定量分析等は不可能である。また、ノイズも多く、安定した測定結果を得ることは難しい。
【0010】
本発明はこのような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、LSPRによる測定結果である吸収ピークの吸光度変化と干渉分光法による測定結果である吸収ピーク波長のシフトとの両方において大きな変化量を得ることが可能な分析用チップを提供することを目的とする。また、本発明は、前記分析用チップを比較的容易に製造することが可能な分析用チップの製造方法を提供することを目的とする。さらには、本発明は、前記分析用チップを用いた分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述の目的を達成するために、本発明者らは長期にわたり検討を重ねてきた。その結果、LSPRによる吸光度変化を利用して物質の吸着等を検出するためには前述の特許文献1,2等のように互いに孤立した金属微粒子を規則的に配列させる必要があると思われてきたが、高度な規則性を持つ陽極酸化アルミナ皮膜等のような多孔質層の開口面と細孔の開口部近傍の孔壁面との両方に金属を成膜するという極めて単純な構造であっても、LSPRにより特定波長において大きな吸光度変化を得ることができ、そればかりか、規則的な多孔質構造による光の干渉効果も大きく得ることができ、この光の干渉効果とLSPRとが相俟って波長シフトについても変化量が大きくなるという知見を得、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明に係る分析用チップは、互いに平行な方向に延びる多数の細孔が略等間隔に配列され、前記細孔が一方の面に開口した多孔質層と、前記多孔質層の開口面上に形成された金属層とを備え、前記金属層が前記多孔質層の開口面上と前記細孔の開口部近傍の孔壁面とに形成されていることを特徴とする。
【0013】
以上のような分析用チップの吸収スペクトルを測定すると、前述した構造を有する多孔質層の表面と細孔内部の開口部近傍とに形成した金属層が存在することで、LSPRが生じ、特定の波長に吸収ピークが観察され、金属層近傍に物質が吸着又は堆積すると、吸収ピークが増大する。特に、多孔質層の表面のみならず多孔質層の細孔内部の開口部近傍にも金属層を設けることで、吸収ピークの変化量は大きなものとなる。このことから、この吸光度変化を指標として物質の検出又は定量が実現される。
【0014】
また、本発明の分析用チップは、互いに平行な方向に延びる細孔が略等間隔に配列された多孔質層の構造に起因して、吸収ピークの吸光度変化のみならず、吸収ピークの波長シフト変化量も非常に大きなものとなる。すなわち、本発明の分析用チップの金属層近傍に例えば物質が吸着又は堆積すると、細孔内の光の屈折率が変化し、光の干渉効果に起因した吸収ピーク波長のシフトが生じることから、この波長シフトを指標として物質の検出又は定量が実現される。
【0015】
そして、以上のような分析用チップを用いることで、前述したような光の干渉効果とLSPRとの相乗効果により、吸収ピーク変化量と波長シフト変化量とが非常に大きなものとなり、高感度な分析が実現される。
【0016】
また、本発明に係る分析用チップの製造方法は、互いに平行な方向に延びる多数の細孔が略等間隔に配列され、前記細孔が一方の面に開口した多孔質層を形成した後、前記細孔の孔壁面に対して傾いた方向から金属材料を被着し、前記多孔質層の開口面上と前記細孔の開口部近傍の孔壁面とに金属層を形成することを特徴とする。
【0017】
以上のような分析用チップの製造方法においては、細孔の孔壁面に対して傾いた方向から金属材料を被着するといった容易な操作にて、多孔質層の開口面と細孔の開口部近傍の孔壁面との両方に金属層を形成することができる。このとき、細孔への金属材料の充填操作や開口面上に形成した金属層の除去操作は不要であり、分析用チップが簡単に作製される。
【0018】
さらに、本発明に係る分析装置は、前記分析用チップと、光源と、検出器と、分光器とを備えることを特徴とする。本発明に係る分析方法は、前記分析装置を用い、局在プラズモン共鳴及び干渉効果による吸光度変化と波長シフトとの両方に基づいて試料中の対象物質を検出又は定量することを特徴とする。
【0019】
以上のような分析装置を用いて試料中の物質を分析する際には、前述の分析用チップに対して光源から光を照射し、反射光を検出器で測定し、分光器で分光して吸収スペクトルを得る。そして、特定波長に生じている吸収ピークの吸光度変化と波長シフトとのいずれかから、物質の検出又は定量が実現される。したがって、本発明の分析用チップを用いた分析装置を用いることで、LSPRの原理を利用した分析と、光の干渉を利用した分析との2種類の分析結果が得られ、これによって物質の検出又は定量分析が実現される。
【発明の効果】
【0020】
以上のような分析用チップを用いた分析装置によれば、試料中の物質の検出又は定量を、LSPR及び光の干渉効果に起因する吸収ピークの吸光度変化とピーク波長シフトとの両方から知ることができ、しかもこれらの変化量は従来の構造のセンサを用いた場合に比較して顕著に大きなものとなる。すなわち、本発明の分析用チップを用いて分析を行うことで、既存の分析装置やセンサー等に比較して高感度な分析を実現することができる。また、物質を検出又は定量するに際して、吸収ピークの吸光度変化及びピーク波長シフトのいずれの結果を利用するか使用者が任意に選択することができ、多様な分析が可能となる。
【0021】
また、以上のような分析用チップの製造方法によれば、1種類のチップで複数種類の原理に基づく分析が可能であり、且つ高感度分析を実現可能な分析用チップを容易に製造することができる。
【0022】
さらに、以上のような分析装置によれば、1回の分析で吸収ピークの吸光度変化、及び、ピーク波長シフトという2種類の情報を得ることができ、多面的且つ高感度な分析を行うことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明に係る分析用チップ及びその製造方法、この分析用チップを用いた分析装置、並びにこの分析装置を用いた分析方法について、詳細に説明する。
【0024】
先ず、本発明の分析用チップの構造について説明する。図1に示すように、本発明の分析用チップ1は、基材2上に形成された多孔質層3と、多孔質層3の開口面4の表面と多孔質層3に設けられた細孔6の開口部近傍の孔壁面との両方に形成された金属層5とを備えている。
【0025】
多孔質層3は、互いに平行な方向に延びる多数の細孔6を有している。多孔質層3の細孔6が開口した側の面が開口面4とされる。細孔6同士は略等間隔に配列されており、これによって干渉分光法を利用した波長シフトの変化量を大きなものとすることができ、干渉分光法を利用した定量分析にも確実に対応することが可能となる。開口面4の表面形状は各細孔6を中心として凹んだような凹凸状でもよく、また、平坦であってもよい。
【0026】
多孔質層3の細孔6の径及び深さは、実質的に等しくされていることが望ましい。ここで、細孔6の径は、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)で測定される開口径が40nm〜80nmの範囲内であることが望ましい。また、細孔6の深さは、分析用チップを用いて得られた吸収スペクトルから、多孔質層の各深さにおける吸収ピークの吸光度の平均値と測定波長領域で現れた吸収ピーク数とを調べた結果、深さが0.5μm〜3μmの範囲内であることが望ましい。細孔6の具体的な寸法は、多孔質層3の材料や分析対象等に応じて適宜設定すればよいが、例えば直径60nm程度とされる。
【0027】
多孔質層3を構成する材料としては、特に限定されないが、例えばSi等の半導体、樹脂や金属酸化物のような絶縁体等を用いることができる。中でも、細孔6が表面に対してほぼ垂直に且つ互いに略等間隔に平行して配列するハニカム構造をとり、細孔6の径及び深さの制御が比較的容易であることから、多孔質層3を陽極酸化アルミナ皮膜で形成することが好ましい。
【0028】
多孔質層3が陽極酸化アルミナ皮膜からなる場合、基材2はアルミニウムにより構成される。ただし、基材2の全体がアルミニウムで構成される必要はなく、少なくとも基材2の表面にアルミニウムが存在していればよい。
【0029】
本発明の金属層5は多孔質層3の開口面4の表面に形成されている必要がある。このように金属層5を配することにより、この分析用チップ1を用いた1回の分析で局在プラズモン共鳴(Localized surface plasmon resonance, LSPR)によるピーク波長の吸光度変化の情報を得ることができる。また、本発明の分析用チップ1においては、金属層5は、開口面4の表面だけでなく、細孔6の開口部近傍の孔壁面にも形成される。開口面4の表面に金属層5が存在するだけでもLSPRの結果は得ることは可能であるものの、その効果を安定して且つ大きく得るうえでは、細孔6の開口部近傍の孔壁面も金属層5で覆うことが重要となる。さらに、細孔6の開口部近傍にも金属層5を形成することで、開口面4の表面だけの場合に比較して、チップあたりの金属層5の表面積の拡大が図られ、被検物質と相互作用する抗体や核酸等の生体成分の固定化密度を高めることができる。
【0030】
なお、図1においては、金属層5が開口面4の全面を被覆した状態を示しているが、金属層5は開口面4上の少なくとも一部に存在していればよく、例えば金属層5によって被覆されずに多孔質層3が表面に露出している領域が存在してもよい。
【0031】
本発明においては、多孔質層3の細孔6の内部に金属層5を構成する材料を存在させないようにする。これにより、LSPRの結果だけでなく干渉分光の結果も確実に得ることができる。一方、細孔6の内部に金属材料を充填すると、多孔質層3の規則性が崩れ、干渉分光法を利用した結果を安定して得ることができなくなる。
【0032】
金属層5を構成する材料としては、LSPRを得ることのできる公知の金属材料を用いることができる。具体的には金、銀等が例示され、中でも蒸着が容易で化学的に安定であること等の理由から、金属層5には金が含まれることが好ましい。
【0033】
金属層5は単層でもよいが、例えば図2に示すように、多孔質層3に接する第1金属層5aと、第1金属層5a上に形成される第2金属層5bとの2層構造としてもよい。特に、多孔質層3が陽極酸化アルミナ皮膜からなる場合、第1金属層5aがクロム(Cr)層であり、第2金属層5bが金(Au)層であることが好ましい。前記分析用チップ1においては、金属層5は主に細孔6の外側、すなわち多孔質層3の開口面4表面に設けられるため、細孔6内に金を充填する場合に比べて、金が剥離し易いことが問題となる。これに対して、アルミナからなる多孔質層3と金からなる金層(第2金属層5b)との間にクロム層(第1金属層5a)を介在させることで、金の密着性を高めて剥離を防止することができる。下地となる第1の金属層5aには、前述のクロムの他、チタニウム(Ti)、ニッケル(Ni)等を用いることも可能である。
【0034】
分析用チップ1が生体物質の有する分子認識機能を利用したバイオセンサーとして用いられる場合、金属層5の表面には試料中の分析対象物質を認識するための分子が固定される。金属層5の表面に固定される分子としては、例えば抗体、抗原、核酸、核酸結合蛋白質、レセプター、リガンド等、分子認識機能を有する公知の物質を用いることができる。
【0035】
以下、本発明の分析用チップ1の製造方法について、多孔質層3が陽極酸化アルミナ皮膜からなり、金属層5がクロムからなる第1の金属層5aと金からなる第2の金属層5bとの2層構造とされた分析用チップ1を例に挙げ、詳細に説明する。
【0036】
先ず、アルミニウムからなる基材2を準備する(図3(a))。アルミニウムからなる基材2の表面には、通常、アルミナ(Al2O3)からなる酸化膜11が形成されている。
【0037】
次に、研磨工程を行うことにより、基材2の表面に形成された酸化膜11を除去し、アルミニウムからなる基材2を露出させる(図3(b))。この研磨工程により、基材2の表面に存在する大きなうねりも平坦化される。具体的には、機械的研磨を行った後、電解研磨を行う。
【0038】
次に、陽極酸化処理によって陽極酸化アルミナ皮膜からなる多孔質層3を形成する。陽極酸化アルミナ皮膜からなる多孔質層3は、1回の陽極酸化処理で形成することも可能であるが、多孔質層3における細孔6の径及び深さを均一とし、且つ細孔6を高度に規則的に配列させる観点より、以下に説明するように陽極酸化処理を2回行って形成することが好ましい。
【0039】
具体的には、先ず、1回目の陽極酸化処理を行う。1回目の陽極酸化処理は、例えば印加電圧を30V〜50V程度、シュウ酸電解液等を用いて行う。これにより、アルミニウムからなる基材2の表面に陽極酸化アルミナ皮膜12が形成される(図3(c))。ここで得られる陽極酸化アルミナ皮膜12も広い意味での多孔質構造を形成しているが、各孔13の形状は内部で膨張したような形状であり、その径及び深さも均一ではない。また、陽極酸化アルミナ皮膜12の表面における凹凸の分布や高さも不均一である。したがって、この段階の陽極酸化アルミナ皮膜12を分析用チップに用いると、正確な測定が難しくなるおそれがある。
【0040】
そこで、1回目の陽極酸化処理で得られる陽極酸化アルミナ皮膜12をエッチングにより除去してアルミニウムからなる基材2を露出させ、再度、陽極酸化処理を行うことによって、陽極酸化アルミナ皮膜からなる多孔質層3を得ることが好ましい。
【0041】
図3(d)は、1回目の陽極酸化処理で得られる陽極酸化アルミナ皮膜12を除去した後の状態を示している。この段階で露出したアルミニウム基材2の表面には、ナノオーダーの微小な凹凸パターンが規則的に配置されている。陽極酸化アルミナ皮膜12のエッチングには、例えばリン酸やクロム酸を用いることができる。
【0042】
図3(e)は、2回目の陽極酸化処理後に得られる陽極酸化アルミナ皮膜からなる状態を示している。2回目の陽極酸化処理は、例えば印加電圧を30V〜50V程度、シュウ酸電解液等を用いて行う。これにより、陽極酸化アルミナ皮膜からなる多孔質層3が完成する。ここで、2回目の陽極酸化処理においては、アルミニウム基材2表面の微小な凹凸パターンに基づき、基材2の主面に略垂直方向に陽極酸化アルミナ皮膜が自己整合的に成長する。したがって、径及び深さが均一で、互いに等間隔に規則的に配列された細孔6を持つ多孔質層3を形成することが可能となる。
【0043】
陽極酸化アルミナ皮膜からなる多孔質層3を形成した後、多孔質層3の開口面4に金属材料を被着し、金属層5を形成する。このとき、細孔6の孔壁面に対して斜め方向から金属材料を被着する。金属材料の被着は、蒸着、スパッタ等により実現することができる。
【0044】
金属材料の蒸着は、例えば図4に示すような真空蒸着装置21を用いて実現することができる。この真空蒸着装置21は、真空容器22内のステージ23上に、金属層5の原料24を収容した蒸着源が載置され、開口面4を下向きとして複数のチップ25を支持可能な構成とされている。ここで、蒸着源24と2次元状に並べられた複数のチップ25との配置を適切に設定すると、チップ25に対して金属層の原料24は点状とみなすことができる。このような関係にあるとき、蒸発した金属材料の多くは多孔質層3の孔壁面に対して斜め方向から入射するので、結果として、多孔質層3の開口面4、又は開口面4と細孔6の孔壁面の開口部近傍とに金属材料を選択的且つ容易に被着することができる。多孔質層3の開口面4上に形成された金属層5は除去することなくそのまま分析用チップ1として用いる。以上のようにして、図1に示す構造の分析用チップ1が完成する。
【0045】
以下、本発明の分析用チップ1を用いた分析装置について説明する。
図5に示す分析装置31は、分析用チップ1の金属層5が設けられた面に対して測定光Iを入射させる光源である入射光ファイバ32と分析用チップ1から反射した反射光Rを検出する検出器である反射光検出ファイバ33とを備えた光源プローブ34と、タングステンハロゲン光源35と、検出器33で検出された光を分光する分光光度計36と、分光光度計36で得られた結果を処理するコンピュータ37とを備えている。光学プローブ34においては、検出器33を取り巻くように複数の光源32が配置され、検出器33と光源32とが一体化されている。
【0046】
以上のような分析装置31を用いて試料中の物質を検出又は定量する場合には、以下のようにする。先ず、分析用チップ1の金属層5の表面に分析対象物質を認識する分子を予め固定しておく。次に、この分析用チップ1の金属層5と試料溶液とを接触させて反応させる。その後、光源32から測定光Iを照射して得られる反射光Rを検出器33で検出し、分光光度計36で分光して吸収スペクトルを得る。
【0047】
図6は、本発明の分析装置により得られる吸収スペクトルの一例である。金属層5に固定された分子に分析対象物質が結合すると、金属層5の近傍の屈折率等が変化し、その結果、得られる吸収スペクトルにおいては、LSPRを利用した分析の結果として、吸収ピーク強度が結合前に比べて増大する。このため、この吸光度変化を指標として、物質の検出が実現される。また、得られる吸収スペクトルにおいては、干渉分光を利用した分析の結果として、分析対象物質の結合前後で波長シフトも観察される。この波長シフト量は比較的大きなものであることから、これを指標とした分析対象物質の検出も可能である。さらには、結合した分析対象物質の量に応じた吸収ピークの吸光度変化量及び波長シフト量が得られるため、これらのいずれかを指標として、分析対象物質の定量も可能である。以上のように、分析装置31に用いられる分析用チップ1の表面への物質の吸着が、当該分析用チップ1に光を照射したとき、局在プラズモン共鳴及び干渉効果による吸光度変化及び波長シフトとして観察されるので、この2つの情報に基づき、試料中の分析対象物質の検出及び定量を行うことが可能となる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例について、実験結果を参照しながら説明する。
【0049】
<実験1:分析用チップの作製>
先ず、1cm四方のアルミニウム基材を用意し、480℃で40分間アニーリングした。次に、ダイヤモンド懸濁液を用いた機械研磨、その後、電解研磨を行うことにより基材表面の酸化膜を除去した。電解研磨は70℃で10分間、電流1.3Aとした。電解研磨で用いた酸性溶液はH3PO4とH2SO4とH2Oとを8.5:1:0.5の割合で混合し、35g/LのCrO3を含んでいる。
【0050】
次に、1回目の陽極酸化処理を行った。陽極酸化処理は、10℃で10〜100分間、印加電圧40Vの条件で行い、0.3Mシュウ酸溶液を用いた。
【0051】
次に、1回目の陽極酸化処理で形成された陽極酸化アルミナ皮膜(Al2O3)を除去した。陽極酸化アルミナ皮膜の除去には、H3PO4とH2Oとを8:2の割合で含む溶液に50g/LのCrO3を加えたものを用いた。これによりアルミニウム基材が露出した。アルミニウム基材の表面には、高さ7nm程度の微小な凹凸が形成されていた。
【0052】
その後、2回目の陽極酸化処理を行った。2回目の陽極酸化処理は、1回目と同様、10℃、印加電圧40Vの条件で行い、0.3Mシュウ酸溶液を用いた。これにより、厚さ3μmの陽極酸化アルミナ皮膜からなる多孔質層が得られた。
【0053】
ここで、2回目の陽極酸化処理後に得られた多孔質層について、開口面の表面形状を原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)にて観察した。結果を図7(a)に示す。また、図7(a)中のA−B線における拡大断面を図7(b)に示す。さらに、前記多孔質層の開口面と側面との境界部付近を走査型電子顕微鏡(Scanning Electrone Microscope:SEM)により観察した。結果を図8に示す。
【0054】
2回の陽極酸化処理で得られた陽極酸化アルミナ皮膜の細孔は図8に示すように膜面に対して垂直方向に形成されており、その径及び深さは殆ど等しかった。また、図7に示すように、細孔は互いに等間隔に、規則的に配列されていることがわかる。各細孔の径は60nm、セルの大きさは120nmであった。なお、AFMイメージである図7において描かれる細孔は、深さが深くなるに従って開口面積が減少していくような形状とされており、図8に示すSEM写真における細孔形状と異なっている。これは、細孔の径に比べてAFM観察に用いたカンチレバーが大きく、カンチレバーが細孔内部表面に追従できなかったためと推測される。
【0055】
以上のように陽極酸化アルミナ皮膜からなる多孔質層を形成した後、図4に示すような真空蒸着装置(Sanyu Electron社製、SVC-700TM/700-2)を用いて多孔質層の開口面上に金属材料を真空蒸着し、金属層を形成した。具体的には、多孔質層が形成されたチップを20枚用意し、開口面を下に向け、蒸発した金属が孔壁面に対して斜め方向で被着する位置にセットした。金属材料の付着を防ぐ目的で、蒸着源とチップ支持体との間の真空容器内壁をアルミニウム箔で覆った。その後、真空容器内を減圧し蒸着を行った。先ず初めにクロム(Cr)を蒸着し、その後金(Au)を蒸着した。蒸着の間、チップは移動させなかった。その結果、多孔質層の開口面上と細孔の孔壁面の開口部近傍との両方に、厚さ5nmのクロム層と厚さ15nmの金層とがこの順に積層された2層構造の金属層が形成された。以上により、分析用チップが完成した。
【0056】
多孔質層の開口面に金属層を形成した後、表面形状をAFMにて観察した。結果を図9(a)に示す。また、図9(a)中のA−B線における拡大断面を図9(b)に示す。図9より、多孔質層の開口面上に金属層が形成されていること、また、蒸着前(図7(b))に比較して表面の開口部の径が47nmと狭くなっており、多孔質層の開口面だけでなく開口部近傍の孔壁面にも金属材料が被着していることがわかる。
【0057】
<実験2:金属層の有無の検討>
次に、以上のように作製した分析用チップを図5に示すような分析装置に用い、グルコース溶液の分析を行った。分析用チップにおける多孔質層の膜厚は3μmであった。
【0058】
先ず、0〜10mg/mLのグルコース溶液を調製した。グルコースは乾燥粉末の状態で入手し、18.3MΩ、pH7.4の超純水(ミリポア社製)に溶解して用いた。次に、グルコース溶液の分析を行った。具体的には、超純水で調製された0〜10mg/mLのグルコース溶液をそれぞれ分析用チップの表面にのせた後、5分後、溶液に浸けた状態のままグルコース濃度変化に対する吸収スペクトルの変化を観察した。得られた吸収スペクトルを図10に示す。また、比較として、金属層を形成する前の段階の分析用チップ、すなわち、陽極酸化アルミナ皮膜からなる多孔質層のみを用いて、金属層有りの場合と同様にグルコース濃度変化に対する吸収スペクトルの変化を観察した。結果を図11に示す。さらに、図10及び図11から把握されるグルコース濃度と吸光度変化量との関係を図12(a)に、グルコース濃度と波長シフト変化量との関係を図12(b)に示す。
【0059】
図12より、金属層のない分析用チップ(金(Au)蒸着前)を用いた場合、グルコースの吸着による吸光度変化は認められなかった。なお、波長シフトは認められたもののその変化量はわずかであった。これに対し、本発明の分析用チップ(金(Au)蒸着後)を用いることで、グルコースの吸着によって波長シフトと吸光度変化との両方が観察されるようになり、金属層がない場合に比べてこれらの変化量も大幅に増加した。以上の結果より、本発明の分析用チップを用いた分析装置によって、波長シフトと吸光度変化との両方を指標として、グルコースの非特異的吸着の検出が可能であることが確認された。
【0060】
<実験3:DNA検出>
本実験においては、本発明の分析用チップを用いて試料中のプローブDNAの検出を試みた。先ず、実験に先立ち、多孔質層の膜厚と吸光度変化との関係について調べた。
【0061】
2回目の陽極酸化処理を行う際、陽極酸化処理の時間を10〜100分間の間で変化させることにより、多孔質層の膜厚を0.5μm、1μm、2μm、3μm、4μm、5μmと変化させた。それ以外は実験1と同様にして分析用チップを作製した。得られた分析用チップを用いて得られた吸収スペクトルを図13に示す。なお、図13は、金属層形成後の結果である。また、図13における吸収スペクトルから、多孔質層の各厚さにおける吸収ピークの吸光度の平均値と測定波長領域で現れた吸収ピーク数とを調べた。結果を図14に示す。図13、図14より、多孔質層の膜厚を厚くしていくことでピークにおける吸光度の平均値は次第に小さくなる傾向を示していた。この結果より、以下の実験では、適度なピーク数及び吸光度強度が得られる3μmを、多孔質層の厚みとして主に設定することとした。
【0062】
次に、金属層にプローブDNAを固定し、これに相補的なDNAやミスマッチDNA等を作用させたときの変化を調べた。先ず、プローブDNAとして5’末端にチオール基を有するDNAを用意し、これをTEバッファー(10mM Tris、1mM EDTA、pH7.4)に溶解し、本発明の分析用チップと反応させることにより、金層の表面にプローブDNAを固定した。
【0063】
次に、TEバッファーのみ、ミスマッチDNAを含むTEバッファー、及び、相補的DNAを含むTEバッファーを用意し、これらを試料溶液としてプローブDNA固定化分析用チップと接触させ、ハイブリダイズした。反応後、吸収スペクトルを測定した。また、金蒸着前の多孔質層のみの分析用チップ、金蒸着後の分析用チップ(プローブDNAなし)についても各種試料溶液を作用させ、吸収スペクトルを測定した。多孔質層の膜厚を0.5μm、1μm、2μm、3μm、4μm、5μmとした分析用チップについてそれぞれ検討した。代表として、多孔質層の膜厚が3μmである分析用チップを用いたときの結果を図15に示す。
【0064】
また、多孔質層の膜厚と金属層へのプローブDNAの固定化後又は相補的DNAの結合後における吸光度変化との関係を図16(a)に、多孔質層の膜厚と金属層へのプローブDNAの固定化後又は相補的DNAの結合後における波長シフトとの関係を図16(b)に示す。なお、本実験で用いたプローブDNAやターゲットDNAは乾燥粉末の状態で入手し、TEバッファー(10mM Tris、1mM EDTA、pH7.4)に溶解して用いた。各DNAの塩基配列を下記表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
図16(a)、(b)に示すように、相補的DNAが結合すると、多孔質層の膜厚が厚くなっても、吸光度変化量と波長シフト量は多孔質層膜厚によらずほぼ一定であった。仮に多孔質層の開口面及び孔壁面を含む多孔質層の表面全体が金属層で被覆されているのであれば、多孔質層の膜厚(細孔の深さ)が異なると孔壁面に形成される金属層の厚みも変わるため、多孔質層の膜厚に応じて吸光度変化量と波長シフト量が異なってくると考えられる。ところが実際には、図16(a)、(b)に示すように、吸光度変化量と波長シフト量は多孔質層膜厚によらずほぼ一定であった。このことから、金属材料は細孔内部には殆ど進入せず、多孔質層の開口面及び孔壁面の開口近傍に止まっていると考えられる。
【0067】
次に、ターゲットDNA(相補的DNA)濃度が1fM〜100μMとされた試料溶液を調製し、前記プローブDNAが固定された分析用チップを用いた分析装置によって吸収スペクトルを測定した。なお、プローブDNAを固定していない未処理の分析用チップ、及び、プローブDNAを固定したのみで試料溶液と接触させていない分析用チップについても同様に吸収スペクトルを測定した。結果を図17に示す。また、試料溶液中のDNA濃度と吸光度変化との関係を図18(a)に、試料溶液中DNA濃度と波長シフトとの関係を図18(b)にそれぞれ示す。
【0068】
図18(a)より、試料溶液中のDNA濃度と吸光度変化とは、DNA濃度10pM〜10μMの範囲内で直線関係にあった。また、図18(b)より、試料溶液中のDNA濃度と波長シフトも、吸光度変化と同じくDNA濃度10pM〜10μMの範囲内で直線関係にあった。この結果より、吸光度変化と波長シフトのうち任意の一方と、分析対象物質濃度との関係を予め求めておくことで、試料中の分析対象物質の定量分析が可能であることがわかった。また、吸光度変化と波長シフトのどちらを指標とした場合も同じ結果を得ることができ、正確な定量分析が可能であることがわかった。さらに、本発明の分析用チップを用いた分析装置によって、10pMという高感度分析が可能であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の分析用チップの一例を示す概略断面図である。
【図2】図1に示す分析用チップの金属層近傍を拡大して示す断面図である。
【図3】本発明の分析用チップの製造方法の一例を説明するための図であり、(a)は基材2、(b)は研磨工程、(c)は1回目の陽極酸化工程、(d)はエッチング工程、(e)は2回目の陽極酸化工程を示す。各図中、上段はAFMによる表面イメージ、下段は概略断面図である。
【図4】金属層の形成に用いられる蒸着装置の一例を示す模式図である。
【図5】本発明の分析装置の一例を示す模式図である。
【図6】本発明の分析装置により得られる吸収スペクトルの一例であり、金属層近傍への物質の吸着の前後の状態を示す図である。
【図7】2回目の陽極酸化処理後に得られた多孔質層(厚さ3μm)について、開口面の表面形状をAFMにて観察した結果を示すものであり、(a)は表面形状の3次元イメージ図、(b)は(a)中A−B線における断面図である。
【図8】(a)は2回目の陽極酸化処理後に得られた多孔質層(厚さ3μm)についてのSEM写真であり、(b)は(a)中の細孔付近を拡大したSEM写真である。
【図9】多孔質層上に金(Au)を蒸着して得られた分析用チップについて、開口面側の表面形状をAFMにて観察した結果を示すものであり、(a)は表面形状の3次元イメージ図、(b)は(a)中A−B線における断面図である。
【図10】(a)は本発明の分析用チップを用いてグルコース溶液を分析して得られた吸収スペクトルであり、(b)は(a)に示す吸収スペクトルのうち波長800nm〜845nmの拡大図である。
【図11】(a)は金属層のない分析用チップを用いてグルコース溶液を分析して得られた吸収スペクトルであり、(b)は(a)に示す吸収スペクトルのうち波長805nm〜835nmの拡大図である。
【図12】(a)はグルコース濃度と吸光度変化量との関係を示す図であり、(b)はグルコース濃度と波長シフト変化量との関係を示す図である。
【図13】本発明の分析用チップを用い、多孔質層の膜厚を種種変化させたときに得られる吸収スペクトルである。
【図14】多孔質層の膜厚と吸収ピークの平均値との関係、及び、多孔質層の膜厚と波長400nm〜850nmで現れた吸収ピーク数との関係を示す図である。
【図15】膜厚3μmの多孔質層を持つ分析用チップを用い、プローブDNAに対する相補的DNAやミスマッチDNA等をハイブリダイゼーションした後に分析して得られた吸収スペクトルである。
【図16】(a)は多孔質層の膜厚と金属層へのプローブDNAの固定化後又は相補的DNAの結合後における吸光度変化との関係を示す図であり、(b)は多孔質層の膜厚と金属層へのプローブDNAの固定化後又は相補的DNAの結合後における波長シフトとの関係を示す図である。
【図17】(a)は各種濃度のサンプルDNA溶液を本発明の分析用チップを用いて測定して得られた吸収スペクトルであり、(b)は(a)に示す吸収スペクトルのうち波長800nm〜840nmの拡大図である。
【図18】(a)はターゲットDNA濃度と吸光度変化との関係を示す図であり、(b)はターゲットDNA濃度と波長シフトとの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0070】
1 分析用チップ、2 基材、3 多孔質層、4 開口面、5 金属層、6 細孔、11 酸化膜、12 陽極酸化アルミナ皮膜、13 孔、21 蒸着装置、22 真空容器、23 ステージ、24 蒸着源、25 チップ、31 分析装置、32 入射光ファイバ、33 反射光検出ファイバ、34 光学プローブ、35 タングステンハロゲン光源、36 分光光度計
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに平行な方向に延びる多数の細孔が略等間隔に配列され、前記細孔が一方の面に開口した多孔質層と、前記多孔質層の開口面上に形成された金属層とを備え、前記金属層が前記多孔質層の開口面上と前記細孔の開口部近傍の孔壁面とに形成されていることを特徴とする分析用チップ。
【請求項2】
前記多孔質層が陽極酸化アルミナ皮膜であることを特徴とする請求項1記載の分析用チップ。
【請求項3】
前記陽極酸化アルミナ皮膜は、アルミニウムの陽極酸化と、前記陽極酸化により形成された陽極酸化皮膜を除去するエッチングと、前記エッチングにより露出したアルミニウムの陽極酸化とをこの順に行うことにより形成されたものであることを特徴とする請求項2記載の分析用チップ。
【請求項4】
前記金属層は、Cr、Ti、Niから選ばれる少なくとも1種を含む下地層と、Au、Agから選ばれる少なくとも1種を含む表面層とをこの順に積層して構成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の分析用チップ。
【請求項5】
前記細孔の内部に金属微粒子が存在しないことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の分析用チップ。
【請求項6】
当該分析用チップ表面への物質の吸着が、当該分析用チップに光を照射したとき、局在プラズモン共鳴及び干渉効果による吸光度変化及び波長シフトとして観察されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の分析用チップ。
【請求項7】
互いに平行な方向に延びる多数の細孔が略等間隔に配列され、前記細孔が一方の面に開口した多孔質層を形成した後、前記細孔の孔壁面に対して傾いた方向から金属材料を被着し、前記多孔質層の開口面上と前記細孔の開口部近傍の孔壁面とに金属層を形成することを特徴とする分析用チップの製造方法。
【請求項8】
アルミニウムの陽極酸化により前記多孔質層を形成することを特徴とする請求項7記載の分析用チップの製造方法。
【請求項9】
アルミニウムの陽極酸化と、前記陽極酸化により形成された陽極酸化皮膜を除去するエッチングと、前記エッチングにより露出したアルミニウムの陽極酸化とをこの順に行うことにより前記多孔質層を形成することを特徴とする請求項8記載の分析用チップの製造方法。
【請求項10】
前記金属層として、Cr、Ti、Niから選ばれる少なくとも1種を含む下地層と、Au、Agから選ばれる少なくとも1種を含む表面層とをこの順に積層形成することを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項記載の分析用チップの製造方法。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれか1項記載の分析用チップと、光源と、検出器と、分光器とを備えることを特徴とする分析装置。
【請求項12】
前記請求項11記載の分析装置を用い、局在プラズモン共鳴及び干渉効果による吸光度変化と波長シフトとの両方に基づいて試料中の対象物質を検出又は定量することを特徴とする分析方法。
【請求項1】
互いに平行な方向に延びる多数の細孔が略等間隔に配列され、前記細孔が一方の面に開口した多孔質層と、前記多孔質層の開口面上に形成された金属層とを備え、前記金属層が前記多孔質層の開口面上と前記細孔の開口部近傍の孔壁面とに形成されていることを特徴とする分析用チップ。
【請求項2】
前記多孔質層が陽極酸化アルミナ皮膜であることを特徴とする請求項1記載の分析用チップ。
【請求項3】
前記陽極酸化アルミナ皮膜は、アルミニウムの陽極酸化と、前記陽極酸化により形成された陽極酸化皮膜を除去するエッチングと、前記エッチングにより露出したアルミニウムの陽極酸化とをこの順に行うことにより形成されたものであることを特徴とする請求項2記載の分析用チップ。
【請求項4】
前記金属層は、Cr、Ti、Niから選ばれる少なくとも1種を含む下地層と、Au、Agから選ばれる少なくとも1種を含む表面層とをこの順に積層して構成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の分析用チップ。
【請求項5】
前記細孔の内部に金属微粒子が存在しないことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の分析用チップ。
【請求項6】
当該分析用チップ表面への物質の吸着が、当該分析用チップに光を照射したとき、局在プラズモン共鳴及び干渉効果による吸光度変化及び波長シフトとして観察されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の分析用チップ。
【請求項7】
互いに平行な方向に延びる多数の細孔が略等間隔に配列され、前記細孔が一方の面に開口した多孔質層を形成した後、前記細孔の孔壁面に対して傾いた方向から金属材料を被着し、前記多孔質層の開口面上と前記細孔の開口部近傍の孔壁面とに金属層を形成することを特徴とする分析用チップの製造方法。
【請求項8】
アルミニウムの陽極酸化により前記多孔質層を形成することを特徴とする請求項7記載の分析用チップの製造方法。
【請求項9】
アルミニウムの陽極酸化と、前記陽極酸化により形成された陽極酸化皮膜を除去するエッチングと、前記エッチングにより露出したアルミニウムの陽極酸化とをこの順に行うことにより前記多孔質層を形成することを特徴とする請求項8記載の分析用チップの製造方法。
【請求項10】
前記金属層として、Cr、Ti、Niから選ばれる少なくとも1種を含む下地層と、Au、Agから選ばれる少なくとも1種を含む表面層とをこの順に積層形成することを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項記載の分析用チップの製造方法。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれか1項記載の分析用チップと、光源と、検出器と、分光器とを備えることを特徴とする分析装置。
【請求項12】
前記請求項11記載の分析装置を用い、局在プラズモン共鳴及び干渉効果による吸光度変化と波長シフトとの両方に基づいて試料中の対象物質を検出又は定量することを特徴とする分析方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
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【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2008−76313(P2008−76313A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−258045(P2006−258045)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(304024430)国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 (169)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(304024430)国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 (169)
【Fターム(参考)】
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