説明

分析装置

【課題】分析用デバイスを揺動させる際の振れ角が大きい場合でも、分析用デバイスの振動数を正確に検出することができる分析装置を提供する。
【解決手段】揺動駆動機構が、試料を注入された分析用デバイスを保持するターンテーブルに係合してそのターンテーブルを揺動させているとき、ターンテーブルを回転させるための回転駆動機構に発生する磁界を検出する3つ以上の磁気センサがそれぞれ生成する信号のうちから、直流成分が相対的に中レベルの信号を選択し、その選択状態を、揺動動作の一動作が終了するまで保持したまま、選択された信号から振動数を演算する振動数検出部を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料を注入された分析用デバイスの回転および揺動が可能な分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体状の試料を分析する分析装置として、マイクロチャネル構造体が形成された分析用デバイスを回転させるものが従来より知られている。例えば特許文献1には、血液の特定成分を測定するために、血液が導入された分析用デバイスを、その分析用デバイスの中心を回転中心として回転させる生化学分析装置が開示されている。
【0003】
この従来の生化学分析装置は、分析用デバイスを回転させることにより発生する遠心力と、分析用デバイスに設けられたマイクロチャネル構造体に発生する毛細管力とを利用して、分析用デバイスの注入口からマイクロチャネル構造体に導入された血液を、分析用デバイスの端部側に設けられた、マイクロチャネル構造体の一部である測定スポットへ向けて移送させながら、当該血液に各種の操作を施すことで、測定スポットに分析対象を貯留させる。その貯留された分析対象には、試薬との混合による呈色が生じており、この従来の生化学分析装置は、その呈色を光学的に読み取ることで、血液の特定成分を測定する。
【0004】
上記の各種の操作には、注入口から導入された血液を溶液成分である血漿または血清と固形成分である血球とに遠心分離する操作や、遠心分離された溶液成分を希釈液により希釈する操作や、希釈された溶液成分を試薬と混合させる操作などがある。その他に、注入口に点着された血液や、遠心分離された溶液成分や、希釈された溶液成分などを必要な量だけ保持して定量する操作なども含まれる。
【0005】
また、この種の生化学分析装置には、例えば希釈液による希釈や、試薬との混合を促進させるために、所定の停止位置で、分析用デバイスの中心を軸心として分析用デバイスを揺動させるものがある。
【0006】
例えば特許文献2には、分析用デバイスを保持するターンテーブルを回転させるための第1の駆動手段とは別異に、ターンテーブルを揺動させるための第2の駆動手段が設けられた分析装置が開示されている。この従来の分析装置の第2の駆動手段は、ターンテーブルに係合して往復振動することにより、ターンテーブルを揺動させる。
【0007】
また、このように分析用デバイスを揺動させる分析装置では、その揺動を制御するために、揺動中の分析用デバイスの振動数が検出される。例えば前記特許文献2の分析装置では、分析用デバイスを保持するターンテーブルを回転させるための第1の駆動手段が3相ブラシレスモータで構成され、揺動中の分析用デバイスの振動数を検出するセンサとして、その3相ブラシレスモータに設けられている3相ホール素子が利用される。詳しくは、前記特許文献2の分析装置は、3相ブラシレスモータの3相駆動コイルが励磁されていなくとも、第2の駆動手段の往復振動がターンテーブルに伝播されると、ブラシレスモータがターンテーブルと共に揺動される構成となっており、揺動中に3相ホール素子から発生する信号に出現する揺らぎを利用して分析用デバイスの振動数を検出している。
【0008】
図15は前記特許文献2の分析装置が備える振動検出部の構成を示す図である。この従来の振動検出部は、揺動中に、分析用デバイスを回転させるための3相ブラシレスモータに設けられている3相ホール素子のうちの任意の2つが生成する信号のうちから、最も振動振幅が大きくなる信号、つまり交流成分のピーク値が最も大きくなる信号を選択して、その選択された信号から振動数を演算している。以下、図15に示す従来の振動検出部について説明する。
【0009】
ホール素子101が生成する信号は、ハイパスフィルタ103へ伝達される。ハイパスフィルタ103は、ホール素子101から伝達された信号の直流成分を除去する。その直流成分が除去された信号、つまり交流成分は、ピークホールド回路105へ伝達される。ピークホールド回路105は、ハイパスフィルタ103から伝達された信号のピーク値を保持して、その保持したピーク値をコンパレータ回路107の非反転入力(+)に伝達する。
【0010】
同様に、ホール素子102が生成する信号は、ハイパスフィルタ104へ伝達される。ハイパスフィルタ104は、ホール素子102から伝達された信号の直流成分を除去する。その直流成分が除去された信号、つまり交流成分は、ピークホールド回路106へ伝達される。ピークホールド回路106は、ハイパスフィルタ104から伝達された信号のピーク値を保持して、その保持したピーク値をコンパレータ回路107の反転入力(−)に伝達する。
【0011】
コンパレータ回路107は、ピークホールド回路105および106からそれぞれ伝達された信号を比較して、ピークホールド回路105から伝達された信号がピークホールド回路106から伝達された信号よりも大きければ論理レベルがハイレベルとなり、ピークホールド回路105から伝達された信号がピークホールド回路106から伝達された信号よりも小さければ論理レベルがロウレベルとなるコントロール信号108を生成する。コントロール信号108は、遅延型フリップフロップ109の入力端子Dに伝達される。
【0012】
このように、この従来の振動検出部は、ハイパスフィルタ、ピークホールド回路およびコンパレータ回路により、揺動中に、2つのホール素子が生成する信号のうちから、最も振動振幅が大きくなる信号、つまり交流成分のピーク値が最も大きくなる信号を判定している。
【0013】
ハイパスフィルタ103および104はアナログマルチプレクサ110へも、ホール素子101および102から伝達された信号の交流成分を伝達している。アナログマルチプレクサ110は、遅延型フリップフロップ109の出力端子Qから伝達される信号に応じて出力状態を切り替える。詳しくは、アナログマルチプレクサ110は、ハイパスフィルタ103および104から伝達される信号のうちからピーク値の大きい方を選択する。
【0014】
遅延型フリップフロップ109は、マイクロコンピュータ114からクロック端子CLKに伝達されるデジタル信号の立ち上がりエッジのタイミングで入力端子Dの信号レベルを出力端子Qに出現させる。出力端子Qの信号レベルは、クロック端子CLKにもう1度立ち上がりエッジが伝達されるまで保持される。この従来の振動検出部においては、揺動開始後にマイクロコンピュータ114から遅延型フリップフロップ109のクロック端子CLKに1パルスが送信され、その時のコントロール信号108が出力端子Qに出現したまま保持される。
【0015】
アナログマルチプレクサ110により選択された信号は交流増幅回路111へ伝達される。交流増幅回路111は、アナログマルチプレクサ110から伝達される信号を2値化可能な信号レベルに増幅する。この増幅された信号はコンパレータ回路112の非反転入力(+)へ伝達される。このコンパレータ回路112の反転入力(−)には電圧源113から閾値電圧が印加されている。したがって、交流増幅回路111により増幅された信号は、コンパレータ回路112においてデジタル変換される。
【0016】
コンパレータ回路112においてデジタル変換された信号はマイクロコンピュータ114に入力される。マイクロコンピュータ114は、パルス周期を計測することによって分析用デバイスの振動数を計算する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2009−92390号公報
【特許文献2】特開2009−162699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
以上のように、従来より、試料を注入された分析用デバイスの回転および揺動が可能な分析装置として、分析用デバイスを保持するターンテーブルを回転させるための第1の駆動手段とは別異に、ターンテーブルを揺動させるための第2の駆動手段が設けられており、第1の駆動手段が3相ブラシレスモータで構成され、揺動中の分析用デバイスの振動数を検出するセンサとして、その3相ブラシレスモータに設けられている3相ホール素子を利用するものがある。このようにホール素子を利用するのは、揺動時の振動数を検出するためのセンサを別途設けずに済むためである。
【0019】
しかしながら、従来の分析装置では、揺動中に、3相ブラシレスモータに設けられている3相ホール素子が生成する信号のうちから最も振動振幅が大きくなる信号、つまり交流成分のピーク値が最大の信号を選択し、その選択された信号から振動数を演算しているため、揺動範囲、すなわち振れ角が大きくなると、振動数を正確に検出できない可能性があった。以下、この問題について、図面を交えて説明する。
【0020】
図16は、アウタロータ型の12極磁石式3相ブラシレスモータに設けられている3相ホール素子から発生する電圧の角度特性図である。図16に示すグラフにおいて、横軸は、ブラシレスモータを構成するマグネットロータの任意の角度を0°とした回転角を示しており、縦軸は電圧値を示している。また、実線はA相のホール素子から発生する信号を、破線はB相のホール素子から発生する信号を、2点鎖線はC相のホール素子から発生する信号をそれぞれ示している。
【0021】
この12極磁石式3相ブラシレスモータを、図16に示す揺動範囲(機械角で40°から55°)で揺動させた場合、A相およびB相のホール素子から発生する信号の交流成分は、図17に示すように変化する。図17に示すグラフにおいて、横軸は時間を示しており、縦軸は電圧値を示している。また、実線はA相のホール素子から発生する信号の交流成分を、破線はB相のホール素子から発生する信号の交流成分をそれぞれ示している。
【0022】
機械角で40°から55°まで揺動させた場合、図16に示すように、A相のホール素子から発生する信号は正弦波のピークを跨いで振動するため、図17に示すように、A相のホール素子から発生する信号の交流成分は振動数が2倍になってしまい、その信号から正確な振動数を得ることはできない。一方、図16に示すように、B相のホール素子から発生する信号は正弦波のピークを跨いでいないので、図17に示すように、B相のホール素子から発生する信号の交流成分は正確な振動数をあらわしている。
【0023】
したがって、この場合、B相を選択する必要がある。しかし、揺動範囲が大きくなると、正弦波のピークを跨いで振動する信号の振動振幅が大きくなり、図17に示すように、A相のピーク値がB相よりも大きくなる。そのため、振動数が2倍のA相の信号が選択されてしまい、振動数を正確に検出できない可能性があった。
【0024】
本発明は、上記問題点に鑑み、分析用デバイスを揺動させる際の振れ角が大きい場合でも、分析用デバイスの振動数を正確に検出することができる分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の分析装置は、試料を注入された分析用デバイスの回転および揺動が可能な分析装置であって、前記分析用デバイスを保持する回転保持体と、前記回転保持体を回転させる回転駆動機構と、前記回転駆動機構に設けられ、前記回転駆動機構に発生する磁界を検出する3つ以上の磁気センサと、前記回転保持体に係合して前記回転保持体を揺動させる揺動駆動機構と、前記磁気センサが生成する信号のうちから、直流成分が相対的に中レベルの信号を選択し、その選択状態を、揺動動作の一動作が終了するまで保持したまま、選択された信号から振動数を演算する振動数検出部と、を備えることを特徴とする。
【0026】
上記した本発明の分析装置において、前記振動検出部は、前記磁気センサがそれぞれ生成する信号の交流成分をそれぞれ除去する低周波濾波器と、前記低周波濾波器の各々から伝達される信号のうちから、直流成分が相対的に中レベルの信号を判定し、その判定結果を揺動動作の一動作が終了するまで保持する判定保持部と、前記磁気センサがそれぞれ生成する信号の直流成分をそれぞれ除去する高周波濾波器と、前記高周波濾波器の各々から伝達される信号のうちから、前記判定保持部が保持する判定結果に対応する信号を選択する選択部と、前記選択部で選択された信号から振動数を演算する演算部と、を備えてもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の好ましい形態によれば、分析用デバイスを揺動させる際の振れ角が大きい場合でも、分析用デバイスの振動数を正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態における分析装置の要部の概略を示す斜視図
【図2】本発明の実施の形態における分析装置の要部の概略を示す平面図
【図3】本発明の実施の形態における分析装置の振動数検出部の一構成例を示す図
【図4】本発明の実施の形態における分析装置の振動検出部が具備する電圧比較部の一構成例を示す図と、その電圧比較部に係る真理値表を示す図
【図5】本発明の実施の形態における分析装置の回転駆動機構であるアウタロータ型の12極磁石式3相ブラシレスモータに設けられている3相ホール素子から発生する信号の角度特性図
【図6】本発明の実施の形態における分析装置の回転駆動機構であるアウタロータ型の12極磁石式3相ブラシレスモータを機械角で0°から15°まで揺動させた場合の3相ホール素子から発生する信号とその交流成分及び直流成分を示す図
【図7】本発明の実施の形態における分析装置の回転駆動機構であるアウタロータ型の12極磁石式3相ブラシレスモータを機械角で5°から20°まで揺動させた場合の3相ホール素子から発生する信号とその交流成分及び直流成分を示す図
【図8】本発明の実施の形態における分析装置の回転駆動機構であるアウタロータ型の12極磁石式3相ブラシレスモータを機械角で40°から55°まで揺動させた場合の3相ホール素子から発生する信号とその交流成分及び直流成分を示す図
【図9】本発明の実施の形態における分析装置の外観の一例を示す図
【図10】本発明の実施の形態における分析装置の要部の断面の一例を示す図
【図11】本発明の実施の形態における分析装置のターンテーブルと揺動駆動機構との係合が解除された状態の揺動駆動機構および移送駆動機構の一構成例を示す平面図と、ターンテーブルと揺動駆動機構とが係合した状態の揺動駆動機構および移送駆動機構の一構成例を示す平面図
【図12】本発明の実施の形態における分析装置の揺動駆動機構および移送駆動機構の一構成例を示す斜視図
【図13】本発明の実施の形態における分析装置の揺動駆動機構および移送駆動機構の一構成例を示す側面図
【図14】本発明の実施の形態における分析装置の揺動駆動機構のレバーを取り外した状態の揺動駆動機構および移送駆動機構の一構成例を示す平面図
【図15】従来の分析装置の振動検出部の構成を示す図
【図16】従来のアウタロータ型の12極磁石式3相ブラシレスモータに設けられている3相ホール素子から発生する信号の角度特性図
【図17】従来のアウタロータ型の12極磁石式3相ブラシレスモータを機械角で40°から55°まで揺動させた場合の3相ホール素子から発生する電圧の交流成分を示す図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態における分析装置について、図面を交えて説明する。ただし、先行して説明した要素には同一符号を付し、適宜説明を省略する。なお、この実施の形態では、血液を分析する分析装置について説明するが、本発明は、試料に関して特に制限されるものではない。
【0030】
図1は本発明の実施の形態における分析装置の要部の概略を示す斜視図であり、図2は本発明の実施の形態における分析装置の要部の概略を示す平面図である。図1と図2には、この分析装置が備える回転駆動機構1、揺動駆動機構2および移送駆動機構3を模式的に示している。まず、図1と図2を用いて、この分析装置による分析用デバイス4の回転と揺動について説明する。
【0031】
この分析装置は、回転駆動機構1および揺動駆動機構2により、分析用デバイス4の回転および揺動を実行する。すなわち、回転駆動機構1は、分析用デバイス4が装着されたターンテーブル5を軸心6まわりに回転させる。ターンテーブル5は、分析用デバイス4を保持する回転保持体の一例である。揺動駆動機構2は、ターンテーブル5に係合して、軸心6と垂直に交差する振動中心R2を中心にターンテーブル5の接線方向に往復振動することで、ターンテーブル5を揺動させる。揺動駆動機構2の往復振動のターンテーブル5への伝達は、例えばターンテーブル5と揺動駆動機構2の接触面に摩擦係数の高い材質を使用したり、ギア構造にして互いに噛み合わせる構成にして実現することができる。
【0032】
移送駆動機構3は、ターンテーブル5に対して揺動駆動機構2を振動中心R2に沿って近接、離間させて、ターンテーブル5への揺動駆動機構2の係合およびその係合の解除を実行する。移送駆動機構3は、例えば直流モータや電磁プランジャ等の動力源によって構成することができる。
【0033】
続いて、この分析装置に使用される分析用デバイス4について説明する。この分析用デバイス4は、本体部と、本体部に取り付けられた試料飛散防止用の保護キャップからなり、保護キャップを開くと、試料である血液が点着される注入口が外部に露出する構成となっている。
【0034】
本体部にはマイクロチャネル構造体が形成されている。マイクロチャネル構造体は、測定槽やその他の槽、並びにそれらの槽の間を連通する流路などからなる。測定槽は、円盤状の分析用デバイス4の周縁部側に配置されており、それには分析に必要な試薬が予め担持されている。また、この分析用デバイス4の本体部と保護キャップには、後述する回転支持部が分析装置の筐体側にそれぞれ形成されている。
【0035】
上記のその他の槽には、注入口から導入された血液を溶液成分である血漿または血清と固形成分である血球とに遠心分離するための分離槽や、遠心分離された溶液成分を希釈液により希釈するための希釈槽などが含まれる。その他に、注入口に点着された血液や、遠心分離された溶液成分や、希釈された溶液成分などを必要な量だけ保持して定量する定量槽なども含まれる。
【0036】
分析装置は、以上説明した円盤状の分析用デバイス4を用いて、その分析用デバイス4の内部に導入された血液の特定成分を測定する。詳しくは、試料である血液が導入された分析用デバイス4を回転および揺動させることで、所定の操作を血液に施し、測定槽に分析対象を貯留させる。そして、その貯留された分析対象に光学的にアクセスして、血液の特定成分を測定する。
【0037】
続いて、分析装置の一具体例について説明する。図9は本発明の実施の形態における分析装置の外観の一例を示す図である。図9には、ドア28が開放された状態の分析装置を示している。また、図10は本発明の実施の形態における分析装置の要部の断面の一例を示す図である。図10には、分析用デバイス4が装着されドア28が閉じられた状態の分析装置を示している。
【0038】
分析用デバイス4は、その注入口に血液が点着された後、図9、図10に示すように、分析装置のターンテーブル5に装着される。ターンテーブル5の上面には溝29が形成されており、分析用デバイス4をターンテーブル5に装着した状態では、分析用デバイス4の本体部と保護キャップに形成されている回転支持部30、31が溝29に係合している。
【0039】
また、ターンテーブル5に分析用デバイス4を装着してから、分析装置のドア28を閉じると、図10に示すように、装着された分析用デバイス4は、ドア28に設けられた可動片32によって、ターンテーブル5の軸心6上の位置がバネ33の付勢力でターンテーブル5側に押えられる。これにより、分析用デバイス4は、回転駆動機構1の動力源であるブラシレスモータ34によって回転されるターンテーブル5と一体に軸心6まわりに回転する。したがって、分析用デバイス4は回転中心を持つ。なお、この実施の形態では、回転駆動機構1の動力源がアウタロータ型の12極磁石式3相ブラシレスモータである場合について説明する。
【0040】
12極磁石式3相ブラシレスモータ34には、その内部に発生する磁界を検出する磁気センサとして図示しない3相ホール素子が設けられており、それら3つのホール素子からは、ブラシレスモータ34の動作に応じてレベル変化する信号が発生する。この実施の形態では、3相ホール素子から発生する信号を基にブラシレスモータ34の回転速度などが制御される。ブラシレスモータ34は、ターンテーブル5を介して分析用デバイス4を軸心6まわりに任意の方向に所定の回転速度で回転させる。
【0041】
また、この分析装置は、分析用デバイス4の測定槽に特定波長の検出光を照射するための光源35と、測定槽を通過した透過光の光量を検出する受光器36とを備えており、光源35が発光する光を測定槽に照射し、測定槽を透過した透過光を受光器36で受光して、その透過光の光量を検出し、その検出値を基に、測定槽に貯留された分析対象の特定成分を演算する。
【0042】
このように構成された分析装置は、ブラシレスモータ34の回転速度などを調整することにより、分析用デバイス4の注入口からマイクロチャネル構造体に導入された血液を、軸心6を中心に分析用デバイス4を回転させることにより発生する遠心力と、分析用デバイス4に設けられたマイクロチャネル構造体に発生する毛細管力とを利用して、分析用デバイス4の周縁部側に設けられた、マイクロチャネル構造体の一部である測定槽へ向けて移送させながら、当該血液に各種の操作を施して、測定槽に分析対象を貯留させる。その貯留された分析対象には、試薬との混合による呈色が生じており、この分析装置は、回転する分析用デバイス4から、その呈色を光学的に読み取ることで、試料である血液の特定成分を測定する。
【0043】
各種の操作には、注入口から導入された血液を溶液成分である血漿または血清と固形成分である血球とに遠心分離する操作や、遠心分離された溶液成分を希釈液により希釈する操作や、希釈された溶液成分を試薬と混合させる操作などが含まれる。その他に、注入口に点着された血液や、遠心分離された溶液成分や、希釈された溶液成分等を必要な量だけ保持して定量する操作なども含まれる。
【0044】
また、この分析装置は、例えば希釈液による希釈や、試薬との混合を促進させるために、振動中心R2を中心に所定の振幅範囲および周期で揺動駆動機構2を左右に往復振動させて、分析用デバイス4を揺動させる。
【0045】
続いて、この分析装置の分析工程の概要について説明する。まず、ユーザが、分析装置のドア28を開けて、試料である血液が導入された分析用デバイス4を分析装置に装着し、ドア28を閉じる。分析用デバイス4は、保護キャップが開放された状態で、シリンジなどで採血された血液がスポイドやピペットなどにより注入口に点着された後、保護キャップが閉じられ、分析装置に装着される。
【0046】
分析装置に分析用デバイス4が装着された後、分析装置は、ブラシレスモータ34の回転駆動を開始し、ブラシレスモータ34に設けられたホール素子からの信号を基に、分析用デバイス4の回転速度などを調整することにより、分析用デバイス4の内部に導入された血液を、遠心力と毛細管力とを利用して測定槽へ向けて移送させながら、当該血液に各種の操作を施して、測定槽に分析対象を貯留させる。この間、揺動駆動機構2により分析用デバイス4の中心を軸心として分析用デバイス4を揺動させ、希釈液による希釈や、試薬との混合などを促進させる。その後、測定槽に貯留されている試薬反応後の分析対象の特定成分を光学的に測定する。
【0047】
続いて、この分析装置の揺動駆動機構2および移送駆動機構3の一具体例について、図11〜図14を用いて説明する。ここでは、ターンテーブル5と揺動駆動機構2の接触面をギア構造にして互いに噛み合わせるようにし、揺動駆動機構2と移送駆動機構3をそれぞれ直流モータを用いて構成した場合について説明する。
【0048】
図11は本発明の実施の形態における分析装置の揺動駆動機構2および移送駆動機構3の一構成例を示す平面図であり、図11(a)はターンテーブル5と揺動駆動機構2との係合が解除された状態を、図11(b)はターンテーブル5と揺動駆動機構2とが係合した状態をそれぞれ示している。また、図12は本発明の実施の形態における分析装置の揺動駆動機構2および移送駆動機構3の一構成例を示す斜視図、図13は本発明の実施の形態における分析装置の揺動駆動機構2および移送駆動機構3の一構成例を示す側面図である。また、図14は本発明の実施の形態における分析装置の揺動駆動機構2および移送駆動機構3の一構成例を説明するための平面図であって、後述する揺動駆動機構2のレバーを取り外した状態を示している。
【0049】
ここでは、回転駆動機構1の動力源はアウタロータ型の12極磁石式3相ブラシレスモータ34である。このブラシレスモータ34の出力軸にターンテーブル5が取り付けられており、そのターンテーブル5の側面には、第1のギア部37が形成されている。
【0050】
揺動駆動機構2は、ターンテーブル5に選択的に係合し、所定の停止位置でターンテーブル5を、軸心6を中心に所定の揺動範囲、周期で左右に揺動させる。また、移送駆動機構3は、図11(b)に示すターンテーブル5と揺動駆動機構2が係合する位置と、図11(a)に示すターンテーブル5と揺動駆動機構2が係合しない位置に、ターンテーブル5と揺動駆動機構2とを相対的に移動させる。
【0051】
まず、揺動駆動機構2の一具体例について説明する。揺動駆動機構2は、動力源である第1の直流モータ38や、支持テーブル40、支持軸42、レバー43、偏心カム47からなる。
【0052】
第1の直流モータ38は、ブラシレスモータ34が取り付けられているシャーシ39に取り付けられている。支持テーブル40は、シャーシ39に対して矢印41で示す方向(図11(a)および図12を参照)にスライド自在に取り付けられている。
【0053】
また、支持テーブル40には支持軸42が取り付けられており、支持軸42にはレバー43が枢支されている。レバー43のターンテーブル5側の一端には、ターンテーブル5の第1のギア部37に噛合できる第2のギア部44が設けられており、レバー43の他端には凹部45が形成されている。凹部45には、第1の直流モータ38の出力軸46に取り付けられた偏心カム47が係合している。図14には、レバー43を支持軸42から取り外した状態を示している。
【0054】
このように構成したため、第1の直流モータ38に通電すると、偏心カム47を介してレバー43が図11(b)に示す実線位置と仮想線位置に揺動する。なお、図示しないが、揺動時のレバー43のバックラッシュ(Backlash)が小さくなるように、レバー43はつるまきバネによって付勢されている。
【0055】
続いて、移送駆動機構3の一具体例について説明する。移送駆動機構3は、動力源である第2の直流モータ48や、ウォーム50、ウォームホイール51、ラック52からなる。第2の直流モータ48はシャーシ39に取り付けられている。ウォーム50は、第2の直流モータ48の出力軸49に取り付けられている。ウォームホイール51はシャーシ39に回転自在に取り付けられており、且つウォーム50に噛合している。ラック52は、支持テーブル40に形成されており、且つウォームホイール51に噛合している。なお、ウォームホイール51とラック52との間のバックラッシュが小さくなるように、支持テーブル40とシャーシ39の間には引っ張りコイルバネ53が介装されている。
【0056】
このように構成したため、第2の直流モータ48に通電してウォームホイール51を図11(a)に示す矢印55で示す方向に回転させると、ウォームホイール51に噛合するラック52が形成されている支持テーブル40が、ターンテーブル5に接近するようスライドする。そして、図11(b)に示すように検出スイッチ54が支持テーブル40を検出するまで第2の直流モータ48が通電状態に維持されると、レバー43の第2のギア部44がターンテーブル5の第1のギア部37に噛合する。
【0057】
したがって、第1のギア部37と第2のギア部44が噛合した状態で第1の直流モータ38が通電状態に維持されると、ターンテーブル5の接線方向にレバー43が往復振動し、それによってターンテーブル5が揺動駆動される。
【0058】
以上説明した構成によれば、揺動駆動機構2の動力源である第1の直流モータ38の回転数を高くすることによって、希釈液による希釈や試薬との混合を促進させるのに十分な加速度を、短時間にして得ることができる。
【0059】
続いて、この実施の形態における分析装置の振動数検出部について説明する。この分析装置は、分析工程において分析用デバイス4を揺動させており、その揺動を制御するために、揺動中の分析用デバイス4の振動数を検出する振動数検出部を備える。
【0060】
図3は本発明の実施の形態における分析装置の振動数検出部の一構成例を示す図である。この分析装置は、揺動中の分析用デバイス4の振動数を検出するセンサとして、回転駆動機構1の動力源である3相ブラシレスモータ34に設けられた3相ホール素子を利用している。
【0061】
つまり、この実施の形態では、回転駆動機構1の動力源がアウタロータ型の12極磁石式3相ブラシレスモータ34で構成されている。そのため、揺動駆動機構2の往復振動がターンテーブル5に伝播されると、3相ブラシレスモータ34の3相駆動コイルが励磁されていなくとも、ターンテーブル5と共に3相ブラシレスモータ34のマグネットロータが揺動されて、3相ホール素子から発生する信号に揺らぎが出現するので、その揺らぎを利用して分析用デバイス4の振動数を検出している。
【0062】
詳しくは、この分析装置の振動数検出部は、3相ブラシレスモータ34に設けられた3相ホール素子が生成する信号のうちから、直流成分が相対的に中レベルの信号を選択し、その選択状態を、揺動動作の一動作が終了するまで保持したまま、選択された信号から振動数を演算する。以下、図3に示す振動検出部について、さらに詳しく説明する。
【0063】
3相ブラシレスモータ34に設けられたA相、B相、C相のホール素子7、8、9が生成する信号はそれぞれ低周波濾波器10、11、12へ伝達される。低周波濾波器10、11、12はそれぞれ、A相、B相、C相のホール素子7、8、9から伝達された信号の交流成分を除去する。それらの交流成分が除去された信号は電圧比較部13へ伝達される。つまり、低周波濾波器10、11、12はそれぞれ、A相、B相、C相のホール素子7、8、9から発生する信号の直流成分を電圧比較部13へ伝達する。低周波濾波器は、例えば、ホール素子に対してコンデンサを並列接続させた構成としてもよい。
【0064】
電圧比較部13は、低周波濾波器10、11、12の各々から伝達される信号を比較して、それらのうちから直流成分が相対的に中レベルの信号を判定し、その判定結果を後段の保持部14へ伝達する。
【0065】
図4(a)は電圧比較部13の一構成例を示す図である。電圧比較部13は、図4(a)に示すように、例えば3つのコンパレータ回路23、24、25と、2つの排他的論理和回路26、27により構成することができる。また図4(b)は、図4(a)に示す電圧比較部13に係る真理値表である。ここで、図4(a)に示す電圧比較部13の構成について説明する。
【0066】
コンパレータ回路23の非反転入力(+)には、低周波濾波器10により交流成分が除去されたA相のホール素子7からの信号、つまりA相のホール素子7から発生する信号の直流成分が伝達され、コンパレータ回路23の反転入力(−)には、低周波濾波器11により交流成分が除去されたB相のホール素子8からの信号、つまりB相のホール素子8から発生する信号の直流成分が伝達される。
【0067】
同様に、コンパレータ回路24の非反転入力(+)には、低周波濾波器11により交流成分が除去されたB相のホール素子8からの信号、つまりB相のホール素子8から発生する信号の直流成分が伝達され、コンパレータ回路24の反転入力(−)には、低周波濾波器12により交流成分が除去されたC相のホール素子9からの信号、つまりC相のホール素子9から発生する信号の直流成分が伝達される。
【0068】
また同様に、コンパレータ回路25の非反転入力(+)には、低周波濾波器12により交流成分が除去されたC相のホール素子9からの信号、つまりC相のホール素子9から発生する信号の直流成分が伝達され、コンパレータ回路25の反転入力(−)には、低周波濾波器10により交流成分が除去されたA相のホール素子7からの信号、つまりA相のホール素子7から発生する信号の直流成分が伝達される。
【0069】
これらのコンパレータ回路23、24、25は、非反転入力(+)に伝達された信号が反転入力(−)に伝達された信号よりも大きい場合に論理値「1」を示し、その逆の場合に論理値「0」を示す信号を生成する。
【0070】
排他的論理和回路26は、コンパレータ回路23とコンパレータ回路24から伝達された信号の排他的論理和を演算して、その演算結果を示す信号を生成する。同様に、排他的論理和回路27はコンパレータ回路24とコンパレータ回路25から伝達された信号の排他的論理和を演算して、その演算結果を示す信号を生成する。
【0071】
このように、図4(a)に示す電圧比較部13は、低周波濾波器10、11、12の各々から伝達される信号のうちのいずれの信号が相対的に中レベルであるのかを示す判定結果として、2ビットの信号を生成する。
【0072】
続いて、図4(a)に示す電圧比較部13の動作について、図4(b)に示す真理値表を用いて説明する。例えば、B相のホール素子8から発生する信号の直流成分が最も高く(high)、C相のホール素子9から発生する信号の直流成分が最も低く(low)、A相のホール素子7から発生する信号の直流成分が中レベル(mid)、すなわちB相に比べて低く且つC相に比べて高い場合、真理値表の1段目に示すように、コンパレータ回路23(COM1)から発生する信号は論理値「0」となり、コンパレータ回路24(COM2)から発生する信号は論理値「1」となり、コンパレータ回路25(COM3)から発生する信号は論理値「0」となり、その結果、排他的論理和回路26(EX−OR1)と排他的論理和回路27(EX−OR1)から発生する信号は共に論理値「1」となる。すなわち、電圧比較部13から伝達される2ビットの信号は(11)となる。一方、A相が中レベル(mid)で、B相が低レベル(low)、C相が高レベル(high)の場合も同様に、真理値表の2段目に示すように、電圧比較部13から伝達される2ビットの信号は(11)となる。つまり、この電圧比較部13は、低周波濾波器10から伝達される信号が中レベルであることを示す判定結果として(11)を生成する。
【0073】
B相が中レベル(mid)の場合も同様に、真理値表の3、4段目に示すように、低周波濾波器11から伝達される信号が中レベルであることを示す判定結果として(01)が生成される。
【0074】
またC相が中レベル(mid)の場合も同様に、真理値表の5、6段目に示すように、低周波濾波器12から伝達される信号が中レベルであることを示す判定結果として(10)が生成される。
【0075】
このように、この電圧比較部13は、3相ホール素子から伝達される信号のうち、いずれの直流成分が相対的に中レベルであるかを判定して、その判定結果を後段の保持部14へ伝達する。
【0076】
なお、無論、電圧比較部13の構成は図4(a)に示す構成に限定されるものではない。また、ここでは電圧比較部13を論理回路で構成する場合について説明したが、これに限らず、例えばマイクロコンピュータ等で構成することもできる。
【0077】
図3に戻る。電圧比較部13から判定結果が伝達された保持部14はその判定結果を、マイクロコンピュータ22からの指令に基づき、揺動動作の一動作が終了するまで保持する。マイクロコンピュータ22は、揺動動作が開始されてから所定時間(例えば50mssec)が経過した後に、保持部14へ判定結果の保持を指令する。保持部14は、例えばTフリップフロップで構成することができる。
【0078】
このように、この実施の形態では、電圧比較部13と保持部14とマイクロコンピュータ22により、低周波濾波器の各々から伝達される信号のうちから、直流成分が相対的に中レベルの信号を判定し、その判定結果を揺動動作の一動作が終了するまで保持する判定保持部が構成されている。
【0079】
3相ブラシレスモータ34に設けられたA相、B相、C相のホール素子7、8、9が生成する信号はそれぞれ、低周波濾波器10、11、12へ伝達される一方で、高周波濾波器15、16、17へも伝達される。
【0080】
高周波濾波器15、16、17はそれぞれ、A相、B相、C相のホール素子7、8、9から伝達された信号の直流成分を除去する。それらの直流成分が除去された信号はアナログマルチプレクサ18へ伝達される。つまり、高周波濾波器15、16、17はそれぞれ、A相、B相、C相のホール素子7、8、9から発生する信号の交流成分をアナログマルチプレクサ18へ伝達する。高周波濾波器は、例えば、ホール素子に対してコンデンサを直列接続させた構成としてもよい。
【0081】
アナログマルチプレクサ18は、高周波濾波器15、16、17の各々から伝達される信号のうちから、保持部14が保持する判定結果に対応する信号を選択する選択部の一例であり。つまり、マルチプレクサ18は、保持部14から伝達される判定結果に応じて出力状態が切り替わる。具体的には、マルチプレクサ18は、3相ホール素子7、8、9のうち直流成分が相対的に中レベルとなる信号を発生するホール素子から伝達された信号の交流成分を選択する。
【0082】
アナログマルチプレクサ18により選択された信号は交流増幅回路19へ伝達される。交流増幅回路19は、アナログマルチプレクサ18から伝達される信号を2値化可能な信号レベルに増幅する。この増幅された信号はコンパレータ回路20の非反転入力(+)へ伝達される。このコンパレータ回路20の反転入力(−)には電圧源21から閾値電圧が印加されている。したがって、交流増幅回路19により増幅された信号は、コンパレータ回路20において閾値電圧のレベルでデジタル変換される。
【0083】
コンパレータ回路20においてデジタル変換された信号はマイクロコンピュータ22に入力される。マイクロコンピュータ22は、コンパレータ回路20から伝達されたデジタル信号のパルス周期を計測することによって、分析用デバイス4の振動数を計算する。
【0084】
このように、この実施の形態では、交流増幅器19とコンパレータ回路20とマイクロコンピュータ22により、アナログマルチプレクサ18で選択された信号から振動数を演算する演算部が構成されている。
【0085】
続いて、この実施の形態における振動検出部の動作について説明する。図5は、アウタロータ型の12極磁石式3相ブラシレスモータ34に設けられている3相ホール素子7、8、9から発生する電圧の角度特性図である。図5に示すグラフにおいて、横軸は、ブラシレスモータ34を構成するマグネットロータの任意の角度を0°とした回転角を示しており、縦軸は0Vを基準電圧とした電圧値を示している。また、実線はA相のホール素子7から発生する信号を、破線はB相のホール素子8から発生する信号を、2点鎖線はC相のホール素子9から発生する信号をそれぞれ示している。
【0086】
3相ホール素子7、8、9から発生する信号は、N極が近づくと+側へ増加し、S極が近づくと−側へ増加する。12極磁石式3相ブラシレスモータ34の12極マグネットロータは、N極とS極の一対の磁石を6組有し、それらのNS極が30°毎に配置されているため、3相ホール素子7、8、9から発生する信号は60°周期の正弦波となる。また、A相、B相、C相のホール素子7、8、9は20°ずつずれた位置に配置されているため、それらから発生する信号は、機械角で20°ずつ位相がずれる。
【0087】
ここで、12極磁石式3相ブラシレスモータについて簡単に説明する。12極磁石式3相ブラシレスモータは3組の3相駆動コイルを備える。それら3組の3相駆動コイルはそれぞれY結線されており、9つの駆動コイルは、固定子の9つの突極部にそれぞれ巻回されている。9つの突極部は、40°間隔で配置されている。3つのホール素子はそれぞれ、任意の一組の3相駆動コイルを構成するU相駆動コイル、V相駆動コイル、W相駆動コイルから10°ずれた位置に配置される。そして、対向するマグネットロータの磁石着磁の極性(N極かS極か)を検出し、その検出している極性に相当したレベルの起電力を発生する。3相駆動コイルの励磁電流の切り替えタイミングは、3つのホール素子から発生する信号に基づいて実行される。具体的には、10°毎に3つのホール素子の出力電圧が順次反転されるため、3つのホール素子の出力パターンから10°毎の回転位置を特定できる。したがって、3つのホール素子の出力パターンが3相駆動コイルの励磁電流の切り替えタイミングとして使用される。
【0088】
この12極磁石式3相ブラシレスモータ34のマグネットロータを、図5に示す揺動範囲α(機械角で0°から15°)で揺動させた場合、A相、B相、C相のホール素子7、8、9から発生する信号は、図6(a)に示すように変化し、交流成分は図6(b)に示すように変化し、直流成分は図6(c)に示すように変化する。図6(a)〜図6(c)に示すグラフにおいて、横軸は時間を示しており、縦軸は0Vを基準電圧とした電圧値を示している。また、実線はA相のホール素子7から発生する信号とその交流成分及び直流成分を、破線はB相のホール素子8から発生する信号と交流成分及び直流成分を、2点鎖線はC相のホール素子9から発生する信号とその交流成分及び直流成分をそれぞれ示している。
【0089】
機械角で0°から15°まで揺動させた場合、図5に示すように、C相のホール素子9から発生する信号は正弦波のピークを跨いで振動するため、図6(b)に示すように、C相のホール素子9から発生する信号の交流成分は0Vを閾値電圧とすると振動数が2倍になってしまい、その信号から正確な振動数を得ることはできない。一方、図5に示すように、A、B相のホール素子7、8から発生する信号は正弦波のピークを跨いでいないので、図6(b)に示すように、A、B相のホール素子7、8から発生する信号の交流成分は正確な振動数をあらわしている。したがって、この場合、A相またはB相を選択する必要がある。
【0090】
この実施の形態における振動数検出部は、前記したように、3相ホール素子7、8、9のうち直流成分が相対的に中レベルとなる信号を発生するホール素子から伝達された信号の交流成分を用いて、分析用デバイス4の振動数を計算する。図6(c)に示すように、機械角で0°から15°まで揺動させた場合、B相のホール素子8から発生する信号の直流成分が相対的に中レベルとなるので、この振動数検出部はB相を選択する。よって、この振動数検出部によれば、分析用デバイス4の振動数を正確に検出することができる。
【0091】
続いて、図5に示す揺動範囲β(機械角で5°から20°)で揺動させた場合について説明する。この場合、A相、B相、C相のホール素子7、8、9から発生する信号は、図7(a)に示すように変化し、交流成分は図7(b)に示すように変化し、直流成分は図7(c)に示すように変化する。図7(a)〜図7(c)に示すグラフにおいて、横軸は時間を示しており、縦軸は0Vを基準電圧とした電圧値を示している。また、実線はA相のホール素子7から発生する信号とその交流成分及び直流成分を、破線はB相のホール素子8から発生する信号とその交流成分及び直流成分を、2点鎖線はC相のホール素子9から発生する信号とその交流成分及び直流成分をそれぞれ示している。
【0092】
機械角で5°から20°まで揺動させた場合、図5に示すように、A相のホール素子7から発生する信号は正弦波のピークを跨いで振動するため、図7(b)に示すように、A相のホール素子7から発生する信号の交流成分は0Vを閾値電圧とすると振動数が2倍になってしまい、その信号から正確な振動数を得ることはできない。一方、図5に示すように、B、C相のホール素子8、9から発生する信号は正弦波のピークを跨いでいないので、図7(b)に示すように、B、C相のホール素子8、9から発生する信号の交流成分は正確な振動数をあらわしている。したがって、この場合、B相またはC相を選択する必要がある。
【0093】
一方、図7(c)に示すように、機械角で5°から20°まで揺動させた場合、揺動開始から25msecが経過した後は、B相のホール素子8から発生する信号の直流成分が相対的に中レベルとなる。したがって、この実施の形態における振動数検出部によれば、マイクロコンピュータ22が、揺動動作が開始されてから例えば50msecが経過した後に、保持部14へ判定結果の保持指令を伝達することにより、B相が選択されるので、分析用デバイス4の振動数を正確に検出することができる。
【0094】
なお、機械角で0°から15°まで揺動させた場合には、交流成分の振動数が2倍となるC相のホール素子9から発生する信号の直流成分は、図6(c)に示すように、相対的に信号レベルが最も低くなり、機械角で5°から20°まで揺動させた場合には、交流成分の振動数が2倍となるA相のホール素子7から発生する信号の直流成分は、図7(c)に示すように、相対的に信号レベルが最も高くなる。したがって、直流成分が相対的に最大となる信号や最低となる信号を発生するホール素子を選択すると、振動数を正確に検出できない可能性がある。
【0095】
続いて、図5に示す揺動範囲γ(機械角で40°から55°)で揺動させた場合について説明する。この場合、A相、B相、C相のホール素子7、8、9から発生する信号は、図8(a)に示すように変化し、交流成分は図8(b)に示すように変化し、直流成分は図8(c)に示すように変化する。図8(a)〜図8(c)に示すグラフにおいて、横軸は時間を示しており、縦軸は0Vを基準電圧とした電圧値を示している。また、実線はA相のホール素子7から発生する信号とその交流成分及び直流成分を、破線はB相のホール素子8から発生する信号とその交流成分及び直流成分を、2点鎖線はC相のホール素子9から発生する信号とその交流成分及び直流成分をそれぞれ示している。
【0096】
機械角で40°から55°まで揺動させた場合、図5に示すように、A相のホール素子7から発生する信号は正弦波のピークを跨いで振動するため、図8(b)に示すように、A相のホール素子7から発生する信号の交流成分は0Vを閾値電圧とすると振動数が2倍になってしまい、その信号から正確な振動数を得ることはできない。一方、図5に示すように、B、C相のホール素子8、9から発生する信号は正弦波のピークを跨いでいないので、図8(b)に示すように、B、C相のホール素子8、9から発生する信号の交流成分は正確な振動数をあらわしている。したがって、この場合、B相またはC相を選択する必要がある。
【0097】
一方、図8(c)に示すように、機械角で40°から55°まで揺動させた場合、C相のホール素子9から発生する信号の直流成分が相対的に中レベルとなる。したがって、この実施の形態における振動数検出部によれば、C相が選択されるので、分析用デバイス4の振動数を正確に検出することができる。
【0098】
以上説明したように、この実施の形態によれば、3相ホール素子が生成する信号の直流成分を比較して、相対的に中レベルの信号を発生させているホール素子を選択し、その選択したホール素子が生成する信号の交流成分を利用することにより、分析用デバイスの振動数を正確に検出することができ、ひいては、希釈液による希釈や試薬との混合を促進させるために行う分析用デバイスの揺動を精度よく制御することができる。
【0099】
また、揺動時の振れ角が機械角で15°程度の大きさになると、図6(b)や図8(b)に示すように、3相ホール素子が生成する信号のうちの、正弦波のピークを跨いで振動して交流成分の振動数が2倍となる信号の交流成分のピーク値が、正弦波のピークを跨がずに振動する信号の一方よりも大きくなる場合がある。そのため、従来の振動数検出部のように、2つのホール素子が生成する信号のうちから交流成分のピーク値が大きい方の信号を選択する場合、交流成分の振動数が2倍となる信号が選択される可能性があったが、この実施の形態によれば、このように触れ角が大きい場合でも、分析用デバイスの振動数を正確に検出することができる。
【0100】
さらに、3相ホール素子が生成する信号のうちの、正弦波のピークを跨いで振動する信号の直流成分は、正弦波のピークを跨がずに振動する他の2つの信号の直流成分とは反対の極性に必ず出現する。例えば、図5に示すように、揺動範囲α付近では、C相の信号がマイナス側でピークを跨いで振動する一方で、A相とB相の信号はプラス側に出現する。この場合、仮にA相とB相の信号の直流成分が同レベルであったとしても、それらの交流成分は2倍にならず、A相とB相のいずれを選択しても振動数は正確に検出できる。
【0101】
また、図5において、3つのホール素子から発生する信号の振幅が同レベルであったとして説明したが、実際には、素子特性や配置関係によって3つのホール素子から発生する信号の振幅にばらつきが生じる。しかしながら、上述したように、3つのホール素子から発生する信号のうちの、正弦波のピークを跨いで振動する信号の直流成分は、正弦波のピークを跨がずに振動する他の2つの信号の直流成分とは反対の極性に必ず出現する。したがって、振幅にばらつきが生じたとしても極性は反転しないので、振幅のばらつきが振動数検出に与える影響は小さい。
【0102】
なお、ここでは、円盤状の分析用デバイスを例に説明したが、分析用デバイスの形状は円盤状に限るものではない。また、ここでは、透過光を利用して試料の特定成分を測定する場合について説明したが、反射光を利用する測定方式であっても構わないし、蛍光検出など他の測定方式であってももちろん支障はない。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明にかかる分析装置は、分析用デバイスを揺動させる際の振れ角が大きい場合でも、分析用デバイスの振動数を正確に検出することができ、ひいては分析用デバイスの揺動を精度よく制御することができ、生化学分析装置などの、試料を注入された分析用デバイスの回転および揺動が可能な分析装置に有用である。
【符号の説明】
【0104】
1 回転駆動機構
2 揺動駆動機構
3 移送駆動機構
4 分析用デバイス
5 ターンテーブル
6 軸心
7〜9 ホール素子
10〜12 低周波濾波器
13 電圧比較部
14 保持部
15〜17 高周波濾波器
18 アナログマルチプレクサ
19 交流増幅回路
20 コンパレータ回路
21 電圧源
22 マイクロコンピュータ
23〜25 コンパレータ回路
26、27 排他的論理和回路
28 ドア
29 溝
30、31 回転支持部
32 可動片
33 バネ
34 アウタロータ型の12極磁石式ブラシレスモータ
35 光源
36 受光器
37 第1のギア部
38 第1の直流モータ
39 シャーシ
40 支持テーブル
42 支持軸
43 レバー
44 第2のギア部
45 凹部
46 第1の直流モータの出力軸
47 偏心カム
48 第2の直流モータ
49 第2の直流モータの出力軸
50 ウォーム
51 ウォームホイール
52 ラック
53 引っ張りコイルバネ
54 検出スイッチ
101、102 ホール素子
103、104 ハイパスフィルタ
105、106 ピークホールド回路
107 コンパレータ回路
108 コントロール信号
109 遅延型フリップフロップ
110 アナログマルチプレクサ
111 交流増幅回路
112 コンパレータ回路
113 電圧源
114 マイクロコンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を注入された分析用デバイスの回転および揺動が可能な分析装置であって、
前記分析用デバイスを保持する回転保持体と、
前記回転保持体を回転させる回転駆動機構と、
前記回転駆動機構に設けられ、前記回転駆動機構に発生する磁界を検出する3つ以上の磁気センサと、
前記回転保持体に係合して前記回転保持体を揺動させる揺動駆動機構と、
前記磁気センサが生成する信号のうちから、直流成分が相対的に中レベルの信号を選択し、その選択状態を、揺動動作の一動作が終了するまで保持したまま、選択された信号から振動数を演算する振動数検出部と、
を備えることを特徴とする分析装置。
【請求項2】
前記振動検出部は、
前記磁気センサがそれぞれ生成する信号の交流成分をそれぞれ除去する低周波濾波器と、
前記低周波濾波器の各々から伝達される信号のうちから、直流成分が相対的に中レベルの信号を判定し、その判定結果を揺動動作の一動作が終了するまで保持する判定保持部と、
前記磁気センサがそれぞれ生成する信号の直流成分をそれぞれ除去する高周波濾波器と、
前記高周波濾波器の各々から伝達される信号のうちから、前記判定保持部が保持する判定結果に対応する信号を選択する選択部と、
前記選択部で選択された信号から振動数を演算する演算部と、
を備えることを特徴とする請求項1記載の分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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