説明

分析装置

【課題】内部に反応部を有する分析チップを用いて分析を行う分析装置において、反応部の温度を、ハンチングを起こすことなく正確に所望温度に設定する。
【解決手段】被検出物質と反応する反応部12を内部に有する分析チップを用いて、被検出物質に関する分析を行う分析装置1において、分析チップ10と接する温調部16、17と、分析チップ10の周囲の温度を測定する第1の温度センサ20と、温調部16、17の分析チップと接する接触部分16aの温度を測定する第2の温度センサ21とを設ける。そして制御回路22により、第1の温度センサ20が測定した周囲温度および、この周囲温度を測定する位置と反応部12との間の温度勾配に基づいて、反応部12を所望温度にする接触部分16aの温度を求め、この求めた温度を目標値とし、かつ第2の温度センサ21が検出した温度を出力値として温調部16、17をフィードバック制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料液中等に含まれる被検出物質を分析する装置、特に詳細には、分析チップを用いて分析を行う分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種バイオ測定においては、抗原抗体反応などの生体分子反応を検出することにより、被検出物質である抗原(あるいは抗体)などの存在の有無、量を測定している。なお本明細書では、その種の測定を行うこと、および、そのような測定の結果に基づいて「陽性」あるいは「陰性」等の状態を求めることを総称して「分析」と称するものとする。
【0003】
例えば、互いに特異的に結合する2つの物質の一方(抗原、抗体、各種酵素、受容体など)を基板上に固定化し、他方の物質(これは被検出物質そのものであってもよいし、あるいは試料中で被検出物質と競合する競合物質であってもよい)を基板上に固定された固定層に結合させ、この結合反応を検出することにより、試料中における被検出物質の有無、量を分析することができる。
【0004】
具体的には、試料に含まれる被検出物質である抗原を検出するため、基板上にその抗原と特異的に結合する抗体を固定しておき、基板上に試料を供給することにより抗体に抗原を特異的に結合させ、次いで、抗原と特異的に結合する、標識が付与された標識抗体を添加し、抗原と結合させることにより、抗体―抗原―標識抗体の、所謂サンドイッチを形成し、標識からの信号を検出するサンドイッチ法や、標識された競合抗原を被検出物質である抗原と競合的に固定化抗体と結合させ、固定化抗体と結合した競合抗原に付与されている標識からの信号を検出する競合法などのイムノアッセイが知られている。
【0005】
なお上記サンドイッチ法においては、被検出物質である抗原が上記「他方の物質」に相当し、競合法においては競合抗原が上記「他方の物質」に相当する。後者の競合法においては、固定化抗体と結合した競合抗原の量が多いほど、被検出物質である抗原の量が少ないという関係があるので、この関係に基づいて、競合抗原の量に対応する標識からの信号レベルにより抗原の量を求めることができる。
【0006】
また、上述のようなバイオ測定に適用可能で、高感度かつ容易な測定法として蛍光検出法が広く用いられている。この蛍光検出法は、特定波長の光により励起されて蛍光を発する被検出物質を含むと考えられる試料に上記特定波長の励起光を照射し、そのとき蛍光を検出することによって被検出物質の存在を確認する方法である。また、被検出物質が蛍光体ではない場合、蛍光色素で標識されて被検出物質と特異的に結合する物質を試料に接触させ、その後上記と同様にして蛍光を検出することにより、この結合すなわち被検出物質の存在を確認することも広くなされている。
【0007】
以上述べたような光学的手法を用いるバイオ分析においては、所用時間の短縮化が望まれている。そこで、反応部における反応を効率良く生じさせて、所用時間の短縮を図る方法が種々提案されている。例えば特許文献1には、微小流路(マイクロ流路)型の分析チップを用い、試料液を一定の高速で流下させることにより分析の高速化を図ることが提案されている。この種の分析チップは、上述した蛍光検出による被検出物質の検出や定量分析を行うために適用することも可能である。
【0008】
上述のような測定が免疫反応や酵素反応等を利用するものである場合、それらの反応は温度依存性が大きいので、診断等のために高信頼性が求められる測定では、反応部を所定温度に維持する温度調節(温調)が行われる。特許文献2には、このような温調を行う分析装置の一例が記載されている。そこに示された装置においては、温調対象である反応容器の反応液を所望温度に設定するために、温調手段の一部となる恒温液の温度に加えて、反応容器の周囲温度(雰囲気温度)も測定し、恒温液の温度をその周囲温度に基づいてフィードバック制御するに当たり、恒温液の目標温度を雰囲気温度に応じて定めるようにしている。またこの特許文献2には、上記恒温液に代えてヒータ等により反応液を加熱することも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−307141号公報
【特許文献2】特開2010−139332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、前述の分析チップを用いる分析装置において反応部を温調する場合は、例えばペルチェ素子等の加熱あるいは冷却手段からなる温調部に接する分析チップ底面と、チップ内部の反応部との間に距離が生じるため、温調部から反応部までの熱伝達に時間遅れが発生しやすい。特に、分析チップの反応部の下方を、前述した励起光が通過するように測定用光学系が配置される場合は、励起光の通過を許容するために分析チップの反応部と底面との間の距離が長くなりがちであるので、上記熱伝達の時間遅れが発生しやすい。この熱伝達の時間遅れが有る場合、反応部の温度を測定してその測定温度に基づいて温調部をフィードバック制御すると、反応部の温度は図4に示すようにハンチングを起こしてしまい、目標温度に正確に制御することが困難になる。
【0011】
前述の特許文献2に記載された装置においては、温調部の一部となる恒温液の温度がそのまま温調対象の反応液の温度になるという前提で制御を行っているので、反応部と温調部との間の熱伝達の遅れに起因するハンチングには対処不可能である。
【0012】
そこで本発明は、内部に反応部を有する分析チップを用いて分析を行う分析装置において、反応部の温度を、ハンチングを起こすことなく正確に所望温度に設定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明による分析装置は、
被検出物質と反応する反応部を内部に有する分析チップを用いて、前記被検出物質に関する分析を行う分析装置において、
前記分析チップに接する温調部と、
前記分析チップの周囲の温度を測定する第1の温度センサと、
前記温調部の分析チップと接する接触部分の温度を測定する第2の温度センサと、
前記第1の温度センサが測定した周囲温度および、この周囲温度を測定する位置と前記反応部との間の温度勾配に基づいて、前記反応部を所望温度にする前記接触部分の温度を求め、この求めた温度を目標値とし、かつ前記第2の温度センサが検出した温度を出力値として前記温調部をフィードバック制御する制御回路とを備えたことを特徴とするものである。
【0014】
なお上記「分析チップの周囲の温度を測定する」とは、分析装置の内外にあって、上記温度勾配を示す部分の温度を測定すること全般を意味するものであり、分析チップから離れた部分の温度を測定することも、また分析チップの表面部分の温度を測定することも含むものである。
【0015】
また上記温調部は、ペルチェ素子等が直接分析チップを加熱あるいは冷却する構造であっても、あるいは、それらの素子から伝熱体を介して分析チップを加熱あるいは冷却する構造であってもよい。後者の構造が採用される場合は、第2の温度センサが、上記伝熱体の、分析チップと接する接触部分の温度を測定するものとされる。
【0016】
また本発明の分析装置においては、
前記分析チップが、その底面が前記温調部の接触部分に接触して該接触部分と同温度となる状態に配置され、
前記第1の温度センサが、分析チップの前記底面と反対側のチップ表面の温度を検出する位置に配置され、
分析チップの前記表面から前記反応部までの距離をa、分析チップの前記底面から前記反応部までの距離をb、前記第1の温度センサが測定する温度をT1、前記目標値の温度をT2、前記反応部の所望温度をTsetとしたとき、
前記目標値の温度T2が
T2={1+(b/a)}Tset−(b/a)T1
なる値とされていることが望ましい。
【0017】
また本発明は、分析チップの反応部と前記温調部との間の位置に光路を有する全反射光学系を有する分析装置や、あるいは分析チップの反応部と前記温調部との間の位置に光路を有する表面プラズモン共鳴光学系を有する分析装置に適用されるのが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の分析装置は上述した通り、
前記分析チップに接する温調部と、
前記分析チップの周囲の温度を測定する第1の温度センサと、
前記温調部の分析チップと接する接触部分の温度を測定する第2の温度センサと、
前記第1の温度センサが測定した周囲温度および、この周囲温度を測定する位置と前記反応部との間の温度勾配に基づいて、前記反応部を所望温度にする前記接触部分の温度を求め、この求めた温度を目標値とし、かつ前記第2の温度センサが検出した温度を出力値(制御値)として前記温調部をフィードバック制御する制御回路とを備えたものであって、反応部の測定温度に基づいてフィードバック制御を行うものではないので、温調部から反応部への熱伝達の時間遅れが有ったとしても、それによって温度のハンチングが生じることがなく、反応部の温度を正確に所望温度に設定可能となる。
【0019】
なお、分析チップの反応部と前記温調部との間の位置に励起光の光路を有する全反射光学系を有する分析装置や、あるいは分析チップの反応部と前記温調部との間の位置に光路を有する表面プラズモン共鳴光学系を有する分析装置においては、前述した通り、分析チップの反応部と底面との間の距離が長くなりがちであるので、上記熱伝達の時間遅れが発生しやすく、したがって、反応部の測定温度に基づいてフィードバック制御を行う場合は温度のハンチングが発生しやすくなっている。そこで、本発明をこの種の分析装置に適用することは、上記ハンチングの発生を防止する上で特に望ましいと言える。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態による分析装置を示す概略側面図
【図2】上記分析装置の一部を示す正面図
【図3】上記分析装置における反応部の設定温度を説明する図
【図4】従来装置において生じる分析部温度のハンチングを説明する図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態による分析装置1の側面形状を一部破断し、その電気回路と併せて示すものである。また図2は、この分析装置の要部の正面形状を示すものである。
【0022】
本実施形態の分析装置1は、内部に微小流路11を有する微小流路型分析チップ(以下、単に分析チップという)10を用いて、例えば生体由来物質を検出するものである。まず、この分析チップ10について説明する。分析チップ10は分析装置1に対して着脱自在とされたものであり、試料液が流される微小流路11と、この微小流路11の底面上に固定された金属薄膜12と、微小流路11にノズル等を介して試料液を流入させる試料液流入口13と、微小流路11を流れた試料液をチップ外に流出させる試料液流出口14とを有している。なお試料液流入口13に代えて、試料液に何らかの反応を生じさせる反応カップ等を設け、そこから試料液を微小流路11に流入させるようにしてもよい。
【0023】
金属薄膜12の表面には、互いに特異的に結合する2つの物質のうちの一方の物質、例えば抗原抗体反応をする抗体が固定されている。なお、この抗体は直接微小流路11の壁面に固定されてもよいが、本実施形態では後述するように表面プラズモンによる電場増強を利用して、検出する蛍光を増強するようにしており、そこでこの場合は金属薄膜12の表面に抗体が固定されている。本実施形態ではこの金属薄膜12の表面が、抗原抗体反応を生じさせる反応部とされている。
【0024】
次に、分析装置1について説明する。この分析装置1は、ベース板15により保持された、例えばアルミニウムからなる伝熱体としての金属ブロック16と、この金属ブロック16を加熱あるいは冷却する例えばペルチェ素子からなる加熱/冷却部17と、この加熱/冷却部17を冷却するファン18と、金属薄膜12の上方位置で分析チップ10の上表面10aの温度を測定する第1温度センサ20と、分析チップ10の底面10bに接する金属ブロック16の上面(本発明における接触部分である)16aの温度を測定する第2温度センサ21と、この第2温度センサ21および上記第1温度センサ20の温度検出信号が入力される制御回路22と、この制御回路22により動作が制御されて前記加熱/冷却部17を駆動する駆動回路23とを有している。
【0025】
なお本実施形態では、上記金属ブロック16と加熱/冷却部17とで、本発明における温調部が構成されている。
【0026】
また、図1においては省略してあるが、図2に示される通り分析装置1はさらに、励起光30を、微小流路11の底面(流路壁と金属薄膜12との界面)に対して全反射条件となる入射角で、かつp偏光状態で入射させる半導体レーザ等からなる光源31と、分析チップ10の金属薄膜12の上方部分から後述するようにして発せられる蛍光を検出する光検出器32とを備えている。
【0027】
次に、この分析装置1による被検出物質の検出、分析について説明する。ここでは一例として、試料液としての血液(全血)に含まれる可能性のある抗原を検出する場合について説明する。まず、図1に示す試料液流入口13に全血が注入され、それとともに試料液流出口14に接続された図示外の試料吸引ポンプが駆動されて、全血が分析チップ10の微小流路11内に導入される。
【0028】
微小流路11に導入された試料液としての全血は、例えば金属薄膜12よりも上流側で微小流路11に吸着固定されている蛍光標識と混ぜ合わされる。この蛍光標識は、全血中に分析対象の抗原が存在すればそれと結合する。この全血が金属薄膜12の上まで流れて来ると、上記抗原が存在すればそれ金属薄膜12上の抗体とが結合する。
【0029】
このようにして金属薄膜12の上に吸着した抗原は、以下の通りにして検出される。光源31から発せられた励起光30は、微小流路11の底面(流路壁と金属薄膜12との界面)に対して、全反射条件となる入射角で入射する。こうして励起光10が全反射すると、微小流路11の底壁面から試料液中にエバネッセント光が滲み出す。このとき、エバネッセント光の滲み出し領域内に前記抗原が存在すると、それと結合している蛍光標識が励起されて蛍光が発生する。こうして発生した蛍光は、光検出器32によって検出される。以上のようにして蛍光標識の存在を検出することは、すなわち、それと結合した抗原の存在を検出することになる。そこで光検出器32の蛍光検出信号に基づいて、抗原の存在の有無や、その量を検出可能となる。
【0030】
また本実施形態では特に、金属薄膜12が形成されているため、上記エバネッセント光によって金属薄膜12中に表面プラズモンが励起される。この表面プラズモンにより金属膜表面に電界分布が生じ、電場増強領域が形成される。そこで上記蛍光は、この電場増強効果により増強されたものとなり、特に高感度で抗原の存在の有無や、その量を検出可能となる。
【0031】
ここで、上述した抗原抗体反応の程度は温度によって左右されるので、再現性の有る分析結果を得るために、反応部である金属薄膜12の表面の温度を一定の所望値に温度調節(温調)することが求められる。そのために本実施形態では、第1温度センサ20および第2温度センサ21の温度検出信号を受ける制御回路22が、第1の温度センサ20が測定した分析チップ10の上表面10aの温度(周囲温度)と、この上表面10aと金属薄膜12の表面との間の温度勾配に基づいて、金属薄膜12の表面を所望温度にする金属ブロック上面16aの温度を求める。そして制御回路22は、この求めた温度を目標値とし、かつ第2温度センサ21が検出する金属ブロック上面16aの温度を出力値(制御値)として、駆動回路23の動作を、つまりは加熱/冷却部17の動作をフィードバック制御する。以上により、金属薄膜12の表面が所望温度に維持されるようになる。
【0032】
なお上記目標値は、制御回路22において下記の通りにして決定される。図3は、図1および2に示した構成における温度測定位置と温度との関係を示している。ここに示す直線は、第1温度センサ20の温度測定位置P1と、温度を所望温度に設定すべき金属薄膜12の表面位置Psetとの間の温度勾配を示している。このような温度勾配は、温度測定位置P1における温度T1と、位置Psetにおける所望温度Tsetとの組合わせをいくつか想定し、それらの組合わせ毎に予め実験等で求めておくことができ、制御回路22はそれらの温度勾配特性を内部メモリに記憶している。
【0033】
そして制御回路22は、図3に示すように位置P1における温度T1と、位置Psetにおける所望温度Tsetとの関係に外挿して、第2温度センサ21の温度測定位置つまり金属ブロック上面16aにおける温度T2を求める。この温度T2がすなわち上記フィードバック制御における目標値であり、金属ブロック上面16aにおける温度がこの温度T2に制御されれば、金属薄膜12の表面の温度が所望の温度Tsetに設定されることになる。
【0034】
なお上記温度T2は、より詳しくは、分析チップ10の上表面10aから金属薄膜12の表面までの距離をa、金属薄膜12の表面から分析チップ10の底面10bまでの距離をbとしたとき、
T2={1+(b/a)}Tset−(b/a)T1
として求められる。これにより温度T2が適切なものになることは、図3に示す3点の関係から明らかである。ここで上記距離a、bはそれぞれ一例として2mm、3mm程度とされる。また一般に、微小流路11の深さは数μm〜数mm程度とされるが、その深さ全域に亘って試料液の温度は均一になることが多いので、本発明における反応部は、そのような深さ全域の中の任意の深さ位置に設定することができる。
【0035】
ここで、上記温度T2を外挿によって求めるための温度制御式について説明する。なお以下では、周囲温度を1箇所のみについて求める場合と、周囲温度を2箇所について求める場合とについて説明し、前者の場合の周囲温度はTenvとし、後者の場合の周囲温度はTenv1、Tenv2として示す。
【0036】
まず周囲温度を1箇所のみについて求める場合は、温度制御式として以下の2つのものが考えられる。なおkに数字を付したものは全て定数である。
(1)Tset=kTenv+k
(2)Tset=kTenv+kTenv+k
次に周囲温度を2箇所について求める場合は、温度制御式として以下の2つのものが考えられる。
(3)Tset=kTenv1+kTenv2+k
(4)Tset=kTenv1+kTenv2+kTenv1Tenv2+kTenv1+kTenv2+k
以上説明した通り本実施形態では、温度制御の対象である金属薄膜12の表面の温度を測定して、それに基づいて温調を行うものではないので、金属ブロック上面16aと金属薄膜12の表面との間に熱伝達の時間遅れが存在しても、そのために金属薄膜12の表面の温度がハンチングを起こすことがなくなる。
【0037】
また本実施形態では特に、金属薄膜12と金属ブロック16との間の位置に励起光30の光路を有する表面プラズモン共鳴光学系が設けられているので、分析チップ10の底面10bと金属薄膜12の表面との間の距離は、上記光路を許容するために長くなりがちである。つまり一例を挙げると、この距離は通常100μm以上あることが必要であり、光路の設定を容易にするためにより好ましくは1mm以上、さらに好ましくは3mm以上あることが望まれている。
【0038】
そこでこの構成においては本来上記熱伝達の時間遅れが発生しやすく、したがって、金属薄膜12の表面の測定温度に基づいてフィードバック制御を行う場合は、温度のハンチングが発生しやすくなっている。そこで、このような構成に本発明を適用した本実施形態は、上記ハンチングの発生を防止する上で特に望ましいものとなっている。
【0039】
なお、本実施形態におけるように金属薄膜12を設けて表面プラズモン共鳴を起こす光学系ではなく、単に微小流路11の底壁面で光を全反射させて該底壁面からエバネッセント光を発生させ、そのとき底壁面上に検出対象物質が付着すると全反射光量が減衰することを利用して、検出対象物質を検出、分析することも可能である。そのような場合も、上記光路が存在するため、分析チップ10の底面10bと微小流路11の底壁面との間の距離が長くなりがちである。したがって本発明は、そのような構成を有する分析装置に適用された場合も、前記ハンチングの発生を防止する上で特に望ましいものになる。
【0040】
以上説明した実施形態では、第1温度センサ20により分析チップ10の上表面10aの温度を周囲温度として測定しているが、この分析チップ上表面10aよりも上に離れた雰囲気中の温度を周囲温度として測定するようにしても構わない。そうする場合も、図3に示した関係に基づいて、金属薄膜12の表面等の反応部の温度を所望温度Tsetに設定する温度T2を適切に求めることができる。
【0041】
さらに本発明は、先に述べたような反応カップを備える分析チップを用い、その反応カップで前処理としての1次反応を生じさせ、次いでチップ内の流路において2次反応を生じさせるようにした分析装置に対しても同様に適用可能である。その場合は、2次反応を生じさせる部分を反応部として、そこの温度を所望温度に設定するように温調を行えばよい。
【符号の説明】
【0042】
1 分析装置
10 分析チップ
10a 分析チップの上表面
10b 分析チップの底面
11 微小流路
12 金属薄膜
16 金属ブロック(伝熱体)
17 加熱/冷却部
20 第1温度センサ
21 第2温度センサ
22 制御回路
23 温調部駆動回路
31 光源
32 光検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検出物質と反応する反応部を内部に有する分析チップを用いて、前記被検出物質に関する分析を行う分析装置において、
前記分析チップに接する温調部と、
前記分析チップの周囲の温度を測定する第1の温度センサと、
前記温調部の分析チップと接する接触部分の温度を測定する第2の温度センサと、
前記第1の温度センサが測定した周囲温度および、この周囲温度を測定する位置と前記反応部との間の温度勾配に基づいて、前記反応部を所望温度にする前記接触部分の温度を求め、この求めた温度を目標値とし、かつ前記第2の温度センサが検出した温度を出力値として前記温調部をフィードバック制御する制御回路とを備えたことを特徴とする分析装置。
【請求項2】
前記温調部が、前記分析チップと接する伝熱体を有し、該伝熱体を介して前記分析チップを加熱または冷却するものであり、
前記第2の温度センサが、前記伝熱体の、分析チップと接する接触部分の温度を測定するものであることを特徴とする請求項1記載の分析装置。
【請求項3】
前記分析チップが、その底面が前記温調部の接触部分に接触して該接触部分と同温度となる状態に配置され、
前記第1の温度センサが、分析チップの前記底面と反対側のチップ表面の温度を検出する位置に配置され、
分析チップの前記表面から前記反応部までの距離をa、分析チップの前記底面から前記反応部までの距離をb、前記第1の温度センサが測定する温度をT1、前記目標値の温度をT2、前記反応部の所望温度をTsetとしたとき、
前記目標値の温度T2が
T2={1+(b/a)}Tset−(b/a)T1
なる値とされていることを特徴とする請求項1または2記載の分析装置。
【請求項4】
前記分析チップの反応部と前記温調部との間の位置に光路を有する全反射光学系を有することを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の分析装置。
【請求項5】
前記分析チップの反応部と前記温調部との間の位置に光路を有する表面プラズモン共鳴光学系を有することを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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