説明

分注ヘッドおよび分注ヘッドを用いた分注装置

【課題】本発明はピストンの温度上昇を最小限に抑制し、吸引・吐出液量を精度よく制御し、液量のばらつきを小さくした分注ヘッドと分注ヘッドを用いた分注装置を提供する。
【解決手段】 筒状のケーシング7と、前記ケーシング7から突出するように配置されたシリンジ1と、前記シリンジ1の一方端に設けられたノズル2と、前記シリンジ1の他方端から挿入されるプランジャ3と、前記プランジャ3を可動子41として駆動させるリニアモータ4とからなり、前記プランジャ3の往復動により前記ノズル2から溶液を吸引または吐出する分注ヘッドにおいて、前記プランジャ3は、前記リニアモータ4との連結側を伸延して摺動可能な保持部材で保持され、前記プランジャ3の一部が蓄熱材料または、断熱材料から構成されたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生化学的分析、免疫学的分析などに用いる試薬分注その他の液体容器内の液体を所定量吸引・分注する際に、容器内の液体を少量かつ正確に吸引し、試料溶液に熱変成を与えないように分注できるようにした分注ヘッドおよび分注ヘッドを用いた分注装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の分注ヘッドとして、次の2つの提案がされている。第1は、シリンダ内の液体を吐出させるピストンにリニアモータの可動部を連結して直線方向に移動させるものである(例えば、特許文献1参照)。図7は、その分注ヘッドの側断面図である。図において、101は電動注射装置本体のケーシング、102は薬液カートリッジ、103は薬液カートリッジを保持するカートリッジホルダー、104は薬液カートリッジを収納するケーシング、105は駆動手段のリニアモータ、106はリニアモータ可動部の支持部材、107はプランジャーロッド、108は電源としての電池、109はリニアモータの駆動を制御して吐出量を設定する制御部である。
ケーシング101と薬液カートリッジ102とは着脱自在に嵌合でき、カートリッジホルダー103で薬液カートリッジ102をケーシング101に固定する。また、薬液カートリッジ102内には薬液102aが封入されており、基端側にケーシング101と着脱自在に連結する固定部104を有しており、カートリッジホルダー103で薬液カートリッジ102をケーシング101に固定する。また、薬液カートリッジ102内には薬液102aが封入されており、基端側にピストン102b、先端側にはゴム材の隔壁が装着され、その隔壁に注射針110を取り付けて使用する。
第2は、リニアモータの可動子にシリンダのピストンを接続し、小型化及び簡素化されるものである(例えば、特許文献2参照)。図8は、その分注ヘッドの側断面図である。図において、201はケーシング、202はノズル、203はシリンダ、204はピストン、220はガイド、221は貫通孔、222はリニアモータ、223は可動子、224はねじである。
ケーシング201の端部には、ノズル202を有するシリンダ203が取り付けられている。シリンダ203に設けられた長手棒状のピストン204は、このシリンダ203から外部へ突出しており、このピストン204はシリンダ203に設けられたガイド220の貫通孔221を貫通して摺動自在に設けられている。ケーシング201の内側には、周知の長手形状をなすアクチュエータとしてのリニアモータ222が設けられており、このアクチュエータ222の可動子223は矢印Aの方向に沿って往復移動自在に設けられている。また、このリニアモータ222とピストン204とは、互いに平行に配置されている。前記可動子223には、前記ピストン204が接続され、ねじ224によって所定長さとなるように固定されている。従って、前述の構成において、リニアモータ222を作動させて可動子223を矢印Aの方向に沿って選択的に往復運動させることにより、ピストン204はシリンダ203内で往復動し、ノズル202及びシリンダ203内への薬液等の吸入、あるいは、ノズル202およびシリンダ203からの薬液等の外部への注入を行うことができる。
【特許文献1】特開2003−180828(第3頁、図1)
【特許文献2】特開2002−364526(第2頁 図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の分注ヘッドは、リニアモータの可動子とピストンが連結された構造であるので、モータ部の発熱が可動子からピストンに伝導し、シリンダ内の薬液の温度が上昇し、薬液の組成を破損する等の問題が生じていた。
また、ケーシング内は密閉構造となっていたため、リニアモータの発熱により内部温度が上昇し、可動子を冷却できない構造となっていたために、ピストンに伝導された温度によりシリンダ内の薬液の温度が上昇し、薬液の組成を破損する等の問題が生じていた。
また、リニアモータ構造を有しており、永久磁石とヨーク間で発生する磁気吸引力により、可動子が偏芯することにより、ピストンとシリンダの同軸がずれる等して液量が不安定になるという問題が生じていた。
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、ピストンの温度上昇を最小限に抑制し、吸引・吐出液量を精度よく制御し、液量のばらつきを小さくした分注ヘッドと分注ヘッドを用いた分注装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記問題を解決するため、本発明は、次のように構成したものである。
請求項1に記載の発明は、筒状のケーシングと、前記ケーシングの一方から突出するように配置されたシリンジと、前記シリンジの一方端に設けられたノズルと、前記シリンジの他方端から挿入されるプランジャと、前記プランジャを移動させるリニアモータとからなる分注ヘッドにおいて、前記プランジャの一部または全てが蓄熱材料または、断熱材料から形成されたものである。
請求項2に記載の発明は、前記プランジャに用いられる蓄熱材料が、フッ化リチウムや、シリコンカーバイト、またはフッ化リチウムとシリコンカーバイトのコンポジット材料、または、断熱材料がアルミナ系およびシリカ系材料からなるものである。
請求項3に記載の発明は、前記ケーシングの一部に給排気口を設けたものである。
請求項4に記載の発明は、前記給排気口が開閉するする弁構造を具備したものである。
請求項5に記載の発明は、前記リニアモータが軸方向に極性の異なる複数個配置された永久磁石と、ラジアル方向に空隙を介して筒状に巻回されて配置された電機子巻線とからなるものである。
請求項6に記載の発明は、前記分注ヘッドが、少なくとも1本を配置されて分注作業を行う分注装置である。
【発明の効果】
【0005】
請求項1および2に記載の発明によると、プランジャの1部または全てが蓄熱材料または、断熱材料から構成されることで、リニアモータからの発熱がピストンへ伝導しにくいためにシリンダ内の薬液の温度上昇を抑制でき、薬液の組成を破壊することがない。
請求項3および4に記載の発明によると、ケーシングの一部に給排気口を設けることで、密閉状態にならず、リニアモータの発熱は自然対流または、プランジャの移動に伴い、空気により冷却されるので、ピストンの発熱が抑制され、シリンダ内の薬液の温度上昇も抑制される。
請求項5に記載の発明によると、筒状に巻回されて配置された電機子と、この電機子にラジアル方向に空隙を介して配置された永久磁石からリニアモータを構成したことで、電機子と永久磁石間にラジアル方向に磁気吸引力が発生しないので、プランジャが偏芯することなく移動できるために、ピストンとシリンダの同軸が得られ、安定した液量が得られる。
請求項6に記載の発明によると、分注ヘッドを1または複数本配置することで、複数の薬液を正確な液量で分注できる分注装置を得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【実施例1】
【0007】
図1は、本発明の分注ヘッドの断面図である。図において、1はシリンジ、2はノズル、3はプランジャ、31は蓄熱部、4はリニアモータ、41は可動子、42はマグネット、43は電機子巻線、5は位置検出センサ、51は磁界検出素子、6は保持部材のスリーブ、7はケーシング、8は給排気口である。
シリンジ1の給排孔にノズル2が嵌挿されており、また、シリンジ1内面は、微小なすきまを介してプランジャ3が内挿されている。このプランジャ3は、フッ化リチウムや、シリコンカーバイト、またはフッ化リチウムとシリコンカーバイトのコンポジット材料等からなる蓄熱部31を介してリニアモータ4の可動子41に連結されている。可動子41は、鉄などからなる磁性材を切削加工などにより形成されている。
リニアモータ4は、可動子41の円周面に貼り付けた極性の異なる複数個のマグネット42と、このマグネット42に空隙を介して対向するように配置された複数個の筒状に巻回された電機子巻線43から構成されており、図面上の可動子41右端は、位置検出センサ50へ挿入されている。
位置検出センサ5は、MR素子などからなる磁界検出素子51がスリーブ6の外周面に、可動子41に対向するように貼り付けなどにより固定されている。スリーブ6の内周面は摺動性のよいフッ化樹脂コートなどの材料から作製され、微小なすきまを介して可動子41を内挿している。
ケーシング7は、シリンジ1端面と連結され、リニアモータ4および位置検出センサ5を内部に配置している。また、ケーシング1の外周面には複数個の穴上の給排気口8を形成している。給排気口8とケーシング7の関係について図2を用いて説明する。シリンジ1側のケーシング7の側面には、複数個の孔9があけられており、孔径よりも若干大きい径を有するシリカなどからなる球10を備え、ケーシング1の孔9に対向する孔11を形成したブラケット12で覆うことで逆止弁構造となっている。また、ケーシング7のもう一端の側面にも複数個の孔9があけられている。
本発明が特許文献1と異なる部分は、リニアモータの可動子とプランジャ3間に蓄熱部を設けた構成にし、さらに、ケーシング7に給排気口8となる逆止弁構造を具備した部分である。
【0008】
次にその動作について説明する。図示しないコントローラでは、移動位置の指令値と、センサ5からの現在値が比較され、指令値に基づいた所定の位置へ移動する。この際、駆動に要する推力に相当した電流がリニアモータ4の電機子巻線43に通電され、マグネット42との磁気的作用により可動子41(プランジャ3)は移動する。この時、電機子43は軸方向に起磁力が発生する。また、マグネット42は、隣合うマグネット42間で閉回路を作るように磁気回路を形成する。このように電機子43とマグネット42間では、軸方向にのみに磁気的作用が発生することから、ラジアル方向への磁気力は生じない。すなわち、可動子41(プランジャ3)は偏芯することなく移動する。
次に、磁界検出素子51と可動子41の位置の関係は図3に示すように検出磁界強度に比例した関係から求めることができる。この関係からシリンジ容量と移動量の関係を図2中記載の(A)、(B)の点について説明する。
(A)の状態は、シリンジ1に溶液が充填されている状態である(図3参照)。
(B)の状態は、コントローラからの移動指令(所定液量の排出)により可動子41が移動した位置である(図4参照)。この(A)と(B)の移動量の差分と、シリンジ1の断面積から吐出された液量を求めることができる。
また、このように、可動子41とプランジャ3を一体成形することで、プランジャ3の移動位置を直接検出しているので、位置決め誤差による液量誤差が低減でき、高精度な液量制御が可能である。
また、リニアモータ4への通電により、プランジャ3の温度上昇が懸念されるが、プランジャ3と可動子41間には、蓄熱部31を具備しているので、可動子41からプランジャ3へ伝導する温度を蓄熱部31で遮断する。さらに、図4に示した所定液量の排出時には、図5に示すようにケーシング7の周囲の空気が孔9により吸気され、給排気口8の球10が、ケーシング7内が周囲より高い圧力になることにより押し上げられ、空気がケーシング7外部へ流れ出る。このような動作によりケーシング7内部は冷却され、プランジャ3の温度上昇が抑制される。
なお、本実施例では、可動子41とプランジャ3間の蓄熱部31にフッ化リチウムや、シリコンカーバイト、またはフッ化リチウムとシリコンカーバイトのコンポジット材料等の蓄熱材料を用いたが、アルミナ系およびシリカ系材料からなる断熱材料でも良く、可動子41からの熱がプランジャ3へ伝わりにくいものであれば良い。また、本実施例では、蓄熱部31が可動子41とプランジャ3間の一部に配設されていたが、プランジャ3全てが蓄熱材料または断熱材料でも良い。
【実施例2】
【0009】
図6は、分注ヘッドを用いた分注装置の正面図である。13は分注ヘッド、14は吸引セル、15は吐出セル、16はZステージ、17はXYステージである。
分注ヘッド13は、Zステージ16上に配置され、XYステージ17上には、吸引セル14と吐出セル15が配置されている。
次に、吸引吐出動作について説明する。分注ヘッド13は、Zステージ16より吸引セル14上の吸引位置まで下降し、吸引動作する。
次に、分注ヘッド13は、Zステージ16により上昇され、吐出セル15の吐出位置が分注ヘッド13と一致するように吐出セルはXYステージ17で移動される。
次に、分注ヘッド13はZステージ16により吐出位置まで下降し、吐出動作する。このような動作を繰り返すことで、吸引セル14内の溶液は吐出セル15へ移し替えられる。
【産業上の利用可能性】
【0010】
使用する溶液を生化学的分析、免疫学的分析などに用いる試薬から、半導体製造に関するレジスト、化学溶剤や接着剤にすることによって微少量の液量を制御する必要がある塗布作業という用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例を示す分注ヘッドの側断面図
【図2】本発明の給排気口を示す側断面図
【図3】本発明の磁界検出素子のセンサ信号を示す図
【図4】本発明の吸引状態を示す可動子端部の側断面図
【図5】本発明の吐出状態を示す可動子端部の側断面図
【図6】本発明の分注装置を示す正面図
【図7】第1の従来の分注ヘッドを示す断面図
【図8】第2の従来の分注ヘッドを示す断面図
【符号の説明】
【0012】
1 シリンジ
2 ノズル
3 プランジャ
31 蓄熱部
4 リニアモータ
41 可動子
42 マグネット
43 電機子巻線
5 位置検出センサ
51 磁界検出素子
6 保持部材のスリーブ
7 ケーシング
8 給排気口
9 孔
10 球
11 孔
12 ブラケット
13 分注ヘッド
14 吸引セル
15 吐出セル
16 Zステージ
17 XYステージ
101 ケーシング
102 薬液カートリッジ
102a 薬液
102b ピストン
103 カートリッジホルダー
104 ケーシング
105 リニアモータ
106 支持部材
107 プランジャーロッド
108 電池
109 制御部
110 注射針
201 ケーシング
202 ノズル
203 シリンダ
204 ピストン
220 ガイド
221 貫通孔
222 リニアモータ
223 可動子
224 ねじ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のケーシングと、前記ケーシングの一方から突出するように配置されたシリンジと、前記シリンジの一方端に設けられたノズルと、前記シリンジの他方端から挿入されるプランジャと、前記プランジャを移動させるリニアモータとからなる分注ヘッドにおいて、
前記プランジャの一部または全てが蓄熱材料または、断熱材料から形成されたことを特徴とする分注ヘッド。
【請求項2】
前記プランジャに用いられる蓄熱材料が、フッ化リチウムや、シリコンカーバイト、またはフッ化リチウムとシリコンカーバイトのコンポジット材料、または、断熱材料がアルミナ系およびシリカ系材料からなることを特徴とする請求項1記載の分注ヘッド。
【請求項3】
前記ケーシングの一部に給排気口を設けたことを特徴とする請求項1記載の分注ヘッド。
【請求項4】
前記給排気口が開閉するする弁構造を具備したことを特徴とする請求項3記載の分注ヘッド。
【請求項5】
前記リニアモータが軸方向に極性の異なる複数個配置された永久磁石と、ラジアル方向に空隙を介して筒状に巻回されて配置された電機子巻線とからなることを特徴とする請求項1記載の分注ヘッド。
【請求項6】
前記分注ヘッドが、少なくとも1本を配置されて分注作業を行うことを特徴とする分注装置

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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