説明

分注装置、分注装置における吸引異常判定方法、及び吸引異常判定のための閾値設定方法

【課題】 吸引圧力曲線に沿った閾値を設定することにより吸引異常を高感度に検出できるようにするとともに、実際の吸引圧力曲線と合わないような不都合をなくす。
【解決手段】 ノズルチップ102により血清201を吸引する前に、圧力センサ107により吸引前の圧力値PR0を測定し、使用しているノズルチップ102に対応した血清用の閾値情報(吸引圧力の閾値PL(t))を閾値情報記憶部113から取得し、測定された吸引前の圧力値PR0を用いて、ノズルチップ102による血清201の吸引開始からの時間に応じて変化する吸引圧力の閾値PL(t)を設定する。その後、血清201の吸引を開始して、吸引開始からの各時間において吸引圧力の閾値PL(t)と圧力センサ107により検出された吸引圧力とを比較する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば血液から分離した血清を分注する分注装置、分注装置における吸引異常判定方法、及び吸引異常判定のための閾値設定方法に関し、特にノズルチップの詰まり等の吸引異常を判定するのに利用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
例えば人体から採取した血液を検査する分野においては、血液から分離した血清(液体試料)を自動分注装置により検査容器に分注することが行われる。自動分注装置では、ノズルを液体試料の位置まで移動させるとともに、ポンプを駆動してノズル内を減圧してノズルチップにより液体試料を吸引する。そして、液体試料を吸引した状態を保持しつつノズルを検査容器の位置まで移動させ、吸引した液体試料を検査容器に吐出する。
【0003】
ところで、血清を分注するような場合には、血清に含まれるフィブリンによりノズルチップの詰まりが生じたり、ノズルチップが分離剤に接触して分離剤を吸引することによりノズルチップの詰まりが生じたりするおそれがある。このようにノズルチップの詰まり等の吸引異常が生じると、液体試料の分注量がばらついて、分析精度が低下してしまう。また、分離剤との接触による詰まり等では、液体試料(血清)中に他の物質(分離剤)が混入してしまうことになる。したがって、ノズルチップの詰まり等の吸引異常を検出し、適切な処置を施すようにすることは極めて重要である。
【0004】
ここで、図10に実線で示すように、ノズルチップにより液体試料を吸引するときの吸引圧力は液体試料の吸引開始から連続的に変化し、吸引異常発生時には、点線Aや点線Bで示すように吸引圧力が変化することが分かっている。これまでは、図10に二点鎖線で示すように、ある圧力値を閾値として設定しておき、吸引圧力が閾値を超えた(下まわった)場合に、ノズルチップの詰まり等の吸引異常が生じたと判定することが行われていた。
【0005】
しかしながら、正常時においても吸引圧力は徐々に減少するので、一定の圧力値を閾値として設定する場合、その閾値は吸引圧力の最小値を超えないようにする必要がある。そのため、特に吸引開始後の早い段階で吸引異常が生じて圧力変化が生じたときには、その圧力変化を検出するのが遅れてしまったり(点線Aに示す場合)、まったく検出できなかったりする(点線Bに示す場合)おそれがあり、吸引異常を確実に検出することができない。
【0006】
【特許文献1】特開2000−121649号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、上述したように一定の圧力値を閾値とするのではなく、所定量の試料を分注するときに、吸引圧力の変化に影響する分注パラメータを基にして吸引圧力曲線データを計算により求めておき、その吸引圧力曲線データの曲線に沿った所定の上下幅の領域を判定領域とすることが開示されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示されているように分注パラメータのみを基にして吸引圧力曲線データを計算により求める場合、実際の現象が理論から離れるときには、計算により求めた吸引圧力曲線が、実際の吸引圧力曲線と合わないものとなってしまう。例えば、特許文献1では、流速に比例した圧力損失(粘性損失)を考慮しているが、流速の二乗に比例する圧力損失(ノズルチップ先端部で発生する動圧1/2・ρ・v2に比例した急縮小管や広がり管の圧損)は考慮されていない。流速が大きい場合では流速の二乗に比例する効果が無視できなくなり、実際の吸引圧力特性と合わないものとなってしまう。また、特許文献1では、ポンプ速度が定速の場合のみを考慮しており、例えば台形駆動(小さい初速度から加速し、最後に減速して停止する)には対応しておらず、実際の吸引圧力特性と合わないものとなってしまう。
【0009】
本発明は、上記のような点に鑑みてなされたものであり、ノズルチップによる液体試料の吸引開始からの時間に応じて変化する吸引圧力に関する閾値を設定することにより吸引異常を高感度に検出できるようにするとともに、実際の吸引圧力特性と合わないような不都合をなくすことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による分注装置は、ノズルチップにより液体試料を吸引する分注装置であって、所定のパラメータを含む閾値情報と、前記ノズルチップにより前記液体試料を吸引するときの前記所定のパラメータ値とを用いて、前記ノズルチップによる前記液体試料の吸引開始からの時間に応じて変化する吸引圧力に関する閾値を設定する閾値設定手段と、前記ノズルチップにより前記液体試料を吸引するときの吸引圧力を検出する吸引圧力検出手段と、前記吸引圧力検出手段により検出された吸引圧力そのものの値或いはその吸引圧力から得られる値と、前記閾値設定手段により設定された閾値とを比較して、吸引異常を判定する判定手段とを備え、前記所定のパラメータを含む閾値情報は、予め、前記ノズルチップと同等のノズルチップを用いて、前記液体試料に応じて準備された基準試料を吸引することにより吸引圧力曲線を取得し、その吸引圧力曲線を利用して求められたものである点に特徴を有する。
本発明による分注装置における吸引異常判定方法は、ノズルチップにより液体試料を吸引する分注装置における吸引異常判定方法であって、所定のパラメータを含む閾値情報と、前記ノズルチップにより前記液体試料を吸引するときの前記所定のパラメータ値とを用いて、前記ノズルチップによる前記液体試料の吸引開始からの時間に応じて変化する吸引圧力に関する閾値を設定する閾値設定手順と、前記ノズルチップにより前記液体試料を吸引するときの吸引圧力を検出する吸引圧力検出手順と、前記吸引圧力検出手順により検出された吸引圧力そのものの値或いはその吸引圧力から得られる値と、前記閾値設定手順により設定された閾値とを比較して、吸引異常を判定する判定手順とを有し、前記所定のパラメータを含む閾値情報は、予め、前記ノズルチップと同等のノズルチップを用いて、前記液体試料に応じて準備された基準試料を吸引することにより吸引圧力曲線を取得し、その吸引圧力曲線を利用して求められたものである点に特徴を有する。
本発明による吸引異常判定のための閾値設定方法は、ノズルチップにより液体試料を吸引するときの吸引異常判定のための吸引圧力に関する閾値を設定する吸引異常判定のための閾値設定方法であって、前記ノズルチップと同等のノズルチップを用いて、前記液体試料に応じて準備された基準試料を最大吸引設定量で吸引することにより、吸引圧力曲線を取得する吸引圧力曲線取得手順と、前記吸引圧力取得手順により取得された吸引圧力曲線そのもの或いはその吸引圧力曲線から得られる曲線の少なくとも一部の近似曲線を求める近似曲線取得手順と、前記近似曲線取得手順により求められた近似曲線を用いて、吸引異常判定のための吸引圧力に関する閾値情報を決定する閾値情報決定手順とを有する点に特徴を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ノズルチップによる液体試料の吸引開始からの時間に応じて変化する吸引圧力に関する閾値を設定するようにしたので、吸引圧力曲線そのもの或いはその吸引圧力曲線から得られる曲線に沿った閾値を設定することができ、吸引異常を高感度に検出することができる。
【0012】
しかも、所定のパラメータを含む閾値情報は、使用するノズルチップと同等のノズルチップを用いて、液体試料に応じて準備された基準試料を吸引することにより吸引圧力曲線を取得し、その吸引圧力曲線を利用して求められたものであるので、実際の吸引圧力特性と合わないような不都合をなくすことができる。
【0013】
さらに、所定のパラメータを含む閾値情報と、ノズルチップにより液体試料を吸引するときの所定のパラメータとを用いて閾値を設定するようにしたので、その所定のパラメータについては、基準試料を用いて吸引圧力を取得したときと値が異なる場合でもあらためて吸引圧力曲線を取得する必要がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明を適用した自動分注装置の概略構成を示す図である。本実施形態では、遠心分離により採血管200内にて血液を血清201、分離剤202、血餅203に分離し、血清201を液体試料として分注する例について説明する。
【0015】
101は先細り形状を有するノズルである。102は血清201を吸引するためのノズルチップであり、本実施形態ではノズル101の先端に取り外し可能に装着されるディスポーザブルチップが用いられる。103はステッピングモータ等により実現されるXYZ軸駆動部であり、制御部108からの制御信号に従ってノズル101をX軸、Y軸、Z軸方向に移動させる。
【0016】
104はノズル101とシリンジポンプ105とを接続する配管である。105はシリンジポンプであり、シリンダ105a内でピストン105bを動かすことにより、ノズル101、ノズルチップ102、及び配管104内のエア圧力を変化させる。106はシリンジポンプ駆動部であり、制御部108からの制御信号に従ってシリンジポンプ105のピストン105bを動かす。
【0017】
107はノズル101、ノズルチップ102、及び配管104内のエア圧力を検出する圧力センサであり、検出した圧力を電流信号として出力する。
【0018】
108は自動分注装置の各部を制御する制御部であり、例えばコンピュータのCPUにより構成される。109は各種設定等をオペレータが行うための入力部であり、例えばキーボードやマウスにより構成される。110は各種情報を表示するための表示部であり、例えば液晶ディスプレイにより構成される。
【0019】
111はI/V変換回路であり、圧力センサ107から出力される電流信号を電圧信号に変換する。112はADコンバータであり、I/V変換回路111から出力されるアナログ信号の電圧信号をデジタル信号に変換する。
【0020】
113は閾値情報記憶部であり、吸引前の圧力値をパラメータとして含む吸引圧力の閾値情報を記憶し、その閾値情報を閾値設定部114に出力する。閾値情報記憶部113に記憶された閾値情報は、詳しくは後述するが、使用するノズルチップ102と同等のノズルチップを用いて、血清201に応じて準備された基準試料(血清201と同等の物性を有する基準試料)を最大吸引設定量で吸引することにより吸引圧力曲線を取得し、その吸引圧力曲線を利用して求められたものである。
【0021】
114は閾値設定部であり、閾値情報記憶部113から取得される閾値情報と、ノズルチップ102により血清201を吸引するときの吸引前の圧力値とを用いて、ノズルチップ102による血清201の吸引開始からの時間に応じて変化する吸引圧力の閾値を設定する。
【0022】
115は判定部であり、ノズルチップ102により血清201を吸引する際に、圧力センサ107により検出された吸引圧力と閾値設定部114により設定された吸引圧力の閾値とを比較して、吸引圧力が閾値を超えた場合に、ノズルチップ102の詰まりが生じたと判定する。
【0023】
ここで、閾値情報記憶部113に記憶された閾値情報をどのようにして得るかについて説明する。
【0024】
第1のステップとして、実際に血清201を分注するに先立って、使用するノズルチップ102と同等のノズルチップを用いて、血清201と同等の物性を有する基準試料を最大吸引設定量で吸引することにより、吸引圧力曲線P(t)(基準波形)を取得する。
【0025】
次に、第2のステップとして、フィッティング処理により、第1のステップにより取得された吸引圧力曲線P(t)の近似曲線Pa(t)を求める。すなわち、第2のステップでは、吸引前の圧力値P0、ノズルチップ内での最大液量吸引時の液面高さh、最小圧力値Pmin、吸引開始(シリンジポンプ105の始動)から最小圧力値Pminとなるまでの時間Tmin、基準試料の密度ρ、重力加速度g、時定数τを用いて、吸引圧力曲線P(t)の近似曲線Pa(t)を、下式(1)
a(t)=P0−(P0−Pmin−ρgh)・(1−exp(−t/τ))−ρgh・t/Tmin
・・・式(1)
(tは吸引を開始した時点を0とする時間である)
として表わし、実測した吸引圧力曲線P(t)と近似曲線Pa(t)とが略一致するように時定数τを決定する。
【0026】
具体的には、図2(a)に示すように、圧力センサ107により吸引前の圧力値P0を測定した後、基準試料を吸引して吸引圧力曲線P(t)を取得し、最小圧力値Pmin及び吸引開始(シリンジポンプ105の始動)から最小圧力値Pminとなるまでの時間Tminを取得する。時間Tminはシリンジポンプ105の運転パラメータから算出することができ、例えば台形駆動(小さい初速度から加速し、最後に減速して停止する)であれば、図3に示すように吸引開始から減速直前までの時間となる。このように、定速以外の台形駆動等にも対応することができる。そして、その時間Tminにおける圧力値を実測した吸引圧力曲線P(t)から測定して最小圧力値Pminとする。
【0027】
また、ノズルチップ内での最大液量吸引時の液面高さhを取得して、図2(b)に示すように、最大水頭圧ρghを取り込む。
【0028】
そして、図2(c)に示すように、時定数τを0から順次増やしていき、近似曲線Pa(t)が実測した吸引圧力曲線P(t)に略一致する時定数τを決定する。
【0029】
次に、第3のステップとして、図2(d)に示すように、上述したようにして求められた近似曲線Pa(t)と、定数PL0とを用いて、吸引圧力の閾値PL(t)を、下式(2)
PL(t)=Pa(t)−PL0・・・式(2)
として決定する。定数PL0の値を小さくすれば、吸引異常の検出感度を高めることができる。定数PL0はノイズ等を考慮して適宜な値に設定する。
【0030】
以上のようにして求められた吸引圧力の閾値PL(t)を閾値情報として閾値情報記憶部113に記憶する。この場合に、ノズルチップ102として複数種のノズルチップを使用するのであれば、各ノズルチップと同等のノズルチップについて第1〜3のステップを行い、吸引圧力の閾値PL(t)を求めておく。また、血清201以外の液体試料も吸引の対象とするのであれば、同様に各液体試料の基準試料について第1〜3のステップを行い、吸引圧力の閾値PL(t)を求めておく。
【0031】
次に、図4のフローチャートを参照して、本実施形態の自動分注装置における分注動作について説明する。まず、ノズルチップ102が装着されたノズル101をXYZ軸駆動部103により吸引位置まで移動させて、ノズルチップ102の先端を採血管200内に挿入して血清201に浸漬させる(ステップS401)。
【0032】
この状態で、圧力センサ107により吸引前の圧力値PR0を測定する(ステップS402)。
【0033】
続いて、使用しているノズルチップ102に対応した血清用の閾値情報(吸引圧力の閾値PL(t))を閾値情報記憶部113から取得し、ステップS402で測定された吸引前の圧力値PR0を用いて、ノズルチップ102による血清201の吸引開始からの時間に応じて変化する吸引圧力の閾値を設定する(ステップS403)。
【0034】
すなわち、吸引前の圧力値PR0が、基準試料を吸引したときの吸引前の圧力値P0と値が異なっていても、他のパラメータ(液面高さh、時間Tmin、密度ρ、重力加速度g、時定数τ)は変わることがないので、図5に示すように、吸引圧力曲線は同形状となる。したがって、上式(2)において、圧力値P0、Pminに代えて、圧力値PR0、PRmin(PRminは圧力値PR0と圧力値P0との差分を用いれば求まる)を代入したものを吸引圧力の閾値PL(t)として設定する。
【0035】
その後、シリンジポンプ105のピストン105bを引くと、ノズル101、ノズルチップ102、及び配管104内のエア圧力が低下して(吸引圧力)、ノズルチップ102による血清201の吸引が開始される(ステップS404)。
【0036】
ノズルチップ102により血清201の吸引が開始されると、制御部108からのタイマ信号に基づいて、吸引開始からの各時間において吸引圧力の閾値PL(t)と圧力センサ107により検出された吸引圧力とが比較される(ステップS405)。すなわち、図6に示すように、吸引圧力曲線(図中実線)に沿うように、吸引開始からの時間に応じて変化する吸引圧力の閾値(図中二点鎖線)が設定されることになる。このように吸引圧力曲線に沿った閾値を設定することにより、吸引異常による圧力変化を検出するのが遅れてしまったり、まったく検出できなかったりすることがなくなり、吸引異常を高感度に検出することができる。
【0037】
ステップS405にてある時間において吸引圧力が閾値を超えた場合、ノズルチップ102の詰まりが生じたと判定される(ステップS406)。この場合、例えばシリンジポンプ105を停止し、それまで吸引した血清201を吐き戻したり、ノズルチップ102を新しいものに交換したりする等の所定の処理が施される(ステップS407)。
【0038】
それに対して、ステップS405にて吸引圧力が閾値を超えることなくノズルチップ102による血清201の吸引が終了すると(ステップS408)、XYZ軸駆動部103によりノズル101を引き上げて、不図示の検査容器の上方に移動させる。そして、シリンジポンプ105のピストン105bを押し込むことにより、ノズルチップ102内の血清201が検査容器に吐出されて(ステップS409)、一連の分注動作が終了する。
【0039】
以上述べたように、使用するノズルチップ102と同等のノズルチップを用いて、吸引の対象とする液体試料(血清等)に応じて準備された基準試料を吸引することにより吸引圧力曲線(基準波形)を取得し、その基準波形を利用して時定数τや吸引前の圧力値P0といったパラメータを得て閾値情報を求めるようにしたので、計算により吸引圧力曲線データを求めるのに比べて、現実の吸引圧力曲線に合った閾値を設定することができ、実際の吸引圧力曲線と合わないような不都合をなくすことができる。
【0040】
しかも、吸引前の圧力値PR0が、基準波形を取得したときの吸引前の圧力値P0と値が異なっていても、吸引前の圧力値P0での閾値PL(t)を利用することができる。したがって、吸引前の圧力値PR0として新たに基準波形を取得する手間は不要であり、作業負担が少なくすることができる。
【0041】
また、基準試料を最大吸引設定量で吸引することにより基準波形を取得しているが、血清201を吸引するときに吸引設定量を変更する場合でも、最大吸引設定量での閾値PL(t)を利用することができる。すなわち、吸引設定量だけを変更するときは、図5の二点鎖線に示すように、途中までは最大吸引設定量での基準波形と一致するので、最大吸引設定量での吸引圧力曲線を利用した閾値PL(t)をそのまま用いることができる。
【0042】
さらに、以下に説明するように、吸引の対象とする液体試料の粘度や分注時の吸引速度が、基準試料の粘度や基準試料を吸引したときの吸引速度と相違する場合でも、基準試料に基づいて得られた閾値PL(t)を利用することが可能である。
【0043】
(吸引の対象とする液体試料の粘度が基準試料の粘度と相違する場合)
吸引の対象とする液体試料の粘度が基準試料の粘度と相違する場合でも、基準試料に基づいて得られた閾値PL(t)を利用することが可能である。図7(a)には、液体試料の粘度[cP]が1〜20[cP]の範囲で変化したときの吸引圧力曲線P1(t)〜P5(t)を示す。
【0044】
例えば最小粘度1[cP]の液体試料を基準試料として、上式(1)により近似曲線Pa1(t)を取得しておく。また、他の粘度2[cP]、5[cP]、10[cP]、20[cP]については基準波形から最小圧力値Pminのみをそれぞれ取得しておく。そして、近似曲線Pa1(t)の最小圧力値Pminを他の粘度2[cP]、5[cP]、10[cP]、20[cP]での最小圧力値Pminに置換すると、図7(a)に示すような近似曲線Pa2(t)〜Pa5(t)が得られる。
【0045】
すなわち、最小粘度1[cP]の液体試料についてフィッティング処理を行い、他の粘度については最小圧力値Pminのみをそれぞれ取得しておけば、各粘度1[cP]、2[cP]、5[cP]、10[cP]、20[cP]での閾値を求めることができる(上式(2))。この場合に、図7(a)に示すように、高粘度になるほど近似曲線Pa2(t)〜Pa5(t)と吸引圧力曲線P2(t)〜P5(t)とのずれが大きくなり、高粘度になるほど検出感度がやや落ちるが、簡易的に各粘度での閾値PL(t)を求めることができる。
【0046】
また、吸引の対象とする液体試料の粘度が基準試料の粘度と相違する場合に、時定数τを変化させれば、検出感度を落とすことなく、基準試料に基づいて得られた閾値PL(t)を利用することが可能である。図7(b)には、図7(a)と同様に、液体試料の粘度[cP]が1〜20[cP]の範囲で変化したときの吸引圧力曲線P1(t)〜P5(t)を示す。
【0047】
最小粘度1[cP]及び最大粘度20[cP]の液体試料について、それらの近似曲線Pa(t)が吸引圧力曲線P1(t)、P5(t)にそれぞれ略一致するように時定数τを決定して、その結果から時定数τを粘度との関係で式で表わす。例えば、下式(3)
τ=0.0068×粘度[cP]+0.148・・・(3)
のようになる。また、他の粘度2[cP]、5[cP]、10[cP]については基準波形から最小圧力値Pminのみをそれぞれ取得しておく。そして、例えば近似曲線Pa1(t)の最小圧力値Pminを他の粘度2[cP]、5[cP]、10[cP]の最小圧力値Pminに置換するとともに、上式(3)で求めた時定数τに置換すると、図7(b)に示すような近似曲線Pa2(t)〜Pa4(t)が得られる。
【0048】
すなわち、最小粘度1[cP]及び最大粘度20[cP]の液体試料をについてフィッティング処理を行い、時定数τを粘度との関係で式化し、他の粘度については最小圧力値Pminのみをそれぞれ取得しておけば、各粘度1[cP]、2[cP]、5[cP]、10[cP]、20[cP]での閾値を求めることができる(上式(2))。この場合は、図7(b)に示すように、近似曲線Pa2(t)〜Pa4(t)と吸引圧力曲線P2(t)〜P4(t)とのずれも小さく、検出感度を落とすことなく、各粘度での閾値PL(t)を求めることができる。
【0049】
(分注時の吸引速度が基準試料を吸引したときの吸引速度と相違する場合)
分注時の吸引速度が基準試料を吸引したときの吸引速度と相違する場合でも、粘度の場合と同様に、基準試料に基づいて得られた閾値PL(t)を利用することが可能である。図8(a)には、吸引速度[kpps]が16〜26[kpps]の範囲で変化したときの吸引圧力曲線P1(t)〜P6(t)を示す。
【0050】
例えば最低吸引速度16[kpps]で基準試料を吸引し、上式(1)により近似曲線Pa1(t)を取得しておく。また、他の速度18[kpps]、20[kpps]、22[kpps]、24[kpps]、26[kpps]については基準波形から最小圧力値Pminのみをそれぞれ取得しておく。そして、近似曲線Pa1(t)の最小圧力値Pminを他の吸引速度18[kpps]、20[kpps]、22[kpps]、24[kpps]、26[kpps]での最小圧力値Pminに置換すると、図8(a)に示すような近似曲線Pa2(t)〜Pa6(t)が得られる。
【0051】
すなわち、最低吸引速度16[kpps]についてフィッティング処理を行い、他の吸引速度については最小圧力値Pminのみをそれぞれ取得しておけば、各吸引速度16[kpps]、18[kpps]、20[kpps]、22[kpps]、24[kpps]、26[kpps]での閾値を求めることができる(上式(2))。この場合に、図8(a)に示すように、高速度になるほど近似曲線Pa2(t)〜Pa6(t)と吸引圧力曲線P2(t)〜P6(t)とのずれが大きくなり、高速度になるほど検出感度がやや落ちるが、簡易的に各粘度での閾値PL(t)を求めることができる。
【0052】
また、分注時の吸引速度が基準試料を吸引したときの吸引速度と相違する場合に、時定数τを変化させれば、検出感度を落とすことなく、基準試料に基づいて得られた閾値PL(t)を利用することが可能である。図8(b)には、図8(a)と同様に、吸引速度[kpps]が16〜26[kpps]の範囲で変化したときの吸引圧力曲線P1(t)〜P6(t)を示す。
【0053】
最低吸引速度16[kpps]及び最高吸引速度26[kpps]で基準試料を吸引し、それらの近似曲線Pa(t)が吸引圧力曲線P1(t)、P6(t)にそれぞれ略一致するように時定数τを決定して、その結果から時定数τを粘度との関係で式で表わす。例えば、下式(4)
τ=0.009×速度[kpps]−0.034・・・(4)
のようになる。また、他の吸引速度18[kpps]、20[kpps]、22[kpps]、24[kpps]については基準波形から最小圧力値Pminのみをそれぞれ取得しておく。そして、例えば近似曲線Pa1(t)の最小圧力値Pminを他の吸引速度18[kpps]、20[kpps]、22[kpps]、24[kpps]の最小圧力値Pminに置換するとともに、上式(4)で求めた時定数τに置換すると、図8(b)に示すような近似曲線Pa2(t)〜Pa5(t)が得られる。
【0054】
すなわち、最低吸引速度16[kpps]及び最高吸引速度26[kpps]についてフィッティング処理を行い、時定数τを吸引速度との関係で式化し、他の吸引速度については最小圧力値Pminのみをそれぞれ取得しておけば、各吸引速度16[kpps]、18[kpps]、20[kpps]、22[kpps]、24[kpps]、26[kpps]での閾値を求めることができる(上式(2))。この場合に、図8(b)に示すように、近似曲線Pa2(t)〜Pa5(t)と吸引圧力曲線P2(t)〜P5(t)とのずれも小さく、検出感度を落とすことなく、各吸引速度での閾値PL(t)を求めることができる。
【0055】
(第2の実施形態)
上記第1の実施形態では吸引圧力曲線に沿った閾値を設定するようにしたが、本実施形態は、各時間における所定の間隔Td(例えば20[ms]程度)での吸引圧力の差分を表わす曲線に沿った閾値を設定するようにした例である。なお、自動分注装置の構成等は上記第1の実施形態で説明したものと同様であり、以下では第1の実施形態との相違点を中心に説明する。
【0056】
本実施形態では、閾値情報記憶部113に記憶された閾値情報を次のようにして得る。第1のステップとして、実際に血清201を分注するに先立って、使用するノズルチップ102と同等のノズルチップを用いて、血清201と同等の物性を有する基準試料を最大吸引設定量で吸引することにより、吸引圧力曲線P(t)(基準波形)を取得するとともに、各時間における所定の間隔Tdでの吸引圧力の差分を表わす曲線P´(t)=(dP(t)/dt)・Td=P(t)−P(t−Td)を求める。曲線P´(t)は、具体的には、現在時間における圧力値と現在より時間Td前における圧力値との差分をとることにより取得することができる。
【0057】
次に、第2のステップとして、フィッティング処理により、第1のステップにより取得された曲線P´(t)の近似曲線Pa´(t)を求める。すなわち、第2のステップでは、吸引前の圧力値P0、ノズルチップ内での最大液量吸引時の液面高さh、最小圧力値Pmin、吸引開始(シリンジポンプ105の始動)から最小圧力値Pminとなるまでの時間Tmin、基準試料の密度ρ、重力加速度g、時定数τ、時間Tdを用いて、曲線P´(t)の近似曲線Pa´(t)を、下式(5)
a´(t)={−(P0−Pmin−ρgh)・((1/τ)exp(−t/τ))−ρgh/Tmin}・Td
・・・式(5)
として表わし、上記第1の実施形態で説明したのと同様にフィッティング処理を行って、曲線P´(t)と近似曲線Pa´(t)とが略一致するように時定数τを決定する。
【0058】
次に、第3のステップとして、上述したようにして求められた近似曲線Pa´(t)と、定数PL1とを用いて、各時間における所定の間隔Tdでの吸引圧力の差分の閾値PL´(t)を、下式(6)
PL´(t)=Pa´(t)−PL1・・・式(6)
として決定する。
【0059】
以上のようにして求められた各時間における所定の間隔Tdでの吸引圧力の差分の閾値PL´(t)を閾値情報として閾値情報記憶部113に記憶する。この場合に、ノズルチップ102として複数種のノズルチップを使用するのであれば、各ノズルチップと同等のノズルチップについて第1〜3のステップを行い、閾値PL´(t)を求めておく。また、血清201以外の液体試料も吸引の対象とするのであれば、同様に各液体試料の基準試料について第1〜3のステップを行い、閾値PL´(t)を求めておく。
【0060】
本実施形態の自動分注装置における分注動作についても、基本的には図4のフローチャートのとおりであり、ステップS405において、吸引開始からの各時間において、閾値PL´(t)と、圧力センサ107により検出された現在時間における圧力値と現在より時間Td前における圧力値との差分とが比較される点で相違する。
【0061】
図9(a)は、上記第1の実施形態での正常な場合の吸引圧力曲線と、詰まりが生じたときの吸引圧力曲線と、閾値PL(t)との一例を示す特性図である。それに対して、図9(b)は、図9(a)と同条件下としたときの第2の実施形態での正常な場合の各時間における所定の間隔Tdでの吸引圧力の差分を表わす曲線と、詰まりが生じたときの曲線と、閾値PL´(t)との一例を示す特性図である。本実施形態のように各時間における所定の間隔Tdでの吸引圧力の差分を取り扱うことにより、吸引圧力の変化が強調されるので、吸引異常の検出感度を高めることができる。
【0062】
なお、上記第1の実施形態では、分注動作時の吸引開始直後から閾値との比較判定(詰まり判定)が行われるが(判定時間t=0〜Tmin)、第2の実施形態では、差分をとる必要があることから吸引開始直後の詰まり判定を行うことができず、不感時間Tst(数十[ms]程度)を設定する(判定時間t=Tst〜Tmin)。この不感時間Tstとして、例えば図3に示すように、台形駆動における加速完了(最高速到達)までの時間とすることもある。不感時間を設定するもう一つの理由として、吸引直後は正常波形とつまり波形は全く同じで、吸引開始からの時間が短いほど正常波形とつまり波形との差が小さいため、検出が可能となる時間まで待たなければならないという理由がある。
【0063】
以上、本発明を実施形態と共に説明したが、本発明は実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内で変更等が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明を適用した自動分注装置の概略構成を示す図である。
【図2】ノズルチップと同等のノズルチップを用いて、液体試料に応じて準備された基準試料を吸引することにより吸引圧力曲線を取得し、その吸引圧力曲線を利用して閾値情報を求める手順を説明するための図である。
【図3】ポンプの台形駆動を説明するための図である。
【図4】自動分注装置における分注動作について説明するためのフローチャートである。
【図5】吸引圧力曲線を説明するための図である。
【図6】吸引圧力曲線と閾値との関係を示す図である。
【図7】吸引の対象とする液体試料の粘度が基準試料の粘度と相違する場合を説明するための図である。
【図8】分注時の吸引速度が基準試料を吸引したときの吸引速度と相違する場合を説明するための図である。
【図9】第1の実施形態と第2の実施形態とにおける詰まりが生じたときの状態を比較した特性図である。
【図10】一定の圧力値を閾値とする場合の吸引圧力曲線と閾値との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0065】
101 ノズル
102 ノズルチップ
103 XYZ軸駆動部
104 配管
105 シリンジポンプ
106 シリンジポンプ駆動部
107 圧力センサ
108 制御部
109 入力部
110 表示部
111 I/V変換回路
112 ADコンバータ
113 閾値情報記憶部
114 閾値設定部
115 判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルチップにより液体試料を吸引する分注装置であって、
所定のパラメータを含む閾値情報と、前記ノズルチップにより前記液体試料を吸引するときの前記所定のパラメータ値とを用いて、前記ノズルチップによる前記液体試料の吸引開始からの時間に応じて変化する吸引圧力に関する閾値を設定する閾値設定手段と、
前記ノズルチップにより前記液体試料を吸引するときの吸引圧力を検出する吸引圧力検出手段と、
前記吸引圧力検出手段により検出された吸引圧力そのものの値或いはその吸引圧力から得られる値と、前記閾値設定手段により設定された閾値とを比較して、吸引異常を判定する判定手段とを備え、
前記所定のパラメータを含む閾値情報は、予め、前記ノズルチップと同等のノズルチップを用いて、前記液体試料に応じて準備された基準試料を吸引することにより吸引圧力曲線を取得し、その吸引圧力曲線を利用して求められたものであることを特徴とする分注装置。
【請求項2】
ノズルチップにより液体試料を吸引する分注装置における吸引異常判定方法であって、
所定のパラメータを含む閾値情報と、前記ノズルチップにより前記液体試料を吸引するときの前記所定のパラメータ値とを用いて、前記ノズルチップによる前記液体試料の吸引開始からの時間に応じて変化する吸引圧力に関する閾値を設定する閾値設定手順と、
前記ノズルチップにより前記液体試料を吸引するときの吸引圧力を検出する吸引圧力検出手順と、
前記吸引圧力検出手順により検出された吸引圧力そのものの値或いはその吸引圧力から得られる値と、前記閾値設定手順により設定された閾値とを比較して、吸引異常を判定する判定手順とを有し、
前記所定のパラメータを含む閾値情報は、予め、前記ノズルチップと同等のノズルチップを用いて、前記液体試料に応じて準備された基準試料を吸引することにより吸引圧力曲線を取得し、その吸引圧力曲線を利用して求められたものであることを特徴とする分注装置における吸引異常判定方法。
【請求項3】
ノズルチップにより液体試料を吸引するときの吸引異常判定のための吸引圧力に関する閾値を設定する吸引異常判定のための閾値設定方法であって、
前記ノズルチップと同等のノズルチップを用いて、前記液体試料に応じて準備された基準試料を最大吸引設定量で吸引することにより、吸引圧力曲線を取得する吸引圧力曲線取得手順と、
前記吸引圧力取得手順により取得された吸引圧力曲線そのもの或いはその吸引圧力曲線から得られる曲線の少なくとも一部の近似曲線を求める近似曲線取得手順と、
前記近似曲線取得手順により求められた近似曲線を用いて、吸引異常判定のための吸引圧力に関する閾値情報を決定する閾値情報決定手順とを有することを特徴とする吸引異常判定のための閾値設定方法。
【請求項4】
前記近似曲線取得手順では、吸引前の圧力値P0、ノズルチップ内での最大液量吸引時の液面高さh、最小圧力値Pmin、吸引開始から最小圧力値Pminとなるまでの時間Tmin、前記基準試料の密度ρ、重力加速度g、時定数τを用いて、吸引圧力曲線の近似曲線Pa(t)を、下式
a(t)=P0−(P0−Pmin−ρgh)・(1−exp(−t/τ))−ρgh・t/Tmin
(tは吸引を開始した時点を0とする時間である)
として表わすことを特徴とする請求項3に記載の吸引異常判定のための閾値設定方法。
【請求項5】
前記閾値情報決定手順では、前記近似曲線取得手順により求められた近似曲線Pa(t)と、定数PL0とを用いて、吸引異常判定のための吸引圧力の閾値PL(t)を、下式
PL(t)=Pa(t)−PL0
により決定することを特徴とする請求項4に記載の吸引異常判定のための閾値設定方法。
【請求項6】
前記近似曲線取得手順では、吸引前の圧力値P0、ノズルチップ内での最大液量吸引時の液面高さh、最小圧力値Pmin、吸引開始から最小圧力値Pminとなるまでの時間Tmin、基準試料の密度ρ、重力加速度g、時定数τ、時間Tdを用いて、各時間における所定の間隔Tdでの吸引圧力の差分を表わす曲線P´(t)の近似曲線Pa´(t)を、
a´(t)={−(P0−Pmin−ρgh)・((1/τ)exp(−t/τ))−ρgh/Tmin}・Td
として表わすことを特徴とする請求項3に記載の吸引異常判定のための閾値設定方法。
【請求項7】
前記閾値情報決定手順では、前記近似曲線取得手順により求められた近似曲線Pa´(t)と、定数PL1とを用いて、吸引異常判定のための各時間における所定の間隔Tdでの吸引圧力の差分の閾値PL´(t)を、下式
PL´(t)=Pa´(t)−PL1
により決定することを特徴とする請求項6に記載の吸引異常判定のための閾値設定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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