説明

分解ガス検出装置

【課題】高感度に分解ガスを検出できるCNTガスセンサを、GISの設備診断におけるオフライン検査に利用する。
【解決手段】絶縁ガスが封入された密閉容器31と、絶縁ガスを通気する通気口32と、通気口32に接続し絶縁ガスを導通する導管33と、導管33の中途部に配設され絶縁ガスの導通を調節するバルブ34とを備えるガス絶縁開閉装置30の設備診断を行う分解ガス検出装置であって、導管33端部の開口部から供給される絶縁ガスが、真空又は負圧状態で導入される気密性容器20と、気密性容器20内に配設され、不平等電界を発生する縁部が設けられた一対のマイクロ電極と不平等電界にしたがったカーボンナノチューブ(CNT)の架橋構造とを有し、CNTが絶縁ガスの分解により発生する分解ガスを吸着し、吸着により生じるマイクロ電極間の電気的特性の変化に基づいて分解ガスを検出するCNTガスセンサ1とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス絶縁開閉装置内の絶縁ガスが分解することで発生する分解ガスを、オフラインで検出する分解ガス検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス絶縁開閉装置(GIS:Gas Insulating Switchgear)で用いられているSF6(六フッ化硫黄)ガスは、高い絶縁性能を有するが、機器内で部分放電(PD:Partial Discharges)が発生すると、SF6ガスが分解され絶縁性能が低下してしまう。すなわち、PDは絶縁破壊事故の原因であり、GISの設備診断において機器内部で発生するPDの検出が重要となる。PDの検出方法として、PDによって発生する電磁波、音、分解ガスなどを検出する方法が提案され、一部では実用化されている。
【0003】
発明者らはこれまでにGISの設備診断を目的として、カーボンナノチューブ(CNT:Carbon nanotube)ガスセンサによるSF6中でのPD検出法について研究・開発を重ねてきた(例えば、特許文献1−2を参照)。特許文献1に示すように、CNTガスセンサは、CNTをセンサ素子とし、SF6分解ガス(例えばSF4、SOF2、HF等)がCNTに吸着することによるCNTの電気的特性の変化を検出する。このセンサ素子は、常温において動作可能である。また、特許文献2に示すように、GISの機器内部に複数の分解ガスセンサを配設し、分解ガスセンサの位置を基にPDが発生した位置を判定するオンライン検査が開示されている。図14に、CNTガスセンサを模擬GISタンク内に設置してPDを発生させた場合の応答例を示す。この図から分かるように、放電開始直後、すなわちSF6の分解開始とほぼ同時にセンサが応答していることが分かる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−329802号公報
【特許文献2】特許第4500993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に示すような、GISをリアルタイムで設備診断するオンライン検査を行う場合、検出のためのセンサ素子等をGISの機器内部に設置する必要がある。既存のGISの機器内部にセンサ素子等を設置する場合、長年安定的に動作しているGISに対して物理的な加工を施す必要があり、安全性を確保するためには手間、時間、コストが非常に大きくなってしまい、設置が困難になってしまうという課題を有する。
【0006】
一方、機器内部に発生したSF6ガスの分解ガスをGISの機器外部で検出するオフライン検査は、機器内部の気体を回収することができればよいため、既存のGISに適用することができ、実際に定期設備診断に利用されている。しかし、オフライン検査において、例えば、ガス検知管を用いて分解ガスを検出する場合は、定量化が困難であるため、検出の正確性を保証できないという問題がある。また、ガスクロマトグラフ等の分析装置を用いて分解ガスを検出する場合は、分析装置が高コストであると共に、気体採取の現場ではなく分析室での検査になるため、オンサイトで結果を得られず、作業に手間が掛かってしまうという問題がある。
そこで、本発明は高感度に分解ガスを検出できるCNTガスセンサを、GISの設備診断におけるオフライン検査に利用することができる分解ガス検出装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願に開示する分解ガス検出装置は、絶縁ガスが封入された密閉容器と、前記絶縁ガスを通気する通気口と、当該通気口に接続し前記絶縁ガスを導通する導管と、当該導管の中途部に配設され前記絶縁ガスの導通を調節するバルブとを備えるガス絶縁開閉装置の設備診断を行う分解ガス検出装置であって、前記導管端部の開口部から供給される絶縁ガスが、真空又は負圧状態で導入される気密性容器と、前記気密性容器内に配設され、不平等電界を発生する縁部が設けられた一対の電極と前記不平等電界にしたがったカーボンナノ材料の架橋構造とを有し、前記カーボンナノ材料が前記絶縁ガスの分解により発生する分解ガスを吸着し、当該吸着により生じる前記電極間の電気的特性の変化に基づいて前記分解ガスを検出する分解ガス検出センサとを備えるものである。
【0008】
このように、本願に開示する分解ガス検出装置においては、既存のGISに配設されている通気口からバルブを調整して機器内部の絶縁ガスを抜き出し、それを気密性容器に導入し、気密性容器内に設置されたCNTを利用した分解ガスセンサにより、絶縁ガスが分解することで発生する分解ガスを検出するため、手間を掛けることなく既存のGISに適用することができると共に、CNTを利用した分解ガスセンサにより、絶縁ガスを確実に検出することができるという効果を奏する。また、特殊な装置を用いる必要がないため、信頼性の高い検査をオンサイトで行うことができるという効果を奏する。
【0009】
本願に開示する分解ガス検出装置は、前記気密性容器が、内部容積を増減自在に形成され、前記絶縁ガスの導入当初に前記内部容積を零とするものである。
【0010】
このように、本願に開示する分解ガス検出装置においては、気密性容器が、例えばシリンジや一部の壁が移動可能なチャンバ等のように、内部容積を増減自在に形成されており、GISから絶縁ガスを導入する際に、導入当初の内部容積を零とするため、絶縁ガスを気密性容器にサンプリングするのと同時に分解ガスを検出することができ、作業を効率よく行うことができるという効果を奏する。また、内部容積を増減自在に形成されているため、サンプリング後の絶縁ガスに対して内部容積を減少させることで加圧することができ、CNTへの分解ガスの分子の吸着が促進され、分解ガスセンサを高感度にすることができるという効果を奏する。さらに、GISの機器内部は通常4〜5気圧に設定されているため、サンプリング後の絶縁ガスを加圧することで、機器内部と同等又は近い条件で分解ガスの検出を行うことができ、センサの信頼性を向上させることができるという効果を奏する。
【0011】
本願に開示する分解ガス検出装置は、前記気密性容器に、前記分解ガス検出センサを初期化するための気体を導入し、前記気密性容器内に前記気体を流動させて排気する排気孔を備え、前記排気孔が排除された空間領域において前記分解検出センサが前記分解ガスを検出するものである。
【0012】
このように、本願に開示する分解ガス検出装置においては、気密性容器に、分解ガス検出センサを初期化するための気体を流動させて排気する排気孔を備え、当該排気孔が排除された空間領域において分解ガスの検出を行うため、簡易的な構造で分解ガス検出センサの初期化を効率よく行うことができるという効果を奏する。また、初期化を行うことで分解ガス検出センサを繰り返して利用できるため、検知管のように検査の度に新品に取り替える必要がなく、低コストで使用することができるという効果を奏する。
【0013】
本願に開示する分解ガス検出装置は、前記気密性容器が、前記導管端部の開口部に気密状態で接続され、内部を真空又は負圧にした状態で前記バルブの開放により前記絶縁ガスが導入されるものである。
【0014】
このように、本願に開示する分解ガス検出装置においては、気密性容器が、GISの導管端部の開口部に気密状態で接続され、内部を真空又は負圧にした状態でバルブの開放により前記絶縁ガスが導入されるため、絶縁ガスの導入と同時に分解ガスを検出することができるという効果を奏する。
【0015】
本願に開示する分解ガス検出装置は、前記分解ガス検出センサにおけるカーボンナノ材料を有する面が、前記導管端部の開口部に対向して配設されているものである。
【0016】
このように、本願に開示する分解ガス検出装置においては、分解ガス検出センサにおけるカーボンナノ材料を有する面が、導管端部の開口部に対向して配設されているため、GISから供給される絶縁ガスの分子が確実にカーボンナノ材料に吸着すると共に、より多くの分子をカーボンナノ材料に接触させることができるため、分解ガス検出センサの感度を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1の実施形態に係る分解ガス検出装置におけるCNTガスセンサ及びその作製過程の一部を示す図である。
【図2】第1の実施形態に係る分解ガス検出装置のブロック図である。
【図3】第1の実施形態に係る分解ガス検出装置における気密性容器を示す模式図である。
【図4】第1の実施形態に係る分解ガス検出装置における気密性容器の内部容積の増減を示す図である。
【図5】第1の実施形態に係る分解ガス検出装置におけるCNTガスセンサの初期化を示す図である。
【図6】実施例におけるチャンバ式の実験装置の概略図である。
【図7】実施例におけるチャンバ式の実験結果を示す第1の図である。
【図8】実施例におけるチャンバ式の実験結果を示す第2の図である。
【図9】実施例におけるチャンバ式の実験結果を示す第3の図である。
【図10】実施例におけるシリンジ内蔵型の実験装置の概略図である。
【図11】実施例におけるシリンジ内蔵型の実験結果を示す第1の図である。
【図12】実施例におけるシリンジ内蔵型の実験結果を示す第2の図である。
【図13】実施例におけるシリンジ内蔵型の実験結果を示す第3の図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本実施形態の全体を通して同じ要素には同じ符号を付けている。
【0019】
(本発明の第1の実施形態)
本実施形態に係る分解ガス検出装置について、図1ないし図5を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る分解ガス検出装置におけるCNTガスセンサ及びその作製過程の一部を示す図、図2は、本実施形態に係る分解ガス検出装置のブロック図、図3は、本実施形態に係る分解ガス検出装置における気密性容器を示す模式図、図4は、本実施形態に係る分解ガス検出装置における気密性容器の内部容積の増減を示す図、図5は、本実施形態に係る分解ガス検出装置におけるCNTガスセンサの初期化を示す図である。
【0020】
図1を用いてCNTガスセンサ1の作製について説明する。図1(A)に示す図は、クロム(Cr)の薄膜をガラス基板上に真空蒸着し、フォトリソグラフィ技術によってマイクロ電極2を作製したものである。図1(A)からわかる通り、櫛歯型をしたマイクロ電極2a,2bが向かい合った構造をしており、4本のフィンガーによりギャップが3つ形成されている。この電極を用いて、図1(B)に示すような誘電泳動集積法(参考文献1
:J.Suehiro, G.Zhou, M.Hara :"Fabrication of a carbon nanotube-based gas sensor using dielectrophoresis and its application for ammonia detection by impedance spectroscopy", J.Phys. D:Appl.Phys., Vol.36, L109-L114, 2003)を行い、マイクロ電極2a,2b間にCNT3を集積することで電気的接続を形成する。SF4等のようにSF6が分解して発生した分解ガスがCNT3に吸着すると、ガス分子とCNT3との間で生じる電荷移動に起因してCNT3のコンダクタンスが変化する。その変化を計測することで分解ガスを検出する(参考文献2:C.Cantalini, L.Valentini, L.Lozzi, I.Armentano, J.M.Kenny, S.Santucci :"NO2 gas sensitivity of carbon nanotubes obtained by plasma enhanced chemical vapor deposotion", Sens.Act.B, Vol.93, pp.333-337, 2003、参考文献3:丁衛東、林亮太、末廣純也、原雅則:「GIS配管内に設置したカーボンナノチューブガスセンサによる部分放電検出」、平成17年電気学会電力・エネルギー部門大会講演論文集、336を参照)。
【0021】
CNTガスセンサ1は、測定に使用する前に初期化する。初期化の方法は、窒素中で紫外線(200W)を照射することで行う。これによりCNT3に吸着しているガス分子が脱離する。なお、加熱することでCNTガスセンサ1を初期化するようにしてもよい。CNTガスセンサ1のより具体的な初期化の方法については詳細を後述する。
【0022】
センサ応答は、マイクロ電極に、例えば100kHz、1Vppの正弦波交流電圧を印加し、シャント抵抗(例えば、100kΩ)を介して電流をロックインアンプにより測定する。センサ応答は、マイクロ電極2a,2b間のコンダクタンス変化で表す(=CNTのコンダクタンス変化)。CNTガスセンサ1の個体差をなくすため、センサ応答Sは次式のように規格化したものを用いる。
【0023】
【数1】

【0024】
ここで、G0:コンダクタンスの初期値、G:測定されたコンダクタンス、ΔG:コンダクタンスの変化量とする(参考文献4:J.Suehiro, G.Zhou, H.Imakiire, W.Ding, M.Hara :"Controlled fabrication of a carbon nanotube NO2 gas sensor using dielectrophoretic impedance measurement", Sens.Act.B, Vol.108, pp.398-403, 2005)。
【0025】
上記分解ガス検出センサを備えるオフライン検査用の分解ガス検出装置について、図2を用いて説明する。分解ガス検出装置10は、気密性容器20と、気密性容器20内に配設されたCNTガスセンサ1と、CNTガスセンサ1のマイクロ電極2a,2b間に測定用の交流電圧を印加する電源部11と、マイクロ電極2a,2b間のインピーダンスを測定する測定部12と、マイクロプロセッサ等から構成され、プログラムやデータを読み込んで機能し、少なくとも電源部11及び測定部12を制御すると共に演算を行う演算制御部13と、測定結果等を表示する表示部14と、プログラムやデータを記憶するメモリ部15と、分解ガスのコンダクタンス変化の校正データを格納した校正データ部15aとを備える。検査の際は、GIS30からサンプルとなる絶縁ガスを抽出し、気密性容器20に抽出した絶縁ガスが導入された状態で行われる。
【0026】
測定部12には1kΩ程度の電流検出用の抵抗が設けられ、回路に直列に挿入されている。交流の場合、電流の大きさと電圧との位相差を測定してマイクロ電極2a,2b間のインピーダンスを算出する。これによりCNT3が分解ガスと反応して生じたインピーダンス変化のコンダクタンス成分とキャパシタンス成分とを算出している。本実施形態ではコンダクタンス成分を用いるものとするが、キャパシタンス成分を用いてもよい。一方、
直流の場合、電流検出用の抵抗によって電流の大きさのみを測定して、マイクロ電極2a,2b間のコンダクタンスを算出する。算出されたコンダクタンスを用いて、校正データ部15aの校正データから分解ガス濃度を求めることができる。
【0027】
なお、実際には、測定部12が検出したコンダクタンスの測定値には変動があり、限度を越えた変動が分解ガスの発生を意味する。そこで、予め部分放電が確認できるときのインピーダンス変化(ここではコンダクタンス変化)の限度となる基準値を取得しておき、これをメモリ部15に記憶し、演算制御部13は測定部12が検出したインピーダンス変化と基準値を比較し、基準値を越えたときに分解ガスが発生したと判定する。
【0028】
本実施形態においては、CNTガスセンサ1は気密性容器20内に配設されている。ここで、気密性容器20について図3を用いて説明する。ここでは、気密性容器20の具体例としてチャンバ(図3(A):チャンバ式)とシリンジ(図3(B):シリンジ内蔵型)とを示す。いずれの場合においても、容器内にCNTガスセンサ1が配設されており、GIS30の密閉容器31に封入されているSF6ガスを、通気口32に接続する導管33を介して抽出し、サンプルガス(SF6及びその分解ガスが混合された気体)としてそれぞれの容器に導入する。導管33の中途部にはSF6ガスの導通を調節するバルブ34が配設されており、バルブ34を開放することで、サンプルガスのサンプリングを行うことができる。
【0029】
なお、チャンバ式の場合は、図3(A)に示すように一旦シリンジのようなものでGIS30からサンプルガスを抽出してからチャンバに導入するようにしてもよいし、GIS30とチャンバとを気密状態で接続し、GIS30のバルブ34を開放してチャンバ内にサンプルガスを導入するようにしてもよい。このとき、チャンバ内は真空又は負圧の状態にしておく。また、シリンジ内蔵型の場合は、GIS30に接続する導管33とシリンジの針とを気密状態で接続し、バルブ34を開放すると共に、プランジャを引いてサンプリングを行うようにする。
【0030】
CNTガスセンサ1は、チャンバ式の場合、チャンバ内のいずれかの場所であってサンプルガスとCNT3が接触可能な場所に配設され、シリンジ内蔵型の場合、バレル内であってプランジャの先端部に配設される。
【0031】
なお、CNTガスセンサ1をCNT3を有する面に対してチャンバに流入される気体が直接接触する位置に配置することで、気体を導入する初期の段階で一旦センサ応答のピーク値を得ることができる。すなわち、チャンバ式においては、GIS30とチャンバとが気密状態で接続されている場合、図3(A)に示すようにCNTガスセンサ1におけるCNT3を有する面が、導管33端部の開口部に対向して配設されるようにしてもよく、一旦シリンジのようなものでGIS30からサンプルガスを抽出してからチャンバに導入する場合、CNTガスセンサ1におけるCNT3を有する面が、チャンバにおける気体の注入口に対向して配設されるようにしてもよい。
【0032】
チャンバ式の場合もシリンジ内蔵型の場合も、サンプルガスが導入された時点でそれに含まれる分解ガスを検出することが可能である。ここでは、CNTガスセンサ1の感度をより高めるために、シリンジ内蔵型における気密性容器20の内部容積を増減させた場合の分解ガス検出について図4を用いて説明する。
【0033】
図4に示すように、図4(A)の初期状態ではプランジャを押して、バレル内を真空又は真空に近い状態にしておく。サンプルガスをサンプリングする際は、図4(B)に示すようにプランジャを引いてサンプルガスをバレル内に導入する。上述したように、この時点で分解ガスを検出することは可能である。しかしながら、分解ガスが発生しているにも
関わらず、検出感度ギリギリで分解ガスが検出されない場合もあるため、図4(C)のように針からのサンプルガスの流出をロックすると共に、プランジャを押してサンプルガスに加圧する。バレルの内部容積が減少し圧力が加わることで、分解ガスの分子がCNTガスセンサ1のCNT3に吸着されやすくなり、CNTガスセンサ1の検出感度が向上する。また、GIS30内は4〜5気圧に保たれていることから、サンプルガスに加圧することでGIS30内と同等又は近い条件での分解ガスの検出を行うことが可能となる。
【0034】
なお、チャンバ式の場合においても、チャンバの一部の壁が移動可能で内部容積が増減自在となる構成とし、サンプルガスに加圧できるようにしてもよい。
【0035】
上記に示したように、CNTガスセンサ1は初期化を行うことで繰り返して使用することができる。図5にCNTガスセンサ1の初期化の処理を示す。初期化する際は、上述した通り窒素中で紫外線(200W)を照射する。具体的には、図5(A)に示すように、紫外線を透過する材質で形成されたバレルの先端部に、サンプルガスを流入するための針21と窒素を流入するためのチューブ22を接続し、それらをコック23で切替可能とする。バレルの側面には、窒素を流出するための排気孔24を設け、プランジャ先端が排気孔24よりも引かれた状態でチューブ22から窒素の流入を行うと共に、紫外線をCNTガスセンサ1に照射する。すなわち、排気孔24が含まれる空間sを利用して初期化を行う。
【0036】
初期化が完了すると分解ガスの検出を行うが、その際には図5(B)に示すように、プランジャ先端が排気孔24よりも押された状態で分解ガスの検出が行われる。すなわち、排気孔24が排除された空間tを利用して検出を行う。
【0037】
なお、チャンバ式において一部の壁を移動可能として内部容積が増減自在となる構成とした場合もシリンジ内蔵型の場合と同様に、移動しないいずれかの壁面に窒素の排気孔を設け、移動する壁面の位置に応じて、排気孔を含む空間領域を用いてCNTガスセンサ1の初期化を行い、排気孔が排除された空間領域を用いて分解ガスの検出が行われるようにしてもよい。
【実施例】
【0038】
CNTガスセンサ1をオフラインで設備診断を行う装置に使用した場合のセンサ特性を調べるために、以下の実験を行った。GIS30については、ステンレス製チャンバ(内容積:30L)内にギャップ長が10mmの針対平板電極を設置し、チャンバ内にSF6ガスを封入(0.1MPa)した状態で針電極に20kVrmsを印加して、コロナ放電(模擬PD)を発生させる模擬的なGIS30(SF6分解放電装置)を使用する。
【0039】
CNTガスセンサ1については、櫛歯電極のフィンガー長を12mm、フィンガー幅を50mmとし、4本のフィンガーが5μmのギャップを3つ形成しているもの(図1(A)を参照)を用いた。
【0040】
(チャンバ式の実験)
SF6分解放電装置内で任意の時間SF6をコロナ放電に暴露した後、内部にCNTガスセンサ1を設置したステンレス製の小型チャンバ(内容積:55mL)とSF6分解放電装置とを接続し、SF6ガスを予め減圧した小型チャンバ内に流入させてCNTガスセンサ1の応答を取得した。図6に実験装置の概略図、図7に実験結果を示す。
【0041】
図7(A)は、各時間(4時間、8時間、12時間、16時間、20時間)コロナ放電に暴露したSF6分解ガスを、予め減圧した小型チャンバに注入したときのCNTガスセンサ1の応答を示しており、図7(B)は、図7(A)の結果から横軸を放電時間、縦軸
をガス注入から10分後におけるセンサ応答としてプロットしたグラフを示す。図7(A)の結果から、放電時間が長くなるにつれてCNTガスセンサ1の応答が増加していることがわかる。また図7(B)の結果から、その増加率が放電時間に対して直線的であることがわかる。すなわち、コロナ放電によるSF6の分解は継続的に進行し、且つ分解ガス中のセンサ応答に寄与するガス分子(例えば、SF4、SOF2、HF等)が、SF6分解放電装置内に残留していることを示すと共に、小型チャンバ内で分解ガスをオフライン検出可能であることが示される。
【0042】
次に、コロナ放電を25時間行った後、SF6分解放電装置内の気体を予め減圧した小型チャンバへ注入した。このとき、注入量を調整して小型チャンバ内の全圧を調整し、各チャンバ内全圧に対するCNTガスセンサ1の応答を取得した。その結果を図8に示す。
【0043】
図8(A)は、25時間放電した後の分解ガスを予め減圧した小型チャンバに全圧が0.2atm、0.4atm、0.6atm、0.8atm、1.0atmとなるように注入したときのCNTガスセンサ1の応答を示しており、図8(B)は、図8(A)の結果から横軸を全圧、縦軸をガス注入から10分後におけるセンサ応答をプロットしたグラフを示す。これらの結果から、センサ応答がガスの気圧に比例して増加していることがわかる。CNTガスセンサ1の応答は、分解ガス分子のCNT3表面への物理吸着に起因しており、ガス圧力の増加によって物理吸着量が増加したことがセンサ応答の増加の原因である。
【0044】
次に、分解ガスを急速に(CNT3に直接接触するように)小型チャンバに導入したときのセンサ応答を取得した。その結果を図9に示す。図9より分解ガスの導入の初期段階でセンサ応答のピークが現われ、その後一旦減少し、再び緩やかに増加して飽和している。初期段階で現われているピーク値と再び緩やかに増加して飽和した値とがほぼ同値となっている。すなわち、分解ガスがCNT3に直接接触する位置にCNTガスセンサ1を配設することで、早い段階で分解ガスのセンサ応答を得ることができることがわかる。
【0045】
(シリンジ内蔵型の実験)
ラテックス製シリンジ(50mL)のプランジャ先端にCNTガスセンサ1を配置する。シリンジの先端には、サンプルガスをサンプリングするための針と気体を流入するためのチューブとを接続でき、コックにより切り替える。バレル側面には気体を流出させるための排気孔を設ける。マイクロ電極2a,2bまでのリード線はプランジャ側面に這わせて外部装置と接続する。図10に実験装置の概略図を示す。
【0046】
図10の実験装置を用いてCNTガスセンサ1の初期化を行った。まず、プランジャを排気孔よりも引いた状態にし、気体を流入するためのチューブから窒素を流入する(流速:0.2L/min)。このとき、シリンジの先端より流入された窒素は、シリンジ内部を通り排気孔より流出される。そして、窒素を流入しながらCNTガスセンサ1にシリンジ外部から紫外線を照射した。このとき、CNTガスセンサ1のコンダクタンス変化をモニタした結果を図11に示す。
【0047】
図11は、CNTガスセンサ1の初期化におけるコンダクタンス変化を示す。コロナ放電(20kV、3時間)によって発生させた分解ガスの分子をCNT3に吸着させた状態のCNTガスセンサ1に対して初期化を行った。測定開始から5分間はCNTガスセンサ1をシリンジ内に静置した状態である。次の5分間は窒素流入のみを行い、その後10分間に窒素流入と紫外線照射を行った。図11の結果から、窒素下での紫外線照射によるCNTガスセンサ1の初期化がシリンジ内で可能であることが示された。
【0048】
次に、プランジャの先端が排気孔よりもシリンジ先端側になる状態で分解ガスの検出を
行った。図12は、SF6ガス単体(純度99.9%)とコロナ放電(20kV、1時間)に暴露したSF6ガスのそれぞれでのセンサ応答を示す。検出の開始前に初期化に使用した窒素の残留をなるべく少なくするため、初期化を行った後のシリンジ内を減圧ポンプで0.05MPaまで減圧した。この状態でセンサ応答を測定した。5分間静置した後、およそ20秒かけてシリンジ内にサンプルガスを導入した。図12より、純SF6ガスに対しては、導入時にわずかな変化があるものの、明確なコンダクタンスの変化は見られない。一方、SF6分解ガスに対しては、導入直後からコンダクタンスが増加し、2分程度でその増加が止まった。この結果は、シリンジ内蔵型の装置を用いてオフライン検出が可能であることを示している。
【0049】
次に、サンプルガスをシリンジ内に導入後、プランジャーを押して内部容積を小さくし、サンプルガスを圧縮した場合のCNTガスセンサ1の応答を検出した。サンプルガスへの加圧は、チャンバ式の場合に比べてシリンジ内蔵型の方が非常に容易に行うことができる。図13に、シリンジ内にサンプルガスを導入後に加圧したときのセンサ応答の変化を示す。ここでは、シリンジにサンプルガスを50mL導入後、シリンジの内部容積が25mL、16.7mLとなるように加圧した場合のセンサ応答である。図13から明らかなように、サンプルガスを加圧することでセンサ応答量が増加している。すなわち、センサ感度が向上していることがわかる。
【0050】
以上の実験結果から、シンプルな構成の装置で簡便な操作を行うだけで、サンプルガスのサンプリングと同時にセンサ応答を得ることができるオンサイトでの検査が実現可能であることと、内部容積を小さくする又は圧縮することで、CNTガスセンサ1の応答量を増加させることができ、センサ感度を向上させることが可能であることが示された。
【符号の説明】
【0051】
1 CNTガスセンサ
2a,2b マイクロ電極
3 CNT
10 分解ガス検出装置
11 電源部
12 測定部
13 演算制御部
14 表示部
15 メモリ部
15a 校正データ部
20 気密性容器
21 針
22 チューブ
23 コック
24 排気孔
30 GIS
31 密閉容器
32 通気口
33 導管
34 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁ガスが封入された密閉容器と、前記絶縁ガスを通気する通気口と、当該通気口に接続し前記絶縁ガスを導通する導管と、当該導管の中途部に配設され前記絶縁ガスの導通を調節するバルブとを備えるガス絶縁開閉装置の設備診断を行う分解ガス検出装置であって、
前記導管端部の開口部から供給される絶縁ガスが、真空又は負圧状態で導入される気密性容器と、
前記気密性容器内に配設され、不平等電界を発生する縁部が設けられた一対の電極と前記不平等電界にしたがったカーボンナノ材料の架橋構造とを有し、前記カーボンナノ材料が前記絶縁ガスの分解により発生する分解ガスを吸着し、当該吸着により生じる前記電極間の電気的特性の変化に基づいて前記分解ガスを検出する分解ガス検出センサとを備えることを特徴とする分解ガス検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の分解ガス検出装置において、
前記気密性容器が、内部容積を増減自在に形成され、前記絶縁ガスの導入当初に前記内部容積が零であることを特徴とする分解ガス検出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の分解ガス検出装置において、
前記気密性容器に、前記分解ガス検出センサを初期化するための気体を導入し、前記気密性容器内に前記気体を流動させて排気する排気孔を備え、前記排気孔が排除された空間領域において前記分解検出センサが前記分解ガスを検出することを特徴とする分解ガス検出装置。
【請求項4】
請求項1に記載の分解ガス検出装置において、
前記気密性容器が、前記導管端部の開口部に気密状態で接続され、内部を真空又は負圧にした状態で前記バルブの開放により前記絶縁ガスが導入されることを特徴とする分解ガス検出装置。
【請求項5】
請求項4に記載の分解ガス検出装置において、
前記分解ガス検出センサにおけるカーボンナノ材料を有する面が、前記導管端部の開口部に対向して配設されていることを特徴とする分解ガス検出装置。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−154692(P2012−154692A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12183(P2011−12183)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】