説明

分解方法

【課題】対象物を簡易かつ確実に分解することのできる分解方法を提供すること。
【解決手段】赤外線拡散反射分析法(FT−IR DRS)による赤外線吸収スペクトルにおいて650〜990cm−1の吸収ピークを有し、チタン、ケイ素および酸素を含有し、これらを化学結合しているチタン−ケイ素化学結合複合酸化物により、対象物を分解する。とりわけ、対象物としての、有機物、NOx、臭気成分、シックハウス症候群の発生原因物質、汚染物質、水の塊り、有害微生物などを、簡易かつ確実に分解することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分解方法、詳しくは、各種の分野において対象物を分解する分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(1) 一般的な分解方法
酸化チタンは、紫外線の光吸収によって、光触媒機能を発揮することがよく知られている。そして、このような光触媒機能を発揮する酸化チタン(酸化チタン光触媒)は実用化されており、有機物などを分解して処理する分解方法に用いられる。
(2) 酸化による有機物の分解方法
とりわけ、最近、酸化チタン光触媒による酸化還元作用によって、汚れを分解して、汚れを防止する防汚方法が提案されている(例えば、特許文献1および2参照。)。
【0003】
このように酸化チタン光触媒に紫外線を照射すると、光励起により電子−正孔対を生じ、電子は酸化チタン触媒の表面の酸素を還元してスーパーオキサイドアニオン(O2−)を生成し、正孔は酸化チタン光触媒の表面の水を酸化して、水酸ラジカル(OH)を生成する。そしてこれらがさらに複雑な活性種を生成し、活性種が汚れを酸化して分解生成物を次の分解生成物へと順次酸化し続け、最終的には、炭酸ガスと水とを生成すると言われている(例えば、非特許文献1および2参照。)。
【0004】
なお、従来の光触媒においては、実際は、上記した理想的な分解反応は進行することが困難であり、通常、中途半端な分解反応が進行している。
(3) シックハウス症候群対策および揮発性有機化合物(VOC)分解
ところで、最近、ホルムアルデヒド(ホルマリン)、アセトアルデヒドなど(有機化合物)や、高分子の原料のモノマーやアンモニアなどに起因するシックハウス症候群および揮発性有機化合物(VOC)が問題になり、室内の空気中におけるこれらの濃度の規制が年々厳しくなっている。
【0005】
そのため、上記したような酸化チタン光触媒によって、これらを分解する上記物質の除去方法が報告されている(例えば、特許文献3参照。)。
(4) 防汚処理
また、従来にあっては、基材表面の防汚処理方法として、基材表面に撥水性を持たせて、汚れが付着することを抑制する方法が取られてきた。フッ素樹脂やタイルはその代表である。
【0006】
一方、基材表面に親水性を持たせて、基材表面において、水が延伸されて薄い水膜が形成されて、汚れ成分を付着し難くするとともに、雨水などで容易に汚れが洗い落とされることを期待した、アクリル樹脂系やシリコーン樹脂系の塗料による処理が提案されている(例えば、非特許文献3参照。)。また、酸化チタン光触媒を使用して、最初に付着する少量の有機汚染物質を水と炭酸ガスまで分解し、次いで、分解能力以上の汚染物質を紫外線によりる光励起させる。これによって、ガラス、タイルやコンクリートなどの基材表面と水との接触角を低くして、すなわち超親水性を付与して、これらの基材表面に、雨や水によって汚染防止処理する方法も提案されている(例えば、特許文献4参照。)。
(5) 殺菌方法
また、酸化チタン光触媒は、その正孔から誘導される水酸ラジカル(OH)などの酸化性活性種が細菌や黴を攻撃し、その細胞を破壊することによって、殺菌・抗菌作用や、殺黴・抗黴作用などを示すことが報告されている(例えば、特許文献5参照。)。
(6) 加熱処理
また、酸化チタン光触媒は、通常、酸化チタンを分散した分散液を基材に塗布した後、高温で加熱処理(焼成)することにより形成されている。
【特許文献1】特開平6−278241号公報
【特許文献2】特開平7−51646号公報
【特許文献3】特開平10−71197号公報
【特許文献4】特開2001−152051号公報
【特許文献5】特開平7−102678号公報
【非特許文献1】「光触媒のすべて」、工業調査会刊行
【非特許文献2】「活性酸素」、日本化学会編、1999年発行、丸善社発行
【非特許文献3】「高分子」、1995年発行、第44巻
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
(7) 一般的な分解方法の課題
しかし、従来の酸化チタン光触媒では、紫外線の光吸収で光触媒機能を発揮するが、このような光触媒機能を発現させるためには、一定量以上の紫外線の線量が吸収される必要がある。その結果、この酸化チタン光触媒では、十分な線量を確保できる晴れた日の昼間にだけ、光触媒機能を発揮でき、夜や日陰には、光触媒機能を発揮できないという不具合がある。
【0008】
一方、夜や日陰でも、酸化チタン光触媒の光触媒機能を発揮させるためには、別途、紫外線の発光源が必要である。そのため、紫外線の発光源として、ブラックライトや紫外線灯を用いる必要であり、非常に手間となる。
【0009】
なお、最近、上記した課題を解決するため、可視光吸収型の酸化チタン系光触媒において、貴金属を微粒子酸化チタンに担持させたものや、窒素元素やイオウ元素を微粒子酸化チタンにドーピングしたものが提案されている。しかし、可視光吸収型の酸化チタン系光触媒では、プラズマなどの処理が必要であり、さらに、手間となる。さらに、この可視光吸収型の酸化チタン系光触媒を実用化するには、経済的な不具合、装置の不具合、実施方法の不具合などがあり、実使用は困難である。
【0010】
また、例えば、基材が有機物である場合に、酸化チタン光触媒を基材の上に形成すると、基材が損傷する場合がある。それを避けるため、シリカ膜などの下地を先に形成し、その上に酸化チタン光触媒を積層すると、より手間となる。
(8) 酸化による有機物の分解方法の課題
また、非特許文献1および2に記載されるような酸化チタン光触媒によって、有機物が、粒子の大きさに関係なく、全て完全に酸化されるということは有り得ないと推測される。なぜなら、酸化チタンのバンドギャップは3.2eVと示されており、水酸ラジカルの標準酸化電位は2.80Vとも2.05Vとも記載されている。一方、汚れの中には、標準酸化電位が2.80Vまたは2.05V以上の化学結合や化学物質も多数に存在するからである。
【0011】
また、酸化チタン光触媒に紫外線を照射すると、電子を供与してスーパーオキサイドアニオン(O2−)を生じる還元反応が光励起で同時に生じる。このスーパーオキサイドアニオンの標準還元電位は0.16Vと小さい。すなわち、スーパーオキサイドアニオンの酸化力は、非常に弱く、有機物をこの酸化電位で分解することは、ほとんど不可能である。まして、酸素を還元反応させることによってスーパーオキサイドアニオンを生成するが、このように生成されたスーパーオキサイドアニオンは、上記の標準酸化還元電位に示されるように還元力を持っていない。また、非特許文献2には、スーパーオキサイドアニオンは水の中で過酸化水素を生成すると記載されているが、酸化剤または被還元物質が存在しないと過酸化水素を生成することはできない。仮に、過酸化水素が生成したとしても過酸化水素の標準酸化還元電位は1.30Vと高くはない。
【0012】
要するに、非特許文献1および2に記載される酸化チタン光触媒では、実使用において、有機物を十分に分解できないという不具合がある。
(9) シックハウス症候群対策およびVOC分解の課題
しかるに、特許文献3で報告されるシックハウス症候群の発生原因物質の除去方法では、ホルムアルデヒド以外の発生原因物質を完全に分解できない場合がある。すなわち、この場合には、ホルムアルデヒド以外の発生原因物質が不完全(中途半端)に酸化分解されて、中間体であるホルムアルデヒドなどのアルデヒドや、窒素酸化物またはイオウ酸化物が、かえって発生することとなる。
(10) 防汚処理の課題
また、基材表面に撥水性を持たせて、汚れが付着することを抑制する、従来の方法では、泥水や有機物の汚染物質が付着する場合には、これらが乾燥すると、基材表面の撥水性と付着物の疎水性とによって、汚れの付着性が強くなる場合がある。この場合には、雨水などで流され難くなるため、汚れが滞留し、堆積して行くという不具合がある。
【0013】
一方、非特許文献3に記載されるアクリル樹脂系やシリコーン樹脂系の塗料による処理では、水との接触角が30〜40°程度であり、防除処理の効果は十分でない。また、非特許文献3における雨水による洗い落としは、単なる水での洗い流しである。そのため、基材表面に付着した有機物を分解することはできないため、十分な防汚処理の効果を得られないという不具合がある。
【0014】
また、特許文献4において提案される汚染防止処理方法では、酸化チタン光触媒の結晶の上に、汚染物質が付着している場合には、付着した汚染物質が紫外線を遮蔽して光触媒を励起させることができず、汚染物質の光触媒による分解効果を阻害すると同時に水の延伸を阻害して超親水性を示すことができず、確実に汚染防止することができないという不具合がある。
(11) 殺菌方法の課題
また、特許文献5で報告される酸化チタン光触媒では、その殺菌効果が十分でないという不具合がある。
(12) 加熱処理の課題
また、上記した焼成において、基材がアルカリ成分を含むアルカリガラスやセラミックスである場合に、これらから溶出するナトリウムイオンまたはカリウムイオンなどの金属イオンと、酸化チタンとが反応して、チタン酸ナトリウムまたはチタン酸カリウムなどのチタン酸塩を生成する。この場合には、酸化チタンが光触媒機能を発揮できないこととなる。そのため、これらのイオンの基材からの溶出を防止して、光触媒機能を発揮させるために、まず、シリカ処理などの下地処理を施す必要があり、非常に手間となる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の目的は、対象物を簡易かつ確実に分解することのできる分解方法を提供することにある。
【0016】
とりわけ、本発明の目的は、対象物としての、有機物、NOx、臭気成分、シックハウス症候群の発生原因物質、汚染物質、水の塊り、有害微生物などを、簡易かつ確実に分解することのできる、有機物分解方法、NOx除去方法、脱臭方法、発生原因物質の除去方法、防汚処理方法、防水滴処理、防露処理または防曇処理する処理方法、有害微生物防除方法などに用いられる分解方法を提供することにある。
【0017】
なお、本発明の目的は、上記目的に加えて、安価で製造される光触媒を用いて、その光触媒の分解作用を長期間持続させることができる、分解方法を提供することでもある。
【0018】
上記目的を達成するために、本発明の分解方法は、赤外線分光光度法による赤外線吸収スペクトルにおいて650〜990cm−1の吸収ピークを有し、チタン、ケイ素および酸素を含有し、これらを化学結合しているチタン−ケイ素化学結合複合酸化物により、対象物を分解することを特徴としている。
【0019】
また、本発明の分解方法では、前記対象物が有機物であることが好適である。
【0020】
また、本発明の分解方法では、前記対象物を分解して、炭酸ガスと水とを生成することが好適である。
【0021】
また、本発明の分解方法では、前記対象物がNOxであって、前記NOxを分解して、硝酸、硝酸塩または窒素と水とを生成し、NOxを除去するNOx除去方法に用いられることが好適である。
【0022】
また、本発明の分解方法では、前記対象物が、臭気成分であって、前記臭気成分を分解して除去する脱臭方法に用いられることが好適である。
【0023】
また、本発明の分解方法では、前記対象物が、シックハウス症候群の発生原因物質であって、前記発生原因物質を除去する除去方法に用いられることが好適である。
【0024】
また、本発明の分解方法では、前記対象物が、汚染物質であって、基材表面を、前記汚染物質から防汚する防汚処理方法に用いられることが好適である。
【0025】
また、本発明の分解方法では、前記チタン−ケイ素化学結合複合酸化物において、少なくとも、チタン元素に−OH基が結合する構造、および/または、ケイ素元素に−OH基が結合する構造を有する部分があり、前記対象物が汚染物質であって、前記汚染物質が分解されるとともに、雨または水の噴霧によって、前記汚染物質が基材表面から除去されるように、前記基材表面を防汚処理する方法に用いられることが好適である。
【0026】
また、本発明の分解方法では、前記チタン−ケイ素化学結合複合酸化物において、少なくとも、チタン元素に−OH基が結合する構造、および/または、ケイ素元素に−OH基が結合する構造を有する部分があり、前記対象物が、汚染物質および水の塊りであって、基材表面において水の塊りが形成されないように、水の塊りの大きさに対応して、前記基材表面を防水滴処理、防露処理または防曇処理する処理方法に用いられることが好適である。
【0027】
また、本発明の分解方法では、前記対象物が、有害微生物であって、前記有害微生物を防除して分解する有害微生物防除方法に用いられることが好適である。
【0028】
また、本発明の分解方法では、また、本発明の分解方法では、前記チタン−ケイ素化学結合複合酸化物が、40〜1500℃で加熱処理されていることが好適である。
【0029】
また、本発明の分解方法では、前記チタン−ケイ素化学結合複合酸化物が、可視光線および紫外線の吸収により光触媒機能を発揮することが好適である。
【0030】
また、本発明の分解方法では、アモルファスチタニアと酸化剤溶液とを混合して、その後、有機シリケートをさらに配合した後、放置してゲル体を生成する工程と、前記ゲル体に酸化剤溶液を添加して、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物溶液を得る工程とを含むチタン−ケイ素化学結合複合酸化物の製造方法により、前記チタン−ケイ素化学結合複合酸化物が製造されていることが好適である。
【0031】
また、本発明の分解方法では、前記ゲル体を生成する工程において、チタン元素とシリカ元素との配合割合が、チタン元素/シリカ元素の割合として、99重量部/1重量部〜5重量部/95重量部であることが好適である。
【0032】
また、本発明の分解方法では、前記チタン−ケイ素化学結合複合酸化物溶液を、基材に塗布した後、乾燥、焼成または焼結することが好適である。
【0033】
また、本発明の分解方法では、前記基材が、アルカリガラス、陶器、磁器、セラミックス、石材、コンクリート、モルタル、金属または漆喰であることが好適である。
【0034】
また、本発明の分解方法では、前記チタン−ケイ素化学結合複合酸化物溶液を、基材に塗布した後、乾燥することが好適である。
【0035】
また、本発明の分解方法では、前記基材が、プラスチック、紙、木材また布であることが好適である。
【発明の効果】
【0036】
本発明の分解方法では、 赤外線分光光度法による赤外線吸収スペクトルにおいて650〜990cm−1の吸収ピークを有し、チタン、ケイ素および酸素を含有し、これらを化学結合しているチタン−ケイ素化学結合複合酸化物に基づく可視光線の吸収および紫外線の吸収により、対象物を、簡易かつ確実に、分解することができる。そのため、効率の良い分解処理を達成することができる。
【0037】
とりわけ、この分解方法を、有機物分解方法、NOx除去方法、脱臭方法、発生原因物質の除去方法、防汚処理方法、防水滴処理、防露処理または防曇処理する処理方法、有害微生物防除方法に用いれば、対象物である、有機物、NOx、臭気成分、シックハウス症候群の発生原因物質、汚染物質、水の塊り、有害微生物などを、簡易かつ確実に分解することができる。そのため、効率の良い、有機物分解、NOx除去、脱臭、発生原因物質の除去、防汚処理、防水滴処理、防露処理または防曇処理する処理、有害微生物防除などを達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
1. 本発明の分解方法
本発明の分解方法は、赤外線分光光度法による赤外線吸収スペクトルにおいて650〜990cm−1の吸収ピークを有し、チタン、ケイ素および酸素を含有し、これらを化学結合しているチタン−ケイ素化学結合複合酸化物により、対象物を分解する。
(1) チタン−ケイ素化学結合複合酸化物
チタン−ケイ素化学結合複合酸化物は、チタン、ケイ素および酸素を含有し、これらが化学結合されている。すなわち、このチタン−ケイ素化学結合複合酸化物は、例えば、2次元および3次元の化学結合からなるネットワーク構造を構成している。
【0039】
ネットワーク構造は、チタニア(TiO)構造に類似するとともに、シリカ(SiO)構造に類似している。そして、化学結合マトリックスネットワーク構造は、TiとSiとOとが化学結合して複合体を構成して、マトリックスとなっている。
【0040】
また、このネットワーク構造は、直線状に結合した2分子ユニット(Ti−O−Si結合)以上の高分子化合物の2次元構造と、さらに、TiからまたはSiから、分岐している3分子ユニット以上の高分子化合物の3次元構造とを有している。
【0041】
この化学結合マトリックスネットワーク構造は、少なくともTi−O−Si結合を含んでおり、より具体的には、チタンの酸化構造(Ti=O結合)、ケイ素の酸化構造(Si=O結合)、および、OH基を有するチタンの構造(Ti−OH結合)、OH基を有するケイ素の構造(Si−OH結合)、および、酸素原子を介するチタン−ケイ素構造(Ti−O−Si結合)を含んでいる。
【0042】
そして、これらの各結合が、均一および規則的に配列されており、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物は、通常、50nm以下の透明薄膜として形成されている。
【0043】
これにより、この化学結合マトリックスネットワークは、通常の酸化物であるチタニアおよび通常の酸化物であるシリカの混合物と相違している。すなわち、チタニアおよびシリカの混合物では、Ti−O−Si結合を構成しておらず、この点で、この化学結合マトリックスネットワーク構造と、チタニアおよびシリカが物理的に混合された混合物とは、結合において相違している。
【0044】
また、このTi−O−Si結合において、Oを介したTiおよびSi間の距離は、通常のチタニアと通常のシリカとの物理的な混合物におけるTiおよびSi間の距離に比べて、Ti−O−Si結合が化学結合であるため、非常に短い。そのため、Ti−O−Si結合において、Tiに結合する=Oから生じるOH(Ti−OH結合のOH)と、Siに結合する=Oから生じるOH(Si−OH結合のOH)との相互作用が非常に強い。また、Ti−OH結合およびSi−OH結合とTi=O結合との相互作用についても同様であり、さらには、Ti−OH結合およびSi−OH結合とSi=O結合との相互作用についても同様である。その結果、本発明のTi−O−Si結合では、チタニアのOHおよびシリカのOHとの相互作用に比べて、非常に強い相乗作用が発現され、例えば、後述する超親水性を基材に付与する。
【0045】
なお、Ti−O−Si結合の存在については、後述する実施例における赤外線分光光度法において、確認される。
【0046】
また、本発明におけるチタン−ケイ素化学結合複合酸化物は、少なくとも光触媒機能を有している。この光触媒機能は、可視光線および紫外線の吸収により、発揮される。とりわけ、紫外線の吸収に加えて、可視光線の吸収により光触媒機能が発揮される点が特徴である。
(2) チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の製造方法
本発明におけるチタン−ケイ素化学結合複合酸化物を製造するには、例えば、通常のチタニアを製造するための前駆体、および、通常のシリカを製造するための前駆体を、酸化剤溶液で処理する。
【0047】
チタニアを製造するための前駆体としては、例えば、チタンのハロゲン化物、チタンの硫酸塩、その他のチタンの塩類、チタンのアルコキサイドなど挙げられる。好ましくは、チタンのアルコキサイド(チタンアルコキサイド)が挙げられる。
【0048】
チタンアルコキサイドを形成するアルコキサイドとしては、例えば、メトキサイド、エトキサイド、プロポキサイド、イソプロポキサイド、ブトキサイド、イソブトキサイド、t−ブトキサイド、その他高級アルキルアルコキサイド、アルケニルアルコキサイド、アラルキルアルコキサイドなどが挙げられる。また、上記したアルコキサイドが置換基によって置換されたものも挙げられる。
【0049】
シリカを製造するための前駆体としては、例えば、ケイ素のハロゲン化物、ケイ素の硫酸塩、その他のシリカの塩類、ケイ素のアルコキサイド(シリコンアルコキサイド)、シリコーンオリゴマーなど挙げられる。好ましくは、ケイ素のアルコキサイド(シリコンアルコキサイド)が挙げられる。
【0050】
シリコンアルコキサイドを形成するアルコキサイドとしては、上記したチタンアルコキサイドを形成するアルコキサイドと同様のものが挙げられる。
【0051】
なお、チタニアまたはシリカを製造するための前駆体に、他の金属元素を含むアルコキサイドを、適宜の割合で添加することもできる。
【0052】
そして、このチタン−ケイ素化学結合複合酸化物の製造方法としては、より具体的には、例えば、A.アモルファスチタニアと酸化剤溶液とを混合して、その後、有機シリケートをさらに配合した後、放置してゲル体を生成する工程と、B.ゲル体に酸化剤溶液を添加して、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物溶液を得る工程と、C.このチタン−ケイ素化学結合複合酸化物溶液を、基材に塗布した後、乾燥する工程とを含んでいる。
A. ゲル体を生成する工程
アモルファスチタニアは、チタンの供給源であり、好ましくは、チタンアルコキサイドから製造されるものであって、例えば、粒界が存在しないアモルファスの微粒子である。また、このアモルファスチタニアは、例えば、チタンアルコキシドと、このアルコキシドと炭素数が同じアルコールとを、所定のモル比で混合し、さらに上記のアルコールと、水との混合液を加えて反応させ、この反応により得られた懸濁液を固液分離し、乾燥することにより得ることができる。なお、上記した各成分のモル比は、例えば、チタンアルコキシド/アルコール/水=1/1〜50/1〜40となるように設定する。
【0053】
有機シリケートは、ケイ素(シリコン)成分の供給源であり、金属を含まない有機シリケートであれば特に限定されず、例えば、テトラエチルオルトシリケート((CO)Si:TEOS)などのシリコンアルコキサイド、例えば、Si24やSi16などのシリコーンオリゴマーなどが挙げられる。
【0054】
酸化剤溶液は、酸化剤と溶媒とを含んでいる。
【0055】
酸化剤としては、過酸化水素、オゾン、過塩素酸、過マンガン酸カリウム、過酢酸などの酸化剤が挙げられる。後処理などの観点から、過酸化水素やオゾンが好ましい。
【0056】
溶媒としては、酸化剤を溶解できるものであれば限定されず、例えば、水、アルコールなどが挙げられる。好ましくは、水が挙げられる。
【0057】
また、酸化剤溶液において、酸化剤の濃度は、例えば、5〜80重量%である。
【0058】
そして、この製造方法では、まず、ゲル体を生成する。ゲル体を生成するには、上記したアモルファスチタニアと酸化剤溶液とを混合し、その後、これらに有機シリケートをさらに配合して、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物溶液を形成し、このチタン−ケイ素化学結合複合酸化物溶液を、例えば、温度20〜80℃の下で、例えば、1〜10日間、放置する。また、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物溶液を、例えば、温度80〜150℃の下で、例えば、0.5時間〜1日間、放置することもできる。
【0059】
チタン−ケイ素化学結合複合酸化物溶液において、各成分の配合割合を、アモルファスチタニア/有機シリケート/酸化剤溶液の割合として、例えば、1重量部/0.01〜100重量部/1〜100重量部、好ましくは、1重量部/0.1〜80重量部/10〜80重量部、さらに好ましくは、1重量部/10〜70重量部/15〜60重量部に設定する。この場合には、アモルファスチタニアのチタンと、有機シリケートのケイ素と、酸化剤との配合割合が、チタン/ケイ素の割合として、例えば、1重量部/0.01〜19重量部/1〜80重量部、好ましくは、1重量部/0.1〜8重量部/5〜80重量部、さらに好ましくは、1重量部/0.3〜7重量部/10〜50重量部である。つまり、チタンとケイ素と配合割合は、チタン元素/ケイ素の割合として、好ましくは、99重量部/1重量部〜5重量部/95重量、さらに好ましくは、80重量部/20重量部〜20重量部/80重量、とりわけ好ましくは、60重量部/40重量部〜40重量部/60重量部である。
【0060】
なお、このチタン−ケイ素化学結合複合酸化物溶液は、通常、強い酸性を示すが、作業者の皮膚刺激などに対する安全性や基材への影響が懸念される場合には、例えば、アンモニア水などのアルカリで中和することができる。なお、このような中和によっても、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の光触媒機能の発揮には何の影響も示さない。
B. チタン−ケイ素化学結合複合酸化物溶液を得る工程
次いで、この製造方法では、ゲル体に酸化剤溶液をさらに添加して、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物溶液を得る。
【0061】
さらに添加する酸化剤溶液としては、ゲル体を生成するための酸化剤溶液と同様のものが挙げられる。また、酸化剤の濃度は、上記と同様である。
【0062】
ゲル体に酸化剤溶液をさらに添加するには、例えば、温度−10〜30℃の下で、ゲル体に酸化剤溶液を添加して、例えば、0.5〜5時間、攪拌する。これによって、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物溶液を得ることができる。
【0063】
この工程において、さらに添加する酸化剤溶液の配合割合を、ゲル体100重量部に対して、例えば、300〜5000重量部、好ましくは、500〜3000重量部に設定する。この場合には、酸化剤の配合割合は、ゲル体のチタンおよびケイ素の総量100重量部に対して、例えば、100〜1500重量部、好ましくは、300〜1000重量部である。
C. 基材に塗布し、乾燥する工程
次いで、この製造方法では、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物溶液を、基材に塗布した後、乾燥する。
【0064】
基材としては、例えば、対象物(後述)に曝される部分を構成する部材であって、そのような基材の材料としては、例えば、陶器、磁器、石材、コンクリート、モルタル、金属、漆喰、セラミックス、ガラス(アルカリガラス)、木、布、紙、土、石、樹脂(プラスチック)などが挙げられる。また、塗布されたチタン−ケイ素化学結合複合酸化物溶液からなる塗膜の厚みは、その用途および目的に応じて、適宜選択される。
【0065】
塗膜を乾燥させるには、例えば、20〜100℃で、塗布された基材を加熱する。なお、乾燥温度は、乾燥時間に応じて、適宜選択することもでき、例えば、0.5〜72時間である。
【0066】
これにより、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物を製造することができる。
【0067】
その後、さらに、乾燥後のチタン−ケイ素化学結合複合酸化物を、加熱処理することもできる。加熱処理の温度は、例えば、40〜1500℃、好ましくは、150〜1000℃、さらに好ましくは、300〜800℃である。また、好ましくは、加熱処理を、500℃以上の焼成、焼結または焼き付けとして実施する。500℃以上で焼成、焼結または焼き付けすれば、光触媒機能を発揮できるアナターゼ構造を構成するチタン−ケイ素化学結合複合酸化物を得ることができる。
【0068】
なお、500℃未満で処理すれば、アモルファス状態となるところ、このようなアモルファス状態においても、光触媒機能を発揮できる。このことは、実施例の分析において、確認される。
【0069】
また、基材が陶器、磁器、石材、コンクリート、モルタル、金属、漆喰、セラミックスまたはガラス(アルカリガラス)である場合には、これらの製造における焼成(焼結)と同時に、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物を加熱処理することもでき、その温度は、例えば、800〜1500℃である。
【0070】
上記した温度の範囲内によって加熱処理によって得られたチタン−ケイ素化学結合複合酸化物と基材との密着性は、JIS K 5400に準拠する碁盤目テストにおいて全く剥離を生じない。また、このようなチタン−ケイ素化学結合複合酸化物の表面硬度は、より具体的には、鉛筆硬度で、例えば、9H以上である。なお、加熱処理温度を500℃以上の高温にすると、アナターゼ構造を構成するため、X線回析分析法(XRD)の分析では、アナターゼ構造のチャートを示すようになる。このチタン−ケイ素化学結合複合酸化物は、アナターゼ構造を構成して、光触媒効果を有している。しかし、加熱処理しないもの(アモルファス状態)と加熱処理したもの(アナターゼ構造)とでは、光触媒効果において大きな相違が認められないことは予想外である。
【0071】
また、加熱処理の温度が上記した温度範囲(高温)であり、基材がアルカリガラスまたはセラミックスから形成される場合であっても、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物は、アルカリイオンの溶出防止を図ることができる。そうすると、別途、シリカ処理などの下地処理をする必要がない。
【0072】
そのため、簡易な方法で、高温において加熱処理して、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物を形成しながら、その光触媒機能を維持することができる。
【0073】
なお、アルカリイオンは、基材に含まれる成分であって、例えば、ナトリウムイオンやカリウムイオンなどのアルカリ金属イオン、例えば、カルシウムイオンやマグネシウムイオンなどのアルカリ土類金属イオンなどが挙げられる。
【0074】
なお、このような加熱処理は、上記した温度の範囲内において、適宜温度を変えて、繰り返すこともできる。
【0075】
そして、このチタン−ケイ素化学結合複合酸化物では、透明性が高く、この酸化物構造における相乗効果により、基材への密着性の向上、および、表面硬度(耐摩耗性)の向上を図ることができる。
2. 具体的な分解方法
(1) 上記のようにして製造されたチタン−ケイ素化学結合複合酸化物の光触媒機能は、可視光線および紫外線の吸収により、発揮される。
【0076】
そのため、十分な線量の紫外線を得られないような夜や日陰でも、蛍光灯からの可視光線によって、光触媒機能を発揮させることができる。その結果、光触媒機能、すなわち、分解作用を簡単に発現させることができる。
【0077】
また、このチタン−ケイ素化学結合複合酸化物は、光触媒機能に加えて、熱エネルギーによる励起(熱励起)によって、熱触媒機能を発揮することができる。そのため、例えば、上記した紫外線および可視光線の吸収と、加熱とによって、分解作用をより一層確実に発現させることができる。
(2) 各対象物の分解
A. 有機物分解方法
そして、このチタン−ケイ素化学結合複合酸化物による分解方法を、有機物を分解する有機物分解方法に用いることができる。
【0078】
有機物としては、例えば、空気中の浮遊物、揮発性組成物、廃液や汚染水に含まれる有機物(不揮発性有機物化合物)などが含まれる。また、PCB、ダイオキシン、環境ホルモンなどの有害有機物なども含まれる。さらに、後述するシックハウス症候群の発生原因物質や揮発性有機化合物(VOC)なども含まれる。
【0079】
チタン−ケイ素化学結合複合酸化物を有機物分解方法に用いるには、例えば、上記した有機物に曝される部分、より具体的には、ガラス窓、タイル、コンクリート壁、石材、壁紙、漆喰、塗装鋼板、プラスチック板、フイルム、瓦、木材、木製板、木製壁、モルタル、トンネル、ガードレール、カーブミラーなどの外部に曝された部分に、透明なチタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜を形成する。
【0080】
なお、このチタン−ケイ素化学結合複合酸化物が、熱触媒機能を発揮するためには、その温度が、例えば、5℃〜100℃、好ましくは、15℃〜50℃の程度となればよい。
【0081】
このチタン−ケイ素化学結合複合酸化物の光触媒機能および熱触媒機能の発揮により、有機物を分解して、炭酸ガス(二酸化炭素)と水とを生成する。
【0082】
また、この有機物の分解では、その分解作用の確実性から、有機物を、炭酸ガスと水とに完全に分解することができる。
【0083】
このチタン−ケイ素化学結合複合酸化物によれば、通常の酸化チタン光触媒に比べて、有機物が容易に分解される。さらに、このチタン−ケイ素化学結合複合酸化物では、通常の酸化チタン光触媒に比べて、短時間、小さな接触面積、少ない接触回数で有効な分解作用が発現される。
B. NOx除去方法
また、このチタン−ケイ素化学結合複合酸化物による分解方法を、NOx(窒素酸化物)を分解して除去するNOx除去方法に用いることもできる。
【0084】
このチタン−ケイ素化学結合複合酸化物の光触媒機能の発揮により、NOxを分解して、硝酸、硝酸塩または窒素(窒素ガス)と水とを生成して、これにより、NOxを除去する。なお、硝酸塩としては、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムなどの硝酸のアルカリ金属塩などが挙げられる。
【0085】
これにより、自動車などから排出され、大気中に含まれるNOxを、簡易かつ確実に除去して、大気を浄化することができる。
C. 脱臭方法
また、このチタン−ケイ素化学結合複合酸化物による分解方法を、臭気成分を除去する脱臭方法に用いることもできる。
【0086】
チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の光触媒機能の発揮により、臭気成分を分解して、これを除去する。
【0087】
臭気成分としては、例えば、悪臭成分であって、例えば、糞尿に由来する臭気成分、腐敗に由来する臭気成分などが挙げられ、具体的には、アンモニア、トリメチルアミンなどの窒素系臭気、メルカプタン、硫化メチルなどの硫黄系臭気、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどのアルデヒド系臭気などが挙げられる。
【0088】
これにより、臭気成分が外部に拡散しにくい場所、例えば、トイレなどの室内の臭気を、光触媒機能の発揮によって除去して、簡易かつ確実に脱臭(消臭・無臭化)することができる。
D. シックハウス症候群の発生原因物質の除去方法(シックハウス症候群対策・VOC対策)
また、このチタン−ケイ素化学結合複合酸化物による分解方法を、シックハウス症候群の発生原因物質の除去方法に用いることもできる。
【0089】
チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の光触媒機能の発揮により、シックハウス症候群の発生原因物質を分解して除去する。
【0090】
シックハウス症候群の発生原因物質としては、例えば、ホルムアルデヒド(ホルマリン臭)、アセトアルデヒド、トルエン、キシレン、ベンゼンなどの揮発性有機化合物(VOC)、例えば、木材保存剤、防蟻剤、可塑剤などの合成薬剤が挙げられる。
【0091】
とりわけ、この分解では、その分解作用の確実性から、上記した発生原因物質を完全に分解することができる。そのため、発生原因物質(ホルムアルデヒドを除く。)が不完全(中途半端)に分解されて、ホルムアルデヒドが生成されることを確実に防止することができる。その結果、シックハウス症候群の発生原因物質をより確実に除去することができる。
E. 防汚処理方法
また、このチタン−ケイ素化学結合複合酸化物による分解方法を、基材表面を、汚染物質から防汚する防汚処理方法に用いることもできる。
【0092】
基材は、有機物が付着し易い部分であって、上記した有機物分解方法において有機物に曝される部分と同じ部分が挙げられる。
【0093】
汚染物質としては、例えば、上記した有機物の汚れであって、より具体的には、空気中の浮遊物、泥、廃液や汚染水に含まれる有機物などが挙げられる。
【0094】
この防汚処理方法では、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の光触媒機能および熱触媒機能の発揮により、基材表面の汚染物質を除去する。
【0095】
上記した光触媒機能および熱触媒機能のうち、熱触媒機能が主に発揮されている。これは、熱エネルギーに基づく熱励起によって、Ti=O結合がTi−OH結合となり、Si=O結合がSi−OH結合に変換される。この変換において、Hは、酸性を示すプロトン性のHである。なお、これらのOH基はアルカリ性やアルコール性のOH基ではない。すなわち、チタニアおよびシリカを製造するための前駆体は、それぞれ、チタン酸およびケイ酸である。ゆえに、これら前駆体を加水分解して得られた水溶液のpHを測定すると強い酸性(低いPH値)を示すことが分かっている(J.Phys.Chem.B 2005,109,15422)。なお、この超親水性の付与については、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物が形成された基材および雰囲気全体を冷却して、温度上昇を抑制すると、超親水性をほとんど示さないことから、熱触媒機能が主に発揮されていることが分かる。
【0096】
そして、基材表面の防汚方法では、雨または水の噴霧により、基材表面から汚染物質が除去される。すなわち、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物における光触媒機能により、まず、表面に付着(積層)される有機物層が水と炭酸ガスとに分解され、さらに付着される汚染物の付着力を弱くする。次いで、Ti−OH結合および/またはSi−OH結合によって、基材表面に超親水性が付与される。そのため、雨または水の噴霧による水が、基材表面と汚染物質との間に入り込んで、汚染物質が基材表面から容易に除去される(いわゆるセルフクリーニング)。
【0097】
なお、この超親水性は、水および酸素が同時に存在することによって発揮されるものである。より具体的には、上記したプロトン性のHが分子レベルで非常に近接した位置に生成し、水の分子の酸素に配位して多分子の水分子のプロトンリレーを形成することによって、超親水性が付与される。
F. 防曇処理方法
また、このチタン−ケイ素化学結合複合酸化物による分解方法を、基材表面を防曇処理する防曇処理方法に用いることもできる。
【0098】
基材は、曇を生ずる極めて小さな水滴が付着し易い部分であって、とりわけ、視認性が求められる部分であり、例えば、洗面台の鏡、風呂場の鏡、自動車のドアミラー、バックミラー、サイドミラー、道路のカーブミラー、メガネ、室内のガラス窓、電車の窓、車の窓などが挙げられる。また、基材の表面には、上記と同様の汚染物質が付着されていてもよい。
【0099】
この防曇処理方法では、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物における、大きな粒界が存在しない分子レベルで非常に近い距離に配置された官能基の相互作用に基づいて、光触媒機能および熱触媒機能の発揮により、基材表面を防曇処理する。
【0100】
すなわち、この防曇処理においても、基材表面に、上記と同様の超親水性が付与される。
【0101】
そして、このチタン−ケイ素化学結合複合酸化物(乾燥膜または加熱処理膜)は、粒界が形成されないような均一膜、または、粒界の影響がほとんどないような均一膜として形成されている。そのため、湯気(水蒸気)がチタン−ケイ素化学結合複合酸化物に接触したとき、基材表面の均一膜に沿って広がる薄い水の膜状となるように、湯気が凝縮される。これにより、基材表面が防曇処理される。
【0102】
なお、これに対して、市販の微粒子酸化チタン分散液の乾燥膜は、酸化チタン光触媒の粒子が大きく、湯気を生じる水の塊りは、酸化チタン光触媒粒子の粒界(粒子間の隙間)に溜まるため、薄い膜状とならず、溜まった水の塊りが粒子を形成して、曇を生じることになる。
【0103】
また、基材表面に汚染物質が付着されている場合でも、基材表面と汚染物質との間に、水が入り込んで、基材表面が防曇処理される。
【0104】
また、この防曇方法では、上記したように、熱触媒機能が発揮されることによって、Ti−OH結合とSi−OH結合とが形成されて、さらに、Hが酸性を示すプロトン性のHであることから、Ti−OH結合とSi−OH結合との相乗効果によって、あるいは、Ti−OH結合によって、または、Si−OH結合によって、より確実に防曇処理することができる。
【0105】
なお、上記した説明では、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物を、防曇処理に用いたが、水の塊りが分解されて、水分子が基材表面に沿う膜状に形成されるように用いられれば、これに制限されず、水塊りの大きさに応じて、例えば、比較的大きな水滴の形成を防止する防水滴処理方法、比較的小さな(微細な)水粒子である露の形成を防止する防露処理方法に用いることもできる。
G. 有害微生物防除方法
また、このチタン−ケイ素化学結合複合酸化物による分解方法を、有害微生物を防除して分解する有害微生物防除方法に用いることもできる。
【0106】
有害微生物としては、例えば、ウイルス、例えば、大腸菌、黄色ブドウ球菌などのグラム陽性細菌やグラム陰性細菌などの細菌、例えば、黒カビなどの黴などが挙げられる。
【0107】
例えば、有害微生物としての細菌を防除して分解する方法、すなわち、殺ウイルス方法、殺菌方法(抗菌方法)や殺黴方法(抗黴方法)に用いるには、例えば、ウイルス、細菌または黴に曝される部分、より具体的には、マスク、病室、手術室、厨房、トイレ、老人ホーム、公共施設、列車、公共輸送機関、風呂、温泉、循環バス、浄水、高純度水などの場所における壁、廊下、それらの材料の表面に、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜を形成する。
【0108】
そして、この殺ウイルス方法、殺菌方法または殺黴方法では、光触媒機能および熱触媒機能を発揮させることにより、電子が吸収されて、水酸ラジカルが生じる。
【0109】
そのため、この水酸ラジカルと酸素ラジカルとによって、確実に殺ウイルス、殺菌または殺黴することができる。
【0110】
また、殺ウイルスされたウイルス、殺菌された細菌または殺黴された黴は、さらに分解されて、炭酸ガス(二酸化炭素)と水とを生成するようになる。
【実施例】
【0111】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
【0112】
製造例1
(1) アモルファスチタニアの調製
チタンテトライソプロポキサイド(TIP)28.4重量部とイソプロパノール(IPA)30重量部とを混合し、次いで、これに、イソプロパノール(IPA)30重量部と水7.2重量部との混合液を混合して反応させた。なお、反応における各成分の配合割合は、モル換算で、TIP/IPA/HO=1/10/4であった。
【0113】
そして、この反応により、白色懸濁液を得た。次いで、これを固液分離した後、乾燥することにより、アモルファスチタニアの微粒子を得た。
(2) ゲル体の生成
アモルファスチタニアの微粒子1gに対して、31%過酸化水素水20mlの割合で混合し、さらにテトラエチルオルトシリケート(TEOS)を、重量部換算で、チタン元素/シリカ元素=1/1となるように混合した。次いで、これを、20℃の下で2時間撹拌することにより、赤橙色透明溶液を得た。
【0114】
次いで、この赤橙色透明溶液を、室温(27℃)の下で1週間〜10日間放置して、ゲル化させた。
(3) チタン−ケイ素化学結合複合酸化物溶液の調製
上記により得られたゲル体に、さらに、31%過酸化水素20mlを添加して、20℃の下で1時間撹拌することにより、黄色透明のチタン−ケイ素化学結合複合酸化物溶液を得た。
(4) チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜の調製
上記により得られたチタン−ケイ素化学結合複合酸化物溶液を、石英ガラス板に塗布して、1000℃で1時間、加熱処理することにより、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜を調製した。
【0115】
製造例2
(2)ゲル体の生成におけるテトラエチルオルトシリケート(TEOS)の混合において、重量部換算で、チタン元素/シリカ元素=1/1を、チタン元素/シリカ元素=1/9に変更した以外は、製造例1と同様に処理することにより、ゲル体を調製した。続いて、製造例1と同様にして、(3)チタン−ケイ素化学結合複合酸化物溶液を調製し、続いて、(4)チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜を調製した。
【0116】
製造例3
(2)ゲル体の生成におけるテトラエチルオルトシリケート(TEOS)の混合において、重量部換算で、チタン元素/シリカ元素=1/1を、チタン元素/シリカ元素=1/0.5に変更した以外は、製造例1と同様に処理することにより、ゲル体を調製した。続いて、製造例1と同様にして、(3)チタン−ケイ素化学結合複合酸化物溶液を調製し、続いて、(4)チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜を調製した。
【0117】
製造例4
(4)チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜の調製において、石英ガラス板をソーダガラス板に変更し、次いで、加熱処理に代えて、27℃で24時間(1昼夜)、乾燥した以外は、製造例1と同様にして、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜を調製した。
【0118】
製造例5
(4)チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜の調製において、石英ガラス板をソーダガラス板に変更し、次いで、加熱処理の温度および時間を、110℃および2時間に変更した以外は、製造例1と同様にして、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜を調製した。
【0119】
製造例6
(4)チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜の調製において、石英ガラス板をソーダガラス板に変更し、次いで、加熱処理の温度を、500℃に変更した以外は、製造例1と同様にして、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜を調製した。
【0120】
製造例7
(4)チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜の調製において、石英ガラス板をソーダガラス板に変更し、次いで、加熱処理の温度を、550℃に変更した以外は、製造例1と同様にして、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜を調製した。
【0121】
製造例8
(4)チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜の調製において、石英ガラス板をソーダガラス板に変更し、次いで、加熱処理に代えて、25℃で12時間、乾燥した以外は製造例1と同様にして、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜を調製した。
1. チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の分析
(1) 赤外拡散反射分析(FT−IR DRS)
製造例1〜3および8により得られたチタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜について、赤外線分光光度法の1つである、赤外拡散反射分析法(FT−IR DRS)によって、赤外線吸収スペクトルを得た。製造例1〜3の赤外線吸収スペクトルを図1に示し、製造例8の赤外線吸収スペクトルを図2に示す。
【0122】
そして、製造例1〜3の1000℃の焼結時の赤外線吸収スペクトルには、960〜970cm−1と770cm−1付近に、吸収ピークが認められた。この吸収ピークは、シリカ単独の赤外線吸収スペクトル、または、チタニア単独の赤外線吸収スペクトルには、存在しない吸収ピークである。
【0123】
また、製造例8の25℃処理時の赤外線吸収スペクトルには、910〜920cm−1と740〜750cm−1と660〜670cm−1と付近に、吸収ピークが認められた。
【0124】
製造例1〜3の1000℃焼成時および製造例8の25℃処理時の赤外線吸収スペクトルのいずれにおいても、650〜990cm−1に特徴ある4つの吸収ピークが認められた。
【0125】
そのため、これらの吸収ピークは、Ti−O−Si結合の伸縮に帰属するものであると判断される。なお、アモルファス状態のチタニアにおいても、960〜990cm−1付近にTi=O結合に帰属すると考えられる吸収ピークが現れることから、アモルファス状態のチタニアのTi=OH結合に帰属する吸収ピークと区別がつき難い。しかし、図1の赤外線吸収スペクトルから分かるように、Ti/Siが1/9から1/1へと、Tiの比率が高くなると、吸収ピークの高さが減じており、このことからも、960〜990cm−1付近の吸収ピークがチタニアによるものとは考えにくい。
(2) X線回析分析(XRD)
製造例4〜7により得られたチタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜について、X線回析分析法(XRD)によって、分析した。これにより、加熱処理において、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物におけるチタニア部分の結晶構造の変化を見た。その結果を、図3に示す。
【0126】
図3から分かるように、加熱処理の条件が、500℃からアナターゼ結晶構造が見え始めた。しかし、結晶構造(すなわち、アナターゼ型結晶であるか、あるいは、アモルファス状態であるか)と、光触媒機能との間に、相関関係がなく、このことは、後述する実施例1において示す。
(3) エネルギー分散型蛍光X線分析(EDX)
製造例7により得られたチタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜について、エネルギー分散型蛍光X線分析(EDX)によって、分析した。測定箇所は、薄膜における縦×横=4×4の16点とした。そして、各測定箇所におけるスペクトル(画像)は、すべて同じ形状であった。これらの代表画像を図4に示す。
【0127】
そして、16点の各測定箇所において、図4におけるスペクトルの形状が同じであることから、ソーダガラス板の上におけるチタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜が、同じ組成(TiおよびSiの比率)および同じ構造であり、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜が、ソーダガラス板の表面に沿って均一であることが分かる。
2. チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の各分解方法の評価
[実施例1]
(有機物分解方法)
(実施方法1)
(1)薄膜の形成
製造例1におけるチタン−ケイ素化学結合複合酸化物溶液を、チタン元素の重量換算濃度が0.425%となり、かつ、ケイ素の重量換算濃度が0.425%となるように、水に混合させ、これを超音波の下で撹拌して分散させることにより、分散液を調製した。別途、10cm×10cmのソーダガラス板を、まずアセトンで脱脂処理洗浄を行い、これを乾燥した後、調製した分散液1mlを、フローコーターで塗布して、均一な薄膜(被膜)を形成した。
【0128】
次いで、これを27℃で12時間乾燥することにより、ソーダガラス板の上に、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜を形成した。
(2)光照射
チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜に、20mg/L濃度のメチレンブルー水溶液を塗布した。その後、蛍光灯(20W昼光色)を照射するとともに、薄膜の上のメチレンブルーの吸光度を経時的に測定することにより、メチレンブルーの消色を測定した。その結果を表1および図5に示す。
【0129】
なお、吸光度は、分光光度計を用いて、668nmの波長における吸光度として測定された。また、吸光度の測定において、メチレンブルーの塗布前のソーダガラス板の吸光度を測定して、その吸光度を差し引いて、真の吸光度を得るように、補正した。
【0130】
(比較方法1)
(1)薄膜の形成におけるチタン−ケイ素化学結合複合酸化物に代えて、酸化チタン光触媒粉末(微粒子状、ST−1、石原産業社製)を用いた以外は、実施方法1と同様にして薄膜を形成し、続いて、光照射した。その結果を表1および図5に示す。
【0131】
(実施方法2)
(2)光照射における蛍光灯に代えて、ブラックライト(光強度が8mW/cmであり、352nmに最大波長を有する紫外線を照射する発光源)を用いた以外は、実施方法1と同様にして光照射した。その結果を表1および図5に示す。
【0132】
(比較方法2)
(1)薄膜の形成におけるチタン−ケイ素化学結合複合酸化物に代えて、酸化チタン光触媒粉末を用いた以外は、実施方法1と同様にして薄膜を形成した。続いて、(2)光照射における蛍光灯に代えて、ブラックライトを用いた以外は、実施方法1と同様にして光照射した。その結果を表1および図5に示す。
【0133】
(実施方法3)
(1)薄膜の形成において、27℃の12時間乾燥後に、さらに、110℃で12時間、加熱処理して、その後、550℃で1時間、加熱処理した以外は、実施方法1と同様にして薄膜を形成し、続いて、光照射した。その結果を表1および図5に示す。
【0134】
(実施方法4)
(1)薄膜の形成において、27℃の12時間乾燥後に、さらに、110℃で12時間、加熱処理して、その後、550℃で1時間、加熱処理した以外は、実施方法1と同様にして薄膜を形成した。続いて、(2)光照射における蛍光灯に代えて、ブラックライトを用いた以外は、実施方法1と同様にして光照射した。その結果を表1および図5に示す。
【0135】
【表1】

表1および図5から分かるように、本発明に係る実施方法1〜4では、比較方法1および2に比べて、有機物としてのメチレンブルーを確実に分解できた。また、一般にアモルファス状態の酸化チタンには光触媒効果がないとされているが、加熱処理されていない実施方法1および2のチタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜では、図3に示したX線回析分析ではアモルファスであるスペクトルしか示さないにもかかわらず、光触媒機能を発揮した。つまり、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物においては、結晶構造と光触媒機能とが、相関関係にないことが分かる。
【0136】
[実施例2]
(アルデヒドの除去方法)
(実施方法5)
(1)薄膜の形成
実施方法1における(1)薄膜の形成と同様にして、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜を形成した。
(2)光照射
20cm×20cm×20cmのアクリル板で作成した立方体状の試験箱の天井部分に、蛍光灯(20W昼光色)および空気撹拌用プロペラを設置(セット)して、床部分に、薄膜が形成されたガラス板を設置した。
【0137】
次いで、65mg/L濃度のアセトアルデヒドが気散(含有)された空気を、この試験箱に導入した。そして、試験箱内の空気と、アルデヒド含有空気とを十分に置換した。
【0138】
次いで、蛍光灯を照射するとともに、試験箱内の空気を経時的にサンプリングして、そのアセトアルデヒドの濃度を測定した。その結果を表2および図6に示す。
【0139】
(比較方法3)
(1)薄膜の形成
(1)実施方法1において、(1)薄膜の形成におけるチタン−ケイ素化学結合複合酸化物に代えて、酸化チタン光触媒粉末(微粒子状、ST−1、石原産業社製)を用いた以外は、実施方法1と同様にして薄膜を形成した。
(2)光照射
実施方法5と同様の試験箱の床部分に、薄膜が形成されたガラス板を設置した。
【0140】
次いで、65mg/L濃度のアセトアルデヒドが気散(含有)された空気を、この試験箱に導入した。そして、試験箱内空気と、アルデヒド含有空気とを十分に置換した。
【0141】
次いで、蛍光灯(20W昼光色)を照射するとともに、試験箱内の空気を経時的にサンプリングして、そのアセトアルデヒドの濃度を測定した。その結果を表2および図6に示す。
【0142】
(実施方法6)
(1)薄膜の形成
実施方法1における(1)薄膜の形成と同様にして、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜を形成した。
(2)光照射
20cm×20cm×20cmのアクリル板で作成した立方体状の試験箱の天井部分に、ブラックライト(光強度が8mW/cmであり、352nmに最大波長を有する紫外線を照射する発光源)および空気撹拌用プロペラを設置(セット)して、床部分に、薄膜が形成されたガラス板を設置した。
【0143】
次いで、65mg/L濃度のアセトアルデヒドが気散(含有)された空気を、この試験箱に導入した。そして、試験箱内の空気と、アルデヒド含有空気とを十分に置換した。
【0144】
次いで、ブラックライトを照射するとともに、試験箱内の空気を経時的にサンプリングして、そのアセトアルデヒドの濃度を測定した。その結果を表2および図6に示す。
【0145】
(比較方法4)
(1)薄膜の形成
実施方法1における(1)薄膜の形成と同様にして、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜を形成した。
(2)光照射
20cm×20cm×20cmのアクリル板で作成した立方体状の試験箱の天井部分に、ブラックライトおよび空気撹拌用プロペラを設置(セット)して、床部分に、薄膜が形成されたガラス板を設置した。
【0146】
次いで、65mg/L濃度のアセトアルデヒドが気散(含有)された空気を、この試験箱に導入した。そして、試験箱内の空気と、アルデヒド含有空気とを十分に置換した。
【0147】
次いで、ブラックライトを照射するとともに、試験箱内の空気を経時的にサンプリングして、そのアセトアルデヒドの濃度を測定した。その結果を表2および図6に示す。
【0148】
(実施方法7)
(1)薄膜の形成
(1)薄膜の形成において、27℃の12時間乾燥後に、さらに、110℃で12時間、加熱処理して、その後、550℃で1時間、加熱処理した以外は、実施方法1と同様にして薄膜を形成した。
(2)光照射
20cm×20cm×20cmのアクリル板で作成した立方体状の試験箱の天井部分に、蛍光灯および空気撹拌用プロペラを設置(セット)して、床部分に、薄膜が形成されたガラス板を設置した。
【0149】
次いで、65mg/L濃度のアセトアルデヒドが気散(含有)された空気を、この試験箱に導入した。そして、試験箱内の空気と、アルデヒド含有空気とを十分に置換した。
【0150】
次いで、蛍光灯を照射するとともに、試験箱内の空気を経時的にサンプリングして、そのアセトアルデヒドの濃度を測定した。その結果を表2および図6に示す。
【0151】
(実施方法8)
(1)薄膜の形成
(1)薄膜の形成において、27℃の12時間乾燥後に、さらに、110℃で12時間、加熱処理して、その後、550℃で1時間、加熱処理した以外は、実施方法1と同様にして薄膜を形成した。
(2)光照射
20cm×20cm×20cmのアクリル板で作成した立方体状の試験箱の天井部分に、ブラックライトおよび空気撹拌用プロペラを設置(セット)して、床部分に、薄膜が形成されたガラス板を設置した。
【0152】
次いで、65mg/L濃度のアセトアルデヒドが気散(含有)された空気を、この試験箱に導入した。そして、試験箱内の空気と、アルデヒド含有空気とを十分に置換した。
【0153】
次いで、ブラックライトを照射するとともに、試験箱内の空気を経時的にサンプリングして、そのアセトアルデヒドの濃度を測定した。その結果を表2および図6に示す。
【0154】
なお、実施方法5〜8、比較方法3および4において、アセトアルデヒド含有空気により置換された試験箱内のアセトアルデヒド濃度をガスクロマトグラフィー分析すると62mg/Lであることが確認された。
【0155】
【表2】

表2および図6から分かるように、本発明に係る実施方法5〜8では、有機物で、かつ、シックハウス症候群の発生原因物質であって、VOCとしてのアセトアルデヒドを、比較方法3および4に比べて、確実に除去できた。
【0156】
[実施例3]
(NOxの除去方法)
(実施方法9)
(1)薄膜の形成
実施方法1における(1)薄膜の形成と同様にして、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜を形成した。
(2)光照射
容量4リットルの容器に、薄膜が形成されたガラス板を入れた。次いで、一酸化窒素(NO)標準ガスを注入して、20.0ppmの濃度になるように調整した。次いで、ブラックライト(光強度が1mW/cmであり、352nmに最大波長を有する紫外線を照射する発光源)から紫外線を所定時間照射して、照射後の容器のNOガスの濃度を、NOx検知管(ガステック社製)で経時的に測定した。その結果を表3に示す。
【0157】
(比較方法5)
比較方法1における(1)薄膜の形成と同様にして、酸化チタン光触媒粉末の薄膜を形成した。続いて、実施方法9と同様にして、NOガスの濃度を経時的に測定した。その結果を表3に示す。
【0158】
【表3】

表3にから分かるように、本発明に係る実施方法9では、比較方法4に比べて、NOガスを確実に除去できた。
【0159】
[実施例4]
(接触角の測定)
<防汚処理方法>
防汚処理方法の評価を、一定かつ同一条件で、比較試験および反復試験を行うことは、不可能である。基材表面への有機物の付着状態、その分解状態、温度、湿度などの条件で異なった数値を示すことになるためである。そこで、防汚処理方法の評価の一つである、水との接触角を測定して一つの指標とした。
【0160】
(実施方法10)
(1)薄膜の形成
実施方法1における(1)薄膜の形成と同様にして、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜を形成した。
(2)光照射
この薄膜が形成されたガラス板を、蛍光灯(20W昼光色)で、6時間、照射した。
(3)接触角測定
照射直後のガラス板と水との接触角を経時的に行った。
【0161】
すなわち、降雨時の条件を想定して、20℃の冷却板の上にガラス板を置き、これらを湿度90%のボックス内にいれて、ガラス板と水との接触角の測定を経時的に行った。次いで、12時間後、冷却板を除去して、ボックス内の空気を乾燥空気に置換して、その後、ガラス板を、65℃の温風で加温して、ガラス板と水との接触角を測定した。
【0162】
なお、ガラス板と水との接触角は、接触角測定器(形式:G−I−1000、低角度検出限界3°、ERMA社製)で測定した。これらの結果を表4および図7に示す。
【0163】
(比較方法6)
(1)薄膜の形成
(1)薄膜の形成におけるチタン−ケイ素化学結合複合酸化物に代えて、酸化チタン光触媒粉末(微粒子状、ST−1、石原産業社製)を用いた以外は、実施方法1と同様にして薄膜を形成した。
(2)光照射
この薄膜が形成されたガラス板を、蛍光灯で、6時間、照射した。
(3)接触角測定
実施方法10と同様にして、ガラス板と水との接触角を測定した。その結果を表4および図7に示す。
【0164】
(実施方法11)
(1)薄膜の形成
実施方法1における(1)薄膜の形成と同様にして、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜を形成した。
(2)光照射
この薄膜が形成されたガラス板を、ブラックライト(光強度が8mW/cmであり、352nmに最大波長を有する紫外線を照射する発光源)で、6時間、照射した。
(3)接触角測定
実施方法10と同様にして、ガラス板と水との接触角を測定した。その結果を表4および図7に示す。
【0165】
(比較方法7)
(1)薄膜の形成
(1)薄膜の形成におけるチタン−ケイ素化学結合複合酸化物に代えて、酸化チタン光触媒粉末(微粒子状、ST−1、石原産業社製)を用いた以外は、実施方法1と同様にして薄膜を形成した。
(2)光照射
この薄膜が形成されたガラス板を、ブラックライトで、6時間、照射した。
(3)接触角測定
実施方法10と同様にして、ガラス板と水との接触角を測定した。その結果を表4および図7に示す。
【0166】
(実施方法12)
(1)薄膜の形成
(1)薄膜の形成において、27℃の12時間乾燥後に、さらに、110℃で12時間、加熱処理して、その後、550℃で1時間、加熱処理した以外は、実施方法1と同様にして薄膜を形成した。
(2)光照射
この薄膜が形成されたガラス板を、蛍光灯で、6時間、照射した。
(3)接触角測定
実施方法10と同様にして、ガラス板と水との接触角を測定した。その結果を表4および図7に示す。
【0167】
(実施方法13)
(1)薄膜の形成
27℃の12時間乾燥後に、さらに、110℃で12時間、加熱処理して、その後、550℃で1時間、加熱処理した以外は、実施方法1と同様にして薄膜を形成した。
(2)光照射
この薄膜が形成されたガラス板を、蛍光灯で、6時間、照射した。
(3)接触角測定
実施方法10と同様にして、ガラス板と水との接触角を測定した。その結果を表4および図7に示す。
【0168】
(比較方法8)
(1)薄膜の形成
(1)実施方法1において、(1)薄膜の作成におけるチタン−ケイ素化学結合複合酸化物に代えて、シリカ(酸化ケイ素)粉末(平均粒子径34nm、型番UFP−80、電気化学工業社製)を用いた以外は、実施方法1と同様にして薄膜を作成した。
(2)光照射
この薄膜が形成されたガラス板を、蛍光灯およびブラックライトで、6時間、照射した。
(3)接触角測定
実施方法10と同様にして、ガラス板と水との接触角を測定した。その結果を表4および図7に示す。
【0169】
【表4】

表4および図7から分かるように、本発明に係る実施方法10〜13では、比較方法6〜8に比べて、接触角が低いことが分かる。このことから、本発明に係る実施方法10〜13では、基材表面に超親水性を付与して、基材表面を確実に防汚処理できることが分かった。
【0170】
[実施例5]
(防曇処理方法)
(実施方法14)
(1)薄膜の形成
実施方法1における(1)薄膜の形成と同様にして、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜を形成した。
(2)光照射
この薄膜が形成されたガラス板を、蛍光灯(20W昼光色)で、6時間、照射した。
(3)湯気との接触
10℃の低温度実験室に、照射直後のガラス板を設置した。次いで、水平方向において低温度実験室と隣接するように設置され、60℃の水(温かい水)が入ったバスから、その湯気を、低速で、低温度実験室内に誘導した。これにより、湯気をガラス板に接触させた。
【0171】
次いで、ガラス板の曇りの状態を観測した。その結果を表5に示す。
【0172】
(比較方法9)
(1)薄膜の形成
(1)薄膜の作成におけるチタン−ケイ素化学結合複合酸化物に代えて、酸化チタン光触媒粉末(微粒子状、ST−1、石原産業社製)を用いた以外は、実施方法1と同様にして薄膜を形成した。
(2)光照射
この薄膜が形成されたガラス板を、蛍光灯で、6時間、照射した。
(3)湯気との接触
実施方法14と同様にして、湯気をガラス板に接触させて、ガラス板の曇りの状態を観測した。その結果を表5に示す。
【0173】
(実施方法15)
(1)薄膜の形成
実施方法1における(1)薄膜の形成と同様にして、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜を形成した。
(2)光照射
この薄膜が形成されたガラス板を、ブラックライト(光強度が8mW/cmであり、352nmに最大波長を有する紫外線を照射する発光源)で、6時間、照射した。
(3)湯気との接触
実施方法14と同様にして、湯気をガラス板に接触させて、ガラス板の曇りの状態を観測した。その結果を表5に示す。
【0174】
(比較方法10)
(1)薄膜の形成
(1)薄膜の形成におけるチタン−ケイ素化学結合複合酸化物に代えて、酸化チタン光触媒粉末(微粒子状、ST−1、石原産業社製)を用いた以外は、実施方法1と同様にして薄膜を形成した。
(2)光照射
この薄膜が形成されたガラス板を、ブラックライトで、6時間、照射した。
(3)湯気との接触
実施方法14と同様にして、湯気をガラス板に接触させて、ガラス板の曇りの状態を観測した。その結果を表5に示す。
【0175】
(実施方法16)
(1)薄膜の形成
(1)薄膜の形成において、27℃の12時間乾燥後に、さらに、110℃で12時間、加熱処理して、その後、550℃で1時間、加熱処理した以外は、実施方法1と同様にして薄膜を形成した。
(2)光照射
この薄膜が形成されたガラス板を、蛍光灯で、6時間、照射した。
(3)湯気との接触
実施方法14と同様にして、湯気をガラス板に接触させて、ガラス板の曇りの状態を観測した。その結果を表5に示す。
【0176】
(実施方法17)
(1)薄膜の形成
(1)薄膜の形成において、27℃の12時間乾燥後に、さらに、110℃で12時間、加熱処理して、その後、550℃で1時間、加熱処理した以外は、実施方法1と同様にして薄膜を形成した。
(2)光照射
この薄膜が形成されたガラス板を、ブラックライトで、6時間、照射した。
(3)湯気との接触
実施方法14と同様にして、湯気をガラス板に接触させて、ガラス板の曇りの状態を観測した。その結果を表5に示す。
【0177】
【表5】

なお、表5における曇の状態を、以下の尺度で観測した。
【0178】
強度5:完全な曇で、全くガラス板を見ることができない。
【0179】
強度4:全面の曇あるものの、かすかにガラス板の表面が見える部分がある。
【0180】
強度3:全面に曇があるが、ガラス板の表面の1/3程度を確認できる。
【0181】
強度2:弱い曇があるが、ガラス板の全面を確認できる。
【0182】
強度1:薄い曇が部分的にある。
【0183】
強度0:全く曇が認められない。
【0184】
表5から分かるように、本発明に係る実施方法14〜17では、比較方法9および10に比べて、基材表面に超親水性を付与して、基材表面を確実に防曇処理できた。
【0185】
[実施例6]
(実施方法18)
(防露処理方法)
(1)薄膜の形成
製造例1におけるチタン−ケイ素化学結合複合酸化物溶液を、チタン元素の重量換算濃度が0.425%となり、かつ、ケイ素の重量換算濃度が0.425%となるように、水に混合させ、これを超音波の下で撹拌して分散させることにより、分散液を調製した。別途、幅5cm×長さ10cmのアルカリガラス板(ソーダガラス板、透明)を、調製した分散液にディッピングして、プレパラートの表面に均一な薄膜(被膜)を形成(固定化)した。
【0186】
次いで、これを27℃で12時間乾燥することにより、アルカリガラス板の表面に、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜を形成した。
(2)光照射
この薄膜が形成されたアルカリガラス板を、ブラックライト(光強度が8mW/cmであり、352nmに最大波長を有する紫外線を照射する発光源)で、アルカリガラス板との距離を20cmとして、6時間、照射した。
(3)水の噴霧
垂直に配置したアルカリガラス板に、水を霧吹きで噴霧した。この噴霧により、アルカリガラス板に付着する微細な水粒子を露と想定して、アルカリガラス板の状態を目視により観察して、防露処理を評価した。その結果を表6に示す。
【0187】
(比較方法11)
(1)薄膜の作成におけるチタン−ケイ素化学結合複合酸化物に代えて、酸化チタン光触媒粉末(微粒子状、ST−1、石原産業社製)を用いた以外は、実施方法18と同様にして薄膜を形成し、続いて、光照射して、次いで、水を噴霧して、アルカリガラス板の状態を観察して、防露処理を評価した。その結果を表6に示す。
【0188】
【表6】

表6から分かるように、本発明に係る実施方法18では、比較方法11に比べて、アルカリガラス板の表面に超親水性を付与して、アルカリガラス板の表面を確実に防露処理できた。
【0189】
[実施例7]
(防露処理方法)
(実施方法19)
(1)薄膜の形成
製造例1におけるチタン−ケイ素化学結合複合酸化物溶液を、チタン元素の重量換算濃度が0.425%となり、かつ、ケイ素の重量換算濃度が0.425%となるように、水に混合させ、これを超音波の下で撹拌して分散させることにより、分散液を調製した。別途、幅5cm×長さ10cmのアルカリガラス板(透明)を、調製した分散液にディッピングして、プレパラートの表面に均一な薄膜(被膜)を形成(固定化)した。
【0190】
次いで、これを27℃で12時間乾燥することにより、アルカリガラス板の表面に、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜を形成した。
(2)光照射
この薄膜が形成されたアルカリガラス板を、ブラックライト(光強度が8mW/cmであり、352nmに最大波長を有する紫外線を照射する発光源)で、アルカリガラス板との距離を20cmとして、6時間、照射した。
(3)水滴の付着
水平に配置したアルカリガラス板に、水をピペットで、一様に垂ら(滴下)して、比較的大きな水滴をアルカリガラス板に付着させた。次いで、アルカリガラス板の状態を目視により観察して、防水滴処理を評価した。その結果を表7に示す。
【0191】
(比較方法12)
(1)薄膜の作成におけるチタン−ケイ素化学結合複合酸化物に代えて、酸化チタン光触媒粉末(微粒子状、ST−1、石原産業社製)を用いた以外は、実施方法18と同様にして薄膜を形成し、続いて、光照射して、次いで、水をピペットで滴下して、アルカリガラス板の状態を観察して、防水滴処理を評価した。その結果を表7に示す。
【0192】
【表7】

表7から分かるように、本発明に係る実施方法19では、比較方法12に比べて、アルカリガラス板の表面に超親水性を付与して、アルカリガラス板の表面を確実に防水滴処理できた。
【0193】
[実施例8]
(殺菌処理方法)
<大腸菌の殺菌処理>
(実施方法20)
(1)薄膜の形成
製造例1におけるチタン−ケイ素化学結合複合酸化物溶液を、チタン元素の重量換算濃度が0.425%となり、かつ、ケイ素の重量換算濃度が0.425%となるように、水に混合させ、これを超音波の下で撹拌して分散させることにより、分散液を調製した。別途、2cm×8cmのプレパラートを、まずアセトンで脱脂処理洗浄を行い、このプレパラートを乾燥した後、調製した分散液にディッピングして、プレパラートの表面に均一な薄膜(被膜)を形成(固定化)した。
【0194】
次いで、これを27℃で12時間乾燥することにより、プレパラートの表面に、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜を形成した。なお、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物は、プレパラートの下面にも形成されている。
(2)光照射(殺菌)
試験培地であるL−broth5mlに、大腸菌を、菌濃度が2×10cells/mlとなるように、植菌した。その後、蛍光灯(15W白色)を、試験培地から20cmの高さで照射した。次いで、この状態でこれを培養した。培養は、37℃で、シャーレのカバーを設けず、落下菌の混入を防ぐために、クリーンルームで培養した。
【0195】
そして、この培養の開始から、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物が固定化されたプレパラートを試験培地に浸漬し、その後すぐに、プレパラートを試験培地から引き上げて、空中で10秒間保持し、再度、プレパラートを試験培地に浸漬するという操作を繰り返した。
【0196】
そして、培養の開始から、30分後、60分後および120分後の菌数を測定した。また、コントロールについても、同様に、上記と同様にして、その菌数を測定した。その結果を表8に示す。
【0197】
また、別途、30分後における試験培地を乾燥して、大腸菌を電子顕微鏡にて観察した。その画像処理図を図8に示す。
【0198】
(比較方法13)
(1)薄膜の形成
チタン−ケイ素化学結合複合酸化物に代えて、酸化チタン光触媒粉末(微粒子状、ST−1、石原産業社製)を用いた以外は、実施方法1と同様にして、プレパラートの表面に、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物からなる薄膜を形成(固定化)した。
(2)光照射(殺菌)
試験培地であるL−broth5mlに、大腸菌を、菌濃度が2×10cells/mlとなるように、植菌した。その後、蛍光灯(15W白色)を、試験培地から20cmの高さで照射した。次いで、この状態で、これを培養した。培養は、37℃で、シャーレのカバーを設けず、クリーンルームで培養した。
【0199】
そして、この培養の開始から、酸化チタン光触媒が固定化されたプレパラートを、試験培地に浸漬して、その後すぐに、プレパラートを試験培地から引き上げて、空中で10秒間保持し、再度、プレパラートを試験培地に浸漬するという操作を繰り返した。
【0200】
そして、培養および浸積の開始から、30分後、60分後および120分後の大腸菌の菌数を測定した。その結果を表8に示す。
【0201】
(実施方法21)
(1)薄膜の形成
(1)薄膜の形成において、27℃の12時間乾燥後に、さらに、110℃で12時間、加熱処理して、その後、550℃で1時間、加熱処理した以外は、実施方法18と同様にして薄膜を形成した。続いて、実施方法20と同様にして、光照射した。その結果を表8に示す。
【0202】
【表8】

<黄色ブドウ球菌の殺菌処理>
(実施方法22)
実施方法20における(2)光照射において、大腸菌に代えて黄色ブドウ球菌を用いた以外は、実施方法20と同様にして、光照射した。その結果を表9に示す。
【0203】
また、別途、30分後における試験培地を乾燥して、黄色ブドウ球菌を電子顕微鏡にて観察した。その画像処理図を図9に示す。
【0204】
(比較方法14)
比較方法13における(2)光照射において、大腸菌に代えて黄色ブドウ球菌を用いた以外は、比較方法13と同様にして、光照射した。その結果を表9に示す。
【0205】
(実施方法23)
実施方法21における(2)光照射において、大腸菌に代えて黄色ブドウ球菌を用いた以外は、実施方法21と同様にして、光照射した。その結果を表9に示す。
【0206】
【表9】

なお、この実施例8の殺菌処理方法では、実施例1〜7で用いた発光源のうち、蛍光灯のみを用いた。ブラックライトを用いなかった理由は、ブラックライトから照射される紫外線の波長は、大腸菌や黄色ブドウ球菌を死滅させる波長と同一であるからである。
【0207】
また、実施例8における試験培地は、ペプチドまたは蛋白質を含有していない。ペプチドまたは蛋白質を含有する試験培地を用いなかった理由は、ペプチドおよび蛋白質が、殺菌作用を発現させるための紫外線を吸収するからである。
【0208】
図8では、大腸菌の細胞が破壊されていることが確認できる。また、図9では、黄色ブドウ球菌の細胞が破壊されていることが確認できる。
【0209】
そして、表8および表9から分かるように、本発明に係る実施方法20〜23では、比較方法13および14と比べて、確実に殺菌できた。
[実施例9]
(アルカリ成分の溶出防止)
(実施方法24)
実施方法1の(1)薄膜の形成において、27℃の12時間乾燥後に、さらに、450℃で2時間、加熱処理した以外は、実施方法1と同様にして、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜を形成した。続いて、実施方法8と同様にして、光照射して、アセトアルデヒドの濃度を経時的に測定して、ナトリウムイオンの溶出防止を評価した。その結果を表10に示す。
【0210】
(比較方法15)
(1)薄膜の形成において、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物に代えて、酸化チタン光触媒粉末(微粒子状、ST−1、石原産業社製)を用い、27℃の12時間乾燥後に、さらに、450℃で2時間、加熱処理した以外は、比較方法1と同様にして薄膜を形成した。続いて、実施方法8と同様にして、光照射して、アセトアルデヒドの濃度を経時的に測定して、ナトリウムイオンの溶出防止を評価した。その結果を表10に示す。
【0211】
【表10】

表10から分かるように、本発明に係る実施方法24は、比較方法15に比べて、ソーダガラスからのナトリウムイオンの溶出を防止して、光触媒機能を維持できることが分かる。
[実施例10]
(有機物分解方法、アルデヒドの除去方法、NOxの除去方法、防汚処理方法、防曇処理方法、防露処理方法、防水滴処理方法、殺菌処理方法、アルカリ成分の溶出防止)
チタン元素とシリカ元素とのモル比が、チタン元素の重量換算濃度が0.56%となり、かつ、ケイ素の重量換算濃度が0.28%となるようにした(すなわち、Ti/Siを、重量部換算で、1/0.5とした。)以外は、実施例1〜9と同様にして、処理して、各チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の各分解方法を評価した。その結果、実施例1〜9と同等の分解作用が確認された。
[実施例11]
(有機物分解方法、アルデヒドの除去方法、NOxの除去方法、防汚処理方法、防曇処理方法、防露処理方法、防水滴処理方法、殺菌処理方法、アルカリ成分の溶出防止)
チタン元素とシリカ元素とのモル比が、チタン元素の重量換算濃度が0.085%となり、かつ、ケイ素の重量換算濃度が0.76%となるようにした(すなわち、Ti/Siを、重量部換算で、1/9とした。)以外は、実施例1〜9と同様にして、処理して、各チタン−ケイ素化学結合複合酸化物の各分解方法を評価した。その結果、実施例1〜9とよりやや低い程度の分解作用が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0212】
【図1】製造例1〜3により得られたチタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜の、赤外線分光光度法による赤外線吸収スペクトルを示す。
【図2】製造例8により得られたチタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜の、赤外線分光光度法による赤外線吸収スペクトルを示す。
【図3】製造例4〜7により得られたチタン−ケイ素化学結合複合酸化物の薄膜の、X線回析分析法(XRD)のスペクトルを示す。
【図4】エネルギー分散型蛍光X線分析(EDX)のスペクトルを示す。
【図5】メチレンブルーの吸光度のグラフである。
【図6】アセトアルデヒドの濃度のグラフである。
【図7】ガラス板と水との接触角のグラフである。
【図8】30分間の光照射後における大腸菌の電子顕微鏡写真の画像処理図を示す。
【図9】30分間の光照射後における黄色ブドウ球菌の電子顕微鏡写真の画像処理図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線分光光度法による赤外線吸収スペクトルにおいて650〜990cm−1の吸収ピークを有し、チタン、ケイ素および酸素を含有し、これらを化学結合しているチタン−ケイ素化学結合複合酸化物により、対象物を分解することを特徴とする、分解方法。
【請求項2】
前記対象物が有機物であることを特徴とする、請求項1に記載の分解方法。
【請求項3】
前記対象物を分解して、炭酸ガスと水とを生成することを特徴とする、請求項1または2に記載の分解方法。
【請求項4】
前記対象物がNOxであって、
前記NOxを分解して、硝酸、硝酸塩または窒素と水とを生成し、NOxを除去するNOx除去方法に用いられることを特徴とする、請求項1に記載の分解方法。
【請求項5】
前記対象物が、臭気成分であって、
前記臭気成分を分解して除去する脱臭方法に用いられることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の分解方法。
【請求項6】
前記対象物が、シックハウス症候群の発生原因物質であって、
前記発生原因物質を除去する除去方法に用いられることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の分解方法。
【請求項7】
前記対象物が、汚染物質であって、
基材表面を、前記汚染物質から防汚する防汚処理方法に用いられることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の分解方法。
【請求項8】
前記チタン−ケイ素化学結合複合酸化物において、少なくとも、チタン元素に−OH基が結合する構造、および/または、ケイ素元素に−OH基が結合する構造を有する部分があり、
前記対象物が汚染物質であって、
前記汚染物質が分解されるとともに、雨または水の噴霧によって、前記汚染物質が基材表面から除去されるように、前記基材表面を防汚処理する方法に用いられることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の分解方法。
【請求項9】
前記チタン−ケイ素化学結合複合酸化物において、少なくとも、チタン元素に−OH基が結合する構造、および/または、ケイ素元素に−OH基が結合する構造を有する部分があり、
前記対象物が、汚染物質および水の塊りであって、
基材表面において水の塊りが形成されないように、水の塊りの大きさに対応して、前記基材表面を防水滴処理、防露処理または防曇処理する処理方法に用いられることを特徴とする、請求項1に記載の分解方法。
【請求項10】
前記対象物が、有害微生物であって、
前記有害微生物を防除して分解する有害微生物防除方法に用いられることを特徴とする、請求項1に記載の分解方法。
【請求項11】
前記チタン−ケイ素化学結合複合酸化物が、40〜1500℃で加熱処理されていることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の分解方法。
【請求項12】
前記チタン−ケイ素化学結合複合酸化物が、可視光線および紫外線の吸収により光触媒機能を発揮することを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の分解方法。
【請求項13】
アモルファスチタニアと酸化剤溶液とを混合して、その後、有機シリケートをさらに配合した後、放置してゲル体を生成する工程と、
前記ゲル体に酸化剤溶液を添加して、チタン−ケイ素化学結合複合酸化物溶液を得る工程と
を含むチタン−ケイ素化学結合複合酸化物の製造方法により、前記チタン−ケイ素化学結合複合酸化物が製造されていることを特徴とする、請求項1〜12のいずれかに記載の分解方法。
【請求項14】
前記ゲル体を生成する工程において、チタン元素とシリカ元素との配合割合が、チタン元素/シリカ元素の割合として、99重量部/1重量部〜5重量部/95重量部であることを特徴とする、請求項13に記載の分解方法。
【請求項15】
前記チタン−ケイ素化学結合複合酸化物溶液を、基材に塗布した後、乾燥、焼成または焼結することを特徴とする、請求項13または14に記載の分解方法。
【請求項16】
前記基材が、アルカリガラス、セラミックス、陶器、磁器、石材、コンクリート、モルタル、金属または漆喰であることを特徴とする、請求項11〜15のいずれかに記載の分解方法。
【請求項17】
前記チタン−ケイ素化学結合複合酸化物溶液を、基材に塗布した後、乾燥することを特徴とする、請求項13または14に記載の分解方法。
【請求項18】
前記基材が、プラスチック、紙、木また布であることを特徴とする、請求項13、14および17のいずれかに記載の分解方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−212841(P2008−212841A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−54325(P2007−54325)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【出願人】(503073455)
【Fターム(参考)】