分解能の向上したルミネセンス顕微鏡
切替信号によって活性化可能なマーキング分子でマーキングされた試料を、空間的に高分解能でルミネセンス顕微鏡検査する方法であって、マーキング分子が活性化によって初めて、特定のルミネセンス放射を放出させるために励起可能となる方法が記載される。この方法は、以下の工程、すなわちa)試料中に存在するマーキング分子のうちある部分量だけが活性化されるように、試料に切替信号を導入する工程であって、試料中に、ルミネセンス放射の検出の、回折制限された最大分解能によって規定される容積内に、切替信号によって活性化されたちょうど1つの分子が存在するような部分領域が生じる工程、b)活性化された分子を、ルミネセンス放射を放出させるために励起する工程、c)ルミネセンス放射を回折制限された分解能で検出する工程、およびd)工程c)で記録されたルミネセンス放射から像データを生成する工程であって、ルミネセンス放射の幾何的位置を提供するマーキング分子が、回折限界よりも高い位置分解能で示される工程を含み、e)工程c)におけるルミネセンス放射の検出工程、または工程d)における像データの生成工程が、位置分解能を回折制限された分解能よりも鮮鋭にするために、記録されたルミネセンス放射を、より高い強度を優先して非線形に増幅する工程を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切替信号によって活性化可能なマーキング分子でマーキングされた試料を、空間的に高分解能でルミネセンス顕微鏡検査するための方法に関するものであり、マーキング分子は活性化によって初めて、特定のルミネセンス放射を放出させるために励起可能となる。この方法は、以下の工程を含む。
a)試料中に存在するマーキング分子のうちある部分量だけが活性化されるように、試料に切替信号を導入する工程であって、試料中に、活性化された分子がこれにすぐ隣接する活性化されたマーキング分子に対して、ルミネセンス放射の検出の光学的分解能以上の間隔を有する部分領域が生じる工程、
b)活性化された分子を、ルミネセンス放射を放出させるために励起する工程、
c)ルミネセンス放射を制限された分解能で検出する工程、および
d)工程c)で記録されたルミネセンス放射から像データを生成する工程であって、ルミネセンス放射の幾何的位置を提供するマーキング分子が、分解能限界より高い位置分解能で示される工程。
【0002】
本発明はさらに、切替信号によって活性化可能なマーキング分子でマーキングされた試料を、空間的に高分解能な蛍光顕微鏡検査するための装置に関するものであり、マーキング分子は活性化によって初めて、特定のルミネセンス放射を放出させるために励起可能となる。この装置は、試料中に存在するマーキング分子のうちある部分量だけが活性化されるように、試料に切替信号を導入する手段であって、試料中に、活性化された分子がこれにすぐ隣接する活性化されたマーキング分子に対して、ルミネセンス放射の検出の光学的分解能以上の間隔を有する部分領域が生じる手段と、活性化された分子を、ルミネセンス放射を放出させるために励起する手段と、ルミネセンス放射を制限された分解能で記録し、位置分解された検出信号を出力する検出機構と、ルミネセンス放射の幾何的位置を提供するマーキング分子を、分解能限界よりも高い位置分解能で示す像データを検出信号から生成する像データ生成機構とを有する。
【背景技術】
【0003】
生物試料を検査するための光学顕微鏡の古典的適用分野は、ルミネセンス顕微鏡である。ここでは特定の色素(いわゆる燐光体または蛍光体)が、試料、例えば細胞部分を特別にマーキングするために使用される。試料は、すでに述べたように励起放射により照明され、これによって励起されたルミネセンス光が適切な検出器によって検出される。通例そのために光学顕微鏡には、ダイクロイック・ビームスプリッタがブロックフィルタと組み合わせて設けられており、これらは蛍光放射を励起放射から分離し、別個に観察することを可能にする。この措置によって、異なって着色された個別の細胞部分を光学顕微鏡で表示することができる。もちろん試料の複数の部分を、試料の様々な構造に特異的に堆積する複数の異なる色素により同時に着色することもできる。この方法を、多重ルミネセンスと称する。それ自体が発光する試料、すなわち色素添加なしで発光する試料を測定することもできる。
【0004】
ここでルミネセンスは、一般的には燐光および蛍光に対する上位概念として理解され、したがって両方の過程を含む。
さらに、試料検査のために、レーザ走査顕微鏡(LSMと略称もされる)を使用することも知られている。このレーザ走査顕微鏡は、3次元照明された像から、共焦点検出機構(この場合、共焦点LSMと呼ぶ)により、または非線形試料相互作用(いわゆる多光子顕微鏡)により対物レンズの焦点面にある平面だけを結像する。光学的切片が得られ、複数の光学的切片を試料の様々な深さで記録することにより、続いて適切なデータ処理装置を用いて、様々な光学的切片から統合された試料の3次元像を生成することができる。したがってレーザ走査顕微鏡は、厚い試料の検査に適する。
【0005】
もちろんルミネセンス顕微鏡とレーザ走査顕微鏡を組み合わせて使用することもでき、この場合はルミネセンス発光する試料がLSMによって深さの種々異なる平面に結像される。
【0006】
基本的に光学顕微鏡の光学的分解能は、またLSMの光学的分解能も物理的法則により回折制限されている。この限界内で最適の分解能を達成するために、特別の照明構造、例えば4Pi構成(4Pi−Anordnung)または定在波場を有する構成が公知である。これによりとりわけ軸方向の分解能が、古典的なLSMに比べて格段に改善される。非線形の間引き法によって、分解能を、回折制限された共焦点LSMに比べ最大10倍に向上させることができる。このような方法は、例えば特許文献1に記載されている。間引き法に対しては種々のアプローチが公知であり、例えば特許文献2、特許文献3または特許文献4に記載されている。
【0007】
分解能を向上させるための別の方法が、特許文献5に記載されている。そこでは構造化された照明によって、非線形の過程が利用される。ここで、非線形性として前記刊行物は、蛍光の飽和を挙げている。この方法は、構造化された照明によって、光学システムの伝達関数に対する対象空間スペクトルの偏移を実現することを要求する。具体的には、スペクトル偏移とは、対象物空間周波数V0が空間周波数V0−Vmにおいて伝達されることを意味し、Vmは構造化された照明の周波数である。システムにより伝達可能な最大空間周波数が与えられると、これにより、偏移周波数Vmだけ伝達関数の最大周波数より高い対象物の空間周波数の転移が可能になる。このアプローチは、像生成のための再構築アルゴリズムと、1つの像に対して複数の記録の使用を必要とする。この方法においても、必要とされる構造化された照明が試料ボリューム全体を通過するので、試料が検知焦点の外の領域で不要に放射の負荷を受けることが欠点とみなされる。その他、この方法は現在の所、厚い試料には使用することができない。なぜなら、焦点外で励起された蛍光がバックグランド信号としてともに検知器に達し、したがって検出される放射のダイナミックレンジを劇的に低下させるからである。
【0008】
最後に、レーザ走査顕微鏡とは無関係に、回折限界を越える分解能を達成する方法も、特許文献6および特許文献7から公知である。このPALM(Photo Activated Light Microscopy:光活性化光学顕微鏡)と略称される方法は、光学的活性化信号によって活性化することのできるマーキング物質を使用する。このことにより、活性化状態でだけ、マーキング物質は、特定の蛍光放射を放出するために励起放射によって励起させることができる。マーキング物質の非活性化分子は、励起放射の照射後も蛍光放射を放出しないか、または少なくとも目立った蛍光放射を放出しない。PALM法では、活性化信号によって活性化されたマーキング分子が、隣接する活性化分子から、顕微鏡の光学的分解能で測定して分離されるだけ、または後から分離できるだけ離隔されるように活性化信号が印加される。したがって活性化分子は、少なくとも十分に分離される。この分離された分子について、分解能制限に起因する放射分布の中心が求められ、そこから計算で分子の位置が、光学的結像により本来可能なよりも高精度で決定される。回折分布の重心を計算で決定することにより分解能を向上させることを、英語の専門書では「スーパーレゾリューション」とも称している。これには、試料中で活性化マーキング分子の少なくともいくつかが、ルミネセンス放射が検出される際の光学的分解能によって区別可能であること、すなわち分離されていることが必要である。その場合、このような分子について、向上した分解能で位置を指示することができる。
【0009】
個々のマーキング分子を分離するために、PALM法は、マーキング分子が活性化放射の光子の受光後に活性化される確率が、すべての分子について等しいという事実を利用する。切替放射の強度、すなわち試料の単位面積に当たる光子の数を介して、試料のある面積範囲に存在するマーキング分子が活性化する確率を、光学的分解能の範囲内で区別可能なマーキング分子だけが蛍光放射を放出する十分な領域が存在するように、小さくすることができる。切替放射の強度、すなわち光子密度を適切に選択することにより、可能な限り光学的分解能に関して分離されているマーキング分子だけが活性化され、続いて蛍光放射を発することが達成される。次にこの分離された分子について、計算で、回折に起因する強度分布の重心が、すなわちマーキング分子の位置が、より高い分解能で求められる。試料全体を結像するために、活性化放射の取り込みと、その後の励起および蛍光放射結像により、できるだけすべてのマーキング分子が一度は部分量に含まれ、結像の分解能の範囲内で分離されるまで、部分量のマーキング分子の分離が繰り返される。
【0010】
その際、PALM法は、活性化のためにも、励起のためにも高い位置分解能が不要であるという利点を有する。その代わり、活性化も励起も広視野照明で行うことができる。
結局の所、マーキング分子は、活性化放射の強度を適切に選択することによって統計的に部分量で活性化される。したがって、すべてのマーキング分子の位置が、計算により、例えば回折限界を上回る分解能で決定できる、試料の全体像を生成するには、多数の個別像を評価しなければならない。個別像は最高で10000個になることがある。その結果、大きなデータ量が処理され、それに対応して測定に長時間かかる。全体像を記録するのにすでに数分が必要であり、これは実質的に使用するカメラの読み出し速度によって決まる。個別像における分子の位置決定は、コストのかかる計算手続によって行われる。これは例えば非特許文献1に記載されている。すべての個別像を処理し、高分解能の全体像、すなわちマーキング分子の位置が回折限界を上回る分解能で示される1つの像に統合するには、典型的には4時間かかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第5866911号明細書
【特許文献2】独国特許第4416558号明細書
【特許文献3】米国特許第6633432号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第10325460号明細書
【特許文献5】欧州特許第1157297号明細書
【特許文献6】国際公開第2006/127692号パンフレット
【特許文献7】独国特許第102006021317号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】エグナーら(Egner et al.)、Biophysical Journal、S.3285−3290、Band 93、2007年11月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の基礎とする課題は、高速の像獲得が達成されるように、PAL顕微鏡検査のための方法または装置を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この課題は、工程c)におけるルミネセンス放射の検出工程、または工程d)における像データの生成工程が、位置分解能を光学的分解能よりも鮮鋭にするために、より高い振幅を過大に考慮して、記録されたルミネセンス放射を非線形に増幅する工程を含む、冒頭に述べた形式の方法によって解決される。
【0015】
この課題はさらに、位置分解能を光学的分解能よりも鮮鋭にするために、より高い振幅を過大に考慮して、記録されたルミネセンス放射または検出信号を非線形に増幅する、非線形増幅器が設けられた、前記形式の装置によって解決される。
【0016】
ここで分解能の鮮鋭化とは、ルミネセンス発光するマーキング分子の位置が、光学的分解能によって可能なよりも低い不鮮鋭度で知られることであることと理解されたい。したがって点広がり関数はより小さな半値幅を有する。
【0017】
したがって本発明では、PALM原理において、分離された活性化マーキング分子の重心を、コストのかかる計算により決定するのではなく、適切な非線形増幅を使用する。この非線形増幅は、さらに説明するように、全体像獲得の様々な個所で使用することができる。非線形増幅では、記録されたルミネセンス放射におけるより高い強度を過大に優先する。この優先は、一方ではより高い強度をより低い強度よりも過大に増幅することにより、すなわち増幅率を強度の上昇とともに増大させることによって達成される。他方では、この優先は、より低い強度を過大に減衰させることによっても達成される。したがって本発明の意味で、非線形増幅という概念は、増幅すべき信号の振幅の上昇とともに増大する増幅も、増幅すべき信号の振幅の上昇とともに減少する非線形の減衰も意味する。
【0018】
本発明による簡略化は、確かに、活性化されたマーキング分子の分離に関する要件の増強を伴う。一方、これまで行われていた、強度分布を計算により分析するPALM法は、光学的に分離されなかったルミネセンス発光するマーキング分子を(例えばガウス分布からのルミネセンス強度の位置分布の偏差を使用して、複数のルミネセンス発光するマーキング分子を分布中で識別し、位置決定することによって)分離することもできるが、本発明のアプローチは、たとえ弱くても、ルミネセンス発光するマーキング分子の分離を必要とし、これにより非線形増幅が分解能の鮮鋭化をもたらすことができる。これが概念「鮮鋭化」の意味である。というのは、論理的には、すでに存在する分解能を、すなわちルミネセンス発光する2つの分子の区別を鮮鋭化できるだけだからである。この鮮鋭化のために、本発明は隣接するマーキング分子のルミネセンス強度の位置分布中に少なくとも1つの鞍点を、すなわち極小値を必要とする。本発明は、この要件が適切な切替信号によって比較的容易に満たされ、これにより像生成のかなりの簡略化および促進が得られるという新たな知識を基礎とする。
【0019】
したがって本発明によれば、活性化され、分離され、その蛍光放射によって検出された分子のコストのかかる位置決定が行われない。これにより個別像を、とりわけ高速に処理して1つの高分解能の像にすることができる。さらに個別像の記録中にすでに、したがって高分解能の全体像が追加の各個別像によって補完されるように、相応に処理し重ね合わせることもできる。
【0020】
特に有利な形態では、高分解能の像が検出器自体で直接生成され、したがって例えばもう1つの全体像をカメラから読み出せばよいだけである。これにより伝送すべきデータ量が低減し、したがって機器技術に対する要件が格段に低下する。
【0021】
さらに追加の各個別像によって全体像が徐々に補完されることによって、像生成中に、例えば試料が反復中に動いた場合に、ユーザーが測定経過に介入することができる。
非線形増幅によってより高い強度を優先することは、すでに述べたように様々な個所で行うことができる。例えば、光学的または光学/電子的経路上で検出器の前方で非線形増幅することができる。例えば、光放射を電気信号に変換し、これを非線形に増幅し、再び光放射に変換する、いわゆるインテンシファイアを使用することができる。あるいは、非線形増幅を検出器自体で行うこともできる。したがって検出器が放射を位置分解して記録し、その際に非線形に増幅する。最後に非線形増幅を、検出の終了後に検出信号に対して行うこともできる。したがって複数の個別像を重ね合わせて1つの全体像にする場合、各個別像が非線形に増幅される。
【0022】
より高い強度を優先して、非線形に増幅すると、位置分解能が光学的分解能よりも鮮鋭になる。分解能の鮮鋭度を調整するには、増幅特性曲線または減衰特性曲線が調整可能に構成されていると有利である。
【0023】
すでに述べたように非線形の増幅は非線形の減衰とすること、またはこれを含むことができる。減衰は本発明の意味では、増幅係数が1より小さい増幅である。減衰度は、信号の振幅の上昇とともに下降することができる。しかし減衰には、増幅と同じように不連続の経過も、例えば閾値より低い強度をすべて抑圧することももちろん可能である。
【0024】
本発明では、PALM法に従って、切替放射を適切にもたらすことにより、活性化されたマーキング分子が、ルミネセンス放射検出の光学的分解能よりも分離されていることが必要である。これは、光学的分解能が、活性化されたルミネセンス発光するマーキング分子の分離を可能にすることであると理解すべきである。分子間の信号強度が、分子の実際の位置で存在するピーク値より低くなるほど分子が離間している場合がそうである。したがって断層表示では、信号経過がすでに述べた鞍点を示さなければならない。
【0025】
特に好ましいのは、すでに述べたように、蛍光状態にあるマーキング分子のそれぞれ異なる部分量を、光学的に可能なよりも高い分解能で含む多数の個別像を生成することである。したがって本発明の方法の工程a)からe)は、試料の全体像を生成するために、好ましくは何度も実行される。各実行で工程e)の後に得られる像データは個別像であり、それが、先行する実行の個別像とそのつど重ね合わされて全体像にされる。そして最後の実行の後に全体像が完成される。
【0026】
使用されるマーキング分子に応じて、非活性化も可能または必要であり、これにより次の工程a)で、マーキング分子全体のうちのランダムに選択された部分量が活性化され、回折制限されて分解可能なボリューム内部で蛍光放射の検出を行うことのできる部分量が、試料中にできるだけ多数存在するようになる。したがって、蛍光放射を放出させるためにもはや励起可能でないようにマーキング分子を非活性化することができ、とりわけそのようなマーキング分子を使用することが好ましい。そうすると、さらなる各実行の前にマーキング分子全体が非活性化される。このようにすれば、次の実行に備えて、すべてのマーキング分子を、新たな活性化のために使用することができる。非活性化は、適切な非活性化放射の照射により達成することができる。しかし時間の経過により非活性化するマーキング分子も公知である。その場合、非活性化は、連続する実行間で適当な時間待機することを含み、これによりすべてのまたは十分な数のマーキング分子が非活性化される。
【0027】
複数の実行による上記の反復措置では、多数の個別像から全体像が生じる。特にユーザーが介入できるようにするために、実行中に全体像を中間像として表示することが好ましい。このような介入が行われる場合、適切な信号、例えばユーザーにより入力される中断信号を生成し、中間像を記憶し、実行を最初から新たに開始して新たな全体像を生成するのが適切である。
【0028】
したがって、追加で、活性化能力および/または励起能力または非活性化能力を、実行中に認識される構造に基づいて適合させるのが有利である。ここで、分離されない分子と分離された分子の比、または分離された分子もしくは分離されない分子の全体像における割合を最適化基準とすることができる。PALMコンセプトでは、すでに説明したマーキング分子の分離が、活性化放射の強度により調整される。その代わりにまたはそれに加えて、これを励起放射の強度、または場合により非活性化放射の強度により行うこともできる。そのつど個別像を供給する複数の実行における全体像の生成を、調整すべき強度を適合または最適化するために使用することができる。
【0029】
本発明の方法は、もちろん、厚い試料を結像するのに特に適する。したがって放射の入射方向に対して垂直に、すなわちz方向に重なり合った像を有する像スタックが記録される。本発明の方法はそのために特別の利点を提供する。なぜなら1つには、PALMの原理では、活性化放射により試料にわずかな負荷しか与えず、したがって退色作用が問題とならないからである。もう1つには、像スタックによる厚い試料の結像は、非常に多数の像を必要とするからである。本発明により達成される結像速度の上昇は、この適用例にとって決定的ではないにしても重要である。全体像当たり4時間かかるなら、全体像から像スタックを記録するに膨大な時間が必要になることは想像に難くない。
【0030】
前述のまたはこの後の説明で方法特徴に言及する場合、説明された装置は対応する制御機構を有しており、この制御機構は、装置の動作中に対応する方法特徴を実現する。すなわち適切に構成されている。装置について特定の動作特徴または動作特性を説明する場合、この装置は、場合により制御機構の制御下で、方法の対応する工程を同様に実施する。
【0031】
前記の特徴および後でさらに説明する特徴は、記載された組合せだけでなく、本発明の枠を逸脱することなく、別の組合せまたは単独でも使用可能であることが理解されよう。
以下に、本発明を例により、本発明の重要な特徴をやはり開示する添付図面に基づいてさらに詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】分解能の制限されたボリューム中の、活性化されたマーキング分子の概略図である。
【図2】位置分解能のある検出器上における、様々な活性化マーキング分子および非活性化マーキング分子の結像を示す概略図である。
【図3】PALM法における像生成のフローチャートである。
【図4】図2の検出器上におけるマーキング分子の結像を伴う、図3のフローチャートに関する説明のための図である。
【図5】様々な非線形増幅の場合において、蛍光発光するマーキング分子の検出の際に分解能制限のために生じる強度分布を示す断面図である。
【図6】分解能制限のために生じる強度分布の半値幅の関数を、非線形増幅の関数として示す図である。
【図7】線形増幅および様々な非線形増幅の場合における、同時に蛍光発光する隣接した2つのマーキング分子の、分解能制限のために生じる2つのエアリー・ディスクの側断面図である。
【図8】検出器で非線形に増幅する変形実施形態の概略図である。
【図9】検出後に非線形増幅を行う変形実施形態の図である。
【図10】図8または9の変形実施形態に従って非線形増幅を行うPAL顕微鏡法用の顕微鏡を示す図である。
【図11】非線形に光学的/電子的に増幅を行うインテンシファイアの概略図である。
【図12】図11のインテンシファイアを使用した、図10と類似の顕微鏡を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1は、蛍光発光のために励起されたマーキング分子1を概略的に示す。もちろん蛍光検出は多数の励起を必要とする。なぜなら各励起は1つの蛍光光子しか供給せず、放射検出は多数の光子の積分を必要とするからである。マーキング分子1から放出された蛍光放射は、顕微鏡中で物理原理に基づき制限された光学的分解能でのみ検出することができる。顕微鏡が光学的分解能の回折限界に達している場合でも、蛍光発光するマーキング分子1の光子は依然として回折に起因して散乱し、したがってエアリー・ディスク2内で検出される。したがって顕微鏡は基本的に、図1に概略的に黒円で示されたマーキング分子1の幾何的拡がりではなく、より大きな対象物を表示する。これは図1にエアリー・ディスク2により具体的に示されている。エアリー・ディスク2の大きさは、使用する顕微鏡装置の品質に依存しており、光学的結像の点広がり関数の半値幅によって規定される。もちろんこれは実際には、2次元の対象物ではなく、蛍光光子が達する回折ボリュームである。しかしこれは、図1の2次元表示ではディスクとして現れる。したがってここでのエアリー・ディスクという概念は、使用する光学系で達成できる最大分解能ボリュームにとってまったく一般的なものであるとみなされる。しかし使用する光学系は、回折限界で動作することが好ましいものの、必ずしもそうである必要はない。
【0034】
ここで、マーキング分子1をエアリー・ディスク2内でより正確に位置決定できるようにするために、上で一般的に説明したPALM法が使用される。この方法では個々のマーキング分子を光活性化する。なお本明細書において、活性化の概念は、まったく一般的に、マーキング分子の特定のルミネセンス特性を活性化することであると理解され、したがってルミネセンス励起可能性のスイッチオンも、特定のルミネセンス特性のスイッチオンに対応するルミネセンス放射スペクトルの変化も含む。活性化は、少なくとも若干の活性化された分子が存在し、それら分子の重心が他の活性化された分子のエアリー・ディスク内に存在しないように行われる。すなわちこれら分子が、光学的分解能内で少なくとも辛うじて区別できるように行われる。
【0035】
図2は、光子を位置分解して積分する検出器5上での例示的状況を概略的に示す。図から分かるように、隣接するマーキング分子のエアリー・ディスクが重なっている領域3が存在する。しかしこの場合、図2の左の領域3から分かるように、前もって活性化されたマーキング分子だけが重要である。活性化されていないマーキング分子1’は、マトリクス検出器5で捕捉される特定の蛍光放射を放出せず、したがって何の役割も果たさない。
【0036】
領域4、例えばマトリクス検出器5の中央にある領域4には、そのエアリー・ディスク2が他の活性化されたマーキング分子1のエアリー・ディスクと重なっていない、マーキング分子1が存在する。マトリクス検出器5の右の領域は、活性化されたマーキング分子のエアリー・ディスクと重なった領域3が、そうではない領域4と完全に隣接することができることを示す。加えて右の領域4は、活性化されたマーキング分子1が活性化されないマーキング分子1’と隣接していても、検出には何の役割も果たさないことを示している。なぜならこのようなマーキング分子1’はマトリクス検出器5によって検出される蛍光放射を放出しない、すなわち蛍光発光しないからである。
【0037】
装置によって規定される光学的分解能を越える詳細な像(この像は、本明細書の意味で高分解能の像である)を記録するために、図3に概略的に示した工程が使用される。
第1の工程S1で、切替信号によって、マーキング分子のある部分量が活性化される。すなわちこれらの分子が、特定の蛍光放射を放出させるために励起可能ではない第1の状態から、特定の蛍光放射を放出させるために励起可能である第2の状態に切り替えられる。もちろん活性化信号は選択的な非活性化をもたらすこともでき、つまり工程S1で反対の措置を使用することもできる。重要なのは、工程S1の後に、マーキング分子の部分量だけが、特定の蛍光放射を放出させるために励起できることである。活性化または非活性化(以下、簡単にするため活性化の場合だけ説明する)が、使用されるマーキング分子に応じて行われる。例えばDRONPA、PA−GFPのような色素、または可逆的に切替可能な合成色素(例えばAlexa/シアン・コンジュゲート)では、活性化が光放射により行われ、したがって切替信号は切替放射である。
【0038】
図3の下に示された図4は、部分像aに工程S1後の状態を示す。マーキング分子の部分量l_nだけが活性化されている。この部分量のマーキング分子は、完全に塗りつぶされた黒点で示されている。残りのマーキング分子は、この工程では活性化されていない。これらの分子は図4の部分像aに、l_n+1で示されている。
【0039】
活性化されたマーキング分子は次に、第2の工程S2で、蛍光放射を放出させるために励起することができる。蛍光色素として好ましくは、従来技術から公知の蛍光発光するプロテイン、例えばPA−GFPまたはDRONPAが使用される。このような分子では、活性化は405nmの領域の放射により、蛍光放射のための励起は約488nmの波長で行われ、蛍光放射は490nmより上の領域にある。
【0040】
第3の工程S3で、放出された蛍光放射が、例えば記録された蛍光光子の積分によって検出され、これにより下にある図4の部分像bに示された状況がマトリクス検出器5上で生じる。図から分かるように、活性化されたマーキング分子l_nのエアリー・ディスクは重なっていない。エアリー・ディスクの大きさは、マトリクス検出器5上における結像の光学的分解能によって規定される。加えて図4の部分像bには、活性化されない群l_n+1に属する蛍光分子の(理論的)エアリー・ディスクが図示されている。これらの非活性化マーキング分子は蛍光放射を放出しないので、それらの(理論的)エアリー・ディスク内にある蛍光放射は、活性化されたマーキング分子の部分量l_nの蛍光放射検出を妨げない。
【0041】
部分量l_n中で、マーキング分子がまったく区別できないほど重なるエアリー・ディスクをできるだけ少数にするために、部分量l_nがマーキング分子の全体量のうち比較的わずかな割合しか占めないように活性化エネルギーが調整され、これによりランダムに多数のマーキング分子を、光学機構によって分解可能なボリュームに基づいて区別することができる。
【0042】
第4の工程S4では、記録された蛍光放射が非線形に増幅される。これにより、活性化されたマーキング分子の位置を示す際の分解能が、光学機構の分解能よりも鮮鋭になる。これは図4の部分像cが示している。
【0043】
非線形の増幅は、例えば関数S=A・FN(式1)またはS=A・expF/w(ただしw=10−N(式2)により記述することができ、ここでFは蛍光信号の振幅、Aは正規化係数、Nは1より大きい整数である。もちろん他の関数を使用することもできる。
【0044】
非線形増幅によって、エアリー・ディスクの半値幅が3次元すべてで低減される。これにより、図4の部分像cに概略的に示されたようにエアリー・ディスクの小型化が得られる。ただし、パラメータSがFに非線形に強く依存すると、すなわち式1または2においてNが大きな値であると特に有利である。
【0045】
エアリー・ディスクの半値幅が、マーキング分子の位置データのために得ようとする空間的分解能に相当するように非線形度を選択することが好ましい。
非線形増幅の他に、すでに述べたように非線形減衰を使用することもできる。この場合、振幅または強度の小さい蛍光信号は減衰されるが、強い信号は少なくとも十分には減衰されずに留まる。もちろん非線形増幅と非線形減衰を組み合わせて使用することもできる。オプションとしての第5の工程S5では、増幅された蛍光信号の強度またはレベルが閾値以下であれば、それらの信号の正規化または丸めが行われる。
【0046】
第6の工程では、このようにして得られた部分像が1つの全体像にされる。続いて工程S1に戻り、各実行により1つの部分像が得られ、この部分像が合算されて1つの全体像になる。次の実行では、場合によりマーキング分子が適切に非活性化された後に、マーキング分子の別の部分量が活性化される。これは例えば図4に示した一部量l_n+1である。
【0047】
工程S1からS6を何度も実行することにより、マーキング分子の位置を光学的結像の分解能に比べて鮮鋭化された位置分解能で記述する個々の実行における個別像から、全体像が生成される。したがって適当な回数の反復により、高分解能の全体像が逐次生成される。ここでエアリー・ディスクの縮小は、この方法では、z方向に離間した複数の像スタックが記録される場合には、3つの空間次元すべてで行われる。こうして全体として、この全体像は3つの空間次元すべてで、マーキング分子の高分解能の位置データを含んでいる。
【0048】
図5は、様々な非線形増幅率V2、V5、およびV10におけるエアリー・ディスク2の径方向断面を示す。ここで文字Vの後の数は、式1におけるNの値に相当する。ここでは、増幅された蛍光信号が、それぞれr=0にあるマーキング分子の実際の位置の間隔に対して示されている。非線形度が増大するにつれて、すなわちN=2.5または10で、分布の幅が減少する。これにより、光学的分解能を越える位置データの鮮鋭化が達成される。
【0049】
図6は、非線形増幅と線形増幅における半値幅の比を、増幅率Nの関数として示す。つまり図6のy軸上には、相対的半値幅(Rel.FHWN)がプロットされている。式1におけるNの値が増大するにつれて(同じことが式2についても得られる)、非線形に増幅された信号の半値幅が、線形増幅された信号の半値幅の20%以下まで比較的急速に減少することが分かる。式1においてN≧100の値による非線形増幅の場合に、分解能が10倍に改善された像が得られる。
【0050】
図7は、隣接する2つの活性化された活性化分子から由来する隣接する2つのエアリー・ディスクの側断面図を示す。r値が−0.5または+0.5の場合の、マーキング分子の実際の位置が、図7にプロットされている。y軸上には蛍光信号の振幅が、非線形増幅(V1)ならびに増幅率N=5またはN=100(V5またはV100)の場合についてプロットされている。非線形増幅を行わない場合、すなわちV1では、個々の分子が弱くのみ、またはまだ分離可能である。なぜなら、全体振幅がr=0の場合にはまだ弱い鞍点を有しているからである。したがって分子は所与の光学的分解能でまだぎりぎり区別することができる。なぜなら点広がり関数の重心が、この関数の半値幅よりもまだわずかに大きく離間しているからである。ここで区別可能性にとって重要なのは、2つの振幅ピーク間に極小値が存在することである。
【0051】
非線形増幅により最小値が深くなり、これにより2つの分子が全体像に明確に分離されて現れる。このため、分解能が、光学的に規定された限界を超えて明確に上昇する。したがって、r=−0.5とr=+0.5にある蛍光分子を同時に活性化することにより、非線形増幅とあいまって、これら分子が光学的に可能なよりもはるかによく分離される。
【0052】
図8は、非線形増幅に対する第1の変形形態を示す。ここでは、例えばフレーム変換マトリクス検出器(CCD)として実現できる特別な検出機構6が使用され、この検出器はマトリクス検出器5を有する。マトリクス検出器5のピクセルサイズは好ましくは、得ようとする顕微鏡の分解能の半分に相当する。マトリクス検出器5内で、蛍光放射の検出された個別光子が積分される。これは工程S3に相当する。積分工程のための積分時間の終了時に、このようにして得られたフレームが、増幅ユニット7を介して記憶領域8にシフトされる。増幅ユニット7は、好ましくは調整可能な非線形増幅曲線を有し、これにより工程S4による非線形増幅をもたらす。振幅は、特性曲線の最大値と同様に好ましくは調整可能である。記録領域8には、増幅ユニット7によりマトリクス検出器5の各ピクセルごとに生成された電荷が累積される。これは、図3の工程S6に相当する。
【0053】
反復の終了時に、記憶領域8から高分解能の全体像が読み出される。読み出しをすべての反復の終了前に行って、中間像を得ることもできる。この中間像に基づき、ユーザーは、どのように高分解能の全体像が生成されているかを観察することができ、場合により測定経過に介入することができる。活性化放射の強度を、分離された活性化マーキング分子の割合ができるだけ大きくなるように適合させるのが有利である。この変形形態では、実行ごとにより多くのマーキング分子を活性化することもでき、これによって所要の実行数が低減される。
【0054】
中間像が記憶領域8から読み出されると、次に全体像が個々の中間像の加算によって、例えばコンピュータで計算され、表示される。
図9は、マトリクス検出器5が反復工程ごとに、記録された蛍光放射の光子を積分し、そのつど像としてコンピュータ9に供給する、第2の変形形態を示す。コンピュータ9は表示装置10、例えばモニタと、入力機構11、例えばキーボード等を有する。
【0055】
したがって方法工程S2からS6は、この変形形態ではコンピュータ9で行われる。この変形形態においては、マトリクス検出器のフレーム・レートが全体測定時間にとって決定的である。したがって測定時間を縮小するためには、できるだけフレーム・レートの高いマトリクス検出器5が有利である。
【0056】
有利なことにこの変形形態では、個別像を、その生成後にすぐに使用することができ、したがってすでに個別像において像評価を行うことができる。
さらに各実行の個別像を、焦点面に依存して記録し、非線形増幅された個別像から1つの3D全体像に統合することができる。この場合は、付加的に正規化も可能である。これにより、3つの空間方向のすべてで分解能の向上が得られる。
【0057】
図10は、試料Pを高分解能で結像するための顕微鏡12を概略的に示す。試料は例えば色素DRONPA(国際公開第2007/009812号パンフレット参照)でマーキングされる。活性化ならびに蛍光励起のために、顕微鏡12は放射源13を有し、この放射源は個別のレーザ14および15を有する。これらレーザの放射はビーム・コンバイナ16を介して統合される。レーザ14および15は、例えば405nm(活性化放射)および488nm(蛍光励起と非活性化)で放射を発することができる。活性化と蛍光放射を1つの同じ波長で行うことができる色素(例えばDENDRAと呼ばれる色素(グルスカヤら(Gurskaya et al.)「Nature Biotech.,Band24、S.461−465、2006」参照)も公知である。この場合は1つのレーザで十分である。
【0058】
音響光学式フィルタも、波長選択と個々のレーザ波長の高速切替えおよび減衰のために用いられる。光学系18が放射を、ダイクロイック・ビームスプリッタ19を介して対物レンズ20の瞳に合焦させる。これにより試料P上に放射源13の放射が広視野照明として入射する。
【0059】
試料P内で生成された蛍光放射は、対物レンズ20を介して集束される。ダイクロイック・ビームスプリッタ19は、蛍光放射を通過させるように設計されており、したがって蛍光放射がフィルタ21を通ってチューブレンズ22に達し、これにより全体として、蛍光発光する試料Pが検出器5上に結像される。したがって検出器5の構成に応じて、図10の構造は、図8または図9による変形形態を実施する。
【0060】
図11は、非線形増幅に対する別の変形形態を示す。ここでは工程S3およびS4が、いわゆるインテンシファイア23で実施される。インテンシファイアは入力窓24を有し、ここで入射する放射の光子25が記録される。光子は、円内のpで表示されている。入力窓24で光子が電子26(円内のeで表示されている)に変換される。次に電子はマルチチャネルプレート(MCP)26により非線形に増幅され、対応して非線形に増幅された電子放射28として燐光シールド29に達する。この燐光シールド29は出力窓30を有しており、電子を光子31に変換する。非線形増幅はインテンシファイア23で、特にMCP電圧Vmcpにより調整される。カソード電圧Vkおよびシールド電圧Vsは、それぞれ電子がMCP27に達し、そこからシールド29に達するようにする。
【0061】
インテンシファイア23は入射する放射の方向、すなわち光子25の入射方向を基準にして比較的幅の狭い構成部品であり、とりわけ放射の伝播方向を維持する。このインテンシファイアはさらに入射する放射の非線形増幅を引き起こす。すなわち光子25の高い密度がより低い光子密度に比べて過大に増幅され、したがって優先される。
【0062】
図12は、非線形増幅がインテンシファイア23によって行われる顕微鏡12を示す。インテンシファイア23はここでは、マトリクス検出器5上で蛍光発光する試料Pの結像の中間像面にある。したがって、出力窓30から出射する放射をマトリクス検出器5上に結像する別の光学系32が設けられている。それ以外の点で、図12の顕微鏡の構造は図10のそれに対応する。
【0063】
図10および12の顕微鏡により、位置分解能が顕微鏡の光学的分解能の10倍に向上した全体像が可能となる。顕微鏡の光学的分解能は、例えば側方に250nm、軸方向に500nmであり得る。インテンシファイアを使用する場合、非線形増幅が可能であり、これにより約10nmという全体像における位置データの分解能が可能となる。
【0064】
特にインテンシファイア23または図8のマトリクス検出器に関してここで非線形増幅の例として説明した変形形態は、本発明によれば、別の光学的に非線形の媒体、例えば2次高調波発生結晶、色素、飽和可能な吸収材等によって補完または置き換えることができる。ここで重要なのは、方法工程S3およびS4に従って、活性化されたマーキング分子の蛍光放射をまず積分し、次いで非線形に増幅することである。したがって検出と非線形増幅が、前記の変形形態では別個に行われ、例えばインテンシファイア23による非線形の光学的増幅が行われない場合には、非線形増幅を蛍光放射の記録後に、例えば適切な積分の後に行うことが好ましい。
【技術分野】
【0001】
本発明は、切替信号によって活性化可能なマーキング分子でマーキングされた試料を、空間的に高分解能でルミネセンス顕微鏡検査するための方法に関するものであり、マーキング分子は活性化によって初めて、特定のルミネセンス放射を放出させるために励起可能となる。この方法は、以下の工程を含む。
a)試料中に存在するマーキング分子のうちある部分量だけが活性化されるように、試料に切替信号を導入する工程であって、試料中に、活性化された分子がこれにすぐ隣接する活性化されたマーキング分子に対して、ルミネセンス放射の検出の光学的分解能以上の間隔を有する部分領域が生じる工程、
b)活性化された分子を、ルミネセンス放射を放出させるために励起する工程、
c)ルミネセンス放射を制限された分解能で検出する工程、および
d)工程c)で記録されたルミネセンス放射から像データを生成する工程であって、ルミネセンス放射の幾何的位置を提供するマーキング分子が、分解能限界より高い位置分解能で示される工程。
【0002】
本発明はさらに、切替信号によって活性化可能なマーキング分子でマーキングされた試料を、空間的に高分解能な蛍光顕微鏡検査するための装置に関するものであり、マーキング分子は活性化によって初めて、特定のルミネセンス放射を放出させるために励起可能となる。この装置は、試料中に存在するマーキング分子のうちある部分量だけが活性化されるように、試料に切替信号を導入する手段であって、試料中に、活性化された分子がこれにすぐ隣接する活性化されたマーキング分子に対して、ルミネセンス放射の検出の光学的分解能以上の間隔を有する部分領域が生じる手段と、活性化された分子を、ルミネセンス放射を放出させるために励起する手段と、ルミネセンス放射を制限された分解能で記録し、位置分解された検出信号を出力する検出機構と、ルミネセンス放射の幾何的位置を提供するマーキング分子を、分解能限界よりも高い位置分解能で示す像データを検出信号から生成する像データ生成機構とを有する。
【背景技術】
【0003】
生物試料を検査するための光学顕微鏡の古典的適用分野は、ルミネセンス顕微鏡である。ここでは特定の色素(いわゆる燐光体または蛍光体)が、試料、例えば細胞部分を特別にマーキングするために使用される。試料は、すでに述べたように励起放射により照明され、これによって励起されたルミネセンス光が適切な検出器によって検出される。通例そのために光学顕微鏡には、ダイクロイック・ビームスプリッタがブロックフィルタと組み合わせて設けられており、これらは蛍光放射を励起放射から分離し、別個に観察することを可能にする。この措置によって、異なって着色された個別の細胞部分を光学顕微鏡で表示することができる。もちろん試料の複数の部分を、試料の様々な構造に特異的に堆積する複数の異なる色素により同時に着色することもできる。この方法を、多重ルミネセンスと称する。それ自体が発光する試料、すなわち色素添加なしで発光する試料を測定することもできる。
【0004】
ここでルミネセンスは、一般的には燐光および蛍光に対する上位概念として理解され、したがって両方の過程を含む。
さらに、試料検査のために、レーザ走査顕微鏡(LSMと略称もされる)を使用することも知られている。このレーザ走査顕微鏡は、3次元照明された像から、共焦点検出機構(この場合、共焦点LSMと呼ぶ)により、または非線形試料相互作用(いわゆる多光子顕微鏡)により対物レンズの焦点面にある平面だけを結像する。光学的切片が得られ、複数の光学的切片を試料の様々な深さで記録することにより、続いて適切なデータ処理装置を用いて、様々な光学的切片から統合された試料の3次元像を生成することができる。したがってレーザ走査顕微鏡は、厚い試料の検査に適する。
【0005】
もちろんルミネセンス顕微鏡とレーザ走査顕微鏡を組み合わせて使用することもでき、この場合はルミネセンス発光する試料がLSMによって深さの種々異なる平面に結像される。
【0006】
基本的に光学顕微鏡の光学的分解能は、またLSMの光学的分解能も物理的法則により回折制限されている。この限界内で最適の分解能を達成するために、特別の照明構造、例えば4Pi構成(4Pi−Anordnung)または定在波場を有する構成が公知である。これによりとりわけ軸方向の分解能が、古典的なLSMに比べて格段に改善される。非線形の間引き法によって、分解能を、回折制限された共焦点LSMに比べ最大10倍に向上させることができる。このような方法は、例えば特許文献1に記載されている。間引き法に対しては種々のアプローチが公知であり、例えば特許文献2、特許文献3または特許文献4に記載されている。
【0007】
分解能を向上させるための別の方法が、特許文献5に記載されている。そこでは構造化された照明によって、非線形の過程が利用される。ここで、非線形性として前記刊行物は、蛍光の飽和を挙げている。この方法は、構造化された照明によって、光学システムの伝達関数に対する対象空間スペクトルの偏移を実現することを要求する。具体的には、スペクトル偏移とは、対象物空間周波数V0が空間周波数V0−Vmにおいて伝達されることを意味し、Vmは構造化された照明の周波数である。システムにより伝達可能な最大空間周波数が与えられると、これにより、偏移周波数Vmだけ伝達関数の最大周波数より高い対象物の空間周波数の転移が可能になる。このアプローチは、像生成のための再構築アルゴリズムと、1つの像に対して複数の記録の使用を必要とする。この方法においても、必要とされる構造化された照明が試料ボリューム全体を通過するので、試料が検知焦点の外の領域で不要に放射の負荷を受けることが欠点とみなされる。その他、この方法は現在の所、厚い試料には使用することができない。なぜなら、焦点外で励起された蛍光がバックグランド信号としてともに検知器に達し、したがって検出される放射のダイナミックレンジを劇的に低下させるからである。
【0008】
最後に、レーザ走査顕微鏡とは無関係に、回折限界を越える分解能を達成する方法も、特許文献6および特許文献7から公知である。このPALM(Photo Activated Light Microscopy:光活性化光学顕微鏡)と略称される方法は、光学的活性化信号によって活性化することのできるマーキング物質を使用する。このことにより、活性化状態でだけ、マーキング物質は、特定の蛍光放射を放出するために励起放射によって励起させることができる。マーキング物質の非活性化分子は、励起放射の照射後も蛍光放射を放出しないか、または少なくとも目立った蛍光放射を放出しない。PALM法では、活性化信号によって活性化されたマーキング分子が、隣接する活性化分子から、顕微鏡の光学的分解能で測定して分離されるだけ、または後から分離できるだけ離隔されるように活性化信号が印加される。したがって活性化分子は、少なくとも十分に分離される。この分離された分子について、分解能制限に起因する放射分布の中心が求められ、そこから計算で分子の位置が、光学的結像により本来可能なよりも高精度で決定される。回折分布の重心を計算で決定することにより分解能を向上させることを、英語の専門書では「スーパーレゾリューション」とも称している。これには、試料中で活性化マーキング分子の少なくともいくつかが、ルミネセンス放射が検出される際の光学的分解能によって区別可能であること、すなわち分離されていることが必要である。その場合、このような分子について、向上した分解能で位置を指示することができる。
【0009】
個々のマーキング分子を分離するために、PALM法は、マーキング分子が活性化放射の光子の受光後に活性化される確率が、すべての分子について等しいという事実を利用する。切替放射の強度、すなわち試料の単位面積に当たる光子の数を介して、試料のある面積範囲に存在するマーキング分子が活性化する確率を、光学的分解能の範囲内で区別可能なマーキング分子だけが蛍光放射を放出する十分な領域が存在するように、小さくすることができる。切替放射の強度、すなわち光子密度を適切に選択することにより、可能な限り光学的分解能に関して分離されているマーキング分子だけが活性化され、続いて蛍光放射を発することが達成される。次にこの分離された分子について、計算で、回折に起因する強度分布の重心が、すなわちマーキング分子の位置が、より高い分解能で求められる。試料全体を結像するために、活性化放射の取り込みと、その後の励起および蛍光放射結像により、できるだけすべてのマーキング分子が一度は部分量に含まれ、結像の分解能の範囲内で分離されるまで、部分量のマーキング分子の分離が繰り返される。
【0010】
その際、PALM法は、活性化のためにも、励起のためにも高い位置分解能が不要であるという利点を有する。その代わり、活性化も励起も広視野照明で行うことができる。
結局の所、マーキング分子は、活性化放射の強度を適切に選択することによって統計的に部分量で活性化される。したがって、すべてのマーキング分子の位置が、計算により、例えば回折限界を上回る分解能で決定できる、試料の全体像を生成するには、多数の個別像を評価しなければならない。個別像は最高で10000個になることがある。その結果、大きなデータ量が処理され、それに対応して測定に長時間かかる。全体像を記録するのにすでに数分が必要であり、これは実質的に使用するカメラの読み出し速度によって決まる。個別像における分子の位置決定は、コストのかかる計算手続によって行われる。これは例えば非特許文献1に記載されている。すべての個別像を処理し、高分解能の全体像、すなわちマーキング分子の位置が回折限界を上回る分解能で示される1つの像に統合するには、典型的には4時間かかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第5866911号明細書
【特許文献2】独国特許第4416558号明細書
【特許文献3】米国特許第6633432号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第10325460号明細書
【特許文献5】欧州特許第1157297号明細書
【特許文献6】国際公開第2006/127692号パンフレット
【特許文献7】独国特許第102006021317号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】エグナーら(Egner et al.)、Biophysical Journal、S.3285−3290、Band 93、2007年11月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の基礎とする課題は、高速の像獲得が達成されるように、PAL顕微鏡検査のための方法または装置を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この課題は、工程c)におけるルミネセンス放射の検出工程、または工程d)における像データの生成工程が、位置分解能を光学的分解能よりも鮮鋭にするために、より高い振幅を過大に考慮して、記録されたルミネセンス放射を非線形に増幅する工程を含む、冒頭に述べた形式の方法によって解決される。
【0015】
この課題はさらに、位置分解能を光学的分解能よりも鮮鋭にするために、より高い振幅を過大に考慮して、記録されたルミネセンス放射または検出信号を非線形に増幅する、非線形増幅器が設けられた、前記形式の装置によって解決される。
【0016】
ここで分解能の鮮鋭化とは、ルミネセンス発光するマーキング分子の位置が、光学的分解能によって可能なよりも低い不鮮鋭度で知られることであることと理解されたい。したがって点広がり関数はより小さな半値幅を有する。
【0017】
したがって本発明では、PALM原理において、分離された活性化マーキング分子の重心を、コストのかかる計算により決定するのではなく、適切な非線形増幅を使用する。この非線形増幅は、さらに説明するように、全体像獲得の様々な個所で使用することができる。非線形増幅では、記録されたルミネセンス放射におけるより高い強度を過大に優先する。この優先は、一方ではより高い強度をより低い強度よりも過大に増幅することにより、すなわち増幅率を強度の上昇とともに増大させることによって達成される。他方では、この優先は、より低い強度を過大に減衰させることによっても達成される。したがって本発明の意味で、非線形増幅という概念は、増幅すべき信号の振幅の上昇とともに増大する増幅も、増幅すべき信号の振幅の上昇とともに減少する非線形の減衰も意味する。
【0018】
本発明による簡略化は、確かに、活性化されたマーキング分子の分離に関する要件の増強を伴う。一方、これまで行われていた、強度分布を計算により分析するPALM法は、光学的に分離されなかったルミネセンス発光するマーキング分子を(例えばガウス分布からのルミネセンス強度の位置分布の偏差を使用して、複数のルミネセンス発光するマーキング分子を分布中で識別し、位置決定することによって)分離することもできるが、本発明のアプローチは、たとえ弱くても、ルミネセンス発光するマーキング分子の分離を必要とし、これにより非線形増幅が分解能の鮮鋭化をもたらすことができる。これが概念「鮮鋭化」の意味である。というのは、論理的には、すでに存在する分解能を、すなわちルミネセンス発光する2つの分子の区別を鮮鋭化できるだけだからである。この鮮鋭化のために、本発明は隣接するマーキング分子のルミネセンス強度の位置分布中に少なくとも1つの鞍点を、すなわち極小値を必要とする。本発明は、この要件が適切な切替信号によって比較的容易に満たされ、これにより像生成のかなりの簡略化および促進が得られるという新たな知識を基礎とする。
【0019】
したがって本発明によれば、活性化され、分離され、その蛍光放射によって検出された分子のコストのかかる位置決定が行われない。これにより個別像を、とりわけ高速に処理して1つの高分解能の像にすることができる。さらに個別像の記録中にすでに、したがって高分解能の全体像が追加の各個別像によって補完されるように、相応に処理し重ね合わせることもできる。
【0020】
特に有利な形態では、高分解能の像が検出器自体で直接生成され、したがって例えばもう1つの全体像をカメラから読み出せばよいだけである。これにより伝送すべきデータ量が低減し、したがって機器技術に対する要件が格段に低下する。
【0021】
さらに追加の各個別像によって全体像が徐々に補完されることによって、像生成中に、例えば試料が反復中に動いた場合に、ユーザーが測定経過に介入することができる。
非線形増幅によってより高い強度を優先することは、すでに述べたように様々な個所で行うことができる。例えば、光学的または光学/電子的経路上で検出器の前方で非線形増幅することができる。例えば、光放射を電気信号に変換し、これを非線形に増幅し、再び光放射に変換する、いわゆるインテンシファイアを使用することができる。あるいは、非線形増幅を検出器自体で行うこともできる。したがって検出器が放射を位置分解して記録し、その際に非線形に増幅する。最後に非線形増幅を、検出の終了後に検出信号に対して行うこともできる。したがって複数の個別像を重ね合わせて1つの全体像にする場合、各個別像が非線形に増幅される。
【0022】
より高い強度を優先して、非線形に増幅すると、位置分解能が光学的分解能よりも鮮鋭になる。分解能の鮮鋭度を調整するには、増幅特性曲線または減衰特性曲線が調整可能に構成されていると有利である。
【0023】
すでに述べたように非線形の増幅は非線形の減衰とすること、またはこれを含むことができる。減衰は本発明の意味では、増幅係数が1より小さい増幅である。減衰度は、信号の振幅の上昇とともに下降することができる。しかし減衰には、増幅と同じように不連続の経過も、例えば閾値より低い強度をすべて抑圧することももちろん可能である。
【0024】
本発明では、PALM法に従って、切替放射を適切にもたらすことにより、活性化されたマーキング分子が、ルミネセンス放射検出の光学的分解能よりも分離されていることが必要である。これは、光学的分解能が、活性化されたルミネセンス発光するマーキング分子の分離を可能にすることであると理解すべきである。分子間の信号強度が、分子の実際の位置で存在するピーク値より低くなるほど分子が離間している場合がそうである。したがって断層表示では、信号経過がすでに述べた鞍点を示さなければならない。
【0025】
特に好ましいのは、すでに述べたように、蛍光状態にあるマーキング分子のそれぞれ異なる部分量を、光学的に可能なよりも高い分解能で含む多数の個別像を生成することである。したがって本発明の方法の工程a)からe)は、試料の全体像を生成するために、好ましくは何度も実行される。各実行で工程e)の後に得られる像データは個別像であり、それが、先行する実行の個別像とそのつど重ね合わされて全体像にされる。そして最後の実行の後に全体像が完成される。
【0026】
使用されるマーキング分子に応じて、非活性化も可能または必要であり、これにより次の工程a)で、マーキング分子全体のうちのランダムに選択された部分量が活性化され、回折制限されて分解可能なボリューム内部で蛍光放射の検出を行うことのできる部分量が、試料中にできるだけ多数存在するようになる。したがって、蛍光放射を放出させるためにもはや励起可能でないようにマーキング分子を非活性化することができ、とりわけそのようなマーキング分子を使用することが好ましい。そうすると、さらなる各実行の前にマーキング分子全体が非活性化される。このようにすれば、次の実行に備えて、すべてのマーキング分子を、新たな活性化のために使用することができる。非活性化は、適切な非活性化放射の照射により達成することができる。しかし時間の経過により非活性化するマーキング分子も公知である。その場合、非活性化は、連続する実行間で適当な時間待機することを含み、これによりすべてのまたは十分な数のマーキング分子が非活性化される。
【0027】
複数の実行による上記の反復措置では、多数の個別像から全体像が生じる。特にユーザーが介入できるようにするために、実行中に全体像を中間像として表示することが好ましい。このような介入が行われる場合、適切な信号、例えばユーザーにより入力される中断信号を生成し、中間像を記憶し、実行を最初から新たに開始して新たな全体像を生成するのが適切である。
【0028】
したがって、追加で、活性化能力および/または励起能力または非活性化能力を、実行中に認識される構造に基づいて適合させるのが有利である。ここで、分離されない分子と分離された分子の比、または分離された分子もしくは分離されない分子の全体像における割合を最適化基準とすることができる。PALMコンセプトでは、すでに説明したマーキング分子の分離が、活性化放射の強度により調整される。その代わりにまたはそれに加えて、これを励起放射の強度、または場合により非活性化放射の強度により行うこともできる。そのつど個別像を供給する複数の実行における全体像の生成を、調整すべき強度を適合または最適化するために使用することができる。
【0029】
本発明の方法は、もちろん、厚い試料を結像するのに特に適する。したがって放射の入射方向に対して垂直に、すなわちz方向に重なり合った像を有する像スタックが記録される。本発明の方法はそのために特別の利点を提供する。なぜなら1つには、PALMの原理では、活性化放射により試料にわずかな負荷しか与えず、したがって退色作用が問題とならないからである。もう1つには、像スタックによる厚い試料の結像は、非常に多数の像を必要とするからである。本発明により達成される結像速度の上昇は、この適用例にとって決定的ではないにしても重要である。全体像当たり4時間かかるなら、全体像から像スタックを記録するに膨大な時間が必要になることは想像に難くない。
【0030】
前述のまたはこの後の説明で方法特徴に言及する場合、説明された装置は対応する制御機構を有しており、この制御機構は、装置の動作中に対応する方法特徴を実現する。すなわち適切に構成されている。装置について特定の動作特徴または動作特性を説明する場合、この装置は、場合により制御機構の制御下で、方法の対応する工程を同様に実施する。
【0031】
前記の特徴および後でさらに説明する特徴は、記載された組合せだけでなく、本発明の枠を逸脱することなく、別の組合せまたは単独でも使用可能であることが理解されよう。
以下に、本発明を例により、本発明の重要な特徴をやはり開示する添付図面に基づいてさらに詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】分解能の制限されたボリューム中の、活性化されたマーキング分子の概略図である。
【図2】位置分解能のある検出器上における、様々な活性化マーキング分子および非活性化マーキング分子の結像を示す概略図である。
【図3】PALM法における像生成のフローチャートである。
【図4】図2の検出器上におけるマーキング分子の結像を伴う、図3のフローチャートに関する説明のための図である。
【図5】様々な非線形増幅の場合において、蛍光発光するマーキング分子の検出の際に分解能制限のために生じる強度分布を示す断面図である。
【図6】分解能制限のために生じる強度分布の半値幅の関数を、非線形増幅の関数として示す図である。
【図7】線形増幅および様々な非線形増幅の場合における、同時に蛍光発光する隣接した2つのマーキング分子の、分解能制限のために生じる2つのエアリー・ディスクの側断面図である。
【図8】検出器で非線形に増幅する変形実施形態の概略図である。
【図9】検出後に非線形増幅を行う変形実施形態の図である。
【図10】図8または9の変形実施形態に従って非線形増幅を行うPAL顕微鏡法用の顕微鏡を示す図である。
【図11】非線形に光学的/電子的に増幅を行うインテンシファイアの概略図である。
【図12】図11のインテンシファイアを使用した、図10と類似の顕微鏡を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1は、蛍光発光のために励起されたマーキング分子1を概略的に示す。もちろん蛍光検出は多数の励起を必要とする。なぜなら各励起は1つの蛍光光子しか供給せず、放射検出は多数の光子の積分を必要とするからである。マーキング分子1から放出された蛍光放射は、顕微鏡中で物理原理に基づき制限された光学的分解能でのみ検出することができる。顕微鏡が光学的分解能の回折限界に達している場合でも、蛍光発光するマーキング分子1の光子は依然として回折に起因して散乱し、したがってエアリー・ディスク2内で検出される。したがって顕微鏡は基本的に、図1に概略的に黒円で示されたマーキング分子1の幾何的拡がりではなく、より大きな対象物を表示する。これは図1にエアリー・ディスク2により具体的に示されている。エアリー・ディスク2の大きさは、使用する顕微鏡装置の品質に依存しており、光学的結像の点広がり関数の半値幅によって規定される。もちろんこれは実際には、2次元の対象物ではなく、蛍光光子が達する回折ボリュームである。しかしこれは、図1の2次元表示ではディスクとして現れる。したがってここでのエアリー・ディスクという概念は、使用する光学系で達成できる最大分解能ボリュームにとってまったく一般的なものであるとみなされる。しかし使用する光学系は、回折限界で動作することが好ましいものの、必ずしもそうである必要はない。
【0034】
ここで、マーキング分子1をエアリー・ディスク2内でより正確に位置決定できるようにするために、上で一般的に説明したPALM法が使用される。この方法では個々のマーキング分子を光活性化する。なお本明細書において、活性化の概念は、まったく一般的に、マーキング分子の特定のルミネセンス特性を活性化することであると理解され、したがってルミネセンス励起可能性のスイッチオンも、特定のルミネセンス特性のスイッチオンに対応するルミネセンス放射スペクトルの変化も含む。活性化は、少なくとも若干の活性化された分子が存在し、それら分子の重心が他の活性化された分子のエアリー・ディスク内に存在しないように行われる。すなわちこれら分子が、光学的分解能内で少なくとも辛うじて区別できるように行われる。
【0035】
図2は、光子を位置分解して積分する検出器5上での例示的状況を概略的に示す。図から分かるように、隣接するマーキング分子のエアリー・ディスクが重なっている領域3が存在する。しかしこの場合、図2の左の領域3から分かるように、前もって活性化されたマーキング分子だけが重要である。活性化されていないマーキング分子1’は、マトリクス検出器5で捕捉される特定の蛍光放射を放出せず、したがって何の役割も果たさない。
【0036】
領域4、例えばマトリクス検出器5の中央にある領域4には、そのエアリー・ディスク2が他の活性化されたマーキング分子1のエアリー・ディスクと重なっていない、マーキング分子1が存在する。マトリクス検出器5の右の領域は、活性化されたマーキング分子のエアリー・ディスクと重なった領域3が、そうではない領域4と完全に隣接することができることを示す。加えて右の領域4は、活性化されたマーキング分子1が活性化されないマーキング分子1’と隣接していても、検出には何の役割も果たさないことを示している。なぜならこのようなマーキング分子1’はマトリクス検出器5によって検出される蛍光放射を放出しない、すなわち蛍光発光しないからである。
【0037】
装置によって規定される光学的分解能を越える詳細な像(この像は、本明細書の意味で高分解能の像である)を記録するために、図3に概略的に示した工程が使用される。
第1の工程S1で、切替信号によって、マーキング分子のある部分量が活性化される。すなわちこれらの分子が、特定の蛍光放射を放出させるために励起可能ではない第1の状態から、特定の蛍光放射を放出させるために励起可能である第2の状態に切り替えられる。もちろん活性化信号は選択的な非活性化をもたらすこともでき、つまり工程S1で反対の措置を使用することもできる。重要なのは、工程S1の後に、マーキング分子の部分量だけが、特定の蛍光放射を放出させるために励起できることである。活性化または非活性化(以下、簡単にするため活性化の場合だけ説明する)が、使用されるマーキング分子に応じて行われる。例えばDRONPA、PA−GFPのような色素、または可逆的に切替可能な合成色素(例えばAlexa/シアン・コンジュゲート)では、活性化が光放射により行われ、したがって切替信号は切替放射である。
【0038】
図3の下に示された図4は、部分像aに工程S1後の状態を示す。マーキング分子の部分量l_nだけが活性化されている。この部分量のマーキング分子は、完全に塗りつぶされた黒点で示されている。残りのマーキング分子は、この工程では活性化されていない。これらの分子は図4の部分像aに、l_n+1で示されている。
【0039】
活性化されたマーキング分子は次に、第2の工程S2で、蛍光放射を放出させるために励起することができる。蛍光色素として好ましくは、従来技術から公知の蛍光発光するプロテイン、例えばPA−GFPまたはDRONPAが使用される。このような分子では、活性化は405nmの領域の放射により、蛍光放射のための励起は約488nmの波長で行われ、蛍光放射は490nmより上の領域にある。
【0040】
第3の工程S3で、放出された蛍光放射が、例えば記録された蛍光光子の積分によって検出され、これにより下にある図4の部分像bに示された状況がマトリクス検出器5上で生じる。図から分かるように、活性化されたマーキング分子l_nのエアリー・ディスクは重なっていない。エアリー・ディスクの大きさは、マトリクス検出器5上における結像の光学的分解能によって規定される。加えて図4の部分像bには、活性化されない群l_n+1に属する蛍光分子の(理論的)エアリー・ディスクが図示されている。これらの非活性化マーキング分子は蛍光放射を放出しないので、それらの(理論的)エアリー・ディスク内にある蛍光放射は、活性化されたマーキング分子の部分量l_nの蛍光放射検出を妨げない。
【0041】
部分量l_n中で、マーキング分子がまったく区別できないほど重なるエアリー・ディスクをできるだけ少数にするために、部分量l_nがマーキング分子の全体量のうち比較的わずかな割合しか占めないように活性化エネルギーが調整され、これによりランダムに多数のマーキング分子を、光学機構によって分解可能なボリュームに基づいて区別することができる。
【0042】
第4の工程S4では、記録された蛍光放射が非線形に増幅される。これにより、活性化されたマーキング分子の位置を示す際の分解能が、光学機構の分解能よりも鮮鋭になる。これは図4の部分像cが示している。
【0043】
非線形の増幅は、例えば関数S=A・FN(式1)またはS=A・expF/w(ただしw=10−N(式2)により記述することができ、ここでFは蛍光信号の振幅、Aは正規化係数、Nは1より大きい整数である。もちろん他の関数を使用することもできる。
【0044】
非線形増幅によって、エアリー・ディスクの半値幅が3次元すべてで低減される。これにより、図4の部分像cに概略的に示されたようにエアリー・ディスクの小型化が得られる。ただし、パラメータSがFに非線形に強く依存すると、すなわち式1または2においてNが大きな値であると特に有利である。
【0045】
エアリー・ディスクの半値幅が、マーキング分子の位置データのために得ようとする空間的分解能に相当するように非線形度を選択することが好ましい。
非線形増幅の他に、すでに述べたように非線形減衰を使用することもできる。この場合、振幅または強度の小さい蛍光信号は減衰されるが、強い信号は少なくとも十分には減衰されずに留まる。もちろん非線形増幅と非線形減衰を組み合わせて使用することもできる。オプションとしての第5の工程S5では、増幅された蛍光信号の強度またはレベルが閾値以下であれば、それらの信号の正規化または丸めが行われる。
【0046】
第6の工程では、このようにして得られた部分像が1つの全体像にされる。続いて工程S1に戻り、各実行により1つの部分像が得られ、この部分像が合算されて1つの全体像になる。次の実行では、場合によりマーキング分子が適切に非活性化された後に、マーキング分子の別の部分量が活性化される。これは例えば図4に示した一部量l_n+1である。
【0047】
工程S1からS6を何度も実行することにより、マーキング分子の位置を光学的結像の分解能に比べて鮮鋭化された位置分解能で記述する個々の実行における個別像から、全体像が生成される。したがって適当な回数の反復により、高分解能の全体像が逐次生成される。ここでエアリー・ディスクの縮小は、この方法では、z方向に離間した複数の像スタックが記録される場合には、3つの空間次元すべてで行われる。こうして全体として、この全体像は3つの空間次元すべてで、マーキング分子の高分解能の位置データを含んでいる。
【0048】
図5は、様々な非線形増幅率V2、V5、およびV10におけるエアリー・ディスク2の径方向断面を示す。ここで文字Vの後の数は、式1におけるNの値に相当する。ここでは、増幅された蛍光信号が、それぞれr=0にあるマーキング分子の実際の位置の間隔に対して示されている。非線形度が増大するにつれて、すなわちN=2.5または10で、分布の幅が減少する。これにより、光学的分解能を越える位置データの鮮鋭化が達成される。
【0049】
図6は、非線形増幅と線形増幅における半値幅の比を、増幅率Nの関数として示す。つまり図6のy軸上には、相対的半値幅(Rel.FHWN)がプロットされている。式1におけるNの値が増大するにつれて(同じことが式2についても得られる)、非線形に増幅された信号の半値幅が、線形増幅された信号の半値幅の20%以下まで比較的急速に減少することが分かる。式1においてN≧100の値による非線形増幅の場合に、分解能が10倍に改善された像が得られる。
【0050】
図7は、隣接する2つの活性化された活性化分子から由来する隣接する2つのエアリー・ディスクの側断面図を示す。r値が−0.5または+0.5の場合の、マーキング分子の実際の位置が、図7にプロットされている。y軸上には蛍光信号の振幅が、非線形増幅(V1)ならびに増幅率N=5またはN=100(V5またはV100)の場合についてプロットされている。非線形増幅を行わない場合、すなわちV1では、個々の分子が弱くのみ、またはまだ分離可能である。なぜなら、全体振幅がr=0の場合にはまだ弱い鞍点を有しているからである。したがって分子は所与の光学的分解能でまだぎりぎり区別することができる。なぜなら点広がり関数の重心が、この関数の半値幅よりもまだわずかに大きく離間しているからである。ここで区別可能性にとって重要なのは、2つの振幅ピーク間に極小値が存在することである。
【0051】
非線形増幅により最小値が深くなり、これにより2つの分子が全体像に明確に分離されて現れる。このため、分解能が、光学的に規定された限界を超えて明確に上昇する。したがって、r=−0.5とr=+0.5にある蛍光分子を同時に活性化することにより、非線形増幅とあいまって、これら分子が光学的に可能なよりもはるかによく分離される。
【0052】
図8は、非線形増幅に対する第1の変形形態を示す。ここでは、例えばフレーム変換マトリクス検出器(CCD)として実現できる特別な検出機構6が使用され、この検出器はマトリクス検出器5を有する。マトリクス検出器5のピクセルサイズは好ましくは、得ようとする顕微鏡の分解能の半分に相当する。マトリクス検出器5内で、蛍光放射の検出された個別光子が積分される。これは工程S3に相当する。積分工程のための積分時間の終了時に、このようにして得られたフレームが、増幅ユニット7を介して記憶領域8にシフトされる。増幅ユニット7は、好ましくは調整可能な非線形増幅曲線を有し、これにより工程S4による非線形増幅をもたらす。振幅は、特性曲線の最大値と同様に好ましくは調整可能である。記録領域8には、増幅ユニット7によりマトリクス検出器5の各ピクセルごとに生成された電荷が累積される。これは、図3の工程S6に相当する。
【0053】
反復の終了時に、記憶領域8から高分解能の全体像が読み出される。読み出しをすべての反復の終了前に行って、中間像を得ることもできる。この中間像に基づき、ユーザーは、どのように高分解能の全体像が生成されているかを観察することができ、場合により測定経過に介入することができる。活性化放射の強度を、分離された活性化マーキング分子の割合ができるだけ大きくなるように適合させるのが有利である。この変形形態では、実行ごとにより多くのマーキング分子を活性化することもでき、これによって所要の実行数が低減される。
【0054】
中間像が記憶領域8から読み出されると、次に全体像が個々の中間像の加算によって、例えばコンピュータで計算され、表示される。
図9は、マトリクス検出器5が反復工程ごとに、記録された蛍光放射の光子を積分し、そのつど像としてコンピュータ9に供給する、第2の変形形態を示す。コンピュータ9は表示装置10、例えばモニタと、入力機構11、例えばキーボード等を有する。
【0055】
したがって方法工程S2からS6は、この変形形態ではコンピュータ9で行われる。この変形形態においては、マトリクス検出器のフレーム・レートが全体測定時間にとって決定的である。したがって測定時間を縮小するためには、できるだけフレーム・レートの高いマトリクス検出器5が有利である。
【0056】
有利なことにこの変形形態では、個別像を、その生成後にすぐに使用することができ、したがってすでに個別像において像評価を行うことができる。
さらに各実行の個別像を、焦点面に依存して記録し、非線形増幅された個別像から1つの3D全体像に統合することができる。この場合は、付加的に正規化も可能である。これにより、3つの空間方向のすべてで分解能の向上が得られる。
【0057】
図10は、試料Pを高分解能で結像するための顕微鏡12を概略的に示す。試料は例えば色素DRONPA(国際公開第2007/009812号パンフレット参照)でマーキングされる。活性化ならびに蛍光励起のために、顕微鏡12は放射源13を有し、この放射源は個別のレーザ14および15を有する。これらレーザの放射はビーム・コンバイナ16を介して統合される。レーザ14および15は、例えば405nm(活性化放射)および488nm(蛍光励起と非活性化)で放射を発することができる。活性化と蛍光放射を1つの同じ波長で行うことができる色素(例えばDENDRAと呼ばれる色素(グルスカヤら(Gurskaya et al.)「Nature Biotech.,Band24、S.461−465、2006」参照)も公知である。この場合は1つのレーザで十分である。
【0058】
音響光学式フィルタも、波長選択と個々のレーザ波長の高速切替えおよび減衰のために用いられる。光学系18が放射を、ダイクロイック・ビームスプリッタ19を介して対物レンズ20の瞳に合焦させる。これにより試料P上に放射源13の放射が広視野照明として入射する。
【0059】
試料P内で生成された蛍光放射は、対物レンズ20を介して集束される。ダイクロイック・ビームスプリッタ19は、蛍光放射を通過させるように設計されており、したがって蛍光放射がフィルタ21を通ってチューブレンズ22に達し、これにより全体として、蛍光発光する試料Pが検出器5上に結像される。したがって検出器5の構成に応じて、図10の構造は、図8または図9による変形形態を実施する。
【0060】
図11は、非線形増幅に対する別の変形形態を示す。ここでは工程S3およびS4が、いわゆるインテンシファイア23で実施される。インテンシファイアは入力窓24を有し、ここで入射する放射の光子25が記録される。光子は、円内のpで表示されている。入力窓24で光子が電子26(円内のeで表示されている)に変換される。次に電子はマルチチャネルプレート(MCP)26により非線形に増幅され、対応して非線形に増幅された電子放射28として燐光シールド29に達する。この燐光シールド29は出力窓30を有しており、電子を光子31に変換する。非線形増幅はインテンシファイア23で、特にMCP電圧Vmcpにより調整される。カソード電圧Vkおよびシールド電圧Vsは、それぞれ電子がMCP27に達し、そこからシールド29に達するようにする。
【0061】
インテンシファイア23は入射する放射の方向、すなわち光子25の入射方向を基準にして比較的幅の狭い構成部品であり、とりわけ放射の伝播方向を維持する。このインテンシファイアはさらに入射する放射の非線形増幅を引き起こす。すなわち光子25の高い密度がより低い光子密度に比べて過大に増幅され、したがって優先される。
【0062】
図12は、非線形増幅がインテンシファイア23によって行われる顕微鏡12を示す。インテンシファイア23はここでは、マトリクス検出器5上で蛍光発光する試料Pの結像の中間像面にある。したがって、出力窓30から出射する放射をマトリクス検出器5上に結像する別の光学系32が設けられている。それ以外の点で、図12の顕微鏡の構造は図10のそれに対応する。
【0063】
図10および12の顕微鏡により、位置分解能が顕微鏡の光学的分解能の10倍に向上した全体像が可能となる。顕微鏡の光学的分解能は、例えば側方に250nm、軸方向に500nmであり得る。インテンシファイアを使用する場合、非線形増幅が可能であり、これにより約10nmという全体像における位置データの分解能が可能となる。
【0064】
特にインテンシファイア23または図8のマトリクス検出器に関してここで非線形増幅の例として説明した変形形態は、本発明によれば、別の光学的に非線形の媒体、例えば2次高調波発生結晶、色素、飽和可能な吸収材等によって補完または置き換えることができる。ここで重要なのは、方法工程S3およびS4に従って、活性化されたマーキング分子の蛍光放射をまず積分し、次いで非線形に増幅することである。したがって検出と非線形増幅が、前記の変形形態では別個に行われ、例えばインテンシファイア23による非線形の光学的増幅が行われない場合には、非線形増幅を蛍光放射の記録後に、例えば適切な積分の後に行うことが好ましい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切替信号によって活性化可能なマーキング分子でマーキングされた試料を、空間的に高分解能でルミネセンス顕微鏡検査する方法であって、前記マーキング分子が、活性化によって初めて、特定のルミネセンス放射を放出させるために励起可能となり、
a)試料中に存在するマーキング分子のうちある部分量だけが活性化されるように、試料に切替信号を導入する工程であって、試料中に、活性化されたマーキング分子がこれにすぐ隣接する活性化されたマーキング分子に対して、ルミネセンス放射の検出の光学的分解能以上の間隔を有する部分領域が生じる工程と、
b)活性化された分子を、ルミネセンス放射を放出させるために励起する工程と、
c)ルミネセンス放射を光学的分解能で検出する工程と、
d)工程c)で記録されたルミネセンス放射から像データを生成する工程であって、ルミネセンス放射の幾何的位置を提供するマーキング分子が、光学的分解能より高い位置分解能で示される工程と
を含む方法において、
e)工程c)におけるルミネセンス放射の検出工程、または工程d)における像データの生成工程が、位置分解能を光学的分解能よりも鮮鋭にするために、記録されたルミネセンス放射を、より高い強度を優先して非線形に増幅する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記工程c)で、ルミネセンス放射を位置分解して積分し、前記工程e)で、積分結果を非線形に増幅することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
非線形増幅の増幅特性曲線が調整可能であることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
非線形に増幅する工程が、閾値より低い強度を抑圧する工程を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
試料の全体像を生成するために、前記工程a)からe)を繰り返し実行し、その際に工程e)の後に得られた像データが、そのつど先行する実行からの像データと重ね合わされて1つの全体像にされ、最後の実行の後に全体像が完成されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
もはやルミネセンス放射を放出させるために励起できないようにするために、マーキング分子を非活性化することができ、さらなる各実行の前にマーキング分子全体が非活性化されることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
生成された全体像が、実行中に中間像として表示されることを特徴とする請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
実行中に生じた信号、例えばユーザーにより入力された中断信号に応じて中間像が記憶され、新たな全体像を生成するために実行が最初から新たに開始されることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
部分量の大きさを最大にするために、切替信号の導入の強度および活性化された分子の励起の強度の少なくとも一方が、実行の間で変更されることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項10】
切替信号によって活性化可能なマーキング分子でマーキングされた試料を、空間的に高分解能で蛍光顕微鏡検査するための装置であって、マーキング分子が活性化によって初めて、特定のルミネセンス放射を放出させるために励起可能となり、前記装置が、
試料中に存在するマーキング分子の部分量だけが活性化されるように、試料に切替信号を導入する手段であって、試料中に、活性化されたマーキング分子がこれにすぐ隣接する活性化されたマーキング分子に対して、ルミネセンス放射の検出の光学的分解能以上の間隔を有する部分領域が生じる、前記導入する手段と、
活性化された分子を、ルミネセンス放射を放出させるために励起する手段と、
ルミネセンス放射を光学的分解能で記録し、位置分解された検出信号を出力する検出機構と、
ルミネセンス放射の幾何的位置を提供するマーキング分子を、光学的分解能より高い位置分解能で示す像データを検出信号から生成する像データ生成機構とを備える装置において、
位置分解能を光学的分解能よりも鮮鋭にするために、記録されたルミネセンス放射または検出信号を、より高い強度を優先して非線形に増幅する非線形増幅器が設けられていることを特徴とする装置。
【請求項11】
前記検出機構がルミネセンス放射を位置分解して積分し、前記増幅器が積分結果を非線形に増幅することを特徴とする請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記非線形増幅器が、調整可能な増幅特性曲線を有することを特徴とする請求項10または11に記載の装置。
【請求項13】
前記非線形増幅器が、閾値より低い強度を抑圧することを特徴とする請求項10乃至12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
制御装置が、切替信号を導入する前記手段の動作、活性化された分子を励起する前記手段の動作、前記検出機構の動作、前記像データ生成機構の動作、および前記増幅器の動作を制御し、その際に請求項1乃至9のいずれか1項に記載の方法が行われることを特徴とする請求項10乃至13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
表示機構が中間像を表示することを特徴とする請求項7、8または9と組み合わせた請求項14に記載の装置。
【請求項16】
検出器に前置された、非線形の光学式または電子光学式増幅器、特にインテンシファイアを特徴とする請求項10乃至14のいずれか一項に記載の装置。
【請求項1】
切替信号によって活性化可能なマーキング分子でマーキングされた試料を、空間的に高分解能でルミネセンス顕微鏡検査する方法であって、前記マーキング分子が、活性化によって初めて、特定のルミネセンス放射を放出させるために励起可能となり、
a)試料中に存在するマーキング分子のうちある部分量だけが活性化されるように、試料に切替信号を導入する工程であって、試料中に、活性化されたマーキング分子がこれにすぐ隣接する活性化されたマーキング分子に対して、ルミネセンス放射の検出の光学的分解能以上の間隔を有する部分領域が生じる工程と、
b)活性化された分子を、ルミネセンス放射を放出させるために励起する工程と、
c)ルミネセンス放射を光学的分解能で検出する工程と、
d)工程c)で記録されたルミネセンス放射から像データを生成する工程であって、ルミネセンス放射の幾何的位置を提供するマーキング分子が、光学的分解能より高い位置分解能で示される工程と
を含む方法において、
e)工程c)におけるルミネセンス放射の検出工程、または工程d)における像データの生成工程が、位置分解能を光学的分解能よりも鮮鋭にするために、記録されたルミネセンス放射を、より高い強度を優先して非線形に増幅する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記工程c)で、ルミネセンス放射を位置分解して積分し、前記工程e)で、積分結果を非線形に増幅することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
非線形増幅の増幅特性曲線が調整可能であることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
非線形に増幅する工程が、閾値より低い強度を抑圧する工程を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
試料の全体像を生成するために、前記工程a)からe)を繰り返し実行し、その際に工程e)の後に得られた像データが、そのつど先行する実行からの像データと重ね合わされて1つの全体像にされ、最後の実行の後に全体像が完成されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
もはやルミネセンス放射を放出させるために励起できないようにするために、マーキング分子を非活性化することができ、さらなる各実行の前にマーキング分子全体が非活性化されることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
生成された全体像が、実行中に中間像として表示されることを特徴とする請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
実行中に生じた信号、例えばユーザーにより入力された中断信号に応じて中間像が記憶され、新たな全体像を生成するために実行が最初から新たに開始されることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
部分量の大きさを最大にするために、切替信号の導入の強度および活性化された分子の励起の強度の少なくとも一方が、実行の間で変更されることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項10】
切替信号によって活性化可能なマーキング分子でマーキングされた試料を、空間的に高分解能で蛍光顕微鏡検査するための装置であって、マーキング分子が活性化によって初めて、特定のルミネセンス放射を放出させるために励起可能となり、前記装置が、
試料中に存在するマーキング分子の部分量だけが活性化されるように、試料に切替信号を導入する手段であって、試料中に、活性化されたマーキング分子がこれにすぐ隣接する活性化されたマーキング分子に対して、ルミネセンス放射の検出の光学的分解能以上の間隔を有する部分領域が生じる、前記導入する手段と、
活性化された分子を、ルミネセンス放射を放出させるために励起する手段と、
ルミネセンス放射を光学的分解能で記録し、位置分解された検出信号を出力する検出機構と、
ルミネセンス放射の幾何的位置を提供するマーキング分子を、光学的分解能より高い位置分解能で示す像データを検出信号から生成する像データ生成機構とを備える装置において、
位置分解能を光学的分解能よりも鮮鋭にするために、記録されたルミネセンス放射または検出信号を、より高い強度を優先して非線形に増幅する非線形増幅器が設けられていることを特徴とする装置。
【請求項11】
前記検出機構がルミネセンス放射を位置分解して積分し、前記増幅器が積分結果を非線形に増幅することを特徴とする請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記非線形増幅器が、調整可能な増幅特性曲線を有することを特徴とする請求項10または11に記載の装置。
【請求項13】
前記非線形増幅器が、閾値より低い強度を抑圧することを特徴とする請求項10乃至12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
制御装置が、切替信号を導入する前記手段の動作、活性化された分子を励起する前記手段の動作、前記検出機構の動作、前記像データ生成機構の動作、および前記増幅器の動作を制御し、その際に請求項1乃至9のいずれか1項に記載の方法が行われることを特徴とする請求項10乃至13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
表示機構が中間像を表示することを特徴とする請求項7、8または9と組み合わせた請求項14に記載の装置。
【請求項16】
検出器に前置された、非線形の光学式または電子光学式増幅器、特にインテンシファイアを特徴とする請求項10乃至14のいずれか一項に記載の装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2011−519038(P2011−519038A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−506602(P2011−506602)
【出願日】平成21年4月25日(2009.4.25)
【国際出願番号】PCT/EP2009/003036
【国際公開番号】WO2009/132811
【国際公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(506151659)カール ツァイス マイクロイメージング ゲーエムベーハー (71)
【氏名又は名称原語表記】Carl Zeiss MicroImaging GmbH
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月25日(2009.4.25)
【国際出願番号】PCT/EP2009/003036
【国際公開番号】WO2009/132811
【国際公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(506151659)カール ツァイス マイクロイメージング ゲーエムベーハー (71)
【氏名又は名称原語表記】Carl Zeiss MicroImaging GmbH
【Fターム(参考)】
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