説明

分離方法および分離装置

【課題】少なくともフッ酸、フッ化水素アンモニウム、珪フッ化アンモニウムおよび水を含む混酸から、フッ酸とフッ化水素アンモニウムをそれぞれ分離することのできる分離方法および分離装置を提供すること。
【解決手段】混酸100を蒸留することによって、フッ酸および水を含む留出液200を回収するとともに、フッ化水素アンモニウムおよび珪素を含む缶出液500として回収する第1の蒸留工程と、留出液200を蒸留することによって、留出液200から水を主に分離し、留出液200よりもフッ酸の濃度の高い缶出液600を回収する第2の蒸留工程と、第1の蒸留工程の缶出液500から晶析する第1の固体510とアンモニアを反応させる析出工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離方法および分離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、エッチング液として、フッ酸とフッ化アンモニウムとを含むものが知られている。また、このようなエッチング液であってエッチングの用に供された後のエッチング廃液からフッ酸(フッ素)を回収する技術も広く知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1には、フッ酸とフッ化アンモニウムとを含むエッチング液に炭酸カルシウムを反応させることにより、フッ素を、シリカ含有率の少ない高純度フッ化カルシウムとして回収し、回収したフッ化カルシウムから再びエッチング液用のフッ酸を製造する方法が記載されている。
【0003】
しかしながら、このような方法では、エッチング液からフッ酸を直接分離・回収することができない。すなわち、フッ化カルシウムとして回収した後、このフッ化カルシウムをフッ酸とするプロセスが必要であり、効率的な回収を行うことができない。また、エッチング廃液から新たなエッチング液(フッ酸)を製造するまでのプロセスが多く、その途中で二次廃液が大量に発生する。そのため、環境性が悪いという問題もある。また、プロセスが多いため装置構成が大型化、複雑化するとい問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−170435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、少なくともフッ酸、フッ化水素アンモニウム、珪フッ化アンモニウムおよび水を含む混酸から、簡単に、高純度のフッ酸とフッ化水素アンモニウムを分離することのできる分離方法および分離装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
本発明の分離方法は、少なくともフッ酸、フッ化水素アンモニウム、珪フッ化アンモニウムおよび水を含む混酸から、前記フッ酸と前記フッ化水素アンモニウムをそれぞれ分離する分離方法であって、
前記混酸を蒸留することによって、前記フッ酸および水を含む第1の液体を留出液として回収するとともに、前記フッ化水素アンモニウムおよび前記珪フッ化アンモニウムを含む第2の液体を缶出液として回収する第1の蒸留工程と、
前記第1の液体を蒸留することによって、前記第1の液体から前記水を主に分離し、前記第1の液体よりも前記フッ酸の濃度の高い第3の液体を缶出液として回収する第2の蒸留工程と、
前記第2の液体から、前記フッ化水素アンモニウムおよび前記珪フッ化アンモニウムを含む第1の固体を晶析させる晶析工程と、
前記第1の固体をアンモニアと水性溶媒を含む液体に溶解させて沈殿物を析出させ、前記沈殿物を含む第3の液体を得る析出工程と、
前記第3の液体から前記沈殿物と過剰のアンモニアと水を除去して前記フッ化水素アンモニウムを含む固形物を得る固体回収工程と、
を有することを特徴とする。
これにより、混酸から、簡便に、高純度のフッ酸とフッ化水素アンモニウムをそれぞれ比較的高い濃度および純度で分離・回収することができる。
【0008】
[適用例2]
本発明の分離方法では、前記析出工程において、前記フッ化水素アンモニウムおよび前記珪フッ化アンモニウムに対する前記アンモニアの化学当量比が1.0から3.0の範囲となるように、前記アンモニアを反応させることが好ましい。
これにより、主に二酸化珪素からなる沈殿物を一層多く析出することができる。そのため、フッ化水素アンモニウムの純度を高くすることができる。
【0009】
[適用例3]
本発明の分離方法では、前記第3の液体が室温となるように液温を調整することが好ましい。
これにより、第3の液体の液中に一層多くの沈殿物を析出させることができる。そのため、得られるフッ化水素アンモニウムの純度を高くすることができる。
【0010】
[適用例4]
本発明の分離方法では、前記析出工程において、前記アンモニアを前記水性溶媒に溶解させた液体を準備し、この液体に前記第1の固体を溶解させるか、または、前記第1の固体を前記水性溶媒に溶解させた液体を準備し、この液体に気体の前記アンモニアを接触させて溶解させるか、の少なくともいずれかの方法で行うことが好ましい。
これにより、効率よく、フッ化水素アンモニウムと珪フッ化水素アンモニウムをアンモニアに接触、反応させることができる。特に、アンモニアガスを導入する方法は、水分を増やすことなく、アンモニアのみの化学当量比を増加させることができる。
【0011】
[適用例5]
本発明の分離方法では、前記第2の蒸留工程における前記第1の液体の加熱温度は、前記第1の蒸留工程における前記混酸の加熱温度よりも低い設定温度とすることが好ましい。
これにより、第1の液体から水分を除去する場合に、除去される留出液に混入して水分と一緒に除去されてしまうフッ酸の量を少なくすることができる。そのため、フッ酸の収率を高くすることができる。
【0012】
[適用例6]
本発明の分離方法では、前記混酸は、珪素を含む材料をエッチング処理することにより発生するエッチング廃液であることが好ましい。
これにより、エッチング廃液を再利用することができ、エッチング処理の低コスト化を図ることができる。また、廃棄される廃液の量を減らすことができるため、環境面で優れている。
【0013】
[適用例7]
本発明の分離装置は、本発明の分離方法を有することを特徴とする。
これにより、混酸から高濃度且つ高純度のフッ酸とフッ化水素アンモニウムの少なくともいずれかを分離・回収する装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の好適な実施形態に係る分離装置の概略図である。
【図2】本発明の好適な実施形態に係る分離方法を説明するための概略図である。
【図3】実施例を説明するための表である。
【図4】実施例を説明するためのX線回析チャートである。
【図5】実施例を説明するためのX線回析チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の分離方法および分離装置を添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の好適な実施形態に係る分離装置の概略図、図2は、本発明の好適な実施形態に係る分離方法を説明するための概略図、図3〜図5は、実施例を説明するための表および測定チャートである。
【0016】
1.分離装置
まず、分離装置1の構成について説明する。
図1に示す分離装置1は、蒸留装置を例示しており、それぞれの工程の蒸留装置から得られた留出液を回収容器300へ取り出し、あるいは蒸留缶から缶出液を取り出し、これらの留出液および缶出液を次の工程の蒸留装置の供給部へ移し変えるバッチ式の分離方法を一例として以下に説明する。但し、これらの蒸留装置を複数並べて、装置間を輸液パイブで接続し、バルブ操作によってインライン方式で分離する分離方法を構成してもよい。
【0017】
このような分離装置1は、フッ酸[HF]、フッ化水素アンモニウム[(NH4)HF2]、珪フッ化アンモニウム[(NH42SiF6]および水[H2O]を含む混酸100から、フッ酸とフッ化水素アンモニウムとを、それぞれ、高純度かつ比較的高濃度で分離・回収するための装置(蒸留装置)である。この蒸留装置以外に、薬剤同士を混合したり、沈殿物を濾過する装置も用いたりしているが、図示は省略する。
【0018】
混酸100は、例えば、エッチング廃液である。具体的には、例えば、珪素を含む部材をフッ酸およびフッ化水素アンモニウムを含むエッチング液によりエッチング処理した後の廃液である。この珪素を含む部材としては、例えば、各種ガラスや水晶等が挙げられる。
このような混酸100中には、エッチング処理において未反応のフッ酸およびフッ化水素アンモニウムがそれぞれの成分として相当量残存している。そのため、これらをそれぞれ別々に回収することにより、再びエッチング液の成分として用いることができる。
【0019】
このように、エッチング廃液から未反応のエッチング成分を分離することにより、エッチング廃液の再利用を図ることができ、エッチング処理の低コスト化を図ることができる。また、廃棄処分されるエッチング廃液の量が減るため、優れた環境性を発揮することもできる。
混酸100における分離前のフッ酸の濃度は、特に限定されないが、例えば、10〜20wt%程度である。また、混酸100における分離前のフッ化水素アンモニウムの濃度は、特に限定されないが、例えば、25〜35wt%程度である。また、混酸100における分離前の珪素の濃度は、特に限定されないが、例えば、0.1〜1.0wt%程度である。
【0020】
ここで、混酸100におけるフッ酸、フッ化水素アンモニウム、珪素の濃度は、次のようにして求めることができる。
(珪素の濃度測定)
IPC発光分析装置(例えば、(株)島津製作所製、製品名「ICPS−7510」)を用いて混酸100中に含まれる金属元素の定性および定量分析を行う。これにより、混酸100中の金属原子は、珪素のみであるから、これにより、混酸100における珪素の濃度A(mol/l)を求めることができる。
【0021】
(フッ化水素アンモニウムの濃度測定)
紫外・可視分光光度計(例えば、(株)島津製作所製、製品名「IUV−1240」)を用いて、インドフェノールブルー吸光光度法を実施し、これにより、混酸100におけるフッ化水素アンモニウムおよび珪フッ化アンモニウムが有する(NH4+)の合計濃度B(mol/l)を求めることができる。前述したように、混酸100中の珪素は、珪フッ化アンモニウムとして存在しているのであるから、合計濃度Bからケイフッ化アンモニウムが有する(NH4+)濃度2Aを引くことにより、混酸100におけるフッ化水素アンモニウムの濃度C(mol/l)を求めることができる。すなわち、C=B−2Aである。
【0022】
(フッ酸の濃度測定)
電位差自動滴定装置(例えば、京都電子工業(株)製、製品名「AT−510」)を用いて、混酸100の酸濃度を測定する。具体的には、0.1mol/dm3水酸化ナトリウム水溶液による中和滴的を行うことにより、混酸100の酸濃度を測定する。これにより、混酸100におけるフッ酸、フッ化水素アンモニウムおよび珪フッ化アンモニウムが有する合計酸濃度Dを求めることができる。前述で、混酸100中のケイフッ化アンモニウム濃度Aおよびフッ化水素アンモニウム濃度Bが分かっている為、合計酸濃度Dからケイフッ化アンモニウムが有する酸濃度4A、フッ化水素アンモニウムが有する酸濃度Bを引くことにより、混酸100におけるフッ酸濃度E(mol/l)を求めることができる。すなわち、E=D−4A−Bである。
以上、混酸100におけるフッ酸、フッ化水素アンモニウム、珪素の濃度の測定方法の一例を説明した。
【0023】
図1に示すように、本実施形態の分離装置1は、蒸留缶(蒸留容器)11と、蒸留缶11に混酸100を供給する供給部12と、蒸留缶11を加熱する加熱部13と、蒸留缶11内の混酸100を攪拌する攪拌手段14と、蒸留缶11から生じる蒸気を冷却して留出液200を得る冷却部15と、留出液200を回収する回収部16と、排ガス処理手段17とを有している。
【0024】
分離装置1を構成する各部のうち、混酸100と接触し得るものは、それぞれ、耐酸性を有している。本実施形態では、混酸100と接触し得る部位をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で構成することにより耐酸性を付与している。
なお、耐酸性を付与する方法としては、これに限定されず、例えば、混酸100と接触し得る部位を、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂等の耐酸性プラスチックで構成する方法や、金属材料で構成された本体の表面にフッ素系樹脂をコーティングしたもので構成する方法でもよい。これらの金属と耐酸性樹脂との混合材は熱伝導性が良いので、外部からの加温、冷却による液温調整が短時間で行えるので好都合である。
【0025】
(供給部12)
供給部12には、混酸100が貯留される。このような供給部12は、蒸留缶11の上方に設けられている。供給部12と蒸留缶11とを連通する流路の途中には、コック181が設けられており、このコック181を操作することにより、供給部12に貯留された混酸100を蒸留缶11へ供給したり、反対に、その供給を停止したりすることができる。
【0026】
(蒸留缶11)
蒸留缶11は、混酸100を蒸留するための槽である。このような蒸留缶11には、発生した蒸気を冷却部15へ誘導する誘導路111が形成されている。また、蒸留缶11内には、混酸100の温度を計測する温度計191と、誘導路111内を流れる蒸気の温度を計測する温度計192とが設置されている。
【0027】
(加熱部13)
加熱部13は、蒸留缶11を介して混酸100を加熱する機能を有する。加熱部13としては、例えば、本実施形態のように蒸留缶11の下側部分を覆うように設けられたマントルヒーターで構成することができる。このような加熱部13は、温度計191、192の検知結果に基づいて混酸100および蒸気の温度が所定温度となるように、その駆動を制御することができる。
なお、加熱部13としては、混酸100を加熱することができれば、上記の構成に限定されない。
【0028】
(攪拌手段14)
分離装置1は、攪拌手段14を有するのが好ましい。
攪拌手段14は、蒸留缶11内の混酸100を攪拌する機能を有している。攪拌手段14によって混酸100を攪拌しながら蒸留を行うことにより、混酸100内にて物質移動が促進され、固体(固形物)の晶析等を抑制することができる。特に、液面あるいは容器の内壁の近傍における濃度の局在による晶析等を抑制することができる。
【0029】
このような攪拌手段14は、蒸留缶11内に配置されたスターラーバー(攪拌棒)141と、蒸留缶11および加熱部13が載置されたホットスターラー(攪拌装置)142とを有し、ホットスターラー142によってスターラーバー141を回転させることにより、混酸100を攪拌するよう構成されている。
なお、加熱手段を備えるホットスターラー142に変えて、加熱手段を有していないスターラーを用いてもよい。また、スターラーを備えなくとも、容器の壁面に振動を加える等の物理的手段で蒸留缶11内の液体が流動するようにして攪拌してもよい。
【0030】
(冷却部15)
冷却部15は、混酸100を加熱することにより生じた蒸気を冷却し、留出液200を得る機能を有している。このような冷却部15としては、一般的に知られる冷却管を用いることができる。すなわち、冷却部15は、内管151と、外管152とを有し、内管151内を蒸気が流れ、内管151と外管152とを間を冷却水が流れるように構成されている。これにより、内管151内を流れる蒸気が冷却水によって冷やされて液化し、留出液200が得られる。
なお、内管151の長さや冷却水の温度等は、留出液200を得ることができれば、特に限定されない。
【0031】
(回収部16)
回収部16は、冷却部15と連結しており、留出液200を回収する機能を有している。このような回収部16の底には、コック182が設けられており、このコック182を操作することにより、回収部16に溜まった留出液200を分離装置1の外部(例えば図1に示すような回収容器300)へ排出することができる。
【0032】
(排ガス処理手段17)
排ガス処理手段(ガス洗浄部)17は、冷却部15によって液化されなかった排ガスを中和処理する機能を有している。このような排ガス処理手段17は、水若しくはアルカリ性の洗浄液400を収納した容器を有しており、洗浄液400内に排ガスを誘導することにより、排ガスの中和処理を行う。
以上、分離装置1の構成について、説明した。
【0033】
2.フッ酸の分離方法
次に、混酸100からフッ酸を分離・回収する方法(本発明の分離方法)について説明する。
図2に概略図を示した本発明の分離方法は、第1の蒸留工程と、第2の蒸留工程とを有している。以下に説明する分離方法は、第1の蒸留工程において混酸100から留出液200を取り出した後、第2の蒸留工程においてこの留出液200から缶出液600を取り出す分離方法である。第1の蒸留工程の終了後、第2の蒸留工程を実施するバッチ方式で処理する方法と、第1の蒸留工程と第2の蒸留工程とのそれぞれに用いる蒸留装置を並べて設置し、これらの間を輸液管で接続し、バルブ操作及びポンプ操作等で処理するインライン方式とのどちらの方式でもよい。
【0034】
(第1の蒸留工程)
例えば、供給部12から蒸留缶11に混酸100を供給し、加熱部13によって混酸100を所定温度に加熱することにより、混酸100を大気圧下で蒸留する。この時、攪拌手段14によって蒸留缶11内の混酸100を攪拌してもよい。混酸100の加熱温度(前記所定温度)としては、特に限定されないが、例えば、120〜140℃程度である。
【0035】
これにより、混酸100から、主に水とフッ酸とが蒸発し、それらの蒸気がそれぞれ誘導路111を介して冷却部15に到達する。冷却部15に到達した蒸気は、冷却部15によって冷却され、留出液(第1の液体)200となり、回収部16に回収される。回収部16に回収された留出液200は、水とフッ酸とを主成分とする比較的低濃度のフッ化水素酸(フッ酸水溶液)である。
【0036】
ここで、留出液200のフッ酸濃度としては、特に限定されないが、混酸100のフッ酸濃度をA(wt%)としたとき、0.75A〜1.1A(wt%)程度であるのが好ましい。
また、留出液200として回収したフッ酸の収率(%)、すなわち{(留出液200中に含まれるフッ酸の量/混酸100中に含まれるフッ酸の量)×100}は、55%以上程度であるのが好ましい。これにより、留出液200として回収したフッ酸の量を充分なものとすることができる。
【0037】
また、留出液200の留出量(%)、すなわち{(留出液200の重さ/混酸100の重さ)×100}は、特に限定されないが55〜70%程度であるのが好ましい。これにより、装置の安全性を確保しつつ、充分な量の留出液200を得ることができる。
このような第1の蒸留工程を充分に行うことにより、混酸100から水とフッ酸とを分離することができる。
【0038】
(第2の蒸留工程)
前述の第1の蒸留工程を終えた後、蒸留缶11に存在する缶出液(第2の液体)500を蒸留缶11から排出し、図示しない回収容器に移す。なお、この缶出液500は、後述するように別の処理に供される。
次に、空の分離装置1において、供給部12から蒸留缶11に上述の留出液200を供給し、加熱部13によって留出液200を所定温度に加熱することにより、留出液200を大気圧下で蒸留する。この時、攪拌手段14によって蒸留缶11内の留出液200を攪拌してもよい。留出液200の加熱温度(前記所定温度)としては、特に限定されないが、例えば、100〜120℃程度である。
【0039】
これにより、留出液200から水と少量のフッ酸とが蒸発し、その蒸気が誘導路111を介して冷却部15に到達する。冷却部15に到達した蒸気は、冷却部15によって冷却され、回収部16に比較的濃度の低いフッ化水素酸が回収される。
このような第2の蒸留工程を充分に行うことにより、留出液200からフッ酸よりも水を多く分離することができる。すなわち、留出液200を濃縮することができ、第2の蒸留工程を終えて蒸留缶11内に残存する缶出液(第3の液体)600は、留出液200よりもフッ酸濃度が高いフッ化水素酸(フッ酸水溶液)となる。
【0040】
特に、第1の蒸留工程における混酸100の加熱温度よりも、第2の蒸留工程における留出液200の加熱温度を低く設定することにより、留出液200から水分を除去する際に、除去される留出液に混入して水分と一緒に除去されてしまうフッ酸の量を少なくすることができる。そのため、フッ酸の収率を高くすることができる。
ここで、缶出液600のフッ酸濃度としては、特に限定されないが、混酸100のフッ酸濃度をA(wt%)としたとき、2.0A〜3.0A(wt%)程度であるのが好ましい。
【0041】
また、缶出液600として回収したフッ酸の収率(%)、すなわち{(缶出液600中に含まれるフッ酸の量/混酸100中に含まれるフッ酸の量)×100}は、30%以上程度であるのが好ましい。これにより、缶出液600として回収したフッ酸の量を充分なものとすることができる。
このようにして得られた缶出液600(フッ化水素酸)は、再び、エッチング液として使用することができる。エッチング液として利用する際は、例えば、新しいエッチング液と混合して用いてもよい。また、新しいエッチング液のフッ酸濃度を調節するための用途に缶出液600を用いることもできる。
【0042】
以上、混酸100からフッ酸を分離する方法について説明した。
このような方法によれば、簡単かつ効率的に比較的濃度の高い高純度のフッ酸を混酸から分離・回収することができる。また、エッチング廃液から分離・回収した薬品を混合することにより、新たなエッチング液を生成することができるため、エッチング廃液の再利用を図ることができ、エッチング処理の低コスト化を図ることができる。また、再利用されることなく廃棄処分されるエッチング廃液の量が減るため、優れた環境性を発揮することもできる。
【0043】
3.フッ化水素アンモニウムの分離方法
前述したフッ酸の分離方法の途中にて得られる缶出液500からは、フッ化水素アンモニウムを分離・回収することができる。以下、この分離方法について図2に基づいて説明する。
前述した第1の蒸留工程にて得られた缶出液500を、冷却等により晶析し、フッ化水素アンモニウムおよび珪フッ化アンモニウムを含む第1の固体510を析出させる。なお、混酸100からの水の蒸発量によっては、前記冷却を行わないでも、フッ化水素アンモニウムおよび珪フッ化アンモニウムを含む固体510が析出する場合もある。
【0044】
次に、第1の固体510を乾燥させた後、この第1の固体510を、アンモニア水に完全に溶解させて溶液(第3の液体)700を得る。この溶液700を概ね室温までに冷却し、あるいは室温になるまで放置して沈殿物(第2の固体)を析出させる。この例示では事前に水性溶媒へアンモニアを溶解させたアンモニア水を用いたが、この他の実施形態として、水性溶媒に固体510を完全に溶解させた後、これにアンモニア気体をバブリングしてアンモニアを溶解させてもよい。以下の式で示される析出反応を得る方法であれば、様々な方法を用いることができる。
(NH42SiF6+NH4+H2O→6NH4F+SiO2
この析出反応(沈殿反応)を経た第3の液体を濾過し、二酸化珪素を主体としたシリカ沈殿物710(第2の固体)とフッ化水素アンモニウムを含む濾液800とに分離する。
【0045】
この濾液800から水および過剰なNH3を蒸発除去し、乾燥した第3の固体810を得る。この第3の固体810には、例えば、フッ化水素アンモニウムとフッ化アンモニウムとが95wt%前後含まれており、珪フッ化アンモニウムは実用上許容できる程度にしか残留しない。
このように、アンモニアを用いて沈殿物(第2の固体)を析出することにより、混酸100から分離した第1の固体510からフッ化水素アンモニウムを高濃度(高純度)で分離・回収することができる。
【0046】
以上、本発明の分離方法および分離装置を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明の分離方法および分離装置は、これらに限定されるものではなく、他の任意の構成物や、工程が付加されていてもよい。また、複数の蒸留工程、晶析工程及び析出工程の組みあわせを説明したが、複数の蒸留工程を用いてフッ酸を分離する分離方法だけを実施しても、環境性の良い再生技術を提供できる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の具体的実施例について説明する。
(実施例1)
エッチング廃液である混酸を用意した。なお、この混酸の分離前のフッ酸濃度は、16.4wt%であり、フッ化水素アンモニウムの分離前の濃度は、27.4wt%であり、珪素の分離前の濃度は、0.35wt%であり、残りがほぼ水であった。これら濃度の測定は、前述した装置および方法を用いて行った(以下に述べる濃度についても同様)。
【0048】
[第1の蒸留工程]
混酸500gを蒸留缶内に投入し、大気圧下にて、混酸を120℃に加熱することにより蒸留を行った。これにより、フッ化水素酸(フッ酸水溶液)を留出液Aとして得た。この工程を留出量が60%となるまで行い、留出液Aを297g得た。
留出液A中の各成分の濃度を測定したところ、フッ酸の濃度が16.1wt%、フッ化水素アンモニウムの濃度が0.03wt%、珪素の濃度が0.02wt%であった。混酸に対するフッ酸の収率は、58.9%であった。
【0049】
[第2の蒸留工程]
次に、第1の蒸留工程で得られた留出液Aを蒸留缶内に投入し、大気圧下にて、留出液Aを120℃に加熱することにより蒸留を行った。これにより、比較的低濃度のフッ化水素酸を留出液Bとして得た。この工程を留出量が80%となるまで行い、留出液Bを184g得た。なお、留出液B中の各成分の濃度を測定したところ、フッ酸の濃度が6.7wt%、フッ化水素アンモニウムの濃度が0wt%、珪素の濃度が0.01wt%であった。
【0050】
一方、蒸留缶からは、100gの缶出液Cが得られた。缶出液C中の各成分の濃度を測定したところ、フッ酸の濃度が33.3wt%、フッ化水素アンモニウムの濃度が0wt%、珪素の濃度が0.02wt%であった。また、混酸に対するフッ酸の収率は、40.6%であった。
このように、缶出液Cとして、高濃度かつ高純度のフッ酸を回収することができた。以上の結果を図3に示す。
【0051】
[分離工程]
分離工程は晶析工程と析出工程と固体回収工程とから構成される。
第1の蒸留工程にて、蒸留缶からは、85gの缶出液Dが得られた。まず、晶析工程では、缶出液D中に第1の固体(固形分)が析出しており、この第1の固体を缶出液Dから沈殿法により分離し、乾燥した。第1の固体の成分を測定した結果、フッ化水素アンモニウムが90.0wt%、珪フッ化アンモニウムが10.0wt%、含まれていた。
【0052】
次に、析出工程として、28wt%アンモニア水に第1の固体を混合し、室温にて完全に溶解させて第3の液体を得た。フッ化水素アンモニウムと珪フッ化アンモニウムに対する化学当量比は2〜3倍に相当するアンモニア水に溶解させた。例えば、第1の固体30gを28wt%アンモニア水100gに溶解させた。室温としては20℃から25℃までが好ましい。液温調整としては、放置による徐冷、恒温槽による強制的な温調等を用いることができる。
沈殿物(第2の固体710)が析出した第3の溶液を濾過した。濾過方法として、定量ろ過紙3Cおよび吸引濾過を用いたが、この他の濾過材、あるいは遠心分離機等を用いて、沈殿物(第2の固体710)を第3の溶液から分離することができる。
【0053】
次に、固体回収工程として、この濾液800から水分と過剰なアンモニアを蒸発させて、フッ化水素アンモニウムとフッ化アンモニウムの粉末状の混合物(第3の固体810)を得た。
このようにして、フッ酸の分離方法の途中にて得られる缶出液500から、高純度のフッ化水素アンモニウムとフッ化アンモニウムの混合物(第3の固体810)を回収することができた。
【0054】
この得られた粉末状の混合物(第3の固体810)を粉末X線回析RINT−TTR(株式会社リガク製)を用いて測定した。また、比較試料として、第1の固体も同様に測定した。得られた測定チャートとして、図4には第1の固体の測定チャートを示し、図5には回収されたフッ化水素アンモニウムとフッ化アンモニウムの混合物(第3の固体810)の測定チャートを示した。
【0055】
図4に示された珪フッ化アンモニム(NH42SiF6の吸収ピークが、図5に示された第3の固体810には測定されていない。従って、本願の分離方法では高純度なフッ化水素アンモニウムとフッ化アンモニウムとを回収できることが確認できた。
【0056】
このように、蒸発によって得られた高濃度のフッ酸と、晶析およびアンモニアによる珪素の除去によって得られた高純度のフッ化水素アンモニウムとフッ化アンモニウムの混合粉末と、を原料として回収できる。これらの原料を用いて、再び高純度なフッ酸とフッ化水素アンモニウムを含むエッチング液等を調製することができ、簡便な再生技術を提供できるので、環境負荷を低減する効果を有している。
【符号の説明】
【0057】
1‥‥分離装置 11‥‥蒸留缶 111‥‥誘導路 12‥‥供給部 13‥‥加熱部 14‥‥攪拌手段 141‥‥スターラーバー 142‥‥ホットスターラー 15‥‥冷却部 151‥‥内管 152‥‥外管 16‥‥回収部 17‥‥排ガス処理手段 181‥‥コック 182‥‥コック 191‥‥温度計 192‥‥温度計 100‥‥混酸 200‥‥留出液 300‥‥回収容器 400‥‥洗浄液 500‥‥缶出液 600‥‥缶出液 700‥‥液体 800‥‥溶液 510‥‥第1の固体 710‥‥第2の固体 810‥‥第3の固体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともフッ酸、フッ化水素アンモニウム、珪フッ化アンモニウムおよび水を含む混酸から、前記フッ酸と前記フッ化水素アンモニウムをそれぞれ分離する分離方法であって、
前記混酸を蒸留することによって、前記フッ酸および水を含む第1の液体を留出液として回収するとともに、前記フッ化水素アンモニウムおよび前記珪フッ化アンモニウムを含む第2の液体を缶出液として回収する第1の蒸留工程と、
前記第1の液体を蒸留することによって、前記第1の液体から前記水を主に分離し、前記第1の液体よりも前記フッ酸の濃度の高い第3の液体を缶出液として回収する第2の蒸留工程と、
前記第2の液体から、前記フッ化水素アンモニウムおよび前記珪フッ化アンモニウムを含む第1の固体を晶析させる晶析工程と、
前記第1の固体をアンモニアと水性溶媒を含む液体に溶解させて沈殿物を析出させ、前記沈殿物を含む第3の液体を得る析出工程と、
前記第3の液体から前記沈殿物と過剰のアンモニアと水を除去して前記フッ化水素アンモニウムを含む固形物を得る固体回収工程と、
を有することを特徴とする分離方法。
【請求項2】
前記析出工程において、前記フッ化水素アンモニウムおよび前記珪フッ化アンモニウムに対する前記アンモニアの化学当量比が1.0から3.0の範囲となるように、前記アンモニアを反応させる請求項1に記載の分離方法。
【請求項3】
前記析出工程において、前記第3の液体が室温となるように液温を調整する請求項1または2に記載の分離方法。
【請求項4】
前記析出工程において、前記アンモニアを前記水性溶媒に溶解させた液体を準備し、この液体に前記第1の固体を溶解させるか、または、前記第1の固体を前記水性溶媒に溶解させた液体を準備し、この液体に気体の前記アンモニアを接触させて溶解させるか、の少なくともいずれかの方法で第3の液体を得る請求項1ないし3のいずれか一項に記載の分離方法
【請求項5】
前記第2の蒸留工程における前記第1の液体の加熱温度は、前記第1の蒸留工程における前記混酸の加熱温度よりも低い設定温度とする請求項1に記載の分離方法。
【請求項6】
前記混酸は、珪素を含む材料をエッチング処理することにより発生するエッチング廃液である請求項1ないし5のいずれか一項に記載の分離方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか一項に記載の分離方法を有することを特徴とする分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−201554(P2012−201554A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67593(P2011−67593)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】