説明

分離材料を有するピペット先端部

【課題】核酸を精製するために使用されるピペットおよびピペット先端部のための付属部または拡張部を提供する。
【解決手段】拡張部はピペットの排出開口部と流体接続され、その内部には付属部が配置される。該付属部は、好ましくは液体から核酸を分離するために適した分離材料からなる。分離材料はホルダ内にフィルタディスクの形状で存在し、わずかにピペット容量を増加するのみであって死容積をほとんど生じない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピペットおよびピペット先端部のための付属部または拡張部を提供する。該付属部は、好ましくは液体から核酸を分離するために適した分離材料からなる。分離材料はホルダ内にフィルタディスクの形状で存在し、わずかにピペット容量を増加するのみであって死容積をほとんど生じない。
【背景技術】
【0002】
現在、核酸は、シリカフリース、ガラス粒子またはイオン交換マトリクスによって精製される。フリースに関して、これらは、個々の遠心分離可能なカラムまたはフィルタプレート(96または384ウェル)で手動または自動的に分離可能である。磁気ガラス粒子を手動で、またはバッチ毎にたとえば6,8,32,48または96の試料において、種々の自動化された形態で磁気分離することも可能である。この場合、磁気分離は反応容器またはピペット先端部にて実施される。
【0003】
純粋に液体を輸送するためには、それぞれの処理において、追加の工程が必要である。これらは、遠心分離、ろ過、磁気分離または抽出などの工程を含む。これは、時間および装置の相当な支出をともなう。特に、高い処理方式での自動化は、さらに複雑で高額であり、保守を必要し、各々の計器モジュールのためにより時間を必要とする可能性がある。
【0004】
検体を精製するために使用可能なピペット先端部は既知である。この例は、プレップチップの商品名でハーバード・バイオサイエンス社から販売されており、米国特許第6,416,716号明細書にも記載されている製品である。この場合、ピペット先端部の壁は、特定の親水性材料で下部排出口において被覆されていた。別の形態においては、化学変化したプラスチック材料が(射出成形)ピペット先端部を製造するために使用され、そのためピペット先端部の壁は検体を結合するためのアフィニティーグループを有する。両方の形態に共通する特徴は、検体を結合する領域が、今日使用されている多孔性膜と比較して比較的小さいことである。また、分析溶液が通過する際の拡散経路が比較的大きく、よって精製された検体の収率がきわめて低く、高い収率の要求に対しては不適当である。
【0005】
他のピペット先端部は、下部排出口にて固相で充填されている。これらは、たとえば、後続の分析を妨げ得る過剰な蛍光標識ヌクレオチドを分離するためのDNA配列反応のゲルクロマトグラフィに使用される。一例が米国特許第6,048,457号明細書に記載されている。ナショナル・サイエンティフィック・サプライ社は、いわゆるバイオパック・マイクロカラム・クイックキットを販売している。これらのピペット先端部の先端は、クロマトグラフィ材料で充填されている。この場合、検体の結合のために使用できる面は拡大されるが、試料および使用された溶液ならびに試薬による不純物の持ち越しが、クロマトグラフィ材料の同様の大きな毛管容量のために、精製された検体を含有する溶出物内に生じる。
【0006】
独国特許出願公開第10 2005 053 463号明細書は、核酸の自動分離および精製のための装置および方法を記載している。欧州特許出願公開第1 882 524号明細書は、大容量のフィルタ挿入物を有するろ過付属部を記載している。米国特許出願公開第2006/0182657号明細書は、液体試料が適用された穿孔フィルタとピペット付属部との組み合わせを開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、したがって、改良によって先行技術の欠点を回避することであった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によると、核酸または他の検体を吸着するために、アフィニティーグループを有する既知の多孔性の固相は、液体の流れの方向に対して直角でピペットの排出開口部の前に外側から配置されるか、あるいはこれらは交換可能な先端部の排出口に統合される。核酸または他の検体が固相を流れ通る際に、これらは既知の緩衝状態下で吸着される。溶解産物は再度排出され、廃棄される。洗浄溶液を吸引することによって固相に吸着した検体はさらに精製される。最終的に検体は固相から脱着され、小さい溶出量で濃縮形状にて収集される。
【0009】
ピペット先端部の特別な実施の形態は、特に効果的な検体の濃縮をもたらす。一方での液体輸送と、他方での検体の吸着、精製および溶出との統合化は、改善された迅速で簡単な方法を可能にする。これは手動様式で使用可能であるのみならず、既知の検査ロボットにおいても簡単な様式で実施可能である。単一の溝または複数の溝のための現行のピペット先端部または現行のピペットロボットにて使用されるピペット先端部は、本発明による装置を製造するために本発明にしたがって使用可能である。
【0010】
第1の特徴において、本発明は、ピペット(C)と、直接的に隣接した部分(A)および(B)を有する本体とを備えた装置からなり、前記本体が、最も離間し、互いに対して反対で、長手軸(L)に対して直角に位置する2つの側部にて開口し、液体が長手軸に沿って第1の開口部から第2の開口部およびこの開口部を通って流れることを可能にし、部分(A)が、狭窄せずに一方の側部を向いて開いており、部分(A)にて第1の開口部を形成する本質的に円筒形の壁(100)を備えており、部分(A)の第1の開口部が、ピペット(C)の排出開口部と流体接続されており、ディスク状フィルタ(600)が、部分(A)にて長手軸(L)に対して直角に配置され、フィルタがその表面にアフィニティーグループ(親和性固相)を有する固相を含み、部分(B)にて、第1の開口部と反対側の側部がさらなる壁(210)によって境界され、該壁(210)が、壁(100)に隣接し、本質的に円筒形の壁(200)によって包囲された円形の第2の開口部を中央において形成し、該壁(200)が壁(100)よりも小さい径を有しており、フィルタディスク(600)と第2の開口部との間の部分(B)の容量(300)が、ピペット先端部の最大輸送量の0.01〜5%の範囲であり、部分(B)にて、第2の開口部の径が、0.5〜2mmの範囲である装置であって、本体の部分(A)の第1の開口部はピペット(C)の排出開口部に流体接続していることを特徴とする。
【0011】
本発明のさらなる特徴は、核酸を精製するための本発明による装置の用途である。
【0012】
本発明のさらなる特徴は、本発明の装置を使用して核酸を精製する方法であって、(a)(i)溶解した核酸と、(ii)液相から核酸の可逆的結合に適した固相への核酸の吸着を補助する1つ以上の物質とを含む溶解バッファ液を吸引および排出する工程であって、該溶解バッファ液が部分(A)および(B)を有する本体を通って吸引中にピペット(C)に入り、排出の際に前記本体を通ってピペットから再度出され、核酸がフィルタを通る液相の通過中に親和性固相の表面に吸着される工程と、(b)洗浄バッファを吸引および排出する工程であって、該洗浄バッファが固相からの吸着された核酸の分離を妨げる1つ以上の物質を含有し、洗浄バッファが吸引中に部分(A)および(B)を有する本体を通ってピペットに入り、排出の際に前記本体を通って再度出され、不純物がフィルタを通る液相の通過中に液相となる工程と、(c)溶出バッファを吸引および排出する工程であって、該溶出バッファは固相から吸着された核酸を分離し、溶出バッファが吸引中に部分(A)および(B)を有する本体を通ってピペットに入り、排出の際に本体を通って再度出て、核酸がフィルタを通る液相の通過中に液相となる工程と、(d)精製された核酸を含有する溶出物を収集する工程とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】概略断面図である。ピペット先端部(C)の本体の下部が示され、その壁(700)は円錐形状でよく、排出口(800)にて終結している。ピペット先端部の本体の端部は、部分(A)および(B)を含む付属部の上部と流体接続しており、該付属部は頂上部と底部にて開口し、液体が通過可能である。部分(A)は、頂上部にて開口する本質的に円筒形の壁(100)を備える。これは、液体が側面から漏出することなく部分(A)および(B)を通ってピペット本体からおよび/またはピペット本体へ移動可能なようにピペット先端部の排出口に接続されている。壁(100)によって境界されている中空の部分(A)にて下方に面する開口部は、さらなる壁(210)によって付属部(B)の下部にて境界される。この壁は壁(100)に隣接し、中央から排出口にテーパしており、排出口は内部空間(300)を有し、底部にて開口している。テーパ部の後の排出口を包囲する壁(200)は、本質的に円筒形状であり、壁(100)よりも小さい径を有する。ディスク状フィルタ(600)は、部分(A)にて長手軸(L)に対して直角に配置されており、壁(100)に接続された支持グリッド(500)、(400)によって上下で保持されている。下方の支持グリッド(400)は任意であり、無くてもよい。支持グリッド(400)がある場合、壁(210)に接続することもできる。フィルタディスク(600)は円形であり、フィルタの外縁は、通常、壁(100)の内面側と同一平面にある。
【発明を実施するための形態】
【0014】
多くの生物学的分析処理において、測定前に試料から測定される検体を精製および分離する必要がある。特に核酸分離の分野において、試料からの物質は、測定を頻繁に妨害し、検体の事前精製なしでの分析を不可能にする。したがって近年では、核酸の精製のための多くの方法および市販のキットが開発されている。これらは、96または384もの試料バッチまでの単一試料の手動または自動処理に供されている。このために必要な時間は約10分〜2.5時間以上である。
【0015】
核酸は、特に医療または法廷診断において、相当に重要性がある検体である。核酸は、たとえば原核生物および真核生物の細胞またはウイルスなどの生物学的材料の成分である。本発明の記載に関連して、生物学的材料という用語は、試料材料という用語と同義に使用される。前述の材料とは別に、またこれは全血、血清、血漿、尿、唾液、骨髄、溶液または洗浄液などの生物学的液体を含む。また、試料材料という用語は、生検材料、固定および非固定組織試料ならびにそのホモジェネートおよびそのようなホモジェネートの浄化された上清も含む。
【0016】
ほとんどの試料調製方法は、ピペット先端部による液体の輸送を含む。したがって、検体の固定化に適した固相が、液体容量を輸送するのに適したピペット先端部に機能的に統合されることが提案される。液体試料材料および試薬の必要な輸送における分離および精製工程の統合化は、固相を含むたとえば遠心カラムなどのさらなる容器の省略を可能にする。粒子を固相として使用する先行技術での別の形態において、これらの粒子ならびに粒子を混合して液相から粒子を分離するための別の容器も省略可能である。
【0017】
本発明の第1の特徴において、ピペット(C)と、部分(A)および(B)を有する本体とを備えた装置からなる。ピペットは排出開口部とその上部に開口部とを有し、液体は排出開口部を通ってピペットの中空空間に吸引され、再度ここから排出される。このために必要な圧力変化は、ピペット上部の開口部を通じて作用する。
【0018】
既知の機能化されたピペット先端部の前述の欠点を解消するために、必要な感度を達成するための検体に対して適度に高い結合能力を有する多孔性薄膜が、ピペット先端部の断面に挿入されることによって分析溶液が膜全体を流れる。膜はきわめて薄いため、感知可能な液量は膜孔に残留可能でない。したがって、後続の洗浄工程において、重要な妨害物質が試薬または試料から溶出物に輸送されない。
【0019】
本発明による装置の前記本体は、直接的に隣接する部分(A)および(B)に分割される。本体は、互いに最も離間して、長手軸(L)に対して直角に設けられた2つの反対する側部にて開口しており、液体が長手軸に沿って第1の開口部から第2の開口部、そしてこの開口部を通ることを可能にする。部分(A)は、狭窄せずに一方の側部を向いて開いている第1の開口部を有する本質的に円筒形の壁(100)を備える。第1の開口部と反対側の部分(B)の側部は、さらなる壁(210)によって境界され、この壁(210)は壁(100)に隣接し、中央にて円形の第2の開口部を形成する。第2の開口部は、第1の開口部の反対側に設けられている。これは本質的に円筒形の壁(200)によって包囲されており、壁(200)は壁(100)よりも小さな径を有する。ディスク状フィルタ(600)は、部分(A)にて長手軸(L)に対して直角に設けられている。フィルタは、表面にてアフィニティーグループを有する固相を含む(アフィニティー固相)。本発明によると、部分(A)の本体の第1の開口部は、ピペット(C)の排出開口部(800)と流体接続している。図1は、好ましい実施の形態による本発明の装置における構成要素の配置を示す。
【0020】
本発明において、検体を濃縮して感度を高め、処理を行う人が試験において可能な限りすべての溶出物を使用することを可能にするために、核酸はできるだけ少量の溶出量にて収集されるべきあることが重要である。このために、本発明の装置の部分(B)の容量は、可能な限り小さく設計される。さらに、有利には薄いフィルタディスク(600)を使用し、0.2〜2mmの範囲の厚さを有するディスク状フィルタが好ましい。しかしながら、同時に、たとえば、ピペット先端部の円筒形でテーパする下部排出口の内部に挿入される場合は、フィルタディスクの使用可能領域は過度に小さくすべきでない。ピペット先端部の全断面が使用可能な先端部内のさらに上部に膜が挿入される場合は、ピペット先端部の使用可能容量は減少することになる。またこの場合には、少量のメニスカスが破れ、液上の負圧が崩壊するため、可能な限り少量で溶出することができない。液体は、重力に対して膜を通ってさらに輸送されないことになる。
【0021】
特に、ピペット先端部のための既知の付属部と比較して、本発明の装置において、取り込まれた空気による妨害なしに、きわめて少ない液量をフィルタ後方に吸引し、再度排出可能であることが有利である。この工程において、装置内に吸引された水柱は泡なしで吸い込み可能である。
【0022】
したがって、機能性ピペット先端部のためのプラスチック部品が一実施の形態として提案され、これは下部排出口にてきわめて細く終結し、多孔性膜の少し下の必要な断面にまで延びている。これに関連して、下部排出口は長く、従来の深型マイクロウェルプレートの底部にまで延びている。したがって、液体はマイクロウェルプレートのウェル内に移動せず、また先端部も、先端部の断面が増大するにしたがってウェルの上縁に衝突することはない。本実施の形態において、これによって少量の溶出液を細管内に取り込み、溶出液が流れ通る膜にこれを案内することができる。通過後、溶出液は清浄な容器内に排出される。製造関連の理由により、さらなる支持グリッドを有する多孔性膜を導入するために、2部分の先端部としてこれを製造する必要があり得る(図面を参照)。代替的に、支持構造を有する膜は上部の幅広開口部から挿入可能である。この2部分の先端部の場合、接着剤からの蒸着材料で膜が占められないように、2つの部分は接着されずに締付される。これらの蒸着材料は、機能性膜および表面上に核酸が吸収されることを防ぐ。
【0023】
本体の部分(B)において、第2の開口部はテーパしており、好ましい実施の形態では、細溝に集結しており、溝は前記第2の開口部にて終結している。フィルタディスク(600)と第2の開口部との間の本体の部分(B)の容量は、特に好ましくはピペット先端部の最大輸送容量の0.01〜10%の範囲である。この容量は前記溝を含む。さらに好ましくは、容量(300)はピペット先端部の最大輸送容量の0.01〜1%の範囲である。可能な最小容量(300)の重要な利点は、試薬の残留を最小限にすることである。したがって、細く短い溝が特に好ましい。しかしながら、ピペット採取される液体の粘性との関連で溝の細さには限界がある。溝径および第2の開口部は、特に好ましくは2〜0.5mmの範囲である。この寸法は、本発明の装置によって移動する溶液の粘性との関連で特に有利であることが証明されている。したがって、たとえば核酸を精製するためによく使用される高容量のグアニジニウム塩の溶液は、高い粘性により特徴付けられる。このような場合、当業者は本発明の装置を通る粘性溶液の通過が保証されるように、体系的実験により溝径を選択することになる。しかしながら、本発明の特別の効果は、容量(300)が規定の好ましい範囲のまま、つまり径が幅広である際には溝が短く設計されるために明らかである。
【0024】
小さい容量(300)の他の重要な効果は、残留の危険性が減少することである。
【0025】
ピペットは、多様な方法で本体の部分(A)の第1の開口部に接続可能である。この接続は流体接続として構成され、これにより本体の部分(A)の第1の開口部およびピペットの排出開口部を通ってピペット容量への液体の輸送が可能である。ピペット(C)と部分(A)との間の流体接続は密封されており、これらの構成要素の縁部にて液体が漏出しないことが保証される。好ましい実施の形態において、本体の部分(A)の第1の開口部とピペット(C)の排出開口部との接続は、プラグ接続、ねじ込み式接続、接着による接続および溶接による接続からなる群から選択される。
【0026】
特にプラグ接続の場合、本体の接続部がピペットから外れないように、使用者は液体を移動する圧力が制限されていることに留意する。必要なピペット吸引の圧力に影響する要因は、移動する液体の粘性ならびに部分(B)の溝径および第2の開口部の幅である。
【0027】
単純な設計の場合、フィルタ(600)は、第1の開口部に挿入されたピペット(C)の排出開口部の縁部がフィルタを壁(210)に対して押圧することによって固定可能である。本実施の形態において、さらなる保持部はまったく必要ない。
【0028】
さらに好ましい実施の形態において、フィルタ(600)は、1つまたは2つの支持グリッド(500)、(400)によってディスクの両側に保持され、フィルタ(600)と壁(210)との間の支持グリッド(400)は任意である。1つのグリッドのみ場合、フィルタディスクと第1の開口部との間に支持グリッド(500)として取り付けられる。この場合、壁(210)は反対側からフィルタ(600)を支持する。この構成が、液相が通過する際のフィルタの不要な移動を回避するために充分でない場合、さらに好ましい実施の形態において、さらなるグリッドが、フィルタディスクと壁(210)との間に支持グリッド(400)として取り付け可能である。さらに、支持グリッド(500)が壁(100)に接続され、支持グリッド(400)がある場合は、壁(100)または壁(210)に接続されることが好ましい。
【0029】
本発明のさらに好ましい実施の形態において、フィルタ(600)は丸型(円型)ディスクである。このディスクの形状および径は、フィルタの外縁が壁(100)の内面側と本質的に同一平面となるように選択される。
【0030】
ピペット(C)は、全体的に円錐形状か、または排出開口部にて円錐形状の円筒形本体であるため、狭窄している。本発明において、発明的な装置が単一溝のピペットまたは複数溝のピペットにて実現されるかは重要でない。しかしながら、複数溝のピペットは複数の試料の並行処理が可能であるため好ましい。
【0031】
好ましい実施の形態において、ピペット(C)は、交換可能なピペット先端部を備える。この場合、ピペット先端部の排出開口部は、本体の部分(A)の第1の開口部に流体接続される。
【0032】
生物学的材料に含まれる核酸は、通常タンパク質と複合結合して分画に配されており、ここから放出されなければならない。これは、溶解と呼称される処理により生じる。既知の溶解方法は、カオトロピック化合物(グアニジニウム塩の使用が特に普及している)、洗浄剤、細胞壁およびプロテアーゼを分解する酵素を個別にまたは1つ以上組み合わせて含有する溶解バッファ液を使用する。材料中の核酸は、生物学的材料を溶解バッファ中にインキュベートすることによって暴露され、付着するタンパク質から放出される。溶解物が不溶性成分を含有する場合には、これらは除去されて浄化された上清が供される。
【0033】
溶解工程後、分解された核酸(検体)は、シリカなど核酸に対する親和性を有する表面をもつ固相での可逆的固定(吸着)によって溶解物から分離可能である。シリカ表面を有する固相を使用する場合、試薬溶液を使用するさらなる面倒なしに可能であり、既知のハイピュアキット(ロッシュ・アプライド・サイエンス、ロッシュ・ダイアグノスティクス社、マンハイム、ドイツ)に記載された処理工程に適合する方法で可能である。
【0034】
本発明の好ましい実施の形態において、部分(A)のフィルタ中の親和性固相は鉱物表面を有するフリースを含み、該表面は核酸を可逆的に結合することに適している。好ましい親和性固相の表面は、シリカグループを含む。検体を結合するための多孔性膜は、当業者に充分よく知られている。したがって、核酸を結合するために、たとえばハイピュア製品ラインから既知であるガラスファイバーフリースVLS403(ロッシュ・アプライド・サイエンス)を使用することができる。さらに、核酸を結合するために適した固相はたとえばセルロース膜またはセルロース膜誘導体であり、その適用は米国特許出願第2005/0112658号明細書に記載されている。本発明の要件を満たすセルロース膜およびその誘導体は、Schleicher & Schuell社から販売されており、商品名はOE67またはST69およびRC60である。さらに、リンカー分子を介して結合された正電荷グループをもつように化学的誘導された膜を使用することができる。これらのシステムは、たとえば国際特許出願公開第2004/055213号パンフレットまたは欧州特許出願公開第1 036 082号明細書(DNAリサーチイノベーション)および米国特許出願公開第2005/0106576号明細書(Lumigen)に記載されている。適当なpHおよび適当な塩分状態にてこれらの正電荷に結合された核酸は既知である。既知の洗浄液での洗浄工程後、核酸は溶出される。これは、溶出バッファのpHの影響による正電荷の変化により、または適当な方法でリンカー分子を分割することにより実施可能である。
【0035】
溶解物から固相を分離した後、結合DNAおよび/またはRNAは適当な洗浄バッファで洗浄され、不純物は結合核酸から除去される。最後に、核酸は、低塩バッファまたは水で固相から分離(溶出)される。溶出バッファの成分は、通常、核酸をその中に溶解させ、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による核酸標的配列の増幅など、後続する生物学的分析方法において直接的に使用される。核酸を濃縮するために、好ましくは少量の溶出バッファが選択される。通常、溶出量は、溶解試薬を添加する前の試料材料量の0.01〜10%の量である。
【0036】
本発明のさらなる特徴は、本発明の装置を使用して核酸を精製するための方法である。該方法は、まず、核酸と、その中に溶解し、液相から固相への核酸の吸着を補助する1つ以上の物質とを含む溶解バッファ液の吸引および排出を含む。これは、たとえば、溶解バッファ中の濃度範囲が0.5〜5Mのグアニジン塩の存在により可能となる。さらに、核酸の吸着は、溶解バッファ中の好ましくは1〜60%(v/v)のアルコール(好ましくはエタノールおよび/またはイソプロパノール)により補助される。
【0037】
吸引の間、溶解バッファは、部分(A)および(B)を有する本体を通ってピペットに入り、排出の際に該本体を通って再度出る。この工程において、核酸は親和性固相の表面に接触し、フィルタを通る液相の通過中にここに吸着する。
【0038】
後続の工程において、洗浄バッファは吸引および排出され、洗浄バッファは、たとえば水性緩衝液中のエタノールなど、固相からの吸着された核酸の分離を妨げる1つ以上の物質を含有する。吸引中に、洗浄バッファは、部分(A)および(B)を有する本体を通ってピペットに入り、排出の際に該本体を通って再度出る。洗浄工程中に、不純物はフィルタを通る液相の通過中に液相となる。
【0039】
次の工程において、溶出バッファは吸引および排出され、溶出バッファは吸着された核酸を濃そうから分離する。吸引中に溶出バッファは、部分(A)および(B)を有する本体を通ってピペットに入り、排出の際に本体を通って再度出る。核酸は、フィルタを通る液相の通過中に液相へ転移(溶出)する。精製された核酸を含有する溶出物は収集され、さらに処理するか適当な状態下で保管することができる。
【0040】
たとえば、384ウェル、あるいはさらに1536ウェルを有するマイクロウェルプレートにてPCRを実施する可能性の、並行して試験手順を実施する新しい方法は、検体の精製において試料の処理量を適応させるための適当な発展を必要とする。本発明による装置の補助をともなう、小型化および作業工程の簡素化のための要件が特に考慮される。検体を分離するための提案された構成は、従来の検査ピペットの使用による個々の試料の迅速で容易な操作ならびに複数溝のピペットの使用による並行化を可能にする。簡便な自動化は、交換可能な先端部用のピペット先頭部を含むあらゆる従来の検査ロボットを使用して直接的な輸送を可能にする。したがって、96、384または1536のピペット先頭部を使用する場合、検体のきわめて迅速な分離が実施可能である。
【0041】
要約すると、本発明の装置は、すべての工程が液体の輸送、混合およびインキュベーションに減少されるため、生物学的試料からの検体の迅速で容易な分離を可能にする。すべての分離工程は液体輸送に統合化される。並行化は、利用可能な検査の自動化を使用することにより、試料の処理量の容易な規模の向上を可能にする。検査の自動化は、遠心分離などのさらなる分離モジュールなしに磁気分離および真空吸引を可能にし、このことは機器を安価にし、補修の必要性を減少する。同時に、液体輸送中の検体の固定化を統合化することによって必要な時間が短縮される。
【0042】
前述の記載、引用文献および図面は本発明を明確にするもので、本発明の保護範囲は特許請求項から導かれる。前述の方法は例示として理解すべきであり、修正後も本発明の主題を説明する。
【符号の説明】
【0043】
100、200、210、700 壁
300 容量
400、500 支持グリット
600 ディスク状フィルタ
800 排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピペット(C)と、直接的に隣接した部分(A)および(B)を有する本体とを備えた装置であって、
前記本体が、最も離間し、互いに対して反対で、長手軸(L)に対して直角に位置する2つの側部にて開口し、液体が長手軸に沿って第1の開口部から第2の開口部およびこの開口部を通って流れることを可能にし、
部分(A)が、狭窄せずに一方の側部を向いて開いており、部分(A)にて第1の開口部を形成する本質的に円筒形の壁(100)を備えており、
部分(A)の第1の開口部が、ピペット(C)の排出開口部と流体接続されており、
ディスク状フィルタ(600)が、部分(A)にて長手軸(L)に対して直角に配置され、フィルタがその表面にアフィニティーグループ(親和性固相)を有する固相を含み、
部分(B)にて、第1の開口部と反対側の側部がさらなる壁(210)によって境界され、該壁(210)が、壁(100)に隣接し、本質的に円筒形の壁(200)によって包囲された円形の第2の開口部を中央において形成し、該壁(200)が壁(100)よりも小さい径を有しており、
フィルタディスク(600)と第2の開口部との間の部分(B)の容量(300)が、ピペット先端部の最大輸送量の0.01〜5%の範囲であり、
部分(B)にて、第2の開口部の径が、0.5〜2mmの範囲である装置。
【請求項2】
部分(A)の前記フィルタの親和性固相が、鉱物質表面を有するフリースからなり、前記表面が核酸の可逆的結合に適することを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記フィルタ(600)が、1つまたは2つの支持グリッド(500)、(400)によってディスクの両側に保持され、フィルタ(600)と壁(210)との間の支持グリッド(400)が任意であることを特徴とする請求項1または2記載の装置。
【請求項4】
前記支持グリッド(500)が壁(100)に接続され、支持グリッド(400)がある場合は、壁(100)または壁(210)に接続されることを特徴とする請求項3記載の装置。
【請求項5】
前記フィルタディスク(600)が円形であり、フィルタの外縁が本質的に壁(100)の内面側と同一平面にあることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記ピペット(C)が交換可能なピペット先端部を備え、該交換可能なピペット先端部の排出開口部が、本体の部分(A)の第1開口部と流体接続されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記第2の開口部と第2の開口部に面するフィルタディスク(600)の側部との間の距離が、1.5〜0.1cmであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
部分(B)の容量(300)が、ピペット先端部の最大輸送量の0.1〜5%の範囲であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
部分(B)の容量(300)が、ピペット先端部の最大輸送量の0.5〜2%の範囲であることを特徴とする請求項8記載の装置。
【請求項10】
前記本体の部分(A)の第1開口部とピペット(C)の排出開口部との接続が、プラグ接続、ねじ込み式接続、接着による接続および溶接による接続からなる群から選択されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の装置。
【請求項11】
交換可能な先端部のための複数溝のピペット先頭部をさらに備えた請求項6〜10のいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
複数のウェルを有するマイクロプレートをさらに備えた請求項11記載の装置。
【請求項13】
さらに、溶解した核酸と液相からフィルタ(600)の表面への核酸の吸着を補助する物質とを含む溶解バッファ液からなる請求項1〜12のいずれか1項に記載の装置。
【請求項14】
核酸を精製するための請求項1〜13のいずれか1項に記載の装置の用途。
【請求項15】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の装置を使用して精製された核酸を調製する方法であって、
(a)(i)溶解した核酸と、(ii)液相から核酸の可逆的結合に適した固相への核酸の吸着を補助する1つ以上の物質とを含む溶解バッファ液を吸引および排出する工程であって、該溶解バッファ液が部分(A)および(B)を有する本体を通って吸引中にピペット(C)に入り、排出の際に前記本体を通ってピペットから再度出され、核酸がフィルタを通る液相の通過中に親和性固相の表面に吸着される工程と、
(b)洗浄バッファを吸引および排出する工程であって、該洗浄バッファが固相からの吸着された核酸の分離を妨げる1つ以上の物質を含有し、洗浄バッファが吸引中に部分(A)および(B)を有する本体を通ってピペットに入り、排出の際に前記本体を通って再度出され、不純物がフィルタを通る液相の通過中に液相となる工程と、
(c)溶出バッファを吸引および排出する工程であって、該溶出バッファは固相から吸着された核酸を分離し、溶出バッファが吸引中に部分(A)および(B)を有する本体を通ってピペットに入り、排出の際に本体を通って再度出て、核酸がフィルタを通る液相の通過中に液相となる工程と、
(d)精製された核酸を含有する溶出物を収集する工程と
を含む方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−91568(P2010−91568A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−234420(P2009−234420)
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(501205108)エフ ホフマン−ラ ロッシュ アクチェン ゲゼルシャフト (285)
【Fターム(参考)】