説明

分離枠及び振動分離装置並びに分離枠の製造方法

【課題】 多数の線材を織り込むことにより形成される篩網を備えたものにおいてより微細な対象物を分離することができる分離枠及び振動分離装置並びに前記篩網の網目をより微細にすることができる分離枠の製造方法を提供する。
【解決手段】 分離枠を構成する篩網は、線径が約25μmのSUS製の線材を目開きが約25μmとなるように綾織りすることにより素材網を成形する工程と、前記素材網にニッケルめっき処理を施すことにより篩網を形成する工程と、前記篩網をフレームに取付ける工程から構成されている。ニッケルめっき処理を施す工程はアルカリ脱脂処理工程、ニッケルストライクめっき処理工程、無電解ニッケルめっき処理工程、湯上げ工程、乾燥工程から構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な粉体を分離するための分離枠及び振動分離装置並びに分離枠の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物をその直径サイズに応じて篩分ける分離枠には、多数の細線を平織りや綾織りなどの織り方で織り込むことにより構成された篩網を備えたものがある。このような篩網の網目の大きさ(目開き)は、細線の太さや細線を織り込む際に用いる冶具の大きさ等によって決まり、近年では20〜30μm程度の微細な網目を有する篩網が提供されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記した微細な網目を有する篩網は、粉塵の回収や薬品、化粧品、染料等の各種粉体や液体に含まれる異物の回収、分離等に用いられるが、より微細な物質を精度良く選別できる篩網の開発が望まれていた。
そこで、篩網の目開きをより細かくするために、より細い線材を使用することが考えられる。しかし、この場合は、篩網の強度が低下して篩網の破損が起こりやすくなるため、実用化は困難であった。
【0004】
本発明の目的は、多数の線材を織り込むことにより形成される篩網を備えたものにおいてより微細な対象物を分離することができる分離枠及び振動分離装置並びに前記篩網の網目をより微細にすることができる分離枠の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
無電解ニッケルめっき処理は、めっき液と接触する素材部分であればどこでも一様に皮膜を形成することができ、しかも、処理浴中に浸漬させる時間に応じた厚さの皮膜を素材の表面に形成することができる。本発明は、このような無電解ニッケルめっき処理の特徴を利用したものであり、枠本体と、前記枠本体に設けられ対象物を篩い分ける篩網とを備えた分離枠において、前記篩網を、多数の線材を編み込んで形成された素材網に無電解ニッケルめっき処理を施すことにより構成したことを特徴とする。
【0006】
また、本発明の振動分離装置は、上記構成の分離枠と、前記分離枠を振動させる振動付与手段とを備えたことを特徴とする。
更に、本発明の分離枠の製造方法は、多数の線材を編みこむことにより素材網を形成する工程と、前記素材網に無電解ニッケルめっき処理を施すことにより前記篩網を形成する工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
上記構成によれば、無電解ニッケルめっきのめっき液に素材網を浸漬する時間を調整することにより、素材網の表面に任意の厚さの皮膜を形成させて非常に微細な網目を有する篩網を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明を具体化した一実施例について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施例に係る振動分離装置の全体構成を示す図である。図1において、架台1上には枠受スプリング2を介して本体枠3が振動自在に支持されている。前記本体枠3の下面部には振動体ベース4が取り付けられ、この振動体ベース4の中心部に固定された振動体ハウジング5に上部アンバランスウェイト6と下部アンバランスウェイト7とが回転可能に支持されている。前記下部アンバランスウェイト7は駆動スプリング8を介してVプーリ9に連結されている。また、架台1内にはモータ10が配置されている。前記モータ10の回転軸(図示せず)にはVプーリ11が連結されており、前記Vプーリ9と前記Vプーリ11との間にVベルト12が掛け渡されている。上記構成により、上下部アンバランスウェイト6,7がモータ10によって回転駆動されて振動を発生する。上下部アンバランスウェイト6,7及びモータ10から振動付与手段が構成される。
【0009】
上記本体枠3は、固定枠13の上に下円筒枠14,上円筒枠15を積み上げて構成されている。前記上円筒枠15の上面には、原料投入口16が形成されたテーパ状の蓋17が被せられている。固定枠13と下円筒枠14及び上円筒枠15と蓋17との連結は断面略V字状のバンド18,19を締め付けることで行われている。
【0010】
上円筒枠15と下円筒枠14との間には分離枠20が挟み込まれている。図2に示すように、前記分離枠20は、断面L字状のフレーム21(枠本体に相当)の上辺部に篩網22を接着により取付けることにより構成となっている。前記分離枠20は、フレーム21の上辺部を上円筒枠15の下端部に溶接されたフランジ15a及び下円筒枠14の上端部に溶接されたフランジ14a間にパッキン23を介して挟みこんだ状態で、前記フランジ部14a,15aに断面V字状のバンド24を締め付けて固定されている。
また、下円筒枠14の外周部には排出口25が設けられている。さらに、前記下円筒枠14の内部には、前記排出口25に向かって下方に傾斜する受け部26が設けられている。
【0011】
上記構成においては、モータ10に通電して動作状態にある振動分離装置の本体枠3内に投入口16から対象物を投入する。ここでは、例えば直径が5〜10μm程度の微細な粒子から異物を取り除く場合を例に挙げて説明する。前記微細粒子が湿気等で凝集して塊状になることを防止するために、前記微細粒子は液体窒素に混入した状態で本体枠3内に投入される。
【0012】
モータ10が駆動されると、前記モータ10によって回転駆動される上下部アンバランスウェイト6,7により篩網22が振動する。この結果、液体窒素と共に微細粒子は篩網22を通過し、異物のみが篩網22上に残留する。前記受け部26には微細粒子と液体窒素が落下し、排出口25から外部に排出される。排出後、液体窒素は気化して、微細粒子は乾燥した粉体になる。
【0013】
次に、分離枠20の製造方法について説明する。分離枠20は、線径が約25μmのステンレス(SUS)製の線材を目開きが約25μmとなるように綾織りすることにより素材網(図示せず)を成形する工程と、前記素材網にニッケルめっき処理を施すことにより篩網22を形成する工程と、前記篩網22をフレーム21に取付ける工程から構成されている。前記素材網は、篩網22よりも大きな寸法を有しており、前記フレーム21よりも大きな直径寸法を有する円環状の冶具にテンションをかけて取付けられた状態でニッケルめっき処理工程が行われる。
【0014】
図3はニッケルめっき処理工程を示しており、アルカリ脱脂処理工程(第1工程)、ニッケル(Ni)ストライクめっき処理工程(第2工程)、無電解ニッケルめっき処理工程(第3工程)、湯上げ工程(第4工程)、乾燥工程(第5工程)から構成される。尚、第1ないし第4工程の各工程の間には水洗処理が行われる。
【0015】
第1工程は、素材網の表面に付着した油や汚れを取り除くために行われるものである。
第2工程は、素材網に対するニッケルめっきの密着性を上げるために行われる下地めっき処理であり、電気めっきの一手法である。ニッケルストライクめっき処理は、「ウッド浴」と呼ばれる塩化ニッケル及び塩酸からなる処理浴中で行われる。本実施例では、塩化ニッケルの濃度を1mol/lに、塩酸の濃度を1mol/lに、電流密度を4A/dm2に設定してニッケルストライクめっき処理を行っている。このような処理条件は発明者の実験により得られたものであり、上記条件を採用したことにより、後述する無電解ニッケルめっき処理工程におけるニッケルめっき(ニッケル−リン合金めっき)の素材網に対する密着性が優れたものとなる。ニッケルストライクめっき処理により素材網の表面には非常に薄いニッケルめっきの皮膜が形成される。
【0016】
第3工程は、カニゼンめっき(登録商標)法と呼ばれる無電解ニッケルめっき処理が採用されている。本実施例では、金属塩としての硫酸ニッケル、還元剤としての次亜塩酸ナトリウムを含むめっき液(商品名「トップニコロンPAL」、奥野製薬工業(株)製)が用いられている。前記めっき液のPH調整剤には苛性ソーダが用いられている。無電解ニッケルめっき処理により、素材網の表面にはニッケル―リン合金めっきが形成される。
【0017】
第1ないし第3工程が行われた結果、素材網の表面にニッケルめっきの皮膜が形成されて篩網22となる。篩網22は第4工程で約70℃の湯に浸漬された後、乾燥されることにより(第5工程)、全ての工程が完了する。
上記工程によって形成された篩網22は、冶具から取外された後、テンションを掛けた状態でフレーム21の上辺部に接着され、以って分離枠20が形成される。
【0018】
ここで、上記方法により形成された篩網22について図4を参照しながら説明する。図4は、ニッケルめっきの皮膜の厚さが10、11、11〜12,13μmとなるように無電解ニッケルめっきの処理時間(素材網の処理浴浸漬時間)を調整したときの、篩網22の断面の拡大写真(400倍)である。発明者の試作によると、1μmの皮膜を形成するために必要な浸漬時間は約5分であった。
【0019】
尚、図4ではSUS線材と皮膜との境界を明らかにするために、SUS線材の輪郭線(実線)を書き入れている。また、図4の下に、篩網22のうち写真撮影部分におけるめっき処理前後における目開きの長さ寸法及びめっきの厚さ寸法の実測値を示す。
【0020】
図4に示すように、線材の表面には、ほぼ均等な厚さ寸法になったニッケルめっきの皮膜が形成される。そして、皮膜の厚さ寸法が素材網の目開きの半分の長さ寸法よりも小さいときには、篩網22に微細な目開きを形成することができ(図4の(1)〜(3))、皮膜の厚さ寸法が素材網の目開きの半分の長さ寸法よりも大きいときには素材網の目開きが完全に塞がれてしまう(図4の(4))。従って、本実施例によれば、素材網の処理浴浸漬時間を適宜調節することにより、非常に微細な目開きの篩網を形成することができる。
【0021】
ちなみに、現在、実用化されているステンレス製の篩網の目開きのうち最も小さいものは17μmである。これに対して、本実施例の無電解処理ニッケルめっき処理をステンレス製の素材網に施すことにより、17μmよりも小さい目開きの篩網を製造することが可能になった。
【0022】
尚、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、例えば次のような変形が可能である。
素材網は、多数の線材を綾織りしたものに限らず、杉綾織りや平織り、平畳織りなどにより形成したものでも良い。
また、素材網は、ステンレス以外の金属からなる線材や合成樹脂製の線材を織り込んで形成しても良い。ニッケルストライクめっき処理工程は、素材網を構成する線材の材料に応じて省略できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施例を示すものであり、振動分離装置の右半分を断面にて示す正面図
【図2】分離枠周辺部分の縦断面図
【図3】分離枠の製造工程図
【図4】篩網の断面の拡大写真
【符号の説明】
【0024】
図面中、6は上部アンバランスウェイト(振動付与手段)、7は下部アンバランスウェイト(振動付与手段)、10はモータ(振動付与手段)、20は分離枠、21はフレーム(枠本体)、22は篩網を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠本体と、
前記枠本体に設けられ対象物を篩い分ける篩網とを備えた分離枠において、
前記篩網は、多数の線材を編み込んで形成された素材網に無電解ニッケルめっき処理を施すことにより構成されていることを特徴とする分離枠。
【請求項2】
前記素材網は、ステンレス製の線材を編み込むことにより形成され、
前記篩網は、前記素材網にニッケルストライクめっき処理を施した後、無電解ニッケルめっき処理を施すことにより構成されていることを特徴とする請求項1記載の分離枠。
【請求項3】
請求項1または2記載の分離枠と、
前記分離枠を振動させる振動付与手段とを備えた振動分離装置。
【請求項4】
対象物を篩い分ける篩網を備えた分離枠の製造方法において、
多数の線材を編み込むことにより素材網を形成する工程と、
前記素材網に無電解ニッケルめっき処理を施すことにより前記篩網を形成する工程と、
前記篩網を前記枠本体に取付ける工程とを備えることを特徴とする分離枠の製造方法。
【請求項5】
素材網はステンレス製の線材を編み込むことにより形成され、
篩網を形成する工程は、前記素材網にニッケルストライクめっき処理を施した後、無電解ニッケルめっき処理を施すように構成されていることを特徴とする請求項4記載の分離枠の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−130441(P2006−130441A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−323817(P2004−323817)
【出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【出願人】(591006520)株式会社興和工業所 (34)
【出願人】(000158301)岩谷瓦斯株式会社 (56)
【出願人】(591115877)森六株式会社 (15)
【Fターム(参考)】