説明

分離膜の改質方法および装置並びにその方法により改質された分離膜

【課題】分離膜を改質し、阻止性能向上を実現するに際し、原水等が酸化性雰囲気である場合にあっても、効果的に分離膜を改質可能な、分離膜の改質方法および装置並びにその方法により改質された分離膜を提供する。
【解決手段】分離膜に、ポリフェノールを含む有機物質および還元剤を含む水を加圧通水し、分離膜の阻止性能を向上、回復させることを特徴とする分離膜の改質方法、および装置並びにその方法により改質された分離膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜、特に逆浸透膜(RO膜)またはナノろ過膜(NF膜)を改質し、性能を確実に向上させる処理に関する方法および装置、並びにその方法により改質された分離膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、海水の淡水化や超純水、各種製造プロセス用水を得る方法として、例えばRO膜やNF膜を分離膜とするモジュールを用い、原水中からイオン成分や低分子成分を分離する方法が知られている。以前と比較すると、RO膜やNF膜の性能は格段に向上し、高阻止性能・低圧力運転が可能な膜も使われている。
【0003】
しかし、近年要求される超純水のレベルは非常に高く、RO膜単独では不十分であることはもちろん、後段に電気再生式脱塩装置(EDI)を設置する場合においても、RO膜を2段として用いなければならないケースがあった。
【0004】
特許文献1には、半透性膜を高温で有機酸に浸漬し、高脱塩性・高透水性をあわせ持つ膜の製造方法が提案されている。この方法では、高温で処理するため、モジュール形態での処理は困難であるし、条件によっては透過水量の大幅な低下を招くケースがあった。
【0005】
特許文献2には、海水にpH=5未満でタンニン酸を添加して、透塩率を低下させる方法が提案されている。しかし、この方法は海水の処理に限定されたものであり、本発明で想定している、地下水・井戸水・河川水・湖水・雨水・工業用水・水道水・ゴミ浸出水・下排水処理水・農業排水・各種工程回収水などのいわゆる原水を、必要に応じて除濁した原水の脱塩は含まれていない。
【特許文献1】特開2003−117360号公報
【特許文献2】特開昭58−109182号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
未だ出願未公開の段階ではあるが、先に本出願人により、特願2005-39061には、ポリフェノールを含む有機物質を用いて分離膜を改質し、阻止性能向上を実現する方法が提案されている(特願2005-39061号)。しかしこの方法では、分離膜に供給している原水が酸化性雰囲気である場合、有機物質の効果が不十分であるケースのあることが判明した。
【0007】
そこで本発明の課題は、このような実情に鑑み、分離膜を改質し、阻止性能向上を実現するに際し、原水等が酸化性雰囲気である場合にあっても、効果的に分離膜を改質可能な、分離膜の改質方法および装置並びにその方法により改質された分離膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記実情において、本発明者らは鋭意検討を行った結果、(1)ある種の有機物質と還元剤を併せて用いることで、分離膜に供給している原水や、有機物質を溶解させる水が酸化性雰囲気である場合でも、既存の分離膜、特にRO膜やNF膜の阻止性能を確実に向上・回復させることができること、(2)注入方法として、有機物質と還元剤を混合する、または還元剤、有機物質の順番でライン注入をする、のいずれかの方法を採用すること、で大きな効果が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係る分離膜の改質方法は、分離膜に、ポリフェノールを含む有機物質および還元剤を含む水を加圧通水し、分離膜の阻止性能を向上、回復させることを特徴とする方法からなる。分離膜に供給している原水や、有機物質を溶解させる水が酸化性雰囲気である場合、有機物質が分離膜に到達する前に分解してしまい、改質の効果が得られない場合があった。この方法を用いることで、分離膜に供給している原水や、有機物質を溶解させる水が酸化性雰囲気である場合でも、分離膜の阻止性能を確実に向上、回復させることができる。
【0010】
上記ポリフェノールを含む有機物質および還元剤を含む水を分離膜へ供給する方法として、ポリフェノールを含む有機物質および還元剤を混合した混合液を、分離膜へ供給することができる。この方法を用いることにより、分離膜に供給している原水や、有機物質を溶解させる水が酸化性雰囲気である場合でも、有機物質単独で用いる場合と比較して、作業を煩雑とすることなく、分離膜の阻止性能を確実に向上、回復させることができる。
【0011】
また、上記ポリフェノールを含む有機物質および還元剤を含む水を分離膜へ供給する方法として、分離膜へ原水を供給するラインに、還元剤を含む水、ポリフェノールを含む有機物質を含む水の順番で注入し、分離膜へ供給することができる。この方法を用いることにより、分離膜に供給している原水が酸化性雰囲気である場合でも、例えば既存の還元剤注入ラインを活用することで、簡易に分離膜の阻止性能を確実に向上、回復させることができる。
【0012】
上記分離膜としては、改質処理前の500mg/L塩化ナトリウム水溶液の阻止率が、99%以下の性能を持つ分離膜を使用することが好ましい。より好ましい阻止率の範囲は、10%以上99%以下、さらに好ましくは20%以上98.5%以下、さらに好ましくは98%以下、さらに好ましくは30%以上98%以下である。この方法を用いることで、分離膜の確実な性能向上が実現する。阻止率が99%を超える膜には、改質の効果が低い。阻止率は、測定時の温度や透過流束によって異なるので、メーカーがその膜の性能を測定する標準的な条件を適用するか、スパイラル型膜エレメントの場合には、25℃、1.0m/dayの透過流束を目安に測定を行なうのが良い。本願中で言う阻止率とは、特に断りのない限り、この方法で測定されたものを指している。
【0013】
なお、ここで言う「改質処理前」に阻止率99%以下の性能を持つ分離膜とは、新品時に上記性能を持つ膜の他、使用した結果、劣化して上記性能となった膜や、次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤を接触させて、強制的に酸化劣化させて上記性能とした膜なども含まれる。
【0014】
また、上記分離膜として、逆浸透膜またはナノろ過膜を使用することが好ましい。この方法を用いることによって、膜の塩類阻止性能、シリカやホウ素等の非解離成分阻止性能、有機成分阻止性能の向上が可能となる。
【0015】
また、上記分離膜として、スパイラル型膜エレメントを使用することが好ましい。スパイラル型膜エレメントは、コストも安く、汎用性も高いため、この構造の膜を用いるメリットは大きい。
【0016】
また、上記分離膜として、少なくとも芳香族ポリアミド系素材を含む膜を使用することが好ましい。より好ましい素材は、全芳香族ポリアミド、さらに好ましくは架橋全芳香族ポリアミドである。分離膜にポリアミド系素材を含むことで、改質の効果がより大きくなる。
【0017】
上記有機物質の平均分子量としては、200〜5000であることが好ましい。より好ましい平均分子量は、200〜3000、さらに好ましくは200〜2000である。平均分子量が200未満だと、有機物質が膜を透過してしまう場合があるため効果が薄い。平均分子量が5000を超えると、膜のファウリングを引き起こして、透過流束の低下を招くのみで、阻止性能向上には寄与しない。
【0018】
上記有機物質としては、タンニン酸を用いることが好ましい。ポリフェノール類の中でもとりわけタンニン酸の効果が高く、この物質を用いるのが良い。
【0019】
タンニン酸としては、加水分解型タンニンを用いることが好ましい。タンニン酸には加水分解型と縮合型があり、とりわけ前者の方が効果が高い。
【0020】
また、上記タンニン酸として、五倍子を原料として作られたものを用いることが好ましい。五倍子から抽出されたタンニン酸は、一般に平均分子量が約1700程度のものが多く、改質に好適であるものと推定される。
【0021】
上記還元剤としては、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムのうち、少なくともいずれか1つを含む物質を用いることができる。使用する還元剤としては、特に限定されないものの、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムは、従来より用いられている汎用的な還元剤であり、コストも安いので、これらを用いるのが好ましい。
【0022】
本発明は、上記のような分離膜の改質方法により改質された分離膜についても提供するものである。
【0023】
本発明に係る分離膜の改質装置は、分離膜に、ポリフェノールを含む有機物質および還元剤を含む水を加圧通水し、分離膜の阻止性能を向上、回復させる手段を有することを特徴とするものからなる。
【0024】
上記ポリフェノールを含む有機物質および還元剤を含む水を分離膜へ供給する手段としては、ポリフェノールを含む有機物質および還元剤を混合した混合液を、分離膜へ供給する手段とすることができる。
【0025】
また、上記ポリフェノールを含む有機物質および還元剤を含む水を分離膜へ供給する手段として、分離膜へ原水を供給するラインに、還元剤を含む水、ポリフェノールを含む有機物質を含む水の順番で注入し、分離膜へ供給する手段とすることもできる。
【0026】
上記分離膜としては、改質処理前の500mg/L塩化ナトリウム水溶液の阻止率が、99%以下の性能を持つ分離膜が使用されることが好ましい。
【0027】
また、上記分離膜として、逆浸透膜またはナノろ過膜が使用されることが好ましい。
【0028】
また、上記分離膜として、スパイラル型膜エレメントが使用されることが好ましい。
【0029】
また、上記分離膜として、少なくとも芳香族ポリアミド系素材を含む膜が使用されることが好ましい。
【0030】
上記有機物質の平均分子量としては、200〜5000であることが好ましい。
【0031】
また、上記有機物質として、タンニン酸が用いられることが好ましい。
【0032】
タンニン酸としては、加水分解型タンニンが用いられることが好ましい。
【0033】
また、タンニン酸として、五倍子を原料として作られたものが用いられることが好ましい。
【0034】
上記還元剤としては、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムのうち、少なくともいずれか1つを含む物質が用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、原水等が酸化性雰囲気である場合にあっても、効果的に分離膜を改質でき、市販の分離膜を改質処理することによって、阻止性能を大幅かつ確実に向上させることができ、高い阻止性能を維持しながら、さらなる低圧化を実現した膜を提供することができる。また、劣化した膜の確実な性能回復および安定した運用にも大きな効果があり、産業上の利用価値は非常に高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下に、本発明の望ましい実施の形態について説明する。以下に説明する実施の形態は、本発明の一例を示すものであり、本発明の内容を制限するものではない。
【0037】
本発明の第1の実施の形態(オフライン処理)に係る分離膜の改質方法を図1を参照して説明する。図1は本例の処理方法を実施する、膜改質装置の機器系統図である(圧力計、流量計、弁などは適宜省略してある)。1は分離膜供給水タンク(原水タンク)、2は加圧ポンプ、3は分離膜モジュール、4は圧力調節弁、5〜9はボール弁からなる弁を、それぞれ示している。なお、分離膜モジュール3は、分離膜そのものである膜エレメント31と、膜エレメントを格納するための耐圧容器であるベッセル32から成る。
【0038】
ベッセル32内に膜エレメント31を装填後、弁5を閉の状態でタンク1に水を十分量入れ、弁6、8、9を閉、弁5、7を開、弁4を適宜開として、ポンプ2を起動する。圧力がかからない状態でしばらく通水し、必要であればタンク1へ水を補給しながら、分離膜モジュール3を水洗する。なお、本発明でいう圧力がかからない状態とは、透過水が得られないほどの低圧の状態をいう。
【0039】
次にポンプ2停止後、弁5を閉として、タンク1に水を所定量入れ、改質薬品である有機物質および還元剤を所定量加えて、十分に溶解する。弁7、9を閉、弁5、6、8を開、弁4を所定の圧力になるように開として、ポンプ2を起動する。
【0040】
所定時間経過後、ポンプ2を停止し、弁9を開けてタンク1内の薬液を排出する。水でタンク1を水洗後、弁9を閉として水を貯留する。弁6、8、9を閉、弁5、7を開、弁4を適宜開として、ポンプ2を起動する。圧力がかからない状態でしばらく通水し、必要であればタンク1へ水を補給しながら、分離膜モジュール3を水洗する。また弁6も開として、循環ラインの水洗も適宜行なう。
【0041】
改質処理後の分離膜は、水処理装置全体のシステム中で用いることができる。例えば、原水を凝集沈殿、砂ろ過、膜ろ過等の方法で除濁処理後、改質処理をした分離膜を用いたり、後段にEDIを用いたりすることもできる。
【0042】
タンク1に供給する水は、純水が好ましいが、純水が利用できない場合は、SDI値が5以下の除濁水を用いてもよい。本方法では、還元剤を添加しているため、酸化性雰囲気の水であっても、分離膜に影響のない除濁水であれば、純水以外を用いることもできる。また、純水を用いている場合でも、長期的には空気中の酸素が溶液に溶解することによって、酸化性雰囲気となり、有機物質の効果が低減する恐れがあるので、予防的に還元剤を添加する方が好ましい。
【0043】
処理時間は、特に限定されないが、5分〜24時間、好ましくは10分〜6時間であることが、効率の良い処理をするために好ましい。5分未満では処理の効果が薄く、24時間を超えるとファウリングを起こしたり、処理効果のさらなる向上が望めなかったりする場合があり、好ましくない。
【0044】
改質処理前後で、処理の効果を確認する方法としては、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウムなどの電解質水溶液を用いて、塩類の阻止性能を評価する他、シリカ(ケイ酸ナトリウム)やアルコール類等のTOC成分の阻止性能を評価することが好ましい。通常、ROやNFの性能評価は電解質水溶液を用いることが多いが、改質処理によって、非電解質成分の阻止性能も向上するため、シリカやTOCを指標として用いるのが良い。
【0045】
本発明の第2の実施の形態(オンライン処理)に係る分離膜の改質方法を図2を参照して説明する。図2は本例の運転方法を実施する、分離膜装置の機器系統図である(圧力計、流量計、弁などは適宜省略してある)。1は分離膜供給水タンク(原水タンク)、2は加圧ポンプ、3は分離膜モジュール、4は圧力調節弁、4〜9はボール弁からなる弁、10、20は薬液タンク、11、21は薬注ポンプを、それぞれ示している。なお、分離膜モジュール3は、分離膜そのものである膜エレメント31と、膜エレメントを格納するための耐圧容器であるベッセル32から成る。
【0046】
通常の運転時は、前段からの水、例えば除濁処理された原水を、供給水タンク1に受ける。弁5、7を開、弁4を所定の圧力になるように開、弁6、8、9を閉として、加圧ポンプ2にて加圧された原水を、分離膜モジュール3で濃縮水と透過水に分離し、濃縮水はブロー、透過水は後段の装置へ送水される。なお、ボール弁6および7を適宜調整し、濃縮水を一部循環する場合もある。
【0047】
薬液タンク10には、あらかじめ所定の濃度とした還元剤水溶液を、薬液タンク20には、あらかじめ所定の濃度とした有機物質水溶液を貯留しておく。水質計12がある基準値以下となったら、薬注ポンプ11、21へ電気信号が送られ、ポンプが起動する。薬注ポンプ11、21は、あらかじめ所定の注入量となるように設定しておく。
【0048】
注入開始後、水質計12がある基準値以上となったら、薬注ポンプ11、21へ電気信号が送られ、ポンプが停止する。
【0049】
なお、断続的に添加を行う場合で、一定時間毎に添加を行うケースでは、水質計からの電気信号は必要なく、一定時間毎に、自動または手動で、薬注ポンプ11、21を起動すればよい。また、連続的に添加を行う場合には、薬注ポンプ11、21は常に起動しておく。なお還元剤は、原水中に含まれる酸化剤を還元する目的で添加している場合には、有機物質を断続的、連続的いずれの添加をしている場合にかかわらず、薬注ポンプ11を常に起動しておき、還元剤を連続して添加する。
【0050】
有機物質の添加中、後段への支障がなければ、通常の運転を停止する必要はない。有機物質の透過水への漏えいが見られる場合で、後段への支障が生じ得る場合は、添加中に弁5を閉、弁9を開として、透過水をブローすることもできるし、もしくは弁5を閉、弁8を開として、透過水を循環することもできる。循環とする場合には、弁7を閉、弁6を開として、濃縮水も循環しても良い。この場合には、薬液濃度が一定濃度に達した時点で、薬注ポンプ11、21を停止する。
【0051】
上記実施の形態では、1モジュールの形態を例示したが、クリスマスツリー状の配置、2段ROなど、複数エレメントを含む複数モジュールで構成される分離膜装置にも本発明は適用できる。
【0052】
改質薬品である有機物質の濃度は、特に限定されないが、分離膜モジュール入口において0.1〜200mg/L、好ましくは0.5〜100mg/Lであることが、効率良い処理をするために望ましい。0.1mg/L未満では効果が薄く、200mg/Lを超えるとファウリングを起こす場合があり、好ましくない。
【0053】
還元剤の濃度は、特に限定されないが、分離膜モジュール入口において0.1〜200mg/L、好ましくは0.2〜100mg/Lであることが、効率良い処理をするために望ましい。0.1mg/L未満では効果が薄く、200mg/Lを超えると、薬品コストがかさみ、好ましくない。
【0054】
前記加圧通水時の透過流束は、0.3〜5.0m/dayの範囲とすることが、好適な改質効果を得るために望ましい。より好ましい透過流束の範囲は、0.5〜3.0m/day、さらに好ましくは0.7〜2.0m/dayである。 0.3m/day未満では、有機物質の吸着効果が低く、阻止性能の向上が見込めない。5.0m/dayを超えると、ファウリングを起こす場合があり、好ましくない。従来、海淡用の中空糸RO膜にてタンニン酸処理をするケースがあったが、処理の際の透過流束が非常に低く、効果が不十分であった。本発明方法では、0.3〜5.0m/dayと高い透過流束にて処理を行なうことで、高い改質効果を実現できる。
【0055】
前記有機物質を含む水に酸を添加し、pHを1〜5としてもよい。pHを上記範囲にコントロールすることにより、有機物質の沈殿を防ぎ、改質を適切に実施することができる。酸としては、特に限定されないが、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、クエン酸、シュウ酸、カルボン酸、などを用いることができ、特にクエン酸は入手が容易で、毒性も低いことから用いやすく、操作性が良い。
【0056】
本発明で言うポリフェノールとは、複数の水酸基が結合した芳香族化合物を総称した、一般的なポリフェノール類のことを指す。ポリフェノールとしては例えば、アントシアニン、カテキン、タンニン、ルチン、ケルセチン、イソフラボン、フラボノイド、フミン類、フルボ酸、などが挙げられるが、特に限定はされない。
【0057】
タンニンはタンニン酸、タンニン類とも呼ばれ、混同して用いられるが、本願中では全て同義で用いている。また、五倍子タンニンのことをガロタンニンと呼ぶこともある。なお五倍子とは、ヌルデ属植物の虫コブのことである。
【0058】
タンニン酸には、加水分解型と縮合型がある。前者の原料の例としては、五倍子、没食子、チェストナット(Chestnut)、オーク(Oak Wood)、ユーカリプタス(Eucalyptus)、ディビディビ(Divi-Divi)、タラ(Tara)、スマック(Sumac)、ミラボラム(Myrabolam)、アルガロビア(Algarobilla)、バロニア(Valonea)、胡桃、栗、木苺、グミ、ザクロ、アカメガシワ、ウルシ科、サンシュユ、ゲンノショウコ、などが挙げられる。後者の原料の例としては、ケプラチョ(Quebracho)、ビルマカッチ(Burma Cutch)、ワットル(Wattle)、ミモザ(Mimosa)、スプルース(Spruse)、ヘムロック(Hemlock)、マングローブ(Mangrove)、カシワ樹皮(Oak bark)、アバラム、ガンビア(Gambier)、茶、柿渋、ユキノシタ、ブドウ、リンゴ、蓮根、コーヒー、しそ、ボケ、椿、ローズマリー、パセリ、サルビアの花、ヒマワリ、などが挙げられる。なお、加水分解型はピロガロール型(Hydrolyzable Tannin)、縮合型はカテコール型(Condensel Tannin)とも呼ばれる。
【実施例】
【0059】
次に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【0060】
実施例1
有機物質として五倍子タンニンを、還元剤として亜硫酸水素ナトリウム用いて、図1に示す装置にて、第1の実施の形態に示す方法により改質処理を行った。膜は日東電工社製LES90-D8の新品を用いた。薬液濃度は分離膜入口でそれぞれ50mg/Lとし、溶解水はORPが+600mVである、酸化傾向を持つ除濁水を用いた。処理時間は1時間、処理時の透過流束はそれぞれ1.0m/dayとした。
【0061】
比較例1−1
実施例1において、還元剤を使用せず、五倍子タンニンによる改質処理のみを実施した以外は、実施例1と同じ方法にて処理を行った。
【0062】
比較例1−2
実施例1において、有機物質を使用せず、亜硫酸水素ナトリウムの添加処理のみを実施した以外は、実施例1と同じ方法にて処理を行った。
【0063】
上記処置前後、それぞれの膜のNaCl透過率(透塩率)、Ca2+透過率を測定し、性能評価を行った。なお、透塩率は導電率にて評価した。性能評価時の透過流束は、1.0m/dayとした。結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
還元剤を使用せず、五倍子タンニンによる改質処理のみを実施した比較例1−1では、若干の改質効果があったものの、実施例1と比較して効果が不十分であった。分離膜へ有機物質が到達する前に、有機物質が分解してしまったものと推定される。有機物質を使用せず、亜硫酸水素ナトリウムの添加処理のみを実施した比較例1−2では、性能の向上は全く見られなかった。一方、有機物質および還元剤の混合液を用いた実施例1では、大幅な性能向上が見られ、改質の効果が大きかった。
【0066】
実施例2
有機物質として五倍子タンニンを、還元剤として亜硫酸ナトリウム用いて、図2に示す装置にて、第2の実施の形態に示す方法により処理を行った。タンク1に受けた原水は、前段の膜除濁装置にて除濁処理された地下水であり、運転期間中の導電率は、平均20mS/m前後で安定していた。また、ORPは平均+600mVであり、酸化傾向を持つ水であった。膜は日東電工社製ES-10-D8を用いた。有機物質および還元剤濃度は、分離膜モジュールの入口で10mg/Lとなるように調整した。水質計にて、透過水の導電率を監視し、次の条件で有機物質が添加されるように設定した。
・1mS/m以上:添加開始
・0.7mS/m以下:添加停止
【0067】
比較例2−1
実施例2において、還元剤を使用せず、五倍子タンニンによる処理のみを実施した以外は、実施例2と同じ方法にて処理を行った。
【0068】
比較例2−2
実施例2において、有機物質を使用せず、亜硫酸ナトリウムの添加のみを実施した以外は、実施例2と同じ方法にて処理を行った。
【0069】
上記条件にて連続運転を実施し、運転初期、1ヵ月後、2ヵ月後、3ヵ月後それぞれの性能評価を行った。なお、透過水量は、運転初期を100とした相対値で示した。結果を表2に示す。
【0070】
【表2】

【0071】
還元剤を使用せず、五倍子タンニンによる処理のみを実施した比較例2−1では、若干の処理効果が見られたものの、実施例2と比較して効果が不十分であり、経時的に性能の劣化が起こってしまった。分離膜へ有機物質が到達する前に、有機物質が分解してしまったものと推定される。有機物質を使用せず、亜硫酸ナトリウムの添加処理のみを実施した比較例2−2では、性能の回復は全く見られず、大幅な性能の劣化が起こった。一方、有機物質および還元剤を併せて用いた実施例2では、安定した運用が可能となり、処理の効果が大きかった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明に係る分離膜の改質方法および装置並びにその方法により処理された分離膜は、原水等が酸化性雰囲気である場合にあっても分離膜の効果的な改質が要求されるあらゆる用途に適用でき、とくに逆浸透膜やナノろ過膜を改質するのに好適なものである。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る分離膜の改質装置の機器系統図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係る分離膜の改質装置の機器系統図である。
【符号の説明】
【0074】
1 分離膜供給水タンク(原水タンク)
2 加圧ポンプ
3 分離膜モジュール
4、5、6、7、8、9 弁
10 薬液タンク(還元剤水溶液貯留)
11、21 薬注ポンプ
20 薬液タンク(有機物質水溶液貯留)
31 膜エレメント
32 耐圧容器としてのベッセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離膜に、ポリフェノールを含む有機物質および還元剤を含む水を加圧通水し、分離膜の阻止性能を向上、回復させることを特徴とする、分離膜の改質方法。
【請求項2】
前記ポリフェノールを含む有機物質および還元剤を含む水を分離膜へ供給する方法として、ポリフェノールを含む有機物質および還元剤を混合した混合液を、分離膜へ供給することを特徴とする、請求項1に記載の分離膜の改質方法。
【請求項3】
前記ポリフェノールを含む有機物質および還元剤を含む水を分離膜へ供給する方法として、分離膜へ原水を供給するラインに、還元剤を含む水、ポリフェノールを含む有機物質を含む水の順番で注入し、分離膜へ供給することを特徴とする、請求項1または2に記載の分離膜の改質方法。
【請求項4】
前記分離膜として、改質処理前の500mg/L塩化ナトリウム水溶液の阻止率が、99%以下の性能を持つ分離膜を使用することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の分離膜の改質方法。
【請求項5】
前記分離膜として、逆浸透膜またはナノろ過膜を使用することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の分離膜の改質方法。
【請求項6】
前記分離膜として、スパイラル型膜エレメントを使用することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の分離膜の改質方法。
【請求項7】
前記分離膜として、少なくとも芳香族ポリアミド系素材を含む膜を使用することを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の分離膜の改質方法。
【請求項8】
前記有機物質の平均分子量が、200〜5000であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の分離膜の改質方法。
【請求項9】
前記有機物質として、タンニン酸を用いることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の分離膜の改質方法。
【請求項10】
前記タンニン酸として、加水分解型タンニンを用いることを特徴とする、請求項9に記載の分離膜の改質方法。
【請求項11】
前記タンニン酸として、五倍子を原料として作られたものを用いることを特徴とする、請求項9または10に記載の分離膜の改質方法。
【請求項12】
前記還元剤として、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムのうち、少なくともいずれか1つを含む物質を用いることを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の分離膜の改質方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の分離膜の改質方法により改質された分離膜。
【請求項14】
分離膜に、ポリフェノールを含む有機物質および還元剤を含む水を加圧通水し、分離膜の阻止性能を向上、回復させる手段を有することを特徴とする、分離膜の改質装置。
【請求項15】
前記ポリフェノールを含む有機物質および還元剤を含む水を分離膜へ供給する手段として、ポリフェノールを含む有機物質および還元剤を混合した混合液を、分離膜へ供給する手段からなることを特徴とする、請求項14に記載の分離膜の改質装置。
【請求項16】
前記ポリフェノールを含む有機物質および還元剤を含む水を分離膜へ供給する手段として、分離膜へ原水を供給するラインに、還元剤を含む水、ポリフェノールを含む有機物質を含む水の順番で注入し、分離膜へ供給する手段からなることを特徴とする、請求項14または15に記載の分離膜の改質装置。
【請求項17】
前記分離膜として、改質処理前の500mg/L塩化ナトリウム水溶液の阻止率が、99%以下の性能を持つ分離膜が使用されることを特徴とする、請求項14〜16のいずれかに記載の分離膜の改質装置。
【請求項18】
前記分離膜として、逆浸透膜またはナノろ過膜が使用されることを特徴とする、請求項14〜17のいずれかに記載の分離膜の改質装置。
【請求項19】
前記分離膜として、スパイラル型膜エレメントが使用されることを特徴とする、請求項14〜18のいずれかに記載の分離膜の改質装置。
【請求項20】
前記分離膜として、少なくとも芳香族ポリアミド系素材を含む膜が使用されることを特徴とする、請求項14〜19のいずれかに記載の分離膜の改質装置。
【請求項21】
前記有機物質の平均分子量が、200〜5000であることを特徴とする、請求項14〜20のいずれかに記載の分離膜の改質装置。
【請求項22】
前記有機物質として、タンニン酸が用いられることを特徴とする、請求項14〜21のいずれかに記載の分離膜の改質装置。
【請求項23】
前記タンニン酸として、加水分解型タンニンが用いられることを特徴とする、請求項22に記載の分離膜の改質装置。
【請求項24】
前記タンニン酸として、五倍子を原料として作られたものが用いられることを特徴とする、請求項22または23に記載の分離膜の改質装置。
【請求項25】
前記還元剤として、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムのうち、少なくともいずれか1つを含む物質が用いられることを特徴とする、請求項14〜24のいずれかに記載の分離膜の改質装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−167725(P2007−167725A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−366099(P2005−366099)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】