説明

切削可能な継手構造

【課題】互いに接合される土留め壁材の維強化樹脂製補強材において、複数のせん断ずれ面を有する継手部を構成することにより、1本のボルトが伝達する耐力が向上した、シールド掘進機により切削可能な継手構造を提供する。
【解決手段】第1部材1A及び第2部材1Bのフランジ2a、2bに対して、第1部材1A及び第2部材1Bの接合面1Ca、1Cbから長手軸線方向に所定の距離に亘って、フランジ2a、2bの幅方向にスリット状のキー溝51a、51bを形成し、第1部材1A及び第2部材1Bのキー溝51a、51bに適合して、シールド掘進機により切削可能な添接用キー部材52を挿入し、フランジ2a、2b及び添接用キー部材52を貫通する取付穴35を形成し、取付穴35にシールド掘進機により切削可能な固定用軸部材を挿入して、第1部材1Aと第2部材1Bを一体に接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般には、地中を掘削するシールド掘進機の発進又は到達のための発進到達部を有するトンネル掘進用立坑における土留め壁体の構造に関するものである。特に、シールド掘進機により切削可能な土留め壁材用の横断面形状がH形(本願明細書及び特許請求の範囲では、I形をも含めて「H形」という。)とされる繊維強化樹脂製補強材である第1部材と第2部材とを長手軸線方向に一体に接合するための切削可能な継手構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5及び図6に示すように、トンネル掘進用立坑200は、鉄筋コンクリート製の土留め壁体201及び底板202などにて構築されるが、立坑200のシールド掘進機300が発進又は到達する開口部分には、シールド掘進機300により掘削が可能なように、繊維補強コンクリート壁体203を使用することが提案され、又実施されている。
【0003】
つまり、立坑200の鉄筋コンクリート製の土留め壁体201は、H型鋼或いは箱形鋼などの鋼部材101とされる立坑壁用部材(土留め壁材)100にて構築されているが、シールド掘進機300により切削可能な繊維補強コンクリート壁体203は、細長形状のシールド掘削用繊維補強コンクリート材1を縦方向に配置し、所定の間隔にて横方向に配列して構成される。シールド掘削用繊維補強コンクリート材1としては、従来種々の構造が提案されている。
【0004】
特許文献1には、図4に示すように、シールド掘削用繊維補強コンクリート材1として切削可能なシールド掘削用繊維補強材を備えた立坑壁用部材、即ち、土留め壁材100が記載されている。
【0005】
本例にて、図4に示すように、土留め壁材100は、シールド掘進機300により切削可能なシールド掘削用繊維補強コンクリート材、即ち、繊維強化樹脂製補強材(FRP製H型鋼)1と、繊維強化樹脂製補強材1の上下両端に固定された継手部10とを有する。土留め壁材100は、継手部10を介して、立坑200の構成鋼部材101であるH型鋼或いは箱形鋼などが接続される。
【0006】
繊維強化樹脂製補強材1の上下両端に一体に形成される継手部10は、連結金具10a及び定着治具10b等を備え、連結金具10aの一端は、立坑構成鋼部材101に溶接、ボルトなどにより接続され、連結金具10aの他端は、繊維強化樹脂製補強材1の作製時に一体に成形された定着治具10bの鋼製端板10cに溶接、ボルトなどにより一体に接続される。継手部10の構造は、これに限定されるものではなく、当業者には周知のその他種々の構造が可能である。
【0007】
繊維強化樹脂製補強材1は、所定の幅の平面部を有し、長手軸線方向に延在するウェブ2と、このウェブ2の両縁部に一体に形成されたフランジ3、4を、横断面形状がH形となるように一体に成形した繊維強化樹脂材(FRP材)である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−154535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記構成の繊維強化樹脂材とされる土留め壁材100を使用した立坑壁203は、シールド掘進機300により掘削が可能であるという特長を有しているが、次のような問題がある。
【0010】
つまり、大型のシールドのための土留め壁材100は、必然的にその長さが長くなり、搬送が困難なものとなることがあり、分割して搬送することが余儀なくされる。また、路下施工等を行うものは現場接合する必要がある。このような場合、切削部とされる土留め壁材100の接合部は、切削可能でなければならない。
【0011】
そのために、土留め壁材100にて、切断分離された第1部材及び第2部材とされた繊維強化樹脂製補強材1は、接合継手部に金属を使用することはできず、シールド掘進機にて切削可能でなければならない。そのため、シールド掘進機にて切削可能な部材のみで継手構造を構成する必要がある。
【0012】
しかし、接合継手部を全て切削可能な部材で作製した場合には、曲げ耐力が小さく、土留め壁部材として十分な性能を発揮することが困難となる。
【0013】
具体的には、従来のように、第1及び第2部材であるFRP製H型鋼を樹脂製添板と樹脂製ボルトを用いて接合した場合、ボルトのせん断耐力が小さいため、主としてフランジに生じる引張力及び圧縮力を十分伝えることができず、ボルトのせん断破壊により曲げ耐力が決まっていた。
【0014】
そこで、本発明の目的は、互いに接合される土留め壁材の維強化樹脂製補強材において、複数のせん断ずれ面を有する継手部を構成することにより、1本のボルトが伝達する耐力が向上した、シールド掘進機により切削可能な継手構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的は本発明に係る切削可能な継手構造にて達成される。要約すれば、本発明は、シールド掘進機により切削可能な土留め壁材用の、長手軸線方向に延在するウェブと、このウェブの両端部に一体に形成されたフランジとを備えた横断面形状がH形とされる繊維強化樹脂製補強材とされる第1部材と第2部材とを長手軸線方向に接合するための継手構造であって、
前記第1部材及び前記第2部材の前記フランジに対して、前記第1部材及び前記第2部材の接合面から長手軸線方向に所定の距離に亘って、前記フランジの幅方向に少なくとも一つ以上のスリット状のキー溝を形成し、
前記第1部材及び前記第2部材の前記キー溝に適合して、シールド掘進機により切削可能な添接用キー部材を挿入し、
前記フランジ及び前記添接用キー部材を貫通する取付穴を形成し、前記取付穴にシールド掘進機により切削可能な固定用軸部材を挿入して、前記第1部材と前記第2部材を一体に接合する、
ことを特徴とする継手構造である。
【0016】
本発明の一実施態様によると、前記添接用キー部材は、前記キー溝の横断面形状と同じとされる矩形の板状部材である。
【0017】
本発明の他の実施態様によると、前記フランジの外側面及び/又は内側面に切削可能な添接板を配置し、前記添接板を前記フランジ及び前記添接用キー部材と共に前記固定用軸部材により固定し、前記第1部材と前記第2部材を一体に接合する。
【0018】
本発明の他の実施態様によると、前記添接板及び前記添接用キー部材は、プラスチック、繊維補強プラスチック、又は、繊維補強発泡ウレタンで構成され、前記固定用軸部材は、プラスチック、又は、繊維補強プラスチックで構成される。また、前記添接板及び前記添接用キー部材は、繊維補強プラスチックとする場合には、補強繊維としては、PAN系或いはピッチ系炭素繊維、ガラス繊維、セラミックス繊維、ボロン繊維等の無機繊維;チタン、スチール等の金属繊維;アラミド、ポリエステル、ポリエチレン、ナイロン、ビニロン、ポリアセタール、PBО、高強度ポリプロピレン等の有機繊維;から選択されるいずれかの繊維であるか、或いは、前記繊維を複数種混入したハイブリッドタイプとされるものを使用し、マトリクス樹脂としては、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、常温硬化型エポキシ樹脂、熱硬化型エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂、又は、MMA等のラジカル反応系樹脂を少なくとも一種以上含むものを使用する。
【0019】
本発明の他の実施態様によると、前記繊維強化樹脂製補強材は、強化繊維を軸線方向に沿って配列するか、若しくは、軸線方向に対して所定の角度にて傾斜して配列した強化繊維シートであるか、又は、クロス状の強化繊維シートであるか、又は、短繊維をランダム方向に配列したマット材に、樹脂を含浸して形成される。ここで、前記強化繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、セラミックス繊維、ボロン繊維等の無機繊維;チタン、スチール等の金属繊維;アラミド、ポリエステル、ポリエチレン、ナイロン、ビニロン、ポリアセタール、PBО、高強度ポリプロピレン等の有機繊維;から選択されるいずれかの繊維であるか、或いは、前記繊維を複数種混入したハイブリッドタイプとされる。また、前記樹脂は、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、常温硬化型エポキシ樹脂、熱硬化型エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂、又は、MMA等のラジカル反応系樹脂を少なくとも一種以上含む。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、互いに接合される土留め壁材の維強化樹脂製補強材において、複数のせん断ずれ面を有する継手部を構成することにより、1本のボルトが伝達する耐力が向上したシールド掘進機により切削可能な継手構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る継手構造の一実施例の概略構成を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る継手構造の一実施例の概略構成を示す分解斜視図である。
【図3】図3(a)は、図1の線a−aに取った本発明に係る継手構造の一実施例の概略構成を示す断面図であり、図3(b)は、同様の他の実施例を示す断面図である。
【図4】土留め壁材の一実施例を示す斜視図である。
【図5】立坑構造を説明するための断面図である。
【図6】立坑壁の構造を説明するための断面図である。
【図7】繊維強化樹脂製補強材を作製するための強化繊維シートの一実施例を示す斜視図である。
【図8】繊維強化樹脂製補強材を作製するための強化繊維シートの一実施例を示す分解斜視図である。
【図9】繊維強化樹脂製補強材の製造法を説明するための説明図である。
【図10】繊維強化樹脂製補強材の製造法を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係るシールド掘削用繊維補強材の継手構造を図面に則して更に詳しく説明する。
【0023】
実施例1
本発明は、土留め壁材に関するものであり、先に図4を参照して説明した土留め壁材100におけるシールド掘削用繊維補強材1の切削可能な継手構造に特徴を有する。
【0024】
図1〜図3に、本発明に係るシールド掘削用繊維補強材1の継手構造20の一実施例を説明する。
【0025】
先ず、図4を参照して、先に説明した土留め壁材100におけるシールド掘削用繊維補強材1について再度説明する。
【0026】
土留め壁材100は、図5、図6を参照して上述したように、立坑200のシールド掘削用立坑壁203を形成する立坑壁用部材、即ち、打込部材を構成する。
【0027】
本実施例にて、図4に示すように、土留め壁材100は、シールド掘進機300により切削可能な繊維強化樹脂製補強材1と、繊維強化樹脂製補強材1の上下両端に固定された継手部10とを有する。土留め壁材100は、継手部10を介して、立坑200の構成鋼部材101であるH型鋼或いは箱形鋼などが接続される。
【0028】
繊維強化樹脂製補強材1の上下両端に一体に形成される継手部10は、従来と同様に、連結金具10a及び定着治具10b等を備え、連結金具10aの一端は、立坑構成鋼部材101に溶接、ボルトなどにより接続され、連結金具10aの他端は、繊維強化樹脂製補強材1の作製時に一体に成形された定着治具10bの鋼製端板10cに溶接、ボルトなどにより一体に接続される。継手部10の構造は、これに限定されるものではなく、当業者には周知のその他種々の構造が可能である。
【0029】
(繊維強化樹脂製補強材)
図4を参照して、本実施例の細長形状の繊維強化樹脂製補強材1について説明する。
【0030】
繊維強化樹脂製補強材1は、所定の幅(W1)の平面部を有し、長手軸線方向に長さ(L)だけ延在するウェブ2と、このウェブ2の両端部に一体に形成された所定の幅(W2)のフランジ3、4を、横断面形状がH形となるように一体に成形した繊維強化樹脂材(FRP材)である。
【0031】
本実施例の横断面形状がH形形状とされる繊維強化樹脂製補強材1は、図7に示すような連続強化繊維シート11を使用して、引抜成形や加圧成型により作製することができる。勿論、図示してはいないが、クロス状の連続強化繊維シート11を使用することもできる。更には、図示してはいないが、短繊維をランダム方向に配列したマット材を使用することもできる。
【0032】
本実施例にて使用した連続強化繊維シート11について説明する。
【0033】
本実施例では、連続強化繊維シート11は、図7及び図8に示すように、メッシュ状支持体シート12を強化繊維層13の片面に積層し、次いで、加熱加圧することにより作製した。
【0034】
本実施例にて、連続強化繊維シート11は、上述のように、樹脂透過性の支持体シート12と、この支持体シート12にて保持された強化繊維層13とを有する。強化繊維層13は、主軸に対して所定の角度(α)にて配列され、実質的に、即ち、連続強化繊維シート11の先頭端と最後尾端を除いて一定の所定長さ(F)とされる長繊維の強化繊維14にて形成される。シート形状とされる連続強化繊維シート11には、未だマトリクス樹脂は含浸されてはいない。マトリクス樹脂は、使用時に含浸することもでき、場合によっては、使用に先立って予め含浸して連続強化繊維シート11をプリプレグの状態としておくことも可能である。
【0035】
本明細書にて「主軸」とは、連続強化繊維シート11の長手方向に沿った軸を意味するものとする。樹脂透過性支持体シート12は、図7及び図8に示す本実施例では、強化繊維層13の片面に配置されているが、強化繊維層13の両面に配置することもできる。
【0036】
本実施例の連続強化繊維シート11は、幅(W0)が10〜150cm、長さ(L0)が1m以上とされる。従って、連続的に行われる引抜成形加工用の基材として好適に使用し得る。
【0037】
本実施例にて、強化繊維層13を構成する強化繊維14は、PAN系或いはピッチ系炭素繊維、ガラス繊維、セラミックス繊維、ボロン繊維等の無機繊維;チタン、スチール等の金属繊維;アラミド、ポリエステル、ポリエチレン、ナイロン、ビニロン、ポリアセタール、PBО、高強度ポリプロピレン等の有機繊維;から選択されるいずれかの繊維であるか、或いは、前記繊維を複数種混入したハイブリッドタイプとされるものを使用することができる。
【0038】
上記樹脂透過性支持体シート12は、2軸又は3軸などのメッシュ状体或いはクロスとすることができるが、本実施例では図示するように、2軸メッシュ状体を使用した。2軸メッシュ状体12の糸条15、16の間隔(w1、w2)は、通常1〜100mm程度であるが、好ましくは2〜50mmである。
【0039】
メッシュ状支持体シート12にて強化繊維層13を保持する方法としては、例えば、メッシュ状支持体シート12を構成する縦糸15及び横糸16の表面に低融点タイプの熱可塑性樹脂を予め含浸させておき、メッシュ状支持体シート12を強化繊維層13の片面或いは両面に積層して加熱加圧し、メッシュ状支持体シート12の縦糸15及び横糸16の部分を強化繊維層13に溶着する。
【0040】
樹脂透過性支持体シート12としてクロスを使用した場合にも同様の方法にて、強化繊維層13を保持することができる。
【0041】
本実施例では、連続強化繊維シート11における強化繊維層13は、強化繊維14として平均径7μm、収束本数12000本のPAN系炭素繊維ストランドを用い、繊維目付300g/m2にて配列した。メッシュ状支持体シート12は、縦糸15及び横糸16としてガラス繊維(番手300d、打ち込み本数1本/10mm)を用いた2軸メッシュ状体であった。2軸メッシュ状体の糸条の間隔(w1、w2)は、10mmとした。
【0042】
メッシュ状支持体シート12の縦糸15及び横糸16には、熱可塑性樹脂を、含有量30重量%の割合で含浸させた。
【0043】
このようにして作製した連続強化繊維シート11は、幅(W0)が50cm、長さ(L0)が100m、強化繊維の主軸に対する傾斜角度αは45°と、0°のものを使用した。以後、角度αが45°のものをバイアス強化繊維シート11aと呼び、角度αが0°のものを一方向配列強化繊維シート11bと呼ぶ。
【0044】
図9及び図10に概略示すように、バイアス強化繊維シート11a、及び、一方向配列強化繊維シート11bを概略H形形状に組合せて、モールドへと送給し、引抜成形し、その後硬化して、H形の繊維強化樹脂製補強材1を作製した。
【0045】
バイアス強化繊維シート11a及び一方向配列強化繊維シート11bは、マトリクス樹脂を予め含浸してあるプリプレグを使用した。バイアス強化繊維シート11a及び一方向配列強化繊維シート11bにおける樹脂含有量は、35重量%であった。バイアス強化繊維シート11a及び一方向配列強化繊維シート11bは、強化繊維として炭素繊維を使用した。
【0046】
マトリクス樹脂としては、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、常温硬化型エポキシ樹脂、熱硬化型エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂、又は、MMA等のラジカル反応系樹脂を少なくとも一種以上含むものを使用することができる。本実施例では、常温硬化型エポキシ樹脂を使用した。
【0047】
引抜成形された繊維強化樹脂製補強材1は、通常、幅(W1)が50〜600mm、幅(W2)が100〜400mm、厚み(T)が5〜100mm、長さ(L)が15〜20mとされる。本実施例では、幅(W1)400mm、幅(W2)300mm、厚み(T)50mm、長さ(L)16mのものであった。
【0048】
(繊維強化樹脂製補強材の継手構造)
図1及び図2は、繊維強化樹脂製補強材1の継手構造20の一実施例を示す。図1は、継手構造20の組み立て後の斜視図である。図2は、継手構造20を組み立てる前の分解斜視図である。
【0049】
本実施例によれば、繊維強化樹脂製補強材1は、現場への搬送のために、略半分(L/2)の位置にて繊維強化樹脂製補強材1の長手軸線方向に対して直交する方向に切断され、第1の部材1Aと第2の部材1Bとに分離されている。第1部材1Aと第2部材1Bは、現場に搬送後に、本実施例に従って継手構造20にて接続される。
【0050】
第1部材1Aと第2部材1Bとの切断位置におけるウェブ2a、2bの接合面1Cは、繊維強化樹脂製補強材1の長手軸線方向に対して直交する方向にて直線状であっても良いが、図示するように、一方を、本実施例では、第1部材1Aのウェブ2aの接合面1Caを凸形状とし、他方の第2部材1Bのウェブ2bの接合面1Cbは、第1部材1Aの凸形状とは相補形状の凹形状とされる。このように切断することにより、第1及び第2部材1A及び1Bを接合した時に、繊維強化樹脂製補強材1の長手軸線方向に対して直交する方向への位置ずれを抑制することができる。
【0051】
本実施例によれば、第1部材1A及び第2部材1Bのフランジ3a、4a及び3b、4bには、接合部において、同じ構造の継手構造20が形成される。従って、以下の説明では、主として、フランジ3a、3bに形成される継手構造20について説明する。
【0052】
本実施例によれば、第1部材1A及び第2部材1Bのフランジ3a、3b(4a、4b)には、それぞれ、互いに対面する接合面1Cから長手軸線方向に沿って、それぞれ、フランジ3a、3b(4a、4b)の幅(W2)方向に貫通したスリット状の溝、即ち、スリット幅(t1)のスリット51a、51bが、長手軸線方向に距離(L1)にて形成される。ここで、通常、スリット幅t1は、1〜30mmとされる。
【0053】
上記スリット51a、51bには、このスリット51a、51bに嵌合する形状をした、本実施例では、厚さ(t2)(t2≦t1)、幅(W3)(W3≒W2)、長さ(L2)(L2≦2L1の矩形状とされる板状添接用キー部材52が挿入される。
【0054】
更に、第1部材1A及び第2部材1Bの接合面1Cに対して長手軸線方向の両側に位置したフランジ3a、3b(4a、4b)の外側面に外側添接板53が配置される。外側添接板53は、その幅(W4)がフランジ3a、3b(4a、4b)の幅(W2)と略同じ幅(W4≒W2)とされ、また、外側添接板53の長手軸線方向の長さ(L3)は、本実施例では、板状添接用キー部材52の長さ(L2)より長くされる。
【0055】
更に、図3をも参照すると理解されるように、第1部材1A及び第2部材1Bの接合面の両側に位置したフランジ3a、3b(4a、4b)の内側面(即ち、ウェブ2a、2b側)にもまた、各ウェブ2a、2bを挟んで両側に位置して内側添接板54、54が配置される。内側添接板54は、フランジ3a、3b(4a、4b)がウェブ2a、2bから外方へと延在した領域に略相当する幅W5(=(W2−T)/2)とされる。また、内側添接板54の繊維強化樹脂製補強材1の長手軸線方向の長さ(L4)は、本実施例では、フランジ3a、3bの外側に配置した外側添接板53の長さ(L3)と同じ(L4=L3)される。即ち、第1部材1A及び第2部材1Bの接合面1Cの両側に位置したフランジ3a、3b(4a、4b)は、その外側面及び内側面に配置した外側添接板53及び内側添接板54により挟持される。
【0056】
外側及び内側添接板53、54の厚さ(t3、t4)は、所望に応じて任意に設定されるが、通常、t3、t4は、1〜30mmとされる。t3、t4は同じであっても良く、異なっていても良い。
【0057】
図2に示すように、各部材には、固定用軸部材の取付穴、即ち、固定用軸部材として使用されるボルト56の挿通用貫通穴35が形成される。例えば、キー溝51aが形成される、図1にて位置a−aでは、外側添接板53、フランジ3a、添接用キー部材52、内側添接板54を貫通して、また、キー溝51aが形成されない位置b−bでは、外側添接板53、フランジ3a、内側添接板54を貫通して貫通穴35形成され、ボルト56が挿通される。ボルト56にはナット57が螺合され、各部材を一体的に固定する。ボルト56の数は、本実施例では各側に16個使用する態様を図示しているが、これに限定されるものではない。通常、各側で2〜30個使用される。
【0058】
これによって、第1部材1A及び第2部材1Bは、本実施例の継手構造20により接合面1Cにて一体的に接続され、長手軸線方向に連続した繊維強化樹脂製補強材1が形成される。
【0059】
本実施例のボルト56、ナット57にて接合された継手構造20によれば、図3(a)に示すように、ボルト56に対して複数のせん断ずれ面、本実施例では、せん断ずれ面S1〜S6が形成されており、1本のボルトが伝達できる耐力が向上する。
【0060】
上記実施例では、第1部材1A及び第2部材1Bのフランジ3a、4a;3b、4bに形成されるスリット溝51a、51bは、1つとされたが、フランジ3a、4a;3b、4bの厚さ(T)に応じて、或いは、添接用キー部材52の厚さ(t2)を調整することにより、図3(b)に示すように、更に複数の、例えば、2〜5のスリット溝51a(51b)を形成し、各スリット溝51a(51b)に添接用キー部材52を挿入することもできる。この構成の場合には、更にボルト56に対してのせん断ずれ面の数が増大することとなり、1本のボルトが伝達できる耐力は、更に向上する。
【0061】
尚、上記実施例では、継手構造20は、外側及び内側添接板53、54をフランジ3a、4a;3b、4bの外側面及び内側面に配置し、フランジ3a、4a;3b、4bを挟持する態様の構造とされたが、場合によっては、添接板53、54は、一方、或いは、両方を省略しても良い。また、固定用軸部材としては、ボルト56、ナット57の代わりに固定用のピンとすることもできる。
【0062】
本実施例によれば、上記継手構造20を構成する各部材、即ち、添接用キー部材52、外側添接板53、内側添接板54は、切削可能部材とされ、プラスチック、繊維補強プラスチック(FRP)、繊維補強発泡ウレタン(FRU)等で構成される。
【0063】
プラスチックとしては、ビニルエステル、不飽和ポリエステル、ポリアミド、エポキシ、ポリカーボネート、ウレタン、ナイロン、PE、PT、PET、PPSなどを使用することができる。
【0064】
また、繊維補強プラスチックとする場合には、補強繊維としては、PAN系或いはピッチ系炭素繊維、ガラス繊維、セラミックス繊維、ボロン繊維等の無機繊維;チタン、スチール等の金属繊維;アラミド、ポリエステル、ポリエチレン、ナイロン、ビニロン、ポリアセタール、PBО、高強度ポリプロピレン等の有機繊維;から選択されるいずれかの繊維であるか、或いは、前記繊維を複数種混入したハイブリッドタイプとされるものを使用することができる。マトリクス樹脂としては、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、常温硬化型エポキシ樹脂、熱硬化型エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂、又は、MMA等のラジカル反応系樹脂を少なくとも一種以上含むものを使用することができる。
【0065】
更に、繊維補強発泡ウレタンは、上記補強繊維を発泡ウレタンに混入した構成とされる。
【0066】
また、固定用軸部材を構成するボルト及びナット(又は、ピン)もまた、切削可能部材とされ、ナイロン等のプラスチック、又は、上述のような繊維補強プラスチック等で構成される。
【0067】
本実施例の具体例を寸法を挙げて説明すれば次の通りである。
【0068】
本実施例で使用した繊維強化樹脂製補強材1は、上述のように、幅(W1)400mm、幅(W2)300mm、厚み(T)50mm、長さ(L)16mのものであった。
【0069】
従って、第1及び第2部材1A及び1Bの長さ(L/2)は、8mであった。
・スリット51a、51bのスリット幅(t1): 300mm
・スリット51a、51bのスリット長さ(L1):480mm
・板状添接用キー部材52の長さ(L2): 900mm
・板状添接用キー部材52の厚さ(t2): 20mm
・板状添接用キー部材52の幅(W3): 300mm
・外側添接板53の長さ(L3): 1200mm
・外側添接板53の幅(W4): 300mm
・内側添接板54の長さ(L4): 1200mm
・内側添接板54の幅(W5): 100mm
・外側及び内側添接板53、54の厚さ(t3、t4):20mm
・ボルト56、ナット57:FRP製、M24のネジ(各側に合計12個づつ使用)
【0070】
上記諸寸法にて構成した本実施例の継手構造20は、板状添接用キー部材等を備えていない通常の継手構造に比較すると、1本のボルトが伝達する耐力が1.5〜2倍へと著しく向上し、フランジに生じる引張力及び圧縮力、例えば、80kNに十分に耐えることができた。
【符号の説明】
【0071】
1(1A、1B) 繊維強化樹脂製補強材
2(2a、2b) ウェブ
3(3a、3b) フランジ
4(4a、4b) フランジ
20 継手構造
51(51a、51b) スリット
52 添接用キー部材
53 外側添接板
54 内側添接板
56、57 ボルトナット(固定用軸部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド掘進機により切削可能な土留め壁材用の、長手軸線方向に延在するウェブと、このウェブの両端部に一体に形成されたフランジとを備えた横断面形状がH形とされる繊維強化樹脂製補強材とされる第1部材1Aと第2部材とを長手軸線方向に接合するための継手構造であって、
前記第1部材及び前記第2部材の前記フランジに対して、前記第1部材及び前記第2部材の接合面から長手軸線方向に所定の距離に亘って、前記フランジの幅方向に少なくとも一つ以上のスリット状のキー溝を形成し、
前記第1部材及び前記第2部材の前記キー溝に適合して、シールド掘進機により切削可能な添接用キー部材を挿入し、
前記フランジ及び前記添接用キー部材を貫通する取付穴を形成し、前記取付穴にシールド掘進機により切削可能な固定用軸部材を挿入して、前記第1部材と前記第2部材を一体に接合する、
ことを特徴とする継手構造。
【請求項2】
前記添接用キー部材は、前記キー溝の横断面形状と同じとされる矩形の板状部材であることを特徴とする請求項1に記載の継手構造。
【請求項3】
前記フランジの外側面及び/又は内側面に切削可能な添接板を配置し、前記添接板を前記フランジ及び前記添接用キー部材と共に前記固定用軸部材により固定し、前記第1部材と前記第2部材を一体に接合することを特徴とする請求項1又は2に記載の継手構造。
【請求項4】
前記添接板は、プラスチック、繊維補強プラスチック、又は、繊維補強発泡ウレタンで構成され、前記固定用軸部材は、プラスチック、又は、繊維補強プラスチックで構成されることを特徴とする請求項3に記載の継手構造。
【請求項5】
前記添接板は、繊維補強プラスチックとする場合には、補強繊維としては、PAN系或いはピッチ系炭素繊維、ガラス繊維、セラミックス繊維、ボロン繊維等の無機繊維;チタン、スチール等の金属繊維;アラミド、ポリエステル、ポリエチレン、ナイロン、ビニロン、ポリアセタール、PBО、高強度ポリプロピレン等の有機繊維;から選択されるいずれかの繊維であるか、或いは、前記繊維を複数種混入したハイブリッドタイプとされるものを使用し、マトリクス樹脂としては、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、常温硬化型エポキシ樹脂、熱硬化型エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂、又は、MMA等のラジカル反応系樹脂を少なくとも一種以上含むものを使用することを特徴とする請求項4に記載の継手構造。
【請求項6】
前記添接用キー部材は、プラスチック、繊維補強プラスチック、又は、繊維補強発泡ウレタンで構成され、前記固定用軸部材は、プラスチック、又は、繊維補強プラスチックで構成されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかの項に記載の継手構造。
【請求項7】
前記添接用キー部材は、繊維補強プラスチックとする場合には、補強繊維としては、PAN系或いはピッチ系炭素繊維、ガラス繊維、セラミックス繊維、ボロン繊維等の無機繊維;チタン、スチール等の金属繊維;アラミド、ポリエステル、ポリエチレン、ナイロン、ビニロン、ポリアセタール、PBО、高強度ポリプロピレン等の有機繊維;から選択されるいずれかの繊維であるか、或いは、前記繊維を複数種混入したハイブリッドタイプとされるものを使用し、マトリクス樹脂としては、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、常温硬化型エポキシ樹脂、熱硬化型エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂、又は、MMA等のラジカル反応系樹脂を少なくとも一種以上含むものを使用することを特徴とする請求項6に記載の継手構造。
【請求項8】
前記繊維強化樹脂製補強材は、強化繊維を軸線方向に沿って配列するか、若しくは、軸線方向に対して所定の角度にて傾斜して配列した強化繊維シートであるか、又は、クロス状の強化繊維シートであるか、又は、短繊維をランダム方向に配列したマット材に、樹脂を含浸して形成されることを特徴とする請求項1〜7のいずれかの項に記載の継手構造。
【請求項9】
前記強化繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、セラミックス繊維、ボロン繊維等の無機繊維;チタン、スチール等の金属繊維;アラミド、ポリエステル、ポリエチレン、ナイロン、ビニロン、ポリアセタール、PBО、高強度ポリプロピレン等の有機繊維;から選択されるいずれかの繊維であるか、或いは、前記繊維を複数種混入したハイブリッドタイプとされることを特徴とする請求項8の継手構造。
【請求項10】
前記樹脂は、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、常温硬化型エポキシ樹脂、熱硬化型エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂、又は、MMA等のラジカル反応系樹脂を少なくとも一種以上含むことを特徴とする請求項8又は9の継手構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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