説明

切削工具用ホルダおよび切削工具ならびにそれを用いた被削材の切削方法

【課題】 びびり振動を抑制するとともに、切削工具の本体部の強度を維持し、さらには製造時間および製造費用を低減する切削工具用ホルダを提供すること。
【解決手段】 回転中心軸S1を有する円柱状の本体部10を備えている、切削インサート100が装着可能な切削工具用ホルダ1であって、本体部10は、先端面2および外周面4にわたって開口する、切削インサート100が装着可能な少なくとも1つのインサートポケット11と、インサートポケット11から連続して後端側に位置して切削インサート1によって切削された切屑を排出する切屑排出部12と、外周面4に回転方向Xに沿って設けられた凹部5とを有する切削部10Fを備えており、凹部5は、本体部10において、後端側の切屑排出部12の端部12Rから先端面2までの間に設けられている。凹部5によって、本体部の強度を維持し、びびり振動を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具用ホルダおよび切削工具ならびにそれを用いた被削材の切削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転工具、特に回転中心軸方向に長い長尺状の回転工具においては、回転工具を工作機械に装着する場合に、工作機械の工具保持具から切刃までの長さ(以下、突き出し量という)が大きいと、切削時において被削材と切刃との間に相対振動(以下、びびり振動という)が発生しやすくなる。この場合は、被削材の加工表面にはびびり振動の痕跡が残り、被削材の加工表面の品位が悪化する。さらに、びびり振動は、回転工具の破損を引き起こしたり、工作機械の破損を引き起こしたりする場合がある。
【0003】
近年、びびり振動を抑制するために種々の方法が検討されている。例えば、特許文献1には、工具本体の内部に中空部を形成し、中空部の内壁面に、工具本体よりも高い減衰能を有する制振部材の一部が連結されるとともに、制振部材の他の部分と中空部の内壁面との間に間隙が設けられている防振工具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−328022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このように工具本体の内部に防振構造を設ける場合には、工具本体の剛性が低くなって、工具の強度が低下しやすくなるおそれがある。また、工具本体の内部を加工する必要があるため、工具本体の小型化に適わない場合もある。さらに、工具本体の内部を加工する必要があるために製造時間が増大したり、部品点数が増加するために製造費用が増大したりするおそれもある。
【0006】
本発明の目的は、切削工具の本体部の強度を維持することができるとともに、びびり振動を抑制することができる切削工具用ホルダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の切削工具用ホルダは、回転中心軸を有する円柱状の本体部を備えている、切削インサートが装着可能な切削工具用ホルダであって、前記本体部は、先端面および外周面にわたって開口する、前記切削インサートが装着可能な少なくとも1つのインサートポケットと、該インサートポケットから連続して後端側に位置して前記切削インサートによって切削された切屑を排出する切屑排出部と、前記外周面に回転方向に沿って設けられた凹部とを有する切削部を備えており、前記凹部は、前記本体部において、後端側の前記切屑排出部の端部から前記先端面までの間に設けられていることを特徴とする。
【0008】
本発明の切削工具は、本発明の切削工具用ホルダと、該切削工具用ホルダの前記インサートポケットに装着された切削インサートとを備え、前記切削インサートの切刃は、前記切削工具用ホルダの前記先端面および前記外周面から突出して装着されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の被削材の切削方法は、本発明の切削工具を回転させる工程と、回転している前記切削工具の前記切刃を被削材に接触させて前記被削材を切削する工程と、回転している前記切削工具の前記切刃を前記被削材から離間させる工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の切削工具用ホルダによれば、外周面に回転方向に沿って設けられた凹部は、本体部において、後端側の切屑排出部の端部から先端面までの間に設けられている。この構成によって、切削時に切刃が受ける衝撃が回転方向に設けられた凹部によって吸収されるので、びびり振動が抑制される。また、本体部の内部に加工を行なう必要がないので、本体部の強度を維持できる。さらに、本体部の内部に加工を行なう場合に比べて、製造時間および製造費用を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の切削工具用ホルダの実施形態の一例を示す斜視図である。
【図2】(a)は図1に示す切削工具用ホルダの側面図であり、(b)は図1に示す切削工具用ホルダを先端から視た図である。
【図3】図1に示す切削工具用ホルダの領域Aの部分拡大図である。
【図4】図1に示す切削工具用ホルダの領域Bの部分拡大図である。
【図5】(a)は本発明の切削工具用ホルダの実施形態の変形例1を示す先端部分の拡大側面図であり、(b)は変形例2を示す先端部分の拡大側面図である。
【図6】(a)は図2(a)に示す切削工具用ホルダのC−C線における断面図であり、(b)は図2(a)に示す切削インサートのD−D線における断面図であり、(c)は図2(b)に示す切削工具用ホルダのE−E線における断面図である。
【図7】本発明の切削工具用ホルダの実施形態の変形例3を示す先端部分の拡大側面図である。
【図8】(a)は本発明の切削インサートの一例を示す斜視図であり、(b)は平面図であり、(c)は図8(b)に示す切削インサートのF方向からの側面図であり、(d)は図8(b)に示す切削インサートのG方向からの側面図である。
【図9】(a)は本発明の切削工具の実施形態の一例を示す斜視図であり、(b)は側面図であり、(c)は先端図であり、(d)は領域Hにおける部分拡大図である。
【図10】本発明の被削材の切削方法の実施形態の一例を説明する工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<切削工具用ホルダ>
以下、図1〜図7を用いて、本発明の実施形態の例である切削工具用ホルダ1(以下、単にホルダ1と略す)について説明する。
【0013】
本発明の実施形態の一例であるホルダ1は、図1に示すように、回転中心軸S1を有する円柱状の本体部10を備えている、切削インサート(後述する)が装着可能な切削工具用ホルダである。すなわち、本体部10は、円形状の先端面2と円形状の後端面3とそれに連続する外周面4とを有している。本例において、本体部10は、直径が6mm〜10
0mmであり、長さが30mm〜300mmである。
【0014】
本体部10は、先端面2および外周面3にわたって開口する、切削インサートが装着可能な少なくとも1つのインサートポケット11と、インサートポケット11から連続して後端側に位置して切削インサートによって切削された切屑を排出する切屑排出部12と、外周面3に回転方向Xに沿って設けられた凹部5とを有する切削部10Fを備えている。ここで、切削部10Fとは、少なくともインサートポケット11および切屑排出部12を有しており、切削工具を工作機械に装着した場合に、工作機械から突出する部分をいう。本例においては、図2(a)に示すように、切削部10Fの後端側に段差部が設けられている。
【0015】
本体部10は、図1および図2に示すように、先端側に切削インサート(切刃)が装着される切削部10Fを有し、後端側に、工作機械の主軸部の工具保持具に装着される保持部10Rを有している。本例においては、より突き出し量を小さくするために、図2(a)に示すように、保持部10Rは、切削部10Fの後端部に連続して設けられている。また、本例においては、種々の加工条件において、突き出し量の良好な調整を可能にする観点から、図2(a)に示すように、先端面2から後端側の切削部10Fの端部までの距離d1は、後端側の切削部10Fの端部から後端面3までの距離d2よりも小さくなっている。すなわち、d1<d2である。
【0016】
また、本例においては、図6(a)および図6(b)に示すように、切削部10Fにおける回転中心軸S1に垂直な断面において、切削部10Fと回転中心軸S1距離との距離r1は、保持部10Rにおける回転中心軸S1に垂直な断面において、保持部10Rと回転中心軸S1との距離r2よりも小さい。すなわち、切削部10Fの半径は、保持部10Rの半径よりも小さい。なお、本例においては、図2(a)に示すように、切削部10Fと保持部10Rとを滑らかに接続するために、つなぎ曲面6が設けられている。この構成によって、切削時にホルダ1が受ける応力が切削部10Fと保持部10Rとの間に集中して本体部10を破壊することを抑制する。本例において、つなぎ曲面6の側面視における曲率半径は、切削条件によって1mm〜2mmの間で凹曲面となるように適宜設定される。
【0017】
本体部10は、工作機械の主軸部の回転とともに回転する。この回転運動によって、切削部10Fのインサートポケット11に装着された切削インサートの切刃は、被削材(後述する)を切削する。
【0018】
インサートポケット11は、図3に示すように、本体部10において、切削インサートを装着して固定するために設けられている。本例においては、切削インサートは、インサートポケット11に、切削インサートの切刃が先端面2および外周面3から突出するように装着されればよい。
【0019】
切屑排出部12は、切削インサートの切刃から生成される切屑の排出方向を安定に保つために設けられている。本例においては、図4に示すように、切屑の排出方向の安定性向上の観点から、切屑排出部12は、インサートポケット11から連続して後端側に位置するように形成されている。
【0020】
凹部5は、本体部10において、図3および図4に示すように、後端側の切屑排出部12の端部12Rから先端面2までの間に設けられている。この構成によって、切削時に切刃と被削材とが周期的に接触して受ける衝撃(以下、切削衝撃ということがある)を、回転方向Xに設けられた凹部5によって吸収し、びびり振動を抑制する。さらに、本体部10の内部に加工を行なうことがないので、本体部10の強度を維持できる。
【0021】
凹部5は少なくとも1つ形成されていればよく、長さや大きさは、切削条件によって適宜設定すればよい。例えば、変形例1としては、図5(a)に示すように、複数の凹部5が回転方向Xに沿って複数並んで設けられていてもよいし、変形例2としては、図5(b)に示すように、回転方向Xに沿って長さを有する凹部5が1つ設けられていてもよい。本例においては、図3に示すように、インサートポケット11が3つ設けられているため、インサートポケット11のそれぞれに対応して、凹部5が3つ設けられている。
【0022】
本例において、凹部5は、図4に示すように、回転方向Xに沿って連続してインサートポケット11および切屑排出部12の少なくとも一方に接続されている。インサートポケット11および切屑排出部12は、切削部10Fの外周面4から切り欠かれているため、他の部分と比較して剛性が低く、切削によって切削部10Fが受ける応力が集中しやすい。凹部5がインサートポケット11および切屑排出部12の少なくとも一方に接続されていることによって、切削衝撃は凹部5に集中しやすくなって、工具本体のびびり振動をより良好に抑制することができる。
【0023】
なお、本例においては、製造上の容易性の観点から、凹部5は、図3および図4に示すように、インサートポケット11および切屑排出部12の少なくとも一方に開口するような溝部として形成されている。また、本例においては、凹部5は、インサートポケット11は3つ形成されており、インサートポケット11間を繋ぐように形成されている。この構成によって、びびり振動は凹部5により集中しやすくなる。
【0024】
本例において、凹部5は、図6(c)に示すように、回転中心軸S1を含む断面における最深部50を有している。この凹部5の最深部50が、図4に示すように、本体部10において、先端面2よりも後端側のインサートポケット11の端部11Rに近くなるように形成されている。具体的には、図6(c)に示す凹部5の最深部50は、図4においては破線で示す。図4において、先端面2から凹部5の最深部50までの距離d3は、凹部5の最深部50から後端側のインサートポケット11の端部11Rまでの距離d4よりも大きい。すなわち、d3>d4である。インサートポケット11は、切削インサートからの切削時の衝撃を直接的に受ける。インサートポケット11の端部11Rは、インサートポケット11の角部であり、応力が集中しやすい。したがって、凹部5において最も切削衝撃が集中しやすい最深部50が、インサートポケット11の端部11Rに近くなるように形成されていることによって、凹部5に切削衝撃が集中しやすくなって、びびり振動をよりよく抑制することができる。
【0025】
本例において、凹部5は、図4に示すように、インサートポケット11および切屑排出部12と接続するように設けられていてもよい。この構成によって、凹部5を確実にインサートポケット11の端部11Rに接続して設けることができるので、凹部5はより確実にびびり振動を抑制する。
【0026】
さらに、変形例3として、凹部5は、図7に示すように、回転中心軸S1を含む断面における最深部50が、先端面2からの回転中心軸S1に沿った方向の距離において、本体部10における後端側のインサートポケット11の端部11Rと等しい位置にある。この構成によって、最深部50と後端側のインサートポケット11の端部11Rとが接続されるので、凹部5は、より確実に最深部50においてびびり振動を抑制することができる。
【0027】
本例において、凹部5は、図6(c)に示すように、回転中心軸S1を含む断面の形状が曲線状である。この構成によって、より最深部50に切削衝撃が集中しやすくなって、びびり振動がより効率よく抑制される。
【0028】
本例において、凹部5は、図6(c)に示すように、回転中心軸S1に沿った方向における幅が、回転中心軸S1に向かうにつれて小さくなっている。この構成によって、凹部5に切削衝撃が集中しやすくなり、びびり振動をより抑制しやすくなる。ここで、回転中心軸S1に沿った方向における幅とは、例えば、図6(c)に示すようなU字状の内壁面の場合、回転中心軸S1に平行な直線によって2点間を結んだときの距離をいう。
【0029】
本例において、凹部5は、図6(c)に示す回転中心軸S1に沿った方向における最大幅w1が、図6(a)切削部10Fの回転中心軸S1に垂直な断面における回転中心軸S1と外周面4との最大距離r1の0.5倍〜1.5倍である。この構成によって、切削時に受ける衝撃を緩和させるとともに、本体部10の強度も維持することができる。したがって、びびり振動を抑制するとともに、本体部10の強度を維持することができる。
【0030】
本例において、凹部5は、図6(c)に示す回転中心軸S1に垂直な断面における最深部50と回転中心軸S1との距離r3が、図6(a)に示す切削部10Fの回転中心軸S1に垂直な断面における回転中心軸S1と外周面4との最大距離r1の0.6倍〜0.95倍である。この構成によって、切削時に受ける衝撃を緩和させるとともに、本体部10の強度も維持することができる。したがって、びびり振動を抑制するとともに、本体部10の強度を維持することができる。
【0031】
本例においては、例えば、切削衝撃の緩和の観点から、凹部5に粘性部材や弾性部材、緩衝部材などが埋め込まれていてもよいし、凹部5の内面に表面処理を加えてさらに剛性を低くしてもよい。
【0032】
ホルダ1の材質としては、例えば、機械構造用炭素鋼、機械構造用合金鋼、工具鋼あるいはステンレス鋼などが挙げられる。機械構造用炭素鋼としては、例えば、炭素(C)、シリカ(Si)、マンガン(Mn)、リン(P)および硫黄(S)を含む鋼が挙げられる。また、機械構造用合金鋼としては、例えば、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)などを含む鋼が挙げられる。また、工具鋼は、炭素工具鋼と合金工具鋼とに大別でき、機械構造用炭素鋼と機械構造用合金鋼とをそれぞれ熱処理を行なった鋼のことをいう。なお、ホルダ1の表面は、酸化防止や強度強化等を目的として、めっき等の表面加工処理が行なわれていてもよい。
【0033】
インサートポケット11は、図3に示すように、回転方向Xに対向する着座面13と、着座面13の交差する方向に位置する拘束側面14とを有している。着座面13には、インサートをホルダ1に装着する際に取付けネジ(図示せず)を螺合させるネジ孔15が設けられている。着座面13および拘束側面14はインサートと当接することによって、インサートを確実に固定する。なお、より確実にインサートを固定するために、複数の拘束側面14が平面視で交差するように配置されている。本例においては、製造簡易性の観点から、図に示すように、拘束側面14を2つ有している。
【0034】
インサートポケット11は、着座面13および複数の拘束面14の交差部に隅凹部16を有している。この構成によって、インサートポケット11が切削時に受ける衝撃が、着座面13および複数の拘束面14の交差部に集中し、インサートポケット11が破壊することを抑制する。応力緩和の観点から、隅凹部16の内面は、曲面で構成されていることが好ましい。すなわち、着座面13および複数の拘束面14の各交差部の延びる方向と垂直な方向の断面において、曲線状であることがよい。
【0035】
本例においては、図4に示すように、凹部5は隅凹部16と接続している。この構成によって、切削時に受ける衝撃をより効果的に凹部5に集中させることができる。
【0036】
<切削インサート>
本発明の実施形態の一例である切削インサート100(以下、単にインサート100と略す)は、図8に示すように、上面102、下面103、上面102および下面103のそれぞれと接続しており、かつ互いに隣接する第1側面104aおよび第2側面104bを有する側面104、上面102および下面103の間を貫通している貫通孔106、ならびに上面102と側面104の交線部に位置する切刃105を備えている。図8(b)に示すように、インサート100は、平面視において、略四角形状(略長方形状)である。ここで平面視とは、以下においては特記しない限り、上面102側からインサート100を見た状態を意味するものとする。なお、インサート100の形状は略四角形状に限定されるものではなく、平面視において、例えば三角形、五角形、六角形、八角形などの略多角形の板状とすることができる。インサート100は、平面視における略四角形状の長辺を例えば8mm〜15mm程度、短辺を例えば4mm〜8mm程度とすればよく、また、上面102から下面103までの厚みを例えば3mm〜7mm程度とすればよい。ここで、厚みとは、側面視で、上面102のうち最も上方に位置する部位と下面3のうち最も下方に位置する部位までの距離のうち、中心軸S2に平行な線分を意味することとする。
【0037】
上面102のうち切刃105に沿う領域は、切屑が擦過するすくい面として機能する。側面104のうち切刃105に沿う領域は、逃げ面として機能する。
【0038】
下面103は、インサート100をホルダ1に装着する際に、ホルダ1の着座面13と当接するための面として機能する。そのため、少なくとも、中心軸S2に対して垂直な面を備えていればよく、下面103の形状は特に限定されない。
【0039】
切刃105は、上述の通り、上面102と側面104の交線部に位置し、主切刃105aおよび副切刃105bを有している。本実施形態においては、図8(b)に示すように、主切刃105aおよび副切刃105bが、コーナ切刃105cを介して接続されている。インサート100は、主切刃105a、副切刃105bおよびコーナ切刃105cを含むコーナを使用して、切削加工を行なうことができる。
【0040】
貫通孔106は、ホルダ(後述する)に取り付けるために取付けネジを挿通する孔である。この構成によって、インサート100を貫通孔106の周りに回転させて、複数の切削部をそれぞれ切削に用いることができ、経済性が良好となる。
【0041】
また、本例においては、インサート100は、図8に示すように、上面側と同様に、下面103と側面104との交線部にも主切刃および副切刃を有する。この下面側の主切刃を用いて切削加工を行なう場合には、上面102の平坦面102aをホルダ1の着座面13への当接面として使用することが可能である。すなわち、本実施形態のインサート100は、上面側と下面側のそれぞれを切削加工に使用可能であるため、下面側の主切刃は、インサート100を上下反転させた状態で使用できるように、上面側の主切刃105を反転させた形状となっている。すなわち、図8(c)の紙面に垂直な線を中心とする回転対称となっている。したがって、インサート1では、上面102および下面103のそれぞれで2か所ずつ、計4か所のコーナを使って切削加工を行なうことができる。このように、側面104のうち主切刃105aが形成される部位と副切刃105bが形成される部位とを、第1側面104aおよび第2側面104bのように別々に構成したので、主切刃105aならびにそれに沿って上面102に位置するすくい面108および立ち上がり面109と、副切刃105bに対する逃げ面とを、それぞれに適した構成として設計することが比較的容易となる。
【0042】
インサート100の材質としては、例えば、超硬合金あるいはサーメットなどが挙げられる。超硬合金の組成としては、例えば、炭化タングステン(WC)にコバルト(Co)
の粉末を加えて焼結して生成されるWC−Co、WC−Coに炭化チタン(TiC)を添加したWC−TiC−Co、あるいはWC−TiC−Coに炭化タンタル(TaC)を添加したWC−TiC−TaC−Coがある。また、サーメットは、セラミック成分に金属を複合させた焼結複合材料であり、具体的には、炭化チタン(TiC)、または窒化チタン(TiN)を主成分としたチタン化合物がある。
【0043】
インサート100の表面は、化学蒸着(CVD)法または物理蒸着(PVD)法を用いて被膜でコーティングされていてもよい。被膜の組成としては、炭化チタン(TiC)、窒化チタン(TiN)、炭窒化チタン(TiCN)またはアルミナ(Al)などが挙げられる。
【0044】
<切削工具>
本発明の実施形態の一例である切削工具110は、図9に示すように、切削工具用ホルダ1と、切削工具用ホルダ1のインサートポケット11に装着された切削インサート100とを備え、インサート100の切刃は、ホルダ1の先端面2および外周面4から突出して装着されている。この構成によって、切刃が切削時にホルダ1の外周面4から突出した位置に拘束されるので、本発明のホルダ1の効果を良好に奏することができる。具体的には、図9に示すように、副切刃105bが先端面2から、主切刃105aが外周面4から突出して装着されている。
【0045】
本例においては、図6(a)に示す回転中心軸S1に垂直な断面における凹部5の最深部50と回転中心軸S1との距離r3が、図9(c)に示す先端面視における切刃の最も外側と回転中心軸S1との距離r4の0.6倍〜0.95倍である。この構成によって、切削時に受ける衝撃を凹部5に集中させるとともに、本体部10の強度も維持することができる。したがって、びびり振動を抑制するとともに、本体部10の強度を維持することができる。
【0046】
本例においては、図9に示すように、インサート100は取付けネジ111によってインサートポケット11に装着されている。すなわち、インサート100の貫通孔106に取付けネジ111を挿入し、この取付けネジ111の先端をインサートポケット11に形成されたネジ孔15に挿入してネジ状の溝部(図示せず)同士を螺合させることによって、インサート100がホルダ1に装着されている。
【0047】
また、本例においては、図9(d)に示すように、インサート100は、ホルダ1の回転中心軸S1に対して、主切刃105aが正のアキシャルレーキαを有するようにホルダ1に装着されている。すなわち、図9(d)に示すように、側面視で、ホルダ1の外周面側に配置されたインサート100の主切刃105aは、ホルダ1の先端側から後端側に向かうにつれて、ホルダ1の回転中心軸S1から遠ざかるように傾斜している。このような構成によって、切削時にかかる切削抵抗の低減を図ることができ、びびリ振動を抑制することができる。
【0048】
本例においては、フライス工具として用いられ、特に、ホルダ1の先端面2および外周面4から突出する切刃を備えるため、被削材の上側表面を切削する正面削り加工、被削材の端面と上側表面とを同時に切削する肩削り加工、穴あけ加工等の加工形態に適するエンドミルとして用いられる。
【0049】
<被削材の切削方法>
図10を用いて、本発明の実施形態の一例である被削材の切削方法について、切削工具110を用いた場合を例示して説明する。本例の被削材の切削方法は、以下の(i)〜(iii)の工程を含む。
(i)図10(a)に示すように、切削工具110をホルダ1の回転中心軸S1を中心に矢印X方向に回転させる工程、および矢印Y1方向に動かし、被削材200に切削工具110の切刃105を近づける工程。
(ii)図10(b)に示すように、インサート100の切刃105を被削材200の表面に接触させ、回転している切削工具110を、例えば矢印Z方向に動かし、被削材200の表面を切削する工程。
(iii)図10(c)に示すように、回転している切削工具110を矢印Y2方向に動かし、被削材200から切削工具110を離間させる工程。
【0050】
なお、(i)の工程では、切削工具110と被削材200とは相対的に近づければよく、例えば被削材200を切削工具110に近づけてもよい。これと同様に、(iii)の工程では、被削材200と切削工具110とは相対的に遠ざければよく、例えば被削材200を切削工具110から遠ざけてもよい。切削加工を継続する場合には、切削工具110を回転させた状態を保持して、被削材200の異なる箇所にインサート100の切刃105を接触させる工程を繰り返せばよい。本例においては、上述のとおりインサート100の切刃105は上面側および下面側に2つずつ有しているので、使用している切刃105が摩耗した際には、インサート100を貫通孔106の中心軸に対して回転させたり、インサート100をひっくり返したりして、未使用の切刃105を用いればよい。
【0051】
さらに、被削材200の材質の代表例としては、炭素鋼、合金鋼、ステンレス鋼、鋳鉄または非鉄金属などが挙げられる。
【符号の説明】
【0052】
1 ホルダ
2 先端面
3 後端面
4 外周面
5 凹部
50 最深部
6 つなぎ曲面
10 本体部
10F 切削部
10R 保持部
11 インサートポケット
11R 後端側のインサートポケットの端部
12 切屑排出部
12R 後端側の切屑排出部の端部
13 着座面
14 拘束側面
15 ネジ孔
16 隅凹部
100 切削インサート(インサート)
102 上面
103 下面
104 側面
104a 第1側面
104b 第2側面
105 切刃
105a 主切刃
105b 副切刃
105c コーナー切刃
106 貫通孔
110 切削工具
111 取付けネジ
200 被削材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転中心軸を有する円柱状の本体部を備えている、切削インサートが装着可能な切削工具用ホルダであって、
前記本体部は、先端面および外周面にわたって開口する、前記切削インサートが装着可能な少なくとも1つのインサートポケットと、該インサートポケットから連続して後端側に位置して前記切削インサートによって切削された切屑を排出する切屑排出部と、前記外周面に回転方向に沿って設けられた凹部とを有する切削部を備えており、
前記凹部は、前記本体部において、後端側の前記切屑排出部の端部から前記先端面までの間に設けられていることを特徴とする切削工具用ホルダ。
【請求項2】
前記凹部は、前記回転方向に沿って連続して前記インサートポケットおよび前記切屑排出部の少なくとも一方に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の切削工具用ホルダ。
【請求項3】
前記凹部は、前記回転中心軸を含む断面における最深部が、前記本体部において、前記先端面よりも後端側の前記インサートポケットの端部に近いことを特徴とする請求項1または2に記載の切削工具用ホルダ。
【請求項4】
前記凹部は、前記インサートポケットおよび前記切屑排出部と接続するように設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれかの項に記載の切削工具用ホルダ。
【請求項5】
前記凹部は、前記回転中心軸を含む断面における最深部が、前記先端面からの前記回転中心軸に沿った方向の距離において、前記本体部における後端側の前記インサートポケットの端部と等しい位置にあることを特徴とする請求項4に記載の切削工具用ホルダ。
【請求項6】
前記凹部は、前記回転中心軸を含む断面の形状が曲線状であることを特徴とする請求項1から5のいずれかの項に記載の切削工具用ホルダ。
【請求項7】
前記凹部は、前記回転中心軸に沿った方向における幅が、前記回転中心軸に向かうにつれて小さくなっていることを特徴とする請求項1から6のいずれかの項に記載の切削工具用ホルダ。
【請求項8】
前記凹部は、前記回転中心軸に沿った方向における最大幅が、前記切削部の前記回転中心軸に垂直な断面における前記回転中心軸と前記外周面との最大距離の0.5倍〜1.5倍であることを特徴とする請求項1から7のいずれかの項に記載の切削工具用ホルダ。
【請求項9】
前記凹部は、前記回転中心軸に垂直な断面における前記最深部と前記回転中心軸との距離が、前記切削部の前記回転中心軸に垂直な断面における前記回転中心軸と前記外周面との最大距離の0.6倍〜0.95倍であることを特徴とする請求項1から8のいずれかの項に記載の切削工具用ホルダ。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかの項に記載の切削工具用ホルダと、該切削工具用ホルダの前記インサートポケットに装着された切削インサートとを備え、前記切削インサートの切刃は、前記切削工具用ホルダの前記先端面および前記外周面から突出して装着されていることを特徴とする切削工具。
【請求項11】
前記回転中心軸に垂直な断面における前記凹部の前記最深部と前記回転中心軸との距離が、先端面視における前記切刃の最も外側と前記回転中心軸との距離の0.6倍〜0.95倍であることを特徴とする請求項10または11に記載の切削工具。
【請求項12】
請求項10または11に記載の切削工具を回転させる工程と、
回転している前記切削工具の前記切刃を被削材に接触させて前記被削材を切削する工程と、
回転している前記切削工具の前記切刃を前記被削材から離間させる工程とを含むことを特徴とする被削材の切削方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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