説明

切削工具用素材、コンポジット素材、切削工具及び切削工具用素材の製造方法

【課題】切削工具用素材とシャンク部との軸周りの相対回転を確実に防止しつつ、製造が容易に行えるとともに製造コストを削減でき、切削加工が精度よく安定して行え、工具寿命が延長する切削工具用素材、コンポジット素材、切削工具及び切削工具用素材の製造方法を提供する。
【解決手段】軸状をなし、その一端をシャンク部の穴部に挿入して前記シャンク部に支持される切削工具用素材10であって、前記一端には、軸方向に直交する断面が非真円形状をなす回転規制部12が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具用素材、この切削工具用素材及びシャンク部からなるコンポジット素材、このコンポジット素材に切刃を形成してなる切削工具及び切削工具用素材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ドリル等の切削工具に用いられるコンポジット素材としては、例えば、特許文献1、2に記載されたものが知られている。
一般に、このようなコンポジット素材は、軸状をなし超硬合金等の硬質材料からなる切削工具用素材と、軸状をなしこの切削工具用素材よりも大径とされ、スチールやSUS等比較的低廉な材料からなるシャンク部とから構成されている。
【0003】
そして、切削工具用素材の一端における外周面を高精度に研磨加工するとともに、前記一端の外径をシャンク部に形成された穴部の内径に対して僅かに大きく形成し、この一端を前記穴部に圧入するようにしている。このように、切削工具用素材がシャンク部の穴部に圧入されることで、切削工具用素材とシャンク部との軸周りの相対回転が規制されている。
また、このように形成されたコンポジット素材において、切削工具用素材の前記一端とは反対側の他端に切刃を形成することにより、ドリル等の切削工具が製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−217017号公報
【特許文献2】特開2002−18623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述したコンポジット素材に用いられる切削工具用素材においては、下記の課題を有している。すなわち、切削工具用素材の一端をシャンク部の穴部に圧入する以前に、前記一端における軸方向に直交する断面を高精度の真円形状に研磨加工しておく必要があった。詳しくは、切削工具用素材の前記断面を精度よく真円形状に形成することで、該切削工具用素材の一端をシャンク部の穴部に圧入した際、これら一端と穴部との間において互いに及ぼし合う応力が周方向に均一に設定されることになり、これによって切削工具用素材とシャンク部との前述の相対回転を防止するようにしていた。しかしながら、このような高精度の研磨加工を行うためには、製造工程が複雑となり、切削工具用素材の製造コストが嵩んでいた。
【0006】
また、切削工具用素材の一端をシャンク部の穴部に圧入する以外の手法として、例えば、前記穴部の内径を切削工具用素材の外径よりも若干大きく形成しておき、前記一端を穴部に挿入した後、メカプレス等のプレス加工や絞り等のかしめ加工などを用いて、これら一端と穴部とを嵌合することも考えられる。詳しくは、プレス加工やかしめ加工等により、シャンク部の穴部の内周面を縮径させるように塑性変形(以下「変形」と省略する場合がある)させて、前記一端と穴部とを互いに嵌め合わせることが考えられる。しかしながら、緊密な嵌合状態が確実に得られるとは言えず、切削工具用素材とシャンク部との軸周りの相対回転を確実に規制することは難しい。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、切削工具用素材とシャンク部との軸周りの相対回転を確実に防止しつつ、製造が容易に行えるとともに製造コストを削減でき、切削加工が精度よく安定して行え、工具寿命が延長する切削工具用素材、コンポジット素材、切削工具及び切削工具用素材の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提案している。
すなわち本発明は、軸状をなし、その一端をシャンク部の穴部に挿入して前記シャンク部に支持される切削工具用素材であって、前記一端には、軸方向に直交する断面が非真円形状をなす回転規制部が形成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る切削工具用素材によれば、シャンク部の穴部に挿入されるその一端に、軸方向に直交する断面が非真円形状をなす回転規制部が形成されているので、例えば、この切削工具用素材の前記一端をシャンク部の穴部に圧入したり、該一端を穴部に挿入しプレス加工やかしめ加工等を施したりして嵌め合わせ、コンポジット素材を形成した際、穴部の内周面が回転規制部の形状に対応し軸方向に直交する断面が非真円形状となるように変形して、前記一端の外周面に密接することから、切削工具用素材とシャンク部とが軸周りに相対移動することが確実に防止される。
【0010】
従って、このコンポジット素材の切削工具用素材に切刃を形成してエンドミルやドリル等の切削工具を製造し、この切削工具を切削加工に用いた場合に、切削工具に対し軸周りの切削負荷が作用しても、回転規制部が切削工具用素材とシャンク部との軸周りの相対回転を確実に規制するので、切削加工が精度よく安定して行えるとともに工具寿命が延長する。
【0011】
また、従来のように、前述の相対回転を規制するために、切削工具用素材の前記一端における外周面を予め高精度に研磨加工した後、該一端をシャンク部の穴部に圧入するような手法に対比して、製造工程が簡便となるとともに、製造コストが大幅に削減される。
【0012】
また、本発明に係る切削工具用素材において、前記回転規制部は、外周面から突出するとともに軸方向に沿って延びる凸部であることとしてもよい。
また、本発明は、前述の切削工具用素材の製造方法であって、対向配置された一対の金型の間に母材を配置する工程と、これらの金型を互いに接近させ、前記母材をプレス加工して切削工具用素材の形状に形成するときに、この切削工具用素材の外周面における前記金型同士の対向する方向に直交する方向に対応する位置に、前記外周面から突出するとともに前記軸方向に沿って延びる凸部からなる前記回転規制部を形成する工程と、を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る切削工具用素材によれば、回転規制部が、切削工具用素材の外周面から突出するとともに軸方向に沿って延びる凸部であるので、この切削工具用素材の前記一端をシャンク部の穴部に圧入したり、該一端を穴部に挿入しプレス加工やかしめ加工等を施したりして嵌め合わせた際、穴部の内周面は、凸部の形状に対応して塑性変形し窪まされるとともに該凸部に密接するように係合して、前記一端と前記穴部とが緊密に嵌合する。このように係合した凸部と穴部の内周面とが互いに接触し抵抗となることから、切削工具用素材とシャンク部との前述の相対回転が確実に規制されるようになっている。
また、回転規制部がこのような凸部からなるので、切削工具用素材をメカプレス等のプレス加工や押出加工により形成する際に、凸部を容易に形成できる。
【0014】
また、本発明に係る切削工具用素材の製造方法によれば、母材をプレス加工して切削工具用素材の形状に形成するときに、この切削工具用素材の外周面における前記金型同士の対向する方向に直交する方向に対応する位置に、前記外周面から突出するとともに前記軸方向に沿って延びる凸部からなる回転規制部を形成することとしているので、既存のメカプレス等のプレス加工により該回転規制部を容易に形成できる。
【0015】
すなわち、一対の金型が互いに最も接近した状態において、これらの金型同士の間の前記対応する位置に、例えば、母材が充填されて凸部を形成する凹部を設けておくことにより、プレス加工の際、この凹部に母材が充填されるとともに凸部が簡便に形成される。従って、回転規制部を備えた切削工具用素材の製造が容易に行え、製造コストが大幅に削減する。
【0016】
また、本発明に係る切削工具用素材において、前記凸部は複数形成されているとともに、軸周りに互いに間隔を開け配置されていることとしてもよい。
【0017】
本発明に係る切削工具用素材によれば、切削工具用素材の外周面には凸部が複数形成されているとともに、これらの凸部同士が、軸周りに互いに間隔を開け配置されているので、これらの凸部とシャンク部の穴部の内周面とが夫々係合して、前述の抵抗が充分に確保でき、切削工具用素材とシャンク部との相対回転がより確実に規制される。
【0018】
また、本発明に係る切削工具用素材において、前記凸部は、第1突起と、この第1突起の軸方向に沿った一端側に配置されるとともに前記外周面から突出する高さが該第1突起より高い第2突起と、前記第1、第2突起の間に形成された段部と、を有していることとしてもよい。
【0019】
本発明に係る切削工具用素材によれば、凸部が、外周面から突出する高さが互いに異なる第1、第2突起と、第1、第2突起の間に形成された段部と、を有しているので、この切削工具用素材の一端をシャンク部の穴部に挿入しプレス加工やかしめ加工等により嵌め合わせた際、穴部の内周面は、凸部の形状に対応して塑性変形し窪まされるとともに該凸部に密接するように係合して、前記一端と前記穴部とが緊密に嵌合する。詳しくは、穴部の内周面は、凸部の第1、第2突起及び段部の形状に対応して、多段状に窪まされる。
【0020】
このように係合した凸部と穴部の内周面とが互いに接触し抵抗となることから、切削工具用素材とシャンク部との軸周りの相対回転が確実に規制される。さらに、凸部において、第2突起が第1突起の軸方向に沿った一端側に配置されているので、段部が軸方向の他端側を向くこととなり、この段部に穴部の内周面が接触し抵抗となって、切削工具用素材とシャンク部との軸方向に沿った相対移動が規制される。特に、切削工具用素材が、シャンク部の穴部から軸方向に沿った他端側へ抜け出るようなことが確実に防止される。
【0021】
また、本発明に係る切削工具用素材において、前記凸部は、軸方向に沿う一端側から他端側に向かうに連れ漸次前記外周面の周方向に沿う幅が狭くなるテーパ状に形成されていることとしてもよい。
また、本発明に係る切削工具用素材において、前記凸部は、軸方向に沿う一端側から他端側に向かうに連れ漸次前記外周面から突出する高さが低くなるテーパ状に形成されていることとしてもよい。
【0022】
本発明に係る切削工具用素材によれば、凸部が、前述のようにテーパ状に形成されているので、この切削工具用素材の一端をシャンク部の穴部に挿入しプレス加工やかしめ加工等により嵌め合わせた際、穴部の内周面は、凸部の形状に対応して塑性変形し窪まされるとともに該凸部に密接するように係合して、前記一端と前記穴部とが緊密に嵌合する。すなわち、穴部の内周面は、凸部のテーパ形状に対応して、テーパ状に窪まされる。このように係合した凸部と穴部の内周面とが互いに接触し抵抗となることから、切削工具用素材とシャンク部との軸周りの相対回転が確実に規制される。ここで、凸部は、軸方向に沿った一端側から他端側に向かうに従い漸次前記外周面の周方向に沿う幅が狭くなるか、漸次前記外周面から突出する高さが低くなるテーパ状に形成されているので、切削工具用素材が、シャンク部の穴部から軸方向に沿った他端側へ抜け出るようなことが確実に防止される。
【0023】
また、本発明に係る切削工具用素材において、前記回転規制部は、軸方向に直交する断面が楕円形状とされていることとしてもよい。
【0024】
本発明に係る切削工具用素材によれば、回転規制部は、軸方向に直交する断面が楕円形状とされているので、この切削工具用素材の一端をシャンク部の穴部に圧入したり、該一端を穴部に挿入しプレス加工やかしめ加工等を施したりして嵌め合わせた際、穴部の内周面が、回転規制部の楕円形状に対応して塑性変形し断面略楕円穴状に形成されるとともに、該回転規制部に密接するように係合して、前記一端と前記穴部とが緊密に嵌合する。このように係合した回転規制部と穴部の内周面とが互いに接触し抵抗となることから、切削工具用素材とシャンク部との前述の相対回転が確実に規制されるようになっている。
【0025】
また、本発明に係るコンポジット素材は、前述の切削工具用素材を用い、この切削工具用素材の前記一端を前記シャンク部の前記穴部に挿入した状態で、前記一端と前記穴部とが互いに緊密に嵌め合わされていることを特徴とする。
【0026】
本発明に係るコンポジット素材によれば、切削工具用素材の一端には前記回転規制部が形成されており、例えば、この一端をシャンク部の穴部に圧入したり、該一端を穴部に挿入しプレス加工やかしめ加工等を施したりして、これら一端と穴部とが互いに緊密に嵌め合わされている。従って、前述の切削工具用素材とシャンク部との相対回転が確実に規制される。また、このコンポジット素材をエンドミルやドリル等の切削工具として用いた場合に、切削加工の精度が安定して確保されるとともに、工具寿命が延長する。
【0027】
また、本発明に係る切削工具は、前述のコンポジット素材を用い、このコンポジット素材の前記切削工具用素材の前記一端とは反対側を向く他端に切刃を形成したことを特徴とする。
【0028】
本発明に係る切削工具によれば、コンポジット素材の切削工具用素材に形成された切刃が被加工材を精度よく安定して切削加工するとともに、生産性が高められる。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る切削工具用素材、コンポジット素材、切削工具によれば、切削工具用素材とシャンク部との軸周りの相対回転を確実に防止でき、切削加工が精度よく安定して行え、工具寿命が延長する。
また、本発明に係る切削工具用素材の製造方法によれば、前述した切削工具用素材の製造が容易に行えるとともに製造コストを削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る切削工具用素材を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る切削工具用素材を示す正面図及び側面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る切削工具用素材を製造するプレス機械の金型部分を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る切削工具用素材を製造する手順を説明する図である。
【図5】本発明の実施形態に係るコンポジット素材のシャンク部を示す側面図及び正面図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係るコンポジット素材を製造する手順を説明する図である。
【図7】本発明の実施形態に係る切削工具の切刃部分を示す側面図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る切削工具用素材を示す斜視図である。
【図9】本発明の第3の実施形態に係る切削工具用素材を示す斜視図である。
【図10】本発明の第4の実施形態に係るコンポジット素材を製造する手順を説明する図である。
【図11】本発明の第5の実施形態に係るコンポジット素材を製造する手順を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の実施形態に係る切削工具用素材は、後述するように、シャンク部とともにコンポジット素材を構成する。また、このコンポジット素材に切刃を形成することで、エンドミル等の切削工具とされる。
例えば、切削工具用素材は、超硬合金やサーメット等の硬質材料からなり、シャンク部は、この切削工具用素材よりも硬度が低く比較的低廉なSUS、スチール、アルミニウム合金等の金属材料からなる。
【0032】
まず、本発明の第1の実施形態について説明する。
図1、図2に示すように、第1の実施形態に係る切削工具用素材10は、軸状をなし、その軸方向に直交する断面が略円形状に形成されている。また、切削工具用素材10の外周面には、外周面から突出するとともに軸方向に沿って延びる凸部11が複数形成されている。これらの凸部11は、切削工具用素材10の軸方向に沿った全長L1に亘り形成されており、その切削工具用素材10の軸中心とは反対側を向く表面は平面11Aとされている。
【0033】
また、これらの凸部11は、軸周りに互いに間隔を開け配置されている。本実施形態では、凸部11が、外周面の周方向に沿って等間隔を開け2つ形成されているとともに、これらの凸部11の平面11A同士が、前記軸中心を挟んで平行に配置されている。また、これらの凸部11が形成されることにより、切削工具用素材10は、軸方向に直交する断面が非真円形状とされているとともに、これらの凸部11が回転規制部12とされている。
【0034】
また、図2において、例えば、切削工具用素材10の全長L1は、20mm〜120mmの範囲内に設定される。また、前記外周面の直径dは、1mm〜13mmの範囲内に設定される。また、切削工具用素材10の軸方向に直交する外形寸法D1は、前述の直径dと同一寸法若しくは該直径dよりも僅かに大きい寸法とされ、1mm〜14mmの範囲内に設定される。また、凸部11の平面11Aにおいて、軸方向に直交する短手方向の寸法Wは、0.9mm〜2.1mmの範囲内に設定され、平面11Aが前記外周面から突出する寸法Tは、0.07mm〜0.1mmの範囲内に設定される。また、好ましくは、寸法Wの直径dに対する比(W/d)は、15%〜30%の範囲内に設定される。
【0035】
また、例えば、直径dが2mm以上に設定される場合には、寸法Wは、1+(d−2.5)×0.1で算出される値の±0.1mm以内に設定されていることが望ましい。この場合、寸法Tは、T≒0.1に設定される。尚、本実施形態においては、前述の全長L1が24mm程度とされ、直径d及び外形寸法D1が3.6mm程度とされ、寸法Wが1.05mm程度とされ、寸法Tが0.1mm程度とされている。
【0036】
また、本実施形態では、前述の切削工具用素材10を、メカプレスからなるプレス機械100を用いて形成する。
図3に示すように、プレス機械100は、鉛直方向に対向配置された一対の金型101,102を有している。金型101,102は、略直方体状をなし、互いに間隔を開け配置されるとともに、その対向する加工面101A,102Aが丸溝状に夫々形成されている。詳しくは、加工面101A,102Aは、金型101,102の外周面から窪まされるように、鉛直方向の断面が略半円弧状に夫々形成されており、互いに間隔を開け水平方向に平行に延びている。
【0037】
また、図3において、加工面101A,102Aの幅方向の両端部分、すなわち、加工面101A,102Aの延在する方向及び鉛直方向に直交する方向の両端部分には、段部101B,102Bが夫々形成されている。段部101B,102Bは、互いに間隔を開け加工面101A,102Aの延在する方向に平行に延びており、帯状に夫々形成されている。
【0038】
また、金型101,102の外周面において、前記幅方向の外方を向く壁面101C,102Cには、これらの壁面101C,102Cに密接するとともに壁面101C,102Cに対し面方向に沿って摺動可能なガイド103が夫々配設される。
また、図4は図3のA−A断面におけるプレス機械100の主要部分を表しており、図4(b)に示されているように、金型101,102の外周面において、加工面101A,102Aの延在する方向の外方を向く壁面101D,102Dには、これらの壁面101D,102Dに密接するとともに壁面101D,102Dに対し面方向に沿って摺動可能なガイド104が夫々配設される。
【0039】
また、金型101,102は、不図示の駆動部により互いに鉛直方向に接近離間可能とされている。そして、金型101,102が互いに離間した状態においては、金型101,102の間に切削工具用素材10の母材Mが充填可能とされている。
また、図3は、金型101,102が互いに最も接近した状態を表しており、このように金型101,102が互いに最も接近した状態において、加工面101A,102A、段部101B,102B、ガイド103,104に囲まれた空間が、切削工具用素材10の外形をなすように設定されている。
【0040】
次に、前述のプレス機械100を用いて切削工具用素材10を製造する手順について説明する。
まず、金型101,102を互いに離間させた状態で、金型101,102の間に、例えば、粉状の金属材料に結合剤を混錬してなる母材Mを配置する。すなわち、図4(a)に示すように、金型102に対し金型101を上方へ離間させた状態で、金型102、ガイド103及びガイド104に囲まれた略直方体穴状の空間に母材Mを充填する。
【0041】
次いで、図4(b)に示すように、金型101を金型102に接近させていくとともに、加工面101A,102A、段部101B,102B、ガイド103,104で母材Mを囲み、母材Mを圧縮していく。
さらに、図4(c)に示すように、加工面101A,102A同士が互いに最も接近する位置まで金型101,102を接近させて、母材Mをより圧縮し、母材Mを切削工具用素材10の形状に形成する。
【0042】
詳しくは、金型101,102を互いに接近させ、母材Mをプレス加工して切削工具用素材10の形状に形成する際、母材Mは加工面101A,102A、段部101B,102B、ガイド103,104に囲まれた形状に対応して略円柱状に形成されるのだが、この切削工具用素材10の外周面における前記幅方向の両端部分に対応する位置には、前記外周面から突出するとともに前記軸方向に沿って延びる凸部11からなる回転規制部12が形成されることとなる。
【0043】
すなわち、母材Mは、前述のように圧縮されていく際に、図3に示すように、段部101B,102B、ガイド103,104で囲まれる略直方体穴状の凹部105にも充填されるとともに、切削工具用素材10の外周面には、凹部105の形状に対応した凸部11が形成される。
【0044】
次いで、図4(d)に示すように、金型101,102同士の間隔を変えずに、金型101,102とガイド103,104とを鉛直方向に相対的に移動させ、加工面101A,102Aの間に配置されている母材Mを、ガイド103,104の上端部分よりも上方に位置させる。
次いで、金型101を金型102から上方へ離間させて、切削工具用素材10の形状に形成された母材Mを露出させ装置から取り出した後、焼結して、切削工具用素材10が製造される。
【0045】
次に、この切削工具用素材10を用いたコンポジット素材80について説明する。
切削工具用素材10は、その軸方向に沿った一端を、図5に示すシャンク部50の穴部51に挿入してシャンク部50に支持される。コンポジット素材80は、切削工具用素材10及びシャンク部50により構成される。
【0046】
図5に示すように、シャンク部50は、軸状又は円柱状をなしており、その軸方向の片側の端部には、該端部の端面に開口するとともに該軸方向の内側へ向けて延びる円柱穴状の穴部51が形成されている。また、穴部51の最奥部には、略円錐穴状の空間51Aが形成されている。また、穴部51の内径D2は、切削工具用素材10の直径dよりも僅かに小さい寸法に設定されている。
【0047】
尚、本実施形態においては、シャンク部50の軸方向に沿った全長L2が、切削工具用素材10の全長L1よりも大きく設定されている。
【0048】
次に、前述の切削工具用素材10及びシャンク部50を用いてコンポジット素材80を製造する手順について説明する。
まず、図1に示す切削工具用素材10の軸方向に沿った一端を、図5に示すシャンク部50の穴部51に圧入して、図6(a)のように緊密に嵌合させる。
【0049】
詳しくは、切削工具用素材10の前記一端を、シャンク部50の穴部51に対して同軸となるように押し当て、強い力で押し入れる。すると、穴部51の内周面は前記一端によって全周に亘って僅かずつ押し広げられるように塑性変形し、該穴部51内に切削工具用素材10の一端が押し込まれる。そして、図6(a)に示すように、切削工具用素材10の一端が穴部51の最奥部まで押し込まれた状態において、切削工具用素材10のシャンク部50に対する圧入が完了し、該切削加工用素材10は、その一端をシャンク部50の穴部51に緊密に嵌合して支持されることになる。尚、この圧入の際、前記一端が穴部51の内周面を削って切屑が生じた場合は、該切屑は穴部51の最奥部の空間51Aに押し込まれ収納される。
【0050】
次いで、図6(b)に示すように、シャンク部50の外周面において、軸方向の切削工具用素材10を圧入した側の端部を、軸方向の外側から内側に向かうに従い漸次拡径するテーパ面54に形成する。図示の例では、テーパ面54は、その他端の外径が切削工具用素材10の外径と略同一とされているとともに、前記他端において滑らかに切削工具用素材10の外周面に連なっている。また、テーパ面54の軸方向に沿う長さL4は、シャンク部50の穴部51の軸方向に沿う長さL3以下とされている。すなわち、図示の例では、切削工具用素材10において穴部51に挿入された一端部分の長さがL3とされており、この長さL3が、前記長さL4よりも大きく設定されている。
【0051】
このように、切削工具用素材10及びシャンク部50からなるコンポジット素材80が製造される。尚、図示の例では、切削工具用素材10の軸方向に沿った全長L1のうち、半分以上の部分がシャンク部50の穴部51に挿入されている。
【0052】
次に、コンポジット素材80を用いて切削工具95を製造する手順について説明する。
図7に示すように、コンポジット素材80の切削工具用素材10の外周面に、略螺旋状の切刃96を形成する。詳しくは、切削工具用素材10の露出した外周面において、少なくとも軸方向に沿った他端部分(すなわち前記一端とは反対側の端部)に、切刃96を形成する。
図示の例では、切削工具用素材10に切刃96を形成し、エンドミルからなる切削工具95としている。
【0053】
以上説明したように、本実施形態に係る切削工具用素材10によれば、シャンク部50の穴部51に挿入されるその一端に、軸方向に直交する断面が非真円形状をなす回転規制部12が形成されているので、この切削工具用素材10の前記一端をシャンク部50の穴部51に圧入して該一端と穴部51とを嵌め合わせ、コンポジット素材80を形成した際、穴部51の内周面が回転規制部12の形状に対応し軸方向に直交する断面が非真円形状となるように変形して、前記一端の外周面に密接することから、切削工具用素材10とシャンク部50とが軸周りに相対移動することが確実に防止される。
【0054】
従って、このコンポジット素材80の切削工具用素材10に切刃96を形成して切削工具95を製造し、この切削工具95を切削加工に用いた場合に、切削工具95に対し軸周りの切削負荷が作用しても、回転規制部12が切削工具用素材10とシャンク部50との軸周りの相対回転を確実に規制するので、切削加工が精度よく安定して行えるとともに工具寿命が延長する。
【0055】
また、従来のように、前述の相対回転を規制するため、切削工具用素材10の前記一端における外周面を予め高精度に研磨加工した後、該一端をシャンク部50の穴部51に圧入するような手法に対比して、製造工程が簡便となるとともに、製造コストが大幅に削減される。
【0056】
詳しくは、回転規制部12は、切削工具用素材10の外周面から突出するとともに軸方向に沿って延びる凸部11とされているので、この切削工具用素材10の前記一端をシャンク部50の穴部51に圧入して嵌め合わせた際、穴部51の内周面は、凸部11の形状に対応して塑性変形し窪まされるとともに該凸部11に密接するように係合して、前記一端と穴部51とが緊密に嵌合する。このように係合した凸部11と穴部51の内周面とが互いに接触し抵抗となることから、切削工具用素材10とシャンク部50との前述の相対回転が確実に規制されるようになっている。
また、回転規制部12がこのような凸部11からなるので、母材Mをプレス機械100により切削工具用素材10の形状に形成する際に、凸部11を容易に形成できる。
【0057】
また、切削工具用素材10の外周面には凸部11が複数形成されているとともに、これらの凸部11同士が、軸周りに互いに間隔を開け配置されているので、これらの凸部11とシャンク部50の穴部51の内周面とが夫々に係合して、前述の抵抗が充分に確保でき、切削工具用素材10とシャンク部50との相対回転がより確実に規制される。
【0058】
また、本実施形態に係る切削工具用素材10の製造方法によれば、母材Mをプレス加工して切削工具用素材10の形状に形成するときに、この切削工具用素材10の外周面における前記幅方向の両端部分に対応する位置に、前記外周面から突出するとともに切削工具用素材10の軸方向に沿って延びる凸部11からなる回転規制部12を形成することとしているので、既存のプレス機械100を用いたプレス加工により、回転規制部12を容易に形成できる。
【0059】
すなわち、一対の金型101,102が互いに最も接近した状態において、これらの金型101,102同士の間に、段部101B,102B、ガイド103,104に囲まれる略直方体穴状の凹部105が形成されるようになっているので、プレス加工の際、この凹部105に母材Mが充填されるとともに、この凹部105の形状に対応した凸部11が簡便に形成される。従って、回転規制部12を備えた切削工具用素材10の製造が容易に行え、製造コストが大幅に削減する。
【0060】
また、このように形成されたコンポジット素材80をエンドミルからなる切削工具95として用いているので、切削加工の精度が安定して確保されるとともに、工具寿命が延長する。
また、コンポジット素材80の切削工具用素材10に形成された切刃96が被加工材を精度よく安定して切削加工するとともに、生産性が高められる。
【0061】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
尚、前述の実施形態と同一部材には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0062】
図8に示すように、第2の実施形態に係る切削工具用素材20は、軸状をなし、その軸方向に直交する断面が略円形状に形成されている。また、切削工具用素材20の外周面には、外周面から突出するとともに軸方向に沿って延びる凸部21が複数形成されている。これらの凸部21は、切削工具用素材20の軸方向に沿った全長に亘り形成されている。
【0063】
また、凸部21は、第1突起22と、この第1突起22の軸方向に沿った一端側に配置されるとともに切削工具用素材20の外周面から突出する高さが第1突起22より高い第2突起23と、第1、第2突起22,23の間に形成された段部24と、を有している。
【0064】
詳しくは、第2突起23及び段部24は、切削工具用素材20の外周面における軸方向に沿った一端部分に形成され、第1突起22は、前記外周面における軸方向に沿った中央部分及び他端部分に形成されている。また、第1突起22の切削工具用素材20の軸中心とは反対側を向く表面は平面22Aとされ、第2突起23の前記軸中心とは反対側を向く表面は平面23Aとされている。
【0065】
また、これらの凸部21は、軸周りに互いに間隔を開け配置されている。本実施形態では、凸部21が、外周面の周方向に沿って等間隔を開け2つ形成されているとともに、これらの凸部21の平面22A,22A同士及び平面23A,23A同士が、前記軸中心を挟んで平行に夫々配置されている。また、これらの凸部21が形成されることにより、切削工具用素材20は、軸方向に直交する断面が非真円形状とされているとともに、これらの凸部21が回転規制部12とされている。
【0066】
次に、この切削工具用素材20を製造する手順について説明する。
切削工具用素材20は、前述の実施形態と同様に、プレス機械100を用いて製造される。
プレス機械100は、金型101,102を互いに最も接近させた状態で、段部101B,102B、ガイド103,104で囲まれる凹部105を、凸部21に対応する形状に予め設定しておく。
【0067】
このプレス機械100を用いて、互いに離間した状態の金型101,102の間に母材Mを配置した後、金型101を金型102に接近させていくとともに、加工面101A,102A、段部101B,102B、ガイド103,104で母材Mを囲み、母材Mを圧縮していく。
さらに、加工面101A,102A同士が互いに最も接近する位置まで金型101,102を接近させて、母材Mをより圧縮し、母材Mを切削工具用素材20の形状に形成する。
【0068】
詳しくは、金型101,102を互いに接近させ、母材Mをプレス加工して切削工具用素材20の形状に形成する際、母材Mは加工面101A,102A、段部101B,102B、ガイド103,104に囲まれた形状に対応して略円柱状に形成されるのだが、この切削工具用素材20の外周面における前記幅方向の両端部分に対応する位置には、前記外周面から突出するとともに前記軸方向に沿って延びる凸部21からなる回転規制部12が形成されることとなる。
【0069】
また、シャンク部50として、穴部51の内径D2が、切削工具用素材20の外形寸法D1よりも僅かに大きい寸法に設定されたものを用いる。詳しくは、シャンク部50において、穴部51の内径D2を、切削工具用素材20の第2突起23における一対の平面23A同士の間の距離よりも僅かに大きく設定しておく。
そして、切削工具用素材20の軸方向に沿った一端を、シャンク部50の穴部51に挿入し、前記一端を穴部51の最奥部に突き当てた状態で、このシャンク部50を、メカプレス等のプレス加工や絞り等のかしめ加工などにより縮径させるとともに穴部51の内径D2を縮小させ、この穴部51の内周面を、切削工具用素材20の外周面に密接するように塑性変形させ、前記一端と穴部51とを互いに嵌め合わせる。
このようにして、コンポジット素材80が製造される。
また、このコンポジット素材80の切削加工用素材20に切刃96を形成することで、切削工具95が製造される。
【0070】
以上説明したように、本実施形態に係る切削工具用素材20によれば、凸部21が、外周面から突出する高さが互いに異なる第1、第2突起22,23と、第1、第2突起22,23の間に形成された段部24と、を有しているので、この切削工具用素材20の一端をシャンク部50の穴部51に挿入しプレス加工やかしめ加工等により嵌め合わせた際、穴部51の内周面は、凸部21の形状に対応して塑性変形し窪まされるとともに該凸部21に密接するように係合して、前記一端と穴部51とが緊密に嵌合する。詳しくは、穴部51の内周面は、凸部21の第1、第2突起22,23及び段部24の形状に対応して、多段状に窪まされる。
【0071】
このように係合した凸部21と穴部51の内周面とが互いに接触し抵抗となることから、切削工具用素材20とシャンク部50との軸周りの相対回転が確実に規制される。さらに、凸部21において、第2突起23が第1突起22の軸方向に沿った一端側に配置されているので、段部24が軸方向の他端側を向くこととなり、この段部24に穴部51の内周面が接触し抵抗となって、切削工具用素材20とシャンク部50との軸方向に沿った相対移動が規制される。特に、切削工具用素材20が、シャンク部50の穴部51から軸方向に沿った他端側へ抜け出るようなことが確実に防止される。
また、回転規制部12がこのような凸部21からなるので、母材Mをプレス機械100により切削工具用素材20の形状に形成する際に、凸部21を容易に形成できる。
【0072】
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
尚、前述の実施形態と同一部材には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0073】
図9に示すように、第3の実施形態に係る切削工具用素材30は、軸状をなし、その外周面には、外周面から突出するとともに軸方向に沿って延びる凸部31が複数形成されている。これらの凸部31は、切削工具用素材30の軸方向に沿った全長に亘り形成されており、その切削工具用素材30の軸中心とは反対側を向く表面は平面31Aとされている。
【0074】
また、これらの凸部31は、軸周りに互いに間隔を開け配置されている。本実施形態では、凸部31が、外周面の周方向に沿って等間隔を開け2つ形成されているとともに、これらの凸部31の平面31A同士が、前記軸中心を挟んで平行に配置されている。
また、凸部31は、軸方向に沿う一端側から他端側に向かうに連れ漸次前記外周面の周方向に沿う幅が狭くなるテーパ状に形成されている。詳しくは、凸部31の平面31Aは、一端側から他端側へ向かうに従い漸次前記短手方向の寸法Wが低減するように、略台形状に夫々形成されている。
【0075】
尚、切削工具用素材30の一端側の端部における寸法Wは、他端側の端部における寸法Wに対して、1倍を超え1.2倍以下の範囲内に設定される。本実施形態においては、一端側の端部における寸法Wが、他端側の端部における寸法Wに対して、1倍を超え1.1倍以下の範囲内に設定されている。
【0076】
また、これらの凸部31が形成されることにより、切削工具用素材30は、軸方向に直交する断面が非真円形状とされているとともに、これらの凸部31が回転規制部12とされている。
また、図示の例では、切削工具用素材30は、その直径dが軸方向に沿って一端側から他端側に向かうに連れ漸次縮径するように形成されている。詳しくは、切削工具用素材30の一端側の端部における直径dは、他端側の端部における直径dに対して、1.1倍〜1.3倍の範囲内に設定される。本実施形態においては、一端側の端部における直径dが、他端側の端部における直径dに対して、1.2倍程度に設定されている。
【0077】
尚、凸部31はテーパ状に形成されていればよく、例えば、凸部31が、軸方向に沿う一端側から他端側に向かうに連れ漸次前記外周面から突出する高さTが低くなるテーパ状に形成されていることとしても構わない。この場合、切削工具用素材30の一端側の端部における高さTは、他端側の端部における高さTに対して、1倍を超え1.2倍以下の範囲内に設定される。より好ましくは、一端側の端部における高さTが、他端側の端部における高さTに対して、1倍を超え1.1倍以下の範囲内に設定される。
【0078】
本実施形態の切削工具用素材30も、前述の実施形態と同様に、プレス機械100を用いて製造される。
プレス機械100は、金型101,102を互いに最も接近させた状態で、段部101B,102B、ガイド103,104で囲まれる凹部105を、凸部31に対応する形状に予め設定しておく。
【0079】
このプレス機械100を用いて、互いに離間した状態の金型101,102の間に母材Mを配置した後、金型101を金型102に接近させていくとともに、加工面101A,102A、段部101B,102B、ガイド103,104で母材Mを囲み、母材Mを圧縮していく。
さらに、加工面101A,102A同士が互いに最も接近する位置まで金型101,102を接近させて、母材Mをより圧縮し、母材Mを切削工具用素材30の形状に形成して装置から取り出した後、焼結して、切削工具用素材30が製造される。
【0080】
また、シャンク部50として、穴部51の内径D2が、切削工具用素材30の外形寸法D1よりも僅かに大きい寸法に設定されたものを用いる。詳しくは、シャンク部50において、穴部51の内径D2を、切削工具用素材30の一端側の端部における一対の平面31A同士の間の距離よりも僅かに大きく設定しておく。
そして、切削工具用素材30の軸方向に沿った一端を、シャンク部50の穴部51に挿入し、前記一端を穴部51の最奥部に突き当てた状態で、このシャンク部50を、プレス加工やかしめ加工等により縮径させるとともに穴部51の内径D2を縮小させ、この穴部51の内周面を、切削工具用素材30の外周面に密接するように塑性変形させ、前記一端と穴部51とを互いに嵌め合わせる。
このようにして、コンポジット素材80が製造される。
また、このコンポジット素材80の切削加工用素材30に切刃96を形成することで、切削工具95が製造される。
【0081】
以上説明したように、本実施形態に係る切削工具用素材30によれば、凸部31が、前述のようにテーパ状に形成されているので、この切削工具用素材30の一端をシャンク部50の穴部51に挿入しプレス加工やかしめ加工等により嵌め合わせた際、穴部51の内周面は、凸部31の形状に対応して塑性変形し窪まされるとともに該凸部31に密接するように係合して、前記一端と穴部51とが緊密に嵌合する。すなわち、穴部51の内周面は、凸部31のテーパ形状に対応して、テーパ状に窪まされる。このように係合した凸部31と穴部51の内周面とが互いに接触し抵抗となることから、切削工具用素材30とシャンク部50との軸周りの相対回転が確実に規制される。ここで、凸部31は、軸方向に沿った一端側から他端側に向かうに従い漸次前記外周面の周方向に沿う幅(すなわち寸法W)が狭くなるか、漸次前記外周面から突出する高さTが低くなるテーパ状に形成されているので、切削工具用素材30が、シャンク部50の穴部51から軸方向に沿った他端側へ抜け出るようなことが確実に防止される。
また、切削工具用素材30が、軸方向に沿って一端側から他端側に向かうに連れ漸次その直径dが縮径するように形成されているので、該切削工具用素材30が前述のように抜け出ることが、より確実に防止される。
【0082】
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。
尚、前述の実施形態と同一部材には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0083】
図10に示すように、第4の実施形態に係るコンポジット素材85は、前述の切削工具用素材10(20,30)及びシャンク部60から構成される。
シャンク部60は、略円筒状をなしており、軸方向に沿って該シャンク部60を貫通する孔部(穴部)61が形成されている。また、孔部61の内径D2は、切削工具用素材10(20,30)の直径dよりも僅かに小さい寸法に設定されている。尚、本実施形態においては、シャンク部60の軸方向に沿った全長L2が、切削工具用素材10(20,30)の全長L1よりも小さく設定されている。
【0084】
次に、切削工具用素材10(20,30)及びシャンク部60を用いてコンポジット素材85を製造する手順について説明する。
まず、切削工具用素材10(20,30)の軸方向に沿った一端を、シャンク部60の孔部61に圧入して、図10(a)のように緊密に嵌合させる。
【0085】
詳しくは、切削工具用素材10(20,30)の一端を、シャンク部60の孔部61に対して同軸となるように他端側から押し当て、強い力で押し入れる。すると、孔部61の内周面は前記一端によって全周に亘って僅かずつ押し広げられるように塑性変形し、該孔部61内に切削工具用素材10(20,30)の一端が押し込まれる。次いで、さらにこの切削工具用素材10(20,30)を孔部61内に押し込んでいくとともに該孔部61の内周面を塑性変形させながら、図10(a)に示すように、切削工具用素材10(20,30)の一端側の端面とシャンク部60の一端側の端面とが面一となるように、該切削工具用素材10(20,30)を孔部61内に軸方向に沿って突き通す。このように、切削工具用素材10(20,30)の一端側の端面とシャンク部60の一端側の端面とが面一にされた状態において、切削工具用素材10(20,30)のシャンク部60に対する圧入が完了し、該切削加工用素材10(20,30)は、その一端及び軸方向の中央部分をシャンク部60の孔部61に緊密に嵌合して支持される。また、この状態で、切削工具用素材10(20,30)における軸方向の他端部は、外部に露出されている。
【0086】
次いで、図10(b)に示すように、シャンク部60の外周面における軸方向に沿った他端部分を、軸方向の他端側から一端側に向かうに従い漸次拡径するテーパ面64に形成する。図示の例では、テーパ面64は、その他端の外径が切削工具用素材10(20,30)の外径と略同一とされているとともに、前記他端において滑らかに切削工具用素材10(20,30)の外周面に連なっている。
このように、切削工具用素材10(20,30)及びシャンク部60からなるコンポジット素材85が製造される。
【0087】
以上説明したように、本実施形態に係るコンポジット素材85によれば、切削工具用素材10(20,30)を支持するシャンク部60の孔部61が、該シャンク部60を軸方向に貫通して形成されているので、孔部61の内周面と切削工具用素材10(20,30)の外周面とが互いに接触して生じる抵抗が大幅に増大する。従って、切削工具用素材10(20,30)とシャンク部60との軸周りの相対回転及び軸方向の相対移動が確実に防止される。また、超硬合金等からなる切削工具用素材10(20,30)がコンポジット素材85の全長に亘り配設されることから、コンポジット素材85の剛性が増し、切削負荷に対する強度が充分に確保される。
【0088】
次に、本発明の第5の実施形態について説明する。
尚、前述の実施形態と同一部材には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0089】
図11に示すように、第5の実施形態に係るコンポジット素材90は、切削工具用素材40及びシャンク部70から構成される。
本実施形態の切削工具用素材40は、略多段円柱状をなし、軸方向に沿った一端部分が小径部41とされ、軸方向に沿った他端部分が大径部42とされている。また、切削工具用素材40の軸方向に沿う中央部分には、軸方向の他端側から一端側へ向かうに従い漸次縮径するテーパ面43が形成されている。また、切削工具用素材40の小径部41には、軸方向に沿って延びる凸部(不図示)が互いに周方向に間隔を開け複数形成されており、これらの凸部により、軸方向に直交する断面が非真円形状をなす回転規制部12が形成されている。
【0090】
また、シャンク部70は、略円柱状をなし、その他端部分には、軸方向に沿って延びる略円柱穴状の穴部71が他端側の端面に開口し形成されている。また、穴部71における他端(すなわち開口部)には、前記端面から一端側へ向かうに従い漸次縮径するテーパ面72が形成されている。また、穴部71の内径D2は、切削工具用素材40の小径部41における直径dよりも僅かに小さく設定されている。また、シャンク部70の外径は、切削工具用素材40の外径よりも若干大きく設定されている。
【0091】
次に、前述の切削工具用素材40及びシャンク部70を用いてコンポジット素材90を製造する手順について説明する。
まず、切削工具用素材40の小径部41を、シャンク部70の穴部71に圧入して、図11(a)のように緊密に嵌合させる。
【0092】
詳しくは、切削工具用素材40の小径部41の一端を、シャンク部70の穴部71に対して同軸となるように押し当て、強い力で押し入れる。すると、穴部71の内周面は前記一端によって全周に亘って僅かずつ押し広げられるように塑性変形し、該穴部71内に切削工具用素材40の一端が押し込まれる。そして、図11(a)に示すように、切削工具用素材40の一端が穴部71の最奥部まで押し込まれた状態において、切削工具用素材40のテーパ面43が穴部71のテーパ面72に当接して、切削工具用素材40のシャンク部70に対する圧入が完了し、該切削加工用素材40は、その一端をシャンク部70の穴部71に緊密に嵌合して支持される。
【0093】
次いで、シャンク部70の外周面を切削加工して、図11(b)に示すように、シャンク部70の外径と切削工具用素材40における大径部42の外径とが同一になるように形成する。尚、シャンク部70及び切削工具用素材40の両部材の外周面を切削加工して、これらの外径が同一になるように形成してもよい。これにより、切削工具用素材40の外周面とシャンク部70の外周面との間に段差や傾斜部分が形成されることなく、これらの外周面同士が軸方向に連結される。
このように、切削工具用素材40及びシャンク部70からなるコンポジット素材90が製造される。
【0094】
以上説明したように、本実施形態に係るコンポジット素材90によれば、前述の実施形態と同様に、切削工具用素材40とシャンク部70との軸周りの相対回転が確実に防止される。また、切削工具用素材40の外径とシャンク部70の外径とが同一に形成され、シャンク部70の外周面と切削工具用素材40の外周面との間に段差や傾斜部分が形成されることなくこれらの外周面同士が連結しているので、このコンポジット素材90の切削工具用素材40に切刃96を形成して切削工具95を製造し、この切削工具95を切削加工に用いた際、被加工材を切削して生じた切粉や切屑が前記段差や傾斜部分に当たることがない。従って、これらの切粉や切屑がよりスムースに排出されて、切削工具95による切削加工が精度よく安定して行える。
【0095】
尚、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、前述の実施形態では、コンポジット素材80,85,90に切刃96を形成することで、エンドミルからなる切削工具95が形成されることとしたが、これに限定されるものではない。すなわち、切削工具95は、切刃96を有するエンドミル以外のドリル等であっても構わない。
【0096】
また、前述の実施形態では、切削工具用素材の外周面に凸部が複数形成されていることとしたが、凸部は、前記外周面に1つのみ形成されていることとしてもよい。
また、凸部は、前記外周面において切削工具用素材の軸方向に沿った全長に亘り形成されていることとしたが、これに限定されるものではない。すなわち、凸部は、少なくともシャンク部の穴部に挿入される切削工具用素材の一端に形成されていればよいことから、前記外周面における一部にのみ形成されていてもよい。
また、凸部において、その切削工具用素材の軸中心とは反対側を向く表面は平面とされていることとしたが、前記表面は曲面に形成されていても構わない。
【0097】
また、前述の実施形態で説明した全長L1、全長L2、寸法W、寸法T、直径d、外形寸法D1、内径D2、長さL3、長さL4等の各種寸法・角度等は任意の値であり、説明した各数値範囲内に限定されるものではない。
【0098】
また、切削工具用素材は、メカプレス(機械式プレス)からなるプレス機械100を用いて形成されることとして説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、液圧式プレスからなるプレス機械を用いても構わない。また、このようなプレス機械を用いずに、押出加工により切削工具用素材の形状に形成することとしても構わない。
【0099】
また、前述の実施形態では、回転規制部12は、切削工具用素材10,20,30,40の外周面から突出する凸部であることとして説明したが、これに限定されるものではない。すなわち、回転規制部12は、軸方向に直交する断面が非真円形状をなすとともに、切削工具用素材とシャンク部との軸周りの相対移動を規制するように形成されていればよいことから、例えば、軸方向に直交する断面が楕円形状とされていてもよい。
【0100】
このように、回転規制部12が、軸方向に直交する断面が楕円形状とされた場合は、切削工具用素材の一端をシャンク部の穴部に圧入したり、該一端を穴部に挿入しプレス加工やかしめ加工等を施したりして嵌め合わせた際、穴部の内周面が、回転規制部の楕円形状に対応して塑性変形し断面略楕円穴状に形成されるとともに、該回転規制部に密接するように係合して、前記一端と前記穴部とが緊密に嵌合する。このように係合した回転規制部と穴部の内周面とが互いに接触し抵抗となることから、切削工具用素材とシャンク部との前述の相対回転が確実に規制される。
【0101】
また、第1、第4、第5の実施形態では、切削工具用素材において回転規制部12が形成された一端をシャンク部の穴部に圧入して緊密に嵌合させることとしたが、嵌合の手法は、圧入に限定されるものではない。すなわち、圧入の代わりに、例えば、前述したプレス加工やかしめ加工等を施すことによって、切削工具用素材の前記一端をシャンク部の穴部に緊密に嵌合させることとしてもよく、或いは、それ以外の手法を用いても構わない。
【符号の説明】
【0102】
10,20,30,40 切削工具用素材
11,21,31 凸部
12 回転規制部
22 第1突起
23 第2突起
24 段部
50,60,70 シャンク部
51,71 穴部
61 孔部(穴部)
80,85,90 コンポジット素材
95 切削工具
96 切刃
101,102 金型
M 母材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸状をなし、その一端をシャンク部の穴部に挿入して前記シャンク部に支持される切削工具用素材であって、
前記一端には、軸方向に直交する断面が非真円形状をなす回転規制部が形成されていることを特徴とする切削工具用素材。
【請求項2】
請求項1に記載の切削工具用素材であって、
前記回転規制部は、外周面から突出するとともに軸方向に沿って延びる凸部であることを特徴とする切削工具用素材。
【請求項3】
請求項2に記載の切削工具用素材であって、
前記凸部は複数形成されているとともに、軸周りに互いに間隔を開け配置されていることを特徴とする切削工具用素材。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の切削工具用素材であって、
前記凸部は、第1突起と、この第1突起の軸方向に沿った一端側に配置されるとともに前記外周面から突出する高さが該第1突起より高い第2突起と、前記第1、第2突起の間に形成された段部と、を有していることを特徴とする切削工具用素材。
【請求項5】
請求項2又は3に記載の切削工具用素材であって、
前記凸部は、軸方向に沿う一端側から他端側に向かうに連れ漸次前記外周面の周方向に沿う幅が狭くなるテーパ状に形成されていることを特徴とする切削工具用素材。
【請求項6】
請求項2又は3に記載の切削工具用素材であって、
前記凸部は、軸方向に沿う一端側から他端側に向かうに連れ漸次前記外周面から突出する高さが低くなるテーパ状に形成されていることを特徴とする切削工具用素材。
【請求項7】
請求項1に記載の切削工具用素材であって、
前記回転規制部は、軸方向に直交する断面が楕円形状とされていることを特徴とする切削工具用素材。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の切削工具用素材を用い、この切削工具用素材の前記一端を前記シャンク部の前記穴部に挿入した状態で、前記一端と前記穴部とが互いに緊密に嵌め合わされていることを特徴とするコンポジット素材。
【請求項9】
請求項8に記載のコンポジット素材を用い、このコンポジット素材の前記切削工具用素材の前記一端とは反対側を向く他端に切刃を形成したことを特徴とする切削工具。
【請求項10】
請求項1から6のいずれか一項に記載の切削工具用素材の製造方法であって、
対向配置された一対の金型の間に母材を配置する工程と、
これらの金型を互いに接近させ、前記母材をプレス加工して切削工具用素材の形状に形成するときに、この切削工具用素材の外周面における前記金型同士の対向する方向に直交する方向に対応する位置に、前記外周面から突出するとともに前記軸方向に沿って延びる凸部からなる前記回転規制部を形成する工程と、を備えることを特徴とする切削工具用素材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate