説明

切削工具

本発明は、単層または多層PVD被覆されたエッジの鋭い切削工具であって、同時に十分な耐磨耗性及び熱化学耐性、並びにエッジチッピングに対する耐性を示すことができる切削工具を提供することである。切削工具は、エッジ半径R、逃げ面及びすくい面、並びに焼結体表面の少なくとも各部を被覆する少なくとも1つの酸化PVD層を含むPVD被膜から成る単層または多層被膜を有する切削エッジを備えた超硬合金、CBN、サーメットまたはセラミック材料から成る焼結体を含む。1実施形態において、エッジ半径Rは40μmより小さく、好ましくは30μmと同等かまたはそれより小さい。表面が被覆される部分は、少なくとも焼結体の鋭いエッジのある部分を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも硬質材料とバインダー材料とを包含し、焼結体を形成するための温度及び圧力下で焼結された焼結体から成るかまたは焼結体を含む被覆された鋭いエッジを有する切削工具の分野に関する。切削工具は、例えばフライスのための工具(フライス工具)、旋盤工具、割り出し可能(indexable)インサート、歯切り工具、ホブ、シャンクタイプ工具、ねじ切り工具、穿孔工具等を含む。
【背景技術】
【0002】
従来及び現在の粉末冶金の焼結技術では、被覆しない条件並びにCVD(化学気相成長)及びPVD(物理気相成長)被覆条件の両方の超硬切削工具が使用されている。MT−CVD(中温CVD)被覆加工を含むCVD被覆加工では高温を必要とし、通常、HT−CVD(高温CVD)では950℃を超える温度、MT−CVDでは800℃から900度の温度、及び化学侵食加工雰囲気を必要とする。この方法は特に、切削工具の低エッジ強度及び抗折力(TRS)並びに避けることのできない被膜の熱クラックに関する周知の欠点を有する。
【0003】
以下に、超硬合金の被覆を例としてHT−CVDの欠点をより詳細に検討する。
a)既に述べたように、基板のTRSの低下は、被覆前の表面の状態が正しい研削加工によって引き起こされる有利な残留圧縮応力によるものであるかもしれない。この状態は、この有利な残留圧縮応力を緩和する高温によって変えられる。従って、被覆とは無関係に、高温アニーリングは超硬基板にこの影響を与える。しかしながら、例えば残留引張応力または表面亀裂を残す“乱雑な研削”を施される等、たとえ基板が適切に研削されていないとしても、高温処理は基本的に有利な効果をもたらさない。
b)被覆された切削工具のTRSのさらなる低下は、CVDの高温からの冷却の際の被膜と基板との間の熱膨張の不一致によって引き起こされる熱クラックの存在に由来する。クラックは被膜の厚さ方向に貫通するため、特定の切削条件の下で疲労破損が生じ得る。
c)WC−Co硬質金属の場合では、約850℃以上の温度でコバルトが表面方向へと拡散することが知られており、CVD加工の間の脱炭及びイータ相の形成にも関連する。このようなイータ相は、例えば、CVDによるAl被膜層の通常の下層であるTiCまたはTiCNのCVD第1層の初期形成における基板の外側領域の脱炭によって形成され得る。イータ相領域は、高孔率の脆化層を形成し、被膜剥離傾向だけでなく微小亀裂開始部位をもたらす。少なくともHT−CVDのこの欠点は、例えば第1TiCN層に約850℃で適用することによって、MT−CVDで解消されるため、基板のイータ相形成を最小限に抑制する。
【0004】
従って、このような不利な作用を低減するために別の方法が採用されている。US4,610,931では、外周面近くにバインダー濃縮を有する超硬合金体を使用することが提案されている。US5,266,388及びUS5,250,367では、前述のバインダー濃縮工具に、残留引張応力状態でCVD被膜を施し、続いて残留圧縮応力状態でPVD被膜を施す応用が提案されている。
【0005】
上記ではCVD被覆加工の欠点を説明するために超硬合金が使用されたが、焼結体を有するその他の基板でも同様または少なくとも類似した問題が知られている。サーメットもCo、Ni(及びMo、Al等のその他金属)バインダーを有し、超硬合金と同様の焼結加工が施される。例えば、TiCNベースのサーメットは、基板が被覆ガス種とより高い反応性を有し、界面に不要な反応層が生じるため、容易にCVD被覆されない。超硬CBN工具では、カーバイド及びサーメットで使用されるものとは異なる高温高圧焼結技術が使用される。しかしながら、超硬CBN工具もまたCVD被覆加工の間に高温反応する傾向にあるCo、Ni等の金属バインダーを有し得る。この基板は、大抵切削エッジの磨耗兆候のための被膜システムまたはTiN、TiAlN、CrAlNでPVD被覆されることもある。しかしながらこのような被覆は、例えば最先端の旋盤での高速切削によって生じる高温及び高酸化ストレスに対して限られた保護しか提供することができない。
【0006】
固体Al、Al−TiCまたはバインダーとしてガラス相が組み込まれたAl−Si(SiAlON)ベースのセラミック工具材料は、電気絶縁性を有するため従来のPVDで被覆することが困難な別の工具タイプである。低圧焼結されるカーバイドとは反対に、これらの材料は、焼結HIP(熱間静水圧プレス)される。このようなセラミックインサートは、高温によってSi基板の軟化が引き起こされるかまたは非晶ガラス状バインダー層が結晶となることによって靭性が低下するため、CVD被覆されない。しかしながら、被覆されていない材料では、金属切削の際に、バインダー相と被加工材料との間で相互作用が起こり得るため、クレーター磨耗が生じやすく、限られた特定の用途に工具の使用が制限される。
【0007】
従って、工具の靭性への高い要求または形状への特定のニーズを有する多くの作業では、PVD被覆は、部分的にまたは完全にCVD被覆に置き換えられた。これらの工具の例は、フライスまたは特にエッジが鋭いねじ切り及び穿孔工具等の断続切削用途に使用される工具である。しかしながら、顕著な熱化学抵抗性及び高温硬度のために、例えばα‐及び/またはγ‐結晶構造のAlまたはそのような被膜を有する厚い多層の酸化CVD被覆は、特にあらゆる種類の材料における粗い媒体の旋盤、分離、及び溝切の用途において、依然として広範囲に使用され、鋳鉄の旋盤ではほぼ独占的に使用されている。このような被膜は、電気絶縁性材料及び特に酸化被膜の主な加工制限のために、最近までPVD加工では生成することができなかった。
【0008】
当業者には周知であるように、上記で言及した問題が起こる傾向にあり、より小さいエッジ半径を有する鋭くなっている切削エッジに集中している。従って、CVD被覆された工具のエッジチッピングまたは破損を防止するために、切削エッジ及び工具先端のさらなる形状の制限を考慮しなければならない。例えば超硬合金の場合、切削エッジは最小半径40μmに制限される。さらに、溝、ウォーターフォール、ワイパー、または任意のその他の特殊形状を遊び側フランク、すくい面、または切削エッジの両面に適用する等の追加の方法が一般的に使用されるが、焼結工具基板の製造にさらに大抵複雑な製造段階を追加することとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第4,610,931号明細書
【特許文献2】米国特許第5,266,388号明細書
【特許文献3】米国特許第5,250,367号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、単層または多層PVD被覆されたエッジの鋭い切削工具であって、同時に十分な耐磨耗性及び熱化学耐性、並びにエッジチッピングに対する耐性を示すことができる切削工具を提供することである。切削工具は、エッジ半径R、逃げ面及びすくい面、並びに焼結体表面の少なくとも各部を被覆する少なくとも1つの酸化PVD層を含むPVD被膜から成る単層または多層被膜を有する切削エッジを備えた超硬合金、CBN、サーメットまたはセラミック材料から成る焼結体を含む。
【課題を解決するための手段】
【0011】
1実施形態において、エッジ半径Rは40μmより小さく、好ましくは30μmと同等かまたはそれより小さい。表面が被覆される部分は、少なくとも焼結体の鋭いエッジのある部分を含む。工具を鋭利にした後にホーニング、鈍化、または同様の後処理が施されなければ、20μmと同等かまたはそれより小さいエッジ半径Rは有する焼結体を製造することができる。被覆加工はいかなる有害な影響も有さず、切削エッジの軟化を引き起こさないため、これらの工具を酸化PVD被膜で被覆すると有利であり得る。
【0012】
被膜には熱クラックは存在せず、CVD加工ガス由来のいかなるハロゲン化物またはその他汚染物質も含まれない。さらに、被膜または少なくとも酸化PVD層が、He、Ar、Kr及び同様のもの等の不活性元素を含まないことが可能である。これは、純反応ガス雰囲気における真空アーク堆積によって達成することができる。多層被膜の例として、接着層及び/または硬い磨耗保護層の堆積を窒素雰囲気下で開始した後、酸化被膜に向かって傾斜を生成するために酸素フローを増加させると同時にまたはその後窒素フローを減少または停止することを特徴とする加工段階を行うことができる。カソードアークターゲットの表面領域全体に小さな垂直磁場を印加することは、例えば純酸素雰囲気下でのアーク加工によって形成される高絶縁ターゲット表面の場合に有用であり得る。この被覆加工を実施するための詳細な説明は、WO2006−099758、WO2006−099760、WO2006−099754及びCH1166/03に記載されており、これらは参照により全体がここに組み込まれる。
【0013】
酸化層は、周期表4、5、6族の遷移金属及びAl、Si、Fe、Co、Ni、Y、Laの群から選択された少なくとも1つの元素を含む電気絶縁酸化物を含むと好ましい。(Al1−xCr及びAlは、そのような材料の2つの重要な例である。これらの酸化物の結晶構造は変化することができ、アルファ(α)、ベータ(β)、ガンマ(γ)、デルタ(δ)相またはスピネル構造等の立方または六方格子を含み得る。例えば、工具に異なる酸化物の膜を含む酸化層を適用することも可能である。多層被膜が、異なる元素または化学量論組成の画定された層間に鋭いまたは傾斜した転移領域(transfer zone)を有する上記元素の窒化物、炭窒化物、酸窒化物、ホウ化物及び同様のものを含み得るにもかかわらず、高温及び/または高酸化応力に対する最良の保護は、基本的に純酸化物から成る少なくとも1つの層を含む被膜によってのみ保証される。
【0014】
熱力学的に安定な相、例えばAl、(AlCr)、(AlV)型、またはより一般的に(Me11−xMe2型(0.2≦x≦0.98、Me1及びMe2はAl、Cr、Fe、Li、Mg、Mn、Nb、Ti、Sb、Vの群とは異なる元素である)であり得るコランダム型構造の形成は、酸化層の好ましい実施形態である。このようなコランダム型単層または多層構造を形成するための詳細な説明はCH01614/06に記載されており、参照により全体がここに組み込まれる。
【0015】
本発明の実施形態において、被膜は、本体表面に直接配置された接着層及び/または本体と酸化層との間または2つ以上の連続した酸化層の間及び/または被膜層の上部に配置された少なくとも1つの硬い磨耗保護層を含む。磨耗保護層及び接着層は、元素周期表4、5、6族の遷移金属及びAl、Si、Fe、Ni,Co、Y、Laの群の少なくとも1つの元素を含むと好ましい。磨耗保護層の化合物は、N、C、O、Bまたはそれらの混合物をさらに含み、N、C及びCNが好ましい。このような磨耗保護層の例は、TiN、TiC、CrN、CrC、TiAlN、CrAlN、TiCrAlN、及びTiCN、CrCN、TiAlCN、CrAlCN、TiCrAlCNである。
【0016】
接着層の化合物は、N、C、Oまたはそれらの混合物を含んでよく、N及びOが好ましい。このような接着層の例は、TiN、CrN、TiAlN、CrAlN、TiCrAlN、またはTiON、CrON、TiAlON、CrAlON、TiCrAlONである。接着層の厚さは、好ましくは0.1から1.5μmの間である。接着層が本体表面に直接配置された薄膜金属層を含む場合、最適な工具−被膜結合のために、金属層の厚さは10から200nmの間でなければならない。そのような金属中間層の例は、Ti、Cr、TiAlまたはCrAlである。全体的な被膜の厚さは、2から30μmであり、無駄の無い被覆加工のために、ほとんど場合においてむしろ3から10μmである。しかしながら、例えば鋳鉄における高速旋盤などの特殊な用途で必要とされるならば、原則として、工具はさらに厚い被膜を有することも可能であることに留意されたい。
【0017】
本発明の別の実施形態は、例えばSiまたはB等の結晶構造の相分離を促進する特定の元素の濃度が比較的高い相、及びそのような特定の元素の濃度が比較的低い相を包含する少なくとも1つの組成分離膜を備えた磨耗保護層を含み得る。1実施形態において、特定の元素の濃度が比較的高い相は、非晶または微晶質相を構成する。このような膜は、好ましくはCr及びSiまたはTi及びSiの組み合わせの窒化物または炭窒化物を含む。
【0018】
いかなる層も、分離または傾斜層構造を示す被膜を形成する鋭いまたは傾斜した層−層転移領域を有する実際のニーズに応じて堆積され得る。このような構造が特定の用途に好ましい場合、層の厚さは数マイクロメートルから数ナノメートルの間から選択され得る。
【0019】
酸化CVD層を備えた切削工具に対して、このようなPVD被覆された工具は、焼結体のTRS(抗折力)へのCVD加工の悪影響を最小化するためのバインダー濃縮基板を必要としない。PVD加工での低い加工温度、及び圧縮応力の状態で被膜またはある層(特に上記磨耗保護層)を適用できる可能性は、亀裂伝播及びエッジチッピングのリスクに対して有用な方法であることが認められている。従って、実際の切削用途の過半数においてバインダー濃縮基板をする必要がなく、これは超硬工具製造を明らかに簡略化する。
【0020】
しかしながら、例えばより高いフィード力が印加され、より高いTRSが好ましいような切削パラメータが拡張される場合、ある切削条件下では、PVD被覆された濃縮カーバイド傾斜も有用である。
【0021】
このようなPVD被覆された硬質金属傾斜のTRSが潜在的に高いため、特別な微小工具用途のための非常に小さなエッジ半径を有する切削工具だけでなく、より小さなノーズ半径または点角を有する切削工具も製造することができる。例として、最小0.2mm(0.008インチ)から2.4mm(0.094インチ)の一般的なノーズ半径を有する従来の超硬インサートと比較して、0.15、0.10、0.05及び0.01mm等の半径でさえ、早期先端チッピングの兆候を呈することなく通常の微小回転条件下で試験及び被覆することができる。
【0022】
PVD加工固有の“幾何学的”特性のために、単に規定された固定システムを使用することによって単純な形状(例えばインサート)の特定の焼結体にさらなる被覆特性を与えることができるため、本体の特定領域をアークまたはスパッタ源からの“直接”イオン及び/または中性子フロー(以下、粒子フローという)に暴露する一方で、その他の領域には基本的に斜入射または間接入射のみが衝突する。ここで“直接”とは、アーク源によって放出される粒子の主要部分または過半数が約90±15°の角度で表面に衝突することを意味する。従って、その領域の層成長は、実質的に“間接”粒子フローに暴露される領域の成長よりも速い。この効果は、1PVD被覆加工の間に厚さが変化する被膜を適用することに使用することができ、異なる基板/源の位置による形状の影響とは無関係に、全ての表面に均一な厚さの被膜を提供するCVD加工とは全く異なる。
【0023】
例えば、三重回転スピンドルを使用して、8mmのスペーサーと交互に、中央に穴の開いた四角の13×13×5mmのインサートを固定する。約2±0.5である逃げ面の厚さ(dFlank)とすくい面の厚さ(dRake)との比は、市販のOerlikon被覆ユニットRCS型における約500mmの基板回転台の全長、または市販のOerlikon BAI 1200被覆ユニットにおける約900mmの長さにわたるインサートに合わせて調整することができる。すくい面の厚さは、逃げ面の中間において、ノーズの点角を画定する切削エッジから2mm離隔したインサートの2つの対向するノーズを結ぶ二等分線で測定された。
【0024】
R/F=dRake/dFlank<1(ここで、dRakeはすくい面の総被膜厚であり、dFlankは逃げ面の総被膜厚である)の割合を有するこのようなインサートは、フライス作業の間の衝撃応力のために、逃げ面のPVD被膜厚がより厚いと有利なフライス工具に特に好都合である。この効果は、基板バイアス、総圧力等の加工パラメータによって制御され得る高い残留応力を有するPVD被膜によって増強される。
【0025】
フライス加工とは異なり、旋削作業の耐摩耗性は、通過するチップによって生じる高い摩損及び熱化学磨耗のために、すくい面の被膜厚がより厚いと有利である。従って、この場合、QR/Fの割合は、1より大きくなければならない(QR/F=dRake/dFlank>1)。そのような被膜配分は、アークまたはスパッタ源の直接粒子フローにすくい相を暴露する装置(fixture)によって生成され得る。例えば、二重回転磁気装置を使用して超硬インサートのすくい面を源に直接暴露することができる。この磁気装置によって、
基板バイアス等の加工パラメータに影響され得、工具性能を向上させるために利用され得る切削エッジのさらなる厚さの増加をもたらす。非鉄切削板では、必要に応じてクランプ装置またはフック装置を使用することができる。さらに、旋盤工具の場合、被膜設計は、特に有効であると証明された酸化層と本体との間に配置されたTiN、TiCまたはTiCN、TiAlNまたはTiAlCN、AlCrNまたはAlCrCNから成る磨耗保護層を備える。
【0026】
本発明による切削工具は、例えば非鉄金属のようなあらゆる種類の金属、特に鉄類、鋳鉄及び同様のもの等、さまざまな異なる被加工物質に適用することができる。このような材料のフライスまたは旋盤用の特殊工具は、上記のように最適化され得る。これによって、特に鋼及び鋳鉄の荒削り及び高速仕上げ等の旋削作業のような現在まで未開発のCVD分野においても、PVD被覆は最新のCVD被覆の驚異的な競合相手となる。
【0027】
多くの切削用途において、被膜システムの最外層として酸化層を備えた工具は、最善の解決法と認められている。これは、特に歯切り工具、ホブ、または割り出し可能(indexable)シャンク型工具を含む異なる種類のシャンク型工具に言及する。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下の例は、特殊な工具及び被膜による本発明の有利な効果を説明することを意図するものであって、そのような特殊な例に本発明の範囲を限定するものではない。例えば、異なる種類の金属材料におけるねじ切り及び掘削など、非鉄材料の乾式及び湿式フライス並びに鋼または超合金へのフライス及び旋盤用途において、PVD被覆された工具がCVD被覆より優れていることが長年認められている周知の用途と比較して、いくつかの試験を実施した。このような鋼フライスでは、最大100m/minの低速または中速、0.2から0.4mm/toothまでの高フィード速度を適用した。大抵の場合、本発明による工具は、周知のTiCNまたはTiAlNベースのPVD被覆された工具と同様またはより優れた性能を示した。しかしながら、本発明の1目的は、例えば鉄、鋼及び硬化材料の高速フライス、並びに鋼、鉄(例えば鋳鉄)、超合金及び硬化材料の旋盤等、高熱化学及び/または摩損の用途におけるCVD被覆に代わることである。
【0029】
以下の実験例のPVD被膜は、カソードアーク加工によって堆積させた。堆積温度は、比較TiCN被膜の500℃から酸化被膜のための550℃までの間である。酸化PVD被膜では、基板バイアスにパルスを印加し、3から50ガウスの垂直成分を有する小さな垂直磁場及び本質的により小さな水平成分を印加した。実験25、28、35、37では、Al0.6Cr0.4(Al0.60.4)アーク源のDC電流にさらなるパルス信号を重畳した。このようなまたは同様の酸化被覆加工は、WO 2006−099758及び参照によって組み込まれた前述のその他文献に記載されている。基板と上部の酸化層との間のTiN及びTiCN中間層の層厚は、0.5から1.5μmであった。
比較CVD被膜は、堆積温度850℃でMT−CVDによって堆積させた。
[実験例A]
【0030】
合金鋼AISI 4140(DIN 1.7225)のフライス加工
工具: 割り出し可能フェースミル、1インサート z=1
工具直径: d=98mm
切削速度: v=152m/min
フィード速度:f=0.25mm/tooth
切削深さ: dc=2.5mm
加工: 冷却下向き削り
インサート型:Kennametal SEHW 1204 AFTN、
12wt% Co;CVD被覆用に非常に小さな40μm半径に面取
り及び研磨され、PVD被覆用に面取りされた鋭利な切削エッジ
【0031】
【表1】

[実験例B]
【0032】
合金鋼AISI 4140(DIN 1.7225)のフライス加工
工具: 割り出し可能フェースミル、1インサート z=1
工具直径: d=98mm
切削速度: v=213m/min
フィード速度:f=0.18mm/tooth
切削深さ: dc=2.5mm
加工: 下向き削り、冷却なし
インサート型:Kennametal SEHW 1204 AFTN、
12wt% Co;エッジの調製は実験例A参照
【0033】
【表2】

[実験例C]
【0034】
合金鋼AISI 4140(DIN 1.7225)のフライス加工
工具: 割り出し可能フェースミル、1インサート z=1
工具直径: d=98mm
切削速度: v=260m/min
フィード速度:f=0.20mm/tooth
切削深さ: dc=3.125mm
加工: 下向き削り
インサート型:Kennametal SEHW 1204 AFTN、
実験13、15、17、19
Co 6.0wt%濃縮カーバイド傾斜
10.4wt%立方晶カーバイド
実験14、16、18、20
Co 6.0wt%非濃縮カーバイド傾斜
10.4wt%立方晶カーバイド
エッジの調製は実験例A参照
【0035】
【表3】

【0036】
実験例Cの実験14は、非濃縮カーバイド傾斜へのCVD加工の不利な影響を明確に示しており、この不利な影響は前述の加工の影響に起因する。一方で、Co濃縮表面領域の有利な影響は、PVD被膜に限って効果を示している。酸化層を含むPVD被膜の利点は、実験例A及びBの通りである。
[実験例D]
【0037】
合金鋼AISI 430F(DIN 1.4104)の旋盤加工
切削速度: v=200m/min
フィード速度:f=0.20mm/tooth
切削深さ: dc=1.0mm
加工: 外径の連続回転
インサート型:サーメット傾斜、ISO VNMG 160408All、
CVD被覆の前に非常に小さな60μm半径に面取り及び研磨された
PVD被覆用の鋭利な切削エッジ
【0038】
【表4】

【0039】
被膜の種類及び材料の影響に追加して、酸化PVD被膜の層厚の明らかに有利な影響が見られ得る。それにもかかわらず、最も薄い酸化PVD被膜でさえも、実験22の厚いMT−CVD被膜よりも優れた性能を示した。
[実験例E]
【0040】
ねずみ鋳鉄の旋盤加工
切削速度: v=550m/min
フィード速度:f=0.65mm/tooth
切削深さ: dc=5.0mm
加工: 外径の連続回転
インサート型:セラミック、Al−TiC 20%、
ISO RNGN 120400T、
CVD被覆の前に小さな50μm半径に面取り及び研磨された
PVD被覆用の鋭利な切削エッジ
【0041】
【表5】

[実験例F]
【0042】
鍛造鋼_AISI 4137H(DIN 1.7225)の旋盤加工
切削速度: v=100m/min
フィード速度:f=0.80mm/tooth
切削深さ: dc=5〜15mm
加工: 外径の連続回転
インサート型:超硬合金、6%非濃縮、ISO TNMG 330924
CVD被覆の前に小さな50μm半径に面取り及び研磨された
PVD被覆用の鋭利な切削エッジ
【0043】
【表6】

【0044】
PVD被覆加工によってエッジが鋭利な工具に酸化被膜が有利に適用されたことが、実験例AからFによって実証された。小さな切削力、低い工具チップ温度、精密な被加工表面処理、工具寿命の向上をもたらすことから鋭利なエッジは望ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エッジ半径Rと、逃げ面と、すくい面とを備えた切削エッジを有する超硬合金、CBN、サーメットまたはセラミック焼結体と、
前記焼結体の表面の少なくとも一部分を被覆し、少なくとも1つの酸化層を含む単層または多層PVD被膜と、を備えた切削工具であって、
前記エッジ半径Rが、40μmより小さく、好ましくは30μmと同等またはそれより小さいことを特徴とする切削工具。
【請求項2】
前記PVD被膜が、熱クラックを有さないことを特徴とする請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記PVD被膜が、ハロゲン化物を有さないことを特徴とする請求項1または2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記酸化層が、周期表4、5、6族の遷移金属及びAl、Si、Fe、Ni、Co、Y、Laの群から選択された少なくとも1つの元素を含む電気絶縁酸化物を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項5】
前記酸化層が、立方または六方結晶構造を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項6】
前記酸化層が、(Al1-xCr化合物を含むことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項7】
前記酸化層が、コランダム型構造を有することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項8】
前記コランダム型構造が、コランダムまたは以下の組成を有する複酸化物であることを特徴とする請求項7に記載の切削工具:
(Me11-xMe2、 0.2≦x≦0.98
ここで、Me1及びMe2はAl、Cr、Fe、Li、Mg、Mn、Nb、Ti、Sb、Vの群とは異なる元素である。
【請求項9】
前記コランダム型構造が、(AlCr)または(AlV)であることを特徴とする請求項7または8に記載の切削工具。
【請求項10】
前記PVD被膜が、多層であることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項11】
前記酸化層が、異なる酸化物の膜を含むことを特徴とする請求項10または11に記載の切削工具。
【請求項12】
前記PVD被膜が、
前記焼結体上に直接配置された接着層及び/または、
前記焼結体と前記酸化層との間、または2またはそれ以上の連続酸化層の間に配置され、且つ/または前記PVD被膜の最外層である少なくとも1つの硬磨耗保護層を含む切削工具であって、
前記接着層及び前記硬磨耗保護層がそれぞれ、好ましくは周期表の4、5、6族の遷移金属及びAl、Si、Fe、Ni、Co、Y、Laの群から選択された少なくとも1つの元素を含むことを特徴とする請求項11に記載の切削工具。
【請求項13】
前記硬磨耗保護層の前記少なくとも1つの元素が、N、C、O、Bまたはそれらの混合とともに化合物中に含まれており、N、C及びCNが好ましいことを特徴とする請求項12に記載の切削工具。
【請求項14】
少なくとも1つの磨耗保護層が、少なくとも1つの組成分離膜を含むことを特徴とする請求項12または13に記載の切削工具。
【請求項15】
前記接着層の前記少なくとも1つの元素が、N、C、Oまたはそれらの混合とともに化合物中に含まれており、N及びOが好ましいことを特徴とする請求項12から14のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項16】
前記接着層が、0.1から1.5μmの厚さを有することを特徴とする請求項12から15のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項17】
前記接着層が、前記焼結体上に直接配置された薄膜金属層を含むことを特徴とする請求項12から16のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項18】
総被膜厚が、2から30μm、好ましくは3から10μmであることを特徴とする請求項1から17のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項19】
前記焼結体が、バインダー濃縮されていないことを特徴とする請求項1から18のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項20】
前記焼結体が、バインダー濃縮されていることを特徴とする請求項1から18のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項21】
前記逃げ面の被膜厚が、前記すくい面の被膜厚と異なることを特徴とする請求項1から20のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項22】
前記工具がフライス工具であって、
R/F=dRake/dFlank<1
を満たし、dRakeが前記すくい面の総被膜厚であり、dFlankが前記逃げ面の総被膜厚であることを特徴とする請求項21に記載の切削工具。
【請求項23】
前記工具が旋盤工具であって、
R/F=dRake/dFlank>1
を満たし、dRakeが前記すくい面の総被膜厚であり、dFlankが前記逃げ面の総被膜厚であることを特徴とする請求項21に記載の切削工具。
【請求項24】
前記工具が、割り出し可能インサートを含むかまたは割り出し可能インサートであることを特徴とする請求項1から21のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項25】
前記工具が、以下の被加工材料:金属、非鉄金属、鉄金属、鋳鉄の少なくとも1つを加工するための工具であることを特徴とする請求項1から24のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項26】
前記工具が、被膜システムの最外層として酸化層を含む歯切り工具またはホブまたはシャンク型工具であることを特徴とする請求項12から17のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項27】
前記磨耗保護層が、TiN、TiCまたはTiCN;TiAlNまたはTiAlCN;AlCrNまたはAlCrCN型層であり、前記焼結体と前記酸化層との間に配置されていることを特徴とする請求項26に記載の切削工具。

【公表番号】特表2010−526680(P2010−526680A)
【公表日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−507882(P2010−507882)
【出願日】平成20年5月5日(2008.5.5)
【国際出願番号】PCT/EP2008/055455
【国際公開番号】WO2008/138789
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(507269681)エーリコン・トレイディング・アーゲー・トリューバッハ (13)
【Fターム(参考)】