説明

切欠きALCパネルの補強用金物及び補強方法

【課題】 建築物の壁や床等を構成するALCパネルに柱や梁及び配管等を通す切欠部を設けた場合、補強鉄筋の切断によるパネル曲げ強度の低下を抑えることができる補強用金物、及びこの補強用金物を用いたALCパネルの補強方法を提供する。
【解決手段】 ALCパネル1の切欠部3において、短辺小口面1aと平行な2つの切断面3aにそれぞれ補強金物4を当接させ、各補強金物4のスリット4aを介して切断面3aに露出している主筋2の露出端部2aに補強金物4を溶接して固定し、その後2個の補強金物4を連結金物5に溶接により連結固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の床や壁面を構成するALCパネルに梁や設備用配管等を貫通させる切欠部を設けても、その切欠部に取付けることで十分なパネル強度を維持する補強用金物と、この補強用金物を用いた補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ALCパネルは、軽量で断熱性があると共に優れた耐火性を有するため、建材として建築物の壁、床及び屋根等に用いられている。また、建築物には、柱や梁の他にも、冷暖房や上下水道、更に電気の配線や設備等のために多数の配管が敷設されている。そして、これらの柱や梁及び配管等は、建築物の壁や床等を構成しているALCパネルを貫通させることが必要となる場合がある。
【0003】
一方、ALCパネルの内部には、パネルの曲げ強度を高めるために多数の主筋と横筋の補強用鉄筋からなる鉄筋マットが埋設されている。そのため、ALCパネルに柱や梁及び配管等を貫通させるための切欠部を設けると、パネル内部に埋設された鉄筋マットの補強用鉄筋が切断されてしまう。特に主筋が切断されるとALCパネルの曲げ強度が著しく低下するため、1枚のALCパネルに大きな切欠部を設けることは困難な状況であった。
【0004】
このような強度低下の問題を解決するため、特許文献1には、壁や床等を構成するALCパネルに設けられ且つ補強鋼材で補強された開口部に、柱や梁及び配管等を通す貫通穴を有し且つ内部に金属ラス網などの網状補強材を内蔵したALCパネルを嵌め込み、ボルトなどで開口部周囲の補強鋼材に固定する方法が提案されている。
【0005】
しかしながら、この方法は、開口部に嵌め込むALCパネル自体が網状補強材を内蔵した構造であるため曲げ強度が極めて小さく、従って通常の建材のように長いALCパネルとして使用することは不可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−185013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来の事情を鑑み、建築物の壁や床等を構成するALCパネルに柱や梁及び配管等を通す切欠部を設けた場合でも、パネル内部の補強鉄筋の切断によるパネル曲げ強度の低下を抑えることができる補強用金物、及びこの補強用金物を用いてALCパネルを補強する補強方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明が提供するALCパネルの補強用金物は、ALCパネルの一部に設けた切欠部に取付けて使用する金属製の補強用金物であって、ALCパネルの短辺小口面に平行な切断面に取付ける補強金物と、該短辺小口面に直交する切断面に取付けて補強金物に連結される連結金物とからなり、該補強金物は前記短辺小口面に平行な切断面に露出する主筋の位置にそれぞれスリットを有し、該切断面に露出している主筋に該スリットを介して溶接されることを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、上記本発明による補強用金物を用いたALCパネルの補強方法を提供する。即ち、本発明によるALCパネルの補強方法は、ALCパネルの一部に設けた切欠部において、該ALCパネルの短辺小口面に平行な切断面に補強金物を当接させ、該補強金物のスリットを介して前記切断面に露出している主筋に該補強金物を溶接固定すると共に、該短辺小口面に直交する切断面に連結金物を当接させ、その後前記補強金物を前記連結金物に溶接固定するか又は予め両者を連結しておくことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ALCパネルに切欠部を設けた場合でも、ALCパネル内部に埋設された補強用鉄筋を切断したことによるパネル曲げ強度の低下を効果的に抑えることができ、しかも切欠部を設けたALCパネルの面内方向への変形を抑制することができる。
【0011】
従って、本発明の補強用金物及びALCパネルの補強方法を使用すれば、建築物の壁や床等を構成するALCパネルに柱や梁及び配管等を通す切欠部を設ける場合に、現場でも簡単に施工することができるうえ、長いALCパネルであってもパネル曲げ強度の低下を抑えて、建材として十分な安全性を確保することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】補強用鉄筋を内蔵したALCパネルを示す概略の斜視図である。
【図2】一部に切欠部を設けたALCパネルを示す概略の斜視図である。
【図3】一部に切欠部を設けたALCパネルと本発明の補強用金物の一具体例とを示す概略の斜視図である。
【図4】本発明の補強用金物を切欠部に固定したALCパネルの一具体例とを示す概略の斜視図である。
【図5】実施例で試験体として用いた3種類のALCパネルを示す断面図であり、厚さ方向の同一面に沿って幅方向に配置する主筋の本数が(a)は4本、(b)は6本及び(c)は8本のALCパネルである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
一般に、建築物の壁や床等に用いるALCパネルでは、曲げ強度を高めるために、図1に示すように、ALCパネル1の短辺小口面1aに対して直角方向に複数の主筋2が埋設されると共に、その主筋2に直交するように主筋2よりも細い複数の横筋(図示せず)が埋設されている。このようなALCパネル1に、例えば図2に示すように、柱や梁あるいは配管等を貫通させるための切欠部3を設けると、内部の補強用鉄筋である主筋2や横筋が切断され、特に主筋2切断されるとALCパネル1の曲げ強度が著しく低下してしまう。
【0014】
本発明によるALCパネルの補強用金物は、上記のごとくALCパネル1の一部に切欠部3を設ける場合に、曲げ強度の低下を防ぐため切欠部3に取付けて使用するものである。具体的には、例えば図3に示すように、補強用金物は、ALCパネル1の短辺小口面1aと平行な切断面3a、3aに取付ける金属製の補強金物4、4と、補強金物4、4を連結する金属製の連結金物5とで構成されている。尚、上記補強用金物は、補強用鉄筋と同じ材質のほか、JIS G 3131による熱間圧延軟鋼板SPHCなどからなることが好ましい。
【0015】
上記した補強金物4は、ALCパネル1に設けた切欠部3の切断面のうち、短辺小口面1aと平行な切断面3aに露出している複数(図3では4本)の主筋2の位置に、それぞれスリット4a(図3では4個)を有している。従って、補強金物4を切欠部3の切断面3aに当接させると、図4に示すように、切断面3aから露出している主筋2の露出端部2aが各スリット4a内に現れるので、切断面3aから露出している全ての主筋2の露出端部2aに各スリット4aを介して補強金物4を溶接することができる。
【0016】
本発明の補強方法では、上記のごとくALCパネル1の短辺小口面1aに平行な切断面3a、3aに補強金物4、4をそれぞれ当接させ、切断面3a、3aに露出している複数の主筋2と補強金物4、4とを各スリット4a、4aを介して溶接固定する。次に、図4に示すように、短辺小口面1aに直交する切断面3bに連結金物5を当接させ、その連結金物5を補強金物4、4に溶接する。これにより、補強金物4、4と連結金物5とが一体となって切欠部に露出した主筋2の露出端部2aに固定されるため、切欠部を有するALCパネルを補強することができる。
【0017】
本発明において、連結金物は、予め補強金物の端部に溶接により連結固定しておくこともできる。また、連結金物と補強金物は、1枚の板状金属をコ字状に加工することにより、予め一体的に作製しておくことも可能である。
【0018】
尚、上記の説明ではALCパネルの長辺から切り欠いて切欠部を形成した図1〜4に示す具体例を用いたが、切欠部はALCパネルの長辺を含まないように切り抜いてパネル中央部に矩形に形成してもよく、その場合には補強金物と連結金物がそれぞれ2個必要となる。また、この場合の2個の連結金物と2個の補強金物についても、それぞれ別体とする以外に、上記と同様に予め溶接により連結固定しておくか、予め一体的に作製しておくことも可能である。
【実施例】
【0019】
内部に補強用鉄筋で作製した鉄筋マットを内蔵するALCパネルの試験体として、厚さ100×幅600×長さ3,000mmの建材用のALCパネルを用意した。各試験体のALCパネルは、図5に示すように、鉄筋マットに用いた横筋(図示せず)の直径と本数は同一とし、主筋2の直径を5.5mmとすると共に、パネルの厚さ方向における同一面に沿って幅方向に配置する主筋2の本数を4本(図5(a)参照)、6本(図5(b)参照)、8本(図5(c)参照)の3種類とした。この未加工状態の試験体をAシリーズとし、主筋の本数に応じて試料A−4、試料A−6及び試料A−8とした。
【0020】
次に、図2に示すように、各ALCパネル1における片方の長辺の長さ方向中央部を切欠加工して、長さ400mm×幅150mmの切欠部3を形成した。切欠部3にはALCパネル1の短辺小口面1aに平行な2つの切断面3a、3aと、短辺小口面1aに直交する1つの切断面3bとが形成され、2つの切断面3a、3aには切断された複数の主筋2の端部が露出している。この状態の試験体をBシリーズとし、主筋の本数毎に試料B−4、試料B−6及び試料B−8とした。
【0021】
一方、補強金物として、材質が熱間圧延軟鋼板SPHCからなる厚さ2.3mmの鋼材を幅85mm×長さ150mmに切断すると共に、幅5mm×長さ20mmのスリット4aを幅方向に75mmの間隔で且つ縦方向(ALCパネル1の厚さ方向)に65mmの間隔で合計4箇所穿設することにより、図4に示す補強金物4を作製した。また、同じ鋼材を幅85mm×長さ395mmに切断して、連結金物5を作製した。
【0022】
得られた2個の補強金物4、4を、図4に示すように、ALCパネル1の短辺小口面と平行な2つの切断面3a、3aにそれぞれ当接させた。このとき2個の補強金物4、4の各スリット4a内に、切断面3a、3aで切断された少なくとも1本の主筋2の露出端部2aが現れた。
【0023】
この状態において、各スリット4a内に露出している主筋2の露出端部2aに、各スリット4aを介して補強金物4、4を溶接して固定した。その後、連結金物5を切断面3bに当接させ、2個の補強金物4、4の端部を連結金物5の両端部にそれぞれ溶接して連結固定した。この状態の試験体をCシリーズとし、主筋の本数毎に試料C−4、試料C−6及び試料C−8とした。
【0024】
上記した試験体としての3種類のALCパネルについて、切欠を形成する前後の状態、具体的には未加工の状態の試料A−4、試料A−6及び試料A−8と、切欠部を形成した状態の試料B−4、試料B−6及び試料B−8について、それぞれパネル曲げ強度(曲げモーメント)の理論値を下記表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
また、上記した未加工の状態の試料A−4、試料A−6及び試料A−8と、切欠部を形成した状態の試料B−4、試料B−6及び試料B−8と、切欠部に補強用金物を固定した状態の試料C−4、試料C−6及び試料C−8について、JIS A 5416(ALCパネル)に従い4等分点2線載荷による曲げ強度試験を実施し、パネル曲げ強度(曲げモーメント)を測定した。
【0027】
得られたパネル曲げ強度の測定値と共に、各パネル曲げ強度の切欠き前後の理論値に対する測定値の比率(パネル曲げ強度比)を下記表2に示した。尚、切欠部に補強用金物を固定した状態の試料C−4、試料C−6及び試料C−8のパネル曲げ強度比は、切欠き前後の理論値として試料B−4、試料B−6及び試料B−8の理論値を用いた。
【0028】
【表2】

【0029】
上記の結果から分るように、切欠部の形成によりパネル曲げ強度は著しく低下し、且つ切欠き前のパネル曲げ強度の理論値を下回る場合が発生する。しかし、その切欠部で切断された補強用鉄筋に本発明の補強用金物を溶接固定することによって、上記表2に示すように、切欠き前のパネル曲げ強度の理論値と同等又はそれ以上のパネル曲げ強度が得られた。
【0030】
この結果から、本発明の補強用金物を使用すれば、ALCパネルを初期の理論値どおり使用する条件において、十分な安全性を確保することが可能となることが分った。更に、地震時の躯体変形の際にはALCパネルが面内方向に変形して追従しようとするが、本発明の補強用金物で切欠部を補強することによって切欠部への応力集中に抵抗でき、ALCパネルへのひび割れ発生を防止できることが分った。
【符号の説明】
【0031】
1 ALCパネル
1a 短辺小口面
2 主筋
2a 露出端部
3 切欠部
3a、3b 切断面
4 補強金物
4a スリット
5 連結金物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ALCパネルの一部に設けた切欠部に取付けて使用する金属製の補強用金物であって、ALCパネルの短辺小口面に平行な切断面に取付ける補強金物と、該短辺小口面に直交する切断面に取付けて補強金物に連結される連結金物とからなり、該補強金物は前記短辺小口面に平行な切断面に露出する主筋の位置にそれぞれスリットを有し、該切断面に露出している主筋に該スリットを介して溶接されることを特徴とするALCパネルの補強用金物。
【請求項2】
請求項1に記載の補強用金物を用いて、切欠部を有するALCパネルを補強する方法であって、ALCパネルの一部に設けた切欠部において、該ALCパネルの短辺小口面に平行な切断面に補強金物を当接させ、該補強金物のスリットを介して前記切断面に露出している主筋に該補強金物を溶接固定すると共に、該短辺小口面に直交する切断面に連結金物を当接させ、その後前記補強金物を前記連結金物に溶接固定するか又は予め両者を連結しておくことを特徴とするALCパネルの補強方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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