説明

列車制限システム及び列車制御方法

【課題】地上装置が、分岐・合流のある軌道区間において、列車ごとに適切な臨速設定区間を算出した臨速設定情報を送信する。
【解決手段】列車制御システムは、列車の走行する進路により、臨速情報をどこまで作成するか判定し、分岐点以降、列車が臨速の設定されている区間を走行する場合は、軌道区間進出口までの臨速設定情報を作成し、分岐点以降、列車が臨速の設定されていない区間を走行する場合は、分岐点までの臨速設定情報を作成する。地上装置10のデ−タ送受信部13は、伝送手段16を介し、作成された臨速設定情報を車上装置20に送信する。前記臨速設定情報を受信した車上装置は、制限速度以下で走行するように列車を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、列車制御システム及び列車制御方法に関し、特に、列車の速度を一時的に制限する臨時速度制限システム及び臨時速度制限列車運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
臨時速度制限(以下、臨速と呼ぶ)とは、鉄道の運行時における臨時の速度制限であり、通常の最高速度とは別に、集中豪雨・強風などへの対策時、または、工事・保線作業時などに、対象の区間に一時的に設定される速度制限である。
【0003】
現在、一般的な臨速の設定方法は、特許文献1(特開2004−359020号公報)のように、臨速設定区間と制限速度を、レ−ルを一定区間ごとに分割した軌道区間単位に伝送し、列車は、臨速が設定されている軌道区間において指示された制限速度以下で走行する。
【0004】
しかし、この方法では、臨速設定区間を設定する範囲が軌道区間ごととなっているため、軌道区間の一部にしか臨速を設定する必要がない場合でも、列車は、当該軌道区間の全てを制限速度以下で走行してしまう。
【0005】
この改善策として、特許文献2(特開2007−99040号公報)のように、列車に臨速設定区間の始点と終点を軌道区間の進入口からの距離情報で送信し、軌道区間によらず自由に設定する方法がある。
【0006】
しかしながら、軌道区間の中には、分岐・合流を持つ軌道区間が存在する。そのような分岐・合流を持つ軌道区間においては、軌道区間の進入口からの距離が同じ進路が複数存在する。そのため、列車は、軌道区間の進入口からの距離情報だけでは、臨速が設定されている区間と臨速が設定されていない区間との区別がつかず、臨速が設定されていない区間でも、臨速が設定されている区間と軌道区間の進入口からの距離が同じ区間では、制限速度以下で走行してしまう。それにより、分岐・合流数が多いタ−ミナル駅などでは、運行効率に関して影響を与えてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−359020号公報
【特許文献2】特開2007−99040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする問題点は、分岐・合流のある軌道区間に臨速が設定されている際に、列車が、軌道区間の進入口からの距離情報だけでは、臨速が設定されている区間と臨速が設定されていない区間との区別がつかず、臨速が設定されていない区間でも、臨速が設定されている区間と軌道区間の進入口からの距離が同じ進路では、制限速度以下で走行してしまい、運行効率に関して影響を与えてしまう点である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明は、列車が走行する予定の進路の違いによって、対象の列車に設定する臨速設定情報を適切に作成するために、地上装置が、列車の走行する進路方向と軌道区間内の分岐・合流の位置を距離情報として保持することを最も主要な特徴とする。
【0010】
本発明の列車制御システムは、地上装置及び車上装置、連動装置、臨速装置を有し、列車制御を行う列車制御システムであって、
前記地上装置は、デ−タ記憶部と演算部とデ−タ送受信部を有し、
前記デ−タ記憶部は、軌道区間長、軌道区間内の分岐・合流の有無、及び、軌道区間進入口から分岐点、合流点から軌道区間進出口までの距離を予め保持するものであり、
さらに、該デ−タ記憶部は、前記臨速装置より設定された臨速設定区間情報を保持するものであり、
前記演算部は、前記連動装置から受信した進路の開通情報から、列車の走行する進路を判断し、前記臨速設定区間情報から当該列車が走行する区間の臨速設定区間のみの臨速情報を作成し、当該臨速情報を前記デ−タ送受信部を介して当該列車の車上装置に送信するものであることを特徴とする。
【0011】
本発明の列車制御方法は、地上装置及び車上装置、連動装置、臨速装置を有し、列車制御を行う列車制御方法であって、
前記地上装置は、デ−タ記憶部と演算部とデ−タ送受信部を有しており、
前記デ−タ記憶部にて、軌道区間長、軌道区間内の分岐・合流の有無、及び、軌道区間進入口から分岐点、合流点から軌道区間進出口までの距離を予め保持し、
さらに、該デ−タ記憶部にて、前記臨速装置より設定された臨速設定区間情報を保持し、
前記演算部にて、前記連動装置から受信した進路の開通情報から、列車の走行する進路を判断し、前記臨速設定区間情報から当該列車が走行する区間の臨速設定区間のみの臨速情報を作成し、当該臨速情報を前記デ−タ送受信部を介して当該列車の車上装置に送信することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、地上装置が、列車の走行する進路方向と分岐・合流の位置を距離情報として保持することにより、列車ごとに適切な臨速設定情報を作成し、設定可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のシステム構成の模式図である。
【図2】本発明において、臨速の設定範囲を示した一例の模式図である。
【図3】本発明において、A方向の進路を走行する列車に対して送信する臨速設定区間を示した模式図である。
【図4】本発明において、B方向の進路を走行する列車に対して送信する臨速設定区間を示した模式図である。
【図5】従来の臨速設定の区間を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。本発明に関わる列車制御システムの一実施例を図1に示す。本システムは、車上装置と地上装置を有し、列車を制御する列車制御システムである。
【0015】
列車1は、車上装置20を搭載し、地上装置10がデ−タ記憶部11で路線デ−タを保持している軌道範囲上を走行する。
【0016】
表1は、デ−タ記憶部11の一例であり、予め保持している軌道区間長、軌道区間の分岐・合流の有無、進入口から分岐・合流までの距離を示している。図2に示す軌道の場合の一例は下記表1のようになる。
【表1】

【0017】
車上装置20は、列車の位置情報を作成し、伝送手段16とデ−タ送受信部13を介して演算部12に送信する。伝送手段16は、デ−タ送受信部13と車上装置20の間で相互に情報送受信を行う。また、地上装置10には、連動装置15が接続されている。連動装置15は、進路の開通情報を演算部12に送信する。
【0018】
演算部12は、車上装置20から受信した列車の位置情報と連動装置15から受信した進路の開通情報を基に走行する列車毎に列車制御情報を作成し、デ−タ送受信部13と伝送手段16を介して車上装置20に送信する。
【0019】
車上装置20は、受信した列車制御情報を基にブレーキパターンを作成し、列車1又は2を制御する。
【0020】
また、地上装置10には、臨速装置14が接続されている。臨速装置14は、地上装置10に、臨速を設定する区間を臨速が開始する位置と臨速が終了する位置を軌道区間1T進入口からの距離情報で設定する。
【0021】
臨速装置14から臨速が設定されると、地上装置10は、演算部12にて軌道区間ごとの臨速設定区間情報(軌道区間ごとの臨速の有無、臨速が開始する軌道区間、臨速が開始する位置から当該臨速が開始する軌道区間の進出口までの距離、臨速が終了する軌道区間、臨速が終了する軌道区間の進入口から当該臨速が終了する位置までの距離)を作成する。
【0022】
表2は、臨速装置14が、臨速を設定する区間を1Tから900mの位置から開始し、A方向の1Tから1600mで終了する区間で設定した場合において、本発明の実施例の演算部12が作成する臨速設定区間情報の一例を示している。
【表2】

【0023】
この臨速設定区間情報は、デ−タ記憶部11にて保持される。臨速装置14は、臨速を設定する区間を1T進入口からの距離情報でなく、表2の軌道区間ごとの臨速設定区間情報(軌道区間ごとの臨速の有無、臨速が開始する軌道区間、臨速が開始する位置から当該臨速が開始する軌道区間の進出口までの距離、臨速が終了する軌道区間、臨速が終了する軌道区間の進入口から当該臨速が終了する位置までの距離)で設定してもよい。その場合、演算部12は、臨速設定区間情報を作成せず、デ−タ記憶部11に格納するだけでよい。
【0024】
地上装置10は、臨速設定区間情報と車上装置20から受信した列車の位置情報と連動装置15から受信した進路の開通情報を基に、臨速設定区間を走行する列車の車上装置20に対し、臨速設定情報を付加した列車制御情報を送信する。
【0025】
本発明の実施例において、演算部12は、連動装置15から受信した進路の開通情報から、列車がどの進路を走行するか判定し、走行する進路に応じた臨速設定情報を作成する。例えば、軌道が区間3Tの途中でA方向とB方向に分岐されている場合であって、列車1がA方向に走行する場合、演算部12は、臨速始点から臨速終点までの臨速設定情報を作成し、デ−タ送受信部13と伝送手段16を介して車上装置20に送信する。
【0026】
一例として、図2の太線で示された区間において臨速が設定されたとする。従来の臨速設定では、A方向に走行する列車1に対してもB方向に走行する列車2に対しても、「1Tから1600mで終了する区間」として設定されるために、臨速の設定は図5に示したようになる。この場合に、B方向に走行する列車2に対しては、余分な臨速設定となる。
【0027】
このような場合では、本発明の実施例においては、1T区間から4T区間までをA方向に走行する列車1に対してと、1T区間から2T、3T区間に入り、3T区間の途中で分岐して5T区間のB方向に走行する列車2とでは、臨速設定情報は相違する。つまり、例えば、A方向に走行する列車1の車上装置に送信する臨速設定情報のうち、臨速設定区間長は、[2Tの臨速始点と軌道区間進出口との距離(100m)]と[3Tの軌道区間長(500m)]と[4Tの軌道区間進入口と臨速終点の距離(100m)]を足し合わせ、700mとなる。そして、B方向に走行する列車2の場合、演算部12は、臨速始点から分岐・合流点までの臨速設定情報を作成し、前記デ−タ送受信部13と前記伝送手段16を介して車上装置20に送信する。
【0028】
一例としての上記具体例では、B方向に走行する列車2の車上装置に送信する臨速設定情報のうち、臨速設定区間長は、[2Tの臨速始点と軌道区間進出口との距離(100m)]と[3Tの進入口から分岐点までの距離(80m)]を足し合わせ、180mとなる。
【0029】
以上まとめると、列車制御システムは、地上装置10及び車上装置20、臨速装置14、連動装置15を有している。このような列車制御システムにおいて、地上装置10には、臨速装置14から、列車を一時的に制限速度以下で走行させる臨速設定区間を設定された際に、臨速設定区間情報を保持するデ−タ記憶部11が設けられている。前記デ−タ記憶部11は、軌道区間の分岐・合流の有無と軌道区間進入口から分岐点までの距離と合流点から軌道区間進出口までの距離を予め保持しており、地上装置10の演算部12は、列車の走行する進路により、臨速情報をどこまで作成するか判定する。分岐点以降、列車が臨速の設定されている区間を走行する場合は、軌道区間進出口までの臨速設定情報を作成し、分岐点以降、列車が臨速の設定されていない区間を走行する場合は、分岐点までの臨速設定情報を作成する。同様に、合流点以前、列車が臨速の設定されている区間を走行する場合は、軌道区間進入口からの臨速設定情報を作成し、合流点以前、列車が臨速の設定されていない区間を走行する場合は、合流点からの臨速設定情報を作成する。地上装置10のデ−タ送受信部13は、伝送手段16を介し、作成された臨速設定情報を車上装置20に送信する。
【0030】
そして、前記臨速設定情報を受信した車上装置は、制限速度以下で走行するように列車を制御する。
【0031】
このようにして、本実施の形態により、分岐・合流のある軌道区間に臨速が設定されている場合、設定されていない進路を走行する列車に対して、列車が走行する臨速設定区間のみの臨速情報だけが送信され、設定されていない進路において列車が通常の速度下での走行が可能となる。
【符号の説明】
【0032】
1…A方向に走行する列車
2…B方向に走行する列車
10…地上装置
11…デ−タ記憶部
12…演算部
13…デ−タ送受信部
14…臨速装置
15…連動装置
16…伝送手段
20…車上装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地上装置及び車上装置、連動装置、臨速装置を有し、列車制御を行う列車制御システムにおいて、
前記地上装置は、デ−タ記憶部と演算部とデ−タ送受信部を有し、
前記デ−タ記憶部は、軌道区間長、軌道区間内の分岐・合流の有無、及び、軌道区間進入口から分岐点、合流点から軌道区間進出口までの距離を予め保持するものであり、
さらに、該デ−タ記憶部は、前記臨速装置より設定された臨速設定区間情報を保持するものであり、
前記演算部は、前記連動装置から受信した進路の開通情報から、列車の走行する進路を判断し、前記臨速設定区間情報から当該列車が走行する区間の臨速設定区間のみの臨速情報を作成し、当該臨速情報を前記デ−タ送受信部を介して当該列車の車上装置に送信するものであることを特徴とする列車制御システム。
【請求項2】
地上装置及び車上装置、連動装置、臨速装置を有し、列車制御を行う列車制御方法において、
前記地上装置は、デ−タ記憶部と演算部とデ−タ送受信部を有しており、
前記デ−タ記憶部にて、軌道区間長、軌道区間内の分岐・合流の有無、及び、軌道区間進入口から分岐点、合流点から軌道区間進出口までの距離を予め保持し、
さらに、該デ−タ記憶部にて、前記臨速装置より設定された臨速設定区間情報を保持し、
前記演算部にて、前記連動装置から受信した進路の開通情報から、列車の走行する進路を判断し、前記臨速設定区間情報から当該列車が走行する区間の臨速設定区間のみの臨速情報を作成し、当該臨速情報を前記デ−タ送受信部を介して当該列車の車上装置に送信することを特徴とする列車制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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