到来方向推定装置
【課題】到来方向の推定精度を維持したまま、計算時間を削減することができる。
【解決手段】到来角度の初期値をビームフォーマー法により更新し、更新到来角度を得る角度算出部107と、更新到来角度と初期値との差である更新量に1以上の補正係数を乗じた値を、初期値に加算し補正到来角度を得る角度補正部108と、複数の到来波の数全てについて到来角度及び補正到来角度を得たか否かを判定する繰り返し回数判定部110と、更新量が閾値以下であるかどうかを判定する収束判定部111と、を具備し、繰り返し回数判定部110が複数の到来波全てについて更新到来角度及び補正到来角度を得たと判定し、更新量が閾値以下であると判定するまで補正到来角度を初期値に設定し、繰り返し更新到来角度及び補正到来角度を得、角度補正部108は、繰り返して実行する回数のうちの1回以上は補正係数を1より大きい値に設定する。
【解決手段】到来角度の初期値をビームフォーマー法により更新し、更新到来角度を得る角度算出部107と、更新到来角度と初期値との差である更新量に1以上の補正係数を乗じた値を、初期値に加算し補正到来角度を得る角度補正部108と、複数の到来波の数全てについて到来角度及び補正到来角度を得たか否かを判定する繰り返し回数判定部110と、更新量が閾値以下であるかどうかを判定する収束判定部111と、を具備し、繰り返し回数判定部110が複数の到来波全てについて更新到来角度及び補正到来角度を得たと判定し、更新量が閾値以下であると判定するまで補正到来角度を初期値に設定し、繰り返し更新到来角度及び補正到来角度を得、角度補正部108は、繰り返して実行する回数のうちの1回以上は補正係数を1より大きい値に設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、到来方向推定技術に関し、特に計算時間の削減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アレーアンテナを用いて電波の到来方向を推定するアルゴリズムとして、従来、SAGE法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。SAGE法は、アレーアンテナの配置に制限がなく、また精度がよい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】J.A.Fessler, and A.O.hero. ”Space-alternating generalized expectation-maximization algorithm,” IEEE Trans. Signal Processing, vol. 42, no. 10, pp. 2664-2677, 1994.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、SAGE法は、多数の未知パラメータを繰り返し計算で求め、更新するアルゴリズムであるため、更新された結果が収束するまでの計算時間が長くなる問題があり、従って計算時間の削減が課題となる。
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、到来方向の推定精度を維持したまま、計算時間を削減する到来方向推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の課題を解決するため、本発明に係る到来方向推定装置は、複数の到来波のうち1つの到来角度の初期値をビームフォーマー法により更新し、更新到来角度を得る角度算出部と、前記更新到来角度と前記初期値との差である更新量に1以上の補正係数を乗じた値を、前記初期値に加算し、補正到来角度を得る角度補正部と、前記複数の到来波の数全てについて前記到来角度及び前記補正到来角度を得たか否かを判定する繰り返し回数判定部と、前記更新量が第1閾値以下であるかどうかを判定する収束判定部と、を具備し、前記繰り返し回数判定部が前記複数の到来波全てについて前記更新到来角度及び前記補正到来角度を得たと判定し、かつ前記収束判定部が、前記補正到来角度を前記初期値に設定した場合の前記更新量が前記第1閾値以下であると判定するまで、前記角度算出部及び前記角度補正部は、前記補正到来角度を前記初期値に設定し、繰り返し前記更新到来角度及び前記補正到来角度を得、前記角度補正部は、繰り返して実行する回数のうちの1回以上は前記補正係数を1より大きい値に設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の到来方向推定装置によれば、到来方向の推定精度を維持したまま、計算時間を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】第1の実施形態に係る到来方向推定装置を示すブロック図。
【図2】アレーアンテナに入射する到来波の示す図。
【図3】本実施形態に係るSAGE法の考え方を示す図。
【図4】到来方向推定部の動作を示すフローチャート。
【図5】繰り返し回数m回目の到来角度を示す図。
【図6】繰り返し回数m+1回目の到来角度を示す図。
【図7】繰り返し回数m+1回目の到来角度の補正を示す図。
【図8】4行4列のアレーアンテナの構成を示す図。
【図9】本実施形態に係る座標系を示す図。
【図10】従来方法を用いた繰り返し回数に対する方位角の変化を示す図。
【図11】従来方法を用いた繰り返し回数に対する仰角の変化を示す図。
【図12】本実施形態に係る方法を用いた繰り返し回数に対する方位角の変化を示す図。
【図13】本実施形態に係る方法を用いた繰り返し回数に対する仰角の変化を示す図。
【図14】第2の実施形態に係る補正係数αの一例を示す図。
【図15】第3の実施形態に係る補正係数αの一例を示す図。
【図16】第3の実施形態に係る補正係数αの別例を示す図。
【図17】第5の実施形態に係る到来方向推定装置を示すブロック図。
【図18】第5の実施形態に係る到来方向推定部の動作を示すフローチャート。
【図19】到来方向推定装置のハードウェア構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態に係る到来方向推定装置について詳細に説明する。なお、以下の実施形態では、同一の番号を付した部分については同様の動作をおこなうものとして、重ねての説明を省略する。
本実施形態に係る到来方向推定装置の構成について図1を参照して詳細に説明する。
本実施形態に係る到来方向推定装置100は、アレーアンテナ101と、受信部102と、到来方向推定部103とを含む。さらに、到来方向推定部103は、初期値設定部104と、到来信号算出部105と、yk(t)算出部106と、θk算出部107(以下、角度算出部107ともいう)と、θk補正部108(以下、角度補正部108ともいう)と、sk(t)算出部109と、繰り返し回数判定部110と、収束判定部111とを含む。kは到来波の数を表すインデックスである。
【0009】
アレーアンテナ101は、到来波を受信するように設計された複数のアンテナ(各アンテナをアンテナ素子ともいう)から構成される。アンテナには任意のアンテナを用いてもよく、広い角度範囲の到来波を受信したい場合はビーム幅の広いアンテナ、例えばパッチアンテナを用いればよい。また狭い範囲の到来波を受信したい場合はビーム幅の狭いアンテナ、例えばホーンアンテナを用いればよい。さらに、複数のアンテナから構成されるアレーアンテナ101の配置は、任意の配置としてもよい。到来方向推定アルゴリズムの中には、配列条件として隣り合うアンテナ素子間隔を全て同一とすることを条件としたり、円形配列とすることを条件としたりするものがあるが、本実施形態においてはこのような条件を制限とせず、任意の配置としてよい。
【0010】
受信部102は、アレーアンテナ101が受信した到来波から受信信号x(t)を生成する。受信信号x(t)は、アレーアンテナ101が実際に受信した信号であり、アンテナ素子数ごとの成分を持つ列ベクトルで表される。さらに受信部102は、例えば周波数フィルター、電力増幅器、周波数変換器、アナログデジタル変換器から構成されるが、特にこれらの構成要素に限られず、後述する到来方向推定部103において扱える信号に変換できる構成であればよい。
【0011】
到来方向推定部103は、受信部102から受け取った受信信号x(t)から到来波の到来方向の角度θk(以下、到来角度θkという)を推定し、推定した到来角度θkを外部に出力する。
【0012】
さらに、到来方向推定部103に含まれる構成要素について説明する。
初期値設定部104は、到来角度推定アルゴリズムに用いる到来角度θkの初期値を、到来波の数だけ設定する。
到来信号算出部105は、受信部102から受信信号x(t)を、初期値設定部104から複数の到来角度θkの初期値を受け取り、この受信信号x(t)および複数の到来角度θkの初期値から、到来波ごとの到来信号sk(0)(t)を算出する。到来信号sk(0)(t)は、既知である受信信号x(t)から推定される到来波kの信号であり、同相成分と直交成分を持つ。すなわち、到来角度θkの初期値によって定められた方向から信号が到来すると仮定したときの信号で表される。例えば、到来信号s1(0)(t)は、到来波1について、到来角度θ1の初期値によって定められた方向から信号が到来すると仮定したときの信号を示す。
yk(t)算出部106は、到来信号算出部105から到来波ごとの到来信号sk(0)(t)、受信信号x(t)、および複数の到来角度θkの初期値を受け取り、到来波ごとの受信信号であるyk(t)を算出する。到来波ごとの受信信号yk(t)は、到来波kについての到来信号sk(0)(t)を受信した場合、各アンテナ素子が受信する信号であり、アンテナ素子数ごとの成分を持つ列ベクトルで表される。例えば、受信信号y1(t)は、到来波1についての到来信号s1(0)(t)を受信した場合、各アンテナ素子が受信する信号を示す。すなわち、到来波ごとの受信信号であるyk(t)を全て加算すると、受信部102が受信した全体の受信信号x(t)となる。
θk算出部107は、yk(t)算出部106から受信信号yk(t)を受け取り、受信信号yk(t)に基づいてビームフォーマー法により到来角度θkを更新し、更新した到来角度である更新到来角度を算出する。
θk補正部108は、θk算出部107から受信信号yk(t)および更新到来角度を受け取り、この更新到来角度について補正を加え、補正した到来角度である補正到来角度を算出する。
sk(t)算出部109は、θk補正部108から補正到来角度を受け取り、補正到来角度に基づいて新たな到来信号sk(t)を算出する。
【0013】
繰り返し回数判定部110は、上述したyk(t)算出部106からsk(t)算出部109までの処理が到来波の数だけおこなわれたかどうかを判定し、到来波の数だけ処理がおこなわれていない場合、次の到来波についてyk(t)算出部106からsk(t)算出部109までの同様の処理をおこなう。到来波の数だけ処理がおこなわれた場合、補正到来角度を収束判定部111へ送る。なお、繰り返し回数判定部110は、yk(t)算出部106からsk(t)算出部109までに算出した各パラメータをまとめて受け取ってもよい。パラメータは、例えば到来角度θk、到来信号sk(t)、受信信号yk(t)である。
【0014】
収束判定部111は、繰り返し回数判定部110から受け取ったパラメータが収束しているかどうかを判定する。収束判定部111が収束していないと判定した場合、受け取ったパラメータのうちの新たな到来信号sk(t)をyk(t)算出部106へ送る。収束判定部111が収束していると判定した場合、パラメータの値を外部に出力する。収束の判定は、更新前のパラメータの値に対する更新後のパラメータの値の変化量(以下、更新量)が閾値以下であるかどうかにより判定をおこなう。なお、yk(t)算出部106からsk(t)算出部109までに算出した各パラメータを、繰り返し回数判定部110からまとめて収束判定部111が受け取ってもよいし、各部がパラメータを算出した時点で、パラメータを各部から受け取ってもよい。例えば、yk(t)算出部106が受信信号yk(t)を算出した時点で、受信信号yk(t)を収束判定部111が受け取ってもよい。
【0015】
ここで、本実施形態で用いるSAGE法について図2および図3を用いて詳細に説明する。
以下では到来波の数を2つとして説明する。図2は、アレーアンテナ201と到来波202とそのパラメータの関係を示す。到来波1は、到来信号s1(t)、到来角度θ1である。到来波2は、到来信号s2(t)、到来角度θ2である。このときのアレーアンテナ201の受信信号はx(t)=[x1(t)、x2(t)、・・・、xp(t)]Tである。pはアンテナ素子数である。Tは転置を表す記号である。
【0016】
SAGE法の計算は、複数の到来波を別々に分解して、全てのパラメータを求める。図3は、SAGE法の計算の考え方を示す図である。到来波1については、到来信号s1(t)、到来角度θ1、アレーアンテナ201の受信信号はy1(t)=[y11(t)、y12(t)、・・・、y1p(t)]Tである。ここでベクトル成分の添え字は、例えばy12(t)は、到来波1についてインデックス2のアンテナ素子が受けた受信信号を表す。到来波2についても同様に、到来信号s2(t)、到来角度θ2、アレーアンテナの受信信号はy2(t)=[y21(t)、y22(t)、・・・、y2p(t)]Tとなる。つまりこの場合、受信信号x(t)は、到来波1の受信信号y1(t)と到来波2の受信信号y2(t)との和で表すことができる。
【0017】
上述したように、実際の受信信号x(t)と、θ1およびθ2についての初期値とを与えることで、他のパラメータは順番に計算されて値が更新され、更新された値が収束するまで計算を繰り返しおこなう。結果として、SAGE法により6種類のパラメータs1(t)、θ1、y1(t)、s2(t)、θ2、y2(t)を求めることになる。
【0018】
次に、到来方向推定部103の動作の一例について図4のフローチャートを用いて詳細に説明する。なお、以下の説明では、上述したSAGA法の計算同様、到来波の数を2つとして説明するが、到来波は2つに限られず、到来波が複数存在する場合でも同様に計算できる。
はじめに、S401では、初期値設定部104において、到来波の到来角度θkの初期値を到来波の数と等しい数だけ設定する。ここではθ1およびθ2の初期値を設定する。初期値の設定方法は任意の方法でよく、例えば、想定される到来角度の範囲に対してランダムで設定する方法でもよい。あるいは、推定精度はビーム幅で制限されるが、ビームフォーマー法で到来方向を推定して、その結果を利用してもよい。ビームフォーマー法の推定精度は、ビーム幅の影響を受けるため制限されるが、ランダムで初期値を与える場合に比べて誤差が小さくなり、推定到来角度が収束するまでの繰り返し回数が減少する。さらにS401では、到来信号算出部105において、初期値設定部104から到来角度θkと受信部102から受信信号x(t)とを受け取り、この到来角度θkおよび受信信号x(t)を用いて到来信号sk(t)を算出する。到来信号sk(t)は以下の式から求めることができる。
【数1】
【0019】
ここで、Hは複素共役転置を表す記号、Tは転置を表す記号である。Nsはデータサンプリングの数を示すが、ここでは簡単のため、サンプリングの数を考慮せず単にs(0)(t)と表す。mは後に図4に示すS402からS405までの処理の繰り返し回数であり、初期値は0である。また、x(t)はアンテナ素子数pだけ要素を持つ列ベクトルである。a(θk(m))は角度θのモードベクトルで、アンテナ素子数pだけ要素を持つ列ベクトルであり、また、添え字Kは到来波の数を表す。モードベクトルは、アンテナの座標(配置)から決まる値である。すなわち、A(0)はp行K列の行列となる。式(1)および式(3)に示すs(0)(t)より、到来波1の到来信号s1(0)(t)および到来波2の到来信号s2(0)(t)をそれぞれ算出することができる。なお、以下のステップでは到来波ごとに処理をおこなうため、はじめにk=1とし、到来波1について処理をおこなう。
【0020】
次に、S402では、yk(t)算出部106において、到来信号算出部105から到来信号s(0)(t)、受信信号x(t)、および到来角度θkを受け取り、到来波ごとの受信信号yk(t)を算出する。受信信号yk(t)は以下の式で求めることができる。
【数2】
【0021】
但し、βkは非負の係数である。例えば、βk=1/Kとすればよい。また、yk(m)(t)、a(θk(m))、x(t)、はアンテナ素子数pだけ要素をもつ列ベクトルである。また、s(m)(t)は到来波数Kだけ要素をもつ列ベクトルである。sk(m)(t)はk番目の到来波の到来信号を表し、s(m)(t)より求められる値でスカラーである。A(m)はp行K列の行列となる。この式(4)より到来波1の受信信号y1(t)が計算される。
【0022】
次にS403では、θk算出部107において、yk(t)算出部106から受信信号yk(t)を受け取り、到来角度θk(m+1)を算出する。到来角度θk(m+1)はビームフォーマー法に従って計算し、式(2)および式(4)で使用した到来角度θk(m)に対して、本ステップで算出された値を新しい到来角度θk(m+1)として更新する。ビームフォーマー法は、次の評価関数を計算することにより到来角度を求める。この更新による新しい到来角度を更新到来角度と呼ぶ。
【数3】
【0023】
yk(m)(t)がアンテナ素子数pだけ要素をもつ列ベクトルであり、Ck(m)はp行p列の行列である。式(5)より到来波1についての更新到来角度θ1(m+1)を求めることができる。例えば、本ステップが到来波1について1回目の処理の場合、m=0であるので、初期値設定部104で設定された到来角度はθ1(0)であり、式(5)により更新された更新到来角度はθ1(1)として表せる。
【0024】
次に、S404では、θk補正部108において、θk算出部107から受信信号yk(t)および更新到来角度θk(m+1)を受け取り、以下の式(7)に示す補正式で到来角度を補正して補正到来角度を得る。このステップが従来のSAGE法に加えておこなう本実施形態特有の計算ステップである。
補正後のθk(m+1)=θk(m)+α{補正前のθk(m+1)−θk(m)}(7)
ここで、θk(m)はS403で更新される前の到来角度、補正前のθk(m+1)はS403で更新された更新到来角度で、補正をおこなう前の到来角度、補正後のθk(m+1)はS404で補正された後の到来角度、すなわち補正到来角度である。これにより到来波1について補正前のθ1(m+1)(更新到来角度)から、補正後のθ1(m+1)(補正到来角度)を算出できる。また、αは補正係数であり1以上の定数である。α=1とすると、補正がおこなわれないので、従来のSAGE法と同一となる。このステップによって、到来角度の値が安定するまでに必要な繰り返し回数が削減され、計算時間が削減されることとなる。S404については後に図5、図6、図7を用いて詳細に説明する。
【0025】
次に、S405では、sk(t)算出部109において、θk補正部108から受信信号yk(t)と補正到来角度θk(m+1)とを受け取り、この補正到来角度θk(m+1)をもとに新たな到来信号sk(m+1)(t)を算出する。sk(m+1)(t)については以下の式で算出することができる。
【数4】
【0026】
式(8)により到来波1について更新された到来信号s1(m+1)(t)を算出することができる。すなわち、既にS401で算出した最初の到来信号s1(t)のデータをs1(0)(t)とすれば、この計算により到来信号s1(1)(t)が求められ、s1(1)(t)を用いてs1(0)(t)を更新する。
【0027】
次に、S406では、繰り返し回数判定部110において、S402からS405までのステップが到来波の数だけおこなわれているかどうかを判定する。到来波の数だけ処理がおこなわれていないと判定された場合、kをインクリメントしてS402に戻り、他の未処理である到来波の数だけ、上述したS402からS405のステップと同様の処理を繰り返しおこなう。一方、到来波の数だけ処理がおこなわれていると判定された場合、次のS407へ進む。
本ステップで用いる判定は、例えば、繰り返し回数判定部110が受け取ったパラメータを用いて、パラメータのインデックスにより到来波の数だけ処理がおこなわれているかどうかを判定すればよい。例えば、到来波1について処理が終了している場合、設定した到来角度θkの初期値の数または到来波ごとの受信信号yk(t)の数を参照すれば、まだ処理のおこなわれていない到来波があるかどうかがわかるため、未処理の到来波があれば到来波2についても処理をおこない、受信信号y2(t)、到来信号s2(t)、到来角度θ2、補正到来角度θ2、新たな到来信号s2(t)を同様の手順および計算式を用いて求めて、パラメータの更新をおこなう。
最後に、S407では、収束判定部111において、sk(t)算出部109から受け取ったパラメータについて値が収束したかどうかを判定する。収束の判定は、更新前のパラメータに対する更新後のパラメータの更新量を計算し、この更新量が閾値以下の場合、収束したと判定して全体の処理を終了する。更新量は、(θk(m+1)−θk(m))で表される、更新前のパラメータの値に対する更新後のパラメータの値の変化量である。また、収束していないと判定された場合、つまり更新量が閾値よりも大きければ、mの値をインクリメントして、収束判定部111はパラメータ(新たな到来信号であるs1(t)およびs2(t))をyk(t)算出部106へ送り、値が収束するまでS402からS406の処理を繰り返しおこなう。なお、この判定に用いるパラメータは、到来波に関する全てのパラメータが求まっているため、繰り返し回数判定部110から受け取ったパラメータが複数ある場合、どのパラメータを用いて収束の判定をおこなってもよい。例えば、到来方向推定を目的としている場合、到来角度θkの値の更新量が閾値以下であれば収束したと判定し、閾値よりも大きければ収束していないと判定することができる。
【0028】
ここで、S403およびS404の到来角度の補正について図5、図6、図7を用いてさらに詳細に説明する。例として到来波1の到来角度θ1についての補正を考える。
はじめに、S403における、繰り返し回数m回目のビームフォーマー法における評価関数の例を図5に示す。式(5)の角度θを変えながら評価関数の値を計算し、評価関数の値が最大となる角度を到来角度θ1(m)とする。なお、θ1が初期値で与えられた場合、つまりθ1(0)の場合、図5に示すような関数とならず一定値を示す。
次に、S403における、繰り返し回数m+1回目のビームフォーマー法における評価関数の例を図6に示す。m回目のビームフォーマー法の時に比較して、評価関数の値が変わる。この理由は、受信信号y1(t)、y2(t)、到来信号s1(t)、s2(t)、到来角度θ2の値がm回目のビームフォーマー法の時の値から変化しているためである。
【0029】
最後に、S404における、m+1回目のθ1の補正計算の例を図7に示す。図7は、図5に示したm回目の到来角度θ1(m)、図6に示したm+1回目の到来角度θ1(m+1)(更新到来角度)、補正後の到来角度θ1(m+1)(補正到来角度)の関係を示している。図7に示すように、m回目の到来角度θ1(m)に対するm+1回目の到来角度θ1(m+1)の変化に対して、到来角度が変化した方向に、式(6)により到来角度の更新量を係数αに比例した値で補正をおこなうことにより、更新量を大きめに見積もる。つまり、到来角度の値が増加していればさらに増加させるように、逆に到来角度の値が減少していればさらに減少するように補正をおこなう。これにより、従来の最適値と異なる角度に更新することになり、パラメータの収束を早めることができる。
【0030】
次に、従来のSAGE法に比べて計算量が削減される効果について、具体的な数値計算結果を用いて説明する。
具体的な数値計算に用いるモデルを説明する。アレーアンテナは、図8に示すような4素子×4素子の16素子正方形配列アレーアンテナとする。素子間隔801は半波長とする。
また、このアレーアンテナを配置する座標系を図9に示す。方位角をφ、仰角をθとする。このアレーアンテナへ2つの到来波が入射すると仮定する。つまり到来波の数は2つである。2つの到来波は等電力とし、相関係数は1である。到来角度は、到来波1が(方位角1、仰角1)=(90°、60°)、到来波2が(方位角2、仰角2)=(120°、40°)とする。
上述した条件において、従来のSAGE法に従って計算した結果を図10および図11を用いて説明する。図10および図11は、処理の繰り返し回数に対する方位角と仰角の変化を示す。初期値として、到来波1には、(初期値方位角1=60°、初期値仰角1=80°)、到来波2には、(初期値方位角2=150°、初期値仰角2=20°)を与えている。図10および図11を参照すると、方位角および仰角ともに到来角度は徐々に収束し、95回程度で精度良く到来角度が推定できていることがわかる。ここで、到来角度の値は、短期間の繰り返し回数に対して、単調減少あるいは単調増加関数となっている。
【0031】
次に、本実施形態に従って計算した結果を図12および図13を用いて説明する。図12および図13は、図10および図11と同様に処理の繰り返し回数に対する方位角と仰角の変化を示す。2つの到来波に対して、従来のSAGE法と同じ初期値を与えている。なお、到来角度を方位角と仰角の2次元としているので、方位角と仰角それぞれに対して式(6)の補正計算を適用している。具体的には、以下の式を用いて計算している。
補正後のφk(m+1)=φk(m)+α{補正前のφk(m+1)−φk(m)} (9)
補正後のθk(m+1)=θk(m)+α{補正前のθk(m+1)−θk(m)} (10)
なお、係数α=1.3で計算している。図12および図13に示すように、方位角および仰角ともに到来角度は従来法よりも早く収束し、50回程度で精度良く到来角度が推定されている。このように、補正計算を加えることで推定精度を維持したまま繰り返し回数の半減を達成することができる。
【0032】
以上に示した第1の実施形態によれば、更新する到来角度の値を従来の更新量に比べて多めに与える補正をおこなうことで、より早くパラメータの値が収束して繰り返し回数が削減されるため、計算時間を削減することができる。
【0033】
(第2の実施形態)
本実施形態においては、補正係数αの値を(θk(m+1)−θk(m))の大きさ、つまり更新量に比例するように設定されることを特徴とする。第1の実施形態では補正係数αの値は一定値であり、更新量が大きくても一定の補正をおこなうが、本実施形態では更新量の大きさに比例して補正係数αを設定する、すなわち更新量が大きいときにより大きく補正して、更新量が小さいときには小さく補正することで、ある場合には、収束を加速させ、繰り返し回数削減を可能とする。
【0034】
到来方向推定アルゴリズムでは、更新量が大きい時には、まだ収束が十分進んでいない場合がある。このような場合、場合によっては、補正量をより大きくして、収束値により早く近づけるように補正することが有効となる。また、更新量が小さいときは、収束に近づいているといえるため、更新量が大きい場合と同様の補正係数αで計算をおこなうと過度の補正となり却って収束が遅くなることがある。このような場合、補正量を小さくすることでアルゴリズムが収束する方向に向かわせることができる。補正係数αの調整は、θk補正部108において行われ、更新量を算出した後にこの更新量を用いて調節する。この際、更新量と補正係数αとの比例関係を対応付けたテーブルを予め格納しておきこのテーブルを参照してもよいし、補正係数αを算出する計算式へ算出した更新量を代入し、補正係数αを算出してもよい。
更新量と補正係数αとの関係を図14に示す。図14に示すように、更新量が大きいときには、補正係数αは大きくする。また、更新量が小さいときには、補正係数αは小さくする。このように、更新量の比例するように補正係数αを設定する。但し、補正係数αの最小値は1とする。なお、更新量に対して補正係数αが比例して設定することに限らず、更新量と補正係数αとの関係を示す曲線が上に凸または下に凸である場合も含む。すなわち、本実施形態では更新量に応じて補正係数αが増えていればよい。
【0035】
以上に示した第2の実施形態によれば、補正係数αの値を更新量に比例させて設定することで、更新量が大きい場合に補正量をより大きくして収束を加速させ、これにより収束するまでに必要な繰り返し回数が削減されるため、計算時間の削減を達成できる。
【0036】
(第3の実施形態)
本実施形態では、補正係数αを到来方向推定の繰り返し回数によって補正係数αの値を設定することを特徴とする。到来方向推定のアルゴリズムでは、ある程度繰り返しを行わないと値が収束しないため、多くの場合、繰り返し回数が少ないときではまだ収束が進まず、回数が増えるごとに収束に向かう傾向がある。そこで、繰り返し回数の少ない初期段階で補正係数αの値を大きく設定して収束の速度を速め、繰り返し回数が増えるごとに補正係数αの値を小さく設定し、過度の補正により収束を遅めないようにする。補正係数αの調整は、第2の実施形態同様、θk補正部108で行われ、各パラメータの含まれる繰り返し回数mのインデックスを参照することにより、補正係数αを調整する。この際、θk補正部108は、繰り返し回数mと補正係数αとの関係を対応付けたテーブルを予め格納しておき、このテーブルを参照してもよいし、補正係数αを算出する計算式へ繰り返し回数を代入し、補正係数αを算出してもよい。
【0037】
アルゴリズムの繰り返し回数と補正係数αとの関係を図15に示す。図15に示すように、繰り返し回数が少ないときは、補正の効果を大きくするために補正係数αを大きく設定し、繰り返し回数が多くなるにつれて、補正の効果を小さくするために補正係数αを小さく設定する。すなわち、補正係数αをアルゴリズムの繰り返し回数に反比例するように設定する。このように設定することで、過剰な補正を避けつつ繰り返し回数を削減することができる。
また、極端な場合として、補正係数αは、繰り返し回数がある閾値以上の場合にはα=1と設定し、繰り返し回数が閾値より少ないときは補正係数αが1より大きく設定されてもよい。このように補正係数αを設定した例を図16に示す。このように設定することで、繰り返し回数が多い場合、従来のSAGE法と同じ計算となるので、振動を抑圧しながら収束するまでの繰り返し回数の削減を達成できる。
【0038】
以上に示した第3の実施形態によれば、補正係数αの値を繰り返し回数に対して反比例させることで、繰り返し回数の少ないときには大きく補正して収束をはやめ、繰り返し回数が増えて収束に近づくにつれ、補正を小さくすることで収束するまでの繰り返し回数の削減を達成できる。
【0039】
(第4の実施形態)
第2の実施形態では、更新量の大きさに比例して補正係数αも大きく設定するが、到来角度の推定値によっては更新量が大きいときに補正すると、補正量が大きくなりすぎ、場合によっては補正後の到来角度の推定値が一定値に収束せずに増減を繰り返しパラメータの値が振動して、収束回数が増加してしまう可能性もある。そこで、このような場合を想定しては、更新量が大きいときに補正の効果を小さくし、更新量が小さいときに補正の効果を大きくして繰り返し回数の削減を行う。なお、第2の実施形態同様、補正係数αの調整はθk補正部108において行う。
【0040】
更新量により補正係数αを設定する場合は、例えば、図15および図16の横軸を「回数」から「更新量」に置き換えて考えればよい。図15では、更新量が大きい場合は補正の効果を小さくするため補正係数αを小さく設定する。また、更新量が小さい場合は補正の効果を大きくするために、補正係数αを大きく設定する。すなわち、補正係数αを更新量に反比例するように設定する。図16では、補正係数αは、更新量の大きさが所定の閾値以上のときにはα=1と設定し、更新量の大きさが閾値よりも小さいときにはαが1より大きく設定される。
【0041】
以上に示した第4の実施形態によれば、例えば更新量の大きな時に補正してしまうことで生じる可能性のある振動を抑圧し、収束するまでの繰り返し回数の削減を達成できる。
【0042】
なお、上述の第1の実施形態から第4の実施形態における回数および更新量に応じた補正係数αの与え方について、1つの実施形態のみの形式だけではなく、複数組み合わせて実施してもよい。例えば、1つの到来波について、第1の実施形態のように、補正係数αに一定値を与え、アルゴリズムをある閾値回数以上繰り返した後、収束していないと判定した場合に、第2の実施形態のように、更新量に応じて比例した補正係数αを与えてもよい。また、第2の実施形態のように補正係数αを更新量に比例して与えた後、繰り返し回数がある閾値に達した後、収束していない場合に、第3の実施形態のように補正係数αを繰り返し回数に反比例して与えて、アルゴリズムを実行してもよい。
【0043】
(第5の実施形態)
本実施形態では、補正係数αは、補正後の到来角度が所定の角度範囲内に制限されるように設定されることを特徴とする。例えば、携帯電話用の基地局がビルの屋上に設置されていて、地面に近い携帯電話端末からの到来波の到来方向推定を考える。到来波は、基地局の水平方向より下側から到来することになり、水平方向より上側は考える必要がない。しかし、補正後の更新量が大きい場合、到来角度が水平方向より上側になってしまう場合がある。このような場合、想定範囲外の到来角度について計算することに意味がないため、水平方向よりも大きい到来角度になる場合、水平方向の上限の値に設定することでパラメータの収束を早めることができる。
【0044】
次に、到来角度が角度範囲内とした場合の計算の破綻について説明する。
上述したように、携帯電話用の基地局がビルの屋上に設置されていて、地面に近い携帯電話端末からの到来波の到来方向推定を考える。到来波は、基地局の水平方向より下側から到来することになり、水平方向より上側は考える必要がない。ここで、水平方向より上側は考える必要がないので、上側についての計算は不必要である。不必要な部分の計算をおこなわないように計算アルゴリズムや計算ハードウェアを構成することで、低コスト化や小型化につながる。ところが、このように不必要なところの計算が出来ない場合に、その範囲のデータが発生すると計算が破綻し、エラーとなってしまう問題がある。
そこで、本実施形態では、補正係数αの値を小さくして、補正後の到来角度が所定の角度範囲内に制限されるように設定する。この説明の場合、水平方向より下側になるように制限する。
【0045】
以上に示した第5の実施形態によれば、補正係数αを補正後の到来角度が所定の角度範囲内に制限されるように設定することで、計算をおこなっても意味のない範囲、または計算できない範囲の到来角度の発生を抑圧し、アルゴリズムの繰り返し回数を減少させ、計算時間を削減することができ、計算の破綻を抑圧することが可能となる。
【0046】
(第6の実施形態)
第1の実施形態では、繰り返し回数判定部110において到来波の数だけ処理をしたかどうかを判定し、到来波の数だけ処理をおこなっていなければ、図4に示すS402からS405の処理を繰り返しておこなっている。本実施形態は、繰り返し回数判定部110によらず、到来波の数に応じて、これらS402からS405の処理を到来波ごとに並列に計算することで、実効的な計算時間の短縮化をおこなうことに特徴がある。
本実施形態に係る到来方向推定装置1700を図17に示す。第1の実施形態に係る到来方向推定装置100との違いは、到来方向推定部1701において、yk(t)算出部106、θk算出部107、θk補正部108、およびsk(t)算出部109を1組として、到来波の数だけ1701、1702、・・・と用意し、繰り返し回数判定部110を設けていない点である。
【0047】
本実施形態に係る到来方向推定部1701の動作について図18のフローチャートを用いて説明する。はじめに、第1の実施形態に係る図4のフローチャートと図18との違いについて説明する。第1の実施形態では、S402からS405の処理を1つの到来波ごとに順番に計算し、S406において到来波の数だけ処理をおこなったかどうかの判定をおこなう。そして到来波1の処理が終われば、到来波2の処理、到来波3の処理、と続いて、到来波Kの処理まで直列に各パラメータを計算している。
【0048】
一方、本実施形態に係る図18のフローチャートでは、S402からS405までの処理を到来波の数だけ並列に計算する。例えば、到来波が2つの場合、図17に示すS401では、図4に示した処理と同様に到来波の数だけ到来角度θkの初期値を与え、sk(t)を計算する。次に、yk(t)算出部106と、θk算出部107と、θk補正部108と、sk(t)算出部109とを、到来波1および到来波2ごとに用意し、S1801およびS1802に示す、S402からS405の処理を並列しておこなう。その後S407において、パラメータの値が収束したかどうかを判定し、パラメータの値が収束していれば処理を終了する。パラメータの値が収束していなければ、mをインクリメントしてS1801およびS1802の処理を繰り返す。並列計算とは、複数のCPU等の演算ハードウェアを用意して、同時刻に異なる計算をおこなうことである。これによって、1回の繰り返しに必要な全体の計算量自体は変わらないが、同時刻に複数の計算がおこなえるので、実効的な計算時間の短縮化がおこなえる。
【0049】
以上に示した第6の実施形態によれば、到来波の数だけ並列に計算することで、実効的な計算時間の短縮化が可能となる。
【0050】
(第7の実施形態)
本実施形態では、方位角φと仰角θの2次元の到来方向推定を想定し、第1の実施形態では方位角および仰角の到来角度の補正式において同じ補正係数αを用いることに対して、本実施形態では、方位角についての補正式はφk(m)+α_φ{φk(m+1)−φk(m)}、仰角についての補正式はθk(m)+α_θ{θk(m+1)−θk(m)}として、方位角と仰角で補正係数αに異なる値を用いることを特徴とする。これにより、方位角と仰角に対して、それぞれ最適となる補正をおこなうことができるようになる。
アレーアンテナの配置によっては、方位角と仰角の推定精度が違う場合があり、また、方位角と仰角のそれぞれの初期値の誤差が異なる場合がある。このような場合、補正係数αの値は、方位角と仰角の補正値の最適値は異なるため、方位角と仰角で異なる値とすることが望ましい。
【0051】
具体的には、方位角をφ、仰角をθで表せば、
補正後のφk(m+1)=φk(m)+α_φ{補正前のφk(m+1)−φk(m)} (11)
補正後のθk(m+1)=θk(m)+α_θ{補正前のθk(m+1)−θk(m)} (12)
の様に補正式を方位角φと仰角θで別々に構成し、補正係数α_φおよびα_θと別々に設定する。
【0052】
以上に示した第7の実施形態によれば、2次元の到来方向推定では、補正係数αの値を方位角と仰角とで異なる値に設定することで、最適な補正がおこなえるようになり、繰り返し回数が減少し、計算時間の削減が可能となる。
【0053】
なお、到来波の数が複数の場合、それぞれの到来波ごとに異なる補正係数αを割り当ててもよい。この場合、到来波に応じた最適な補正係数αが設定できるので、計算時間の削減が可能となる。また、到来波の数が複数であり、方位角φと仰角θの2次元推定の場合、到来波ごとに異なる補正係数αを割り当て、また、方位角と仰角で異なる補正係数αを割り当ててもよい。この場合、各到来波の方位角と仰角に対して最適な補正係数αを設定できるので、計算時間の削減が可能となる。
さらに、補正係数αを、繰り返し回数mに対してあらかじめ決めてしまってもよい。この場合、更新量の大きさを計算する必要が無くなる。繰り返し回数mと補正係数αの表をあらかじめ決め、この表を参照するだけでよくなる。これによって、計算量がさらに削減される。あるいは、補正係数αの値は固定値としてもよい。この場合、補正係数αの設定手順が省かれるので、計算量がさらに削減される。
また、補正係数αの値は、あらかじめ求めておいてもよい。例えば、受信信号を用いた解析結果から、最適な補正係数αを求めておく方法がある。あるいは、シミュレーションを利用して、最適な補正係数αを求めてもよい。
【0054】
ここで、到来方向推定装置100のハードウェア構成を図19に示す。到来方向推定装置100は、到来方向推定を実行する到来方向推定プログラムなどが格納されているROM1901と、ROM1901内のプログラムに従って到来方向推定装置の各部を制御するCPU1902と、到来方向推定装置の制御に必要な種々のデータを記憶するRAM1903と、ネットワークに接続して通信をおこなう通信I/F1904と、各部を接続するバス1905を備えている。
また到来方向推定プログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD−ROM、フレキシブルディスク(FD)、DVDなどのコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記憶されて提供されてもよい。
この場合、到来方向推定プログラムは、上記記憶媒体から読み出して実行することにより到来方向推定装置100の主記憶装置上にロードされ、図19に示すソフトウェア構成の各部が、主記憶装置上に形成されるようになっている。
また、本実施例の到来方向推定プログラムを、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク、通信I/F1904経由でダウンロードさせることにより提供するように構成してもよい。
【0055】
本実施形態は、アレーアンテナを用いた到来方向推定装置に適用されるが、電波監視、移動体通信、レーダ装置など、アレーアンテナの利用されている様々な技術分野にも応用可能である。また、電波の到来方向推定以外にも、音波の到来方向推定にも応用可能である。また、到来方向推定以外にも、電波や音波の遅延時間推定などの、同一の計算手順が用いられる技術分野に適用できる。
【0056】
なお、本実施形態とは異なるが、一般的な最適化問題では、固定された評価関数のもとで、評価関数を最大化、あるいは、最少化するパラメータを探索する。このとき、パラメータの更新量に係数を乗算し、最適化のスピードを上げる方法が知られている。
一方、本実施形態では、繰り返し回数毎に異なる評価関数を計算する。そして、次の繰り返しにおける評価関数を先読みして、パラメータ(到来角度)を補正する。つまり、一般的な最適化における収束速度の改善方法とは異なる。
【0057】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0058】
100・・・到来方向推定装置、101、201・・・アレーアンテナ、102・・・受信部、103・・・到来方向推定部、104・・・初期値設定部、105・・・到来信号算出部、106・・・yk(t)算出部、107・・・θk算出部、108・・・θk補正部、109・・・sk(t)算出部、110・・・繰り返し回数判定部、111・・・収束判定部、202・・・到来波、801・・・素子間隔、1901・・・ROM、1902・・・CPU、1903・・・RAM、1904・・・通信I/F、1905・・・バス。
【技術分野】
【0001】
本発明は、到来方向推定技術に関し、特に計算時間の削減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アレーアンテナを用いて電波の到来方向を推定するアルゴリズムとして、従来、SAGE法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。SAGE法は、アレーアンテナの配置に制限がなく、また精度がよい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】J.A.Fessler, and A.O.hero. ”Space-alternating generalized expectation-maximization algorithm,” IEEE Trans. Signal Processing, vol. 42, no. 10, pp. 2664-2677, 1994.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、SAGE法は、多数の未知パラメータを繰り返し計算で求め、更新するアルゴリズムであるため、更新された結果が収束するまでの計算時間が長くなる問題があり、従って計算時間の削減が課題となる。
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、到来方向の推定精度を維持したまま、計算時間を削減する到来方向推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の課題を解決するため、本発明に係る到来方向推定装置は、複数の到来波のうち1つの到来角度の初期値をビームフォーマー法により更新し、更新到来角度を得る角度算出部と、前記更新到来角度と前記初期値との差である更新量に1以上の補正係数を乗じた値を、前記初期値に加算し、補正到来角度を得る角度補正部と、前記複数の到来波の数全てについて前記到来角度及び前記補正到来角度を得たか否かを判定する繰り返し回数判定部と、前記更新量が第1閾値以下であるかどうかを判定する収束判定部と、を具備し、前記繰り返し回数判定部が前記複数の到来波全てについて前記更新到来角度及び前記補正到来角度を得たと判定し、かつ前記収束判定部が、前記補正到来角度を前記初期値に設定した場合の前記更新量が前記第1閾値以下であると判定するまで、前記角度算出部及び前記角度補正部は、前記補正到来角度を前記初期値に設定し、繰り返し前記更新到来角度及び前記補正到来角度を得、前記角度補正部は、繰り返して実行する回数のうちの1回以上は前記補正係数を1より大きい値に設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の到来方向推定装置によれば、到来方向の推定精度を維持したまま、計算時間を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】第1の実施形態に係る到来方向推定装置を示すブロック図。
【図2】アレーアンテナに入射する到来波の示す図。
【図3】本実施形態に係るSAGE法の考え方を示す図。
【図4】到来方向推定部の動作を示すフローチャート。
【図5】繰り返し回数m回目の到来角度を示す図。
【図6】繰り返し回数m+1回目の到来角度を示す図。
【図7】繰り返し回数m+1回目の到来角度の補正を示す図。
【図8】4行4列のアレーアンテナの構成を示す図。
【図9】本実施形態に係る座標系を示す図。
【図10】従来方法を用いた繰り返し回数に対する方位角の変化を示す図。
【図11】従来方法を用いた繰り返し回数に対する仰角の変化を示す図。
【図12】本実施形態に係る方法を用いた繰り返し回数に対する方位角の変化を示す図。
【図13】本実施形態に係る方法を用いた繰り返し回数に対する仰角の変化を示す図。
【図14】第2の実施形態に係る補正係数αの一例を示す図。
【図15】第3の実施形態に係る補正係数αの一例を示す図。
【図16】第3の実施形態に係る補正係数αの別例を示す図。
【図17】第5の実施形態に係る到来方向推定装置を示すブロック図。
【図18】第5の実施形態に係る到来方向推定部の動作を示すフローチャート。
【図19】到来方向推定装置のハードウェア構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態に係る到来方向推定装置について詳細に説明する。なお、以下の実施形態では、同一の番号を付した部分については同様の動作をおこなうものとして、重ねての説明を省略する。
本実施形態に係る到来方向推定装置の構成について図1を参照して詳細に説明する。
本実施形態に係る到来方向推定装置100は、アレーアンテナ101と、受信部102と、到来方向推定部103とを含む。さらに、到来方向推定部103は、初期値設定部104と、到来信号算出部105と、yk(t)算出部106と、θk算出部107(以下、角度算出部107ともいう)と、θk補正部108(以下、角度補正部108ともいう)と、sk(t)算出部109と、繰り返し回数判定部110と、収束判定部111とを含む。kは到来波の数を表すインデックスである。
【0009】
アレーアンテナ101は、到来波を受信するように設計された複数のアンテナ(各アンテナをアンテナ素子ともいう)から構成される。アンテナには任意のアンテナを用いてもよく、広い角度範囲の到来波を受信したい場合はビーム幅の広いアンテナ、例えばパッチアンテナを用いればよい。また狭い範囲の到来波を受信したい場合はビーム幅の狭いアンテナ、例えばホーンアンテナを用いればよい。さらに、複数のアンテナから構成されるアレーアンテナ101の配置は、任意の配置としてもよい。到来方向推定アルゴリズムの中には、配列条件として隣り合うアンテナ素子間隔を全て同一とすることを条件としたり、円形配列とすることを条件としたりするものがあるが、本実施形態においてはこのような条件を制限とせず、任意の配置としてよい。
【0010】
受信部102は、アレーアンテナ101が受信した到来波から受信信号x(t)を生成する。受信信号x(t)は、アレーアンテナ101が実際に受信した信号であり、アンテナ素子数ごとの成分を持つ列ベクトルで表される。さらに受信部102は、例えば周波数フィルター、電力増幅器、周波数変換器、アナログデジタル変換器から構成されるが、特にこれらの構成要素に限られず、後述する到来方向推定部103において扱える信号に変換できる構成であればよい。
【0011】
到来方向推定部103は、受信部102から受け取った受信信号x(t)から到来波の到来方向の角度θk(以下、到来角度θkという)を推定し、推定した到来角度θkを外部に出力する。
【0012】
さらに、到来方向推定部103に含まれる構成要素について説明する。
初期値設定部104は、到来角度推定アルゴリズムに用いる到来角度θkの初期値を、到来波の数だけ設定する。
到来信号算出部105は、受信部102から受信信号x(t)を、初期値設定部104から複数の到来角度θkの初期値を受け取り、この受信信号x(t)および複数の到来角度θkの初期値から、到来波ごとの到来信号sk(0)(t)を算出する。到来信号sk(0)(t)は、既知である受信信号x(t)から推定される到来波kの信号であり、同相成分と直交成分を持つ。すなわち、到来角度θkの初期値によって定められた方向から信号が到来すると仮定したときの信号で表される。例えば、到来信号s1(0)(t)は、到来波1について、到来角度θ1の初期値によって定められた方向から信号が到来すると仮定したときの信号を示す。
yk(t)算出部106は、到来信号算出部105から到来波ごとの到来信号sk(0)(t)、受信信号x(t)、および複数の到来角度θkの初期値を受け取り、到来波ごとの受信信号であるyk(t)を算出する。到来波ごとの受信信号yk(t)は、到来波kについての到来信号sk(0)(t)を受信した場合、各アンテナ素子が受信する信号であり、アンテナ素子数ごとの成分を持つ列ベクトルで表される。例えば、受信信号y1(t)は、到来波1についての到来信号s1(0)(t)を受信した場合、各アンテナ素子が受信する信号を示す。すなわち、到来波ごとの受信信号であるyk(t)を全て加算すると、受信部102が受信した全体の受信信号x(t)となる。
θk算出部107は、yk(t)算出部106から受信信号yk(t)を受け取り、受信信号yk(t)に基づいてビームフォーマー法により到来角度θkを更新し、更新した到来角度である更新到来角度を算出する。
θk補正部108は、θk算出部107から受信信号yk(t)および更新到来角度を受け取り、この更新到来角度について補正を加え、補正した到来角度である補正到来角度を算出する。
sk(t)算出部109は、θk補正部108から補正到来角度を受け取り、補正到来角度に基づいて新たな到来信号sk(t)を算出する。
【0013】
繰り返し回数判定部110は、上述したyk(t)算出部106からsk(t)算出部109までの処理が到来波の数だけおこなわれたかどうかを判定し、到来波の数だけ処理がおこなわれていない場合、次の到来波についてyk(t)算出部106からsk(t)算出部109までの同様の処理をおこなう。到来波の数だけ処理がおこなわれた場合、補正到来角度を収束判定部111へ送る。なお、繰り返し回数判定部110は、yk(t)算出部106からsk(t)算出部109までに算出した各パラメータをまとめて受け取ってもよい。パラメータは、例えば到来角度θk、到来信号sk(t)、受信信号yk(t)である。
【0014】
収束判定部111は、繰り返し回数判定部110から受け取ったパラメータが収束しているかどうかを判定する。収束判定部111が収束していないと判定した場合、受け取ったパラメータのうちの新たな到来信号sk(t)をyk(t)算出部106へ送る。収束判定部111が収束していると判定した場合、パラメータの値を外部に出力する。収束の判定は、更新前のパラメータの値に対する更新後のパラメータの値の変化量(以下、更新量)が閾値以下であるかどうかにより判定をおこなう。なお、yk(t)算出部106からsk(t)算出部109までに算出した各パラメータを、繰り返し回数判定部110からまとめて収束判定部111が受け取ってもよいし、各部がパラメータを算出した時点で、パラメータを各部から受け取ってもよい。例えば、yk(t)算出部106が受信信号yk(t)を算出した時点で、受信信号yk(t)を収束判定部111が受け取ってもよい。
【0015】
ここで、本実施形態で用いるSAGE法について図2および図3を用いて詳細に説明する。
以下では到来波の数を2つとして説明する。図2は、アレーアンテナ201と到来波202とそのパラメータの関係を示す。到来波1は、到来信号s1(t)、到来角度θ1である。到来波2は、到来信号s2(t)、到来角度θ2である。このときのアレーアンテナ201の受信信号はx(t)=[x1(t)、x2(t)、・・・、xp(t)]Tである。pはアンテナ素子数である。Tは転置を表す記号である。
【0016】
SAGE法の計算は、複数の到来波を別々に分解して、全てのパラメータを求める。図3は、SAGE法の計算の考え方を示す図である。到来波1については、到来信号s1(t)、到来角度θ1、アレーアンテナ201の受信信号はy1(t)=[y11(t)、y12(t)、・・・、y1p(t)]Tである。ここでベクトル成分の添え字は、例えばy12(t)は、到来波1についてインデックス2のアンテナ素子が受けた受信信号を表す。到来波2についても同様に、到来信号s2(t)、到来角度θ2、アレーアンテナの受信信号はy2(t)=[y21(t)、y22(t)、・・・、y2p(t)]Tとなる。つまりこの場合、受信信号x(t)は、到来波1の受信信号y1(t)と到来波2の受信信号y2(t)との和で表すことができる。
【0017】
上述したように、実際の受信信号x(t)と、θ1およびθ2についての初期値とを与えることで、他のパラメータは順番に計算されて値が更新され、更新された値が収束するまで計算を繰り返しおこなう。結果として、SAGE法により6種類のパラメータs1(t)、θ1、y1(t)、s2(t)、θ2、y2(t)を求めることになる。
【0018】
次に、到来方向推定部103の動作の一例について図4のフローチャートを用いて詳細に説明する。なお、以下の説明では、上述したSAGA法の計算同様、到来波の数を2つとして説明するが、到来波は2つに限られず、到来波が複数存在する場合でも同様に計算できる。
はじめに、S401では、初期値設定部104において、到来波の到来角度θkの初期値を到来波の数と等しい数だけ設定する。ここではθ1およびθ2の初期値を設定する。初期値の設定方法は任意の方法でよく、例えば、想定される到来角度の範囲に対してランダムで設定する方法でもよい。あるいは、推定精度はビーム幅で制限されるが、ビームフォーマー法で到来方向を推定して、その結果を利用してもよい。ビームフォーマー法の推定精度は、ビーム幅の影響を受けるため制限されるが、ランダムで初期値を与える場合に比べて誤差が小さくなり、推定到来角度が収束するまでの繰り返し回数が減少する。さらにS401では、到来信号算出部105において、初期値設定部104から到来角度θkと受信部102から受信信号x(t)とを受け取り、この到来角度θkおよび受信信号x(t)を用いて到来信号sk(t)を算出する。到来信号sk(t)は以下の式から求めることができる。
【数1】
【0019】
ここで、Hは複素共役転置を表す記号、Tは転置を表す記号である。Nsはデータサンプリングの数を示すが、ここでは簡単のため、サンプリングの数を考慮せず単にs(0)(t)と表す。mは後に図4に示すS402からS405までの処理の繰り返し回数であり、初期値は0である。また、x(t)はアンテナ素子数pだけ要素を持つ列ベクトルである。a(θk(m))は角度θのモードベクトルで、アンテナ素子数pだけ要素を持つ列ベクトルであり、また、添え字Kは到来波の数を表す。モードベクトルは、アンテナの座標(配置)から決まる値である。すなわち、A(0)はp行K列の行列となる。式(1)および式(3)に示すs(0)(t)より、到来波1の到来信号s1(0)(t)および到来波2の到来信号s2(0)(t)をそれぞれ算出することができる。なお、以下のステップでは到来波ごとに処理をおこなうため、はじめにk=1とし、到来波1について処理をおこなう。
【0020】
次に、S402では、yk(t)算出部106において、到来信号算出部105から到来信号s(0)(t)、受信信号x(t)、および到来角度θkを受け取り、到来波ごとの受信信号yk(t)を算出する。受信信号yk(t)は以下の式で求めることができる。
【数2】
【0021】
但し、βkは非負の係数である。例えば、βk=1/Kとすればよい。また、yk(m)(t)、a(θk(m))、x(t)、はアンテナ素子数pだけ要素をもつ列ベクトルである。また、s(m)(t)は到来波数Kだけ要素をもつ列ベクトルである。sk(m)(t)はk番目の到来波の到来信号を表し、s(m)(t)より求められる値でスカラーである。A(m)はp行K列の行列となる。この式(4)より到来波1の受信信号y1(t)が計算される。
【0022】
次にS403では、θk算出部107において、yk(t)算出部106から受信信号yk(t)を受け取り、到来角度θk(m+1)を算出する。到来角度θk(m+1)はビームフォーマー法に従って計算し、式(2)および式(4)で使用した到来角度θk(m)に対して、本ステップで算出された値を新しい到来角度θk(m+1)として更新する。ビームフォーマー法は、次の評価関数を計算することにより到来角度を求める。この更新による新しい到来角度を更新到来角度と呼ぶ。
【数3】
【0023】
yk(m)(t)がアンテナ素子数pだけ要素をもつ列ベクトルであり、Ck(m)はp行p列の行列である。式(5)より到来波1についての更新到来角度θ1(m+1)を求めることができる。例えば、本ステップが到来波1について1回目の処理の場合、m=0であるので、初期値設定部104で設定された到来角度はθ1(0)であり、式(5)により更新された更新到来角度はθ1(1)として表せる。
【0024】
次に、S404では、θk補正部108において、θk算出部107から受信信号yk(t)および更新到来角度θk(m+1)を受け取り、以下の式(7)に示す補正式で到来角度を補正して補正到来角度を得る。このステップが従来のSAGE法に加えておこなう本実施形態特有の計算ステップである。
補正後のθk(m+1)=θk(m)+α{補正前のθk(m+1)−θk(m)}(7)
ここで、θk(m)はS403で更新される前の到来角度、補正前のθk(m+1)はS403で更新された更新到来角度で、補正をおこなう前の到来角度、補正後のθk(m+1)はS404で補正された後の到来角度、すなわち補正到来角度である。これにより到来波1について補正前のθ1(m+1)(更新到来角度)から、補正後のθ1(m+1)(補正到来角度)を算出できる。また、αは補正係数であり1以上の定数である。α=1とすると、補正がおこなわれないので、従来のSAGE法と同一となる。このステップによって、到来角度の値が安定するまでに必要な繰り返し回数が削減され、計算時間が削減されることとなる。S404については後に図5、図6、図7を用いて詳細に説明する。
【0025】
次に、S405では、sk(t)算出部109において、θk補正部108から受信信号yk(t)と補正到来角度θk(m+1)とを受け取り、この補正到来角度θk(m+1)をもとに新たな到来信号sk(m+1)(t)を算出する。sk(m+1)(t)については以下の式で算出することができる。
【数4】
【0026】
式(8)により到来波1について更新された到来信号s1(m+1)(t)を算出することができる。すなわち、既にS401で算出した最初の到来信号s1(t)のデータをs1(0)(t)とすれば、この計算により到来信号s1(1)(t)が求められ、s1(1)(t)を用いてs1(0)(t)を更新する。
【0027】
次に、S406では、繰り返し回数判定部110において、S402からS405までのステップが到来波の数だけおこなわれているかどうかを判定する。到来波の数だけ処理がおこなわれていないと判定された場合、kをインクリメントしてS402に戻り、他の未処理である到来波の数だけ、上述したS402からS405のステップと同様の処理を繰り返しおこなう。一方、到来波の数だけ処理がおこなわれていると判定された場合、次のS407へ進む。
本ステップで用いる判定は、例えば、繰り返し回数判定部110が受け取ったパラメータを用いて、パラメータのインデックスにより到来波の数だけ処理がおこなわれているかどうかを判定すればよい。例えば、到来波1について処理が終了している場合、設定した到来角度θkの初期値の数または到来波ごとの受信信号yk(t)の数を参照すれば、まだ処理のおこなわれていない到来波があるかどうかがわかるため、未処理の到来波があれば到来波2についても処理をおこない、受信信号y2(t)、到来信号s2(t)、到来角度θ2、補正到来角度θ2、新たな到来信号s2(t)を同様の手順および計算式を用いて求めて、パラメータの更新をおこなう。
最後に、S407では、収束判定部111において、sk(t)算出部109から受け取ったパラメータについて値が収束したかどうかを判定する。収束の判定は、更新前のパラメータに対する更新後のパラメータの更新量を計算し、この更新量が閾値以下の場合、収束したと判定して全体の処理を終了する。更新量は、(θk(m+1)−θk(m))で表される、更新前のパラメータの値に対する更新後のパラメータの値の変化量である。また、収束していないと判定された場合、つまり更新量が閾値よりも大きければ、mの値をインクリメントして、収束判定部111はパラメータ(新たな到来信号であるs1(t)およびs2(t))をyk(t)算出部106へ送り、値が収束するまでS402からS406の処理を繰り返しおこなう。なお、この判定に用いるパラメータは、到来波に関する全てのパラメータが求まっているため、繰り返し回数判定部110から受け取ったパラメータが複数ある場合、どのパラメータを用いて収束の判定をおこなってもよい。例えば、到来方向推定を目的としている場合、到来角度θkの値の更新量が閾値以下であれば収束したと判定し、閾値よりも大きければ収束していないと判定することができる。
【0028】
ここで、S403およびS404の到来角度の補正について図5、図6、図7を用いてさらに詳細に説明する。例として到来波1の到来角度θ1についての補正を考える。
はじめに、S403における、繰り返し回数m回目のビームフォーマー法における評価関数の例を図5に示す。式(5)の角度θを変えながら評価関数の値を計算し、評価関数の値が最大となる角度を到来角度θ1(m)とする。なお、θ1が初期値で与えられた場合、つまりθ1(0)の場合、図5に示すような関数とならず一定値を示す。
次に、S403における、繰り返し回数m+1回目のビームフォーマー法における評価関数の例を図6に示す。m回目のビームフォーマー法の時に比較して、評価関数の値が変わる。この理由は、受信信号y1(t)、y2(t)、到来信号s1(t)、s2(t)、到来角度θ2の値がm回目のビームフォーマー法の時の値から変化しているためである。
【0029】
最後に、S404における、m+1回目のθ1の補正計算の例を図7に示す。図7は、図5に示したm回目の到来角度θ1(m)、図6に示したm+1回目の到来角度θ1(m+1)(更新到来角度)、補正後の到来角度θ1(m+1)(補正到来角度)の関係を示している。図7に示すように、m回目の到来角度θ1(m)に対するm+1回目の到来角度θ1(m+1)の変化に対して、到来角度が変化した方向に、式(6)により到来角度の更新量を係数αに比例した値で補正をおこなうことにより、更新量を大きめに見積もる。つまり、到来角度の値が増加していればさらに増加させるように、逆に到来角度の値が減少していればさらに減少するように補正をおこなう。これにより、従来の最適値と異なる角度に更新することになり、パラメータの収束を早めることができる。
【0030】
次に、従来のSAGE法に比べて計算量が削減される効果について、具体的な数値計算結果を用いて説明する。
具体的な数値計算に用いるモデルを説明する。アレーアンテナは、図8に示すような4素子×4素子の16素子正方形配列アレーアンテナとする。素子間隔801は半波長とする。
また、このアレーアンテナを配置する座標系を図9に示す。方位角をφ、仰角をθとする。このアレーアンテナへ2つの到来波が入射すると仮定する。つまり到来波の数は2つである。2つの到来波は等電力とし、相関係数は1である。到来角度は、到来波1が(方位角1、仰角1)=(90°、60°)、到来波2が(方位角2、仰角2)=(120°、40°)とする。
上述した条件において、従来のSAGE法に従って計算した結果を図10および図11を用いて説明する。図10および図11は、処理の繰り返し回数に対する方位角と仰角の変化を示す。初期値として、到来波1には、(初期値方位角1=60°、初期値仰角1=80°)、到来波2には、(初期値方位角2=150°、初期値仰角2=20°)を与えている。図10および図11を参照すると、方位角および仰角ともに到来角度は徐々に収束し、95回程度で精度良く到来角度が推定できていることがわかる。ここで、到来角度の値は、短期間の繰り返し回数に対して、単調減少あるいは単調増加関数となっている。
【0031】
次に、本実施形態に従って計算した結果を図12および図13を用いて説明する。図12および図13は、図10および図11と同様に処理の繰り返し回数に対する方位角と仰角の変化を示す。2つの到来波に対して、従来のSAGE法と同じ初期値を与えている。なお、到来角度を方位角と仰角の2次元としているので、方位角と仰角それぞれに対して式(6)の補正計算を適用している。具体的には、以下の式を用いて計算している。
補正後のφk(m+1)=φk(m)+α{補正前のφk(m+1)−φk(m)} (9)
補正後のθk(m+1)=θk(m)+α{補正前のθk(m+1)−θk(m)} (10)
なお、係数α=1.3で計算している。図12および図13に示すように、方位角および仰角ともに到来角度は従来法よりも早く収束し、50回程度で精度良く到来角度が推定されている。このように、補正計算を加えることで推定精度を維持したまま繰り返し回数の半減を達成することができる。
【0032】
以上に示した第1の実施形態によれば、更新する到来角度の値を従来の更新量に比べて多めに与える補正をおこなうことで、より早くパラメータの値が収束して繰り返し回数が削減されるため、計算時間を削減することができる。
【0033】
(第2の実施形態)
本実施形態においては、補正係数αの値を(θk(m+1)−θk(m))の大きさ、つまり更新量に比例するように設定されることを特徴とする。第1の実施形態では補正係数αの値は一定値であり、更新量が大きくても一定の補正をおこなうが、本実施形態では更新量の大きさに比例して補正係数αを設定する、すなわち更新量が大きいときにより大きく補正して、更新量が小さいときには小さく補正することで、ある場合には、収束を加速させ、繰り返し回数削減を可能とする。
【0034】
到来方向推定アルゴリズムでは、更新量が大きい時には、まだ収束が十分進んでいない場合がある。このような場合、場合によっては、補正量をより大きくして、収束値により早く近づけるように補正することが有効となる。また、更新量が小さいときは、収束に近づいているといえるため、更新量が大きい場合と同様の補正係数αで計算をおこなうと過度の補正となり却って収束が遅くなることがある。このような場合、補正量を小さくすることでアルゴリズムが収束する方向に向かわせることができる。補正係数αの調整は、θk補正部108において行われ、更新量を算出した後にこの更新量を用いて調節する。この際、更新量と補正係数αとの比例関係を対応付けたテーブルを予め格納しておきこのテーブルを参照してもよいし、補正係数αを算出する計算式へ算出した更新量を代入し、補正係数αを算出してもよい。
更新量と補正係数αとの関係を図14に示す。図14に示すように、更新量が大きいときには、補正係数αは大きくする。また、更新量が小さいときには、補正係数αは小さくする。このように、更新量の比例するように補正係数αを設定する。但し、補正係数αの最小値は1とする。なお、更新量に対して補正係数αが比例して設定することに限らず、更新量と補正係数αとの関係を示す曲線が上に凸または下に凸である場合も含む。すなわち、本実施形態では更新量に応じて補正係数αが増えていればよい。
【0035】
以上に示した第2の実施形態によれば、補正係数αの値を更新量に比例させて設定することで、更新量が大きい場合に補正量をより大きくして収束を加速させ、これにより収束するまでに必要な繰り返し回数が削減されるため、計算時間の削減を達成できる。
【0036】
(第3の実施形態)
本実施形態では、補正係数αを到来方向推定の繰り返し回数によって補正係数αの値を設定することを特徴とする。到来方向推定のアルゴリズムでは、ある程度繰り返しを行わないと値が収束しないため、多くの場合、繰り返し回数が少ないときではまだ収束が進まず、回数が増えるごとに収束に向かう傾向がある。そこで、繰り返し回数の少ない初期段階で補正係数αの値を大きく設定して収束の速度を速め、繰り返し回数が増えるごとに補正係数αの値を小さく設定し、過度の補正により収束を遅めないようにする。補正係数αの調整は、第2の実施形態同様、θk補正部108で行われ、各パラメータの含まれる繰り返し回数mのインデックスを参照することにより、補正係数αを調整する。この際、θk補正部108は、繰り返し回数mと補正係数αとの関係を対応付けたテーブルを予め格納しておき、このテーブルを参照してもよいし、補正係数αを算出する計算式へ繰り返し回数を代入し、補正係数αを算出してもよい。
【0037】
アルゴリズムの繰り返し回数と補正係数αとの関係を図15に示す。図15に示すように、繰り返し回数が少ないときは、補正の効果を大きくするために補正係数αを大きく設定し、繰り返し回数が多くなるにつれて、補正の効果を小さくするために補正係数αを小さく設定する。すなわち、補正係数αをアルゴリズムの繰り返し回数に反比例するように設定する。このように設定することで、過剰な補正を避けつつ繰り返し回数を削減することができる。
また、極端な場合として、補正係数αは、繰り返し回数がある閾値以上の場合にはα=1と設定し、繰り返し回数が閾値より少ないときは補正係数αが1より大きく設定されてもよい。このように補正係数αを設定した例を図16に示す。このように設定することで、繰り返し回数が多い場合、従来のSAGE法と同じ計算となるので、振動を抑圧しながら収束するまでの繰り返し回数の削減を達成できる。
【0038】
以上に示した第3の実施形態によれば、補正係数αの値を繰り返し回数に対して反比例させることで、繰り返し回数の少ないときには大きく補正して収束をはやめ、繰り返し回数が増えて収束に近づくにつれ、補正を小さくすることで収束するまでの繰り返し回数の削減を達成できる。
【0039】
(第4の実施形態)
第2の実施形態では、更新量の大きさに比例して補正係数αも大きく設定するが、到来角度の推定値によっては更新量が大きいときに補正すると、補正量が大きくなりすぎ、場合によっては補正後の到来角度の推定値が一定値に収束せずに増減を繰り返しパラメータの値が振動して、収束回数が増加してしまう可能性もある。そこで、このような場合を想定しては、更新量が大きいときに補正の効果を小さくし、更新量が小さいときに補正の効果を大きくして繰り返し回数の削減を行う。なお、第2の実施形態同様、補正係数αの調整はθk補正部108において行う。
【0040】
更新量により補正係数αを設定する場合は、例えば、図15および図16の横軸を「回数」から「更新量」に置き換えて考えればよい。図15では、更新量が大きい場合は補正の効果を小さくするため補正係数αを小さく設定する。また、更新量が小さい場合は補正の効果を大きくするために、補正係数αを大きく設定する。すなわち、補正係数αを更新量に反比例するように設定する。図16では、補正係数αは、更新量の大きさが所定の閾値以上のときにはα=1と設定し、更新量の大きさが閾値よりも小さいときにはαが1より大きく設定される。
【0041】
以上に示した第4の実施形態によれば、例えば更新量の大きな時に補正してしまうことで生じる可能性のある振動を抑圧し、収束するまでの繰り返し回数の削減を達成できる。
【0042】
なお、上述の第1の実施形態から第4の実施形態における回数および更新量に応じた補正係数αの与え方について、1つの実施形態のみの形式だけではなく、複数組み合わせて実施してもよい。例えば、1つの到来波について、第1の実施形態のように、補正係数αに一定値を与え、アルゴリズムをある閾値回数以上繰り返した後、収束していないと判定した場合に、第2の実施形態のように、更新量に応じて比例した補正係数αを与えてもよい。また、第2の実施形態のように補正係数αを更新量に比例して与えた後、繰り返し回数がある閾値に達した後、収束していない場合に、第3の実施形態のように補正係数αを繰り返し回数に反比例して与えて、アルゴリズムを実行してもよい。
【0043】
(第5の実施形態)
本実施形態では、補正係数αは、補正後の到来角度が所定の角度範囲内に制限されるように設定されることを特徴とする。例えば、携帯電話用の基地局がビルの屋上に設置されていて、地面に近い携帯電話端末からの到来波の到来方向推定を考える。到来波は、基地局の水平方向より下側から到来することになり、水平方向より上側は考える必要がない。しかし、補正後の更新量が大きい場合、到来角度が水平方向より上側になってしまう場合がある。このような場合、想定範囲外の到来角度について計算することに意味がないため、水平方向よりも大きい到来角度になる場合、水平方向の上限の値に設定することでパラメータの収束を早めることができる。
【0044】
次に、到来角度が角度範囲内とした場合の計算の破綻について説明する。
上述したように、携帯電話用の基地局がビルの屋上に設置されていて、地面に近い携帯電話端末からの到来波の到来方向推定を考える。到来波は、基地局の水平方向より下側から到来することになり、水平方向より上側は考える必要がない。ここで、水平方向より上側は考える必要がないので、上側についての計算は不必要である。不必要な部分の計算をおこなわないように計算アルゴリズムや計算ハードウェアを構成することで、低コスト化や小型化につながる。ところが、このように不必要なところの計算が出来ない場合に、その範囲のデータが発生すると計算が破綻し、エラーとなってしまう問題がある。
そこで、本実施形態では、補正係数αの値を小さくして、補正後の到来角度が所定の角度範囲内に制限されるように設定する。この説明の場合、水平方向より下側になるように制限する。
【0045】
以上に示した第5の実施形態によれば、補正係数αを補正後の到来角度が所定の角度範囲内に制限されるように設定することで、計算をおこなっても意味のない範囲、または計算できない範囲の到来角度の発生を抑圧し、アルゴリズムの繰り返し回数を減少させ、計算時間を削減することができ、計算の破綻を抑圧することが可能となる。
【0046】
(第6の実施形態)
第1の実施形態では、繰り返し回数判定部110において到来波の数だけ処理をしたかどうかを判定し、到来波の数だけ処理をおこなっていなければ、図4に示すS402からS405の処理を繰り返しておこなっている。本実施形態は、繰り返し回数判定部110によらず、到来波の数に応じて、これらS402からS405の処理を到来波ごとに並列に計算することで、実効的な計算時間の短縮化をおこなうことに特徴がある。
本実施形態に係る到来方向推定装置1700を図17に示す。第1の実施形態に係る到来方向推定装置100との違いは、到来方向推定部1701において、yk(t)算出部106、θk算出部107、θk補正部108、およびsk(t)算出部109を1組として、到来波の数だけ1701、1702、・・・と用意し、繰り返し回数判定部110を設けていない点である。
【0047】
本実施形態に係る到来方向推定部1701の動作について図18のフローチャートを用いて説明する。はじめに、第1の実施形態に係る図4のフローチャートと図18との違いについて説明する。第1の実施形態では、S402からS405の処理を1つの到来波ごとに順番に計算し、S406において到来波の数だけ処理をおこなったかどうかの判定をおこなう。そして到来波1の処理が終われば、到来波2の処理、到来波3の処理、と続いて、到来波Kの処理まで直列に各パラメータを計算している。
【0048】
一方、本実施形態に係る図18のフローチャートでは、S402からS405までの処理を到来波の数だけ並列に計算する。例えば、到来波が2つの場合、図17に示すS401では、図4に示した処理と同様に到来波の数だけ到来角度θkの初期値を与え、sk(t)を計算する。次に、yk(t)算出部106と、θk算出部107と、θk補正部108と、sk(t)算出部109とを、到来波1および到来波2ごとに用意し、S1801およびS1802に示す、S402からS405の処理を並列しておこなう。その後S407において、パラメータの値が収束したかどうかを判定し、パラメータの値が収束していれば処理を終了する。パラメータの値が収束していなければ、mをインクリメントしてS1801およびS1802の処理を繰り返す。並列計算とは、複数のCPU等の演算ハードウェアを用意して、同時刻に異なる計算をおこなうことである。これによって、1回の繰り返しに必要な全体の計算量自体は変わらないが、同時刻に複数の計算がおこなえるので、実効的な計算時間の短縮化がおこなえる。
【0049】
以上に示した第6の実施形態によれば、到来波の数だけ並列に計算することで、実効的な計算時間の短縮化が可能となる。
【0050】
(第7の実施形態)
本実施形態では、方位角φと仰角θの2次元の到来方向推定を想定し、第1の実施形態では方位角および仰角の到来角度の補正式において同じ補正係数αを用いることに対して、本実施形態では、方位角についての補正式はφk(m)+α_φ{φk(m+1)−φk(m)}、仰角についての補正式はθk(m)+α_θ{θk(m+1)−θk(m)}として、方位角と仰角で補正係数αに異なる値を用いることを特徴とする。これにより、方位角と仰角に対して、それぞれ最適となる補正をおこなうことができるようになる。
アレーアンテナの配置によっては、方位角と仰角の推定精度が違う場合があり、また、方位角と仰角のそれぞれの初期値の誤差が異なる場合がある。このような場合、補正係数αの値は、方位角と仰角の補正値の最適値は異なるため、方位角と仰角で異なる値とすることが望ましい。
【0051】
具体的には、方位角をφ、仰角をθで表せば、
補正後のφk(m+1)=φk(m)+α_φ{補正前のφk(m+1)−φk(m)} (11)
補正後のθk(m+1)=θk(m)+α_θ{補正前のθk(m+1)−θk(m)} (12)
の様に補正式を方位角φと仰角θで別々に構成し、補正係数α_φおよびα_θと別々に設定する。
【0052】
以上に示した第7の実施形態によれば、2次元の到来方向推定では、補正係数αの値を方位角と仰角とで異なる値に設定することで、最適な補正がおこなえるようになり、繰り返し回数が減少し、計算時間の削減が可能となる。
【0053】
なお、到来波の数が複数の場合、それぞれの到来波ごとに異なる補正係数αを割り当ててもよい。この場合、到来波に応じた最適な補正係数αが設定できるので、計算時間の削減が可能となる。また、到来波の数が複数であり、方位角φと仰角θの2次元推定の場合、到来波ごとに異なる補正係数αを割り当て、また、方位角と仰角で異なる補正係数αを割り当ててもよい。この場合、各到来波の方位角と仰角に対して最適な補正係数αを設定できるので、計算時間の削減が可能となる。
さらに、補正係数αを、繰り返し回数mに対してあらかじめ決めてしまってもよい。この場合、更新量の大きさを計算する必要が無くなる。繰り返し回数mと補正係数αの表をあらかじめ決め、この表を参照するだけでよくなる。これによって、計算量がさらに削減される。あるいは、補正係数αの値は固定値としてもよい。この場合、補正係数αの設定手順が省かれるので、計算量がさらに削減される。
また、補正係数αの値は、あらかじめ求めておいてもよい。例えば、受信信号を用いた解析結果から、最適な補正係数αを求めておく方法がある。あるいは、シミュレーションを利用して、最適な補正係数αを求めてもよい。
【0054】
ここで、到来方向推定装置100のハードウェア構成を図19に示す。到来方向推定装置100は、到来方向推定を実行する到来方向推定プログラムなどが格納されているROM1901と、ROM1901内のプログラムに従って到来方向推定装置の各部を制御するCPU1902と、到来方向推定装置の制御に必要な種々のデータを記憶するRAM1903と、ネットワークに接続して通信をおこなう通信I/F1904と、各部を接続するバス1905を備えている。
また到来方向推定プログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD−ROM、フレキシブルディスク(FD)、DVDなどのコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記憶されて提供されてもよい。
この場合、到来方向推定プログラムは、上記記憶媒体から読み出して実行することにより到来方向推定装置100の主記憶装置上にロードされ、図19に示すソフトウェア構成の各部が、主記憶装置上に形成されるようになっている。
また、本実施例の到来方向推定プログラムを、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク、通信I/F1904経由でダウンロードさせることにより提供するように構成してもよい。
【0055】
本実施形態は、アレーアンテナを用いた到来方向推定装置に適用されるが、電波監視、移動体通信、レーダ装置など、アレーアンテナの利用されている様々な技術分野にも応用可能である。また、電波の到来方向推定以外にも、音波の到来方向推定にも応用可能である。また、到来方向推定以外にも、電波や音波の遅延時間推定などの、同一の計算手順が用いられる技術分野に適用できる。
【0056】
なお、本実施形態とは異なるが、一般的な最適化問題では、固定された評価関数のもとで、評価関数を最大化、あるいは、最少化するパラメータを探索する。このとき、パラメータの更新量に係数を乗算し、最適化のスピードを上げる方法が知られている。
一方、本実施形態では、繰り返し回数毎に異なる評価関数を計算する。そして、次の繰り返しにおける評価関数を先読みして、パラメータ(到来角度)を補正する。つまり、一般的な最適化における収束速度の改善方法とは異なる。
【0057】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0058】
100・・・到来方向推定装置、101、201・・・アレーアンテナ、102・・・受信部、103・・・到来方向推定部、104・・・初期値設定部、105・・・到来信号算出部、106・・・yk(t)算出部、107・・・θk算出部、108・・・θk補正部、109・・・sk(t)算出部、110・・・繰り返し回数判定部、111・・・収束判定部、202・・・到来波、801・・・素子間隔、1901・・・ROM、1902・・・CPU、1903・・・RAM、1904・・・通信I/F、1905・・・バス。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の到来波のうち1つの到来角度の初期値をビームフォーマー法により更新し、更新到来角度を得る角度算出部と、
前記更新到来角度と前記初期値との差である更新量に1以上の補正係数を乗じた値を、前記初期値に加算し、補正到来角度を得る角度補正部と、
前記複数の到来波の数全てについて前記到来角度及び前記補正到来角度を得たか否かを判定する繰り返し回数判定部と、
前記更新量が第1閾値以下であるかどうかを判定する収束判定部と、を具備し、
前記繰り返し回数判定部が前記複数の到来波全てについて前記更新到来角度及び前記補正到来角度を得たと判定し、かつ前記収束判定部が、前記補正到来角度を前記初期値に設定した場合の更新量が前記第1閾値以下であると判定するまで、前記角度算出部及び前記角度補正部は、前記補正到来角度を前記初期値に設定し、繰り返し前記更新到来角度及び前記補正到来角度を得、
前記角度補正部は、繰り返して実行する回数のうちの1回以上は前記補正係数を1より大きい値に設定することを特徴とする到来方向推定装置。
【請求項2】
複数の到来波について、前記到来波ごとに該到来波の到来角度の初期値をビームフォーマー法により並列に更新し、更新到来角度を該到来波の数だけ得る角度算出部と、
前記到来波ごとに、前記更新到来角度と前記初期値との差である更新量に1以上の補正係数を乗じた値を該初期値に加算し、該到来波の数だけ補正到来角度を得る角度補正部と、
前記更新量が第1閾値以下であるかどうかを判定する収束判定部と、を具備し、
前記繰り返し回数判定部が前記複数の到来波全てについて前記更新到来角度及び前記補正到来角度を得たと判定し、かつ前記収束判定部が、前記補正到来角度を前記初期値に設定した場合の前記更新量が前記第1閾値以下であると判定するまで、前記角度算出部及び前記角度補正部は、前記補正到来角度を前記初期値に設定し、繰り返し前記更新到来角度及び前記補正到来角度を得、
前記角度補正部は、繰り返して実行する回数のうちの1回以上は前記補正係数を1より大きい値に設定することを特徴とする到来方向推定装置。
【請求項3】
前記補正係数は、前記角度算出部および前記角度補正部を実行した回数が第2閾値以上である場合は前記補正係数を1に設定し、該回数が該第2閾値よりも少ない場合は前記補正係数を1よりも大きい値に設定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の到来方向推定装置。
【請求項4】
前記補正係数は、前記補正到来角度が所定の角度範囲内に制限されるように設定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の到来方向推定装置。
【請求項5】
前記角度補正部は、方位角および仰角の前記補正到来角度の計算において、異なる前記補正係数の値を用いることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の到来方向推定装置。
【請求項1】
複数の到来波のうち1つの到来角度の初期値をビームフォーマー法により更新し、更新到来角度を得る角度算出部と、
前記更新到来角度と前記初期値との差である更新量に1以上の補正係数を乗じた値を、前記初期値に加算し、補正到来角度を得る角度補正部と、
前記複数の到来波の数全てについて前記到来角度及び前記補正到来角度を得たか否かを判定する繰り返し回数判定部と、
前記更新量が第1閾値以下であるかどうかを判定する収束判定部と、を具備し、
前記繰り返し回数判定部が前記複数の到来波全てについて前記更新到来角度及び前記補正到来角度を得たと判定し、かつ前記収束判定部が、前記補正到来角度を前記初期値に設定した場合の更新量が前記第1閾値以下であると判定するまで、前記角度算出部及び前記角度補正部は、前記補正到来角度を前記初期値に設定し、繰り返し前記更新到来角度及び前記補正到来角度を得、
前記角度補正部は、繰り返して実行する回数のうちの1回以上は前記補正係数を1より大きい値に設定することを特徴とする到来方向推定装置。
【請求項2】
複数の到来波について、前記到来波ごとに該到来波の到来角度の初期値をビームフォーマー法により並列に更新し、更新到来角度を該到来波の数だけ得る角度算出部と、
前記到来波ごとに、前記更新到来角度と前記初期値との差である更新量に1以上の補正係数を乗じた値を該初期値に加算し、該到来波の数だけ補正到来角度を得る角度補正部と、
前記更新量が第1閾値以下であるかどうかを判定する収束判定部と、を具備し、
前記繰り返し回数判定部が前記複数の到来波全てについて前記更新到来角度及び前記補正到来角度を得たと判定し、かつ前記収束判定部が、前記補正到来角度を前記初期値に設定した場合の前記更新量が前記第1閾値以下であると判定するまで、前記角度算出部及び前記角度補正部は、前記補正到来角度を前記初期値に設定し、繰り返し前記更新到来角度及び前記補正到来角度を得、
前記角度補正部は、繰り返して実行する回数のうちの1回以上は前記補正係数を1より大きい値に設定することを特徴とする到来方向推定装置。
【請求項3】
前記補正係数は、前記角度算出部および前記角度補正部を実行した回数が第2閾値以上である場合は前記補正係数を1に設定し、該回数が該第2閾値よりも少ない場合は前記補正係数を1よりも大きい値に設定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の到来方向推定装置。
【請求項4】
前記補正係数は、前記補正到来角度が所定の角度範囲内に制限されるように設定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の到来方向推定装置。
【請求項5】
前記角度補正部は、方位角および仰角の前記補正到来角度の計算において、異なる前記補正係数の値を用いることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の到来方向推定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2011−13031(P2011−13031A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−155911(P2009−155911)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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