説明

制動制御機構

【課題】既存の設備を利用することで、簡易な構造により、リニアモータへの電源供給停止時の移動体の運動を制動することができる制動制御機構を提供する。
【解決手段】リニアモータにより駆動されて案内レール10上を移動する移動体11と、前記移動体11を前記案内レール10に押圧する押圧機構13と、前記押圧機構13を油圧により駆動する油圧手段と、前記リニアモータへの電力の供給が断たれたときに前記油圧手段と前記押圧機構13とを接続し油圧を前記押圧機構13へ伝達させるソレノイドバルブ7とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制動制御機構に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械において、例えば、リニアモータにより駆動され昇降する重力軸側の移動体は、停電、断線等の非常時や機械電源を落とすなど、リニアモータへの電源供給が停止された場合、移動体が重力落下してしまうという問題がある。この問題への対策としては、従来、工作機械に駆動系や案内面等の機構とは別に制動制御機構を設けることにより、移動体の運動の制動を行っていた。このような、従来の制動制御機構の一例が下記特許文献1に開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開昭58−45809号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の制動制御機構では、工作機械に駆動系や案内面とは別に制動装置を設ける必要があるため、工作機械の構造が複雑となり、コストが増大してしまうという問題があった。
【0005】
以上のことから、本発明は、既存の設備を利用することで、簡易な構造により、リニアモータへの電源供給停止時の移動体の運動を制動することができる制動制御機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の発明に係る制動制御機構は、
リニアモータにより駆動されて案内レール上を移動する移動体と、
前記移動体を前記案内レールに押圧する押圧手段と、
前記押圧手段を油圧により駆動する油圧手段と、
前記リニアモータへの電力の供給が断たれたときに前記油圧手段と前記押圧手段とを接続し油圧を前記押圧手段へ伝達させる制御弁と
を備える
ことを特徴とする。
【0007】
本発明の第2の発明に係る制動制御機構は、第1の発明に係る制動制御機構において、
空気圧を油圧に変換する変換手段と、
空気を貯える空気貯蔵手段と
を備える
ことを特徴とする。
【0008】
本発明の第3の発明に係る制動制御機構は、第1の発明又は第2の発明に係る制動制御機構において、
前記押圧手段を前記油圧手段よりも低圧の油圧により駆動する低圧油圧手段を備え、
前記制御弁は、前記リニアモータへの電力の供給がなされているときに前記低圧油圧手段と前記押圧手段とを接続し低圧油圧を前記押圧手段へ伝達させる
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、既存の設備を利用することで、簡易な構造により、リニアモータへの電源供給停止時の移動体の運動を制動することができる制動制御機構を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係る制動制御機構の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
はじめに、本発明に係る制動制御機構が適用されるリニアモータ方式の直動案内装置の装置構成について説明する。
図2は図3中A−Aで示す断面におけるリニアモータ方式の直動案内装置の要部平断面図、図3はリニアモータ方式の直動案内装置の要部側面図、図4は図2中B部を拡大した押圧機構の断面図である。
【0011】
図2及び図3に示すように、工作機械等の産業機械におけるリニアモータ方式の直動案内装置は、機械の固定側である案内レール10に沿って送りテーブル等の移動体11がギブ12と押圧機構13を介して移動可能になっている。図示例では、移動体11の凹部11aが案内レール10の角ガイド部10aに下方から嵌合されて直動案内部が形成されている。このように、本発明に係る制動制御機構が適用されるリニアモータ方式の直動案内装置においては、移動体11はリニアモータにより駆動されている。
【0012】
ギブ12は、移動体11の移動方向に押引きすることで、案内レール10(厳密には角ガイド部10a)の一方摺動面と移動体11(厳密には凹部11a)の摺動面との間の隙間(図2及び図3中のD部参照)を調整する周知のものであるが、本実施形態では、後述する押圧機構13により案内レール10(厳密には角ガイド部10a)の他方摺動面に押し付けられ、図2及び図3中のD部において案内レール10(厳密には角ガイド部10a)の一方摺動面と移動体11(厳密には凹部11a)の摺動面とが密接されている。
【0013】
押圧機構13は、図4にも示すように、移動体11の凹部11aに形成された貫通孔14に往復移動可能に収装され、その先端部がギブ12の摺動面と反対側の面(押圧面)に押し当てられるピストン15と、このピストン15の背部に位置する貫通孔14内に、配管継手16を介して、後述する本発明に係る制動制御機構(図1参照)と接続される。
【0014】
図示例では、ギブ12の押圧面に半球状の凹部12aが形成され、この凹部12aにピストン15の先端部に形成した半球状の凸部15aを嵌合させている。なお、ピストン15の外周面にはOリング17が装着されている。また、ギブ12の押圧面には、その移動方向に所定間隔離間した複数箇所にてピストン15が押し当てられている。
以上が本発明に係る制動制御機構が適用されるリニアモータ方式の直動案内装置の装置構成である。
【0015】
次に、本発明に係る本発明に係る制動制御機構の構成について説明する。
図1は本発明に係る制動制御機構の構成図である。なお、図1中においては、エアー源1側を上流として説明する。
図1に示すように、本発明に係る制動制御機構は、エアー源1に空気の逆流を防ぐチェック弁2を介して空気を貯えるエアータンク3が設置されている。エアータンク3の下流にはエアータンク3から流れ出る空気の圧力を調整する第1のレギュレータ4が設置されている。第1のレギュレータ4の下流には、空気圧を入力することにより油圧を出力することができるエアー・ハイドロ・ブースター5が設置されている。
【0016】
エアー・ハイドロ・ブースター5の下流は、ピストン15によりギブ12が案内レール10に押し付けられ、移動体11と案内レール10が密着する程度の圧力である摺動時の油圧を伝達する摺動油圧経路と、ピストン15によりギブ12が案内レール10に押し付けられて、移動体11の運動を制動する程度の圧力である制動時の油圧を伝達する制動油圧経路とに分かれている。摺動油圧経路側のエアー・ハイドロ・ブースター5の下流には、エアー・ハイドロ・ブースター5から流れ出る油の圧力を調整する第2のレギュレータ6が設置されている。
【0017】
第2のレギュレータ6の下流にはソレノイドバルブ7が設置されている。なお、第2のレギュレータ6により調整される圧力は、第1のレギュレータ4により調整される圧力よりも低い圧力であり、ピストン15によりギブ12が案内レール10に押し付けられ、移動体11と案内レール10が密着する程度の圧力である。
【0018】
また、制動油圧経路側のエアー・ハイドロ・ブースター5の下流にはソレノイドバルブ7が設置されている。そして、ソレノイドバルブ7の下流には、配管継手16(図2参照)が接続されている。
【0019】
ソレノイドバルブ7は、ソレノイドバルブ7に電力が供給されているときには摺動油圧経路側を配管継手16と接続し、ソレノイドバルブ7への電力の供給が断たれたときには制動油圧経路側を配管継手16と接続する。このため、ピストン15には、ソレノイドバルブ7に電力が供給されているときには第2のレギュレータ6で調整した油圧が加わり、ソレノイドバルブ7への電力の供給が断たれたときには第1のレギュレータ4で調整した油圧が加わるようになっている。なお、図1においては、ソレノイドバルブ7は制動油圧経路側を配管継手16と接続している様子を示している。
【0020】
これにより、本発明に係る制動制御機構は、リニアモータへ電力が供給されると同時に、ソレノイドバルブ7が励磁され、摺動用に設定された油圧がピストン15に供給される。そして、押圧機構13により、ギブ12が案内レール10(厳密には角ガイド部10a)の他方摺動面に押し付けられるので、案内レール10(厳密には角ガイド部10a)の一方摺動面と移動体11(厳密には凹部11a)の摺動面とが密接された状態で移動体11が移動可能となり、機械精度を向上させることができる。
【0021】
また、滑りにより移動体11(厳密には凹部11a)の摺動面が摩耗しても、ギブ12により常にかつ自動的に、案内レール10(厳密には角ガイド部10a)の一方摺動面と移動体11(厳密には凹部11a)の摺動面との密接状態が保持されるので、機械精度の長期安定化を図ることができる。加えて、摺動隙間が自動的に管理されるので、作業者等の負担を軽減することができる。
【0022】
また、本発明に係る制動制御機構は、工作機械の電源を落とすなどリニアモータへの電力の供給が断たれるとソレノイドバルブ7の励磁も断たれ、配管継手16に接続される。このとき、エアー源1への電力の供給が断たれ空気の供給が断たれた場合であっても、エアータンク3に貯えられた空気によりピストン15に油圧を供給することができる。また、第1のレギュレータ4により調整される圧力は、ピストン15によりギブ12が案内レール10に押し付けられて、移動体11の運動を制動する程度の圧力である。
【0023】
これにより、制動用に設定された高圧の油圧がピストン15に供給される。そして、押圧機構13により、ギブ12が案内レール10(厳密には角ガイド部10a)の他方摺動面に強く押し付けられるので、摺動抵抗が急上昇して、移動体の運動を制動することができる。
【0024】
なお、本実施形態に係る制動制御機構においては、空気圧と油圧とを用いているが、油圧のみを用いて制動制御機構を構成すること、又は、空気圧のみを用いて制動制御機構を構成することも可能である。
【0025】
以上説明したように、本発明に係る制動制御機構によれば、リニアモータにより駆動されて案内レール10上を移動する移動体11と、移動体11を案内レール10に押圧する押圧機構13からなる押圧手段と、押圧手段を油圧により駆動するエアー源1や第1のレギュレータ4等からなる油圧手段と、リニアモータへの電力の供給が断たれたときに油圧手段と押圧手段とを接続し油圧を押圧手段へ伝達させるソレノイドバルブ7からなる制御弁とを備えることにより、リニアモータへの電力の供給が断たれたときには、移動体11の運動を制動することができる。
【0026】
また、空気圧を油圧に変換するエアー・ハイドロ・ブースター5からなる変換手段と、空気を貯えるエアータンク3からなる空気貯蔵手段とを備えることにより、エアー源1への電力の供給が断たれ空気の供給が断たれた場合であっても、エアータンク3に貯えられた空気によりピストン15に油圧を供給することができる。
【0027】
また、押圧手段を油圧手段よりも低圧の油圧により駆動するエアー源1や第2のレギュレータ6からなる低圧油圧手段を備え、制御弁は、リニアモータへの電力の供給がなされているときに低圧油圧手段と押圧手段とを接続し低圧油圧を押圧手段へ伝達させることにより、リニアモータへの電力の供給がなされているときには、案内レール10の一方摺動面と移動体11の摺動面とが密接された状態で移動体11が移動可能となり、機械精度を向上させることができる。
【0028】
したがって、本願発明によれば、既存の設備を利用することで、簡易な構造により、リニアモータへの電源供給停止時の移動体11の運動を制動することができる制動制御機構を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、例えば、リニアモータ方式の直動案内装置における制動制御機構として利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る制動制御機構の構成図である。
【図2】図3中A−Aで示す断面におけるリニアモータ方式の直動案内装置の要部平断面図である。
【図3】リニアモータ方式の直動案内装置の要部側面図である。
【図4】図2中B部を拡大した押圧機構の断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 エアー源
2 チェック弁
3 エアータンク
4 第1のレギュレータ
5 エアー・ハイドロ・ブースター
6 第2のレギュレータ
7 ソレノイドバルブ
10 案内レール
11 移動体
12 ギブ
13 押圧機構
14 貫通孔
15 ピストン
16 配管継手
17 Oリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リニアモータにより駆動されて案内レール上を移動する移動体と、
前記移動体を前記案内レールに押圧する押圧手段と、
前記押圧手段を油圧により駆動する油圧手段と、
前記リニアモータへの電力の供給が断たれたときに前記油圧手段と前記押圧手段とを接続し油圧を前記押圧手段へ伝達させる制御弁と
を備える
ことを特徴とする制動制御機構。
【請求項2】
空気圧を油圧に変換する変換手段と、
空気を貯える空気貯蔵手段と
を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の制動制御機構。
【請求項3】
前記押圧手段を前記油圧手段よりも低圧の油圧により駆動する低圧油圧手段を備え、
前記制御弁は、前記リニアモータへの電力の供給がなされているときに前記低圧油圧手段と前記押圧手段とを接続し低圧油圧を前記押圧手段へ伝達させる
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の制動制御機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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