説明

制御型磁気軸受装置

【課題】 面倒な制御ゲインテーブルを作成する必要がなく、磁気浮上運転前の調整に時間を要しない制御型磁気軸受装置を提供する。
【解決手段】 制御型磁気軸受装置は、回転体4を1つの水平な制御軸X方向の所定の目標位置に磁気吸引力により非接触支持するために前記制御軸X方向の両側から回転体4を挟むように配置された1対の電磁石29Xa,29Xbを備えているものであって、回転体4の目標位置からの前記制御軸X方向の変位を検出する変位検出手段と、回転体を目標位置に支持するために各電磁石29Xa,29Xbに一定のバイアス電流および回転体4の前記変位によって変化する制御電流からなる励磁電流を供給する電磁石制御手段とを備えている。電磁石制御手段が、バイアス電流を常に0とするゼロバイアス制御を行うもので、かつ、前記変位に応じて適応的に変化するゲインで負帰還する単純適応制御を行うものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、たとえば自動車などの車両に搭載されるフライホイール式電力貯蔵装置などに使用される制御型磁気軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の制御型磁気軸受装置として、鉛直な回転体を1組のアキシアル磁気軸受と2組のラジアル磁気軸受で非接触支持するものが知られている。この磁気軸受装置には、電力貯蔵時には電動機として電力取り出し時には発電機として機能する発電兼用電動機が設けられており、電力貯蔵時には、回転体は、上記の磁気軸受で非接触支持された状態で、電動機により高速回転させられる。
【0003】
アキシアル磁気軸受は、回転体を鉛直なアキシアル制御軸(軸方向の制御軸)方向の目標位置に非接触支持するものである。ラジアル磁気軸受は、回転体の軸方向の2箇所において、それぞれ、アキシアル制御軸と直交するとともに互いに直交する2つの水平なラジアル制御軸(径方向の制御軸)方向の目標位置に回転体を非接触支持するものである。
【0004】
この明細書において、アキシアル制御軸をZ軸、ラジアル制御軸の一方をX軸、他方をY軸ということにする。
【0005】
アキシアル磁気軸受は、回転体のフランジ部をZ軸方向の両側から挟むように配置された上下1対の電磁石(Z軸電磁石)すなわち電磁石対(Z軸電磁石対)を備えている。
【0006】
各ラジアル磁気軸受は、回転体を水平なX軸方向に非接触支持する電磁石対(X軸電磁石対)と、回転体を水平なY軸方向に非接触支持する電磁石対(Y軸電磁石対)とを備えている。X軸電磁石対は回転体をX軸方向の両側から挟むように配置された1対の電磁石(X軸電磁石)を、Y軸電磁石対は回転体をY軸方向の両側から挟むように配置された1対の電磁石(Y軸電磁石)を備えている。
【0007】
磁気軸受装置には、さらに、回転体の目標位置からの5つの制御軸方向の変位を検出する変位検出手段と、回転体の各制御軸方向の変位に基づいて対応する各電磁石に励磁電流を供給する電磁石制御手段とが設けられている。各電磁石に供給される励磁電流は、一定のバイアス電流と変位によって変化する制御電流を合わせたものである。
【0008】
上記のような磁気軸受装置では、回転体の回転速度によって各電磁石対のフィードバック制御系における制御ゲインを変える必要があり、そのため、従来は、回転体の回転速度の全範囲を複数の回転速度域に分割して各回転速度域に対する各電磁石対の制御ゲインを記憶した制御ゲインテーブルを設けておき、このテーブルから実際の回転体の回転速度が含まれる回転速度域に対する制御ゲインを選択し、選択した制御ゲインを用いて磁気軸受を制御するいわゆるゲインスケジュール制御が行われていた(たとえば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−210750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の制御ゲインテーブルにおける各回転速度域に対する制御ゲインの値は試行錯誤によって求められるが、これが面倒で、磁気浮上運転前の調整に時間がかかるという問題がある。
【0011】
この発明の目的は、上記の問題を解決し、面倒な制御ゲインテーブルを作成する必要がなく、磁気浮上運転前の調整に時間を要しない制御型磁気軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明による制御型磁気軸受装置は、回転体を1つの水平な制御軸方向の所定の目標位置に磁気吸引力により非接触支持するために前記制御軸方向の両側から回転体を挟むように配置された1対の電磁石を備えている制御型磁気軸受装置であって、回転体の目標位置からの前記制御軸方向の変位を検出する変位検出手段と、回転体を目標位置に支持するために各電磁石に一定のバイアス電流および回転体の前記変位によって変化する制御電流からなる励磁電流を供給する電磁石制御手段とを備えている磁気軸受において、電磁石制御手段が、バイアス電流を常に0とするゼロバイアス制御を行うもので、かつ、前記変位に応じて適応的に変化するゲインで負帰還する単純適応制御を行うものであることを特徴とするものである。
【0013】
この発明による制御型磁気軸受装置は、また、鉛直な回転体をその回転軸心と直交するとともに互いに直交する2つの水平な制御軸方向に非接触支持するための磁気軸受を備え、磁気軸受が、回転体を第1の制御軸方向に非接触支持するための第1の電磁石対と、回転体を第2の制御軸方向に非接触支持するための第2の電磁石対とを備え、各電磁石対が、回転体を前記各制御軸方向の所定の目標位置に磁気吸引力により非接触支持するために前記各制御軸方向の両側から回転体を挟むように配置された1対の電磁石を備えている制御型磁気軸受装置であって、回転体の目標位置からの前記各制御軸方向の変位を検出する変位検出手段と、回転体を目標位置に支持するために各電磁石に一定のバイアス電流および回転体の前記変位によって変化する制御電流からなる励磁電流を供給する電磁石制御手段とを備えている制御型磁気軸受装置において、各電磁石制御手段が、バイアス電流を常に0とするゼロバイアス制御を行うもので、かつ、前記変位に応じて適応的に変化するゲインで負帰還する単純適応制御を行うものであることを特徴とするものである。
【0014】
この発明の制御型磁気軸受装置では、電磁石制御手段が、バイアス電流を常に0とするゼロバイアス制御を行うもので、かつ、前記変位に応じて適応的に変化するゲインで負帰還する単純適応制御を行うものであるから、面倒な制御ゲインテーブルを作成してそれを用いなくても、安定した制御を行うことができる。
【0015】
たとえば、電磁石制御手段は、前記変位に応じてゲインが適応的に変化する可変要素を備えている。また、電磁石制御手段は、PD制御要素、PI制御要素またはPID制御要素に上記の可変要素が加えられたものである。
【発明の効果】
【0016】
この発明の磁気軸受および磁気軸受ユニットによれば、上記のように、面倒な制御ゲインテーブルを作成する必要がなく、磁気浮上運転前の調整に要する時間が短くてすむ。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、この発明の実施形態における制御型磁気軸受装置の全体構成を概略的に示すブロック図である。
【図2】図2は、図1の磁気軸受装置の機械的部分の主要部を示す縦断面図である。
【図3】図3は、図2の磁気軸受装置の主要部の一部切欠き斜視図である。
【図4】図4は、磁気軸受装置を構成する1組の電磁石対のフィードバック制御系の1例を示すブロック図である。
【図5】図5は、一般的な多入出力単純適応制御系の例を示すブロック図である。
【図6】図6は、従来のPD制御の場合の回転体のX軸方向およびY軸方向の変位を示すグラフである。
【図7】図7は、この発明の単純適応制御の場合の回転体のX軸方向およびY軸方向の変位を示すグラフである。
【図8】図8は、従来のPD制御とこの発明の単純適応制御の場合の回転体のX軸方向の変位の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、この発明を自動車などの車両に搭載されるフライホイール式電力貯蔵装置に適用した実施形態について説明する。
【0019】
図1は制御柄磁気軸受装置の全体構成を概略的に示すブロック図、図2は磁気軸受装置の機械的部分の主要部を示す縦断面図、図3はさらに図2の主要部の一部切欠き斜視図である。
【0020】
磁気軸受装置は、ケーブルにより接続された機械本体(1)および制御ユニット(2)を備えている。
【0021】
磁気軸受装置は、鉛直なケーシング(3)の内側で鉛直軸状の回転体(4)が回転する縦型のものであり、ケーシング(3)より突出した回転体(4)の上端部にフライホイール(4a)が固定されている。前述のように、回転体(4)の鉛直な軸方向(アキシアル方向)の制御軸(アキシアル制御軸)がZ軸、Z軸と直交するとともに互いに直交する2つの水平な径方向(ラジアル方向)の制御軸(ラジアル制御軸)がX軸およびY軸である。
【0022】
機械本体(1)には、回転体(4)を軸方向に非接触支持するための1組の制御型アキシアル磁気軸受(5)、回転体(4)を径方向に非接触支持するための上下2組の制御型ラジアル磁気軸受(6)(7)、回転体(4)の軸方向および径方向の変位を検出するための変位センサ部(8)、回転体(4)を高速回転させるためのビルトイン型発電兼用電動機(9)、回転体(4)の回転速度を検出するための回転センサ(10)、ならびに回転体(4)の軸方向および径方向の可動範囲を規制して回転体(4)を磁気軸受(5)(6)(7)で支持していないときに回転体(4)を機械的に支持する上下2組のタッチダウン用の保護軸受(11)(12)が設けられている。
【0023】
制御ユニット(2)には、センサ回路(13)(14)、電磁石駆動回路(15)、インバータ(16)およびDSPボード(17)が設けられ、DSPボード(17)には、ソフトウェアプログラムが可能なディジタル処理手段としてのDSP(18)、ROM(19)、不揮発性記憶装置としてのRAM(20)、AD変換器(21)(22)およびDA変換器(23)(24)が設けられている。
【0024】
変位センサ部(8)は、回転体(4)の軸方向の変位を検出するための1個のアキシアル変位センサ(25)、および回転体(4)の径方向の変位を検出するための上下2組のラジアル変位センサユニット(26)(27)を備えている。
【0025】
アキシアル磁気軸受(5)は、回転体(4)の下部に一体に形成されたフランジ部(4b)をZ軸方向の両側から挟むように配置された上下1対のアキシアル電磁石(Z軸電磁石)(28a)(28b)すなわち電磁石対を備えている。Z軸電磁石は、符号(28)で総称する。
【0026】
アキシアル変位センサ(25)は、回転体(4)の下端面にZ軸方向の下側から対向するように配置され、回転体(4)の下端面との距離(空隙)に比例する距離信号を出力する。
【0027】
2組のラジアル磁気軸受(6)(7)は、アキシアル磁気軸受本体(5)の上側において上下方向に所定の距離をおいて配置されており、これらの間に電動機(9)が配置されている。上側のラジアル磁気軸受(6)は、回転体(4)をX軸方向に非接触支持するための第1の電磁石対(X軸電磁石対)(29Xa)(29Xb)、および回転体(4)をY軸方向に非接触支持するための第2の電磁石対(Y軸電磁石対)(29Ya)(29Yb)を備えている。X軸電磁石対(29Xa)(29Xb)は、回転体(4)をX軸方向の両側から挟むように配置された1対のラジアル電磁石(X軸電磁石)(29Xa)(29Xb)を備えている。Y軸電磁石対(29Ya)(29Yb)は、回転体(4)をY軸方向の両側から挟むように配置された1対のラジアル電磁石(Y軸電磁石)(29Ya)(29Yb)を備えている。上側のラジアル磁気軸受(6)のラジアル電磁石は、符号(29)で総称する。同様に、下側のラジアル磁気軸受(7)は、X軸方向の1対のラジアル電磁石(X軸電磁石)(30Xa)(30Xb)すなわち電磁石対(X軸電磁石対)、およびY軸方向の1対のラジアル電磁石(Y軸電磁石)(30Ya)(30Yb)すなわち電磁石対(Y軸電磁石対)を備えている。下側のラジアル磁気軸受(7)のラジアル電磁石は、符号(30)で総称する。
【0028】
上側のラジアル変位センサユニット(26)は、上側のラジアル磁気軸受(6)の近傍に配置されており、X軸電磁石(29Xa)(29Xb)の近傍においてX軸方向の両側から回転体(4)を挟むように配置された1対のラジアル変位センサ(X軸変位センサ)(31Xa)(31Xb)、およびY軸電磁石(29Ya)(29Yb)の近傍においてY軸方向の両側から回転体(4)を挟むように配置された1対のラジアル変位センサ(Y軸変位センサ)(31Ya)(31Yb)を備えている。上側のラジアル変位センサユニット(26)のラジアル変位センサは、符号(31)で総称する。同様に、下側のラジアル変位センサユニット(27)は、X軸方向の1対のラジアル変位センサ(X軸変位センサ)(32Xa)(32Xb)およびY軸方向の1対のラジアル変位センサ(Y軸変位センサ)(32Ya)(32Yb)を備えている。下側ラジアル変位センサユニット(27)のラジアル変位センサは、符号(32)で総称する。
【0029】
電磁石(28)(29)(30)、回転センサ(10)、変位センサ(25)(31)(32)は、ケーシング(3)に固定されている。
【0030】
保護軸受(11)(12)はアンギュラ玉軸受などの転がり軸受よりなり、各保護軸受(11)(12)の外輪がケーシング(3)に固定され、内輪が回転体(4)の周囲に所定の隙間をあけて配置されている。2組の保護軸受はいずれも径方向の支持が可能なものであり、少なくとも1組は軸方向の支持も可能なものである。この例では、上側の保護軸受(11)は径方向の支持のみを行い、下側の保護軸受(12)は径方向の支持と軸方向の支持を行うようになっている。
【0031】
コントローラ(2)のROM(19)には、DSP(18)における処理プログラムなどが格納されている。RAM(20)には、磁気軸受(5)(6)(7)の制御パラメータなどが記憶されている。
【0032】
センサ回路(13)は、変位センサ部(8)の各変位センサ(25)(31)(32)を駆動し、各変位センサ(25)(31)(32)の出力に基づいて、回転体(4)のZ軸方向の変位、ならびに上下のラジアル変位センサユニット(26)(27)の部分におけるX軸方向およびY軸方向の変位を演算し、その演算結果である変位信号をAD変換器(21)を介してDSP(18)に出力する。変位センサ部(8)、センサ回路(13)などにより、変位検出手段が構成されている。
【0033】
センサ回路(14)は、回転センサ(10)を駆動し、回転センサ(10)の出力を回転体(4)の回転速度に対応する回転速度信号に変換し、これをAD変換器(22)を介してDSP(18)に出力する。
【0034】
DSP(18)は、AD変換器(21)から入力する変位信号に基づいて、各磁気軸受(5)(6)(7)の各電磁石(28)(29)(30)に対する制御電流値を求め、制御電流値に対応する励磁電流信号をDA変換器(23)を介して電磁石駆動回路(15)に出力する。そして、駆動回路(15)は、DSP(18)からの励磁電流信号に基づく励磁電流を対応する磁気軸受(5)(6)(7)の電磁石(28)(29)(30)に供給し、これにより、回転体(4)が所定の目標位置に非接触支持される。DSP(18)は、また、AD変換器(22)から入力する回転センサ(10)からの回転速度信号に基づいて、電動機(9)に対する電流制御信号をDA変換器(24)を介してインバータ(16)に出力し、インバータ(16)は、この信号に基づいて、電動機(9)の電流を制御することにより、回転速度を制御する。そして、その結果、回転体(4)が、磁気軸受(5)(6)(7)の各電磁石(28)(29)(30)により目標位置に非接触支持された状態で、電動機(9)により高速回転させられる。
【0035】
DSP(18)、電磁石駆動回路(15)などにより、電磁石制御手段が構成されている。
【0036】
この例では、上下のラジアル磁気軸受(5)(6)にこの発明が適用されている。
【0037】
図4は、上側のラジアル磁気軸受(5)のX軸電磁石対(28Xa)(28Xb)のフィードバック制御系の1例を示すブロック図である。
【0038】
図4において、(33)は制御対象(プラント)、(34)は制御対象(33)を制御する制御手段(コントローラ)である。この例では、制御対象(33)はX軸電磁石(28Xa)(28Xb)を含み、制御手段(34)は、X軸電磁石(28Xa)(28Xb)に関する電磁石制御手段で、制御ユニット(2)の一部である。Um(t)は目標値であり、これは一般に0である。Yp(t)は制御対象(33)の出力である回転体(4)のX軸方向の変位である。ey(t)はYp(t)とUm(t)の偏差である。Up(t)は制御対象(33)に入力する制御手段(34)の出力で、この例ではX軸電磁石(28Xa)(28Xb)の励磁電流値である。
【0039】
この例では、制御手段(34)は、X軸電磁石(28Xa)(28Xb)に供給する励磁電流のうちのバイアス電流(定常電流)を常に0とするゼロバイアス制御を行い、制御手段(34)を含む制御系は、偏差すなわち変位に応じて適応的に変化するゲインで負帰還する単純適応制御を行う。このため、制御手段(34)は、PD制御要素、PI制御要素あるいはPID制御要素に、変位に応じてゲインが適応的に変化する可変要素が加えられたものとなっている。好ましくは、PID要素に可変要素が加えられたものである。
【0040】
図5は、一般的な多入出力単純適応制御系の例を示すブロック図である。
【0041】
図5において、(35)は制御対象、(36)は制御対象(35)の出力Yp(t)が追従すべき規範モデル、(37)(38)(39)は規範モデル(36)の出力Ym(t)とフィードバック信号YP(t)の偏差ey(t)に応じて適応的にゲインが変化する可変要素を有する制御手段である。
【0042】
図5の制御系は、適応同定則として比例積分則(PI)を利用することにより、次のように設計することができる。
【数1】

【0043】
図5の制御系は、また、適応同定則として比例積分微分則(PID)を利用することにより、次のように設計することができる。
【数2】

【0044】
上記実施形態における図4の制御系では、制御対象(33)の出力Yp(t)である変位が0のときは励磁電流を流さず、ゼロ近辺で制御が行われている。また、規範モデルがあると仮定した場合、その目標値は常にゼロであることから、目標値の変化および規範モデルの状態変化に対するゲインパラメータの自動調整は不要となり、規範モデルそのものも設ける必要がなくなる。そして、制御手段における単純適応制御は、もっぱらフィードバック値の偏差に対するゲインパラメータ調整のためのみに利用されている。よって、制御系が簡略化され、比例積分微分則(PID)を利用して、制御系を次のように設計することができる。
【数3】

【0045】
ラジアル磁気軸受(6)(7)の他の電磁石対(28Ya)(28Yb)、(29Xa)(29Xb)、(29Ya)(29Yb)についても、同様である。
【0046】
ラジアル磁気軸受(6)(7)の各電磁石対について、従来のPD制御を行った場合と、上記の単純適応制御(PID同定)を行った場合とについて、追従性のシミュレーションおよび実験を行った。その結果を、図6〜図7に示す。
【0047】
図6および図7は、回転体(4)のX軸方向の変位Xu、Xl(横軸)およびY軸方向の変位Yu、Yl(縦軸)を示すもので、各図の(a)は上側ラジアル磁気軸受(6)の部分、(b)は下側ラジアル磁気軸受(7)の部分のものである。図6は従来のPD制御の場合、図7は上記の単純適応制御の場合を示している。
【0048】
図8は上側ラジアル磁気軸受(6)の部分における回転体(4)のX軸方向の変位Xuの時間変化を示すもので、実線Aは上記の単純適応制御の場合、破線Bは従来のPD制御の場合を示している。
【0049】
これらの結果より、図4の制御系では、従来のPD制御の場合に比べて、追従性が改善されていることがわかる。
【0050】
磁気軸受装置の全体構成および各部の構成は、上記実施形態のものに限らず、適宜変更可能である。
【0051】
たとえば、回転体が水平に配置される横型の制御型磁気軸受装置の場合、アキシアル方向のZ軸が水平になるので、Z軸方向に配置された電磁石対を備えたアキシアル磁気軸受にこの発明を適用することができる。横型の制御型磁気軸受装置の場合、ラジアル方向のX軸およびY軸の一方を水平にすることができる。その場合、水平なラジアル制御軸方向の電磁石対を有するラジアル磁気軸受についても、この発明を適用することができる。
【0052】
また、この発明は、フライホイール式電力貯蔵装置以外の制御型磁気軸受装置にも適用できる。
【符号の説明】
【0053】
(2) 制御ユニット
(4) 回転体
(6)(7) ラジアル磁気軸受
(8) 変位センサ部
(13) センサ回路
(15) 電磁石駆動回路
(18) DSP
(28Xa)(28Xb)(28Ya)(28Yb)(29Xa)(29Xb)(29Ya)(29Yb) ラジアル電磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体を1つの水平な制御軸方向の所定の目標位置に磁気吸引力により非接触支持するために前記制御軸方向の両側から回転体を挟むように配置された1対の電磁石を備えている制御型磁気軸受装置であって、回転体の目標位置からの前記制御軸方向の変位を検出する変位検出手段と、回転体を目標位置に支持するために各電磁石に一定のバイアス電流および回転体の前記変位によって変化する制御電流からなる励磁電流を供給する電磁石制御手段とを備えている磁気軸受において、
電磁石制御手段が、バイアス電流を常に0とするゼロバイアス制御を行うもので、かつ、前記変位に応じて適応的に変化するゲインで負帰還する単純適応制御を行うものであることを特徴とする制御型磁気軸受装置。
【請求項2】
鉛直な回転体をその回転軸心と直交するとともに互いに直交する2つの水平な制御軸方向に非接触支持するための磁気軸受を備え、磁気軸受が、回転体を第1の制御軸方向に非接触支持するための第1の電磁石対と、回転体を第2の制御軸方向に非接触支持するための第2の電磁石対とを備え、各電磁石対が、回転体を前記各制御軸方向の所定の目標位置に磁気吸引力により非接触支持するために前記各制御軸方向の両側から回転体を挟むように配置された1対の電磁石を備えている制御型磁気軸受装置であって、回転体の目標位置からの前記各制御軸方向の変位を検出する変位検出手段と、回転体を目標位置に支持するために各電磁石に一定のバイアス電流および回転体の前記変位によって変化する制御電流からなる励磁電流を供給する電磁石制御手段とを備えている制御型磁気軸受装置において、
各電磁石制御手段が、バイアス電流を常に0とするゼロバイアス制御を行うもので、かつ、前記変位に応じて適応的に変化するゲインで負帰還する単純適応制御を行うものであることを特徴とする制御型磁気軸受装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−196741(P2010−196741A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−40361(P2009−40361)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年8月26日 発行の「ISMB 11」(CD‐ROM)に発表
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(599176735)
【Fターム(参考)】