説明

制振合金を用いた除振装置

【課題】実使用中の機械、新規の機械に関係なく使用可能で機械の低周波数振動を減衰する制振合金を用いた除振装置を提供することを目的とする。
【解決手段】双晶型制振合金製で板バネ状のマウントダンパー本体と、マウントダンパー本体を彎曲させながら機械本体と床の間で突っ張るジャッキボルトまたはジャッキナットまたはマウントダンパー本体を固定するボルトまたはマウントダンパー本体を固定するナットで構成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、双晶型の制振合金を用いたマウントダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
産業機械、測定機器、工作機械、半導体製造機器、印刷機械、産業用ロボット、映像装置、音響/映像機器、搬送装置、医療機器、空調機器、コンピュータ、プリンタ、複写機は装置の水平を保ちながら機械本体重量を支えるような鋼材や鋳鉄、樹脂、ゴムを用いた据付マウントが使われている。しかしながら、鋼材の据付マウントは、機械本体を支えるのみの機能を重視したものであり、また、鋳鉄の据付マウントは鋳鉄の減衰性能を利用してはいるが、減衰性能が少ないため、大きな振動吸収効果を得ることができない。また、樹脂やゴムを利用した据付けマウントは低周波数の床振動で共振を起こすため、例えば機械本体内のカメラやロボットアームを大きく揺らしてしまう問題があった。そこで、減衰効果が大きく、鋼材に近い強度を持つ双晶型の制振合金が注目され、研究が進められている。(例えば、特許文献1、非特許文献1、非特許文献2)
【特許文献1】特開2002−146498号公報
【非特許文献1】機械学会北陸支部研究会、2001年、4月;中山健司、浜嘉夫、中村達也、吉田喜一
【非特許文献2】雑誌「金属」、アグネス出版、2002年3月;吉田喜一
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
双晶型制振合金製据付マウントは支える機械重量とマウントのバネ定数で一義的に決定される共振周波数の√2倍の周波数より大きな周波数で多大な効果を発揮する。
【0004】
しかしながら、双晶型制振合金を用いた据付マウントは機械の自重を支える機能も兼ね備えているため、ある程度の剛性を持つ形状が必要で100Hz以下の周波数帯では効果が発揮できなかった。
【0005】
本発明は、双晶型制振合金を用いた据付マウントの欠点である低周波数振動対策が可能で、新規の産業機械、測定機器のテーブル、工作機械、半導体製造機器、印刷機械、産業用ロボット、映像装置、画像処理装置等に床振動の影響を減衰し、また、機械内部の振動も減衰する。また、それだけではなく実使用中の産業機械、測定機器のテーブル、工作機械、半導体製造機器、印刷機械、産業用ロボット、映像装置、画像処理装置等に現場で簡単に追加対策ができ、安価な除振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る除振装置では、双晶型制振合金製で板バネ状のマウントダンパー本体と、機械本体でマウントダンパー本体を押し曲げるジャッキで構成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、双晶型制振合金製で板バネ状のマウントダンパー本体と、機械本体でマウントダンパー本体を押し曲げるジャッキで構成したマウントダンパーを据付けマウントに追加することにより機械内部に発生している低周波数振動や床から伝達する低周波数振動の影響を減衰することが可能になる。
【0008】
さらに、据付けマウントの交換や水平だしの調整を行う必要がないため簡便に設置可能で、実使用中の機器の振動問題に即座に対策が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に係るマウントダンパーについて図面を参照しながら説明する
【0010】
図1は機械本体と床の間に設置した本発明の実施例1を示した断面図である。
【0011】
図1において、機械本体1のめねじ部1aに据付けマウント2のおねじ部2aが勘合していて、据付けマウント2を回転することにより機械本体1は上下に高さを変化させることができる。雄ねじ部2aにはマウントダンパー本体3がナット4で矢印A方向に彎曲しながら押し付けられ固定されている。また、マウントダンパー本体3は彎曲することで床5と本体1の間にバネ力を働かせながら突っ張る構造になっている。
【0012】
マウントダンパー本体3は双晶型制振合金製の板材を素材としている。双晶型制振合金は、負荷を加えると容易に双晶が発生、移動し、双晶の発生、移動によって運動エネルギーを吸収することができる。(例えば、特許文献1)
【0013】
また、双晶型制振合金は振動振幅が大きくなるほど制振性能が大きくなるため、制振合金のなかでは使いやすい合金として知られている。
【0014】
図2は機械本体と床の間に設置した本発明の実施例2を示した断面図である。
【0015】
図2において、機械本体1と床5の間にジャッキナット7とジャッキナット7に勘合したボルト6がありその雄ねじ部にはマウントダンパー本体3がナット4で固定されている。ジャッキナット7を回転すると機械本体1と床5の間でジャッキナット7が上下し、結果としてマウントダンパー本体3は矢印A方向に彎曲しながら押し付けられ固定されている。また、マウントダンパー本体3は彎曲することで床5と本体1の間にバネ力を働かせながら突っ張る構造になっている。
【0016】
図3は機械本体と床の間に設置した本発明の実施例3を示した断面図である。
【0017】
図3において、機械本体1と床5の間にジャッキナット7とジャッキナット7に勘合したボルト6がありその雄ねじ部にはマウントダンパー本体3がナット4で固定されている。マウントダンパー本体3はマウントダンパー台8にネジ9で固定される。
マウントダンパー本体3はジャッキナット7を回転すると機械本体1と床5の間でジャッキナット7が上下し、結果としてマウントダンパー本体3は矢印A方向に彎曲しながら押し付けられ固定されている。また、マウントダンパー本体3は彎曲することで床5と本体1の間にバネ力を働かせながら突っ張る構造になっている。
【0018】
図4は機械本体と床の間に設置した本発明の4つ目の実施例を示した断面図である。
【0019】
図4において、機械本体1のめねじ部1aにボルト6のおねじ部6aが勘合していて、勘合したボルト6を回転することでボルト6の先端部は矢印A方向に上下する。マウントダンパー本体3はマウントダンパー台8にネジ9で固定される。マウントダンパー本体3はボルト6の先端部で押されて、湾曲しながら固定されている。また、マウントダンパー本体3は彎曲することで床5と本体1の間にバネ力を働かせながら突っ張る構造になっている。
【0020】
そもそも、高減衰能の据付マウントの研究によれば、据付マウントは据付マウントの剛性に起因する共振周波数よりも大きな周波数の振動を減衰することで機械本体の振動による各種問題を解決したり、床から伝達される据付マウントの剛性に起因する共振周波数よりも大きな周波数の振動を減衰することで、機械本体に影響する床振動を対策できる。
【0021】
そのために機械重量を支えるための据付けマウント剛性設計に限界があり据付けマウント剛性に起因する共振周波数を小さくできない。結果として低周波数において振動を低減する効果が発揮できなかった。
【0022】
本発明では機械重量を従来の据付けマウントで支え、双晶型制振合金を据付マウントに並列にダンパーとして使用することでバネ剛性を小さくし、制振合金を用いた除振装置の剛性を小さくすることができる。つまり、共振周波数を低く設計が可能である。
【0023】
また、マウントダンパー本体3の彎曲具合で共振周波数を変化させることも可能であり、共振周波数は機械重量に左右されないため目標とする振動に対して対策が容易である。
【0024】
図1から図4の実施例は両持支持の板バネ構造であるが、図5は片持支持の形状になっている。このように板バネの支持方法は両持支持に限ったものではない。
【0025】
図6は制振合金を用いた除振装置で対策した事例データである。
【0026】
図6の実施例は半導体製造装置の対策事例で、設置場所がクリーンルームであったため網状の空間がある床であった。床の強度が弱く、低周波数振動が床から装置本体に伝達し装置内の画像認識装置用カメラが揺れて画像処理精度を悪化させていた。対策した制振合金を用いた除振装置は図2の形状で、機械本体重量は500Kgで4つ足、制振合金を用いた除振装置は各足の中央に設置している。図5の結果では約10Hz〜100Hzの範囲で振動加速度は半減していることが判る。
【0027】
以上のように、本発明によれば双晶型制振合金製で板バネ状のマウントダンパー本体と、マウントダンパー本体を彎曲させる手段を組み合わせることで機械本体と床の間でマウントダンパー本体が突っ張るように構成することにより、低周波数振動に対して大きな減衰効果を得ることができる制振合金を用いた除振装置を提供することができる。また、マウントダンパー本体の彎曲量により効果がでる振動周波数領域を変化できる制振合金を用いた除振装置が提供できる。基本構造を実施例2、実施例3にすることで機械本体や床を改造せずに、また、機械本体の水平だしを再度行うことが不要になる。また、制振合金を用いた除振装置の湾曲量のみで共振周波数を設定できるため制振合金を用いた除振装置の設置数量や設置場所を自由に変えることができ、簡便に振動対策が可能な制振合金を用いた除振装置を提供することが可能である。
【0028】
また、マウントダンパー本体は板バネ状の形態であれば形が円盤でも多角形でも機能に変わりないことは明確である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1の実施例を示した断面図である。
【図2】本発明の第2の実施例を示した断面図である。
【図3】本発明の第3の実施例を示した断面図である。
【図4】本発明の第4の実施例を示した断面図である。
【図5】本発明の第5の実施例(片持支持タイプ)を示した断面図である。
【図6】ダンパーで対策した事例のデータである。
【符号の説明】
【0030】
1機械本体
2据付マウント
3マウントダンパー本体
4ナット
5床
6ボルト
7ジャッキナット
8マウントダンパー台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業機械、測定機器、工作機械、半導体製造機器、印刷機械、産業用ロボット、映像装置、音響/映像機器、搬送装置、医療機器、空調機器、コンピュータ、プリンタ、複写機の除振装置であって、双晶型制振合金製で板バネ状のマウントダンパー本体と、マウントダンパー本体を彎曲させながら機械本体と床の間で突っ張るジャッキボルトまたはジャッキナットまたはマウントダンパー本体を固定するボルトまたはマウントダンパー本体を固定するナットで構成することを特徴とする制振合金を用いた除振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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