説明

制振装置

【課題】工業生産性を確保しつつ、減衰性能の更なる向上を図ることが出来る、新規な構造の制振装置を提供することを、目的とする。
【解決手段】制振すべき振動部材に取り付けられる中空の密閉構造とされたハウジング12に対して、非接着で飛び跳ね変位可能に独立マス部材14を収容配置すると共に、振動が入力された際に、独立マス部材14がハウジング12に対して飛び跳ね変位し、振動入力方向の両側でハウジング12に対して弾性的に打ち当たるようにした打ち当たり型の制振装置において、独立マス部材14の外面28,32,32とハウジング12の内面22,34,34との隙間30,36,36に粉体38を介在せしめた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動が問題となる振動部材に装着されて振動部材の振動を低減する制振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、振動が問題となる振動部材の振動を低減するために、各種の制振装置が提案されている。その一つとして、制振すべき振動部材にばね部材を介してマス部材を弾性支持せしめることにより、振動部材に対する副振動系を構成するようにしたダイナミックダンパが知られている。しかしながら、ダイナミックダンパでは、副振動系の固有振動数がチューニングされている特定の周波数域でしか有効な制振効果が発揮され難いという問題があった。
【0003】
そこで、本出願人は、先に、特許文献1において、振動部材に固設されたハウジングに対して独立マス部材を隙間を隔てて非接着で相対変位可能に収容配置し、振動入力時に、独立マス部材をハウジングに対して弾性的に打ち当たらせることにより、打ち当たり時の滑り摩擦や衝突によるエネルギー損失等を利用して制振効果を得るようにした制振装置を提案した。このような制振装置においては、小さなマス質量で広い周波数域の振動に対して制振効果を発揮することが出来る。
【0004】
ところで、上述の如き打ち当たり型の制振装置においては、近年、制振性能の更なる向上が要求されており、特に、減衰性能の更なる向上が要求されている。このような要求に応えるために、本発明者が検討したところ、独立マス部材とハウジングの打ち当たり面間に形成される隙間を十分に小さくすることが望ましいことが判ってきた。
【0005】
しかしながら、独立マス部材とハウジングの打ち当たり面間に形成される隙間を1mm以下、好ましくは数百ミクロンオーダーで十分に小さくしようとしても、独立マス部材やハウジングを製造する際には、その寸法誤差を考慮しなければならないことから、特に工業生産性を考慮すると、独立マス部材とハウジングの打ち当たり面間に形成される隙間を十分に小さくすることが極めて難しいという問題があった。
【0006】
【特許文献1】国際公開第00/14429号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、工業生産性を確保しつつ、減衰性能の更なる向上を図ることが出来る、新規な構造の制振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0009】
本発明は、制振すべき振動部材に取り付けられる中空の密閉構造とされたハウジングに対して、非接着で飛び跳ね変位可能に独立マス部材を収容配置すると共に、独立マス部材の表面とハウジングの内面との少なくとも一方を当接ゴム層で形成して、振動が入力された際に、独立マス部材がハウジングに対して飛び跳ね変位し、振動入力方向の両側でハウジングに対して弾性的に打ち当たるようにした制振装置において、独立マス部材の表面とハウジングの内面との隙間に、かかる隙間より小さな粉体を介在せしめたことを、特徴とする。
【0010】
このような本発明に従う構造とされた制振装置においては、振動入力に際して、独立マス部材が粉体を介してハウジングに打ち当たることとなる。要するに、独立マス部材とハウジングの打ち当たり面間の隙間が、実質的に粉体によって極めて小さく設定されるのであり、独立マス部材とハウジングの打ち当たり面間の隙間寸法があたかも粉体分だけ小さく設定されたこととなる。
【0011】
それ故、独立マス部材やハウジングの設計および製造工程では、製造上の誤差を考慮して独立マス部材をハウジング内に収容するのに十分な大きさをもって、それら独立マス部材とハウジングの打ち当たり面間の隙間寸法を設定しつつも、そこに粉体を介在させたことで、かかる隙間寸法を実質的に十分に小さく設定することが可能となるのである。特に、粉体は、設定される隙間寸法よりも小さいことから、独立マス部材とハウジングをそれぞれ製造した後、それらを組み合わせる前或いは組み合わせた後の、ハウジングを密閉する前の工程で、組み合わせた独立マス部材とハウジングの打ち当たり面間に粉体を入れるだけで、独立マス部材とハウジングの打ち当たり面の隙間の大きさを事後的に適宜に調節して設定することが出来るのである。
【0012】
従って、本発明においては、上述の如く独立マス部材とハウジングの打ち当たり面間の隙間の実質的な大きさを、部品製造後に粉体を利用して補正し、十分に小さく且つ略一定に設定することが可能となるのである。その結果、独立マス部材のハウジングに対する打ち当たり作用に基づく、目的とする制振効果を、工業生産上で問題となる程に著しく高度な部品寸法管理等を必要とすることなく、安定して享受することが可能となるのである。
【0013】
加えて、本発明に従う構造とされた制振装置においては、独立マス部材のハウジングへの打ち当たりに際して、それらの打ち当たり面間に介在する粉体自体の摩擦作用等に基づく制振性能の向上効果も発揮される。即ち、打ち当たりに際しては、独立マス部材とハウジングの弾性的な打ち当たり面に対して粉体が入り込むようにして弾性的な打ち当たり面が複雑に弾性変形したり、或いは粉体自体が複雑に弾性変形したりすることで、打ち当たり面間における弾性変形に伴う減衰効果の向上が図られ得る。また、打ち当たりに際しては、粉体相互間での摩擦も発生することとなり、この摩擦に基づいて更なる減衰効果や振動エネルギーの吸収効果が発揮されて、制振性能の向上が図られ得るのである。
【0014】
ところで、本発明に採用される独立マス部材やハウジングの具体的形状は特に限定されるものでなく、例えば矩形ブロック形状やボール形状等の独立マス部材とその外周面形状に対応した内周面形状のハウジングの組み合わせや、球状外周面の独立マス部材と多面体状内周面のハウジングの組み合わせなど、制振すべき振動入力方向での独立マス部材の飛び跳ね変位とハウジングへの打ち当たりが発現される各種構造が採用される。
【0015】
ここにおいて、好適には 独立マス部材の表面の振動入力方向での断面形状とハウジングの内面の振動入力方向での断面形状が互いに相似形とされる。これにより、独立マス部材をハウジング内での変位方向中央に位置せしめた状態下で独立マス部材とハウジングの隙間の大きさを周方向で略一定にすることが可能となって、かかる隙間に粉体を効率的に分散させて、粉体の介在による打ち当たり面間の隙間の実質的な減少効果をより安定して享受することが可能となる。
【0016】
特に好適には、独立マス部材として円筒状外周面を備えているものを採用すると共に、ハウジングとして独立マス部材の外周面よりも一回り大きな円筒状内周面を備えているものを採用して、制振すべき振動が独立マス部材及びハウジングの軸直角方向に入力されて、独立マス部材の円筒状外周面とハウジングの円筒状内周面とが打ち当たるようにされた構成が、採用される。
【0017】
このように打ち当たり面を相似の円筒面形状とすることにより、粉体を打ち当たり面間に介在させることによる減衰効果の向上ひいては制振効果の向上が一層効率的に実現される。即ち、相似の円筒面形状の場合には、打ち当たり面が変形しないと仮定すると軸方向に直線的に延びる線当たりとなるが、ここに粉体を介在させることにより、線当たりであった打ち当たり面が周方向両側に大きく延びて面当たりとなるからである。要するに、相似の円筒面形状の打ち当たり面の場合には、打ち当たり面が変形しないと仮定すると、独立マス部材がハウジングに打ち当たった状態で、中央の線当たりとなる部位から周方向両側に向かって次第に隙間が大きくなる。この漸変する隙間は、たとえ隙間寸法を十分に小さくしたところで、相似の円筒面形状の打ち当たり面を採用する限り存在する。しかし、この隙間に粉体を介在させることにより、粉体は隙間の大きさに応じて介在量が自動的に調節されることとなって、打ち当たり面が広い領域に亘って形成され得るのである。
【0018】
その結果、打ち当たり面を構成する当接ゴム層の打ち当たりに伴う剪断変形が広い領域で効率的に生ぜしめられて、それに基づく減衰効果ひいては制振効果が大幅に向上され得るのである。それに加えて、隙間に介在せしめられた粉体においても、広い領域に亘って摩擦や変形に基づく減衰効果が発揮されることとなり、目的とする制振効果の更なる向上が図られ得るのである。
【0019】
また、円筒状外周面の独立マス部材を採用することにより、独立マス部材においてハウジング内での中心軸回りの回転が許容されて、独立マス部材のハウジングに対する打ち当たり部位が周方向に適当に変化することとなる。その結果、独立マス部材の偏磨耗等が回避されて耐久性が向上され、長期間に亘って安定した制振効果を得ることが可能となる。
【0020】
しかも、粉体を介在させることで面当たりとなった、独立マス部材とハウジングの打ち合たり面は、そこに介在する粉体層が各粉体の流動性に基づいて柔軟に変形し得ることから、打ち当たりに際して粉体層内で粉体の流動乃至は移動が発生して粉体間や粉体と独立マス部材やハウジングとの接触部位でより大きな摩擦が生ぜしめられることとなる。その結果、当接ゴム層や粉体層の内部摩擦や、独立マス部材とハウジングの打ち当たり面での外部摩擦が、一層効率的に作用して、より大きな減衰効果ひいては制振効果が発揮され得ることとなる。
【0021】
なお、本発明における粉体は、例えば、小麦粉等の有機化合物の粉体や、炭酸カルシウム等の炭酸塩や合成樹脂,金属酸化物等の無機化合物の粉体を1種類だけ用いたもの、或いは、複数種類混ぜ合わせたものによって構成され得る。特に、環境による劣化や経時による劣化が少なくなるという観点から、無機物の粉体が好適に採用される。
【0022】
また、本発明において、独立マス部材の表面とハウジングの内面との隙間に介在せしめられる粉体の量は、特に限定されるものでない。独立マス部材のハウジングに対する打ち当たり面間に隙間としての空間が残存していても、勿論、良いし、かかる隙間に対して粉体が殆ど充填されていても良い。
【0023】
なお、隙間の大きさを数百ミクロンオーダーで調節することを目的とすると、本発明においては、粒径が10〜100μmの範囲内(例えば平均値として)の粉体を採用した構成が、好適に採用される。
【0024】
また、本発明においては、同様な理由から、隙間寸法の1/2以下、より好適には1/5以下、更に好適には1/10以下の平均粒径の粉体を採用した構成が、好適に採用される。尤も、余り粒径が小さい粉体は、その取り扱いが難しくなる。
【0025】
特に、上述の如く、粒径が10〜100μmである粉体を採用することにより、独立マス部材がハウジングに打ち当たった際に粉体間で摩擦が一層効率的に生ぜしめられることとなる。即ち、粉体の粒径が10μmよりも小さい場合には、粉体の表面積が小さくなり過ぎて、粉体間の摩擦を効果的に生ぜしめることが難しくなってしまう一方、粉体の粒径が100μmよりも大きい場合には、隙間に介在せしめられる粉体の量が少なくなって、粉体間で生ぜしめられる摩擦を大きく確保することが難しい場合がある。
【0026】
また、本発明においては、振動入力方向での隙間の寸法を、独立マス部材をハウジングに対する一方の移動端に寄せた状態で、0.1〜0.5mmとした構成が、好適に採用される。
【0027】
このような隙間寸法からなる構成を採用した態様においては、独立マス部材がハウジングに打ち当たった際に粉体間で生ぜしめられる摩擦を一層効果的に得ることが可能となる。即ち、振動入力方向での隙間の寸法が、独立マス部材をハウジングに対する一方の移動端に寄せた状態で、0.1mmよりも小さい場合には、工業生産上で許容される寸法誤差が厳しくなって製造コストの上昇等の問題が発生し易い。加えて、隙間が小さくなり過ぎて、隙間に介在せしめられる粉体の量が少なくなり、粉体間で生ぜしめられる摩擦を十分に確保することが難しくなるおそれもある。一方、隙間が0.5mmよりも大きい場合には、必要とされる粉体の量が多くなって粉体の投入作業等が面倒となったり、粉体の投入量が少ないと十分な粉体の介在効果が発揮され難くなることが懸念され、粉体の投入量の変化により性能が不安定となったりするおそれがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0029】
図1及び図2には、本発明の一実施形態としての制振装置10が示されている。この制振装置10は、ハウジング12に対して別体の独立マス部材14が非接着で相対変位可能に収容配置された構造とされており、ハウジング12が制振対象となる振動部材(図示せず)に対して固定されるようになっている。なお、本実施形態では、振動部材の主たる振動が、制振装置10に対して、図1中の上下方向に入力されるようになっている。
【0030】
より詳細には、本実施形態のハウジング12は、ハウジング本体16と一対の蓋体18,18によって構成されている。ハウジング本体16は、鉄鋼やアルミニウム合金等の剛性材によって形成されており、厚肉の円筒形状を呈している。なお、ハウジング本体16の形成材料として、硬質の合成樹脂材を採用することも可能であり、その場合には、5×103 〜5×104 MPaの弾性率を有する合成樹脂材料が好適に採用される。
【0031】
一方、一対の蓋体18,18は、それぞれ、鉄鋼やアルミニウム合金,硬質の合成樹脂材等の剛性材で形成されており、全体として円板形状を呈している。そして、各蓋体18は、その外周縁部がハウジング本体16の開口周縁部に重ね合わされて、溶着や接着等によって固定されるようになっている。これにより、ハウジング本体16の各開口部分が蓋体18で覆蓋されて、長手方向に略一定の円形断面で延びる収容空間20が内部に形成された密閉構造のハウジング12が構成されるようになっている。即ち、本実施形態のハウジング12は、略一定の円形断面で軸方向にストレートに延びる円筒状内周面22を備えているのである。
【0032】
また、本実施形態の独立マス部材14は、マス金具24の表面に当接ゴム層としての当接ゴム膜26が被せられて、その表面が当接ゴム膜26で形成された構造とされており、特に本実施形態では、鉄鋼等の高比重材で形成されて、略一定の円形断面でストレートに延びる円柱形状を呈するマス金具24の表面全体が、従来から公知のゴム材料で形成された当接ゴム膜26によって略一定の厚さ寸法で覆われた構造とされている。即ち、本実施形態の独立マス部材14は、略一定の円形断面で軸方向にストレートに延びる円筒状外周面28を備えているのであり、特に本実施形態では、かかる円筒状外周面28の円形断面が、ハウジング12の円筒状内周面22の円形断面よりも一回り小さい相似形とされているのである。なお、本実施形態の当接ゴム膜26は、加硫成形と同時に、マス金具24の表面に接着されるようになっている。
【0033】
そこにおいて、当接ゴム膜26は、独立マス部材14のハウジング12への打ち当たりに基づく制振効果や独立マス部材14がハウジング12に打ち当たる際に生じる打音の低減効果を有利に得るために、ASTM規格D2240のショアD硬さが、好ましくは80以下、より好ましくは20〜40に設定される。
【0034】
なお、本実施形態では、マス金具24の質量や当接ゴム膜26のばね定数等が適当に設定されて、独立マス部材14が特定の周波数域で共振特性を利用して大きく飛び跳ね変位するようにされている。
【0035】
このような構造とされた独立マス部材14は、ハウジング12の収容空間20に非接着で相対変位可能に収容配置されるようになっており、図3に示されているように、ハウジング12と独立マス部材14を同一中心軸上に位置せしめた状態で、独立マス部材14の表面の一部を構成する円筒状外周面28(当接ゴム膜26の円筒状外周面28)とハウジング12の内面の一部を構成する円筒状内周面22との隙間30の寸法が0.05mm〜0.25mm、好ましくは、0.1mm〜0.15mmとされている。換言すれば、独立マス部材14をハウジング12に対する一方の移動端に寄せた状態での隙間30の寸法が0.1mm〜0.5mm、好ましくは、0.2mm〜0.3mmとされているのである。なお、図3においては、後述する粉体38が存在しない状態を示していると共に、各部材にハッチングをいれていない。
【0036】
また、図2に示されているように、独立マス部材14をハウジング12の軸方向中央に位置せしめた状態で、独立マス部材14の表面の一部を構成する軸方向端面32とハウジング12の表面の一部を構成する蓋体18の内側面34との間にも、所定寸法の隙間36が形成されるようになっている。
【0037】
また、独立マス部材14の表面28,32,32とハウジング12の内面20,34,34との隙間30,36,36には、粉体38が介在せしめられている。この粉体38は、小麦粉等の有機化合物の粉体や、炭酸カルシウム等の炭酸塩や合成樹脂,金属酸化物等の無機化合物の粉体を1種類だけ用いたもの、或いは、複数種類混ぜ合わせて用いたものによって構成されており、特に本実施形態では、その粒径が10μm〜100μmとされている。
【0038】
なお、粉体38としては、従来から振動の低減や吸音のために使用されている粉体が、何れも、採用可能であり、例えば、バーミキュライト粉体や金マイカ粉体,湿式シリカ粉体,球状シリカ粉体,アクリル超微粉体等のアクリル系樹脂粉体,タルク粉体,珪酸カルシウム粉体,フッ素樹脂粉体,パーライト粉体,ベントナイト粉体,シラスバルーン,石松子,ブルラン,溶融シリカ粉体,黒鉛,結晶セルロース粉体,炭化珪素粉体,ナイロンパウダー,アクリル粉体塗料,ポリエステル粉体塗料,強力粉や薄力粉等の小麦粉,ドロマイト粉体,炭素繊維粉体,二酸化チタン粉体,重質炭酸カルシウム粉体等の炭酸カルシウム粉体,塩化ビニル樹脂粉体,ポリメタクリル酸メチル粉体,シリコーンパウダー,電融マグネシア粉体,全脂肪乳,バリウムフェライト磁粉等のフェライト仮焼粉体,カーボンブラック粉体,塩素法酸化チタン粉体等が、何れも、採用可能であるが、環境による劣化や経時による劣化が少なくなるという観点から、無機化合物の粉体が好適に採用される。
【0039】
また、粉体38を独立マス部材14の表面28,32,32とハウジング12の内面22,34,34との隙間30,36,36に介在させる方法としては、例えば、予め製作した独立マス部材14の表面28,32,32に粉体38を付着させた独立マス部材14を、ハウジング本体16に内挿し、この状態で、ハウジング本体16の各開口部分を蓋体18で覆蓋する方法や、独立マス部材14をハウジング本体16に内挿したあと、ハウジング本体16の一方の開口部分を蓋体18で閉塞した状態で他方の開口部分からハウジング本体16内に粉体38を入れ、更にその後にハウジング本体16の他方の開口部分を蓋体18で覆蓋する方法、或いは、それら両者を組み合わせた方法、又は、ハウジング本体16内に粉体38を略充填状態で入れてから、余剰の粉体38を押し出すように独立マス部材14を挿入し、その後、ハウジング本体16の両端開口を蓋体18,18で覆蓋する方法等が採用される。
【0040】
なお、独立マス部材14の表面28,32,32に粉体38を付着させるには、例えば平面上に存在させた粉体38の層上で独立マス部材14を転がして付着させることも可能である。その場合には、より付着効率を上げるために、蒸発し易い液体を独立マス部材14の表面に付着させておくことも可能である。
【0041】
因みに、本実施形態では、表面28,32,32に粉体38を付着させた独立マス部材14を、一方の開口部分が蓋体18で覆蓋されたハウジング本体16に対して他方の開口部分から内挿した後、ハウジング本体16の他方の開口部分を蓋体18で覆蓋する方法によって、独立マス部材14の表面28,32,32とハウジング12の内面22,34,34との隙間30,36,36に粉体38が介在せしめられるようになっている。
【0042】
なお、独立マス部材14の表面28,32,32とハウジング12の内面22,34,34との隙間30,36,36は、粉体38によって充填されている必要はない。独立マス部材14の表面28,32,32とハウジング12の内面22,34,34との隙間30,36,36には、粉体38と共に空間が残存していても良い。なお、この粉体38の充填程度や空間の残存程度は、要求される減衰性能等を考慮して適当に調節することが出来る。また、この粉体38の充填程度や空間の残存程度を調節することにより、独立マス部材14が振動入力方向でハウジング12に対して独立して飛び跳ねる程度を調節することが出来る。
【0043】
このような構造とされた制振装置10は、図示はされていないが、例えば、適当な取付ブラケットがハウジング12の外周面に取り付けられて、かかる取付ブラケットを介して、図示しない振動部材に対して固定的に装着されるようになっている。
【0044】
そして、このように制振装置10が振動部材に固定された状態で、振動部材の振動がハウジング12に入力されると、独立マス部材14が振動入力方向でハウジング12に対して独立して飛び跳ねるように相対変位し、ハウジング12に対して飛び跳ね方向の両側で弾性的に打ち当たるようになっており、特に本実施形態では、独立マス部材14の円筒状外周面28とハウジング12の円筒状内周面22が打ち当たるようになっている。その結果、独立マス部材14のハウジング12への打ち当たりによるエネルギー損失や滑り摩擦等に基づく制振効果が発揮されるようになっている。
【0045】
そこにおいて、上述の如き構造とされた制振装置10においては、独立マス部材14の表面28,32,32とハウジング12の内面22,34,34との隙間30,36,36、特に、振動入力方向での隙間となる、独立マス部材14の円筒状外周面28とハウジング12の円筒状内周面22との隙間30に、粉体38が介在せしめられていることから、独立マス部材14のハウジング12に対する打ち当たり面を、隙間30に粉体38が介在せしめられていない状態よりも、実質的に大きく(特に周方向両側に大きく)することが可能となる。その結果、独立マス部材14がハウジング12に打ち当たった際に、接触による摩擦が生ぜしめられる範囲を広くすることが可能となる。また、当接ゴム膜26において、独立マス部材14のハウジング12への打ち当たりに基づく弾性変形、即ち、内部摩擦(減衰)が生ぜしめられる範囲も広くすることが可能となる。加えて、独立マス部材14がハウジング12に打ち当たった際の衝撃によって、粉体38間に摩擦を生ぜしめることも可能となる。
【0046】
従って、上述の如き構造とされた制振装置10においては、独立マス部材14がハウジング12に打ち当たった際に、より大きな摩擦を生ぜしめることが可能となり、その結果、減衰性能の更なる向上を図ることが可能となる。
【0047】
また、上述の如き構造とされた制振装置10においては、独立マス部材14やハウジング12の製造上の寸法誤差に起因する隙間30、36,36(特に振動入力方向での隙間30)の寸法のばらつきを、隙間30,36,36(特に振動入力方向での隙間30)に粉体38を介在せしめることによって、実質的に解消することが可能となっているから、独立マス部材14やハウジング12、延いては、制振装置10の工業生産性を有利に確保することが可能となる。加えて、隙間30,36,36の実質的な大きさを、独立マス部材14やハウジング12の製造後において、ハウジング12に切削等の後加工を施すことなく、変更することが出来るようになっているから、所期の制振効果が安定して発揮されるようにすることも可能となる。
【0048】
更にまた、本実施形態では、独立マス部材14が当接ゴム膜26の弾性を利用して積極的に飛び跳ね変位せしめられるようになっていることから、独立マス部材14のハウジング12への打ち当たりに基づく衝撃力を有利に確保することが可能となり、その結果、制振性能の向上を図ることが可能となる。
【0049】
特に本実施形態では、マス金具24の質量や当接ゴム膜26のばね定数等が適当に設定されて、独立マス部材14が共振特性を利用して特定の周波数域で大きく飛び跳ね変位するようにされていることから、かかる特定の周波数域での制振性能を一層向上させることが可能となる。
【0050】
そこにおいて、本実施形態では、独立マス部材14を積極的に飛び跳ね変位せしめられることで向上せしめられた制振効果の特定周波数域への偏りを、上述の如く減衰性能を向上させることによって、ブロード化させることが可能となっており、その結果、独立マス部材14を積極的に飛び跳ね変位させることによって向上せしめられた制振効果を、特定の狭い周波数域の振動だけでなく、複数乃至は広い周波数域の振動に対しても、有効に発揮させることが可能となるのである。
【0051】
また、本実施形態では、独立マス部材14がハウジング12に打ち当たった際に、独立マス部材14の表面28,32,32とハウジング12の内面22,34,34との隙間30,36,36に介在せしめられた粉体38によって、独立マス部材14をハウジング12の内面に沿って滑らせて、独立マス部材14の表面28,32,32とハウジング12の内面22,34,34との接触による摩擦を、より大きくすることも可能となる。
【0052】
更にまた、本実施形態では、粉体38が独立マス部材14の表面28,32,32とハウジング12の内面22,34,34との隙間30,36,36に常に介在せしめられるようになっていることから、独立マス部材14が粉体38を介してハウジング12に打ち当たることが有利に維持され得る。その結果、所期の制振効果が安定して発揮され得るようになっている。
【0053】
また、本実施形態では、独立マス部材14の表面28,32,32の振動入力方向での断面形状とハウジング12の内面22,34,34の振動入力方向での断面形状が、相似形とされていることから、独立マス部材14のハウジング12に対する打ち当たり面を大きく確保することが可能となる。これにより、独立マス部材14のハウジング12への打ち当たりに際して、より広い範囲で接触による摩擦を生ぜしめることが可能になると共に、当接ゴム膜26において、より大きな内部摩擦(減衰)を生ぜしめることが可能となる。加えて、独立マス部材14のハウジング12への打ち当たりに基づく衝撃が及ぼされる粉体38の量も増えることから、粉体38間での摩擦も一層大きくすることが可能となる。
【0054】
従って、本実施形態の制振装置10においては、独立マス部材14のハウジング12への打ち当たりに際して、より一層大きな摩擦を生ぜしめることが可能となり、その結果、減衰性能をより一層向上させることが可能となる。
【0055】
特に本実施形態では、独立マス部材14の表面28,32,32の振動入力方向での断面形状とハウジング12の内面22,34,34の振動入力方向の断面形状が、何れも、円形とされていることから、独立マス部材14のハウジング12への打ち当たりに際して、当接ゴム膜26の剪断変形を積極的に生ぜしめて、かかる剪断変形に伴う振動エネルギーの吸収効果をより効率的に発揮することが可能となる。
【0056】
また、独立マス部材14の振動入力方向での断面形状が円形とされていることから、独立マス部材14がハウジング12内で中心軸回りに回転して、独立マス部材14のハウジング12に対する打ち当たり部位や、振動が入力されていない状態での独立マス部材14のハウジング12に対する当接部位が、周方向に適当に変化することとなる。その結果、独立マス部材14の耐久性を確保することが可能となり、長期間に亘って安定した制振効果を発揮することが可能となる。
【0057】
さらに、本実施形態では、粉体38の粒径が10μm〜100μmとされていることから、独立マス部材14のハウジング12への打ち当たりに際して粉体38間に生ぜしめられる摩擦を有利に確保することが可能となり、それによって、減衰性能の向上を有利に実現することが可能となる。
【0058】
更にまた、本実施形態では、振動入力方向での隙間30の寸法が、独立マス部材14をハウジング12に対する一方の移動端に寄せた状態で、0.1mm〜0.5mmとされていることから、独立マス部材14のハウジング12への打ち当たりに際して粉体38間に生ぜしめられる摩擦を有利に確保することが可能となり、それによって、減衰性能の向上を有利に実現することが可能となる。
【0059】
また、独立マス部材14やハウジング12を、製造上の寸法誤差を考慮して製造することが可能となり、それによって、独立マス部材14やハウジング12、延いては、制振装置10の工業生産性を有利に確保することが可能となる。
【0060】
さらに、本実施形態では、表面28,32,32に粉体38が付着された独立マス部材14をハウジング本体16に内挿するようになっていることから、粉体38が滑り剤の役割を果たすこととにより、独立マス部材14のハウジング本体16への内挿作業を有利に実現することが可能となる。
【0061】
因みに、上述の如き本実施形態に従う構造とされた制振装置10を振動部材に取り付けて、振動部材を周波数スイープ加振し、周波数分析によって制振装置10の共振特性を測定した結果を、実施例として、図4及び図5に示す。そこにおいて、この測定に用いた制振装置10では、独立マス部材14とハウジング12を同一中心軸上に位置せしめた状態での独立マス部材14の円筒状外周面28とハウジング12の円筒状内周面22との隙間30の寸法:δは0.1mmとされている。また、粉体38として、薄力粉が採用されており、その粒径は約30μmとされている。更に、粉体38の上で独立マス部材14を中心軸回りに転がして、独立マス部材14の表面28に粉体38を付着させ、かかる粉体38が表面28に付着した独立マス部材14を、一方の開口部分が蓋体18で覆蓋されたハウジング本体16に対して他方の開口部分から内挿し、その後、ハウジング本体16の他方の開口部分を蓋体18で覆蓋することにより、独立マス部材14をハウジング12に収容した。更にまた、粉体38が隙間30に介在せしめられた状態で、独立マス部材14のハウジング12に対する飛び跳ね変位が許容されている。なお、本実施例の制振装置10と同一のハウジング12と独立マス部材14からなる比較例としての制振装置については、隙間30,36,36に粉体38が介在せしめられていない構造(従来の構造)とし、かかる比較例についても、同様な測定を行い、その結果を図4及び図5に併せて示す。
【0062】
図4に示された測定結果から明らかなように、本実施形態に従う構造とされた制振装置10は、従来構造の制振装置に比して、広い周波数域で共振倍率が大きくされている。また、図4に示された測定結果から、本実施形態に従う構造とされた制振装置10と従来構造の制振装置のそれぞれについて、ロスファクターを計算したところ、従来構造の制振装置は0.9であったが、本実施形態の制振装置10は1.2であった。なお、ロスファクターは、共振倍率のピーク値の周波数をf0 とし、そのピーク値から3dB下がった値を示す周波数のうち低周波側の周波数をf1 とする一方、高周波側の周波数をf2 とし、以下の式によって計算した。
【0063】
(f2 −f1 )/f0
【0064】
また、図5に示された測定結果から明らかなように、本実施形態に従う構造とされた制振装置10は、従来構造の制振装置に比して、グラフの傾き(周波数に対する位相の傾き)が緩くなっていることから、広い周波数域に亘って、共振が発生していることが判る。
【0065】
以上、本発明の一実施形態について詳述してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。
【0066】
例えば、矩形断面で長手方向に延びる収容空間が内部に形成されたハウジングを採用すると共に、このハウジングの収容空間に対して、収容空間の矩形断面よりも一回り小さい矩形断面で長手方向に延びる独立マス部材を収容配置するようにしても良い。
【0067】
また、粉体を弾性材料で形成することも可能である。この場合、独立マス部材のハウジングへの打ち当たりに際して、粉体そのものが弾性変形せしめられることから、粉体間の接触による摩擦だけでなく、粉体そのものの内部摩擦(減衰)も生ぜしめられることとなり、その結果、減衰性能のより一層の向上を図ることが可能となる。
【0068】
更にまた、隙間が粉体で埋められていて、隙間が実質的になくなっていても良い。即ち、空間としては粒子間に存在するものの、独立マス部材とハウジングとの間が実質的に全周に亘って粉体を介して径方向で連設状態とされていても良い。このような場合であっても、ある程度のレベル以上の加速度を有する振動が入力されれば、当接ゴム層及び/又は粉体が弾性変形せしめられて、独立マス部材がハウジングに対して実質的に離隔と当接を繰り返して打ち当たることとなる。その結果、前記実施形態と同様な効果を得ることが可能となる。
【0069】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の一実施形態としての制振装置を示す断面図。
【図2】図1のII−II断面図。
【図3】独立マス部材とハウジングを同一中心軸上に位置せしめた状態を示す説明図。
【図4】共振倍率と周波数の関係を示すグラフ。
【図5】位相と周波数の関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0071】
10:制振装置,12:ハウジング,14:独立マス部材,22:円筒状内周面,26:当接ゴム膜,28:円筒状外周面,30:隙間,32:軸方向端面,34:内側面,36:隙間,38:粉体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制振すべき振動部材に取り付けられる中空の密閉構造とされたハウジングに対して、非接着で飛び跳ね変位可能に独立マス部材を収容配置すると共に、該独立マス部材の表面と該ハウジングの内面との少なくとも一方を当接ゴム層で形成して、振動が入力された際に、該独立マス部材が該ハウジングに対して飛び跳ね変位し、振動入力方向の両側で該ハウジングに対して弾性的に打ち当たるようにした制振装置において、
前記独立マス部材の表面と前記ハウジングの内面との隙間に、該隙間より小さな粉体を介在せしめたことを特徴とする制振装置。
【請求項2】
前記独立マス部材の表面の振動入力方向での断面形状と前記ハウジングの内面の振動入力方向での断面形状が互いに相似形とされている請求項1に記載の制振装置。
【請求項3】
前記独立マス部材が円筒状外周面を備えている一方、前記ハウジングが円筒状内周面を備えており、振動が入力された際に、該独立マス部材の該円筒状外周面と該ハウジングの該円筒状内周面とが打ち当たるようにされている請求項2に記載の制振装置。
【請求項4】
前記粉体の粒径が10〜100μmとされている請求項1乃至3の何れか1項に記載の制振装置。
【請求項5】
振動入力方向での前記隙間の寸法が、前記独立マス部材を前記ハウジングに対する一方の移動端に寄せた状態で、0.1〜0.5mmとされている請求項1乃至4の何れか1項に記載の制振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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