説明

制電性ポリエステル繊維

【課題】十分な制電性能を発揮し、しかもかかる性能が繰り返しの洗濯処理によって失われることがない、制電性ポリエステル繊維を提供する。
【解決手段】ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とグリコールまたはそのエステル形成性誘導体との反応により得られるポリエステルから形成されたポリエステル繊維であって、該ポリエステル繊維には下記(a)〜(c)の主たる構成成分からなるポリエーテルエステルがポリエステルマトリックスに対して0.5〜20重量%含有されている制電性ポリエステル繊維。
(a)テレフタル酸を主とするジカルボン酸成分
(b)1,4−ブタンジオールを主とするグリコール成分
(c)ポリオキシエチレングリコールを主とする数平均分子量が400〜6,000のポリアルキレンオキシドグリコール成分

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制電性を有するポリエステル繊維に関し、さらに詳しくはポリエーテルエステル系の制電剤からなる制電性ポリエステルを含有する制電性ポリエステル繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリエステルは、多くの優れた特性を有するために合成繊維として広く用いられている。しかしながら、ポリエステル繊維は、羊毛や絹のような天然繊維、レーヨンやアセテートのような繊維素繊維、アクリル系繊維などに比較して疎水性であるため静電気は発生しやすく、静電気発生に伴うほこり付着や衣服のまつわりつきが起こるという欠点がある。
【0003】
かかる欠点を改良するため、ポリエステル繊維に制電性を付与する方法として、ポリオキシアルキレングリコールまたはこれらの誘導体のような帯電防止剤を含有させる方法(例えば、特許文献1:特公昭39−5214号公報、特許文献2:特公昭44−31828号公報など)や、ポリオキシアルキレングリコールに有機や無機のイオン性化合物を配合する方法(特許文献3:特公昭47−10246号公報など)、ブロックポリエーテルアミドを混合する方法(特許文献4:特公昭45−17547号公報、特許文献5:特公昭46−7461号公報など)が知られている。
【0004】
しかしながら、ポリエステルに上記のような制電剤を含有させて、常法の溶融紡糸により制電性繊維を得るためには、大量の制電剤を含有させることが必要となり、そのためポリエステル繊維本来の優れた特性を損なう欠点がある。
【0005】
さらに、これらの方法によって得られる制電性ポリエステル繊維は、ポリエステル繊維の風合い改善のために一般に行われているアルカリ減量処理を施した場合、減量加工前に圧力を受けた部位が減量処理の間にフィブリル化し、染色した際に白く見えるという問題(以下「圧力減量白化現象」と称する)も生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭39−5214号公報
【特許文献2】特公昭44−31828号公報
【特許文献3】特公昭47−10246号公報
【特許文献4】特公昭45−17547号公報
【特許文献5】特公昭46−7461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する問題点を克服し、優れた制電性と耐フィブリル性を両立した、品質安定性の良好な制電性ポリエステル繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、特定組成のポリエーテルエステル共重合体を使用すれば、上記のような問題を解決できることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とグリコールまたはそのエステル形成性誘導体との反応により得られるポリエステルから形成されたポリエステル繊維であって、該ポリエステル繊維には、下記(a)〜(c)の主たる構成成分からなるポリエーテルエステルがポリエステルマトリックスに対して0.5〜20重量%含有されていることを特徴とする制電性ポリエステル繊維に関する。
(a)テレフタル酸を主とするジカルボン酸成分
(b)1,4−ブタンジオールを主とするグリコール成分
(c)ポリオキシエチレングリコールを主とする数平均分子量が400〜6,000のポリアルキレンオキシドグリコール成分
【発明の効果】
【0010】
本発明の制電性ポリエステル繊維は、十分な制電性能を発揮し、しかもかかる性能が繰り返しの洗濯処理によって失われることがない。また、アルカリ減量前に圧力が加わった部分があってもその部分の繊維がフィブリル化して染色布が白化する問題も生じ難い。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の構成要件を詳述する。
本発明で用いるポリエステルは、芳香環を重合体の連鎖単位に有する芳香族ポリエステルであって、2官能性芳香族カルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とグリコールまたはそのエステル形成性誘導体との反応により得られる重合体である。
【0012】
ここでいう2官能性芳香族カルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などを挙げることができ、特にテレフタル酸が好ましい。
これらの2官能性芳香族カルボン酸は、2種以上併用しても良い。なお、少量であればこれらの2官能性芳香族カルボン酸とともに、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などを1種または2種以上併用することができる。
【0013】
また、グリコールとしては、エチレングリコール、ブチレングリコールの如き脂肪族グリコール、脂環族グリコール、あるいは芳香族ジオールおよびそれらの混合物などを好ましくあげることができる。また、少量であれば、これらのグリコールとともに両末端または片末端が未封鎖のポリオキシアルキレングリコールを共重合することができる。
【0014】
好ましい芳香族ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどの他、ポリエチレンイソフタレート・テレフタレートなどの共重合ポリエステルを挙げることができる。なかでも、機械的性質、成形性などのバランスの取れたポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0015】
かかる芳香族ポリエステルは、任意の方法によって合成される。例えば、ポリエチレンテレフタレートについて説明すれば、テレフタル酸とエチレングリコールを直接反応させるか、テレフタル酸ジメチルの如きテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるか、またはテレフタル酸とエチレンオキサイドを反応させるかして、テレフタル酸のグリコールエステルおよび/またはその低重合体を生成させる第1段階、次いでその生成物を減圧下で加熱して所望の重合度になるまで重縮合反応させる第2段階の反応によって容易に製造される。
【0016】
なお、上記ポリエステルには、ポリエステル本来の物性を損なわない範囲で、他の熱可塑性ポリマー、たとえばナイロン6などのポリアミド類、ポリエチレン、ポリスチレンなどのポリオレフィン類を含有させても良い。
【0017】
一方、上記の芳香族ポリエステルに含有させるポリエーテルエステルとは、(a)ジカルボン酸成分の80モル%以上、好ましくは90モル%以上がテレフタル酸あるいはそのエステル形成性誘導体である酸成分と、(b)グリコール成分の80モル%以上、好ましくは90モル%以上が1,4−ブタンジオールあるいはそのエステル形成性誘導体である低分子量グリコール成分、および(c)数平均分子量が400〜6,000、好ましくは600〜5,000のポリアルキレンオキシドグリコール成分との重縮合反応によって得られる共重合体をいう。
【0018】
(a)成分において、20モル%未満の量で使用されるテレフタル酸以外の酸成分としては、上記の芳香族ポリエステルの合成に使用される2官能性芳香族カルボン酸を例示することができる。
【0019】
また、(b)成分において、20モル%未満の量で使用される低分子量グリコール成分としては、上記の芳香族ポリエステルの合成に使用されるグリコールを例示することができる。
【0020】
上記(c)ポリアルキレンオキシドグリコール成分は、30モル%以上、好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上がポリエチレンオキシドグリコールであるグリコール成分が用いられる。ポリエチレンオキシドグリコールが30モル%未満では、得られるポリエステル繊維の制電性が不十分となる。70モル%未満の量で使用されるポリエチレンオキシドグリコール以外のポリアルキレンオキシドグリコール成分としては、ポリプロプレンオキシドグリコール、ポリテトラメチレンオキシドグリコールなどが挙げられる。
【0021】
また、(c)ポリアルキレンオキシドグリコールの数平均分子量は、400〜6,000、好ましくは600〜5,000である。数平均分子量が400未満では、得られるポリエステル繊維の制電性および制電耐久性が共に不十分となる。一方、数平均分子量が6,000を超える場合には、ポリエーテルエステル合成時の反応性が低下するため、所望のポリエーテルエステルを得ることが困難になる。
【0022】
以上のポリエーテルエステル中に占める(a)ジカルボン酸成分とグリコール成分である(b)〜(c)成分のモル比は、化学量論的にほぼ等モルである。
しかしながら、ポリエーテルエステルに占める(c)ポリアルキレンオキシドグリコールの量は、20〜70重量%の範囲にあることが好ましい。20重量%未満では、得られるポリエステル繊維の制電性が不足する。一方、70重量%を超えると、取り扱いに優れたポリエーテルエステルを得ることが難しくなるばかりか、添加したポリアルキレンオキシドグリコールが全て反応せず、得られた制電性ポリエステルの使用中に未反応のポリアルキレンオキシドグリコールがブリードアウトして繊維にヌメリ感を与えたりするので好ましくない。
【0023】
上記ポリエーテルエステルは、通常の共重合ポリエステルの製造法により製造することができる。すなわち、(a)ジカルボン酸成分と(b)グリコール成分および(c)ポリアルキレンオキシドグリコールを反応器に入れ、触媒の存在下または不存在下でエステル交換反応あるいはエステル化の反応を行い、さらに高真空で重縮合反応を行って所望の重合度まで上げる方法である。
【0024】
かかるポリエーテルエステルの繊維への配合量は、ポリエステルマトリックスに対して0.5〜20重量%、好ましくは1〜15重量%の範囲である。0.5重量%未満の場合には十分な制電性を得ることができず、一方20重量%を超える場合には、繊維形成性が低下するとともに、圧力減量白化性の低下が顕著となり、好ましくない。
【0025】
本発明において、上記ポリエーテルエステルには、下記一般式(I)で表される有機スルホン酸金属塩を添加または共重合させてもよい。
【0026】
【化1】

(式中、Rは水素原子または炭素数1韓10のアルキル基、R’は炭素数2〜6のアルキレン基、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示す。)
【0027】
一般式(I)で表される有機金属塩の具体例としては、3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0028】
上記共重合される有機スルホン酸金属塩の共重合量は、ポリエステルマトリックスに対して20重量%未満、より好ましくは10重量%未満である。20重量%以上共重合しても制電性向上に寄与する効果は僅かであり、同時にチップの膠着や融点降下、耐薬品性低下など、逆にポリエーテルエステル製造時の取り扱い性を悪化させるため、好ましくない。
【0029】
また、本発明において、上記ポリエーテルエステルには、下記一般式で表される有機金属塩を併用してもよい。
【0030】
【化2】

(式中、Rは水素原子または炭素数1〜10のアルキル基、R’は炭素数2〜6のアルキレン基、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示す。)
【0031】
上記一般式で表される有機金属塩の具体例としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0032】
併用される有機金属塩の量は、ポリエステルマトリックスに対して、5重量%未満である。5重量%以上多く配合しても制電性向上に寄与する効果は僅かであり、かえって耐フィブリル性が低下するため繊維の白度、圧力減量白化性などが悪化する。また、これらの有機金属塩は、上記ポリエーテルエステルにあらかじめ混合しておくと、より制電性向上効果を高めることができる。
【0033】
また、これら、共重合する目的で配合する有機スルホン酸金属塩、および有機金属塩は、本発明で得られる制電性ポリエステル繊維に求められる性能に対して、添加量を調整することで対応することを可能にする。
【0034】
上記制電剤を含有するポリエステルには、さらに、ヒンダードフェノール系、サルファイド系、ホスファイト系の抗酸化剤やベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤などを配合することができる。例えば、抗酸化剤を配合した場合には、溶融紡糸工程での滞留などに起因するポリエーテルエステルの熱分解に伴う制電性の低下を抑制することができる。これらの抗酸化剤や紫外線吸収剤は、あらかじめポリエーテルエステルに混合しておくと、上記効果を高めるので好ましい。なお、上記抗酸化剤は、1種のみを単独で用いても2種以上を混合使用してもよく、配合量はポリエステルマトリックスに対して0.02〜1.0重量%が好ましい。
【0035】
また、上記制電剤を含有するポリエステルには、その他必要に応じ、難燃剤、蛍光増白剤、酸化チタンなどの艶消し剤、着色剤、コロイダルシリカ、乾式法シリカ、コロイダルアルミナ、微粒子状アルミナ、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムなどの不活性微粒子その他の任意の添加剤を、ポリエステルの合成開始時から紡糸工程までの任意の段階で、それぞれ別々にまたは予め混合して添加してもよい。
【0036】
本発明に用いられるポリエステル繊維を構成する制電性ポリエステル〔ポリエステルマトリックス(ポリエステル+ポリエーテルエステル)〕の極限粘度〔η〕(フェノールとオルトジクロロベンゼンとの混合溶媒(容積比6:4)中、35℃で測定)は、0.55dL/g以上であることが好ましい。〔η〕が0.55dL/g未満では、紡糸口金を出た後の伸長粘度が小さすぎるため、ポリエーテルエステル中のアルキレンオキシド鎖がポリエステル繊維中で十分な長さの筋状分散形態をとり難いために制電性能が不十分となったり、タフネスが劣って脆くなる傾向があるため、耐摩耗性が不十分となる。
【0037】
本発明の制電性ポリエステル繊維は、前述のポリエーテルエステルおよび有機金属塩、さらに必要に応じて抗酸化剤などを配合したポリエステルを、従来公知の紡糸装置を用いて紡糸することにより製造できる。この際、紡出糸のデニールは特に限定はないが、通常、0.1deから数deまでが適当である。また、紡糸速度も特に限定はなく、紡糸に引き続いて延伸、仮撚加工を施してもよい。
【0038】
例えば、500〜3,500m/分の速度で溶融紡糸し、延伸、熱処理する方法、1,500〜5,000m/分以上の高速で溶融紡糸し、用途によっては延伸工程を省略する方法などを採用することができる。
【0039】
また、本発明の制電性ポリエステル繊維の断面形状は、得られる織編物の用途などに応じ、任意の形状とすることができ、円形の他、三角、扁平、星型、V形などが例示できる。また、中空部を有していてもよい。
得られた繊維またはこの繊維から製造された不織布、織編物などの布帛・繊維製品には、適宜の親水化後加工を施してもよい。
【0040】
本発明の制電性ポリエステル繊維が十分な制電性を発揮する理由としては、ポリエーテルエステルの低温での分子運動の良好さに加え、ポリエーテルエステルを構成するポリオキシエチレングリコールに起因する吸湿性が寄与しているものと考えられる。
【0041】
すなわち、本発明で用いるポリエーテルエステルは、数平均分子量が400〜6,000、好ましくは600〜5,000のポリアルキレンオキシドグリコールを構成成分としているため、該ポリエーテルエステルのアルキレンオキシド鎖が、ポリエステル繊維マトリックス中で十分な長さの筋状に分散しており、しかも低温でも分子運動性が高く、イオン伝導による制電性能が良好となる。さらに、ポリオキシエチレングリコールの吸湿性により水分を分子鎖間に含み、これがさらに制電性能向上に寄与しているものと考えられる。また、ポリエーテルエステルにさらに共重合される有機スルホン酸金属塩は、ポリエーテルエステルの吸湿性を向上させると共に、金属塩自身から金属イオンが解離してイオン伝導に寄与する効果も発現していると考えられる。
【0042】
さらに、上記作用は、有機金属塩をポリエーテルエステルと併用し、該ポリエーテルエステルのポリエステル繊維マトリックス中への分散性を高めることにより増大され、制電性能および制電耐久性がさらに向上する。また、上記ポリエーテルエステルに共重合させた有機スルホン酸金属塩の存在は、本有機金属塩との相互作用をもたらし、洗濯による脱落を防止する効果を発現するものと考えれられる。
【0043】
さらに、制電相として働く該ポリエーテルエステルは、親水性ながらも水溶性ではないため、洗濯による脱落に対して、耐久性が非常に優れたものとなることが、本発明の重要なポイントのひとつである。
【0044】
また、本発明により得られる制電性ポリエステル繊維は、アルカリ減量前に圧力が加わった部分があってもその部分の繊維がフィブリル化して染色布が白化する問題も生じ難い。この理由の詳細については不明であるが、従来公知であるポリオキシエチレングリコールを単純に筋状分散させた繊維に対比すると、ポリオキシエチレングリコールに比べ、ポリエーテルエステルのポリエステルマトリックスとの親和性が良好であるためと推察する。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例および比較例中の部および%はそれぞれ重量部およびポリエステルマトリックスに対する重量%を示す。
また、得られた制電性ポリエステル布帛の印加電圧半減期、耐フィブリル性は、以下の方法で測定した。
【0046】
(1)印加電圧半減期
筒編、およびJIS L 0217 103番に準じて洗濯30回相当分(L30と称する)洗濯した筒編を、20±2℃、65±2%RHの環境下で一昼夜以上放置して調湿したものを試験片とし、20±2℃、65±2%RHの雰囲気の部屋で、スタティックオネストメーターを使用して、JIS L 1094 5.1法に従って半減期を測定した。
なお、半減期が10秒以下であれば、制電効果は十分と判断される。
【0047】
(2)耐フィブリル性
摩擦堅牢度試験用の学振型平面磨耗機を使用して、ウールを摩擦布として使用し、染色平織および減量染色平織を500gの荷重下で5,000回平面磨耗して、変色の発生の程度を変退色用グレースケールで判定した。耐摩耗性(耐フィブリル性)が極めて低い場合を1級とし、極めて高い場合を5級とした。実用上4級以上が必要である。
また、本発明で用いるポリエーテルエステル共重合体は、下記の方法で調製した。
【0048】
(a)共重合体E−1
テレフタル酸ジメチル110部、テトラメチレングリコール76.5部、数平均分子量4,000のポリオキシエチレングリコール110部、トリメリット酸とテトラブチルチタネートの反応生成物をテレフタル酸ジメチルに対して0.2モル%、これらを反応機に仕込み、内温190℃で生成するメタノールを系外へ留去しながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応終了後、20分かけて圧力を3mmHgとし、以後1mmHg以下の減圧下内温250℃で更に120分重合させて、生成したポリエーテルエステルを常法によりチップ化した。
【0049】
(b)共重合体E−2
テレフタル酸ジメチル104.5部、3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸ナトリウムの40%エチレングリコール溶液24部(全酸成分に対して5.0モル%、これを有機スルホン酸金属塩Aとする)、テトラメチレングリコール76.5部、数平均分子量4,000のポリオキシエチレングリコール110部、トリメリット酸とテトラブチルチタネートの反応生成物をテレフタル酸ジメチルに対して0.2モル%、これらを反応機に仕込み、E−1と同様の方法により、ポリエーテルエステルを得た。
【0050】
(c)共重合体E−3〜E−10
E−1、E−2の組成を表1に示す如く変化させた以外は、E−1と同様の方法により、ポリエーテルエステルを得た。
【0051】
【表1】

【0052】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル100部、エチレングリコール60部、酢酸カルシウム1水塩0.06部および整色剤として酢酸コバルト4水塩0.009部をエステル交換缶に仕込み、窒素ガス雰囲気下4時間かけて140℃から220℃まで昇温して生成するメタノールを系外へ留去しながらエステル交換反応させた。
エステル交換反応終了後、安定剤としてリン酸トリメチル0.058部、および消泡剤としてジメチルポリシロキサン0.024部を加えた。次いで、10分後、三酸化アンチモン0.04部を添加し、同時に過剰のエチレングリコールを追い出しながら240℃まで昇温した後、重合缶に移した。
【0053】
次いで、1時間かけて760mmHgから1mmHgまで減圧し、同時に1時間30分かけて240℃から285℃まで昇温した。減圧開始2時間後に、上記したポリエーテルエステル共重合体E−1を5.0%、溶融状態で系内に添加した。
引き続き、攪拌下1mmHg以下の減圧下で更に1時間重合した時点で酸化防止剤としてイルガノックス1010(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を0.4%添加し、引き続き20分間減圧下で重合させ、得られたポリマーを常法によりチップ化した。得られたポリマーの極限粘度は0.64dL/gであった。
得られたチップを、常法により乾燥後、スクリュー型押出機で溶融温度290℃で溶融し、吐出量27.9g/分で吐出後、油剤を付与したのち、90℃の加熱ゴデットローラーと125℃の過熱ゴデットローラーを介して捲き取り、75デニール24フィラメントの延伸糸を得た。得られた延伸糸を筒編地および平織物となし、上記の方法により印加電圧半減期および耐フィブリル性を評価した。結果を表2に示す。
【0054】
[実施例2]
実施例1において、ポリエーテルエステル共重合体を系内に添加する際、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.4%をエチレングリコールの50%溶液にして添加する以外は、実施例1と同様に実施した。結果を表2に示す。
【0055】
[実施例3〜8、比較例1〜6]
実施例1および実施例2における添加物の量を表2に示すように代えて添加する以外は、実施例1および実施例2と同様に実施した。結果を表2に示す。
【0056】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の制電性ポリエステル繊維は、十分な制電性能を発揮し、しかもかかる性能が繰り返しの洗濯処理によって失われることがない。また、アルカリ減量前に圧力が加わった部分があってもその部分の繊維がフィブリル化して染色布が白化する問題も生じ難い。従って、これらの特性を生かし、ランジェリー・ファンデーションなどの女性用インナー用途、裏地、無塵衣などの分野に広く応用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とグリコールまたはそのエステル形成性誘導体との反応により得られるポリエステルから形成されたポリエステル繊維であって、該ポリエステル繊維には下記(a)〜(c)の主たる構成成分からなるポリエーテルエステルがポリエステルマトリックスに対して0.5〜20重量%含有されていることを特徴とする制電性ポリエステル繊維。
(a)テレフタル酸を主とするジカルボン酸成分
(b)1,4−ブタンジオールを主とするグリコール成分
(c)ポリオキシエチレングリコールを主とする数平均分子量が400〜6,000のポリアルキレンオキシドグリコール成分
【請求項2】
請求項1に記載のポリエーテルエステルが、下記一般式(I)からなる有機スルホン酸金属塩を20重量%未満含む請求項1に記載の制電性ポリエステル繊維。
【化1】

(式中、Rは水素原子または炭素数1〜10のアルキル基、R’は炭素数2〜6のアルキレン基、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示す。)
【請求項3】
下記一般式(II)で表される有機金属塩を5重量%未満含む請求項1または請求項2に記載の制電性ポリエステル繊維。
RSOM (II)
(式中、Rは炭素原子数3〜30のアルキル基又は炭素原子数7〜40のアリール基、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属を示す:Rがアルキル基のときはアルキル基は直鎖状であっても又は分岐した側鎖を有していてもよい:MはNa,K,Li等のアルカリ金属又はMg,Ca等のアルカリ土類金属であり、なかでもLi,Na,Kが好ましい。)
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載される制電性ポリエステル繊維を用いてなる布帛・繊維製品。

【公開番号】特開2010−236144(P2010−236144A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86053(P2009−86053)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】