説明

制電性布帛およびカーシート用表皮材

【課題】布帛の柔軟な風合いと外観を損なうことなく極めて優れた制電性を有する制電性布帛を提供する。
【解決手段】織物組織または編物組織を有し、かつ制電性糸条が経方向および/または緯方向に間欠配列されてなる制電性布帛であって、前記制電性糸条が、下記(1)〜(3)の要件を全て満足する制電性ポリエステル繊維を含むことを特徴とする制電性布帛。
(1)ポリエーテルエステルアミド制電剤をポリエステル重量対比3〜10重量%含む。
(2)制電性ポリエステル繊維の繊維軸と直交する断面におけるポリエーテルエステルアミド制電剤の平均粒子径Dが10〜40nmである。
(3)制電性ポリエステル繊維の繊維軸方向に平行する断面におけるポリエーテルエステルアミド制電剤の繊維軸方向の平均長さLと前記Dとの比L/Dが100以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布帛の柔軟な風合いと外観を損なうことなく優れた制電性を有する制電性布帛およびカーシート用表皮材に関する。
【背景技術】
【0002】
布帛の用途によっては、優れた制電性を有することが求められている。例えば、布帛がカーシート用表皮材などとして使用される場合、搭乗者にはかかる布帛との摩擦によって発生する静電気が蓄積される。その結果、搭乗者がノブ等の金属部分に接触すると、蓄積された静電気が一気に放電され、搭乗者に電撃ショックが与えられることがあった。
このため、例えば特許文献1などでは、カーボンブラックを含有する導電性繊維を間欠的に配列させた布帛が提案されている。
【0003】
しかしながら、かかる布帛は柔軟な風合いと優れた制電性とを有するものであるが、黒色の導電性繊維が布帛に含まれるため、外観の点で十分とはいえなかった。
なお、本出願人は、特願2007−180825号において、特定のポリエーテルエステルアミド粒子を含む制電性ポリエステル繊維を提案した。
【0004】
【特許文献1】特開2005−113345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、布帛の柔軟な風合いと外観を損なうことなく極めて優れた制電性を有する制電性布帛およびカーシート用表皮材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、織物組織または編物組織を有する布帛において、特定の制電性ポリエステル繊維を含む制電性糸条を間欠配列させることにより、布帛の柔軟な風合いと外観を損なうことなく極めて優れた制電性を有する制電性布帛が得られることを見出し、さらに鋭意検討することにより本発明に到達した。
【0007】
かくして本発明によれば、「織物組織または編物組織を有し、かつ制電性糸条が経方向および/または緯方向に間欠配列されてなる制電性布帛であって、前記制電性糸条が、下記(1)〜(3)の要件を全て満足する制電性ポリエステル繊維を含むことを特徴とする制電性布帛。」が提供される。
(1)ポリエーテルエステルアミド制電剤を制電性ポリエステル繊維重量に対して3〜10重量%含む。
(2)制電性ポリエステル繊維の繊維軸と直交する断面におけるポリエーテルエステルアミド制電剤の平均粒子径Dが10〜40nmである。
(3)制電性ポリエステル繊維の繊維軸方向に平行する断面におけるポリエーテルエステルアミド制電剤の繊維軸方向の平均長さLと前記Dとの比L/Dが100以上である。
【0008】
その際、前記制電性糸条の間欠の間隔が2〜50mmの範囲内であることが好ましい。また、前記ポリエーテルエステルアミド制電剤が、両末端にカルボキシル基を有する数平均分子量500〜5000のポリアミド(a)と数平均分子量1600〜3000のビスフェノール類のエチレンオキシド付加物(b)から誘導されたポリエーテルエステルアミドを含むことが好ましい。また、前記ポリエーテルエステルアミドが、その相対粘度が1.5〜3.0の範囲内であり、かつその相溶性パラメーターが基体となるポリエステルの相溶性パラメーターに対して−0.5(J/cm)^1/2〜+0.5(J/cm)^1/2の範囲内であることが好ましい。また、前記制電糸条が芯鞘型複合糸であり、前記制電性ポリエステル繊維が芯鞘型複合糸の芯部に配され、ポリエステル繊維が鞘部に配されていることが好ましい。また、前記制電性ポリエステル繊維の単糸繊度が5.0dtex以下であることが好ましい。また、他の繊維糸条として、ポリエステル繊維糸条が含まれることが好ましい。また、布帛がパイル布帛であり、該パイル布帛の地組織部に前記制電性糸条が経方向および/または緯方向に間欠配列されていることが好ましい。また、人体帯電圧試験法で3000V以下であることが好ましい。
また、本発明によれば、前記の制電性布帛を含むカーシート用表皮材が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、布帛の柔軟な風合いと外観を損なうことなく極めて優れた制電性を有する制電性布帛およびカーシート用表皮材が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の制電性布帛は編物または織物構造を有する布帛であって、制電性ポリエステル繊維を含む制電性糸条が経方向および/または緯方向に間欠配列されている。
ここで、前記制電性ポリエステル繊維にはポリエーテルエステルアミド制電剤がブレンドされている。かかるポリエーテルエステルアミド制電剤としては、高分子量ビスフェノール類のエチレンオキシド付加物から誘導されるポリエーテルエステルアミドのみからなる制電剤でもよいが、該ポリエーテルエステルアミドに有機電解質を所定量含有したポリエーテルエステルアミド制電剤が好ましい。
【0011】
前記有機電解質としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ノニルベンゼンスルホン酸、ヘキサデシルスルホン酸およびドデシルスルホン酸などのスルホン酸と、ナトリウム、カリウムおよびリチウムなどのアルカリ金属から形成されるスルホン酸のアルカリ金属塩、ジステアリルリン酸ソーダなどのリン酸のアルカリ金属塩などが挙げられ、なかでもアルキルスルホン酸ソーダなどのスルホン酸の金属塩が良好である。含有量は、ポリエーテルエステルアミド重量対比0.05〜0.8wt%が好ましい。該含有量が0.05wt%以下では、制電性が不十分となるおそれがある。逆に該含有量が0.8wt%以上では、均一に分散せず、会合状態を形成して分散性不良やそれに伴う白化現象を引き起こすおそれがある。
【0012】
本発明において、ポリエーテルエステルアミド(ポリエーテルエステルアミド(A)と略称する場合がある)は、両末端にカルボキシル基を有する数平均分子量500〜5000のポリアミド(a1)と数平均分子量1600〜3000のビスフェノール類のエチレンオキサイド付加物(a2)から誘導されることが好ましい。
【0013】
(a1)は、(1)ラクタム開環重合体、(2)アミノカルボン酸の重縮合体もしくは(3)ジカルボン酸とジアミンの重縮合体であり、(1)のラクタムとしては、カプロラクタム、エナントラクタム、ラウロラクタム、ウンデカノラクタム等が挙げられる。(2)のアミノカルボン酸としては、ω−アミノカプロン酸、ω−アミノエナント酸、ω−アミノペルゴン酸、ω−アミノカプリン酸,11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等が挙げられる。(3)のジカルボン酸としては、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン酸、ドデカンジ酸,イソフタル酸等が挙げられ、またジアミンとしては、ヘキサメチレンジアミン,ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、デカメチレンジアミン等が挙げられる。上記アミド形成性モノマーとして例示したものは2種以上を併用してもよい。これらのうち好ましいものは、カプロラクタム,12−アミノドデカン酸およびアジピン酸−ヘキサメチレンジアミンであり、特に好ましいものは、カプロラクタムである。
【0014】
(a1)は、炭素数4〜20のジカルボン酸成分を分子量調整剤として使用し、これの存在下に上記アミド形成性モノマーを常法により開環重合あるいは重縮合させることによって得られる。炭素数4〜20のジカルボン酸としては、コハク酸、グルタル酸,アジピン酸,ピメリン酸,スベリン酸,アゼライン酸,セバシン酸、ウンデカジ酸,ドデカンジ酸等の脂肪酸ジカルボン酸; テレフタル酸,イソフタル酸,フタル酸,ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ジシクロヘキシル−4,4−ジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸;3−スルホイソフタル酸ナトリウム,3−スルホイソフタル酸カリウム等の3−スルホイソフタル酸アルカリ金属塩などが挙げられる。これらのうち好ましいものは脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸および3−スルホイソフタル酸アルカリ金属塩である。上記(a1)の数平均分子量は、通常500〜5000、好ましくは500〜3000である。数平均分子量が500未満ではポリエーテルエステルアミド自体の耐熱性が低下し、5000を超えると反応性が低下するためポリエーテルエステルアミド(A)製造時に多大な時間を要する。
【0015】
ビスフェノール類のエチレンオキシド付加物(a2)のビスフェノール類としては、ビスフェノールA(4,4’−ジヒドロキシジフェニル−2,2−プロパン)、ビスフェノールF(4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン)、 ビスフェノールS(4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン)および4,4’−ジヒドロキシジフェニル−2,2ブタン等が挙げられ、これらのうちビスフェノールAが好ましい。(a2)はこれらのビスフェノール類にエチレンオキシドを常法により付加させることにより得られる。また、エチレンオキシドと共に他のアルキレンオキシド(プロピレンオキシド,1,2−ブチレンオキシド,1,4−ブチレンオキシド等)を併用することもできるが、他のアルキレンオキシドの量はエチレンオキシドの量に基づいて通常10重量以下である。
【0016】
ビスフェノール類を用いない場合はポリエーテルエステルアミドの相対粘度が低下し繊維内での粒子径(D)が小さくなり好ましくない。ビスフェノール類の使用量はポリエーテル成分中1〜数モル%含むことが望ましい。
【0017】
上記(a2)の数平均分子量は、通常1600〜3000であり、特にエチレンオキシド付加モル数が32〜60のものを使用することが好ましい。数平均分子量が1600未満では、制電防止性が不十分となり、3000を超えると反応性が低下するためポリエーテルエステルアミド(A)製造時に多大な時間を要する。
【0018】
(a2)は、前記(a1)と(a2)の合計重量に基づいて20〜80重量%の範囲で用いられる。(a2)の量が20重量%未満ではポリエーテルエステルアミド(A)の帯電防止性が劣り、80重量%を超えると耐熱性が低下するために好ましくない。
【0019】
又上記の本発明のポリエーテルエステルアミド(A)の組成は、基体となるポリエステルとの相溶性に極めて重要な要件である。相溶性は一般に相溶性パラメーター(溶解度パラメーターとも呼ぶ)が近いものほど親和性が増し界面剥離が生じにくくなる。
【0020】
従って本発明のポリエーテルエステルアミド(A)の相溶性パラメーターはポリエステルの相溶性パラメーター値に対して、−0.5(J/cm)^1/2〜+0.5(J/cm)^1/2の範囲内の制電剤ポリマー組成とすることが好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレートの場合は、相溶性パラメーターが20.9(J/cm)^1/2であることから、ポリエーテルエステルアミドの相溶性パラメーターは20.4〜21.4の範囲であることが好ましい。この範囲を超えると、ポリエステルと制電ポリマーの界面接着性が不十分なため、後加工工程および着用時の摩擦によって界面剥離による白化現象が起こるおそれがある。より好ましくは、ベースポリエステルに対して、−0.3(J/cm)^1/2〜+0.3(J/cm)^1/2の範囲内がよい。
ポリエーテルエステルアミド(A)の相溶性パラメーターを調整するためにはポリアミド成分量とポリエーテル成分量の構成比等を調整することにより行える。
【0021】
ポリエーテルエステルアミド(A)の製法としては、下記製法1または製法2が例示されるが、特に限定されるものではない。
製法1:アミド形成性モノマーおよびジカルボン酸を反応させて(a1)を形成せしめ、これに(a2)を加えて、高温、減圧下で重合反応を行う方法。
製法2:アミド形成性モノマーおよびジカルボン酸と(a2)を同時に反応槽に仕込み、水の存在下または非存在下に、高温で加圧反応させることによって中間体として(a1)を生成させ、その後減圧下で(a1)と(a2)との重合反応を行う方法。
【0022】
また、上記の重合反応には、公知のエステル化触媒が通常使用される。該触媒としては、例えば三酸化アンチモンなどのアンチモン系触媒、モノブチルスズオキシドなどのスズ系触媒、テトラブチルチタネートなどのチタン系触媒、テトラブチルジルコネートなどのジルコニウム系触媒,酢酸亜鉛などの酢酸金属塩系触媒などが挙げられる。触媒の使用量は、(a1)と(a2)の合計重量に対して通常0.1〜5重量%である。
【0023】
ポリエーテルエステルアミド(A)の相対粘度は、1.5〜3.5(0.5重量%m−クレゾール溶液を用い、25℃で測定する。)、好ましくは、1.5.0〜3.0であることが好ましい。1.5未満では、制電剤の分散粒径が小さくなり制電性が不足するおそれがある。また、3.5を超える範囲では、製糸段階での断糸原因となるおそれがある。
【0024】
ポリエーテルエステルアミド制電剤のポリエステルへの添加量は、3〜10重量%であることが肝要である。好ましくは、6〜9重量%の範囲である。3重量%未満では、制電性が不足であり、10重量%を超える場合は、製糸工程調子の悪化や強度低下、また熱セット性の低下により品位低下を招くおそれがあり好ましくない。
【0025】
ポリエーテルエステルアミド制電剤をブレンドするポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートに代表されるポリアルキレンテレフタレート,ポリアルキレンフタレート等が挙げられるが、中でも前者のテレフタル酸を主たる酸成分とし、炭素数2〜6のアルキレングリコール成分、即ちエチレングリコール、トリメチレングリコール,テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール及びヘキサメチレングリコールから選ばれた少なくとも一種のグリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルを対象とする。かかるポリエステルは任意の方法で製造されたものでよく、例えばポリエチレンテレフタレートについて説明すれば、テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルの如きテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、又はテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応させるなどして、テレフタル酸のグリコールエステル及び/又はその低重合度を生成させ、次いでこの生成物を減圧下加熱して所望の重合度になるまで重縮合反応させることによって製造される。
【0026】
なお、上記ポリエステルはそのテレフタル酸成分の一部を他の二官能性カルボン酸成分で置き換えてもよい。かかるカルボン酸としては、例えば、イソフタル酸、フタル酸、ジブロモテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルカルボン酸、ジフェキシエタンジカルボン酸、β−オキシエトキシ安息香酸の如き二官能性芳香族カルボン酸、セバシン酸、アジピン酸、シュウ酸の如き二官能性脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等を挙げることができる。また上記グリコール成分の一部を他のグリコール成分で置き換えてもよく、かかるグリコール成分としては例えばシクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ネオペンチルグリコール,ビスフェノールA,ビスフェノールS、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−(2−ハイドロキシエトキシ)フェニル)プロパンの如き脂肪族、脂環族、芳香族のジオールが挙げられる。更に、上述のポリエステルに必要に応じて他のポリマーを少量ブレンド溶融したもの、ペンタエリスリオトール、トリメチロールプロパン、トリメリット酸等の鎖分岐剤を少割合使用したものであってもよい。このほか本発明のポリエステルは通常のポリエステルと同様に酸化チタン、カーボンブラック等の顔料他、従来公知の抗酸化剤、着色防止剤が添加されていても勿論良い。
【0027】
本発明のポリエーテルエステルアミド(A)の制電性ポリエステル繊維内での分散状態は重要な発明要件であり下記要件を満足する必要がある。
(1)繊維軸に直交する断面でのポリエーテルエステルアミド(A)の平均粒径Dが10〜40nmの範囲であることが必要である。好ましくは、10〜30nmの範囲である。10未満の場合は、摩擦帯電圧は2500を超えて、制電性が不足し、一方40nmを越える大きさの場合は、各フィラメントの太さ斑が発生しやすく、紡糸・延伸加工断糸などが多発し生産性が悪くなる。
(2)繊維軸に平行する断面でのポリエーテルエステルアミド(A)粒子の繊維軸方向の平均長さLとしたとき、L(繊維軸方向の粒子の平均長さ)/D(繊維軸に直交する断面での平均粒子径)が100以上必要である。制電性付与には、制電剤が繊維内で、長く連なった状態であり電荷が移動しやすい場を提供することが重要である。そのため、剤の繊維軸方向の長さは長いほど好ましい。好ましくは、200〜400である。L/Dは、後述するように溶融紡糸時の剪断速度や紡糸ドラフト率により、容易に調整することができる。
【0028】
前記の制電性ポリエステル繊維の製造方法としては、以下の製造方法が好ましく例示される。すなわち、又制電性ポリエステル繊維内のポリエーテルエステルアミド(A)の分散状態を決定する要件として、製造方法における紡糸工程での口金内での剪断および口金吐出後の紡糸ドラフトが重要である。これは、制電剤の粒径と長さをある範囲内に設定することにより制電性と品位を達成するために必要な要件である。すなわち、吐出孔内での剪断速度(式1)が400〜9000の範囲になるように、口金孔径と吐出量を設定する必要がある。
剪断速度:Vs(sec−1)=4Q(cm/sec)/πr(cm)^3・・・式1
Q:吐出孔1孔あたりのポリマー吐出量(cm/sec)
r:吐出孔の半径(cm
【0029】
吐出量に対して、孔径が大きすぎると吐出孔内での制電剤の分散(粒径細化)作用が小さいために、粒径のばらつきが大きく、断糸の原因となりやすい。一方、吐出孔径を小さくしすぎて、分散作用が大きすぎると、粒径が小さくなり、制電効果が未達である。従って、剪断速度400〜9000の範囲が必要であり、このましくは、600〜8000の範囲である。また、吐出孔からの押し出し速度V1と引き取りローラー速度V2の比である紡糸ドラフト率=V2/V1が、200〜2000までの範囲であることが必要である。これは、吐出されたブレンドポリマー流内ではある範囲の粒径をもった丸から楕円状をした形状をもっており、その中でポリマー流全体は冷却を受けながら徐々に引き伸ばされ加速し、ガラス転移温度になった時点で引き取り速度V2に達している。その間の加速度dV/dxが紡糸ドラフトを大きくすると大きくなり、ポリマー流は大変形をうけることになる。従って、制電剤を引き伸ばすには、ドラフトを大きい範囲、すなわち200〜2000とする必要がある。ここで、200未満の場合は、剤の伸長が不十分でありL/Dが130未満となり制電性が不足である。一方で、2000を超える場合には、大変形作用が過剰であり紡糸断糸の問題があり不十分である。
【0030】
次いで、常法により延伸し必要に応じて熱セットすることにより、前記制電性ポリエステル繊維が得られる。
かくして得られた制電性ポリエステル繊維において単糸繊度が5dtex以下(より好ましくは0.1〜5dtex)であることが好ましい。該単糸繊度が5dtexよりも大きいと布帛のソフトな風合いが損われるおそれがある。制電性ポリエステル繊維のフィラメント数は10〜150、総繊度は30〜300dtexであることが好ましい。単繊維の断面形状には制限はなく、通常の円形断面のほかに三角、扁平、十字形、六様形、あるいは中空形の断面形状を有していてもよい。また、繊維に仮撚捲縮加工や空気加工が施されていてもよい。
【0031】
本発明において、制電性糸条は前記制電性ポリエステル繊維単独からなる糸条でもよし、前記制電性ポリエステル繊維からなる糸条と他糸条との複合糸であってもよい。特に、前記制電糸条が芯鞘型複合糸であり、前記制電性ポリエステル繊維が芯鞘型複合糸の芯部に配され、前記のようなポリエステルからなるポリエステル繊維が鞘部に配されていることが好ましい。このように、制電性ポリエステル繊維が芯鞘構造の芯部に配されていると、制電性能を持続させることができ好ましい。
【0032】
ここで、鞘部に配されるポリエステル繊維の総繊度は20〜150dtex、フィラメント数は10〜300本(より好ましくは100〜300本)、単繊維繊度3dtex以下(より好ましくは0.00001〜1dtex)の範囲が好ましい。この範囲よりも鞘部繊維(ポリエステル繊維)の総繊度が小さいと、布帛形成時に芯糸が露出し品位が低下しやすく、また大きいと混繊糸の取扱い性の点で実用に耐えないおそれがある。
【0033】
なお、前記複合糸は、インターレースノズルなどを用いた空気混繊糸が好ましいが、複合仮撚糸でもよい。また、前記のように芯鞘構造を形成する方法は公知の方法でよく、例えば、芯部用の制電性ポリエステル繊維の沸水収縮率を鞘部用のポリエステル繊維よりも大きくし、熱処理するとよい。
【0034】
本発明の制電性布帛は、前記の制電性糸条と、該制電性糸条以外の他糸条とで構成される。ここで、他糸条を形成する繊維としては、綿、羊毛、麻などの有機天然繊維、ポリエステル、ナイロン、及びポリオレフィン繊維などの有機合成繊維、セルロースアセテート繊維などの有機半合成繊維及、ビスコースレーヨン繊維などの有機再生繊維から選ばれるものであり、特にその種類は限定されない。なかでも、繊維強度や取り扱い性の点でポリエステル繊維が好適である。かかるポリエステル繊維は、ジカルボン酸成分と、ジグリコール成分とから製造される。ジカルボン酸成分としは、主としてテレフタル酸が用いられることが好ましく、ジグリコール成分としては主としてエチレングリコール、トリメチレングリコール及びテトラメチレングリコールから選ばれた1種以上のアルキレングリコールを用いることが好ましい。また、ポリエステルには、前記ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に第3成分を含んでいてもよい。第3成分としては、カチオン染料可染性アニオン成分、例えば、ナトリウムスルホイソフタル酸;テレフタル酸以外のジカルボン酸、例えばイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸;及びアルキレングリコール以外のグリコール化合物、例えばジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールスルフォンの1種以上を用いることができる。
【0035】
該他糸条を形成する繊維には、必要に応じて艶消し剤(二酸化チタン)、微細孔形成剤(有機スルホン酸金属塩)、着色防止剤、熱安定剤、難燃剤(三酸化二アンチモン)、蛍光増白剤、着色顔料、制電剤(スルホン酸金属塩)、吸湿剤(ポリオキシアルキレングリコール)、抗菌剤、その他の無機粒子の1種以上を含有させてもよい。
【0036】
他糸条の形態は特に限定されず、長繊維(マルチフィラメント)、短繊維いずれでもよいが、柔軟な風合いを得る上で長繊維が好ましい。さらには、通常の仮撚捲縮加工、撚糸、インターレース空気加工が施されていてもよい。有機繊維の繊度は特に限定されないが、柔軟な風合いを得る上で単繊維繊度は0.1〜3dtex、フィラメント数は20〜150、総繊度は30〜300dtexであることが好ましい。単繊維の断面形状には制限はなく、通常の円形断面のほかに三角、扁平、十字形、六様形、あるいは中空形の断面形状を有していてもよい。
なお、本発明の制電性布帛には、上記の他糸条が1種含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
【0037】
次に、本発明の制電性布帛において、その布帛組織は織物でもよいし編物でもよい。
ここで、織物の織組織は、平織、斜文織、朱子織等の三原組織、変化組織、変化斜文織等の変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロード、タオル、ベロア等のたてパイル織、別珍、よこビロード、ベルベット、コール天等のよこパイル織などが例示される。なお、これらの織組織を有する織物は、レピア織機やエアージェット織機など通常の織機を用いて通常の方法により製織することができる。
【0038】
編物の種類は、よこ編物であってもよいしたて編物であってもよい。よこ編組織としては、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が好ましく例示され、たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等が好ましく例示される。なお、製編は、丸編機、横編機、トリコット編機、ラッシェル編機等など通常の編機を用いて通常の方法により製編することができる。
【0039】
本発明の制電性布帛において、前記の制電性糸条が経方向および緯方向の少なくともいずれかの方向に間欠配列されている。
前記の制電性糸条を間欠配列する方法としては、市販のミシン等を用いて、前記の制電性糸条を布帛に縫いこむ方法や、好ましくはあらかじめ布帛に交織、交編する方法が例示される。
【0040】
例えば、織物の場合、前記の制電性糸条を布帛上で等間隔で配列されるように整経で配列させたり、織機上で緯糸の打ち込みを行うことが好ましい。また、編物の場合、給糸する一部の糸を前記の制電性糸条として編成することが好ましい。なかでも、地組織部と立毛部とからなるパイル織編物が極めて好ましい。地組織部に前記の制電性糸条を間欠配列させることが好ましく、特に、かつ立毛部にも前記の制電性糸条が一部(好ましくは立毛部に混率で0.1〜3重量%)含まれるようにすると、立毛部に含まれる前記の制電性糸条が人体と接触するため極めて優れた制電性が得られる。
【0041】
前記の制電性糸条の配列される間隔としては、2〜50mm(より好ましくは3〜30mm)の範囲内であることが好ましい。該間隔が50mmよりも大きいと、優れた制電性が得られない恐れがある。逆に、該間隔が2mmよりも小さいと、柔軟な風合いが損なわれる恐れがある。
【0042】
本発明の制電性布帛において、上記の布帛に制電加工処理を施すことは好ましいことである。かかる制電加工処理としては、通常の制電剤を通常の後加工処理で布帛に付与するものでよい。
【0043】
かかる制電剤としては、例えば、ポリエチレングリコールを親水性成分とし、これをアクリル系やポリエステルにグラフト重合した樹脂タイプの制電剤や、ポリアルキレングリコール(例えば、ポリエチレングリコール)単位(基)と4級アンモニウム塩基などの制電性能を有する官能基を有し、かつ少なくとも2個のイソシアネート基を有する化合物からなる制電加工用ポリウレタン樹脂、特開平10−325076号公報に開示されたスルホン酸塩と4級アンモニウム塩とイミダゾリニウム塩とからなる制電剤などが例示される。なかでも、耐久性の点でポリエステル系制電剤が極めて好適である。特に、前記の有機繊維としてポリエステル繊維を選定した場合には優れた耐久性が得られる。
【0044】
布帛に制電剤を付与する方法としては特に限定されるものではなく、布帛の少なくとも片面に、パデング方式、乾式コーテイング方式、湿式コーテイング方式、ラミネート方式などにより樹脂皮膜を形成する方法や、染色と同浴で制電剤を付与する方法などがあげられる。
【0045】
例えば、まず制電剤を含む処理液を準備する。その際、処理液中の制電剤の濃度としては、0.1〜15wt%(より好ましくは1〜8wt%)の範囲が適当である。また、該処理液中には、必要に応じて触媒、仕上げ加工剤、例えば撥水剤、柔軟剤、難燃剤、抗菌防臭加工剤などを添加してもよい。次いで、80〜140℃の温度で1〜30分乾燥し、必要に応じてさらに160〜180℃で0.5〜3分間加熱(キュアー)すればよい。
【0046】
また、染色と同浴で制電剤を付与する場合は、例えば、通常の分散染料のほか、制電剤、均染剤、pH調製剤等を含んだ染料水溶液にて100〜135℃で20〜70分染色を行う。
【0047】
このようにして付与される制電剤の重量%は布帛に対して、1〜10重量%(より好ましくは2〜6重量%)であることが好ましい。該付着量が1重量%よりも小さいと充分な制電性が得られない恐れがある。逆に、該付着量が10重量%よりも大きいと、柔軟な風合いが損なわれる恐れがある。
【0048】
本発明の制電性布帛には、必要に応じて減量率5〜40%程度の通常の減量加工、さらには、常法の染色仕上げ加工、吸水加工、撥水加工、起毛加工、シャーリング、さらには、紫外線遮蔽あるいは、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【0049】
かくして得られた制電性布帛において、制電性としては、人体帯電圧試験法(試験環境条件:10℃、30%RH)で3000V以下(より好ましくは50〜2600V)であることが好ましい。また、摩擦耐電圧で100V以下(より好ましくは2〜50V)であることが好ましい。このように優れた制電性を有すると、カーシート用表皮材など極めて優れた制電性を必要とする分野に好適に使用することができる。
【0050】
本発明の制電性布帛において、前記制電性糸条が経方向および/または緯方向に間欠配列されているため、静電気が極めてスムーズに放出される。その結果、優れた制電性が得られる。しかも柔軟な風合いや外観が損なわれることもない。
【実施例】
【0051】
以下、実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、実施例中の各物性は下記の方法により測定したものである。
【0052】
(1)制電剤の粒径およびL/D測定
本発明のポリエステル繊維の厚さ100nmの繊維に直交する断面切片を作製し、透過型電子顕微鏡にて測定するために観察し、繊維断面内の粒子の直径をn=100にて測定し、平均値を算出する。
【0053】
(2)制電剤のL/Dの測定
本発明のポリエステル繊維を透過型電子顕微鏡にて測定するために、厚さ100nmの繊維軸方向切片を作製し、観察する。この時、繊維軸方向の制電剤粒子の長さをn=50にて測定し、平均値を算出する。その平均L値と(1)の平均D値の比を算出して、L/D値を求める。
【0054】
(3)摩擦帯電圧測定
試料混繊糸を用いて丸編みとし、JIS L 1094 摩擦帯電圧測定法に準じて測定し、摩擦開始から60秒後の帯電圧(V)を測定し混繊糸の摩擦帯電圧とする。測定は、温度19〜21℃、相対湿度38〜42%の状態の試験室中で実施した。タテ糸方向ヨコ糸方向各n=5にて測定し、摩擦布にはJIS L 0803に規定の綿添付白布を用いた。
【0055】
(4)白化テスト
染色工程を終えた試験布を準備する。145〜155℃にあらかじめ加熱した電気アイロンを用いて試験布上を毎秒2cmの速さで6回(3往復)スライドさせる。尚、温度は電気アイロン底面中央部の表面温度である。次に高温のアルカリ水溶液に用いて15%減量を行う。これら二段階にわたって外部から負荷を与えた試験布(L1)と、外部から負荷を与えていない試験布(L0)のL値(白化度)の測色n=2を行い、次の式で求めた色差値を白化性とする。
白化性=L1−L0
白化性は1.0以下を合格とする。
【0056】
(5)人体耐電圧試験法
車両シート上に載置された布帛の上に、ウール製衣服を着用した人が着座後、腰を左右に動かし、シートと人体の摩擦運動を10回繰り返した後立ち上がり、立ち上がった際の人体耐電圧を測定(n数=3)するとともに人体への衝撃の有無をショック度大、有り、小、無し(最良)の4段階評価した(試験環境条件:10℃、30%RH)。
【0057】
(6)摩擦耐電圧
JIS L 1094−1997に準じて、試験環境条件:20℃、40%RHで摩擦耐電圧(V)をn数3で測定した。
【0058】
(7)風合い(硬さ)
試験者3名により官能評価し、「良好」(ソフト性に優れる)、「普通」、「不良」(硬い)の3段階で評価した。
【0059】
(8)外観
試験者3名により目視評価し、「良好」(外観に優れる)、「普通」、「不良」(外観に劣る)の3段階で評価した。
【0060】
[参考例1〜4]
表1に記載のポリエーテルエステルアミド制電剤(イオン性物質として、アルキルスルホン酸Naをポリエーテルエステルアミド重量に対し0.8%重量含む。)を80℃で乾燥したものを、160℃で乾燥した高収縮性のポリエチレンテレフタレートチップ(全酸成分イソフタル酸を10mol%共重合、IV=0.64、相溶性パラメーター20.9)とブレンドして溶融温度295℃にて溶融後、400Mフィルターを口金上部に配置してなるパックを通して、表1に記載の通り、口金孔径・ホール数条件および添加量を変化させて、ポリマーを吐出し巻き取った。その原糸を用いて、予熱温度90℃のローラーおよびセット温度170℃のスリットヒーターにて延伸熱セットし、温水収縮率が16%の制電性ポリエステル糸条を作製した。
【0061】
別にポリエチレンテレフタレートを常法によって、144孔を有する口金より吐出し70デシテックスの表1に示す高配向未延伸糸を作製した後、先の制電性ポリエステル糸条と引き揃え、空気交絡法によって混繊糸を作製した。混繊糸の摩擦帯電圧は表1に示す通りである。
【0062】
尚この混繊糸を20Gの筒編み機にて丸編み状態とし、80℃にて精錬を行い水洗乾燥後、布重量換算で4%の染料を用いて120℃にて高圧染色し乾燥した。得られた布帛は制電性ポリエステル糸条が収縮して芯糸に、相手方のポリエチレンテレフタレート糸条が鞘糸に位置するフクラミ感が良好な芯鞘混繊糸布帛であった。
【0063】
参考例1,2,3,4は、ポリエーテルエステルアミド(以下PEEA)の量が適正で相溶性パラメーターが範囲内のものであり、口金内剪断速度およびドラフトなどの製糸条件が本発明の範囲内にあることから、制電剤の粒径・繊維軸方向長さを満足し、混繊糸の摩擦帯電圧、白化現象も良好で、性能と品位に優れた制電性ポリエステル混繊糸となっている。
【0064】
[参考例5〜11]
参考例5〜11では表1に示す通り、紡糸準備段階までは実施例と同様に行い、紡糸段階で吐出量、制電剤ブレンド率についてそれぞれ変更して行った。参考例5は、PEEAの添加量が少ない為に、制電性が不十分であり、一方参考例6においては、PEEAの添加量が多すぎるために、紡糸における断糸が頻発し、本発明を満足するものではない。参考例7は、参考までにPEEAを添加しないものであり混繊糸の摩擦帯電圧が高く、参考例8は相対粘度が高く発明外のものであり紡糸調子が悪く又白化が見られ、参考例9はビスフェノールAを含有しないポリエーテルエステルアミドであり、粘度が低く繊維内での粒径が小さく理由は定かでないが混繊糸の摩擦帯電圧は高いものとなった。参考例10,11は相溶性パラメーターが低い制電剤、高い制電剤でいずれも白化と混繊糸の摩擦帯電圧が満足しない。
【0065】
【表1】

【0066】
[実施例1]
通常のトリコット経編機を用いて、バック筬(B)に総繊度84dtex/36filの通常のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント、ミドル筬1(M1)に総繊度84dtex/36filの通常のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント、ミドル筬2(M2)に前記参考例1で得られた制電混繊糸(制電性糸条)、フロント筬(F)に総繊度165dtex/96filの通常のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントを配し、図1に示す編成図にしたがって、B:1,2−1,0/M1:1,0−1,2/M2:(1,0−1,2)*7回リピート+(1,0−5,6)/F:1,0−5,6となるようにトリコットベロア生地を編成した後、通常の起毛加工を施し、その際、図1の破線個所(A−A´)を切断することにより立毛させた。
【0067】
次いで、該生地に常法の精錬、リラックス処理を施したのち、分散染料カヤロン・ポリエスター・スカーレットGS(日本化薬(株)製)3.5%owfで、130℃の温度で60分間の時間で染色と制電加工とを同浴で行い制電性布帛(57コース/2.54cm,35ウエール/2.54cm)を得た。かかる布帛において、地組織部では制電混繊糸が15mm間隔で経方向に間欠配列しており、かつ立毛部に制電混繊糸が一部含まれていた。
【0068】
得られた制電性布帛において、人体耐電圧2520V、ショック度無し、摩擦耐電圧30Vと極めて優れた制電性を有しており、風合い「良好」、外観「良好」であった。
次いで、該制電性布帛を用いてカーシート用表皮材を得た。かかるカーシート用表皮材は、優れた制電性を有しており、風合い「良好」、外観「良好」であった。
【0069】
[比較例1]
実施例1において、制電混繊糸を含まない布帛とすること以外は実施例1と同様にした。得られた布帛において、人体耐電圧12750V、ショック度大、摩擦耐電圧2230Vと制電性の点で不十分であった。風合いは「良好」であった。
【0070】
[比較例2]
実施例1において、制電混繊糸のかわりに帝人デュポンナイロン社製導電糸25−3(製品名:セルカット、カーボンブラック含有繊維、表面電気抵抗値10EΩ/cm)を用いること以外は実施例1と同様にした。
得られた制電性布帛において、優れた制電性を有していたが、外観「不良」であった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の制電性布帛は、布帛の柔軟な風合いと外観を損なうことなく極めて優れた制電性を有するので、カーシート用表皮材として好適に使用することができる。また、カーシート用表皮材以外の車両内装用、家庭内装用、オフィス内装用、一般衣料、スポーツ衣料などの用途にも適用でき、その工業的価値は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】実施例1で用いた編成図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
織物組織または編物組織を有し、かつ制電性糸条が経方向および/または緯方向に間欠配列されてなる制電性布帛であって、前記制電性糸条が、下記(1)〜(3)の要件を全て満足する制電性ポリエステル繊維を含むことを特徴とする制電性布帛。
(1)ポリエーテルエステルアミド制電剤をポリエステル重量対比3〜10重量%含む。
(2)制電性ポリエステル繊維の繊維軸と直交する断面におけるポリエーテルエステルアミド制電剤の平均粒子径Dが10〜40nmである。
(3)制電性ポリエステル繊維の繊維軸方向に平行する断面におけるポリエーテルエステルアミド制電剤の繊維軸方向の平均長さLと前記Dとの比L/Dが100以上である。
【請求項2】
前記制電性糸条の間欠の間隔が2〜50mmの範囲内である、請求項1に記載の制電性布帛。
【請求項3】
前記ポリエーテルエステルアミド制電剤が、両末端にカルボキシル基を有する数平均分子量500〜5000のポリアミド(a)と数平均分子量1600〜3000のビスフェノール類のエチレンオキシド付加物(b)から誘導されたポリエーテルエステルアミドを含む、請求項2に記載の制電性布帛。
【請求項4】
前記ポリエーテルエステルアミドが、その相対粘度が1.5〜3.0の範囲内であり、かつその相溶性パラメーターが基体となるポリエステルの相溶性パラメーターに対して−0.5(J/cm)^1/2〜+0.5(J/cm)^1/2の範囲内である、請求項1〜3のいずれかに記載の制電性布帛。
【請求項5】
前記制電糸条が芯鞘型複合糸であり、前記制電性ポリエステル繊維が芯鞘型複合糸の芯部に配され、ポリエステル繊維が鞘部に配されてなる、請求項1〜4のいずれかに記載の制電性布帛。
【請求項6】
前記制電性ポリエステル繊維の単糸繊度が5.0dtex以下である、請求項1〜5のいずれかに記載の制電性布帛。
【請求項7】
他の繊維糸条として、ポリエステル繊維糸条が含まれる、請求項1〜6のいずれかに記載の制電性布帛。
【請求項8】
布帛がパイル布帛であり、該パイル布帛の地組織部に前記制電性糸条が経方向および/または緯方向に間欠配列されてなる、請求項1〜7のいずれかに記載の制電性布帛。
【請求項9】
人体帯電圧試験法で3000V以下である請求項1〜8のいずれかに記載の制電性布帛。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の制電性布帛を含むカーシート用表皮材。

【図1】
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【公開番号】特開2009−263808(P2009−263808A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−113969(P2008−113969)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】