説明

制電性樹脂組成物

【課題】卓越した制電性と耐衝撃性を有し、かつ、成形方法に起因する制電性の差が小さな制電性熱可塑性樹脂組成物の提供。
【解決手段】熱可塑性樹脂(a)に、アルキレンオキサイド基を有するゴム状幹重合体にエチレン系不飽和単量体をグラフト重合したグラフト共重合体(b)及びポリアミドエラストマー(c)を配合してなり、かつ、熱可塑性樹脂(a)に対するグラフト共重合体(b)及びポリアミドエラストマー(c)の配合比[(b)+(c)]/(a)が(40〜160)/100であり、ポリアミドエラストマー(c)に対するグラフト共重合体(b)の配合比(b)/(c)が0.5〜5.0である制電性熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制電性熱可塑性樹脂組成物に関するものであり、更に詳しくはアルキレンオキサイド基を有するゴム状幹重合体にエチレン系不飽和単量体をグラフト重合した親水性グラフト共重合体及びポリアミドエラストマーを配合してなる制電性熱可塑性樹脂組成物に関する。本制電性熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性等の機械強度にも優れ、成型手段によらず常に良好な制電効果を発現し得る。
【背景技術】
【0002】
1.熱可塑性樹脂と制電技術
熱可塑性樹脂は、軽量性、生産性、耐腐蝕性、低コストの面などから、家庭用、事務用、自動車搭載用などの用途を問わず、電気・電子機器のハウジング材やケーシング材等、あらゆる分野で使用されている。
しかし、熱可塑性樹脂は電気抵抗率が大きく強い帯電性を有しているため、接触または摩擦剥離等で誘起された静電気は逃散消失しにくく、ゴミやホコリを吸引して外観を損ねることにより成形品、シート、フィルム、繊維等に対してトラブルの原因になっている。
特に、これら熱可塑性樹脂を電気・電子機器等のハウジング(例えば、ハードディスクドライブ(以降「HDD」)搬送パッケージング等)や収納容器に用いた場合、静電誘導による静電破壊が大きな問題となる。
これら熱可塑性樹脂の欠陥を是正する方法の1つが、熱可塑性樹脂への制電性付与であり、代表的な制電化の方法は、以下のとおりである。
(イ)カーボン系粉末や金属粉末などの導電性付与剤(帯電防止剤)を熱可塑性樹脂中に混練する方法。
(ロ)界面活性剤等の化学物質を熱可塑性樹脂に混練したり、また表面に塗布する方法。
(ハ)熱可塑性樹脂成形品表面にシリコン系化合物を塗布する方法。
(ニ)高分子の構造を分子レベルで変換して熱可塑性樹脂それ自体を導電性とする方法、及びそれら変性された制電性(導電性)熱可塑性樹脂を他の熱可塑性樹脂にブレンドする方法。
このうち導電性付与剤(帯電防止剤)の熱可塑性樹脂中への混練法は、永久的な帯電防止には充分でなく、水洗、摩擦等の手段によって表面に存在する帯電防止剤が除去されてしまうと制電効果が失われる恐れがあり、また、時間の経過とともに帯電防止剤が表面にブリードしてゴミやホコリの粘着の原因となり、その結果、透明性を損なうなどの問題があった。
帯電防止剤を表面に塗布する方法においても、洗浄・磨耗等により制電効果が徐々に失われ、永久的な帯電防止には不十分である。
シリコン系化合物を表面に塗布する方法は、ほぼ半永久的な制電効果は期待できるとされるが、コスト的に割高であり、製品によっては現実的でない等の問題がある。
熱可塑性樹脂の構造を分子レベルで改質する方法は、熱可塑性樹脂に親水基を重合等の方法によって導入するものであるが、一般的に制電効果を発揮するためにはかなり多量の親水基を導入する必要があり、そのために熱可塑性樹脂本来の特性が犠牲になり、吸湿による機械的性質や他の物性の劣化が避けがたいものであった。
これらの方法のうち、最も簡便な方法が、
導電性付与剤(導電性フィラー)の混合である。導電性熱可塑性樹脂に用いられる導電性付与剤は、古くからカーボンブラックが使用されており、その形状もフレーク状、粉末状、繊維状など種々のものがある。
最近では導電性付与剤の各種素材の開発が進み、カーボンブラック以外にも銀、銅などの金属、酸化錫、酸化インジウムなどの金属化合物などの評価も進んできたが、依然としてカーボンブラックが主流を占めている。
この他、高分子又は低分子からなる有機系導電性付与剤(帯電防止剤)として、アニオン系帯電防止剤、カチオン系帯電防止剤、非イオン系帯電防止剤、両性帯電防止剤、錯体化合物、帯電防止性の可塑剤、高分子型帯電防止剤等が知られている。
高分子型帯電防止剤としては、ポリアミドエラストマー、ポリアミドイミドエラストマー、ポリエーテルアミドエラストマー、ポリエーテルエステルアミドエラストマー等のポリアミドエラストマー系、ポリエーテルエステルエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリエステルカーボネートエラストマー等のポリエステルエラストマー系、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンジアミン、ポリエーテル・ポリエステル・ポリアミドブロック共重合体等の非イオン性帯電防止剤;イオン性帯電防止剤;第4級アンモニウム塩型スチレン系重合体(ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド等)、第4級アンモニウム塩型アミノアルキル(メタ)アクリレート重合体(ポリジメチルアミノエチルメタクリレート4級アンモニウム塩化合物等)、第4級アンモニウム塩型ジアリルアミン重合体(ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド等)等のカチオン性界面活性剤;スルホン酸塩型スチレン系重合体(ポリスチレンスルホン酸ナトリウム等)等のアニオン系帯電防止剤等が知られている。(例えば、特許文献1参照。)
【0003】
2.制電特性と機械強度等の両立
体積固有抵抗率(単に体積抵抗率値ともいう)は、立方体素材に電圧をかけたとき、その内部に流れる電流と表面を流れる電流の2種類の電流が発生するが、そのうち内部に流れる電流に対する抵抗値を意味する。一般に、通常の熱可塑性樹脂の体積固有抵抗率は約1012Ω・m以上(約1014Ω・cm以上)であると言われている。
これら熱可塑性樹脂に導電性フィラー等の制電防止剤を混合するに際しては、制電効果のみならず、熱可塑性樹脂との相溶性、熱可塑性樹脂本来の機械強度特性、成型性等についても留意しなければならない。
熱可塑性樹脂に導電性付与剤を混合するとき、導電性付与剤の均一な分散が重要である。導電性付与剤と熱可塑性樹脂の組合せや混合方法、配合比によっては、熱可塑性樹脂本来の機械的特性を著しく低下させることがある。また、導電性付与剤、特に高分子型帯電防止剤を使用した場合、高分子型帯電防止剤の種類によってはプレス加工した場合、高分子型帯電防止剤の配向が不十分となり表面近傍で連続相を形成しないため、十分な制電特性を得ることができないなどの問題があり、成型法も射出成形など一部の成型法に制限され、プレス成型や押出成型が困難であるなどの問題があった。このように高分子型帯電防止剤を用いた場合、採用する成型方法によっては所望の制電特性が得られず、特にシート状製品や板状製品、あるいは長尺成型品の成形が困難であった。
従って、熱可塑性樹脂に導電性を付与するに際しては、制電性の向上という目的は勿論のこと、熱可塑性樹脂本来の機械強度特性等を維持して、電気特性と機械特性等を両立させることが重要であることは勿論であるが、成型方法と制電効果の関係についても十分考慮する必要がある。このことは特に高分子型帯電防止剤を使用した場合に重要である。
【0004】
3.制電性熱可塑性樹脂としての親水性グラフト重合体
高分子型帯電防止剤からなる制電防止剤は、上記のとおり様々なものが知られているが、アルキレンオキサイド基を有するゴム状幹重合体にエチレン系不飽和単量体をグラフト重合してなる親水性グラフト重合体が特に代表的であり、以下、これら親水性グラフト重合体について述べる。
【0005】
本出願人は、既に、4〜500個のアルキレンオキサイド基を有する単量体10〜50重量%と共役ジエン又は及びアクリル酸エステルとからなる電気抵抗性の小さいゴム幹重合体にビニル単量体又はビニリデン単量体をグラフト共重合して得られるグラフト共重合体と該グラフト共重合体と相溶し得る熱可塑性樹脂とからなる永久的な制電性を有する制電性樹脂組成物(特許文献2参照。)を開発している。また、同じく本出願人は、アルキレンオキサイド基を有するゴム状幹重合体のグラフト共重合体単独又は該グラフト共重合体と相溶し得る熱可塑性樹脂と該グラフト共重合体の混合樹脂100重量部に0.1〜5重量部のアニオン系、ノニオンアニオン系及びカチオン系海面活性剤から選ばれる帯電防止剤を混合してなる永久的な制電性を有する制電性樹脂組成物(特許文献3参照。)、これらグラフト共重合体からなるポリアルキレンオキサイドを含む親水性ポリマーに2価以上の金属塩を適量配合してなる、永久制電性を保持し、ほこり等の付着防止性に加えて、空気中の酸性ガスやアルカリ性ガス等のガス状汚染物の付着に伴うくもりや変色の発生を良好に抑制した制電性樹脂組成物(特許文献4参照。)、重合用乳化剤としてカルボン酸系界面活性剤を使用して得られたアルキレンオキサイド基を有するゴム状幹重合体にエチレン系不飽和単量体をグラフト重合したグラフト共重合体にJIS:K7120で定義される重量減少の開始温度が250℃以上であるアニオン系界面活性剤を配合してなる永久制電性の優れた制電性樹脂組成物(特許文献5参照。)を開発している。
【0006】
なお、ここで、「永久制電性」とは、次のような意味を有する。
一般的に、熱可塑性樹脂の制電効果は、熱可塑性樹脂表面への帯電防止剤の塗布、あるいは熱可塑性樹脂に練り込まれた帯電防止剤の成形品表面へのブリードアウトによって発現されるが、表面のフキ取りにより該制電効果は経時的に減弱され、決して持続的なものではなかった。一方、このような非持続性の制電特性とは異なり、成形品を構成する熱可塑性樹脂内部に安定的かつ恒常的に保持された帯電防止剤によって持続的に発現され、成形品表面のフキ取りによってもその効果が本質的に低減されない、永久持続的に発現され得る制電特性を永久制電性という。
【0007】
上記のポリアルキレンオキサイドを含む親水性グラフト重合体組成物が、永久制電性を発現する作用機構は未だに明確となっていないが、アルキレンオキサイド基を有する単量体を含む共役ジエン又はアクリル酸エステルを1成分とするゴム状幹重合体が加工時にマトリックス成分であるグラフト成分樹脂又はグラフト成分樹脂と熱可塑性樹脂との混合物中に互いにブリッジ状となって分散し、かつ、添加された帯電防止剤が主としてこのゴム状幹重合体に選択的に吸着し、帯電体が接触すると接触面に反対電荷が主として帯電防止剤を吸着したゴム状幹重合体相を通って速やかに蓄積されて帯電体の電荷を打消し中和するためと考えられる。更に、このゴム状幹重合体がアルキレンオキサイド基を有する単量体を含むことから極めて電荷の移動が容易となり帯電防止剤添加の効果が飛躍的に向上されたものと思われる。
これらポリアルキレンオキサイドを含む親水性グラフト重合体は優れた制電性を有するばかりでなく、透明でかつ湿度依存性が低く、しかも成型性にも優れており、射出成型法、押出成型法、圧縮成型法、真空成型法等に幅広く使用でき、非常に使い勝手の良いものである。これら樹脂は「バイヨン(登録商標)」として市販されており、市場から容易に入手可能である。しかしながら、これら樹脂は、高強度を要求される製品に対しては、機械強度の点では必ずしも満足し得るものでないことが判明してきた。
【0008】
4.ポリアミドエラストマー
熱可塑性ポリアミドエラストマーは、軽量性、低温耐衝撃性、柔軟性に優れ、各種成形用途に有用な樹脂であり、また、前記したとおり高分子型帯電防止剤としても知られており、実に様々な熱可塑性ポリアミドエラストマーが提案されている。
より具体的には、熱可塑性ポリアミドエラストマーとしては、ポリアミドをハードセグメントとし、ポリエーテルをソフトセグメントとするポリエーテルエステルアミドやポリエーテルアミド等が知られている。このポリアミド成分としては12−ナイロンや6−ナイロンなどのナイロンが用いられるが、現在、主として12−ナイロン系のものが市販されている。
ところで、これら熱可塑性ポリアミドエラストマーは、高温、高湿潤環境下で使用するときの耐久性等に問題があり、用途が限定されることから、これらを改善する目的で熱可塑性ポリアミドエラストマーの構成成分中に重合脂肪酸及びその誘導体であるダイマージオール等を導入した熱可塑性ポリアミドエラストマーが提案されている。
これら熱可塑性ポリアミドエラストマーの物性、耐水性等を向上させた重合脂肪酸系熱可塑性ポリアミドエラストマーについても様々な報告がある。(例えば、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9参照。)
【0009】
より詳しくは、例えば、特開平5−320336号公報には、透明で、柔軟性かつ弾性回復能が優れるポリアミドエラストマーの製造方法について、下記のとおり記載されている。(特許文献10参照。)
(A)(a)炭素数が20〜48の重合脂肪酸、(b)アゼライン酸及び/またはセバシン酸、及び(c)炭素数が2〜20のジアミンの三者を、上記(b)に対する(a)の重量比(a)/(b)が0.3〜5.0で、かつ全カルボキシル基に対し全アミノ基が実質的に当量になるように混合し、重縮合してえられる数平均分子量が500〜5,000のポリアミドオリゴマーと、(B)(d)数平均分子量が200〜3,000のポリオキシアルキレングリコールまたはポリオキシアルキレングリコールと数平均分子量が200〜3,000のα,ω−ジヒドロキシ炭化水素との混合物と、(e)炭素数が6〜20のジカルボン酸とを、全ヒドロキシル基に対し全カルボキシル基が実質的に当量で、かつ上記(A)に対する(B)の重量比(B)/(A)が5/95〜80/20になるように混ぜ重縮合させることを特徴とする、温度250℃での溶融粘度が5Pa・s以上のポリアミドエラストマーの製造方法。
【0010】
また、特開平6−329790号公報(特許第3202415号)には、耐熱性と永久帯電防止性に優れ、さらに熱可塑性樹脂との相溶性に優れたポリエーテルエステルアミドおよびこのポリエーテルエステルアミドを使用した下記組成からなる熱可塑性樹脂用帯電防止剤が記載されている。(特許文献11参照。)
(a1)両末端にカルボキシル基を有する数平均分子量500〜5,000のポリアミド成分と、(a2)数平均分子量1,500〜3,000のポリエ−テルジオ−ル成分から誘導され、かつ、成分(a1)にチオエ−テル基を含有するポリエーテルエステルアミド(A)からなる帯電防止剤。
【0011】
また、特開2002−212418号公報には、結晶化速度が改善され、ペレット化時の融着性(ブロッキング性)がなく、成形・加工時の成形性、特に成形離型性及び成形物の耐水性(耐加水分解性)、耐薬品性、特に耐溶剤クラック性等に優れた熱可塑性ポリアミドエラストマー組成物及びその製造方法について、下記のとおり記載されている。(特許文献12参照。)
熱可塑性ポリアミドエラストマー(a)に対して、分子末端が炭素数7〜22の炭化水素基で封止され、且つ分子内に3個以上のアミド結合を有し、平均分子量が600〜1800の結晶性アミド化合物(b)を必須成分として配合したことを特徴とする熱可塑性ポリアミドエラストマー組成物であって、該結晶性アミド化合物(b)が、
イ)
それぞれ、炭化水素残基を有し、炭素数が7〜23であるモノカルボン酸及び/又は炭素数が7〜22であるモノアミンと、
ロ)(1)炭素数6以上のアミノカルボン酸;
(2)炭素数6以上のラクタム;
(3)炭素数2〜12のジアミン;及び(4)炭素数6〜22の脂肪族、脂環族又は芳香族ジカルボン酸及びこれらのエステル誘導体;
からなる群より選ばれる1種又は2種以上のアミド形成モノマー又はアミド形成可能なモノマーの組とを反応させることにより得られることを特徴とする熱可塑性ポリアミドエラストマー組成物。
【0012】
その他、ポリアミドエラストマー樹脂組成物については、既に様々な報告がなされている。
例えば、ゴム質重合体に芳香族ビニル化合物をグラフト重合してなるグラフト共重合体とポリアミドエラストマーからなる組成物100重量部に導電性物質を配合した帯電防止性熱可塑性樹脂組成物(特許文献13参照。)、ポリオキシメチレン樹脂にポリアミドエラストマーと酸変性オレフィン系樹脂からなる樹脂を配合してなる帯電防止性ポリオキシメチレン樹脂組成物(特許文献14参照。)、ポリアミドエラスト、アクリル樹脂及びカルボキシル基を含有する変性ビニル系重合体を特定割合で配合した制電性熱可塑性樹脂組成物(特許文献15参照。)、ゴム強化スチレン系樹脂とポリアミドエラストマーからなる熱可塑性樹脂に特定のカーボンブラックを配合した熱可塑性樹脂組成物(特許文献16参照。)、アルキレンオキシド基を含有するポリアミドエラストマーを含有する熱可塑性樹脂に対して、有機酸または有機酸無水物を配合してなる熱可塑性樹脂組成物。(特許文献17参照。)、ポリスチレン、ポリアミド構造を含有するエラストマー、相溶化剤を含有する帯電防止性樹脂組成物(特許文献18参照。)等である。
【0013】
ポリアミドエラストマーは、軽量性、低温耐衝撃性、柔軟性に優れ、様々な目的・用途で使用されているが、その単独の使用では制電効果が不安定である。
例えば、ポリアミドエラストマーを帯電防止剤として配合した熱可塑性樹脂を各種成型方法に従って成型した場合、その制電効果は同一ではなく、成型方法によって制電効果に差を生じる。即ち、これを射出成型に供した場合には、ポリアミドエラストマーが成型品の表面部に偏在する傾向があって一応の制電効果は得られるものの、一方、これをプレス成型に供した場合には、該ポリアミドエラストマーの分散が表面近傍で連続相を形成しないため(該ポリアミドエラストマーが成型品の内部に偏在して表面部には僅かにしか存在しないことから所期の)、制電効果が得られないことが判明した。したがって、ポリアミドエラストマーを配合した樹脂をプレス成型に供してもポリアミドエラストマー本来の効果を有する成型品は得られなかった。
【0014】
上記のごとき高分子型帯電防止剤を配合した各種樹脂組成物も知られている。
例えば、特許3082754号公報には、下記のような熱可塑性樹脂組成物が報告されている。(特許文献19参照)
(a)アミノカルボン酸、ラクタムおよびジアミンとジカルボン酸から合成される塩から選ばれる少なくとも1種のアミド形成成分、(b)ポリオキシアルキレングリコールおよび(c)ジカルボン酸を含む成分を反応させて得られる還元粘度が0.5〜4(0.5重量%ギ酸溶液,25℃)のポリエーテルエステルアミドであって、前記(c)ジカルボン酸として炭素数21〜42のジカルボン酸を含むポリエーテルエステルアミドを用いることを特徴とする帯電防止剤を含有してなる熱可塑性樹脂組成物。
また、特許2525106号公報には、下記のようなるアクリル系樹脂組成物が報告されている。(特許文献20参照)
(A)アクリル系樹脂70〜97重量%及び(B)ポリアミドエラストマー3〜30重量%を含有し、(B)成分が、(a)ポリアミドセグメントと(b)ポリエーテルセグメントから構成され、(a)成分の含有量が25〜60重量%、(b)成分がポリオキシエチレン残基を30〜99重量%含有し、かつ500〜4000の数平均分子量を有するポリオキシアルキレン残基から構成されていることを特徴とするアクリル系樹脂組成物。
また、特開2005−264071号公報には、下記のようなアクリル系樹脂組成物が報告されている。(特許文献21参照)
熱可塑性ポリアミドエラストマー樹脂(A)とアクリル系樹脂(B)からなるアクリル系樹脂組成物であって、
前記熱可塑性ポリアミドエラストマー樹脂(A)が、ポリアミドブロック(a1)と、ポリエーテルエステルブロック(a2)から構成される熱可塑性ポリエーテルエステルアミドブロック共重合体であり、
(1)前記ポリアミドブロック(a1)が、
炭素原子数20〜48の重合脂肪酸及びこれらのエステル誘導体(a1−a1)、炭素原子数6〜12の脂肪族ジカルボン酸及びこれらのエステル誘導体(a1−a2)を含有するジカルボン酸成分(a1−a)と、
脂環族ジアミン及び脂肪族ジアミンからなる群から選ばれるジアミン成分(a1−b)とを反応させて得られるものであり、
(2)前記ポリエーテルエステルブロック(a2)が、
炭素原子数20〜48の重合脂肪酸及びこれらのエステル誘導体(a2−a1)と炭素原子数6〜12の脂肪族ジカルボン酸及びこれらのエステル誘導体(a2−a2)からなる群から選ばれるジカルボン酸成分(a2−a)と、
ポリオキシアルキレングリコール成分(a2−b)とを反応させて得られるものであり、
(3)前記ポリエーテルエステルブロック(a2)に対する前記ポリアミドブロック(a1)の質量比が、10/90〜55/45であり、
(4)前記熱可塑性ポリアミドエラストマー樹脂(A)の構成成分中に、炭素原子数20〜48の重合脂肪酸及びこれらのエステル誘導体(a1−a1,a2−a1)に由来する成分を1質量%〜40質量%含有していることを特徴とするアクリル系樹脂組成物。
しかし、上記文献はいずれもポリアミドエラストメーの配合を教示するに止まるものであって、成型性及び機械強度の点において必ずしも満足し得るものではなかった。
【特許文献1】特開2005−2316号公報
【特許文献2】特開昭56−120751号公報
【特許文献3】特開昭56−118446号公報、特公昭59−2462号公報
【特許文献4】特開2003−183529号公報
【特許文献5】WO00/27917号公報
【特許文献6】特開平5−320336号公報
【特許文献7】特開平10−130498号公報
【特許文献8】特開平10−130499号公報
【特許文献9】特開平10−140005号公報
【特許文献10】特開平5−320336号公報
【特許文献11】特開平6−329790号公報(特許第3202415号)
【特許文献12】特開2002−212418号公報
【特許文献13】特開2003−3036号公報
【特許文献14】特開2002−256134号公報
【特許文献15】特開平10−139974号公報
【特許文献16】特開2005−2326号公報
【特許文献17】特開平11−310711号公報
【特許文献18】特開2004−256778号公報
【特許文献19】特許3082754号公報
【特許文献20】特許2525106号公報
【特許文献21】特開2005−264071号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
前述したとおり、アルキレンオキサイド基を有するゴム状幹重合体による制電効果は、該重合体が組成物中でブリッジング状に分散していることに起因するものと推定され、大きな制電性を得ることができるが、より大きな強度が求められる成型品への適用は、必ずしも満足できていない。
また、熱可塑性樹脂に配合されたポリアミドエラストマーは、その分子構造からして、前述したアルキレンオキサイド基を有するゴム状幹重合体と異なり、成型品中でブリッジング構造をとることはなく、成型樹脂中に直鎖状に配向するものと考えられる。より具体的には、ポリアミドエラストマーは、上述のとおり、射出成型法を採用した場合には、該ポリアミドエラストマーが成型された樹脂の表面部近傍に偏在する傾向にあるものの、プレス成型等を行った場合には、該ポリアミドエラストマーは、成型された樹脂の中央部に潜り込むような形で偏在して、表面部には僅かにしか存在しないと思われる。したがって、ポリアミドエラストマーを含む成型品をプレス成型してもポリアミドエラストマー本来の効果は十分に得られなかった。
このように、アルキレンオキサイド基を有するゴム状幹重合体をベースとする制電性樹脂組成物については、機械的強度等の実用上の問題点が存在し、また、ポリアミドエラストマーを配合する樹脂組成物について、成型方法によっては所望の制電性の効果が得られないことがある。成形性、機械強度、永久的制電性能等を含めた総合的観点からすれば、未だこれら要件を満足し得る永久制電性樹脂は見出されていなかった。
従って、本発明は、優れた永久制電性を有し、かつ優れた衝撃強度等の機械強度を併せ持ち、しかも射出成型法は勿論のこと、プレス成型法、押出成型法、真空成型法等の通常の加工方法を適用し得る永久的な制電性熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、アクリル樹脂やスチレンアクリロニトリル樹脂当の熱可塑性樹脂に対して、アルキレンオキサイド基を有するゴム状幹重合体にエチレン系不飽和単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体と、ポリアミドエラストマー、更には界面活性剤を特定割合で配合することにより、制電特性、衝撃強度等の機械強度、及び成型適応性の優れた熱可塑性樹脂組成物が得られることを見出して、本発明を完成した。
【0017】
より詳しくは、本発明は、以下のとおりである。
1.熱可塑性樹脂(a)に、アルキレンオキサイド基を有するゴム状幹重合体にエチレン系不飽和単量体をグラフト重合したグラフト共重合体(b)及びポリアミドエラストマー(c)を配合してなり、かつ、熱可塑性樹脂(a)に対するグラフト共重合体(b)及びポリアミドエラストマー(c)の配合比[(b)+(c)]/(a)が(40〜160)/100であり、ポリアミドエラストマー(c)に対するグラフト共重合体(b)の配合比(b)/(c)が0.5〜5.0である制電性熱可塑性樹脂組成物。
2.熱可塑性樹脂(a)に対して、更に、界面活性剤(d)を(0.01〜5)/100の割合で配合してなる上記1に記載の制電性熱可塑性樹脂組成物。
3.界面活性剤(d)が、JIS:K7120に定める重量減少の開始温度が250℃以上のアニオン系界面活性剤である上記2に記載の制電性熱可塑性樹脂組成物。
4.アルキレンオキサイド基を有するゴム状幹重合体にエチレン系不飽和単量体をグラフト重合したグラフト共重合体(b)が、下記グラフト共重合体からなる上記1乃至3のいずれかに記載の制電性熱可塑性樹脂組成物。
(i)
共役ジエン及びアクリル酸エステルから選ばれた1種以上の単量体50〜95重量%、
(ii) 4〜500個アルキレンオキサイド基を有しエチレン系不飽和結合を有する1種以上の単量体5〜50重量%、及び
(iii) 共役ジエン及びアクリル酸エステルと共重合可能な1種以上のエチレン系不飽和単量体0〜40重量%からなるゴム幹重合体5〜95重量%に
(iv) 1種以上のエチレン系不飽和単量体5〜95重量%をグラフト共重合したグラフト共重合体。
5.ポリアミドエラストマー(c)が重合脂肪酸系ポリアミドエラストマーである上記1乃至4のいずれかに記載の制電性熱可塑性樹脂組成物。
6.成型加工品とした場合の体積固有抵抗率(Ω・m)が1x10以上、1x1010以下であり、かつアイゾット衝撃強度(kJ/m)が2以上である上記1乃至5のいずれかに記載の制電性熱可塑性樹脂。
7.射出成型によって得られる成形加工品の体積抵抗率(R)とプレス成型によって得られる成形加工品の体積抵抗率(R)との比(R/R)が0.1〜10である上記1乃至6のいずれかに記載の制電性熱可塑性樹脂。
【発明の効果】
【0018】
本発明の制電性熱可塑性樹脂組成物は、優れた制電効果を有するだけでなく、衝撃強度等の機械的強度にも優れ、かつ、成型適応性に優れている。このため、これまでのように成型手段を制限されることがなく、射出成型は勿論のこと、今日まで困難とされたプレス成型を始めとする各種の成型方法によって成型した場合にも、優れた制電特性と機械強度を有する成形品を得ることができる。成型手段の幅が拡大されるので、従来は困難とされたプレス成型や押出成型も可能となり、これにより板状乃至シート状の制電性製品の成型も可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の制電性熱可塑性樹脂組成物の配合用樹脂として用いられる「グラフト共重合体(b)」は、基本的には、前記特公昭59−2462号公報に記載のものと同様のものが使用し得る。WO00/27917公報に記載されるような方法、即ち、そのゴム状幹重合体の重合に際して、カルボン酸系界面活性剤を乳化剤として用いてグラフト共重合されたグラフト共重合体であってもよい。また、このようなグラフト共重合体は「バイヨン(登録商標)」として市販されているので、市場からも容易に入手することができる。
【0020】
本発明の「グラフト共重合体(b)」を構成する好ましい「ゴム状幹重合体」は、(i)共役ジエン及びアクリル酸エステルから選ばれた1種以上の単量体50〜95重量%と、(ii)4〜500個アルキレンオキサイド基を有しエチレン系不飽和結合を有する1種以上の単量体(以下、「アルキレンオキサイド鎖を有する単量体」という)5〜50重量%、及び(iii)共役ジエン及びアクリル酸エステルと共重合可能な1種以上のエチレン系不飽和単量体0〜50重量%好ましくは0〜40重量%からなり、「グラフト共重合体」は、該ゴム幹重合体5〜95重量%に、(iv)1種以上のエチレン系不飽和単量体5〜95%をグラフト共重合したグラフと共重合体である。
ゴム状幹重合体は、共役ジエン及びアクリル酸エステルから選ばれた1種以上の単量体を主成分とする。共役ジエンとしては1,3−ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、1,3−ペンタジエン等が用いられ、またアクリル酸エステルとしてはアクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ノニル等が用いられる。
共役ジエンとアクリル酸エステルは、単独又は合計量でゴム状幹重合体の50重量%以上ないと、ゴム状幹重合体のガラス転移温度を充分に低くすることができず、制電効果が小さくなる。また95重量%以下でないと、必然的にアルキレンオキサイド鎖を有する単量体の添加量が少なくなるため、所望の制電効果が得られなくなる。
【0021】
「アルキレンオキサイド鎖を有する単量体」は、エチレン不飽和基に結合し、
【0022】
【化1】

【0023】
で表せられるアルキレンオキサイド鎖を有する単量体である(ここで、R、Rは、同一又は異なって水素原子又は炭素数1乃至4のアルキル基を意味し、m、nは、(m+n)が4以上、500以下である条件を満たす整数を意味する。特に好ましくは、R、Rの少なくとも一方が水素原子であるエチレンオキサイド基が4個以上からなるエチレンオキサイドブロックを有するものである。)。
【0024】
また、「アルキレンオキサイド鎖を有する単量体」としては、下記一般式(2)または(3)で表せられる1種以上の単量体が好ましい。
【0025】
【化2】

【0026】
(式中、Rは、水素原子又は炭素数1乃至4のアルキル基を意味し、Xは、水素原子、炭素数1乃至9のアルキル基、フェニル基、−SOMe、−SOMe、−POMe
【0027】
【化3】

【0028】
を意味し、R、R、Rは水素原子又は炭素数1乃至9のアルキル基を意味し、Meは水素原子又はアルカリ金属を意味し、R、R並びにならびにm、nは、式(1)におけると同一の意味を表わす)。
あるいは、
【0029】
【化4】

【0030】
(式中、Zは、水素原子又は炭素数1乃至40のアルキル基、炭素数3乃至6のシクロアルキル基、フェニル基、又は、
【0031】
【化5】

【0032】
であって、p、qは、(p+q)が4以上、500以下の条件をを満たす整数を意味する。)
【0033】
上述したように式(2)、式(3)で表わされる単量体の中でも、R、Rの少なくとも一方が水素であり、4個以上のエチレンオキサイド基を有するものが特に好ましい。もちろん式(2)、式(3)で表わせられる単量体以外でもエチレン系不飽和結合とポリアルキレンオキサイドを有し且つ共役ジエン又は及びアクリル酸エステルとの共重合により得られるゴム状幹重合体の体積電気抵抗率を下げ得る類似の単量体の使用も可能である。
アルキレンオキサイド鎖を有する単量体中のアルキレンオキサイド基は4〜500個が必要であり、6〜50個、特に9〜50個である場合にはより好ましい。アルキレンオキサイド基の数が4より少ない場合には制電性を付与しにくく、また500より多い場合には重合する際に水又はモノマーに溶解しにくく、また重合性も悪くなる。
また、アルキレンオキサイド鎖を有する単量体がゴム状幹重合体に1重量%以上含まれないと充分な制電性を付与することはできない。また50重量%以下でないと、ゴム状幹重合体の形成あるいはグラフト共重合における重合及び得られた重合体の酸析による後処理が困難となる。
【0034】
ゴム状幹重合体の製造に必要に応じて用いられる共役ジエン又はアクリル酸エステルと共重合可能なエチレン系不飽和単量体としては、公知の単量体を用いることができる。例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸アルキルエステル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、酢酸ビニル、不飽和ニトリル、芳香族ビニル、アルキルビニルエーテル、アルキルビニルケトン、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸エステル、ダイアセトンアクリルアミド、塩化ビニル、塩化ビニリデン、イタコン酸、イタコン酸アルキルエステル、イソブテン、2−アッシドホスフォキシエチルメタクリレート、3−クロロ−2−アッシドホスフォキシプロピルメタクリレート、スチレンスルフォン酸ソーダ等の1種以上の単量体を用いることができる。
上記共重合可能なエチレン系不飽和単量体としてアクリロニトリルのように極性の大きな単量体、あるいはスルフォン酸基、リン酸基、カルボン酸基等のようなアニオン性置換基を含む単量体を選ぶと制電性はさらに向上する。
これら共重合可能なエチレン系不飽和単量体は、ゴム状幹重合体のうち40重量%以下の範囲で用いられる。この範囲を超えるとガラス転移温度が高くなり、ゴム状特性が失われる。
【0035】
またゴム状幹重合体には、必要により架橋剤として、例えばビニル基、1,3−ブタジエニル基、アクリル基、メタクリル基、アリル基等のエチレン性不飽和基の1種以上を2個以上有する多官能性単量体も使用することができる。特に4〜500個好ましくは9〜50個のポリアルキレングリコール基を更に有する多官能性単量体は架橋剤として働くと同時に制電付与剤としても働くので好ましい。
【0036】
本発明に用いるゴム状幹重合体の重合は、WO00/27917公報に記載されるように、カルボン酸系界面活性剤の存在下での乳化重合を行ってもよい。カルボン酸系界面活性剤は、後述する塩酸等の強酸による酸析に際して、効果的に作用し、また、アルキルリン酸塩およびアルキルエーテルリン酸塩を含む有機リン酸塩系等の他の弱酸塩系の界面活性剤に比べて環境面への配慮からも好ましく用いられる。好ましいカルボン酸系界面活性剤の例としては、脂肪酸塩、ロジン酸塩、N−アシルアミノ酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩等が挙げられる。これらカルボン酸系界面活性剤は、ゴム状幹重合体の乳化重合に際して、例えば0.5〜25g/lの割合で水系分散媒に配合されることが好ましい。
かかるゴム状幹重合体に、グラフト重合する際に用いられるエチレン系不飽和単量体としては、公知の単量体を用いることができる。例えば、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、アクリル酸、メタクリル酸、(メタ)アクリルアミド、酢酸ビニル、不飽和ニトリル、芳香族ビニル、共役ジエン、アルキルビニルエーテル、アルキルビニルケトン、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸エステル、(アルコキシ)ポリエチレングリコール(メタ)アクリル酸エステル、ダイアセトンアクリルアミド、塩化ビニル、塩化ビニリデン、イタコン酸、イタコン酸アルキルエステル、イソブテン等の1種以上の単量体を用いることができる。このグラフト重合の際に、必要に応じて追加の水分散媒および界面活性剤が追加される。この際追加使用する界面活性剤は、強酸による酸析を考慮すると、WO00/27917公報に記載されるようにカルボン酸系界面活性剤を使用することが好ましい。
【0037】
グラフト重合体中のゴム状幹重合体と枝重合体の割合は、前者が5〜95重量%、好ましくは8〜80重量%、後者が5〜95重量%、好ましくは20〜92重量%の範囲が使用される。ゴム状幹重合体が5重量%より少ない時は制電性を付与することが困難となり、また95重量%より多い場合にはグラフト共重合体単独使用の場合には剛性が失われ、相溶可能な熱可塑性樹脂と混合して使用する場合にも相溶性を付与することが困難となる。
上記のようにして得られたグラフト共重合体(b)のラテックスに、撹拌下で、強酸、好ましくは塩酸、の水溶液を添加することによりグラフト共重合体(b)を析出させ、固体粉末として回収する。上述したように必要によりカルボン酸系界面活性剤で安定化されたラテックス状のグラフト共重合体(b)は、強酸水溶液の添加撹拌により、急速に系が中和され、分散安定性を失い、強く凝集した含水率の低い固体粉末として回収される。例えば固形分濃度が20〜40重量%のグラフト共重合体(b)のラテックス100重量部に対して、比較的低い濃度である0.1〜2重量%の塩酸水溶液を100〜500重量部添加することにより効果的な酸析が実現され、気流式瞬間乾燥機や流動層式乾燥機等の大量生産に適した乾燥機により効率的に乾燥されて、固体粉末状のグラフト共重合体(b)として回収される。
【0038】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において使用し得る「熱可塑性樹脂(a)」は前記「グラフト重合体(b)」及び「ポリアミドエラストマー(c)」と相溶性の良い熱可塑性樹脂であれば特に制限されるものではないが、好適には、ポリオレフィン系樹脂、ゴム強化スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、各種の熱可塑性エラストマー、液晶ポリマー、ポリウレタン系樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、フッ素系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂等である。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。特に好適には、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、芳香族ビニルポリマー、ニトリル樹脂、ポリメチルメタクリレート及びその共重合体、ABS樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、弗素系樹脂等を使用することができる。
【0039】
「ポリアミドエラストマー(c)」は、ポリアミドをハードセグメントとし、ポリエーテルをソフトセグメントとするポリエーテルエステルアミドやポリエーテルアミド等、公知のものが使用できる
特に好適には、特開平6−329790号公報(特許第3202415号)、特開平5−320336号公報及び特開2002−212418号公報に記載される下記1乃至3のポリアミドエラストマー等を使用できる。
【0040】
1.特開平6−329790号公報記載のポリアミドエラストマー;
両末端にカルボキシル基を有する数平均分子量500〜5,000のポリアミド成分(a1)と数平均分子量1,500〜3,000のポリエ−テルジオ−ル成分(a2)から誘導され、成分(a1)と成分(a2)のうちいずれか一方にチオエ−テル基を含有するポリエーテルエステルアミド。
【0041】
2.特開平5−320336公報記載のポリアミドエラストマー;
(A)(a)炭素数が20〜48の重合脂肪酸、(b)アゼライン酸及び/またはセバシン酸、及び(c)炭素数が2〜20のジアミンの三者を、上記(b)に対する(a)の重量比(a)/(b)が0.3〜5.0で、かつ全カルボキシル基に対し全アミノ基が実質的に当量になるように混合し、重縮合してえられる数平均分子量が500〜5,000のポリアミドオリゴマーと、
(B)(d)数平均分子量が200〜3,000のポリオキシアルキレングリコールまたはポリオキシアルキレングリコールと数平均分子量が200〜3,000のα,ω−ジヒドロキシ炭化水素との混合物と、(e)炭素数が6〜20のジカルボン酸とを、全ヒドロキシル基に対し全カルボキシル基が実質的に当量で、
かつ上記(A)に対する(B)の重量比(B)/(A)が5/95〜80/20になるように混ぜ重縮合させることによって得られる、温度250℃での溶融粘度が5Pa・s以上のポリアミドエラストマー。
【0042】
3.特開2002−212418号公報公報記載のポリアミドエラストマー;
熱可塑性ポリアミドエラストマー(a)に対して、分子末端が炭素数7〜22の炭化水素基で封止され、且つ分子内に3個以上のアミド結合を有し、平均分子量が600〜1800の結晶性アミド化合物(b)を必須成分として配合したことを特徴とする熱可塑性ポリアミドエラストマー組成物であって、
該結晶性アミド化合物(b)が、
イ)それぞれ、炭化水素残基を有し、炭素数が7〜23であるモノカルボン酸及び/又は炭素数が7〜22であるモノアミンと、
ロ)(1)炭素数6以上のアミノカルボン酸;
(2)炭素数6以上のラクタム;
(3)炭素数2〜12のジアミン;及び
(4)炭素数6〜22の脂肪族、脂環族又は芳香族ジカルボン酸及びこれらのエステル誘導体;
からなる群より選ばれる1種又は2種以上のアミド形成モノマー又はアミド形成可能なモノマーの組、とを反応させることにより得られる熱可塑性ポリアミドエラストマー組成物。
【0043】
その他、好適には、特開平10−130498号公報,特開平10−130499号公報,特開平10−140005号公報等に記載される「重合脂肪酸系熱可塑性ポリアミドエラストマー」、あるいは前述した特開2003−3036号公報、特開2002−256134号公報、特開平10−139974号公報、特開2005−2326号公報、特開平11−310711号公報、特開2004−256778号公報に記載されるポリアミドエラストマー樹脂等を使用することができる。
【0044】
一般的には、重合脂肪酸系ポリアミドエラストマーは下記式で表される。
【0045】
【化6】

【0046】
(式中、PAは重合脂肪酸系ポリアミド骨格、PEはポリエーテルエステル骨格をそれぞれ表し、aは1〜50、bは1〜50、nは1〜50である。)
【0047】
これら「重合脂肪酸系ポリアミドエラストマー」は、重合脂肪酸ベースのポリアミド(PAシリーズ:ハードセグメント)と親水性のポリエーテルエステル及びポリエステル(ソフトセグメント)とからなる親水性ブロック共重合体である。
「重合脂肪酸系ポリアミドエラストマー」として最も好適には、富士化成(株)社製の商品名称「TPAEシリーズ」の「H−151」、「H−461」、「H−471EP」、「10HP」、「10HP−8」、「10HP−10」を使用することができる。
【0048】
アルキレンオキサイド基を有するゴム状幹重合体にエチレン系不飽和単量体をグラフト重合したグラフト共重合体(b)及びポリアミドエラストマー(c)の熱可塑性樹脂(a)に対する配合比[(b)+(c)]/(a)は、制電効果の観点からして(40〜160)/100、好ましくは(50〜120)/100、更に好ましくは(60〜110)/100である。この比が40/100以下の場合は十分な制電効果が得られず、また160/100以上では、かえって熱可塑性樹脂自体の特性を損ねてしまう。
ポリアミドエラストマー(c)に対するグラフト共重合体(b)の配合比(b)/(c)は、0.5〜5.0であり、好ましくは0.5〜4.0、更に好ましくは0.7〜3.5である。この比が0.5以下の場合は、プレス成型等の各種成型時の制電性の効果が十分でなく、また、5.0以上の場合には熱可塑性樹脂(a)本来の性質・特性が損なわれる可能性があるばかりか、かえって機械強度や射出成型時の制電特性が損なわれる恐れがある。
【0049】
なお、熱可塑性樹脂(a)に対するグラフト重合体(b)の配合比、熱可塑性樹脂(a)に対するポリアミドエラストマー(c)の配合比は、それぞれが(20〜80)/100である。グラフト重合体(b)又はポリアミドエラストマー(c)の一方だけを熱可塑性樹脂(a)100重量部に対して20重量部以上配合しても十分な効果は発揮できない。
【0050】
「界面活性剤(d)」は、必ずしも必須ではないが、制電性向上の観点から配合するのが好ましい。また、これら界面活性剤(d)は、特に制限されるものではないが、好ましくはアニオン系界面活性剤である。
アニオン系界面活性剤は、グラフト共重合体(b)中のゴム状幹重合体のアルキレンオキサイド基に吸着させて、永久制電性を付与させるために効果的であるが、必要な耐熱性を確保する場合には、WO00/27917に記載されるようにJIS:K7120に定める重量減少の開始温度(以下「Tng」と略記することがある)が250℃以上のものを使用するのが好ましい。Tngは、アニオン系界面活性剤の構造とある程度の相関性が認められており、Tngが250℃以上であるアニオン系界面活性剤の例としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、脂肪酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩などが挙げられる。より詳しくは、ノナフルオロブタンスルフォン酸カリウム(Tng=460℃)、ドデシルベンゼンスルフォン酸リチウム(Tng=435℃)、ドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウム(Tng=430℃)、ドデシルベンゼンスルフォン酸ルビジウム(Tng=430℃)、ドデシルベンゼンスルフォン酸セシウム(Tng=425℃)、リチウムビストリフルオロメタンスルフォンイミド(Tng=425℃)、トリフルオロメタンスルホン酸塩、ドデシルベンゼンスルフォン酸カリウム、ビストリフルオロメタンスルフォンイミド塩等を挙げることができる。
これらアニオン系界面活性剤は、本発明のゴム状幹重合体にアルキレンオキサイド基を有するグラフト共重合体(b)との組合せにおいて、成形体表面へのブリードアウトを起すこともなく、良好な永久制電性を発現することも見出されている。
【0051】
上述したように、重量減少の開始温度が250℃未満のアニオン系界面活性剤を用いて得られた制電性熱可塑性樹脂組成物は、大量生産等により成形加工条件が酷しくなった際に、成形加工時に、おそらくはアニオン系界面活性剤の分解や飛散等により、成形体のくもりや変色、アニオン系界面活性剤の減少による制電性の低下等が起り易い。
参考までに、重量減少の開始温度が250℃未満となるアニオン系界面活性剤の例としては、アルキル硫酸エステル塩、こはく酸エステルスルホン酸塩、燐酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル硫酸塩等が挙げられる。
界面活性剤(d)の好適な配合量は、熱可塑性樹脂
(a)に対して(0.01〜5)/100であり、好ましくは(0.05〜3)/100、さらに好ましくは(0.05〜1)/100である。0.01/100未満では、界面活性剤配合による制電性改良効果が乏しく、また5/100を超えて用いると成形体表面へのブリードアウトが顕著となり、成形体の特性上好ましくない。
【0052】
体積固有抵抗率は、例えば、平面寸法が50mmx50mmで、厚さが4mmの板試料を形成し、JIS:K6911に準拠して、温度23℃、湿度23%RHで3日間調湿した後、高精度の絶縁計を用いて測定すればよい。各種成型品の目的用途に応じて異なるが、制電性を期待される成型品の制電性能としては体積固有抵抗率(Ω・m)が1x1010以下であることが好ましい。これ以上であると十分な制電性能が期待できない。また、上記成分(b)、(c)及び(d)の配合量を調整することにより体積固有抵抗率(Ω・m)を1x10以下にすることもできるが、このとき、急激な放電を生じることがあり、体積固有抵抗率(Ω・m)は1x10以上であることが望ましい。これら制電性能は、上記熱可塑性樹脂(a)、特定のグラフト共重合体(b)及びポリアミドエラストマー(c)を上記のごとく特定の配合比で配合することによって、また、必要により界面活性剤を適宜配合することによって達成される。
【0053】
アイゾット衝撃強度(kJ/m)は、JIS
K7110に示された試験片に準拠して、平面寸法が80mmx10mmで、厚さが4mmの板試料を形成し、ノッチ半径r=0.25mmで深さ2mmのノッチを入れ、温度23℃、湿度50%RHで3日間経過させた後、振り子式衝撃試験機を用いて測定すればよい。各種成型品の目的用途に応じて異なるが、アイゾット衝撃強度(kJ/m)は、好ましくは2以上である。これ以下だと強度が必ずしも十分とは言えず、成型品としての用途も制限される。これら機械強度は、上記熱可塑性樹脂(a)、特定のグラフト共重合体(b)及びポリアミドエラストマー(c)を上記のごとく特定の配合比で配合することによって達成される。
【0054】
本発明の制電性熱可塑性樹脂組成物には、上記成分(a)〜(d)以外にも、必要に応じて紫外線吸収剤、熱安定剤、酸化防止剤、滑剤、充填剤、染顔料などの添加剤を加えることができ、これらの添加は、重合時、混合時、成形時等の何れでもよい。
また、本発明の制電性熱可塑性樹脂組成物は、有機溶媒に分散させて塗布型あるいはフィルム成形性の分散液とすることもできる。有機溶媒として、好ましくはベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム等の含塩素化合物類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等の含窒素化合物類が良い。また2種類以上の溶媒を混合して使用しても良い。
分散液の濃度は特に限定されないが、5〜60重量%、更には5〜30重量%程度が好ましい。
【0055】
本発明の制電性熱可塑性樹脂組成物は、射出成形法、押出成形法、プレス成形法あるいは真空成形法等の通常の加工方法により、シート、フィルム、管、繊維、異形成形体、二色成形体等の任意の成形体に加工可能である。また有機溶媒分散液を使用して、刷毛塗り法、スプレー法、キャスト法、ロール法、あるいはスピン法等の通常の塗工方法により、任意の成形体表面に塗装可能である。
【0056】
本発明組成物は、エレクトロニクス製品、光学製品、家電製品、OA機器製品、半導体製造装置関連製品、フォトリソグラフィー関連製品、液晶・PDP・関連製品等の製造に好適である。
フォトリソグラフィーの原回路図を担うレチクル(Reticles)を保護するペリクル(Pellicles)からなるフォトマスクのケース、カラーフィルターケース、ウエハキャリア、ウエハカセット、トートビン、ウエハーボート、ICチップトレー、ICチップキャリア、IC搬送チューブ、ICカード、テープ、リールパッキング、各種ケース、保存用トレー、保存用ビン、軸受や搬送ローラー等の搬送装置部品、磁気カードリーダー、OA機器分野では、記録装置用転写ロール、転写ベルト、現像ロール、記録装置用転写ドラム、プリント回路基板カセット、ブッシュ、紙及び紙幣搬送部品、紙送りレール、フォントカートリッジ、インクリボンキャニスター、ガイドビン、トレー、ローラー、ギア、スプロケット、コンピュータ用ハウジング、モデムハウジング、モニターハウジング、CD−ROMハウジング、プリンターハウジング、コネクター、コンピュータースロット、通信機器分野では、携帯電話部品、ベーガー、各種摺動材、自動車分野では内装材、アンダーフード、電子電気機器ハウジング、ガスタンクキャップ、燃料フィルター、燃料ラインコネクター、燃料ラインクリップ、燃料タンク、機器ビージル、ドアハンドル、各種部品、その他の分野では、電線及び電力ケーブル被覆材、電線支持体、電波吸収体、床材、カーペット、防虫シート、パレット、靴底、テープ、ブラシ、送風ファン、などの製造にも好適である。
なかでも、電気・電子機器等のハウジング(例えば、ハードディスクドライブ(以降「HDD」)搬送パッケージング等)や収納容器の製造に好適である。
【実施例】
【0057】
以下に、本発明を実施例によって、更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものでない。なお、実施例中の「部」は「重量部」を意味する。
まず、本発明の制電性熱可塑性樹脂組成物を構成する各々の4成分、即ち熱可塑性樹脂(a)、アルキレンオキサイド基を有するゴム状幹重合体にエチレン系不飽和単量体をグラフト重合したグラフト共重合体(b)、ポリアミドエラストマー(c)及び界面活性剤(d)を準備した。
A.熱可塑性樹脂(a)の準備;
熱可塑性樹脂(a)として、住友化学社製のアクリル樹脂である商品名称スミペックスEX−A(a−1)及び旭化成社製のスチレンアクリロニトリル樹脂である商品名称スタイラックAS767(a−2)を準備した。
B.親水性グラフト共重合体(b)の準備;
アルキレンオキサイド基を有するゴム状幹重合体にエチレン系不飽和単量体をグラフト重合したグラフト共重合体(b)として、下記(b-1)と(b−2)の2種類を用意した。これら(b-1)と(b−2)は、以下のようにして製造した。
1.グラフト共重合体(b−1)の製造;
1−1.ゴム状幹重合体の製造;
アクリル酸ブチル 50.3 部
スチレン 9.0 部
メタクリル酸アリル 0.7 部
メトキシポリエチレングリコールメタクリレート 10.0 部
(エチレンオキサイド基の数が平均 23個)
ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート 0.08 部
t−ブチルハイドロパーオキサイド 0.1 部
エチレンジアミンテトラ酢酸鉄(III)塩 0.005部
ピロリン酸2水素2ナトリウム 0.05 部
ピロリン酸4ナトリウム 0.05 部
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム 0.5 部
脱イオン水 290 部
上記原料を、攪拌機、温度計、圧力計を付した反応容器に仕込み、50℃で4時間攪拌した。収率99%以上で平均粒子形80nmのゴム状重合体ラテックスが得られた。
1−2.ゴム状幹重合体へのエチレン系不飽和単量体のグラフト重合;
上記ゴム状幹重合体(固形分として70部)のラテックスに下記エチレン系不飽和単量体混合物を添加して、窒素置換し、50℃で4時間グラフト共重合した。
メタクリル酸メチル 29 部
アクリル酸ブチル 0.7 部
ノルマルオクチルメルカプタン 0.3 部
ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート 0.08 部
t−ブチルハイドロパーオキサイド 0.1 部
脱イオン水 70 部
反応を終了したラテックスを取出し70℃に加温後、70℃の塩酸水(濃度
1.5%)1000部に添加し析出させた。その析出物を脱水洗浄乾燥することにより、白色粉末の親水性グラフト共重合体(b−1)を得た。
2.グラフト共重合体(b−2)の製造;
2−1.ゴム状幹重合体の製造;
アクリル酸ブチル 39.0 部
スチレン 20.3 部
メタクリル酸アリル 0.7 部
メトキシポリエチレングリコールメタクリレート 10.0 部
(エチレンオキサイド基の数が平均 23個)
ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート 0.08 部
t−ブチルハイドロパーオキサイド 0.1 部
エチレンジアミンテトラ酢酸鉄(III)塩 0.005部
ピロリン酸2水素2ナトリウム 0.05 部
ピロリン酸4ナトリウム 0.05 部
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム 0.5 部
脱イオン水 290 部
上記原料を、攪拌機、温度計、圧力計を付した反応容器に仕込み、50℃で4時間攪拌した。収率99%以上で平均粒子形80nmのゴム状重合体ラテックスが得られた。
2−2.ゴム状幹重合体へのエチレン系不飽和単量体のグラフト重合;
上記ゴム状幹重合体(固形分として70部)のラテックスに下記エチレン系不飽和単量体混合物を添加して、窒素置換し、50℃で4時間グラフト共重合した。
メタクリ酸メチル 24.0 部
スチレン 3.7 部
アクリロニトリル 2.0 部
ノルマルオクチルメルカプタン 0.3 部
ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート 0.08 部
t−ブチルハイドロパーオキサイド 0.1 部
脱イオン水 70 部
反応を終了したラテックスを取出し70℃に加温後、70℃の塩酸水(濃度
1.5%)1000部に添加し析出させた。その析出物を脱水洗浄乾燥することにより、白色粉末の親水性グラフト共重合体(b−2)を得た。
C.ポリアミドエラストマー(c)の準備;
ポリアミドエラストマー(c)として、富士化成社製の商品名称TPAE
H151(c−1)及び富士化成社製のTPAE 10HP10(c−2)を準備した。
D.界面活性剤(d)の準備;
界面活性剤(d−1)として、ノナフルオロブタンスルホン酸カリウム(Tng=460℃)(d−1)及びリチウムビストリフルオロメタンスルホンイミド(d−2)を準備した。
【0058】
[実施例1]
1.制電性熱可塑性樹脂組成物のペレット製造;
熱可塑性樹脂(a)としてアクリル樹脂(a−1)を100重量部、アルキレンオキサイド基を有するゴム状幹重合体にエチレン系不飽和単量体をグラフト重合したグラフト共重合体(b)としてグラフト共重合体(b−1)を60重量部、ポリアミドエラストマー(c)として富士化成社製の商品名称TPAE
H151(c−1)を20重量部及び界面活性剤(d)としてノナフルオロブタンスルホン酸カリウム(Tng=460℃)(d−1)を0.5重量部をヘンシェルミキサーにて混合した。
次にこの組成物を異方向2軸押出し機(東洋精機社製ラボプラストミル
LT−20)を用いて、スクリュー回転数80回転、樹脂温度240℃、押出量毎時2〜4kg/Hで直径3mmの紐状に成型し、冷却後にカットすることでペレットを得た。
2.射出成型;
上記で得たペレットを乾燥した後、射出成型機(東芝機械社製 商品名称IS−80EPN)を用いて、樹脂温度220℃で、平面寸法が100mmx100mmで、厚さが4mmの板状成型品を得た。
3.プレス成型;
次に、上記で得たペレットを8インチのロール混練機(関西ロール社製)を用いて、温度180℃で、平面寸法が1000mmx300mmで、厚さが0.5mmのシートを形成した。引き続きこれらシートの各8枚を、プレス成型機(神藤金属工業所社製)で温度200℃でプレスし、平面寸法が250mmx250mmで、厚さが4mmの板状成型品を得た。
4.成型品の物性測定;
上記2及び3によって得られた板状成型品の物性を下記方法によって測定した。
(1)体積固有抵抗率;
平面寸法が250mmx250mmで、厚さが4mmの板試料を形成し、JIS:K6911に準拠して、温度23℃、湿度23%RHで3日間調湿した後、高精度絶縁計である東亜電波工業社製「SM−10E」を用いて、体積固有抵抗率を測定した。
(2)アイゾット衝撃強度;
JIS K7110に示された試験片に準拠して、平面寸法が80mmx10mmで、厚さが4mmの板試料を形成し、ノッチ半径r=0.25mmで深さ2mmのノッチを入れ、温度23℃、湿度50%RHで3日間経過させた後、振り子式衝撃試験機(東洋精機社製)を用いて、アイゾット衝撃強度を測定した。
【0059】
[実施例2乃至7及び比較例1乃至8]
次に、表1に示す組成の熱可塑性樹脂組成物を上記実施例1の方法に従って用意し、同じく実施例1と同様の方法によって板状成型品を作成し、体積固有抵抗率とアイゾット衝撃強度を測定した。
【0060】
【表1】

【0061】
上記における単位は、いずれも重量部である。
【0062】
測定の結果を下記標2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
制電性の評価基準:
「非常に優れる(優)」;体積固有抵抗率で10Ωm以下
「優れる(秀)」;体積固有抵抗率で10Ωm を超え1010Ωm以下
「劣る(劣)」;体積固有抵抗率で1010Ωm を超え1011Ωm未満
「制電性がない(不可)」;体積固有抵抗率で1011Ωm 以上
耐衝撃性の評価基準:
「優れる(秀)」;アイゾット強度で2kJ/m 以上
「劣る(劣)」;アイゾット強度で2kJ/m未満
成型法による制電特性(R/R);
「優れる(秀)」;R/R=0.1〜10
「劣る(劣)」;R/R<0.1又はR/R>10
【0065】
【表3】

【0066】
上記表から以下のことが明らかである。
1.ポリアミドエラストマー(c)の配合量については、熱可塑性樹脂(a)100重量部に対して15重量部では、射出成型した場合の制電性、プレス成型した場合の制電性、アイゾット強度のいずれの点でも劣るものであって、満足し得る結果は得られないが、20重量部配合することによってこれら問題は改善される。
2.グラフト共重合体(b)を配合しない場合には、プレス成型した場合の制電性、アイゾット強度のいずれの点でも劣るものであって、満足し得る結果は得られない。
3.ポリアミドエラストマー(c)を配合しない場合には、射出成型した場合の制電性、アイゾット強度のいずれの点でも劣るものであって、満足し得る結果は得られない。
4.グラフト共重合体(b)及びポリアミドエラストマー(c)の両者を配合したとしても、15重量部ずつでは射出成型した場合の制電性、プレス成型した場合の制電性、アイゾット強度のいずれの点でも劣るものであって、満足し得る結果は得られない。
【0067】
これに対して、ポリアミドエラストマー(c)をグラフト共重合体(b)の共存下に20重量部以上配合した場合は、射出成型した場合の制電性、プレス成型した場合の制電性、アイゾット強度のいずれの点でも優れた効果が観察される。また、グラフト共重合体(b)はポリアミドエラストマー(c)の共存下に15重量部配合しても効果は観察されないが、20重量部以上、特に、35重量部配合したときには顕著な効果が観察される。界面活性剤(d)成分については無配合でも十分だが、これを配合することによって射出成型した場合の制電性、プレス成型した場合の制電性が顕著に増強される。更に、界面活性剤を配合することによって、制電性の尺度である体積固有抵抗率は約10倍小さくなり、制電効果が改善された。
【産業上の利用可能性】
【0068】
上記のとおり、本発明の制電性熱可塑性樹脂組成物は、優れた制電効果を有するだけでなく、衝撃強度等の機械的強度にも優れ、かつ、成型適応性に優れている。このため、これまでのように成型手段を制限されることがなく、射出成型は勿論のこと、今日まで困難とされたプレス成型を始めとする各種の成型方法によって成型した場合にも、優れた制電特性と機械強度を有する成形品を得ることができる。成型手段の幅が拡大されるので、従来は困難とされたプレス成型や押出成型も可能となり、これにより板状乃至シート状の制電性製品の成型も可能となった。
また、本発明の制電性熱可塑性樹脂組成物は、射出成形法、押出成形法、プレス成形法あるいは真空成形法等の通常の加工方法により、シート、フィルム、管、繊維、異形成形体、二色成形体等の任意の成形体に加工可能であり、本発明組成物は、エレクトロニクス製品、光学製品、家電製品、OA機器製品、半導体製造装置関連製品、フォトリソグラフィー関連製品、液晶・PDP・関連製品等の製造に好適である。特に、電気・電子機器等のハウジング(例えば、ハードディスクドライブ(以降「HDD」)搬送パッケージング等)や収納容器の製造に好適に使用し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(a)に、アルキレンオキサイド基を有するゴム状幹重合体にエチレン系不飽和単量体をグラフト重合したグラフト共重合体(b)及びポリアミドエラストマー(c)を配合してなり、かつ、熱可塑性樹脂(a)に対するグラフト共重合体(b)及びポリアミドエラストマー(c)の配合比[(b)+(c)]/(a)が(40〜160)/100であり、ポリアミドエラストマー(c)に対するグラフト共重合体(b)の配合比(b)/(c)が0.5〜5.0である制電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
熱可塑性樹脂(a)に対して、更に、界面活性剤(d)を(0.01〜5)/100の割合で配合してなる請求項1に記載の制電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
界面活性剤(d)が、JIS:K7120に定める重量減少の開始温度が250℃以上のアニオン系界面活性剤である請求項2に記載の制電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
アルキレンオキサイド基を有するゴム状幹重合体にエチレン系不飽和単量体をグラフト重合したグラフト共重合体(b)が、下記グラフト共重合体からなる請求項1乃至3のいずれかに記載の制電性熱可塑性樹脂組成物。
(i)
共役ジエン及びアクリル酸エステルから選ばれた1種以上の単量体50〜95重量%、
(ii) 4〜500個アルキレンオキサイド基を有しエチレン系不飽和結合を有する1種以上の単量体5〜50重量%、及び
(iii) 共役ジエン及びアクリル酸エステルと共重合可能な1種以上のエチレン系不飽和単量体0〜40重量%からなるゴム幹重合体5〜95重量%に
(iv) 1種以上のエチレン系不飽和単量体5〜95重量%をグラフト共重合したグラフト共重合体。
【請求項5】
ポリアミドエラストマー(c)が重合脂肪酸系ポリアミドエラストマーである請求項1乃至4のいずれかに記載の制電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
成型加工品とした場合の体積固有抵抗率(Ω・m)が1x10以上、1x1010以下であり、かつアイゾット衝撃強度(kJ/m)が2以上である請求項1乃至5のいずれかに記載の制電性熱可塑性樹脂。
【請求項7】
射出成型によって得られる成形加工品の体積抵抗率(R)とプレス成型によって得られる成形加工品の体積抵抗率(R)との比(R/R)が0.1〜10である請求項1乃至6のいずれかに記載の制電性熱可塑性樹脂。

【公開番号】特開2006−342345(P2006−342345A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−132416(P2006−132416)
【出願日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】