説明

制電性複合糸および制電性織編物および防塵衣

【課題】繊維強度などポリエステル繊維の優れた特性を兼ね備え、洗濯耐久性よく優れた制電性と低発塵性とを有する制電性複合糸および制電性織編物および防塵衣を提供する。
【解決手段】温度20℃、湿度40%RH条件における平衡吸湿率が1%以上であり、かつ沸水収縮率が15%以下の吸湿性合成繊維糸Aと、沸水収縮率が25%以上の高収縮性共重合ポリエステル繊維糸Bとを用いて複合糸を得た後、該複合糸を用いて織編物を織編成し熱処理を施し、該織編物を用いて防塵衣を縫製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗濯耐久性よく優れた制電性と低発塵性とを有する制電性複合糸および制電性織編物および防塵衣に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器、医薬、医療機器、食品などの製造現場や加工現場で着用される作業衣用織物には、形態安定性、機械強度、耐熱性などに優れているという理由で、ポリエステル繊維が主に使用されている。しかしながら、疎水性合成繊維であるポリエステル繊維は吸湿率が低いため、かかる繊維で構成した織物は、低湿度下での静電気の発生が問題となる場合があった。特に、半導体やハードディスクヘッドなどの精密機器の製造現場(クリーンルーム)で着用される防塵衣には、より高い制電性能が要求されている。
【0003】
ポリエステル繊維からなる織編物に制電性能を付与する方法としては、導電性合成繊維を含む糸条を織物中に織り込み、さらに制電性樹脂を後加工により織編物表面を被覆する方法などが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、かかる方法で得られた織物は、制電性能の洗濯耐久性が十分でない、また、織物表面を被覆した制電性樹脂が発塵源となり、精密機器の製造現場で着用される防塵衣には不適であるという問題があった。
【0004】
また、特許文献2では、吸湿性合成繊維糸とポリエステル繊維糸とで構成される防塵衣用制電性複合糸が提案されているが、かかる制電性複合糸では制電性のバラツキが大きくまだ実用上満足といえるものではない。
【0005】
【特許文献1】特開2001−164474号公報
【特許文献2】特開2006−328568号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、繊維強度などポリエステル繊維の優れた特性を兼ね備え、洗濯耐久性よく優れた制電性と低発塵性とを有する制電性複合糸および制電性織編物および防塵衣を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、吸湿性合成繊維糸とポリエステル繊維糸とで制電性複合糸を得た後、該制電性複合糸を用いて織編物を得た際、該織編物中に含まれる制電性複合糸において、吸湿性合成繊維糸が鞘部に位置し、一方ポリエステル繊維糸が芯部に位置することが制電性の点で重要であることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0008】
かくして、本発明によれば「温度20℃、湿度40%RH条件における平衡吸湿率が1%以上でありかつ沸水収縮率が15%以下の吸湿性合成繊維糸Aと、沸水収縮率が25%以上の高収縮性共重合ポリエステル繊維糸Bとを含むことを特徴とする制電性複合糸。」が提供される。
【0009】
その際、複合糸を98℃の沸騰水中に5分間浸漬した後、さらに温度20℃、湿度65%RHの雰囲気中に放置した後、該複合糸に含まれる吸湿性合成繊維糸Aの糸長DAと、高収縮性共重合ポリエステル繊維糸Bの糸長DBとの比DA/DBが1.05以上であることが好ましい。前記吸湿性合成繊維糸Aとしては、ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、ポリオキシエチレングリコールをソフトセグメントとするポリエーテルエステルエラストマーからなる吸湿性合成繊維糸が好ましい。一方、前記高収縮性共重合ポリエステル繊維糸Bとしては、主構成モノマーがテレフタル酸およびエチレングリコールであり、この主構成モノマーにイソフタル酸が共重合している共重合ポリエステルからなる高収縮性共重合ポリエステル繊維糸が好ましい。
【0010】
本発明の制電性複合糸において、吸湿性合成繊維糸Aと高収縮性共重合ポリエステル繊維糸Bとが、空気加工により混繊されていることが好ましい。また、吸湿性合成繊維糸Aの重量をWA、一方、高収縮性共重合ポリエステル繊維糸Bの重量をWBとするとき、WA:WBが70:30〜5:95の範囲内であることが好ましい。また、撚数100回/m以上の撚りが施されていることが好ましい。
【0011】
また、本発明によれば、前記の制電性複合糸を用いて織編成された織編物であって、該織編物に熱処理が施されることにより、高収縮性共重合ポリエステル繊維糸Bが熱収縮している制電性織編物が提供される。
かかる制電性織編物において、洗濯50回後の摩擦帯電圧が300V以下であることが好ましい。また、洗濯50回後の0.5μm以上の発塵量が20個/リットル以下であることが好ましい。
また、本発明によれば、かかる制電性織編物で構成される防塵衣が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、繊維強度などポリエステル繊維の優れた特性を兼ね備え、洗濯耐久性よく優れた制電性と低発塵性とを有する制電性複合糸および制電性織編物および防塵衣が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の制電性複合糸には、温度20℃、湿度40%RH条件における平衡吸湿率が1%以上(好ましくは1〜5%)でありかつ沸水収縮率が15%以下(好ましくは1〜10%)の吸湿性合成繊維糸Aが含まれる。該平衡吸湿率が1%未満では、十分な制電性能が得られず好ましくない。該平衡吸湿率は高いほど制電性能が向上し好ましいが、平衡吸湿率が高くなりすぎると繊維の製造が困難となる恐れがあるので5%以下でよい。また、吸湿性合成繊維糸Aの沸水収縮率が15%よりも大きいと、熱処理された後において吸湿性合成繊維糸Aの糸長が高収縮性共重合ポリエステル繊維糸Bの糸長よりも短くなってしまうおそれがあり好ましくない。
【0014】
なお、本発明でいう平衡吸湿率は以下の方法で測定する。すなわち、糸をかせとりして約10g分の試料を採取し、温度20℃、湿度40%RHの環境下で24時間放置したのちの質量を吸湿後の質量とし、下記式により平衡吸湿率を算出する。
平衡吸湿率(%)=((吸湿後の質量)−(絶乾後の質量))/(絶乾後の質量)×100
【0015】
かかる吸湿性合成繊維糸Aを構成する繊維としては、例えば、ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、ポリオキシエチレングリコールをソフトセグメントとするポリエーテルエステルエラストマーからなるポリエーテルエステル繊維や、ポリアクリル酸金属塩、ポリアクリル酸およびその共重合体、ポリメタアクリル酸およびその共重合体、ポリビニルアルコールおよびその共重合体、ポリアクリルアミドおよびその共重合体、ポリオキシエチレン系ポリマーなどを配合したポリエステル繊維、5−スルホイソフタル酸成分を共重合したポリエステル繊維などが例示される。なかでも、ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、ポリオキシエチレングリコールをソフトセグメントとするポリエーテルエステルエラストマーからなるポリエーテルエステル繊維(弾性糸)が好ましい。
【0016】
上記ポリブチレンテレフタレートは、ブチレンテレフタレート単位を少なくとも70モル%以上含有することが好ましい。ブチレンテレフタレートの含有率は、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。酸成分は、テレフタル酸が主成分であるが、少量の他のジカルボン酸成分を共重合してもよく、またグリコール成分は、テトラメチレングリコールを主成分とするが、他のグリコール成分を共重合成分として加えてもよい。
【0017】
テレフタル酸以外のジカルボン酸としては、例えばナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルキシエタンジカルボン酸、β−ヒドロキシエトキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、アジピン酸、セバシン酸、1、4−シクロヘキサンジカルボン酸のような芳香族、脂肪族のジカルボン酸成分を挙げることができる。さらに、本発明の目的の達成が実質的に損なわれない範囲内で、トリメリット酸、ピロメリット酸のような三官能性以上のポリカルボン酸を共重合成分として用いても良い。
【0018】
また、テトラメチレングリコール以外のジオール成分としては、例えばトリメチレングリコール、エチレングリコール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ネオペンチルグリコールのような脂肪族、脂環族、芳香族のジオール化合物を挙げることができる。更に、本発明の目的の達成が実質的に損なわれない範囲内で、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールのような三官能性以上のポリオールを共重合成分として用いてもよい。
【0019】
一方、ポリオキシエチレングリコールは、オキシエチレングリコール単位を少なくとも70モル%以上含有することが好ましい。オキシエチレングリコールの含有量は、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。本発明の目的の達成が実質的に損なわれない範囲内で、オキシエチレングリコール以外にプロピレングリコール、テトラメチレングリコール、グリセリンなどを共重合させても良い。
かかるポリオキシエチレングリコールの数平均分子量としては、400〜8000が好ましく、なかでも1000〜6000が特に好ましい。
【0020】
前記のポリエーテルエステルエラストマーは、たとえば、テレフタル酸ジメチル、テトラメチレングリコールおよびポリオキシエチレングリコールとを含む原料を、エステル交換触媒の存在下でエステル交換反応させ、ビス(ω−ヒドロキシブチル)テレフタレート及び/又はオリゴマーを形成させ、その後、重縮合触媒及び安定剤の存在下で高温減圧下にて溶融重縮合を行うことにより得ることができる。
【0021】
ハードセグメント/ソフトセグメントの比率は、重量を基準として30/70〜70/30であることが好ましい。
かかるポリエーテルエステル中には、公知の有機スルホン酸金属塩が含まれていると、さらに優れた制電性が得られ好ましい。
【0022】
ポリエーテルエステル繊維は、前記ポリエーテルエステルを、通常の溶融紡糸口金から溶融して押し出し、引取速度300〜1200m/分(好ましくは400〜980m/分)で引取り、巻取ドラフト率をさらに該引取速度の1.0〜1.2(好ましくは1.0〜1.1)で巻取ることにより製造することができる。
【0023】
前記吸湿性合成繊維糸Aの総繊度、単糸繊度、フィラメント数は特に限定されないが、防塵性や生産性の点で総繊度30〜200dtex、単糸繊度0.6〜100dtex、フィラメント数1〜10本の範囲が好ましい。
【0024】
また、本発明の制電性複合糸には、沸水収縮率が25%以上の高収縮性共重合ポリエステル繊維糸Bが含まれる。かかる高収縮性共重合ポリエステル繊維糸Bを形成する共重合ポリエステルとしては、共重合ポリエステルの主構成モノマーがテレフタル酸およびエチレングリコールであり、この主構成モノマーに共重合する第三成分が、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ビスフェノールA、およびビスフェノールスルフォンからなる群より選択されるいずれかであることが好ましい。特に、前記の共重合ポリエステルが、酸成分がモル比(テレフタル酸/イソフタル酸)90/5〜85/15のテレフタル酸およびイソフタル酸からなり、グリコール成分がエチレングリコールからなる共重合ポリエステルであることが好ましい。このような共重合ポリエステルを用いることにより高い沸水収縮率を有する高収縮性共重合ポリエステル繊維糸(非弾性糸)が得られる。
【0025】
かかる高収縮性共重合ポリエステル繊維糸Bの総繊度、単糸繊度、フィラメント数は特に限定されないが、防塵性や風合い、生産性の点で総繊度20〜300dtex、単糸繊度0.3〜10dtex、フィラメント数1〜200本の範囲が好ましい。単糸繊度が上述より太いと、織物の風合いが硬くなるとともに塵埃捕集効率が低下するおそれがある。また、上述より細いと、摩擦により毛羽が発生しやすくなり発塵の原因となるおそれがある。
【0026】
前記の吸湿性合成繊維糸Aおよび高収縮性共重合ポリエステル繊維糸Bにおいて、繊維形態は長繊維である必要がある。これらの糸条には、通常の仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。また、吸湿性合成繊維糸Aや高収縮性共重合ポリエステル繊維糸Bを構成する単糸繊維の横断面形状は特に限定されず、丸、三角、扁平、くびれ付き扁平、花弁、中空など公知の断面形状が採用できる。
【0027】
前記の吸湿性合成繊維糸Aおよび高収縮性共重合ポリエステル繊維糸Bにおいて、繊維を形成するポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0028】
本発明の制電性複合糸において、98℃の沸騰水中に5分間浸漬した直後に測定して、該複合糸に含まれる吸湿性合成繊維糸Aの糸長DAと、高収縮性共重合ポリエステル繊維糸Bの糸長DBとの比DA/DBが1.05以上(好ましくは1.05〜1.40、特に好ましくは1.05〜1.30)であることが好ましい。かかる測定は、織編物を染色仕上げ加工による熱処理を擬制するものであり、該比DA/DBが1.05よりも小さいと、吸湿性合成繊維糸Aが複合糸の表面(すなわち、織編物表面)に露出しにくくなり、十分な制電性が得られないおそれがある。逆に、該比DA/DBが1.4よりも大きいと、吸湿性合成繊維が織編物の表面に飛び出し、外観・風合いを損ってしまうおそれがある。
【0029】
本発明の制電性複合糸において、前記吸湿性合成繊維糸Aと高収縮性共重合ポリエステル繊維糸Bとの重量比としては、温度20℃、湿度65%RHの雰囲気中における吸湿性合成繊維糸Aの重量をWA、一方、高収縮性共重合ポリエステル繊維糸Bの重量をWBとするとき、WA:WBが70:30〜5:95の範囲内であることが好ましい。吸湿性合成繊維糸Aの重量が該範囲よりも小さいと、十分な制電性が得られないおそれがある。また、高収縮性共重合ポリエステル繊維糸Bの重量が該範囲よりも小さいと、繊維強度などのポリエステル繊維の優れた特性が損なわれるおそれがある。
【0030】
複合糸の複合方法としては、エアーノズルを用いたインターレース空気加工、カバリング加工、引き揃え仮撚捲縮加工などが例示される。なかでも、前記のような糸長差をもうける上で、インターレース空気加工、あるいはカバリング加工が特に好ましい。前記のような糸長差をもうけるには、複合加工の際、吸湿性合成繊維糸Aおよび高収縮性共重合ポリエステル繊維糸Bのうち、どちらか一方を伸張させた後、他方と引き揃えて複合加工するとよい。かかる複合糸には、撚数100回/m以上(好ましくは300〜1000回/m)の撚りが施されていると、吸湿性合成繊維糸Aが複合糸表面に露出しやすく、優れた制電性が得られ好ましい。
【0031】
なお、本発明の制電性複合糸において、吸湿性合成繊維糸Aおよび/または高収縮性共重合ポリエステル繊維糸Bは、単数糸条に限定されず、複数糸条であってもよい。なお、本発明の主目的が損なわれない範囲内であれば、第3の糸条として他の糸条が含まれていてもさしつかえない。
【0032】
次に、本発明の制電性織編物は、前記の複合糸を用いて製編織され、該織編物に熱処理が施されることにより、高収縮性共重合ポリエステル繊維糸Bが熱収縮している織編物である。かかる織編物の組織は特に限定されず、通常の方法で製編織されたものでよい。例えば、織物の織組織としては、平織、斜文織、朱子織等の三原組織、変化組織、変化斜文織等の変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロードなどが例示される。編物の種類は、よこ編物であってもよいしたて編物であってもよい。よこ編組織としては、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が好ましく例示され、たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等が例示される。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。
【0033】
かかる織物において、カバーファクターが2000〜3800の範囲であることが優れた塵埃捕集効率を得ることができ好ましい。カバーファクターが2000以下であると塵埃捕集効率が低く、精密機器の製造現場で着用される防塵衣には好ましくない。カバーファクターが3800以上であると、塵埃捕集効率には優れるが、著しく通気性が低下し快適性が損なわれるおそれがある。なお、本発明でいうカバーファクターCFは下記の式により表されるものである。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
[DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。]
【0034】
該織編物には、前記複合糸が、織編物の総重量に対して5%以上(より好ましくは40%以上、特に好ましくは100%)含まれていることが好ましい。その際、例えば前記の複合糸と他糸条とが1本交互または複数本交互に配されていてもよいが、経糸全量および/または緯糸全量が前記の複合糸であると、優れた制電性が得られ好ましい。
【0035】
また、熱処理は通常の常法の染色仕上げ加工による熱処理でよい。なお、常法の減量加工、撥水加工、起毛加工、紫外線遮蔽あるいは抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【0036】
かかる織編物には前記の複合糸が含まれており、かつ前記の熱処理により吸湿性合成繊維糸Aが織編物の表面に露出しているので、優れた制電性を呈する。また、制電性樹脂などを後加工により織物表面に付着させるいわゆる制電加工により制電性を付与するものではないため、洗濯耐久性に優れ、摩擦などによる発塵性は低い。ここで、洗濯50回後の摩擦帯電圧としては、300V以下であることが好ましい。また、洗濯50回後の0.5μm以上の発塵量としては、20個/リットル以下であることが好ましい。
【0037】
次に、本発明の防塵衣は、前記の制電性織編物で構成される防塵衣である。特に、半導体やハードディスクヘッドなどの精密機器の製造現場(クリーンルーム)で着用される防塵衣として好適に使用することができる。かかる防塵衣は付着した塵埃除去のため定期的に洗濯されることが一般的であるので、本発明の防塵衣であれば、頻繁に衣服を更新する必要がなく、効率でありコストもかからない。
【実施例】
【0038】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
<平衡吸湿率>
糸をかせとりして約10g分の試料を採取した後、JIS 1013−1998により絶乾後の質量を測定した。次いで、該試料を、温度20℃、湿度40%RHの環境下で24時間放置したのちの質量を吸湿後の質量とし、下記式により平衡吸湿率を算出した。
平衡吸湿率(%)=((吸湿後の質量)−(絶乾後の質量))/(絶乾後の質量)×100
<沸水収縮率>
供試フィラメント糸条を、周長1.125mの検尺機のまわりに10回巻きつけて、かせを調製し、このかせを、スケール板の吊るし釘に懸垂し、懸垂しているかせの下端に、かせの総質量の1/30の荷重をかけて、かせの収縮処理前の長さL1を測定した。
このかせから荷重を除き、かせを木綿袋に入れ、このかせを収容している木綿袋を沸騰水から取り出し、この木綿袋からかせを取り出し、かせに含まれる水をろ紙により吸収除去した後、これを室温において24時間風乾した。この風乾されたかせを、前記スケール板の吊し釘に懸垂し、かせの下部分に、前記と同様に、かせの総質量の1/3の荷重をかけて、収縮処理後のかせの長さL2を測定した。そして、供試フィラメント糸条の沸水収縮率(BWS)を下記式により算出した。
BWS(%)=((L1−L2)/L1)×100
<カバーファクター(CF)>下記の式により算出した。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
[DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。]
<糸長の測定>試料を温度20℃、湿度65%RHの雰囲気中に24時間放置した後、30cmの長さに裁断する(n数=5)。続いて、吸湿性合成繊維糸Aと高収縮性共重合ポリエステル繊維糸Bを1本ずつ取り出し、弾性糸である場合には0.0088mN/dtex(1mg/de)の荷重をかけ、非弾性糸である場合には1.76mN/dtex(200mg/de)の荷重をかけて吸湿性合成繊維糸Aの糸長DA(mm)、高収縮性共重合ポリエステル繊維糸Bの糸長DB(mm)を測定した。そして、(糸長DAの平均値)/(糸長DBの平均値)をDA/DBとした。
<摩擦帯電圧>JIS L 1094 B法で規定される方法により、摩擦帯電圧(V)をn数3で測定した。測定環境は温度20±2℃、湿度40±2%RHで実施した。
<発塵量>IES Helmke Drum法により、パーティクルカウンターにて0.5μm以上の発生塵埃をカウントした。
<洗濯条件>JIS L 0217 103法で規定される方法により実施した。これを50回繰り返し処理した。
【0039】
[実施例1]
ハードセグメントとしてポリブチレンテレフタレートを49.8重量部、ソフトセグメントとして数平均分子量4000のポリオキシエチレングリコール50.2重量部からなるポリエーテルエステルを、230℃で溶融し、所定の紡糸口金より吐出量3.05g/分で押出した。このポリマーを2個のゴデットロールを介して705m/分で引取り、さらに750m/分(巻取りドラフト1.06)で巻取り、44デシテックス/1フィラメントの吸湿性ポリエーテルエステル繊維(吸湿性合成繊維糸A、沸水収縮率8%)を得た。この吸湿性ポリエーテルエステル繊維の温度20℃、湿度40%RHにおける吸湿率は1.9%であった。
【0040】
一方、ポリエステル繊維糸Bとして、通常のイソフタル酸を全酸成分に対し10モル%共重合した高収縮性共重合ポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント糸(56デシテックス/12フィラメント、沸水収縮率37%)を用意した。
次いで、通常のインターレース加工機を使用して、上記の吸湿性ポリエーテルエステル繊維をドラフト率120%(1.2倍)に延伸しながら、上記のポリエステル繊維糸Bと引き揃えて、空気圧0.21MPa(2.1kg/cm)にて通常のインターレース加工を行い、複合糸を得た。この複合糸を沸水で処理した後のDA/DB=1.10であった。
【0041】
次いで、該複合糸を600回/m(S方向)にて撚糸した糸条を、経糸および緯糸に全量配し、経密度216本/3.79cm、緯密度148本/3.79cmの織密度にて、通常の製織方法により綾組織の織物生機を得た。そして、該織物生機に常法の染色仕上げ加工を施した。
得られた織物において、カバーファクターCFは2774であった。また、摩擦帯電圧は40V、発塵量は1.4個/リットルと高い制電性と低い塵芥性の両方を汗持つものであった。
【0042】
[比較例1]
ポリエステル繊維糸Bとして、通常のポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント延伸糸(56デシテックス/12フィラメント、沸水収縮率8%)を用いるほかは実施例1と同様に行い、複合糸を得た。この複合糸を沸水で処理した後のDA/DB=0.80であった。次いで、この複合糸を用いる以外は、実施例1と同様にした。
得られた織物において、カバーファクターCFは2774であり、摩擦帯電圧は300V、発塵量は1.4個/リットルと目的とする摩擦帯電に対比高いものになってしまった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、繊維強度などポリエステル繊維の優れた特性を兼ね備え、洗濯耐久性よく優れた制電性と低発塵性とを有する制電性複合糸および制電性織編物および防塵衣が提供され、その工業的価値は極めて大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度20℃、湿度40%RH条件における平衡吸湿率が1%以上でありかつ沸水収縮率が15%以下の吸湿性合成繊維糸Aと、沸水収縮率が25%以上の高収縮性共重合ポリエステル繊維糸Bとを含むことを特徴とする制電性複合糸。
【請求項2】
複合糸を98℃の沸騰水中に5分間浸漬した後、さらに温度20℃、湿度65%RHの雰囲気中に放置した後、該複合糸に含まれる吸湿性合成繊維糸Aの糸長DAと、高収縮性共重合ポリエステル繊維糸Bの糸長DBとの比DA/DBが1.05以上である、請求項1に記載の制電性複合糸。
【請求項3】
吸湿性合成繊維糸Aが、ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、ポリオキシエチレングリコールをソフトセグメントとするポリエーテルエステルエラストマーからなる、請求項1または請求項2に記載の制電性複合糸。
【請求項4】
高収縮性共重合ポリエステル繊維糸Bが、主構成モノマーがテレフタル酸およびエチレングリコールであり、この主構成モノマーにイソフタル酸が共重合している共重合ポリエステルからなる、請求項1〜3のいずれかに記載の制電性複合糸。
【請求項5】
吸湿性合成繊維糸Aと高収縮性共重合ポリエステル繊維糸Bとが、空気加工により混繊されてなる、請求項1〜4のいずれかに記載の制電性複合糸。
【請求項6】
吸湿性合成繊維糸Aの重量をWA、一方、高収縮性共重合ポリエステル繊維糸Bの重量をWBとするとき、WA:WBが70:30〜5:95の範囲内である、請求項1〜5のいずれかに記載の制電性複合糸。
【請求項7】
撚数100回/m以上の撚りが施されてなる、請求項1〜6のいずれかに記載の制電性複合糸。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の制電性複合糸を用いて織編成された織編物であって、該織編物に熱処理が施されることにより、高収縮性共重合ポリエステル繊維糸Bが熱収縮している制電性織編物。
【請求項9】
洗濯50回後の摩擦帯電圧が300V以下である、請求項8に記載の制電性織編物。
【請求項10】
洗濯50回後の0.5μm以上の発塵量が20個/リットル以下である、請求項8または請求項9に記載の制電性織編物。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれかに記載の制電性織編物で構成される防塵衣。

【公開番号】特開2008−303483(P2008−303483A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−150129(P2007−150129)
【出願日】平成19年6月6日(2007.6.6)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】