説明

制電生地およびその製法

【課題】導電糸が地の部分から目立たず、衣料、特に裏地として用いるのに最適な制電生地を提供する。
【解決手段】経糸1が地糸2と導電糸3とで構成され、これに緯糸4を組み合わせた織物であって、上記地糸2が合成繊維マルチフィラメントAで構成され、上記導電糸3が合成繊維マルチフィラメントBで構成され、上記合成繊維マルチフィラメントBの一部が、芯部に導電性白色金属を含有する芯鞘型フィラメントで構成されており、かつ上記合成繊維マルチフィラメントBに用いられるポリマー成分の材質と、各単糸繊維の側面形状とが、合成繊維マルチフィラメントAのそれらと略同一に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣料の裏地として用いるのに最適な制電生地およびその製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
衣料の裏地や防塵衣料に用いられる生地としては、従来から、織物や編物からなる生地を構成する地糸に対し、導電性が付与された導電糸を適宜の間隔で交織もしくは交編したものが、各種出回っている(例えば、特許文献1〜3等参照)。
【特許文献1】特公平2−23615号公報
【特許文献2】特開平4−91248号公報
【特許文献3】特開平11−350296号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1には、導電糸を交編織してなる布帛において、導電糸を含有する混繊糸として、導電糸を含まない地部構成糸との見掛け直径の差が10%以内のものを用いた防塵衣用衣服素材が開示されており、上記特許文献2には、電気抵抗値とL値が所定の範囲に設定された芯鞘型導電性フィラメント糸を、地部構成糸の一部として非導電性ポリエステルマルチフィラメント糸に混繊させて用いた制電性布帛が開示されている。
【0004】
また、上記文献3には、導電糸条を所定間隔で混用してなる織物において、導電糸条として、芯となる合成繊維長糸条に導電性複合紡糸糸をカバリングしたものを用いた織物が開示されている。
【0005】
しかしながら、これらの生地は、制電性もしくは防塵性の付与を最優先して提案されたものであり、生地の染色性や仕上がり具合については充分に吟味されたものとはいえず、地部構成糸(地糸)に交編織された導電糸が、地の部分とは異なる見え方となって目立ちやすいという問題がある。とりわけ、裏地のように、ごく薄い織物として用いる場合や、染色された色の濃淡によって、その目立ち方が大きくなる傾向が見られる。
【0006】
このように、導電糸が地の部分から目立つと、衣料等にこれを適用した場合、見栄えが悪くなるだけでなく、導電糸と地糸の表面特性が異なることに由来して、繰り返し使用すると両者の境界部に汚れが筋状に発生する等の問題が生じ、好ましくない。
【0007】
そこで、導電糸と地糸とをできるだけ近似する構成にして、導電糸を地の部分から目立たせないようにすることが検討されているが、高品質のものは未だ得られていないのが実情である。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、導電糸が地の部分から目立たず、衣料、特に裏地として用いるのに最適な制電生地とその製法の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明は、織編物を構成する地糸に対し、導電糸を適宜の配置で組み合わせてなる制電生地であって、上記地糸が合成繊維マルチフィラメントAで構成され、上記導電糸が合成繊維マルチフィラメントBで構成され、上記合成繊維マルチフィラメントBの一部が、導電性白色金属を含有する導電性ポリマーからなる芯部と、上記芯部の側周面を完全に被覆する非導電性ポリマーからなる鞘部とで形成された芯鞘型フィラメントで構成されており、かつ上記合成繊維マルチフィラメントBに用いられるポリマー成分の材質と、各単糸繊維の側面形状とが、合成繊維マルチフィラメントAのそれらと略同一に設定されている制電生地を第1の要旨とする。
【0010】
また、本発明は、そのなかでも、特に、上記地糸を構成する合成繊維マルチフィラメントAと、上記導電糸を構成する合成繊維マルチフィラメントBとが、ともに無交絡かつ無合撚の状態で集合された紡糸混繊糸である制電生地を第2の要旨とする。
【0011】
さらに、本発明は、それらのなかでも、特に、上記導電糸の電気抵抗値が、1011Ω/cm以下である制電生地を第3の要旨とし、上記合成繊維マルチフィラメントBにおける芯鞘型フィラメントの含有量が、10〜25重量%に設定されている制電生地を第4の要旨とする。
【0012】
そして、本発明は、それらのなかでも、特に、上記芯鞘型フィラメント横断面における、芯部と鞘部の面積比率が、芯部:鞘部=1:10〜1:100に設定されている制電生地を第5の要旨とし、上記合成繊維マルチフィラメントA、Bのトータル繊度の割合が、A:B=1:0.9〜1:1.1に設定されている制電生地を第6の要旨とする。
【0013】
また、本発明は、上記第1の要旨である制電生地を製造する方法であって、地糸となる合成繊維マルチフィラメントAを準備する工程と、導電性白色金属を含有する導電性ポリマーからなる導電性チップと、非導電性ポリマーからなる非導電性チップとを準備し、 上記導電性チップおよび非導電性チップを複合紡糸装置に導入して、導電性ポリマーからなる芯部と非導電性ポリマーからなる鞘部とで形成された芯鞘型フィラメントと、上記非導電性ポリマーのみからなるフィラメントとを同時に溶融紡糸することにより、導電糸となる合成繊維マルチフィラメントBを得る工程と、上記合成繊維マルチフィラメントAからなる地糸に対し、上記合成繊維マルチフィラメントBからなる導電糸を、適宜の配置で組み合わせて織成もしくは編成することにより制電生地を得る工程とを備え、上記合成繊維マルチフィラメントBに用いられるポリマー成分の材質と、各単糸繊維の側面形状とが、合成繊維マルチフィラメントAのそれらと略同一になるよう設定した制電生地の製法を第7の要旨とする。
【発明の効果】
【0014】
すなわち、本発明の制電生地は、地糸として用いられる合成繊維マルチフィラメントAと、導電糸として用いられる、導電性白色金属を含有する特定の合成繊維マルチフィラメントBとが、ともに、略同一のポリマー成分で、単糸繊維の側面形状が略同一である、という特殊な構成を有しているため、地糸に対し、適宜の配置で交織もしくは交編される導電糸が、完全に、あるいは殆ど目立たないという特徴を備えている。したがって、従来の制電生地のように、導電糸に由来する筋がなく、見栄えのよいものとなる。また、本発明の制電生地を繰り返し使用しても、地糸と導電糸の境界部等に汚れの筋等が生じることがなく、清浄な状態で長期間使用することができる。
【0015】
なお、本発明の制電生地のなかでも、特に、上記地糸を構成する合成繊維マルチフィラメントAと、上記導電糸を構成する合成繊維マルチフィラメントBとが、ともに無交絡かつ無合撚の状態で集合された紡糸混繊糸であるものは、それぞれのフィラメントがフリーな状態となるため、そのなかにあって、とりわけ導電糸が目立ちにくいという利点を有する。
【0016】
また、本発明の制電生地のなかでも、特に、上記導電糸の電気抵抗値が、1011Ω/cm以下のものは、制電性能に優れており、特に、上記合成繊維マルチフィラメントBにおける芯鞘型フィラメントの含有量が、10〜25重量%に設定されているものは、制電性能と導電糸の目立ちにくさのバランスに優れている。
【0017】
また、同様に、上記芯鞘型フィラメント横断面における、芯部と鞘部の面積比率が、芯部:鞘部=1:10〜1:100に設定されているもの、上記合成繊維マルチフィラメントA、Bのトータル繊度の割合が、A:B=1:0.9〜1:1.1に設定されているものは、とりわけ、導電糸が目立ちにくく、見栄えがよいものとなる。
【0018】
そして、本発明の制電生地の製法によれば、上記制電生地を、効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
つぎに、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0020】
図1は、本発明を平織の織物に適用した一実施の形態を示す模式図である。この織物の経糸1は、合成繊維マルチフィラメントAからなる地糸2と、地糸2に対して所定間隔で織り込まれる、合成繊維マルチフィラメントBからなる導電糸3とで構成されている。4は緯糸である。なお、上記「地糸」とは、導電糸を織り込むときのベースとなる糸を指すのであり、導電糸を経緯に織り込む場合は、経糸および緯糸の、導電糸以外のベースとなる糸を「地糸」という。
【0021】
上記地糸3の合成繊維マルチフィラメントAとしては、ポリエステル、ポリアミド等、繊維形成性ポリマーによって得られるマルチフィラメントであれば、特に限定するものではなく、その単糸繊維横断面も、どのような形状であっても差し支えない。ただし、衣服の裏地に適用する場合、その材質は、特に、ポリエステルマルチフィラメントであることが好適である。
【0022】
また、同様に、衣服の裏地に適用する場合、マルチフィラメントAのトータル繊度は30〜300dtexに設定することが好適であり、そのフィラメント数は12〜72本に設定することが好適である。
【0023】
そして、上記合成繊維マルチフィラメントAは、一般的な方法、例えば溶融紡糸方法によって得られるが、交絡や合撚によって集束されることなく、互いにばらばらの状態で集合されていることが望ましい。ただし、スピンドロー紡糸の場合、ボビンへの捲き取りを容易にするために、例えば10個/m程度の軽い交絡を付与する場合があり、その交絡が、最終的に生地として仕上がった際には殆ど判別できないようになっている場合も、何ら問題はない。また、撚りについても、ボビンからの解舒の際、例えば2〜10T/mの実撚が付与されるが、この程度の撚りは、何ら問題はない。もちろん、意図的に、ごく軽く交絡や撚りを付与している場合も、何ら問題はない。
【0024】
一方、上記導電糸3の合成繊維マルチフィラメントBは、最終的に得られる生地において、この糸を目立たなくさせるために、できるだけ上記地糸2の合成繊維マルチフィラメントAと同じ糸構成であることが好ましく、特に、そのポリマー成分の材質と、各単糸繊維の側面形状とが、上記合成繊維マルチフィラメントAと略同一でなければならない。
【0025】
より具体的に述べると、上記合成繊維マルチフィラメントAの材質がポリエステルであれば、導電糸3の合成繊維マルチフィラメントBのポリマー成分の材質も、それと同一のポリエステル、例えばイソフタル酸を25重量%(以下「%」と略す)含有する共重合ポリエステルであれば、それと同一の共重合体ポリエステルに設定することが望ましい。ただし、必ずしも両者は完全に同一である必要はなく、その特性に影響のない任意成分の添加や組成の微妙な差異は許容範囲とする。以下に用いる「略同一」も同様の趣旨である。
【0026】
また、ポリエステル等の合成繊維マルチフィラメントには、通常、フィラメント本来の光沢を低減して艶消しするために酸化チタンが少量含有されており、その含有の程度によって、ブライト(光沢があるまま)、セミダル(半艶消し)、ダル(艶消し)の3種類に区別されるが、合成繊維マルチフィラメントAの艶消しの程度と、合成繊維マルチフィラメントBの艶消しの程度も、略同一に設定しなければならない。なお、酸化チタンの量を多くすると、制電生地に含有された導電糸を、ある程度目立ちにくくさせることができるが、本発明によれば、上記酸化チタン量が少なくても、導電糸を、より目立たせなくすることができる。
【0027】
さらに、上記合成繊維マルチフィラメントAの各単糸繊維横断面形状が丸であれば、導電糸3の合成繊維マルチフィラメントBの各単糸繊維横断面形状も、丸にすることが望ましく、三角形や楕円等の異形であれば、合成繊維マルチフィラメントBも、それと略同一の異形に設定することが望ましい。すなわち、断面形状を揃えることにより、両マルチフィラメントA、Bの各単糸繊維の側面における凹凸形状が揃うこととなり、両者の光の反射が同一となるため、導電糸3が目立ちにくくなるからである。
【0028】
同様の観点から、上記合成繊維マルチフィラメントBの集合形態も、合成繊維マルチフィラメントAと同様、交絡や合撚によって集束されることなく、互いにばらばらの状態で集合された、紡糸混繊糸であることが望ましい。すなわち、合成繊維マルチフィラメントA、Bが、ともに略平行に並んで陰影を生じにくい構造となり、導電糸3が目立ちにくくなるからである。もちろん、合成繊維マルチフィラメントAの場合と同様、軽微な交絡や撚りが付与されていても、差し支えはないが、その場合も、合成繊維マルチフィラメントA、Bが、ともに、同程度の交絡や撚りが付与されたものであることが好適である。
【0029】
また、上記合成繊維マルチフィラメントAのトータル繊度(すなわち、地糸2の太さ)と、合成繊維マルチフィラメントBのトータル繊度(すなわち、導電糸3の太さ)も、略同一であることが好ましい。ただし、多少の差異は差し支えなく、通常、両者のトータル繊度の割合は、A:B=1:0.9〜1:1.1に設定することが好適である。例えば、合成繊維マルチフィラメントAのトータル繊度が56dtexのとき、合成繊維マルチフィラメントBのトータル繊度は、50〜62dtex程度に設定することが、導電糸3を目立ちにくくする上で、好適である。
【0030】
ここで、上記合成繊維マルチフィラメントBの一部は、生地に導電性を付与するために、導電性を有する芯鞘型フィラメント(図1において破線で示す)で構成されている。
【0031】
上記芯鞘型フィラメント5は、合成繊維マルチフィラメントB(導電糸3)の横断面を模式的に示す図2(a)に示すように、例えば24本のフィラメントのうちの4本として紡出されるようになっており、各芯鞘型フィラメント5は、導電性白色金属を含有する導電性ポリマーからなる芯部5aと、上記芯部5aの側周面を完全に被覆する非導電性ポリマーからなる鞘部5bとで形成されている。なお、上記合成繊維マルチフィラメントBと組み合わせて用いられる合成繊維マルチフィラメントA(地糸2)の模式的な横断面は、図2(b)に示すように、例えば24本の、非導電性ポリマーのみからなるフィラメントで構成されている。
【0032】
上記芯鞘型フィラメント5の芯部5aに用いられる導電性白色金属としては、導電性を有し、白色を呈するものであれば、特に限定するものではないが、例えば、導電性皮膜を有する酸化チタンを用いることが好適である。なお、導電物質としては、カーボンブラック等の黒色物質もあるが、白色以外のものを用いると、芯部5aの染色性が悪く、得られる生地において、導電糸3を目立たせてしまうため、用いることはできない。
【0033】
上記導電性白色金属の導電性皮膜を構成する材料としては、酸化銅、酸化銀、酸化亜鉛、酸化カドミウム、酸化錫、酸化鉛、酸化マンガン等の金属酸化物が好適である。なお、上記金属酸化物は単独で用いてもよいが、これを主成分とし、それに少量の、第1成分に対し異種金属の酸化物や同種・異種金属からなる第2成分を添加することによって導電性を高めたものを用いることが好ましい。
【0034】
そして、上記酸化チタンとしては、粉末状での比抵抗が104 Ω・cm以下、特に102 〜10-2Ω・cmのものを用いることが好適である。なお、上記比抵抗は、直径1cmの円筒に試料(この場合、酸化チタン)を10g詰めて上部からピストンによって1961N(200kg)の圧力を加えて直流電圧(0.1〜1000V)を印加し、その状態で測定して得られる値である。
【0035】
また、上記導電性白色金属を含有させるポリマー(導電性ポリマーのベースポリマー)としては、前述のとおり、合成繊維マルチフィラメントAに用いるポリマーと略同一のものを選択することが望ましいが、鞘部を構成する非導電性ポリマーが合成繊維マルチフィラメントAに用いるポリマーと略同一であれば、芯部のベースポリマーは、合成繊維マルチフィラメントAに用いるポリマーと異なっていても、全体としては略同一となり、問題はない。
【0036】
そして、上記芯部5aにおけるポリマー中の導電性白色金属の含有量は、用いる導電性白色金属の比抵抗と、最終的に得ようとする導電糸3の電気抵抗値にもよるが、通常、30〜85%に設定することが好適である。すなわち、上記の範囲よりも導電性白色金属が多すぎると、この部分の染色性が悪いため、生地が濃色に染色される場合等において、導電糸3が白っぽい筋となって目立ちやすくなるおそれがある。逆に、上記の範囲よりも導電性白色金属が少なすぎると、芯鞘型フィラメント5の1本当たりの導電性が低くなり、本数を多くしなければならないため、同じく導電糸3が目立ちやすくなるおそれがある。
【0037】
なお、上記芯鞘型フィラメント5の鞘部5bに用いられるポリマーも、前述のとおり、マルチフィラメントAに用いるポリマーと略同一のものを選択しなければならない。
【0038】
そして、上記芯鞘型フィラメント5において、その横断面における、芯部5aと鞘部5bの面積比率は、芯部5a:鞘部5b=1:10〜1:100に設定することが好ましく、なかでも1:30〜1:70に設定することが、特に好適である。すなわち、上記の範囲よりも芯部5aの面積比が小さすぎると、導電糸が不充分になるおそれがあり、逆に、上記の範囲よりも芯部5aの面積比が大きすぎると、導電糸3が白っぽい筋となって目立ちやすくなるおそれがある。
【0039】
上記構成のマルチフィラメントBは、例えば、つぎのようにして得ることができる。すなわち、まず、芯鞘型フィラメント5の芯部5aとなる導電性ポリマーを得るために、上記導電性白色金属を、ポリエステル等のポリマーに所定割合で練り込んだ導電性チップを用意する。また、芯鞘型フィラメント5の鞘部5bと、芯鞘型フィラメント5以外のフィラメントを得るために、上記と同様のポリマーであって導電性白色金属を含有しないポリマーからなる非導電性チップを用意する。
【0040】
そして、例えば、図3に示すような複合紡糸装置を用い、上記非導電性チップPをメインエクストルーダ10側に供給し、上記導電性チップQをサブエクストルーダ11側に供給し、ギヤポンプ12、13を介して、図4に示す紡糸ヘッド14から吐出させた後、延伸・巻取工程を経由して、上記合成繊維マルチフィラメントBを得ることができる。
【0041】
なお、上記紡糸ヘッド14には、これを見上げた図4に示すように、6×8=48個のノズル孔15を有する口金14aが設けられており、上記48個のノズル孔15の全てに、メインエクストルーダ10から非導電性チップPを溶融したポリマーが導入されるようになっている。また、上記ノズル15のうち、8個のノズル孔15の内側に、小径のサブノズル孔16が連通されており、このサブノズル孔16に、サブエクストルーダ11(図3参照)から導電性チップQを溶融した導電性ポリマーが導入されるようになっている。
【0042】
したがって、上記ノズル孔15とサブノズル孔16を組み合わせてなる8個所のノズル孔から吐出されたフィラメントは、芯鞘型フィラメント5となり、それ以外のノズル孔から吐出されたフィラメントは、通常のフィラメントとなる。そして、合計48本のフィラメントは、図4において、鎖線で示すように、24本ずつの2組に分かれた状態で、延伸・巻取工程にかけられて、2本の合成繊維マルチフィラメントBが得られる。
【0043】
なお、上記の例では、合成繊維マルチフィラメントBにおける芯鞘型フィラメント5の芯部5aが、図5(a)に示すように、細長い断面形状をしているが、芯部5aの断面形状は、特に限定するものではなく、例えば、図5(b)に示すように、1個の円であってもよいし、図5(c)に示すように、複数(図では3個)の小円であってもよい。
【0044】
ただし、上記芯部5aの側周面は、鞘部5bによって、完全に被覆されていることが望ましい。すなわち、芯鞘型フィラメント5の側面において、部分的に芯部5aが露出した形状になっていると、後で行う染色仕上げ工程におけるアルカリ減量時に、芯部5aが外側に早く溶出してしまい、制電性能が大幅に低下してしまうからである。しかも、上記導電性白色金属が、製織中に製織ガイドや綜絖、筬等と摩擦してこれらを傷つけるおそれもある。
【0045】
そして、上記合成繊維マルチフィラメントBにおける芯鞘型フィラメント5の含有量は、特に限定するものではないが、生地への制電効果と導電糸3の目立ちにくさの点から、10〜25%に設定することが好適である。すなわち、芯鞘型フィラメント5の含有量が、10%未満では、得られる生地の制電効果が小さく、逆に、25%を超えると、生地において導電糸3が目立ちやすくなるからである。
【0046】
また、上記の例において、図1に示す織物に用いられる緯糸4としては、特に限定するものではなく、織物の用途に応じて、適宜の糸が用いられる。
【0047】
そして、上記地糸2と導電糸3を経糸1として、上記緯糸4と組み合わせて製織することにより、図1に示す織物を得ることができる。
【0048】
このようにして得られる織物は、制電効果に優れているだけでなく、平滑で、しかも地糸2に対し、適宜の配置で織り込まれた導電糸3が、完全に、あるいは殆ど目立たず、見栄えのよいものとなる。また、この織物を繰り返し使用しても、地糸2と導電糸3の境界部等に汚れの筋等が生じることがなく、清浄な状態で長期間使用することができる。
【0049】
なお、上記織物の織組織は、特に限定するものではなく、例えば、平織、綾織、朱子織等があげられる。なかでも、織物を裏地に用いる場合、薄さ、軽さの点で、平織が好ましく、きれいな仕上がりの点で、綾織、特に1/2〜2/2ツイルの織組織にすることが好適である。
【0050】
さらに、上記織物における導電糸3の含有量は、織物に充分な制電効果を付与するためには、1.0%以上に設定することが好適である。そして、上記導電糸3を地糸2の間に織り込む間隔は、適宜に設定されるが、例えば、0.5〜3cmの間隔に設定することが、効果および見栄えの点で好ましく、特に好ましくは、1〜2cmである。
【0051】
そして、上記織物の目付は、特に限定するものではないが、なかでも、100g/m2 以下、特に、70g/m2 以下に設定することが、裏地として用いる場合に、好適である。
【0052】
また、上記織物において、その経糸方向と緯糸方向のカバーファクターの和が3000以下、特に2000以下に設定されていることが、効果の点で、好適である。ただし、上記カバーファクターの和は、下記の式(1)で用いることができる。
【0053】
【数1】

【0054】
なお、本発明の制電生地は、織物に限らず、編物によっても構成することができる。その場合、地糸2と導電糸3とを、適宜の間隔で交編するのであり、互いの糸使いについては、上記織物の場合と同様である。
【0055】
好ましい編組織としては、特に限定するものではないが、例えば、トリコット編、コード編等の経編や、プレーン編、リブ編等の緯編を、適宜用いることができる。
【実施例】
【0056】
つぎに、本発明の実施例について、比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。また、導電糸の電気抵抗値(Ω/cm)の測定方法は、下記のとおりである。
【0057】
〔電気抵抗値の測定〕
導電糸を10cm採取し、その両端0.5cmに導電ペーストを塗布しアルミ箔を電極として、その電気抵抗値(Ω/cm)を、抵抗測定機(ヒューレットパッカード社製、ハイレジスタンスメーター4339B)を用いて測定した。
【0058】
〔実施例1〕
<導電糸の準備>
極限粘度〔η〕が0.63で、酸化チタンを0.2%含有するポリエチレンテレフタレートセミダルチップ(非導電性ポリマー用)と、酸化チタンに錫をコーティングした導電性白色金属をポリエチレンに75%練り込んだ導電性チップ(導電性ポリマー用)とを、前記図3に示す紡糸装置を用い、前出の手順にしたがって、複合紡糸して導電糸を得た。なお、紡糸時の非導電性ポリマーpと導電性ポリマーqの体積比は、p:q=48:1、紡糸温度は285℃とした。
【0059】
得られた導電糸は、56dtex/24fのセミダル(酸化チタン0.2%含有)の丸断面糸で、24本のフィラメントのうち、4本が芯鞘型フィラメント、20本が通常のフィラメントであった(図2〔a〕参照)。そして、この導電糸の電気抵抗値は、5.2×1010Ω/cmであった。
【0060】
<地糸、緯糸の準備>
地糸として、56dtex/24f、極限粘度〔η〕が0.63のポリエチレンテレフタレートのセミダル(酸化チタン0.2%含有)の丸断面糸を準備した。また、緯糸として、84dtex/36fのポリエチレンテレフタレートのセミダル(酸化チタン0.2%含有)の丸断面糸を準備した。
【0061】
<製織>
上記地糸5191本、上記導電糸123本を、地糸:導電糸=42:1に配列して経糸とし、上記緯糸と組み合わせて、平織に製織した。この生機の経密度は103本/2.54cm、緯密度は77本/2.54cmであった。
【0062】
<仕上げ処理>
得られた生機に、精練、プレセット、アルカリ減量(減量率3%)を行い、液流染色機(日阪製作所社製、サーキュラー染色機)にて130℃×30分の染色後、仕上げセットを行うことにより、裏地用織物を得た。なお、染色において、下記のとおり染料レサイプを変えることにより、色の異なる3種類の織物を得た。
【0063】
〔染色レサイプ〕
(1)濃色の茶色
染料:紀和化学工業社製 キワロンルビン2GF 0.420owf
紀和化学工業社製 キワロンネービーブルーAP−584GF
0.518owf
三菱化学社製 ダイアニックス イエローブラウン SE−R 1.356owf
(トータル染料濃度:2.294owf)
助剤:酢酸 1g/リットル
分散均染剤 1g/リットル
(2)中間色の茶色
上記濃色の茶色の染料の量をそれぞれ1/5にして、トータル染料濃度を、0.4588owfにした。
(3)淡色の茶色
上記濃色の茶色の染料の量をそれぞれ1/200にして、トータル染料濃度を、0.011owfにした。
【0064】
〔実施例2〜4〕
紡糸口金を変更して、導電糸の構成を、表1に示すように変えた(芯鞘型フィラメントを4本を含む点はそのまま)に変えた。それ以外は、実施例1と同様にして、裏地用織物を得た。
【0065】
〔実施例5〜8〕
複合紡糸の際、メインエクストルーダに供給する非導電性ポリマーpと、サブエクストルーダに供給する導電性ポリマーqの体積比(p:q)を、表2に示すように変えた。それ以外は、実施例1と同様にして、裏地用織物を得た。
【0066】
〔比較例1〜3〕
メインエクストルーダに供給する非導電性ポリマー用チップの種類を、酸化チタンの含有量が0.02%のブライトチップ(比較例1)と、酸化チタンの含有量が2.5%のフルダルチップ(比較例2)と、共重合成分としてエチレングリコールを用いた易染性チップ(比較例3)とに変えた。それ以外は、実施例1と同様にして、裏地用織物を得た。
【0067】
〔比較例4〕
地糸として、56dtex/24f、極限粘度〔η〕が0.63のポリエチレンテレフタレートのセミダル(酸化チタン0.2%含有)の三角断面糸を用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、裏地用織物を得た。
【0068】
〔比較例5〕
実施例1と同様にして複合紡糸をする際、紡糸口金を変えて、芯鞘型フィラメント4本と、芯鞘構造をもたないフィラメント8本とで構成された、28dtex/12fのセミダル丸断面糸を捲き取った。また、単独紡糸により、28dtex/12fのセミダル丸断面糸(レギュラー糸)を得た。
【0069】
そして、上記導電糸用マルチフィラメントと上記レギュラー糸とを各1本ずつ引き揃え、合撚機でS撚200T/mに合撚して、56dtex/24fの導電糸とした。この導電糸を用い、実施例1と同様にして、裏地用織物を得た。
【0070】
〔比較例6〕
比較例5と同様にして、28dtex/12fの導電糸用マルチフィラメントと、28dtex/12fのレギュラー糸とを準備した。そして、上記導電糸用マルチフィラメントと上記レギュラー糸とを各1本ずつ引き揃えて合糸し、エア加工機で交絡度50個/mとなるよう空気交絡を施して、56dtex/24fの導電糸とした。この導電糸を用い、実施例1と同様にして、裏地用織物を得た。
【0071】
〔比較例7〕
導電糸に用いる導電粒子として、カーボンブラックを用いた。それ以外は、実施例1と同様にして、裏地用織物を得た。
【0072】
このようにして得られた各織物に対し、下記の方法にしたがって、摩擦帯電圧を測定して評価するとともに、導電糸の目立ちやすさを評価した。そして、これらの結果を、後記の表1〜表4に併せて示した。
【0073】
<摩擦帯電圧>
JIS 1091−1997 摩擦帯電減衰測定法により、水洗い洗濯JIS 103法5回後、20℃、33%RHの条件で測定した。そして、摩擦布としてウールを用いた場合と綿を用いた場合の平均摩擦帯電圧が3000V以下…◎、3000Vを超えて4000V以下…○、4000Vを超えて5000V以下…△、5000Vを超える…×、の4段階で評価した。
【0074】
<導電糸の目立ちやすさ>
専門モニター5名の目視により、導電糸が筋状に目立つか否かを観察して評価した。評価は、◎…全く目立たない、○…ほぼ目立たない、△…若干目立つが、裏地用織物として用いた場合、全く気にならない、×…少し目立ってやや気になる、××…はっきり目立って気になる、の5段階で評価した。その結果を、後記の表1〜表4にまとめて示した。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
【表3】

【0078】
【表4】

【0079】
上記の結果から、実施例品は、いずれの項目も概ね良好な結果が得られているのに対し、比較例品は、悪い評価項目を含み、実用上問題を有することがわかる。
【0080】
特に、導電糸として合撚糸を用いた比較例5品は、無撚の地糸と、合撚糸である導電糸の単糸繊維の側面形状が異なり、したがって両者の質感が異なるため、導電糸が非常に目立つだけでなく、図6(a)に示すように、導電糸3の一部を構成する芯鞘型フィラメント5が、斜めに筋状に走っているのが見えて目立つ。
【0081】
また、導電糸として交絡糸を用いた比較例6品は、図6(b)に示すように、交絡部20がタイトストップ状に細かく絡まっており、無交絡の地糸と比べて、それぞれの単糸繊維の側面形状が異なり、したがって両者の質感が異なるため、導電糸が非常に目立つ。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の一実施例の説明図である。
【図2】(a)は上記実施例に用いられる導電糸の横断面形状を示す説明図、(b)は上記実施例に用いる地糸の横断面形状を示す説明図である。
【図3】上記実施例に用いられる導電糸の紡糸装置の説明図である。
【図4】上記紡糸装置における口金のノズル形状を示す説明図である。
【図5】(a)上記実施例に用いられる芯鞘型フィラメントの横断面形状を示す説明図、(b)、(c)は、いずれも、その変形例を示す説明図である。
【図6】(a)は、本発明の比較例5品の説明図、(b)は、同じく比較例6品の説明図である。
【符号の説明】
【0083】
1 経糸
2 地糸
3 導電糸
4 緯糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
織編物を構成する地糸に対し、導電糸を適宜の配置で組み合わせてなる制電生地であって、上記地糸が合成繊維マルチフィラメントAで構成され、上記導電糸が合成繊維マルチフィラメントBで構成され、上記合成繊維マルチフィラメントBの一部が、導電性白色金属を含有する導電性ポリマーからなる芯部と、上記芯部の側周面を完全に被覆する非導電性ポリマーからなる鞘部とで形成された芯鞘型フィラメントで構成されており、かつ上記合成繊維マルチフィラメントBに用いられるポリマー成分の材質と、各単糸繊維の側面形状とが、合成繊維マルチフィラメントAのそれらと略同一に設定されていることを特徴とする制電生地。
【請求項2】
上記地糸を構成する合成繊維マルチフィラメントAと、上記導電糸を構成する合成繊維マルチフィラメントBとが、ともに無交絡かつ無合撚の状態で集合された紡糸混繊糸である請求項1記載の制電生地。
【請求項3】
上記導電糸の電気抵抗値が、1011Ω/cm以下である請求項1または2記載の制電生地。
【請求項4】
上記合成繊維マルチフィラメントBにおける芯鞘型フィラメントの含有量が、10〜25重量%に設定されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の制電生地。
【請求項5】
上記芯鞘型フィラメント横断面における、芯部と鞘部の面積比率が、芯部:鞘部=1:10〜1:100に設定されている請求項1〜4のいずれか一項に記載の制電生地。
【請求項6】
上記合成繊維マルチフィラメントA、Bのトータル繊度の割合が、A:B=1:0.9〜1:1.1に設定されている請求項1〜5のいずれか一項に記載の制電生地。
【請求項7】
請求項1に記載された制電生地を製造する方法であって、地糸となる合成繊維マルチフィラメントAを準備する工程と、導電性白色金属を含有する導電性ポリマーからなる導電性チップと、非導電性ポリマーからなる非導電性チップとを準備し、上記導電性チップおよび非導電性チップを複合紡糸装置に導入して、導電性ポリマーからなる芯部と非導電性ポリマーからなる鞘部とで形成された芯鞘型フィラメントと、上記非導電性ポリマーのみからなるフィラメントとを同時に溶融紡糸することにより、導電糸となる合成繊維マルチフィラメントBを得る工程と、上記合成繊維マルチフィラメントAからなる地糸に対し、上記合成繊維マルチフィラメントBからなる導電糸を、適宜の配置で組み合わせて織成もしくは編成することにより制電生地を得る工程とを備え、上記合成繊維マルチフィラメントBに用いられるポリマー成分の材質と、各単糸繊維の側面形状とが、合成繊維マルチフィラメントAのそれらと略同一になるよう設定したことを特徴とする制電生地の製法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−24277(P2009−24277A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−188112(P2007−188112)
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(305037123)KBセーレン株式会社 (97)
【Fターム(参考)】