説明

前立腺癌および肺癌の診断および治療方法

前立腺癌および肺癌を検出して治療するための方法が開示される。当該方法を実施するに際して、被験者試料がGPR110タンパク質またはそのRNA転写物に関してアッセイされ、そして被験者が前立腺癌または肺癌と関連したGPR110レベル上昇を示すか否かを確定するに際して、観察されたGPR110または転写物レベルが用いられる。このようなレベル上昇を有する患者は、本発明に従って、種々のGPR110関連免疫療法薬で治療され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前立腺癌および肺癌に関連した遺伝子およびコードタンパク質、ならびに前立腺癌および肺癌を検出して治療するための方法および試薬に関する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0002】
以下に列挙するのは、本発明の背景をまたは本発明の実施に際して用いられる方法を裏づける参考文献である。
1. Bjamadottir TK, Geirardsdottir K, lngemansson M, Mirza MA, Fredriksson R, Schioth HB. Identification of novel splice variants of Adhesion G protein-coupled receptors. Gene. 2007 Jan 31 ;387(1-2):38-48. Epub 2006 Aug 15 30.
2. Bjamadottir TK, Fredriksson R, Hoglund PJ, Gloriam DE, Lagerstrom MC, Schioth HB. The human and mouse repertoire of the adhesion family of G- protein-coupled receptors. Genomics. 2004 Jul;84(1):23-33.
3. Fredriksson R, Lagerstrom MC, Hoglund PJ, Schioth HB. Novel human G protein-coupled receptors with long N-terminals containing GPS domains and Ser/Thr-rich regions. FEBS Lett. 2002 Nov 20;531 (3):407-14.
4. Nusse, R., van Ooyen, A., Cox, D., Fung, Y. K. & Varmus, H. Mode of proviral activation of a putative mammary oncogene (int-1) on mouse chromosome 15. Nature 307, 131-6 (1984).
5. Nusse, R. & Varmus, H. E. Many tumors induced by the mouse mammary tumor virus contain a provirus integrated in the same region of the host genome. Cell 31, 99-109 (1982).
6. Sorensen, A. B., Duch, M., Amtoft, H. W., Jorgensen, P. & Pedersen, F. S. Sequence tags of provirus integration sites in DNAs of tumors induced by the murine retrovirus SL3-3. J Virol 70, 4063-70 (1996).
7. Lund, A. H. et al. Genome-wide retroviral insertional tagging of genes involved in cancer in Cdkn2a-deficient mice. Nat Genet 32, 160-5 (2002).
8. Mikkers, H. et at. High-throughput retroviral tagging to identify components of specific signaling pathways in cancer. Nat Genet 32, 153-9 (2002).
9. Collier, L. S., Carlson, C. M., Ravimohan, S., Dupuy, A. J. & Largaespada, D. A. Cancer gene discovery in solid tumours using transposon-based somatic mutagenesis in the mouse. Nature 436, 272-6 (2005).
10. Dupuy, A. J., Akagi, K., Largaespada, D. A., Copeland, N. G. & Jenkins, N. A. Mammalian mutagenesis using a highly mobile somatic Sleeping Beauty transposon system. Nature 436, 221-6 (2005).
11. Wang, et al., Nucleic Acids Research, (England) 2005, Vol. 33, p.21.
12. Oh da Y, Kim K, Kwon HB, Seong JY. Cellular and molecular biology of orphan G protein-coupled receptors.lnt Rev Cytol. 2006,252: 163-218.
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14. Jacoby E, Bouhelal R, Gerspacher M Seuwen K. The 7 TM G-protein-coupled receptor target family. ChemMedChem. 2006 Aug;1(8):761-82.
【背景技術】
【0003】
前立腺癌は、北米男性における最も一般的な悪性癌である。毎年、約200,000の新症例、ならびに31,500例の前立腺癌関連死が米国で生じると概算される。前立腺癌は、目下、男性における癌死の第二の主因である(第一位は肺癌である)。それは全男性癌の29%、男性癌関連死の11%を占める。
【0004】
現在、FDAは、前立腺癌スクリーニング実験室試験として用いるための血清PSA(前立腺特異的抗原)を承認している。多数の血清腫瘍マーカーと同様に、PSAは、正常および癌性の両方の前立腺により産生される。前立腺癌を有する男性において、血清レベルは、限局性ならびに進行性または播種性の疾患により引き上げられ得る。PSAレベルは、一般的に癌の体積に比例する。癌で確認されるPSAレベルと良性前立腺肥大症におけるレベルとの間の有意の重複が認められるため、低いまたは境界線上の上昇値の逐次レベルを得ることが重要である。
【0005】
遊離PSA(fPSA)試験の導入は、早期前立腺癌の同定に、より高レベルの特異性を導入した。1998年、FDAは、4.0〜10.0ng/mLの総PSA値を有する男性のための診断補助手段としてfPSA試験を承認した。これはしばしば、総PSA試験に関する診断的グレイゾーンであって、fPSAは層別化を手助けし得る。概して、任意の遊離PSAレベルでは、前立腺が肥大するほど、前立腺は癌性になる可能性が大きくなり得る。しかしながら、これらの試験は依然としてせいぜい定性的なものであり、より信頼できる種類の検出ならびに癌治療を病期分類するための手段が必要とされる。
【0006】
前立腺癌は、他の形態の癌と同様に、遺伝的異常、すなわち突然変異により引き起こされる。突然変異体細胞では、増殖を促す因子と抑制する因子との間の正常平衡が乱され、その結果、これらの突然変異体細胞(腫瘍細胞の特徴)が継続的に増殖する。突然変異は、自発的に、または外部因子、例えば、化学的突然変異誘発因子、放射線またはウイルス組込み(導入遺伝子を含有することもしないこともあるゲノム外DNAを挿入する)により生じ得る。細胞性遺伝子は、点突然変異、挿入およびフレームシフト(例えば切頭化)、(機能的)欠失(例えばサイレンシング)、または転位(時として、遺伝子融合を引き起こし得る)により修飾され得る。このようにして、癌原遺伝子は癌遺伝子になり、これが増殖を促して、腫瘍抑制遺伝子は不活性化されるようになり、腫瘍増殖を誘導し得る。DNAにおける上記の変化の任意の組合せは、腫瘍形成の一因となり得る。これらの変化の成行きは、免疫系によるチェックで抑制されることもあり、されないこともあり得る(免疫監視機構)。
【0007】
今まで、GPR110レベルの変化と前立腺癌または肺癌との間の関連は実証されていない。このような関連は、多数の重要な診断的および治療的用途を示し得る。本発明に従って、(i)GPR110レベルは前立腺癌および肺癌の細胞中で有意に増大し、そして(ii)この増大は患者の血液または尿液試料で測定され得る、ということがここに発見された。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、一態様において、ヒト被験者における肺癌または前立腺癌に関するスクリーニング方法を含む。当該方法は、(a)被験者試料中のヒトGPR110またはそのRNA転写物のレベルをアッセイするステップと、(b)ヒトGPR110またはそのRNA転写物のアッセイレベルが、複数の正常ヒト試料から確定した場合の正常ヒト被験者におけるそれぞれGPR110またはその転写物のレベルの少なくとも3倍であるか否かを確定するステップとを含む。任意に、当該方法は、アッセイレベルが正常レベルの少なくとも3倍である場合、被験者におけるそれぞれ肺癌または前立腺癌に関する独立した試験により肺癌または前立腺癌の存在に関してスクリーニングすることを含み得るが、この場合、独立した試験は、ステップ(a)および(b)の前、これらと同時またはこれらの後に実行され得る。
【0009】
被験者試料が肺または前立腺の組織学的組織試料である場合、ステップ(a)は、試料を、GPR110エピトープを有する細胞に抗体を結合させるのに有効な条件下で、GPR110エピトープに対して特異的な抗GPR110抗体と接触させること、ならびに前記試料と関連した抗体のレベルを検出することを含み、ステップ(b)は、被験者の肺または前立腺組織試料と関連した抗体の検出レベルが、正常個体から得られるそれぞれヒト肺または前立腺組織試料と関連した抗GPR110抗体のレベルの少なくとも3倍であるか否かを確定することを含み得る。抗体は、配列番号1内のアミノ酸残基により表されるGPR110エピトープに対して特異的であり得る。抗体は放射性標識GPR110抗体であり、ステップ(a)は限局性放射性標識のレベルを前記組織中でシンチグラフィーにより検出することを含み得る。
【0010】
被験者試料が被験者の血液または血清試料である場合、ステップ(a)は、試料を、GPR110エピトープに抗体を結合させるのに有効な条件下で、GPR110エピトープに対して特異的な抗GPR110抗体と接触させること、GPR110エピトープに結合された抗体を非結合抗体から分離すること、ならびにGPR110エピトープに結合された抗体のレベルを検出することを含み、ステップ(b)は、GPR110エピトープに結合された抗体の検出レベルが、正常個体から得られる血液または血清試料中に存在するGPR110エピトープに結合された抗GPR110抗体のレベルの少なくとも3倍であるか否かを確定することを含み得る。ステップ(a)は、血液または血清試料体液を固相イムノアッセイ装置に適用することを含み得るが、この場合、試料中のGPR110のレベルは比色的指標または蛍光定量的指標により定性的に示され、確定ステップは、指標を既知の標準と比較することを含む。
【0011】
被験者試料が肺または前立腺組織試料である場合、ステップ(a)は、試料を処理して、そこからRNA転写物を抽出すること、ならびにGPR110タンパク質の少なくとも断片をコードするRNA転写物のレベルを検出することを含み、ステップ(b)は、RNA転写物の検出レベルが、正常個体から得られる肺または前立腺組織試料中のGPR110タンパク質の少なくとも断片をコードする転写物の検出レベルの少なくとも3倍であるか否かを確定することを含む。
【0012】
別の態様において、本発明は、肺癌または前立腺癌の存在の検出方法における、肺癌または前立腺癌の診断に役立つ生物学的マーカーのレベルの低下または上昇の検出による改善を含む。改善は、(a)被験者試料中のヒトGPR110またはその転写物のレベルをアッセイするステップ;ならびに(b)ヒトGPR110またはその転写物のアッセイレベルが、それぞれ肺癌または前立腺癌の存在の付加的指標として、複数の正常ヒト試料から確定した場合の正常ヒト被験者におけるそれぞれGPR110またはその転写物のレベルの少なくとも3倍であるか否かを確定するステップを含む。上記の方法の種々の好ましい実施形態は、本発明のこの態様にも同様に当てはまる。
【0013】
例えば、改善は、総前立腺特異的抗原(PSA)、遊離PSAおよびグリピカン3タンパク質(GPC3)のうちの1つから選択される少なくとも1つのマーカータンパク質に対して特異的な抗体と被験者体液試料を反応させ、そして前立腺癌の指標として、被験者が前記マーカータンパク質のうちの少なくとも1つのレベル増大を示すか否かを確定することにより、ヒト男性被験者における前立腺癌の検出方法に用いられ得る。
【0014】
さらに別の態様において、本発明は、前立腺癌の存在に関して被験者をスクリーニングするためのヒト被験者からの血液または血清試料中のGPR110の測定値ならびに総前立腺特異的抗原(PSA)、遊離PSAおよびグリピカン3タンパク質(GPC3)から選択される少なくとも1つのマーカー抗原の測定値の使用を意図する。
【0015】
ヒト被験者における前立腺癌または肺癌に関してスクリーニングする、あるいは被験者における前立腺癌または肺癌を病期分類治療するために用いる診断装置であって、(a)被験者からの体液試料を受容するための構造と、(b)GPR110の選択ドメインまたはエピトープに対して特異的であり且つ前記構造と関連し、そして前記構造中に受容される体液と反応して、前記構造と関連した他の試薬と組合せて、エピトープまたはドメインを含有するGPR110試料タンパク質の存在を示す検出可能な反応を生じ得る抗体と、(c)生じた検出可能な反応のレベルが前立腺癌または肺癌と関連したレベル増大として評価され得る既知の標準指標とを含む装置も開示される。装置は、より一般的には、GPR110のレベル増大により特徴付けられる他の型のヒト癌をスクリーニングするかまたは病期分類するのに適用され得る。
【0016】
装置中の構造は、試料がパッドに適用される場合に流体試料との反応のために、その中に包埋された抗体を有する多孔性パッドを含み、検出可能反応は比色的指標または蛍光定量的指標により示され、そして既知の標準指標は前立腺癌または肺癌と関連づけられるものに対応するエピトープまたはドメインを含有するGPR110のレベルを表す指示を含み得る。
【0017】
装置は、産生されるGPR110のレベルに関連したシグナルを発生するための分光測光検出器、前記シグナルを前立腺癌または肺癌に関連した既知の標準シグナル値と比較するためのマイクロプロセッサー、ならびにマイクロプロセッサーの出力を表示するためのディスプレイを含み得る。
【0018】
装置中の抗GPR110結合タンパク質は、配列番号1または配列番号2内に含入されるエピトープに対して特異的な抗体であり得る。
【0019】
ヒト被験者における前立腺癌に関してスクリーニングするのに用いるために、装置中の素子(b)は、(i)総前立腺特異的抗原(PSA)、遊離PSAおよびグリピカン3タンパク質(GPC3)のうちの1つから選択される少なくとも1つのマーカータンパク質に対して特異的であり、(ii)上記構造と関連した、そして(iii)前記構造中に受容される体液と反応して、前記構造と関連した他の試薬と組合せて、試料中のマーカータンパク質のレベルを示す検出可能な反応を生じ得る抗体をさらに含み、そして素子(c)は、生じた検出可能なマーカータンパク質反応のレベルが前立腺癌の指標として、検出可能なGPR110のレベルと組合せて、評価され得る第二の既知の標準指標をさらに含み得る。2つの標準指標は、例えば値の組で整列され、各組は被験者における前立腺癌の予め決められた可能性を表す。
【0020】
被験者における前立腺癌または肺癌の治療方法であって、(a)前立腺癌または肺癌の指標として、同一組織のヒト細胞中のそれぞれGPR110タンパク質またはRNA転写物の正常範囲と比較した場合、被験者からの癌組織細胞がGPR110タンパク質またはRNA転写物のレベル増大を示すか否かを確定することと、(b)被験者がGPR110レベルのこのような増大を有する場合、細胞の増殖または成育可能性を抑制するために、それが前立腺癌細胞または肺癌細胞と免疫特異的に反応する場合に有効な治療的有効量のGPR110抗体を投与することとを含む方法も開示される。
【0021】
GPR110抗体は、配列番号1内に含入されるエピトープに対して特異的なヒトまたはヒト化抗GPR110抗体であり得る。前立腺癌細胞または肺癌細胞の表面でGPR110と結合される場合に、前記抗体が抗体依存性細胞傷害性を促進するに際して有効であり得る。治療薬が前記細胞と結合されるかまたはその中に組み入れられるようになる場合、抗体は、癌細胞を殺すかまたは阻害するのに有効な治療薬をそこに接合し得る。
【0022】
さらに、(a)被験者の抗原提示細胞をヒトGPR110ポリペプチドまたはその抗原性断片(単数または複数)に曝露するステップ、ならびに(b)この曝露により、CD4ヘルパーT細胞、CD8 Tc細胞傷害性リンパ球およびCD8非細胞傷害性サプレッサーTリンパ球のクローン拡張を刺激し、引き起こして、それにより、被験者におけるGPR110抗原特異的CD4ヘルパーT細胞、GPR110抗原特異的CD8 Tc細胞傷害性リンパ球およびGPR110抗原特異的CD8非細胞傷害性サプレッサーTリンパ球の拡張を生じるステップにより、前立腺癌または肺癌を有する被験者における腫瘍量を低減する方法が開示される。
【0023】
曝露ステップは、細胞を活性化するのに有効な条件下で、ヒトGPR110ポリペプチドまたはその抗原性断片(単数または複数)に被験者の抗原提示細胞をex−vivoで曝露し、そして活性化細胞を被験者に注射することを含み得る。
【0024】
代替的には、曝露ステップは、適切なアジュバント中に保有されたヒトGPR110ポリペプチドまたはその断片を被験者に注射することを含み得る。
【0025】
一関連態様において、本発明は、適切なアジュバント中に保有されたヒトGPR110ポリペプチドまたはその断片(単数または複数)を被験者に注射することにより、前立腺癌または肺癌を有する被験者における腫瘍量を低減するための方法を含む。
【0026】
さらに別の態様では、本発明は、前立腺癌または肺癌の治療に有効であり得る化合物に関するスクリーニング方法を含む。当該方法は、GPR110タンパク質をその細胞表面に発現する細胞に一連の試験化合物の各々を付加するステップ(この場合、GPR110アゴニストまたはアンタゴニストと細胞表面タンパク質との結合は、細胞状態の検出可能な変化を生じるために有効である)、そして付加された試験化合物の各々に関して、細胞状態のこのような検出可能な変化が起きたか否かを確定するステップを含む。
【0027】
さらに別の態様において、本発明は、分析物GPR110あるいはその断片または変異体に関する試験を含む。作用物質は、GPR110または断片に対して特異的な抗GPR110抗体、ならびに分析物GPR110と結合される場合に存在する抗体の量を検出するかおよび/または定量するために用いられ得る、好ましくは抗体と共有結合されるアッセイタグまたは標識を含む。
【0028】
本発明のこれらのおよびその他の態様、目的、利点および特徴は、以下でさらに十分に記載されるような本発明の詳細を読めば、当業者に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】UCSCゲノム・ウエブサイトブラウザのカスタマイズされたスクリーン印刷による図としての、マウスGpr110遺伝子座のゲノム解析機構を示す(mm8遺伝子アセンブリーの2006年2月バージョン)。最上段:染色体17上の塩基位置。「PicoSL3」の下の緑色垂直ハンドルバーは、単一腫瘍(754S−2)から同定された遺伝子座中へのレトロウイルス組込みを表す。パブリックドメイン組込み部位(68SB8_65_H07−1)を、「RTCGD」の下に示す。
【図2】ヒト前立腺腫瘍(2A)、良性前立腺肥大症(2B)および正常組織(2C)の免疫組織化学的染色(褐色)を示す。正常組織または良性前立腺肥大症では、一般的に、発現が全く認められないかまたは低発現が観察されたが、一方、腫瘍組織では、有意の過剰発現が認められた。ポリクローナルウサギ抗体血清は、配列番号1として本明細書中で定義されたヒトGPR110のアミノ酸残基1〜590内に見出されるエピトープと反応する。
【図3】抗GPR110抗体(3A)および抗PSA抗体(3B)で染色されたヒト良性前立腺肥大症組織の免疫組織化学的染色(褐色)を示す。矢印は、GPR110陽性およびPSA陰性である癌幹細胞の小群を指し示す。用いたGPR110ペプチド血清は、図2に記載したものと同一である。
【図4】ヒト肺腫瘍(4A)および正常組織(4B)の免疫組織化学的染色(褐色)を示す。正常組織では発現は全く認められないかまたは低かったが、一方、腫瘍組織では、有意の過剰発現が認められた。用いたペプチド血清は、図2に記載したものと同一である。
【図5】アッセイの初期(5A)および最終段階(5B)でのヒト被験者におけるGPR110レベルを確定するための固相診断装置を示す。
【図6】本発明に従って構築された前立腺癌または肺癌遺伝素質を診断するために有用な遺伝子チップの一部を示す。
【図7】正常および腫瘍肺組織の2つの異なる組において定量的PCRにより測定した場合のGPR110 RNA発現を示す。遺伝子GUSBを、内因性対照として測定した。各組の試料に関して、正常肺試料中の平均発現と比較して発現を算定した。
【発明を実施するための形態】
【0030】
A.定義
本明細書で特に示さない限り、以下の用語は、下記に示す定義を有する。
【0031】
癌の「スクリーニング」とは、単独で、またはその他の診断情報と組み合わせてかのいずれかで、癌の有無、もしくは癌の可能性の増大を決定するか、または癌の種類、例えば、GPR110発現のレベルの上昇を特徴とする肺癌を分類するのに使用することができる診断情報を意味する。
【0032】
「肺癌または前立腺癌の診断となるその他の指標」とは、癌の存在もしくは程度もしくは種類を検出するかまたは特徴付けるのに使用することができる生物学的マーカー以外の診断テストを指す。例示的な指標として、X線、CTスキャン、もしくはMRIによる画像撮影法で得られる画像データ、または生検組織の組織学的観察結果が含まれる。
【0033】
本発明による癌の「病期分類」処置は、検出されたGPR110のレベルに基づいて、個体の癌の段階を決定するステップ、および処置をその段階に合わせるステップを含む。4つの認められている癌の段階があり、これらは癌細胞の局在および組織化の程度によって定義される。さらに、癌を、多くのホルモンベースの治療に応答する早期、およびもっと後の、より重篤なアンドロゲン非依存期として定義してもよい。
【0034】
「GPR110のアッセイレベル」とは、野生型ヒトGPR110、または変異体(例えば、タンパク質のスプライス変異体もしくは突然変異型)、またはGPR110断片のアッセイレベルを指す。
【0035】
「ヒトGPR110転写物のアッセイレベル」とは、野生型ヒトGPR110、または変異体(例えば、タンパク質のスプライス変異体もしくは突然変異型)、またはGPR110断片をコードするRNA転写物のアッセイレベルを指す。
【0036】
GPR110の「増大した」または「正常を超えた」レベルとは、例えば、免疫化学的な染色または検出によって決定されるような、正常な(癌でない)個体の個体群で測定されるタンパク質の検出可能なレベルの値よりも少なくとも約50パーセント高い、タンパク質、またはその断片もしくは変異体のレベルを指す。好ましくは、GPR110のレベルは、正常な患者由来の類似の試料についてのGPR110値よりも少なくとも3倍高い。
【0037】
GPR110 RNA転写物の「増大した」または「正常を超えた」レベルとは、例えば、PCR増幅および転写物の分離によって決定されるような、正常な(癌でない)個体の個体群で測定される転写物の検出可能レベルの値よりも少なくとも約50パーセント高い、転写物のレベル量を指す。好ましくは、GPR110のレベルは、正常な患者由来の類似の試料についてのGPR110値よりも少なくとも3倍高い。
【0038】
「正常な(癌でない)個体の個体群で測定されるGPR110タンパク質またはそのRNA転写物の検出可能なレベルの値」とは、例えば、個体群、例えば5人以上、好ましくは10人以上の正常な個体についてのそのような値の統計的平均もしくは平均値を指してもよく、または正常な個体の個体群における個体のGPR110タンパク質もしくは転写物について記録された最高値を指してもよい。そのような値は、下記のアッセイ法を用いて、選択された試料源、例えば、肺組織もしくは前立腺組織、または血液試料もしくは血清試料に由来するGPR110またはその転写物をアッセイすることによって容易に決定される。正常値は、GPR110またはその転写物のレベルの上昇の存在についてアッセイされている組織または試料源と同じ種類の組織、例えば、肺組織もしくは前立腺組織、または試料源、例えば、血液試料もしくは血清試料から決定されるということが理解されよう。
【0039】
「GPR110アッセイ」とは、野生型もしくは変異体型のいずれかのGPR110タンパク質、もしくはそのエピトープのレベルもしくは存在を測定するか、またはGPR110タンパク質もしくはその断片をコードするRNA転写物のレベルを測定するアッセイを指す。
【0040】
B.GPR110タンパク質および発現
ヒトGPR110遺伝子は、生物学的機能および天然リガンドが未知である、推定上のオーファンの「接着クラス」Gタンパク質共役型受容体をコードする(参考文献1〜3)。ヒトGPR110遺伝子は、2つの公知のアイソフォームを有しており、染色体領域6p12.3に見出される。アイソフォーム1(NM_153840.2)は、910アミノ酸(AA)および101234Daの計算分子量(MW)を有する推定タンパク質(NP_722582.2)をコードする。アイソフォーム2(NM_025048.2)は、218AA、24745Daの計算MW、およびアイソフォーム1と比べて独特のC末端を有する推定タンパク質(NP_079324.2)をコードする。マウスGpr110遺伝子(NM_133776.1)は染色体領域17B3に見出され、そのコードタンパク質(NP_598537.1)は、908AAおよび101338Daの計算MWを有する。ヒトGPR110タンパク質は、推定上の細胞表面7回膜貫通型タンパク質であり、Gタンパク質共役受容体のタンパク質分解部位(GPS)ドメインおよびSEAドメインだけでなく、N末端付近に数か所のN結合型グリコシル化部位と考えられる部位を含む。
【0041】
C.癌遺伝子としてのGPR110の同定
癌遺伝子(癌遺伝子および腫瘍抑制遺伝子)は、プロウイルスタギングを用いることによって高スループットな方法で定義された。ウイルスは今のところヒトの癌の主要な原因として関係があるとされていないが、腫瘍ウイルスを用いた研究によって、多くの癌遺伝子およびプロト癌遺伝子の発見に至っている。プロウイルスタギングでは、癌遺伝子を含まないレトロウイルス(例えば、マウス白血病ウイルスMLVまたはマウス乳癌ウイルスMMTV)をマウスに感染させる(4〜8)。最近、このアプローチの宿主範囲は、トランスポゾンの使用によって拡大されている(9,10)。
【0042】
レトロウイルス感染の間に、ウイルスは細胞ゲノムに組み込まれ、そのDNAが遺伝子近傍または遺伝子内に挿入され、それによって様々な結果がもたらされる。すなわち、(i)挿入部位がプロト癌遺伝子から離れ過ぎており、したがってそれを活性化しない。この場合、その細胞が選択されることはないと考えられる。(ii)プロウイルスが、プロト癌遺伝子の200kb以内に挿入されるが、遺伝子内には挿入されない(タイプ1)。この場合、ウイルスプロモーターまたはウイルスエンハンサーのいずれかがプロト癌遺伝子の発現レベルを増大させる。(iii)ウイルスが遺伝子内に挿入され、その機能を破壊するかまたは変化させる(タイプ2)。プロト癌遺伝子または腫瘍抑制遺伝子でない遺伝子にタイプ1またはタイプ2の挿入事象のいずれかを含む細胞が選択されることはないと考えられる。組み込みによって腫瘍の形成がもたらされる場合、組み込み部位に隣接した遺伝子を同定し、プロト癌遺伝子または腫瘍抑制遺伝子のいずれかとして分類することができる。この方法は、多くの新たなプロト癌遺伝子を同定するだけでなく、ウイルス癌遺伝子に対するそれらの相同性に基づいて発見された既知のプロト癌遺伝子を確認するのにも用いられている(7,8)。レトロウイルスが遺伝子内に着地し、遺伝子を切断または破壊する場合、腫瘍抑制因子をスコア化してもよい。これらの場合、抑制因子はハプロ不全であってもよく、または代わりに、もう一方の対立遺伝子上の突然変異がマウスによって自然発生的に与えられる。組み込み事象によって、切断された遺伝子産物のドミナントネガティブ効果またはアンチセンスもしくはマイクロRNAの転写などの、より複雑な結果がもたらされる可能性もある。
【0043】
Tリンパ向性ウイルスSL3−3を用いたスクリーニングでは、Gpr110遺伝子のイントロン1にプロウイルスの組み込みを含むマウス腫瘍を回収した(図1)。この組み込みによって、Gpr110遺伝子の過剰発現が引き起こされる。この遺伝子のヒトオーソログがヒトGPR110遺伝子である。
【0044】
D.ヒト腫瘍および正常組織におけるGPR110およびRNA転写物の発現
GPR110抗体に対する抗原性エピトープがヒト前立腺の腫瘍で過剰発現しているのに対し(図2A)、良性前立腺肥大症(BPH)細胞および前立腺腫瘍細胞の正常対応物はGPR110タンパク質を発現していないかまたは弱くしか発現しておらず(図2B、2C)、このタンパク質の分布および/または局在量(密度)の増大がヒト前立腺癌の診断となるということを示している。時々、BPH細胞の小さいサブセットがGPR110抗体で染色される(図3A、矢印)。これらのGPR110陽性細胞はPSA発現を欠いており(図3B、矢印)、前立腺癌幹細胞として分類されていることと一致する。
【0045】
さらに、GPR110抗体に対する抗原性エピトープがヒトの肺の腫瘍でも過剰発現しているのに対し(図4A)、これらの腫瘍細胞の正常対応物はGPR110タンパク質を発現していないかまたは弱くしか発現しておらず(図4B)、このタンパク質の分布および/または局在量(密度)の増大がヒト肺癌の診断となるということを示している。
【0046】
より一般的に、本発明は、通常は弱くしかGPR110を発現または含有しない組織またはその他の被験者試料、例えば、血液または血清を、癌の存在および程度について検討するための方法を提供する。本方法は、前立腺組織および肺組織を検討するのに、例えば、ヒト被験者の前立腺癌および肺癌のサブタイプを決定するのに特に有用である。前立腺組織および肺組織を検討するために行なわれる1つの方法において、GPR110の選択されたドメインまたはエピトープに特異的な標識抗体、例えば、蛍光標識抗体(下記E項参照)で組織を染色し、マーカーを組織細胞に付着させる。あるいは、未標識のGPR110抗体で組織を染色し、細胞に結合した抗体複合体を二次標識抗体、例えば、蛍光レポーター、比色レポーター、または金粒子レポーターを持つ二次抗体で標識する。その後、組織中の前立腺癌または肺癌の存在、程度、および段階を、正常な前立腺細胞または肺細胞におけるマーカーの分布および程度に関する検出可能マーカーの分布および/または程度の増大、ならびに典型的にはその両方に基づいて決定する。組織学的組織試料に対する抗体結合の度合いおよび程度をスコア化するためのスコア化法が周知である(例えば、「Lodaシステム」)。本方法では、強度スコア2+または3+および%細胞染色スコア2または3が、抗GPR110抗体で標識された肺腫瘍の35〜40%で観察された。前立腺腫瘍については、腫瘍の20%が強度スコア1および%細胞染色スコア2を有していた。良性前立腺肥大症の試料については、抗GPR110抗体で標識した場合、70%が強度スコアおよび%細胞染色スコア共に0を有し、30%が強度スコア「微弱」または1、%細胞染色スコア1を有していた。
【0047】
肺癌におけるGPR110の役割を裏付けるために、(エキソン接合部(ExJ2−3)Taqmanプローブを用いて)2つの異なる組の正常肺組織および腫瘍肺組織でGPR110 RNA転写物のレベルを測定した。1組目の組織では、アッセイした15の肺腺癌腫瘍のうちの4つ(2、3、6、および13)が、正常肺試料よりも8倍から100倍を超えて高いGPR110 RNAレベルを示した(図7A)。2組目の組織では、40の肺癌試料のうちの6つが、正常肺試料と比べた場合、5倍から35倍までのGPR110の過剰発現を有していた(図7B)。これら6つの上昇した試料うちの4つ(27、33、34、および39)は、肺腺癌由来であったが、残りの2つ(26および40)は扁平上皮癌であった。全体として、両方の発現実験から、GPR110発現の上昇はアッセイした肺腫瘍の約20%で見られた。
【0048】
E.抗GPR110抗体の調製
この項は、下記の項でさらに記載されるように、診断および治療の目的のために有用な抗GPR110抗体の産生を記載する。本発明で使用される抗GPR110抗体を、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、および/または組み換え抗体を産生するための任意の多様な従来法により得ることができる。特に診断的使用のための、1つの好ましい抗体は、周知のハイブリドーマ技法に従って調製されるマウスモノクローナル抗体である。簡潔に述べると、例えば、GPR110遺伝子を発現させることによって、ヒトGPR110を最初に得てもよい。精製したGPR110タンパク質は免疫原として働く。あるいは、GPR110の部分ペプチドを感作抗原として使用することもできる。特に、GPR110の選択されたエピトープまたはドメインに特異的な抗体を作製するために、そのドメインまたはエピトープを規定するペプチドを免疫原として使用してもよい。例示的な免疫原として、配列番号1内のアミノ酸残基によって表されるGPR110エピトープが含まれる。
【0049】
診断的適用で有用な抗GPR110抗体を、酵素連結免疫吸着アッセイ(ELISA)用の酵素などの検出可能レポーター、金粒子およびレポーター運搬リポソームなどの検出可能粒子、比色レポーターまたは蛍光レポーター、量子ドットナノ結晶粒子などの標識、放射性標識、ならびにレポーターで標識されたストレプトアビジン標識などの二次検出可能標識を付着させることができるビオチン標識などの標識を含む、多様な検出可能標識で標識してもよい。あるアッセイ形式では、未標識の抗GPR110抗体、例えば、マウスIgG抗体を、標識抗体、例えば、標識抗マウスIgG抗体との反応により検出する。
【0050】
治療的使用のために、in−vitroでヒトリンパ球をGPR110で感作し、感作リンパ球を、永久分裂能を有するヒト由来ミエローマ細胞と融合させることによって、GPR110に対する結合活性を有するヒトモノクローナル抗体を産生することができる。あるいは、抗原としてのGPR110をヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物に投与して、抗GPR110抗体産生細胞を得ることができ、その後GPR110に対するヒト抗体を不死化した抗GPR110抗体産生細胞から得てもよい。
【0051】
また、治療的使用のために、細胞の表面での抗体キャリアの局在が、例えば、キャリアの細胞膜との融合による細胞膜の崩壊、および細胞内への治療薬剤の放出を引き起こすのに有効である場合、抗体を、毒素などの治療薬剤、錯体形態で固定された放射性標識金属、または抗腫瘍薬剤が充填されたリポソームなどのキャリア体に結合させてもよい(これらで誘導体化してもよい)。
【0052】
さらにその他の方法において、報告されているような組み換え技術(例えば、米国特許第6,090,382号および第6,258,562号参照)によって、GPR110抗原に特異的なヒト抗体またはヒト化抗体を調製することができる。
【0053】
F.診断法および試薬
1つの態様において、本発明は、(a)被験者試料中のヒトGPR110またはそのRNA転写物のレベルをアッセイすること、および(b)ヒトGPR110またはそのRNA転写物のアッセイレベルが、それぞれ、複数の正常ヒト試料から決定された正常ヒト被験者中のGPR110またはその転写物のレベルよりも少なくとも3倍大きいか否かを決定することによって、ヒト被験者の前立腺癌または肺癌をスクリーニングする方法を含む。アッセイレベルが正常レベルよりも少なくとも3倍大きい場合、本方法は、それぞれ、被験者中の肺癌または前立腺癌についての独立した試験によって、肺癌または前立腺癌の存在を検出するステップをさらに含んでもよく、その場合、独立した試験は、ステップ(a)および(b)の前か、これらのステップと同時か、またはこれらのステップの後に行なわれてもよい。
【0054】
例えば、独立した試験がGPR110アッセイに先行する場合、独立した試験が肺癌または前立腺腫瘍の存在を示す可能性があり、GPR110アッセイは、癌の存在を確認するためにおよび/または癌がGPR110もしくはその転写物のレベルの増大を特徴とする種類であることを示すために、後で使用される。独立した試験がGPR110アッセイと同時に行なわれる場合、本方法は、GPR110またはその転写物を含む2つ以上の癌マーカーを用いて被験者中の肺癌または前立腺癌を検出するアッセイ結果を提供する。第3の実施形態において、独立した試験は、肺癌もしくは前立腺癌の診断を検証するために、および/または癌がGPR110もしくはその変異体のレベルの上昇の存在を特徴とする種類であることを示すために、GPR110アッセイの後に行なわれてもよい。
【0055】
被験者試料が肺または前立腺の組織学的組織試料である方法の実施形態は上で記載されている。この実施形態では、試料を組織学的検討用に調製し、GPR110エピトープを有する細胞に抗体を結合させるのに有効な条件下で、GPR110エピトープに特異的な抗GPR110抗体で染色する。試料と関連した抗体のレベルは、標準的な組織学的方法、例えば、全体的な染色もしくは蛍光の測定、または抗GPR110抗体が放射性マーカーで標識されている場合、放射能レベルの測定により決定することができる。
【0056】
被験者試料が血液試料または血清試料である方法の実施形態を下記に詳述する。この実施形態は、GPR110エピトープに抗体を結合させるのに有効な条件下で、試料をGPR110エピトープに特異的な抗GPR110抗体と接触させるステップ、GPR110エピトープに結合した抗体を結合していない抗体から分離するステップ、およびGPR110エピトープに結合した抗体のレベルを検出するステップを含む。試料中のGPR110を捕捉するための固定化された抗GPRアッセイ物を有する固体ストリップアッセイ装置を下記に考察する。好ましい体液試料は、血液、尿、および唾液である。尿をアッセイする場合、前立腺癌または肺癌の徴候を示すGPR110のアッセイレベルは、典型的には約1ng/ml試料液よりも大きい範囲にある。
【0057】
被験者試料が、GPR110転写物のアッセイのための、肺組織または前立腺組織である、第3の一般的な実施形態は、図7Aおよび7Bに関連して上で詳述されている。この実施形態では、組織試料を処理して、そこからRNA転写物を抽出し、少なくともGPR110タンパク質の断片をコードするRNA転写物のレベルを、PCRによる配列特異的増幅などの標準的な方法、または配列特異的プロープを含むその他の方法で、周知の方法に従って決定する。
【0058】
より一般的には、前立腺癌または肺癌の存在、程度、または段階についての診断の補助としてのGPR110またはその転写物の検出を、単独でまたは前立腺癌もしくは肺癌と関連する追加のマーカータンパク質の検出およびスクリーニングと組み合わせて使用することができる。バイオマーカーまたはマーカータンパク質とは、バイオマーカーのその変化した発現、分布、または特定の形態が、疾患状態などの生理学的状況の存在、程度、または段階と相関する任意の検出可能な生物学的分子を指す。当業者によって理解されるように、バイオマーカーと生理学的状況の間に厳密な関連があることが必要なのではなく、バイオマーカーと生理学的状況の間に統計的に有意な関連が存在することだけが必要なのである。追加のバイオマーカーを、とりわけ、前立腺特異的抗原(PSA)(総PSAもしくは遊離PSAまたはその両方を含む)、グリピカン3タンパク質(GPC3)、およびその組み合わせより選択することができる。
【0059】
追加のバイオマーカーがPSAである場合、PSAのレベルまたは分布を、上で特筆したように、総PSA、遊離PSA、またはその組み合わせについて、当技術分野における方法に従って決定することができる。場合によっては、通常当技術分野では総PSAに対するfPSAの比として表される総PSAおよびfPSAのレベルを、GPR110の検出と組み合わせて用いることができる。PSAの検査は、GPR110を検出するのに使用されるのと同じかまたはそれとは異なる生物学的標本に対して行なうことができる。例えば、男性ヒト被験者の前立腺癌をスクリーニングする際に使用するために、上記方法のステップ(a)には、試料を前立腺特異的抗原(PSA)に特異的な抗体と反応させて、試料中のPSAのレベルに関連する反応産物を産生するステップが含まれてもよく、ステップ(b)には、癌でないヒト試料中の正常範囲のPSAと比較した場合のPSAのレベルを決定するステップが含まれてもよい。
【0060】
追加のバイオマーカーGPC3は、グリコシルホスファチジルイノシトールを介して細胞膜に固定されたヘパリン硫酸プロテオグリカンとして特徴付けられる。このタンパク質は65.6kDaの分子量を有し、ポリペプチド鎖は580アミノ酸残基を有する。プロテオグリカンのヘパリン硫酸鎖は、ヘパリン結合性成長因子と相互作用し、したがって細胞シグナル伝達における共受容体としての役割を果たすが、GPC3は異なる方法でも結合し得る。胚発生において、GPC3は、腎臓の分岐形態形成の間のBMPおよびEGFを介する効果を調整する。それは、四肢のパターン形成および骨格の発達におけるBMPに対する細胞応答をも制御する。GPC3タンパク質のレベルは前立腺癌組織で増大する。前立腺の特異的バイオマーカーとしてのその使用およびGPC3に特異的に結合する抗体によるようなその検出の方法は、共同所有された米国特許出願第11/325,847号に記載されている。GPC3を検出するための方法は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、または組み換え抗体などの、GPC3に特異的に結合する抗体を利用することができる。特に診断的使用のための、例示的な抗体として、周知のハイブリドーマ技法に従って調製されるマウスモノクローナル抗体が含まれる。簡潔に述べると、例えば、Lage,Hら(Gene 188 (1997), 151-156)によって開示されたようなGPC3(MXR7)遺伝子を発現させることによって、ヒトGPC3を最初に得てもよい。精製したGPC3タンパク質を免疫原として使用する。あるいは、GPC3の部分ペプチドを感作抗原として使用することができる。部分ペプチドは、ヒトGPC3のアミノ酸配列から化学合成によって得ることができる。限定ではなく、例として、利用し得る例示的なGPC3配列には、とりわけ、DLFIDKKVLKVAHVEHEET、配列番号3(エキソン4によりコードされた、アミノ酸残基365〜383)およびLAYDLDVDDAPGNSQQ、配列番号4(エキソン8によりコードされた、アミノ酸残基526〜541)が含まれる。GPC3に対する抗体を産生するためのその他のペプチドは、GPC3の公知の配列を考慮すれば、当業者には明白であると考えられる。
【0061】
アッセイは、ELISA技術、ホモジニアスアッセイ(例えば、蛍光クエンチングを伴うもの)、およびGPR110抗原を固体支持体上にある抗GPR110抗体で捕捉し、固定化された抗原−抗体複合体を二次抗GPR110抗体、例えば、比色レポーターまたは金粒子レポーターを持つ二次抗体で標識する固相サンドイッチアッセイを含む、体液抗原を検出するのに用いられる多様なアッセイ法のいずれかによって実行してもよい。
【0062】
図5Aおよび5Bは、本発明の実施形態によって構築された、今述べた種類のサンドイッチ免疫アッセイを実行するのに好適な固相アッセイストリップを図解しており、このアッセイストリップが、それぞれ、最初と最後のアッセイの状態で示されている。通常10で示されるストリップは、支持体の上流領域に試料適用域14を有する多孔性の支持体またはパッド12を、および下流領域に試料検出域16を含む。試料適用域は、検出可能な抗GPR110抗体試薬、例えば、金粒子で標識され、かつ結合していない、すなわち固定化されていない形でこの区域内に置かれた、抗GPR110抗体を含む。この試薬を、18のように、黒丸で示す。標識抗体試薬中の抗体と同じであるかまたはそれとは異なる可能性がある抗GPR110抗体は、検出域内の固体支持体に固定化され、20のように、「Y字」形で示される。
【0063】
検出域に隣接して位置し、体液試料中のGPR110の異なるアッセイレベルと対応する1つまたは複数の色付きまたは影付きの領域を有する参照域22も示す。示した実施形態において、区域22は、それぞれ、(a)癌と関連するレベルよりも小さいGPR110のアッセイレベル、(b)癌と関連する、より低い閾値レベル、および(c)領域22の閾値層よりも実質的に高い、例えば、2〜3倍高いレベルと対応する3つの領域22a、22b、および22cを含む。これら3つの領域は、産生される検出可能な反応物のレベルを前立腺癌または肺癌と関連するレベルとして評価することができる公知の標準指標を提供する。全体的に、アッセイストリップおよび参照域は、ヒト被験者中の前立腺癌もしくは肺癌のスクリーニングでの使用のための、またはヒト被験者中の前立腺癌もしくは肺癌の病期分類処置のためのアッセイ装置を構成している。
【0064】
作業では、試験されるべき公知の容量の体液試料を、ストリップの試料適用域(体液試料はこの区域内に拡散する)に添加し、抗体試薬を試料中のGPR110抗原と反応させて、抗原−抗体複合体を形成させる。その後、この複合体および結合していない抗体試薬は、毛細管現象によって検出域に向かって下流に移動し、そこで抗原−抗体複合体は、固定化抗体によって捕捉され、結合していない試薬は、24で示されるような支持体の端まで運ばれる。理解できるように、体液中の抗原の濃度が高ければ高いほど、検出域内の捕捉される試薬の密度は高く、この区域の色または彩度は大きい。検出域で生み出されるこの色または彩度を、参照域の標準と比較し、前立腺癌または肺癌の有無と関連するGPR110の定量的レベルを決定する。閾値を超えるレベルのGPR110がアッセイで観察された場合、被験者をより高い確率で癌が存在するカテゴリーに分類することができ、被験者に追加の検査および/またはより頻繁な検査を推奨してもよい。
【0065】
別の実施形態において、アッセイ装置は、上記のアッセイストリップと同様であるが、公知の参照指標が、(i)アッセイストリップを受容するためのリーダースロット、(ii)アッセイストリップの検出域でアッセイ関連の光学条件を検出するための光源および光学検出、例えば、分光学的検出器、(iii)光学検出器からのシグナルを記録および処理し、このシグナルをGPR110のアッセイレベルに変換するエレクトロニクスまたはプロセッサーユニット、ならびに(iv)ユーザー用のディスプレイスクリーンまたはウィンドウを有するストリップ−リーダー型機器のリーダーによって提供されるアッセイストリップを含む。この機器は、検出された実際のGPR110体液試料を知らせ、オペレーターが、ディスプレイされた値をアッセイストリップまたは機器と共に提供された公知の標準指標レベルと比較して、被験者が前立腺癌もしくは肺癌と関連するGPR110レベルの増大を有するか否かということを評価するか、または処置設計の目的のために、考えられる癌の段階を評価するのを可能にし得る。あるいは、この機器自体が、蓄えられた公知の標準指標レベルを含んでもよく、それをアッセイレベルと内部比較して、前立腺癌もしくは肺癌と関連するGPR110レベルの増大が検出されているか否かを表示する出力を生み出すか、または癌の段階を表示することができる。
【0066】
今記載したアッセイ装置を、多数のマーカータンパク質、特に、前立腺癌のスクリーニングまたは検出のために、総PSA、遊離PSA、および/またはGPC3と組み合わせてGPR110タンパク質を検出するためにどのように修正し得るかということが理解されよう。各マーカーをマーカー特異的抗体が収容された別々のストリップで測定してもよく、装置は、前立腺癌の指標としての検出可能なGPR110のレベルと組み合わせて、各々産生される検出可能なマーカータンパク質反応物のレベルを評価することができる公知の標準指標を提供する、多数の参照域をさらに含んでもよい。
【0067】
あるいは、電子的なアッセイ装置で、多数のマーカーの参照値を、値の組、例えば、値の対として蓄えるかまたは表してもよく、その場合、組の中の各々の値は、蓄えられた組値に対して多値のアッセイ結果を解析することによって、この装置がより多くのマーカーとの相関に基づいて癌リスクを決定することができるように、所与のマーカーについての癌の指標値を表す。
【0068】
G.癌と関連する遺伝子突然変異の同定
別の態様において、本発明は、ヒト被験者中の、前立腺癌または肺癌などの癌のリスクの増大と関連する突然変異を同定するための方法を提供する。下記の項は、前立腺癌または肺癌に関して記載されている。しかしながら、本方法を、GPR110の発現の増大を伴うその他の癌に対して実施し得るということが理解されよう。本方法を実施する際、好ましくは異なる人種群および年齢群を代表する男性または女性由来の患者を含む、前立腺癌または肺癌を有するヒト被験者からゲノムDNAを抽出する。検討されるDNAの配列または領域は、特に(i)ヒトGPR110遺伝子のエキソン1の15kB以下の範囲内のプロモーターまたは5'UTR領域、(ii)同遺伝子のエキソン15の5kB以下の範囲内の3'UTR領域、および(iii)同遺伝子のエキソン1〜15の範囲内である。
【0069】
この領域に沿った1つまたは複数の部位での遺伝子重複を含む突然変異を、正常な(野生型の)前立腺組織または肺組織から得られた同じ領域由来の配列と各々の配列を比較することによって同定する。好ましくは多くの野生型個体由来の配列を決定して、真の野生型配列を確保する。各々の抽出されたDNAについて、患者および野生型の配列を比較し、患者配列中の突然変異、したがって前立腺癌または肺癌のリスクの増大と関連する可能性が高い突然変異を同定する。
【0070】
多数のこれらの突然変異(例えば、少なくとも50〜200またはそれより多く)がひとたび同定されれば、それらを、個体の前立腺癌または肺癌に対する遺伝的素因をスクリーニングするのに有用な遺伝子スクリーニング装置、例えば、遺伝子チップを構築する際に使用し得る。1つの実施形態において、装置は、各々領域34の断片37のような結合した公知の配列断片を含む領域34、36などの一連の領域を有する図6の30で示すような遺伝子チップを含む。この断片またはプローブは、好ましくは長さ25〜70塩基であり、各々前立腺癌または肺癌と関連する上で同定されたGPR110遺伝子の上流の突然変異のうちの1つを含む。遺伝子チップの構築およびそのようなチップを用いた突然変異配列の検出は周知である。
【0071】
典型的な遺伝子スクリーニング手順では、患者細胞を入手し、ゲノムDNAを抽出し、対象の配列領域を、蛍光化プローブを用いた標準的なPCRで増幅する。その後、増幅した材料を、好適なハイブリダイゼーション条件下でチップアレイ配列と反応させ、アレイ表面を洗浄して、結合していない材料を取り除き、その後好適なチップリーダーでスキャンして、前立腺癌または肺癌と関連する任意の突然変異した配列を同定する。図は、42に示した標識ゲノムDNA断片の、結合したプローブ分子40を有するアレイ領域38への結合を示す。このアレイ領域での蛍光シグナルの検出は、決定的に重要な意味を持つ上流GPR110領域内の公知の遺伝子突然変異の診断となり、前立腺癌または肺癌に対する遺伝的素因の診断となり得る。
【0072】
代わりの実施形態において、上記のように同定される突然変異を用いて、ゲノム突然変異の存在を同定することができる1組の分子反転プローブ(MIP)を構築する。遺伝子突然変異を同定するためのMIPの構築および使用が記載されている(例えば、参考文献11参照)。
【0073】
H.治療方法および製剤
本発明には、癌細胞内でのGPR110の発現上昇を特徴とする癌を、たとえばヒト被験者における腫瘍量を軽減させるなどして、治療するための方法も含まれる。下記のセクションでは前立腺癌または肺癌に関して説明するが、GPR110の発現上昇を特徴とする他の癌にもこの方法を実施できることが理解されよう。
【0074】
一つのアプローチのでは、GPR110抗原を用いて、前立腺または肺の癌細胞に対して特異的な細胞傷害性T細胞の誘導に関与する免疫細胞を活性化させる。GPR110抗原の例としては、全長のGPR110ペプチドや、たとえば配列番号1のうち1つからのアミノ酸配列を含むペプチドなど上記開示したGPR110ペプチドのうち1つのような抗原性ペプチドが挙げられる。これは、一実施形態では、GM−CSFの存在下など細胞の活性化に有効な条件下、ex−vivoで、患者から得られた抗原提示細胞をGPR110抗原と曝露することによって行うこともできる。ex−vivoで活性化させた後に、細胞を患者の中に再導入する。このとき、これらの活性化細胞は腫瘍に対する細胞傷害性T細胞のクローン増殖の刺激に有効である。この免疫療法は、たとえば、米国特許第6080409号およびそれに引用されている関連文献に記載されている。
【0075】
あるいは、GPR110抗原を、GM−CSFを含むアジュバントなど、一般的には適切なアジュバント中に入れて、ワクチンとして患者に投与することもできる。このペプチドワクチンは、CD4ヘルパーT細胞、CD8細胞傷害性Tcリンパ球、およびCD8非細胞傷害性サプレッサーTリンパ球のクローン増殖を刺激して引き起こすのに有効であり、被験者の中でGPR110抗原特異的CD4ヘルパーT細胞、GPR110抗原特異的CD8細胞傷害性Tcリンパ球、およびGPR110抗原特異的CD8非細胞傷害性サプレッサーTリンパ球の増殖を引き起こす。
【0076】
注射に適した抗原含有組成物の調製法および細胞傷害性T細胞の免疫刺激に適した抗原用量は、免疫療法によるT細胞誘導についてのいくつかの特許および文献刊行物に記載されてきた。それらの方法を、前立腺癌または肺癌の治療用のGPR110抗原に関する本方法に適用できる。治療後に、一般的には、MRIまたはCATスキャンのような腫瘍を可視化する方法の組合せおよびGPR110自体を含む前立腺癌関連抗原または肺癌関連抗原のレベルによって、患者の癌の状態における変化をモニタリングする。
【0077】
第2の一般的な免疫療法では、まず、上記の試験方法に従って、前立腺癌または肺癌と診断された患者のGPR110の値が上昇していることを確認する。被験者がこの試験で陽性を示す場合、その被験者に抗GPR110抗体を投与して治療する。抗体は上記のように調製されたヒト抗体またはヒト化抗体であることが好ましく、適切な生理学的担体中で静脈注射または皮下注射によって投与される。抗体用量は1〜10mg/注射であることが好ましく、14日毎またはその程度の間隔で患者に治療を行う。治療期間中、上記のように、一般的には腫瘍を可視化する方法の組合せおよび前立腺癌関連抗原または肺癌関連抗原のレベルによって、患者の癌の状態における変化をモニタリングする。この治療は、薬剤療法または放射性同位元素療法を含む、前立腺癌または肺癌の他の治療と併用して行うことも可能であり、腫瘍の大きさに望ましい縮小がみられるまで続けることができる。そのGPR110抗体は、前立腺または肺の癌細胞の表面にあるGPR110と結合するときに抗体依存性の細胞の細胞傷害性を促進するために有効な、ヒトまたはヒト化の抗GPR110抗体とすることもできる。抱合体が細胞に結合するまたは取り込まれるときに癌細胞を殺すかまたは阻害するために有効な毒素のような治療薬でこの抗体を誘導体化することもできる。
【0078】
I.細胞に基づいた化合物スクリーニング
一般的に複数の発現系および試験を用いて、Gタンパク質共役受容体(GPCR)の機能評価ならびにアゴニストおよびアンタゴニストとして働く化合物の同定を行う。参照12〜14には、GPCRの薬剤化合物スクリーニングのための一般的で高処理な現行の手法が概説されている。大規模なスクリーニング計画では、一般的に、酵母、昆虫(バキュロウイルス)、アフリカツメガエル卵母細胞、および哺乳動物細胞系を含む、細胞に基づく組換え発現系を使用してGPCRを発現させてきた。GPCRの薬理活性の測定は放射線標識したリガンドの結合を試験する手法で伝統的に行われてきたが、簡単な受容体結合は蛍光偏光法および蛍光共鳴エネルギー移動などの非放射性の方法を用いて検出することもできる。
【0079】
下流のシグナル伝達経路へのGPCRの機能的な共役は、細胞内カルシウム動員などの下流事象を測定する標準的な試験によって評価することもできる。これらの細胞に基づく試験を用いて、目的とするGPCRを、たとえば、Gq15/16(またはこれらの組合せ)のような天然に生じるプロミスカスGタンパク質または改変したキメラのプロミスカスGタンパク質と共に哺乳動物細胞内で発現させる。これら両方のGタンパク質は多くのGPCRと共役してシグナル伝達事象を変換することができる。標準的なカルシウム感受性蛍光色素を使用して、細胞内カルシウムの増加を測定することができる。cAMPやアラキドン酸など、より直接の二次メッセンジャーシグナル伝達分子を測定するために、cAMP結合部位がたとえばルシフェラーゼ融合遺伝子と連結しているような遺伝子リポーターベクターを使用することもできる。あるいは、蛍光に基づく系を使用して、B−アレスチン2など、GPCRの脱感作に関与するタンパク質の移動を測定することもできる。その他の種類の発現系にはアフリカツメガエルのメラニン細胞内でのGPCR発現が含まれ、この系ではメラニン細胞内に存在する内因性色素の分散または濃縮を検出することによってGPCR活性を測定する。
【0080】
本発明を特定の実施形態および適用例について記載したが、特許請求する本発明から逸脱しない様々な変更および修正が可能であることが理解されよう。
【0081】
配列番号:1 ヒトGPR110タンパク質のN末端細胞外ドメイン(アイソフォーム1)(残基1〜590)
MKVGVLWLISFFTFTDGHGGFLGKNDGIKTKKELIVNKKKHLGPVEEYQLLLQVT
YRDSKEKRDLRNFLK
LLKPPLLWSHGLIRIIRAKATTDCNSLNGVLQCTCEDSYTWFPPSCLDPQNCYL
HTAGALPSCECHLNNL SQSVNFCERTKIWGTFKINERFTNDLLNSSSAIYSKYANGIEIQLKKAYERIQGFE
SVQVTQFRNGSIVA
GYEVVGSSSASELLSAIEHVAEKAKTALHKLFPLEDGSFRVFGKAQCNDIVFGF
GSKDDEYTLPCSSGYR
GNITAKCESSGWQVIRETCVLSLLEELNKNFSMIVGNATEAAVSSFVQNLSVIIR QNPSTTVGNLASVVS
ILSNISSLSLASHFRVSNSTMEDVISIADNILNSASVTNWTVLLREEKYASSRLLET
LENISTLVPPTAL
PLNFSRKFIDWKGIPVNKSQLKRGYSYQIKMCPQNTSIPIRGRVLIGSDQFQRSL
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配列番号:2 ヒトGPR110タンパク質(アイソフォーム1)(残基1〜910)
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59849-8015.WO00/LEGAL14257934.1 26
GNITAKCESSGWQVIRETCVLSLLEELNKNFSMIVGNATEAAVSSFVQNLSVIIR
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TGDSSDNIMLTQFVSNE

配列番号:3(アミノ酸残基365〜383、エキソン4にコードされる)
DLFIDKKVLKVAHVEHEET

配列番号:4(アミノ酸残基526〜541、エキソン8にコードされる)
LAYDLDVDDAPGNSQQ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト被験者における肺癌または前立腺癌に関するスクリーニング方法であって、
(a)被験者試料中のヒトGPR110またはそのRNA転写物のレベルをアッセイするステップと、
(b)ヒトGPR110またはそのRNA転写物のアッセイレベルが、複数の正常ヒト試料から確定した場合の正常ヒト被験者におけるそれぞれGPR110またはその転写物のレベルの少なくとも3倍であるか否かを確定するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記被験者試料が肺または前立腺の組織学的組織試料であり、ステップ(a)が、前記試料を、GPR110エピトープを有する細胞に前記抗体を結合させるのに有効な条件下で、GPR110エピトープに対して特異的な抗GPR110抗体と接触させること、ならびに前記試料と関連した抗体のレベルを検出することを含み、ステップ(b)が、前記被験者の肺または前立腺組織試料と関連した抗体の検出レベルが、正常個体から得られるそれぞれヒト肺または前立腺組織試料と関連した抗GPR110抗体のレベルの少なくとも3倍であるか否かを確定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗体が配列番号1内のアミノ酸残基により表されるGPR110エピトープに対して特異的である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(a)における抗GPR110抗体が放射性標識GPR110抗体であり、ステップ(a)が限局性放射性標識のレベルを前記組織中でシンチグラフィーにより検出することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記被験者試料が被験者の血液または血清試料であり、ステップ(a)が、前記試料を、GPR110エピトープに前記抗体を結合させるのに有効な条件下で、GPR110エピトープに対して特異的な抗GPR110抗体と接触させること、GPR110エピトープに結合された抗体を非結合抗体から分離すること、ならびにGPR110エピトープに結合された抗体のレベルを検出することを含み、ステップ(b)が、GPR110エピトープに結合された抗体の検出レベルが、正常個体から得られる血液または血清試料中に存在するGPR110エピトープに結合された抗GPR110抗体のレベルの少なくとも3倍であるか否かを確定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(a)が、血液または血清試料体液を固相イムノアッセイ装置に適用することを含み、前記試料中のGPR110のレベルが比色的指標または蛍光定量的指標により定性的に示され、前記確定ステップが前記指標を既知の標準と比較することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記被験者試料が肺または前立腺組織試料であり、ステップ(a)が、前記試料を処理して、そこからRNA転写物を抽出すること、ならびにGPR110タンパク質の少なくとも断片をコードするRNA転写物のレベルを検出することを含み、ステップ(b)が、RNA転写物の検出レベルが、正常個体から得られる肺または前立腺組織試料中のGPR110タンパク質の少なくとも断片をコードする転写物の検出レベルの少なくとも3倍であるか否かを確定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
肺癌または前立腺癌の存在に関するスクリーニング方法における、肺癌または前立腺癌の診断に役立つ生物学的マーカーまたは他の指標のレベル低下または上昇を検出することによる改善であって、
(a)被験者試料中のヒトGPR110またはその転写物のレベルをアッセイすることと、
(b)ヒトGPR110またはその転写物のアッセイレベルが、それぞれ肺癌または前立腺癌の存在の付加的指標として、複数の正常ヒト試料から確定した場合の正常ヒト被験者におけるそれぞれGPR110またはその転写物のレベルの少なくとも3倍であるか否かを確定することと、
を含む改善。
【請求項9】
前記被験者試料が被験者の肺または前立腺の組織学的組織試料であり、ステップ(a)が、前記試料を、GPR110エピトープを有する細胞に前記抗体を結合させるのに有効な条件下で、GPR110エピトープに対して特異的な抗GPR110抗体と接触させること、ならびに前記試料と関連した抗体のレベルを検出することを含み、ステップ(b)が、前記被験者の肺または前立腺組織試料と関連した抗体の検出レベルが、正常個体から得られるそれぞれヒト肺または前立腺組織試料と関連した抗GPR110抗体のレベルの少なくとも3倍であるか否かを確定することを含む、請求項8に記載の改善。
【請求項10】
前記抗体が配列番号1内のアミノ酸残基により表されるGPR110エピトープに対して特異的である、請求項9に記載の改善。
【請求項11】
ステップ(a)における抗GPR110抗体が放射性標識GPR110抗体であり、ステップ(a)が限局性放射性標識のレベルを前記組織中でシンチグラフィーにより検出することを含む、請求項9に記載の改善。
【請求項12】
前記被験者試料が被験者の血液または血清試料であり、ステップ(a)が、前記試料を、GPR110エピトープに前記抗体を結合させるのに有効な条件下で、GPR110エピトープに対して特異的な抗GPR110抗体と接触させること、GPR110エピトープに結合された抗体を非結合抗体から分離すること、ならびに、GPR110エピトープに結合された抗体のレベルを検出することを含み、ステップ(b)が、GPR110エピトープに結合された抗体の検出レベルが、正常個体から得られる血液または血清試料中に存在するGPR110エピトープに結合された抗GPR110抗体のレベルの少なくとも3倍であるか否かを確定することを含む、請求項9に記載の改善。
【請求項13】
ステップ(a)が、血液または血清試料体液を固相イムノアッセイ装置に適用することを含み、前記試料中のGPR110のレベルが比色的指標または蛍光定量的指標により定性的に示され、前記確定ステップが前記指標を既知の標準と比較することを含む、請求項12に記載の改善。
【請求項14】
前記被験者試料が肺または前立腺組織試料であり、ステップ(a)が、前記試料を処理して、そこからRNA転写物を抽出すること、ならびにGPR110タンパク質の少なくとも断片をコードするRNA転写物のレベルを検出することを含み、ステップ(b)が、RNA転写物の検出レベルが、正常個体から得られる肺または前立腺組織試料中のGPR110タンパク質の少なくとも断片をコードする転写物の検出レベルの少なくとも3倍であるか否かを確定することを含む、請求項8に記載の改善。
【請求項15】
ヒト男性被験者における前立腺癌の検出方法における、総前立腺特異的抗原(PSA)、遊離PSAおよびグリピカン3タンパク質(GPC3)のうちの1つから選択される少なくとも1つのマーカータンパク質に対して特異的な抗体と被験者体液試料を反応させ、そして前立腺癌の指標として、被験者が前記マーカータンパク質のうちの少なくとも1つのレベル増大を示すか否かを確定することによる、請求項8に記載の改善。
【請求項16】
前立腺癌の存在に関して前記被験者をスクリーニングするためのヒト被験者からの血液または血清試料中のGPR110の測定値ならびに総前立腺特異的抗原(PSA)、遊離PSAおよびグリピカン3タンパク質(GPC3)から選択される少なくとも1つのマーカー抗原の測定値の使用。
【請求項17】
ヒト被験者における前立腺癌または肺癌に関してスクリーニングする、あるいは被験者における前立腺癌または肺癌を病期分類治療するのに用いる診断装置であって、
(a)被験者からの体液試料を受容するための構造と、
(b)GPR110の選択ドメインまたはエピトープに対して特異的であり且つ前記構造と関連し、そして前記構造中に受容される体液と反応して、前記構造と関連した他の試薬と組合せて、エピトープまたはドメインを含有するGPR110試料タンパク質の存在を示す検出可能な反応を生じ得る抗体と、
(c)生じた検出可能な反応のレベルが前立腺癌または肺癌と関連したレベル増大として評価され得る第一の既知の標準指標と、
を含む装置。
【請求項18】
前記装置中の前記構造が、前記試料が前記パッドに適用される場合に流体試料との反応のためにその中に包埋された抗体を有する多孔性パッドを含み、前記検出可能反応が比色的指標または蛍光定量的指標により示され、前記既知の標準指標が前立腺癌または肺癌と関連づけられるものに対応するエピトープまたはドメインを含有するGPR110のレベルを表す指示を含む、請求項17に記載の装置。
【請求項19】
産生されるGPR110のレベルに関連したシグナルを発生するための分光測光検出器、前記シグナルを前立腺癌または肺癌に関連した既知の標準シグナル値と比較するためのマイクロプロセッサー、ならびにマイクロプロセッサーの出力を表示するためのディスプレイをさらに含む、請求項18に記載の装置。
【請求項20】
前記装置中の前記抗GPR110結合タンパク質が配列番号1または配列番号2内に含入されるエピトープに対して特異的な抗体である、請求項18に記載の装置。
【請求項21】
被験者における前立腺癌または肺癌の治療方法であって、
(a)前立腺癌または肺癌の指標として、同一組織のヒト細胞中のGPR110またはその転写物の正常範囲と比較した場合、前記被験者からの癌組織細胞がGPR110タンパク質またはRNA転写物のレベル増大を示すか否かを確定することと、
(b)前記被験者がGPR110または転写物レベルのこのような増大を有する場合、細胞の増殖または成育可能性を抑制するために、それが前立腺癌細胞または肺癌細胞と免疫特異的に反応する場合に有効な治療的有効量のGPR110抗体を投与することと、
を含む方法。
【請求項22】
前記GPR110抗体が配列番号1内に含入されるエピトープに対して特異的なヒトまたはヒト化抗GPR110抗体である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前立腺癌細胞または肺癌細胞の表面でGPR110と結合される場合に、前記抗体が抗体依存性細胞傷害性を促進するのに有効である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
治療薬が前記細胞と結合されるかまたはその中に組み入れられるようになる場合、前記抗体が癌細胞を殺害するかまたは阻害するのに有効な治療薬をそこに接合した、請求項21に記載の方法。

【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−528261(P2010−528261A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−507474(P2010−507474)
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際出願番号】PCT/US2008/005983
【国際公開番号】WO2008/140774
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(509309433)ピコベラ・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー (1)
【氏名又は名称原語表記】PICOBELLA LLC
【Fターム(参考)】